IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-粉末試料の分析方法 図1
  • 特許-粉末試料の分析方法 図2
  • 特許-粉末試料の分析方法 図3
  • 特許-粉末試料の分析方法 図4
  • 特許-粉末試料の分析方法 図5
  • 特許-粉末試料の分析方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】粉末試料の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2005 20180101AFI20220117BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20220117BHJP
【FI】
G01N23/2005
G01N23/207
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2016205386
(22)【出願日】2016-10-19
(65)【公開番号】P2018066652
(43)【公開日】2018-04-26
【審査請求日】2019-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】小野 勝史
【審査官】佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】実公昭47-040545(JP,Y1)
【文献】特開2005-249032(JP,A)
【文献】特開平07-012760(JP,A)
【文献】特開2013-108778(JP,A)
【文献】特開平10-115596(JP,A)
【文献】特開2003-232665(JP,A)
【文献】特開2007-017258(JP,A)
【文献】特開2002-148163(JP,A)
【文献】特開2005-127999(JP,A)
【文献】実開昭56-157663(JP,U)
【文献】特開2016-118557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC
G01N 1/00-G01N 1/44、
G01N 23/00-G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の試料容器の一面に形成された、周囲を当該試料容器の主表面に囲まれた凹部に粉末試料を充填し、当該平板状の試料容器の主表面と、平板状治具の平面とを接触させた状態のまま、前記平板状治具を移動させて前記粉末試料を擦り切ることにより作製した測定用試料を用いて、前記測定用試料の粉末試料に対して、X線回折測定を行うことを特徴とする粉末試料の分析方法。
【請求項2】
前記粉末試料の擦り切りを行う前に、
前記粉末試料の最大粒径が10μm以下か否かを判定し、
前記粉末試料の最大粒径が10μmを超えている場合は、最大粒径が10μm以下になるまで、前記粉末試料に対して粉砕処理を行い、
前記粉末試料の最大粒径が10μm以下である場合は、前記粉末試料の擦り切りを行うことを特徴とする請求項1に記載の粉末試料の分析方法。
【請求項3】
前記判定の前に、前記粉末試料の粒径測定を行うことを特徴とする請求項2に記載の粉末試料の分析方法。
【請求項4】
前記粒径測定は、レーザー回折・散乱法を用いることを特徴とする請求項3に記載の粉末試料の分析方法。





















【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末試料の分析方法に関する。詳しくは、粉末試料が試料容器に好適に準備調整された測定用試料を用いて、X線回折測定を行う粉末試料の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折法は、物質の状態・物性を調査する手段として、無機物質や有機物質の粉末、高分子材料、タンパク質、金属部品、有機及び無機薄膜半導体、コロイド粒子など、研究開発対象の新規物質から、生産に係る様々な材料まで、多岐に亘って利用されている。例えば、特許文献1においては、鉱物を粉砕した粉末試料に対してX線回折測定を実施している。この分析方法は、試料に所定波長のX線を照射し、結晶格子によるX線の回折作用を観察して、各種物質や材料の定性・定量・同定を行うものである。
【0003】
X線回折測定に用いる測定用試料を作製する方法としては、特許文献2の従来例として記載されているが、X線回折法における粉末試料の分析では、測定試料ホルダーの凹部に粉末状試料を充填した後、試料容器の主表面にスライドガラス等を用いて擦り合わせながら充填する(以降、擦り切りと称する)方法が一般的に行われている。
また、JIS-K-0131:X線回折分析通則や、JIS-R-7651:炭素材料の格子定数及び結晶子の大きさ測定方法には、試料作製において、粉末試料の試料容器への擦り切りは、粉末試料を均一かつ平滑に、試料容器の主表面と一致させる(同じ高さに合わせる)様に充填しなければならないとの記載がある。
以上の様に、X線回折法の精度や正確さを維持するためには、試料容器の凹部から盛り上がった粉末試料の表面を平滑化し、試料容器の主表面と粉末試料を同じ高さに合わせる操作が求められている。
【0004】
ところが、粉末試料の試料容器への擦り切りでは、粉末試料の粒径によるバラツキのほか、個人の経験やノウハウによるバラツキが生じ易く、これらのバラツキが、X線回折測定のピーク位置(回折角:2θ)および半価幅について、精度や正確さを悪化させる原因(特許文献2参照)となっている。特許文献2においては、この課題を解決すべく、フッ素樹脂系シート、それを貼りつけた樹脂面付板、該シートを貼りつけた樹脂面付台座および厚み調整治具を設けて作製した試料作製台座等々を採用している。
【0005】
一方、特許文献3では、試料容器の主表面と粉末試料を、同じ高さに合わせるための特殊試料容器が開示されているが、この特殊試料容器は、粉末試料の表面を平滑化することについて、全く言及していない。しかも、当該特殊試料容器を使用するためには、試料容器の設置台など、X線回折装置本体側の部品改造や、オートサンプラーによる自動測定のニーズがある場合は、サンプルチェンジャーや搬送アームなどの改造が必要となり、適用することは現実的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-12760号公報
【文献】特開2016-118557号公報
【文献】特開平8-247969号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】株式会社リガク、“粉末X線回折測定のサンプル準備”、[online]、Webinar(オンラインセミナー)[リガク](pdxsample)、[2016年1月20日検索]、インターネット<URL:http://www.rigaku.co.jp/rigaku.com/webinar/getwebinar.php?getwebinar=pdxsample>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の様な問題点に着目して成されたものであり、試料容器に形成された凹部に充填された粉末試料に対して、X線回折測定を行う粉末試料の分析方法において、粉末試料が試料容器に準備調整して充填された測定用試料を用いて、X線回折測定における精度や正確さを向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
先にも挙げた様に、粉末試料の試料容器への擦り切りが、X線回折測定における精度や正確さに関与し、試料の種類によっては、要求される精度や正確さを満足出来ないことが知られている。
以下、図1を用いて説明する。図1は、従来において、試料容器の凹部から溢れた粉末試料を、スパチュラを用いて擦り切る様子を示す断面概略図であり、符号1は試料容器、符号11はその主表面、符号12は凹部、符号2はスパチュラ、符号Pは粉末試料を指す。以降、説明の便宜上、符号は省略する。
【0010】
試料容器の凹部から溢れた粉末試料を、スパチュラを用いて擦り切る場合、図1に示す様に、作業者は、スパチュラの先端を試料容器の主表面に当てつつ、スパチュラを把持するために、スパチュラの基端を試料容器の主表面から上方に持ち上げ、角度をつける。そして、スパチュラを手前に引くことにより、凹部から溢れた粉末試料を擦り切るのが通常であった。他の方法として、非特許文献1では、擦り切り治具として、試料容器をもう一つ用意し、その裏面を用いて擦り切る操作が紹介されている。擦り切る際には、上記方法と同じように、試料容器の主表面に対し、当該擦り切り治具を上方に持ち上げて一定の角度をつけ(傾けた時、試料容器の主表面との間に、もう一つの擦り切り治具を挿入出来る程度)、手前に引く操作を行っている。
【0011】
しかしながら、上記スパチュラや擦り切り治具の先端には、微小な凹凸が生じていることがある。このスパチュラや擦り切り治具を用いて擦り切りを行うと、スパチュラや擦り切り治具の先端の凹凸を、そのまま粉末試料の表面に反映させてしまうことになる。この様子を示すのが図2である。図2では、スパチュラの先端に存在する微小な凹凸が、粉末試料を擦り切る際、凹部に充填された粉末試料の表面に、凹凸を反映させてしまう様子を示している。そして、(a)はスパチュラの擦り切りを行う先端部の拡大模式図、(b)は(a)のスパチュラを用いて従来の操作で擦り切りを行った時の、凹部に充填された粉末試料表面を、平面視した図である。
【0012】
図2(b)に示されている粉末試料表面の凹凸は、擦り切りを行ったスパチュラの先端部の凹凸の反映であり、当該粉末試料表面の凹凸は、それぞれの作業者が、スパチュラを手前に引く際の軌跡、スパチュラを持ち上げる際の角度、どのスパチュラを用いるか等により個人差を生じ、大きく変化することになる。これは、非特許文献1の方法をはじめ、ガラス板等を用いて擦り切りを行う場合も同様である。ガラス板を用いる場合でも、ガラス板を把持しなければならない関係上、ガラス板の基端を試料容器の主表面から、上方に持ち上げて角度をつけることが通常であり、結局は、ガラス板の先端の凹凸を、そのまま粉末試料の表面に反映させてしまうことになる。
【0013】
上記状況こそが、粉末試料の表面を平滑化し、試料容器の主表面と粉末試料を同じ高さに合わせる操作において、個人の経験やノウハウによるバラツキを生み、精度や正確さを低下させている原因であることに、本発明者は想到した。
【0014】
その他、X線回折測定における精度や正確さの低下度合いには、粉末試料の粒径が大きく影響を与えていることも分かっており、先にも挙げた、JIS-K-0131:X線回折分析通則に従うならば、粒径の大きい試料は、必要に応じて乳鉢などを用い、手動または専用の機械で、10μm以下の粒径となる様に粉砕する必要がある。しかし、その粒径の確認方法、粉砕の要否を判定する方法等については開示されていなかった。
【0015】
本発明者は、試料容器に形成された凹部に充填された粉末試料の擦り切りだけでなく、併せて、当該粉末試料の粒径確認および粉砕要否の判定にも着目し、鋭意検討を重ねた結果、これらの課題を解決するに至った。
【0016】
上記の知見に基づいて成された、本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
平板状の試料容器の一面に形成された、周囲を当該試料容器の主表面に囲まれた凹部に粉末試料を充填し、当該平板状の試料容器の主表面と、平板状治具の平面とを接触させた状態のまま、前記平板状治具を移動させて前記粉末試料を擦り切ることにより作製した測定用試料を用いて、前記測定用試料の粉末試料に対して、X線回折測定を行うことを特徴とする粉末試料の分析方法である。
【0017】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記粉末試料の擦り切りを行う前に、
前記粉末試料の最大粒径が10μm以下か否かを判定し、
前記粉末試料の最大粒径が10μmを超えている場合は、最大粒径が10μm以下になるまで、前記粉末試料に対して粉砕処理を行い、
前記粉末試料の最大粒径が10μm以下である場合は、前記粉末試料の擦り切りを行うことを特徴とする粉末試料の分析方法である。
【0018】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の発明において、
前記判定の前に、前記粉末試料の粒径測定を行うことを特徴とする粉末試料の分析方法である。
【0019】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載の発明において、
前記粒径測定は、レーザー回折・散乱法を用いることを特徴とする粉末試料の分析方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、X線回折測定における精度や正確さを向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】従来法で、試料容器の凹部から溢れた粉末試料を、スパチュラで擦り切る様子を示す断面概略図である。
図2】従来法で、スパチュラの先端に存在する微小な凹凸の変形が、粉末試料を擦り切る際、凹部に充填された粉末試料の表面に、凹凸を反映させてしまう様子を示す図であり、(a)はスパチュラの先端の拡大図、(b)は従来の方法で擦り切りを行った後の、凹部に充填された粉末試料の表面を平面視した様子を示す図である。
図3】本実施形態の粉末試料の分析方法を示すフローチャートである。
図4】本実施形態の測定用試料の作製における、擦り切りの様子を示す断面概略図である。
図5】実施例1において、粉末試料の粒径を、粉砕前に測定した結果を示すグラフである。
図6】実施例1において、粉末試料の粒径を、粉砕後に測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、以下の順に説明する。
1.粉末試料の分析方法
1-1.粒径測定
1-2.粒径判定
1-3.粉末試料の粉砕
1-4.測定用試料の作製
1-5.X線回折測定
2.実施の形態による効果
3.変形例等
本明細書において、「~」は所定の値以上かつ所定の値以下のことを指す。なお、本実施形態においては、測定用試料の作製、X線回折測定を必須とする一方、それ以前の粒径測定、粒径判定、粉末試料の粉砕は好適例である。
【0023】
<1.粉末試料の分析方法>
本実施形態においては、図3に示すフローチャートに従って、以下の操作を行う。なお、本実施形態における粉末試料は、X線回折測定を行った時に、測定結果が得られるものであれば、種類、粒子の形状等には特に限定は無い。
【0024】
1-1.粒径測定
粒径測定においては、粉末試料に対する粒径測定を行う。具体的な測定方法としては、公知のものを用いても構わない。一例を挙げると、粒径測定の手段としては、篩法、自然沈降法、遠心沈降法、空気透過法、コールター法、動的光散乱法、画像解析法、レーザー回折・散乱法、そして最新の超遠心沈降法など、様々な方法が挙げられる。これらの方法は、測定原理によって、粒径や粒度分布の測定範囲のほか、長所・短所が異なるため、粒径の領域と目的に応じて、使い分けることが重要である。
【0025】
本実施形態においては、粉末試料の最大粒径を測定する必要があるが、上記の各方法のうち、レーザー回折・散乱法を採用するのが好ましい。レーザー回折・散乱法は、篩法や各沈降法及び空気透過法に比べ、操作性が良好である。また、粒径測定の再現性や測定範囲(ミクロン)等を鑑みると、有効径を求めるレーザー回折・散乱法が、本実施形態では総合的に見て適している。なお、レーザー回折・散乱法の装置としては、マイクロトラックMT3300EXII(マイクロトラック・ベル株式会社製)のほか、LA950V2(株式会社堀場製作所製)やSALD-3100(株式会社島津製作所製)などが挙げられるが、特に制限されるものではない。
【0026】
1-2.粒径判定
粒径判定では、後述する測定用試料の作製の前に、粉末試料の最大粒径が10μm以下か否かを判定する。判定において、粉末試料の最大粒径が10μmを超えていた場合は、最大粒径が10μm以下になるまで粉末試料に対して粉砕処理を行う(後述する粉末試料の粉砕)。その一方、粉末試料の最大粒径が10μm以下だった場合、測定用試料の作製へと進む。
【0027】
上記の様に、粒径判定を行う理由としては、以下の通りである。
【0028】
まず、粉末試料に対してX線回折測定を行う場合、粉末試料の粒径を適度なものとする方が、測定の精度や正確さを向上させることに繋がる。本発明者は、先にも挙げた、JIS-K-0131:X線回折分析通則に記載された試料の粉砕を踏まえて、粉末試料の最大粒径は10μm以下とするという、粒径条件を設定した。
【0029】
また、別の理由としては、後述する測定試料の作製と、大きな関係がある。粒径判定で、粉末試料の最大粒径が10μmを超えているか否かを判定し、上記粉末試料の最大粒径が10μmを超えている場合は、最大粒径が10μm以下になるまで、上記粉末試料に対して粉砕処理を行い、適度な粒径にすることに大きな意味がある。何故ならば、粉末試料の最大粒径が細かければ細かいほど、スパチュラ、あるいはガラス板等の擦り切り治具で角度を付けて粉末試料を擦り切ろうとすると、擦り切り治具の先端の微小な凹凸により粉末試料に深く凹凸の跡が残ることになる。従って、後述する測定用試料の作製において、本発明の擦り切り方法を用いて、粉末試料に擦り切り治具の先端の微小な凹凸跡を残さない様にする必要がある。
【0030】
1-3.粉末試料の粉砕
上記した粒径判定において、粉末試料の最大粒径が10μmを超えていると判定された場合は、粉末試料の粉砕において、最大粒径が10μm以下になるまで、粉末試料に対する粉砕処理を行うことが好ましい。具体的な方法としては、公知のものを用いて構わない。一例を挙げると、メノウ乳鉢や振動ミル、若しくは気流式粉砕機などである。なお、上記粉砕処理を行った後に、再度、粉末試料の粒径測定および粒径判定を行い、最大粒径が10μm以下になるまで、当該粉末試料の粉砕処理を行う。
【0031】
1-4.測定用試料の作製
測定用試料の作製は、本実施形態における、大きな特徴の一つである。測定用試料の作製では、平板状の試料容器の一面に形成された、周囲を当該試料容器の主表面に囲まれた凹部に充填した粉末試料を、当該平板状の試料容器の主表面と、平板状治具の平面とを接触させた状態のまま、前記平板状治具を移動させて前記粉末試料を擦り切る。本実施形態においては、上記平板状治具としてガラス板を使用した。以下、手順を追って説明する。
【0032】
まず、X線回折測定に供される、平板状の試料容器を用意する。試料容器としては、公知のものを用いて構わないが、平板状の試料容器の一面に形成された、周囲を当該試料容器の主表面に囲まれた、粉末試料を充填させるための凹部を、有する試料容器を用いることが相応しい。なお、ここで言う主表面とは、平板状の試料容器の一面における凹部(の側面や底面)以外の同一平面上の部分のことを指す。
そして、上記の、粒径測定、粒径判定、粉末試料の粉砕を経た、最大粒径が10μm以下の粉末試料を、試料容器の凹部に充填する。その際、当該粉末試料は凹部から少し溢れる程度の量を充填することが好ましい。
また、平板状の試料容器中央部裏面まで貫通している開口部が設けられているものも使用することが出来る。上記開口部を有する平板状の試料容器を用いる場合には、平面ガラス板等の平面基板の上に配置し、平面基板と開口部で作られた凹部に粉末試料を充填し、押圧して当該粉末試料が落下しないようにすればよい。
【0033】
そして、次に擦り切りを実施する。擦り切りについては、図4を用いて説明する。図4は、本実施形態の測定用試料の作製における、擦り切りの様子を示す断面概略図であり、符号3は平板状治具であるが、以降、符号は省略する。図4に示す様に、平板状治具の平面と、試料容器の主表面(即ち、凹部以外の平面部分)とを接触させた状態のまま、前記平板状治具を移動させて前記粉末試料を擦り切る。より詳しく言うと、平板状治具の平面と、試料容器の主表面とを面接触させた状態で、両平面を平行な状態に維持したまま、前記平板状治具を移動させて前記粉末試料を擦り切る。こうして、試料容器の主表面と、凹部に充填された粉末試料の表面を、同じ高さにすることが出来る。しかも、上記方法に依れば、擦り切り治具の先端の微小な凹凸により粉末試料に深く凹凸の跡が残ることなく、平板状治具の側面で粉末試料が擦り切られた後、通過する平板状治具の平面部により凹部内の粉末試料の表面が均一に平坦化されることになる。そのため、当該粉末試料の表面の平滑化が可能となる。
【0034】
なお、上記の例では、平板状治具としてガラス板を使用したが、これに限定されるものではなく、試料容器の主表面に対して、面平行としながら擦り切りを行うことが出来る平板状治具であれば、特に限定は無い。例えば、擦り切りを行うことが出来る平板状金属板に、左官鏝(こて)板の様に取っ手を付けた治具を使用しても構わない。
【0035】
1-5.X線回折測定
上記の、粉末試料を試料容器の凹部に充填した測定用試料を、X線回折装置用の試料ホルダーに取り付け、上記粉末試料の品種および銘柄毎に合わせた、好適なX線回折測定の条件を選択しX線回折測定を行う。走査条件としては、一定速度で軸を駆動しながら測定する連続モードを用いてもよいし、一定角度ずつ軸を送り、静止している状態で測定するステップモードを用いてもよい。
【0036】
<2.実施の形態による効果>
本実施形態によれば、X線回折測定における、精度や正確さを向上させることが可能となる。具体的に言うと、測定用試料の作製時の擦り切りにおいて、平板状治具を試料容器表面に対し、当該平板状の試料容器の主表面と、平板状治具の平面とを接触させた状態のまま、前記平板状治具を移動させて前記粉末試料を擦り切ることにより、試料容器主表面と試料表面とを同じ高さに合わせられると共に、試料表面の平滑化が可能となるため、個人の経験やノウハウによるバラツキを生み、精度や正確さを低下させる原因となっていた当該粉末試料表面の凹凸は存在せず、X線回折測定結果で精度や正確さを達成出来る。
【0037】
また、粒径測定では、レーザー回折・散乱法を行うことにより、他の方法に比べて、僅か数分レベルで信頼性の高い粒径測定を行い、測定に供する粉末試料の最大粒径を容易に確認出来ると共に、最大粒径が判定基準よりも大きい場合には、早期に粉末試料の粉砕に移ることが可能となる。粉砕を行うことで、試料が不均一であることから生ずる、測定X線回折線の位置ズレや、ピーク強度低下等の精度や正確さの悪化を改善し、再分析の頻度を減らすことが出来る。
【0038】
<3.変形例>
本発明の技術的範囲は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件や、その組み合わせによって得られる、特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0039】
例えば、本実施形態においては平板状の試料容器を用いたが、平面としての主表面を有し、その主表面により凹部が囲まれている状態のものならば板状のものでなくとも構わず、例えばある程度厚みのあるブロック状の試料容器を採用しても構わない。平板状治具においても同様であり、試料容器の主表面(平面)と接触可能な平面が存在すれば特に限定は無い。
【0040】
また、X線回折測定以外の測定(例えば、JIS-R-5201:セメントの物理試験方法(その中の「9.凍結試験」))に供される粉末試料の準備では、混練した粉末試料を試料容器に入れ、過剰分を擦り切り表面を平滑にする。この際に、上記の本発明の擦り切り方法を採用することも可能である。そのため、上述した実施の形態において「X線回折測定」を単に「測定」と言い換えても構わない。
【実施例
【0041】
以下、本実施例について説明する。なお、本発明の技術的範囲は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
粉末試料(金属複合酸化物粉末A)を用いて、以下の手順に従い、X線回折プロファイルから検出された、結晶主相における最強回折線の位置や強度を算出・評価した。また、結晶構造解析手法であるリートベルト(Rietveld)解析により、格子定数のほか、試料容器の主表面からの粉末試料の高さのズレを算出・評価した。
【0043】
<粒径測定>
まず、粉末試料の粒径を、レーザー回折・散乱法を用いた測定装置である、マイクロトラックMT3300EXII(マイクロトラック・ベル株式会社製)で測定した。その結果を図5に示す。最大粒径は、約40μmであった。なお、粒径測定における各種条件は、表1に記載する通りである。
【0044】
【表1】
【0045】
<粒径判定>
次に、粒径測定の結果から、粉砕の要否を判定した。上記の様に、最大粒径は10μmを超えていたため、粉砕が必要であると判定した。
【0046】
<粉末試料の粉砕>
粒径判定で、粉砕が必要であると判定されたことから、メノウ乳鉢を用いた手動粉砕を、約10分間行った。その後、粉砕済みの粉末試料について、再び粒径を測定したところ、図6に示すように、最大粒径が10μm以下(約2.5μm)となったため、次の操作である測定用試料の作製に進んだ。
【0047】
<測定用試料の作製>
粉砕後の粉末試料を充填させるため、平板状の試料容器の一面に形成され、周囲を当該試料容器の主表面に囲まれた凹部を有する試料容器を準備し、上記粉末試料を、試料容器の凹部に充填した。その際、当該凹部から少し溢れる程度の量の粉末試料を充填した。
【0048】
そして、図4に示す様に、ガラス板の面と試料容器の主表面(即ち、凹部以外の部分)とを接触させた状態のまま、前記平板状治具を移動させて前記粉末試料を擦り切った。
【0049】
作製した測定用試料を、X線回折装置用の試料ホルダーに取り付け、表2に示す所定の条件でX線回折測定を行った。
X線回折装置にはX’Pert-PRO/MPD(スペクトリス株式会社製)、解析ソフトにはHigh Score Plus(スペクトリス株式会社製)を用いた。
その後、当該粉末試料の最強回折線である003面の回折線について、他の回折線との分離処理を実施し、回折線の位置(2θ)及び強度(cps)を求め、かつリートベルト解析によって格子定数のほか、試料容器の主表面からの粉末試料の高さのズレを計算した。その結果を、表3に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
次に、粉末試料の試料容器への擦り切りについて、本発明による擦り切り(試料容器の主表面に対し、平板状治具を接触させたまま移動させる)と、従来の方法による擦り切り(試料容器の主表面に対し、スパチュラに角度をつける)を比較するため、粉末試料の表面状態を比較した。
そのため、オプティカルプロファイラーNewView6200(Zygo-Corporation製)を用い、実施例1の擦り切り後における、粉末試料の平面度(表面粗さ)を調べた。その結果について表3に示す。
【0053】
実施例1によれば、回折線の位置や強度をはじめ、格子定数のほか、試料容器の主表面からの粉末試料の高さのズレに関する標準偏差が小さく、非常に信頼性の高い分析結果を得られることが証明された。また、平面度の調査結果から、本発明を用いることで平面度が向上しており、粉末試料の表面をより良く平滑化出来ていることも証明された。これらの結果から、従来の方法による擦り切りよりも、本発明による擦り切りのほうが、高い信頼性を要求される分析試料へ対応可能であることが分かった。
【0054】
(実施例2)
粉末試料(金属複合酸化物粉末A)を用いて、粒径測定~粒径判定を省き、最大粒径が10μmを超えている状態で、それ以外は、実施例1と同様にして、X線回折測定を行った。その結果を表3に示す。
また、実施例1と同様にして、オプティカルプロファイラーNewView6200(Zygo-Corporation製)を用い、実施例2の擦り切り後における、粉末試料の平面度(表面粗さ)を調べた。その結果について表3に示す。
【0055】
実施例1の平均値と比べて、粒径測定~粒径判定を省いた場合には、回折線の位置や強度をはじめ、格子定数のほか、試料容器の主表面からの粉末試料の高さのズレに関して、差が大きくなる傾向が見られた。また、平面度についても、同じ傾向であった。これらの結果から、最大粒径を10μm以下に粉砕した粉末試料を用いて、本発明の擦り切り方法を用いて、X線回折測定用試料を作製する効果が確認出来た。
【0056】
(比較例1)
実施例1で粉砕済みの粉末試料(金属複合酸化物粉末A)を用いて、試料容器へ擦り切る際に、従来の方法で行っていた操作と同様にした。具体的には、ガラス板の先端を試料容器の主表面に当てつつ、ガラス板を把持するために、ガラス板の基端を試料容器の主表面から上方に持ち上げ、角度をつける。そして、ガラス板を手前に引くことにより、試料容器の主表面に対し、角度を付けた状態で、ガラス板で凹部から溢れた粉末試料を擦り切った。それ以外は、実施例1と同様にして、X線回折測定を行った。その結果を表3に示す。また、実施例1と同様にして、オプティカルプロファイラーNewView6200(Zygo-Corporation製)を用い、比較例1の擦り切り後における、粉末試料の平面度(表面粗さ)を調べた。その結果について表3に示す。
【0057】
比較例1によれば、表3における実施例1の場合と比べ、回折線の位置や強度をはじめ、格子定数のほか、試料容器の主表面からの粉末試料の高さのズレに関する標準偏差が、明らかに劣っていた。また、平面度についても、比較例1では実施例1ほどの平面度が得られておらず、粉末試料の表面を平滑化することについても、劣っていることが分かった。
【0058】
(比較例2)
粉末試料(金属複合酸化物粉末A)を用いて、粒径測定~粒径判定を省き、最大粒径が10μmを超えている状態で、従来の方法による擦り切り(試料容器の主表面に対し、スパチュラに角度をつける)を行った。それ以外は、実施例1と同様にして、X線回折測定を行った。その結果を表3に示す。また、実施例1と同様にして、オプティカルプロファイラーNewView6200(Zygo-Corporation製)を用い、比較例2の擦り切り後における、粉末試料の平面度(表面粗さ)を調べた。その結果について表3に示す。
【0059】
実施例1の平均値と比べて、粒径測定~粒径判定を省き、かつ本発明による擦り切り(試料容器の主表面に対し、平板状治具を接触させたまま移動させる)を行わなかった場合には、回折線の位置や強度をはじめ、格子定数のほか、試料容器の主表面からの粉末試料の高さのズレに関して、いっそう差が大きくなる傾向が見られた。また、平面度についても、同じ傾向であった。これらの結果から、最大粒径を10μm以下に粉砕する効果も、より明らかとなった。
【符号の説明】
【0060】
1………試料容器
11……主表面
12……凹部
2………スパチュラ
3………平板状治具
P………粉末試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6