(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】中和処理方法、及び中和終液の濁度低減方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20220117BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20220117BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/06
C22B3/44 101A
(21)【出願番号】P 2017038259
(22)【出願日】2017-03-01
【審査請求日】2019-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2016092579
(32)【優先日】2016-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】杉之原 真
(72)【発明者】
【氏名】米山 智暁
(72)【発明者】
【氏名】柴山 敬介
(72)【発明者】
【氏名】榎本 学
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-138918(JP,A)
【文献】特開2013-185179(JP,A)
【文献】特開2010-037626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
C02F 1/58-1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石に対して酸により浸出処理を施して浸出液と浸出残渣とを含む浸出スラリーを得る浸出工程と、該浸出スラリーを固液分離して回収した該浸出液に中和剤を添加して中和処理を施し、不純物を含む中和澱物とニッケル及びコバルトを含む中和終液とを得る中和工程と、該中和終液に対して硫化剤を添加してニッケル及びコバルトの混合硫化物を生成させる硫化工程と、を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける該中和工程の中和処理方法であって、
前記浸出液に、中和剤を添加してpHを2.5~3.5の範囲に調整し、前記浸出液の温度を55℃~70℃に調整するとともに、前記浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣のスラリーを前記浸出液の流量に対して7.0体積%~16.0体積%の比率となる流量で添加することによって、得られる中和終液の濁度が100NTU未満となるようにして、該中和終液の濁度を維持した状態で前記硫化工程に供する
中和処理方法。
【請求項2】
前記浸出残渣スラリーは、スラリー濃度が1.5t/m
3~1.7t/m
3である
請求項
1に記載の中和処理方法。
【請求項3】
前記浸出残渣スラリーを添加するに際して、凝結剤を併せて添加する
請求項1
又は2に記載の中和処理方法。
【請求項4】
前記浸出残渣スラリーは、前記浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離して得られたものである
請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の中和処理方法。
【請求項5】
ニッケル酸化鉱石に対して酸により浸出処理を施して浸出液と浸出残渣とを含む浸出スラリーを得る浸出工程と、該浸出スラリーを固液分離して回収した該浸出液に中和剤を添加して中和処理を施し、不純物を含む中和澱物とニッケル及びコバルトを含む中和終液とを得る中和工程と、該中和終液に対して硫化剤を添加してニッケル及びコバルトの混合硫化物を生成させる硫化工程と、を含むニッケル及びコバルトの混合硫化物の製造方法であって、
前記浸出液に、中和剤を添加してpHを2.5~3.5の範囲に調整し、前記浸出液の温度を55℃~70℃に調整するとともに、前記浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣のスラリーを前記浸出液の流量に対して7.0体積%~16.0体積%の比率となる流量で添加することによって、得られる中和終液の濁度が100NTU未満となるようにして、該中和終液の濁度を維持した状態で前記硫化工程に供する
ニッケル及びコバルトの混合硫化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中和処理方法に関するものであり、より詳しくは、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬の中和工程における中和処理方法であって、得られる中和終液の濁度を有効に低減させることができる中和処理方法、及び中和終液の濁度低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法として、硫酸を用いた高圧酸浸出による方法がある。この方法は、従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬方法である乾式製錬法とは異なり、還元工程及び乾燥工程を含まず、一貫した湿式工程からなるため、エネルギー的及びコスト的に有利である。また、ニッケル品位を50質量%程度にまで上昇したニッケルとコバルトとを含む硫化物(以下、「ニッケル・コバルト混合硫化物」又は「混合硫化物」ともいう)を得ることができるという利点を有している。
【0003】
この高圧酸浸出法は、例えば、下記の工程を含む。すなわち、
(a)ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを得る浸出工程と、
(b)浸出スラリーを多段洗浄しながら浸出残渣を分離して、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程と、
(c)浸出液に中和剤を添加してpHを調整することで不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトを含む中和終液を得る中和工程と、
(d)中和終液に亜鉛が多く含まれる場合に、硫化水素ガスを添加することで亜鉛を硫化物として取り除き脱亜鉛終液を得る脱亜鉛工程と、
(e)ニッケル回収用の母液(中和終液又は脱亜鉛終液)に硫化水素ガスを添加することでニッケル及びコバルトを含む硫化物を生成させ、そのニッケル・コバルト混合硫化物を他から分離するニッケル回収工程と、を含む。
【0004】
具体的に、中和工程では、固液分離工程を経て回収された浸出液を中和槽に装入し、例えば炭酸カルシウムスラリー等の中和剤を添加して中和し、得られる水酸化物沈澱を固液分離することによって、中和澱物と中和終液とを得る。ところが、この固液分離処理は難しく、中和終液への微細な中和澱物の混入が避けられなかった。このように中和澱物が混入すると、中和終液は濁度が高くなるとともに、後工程へ不純物が持ち込まれてしまう。
【0005】
さて、例えば特許文献1には、上述した中和工程により得た中和終液に含まれる亜鉛を除去するための脱亜鉛工程において、亜鉛を硫化物として固定し分離する処理の促進のために、その中和終液の濁度を高く維持して処理する技術が提案されている。これにより、中和澱物を亜鉛硫化物によって粗大化して濾過性を向上させ、またニッケル回収率を高めることが可能となる。
【0006】
しかしながら、例えば特許文献1に記載の方法を用いた場合、不純物量に応じて中和工程と脱亜鉛工程の条件を適切に組み合わせないと、脱亜鉛工程を経て得られたニッケル回収用の母液には不純物が多く残存した状態となりやすく、このようなニッケル回収用母液(硫化反応始液)を用いて硫化処理によりニッケル・コバルト混合硫化物を生成させると、その混合硫化物には不純物が多く含まれてしまうという問題が生じる。
【0007】
このように、ニッケル回収工程での硫化反応の反応始液となる中和終液においては、その濁度が、得られるニッケル・コバルト混合硫化物の不純物含有量に影響する。そのため、中和工程では、浸出液中の不純物を効果的に析出させるとともに、次工程へ送る中和終液の濁度を安定的に低く維持することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスでの中和処理において、浸出液中の不純物を効果的に沈澱物として除去可能とするとともに、次工程へ送る中和終液の濁度を低減させることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、中和処理において、浸出液に対する中和剤の添加により所定の範囲にpHを調整するとともに、浸出残渣スラリーを特定の割合で添加して中和終液の濁度が100NTU未満となるようにすることで、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、ニッケル酸化鉱石に対して酸により浸出処理を施して浸出液と浸出残渣とを含む浸出スラリーを得た後、該浸出スラリーを固液分離して回収した該浸出液に中和剤を添加して中和処理を施し、不純物を含む中和澱物とニッケル及びコバルトを含む中和終液とを得る中和処理方法であって、前記浸出液に、中和剤を添加してpHを2.5~3.5の範囲に調整するとともに、前記浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣のスラリーを添加することによって、得られる中和終液の濁度が100NTU未満となるようにする、中和処理方法である。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記浸出残渣スラリーを、中和処理に供される浸出液(始液)の流量に対して7.0体積%~16.0体積%の比率となる流量で、該浸出液に添加する、中和処理方法である。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記浸出液の温度を55℃~70℃に調整する、中和処理方法である。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記浸出残渣スラリーは、スラリー濃度が1.5t/m3~1.7t/m3である、中和処理方法である。
【0015】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記浸出残渣スラリーを添加するに際して、凝結剤を併せて添加する、中和処理方法である。
【0016】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記浸出残渣スラリーは、前記浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離して得られたものである、中和処理方法である。
【0017】
(7)本発明の第7の発明は、ニッケル酸化鉱石に対して酸により浸出処理を施して浸出液と浸出残渣とを含む浸出スラリーを得た後、該浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離して回収した該浸出液に中和剤を添加して中和処理を施すことによって得られる、不純物を含む中和澱物を除去した中和終液の濁度低減方法であって、前記中和処理において、前記浸出液に、中和剤を添加してpHを2.5~3.5の範囲に調整するとともに、前記多段洗浄して固液分離された浸出残渣のスラリーを添加することによって、得られる中和終液の濁度が100NTU未満となるようにする、中和終液の濁度低減方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスでの中和処理において、浸出液中の不純物を効果的に沈澱物として除去可能とし、濁度を低減させた中和終液を得ることができる。このようにして濁度を低減させた中和終液を用いて、硫化反応によりニッケルやコバルトを含む硫化物を生成させることで、不純物含有量の極めて少ない硫化物を得ることができ、製品品質を向上させることができる。したがって、このような中和処理方法は、その工業的価値が極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。
【
図2】中和処理に供される浸出液(始液)の流量に対する浸出残渣スラリーの添加流量の比率の相違に基づく中和終液の濁度の推移を調べた結果を示すグラフ図である。
【
図3】中和処理に供される浸出液(始液)の流量に対する浸出残渣スラリーの添加流量の比率の相違に基づく濁度低減率の関係を調べた結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0021】
≪1.中和処理方法の概要≫
本実施の形態に係る中和処理方法は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセス(以下、単に「湿式製錬プロセス」ともいう)における中和工程での中和処理の方法である。
【0022】
具体的に、湿式製錬プロセスにおける中和処理は、ニッケル酸化鉱石に対する酸浸出処理で得られた浸出液に対し、中和剤を添加してpHを所定の範囲に調整することによって、浸出液に含まれる不純物を沈澱物(中和澱物)とし、その不純物を除去した中和終液を得る処理である。ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスでは、このような中和工程における処理で得られた中和終液をニッケル回収用の母液として用いて、ニッケルやコバルトを硫化物として回収する。
【0023】
本実施の形態に係る中和処理方法は、上述したニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける中和工程にて実施されるものであって、ニッケルやコバルトを含む浸出液に、中和剤を添加してpHを2.5~3.5の範囲に調整するとともに、浸出処理で得られた浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣のスラリーを添加することで、得られる中和終液の濁度が100NTU未満となるようにすることを特徴としている。
【0024】
このような方法によれば、得られる中和終液の濁度を低い状態に維持することができ、湿式製錬プロセスの後工程の硫化工程において、不純物の少ないニッケル・コバルト混合硫化物を生成させることができる。不純物の含有量の少ない混合硫化物は、製品品質が極めて優れたものであり、この中和処理方法の工業的価値は極めて高い。
【0025】
≪2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセス≫
まず、中和処理方法のより具体的な説明に先立ち、この処理方法を適用する中和工程を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスについて説明する。
【0026】
図1は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。
図1に示すように、湿式製錬方法プロセスは、原料のニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程S1と、浸出スラリーから浸出残渣を分離してニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る固液分離工程S2と、浸出液のpHを調整して浸出液中の不純物を中和澱物として分離して中和終液を得る中和工程S3と、中和終液に硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトの混合硫化物を生成させる硫化工程S4とを有する。
【0027】
(1)浸出工程
浸出工程S1では、オートクレーブ等の高温加圧反応槽を用い、ニッケル酸化鉱石のスラリー(以下、「鉱石スラリー」ともいう)に硫酸を添加して、温度230℃~270℃程度、圧力3MPa~5MPa程度の条件下で撹拌して浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成する。
【0028】
原料のニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8重量%~2.5重量%であり、水酸化物又はケイ酸マグネシウム鉱物として含有される。また、鉄の含有量は10重量%~50重量%であり、主として3価の水酸化物の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。また、浸出工程S1では、このようなラテライト鉱の他に、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等を用いることができる。
【0029】
浸出工程S1における浸出処理では、例えば下記式(a)~(e)で表される浸出反応と高温加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれる。なお、浸出工程S1では、次工程の固液分離工程S2で分離されるヘマタイトを含む浸出残渣の濾過性の観点から、得られる浸出液のpHが0.1~1.0にとなるように調整することが好ましい。
【0030】
・浸出反応
MO+H2SO4⇒MSO4+H2O ・・(a)
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す)
2Fe(OH)3+3H2SO4⇒Fe2(SO4)3+6H2O ・・(b)
FeO+H2SO4⇒FeSO4+H2O ・・(c)
・高温加水分解反応
2FeSO4+H2SO4+1/2O2⇒Fe2(SO4)3+H2O ・・(d)
Fe2(SO4)3+3H2O⇒Fe2O3+3H2SO4 ・・(e)
【0031】
なお、鉱石スラリーを装入したオートクレーブへの硫酸の添加量としては、特に限定されないが、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられる。例えば、鉱石1トン当り300kg~400kgの割合とする。
【0032】
(2)固液分離工程
固液分離工程S2では、浸出工程S1で生成した浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケルやコバルト等の有価金属を含む浸出液と浸出残渣とを分離する。
【0033】
固液分離工程S2では、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、シックナー等の固液分離装置を用いて固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、浸出スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈度合に応じて減少させることができる。また、このようにシックナーを多段に連結して用いて多段洗浄しながら固液分離することにより、洗浄液、すなわち浸出液へのニッケル及びコバルトの回収率の向上を図ることができる。
【0034】
固液分離処理における多段洗浄方法として、ニッケルを含まない洗浄液で向流に接触させる連続向流洗浄法(CCD法)を用いる。これにより、系内に新たに導入する洗浄液を削減できるとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を高めることができる。
【0035】
洗浄液としては、特に限定されないが、ニッケルを含まず、工程に影響を及ぼさないものを用いることができる。その中でも、pHが1~3の水溶液を用いることが好ましい。洗浄液のpHが高いと、浸出液中にアルミニウムが含まれる場合には嵩の高いアルミニウム水酸化物が生成され、シックナー内での浸出残渣の沈降不良の原因となる。洗浄液としては、好ましくは、後工程である硫化工程S4で得られる低pH(pHが1~3程度)の貧液を繰り返して利用することができる。
【0036】
固液分離装置として、例えば、周縁部に上澄み液を排出するオーバーフロー部と、中心部に垂直に配設された筒状のフィードウェルとを有する沈降分離槽と、撹拌槽とを備えたシックナーを用いることができる。このシックナーを多段に設けて、処理対象となるスラリーを多段洗浄しながら固形分である浸出残渣を分離除去する。
【0037】
(3)中和工程
中和工程S3では、浸出液の酸化を抑制しながら、得られた浸出液に中和剤を添加してpHを所定の範囲に調整し、不純物元素を含む中和澱物とニッケル回収用母液となる中和終液とを生成させる。
【0038】
具体的に、中和工程S3では、得られる中和終液のpHが2.5~3.5の範囲となるように、その浸出液に中和剤を添加して、中和終液と不純物元素として例えば3価の鉄を含む中和澱物スラリーとを形成する。中和工程S3では、このようにして浸出液に対する中和処理を施すことで、浸出工程S1での浸出処理で用いた過剰の酸を中和して中和終液を生成させるとともに、溶液中に残留する鉄イオンやアルミニウムイオン等の不純物元素を中和澱物として除去する。なお、回収した中和澱物は、固液分離工程S2に繰り返し添加することができる。
【0039】
ここで、本実施の形態では、この中和処理において、中和剤を添加してpHを2.5~3.5の範囲に調整するとともに、浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣のスラリーを添加する。詳しくは後述するが、このようにpHを調整するとともに、浸出残渣のスラリーを添加し、またその添加量を調整することにより、不純物元素を効果的に析出沈澱させることができ、得られる中和終液の濁度を100NTU未満とすることができる。言い換えると、効果的に中和澱物を生成させて不純物元素を除去しながら、その濁度を安定的に低い状態に維持することができる。
【0040】
(4)硫化工程
硫化工程S4では、ニッケル及びコバルト回収用母液である中和終液を硫化反応始液として、その硫化反応始液に対して硫化剤としての硫化水素ガスを吹き込むことによって硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの混合硫化物と、ニッケル及びコバルトの濃度を低い水準で安定させた貧液である硫化反応終液とを生成させる。
【0041】
なお、中和終液中に亜鉛が含まれる場合には、硫化物としてニッケルやコバルトを分離するに先立って、亜鉛を硫化物として選択的に分離することができる。
【0042】
硫化工程S4における硫化処理は、硫化反応槽等を用いて行うことができ、硫化反応槽に導入した硫化反応始液に対して、その反応槽内の気相部分に硫化水素ガスを吹き込み、溶液中に移動した硫化水素ガスによって緩やかに硫化反応を生じさせることができる。この硫化処理により、硫化反応始液中に含まれるニッケル及びコバルトを混合硫化物として固定化する。
【0043】
硫化反応の終了後においては、得られたニッケル・コバルト混合硫化物を含むスラリーをフィルタープレス等の濾過装置に装入して濾過処理を施し、濾布上にその混合硫化物を捕集する。濾布を通過した水溶液成分は、貧液として回収する。濾過装置への通液量を低減するために、スラリーはあらかじめシックナー等の沈降濃縮装置に装入して、上澄み液を貧液として除去しておくのがよい。
【0044】
本実施の形態においては、詳しくは後述するように、中和工程S3における中和処理において、中和剤を添加してpHを所定の範囲に調整するとともに、浸出残渣スラリーを添加することで中和終液の濁度が100NTU未満となるように処理している。このような中和処理により得られた、濁度を有効に低減させた中和終液(ニッケル回収用母液)を、この硫化工程S4における硫化反応始液として用いることによって、極めて不純物含有量の少ないニッケル・コバルト混合硫化物を生成させることができる。
【0045】
≪3.中和工程における中和処理について≫
上述したように、湿式製錬プロセスの中和工程S3での中和処理においては、浸出工程S1で生成した浸出スラリーを固液分離して得られた浸出液に中和剤を添加することによって、得られる中和終液のpHが2.5~3.5の範囲となるようにする。そしてまた、この中和処理においては、pH調整を行うとともに、その浸出液に対して、浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣のスラリーを添加することによって、得られる中和終液の濁度が100NTU未満となるようにする。
【0046】
(pH調整について)
この中和処理においては、浸出液に中和剤を添加することによって、得られる中和終液のpHが2.5~3.5の範囲となるように調整する。
【0047】
中和終液のpHが2.5未満となるように調整すると、浸出液中に含まれる不純物元素を十分に水酸化物等の沈澱物にすることができない。これにより、得られる中和終液の不純物含有量が高まり、次工程の硫化工程にて生成するニッケル・コバルト混合硫化物の不純物量が上昇してしまう。一方で、中和終液のpHが3.5を超えるように調整すると、沈降性の悪い微粒子が発生して濁度が高くなりやすい。また、後工程で亜鉛を硫化物として除去する際に、ニッケル及びコバルトの一部も析出してしまう。
【0048】
中和剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化マグネシウムや炭酸カルシウム等の水酸化アルカリ金属塩や炭酸アルカリ金属塩の水溶液あるいはスラリーを用いることができる。なお、工業的には、安価な炭酸カルシウムのスラリーを用いることが好ましい。
【0049】
(浸出残渣スラリーの添加による濁度低減)
この中和処理においては、中和剤の添加によりpHを所定の範囲に調整するとともに、浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣のスラリーを添加することによって、得られる中和終液の濁度が100NTU未満となるようにする。
【0050】
なお、中和終液の濁度の測定においては、ISO7027、USEPA180.1規格に準拠した装置を用いて測定することができる。また、濁度測定は、例えば10分に1回~24時間に1回の頻度で測定し、好ましくは1時間に1回程度の頻度で測定する。
【0051】
浸出残渣スラリーは、湿式製錬プロセスの浸出工程S1にて生成した浸出スラリーを、固液分離工程S2で例えば多段洗浄しながら固液分離して得られた浸出残渣のスラリーである。この浸出残渣は、ヘマタイト(Fe2O3)を主成分(通常、50質量%~70質量%)として含有するものであり、比重が大きい。
【0052】
このように、浸出液に対する中和処理において、浸出残渣スラリーを添加することによって、比重の大きな浸出残渣を核として中和澱物が凝集形成されるようになり、その結果として中和澱物の沈降性を高めることができ、得られる中和終液の濁度を有効に低減させることができる。
【0053】
なお、浸出残渣スラリーとしては、浸出工程S1で得られた浸出スラリーを、固液分離工程S2にて多段洗浄しながら固液分離して得られた固体側(固体含有率の高いスラリー)であることが好ましい。このように多段洗浄して得られた浸出残渣は、酸やアルカリの付着が少ない。このため、全体のpHを制御する妨げにならず、また添加した浸出残渣の近傍の局所的なpHもバルクのpHの変化に追随することから、中和澱物の析出速度や粒子径の制御が容易となる。また、多段洗浄しながら固液分離したものは、水との比重分離性や濾過分離性に優れた性質を備えている。このような性質の特に強い浸出残渣(例えば、シックナーの最底部や初期沈澱)を選んで使用することによって、中和澱物をさらに容易に分離することができ、中和終液の濁度をより効率的に低減することができる。
【0054】
浸出残渣スラリーの添加に際しては、中和処理に供される浸出液(始液)の流量(始液流量)に対して好ましくは7.0体積%~16.0体積%の比率となる流量で、より好ましくは10.0体積%~15.5体積%の比率となる流量で、さらに好ましくは11.8体積%~15.3体積%の比率となる流量で、浸出液に添加していく。このように、始液流量に対して上述した範囲の流量で浸出残渣スラリーを添加していくことで、より効果的に、得られる中和終液の濁度を100NTU未満にまで、またさらに好ましくは70NTU未満にまで低減させることができる。
【0055】
図2は、中和処理に供される浸出液(始液)の流量に対する、浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣スラリーの添加流量の比率の相違に基づく中和終液の濁度の推移を調べた結果を示すグラフ図である。また、
図3は、その浸出残渣スラリーの添加流量の比率の相違に基づく濁度低減率の関係を調べた結果を示すグラフ図である。
浸出残渣スラリーの添加比率(体積%)=浸出残渣スラリー流量/始液流量×100
濁度低減率(%)=(始液の濁度-中和終液の濁度)/始液の濁度×100
【0056】
なお、この調査試験においては、中和処理に供した始液として、ニッケル濃度:3.7g/L~4.4g/L、コバルト濃度:0.24g/L~0.45g/L、鉄濃度:0.4g/L~1.8g/L、亜鉛濃度:0.07g/L~0.12g/Lの組成を有し、pHが2.5~3.0のものを用いた。また、浸出残渣スラリーとしては、浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離して得られたものであって、ニッケル品位:0.1質量%以下、コバルト品位:0.01質量%以下、鉄品位:50質量%以上、亜鉛品位:0.02質量%以下の組成のものを用いた。また、5倍に希釈したポリダドマックを凝結剤として使用し、中和処理の始液に対して0.047体積%~0.051体積%の割合の添加量で添加した。
【0057】
図2、
図3のグラフ図から分かるように、始液である浸出液の流量に対して浸出残渣スラリーの添加流量を増加させるに伴って、得られる中和終液の濁度を効果的に低減させることができる。浸出残渣スラリーの添加比率をさらに増加させることによって、より一層に濁度を低減させることが可能であると考えられるが、その添加比率としては、7.0体積%~16.0体積%の範囲であることが好ましい。なお、これ以上に添加比率を高めた場合、濁度の低減度合いに対して、添加供給する浸出残渣スラリー量の増加に伴うポンプ等の設備負荷が増加し、また使用する凝結剤の量も増加する可能性がある。
【0058】
また、浸出液に添加する浸出残渣スラリーとしては、上述したように、固液分離工程S2にて多段洗浄しながら固液分離して得られたものが好ましい。また、そのスラリー濃度を1.5t/m3~1.7t/m3の範囲に調整したものを用いることが好ましい。このようなスラリー濃度に調整した浸出残渣スラリーを用いることで、中和処理を経て得られる中和終液の濁度をより効果的に低減させることができる。
【0059】
また、浸出残渣スラリーを添加するに際しては、凝結剤を併せて添加することが好ましい。一般的に、水酸化物沈澱等の中和澱物は、沈降性が極めて悪いことが知られており、凝集の母体となる浸出残渣スラリーを添加するとともに、凝結剤を併せて添加することによって、比重の大きな浸出残渣スラリーと水酸化物沈澱等の中和澱物とを凝結させて、より沈降性を促進させることができる。このように、浸出残渣スラリーという、水酸化物沈澱等の中和澱物と凝結する母体が存在することで、凝結剤の効果を高めることができる。
【0060】
凝結剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミン、ポリダドマック、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド等を使用することができる。
【0061】
なお、浸出液の流量が増減した場合、浸出残渣スラリーの添加量もそれに応じて増減させるのが好ましい。ただし、浸出残渣スラリーの添加流量を増加させる場合には、徐々に増加させていくことが望ましい。浸出残渣は、中和澱物と凝結してはじめて効果を奏するため、中和澱物の組成、凝結剤や凝集剤の添加量によっては、添加量を増加させても中和澱物の沈降が促進せず、滞留時間の観点では不利になる可能性があるためである。
【0062】
(温度の調整について)
また、この中和処理においては、中和処理始液となる浸出液の温度(液温)を、特定の範囲に調整し維持することが好ましい。具体的には、浸出液の温度を55℃~70℃の範囲に調整することが好ましく、60℃~68℃の範囲に調整することがより好ましい。このように、浸出液の温度を55℃~70℃に調整し維持した状態で中和処理を施すことによって、得られる中和終液の濁度をより効果的に低減させることができる。
【0063】
浸出液の温度が55℃未満であると、上述した中和処理によって中和終液の濁度を100NTU未満に低減できたとしても、その濁度低減率としては小さく、効率的な処理を行うことができない可能性がある。一方で、浸出液の温度が70℃を超えても、それ以上に中和終液の濁度低減効果は向上せず、70℃を超える液温に調整し維持するための熱エネルギーが増え、コスト増につながる。
【0064】
なお、浸出液の温度調整方法としては、特に限定されず、例えば高温熱媒体を用いて、その高温熱媒体の流量を調整することにより行うことができる。なお、高温熱媒体としては、比較的安全性の高い蒸気を用いることが好ましい。また、温度調整においては、ヒーター等を用いて行うこともできる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
<中和処理について>
[実施例1]
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける中和工程において、浸出液に対して中和剤として炭酸カルシウムのスラリーを添加して中和終液のpHが2.5~3.5の範囲となるように調整するとともに、浸出残渣スラリーを中和処理始液(浸出液、単に「始液」ともいう)の流量に対して7.9体積%の比率となる流量で添加して、中和処理を行った。なお、浸出液の温度は、55℃に調整し維持した。
【0067】
中和処理始液である浸出液としては、ニッケル濃度:3.7g/L~4.4g/L、コバルト濃度:0.24g/L~0.45g/L、鉄濃度:0.4g/L~1.8g/L、亜鉛濃度:0.07g/L~0.12g/Lの組成を有し、pHが2.5~3.0のものを用いた。また、浸出残渣スラリーとしては、湿式製錬プロセスの浸出工程で得られた浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離して得られたものであって、ニッケル品位:0.1質量%以下、コバルト品位:0.01質量%以下、鉄品位:50質量%以上、亜鉛品位:0.02質量%以下の組成のものを用いた。また、中和処理においては、浸出残渣スラリーの添加に際して、5倍に希釈したポリダドマックを凝結剤として使用し、中和処理の始液に対して0.047体積%~0.051体積%の割合の添加量で添加した。
【0068】
このような中和処理の反応により得られた中和終液の濁度を、濁度測定装置(TB1000W,Eutech社製)を用いて測定したところ、84NTUであった。また、その中和終液の不純物負荷は、始液に対して76%減少した。
【0069】
[実施例2]
中和処理において、浸出残渣スラリーを、始液流量に対して7.4体積%の比率となる流量で添加したこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0070】
このような中和処理の反応により得られた中和終液の濁度を測定したところ、64NTUであった。また、その中和終液の不純物負荷は、始液に対して84%減少した。
【0071】
[実施例3]
中和処理において、浸出残渣スラリーを、始液流量に対して11.8体積%の比率となる流量で添加したこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0072】
このような中和処理の反応により得られた中和終液の濁度を測定したところ、52NTUであった。また、その中和終液の不純物負荷は、始液に対して90%減少した。
【0073】
[実施例4]
中和処理において、浸出残渣スラリーを、始液流量に対して13.2体積%の比率となる流量で添加したこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0074】
このような中和処理の反応により得られた中和終液の濁度を測定したところ、61NTUであった。また、その中和終液の不純物負荷は、始液に対して85%減少した。
【0075】
[実施例5]
中和処理において、浸出残渣スラリーを、始液流量に対して15.3体積%の比率となる流量で添加したこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0076】
このような中和処理の反応により得られた中和終液の濁度を測定したところ、41NTUであった。また、その中和終液の不純物負荷は、始液に対して90%減少した。
【0077】
[実施例6]
中和処理において、浸出残渣スラリーを、始液流量に対して14.8体積%の比率となる流量で添加したこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0078】
このような中和処理の反応により得られた中和終液の濁度を測定したところ、48NTUであった。また、その中和終液の不純物負荷は、始液に対して89%減少した。
【0079】
[実施例7]
中和処理において、浸出残渣スラリーを、始液流量に対して14.5体積%の比率となる流量で添加したこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0080】
このような中和処理の反応により得られた中和終液の濁度を測定したところ、48NTUであった。また、その中和終液の不純物負荷は、始液に対して86%減少した。
【0081】
[参考例1]
中和処理において、浸出残渣スラリーを、始液流量に対して5.6体積%の比率となる流量で添加したこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0082】
このような中和処理の反応により得られた中和終液の濁度を測定したところ、120NTUであり、十分に濁度を低減させることができなかった。なお、その中和終液の不純物負荷は、始液に対して81%減少した。
【0083】
[参考例2]
中和処理において、浸出残渣スラリーを、始液流量に対して6.1体積%の比率となる流量で添加したこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0084】
このような中和処理の反応により得られた中和終液の濁度を測定したところ、104NTUであり、十分に濁度を低減させることができなかった。なお、その中和終液の不純物負荷は、始液に対して84%減少した。
【0085】
[比較例1]
中和処理において、浸出残渣スラリーを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0086】
このような中和処理の反応により得られた中和終液の濁度を測定したところ、325NTUであり、十分に濁度を低減させることができなかった。
【0087】
<始液の温度について>
次に、中和処理始液(始液)の温度の影響について調べた。
【0088】
具体的には、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける中和工程において、浸出液に対して中和剤として炭酸カルシウムのスラリーを添加して中和終液のpHが2.5~3.5の範囲となるように調整するとともに、浸出残渣スラリーを中和処理始液(浸出液)の流量に対して7.9体積%の比率となる流量で添加して、中和処理を行った。このとき、浸出液の温度を、およそ54℃~66℃に調整して、温度調整による効果を確認した。
【0089】
中和処理始液である浸出液としては、ニッケル濃度:2.3g/L~4.4g/L、コバルト濃度:0.21g/L~0.45g/L、鉄濃度0.4g/L~1.8g/L、亜鉛濃度:0.05g/L~0.12g/Lの組成を有し、pHが2.5~3.5のものを用いた。また、浸出残渣スラリーとしては、湿式製錬プロセスの浸出工程で得られた浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離して得られたものであって、ニッケル品位:0.15質量%以下、コバルト品位:0.02質量%以下、鉄品位:48質量%以上、亜鉛品位:0.02質量%以下の組成のものを用いた。また、中和処理においては、浸出残渣スラリーの添加に際して、5倍に希釈したポリダドマックを凝結剤として使用し、中和処理の始液に対して0.019体積%~0.029体積%の割合の添加量で添加した。
【0090】
このような中和処理の反応により得られた中和終液の濁度を、濁度測定装置(TB1000W,Eutech社製)を用いて測定し、またその濁度から以下の式に示すように濁度低減率を算出した。なお、中和処理始液の濁度も同様にして測定しておいた。
濁度低減率(%)=(始液の濁度-中和終液の濁度)/始液の濁度×100
【0091】
下記表1に、試験例1~試験例7の中和処理条件と、中和終液の濁度、濁度低減率の結果を併せて示す。
【0092】
【0093】
表1に示されるように、中和処理における温度の上昇に伴って、中和処理により得られる中和終液の濁度が低下し、濁度低減率が上昇した。具体的には、温度を54℃以上とすることによって中和終液の濁度が100NTU以下に低下することがわかった。特に、温度を55℃以上とすることによって、濁度低減率が80%以上となり、より効果的に中和終液の濁度を低下させることができる。なお、温度63℃以上では温度を上昇させても濁度低減率はあまり向上せず、温度上昇により蒸気等の熱エネルギーの使用量が増加することから、中和処理における温度条件としては特に55℃~63℃程度が特に好ましいことがわかった。