(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】ハイブリッド型超電導バルク磁石装置
(51)【国際特許分類】
H01F 6/00 20060101AFI20220117BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
H01F6/00 150
G01N24/00 600Q
(21)【出願番号】P 2018005677
(22)【出願日】2018-01-17
【審査請求日】2020-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】藤代 博之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 圭太
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-135487(JP,A)
【文献】特表2009-510477(JP,A)
【文献】特開2005-57219(JP,A)
【文献】特開2016-123802(JP,A)
【文献】特開2016-46278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/00
A61B 5/055
G01N 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状バルク超電導体の内部中心に、
一対の超電導バルクを突き合わせてなる、磁場を収束させるための形状を有する前記円筒状バルク超電導体とは異なる特性のバルク超電導体磁気レンズを配置し、外部に設置した着磁用超電導マグネットにより前記円筒状バルク超電導体を着磁することにより、前記円筒状バルク超電導体による磁場の捕捉現象と、前記バルク超電導体磁気レンズによる磁気収束効果を組み合わせ、印加磁場より大きな磁場を発生させ、かつ、前記着磁用超電導マグネットによる磁場印加をゼロにした後も
、前記円筒状バルク超電導体に残存する捕捉磁場により、印加磁場より大きな磁場を持続的に発生できるようにしたことを特徴とするハイブリッド型超電導バルク磁石装置。
【請求項2】
前記円筒状バルク超電導体がMgB
2からなり、前記バルク超電導体磁気レンズがREBaCuO(REは希土類元素またはY)からなることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド型超電導バルク磁石装置。
【請求項3】
前記円筒状バルク超電導体および前記バルク超電導体磁気レンズがそれぞれREBaCuO(REは希土類元素またはY)からなることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド型超電導バルク磁石装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導バルクを用いて高磁場を発生するハイブリッド型超電導バルク磁石装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導磁石は永久磁石に比べ、非常に高い磁場を発生することができ、従来は超電導コイル磁石が一般的であったが、最近では超電導バルクを用いた超電導磁石の開発がなされている。この超電導バルクを用いた超電導磁石は、超電導コイル磁石よりもコンパクトであり、比較的小さな空間に大きな磁場を発生する用途に適している。
【0003】
超電導バルクを用いた超電導磁石として、磁気レンズ効果を利用し、磁束の誘導方向の適所に磁束を収束させるバルク超電導体磁気レンズが提案されている(特許文献1等)。
【0004】
図1(a)に、従来のバルク超電導体磁気レンズを用いた超電導磁石装置の一例を示す。この超電導磁石装置1は、一対の超電導バルクを突き合わせてなるバルク超電導体磁気レンズ2から構成され、外部に配置される着磁用超電導コイル磁石3により着磁用磁場(印加磁場B
app)が印加されるようになっている。例えば、超電導バルクとしては、GdBaCuOが用いられ、超電導コイルとしては、NbTiが用いられる。
【0005】
この超電導磁石装置1は、着磁用超電導コイル磁石3が作る磁場を、磁気シールド効果を用いて内部に設けたバルク超電導体磁気レンズ2により収束し、磁場増幅率(印加磁場に対する発生磁場の比)が
図1(b)に示すように1より大きくなる高磁場B
cを発生させるものである。現状では、外部磁場B
app=8Tのもとで、バルク超電導体磁気レンズ2内で12.4Tの磁場収束が実現している(非特許文献1)。
【0006】
しかしながら、このような従来の超電導磁石装置1では、磁場収束効果は外部磁場B
appをゼロにすると磁気レンズ効果が失われるため、着磁用超電導コイル磁石3が励磁されている状態(
図1(b)の点線の矢印で示す)だけ有効となっているに過ぎなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-135487号公報(特許第5158799号公報)
【非特許文献】
【0008】
【文献】Z. Y. Zhang et al., 2012 Supercond. Sci. Technol. 25 115012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような従来技術の問題点を解決し、印加磁場より大きな磁場を発生でき、しかも、印加磁場をゼロにした後も、印加磁場より大きな磁場を持続的に発生することができる新規な超電導バルク磁石装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記課題を解決するため、以下の発明が提供される。
【0011】
〔1〕円筒状バルク超電導体の内部中心に、一対の超電導バルクを突き合わせてなる、磁場を収束させるための形状を有する前記円筒状バルク超電導体とは異なる特性のバルク超電導体磁気レンズを配置し、外部に設置した着磁用超電導マグネットにより前記円筒状バルク超電導体を着磁することにより、前記円筒状バルク超電導体による磁場の捕捉現象と、前記バルク超電導体磁気レンズによる磁気収束効果を組み合わせ、印加磁場より大きな磁場を発生させ、かつ、前記着磁用超電導マグネットによる磁場印加をゼロにした後も、前記円筒状バルク超電導体に残存する捕捉磁場により、印加磁場より大きな磁場を持続的に発生できるようにしたことを特徴とするハイブリッド型超電導バルク磁石装置。
【0012】
〔2〕上記第1の発明において、前記円筒状バルク超電導体がMgB2からなり、前記バルク超電導体磁気レンズがREBaCuO(REは希土類元素またはY)からなることを特徴とするハイブリッド型超電導バルク磁石装置。
【0013】
〔3〕上記第1の発明において、前記円筒状バルク超電導体および前記バルク超電導体磁気レンズがそれぞれREBaCuO(REは希土類元素またはY)からなることを特徴とするハイブリッド型超電導バルク磁石装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記構成を採用したので、印加磁場より大きな磁場を発生でき、しかも、印加磁場をゼロにした後も、印加磁場より大きな磁場を持続的に発生することができる新規なハイブリッド超電導バルク磁石装置を提供することが可能となる。
【0015】
本発明のハイブリッド超電導バルク磁石装置は、有害物質を磁気力により分離する磁気分離等の環境浄化分野、小型・高効率モーター・発電機等のエネルギー分野や、核磁気共鳴(NMR)装置等の医療分野などに利用することができる。また、これまでの超電導バルク磁石装置ではできなかった「物質の分離・精製」や、「電子・イオンビーム収束」などの計測・高エネルギー物理分野へも応用することが可能である。
【0016】
本発明は日本に数百台設置されている10T超電導マグネットを用いて、比較的容易に15T級の強磁場を持続的に実現できる可能性が有り、このメリットやインパクトは大きい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】従来のバルク超電導体磁気レンズを用いた超電導磁石装置の一例を示す図である。
【
図2】本発明によるハイブリッド型超電導バルク磁石装置の一例を示す図である。
【
図3】本発明の超電導バルク磁石装置の各部の寸法例を示す図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係るハイブリッド型超電導バルク磁石装置の一例を示す図である。
【
図5】増磁過程および減磁過程での中心軸(x軸)上での磁場分布を示す図である。
【
図6】磁気レンズ中心での発生磁場のステップ依存性を示す図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る超電導バルク磁石装置の磁化プロセスにおける個別温度制御を説明するための図である。
【
図8】増磁過程および減磁過程での中心軸(x軸)上での磁場分布を示す図である。
【
図9】印加磁場B
appが3T、6T、10Tの場合の各ステップ(ステップ0~10)における外部磁場B
exと発生磁界(中心磁界)B
Hとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図2(a)に、本発明によるハイブリッド型超電導バルク磁石装置(以下、単に超電導バルク磁石装置とも称する)11の一例を示す。この超電導バルク磁石装置11は、一対の超電導バルクを突き合わせてなるバルク超電導体磁気レンズ12が、円筒状バルク超電導体13の内部中心に配置されて構成され、外部に配置される着磁用超電導マグネット14により着磁用磁場(印加磁場B
app)が印加されるようになっている。バルク超電導体磁気レンズ12は、
図2(a)に示すように、磁場を収束させるための形状となっており、その特性は円筒状バルク超電導体13の特性とは異なっている。バルク超電導体磁気レンズ12の超電導バルクとしては、例えばREBaCuO(REは希土類元素またはY)が用いられ、円筒状バルク超電導体13の超電導バルクとしては、例えばMgB
2またはREBaCuO(REは希土類元素またはY)が用いられ、着磁用超電導マグネット14としては、例えばNbTiからなるソレノイド型コイルまたはスプリット型コイルが用いられる。上記REBaCuOとしては、特にGdBaCuOが好ましい。
【0020】
この超電導バルク磁石装置11は、着磁用超電導マグネット14により円筒状バルク超電導体13を着磁することにより、円筒状バルク超電導体13による磁場の捕捉現象と、バルク超電導体磁気レンズ12による磁気収束効果を組み合わせることにより、
図2(b)に示すように、印加磁場B
appより大きな磁場B
cを発生させ、かつ、着磁用超電導マグネット14による磁場印加をゼロにした後に印加磁場B
appより大きな磁場B
cを持続的に発生できるようになる。
【0021】
ここで、
図3に、本発明の超電導バルク磁石装置11の各部の寸法例を示す。図示のように、本発明の超電導バルク磁石装置11は、非常にコンパクトであり、比較的小さな空間に大きな磁場を発生する用途に適するものとなる。
【0022】
次に、本発明の第1の実施形態の超電導バルク磁石装置について説明する。本実施形態では、バルク超電導体磁気レンズ12の超電導バルクとしてGdBaCuOを用い、円筒状バルク超電導体13の超電導バルクとしてMgB2を用い、着磁用超電導マグネット14としてNbTiからなる超電導ソレノイド型コイルを用いる。ここでは、GdBaCuOを用いたバルク超電導体磁気レンズ12をGdBaCuOレンズ12、 MgB2を用いた円筒状バルク超電導体13をMgB2円筒13と略記する。
【0023】
本実施形態の超電導バルク磁石装置11の各部は、
図3に示す形状、大きさとすることができる。
【0024】
本実施形態の超電導バルク磁石装置11の磁化プロセスを
図4に示す。この磁化プロセスは、
図4及び下記に示す(1)~(5)の時間シーケンスをとる。B
appは3Tとした。
【0025】
(1)MgB2円筒13とGdBaCuOレンズ12は、室温からTH=40Kに冷却される。このTHはMgB2の超電導転移温度Tc=39Kより高いが、GdBaCuOの超電導転移温度Tc=92Kよりも低い。従って、この段階では、MgB2円筒13は常電導状態にあり、GdBaCuOレンズ12は超電導状態にある(ステップ0)。
【0026】
(2)外部磁場Bexは直線的に上昇する。これはGdBaCuOレンズ12のゼロ磁場冷却着磁(ZFCM)に対応するBappまでの5ステップ(ステップ1~5)にわたって行われる。磁気レンズ12によるシールド効果のためにBappよりも本質的に高い磁場Bcは、MgB2円筒13を完全に貫通し、磁場は磁気レンズの中心に収束する。
【0027】
(3)MgB2円筒13とGdBaCuOレンズ12の両方の温度は、MgB2のTcよりも低いTL=20Kまで低下する。
【0028】
(4)外部磁場Bexは直線的に減少し、5ステップ(ステップ6~10)で0となる。このプロセス中、MgB2円筒13は磁場中冷却着磁(FCM)によって磁化され、磁束はMgB2円筒13内に捕捉される。磁場収束効果は、外部磁場Bexの減少によりわずかに減少するが、MgB2円筒13内に捕捉された磁場が存在するため、GdBaCuOレンズ12の中心にある中心磁場Bcはまだ残っている。
【0029】
(5)結果として、外部磁場Bex=0の後であっても、Bappより高い磁場Bcを確実に発生できる超電導バルク磁石が実現する。
【0030】
図5に、増磁過程および減磁過程での中心軸(x軸)上での磁場分布、
図6に、磁気レンズ中心での発生磁場のステップ依存性を示す。
【0031】
次に、本発明の第2の実施形態の超電導バルク磁石装置について説明する。本実施形態では、バルク超電導体磁気レンズ12の超電導バルクとしてGdBaCuOを用い、円筒状バルク超電導体13の超電導バルクとして同じGdBaCuOを用い、着磁用超電導マグネット14としてNbTiからなる超電導ソレノイド型コイルを用いる。ここでは、GdBaCuOを用いたバルク超電導体磁気レンズ12をGdBaCuOレンズ12、 GdBaCuOを用いた円筒状バルク超電導体13をGdBaCuO円筒13と略記する。
【0032】
本実施形態の超電導バルク磁石装置11の各部も、
図3に示す形状、大きさとすることができる。
【0033】
本実施形態の超電導バルク磁石装置11の磁化プロセスでは、
図7に示すように、GdBaCuOレンズ12とGdBaCuO円筒13の温度を個別に制御する必要がある。図中、
破線がGdBaCuO円筒13の温度、
実線がGdBaCuOレンズ12の温度を示す。B
appは10Tである。
【0034】
この場合も、印加磁場B
exと発生磁場B
cの関係は
図4と同様な傾向となる。
【0035】
この磁化プロセスの時間シーケンスは下記の(1)~(5)となる。
【0036】
(1)GdBaCuO円筒13は100Kに維持され、GdBaCuOレンズ12はTH=40Kまで冷却される。従って、この段階では、GdBaCuO円筒13は常電導状態にあり、GdBaCuOレンズ12は超電導状態にある(ステップ0)。
【0037】
(2)外部磁場BexはBappまで5ステップ(ステップ1~5)にわたって直線的に増加し、Bappと等しい磁場がGdBaCuO円筒13を完全に貫通し、磁場は磁気レンズの中心に収束するが、GdBaCuOレンズ12はゼロ磁場冷却(ZFC)により着磁される。
【0038】
(3)GdBaCuO円筒13とGdBaCuOレンズ12の両方の温度は、TL=20Kまで低下する。
【0039】
(4)外部磁場Bexは直線的に減少し、5ステップ(ステップ6~10)で0となる。このプロセス中、GdBaCuO円筒13は磁場中冷却着磁(FCM)によって磁化され、磁束はGdBaCuO円筒13内に捕捉される。磁場収束効果は、外部磁場Bexの減少によりわずかに減少するが、GdBaCuO円筒13内に捕捉された磁場が存在するため、GdBaCuOレンズ12の中心にある中心磁場Bcはまだ残っている。
【0040】
(5)結果として、外部磁場Bex=0の後であっても、Bappより高い磁場Bcを確実に発生できる超電導バルク磁石が実現する。
【0041】
図8に、増磁過程および減磁過程での中心軸(x軸)上での磁場分布を示す。
【0042】
また、
図9に、B
app=3T、6T、10Tの場合の各ステップ(ステップ0~10)における外部磁場B
exと発生磁界(中心磁界)B
cとの関係を示す。いずれも磁場印加を停止した後も磁場を持続的に発生することができた。また、実施形態1の超電導バルク磁石装置についても同様な傾向が得られた。
【符号の説明】
【0043】
11 超電導バルク磁石装置
12 バルク超電導体磁気レンズ
13 円筒状バルク超電導体
14 着磁用超電導マグネット