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  • 特許-エナメル線の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】エナメル線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/08 20060101AFI20220203BHJP
   B21B 1/16 20060101ALI20220203BHJP
   B21B 3/00 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
B21B1/08 R
B21B1/16 L
B21B3/00 L
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018005404
(22)【出願日】2018-01-17
(65)【公開番号】P2019122988
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 巧
(72)【発明者】
【氏名】船山 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】秦 昌平
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-117052(JP,A)
【文献】特開2013-091073(JP,A)
【文献】特開2015-170422(JP,A)
【文献】特開平06-302237(JP,A)
【文献】特開2014-063756(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152166(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/08
B21B 1/16
B21B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の断面を有する導体に対して前記導体の加工応力を緩和するための加熱処理を行う加工応力緩和工程と、
前記加熱処理を行った前記所定の断面を有する導体を平角状の導体に圧延する圧延工程と、
前記平角状の導体を平角伸線したときに前記平角状の導体の表面に付着した潤滑油を加熱によって除去する導体表面清浄化工程と、
前記平角状の導体に皮膜を形成してエナメル線にする皮膜形成工程と、
を含む、エナメル線の製造方法。
【請求項2】
前記加工応力緩和工程は、前記所定の断面が円形状である導体を加熱処理する工程であり、
前記皮膜形成工程は、前記平角状の導体が平角伸線され、洗浄され、加熱により導体表面が清浄化された後に、前記平角状の導体に皮膜を形成して前記エナメル線にする皮膜形成工程であり、
前記導体表面清浄化工程は、前記加工応力緩和工程で前記導体の加熱処理を行った加熱装置内で前記潤滑油の加熱を行う、
請求項1に記載のエナメル線の製造方法。
【請求項3】
前記加工応力緩和工程は、前記平角状の導体の角部に加えられる加工応力を低減するように、前記加熱装置によって前記所定の断面が円形状である導体を500℃以上の温度で加熱し、
前記導体表面清浄化工程は、前記加熱装置によって前記皮膜形成工程に入る前の前記平角状の導体を500℃以上の温度で加熱する、
請求項2に記載のエナメル線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナメル線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
横断面が平角状からなる導体上に皮膜を有するエナメル線の製造方法として、例えば、横断面が円形状からなる導体を横断面が平角状に圧延する圧延工程と、平角状に圧延した導体上にエナメル線塗料を塗布焼付する工程とを備えた方法がある(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-302237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のエナメル線の製造方法では、導体を円形状から平角状に圧延するときに、平角状からなる導体の表面(特に角部)に割れが発生することがある。この割れにエナメル線塗料が入ると、割れが生じた部分の皮膜で発泡が生じることがある。すなわち、平角状からなる導体の表面に生じた割れの内部に空気や水分が残留し、それらが発泡の原因となってエナメル線塗料を塗布焼付けされた平角線の外観を悪くすることがある。
【0005】
よって、本発明は、導体を平角状に圧延するときに生じ得る割れによって皮膜に発泡等の外観不良(以下、「クラック」ともいう。)が発生することを抑制することができるエナメル線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の[1]~[3]のエナメル線の製造方法を提供する。
【0007】
[1]所定の断面を有する導体に対して前記導体の加工応力を緩和するための加熱処理を行う加工応力緩和工程と、前記加熱処理を行った前記所定の断面を有する導体を平角状の導体に圧延する圧延工程と、前記平角状の導体に皮膜を形成してエナメル線にする皮膜形成工程と、を含む、エナメル線の製造方法。
[2]前記加工応力緩和工程は、前記所定の断面が円形状である導体を熱処理する工程であり、前記皮膜形成工程は、前記平角状の導体が平角伸線され、洗浄され、加熱により導体表面が清浄化された後に、前記平角状の導体に皮膜を形成して前記エナメル線にする皮膜形成工程である、前記[1]に記載のエナメル線の製造方法。
[3]前記加工応力緩和工程は、前記平角状の導体の角部に加えられる加工応力を低減するように、前記所定の断面が円形状である導体を加熱する加熱装置を備えており、前記加熱装置は、前記皮膜形成工程に入る前の前記平角状の導体をも加熱する、前記[2]に記載のエナメル線の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエナメル線の製造方法によれば、導体を平角状に圧延するときに生じ得る割れによって皮膜に発泡等の外観不良が発生することを抑制したエナメル線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係るエナメル線の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔エナメル線の製造方法〕
図1は、本発明の実施の形態に係るエナメル線の製造方法の一例を示すフローチャートである。なお、以下では、エナメル線用に供給される心線として、横断面が円形状の導体を用いる場合を例に挙げて説明する。ここで、「横断面」とは、導体の中心線方向(長手方向)と直交する断面をいう。また、本発明の実施の形態において使用される導体の素材には、例えば、銅、銅合金等を使用することができる。
【0011】
(縮径加工工程)
図1に示されるように、本発明の実施の形態に係るエナメル線の製造方法では、まず、横断面が円形状の導体を、例えば、圧延ロールや伸線ダイスに通し、導体に縮径加工を施す(S1)。縮径加工とは、導体をその中心方向に向かって略均一に導体の横断面の直径が縮小するように加工することをいう。つまり、横断面が円形状の導体を縮径加工すると、横断面が円形状の導体の直径が小さくなる。具体的には、一例として、縮径加工により、導体の直径は、約6.3mmから4.0mm以上5.5mm以下に縮小される。なお、縮径加工工程では、縮径加工が施される横断面が円形状の導体として銅荒引き線が使用される。この銅荒引き線は、その表面に皮剥ぎが施されていてもよい。また、縮径加工は、複数の圧延ロールや伸線ダイスを使用して行われることであってもよい。
【0012】
(加工応力緩和工程)
縮径加工工程において縮径加工を行った後の導体あるいは銅荒引き線からなる導体を、例えば、加熱炉に供給し、加工応力を緩和するために加熱炉内で縮径加工後の導体に加熱処理を施す(S2)。加熱炉は、加熱装置の一例である。導体の加熱処理は、例えば、500℃以上、より好ましくは550℃以上600℃以下の温度下で行う。このような温度で加熱処理することにより、導体に内在する加工応力が緩和されるため、当該導体は、加熱処理前の状態と比較して柔軟な状態、すなわち、変形し易い状態となる。換言すれば、加熱処理した導体は、加熱処理前の状態と比較して伸び易い状態となる。具体的には、加熱処理により、導体の引張強さ(N/mm)が小さくなるとともに、破断伸び(%)が大きくなる。
【0013】
加工応力緩和工程における加熱処理は、前述の縮径加工により加工硬化した導体あるいは銅荒引き線からなる導体を所望の硬さまで柔らかくする工程である。つまり、加工応力緩和工程における加熱処理により、導体は、所定の柔らかさ(例えば、引張強さが約240N/mm、破断伸びが40%)を有する状態となる。なお、加工応力緩和工程では、後工程の平角圧延工程において平角状の導体の角部にクラックが生じない柔らかさを有する状態にするとの観点から、加熱処理を行うときの導体の速度を20m/min以下とすることが好ましい。
【0014】
(平角圧延工程)
次に、加工応力緩和工程における加熱処理後の所定の柔らかさを有する導体に平角圧延を施す(S3)。平角圧延には、例えば、圧延ロールを用いることができる。平角圧延とは、厚さと幅とが所定の寸法になるように横断面が円形状の導体の上下及び左右を圧延し、厚さと幅とが所定の寸法(例えば、厚さが2.5mm、幅が4.0mm)からなる横断面が平角状の導体に加工することをいう。平角圧延は、1回のみでなく、例えば、多段圧延機を用いて複数に亘って段階的に行ってもよい。
【0015】
加工応力緩和工程(S2)における加熱処理によって柔軟な状態、すなわち変形し易い状態となった導体に対して平角圧延を施すことにより、圧延時に平角状の導体の角部等に局部的に急激に圧力がかかったとしても、硬い状態の導体(すなわち、加工応力緩和工程(S2)における加熱処理を行っていない導体)に平角圧延を施す場合と比較して導体にかかる加工応力が低減するため、導体にクラックが生ずることを抑制することができる。前述した加工応力緩和工程(S2)における加熱処理の後に平角圧延工程(S3)を連続的に行うことが、平角状の導体の角部に生じ得るクラックの抑制にとって有効である。
【0016】
(平角伸線工程)
次に、導体を、例えば、平角伸線機(例えば、伸線ダイス)に通し、導体に平角伸線を施す(S4)。平角伸線工程(S4)では、平角圧延工程(S3)において平角圧延して横断面が平角状の導線は、平角状の導体を所望の寸法からなる導体(例えば、厚さが2.0mm、幅が3.4mmの導体)に加工される。この工程では、導体を伸線ダイスに円滑に通すために、例えば、エマルジョン系潤滑油を用いることができる。なお、平角伸線における減面率は、一例として、約20%~25%とすることができる。
【0017】
(洗浄工程)
次に、導体を洗浄する(S5)。洗浄に用いる洗浄液には、例えば、水を用いることができる。洗浄工程では、導体を洗浄することにより、前述の平角伸線工程で潤滑油を用いた場合に導体の表面に付着する潤滑油を概ね除去することができる。
【0018】
(導体表面清浄化工程)
次に、導体の表面を清浄化する(以下、「導体表面清浄化」ともいう。)ために洗浄工程において洗浄が行われた導体を加熱処理する(S6)。導体表面清浄化では、前述の洗浄工程で除去しきれなかった潤滑油が、加熱されて分解されることにより除去される。この導体表面清浄化は、加工応力緩和と同様に、例えば、500℃以上の温度で行うことができる。好ましくは、導体表面清浄化は、加工応力緩和を行った加熱炉内で行う。このようにすることにより、2つの加熱炉を設ける必要がなくなるため、設備コストを節約することができる。
【0019】
(皮膜形成工程)
次に、導体の表面に皮膜を形成する(S7)。具体的には、平角状の導体の表面にエナメル線塗料を塗布し、塗布したエナメル線塗料を焼付することにより、平角状の導体を皮膜で被覆してエナメル線にする。エナメル線塗料の焼付は、例えば、硬化炉を備える焼付炉を用いて行うことができる。また、焼付炉は、乾燥炉及び硬化炉を備える焼付炉を用いて行うこともできる。なお、乾燥炉及び硬化炉は、一体として設けてもよく、別体として設けてもよい。導体の表面に皮膜を形成する皮膜形成工程は、一例として、塗料塗布機による導体の表面にエナメル線塗料の塗布する塗布工程、乾燥炉によるエナメル線塗料中の溶剤を蒸発させる蒸発工程(すなわちエナメル線塗料を乾燥させる工程)、及び硬化炉によるエナメル線塗料中の樹脂を硬化させる硬化工程(すなわち皮膜を焼付ける工程)を含む。また、これらの工程は、皮膜が所望の厚さとなるまで繰り返し行ってもよい。
【0020】
エナメル線塗料には、エナメル線の皮膜に使用可能なものであれば特に限定されることなく用いることができる。エナメル線塗料中の溶剤には、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、クレゾール、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、シクロヘキサノン等を用いることができる。また、エナメル線塗料中の樹脂には、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステルイミド等を用いることができる。
【0021】
以上をまとめると、本発明の実施の形態に係るエナメル線の製造方法は、一例として、縮径加工工程と、加工応力緩和工程と、平角圧延工程と、平角伸線工程と、洗浄工程と、導体表面清浄化工程と、皮膜形成工程とをこの順に含む。なお、縮径加工工程は、適宜省略してもよい。
【0022】
前述の各工程は、同一の製造ライン上で実施してもよく、別の製造ライン上で実施してもよい。例えば、平角圧延工程と平角伸線工程との間で製造ラインを切り分け、縮径加工工程、加工応力緩和工程及び平角圧延工程を第1の製造ライン上で実施し、平角伸線工程、洗浄工程、導体表面清浄化工程及び皮膜成形工程を第2の製造ライン上で実施してもよい。
【0023】
(実験結果)
発明者らは、実施例として前述の本発明の実施の形態に係るエナメル線の製造方法で製造したエナメル線と、比較例に係るエナメル線の製造方法で製造したエナメル線とにおいて、発生したクラック数を比較する実験を行った。なお、比較例に係るエナメル線の製造方法として、前述した加工応力緩和工程を有しない工程を採用した。すなわち、実施例に係るエナメル線の製造方法では、横断面が円形状の導体を約6.3mmから約4.5mmに縮径する縮径加工工程と、縮径加工した導体を500℃以上の温度によって加熱処理する加工応力緩和工程と、加工応力緩和工程で加熱処理を行った導体を平角状の横断面に圧延する平角圧延工程と、平角状の導体を伸線ダイスによって伸線する平角伸線工程と、伸線した導体の表面を水によって洗浄する洗浄工程と、洗浄した導体を500℃以上の温度によって表面清浄化する導体表面清浄化工程と、表面清浄化した導体の表面にエナメル線塗料を塗布し焼付することによって皮膜を形成する皮膜形成工程と、をこの順に行い、横断面が平角状の導体上に皮膜を有するエナメル線を製造した。一方、比較例に係るエナメル線の製造方法では、実施例と同様に、縮径加工工程と、平角圧延工程と、平角伸線工程と、洗浄工程と、導体表面清浄化工程と、皮膜形成工程と、をこの順に行い、平角圧延工程の直前に加工応力緩和工程を行わずに、横断面が平角状の導体上に皮膜を有するエナメル線を製造した。
【0024】
両者間において発生したクラックを目視で確認した結果、実施例に係るエナメル線の製造方法で製造したエナメル線で発生したクラック数は、比較例に係るエナメル線の製造方法で製造したエナメル線で発生したクラック数よりも約3割低減したことを確認した。
【0025】
〔本発明の実施の形態の効果〕
本発明の実施の形態によれば、導体に平角圧延を行う直前に導体の加工応力を緩和することにより、変形し易い状態となった柔軟な導体に平角圧延を行うことができ、これにより、圧延時に導体の表面において角部等に局所的に生じ得るクラックの発生を抑制することができる。この結果、導体の表面にクラックが生じている場合に、皮膜形成工程中にこのクラックに空気や水分が混入し、クラックに残留する空気や水分が上述した乾燥工程や硬化工程時に膨張することによって皮膜に発泡等が引き起こされることを抑制することができる。また、導体の表面に生じたクラックにエナメル線塗料が入って膜厚が局部的に厚くなることも抑制することができる。
【0026】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず種々に変形実施が可能である。例えば、本発明の効果を奏する限りにおいて、加工応力緩和工程としては、例えば、導体に所定の量の熱を発生させることによって導体を加熱処理を行う工程であってもよい。
【0027】
また、上記実施の形態に係るエナメル線の製造方法において、皮膜形成工程で用いる各種機器を構成する製造設備のタイプは、縦型に配置されたものでもよく、横型に配置されたものでもよい。
図1