(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】電子受容性化合物及び電荷輸送膜用組成物、それを用いた発光素子
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20220117BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C07F5/02 A CSP
H05B33/14 A
H05B33/22 D
(21)【出願番号】P 2018009129
(22)【出願日】2018-01-23
(62)【分割の表示】P 2017568464の分割
【原出願日】2017-03-23
【審査請求日】2020-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2016060764
(32)【優先日】2016-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五郎丸 英貴
(72)【発明者】
【氏名】岡部 一毅
(72)【発明者】
【氏名】飯田 宏一朗
(72)【発明者】
【氏名】梅基 友和
(72)【発明者】
【氏名】坂東 祥匡
(72)【発明者】
【氏名】石橋 孝一
(72)【発明者】
【氏名】梶山 良子
(72)【発明者】
【氏名】安部 智宏
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-7684(JP,A)
【文献】国際公開第01/47852(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/089024(WO,A1)
【文献】特表2011-525918(JP,A)
【文献】特開2009-295974(JP,A)
【文献】特開平10-60034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/02
H01L 51/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン化合物である電子受容性化合物であって、
前記イオン化合物は、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルとイオン対を形成する対アニオンを有し、
前記対アニオンの分子量は、700以上6000以下であり、
前記対アニオンが架橋基を有
し、
前記対アニオンが下記式(6)で表され、
前記イオン化合物の対カチオンが、ヨードニウムカチオン、スルホニウムカチオン、カルボカチオン、オキソニウムカチオン、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプチルトリエニルカチオン及び遷移金属を有するフェロセニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも一つである、電子受容性化合物。
【化1】
(式(6)中、Arは、各々独立に置換基を有していてもよい芳香環基またはフッ素置換されたアルキル基であり、
Arの少なくとも一つは、以下の架橋基群Z、下記一般式(7)または下記一般式(8)から選ばれる架橋基を有し、
F
4
はフッ素原子が4個置換していることを表し、
F
(5-a)
はフッ素原子が5-a個置換していることを表し、
kは各々独立に0~5の整数を表し、
aは各々独立に0~5の整数を表し、
k+a≧1である。)
[架橋基群Z]
【化2】
(式(Z-1)~(Z-7)中のアスタリスク(*)は結合手を示し、
これらはさらに置換基として、炭素数30以下の環状・非環状の脂肪族由来の基、炭素数30以下のアリール基、炭素数30以下のアルキルオキシ基、または炭素数30以下のアラルキル基を有していてよい。)
【化3】
(式(7)及び式(8)中、アスタリスク(*)は結合手を表し、
これら式(7)、式(8)は置換基として、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、1~5の芳香環からなる芳香環基、炭化水素環基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルケトン基またはアリールケトン基を有していてもよく、隣り合う置換基同士が結合して、環を形成してもよく、これらの置換基はさらに、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記式(6)中、Arが各々独立に置換基を有していてもよい芳香環基であり、kが0であり、aが1である、請求項
1に記載の電子受容性化合物。
【請求項3】
前記式(6)中、Arがフッ素原子を置換基として4以上有する、請求項
1又は
2に記載の電子受容性化合物。
【請求項4】
前記式(6)中、Arの少なくとも一つが下記式(3)で表される、請求項
1~
3のいずれか1項に記載の電子受容性化合物。
【化4】
(式(3)中、Ar
7は置換基であり、F
4はフッ素原子が4個置換していることを表す。)
【請求項5】
前記式(3)中、Ar
7が下記式(4)で表される、請求項
4に記載の電子受容性化合物。
【化5】
【請求項6】
前記電子受容性化合物の対カチオンが下記式(5)で表される、請求項1~
5のいずれか1項に記載の電子受容性化合物。
【化6】
(式(5)中、Ar
8、Ar
9は、置換基を表す。)
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の電子受容性化合物と、正孔輸送性化合物とを含む、組成物。
【請求項8】
前記正孔輸送性化合物が、芳香族三級アミン化合物である、請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
前記正孔輸送性化合物が、芳香族三級アミン高分子化合物である、請求項
8に記載の組成物。
【請求項10】
前記芳香族三級アミン高分子化合物が、下記式(11)で表される繰り返し単位、下記式(15)で表される繰り返し単位、及び下記式(16)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも一つを有する、請求項
9に記載の組成物。
【化7】
(式(11)中、j、k、l、m、n、pは、各々独立に、0以上の整数を表し、
l+m≧1であり、
Ar
11、Ar
12、Ar
14は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数
30以下の2価の芳香環基を表し、
Ar
13は、置換基を有していてもよい炭素数30以下の2価の芳香環基または下記式(12)で表される2価の基を表し、
Q
11、Q
12は、各々独立に、酸素原子、硫黄原子、置換基を有していてもよい炭素数6以下の炭化水素鎖を表し、
S
1~S
4は、各々独立に、下記式(13)で表される基である。)
【化8】
(式(12)中、R
11は、アルキル基、芳香環基または炭素数40以下のアルキル基と芳香環基からなる3価の基を表し、これらは置換基を有していてもよく、
R
12は、アルキル基、芳香環基または炭素数40以下のアルキル基と芳香環基からなる2価の基を表し、これらは置換基を有していてもよく、
Ar
31は、1価の芳香環基、又は
、以下の架橋基群Z、下記一般式(7)または下記一般式(8)から選ばれる1価の架橋基を表し、これらの基は置換基を有していてもよく、
アスタリスク(*)は式(11)の窒素原子との結合手を示す。)
【化9】
(式(13)中、q、rは、0以上の整数を表し、
Ar
21、Ar
23は、それぞれ独立に、2価の芳香環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよく、
Ar
22は置換基を有していてもよい1価の芳香環基を表し、
R
13は、アルキル基、芳香環基またはアルキル基と芳香環基からなる2価の基を表し、これらは置換基を有していてもよく、
Ar
32は1価の芳香環基又は
、ベンゾシクロブテン環、ナフトシクロブテン環もしくはオキセタン環由来の基、ビニル基またはアクリル基から選ばれる1価の架橋基を表し、これらの基は置換基を有していてもよく、
アスタリスク(*)は式(11)の窒素原子との結合手を示す。)
【化10】
(式(15)、式(16)中、Ar
45、Ar
47及びAr
48は各々独立して、置換基を有していてもよい1価の芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい1価の芳香族複素環基を表し、
Ar
44及びAr
46は各々独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表し、
R
41~R
43は各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表わす。)
[架橋基群Z]
【化11】
(式(Z-1)~(Z-7)中のアスタリスク(*)は結合手を示し、
これらはさらに置換基として、炭素数30以下の環状・非環状の脂肪族由来の基、炭素数30以下のアリール基、炭素数30以下のアルキルオキシ基、または炭素数30以下のアラルキル基を有していてよい。)
【化12】
(式(7)及び式(8)中、アスタリスク(*)は結合手を表し、
これら式(7)、式(8)は置換基として、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、1~5の芳香環からなる芳香環基、炭化水素環基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルケトン基またはアリールケトン基を有していてもよく、隣り合う置換基同士が結合して、環を形成してもよく、これらの置換基はさらに、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項11】
前記電子受容性化合物の架橋基の架橋開始温度と、前記正孔輸送性高分子化合物の架橋基の架橋開始温度とが異なる、請求項
7~
10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記電子受容性化合物の架橋基の架橋開始温度と、前記正孔輸送性高分子化合物の架橋基の架橋開始温度の内、高い方の架橋開始温度をTH(℃)、低い方の架橋開始温度をTL(℃)とした場合、THとTLの関係が、
TH-TL≧10
である、請求項
7~
11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
さらに溶媒を含有する請求項
7~
12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記溶媒がエーテル系溶媒及びエステル系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含有する、請求項
13に記載の組成物。
【請求項15】
有機電界発光素子の正孔注入層に用いられる、請求項
7~
14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
請求項
7~
15のいずれか1項に記載の組成物を塗布乾燥して膜を形成する工程を有する、成膜方法。
【請求項17】
請求項
7~
15のいずれか1項に記載の組成物を塗布乾燥後、加熱処理を行って膜を形成する工程を有する成膜方法であって、
前記電子受容性化合物の架橋基の架橋開始温度と、前記電荷輸送性高分子化合物の架橋基の架橋開始温度の、高い方の架橋開始温度をTH(℃)、低い方の架橋開始温度をTL(℃)、前記加熱処理時の温度をTB(℃)とした場合、
TH、TLおよびTLの関係が、
TH-TL≧10かつ、
TL<TBである、成膜方法。
【請求項18】
前記膜が、電気エネルギーにより発光する有機電界発光素子の正孔注入層であり、
前記有機電界発光素子が、陽極と陰極の間に前記正孔注入層、発光層を有する、請求項
16または
17に記載の成膜方法。
【請求項19】
陽極と陰極の間に正孔注入層、発光層を有する、電気エネルギーにより発光する有機電界発光素子の製造方法であって、
前記正孔注入層が請求項
18に記載の成膜方法にて成膜された層である、有機電界発光素子の製造方法。
【請求項20】
陽極と陰極の間に正孔注入層、発光層を有し、電気エネルギーにより発光する有機電界発光素子であって、
前記正孔注入層が請求項
18記載の成膜方法にて成膜された層である、有機電界発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子受容性化合物及び電荷輸送膜用組成物、それを用いた電荷輸送膜及び有機電界発光素子に関する。詳しくは、耐熱性に優れ、低電圧で駆動可能な有機電界発光素子を得ることができる、優れた電荷輸送膜用組成物及び電子受容性化合物に関するとともに、それを用いた電荷輸送膜及びその製造方法に関し、更には、それを用いた有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電界発光(electroluminescence:EL)素子としては、ZnS等の無機材料に代わり、有機材料を用いた電界発光素子(有機電界発光素子)の開発が行われている。有機電界発光素子において、その発光効率の高さは重要な要素の1つであるが、発光効率については、芳香族アミン化合物を含む正孔輸送層と、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体からなる発光層とを設けた有機電界発光素子により、大幅に改善された。
しかしながら、発光効率は改善されたとはいえ、有機電界発光素子の需要拡大に向けた大きな課題は、駆動電圧の低下である。例えば、携帯機器の表示素子ではバッテリーからの低電圧駆動が要請され、また、携帯用途以外の一般的用途においても、駆動IC(Integrated Circuit)のコストは駆動電圧に依存し、駆動電圧が低い方が低コストになる。また、連続駆動時に徐々に駆動電圧が上昇していくことも、表示素子の安定した表示特性を維持する上で大きな課題となっている。
【0003】
これらの課題を解決するために、正孔輸送性化合物に各種の電子受容性化合物を混合して用いる試みがなされている。正孔輸送性化合物に電子受容性化合物を混合すると、正孔輸送性化合物から電子受容性化合物へ電子が移動し、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと電子受容性化合物由来の対アニオンからなる電荷輸送性イオン化合物が生成する。
例えば、特許文献1には、正孔輸送性高分子化合物に、電子受容性化合物としてトリス(4-ブロモフェニルアミニウムヘキサクロロアンチモネート)(tris (4-bromophenyl aminiumhexachloroantimonate):TBPAH)を混合することで、低電圧駆動が可能な有機電界発光素子が得られることが開示されている。具体的には、特許文献1に記載のTBPAHを電子受容性化合物に用いた場合、対アニオンはSbCl6
-である。
【0004】
また、特許文献2には、正孔輸送性化合物に、電子受容性化合物として塩化鉄(III)(FeCl3)を真空蒸着法により混合して用いることが開示されている。特許文献2に記載のFeCl3を電子受容性化合物に用いた場合、対アニオンはCl-(若しくはFeCl4
-)である。
また、特許文献3には、正孔輸送性高分子化合物に、電子受容性化合物としてトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(tris (pentafluorophenyl)borane:PPB)を、湿式成膜法により混合して正孔注入層を形成することが開示されている。特許文献3に記載のPPBを電子受容性化合物として用いた場合、対アニオンは下記式(I)に示されるアニオンラジカルである。
【0005】
【0006】
なお、アニオンラジカルとは不対電子と負電荷を有する化学種である。また、負電荷は分子全体に広がっていると考えられるが、上の式では最も寄与が大きいと考えられる共鳴構造を示した。
また、特許文献4には、光起電力装置(有機太陽電池)の電荷輸送膜の成分として、アミニウムカチオンラジカルと、SbF6
-又はBF4
-からなるイオン化合物を用いることが開示されている。
【0007】
また、特許文献5には、導電性被膜(電荷輸送膜)の成分として、アミニウムカチオンラジカルと対アニオンからなるイオン化合物を用いることが開示され、対アニオンとしては、I-などのハロゲン化物イオン、Br3
-などのポリハロゲン化物イオン、ClO4
-、PO3
-などのオキソ酸イオン、BF4
-、FeCl4
-、SiF6
2-、RuCl6
2-などの中心元素とハロゲンからなるイオン、CF3COO-などのカルボン酸イオン、CF3SO2O-などのスルホン酸イオン、(CF3SO3)4Al-などのスルホン酸イオン由来のアート錯体、C60
-、C60
2-、B12H12
2-が例示されている。
【0008】
また、アミニウムカチオンラジカルと対アニオンからなるイオン化合物は、近赤外領域に吸収を持つことから、特許文献6には、赤外線カットフィルター用途に用いることが開示されており、対アニオンとしては、テトラフェニルホウ酸イオンが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】日本国特開平11-283750号公報
【文献】日本国特開平11-251067号公報
【文献】日本国特開2003-31365号公報
【文献】日本国特開2003-197942号公報
【文献】米国特許第5853906号明細書
【文献】日本国特開2000-229931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、上述した文献には以下のような問題点があることがわかった。特許文献1に記載されたTBPAHは、耐熱性が低く、蒸着時に熱分解するため、共蒸着による正孔注入層の形成には不適当である。このため、通常は湿式成膜法により正孔輸送性化合物と混合されるが、溶解性が低いため、湿式成膜法にも適さないという課題を有している。更に、TBPAHは電子受容性が小さいため、正孔輸送性化合物に混合して用いても、駆動電圧の低下には限界がある。また、TBPAHはアンチモン原子を含むため強い毒性を有し、好ましくない。
【0011】
また、特許文献2に記載されたFeCl3は、腐食性を有し、真空蒸着装置にダメージを与えるので好ましくない。また、有機電界発光素子の陽極として一般的に用いられるITO(インジウム・スズ酸化物)は、その表面粗さが10nm程度の粗さ(Ra)を有するのに加えて、局所的に突起を有することが多く、短絡欠陥を生じ易いという課題があるため、陽極の上に形成される正孔注入層は湿式成膜法により形成することが好ましいが、FeCl3は溶媒への溶解性が極めて低く、湿式成膜法にも適さない。
【0012】
更に、前述のTBPAH又はFeCl3を電子受容性化合物に用いた場合、生成するイオン化合物の対アニオンは、SbCl6
-又はCl-(若しくはFeCl4
-)であり、負電荷が局在しているため、正孔輸送性化合物のラジカルカチオンと強く相互作用し、正電荷が移動しにくく、駆動電圧が十分に低下しない。
また、特許文献4又は特許文献5に記載の、対アニオンがI-などのハロゲン化物イオン、Br3
-などのポリハロゲン化物イオン、ClO4
-、PO3
-などのオキソ酸イオン、BF4
-、FeCl4
-、SiF6
2-、RuCl6
2-などの中心元素とハロゲンからなるイオン、CF3COO-などの対アニオンがカルボン酸イオン、CF3SO2O-などのスルホン酸イオンのいずれかである、アミニウムカチオンラジカルと対アニオンからなるイオン化合物を有機電界発光素子の正孔注入層の成分として用いた場合にも、負電荷が局在しているため、アミニウムカチオンラジカルと強く相互作用し、正電荷が移動しにくく、駆動電圧が十分に低下しないと考えられる。
【0013】
また、特許文献3に記載されたPPBは、耐熱性が低く、PPBを含む有機電界発光素子は耐熱性が低く、実用特性を満たしていない。更に、PPBは昇華性が非常に高いことから、PPBを含む正孔注入層を湿式成膜法により形成する際に、例えば120℃以上の高温で加熱乾燥を行うと、該化合物が気化してしまうため、例えば120℃未満で加熱乾燥したときに比べて、得られる有機電界発光素子の駆動電圧が上昇してしまうという課題がある。特に、有機電界発光素子の製造においては、製造工程の簡便性及び素子特性の安定性の面から、より高温、例えば200℃以上での加熱乾燥に耐え得る正孔注入層が求められているが、この点でもPPBは好ましくない。また、PPBはその非常に高い昇華性のため、共蒸着時の濃度制御が困難であり、正孔輸送材料との共蒸着による正孔注入層の形成にも不適当である。
【0014】
更に、特許文献3に記載のPPBを電子受容性化合物として用いた場合、生成する電荷輸送性イオン化合物の対アニオンは前述のアニオンラジカルであるため、オクテット則を満たしていなく、熱力学的にも電気化学的にも不安定であり、塗布液(組成物)及び素子特性の耐熱性を含めた安定性に問題がある。
また、特許文献5に記載の、対アニオンがCF3COO-などのカルボン酸イオン、CF3SO2O-などのスルホン酸イオン、(CF3SO3)4Al-などのスルホン酸イオン由来のアート錯体、C60
-、C60
2-、B12H12
2-のいずれかであり、アミニウムカチオンラジカルをカチオンとするイオン化合物を、有機電界発光素子の正孔注入層の成分として用いた場合にも、対アニオンの構造から、熱力学的及び/又は電気化学的安定性に乏しく、塗布液(組成物)及び素子特性の耐熱性を含めた安定性が十分でないと考えられる。
【0015】
そこで、本発明は、上述の課題に鑑みてなされたもので、その目的は、耐熱性に優れるとともに高い正孔注入・輸送能を有し、低電圧、高効率で駆動可能であり、耐熱性を含めた駆動安定性に優れた有機電界発光素子を得ることができる、優れた電子受容性化合物及び電荷輸送膜用組成物を提供することである。また、低電圧、高効率で駆動可能であり、耐熱性を含めた駆動安定性に優れた有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは鋭意検討した結果、電子受容性化合物として、特定の構造を有するイオン化合物を、電荷輸送性化合物と混合して用いることにより、耐熱性に優れるとともに高い正孔注入・輸送能を有する電荷輸送膜用組成物を得ることができ、更にこの組成物を用いることにより、低電圧、高効率で駆動可能な有機電界発光素子を得ることが可能となり、上記課題を効果的に解決できることを見出した。
【0017】
また、本発明者らは鋭意検討した結果、架橋基を有する電子受容性化合物を、電荷輸送性化合物と混合して用いることにより、耐熱性に優れるとともに高い正孔注入・輸送能を有する電荷輸送膜用組成物を得ることができ、更にこの組成物を用いることにより、低電圧、高効率で駆動可能な有機電界発光素子を得ることが可能となり、上記課題を効果的に解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明の要旨は以下の通りである。
[1]下記式(1)の構造を有する電子受容性化合物。
【0019】
【0020】
(式(1)中、Arは各々独立に置換基を有していてもよい芳香環基またはフッ素置換されたアルキル基であり、F4はフッ素原子が4個置換していることを表し、F(5-a)はフッ素原子が5-a個置換していることを表し、kは各々独立に0~5の整数を表し、aは各々独立に0~5の整数を表し、k+a≧1であり、X+は下記式(2)の構造を有する対カチオンを表す。
【0021】
【0022】
(式(2)中、Ar5、Ar6は置換基を有していてもよい各々独立の芳香環基である。))
[2]前記kが0であり、前記aが1であり、かつ、前記Arが、各々独立に置換基を有していてもよい芳香環基である、前記[1]に記載の電子受容性化合物。
[3]前記式(1)のArが、フッ素原子を置換基として4以上有する、前記[2]に記載の電子受容性化合物。
[4]前記式(1)のArが、下記式(3)で表される、前記[1]~[3]のいずれか1に記載の電子受容性化合物。
【0023】
【0024】
(式(3)中、Ar7は置換基であり、F4はフッ素原子が4個置換していることを表す。)
[5]前記式(3)のAr7が下記式(4)で表される、前記[4]に記載の電子受容性化合物。
【0025】
【0026】
[6]前記式(2)が下記式(5)で表される、前記[1]~[5]のいずれか1に記載の電子受容性化合物。
【0027】
【0028】
(式(5)中、Ar8、Ar9は、置換基を表す。)
[7]前記式(1)のArの少なくとも一つが架橋基を有する、前記[1]~[6]のいずれか1に記載の電子受容性化合物。
[8]前記[1]~[7]のいずれか1に記載の電子受容性化合物と、正孔輸送性化合物とを含有する電荷輸送膜用組成物。
[9]前記正孔輸送性化合物が、芳香族三級アミン化合物である、前記[8]に記載の電荷輸送膜用組成物。
[10]さらに溶媒を含有する前記[8]または前記[9]に記載の電荷輸送膜用組成物。
[11]前記溶媒がエーテル系溶媒及びエステル系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含有する、前記[10]に記載の電荷輸送膜用組成物。
[12]有機電界発光素子の正孔注入層に用いられる、前記[8]~[11]のいずれか1に記載の電荷輸送膜用組成物。
[13]陽極と陰極の間に正孔注入層、発光層を有し、電気エネルギーにより発光する有機電界発光素子であって、前記正孔注入層が、前記[8]~[12]のいずれか1に記載の電荷輸送膜用組成物を塗布乾燥して成膜した層である有機電界発光素子。
[14]前記[13]に記載の有機電界発光素子を用いたディスプレイ。
[15]前記[13]に記載の有機電界発光素子を用いた照明装置。
[16]前記[13]に記載の有機電界発光素子を用いた発光装置。
[17]架橋基を有する電子受容性化合物であって、該電子受容性化合物がイオン化合物であり、該イオン化合物の対アニオンが架橋基を有する、電子受容性化合物。
[18]電子受容性化合物と、電荷輸送性化合物とを含む電荷輸送膜用組成物であって、該電子受容性化合物がイオン化合物であり、該イオン化合物の対アニオンが架橋基を有する、電荷輸送膜用組成物。
[19]イオン化合物である電子受容性化合物の対アニオンと、電荷輸送性化合物のカチオンラジカルからなる電荷輸送性イオン化合物を含む電荷輸送膜用組成物であって、該電子受容性化合物の対アニオンが架橋基を有する、電荷輸送膜用組成物。
【発明の効果】
【0029】
本発明の電荷輸送膜用組成物は、電荷輸送性化合物とともに、本発明の電子受容性化合物を含有する。これによって、形成された電荷輸送膜は優れた耐熱性と高い正孔注入・輸送能を発揮する。
また、本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極又は発光層との間に存在する層に、上述の電子受容性化合物を含有する。これによって、優れた耐熱性を発揮するとともに、低電圧・高効率での駆動が可能となり、駆動安定性に優れる。
【0030】
本発明に係る電荷輸送性イオン化合物は、電荷輸送性化合物のカチオンラジカルと、本発明の電子受容性化合物の対アニオンからなる。本発明の電子受容性化合物の対アニオンは熱力学的にも電気化学的にも安定であるため、本発明の電荷輸送性イオン化合物は、耐熱性、電気化学的耐久性に優れる。また、本発明の電子受容性化合物の対アニオンは負電荷が非局在化しているため、カチオンとの相互作用が小さく、電荷輸送の妨げになりにくい。
【0031】
本発明の電荷輸送膜用組成物は、上述の電荷輸送性イオン化合物を含有する。これによって、形成された電荷輸送膜は優れた耐熱性、電気化学的耐久性と高い正孔注入・輸送能を発揮する。
本発明の有機電界発光素子は、上述の電荷輸送性イオン化合物を少なくとも含有する層が設けられている。これによって、優れた耐熱性を発揮するとともに、低電圧・高効率での駆動が可能となり、駆動安定性に優れるため、ディスプレイ、照明装置、発光装置等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1(a)~
図1(c)は、本発明の一実施形態に係る有機電界発光素子の構成の例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の架橋基の架橋開始温度の測定法を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
なお、本明細書において、「質量」は「重量」と同義である。
また、式中の丸で囲まれたプラス(+)記号は正電荷を表し、明細書中では「+」で示し、同様に式中の丸で囲まれたマイナス(-)記号は負電荷を表し、明細書中では「-」で示す。
【0034】
〔I.電子受容性化合物〕
電子受容性化合物とは、ある化合物から電子を引き抜いてその化合物を酸化し、自身は還元される化合物のことを言う。本発明の電子受容性化合物は、イオン化合物であり、具体的には、下記一般式(1)で表わされる非配位性アニオンである対アニオンと対カチオンからなるイオン化合物である。
【0035】
【0036】
式(1)中、Arは各々独立に置換基を有していてもよい芳香環基またはフッ素置換されたアルキル基であり、
F4はフッ素原子が4個置換していることを表し、
F(5-a)はフッ素原子が5-a個置換していることを表し、
kは各々独立に0~5の整数を表し、
aは各々独立に0~5の整数を表し、
k+a≧1であり、
X+は下記式(2)の構造を有する対カチオンを表す。
【0037】
【0038】
式(2)中、Ar5、Ar6は置換基を有していてもよい各々独立の芳香環基である。
【0039】
また、本発明の電子受容性化合物は、架橋基を有する電子受容性化合物であることが好ましく、Arの少なくとも一つが架橋基を有することがより好ましい。
また、本発明の架橋基を有する電子受容性化合物は、架橋基を有するイオン化合物であることが好ましい。
本発明の電子受容性化合物が架橋基を有する電子受容性化合物である場合の架橋基は特に制限されないが、後述の式(7)または式(8)であることが好ましい。
【0040】
式(1)で表されるイオン化合物の対アニオン構造を式(6)に記す。
〔I-1.対アニオン〕
【0041】
【0042】
式(6)中のAr、F4、F(5-a)、k及びaの定義は、式(1)と同一である。
【0043】
Arにおける芳香環基とは、芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基またはこれら芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基が連結してなる置換基を表す。芳香環基としては炭素数30以下が電圧や寿命が良好になるため好ましい。
【0044】
上記芳香環基としては、単環、2~6縮合環又はこれらの芳香族環が2つ以上連結した基が好ましい。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環もしくはフルオレン環由来の1価の基、ビフェニル基、ターフェニル基、クアテルフェニル基、または、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環もしくはアズレン環由来の1価の基が好ましい。中でも負電荷を効率良く非局在化すること、安定性、耐熱性に優れることから、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ピリジン環もしくはカルバゾール環由来の1価の基またはビフェニル基がより好ましい。特に好ましくはベンゼン環またはビフェニル基である。
Arは、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に別の置換基によって置換されていてもよい。Arが有してもよい置換基は、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、1~5の芳香環からなる芳香環基、炭化水素環基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルケトン基またはアリールケトン基である。
【0045】
ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子などが挙げられ、フッ素原子が化合物の安定性から好ましい。化合物の安定性の面からフッ素原子が4つ以上置換されていることが特に好ましい。
【0046】
1~5の芳香環からなる芳香環基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、クアテルフェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、トリフェニレン基、ナフチルフェニル基等が挙げられ、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基またはクアテルフェニル基が化合物の安定性から好ましい。
【0047】
炭化水素環基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0048】
アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、分岐又は直鎖のプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。
アルケニル基の例としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基等が挙げられる。
アルキニル基の例としては、アセチル基、プロピニル基、ブチニル基等が挙げられる。
アラルキル基の例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルヘキシル基等が挙げられる。
【0049】
アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
アルキルチオ基の例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、ブチルチオ基、ヘキシルチオ基等が挙げられる。
アリールチオ基の例としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。
アルキルケトン基の例としては、アセチル基、エチルカルボニル基、ブチルカルボニル基、オクチルカルボニル基等が挙げられる。
アリールケトン基の例としては、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基等が挙げられる。
アルキルオキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基等が挙げられる。
【0050】
また、隣り合う置換基同士が結合して、環を形成してもよい。
環を形成した例としては、シクロブテン環、シクロペンテン環等が挙げられる。
【0051】
又、これらの置換基にさらに置換基が置換されていてもよく、その置換基の例としては、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基が挙げられる。
これらの置換基の中でも、ハロゲン原子またはアリール基が化合物の安定性の点で好ましい。最も好ましくはハロゲン原子である。
【0052】
Arにおけるフッ素置換されたアルキル基としては、炭素数1~12の直鎖又は分岐のアルキル基であってフッ素原子が置換している基が好ましく、パーフルオロアルキル基がさらに好ましく、炭素数1~5の直鎖又は分岐のパーフルオロアルキル基がより好ましく、炭素数1~3の直鎖又は分岐のパーフルオロアルキル基が特に好ましく、パーフルオロメチル基が最も好ましい。この理由は、本発明の化合物を用いた塗布膜や、その上層に積層される塗布膜が安定になるためである。
【0053】
本発明において、式(1)のArは、化合物の安定性の面からフッ素原子が4つ以上置換されていることが好ましい。
【0054】
より好ましい対アニオン構造は下記式(9)で表される。
【0055】
【0056】
式(9)中、Ar1~Ar4は、各々独立に置換基を有していてもよい芳香環基であり、式(6)のArと同様である。以下のArに関する記載についても同様にAr1~Ar4に適用可能である。Ar1~Ar4は、炭素数30以下の芳香環基であることが好ましい。式(9)は、式(6)において、k=0かつa=1である場合を表している。
【0057】
また、Arの少なくとも一つが下記式(3)で表わされることも好ましい。
より好ましくは、Arが全て下記式(3)で表わされるものである。
【0058】
【0059】
(式(3)中、Ar7は置換基であり、F4はフッ素原子が4個置換していることを表す。)
Ar7は前述のArが有してもよい置換基として好ましい基と同じである。また、F4はフッ素原子が4個置換していることを表す。
これらの中でも、Ar7が下記式(4)で表されることがより好ましい。
【0060】
【0061】
また、Arの少なくとも一つが下記一般式(7)または(8)を含んでなる置換基で表されることが好ましい。
【0062】
【0063】
(式(7)中、アスタリスク(*)は結合手を表す。)
【0064】
【0065】
(式(8)中、アスタリスク(*)は結合手を表す。)
これら式(7)、式(8)は置換基を有していてもよく、その置換基の例としては、Arが有していてもよい置換基と同じである。
【0066】
これら式(7)、式(8)は架橋性を有しており、電子受容性化合物またはその分解物が他の層に拡散しないと予想される為、素子効率の向上が期待される。
【0067】
本発明のイオン化合物の対アニオンの分子量は、通常700以上、好ましくは900以上、更に好ましくは1100以上、また、通常6000以下、好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下の範囲である。対アニオンの分子量が小さすぎると、負電荷の非局在化が不十分なため、カチオンとの相互作用が強く、電荷輸送能が低下するおそれがあり、対アニオンの分子量が大きすぎると、対アニオン自体が電荷輸送の妨げとなる場合がある。
【0068】
なお、本発明において置換基を有していてもよいとは、置換基を少なくとも1つ以上有していてもよいことを意味する。
【0069】
以下に、本発明の電荷輸送性イオン化合物のアニオンである対アニオンの具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
上記具体例のうち、電子受容性、耐熱性、溶解性の点で、好ましくは、(A-1)、(A-2)の化合物である。さらに、架橋基を有する点で(A-18)、(A-19)、(A-20)、(A-21)、(A-25)、(A-26)、(A-27)、(A-28)が好ましく、電荷輸送膜用組成物として安定性が高いことから、(A-18)、(A-19)、(A-20)、(A-21)、(A-25)、(A-26)、(A-28)がより好ましく、有機電界発光素子の安定性から(A-19)、(A-21)、(A-25)、(A-26)、(A-28)が特に好ましい。
【0081】
〔I-2.対カチオン〕
式(1)中、X+はイオン化合物の対カチオンであり、下記式(2)で表される。
【0082】
【0083】
式(2)中、Ar5及びAr6は、置換基を有していてもよい各々独立の芳香環基を表す。
【0084】
芳香環基は前述の式(6)のArにおける芳香環基と同じである。芳香環基として好ましくは、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、クアテルフェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、トリフェニレン基、ナフチルフェニル基等が挙げられ、フェニル基が化合物の安定性から最も好ましい。
【0085】
Ar5及びAr6として例示した芳香環基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に別の置換基によって置換されていてもよい。置換基の種類は特に制限されず、任意の置換基が適用可能である。
Ar5及びAr6が有してもよい置換基として好ましい基は、水素原子、ハロゲン原子、1~5の芳香環からなる芳香環基、炭化水素環基、アルキル基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基およびヒドロキシ基である。中でもアルキル基が、溶剤に対する溶解性を向上させる為特に好ましい。
【0086】
ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子などが挙げられる。
【0087】
1~5の芳香環からなる芳香環基の例としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、クアテルフェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、トリフェニレン基、ナフチルフェニル基等が挙げられ、フェニル基が化合物の安定性から好ましい。
【0088】
炭化水素環基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0089】
アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、分岐又は直鎖のプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。
アラルキル基の例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルヘキシル基等が挙げられる。
アルキルオキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基等が挙げられる。
アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0090】
又、これらの置換基にさらに置換基が置換されていてもよく、その置換基の例としては、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基が挙げられる。
これらの置換基の中でも、アルキル基が膜安定性の点で好ましい。
また、前記式(2)で表される対カチオンが、下記式(5)で表されることが好ましい。
【0091】
【0092】
上記式(5)中、Ar8及びAr9は、前述の式(2)におけるAr5及びAr6が有していてもよい置換基と同様である。
【0093】
本発明において使用される電子受容性化合物の分子量は、通常900以上、好ましくは1000以上、更に好ましくは1200以上、また、通常10000以下、好ましくは5000以下、更に好ましくは3000以下の範囲である。電子受容性化合物の分子量が小さすぎると、正電荷及び負電荷の非局在化が不十分なため、電子受容能が低下するおそれがあり、電子受容性化合物の分子量が大きすぎると、電子受容性化合物自体が電荷輸送の妨げとなるおそれがある。
【0094】
〔I-3.架橋基を有する電子受容性化合物〕
また、本発明の電子受容性化合物は、架橋基を有する電子受容性化合物である。
【0095】
電子受容性化合物の母骨格としては特に制限は無いが、好ましくはイオン化合物であり、さらに好ましくは前述の一般式(6)で表される対アニオンを有するイオン化合物であり、特に好ましくは前述の一般式(1)で表わされる非配位性アニオンとカチオンからなるイオン化合物である。
【0096】
架橋基を有する電子受容性化合物がイオン化合物である場合、対カチオンは、ヨードニウムカチオン、スルホニウムカチオン、カルボカチオン、オキソニウムカチオン、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプチルトリエニルカチオンまたは遷移金属を有するフェロセニウムカチオンを表し、ヨードニウムカチオン、スルホニウムカチオン、カルボカチオン、アンモニウムカチオンがより好ましく、ヨードニウムカチオンが特に好ましい。
【0097】
ヨードニウムカチオンとして好ましくは、前述の一般式(2)で表される構造であり、さらに好ましい構造も同様である。
【0098】
ヨードニウムカチオンとして具体的には、ジフェニルヨードニウムカチオン、ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムカチオン、4-t-ブトキシフェニルフェニルヨードニウムカチオン、4-メトキシフェニルフェニルヨードニウムカチオン、4-イソプロピルフェニル-4-メチルフェニルヨードニウムカチオン等が好ましい。
スルホニウムカチオンとして具体的には、トリフェニルスルホニウムカチオン、4-ヒドロキシフェニルジフェニルスルホニウムカチオン、4-シクロヘキシルフェニルジフェニルスルホニウムカチオン、4-メタンスルホニルフェニルジフェニルスルホニウムカチオン、(4-t-ブトキシフェニル)ジフェニルスルホニウムカチオン、ビス(4-t-ブトキシフェニル)フェニルスルホニウムカチオン、4-シクロヘキシルスルホニルフェニルジフェニルスルホニウムカチオン等が好ましい。
【0099】
カルボカチオンとして具体的には、トリフェニルカルボカチオン、トリ(メチルフェニル)カルボカチオン、トリ(ジメチルフェニル)カルボカチオンなどの三置換カルボカチオン等が好ましい。
【0100】
前記アンモニウムカチオンとして具体的には、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアンモニウムカチオン、トリブチルアンモニウムカチオン、トリ(n-ブチル)アンモニウムカチオンなどのトリアルキルアンモニウムカチオン;N,N-ジエチルアニリニウムカチオン、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムカチオンなどのN,N-ジアルキルアニリニウムカチオン;ジ(イソプロピル)アンモニウムカチオン、ジシクロヘキシルアンモニウムカチオンなどのジアルキルアンモニウムカチオン等が好ましい。
【0101】
前記ホスホニウムカチオンとして具体的には、テトラフェニルホスホニウムカチオン、テトラキス(メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、テトラキス(ジメチルフェニル)ホスホニウムカチオンなどのテトラアリールホスホニウムカチオン;テトラブチルホスホニウムカチオン、テトラプロピルホスホニウムカチオンなどのテトラアルキルホスホニウムカチオン等が好ましい。
【0102】
これらの中では、化合物の膜安定性の点でヨードニウムカチオン、カルボカチオン、スルホニウムカチオンが好ましく、ヨードニウムカチオンがより好ましい。
前記一般式(1)のArが有していてもよい架橋基および、本発明の架橋基を有するイオン化合物が有する架橋基は、以下の架橋基群Zから選ばれることが好ましい。これらの架橋基は、室温よりも十分高い温度で架橋するため、電荷輸送膜用組成物としての安定性が高く、架橋結合が酸化還元に対して安定性が高いため、有機電界発光素子としての安定性も高いと考えられる。
【0103】
[架橋基群Z]
【0104】
【0105】
式(Z-1)~(Z-7)中のアスタリスク(*)は結合手を示す。これらはさらに任意の置換基を有していてもよい。好ましい置換基としては、炭素数30以下の環状・非環状の脂肪族由来の基、炭素数30以下のアリール基、炭素数30以下のアルキルオキシ基、炭素数30以下のアラルキル基等があげられる。
【0106】
式(Z-1)、式(Z-2)で表される架橋基の置換基は、置換基同士が互いに結合して環を形成していてもよい。
式(Z-3)~(Z-7)で表される架橋基は、置換基を有さないことが好ましい。
上記架橋基の中でも、架橋後の安定性が高く、素子駆動寿命が向上する点で(Z-1)~(Z-4)が好ましく、(Z-1)または(Z-2)で表される架橋基が特に好ましい。
(Z-1)で表される架橋基は前記式(7)で表される構造がさらに好ましく、有していてもよい好ましい置換基は炭素数30以下の環状・非環状の脂肪族由来の基および炭素数30以下のアリール基であり、置換基を有さないことがさらに好ましい。
(Z-2)で表される架橋基は前記式(8)で表される構造がさらに好ましく、有していてもよい好ましい置換基は炭素数30以下の環状・非環状の脂肪族由来の基および炭素数30以下のアリール基であり、置換基を有さないことがさらに好ましい。
【0107】
本発明の架橋基を有する電子受容性化合物は、イオン化合物であって、架橋基をイオン化合物の対アニオンに有していることが好ましい。対アニオンは前述の式(6)で表される化学種が好ましい。
【0108】
架橋基がイオン化合物の対アニオンに結合していることが好ましい理由は次の通りである。電子受容性化合物がイオン化合物である場合、組成物中に電子受容性化合物と後述の正孔輸送性化合物を併存させると、電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物から電子を引き抜き、その結果、電子受容性化合物の対アニオンと正孔輸送性化合物のカチオンラジカルが生成され、電子受容性化合物の対アニオンと正孔輸送性化合物のカチオンラジカルとがイオン対を形成する。これは後述する電荷輸送性イオン化合物に相当する。本発明の架橋基を有する電子受容性化合物がイオン化合物である場合、その対アニオンが、架橋基を有する正孔輸送性化合物と、さらに架橋基によって結合していることにより、電荷輸送性イオン化合物が安定化し、耐久性が向上し、有機電界発光素子の駆動寿命が向上すると考えられる。さらに、正孔輸送性化合物と結合している電子受容性化合物の対アニオンは遊離しないため、電子受容性化合物の対アニオンの発光層への拡散が抑制されて発光効率が向上すると考えられる。また、電子受容性化合物の対アニオン同士が架橋結合した場合であっても、結合することによって分子量が増大し、拡散しにくくなるため好ましい。また、複数の電子受容性化合物の対アニオン同士が架橋結合した場合であっても、1か所が正孔輸送性化合物の架橋基と架橋結合する確率は高く、複数の電子受容性化合物の対アニオン同士が架橋したクラスターが正孔輸送性化合物と架橋することによって拡散しなくなり、好ましい。
【0109】
本発明の架橋基を有する電子受容性化合物の架橋基は、1分子中に4個以下であることが好ましい。この範囲であれば、架橋反応せずに残存する架橋基が少なく、本発明の架橋基を有する電子受容性化合物を用いて作製した有機電界発光素子が安定であるためである。架橋反応せずに残存する架橋基がさらに少ないことから、さらに好ましくは、1分子中に3個以下である。
【0110】
〔I-4.電子受容性化合物の具体例〕
以下に本発明において使用される電子受容性化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
上記具体例のうち、電子受容性、耐熱性、溶解性の点で、好ましくは、(B-1)、(B-2)の化合物である。さらに、架橋基を有する点で(B-18)、(B-19)、(B-20)、(B-21)、(B-25)、(B-26)、(B-27)、(B-28)が好ましく、電荷輸送膜用組成物として安定性が高いことから、(B-18)、(B-19)、(B-20)、(B-21)、(B-25)、(B-26)、(B-28)がより好ましく、有機電界発光素子の安定性から(B-19)、(B-21)、(B-25)、(B-26)、(B-28)が特に好ましい。
【0122】
以上説明した電子受容性化合物を製造する方法は特に制限されず、各種の方法を用いて製造することが可能である。例としては、Chem.Rev.、66巻、243頁、1966年、及び、J.Org.Chem.、53巻、5571頁、1988年に記載の方法等が挙げられる。
【0123】
〔II.電荷輸送膜用組成物〕
本発明の電荷輸送膜用組成物は、前述の本発明の電子受容性化合物と、後述の電荷輸送性化合物とを含有する組成物(以下、適宜「本発明の電荷輸送膜用組成物(A)」という。)、又は、後述の電荷輸送性化合物のカチオンラジカルと前述の本発明の電子受容性化合物の一部である対アニオンからなる電荷輸送性イオン化合物を含有する組成物(以下、適宜「本発明の電荷輸送膜用組成物(B)」という。)である。便宜上、電荷輸送膜用組成物(A)と電荷輸送膜用組成物(B)に分けて説明するが、本発明の電荷輸送膜用組成物は、本願発明の電子受容性化合物、後述の電荷輸送性化合物および、後述の電荷輸送性化合物のカチオンラジカルと前述の本発明の電子受容性化合物の一部である対アニオンからなる電荷輸送性イオン化合物とを含む組成物も含む。
【0124】
なお、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)及び(B)は、電荷輸送材料の用途に広く用いることが可能な組成物(電荷輸送材料用組成物)である。但し、通常はこれを成膜し、電荷輸送材料膜、即ち「電荷輸送膜」として用いるため、本明細書では特に「電荷輸送膜用組成物」と呼ぶことにする。
【0125】
また、本発明において、電荷輸送性化合物は通常、正孔輸送性化合物である。よって、本明細書では、特に断らない限り正孔輸送性化合物は電荷輸送性化合物と読み替えることができるものとする。
【0126】
〔II-1.電荷輸送膜用組成物(A)〕
〔II-1-1.正孔輸送性化合物〕
次に、本発明の電荷輸送膜用組成物に含まれる電荷輸送性化合物としての正孔輸送性化合物(以下、適宜「本発明の正孔輸送性化合物」と略称する。)について説明する。
【0127】
本発明の正孔輸送性化合物は、架橋基を有することが好ましい。膜形成後に正孔輸送性化合物を架橋させることにより、膜を不溶化することができ、膜上にさらに別の層を塗布成膜することが可能となるためである。
【0128】
本発明の正孔輸送性化合物としては、4.5eV~5.5eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が正孔輸送能の点で好ましい。例としては、芳香族アミン化合物、フタロシアニン誘導体又はポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体等が挙げられる。中でも非晶質性、溶媒への溶解度、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましい。
【0129】
芳香族アミン化合物の中でも、本発明では特に、芳香族三級アミン化合物が好ましい。なお、本発明でいう芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0130】
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物である芳香族三級アミン高分子化合物が更に好ましい。
芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(11)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0131】
【0132】
上記式(11)中、j、k、l、m、n、pは、各々独立に、0以上の整数を表す。但し、l+m≧1である。
【0133】
上記式(11)中、Ar11、Ar12、Ar14は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数30以下の2価の芳香環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。Ar13は、置換基を有していてもよい炭素数30以下の2価の芳香環基または下記式(12)で表される2価の基を表し、Q11、Q12は、各々独立に、酸素原子、硫黄原子、置換基を有していてもよい炭素数6以下の炭化水素鎖を表し、S1~S4は、各々独立に、下記式(13)で示される基で表される。
【0134】
Ar11、Ar12、Ar14の芳香環基の例としては、単環、2~6縮合環又はこれらの芳香族環が2つ以上連結した基が挙げられる。具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環もしくはフルオレン環由来の1価の基、ビフェニル基、ターフェニル基、クアテルフェニル基、または、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環もしくはアズレン環由来の1価の基が挙げられる。中でも負電荷を効率良く非局在化すること、安定性、耐熱性に優れることから、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ピリジン環もしくはカルバゾール環由来の2価の基またはビフェニル基が好ましい。
【0135】
Ar13の芳香環基の例としては、Ar11、Ar12、Ar14の場合と同様である。
Ar13はまた、下記式(12)で表される2価の基が好ましい。
【0136】
【0137】
上記式(12)中、R11は、アルキル基、芳香環基または炭素数40以下のアルキル基と芳香環基からなる3価の基を表し、これらは置換基を有していてもよい。R12は、アルキル基、芳香環基または炭素数40以下のアルキル基と芳香環基からなる2価の基を表し、これらは置換基を有していてもよい。Ar31は、1価の芳香環基、又は1価の架橋基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。アスタリスク(*)は式(11)の窒素原子との結合手を示す。
【0138】
R11の芳香環基の具体例としては、フェニル環、ナフタレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環及びこれらが連結した炭素数30以下の連結環由来の3価の基が挙げられる。
R11のアルキル基の具体例としては、メタン、エタン、プロパン、イソプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン由来の3価の基等が挙げられる。
【0139】
R12の芳香環基の具体例としては、フェニル環、ナフタレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環及びこれらが連結した炭素数30以下の連結環由来の2価の基が挙げられる。
R12のアルキル基の具体例としては、メタン、エタン、プロパン、イソプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン由来の2価の基等が挙げられる。
【0140】
Ar31の芳香環基の具体例としては、フェニル環、ナフタレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環及びこれらが連結した炭素数30以下の連結環由来の1価の基が挙げられる。
Ar31の架橋基の例としては、ベンゾシクロブテン環、ナフトシクロブテン環またはオキセタン環由来の基、ビニル基、アクリル基等が挙げられる。好ましくは前述の架橋基群Z記載の架橋基であり、より好ましい架橋基も同様である。化合物の安定性からベンゾシクロブテン環またはナフトシクロブテン環由来の基が好ましい。これらは、前記式(7)または前記式(8)で表される架橋基である。
【0141】
S1~S4は各々独立に、下記式(13)で表される基である。
【0142】
【0143】
上記式(13)中、q,rは、0以上の整数を表す。
Ar21、Ar23は、それぞれ独立に、2価の芳香環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。Ar22は置換基を有していてもよい1価の芳香環基を表し、R13は、アルキル基、芳香環基またはアルキル基と芳香環基からなる2価の基を表し、これらは置換基を有していてもよい。Ar32は1価の芳香環基又は1価の架橋基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。アスタリスク(*)は一般式(11)の窒素原子との結合手を示す。
【0144】
Ar21、Ar23の芳香環基の例としては、Ar11、Ar12、Ar14の場合と同様である。
Ar22、Ar32の芳香環基の例としては、単環、2~6縮合環又はこれらの芳香族環が2つ以上連結した基が挙げられる。具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環もしくはフルオレン環由来の1価の基、ビフェニル基、ターフェニル基、クアテルフェニル基、または、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環もしくはアズレン環由来の1価の基が挙げられる。中でも負電荷を効率良く非局在化すること、安定性、耐熱性に優れることから、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ピリジン環もしくはカルバゾール環由来の1価の基またはビフェニル基が好ましい。
【0145】
R13のアルキル基または芳香環基の例としては、R12と同様である。
【0146】
Ar32の架橋基は特に限定しないが、好ましい例としては、ベンゾシクロブテン環、ナフトシクロブテン環もしくはオキセタン環由来の基、ビニル基、アクリル基等が挙げられる。
【0147】
上記Ar11~Ar14、R11、R12、Ar21~Ar23、Ar31~Ar32、Q11、Q12はいずれも、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基の種類は特に制限されないが、例としては、下記の置換基群Wから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0148】
[置換基群W]
メチル基、エチル基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは8以下のアルキル基;ビニル基等の、炭素数が通常2以上、通常11以下、好ましくは5以下のアルケニル基;エチニル基等の、炭素数が通常2以上、通常11以下、好ましくは5以下のアルキニル基;メトキシ基、エトキシ基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下のアルコキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上、通常25以下、好ましくは14以下のアリールオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上、通常11以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の、炭素数が通常2以上、通常20以下、好ましくは12以下のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、N-カルバゾリル基等の、炭素数が通常10以上、好ましくは12以上、通常30以下、好ましくは22以下のジアリールアミノ基;フェニルメチルアミノ基等の、炭素数が通常6以上、好ましくは7以上、通常25以下、好ましくは17以下のアリールアルキルアミノ基;アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常2以上、通常10以下、好ましくは7以下のアシル基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;トリフルオロメチル基等の、炭素数が通常1以上、通常8以下、好ましくは4以下のハロアルキル基;メチルチオ基、エチルチオ基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上、通常25以下、好ましくは14以下のアリールチオ基;トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上、通常33以下、好ましくは26以下のシリル基;トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上、通常33以下、好ましくは26以下のシロキシ基;シアノ基;フェニル基、ナフチル基等の、炭素数が通常6以上、通常30以下、好ましくは18以下の芳香族炭化水素基;チエニル基、ピリジル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、通常28以下、好ましくは17以下の芳香族複素環基。
【0149】
特に、式(11)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物の中でも、下記式(14)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物が、正孔注入・輸送性が非常に高くなるので好ましい。
【0150】
【0151】
上記式(14)中、R21~R25は各々独立に、任意の置換基を表わす。R21~R25の置換基の具体例は、前述の[置換基群W]に記載されている置換基と同様である。
s、tは各々独立に、0以上、5以下の整数を表わす。
u、v、wは各々独立に、0以上、4以下の整数を表わす。
【0152】
芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(15)及び/又は式(16)で表わされる繰り返し単位を含む高分子化合物が挙げられる。
【0153】
【0154】
上記式(15)、式(16)中、Ar45、Ar47及びAr48は各々独立して、置換基を有していてもよい1価の芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい1価の芳香族複素環基を表わす。Ar44及びAr46は各々独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表わす。R41~R43は各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表わす。
【0155】
Ar45、Ar47、Ar48、Ar44及びAr46の具体例、好ましい例、有していてもよい置換基の例及び好ましい置換基の例は、それぞれ、Ar22、Ar31、Ar32、Ar11及びAr14と同様である。R41~R43として好ましくは、水素原子又は前述の[置換基群W]に記載されている置換基であり、更に好ましくは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基である。
【0156】
以下に、本発明において適用可能な、式(15)、式(16)で表わされる繰り返し単位の好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0157】
【0158】
その他、本発明の正孔輸送性化合物として適用可能な芳香族アミン化合物としては、有機電界発光素子における正孔注入・輸送性の層形成材料として利用されてきた、従来公知の化合物が挙げられる。例えば、1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)シクロヘキサン等の3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン化合物(日本国特開昭59-194393号公報);4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン(日本国特開平5-234681号公報);トリフェニルベンゼンの誘導体でスターバースト構造を有する芳香族トリアミン(米国特許第4,923,774号明細書);N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)ビフェニル-4,4’-ジアミン等の芳香族ジアミン(米国特許第4,764,625号明細書);α,α,α’,α’-テトラメチル-α,α’-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)-p-キシレン(日本国特開平3-269084号公報);分子全体として立体的に非対称なトリフェニルアミン誘導体(日本国特開平4-129271号公報);ピレニル基に芳香族ジアミノ基が複数個置換した化合物(日本国特開平4-175395号公報);エチレン基で3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン(日本国特開平4-264189号公報);スチリル構造を有する芳香族ジアミン(日本国特開平4-290851号公報);チオフェン基で芳香族3級アミンユニットを連結したもの(日本国特開平4-304466号公報);スターバースト型芳香族トリアミン(日本国特開平4-308688号公報);ベンジルフェニル化合物(日本国特開平4-364153号公報);フルオレン基で3級アミンを連結したもの(日本国特開平5-25473号公報);トリアミン化合物(日本国特開平5-239455号公報);ビスジピリジルアミノビフェニル(日本国特開平5-320634号公報);N,N,N-トリフェニルアミン誘導体(日本国特開平6-1972号公報);フェノキサジン構造を有する芳香族ジアミン(日本国特開平7-138562号公報);ジアミノフェニルフェナントリジン誘導体(日本国特開平7-252474号公報);ヒドラゾン化合物(日本国特開平2-311591号公報);シラザン化合物(米国特許第4,950,950号明細書);シラナミン誘導体(日本国特開平6-49079号公報);ホスファミン誘導体(日本国特開平6-25659号公報);キナクリドン化合物等が挙げられる。これらの芳香族アミン化合物は、必要に応じて2種以上を混合して用いてもよい。
【0159】
また、本発明の正孔輸送性化合物として適用可能な芳香族アミン化合物のその他の具体例としては、ジアリールアミノ基を有する8-ヒドロキシキノリン誘導体の金属錯体が挙げられる。上記の金属錯体は、中心金属がアルカリ金属、アルカリ土類金属、Sc、Y、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Sm、Eu、Tbのいずれかから選ばれ、配位子である8-ヒドロキシキノリンはジアリールアミノ基を置換基として1つ以上有するが、ジアリールアミノ基以外に任意の置換基を有することがある。
【0160】
また、本発明の正孔輸送性化合物として適用可能なフタロシアニン誘導体又はポルフィリン誘導体の好ましい具体例としては、ポルフィリン、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリン、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリンコバルト(II)、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリン銅(II)、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリン亜鉛(II)、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリンバナジウム(IV)オキシド、5,10,15,20-テトラ(4-ピリジル)-21H,23H-ポルフィリン、29H,31H-フタロシアニン銅(II)、フタロシアニン亜鉛(II)、フタロシアニンチタン、フタロシアニンオキシドマグネシウム、フタロシアニン鉛、フタロシアニン銅(II)、4,4’,4”,4’’’-テトラアザ-29H,31H-フタロシアニン等が挙げられる。
【0161】
また、本発明の正孔輸送性化合物として適用可能なオリゴチオフェン誘導体の好ましい具体例としては、α-セキシチオフェン等が挙げられる。
【0162】
なお、これらの正孔輸送性化合物の分子量は、上述した特定の繰り返し単位を有する高分子化合物の場合を除いて、通常5000以下、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、更に好ましくは1700以下、特に好ましくは1400以下、また、通常200以上、好ましくは400以上、より好ましくは600以上の範囲である。正孔輸送性化合物の分子量が高過ぎると合成及び精製が困難であり好ましくない一方で、分子量が低過ぎると耐熱性が低くなる虞がありやはり好ましくない。
【0163】
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)は、上述の正孔輸送性化合物のうち何れか一種を単独で含有していてもよく、二種以上を含有していてもよい。二種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物一種又は二種以上と、その他の正孔輸送性化合物一種又は二種以上とを併用するのが好ましい。前述の高分子化合物と併用する正孔輸送性化合物の種類としては、芳香族アミン化合物が好ましい。
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)における正孔輸送性化合物の含有量は、上述した電子受容性化合物との比率を満たす範囲となるようにする。二種以上の電荷輸送膜用組成物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0164】
〔II-1-2.電荷輸送膜用組成物(A)の調製方法〕
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)は、少なくとも、〔I.電子受容性化合物〕の項で詳述した本発明の電子受容性化合物と、〔II-1-1.正孔輸送性化合物〕の項で詳述した本発明に係る正孔輸送性化合物とを混合することで調製される。上述の電子受容性化合物のうち何れか一種を単独で含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で含有していてもよい。正孔輸送性化合物についても同様である。
【0165】
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)における電子受容性化合物の含有量は、正孔輸送性化合物に対する値で、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、また、通常100質量%以下、好ましくは40質量%以下である。電子受容性化合物の含有量が上記下限以上であれば、フリーキャリア(正孔輸送性化合物のカチオンラジカル)が十分に生成でき好ましく、上記上限以下であれば、十分な電荷輸送能が確保でき好ましい。二種以上の電子受容性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。正孔輸送性化合物についても同様である。
【0166】
〔II-2.電荷輸送膜用組成物(B)〕
本発明の電荷輸送膜用組成物(B)は、前述の通り、本発明に係る前述の正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと前述の本発明の電子受容性化合物の対アニオンからなる電荷輸送性イオン化合物を含有する組成物である。
【0167】
〔II-2-1.電荷輸送性化合物のカチオンラジカル〕
本発明の電荷輸送性イオン化合物のカチオンである電荷輸送性化合物のカチオンラジカルは、前述の〔II-1-1.正孔輸送性化合物〕に示す電気的に中性の化合物から、一電子取り除いた化学種である。ただし、正孔輸送性化合物が高分子化合物である場合には、高分子構造中に、電気的に中性の部分構造から一電子取り除いた部分構造を含む化学種である。
特に、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルが下記式(10)で表わされる部分構造を有する芳香族三級アミン化合物であることが、適度な酸化還元電位を有する点、安定な電荷輸送性イオン化合物が得られる点から好ましい。
【0168】
【0169】
上記式(10)中、yは1~5の整数を表し、Ar81~Ar84は各々独立に、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、又は、置換基を有してもよい芳香族複素環基を表わし、R81~R84は各々独立に、任意の基を表わす。
【0170】
Ar81~Ar84の具体例、好ましい例、有していてもよい置換基の例及び好ましい置換基の例は、前述の式(11)におけるS1~S4と同様である。
R81~R84の具体例、好ましい例は、前述の式(16)におけるR41~R43と同様である。
【0171】
一般式(10)で表わされる部分構造を有する芳香族三級アミン化合物は、芳香族三級アミン構造として一般式(10)で表わされる部分構造を1つのみまたは複数有する低分子化合物であってもよい。
【0172】
また、一般式(10)で表わされる部分構造を有する芳香族三級アミン化合物は、一般式(10)で表わされる部分構造を複数有する高分子化合物であってもよい。
一般式(10)で表わされる部分構造を有する芳香族三級アミン化合物が高分子化合物である場合は、Ar81もしくはAr82のいずれか一方、または、Ar83もしくはAr84のいずれか一方で高分子構造に結合していてもよいし、Ar81もしくはAr82のいずれか一方、および、Ar83もしくはAr84のいずれか一方の両方で高分子化合物の主鎖に連結していてもよい。
【0173】
一般式(10)で表わされる部分構造を有する芳香族三級アミン化合物が高分子化合物である場合は、Ar81もしくはAr82のいずれか一方、および、Ar83もしくはAr84のいずれか一方の両方で高分子化合物の主鎖に連結した高分子化合物であることが好ましい。
また、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルが、重量平均分子量1000以上、1000000以下の芳香族三級アミン高分子化合物の繰り返し単位から一電子取り除いた構造の化学種であることが、耐熱性の点、成膜性の点から好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の繰り返し単位から一電子取り除くとは、芳香族三級アミン高分子化合物に含まれる複数の繰り返し単位の一部または全てから一電子取り除くことである。芳香族三級アミン高分子化合物に含まれる複数の繰り返し単位の一部から一電子取り除くことが、芳香族三級アミン高分子化合物が安定であり好ましい。該芳香族三級アミン高分子化合物としては、前述の〔II-1-1.正孔輸送性化合物〕に記載のものが挙げられる。その好ましい例も、前述の記載と同様である。
【0174】
〔II-2-2.電荷輸送性イオン化合物〕
本発明の電荷輸送性イオン化合物は、前述の電荷輸送性化合物のカチオンラジカルと、前述の本発明の電子受容性化合物の一部である対アニオンとがイオン結合した化合物である。
本発明の電荷輸送性イオン化合物は、本発明の電子受容性化合物と、本発明の正孔輸送性化合物とを混合することによって得ることができ、種々の溶媒に容易に溶解する。
本発明の電荷輸送性イオン化合物の分子量は、カチオンラジカルが高分子化合物由来である場合を除いて、通常1000以上、好ましくは1200以上、更に好ましくは1400以上、また、通常9000以下、好ましくは5000以下、更に好ましくは4000以下の範囲である。
【0175】
〔II-2-3.電荷輸送膜用組成物(B)の調製方法〕
本発明の電荷輸送性イオン化合物は、本発明の電子受容性化合物と、本発明の正孔輸送性化合物とを溶媒に溶解して混合して調製することが好ましい。この溶液中で、本発明の電子受容性化合物によって正孔輸送性化合物が酸化されてカチオンラジカル化し、本発明の電子受容性化合物の対アニオンと、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルとのイオン化合物である、本発明の電荷輸送性イオン化合物が生成する。
【0176】
このとき、本発明の正孔輸送性化合物は芳香族三級アミン化合物であることが好ましい。溶液中で混合することにより、芳香族三級アミン化合物の酸化されやすい部位であるアミン構造近傍に本発明の電子受容性化合物が存在する確率が高くなり、本発明の電子受容性化合物によって芳香族三級アミン化合物が酸化されてカチオンラジカル化し、本願発明の電子受容性化合物の対アニオンと、芳香族三級アミン化合物のカチオンラジカルとのイオン化合物が生成しやすいためである。このとき、溶液を加熱することが、前記反応を促進する観点で好ましい。
【0177】
また、本発明の電子受容性化合物と、本発明の正孔輸送性化合物との混合物を加熱して調製することも好ましい。この混合物は、本発明の電子受容性化合物と、本発明の正孔輸送性化合物との混合物を溶媒に溶解した溶液を塗布して成膜した膜であることが好ましい。混合物を加熱することにより、混合物中で本発明の電子受容性化合物と本発明の正孔輸送性化合物とが互いに拡散し、芳香族三級アミン化合物の酸化されやすい部位であるアミン構造近傍に電子受容性化合物が存在する確率が高くなり、本発明の電子受容性化合物の対アニオンと、芳香族三級アミン化合物のカチオンラジカルとのイオン化合物が生成しやすいためである。
本発明の電荷輸送膜用組成物(B)は、前述した本発明の電荷輸送性イオン化合物一種を単独で含有していてもよく、二種以上を含有していてもよい。電荷輸送性イオン化合物は一種または二種含有することが好ましく、一種を単独で含有することがより好ましい。電荷輸送性イオン化合物のイオン化ポテンシャルのばらつきが少なく、正孔輸送性が優れるためである。
【0178】
電荷輸送性イオン化合物一種を単独で、または二種含有する組成物とは、電子受容性化合物と正孔輸送性化合物を合計で二種のみまたは三種のみ用いて調製された組成物であって、少なくとも一つの本発明の電子受容性化合物と少なくとも一つの正孔輸送性化合物とを用いて調製された組成物である。
【0179】
本発明の電荷輸送膜用組成物(B)には、電荷輸送性イオン化合物の他に、〔II-1-1.正孔輸送性化合物〕で説明した正孔輸送性化合物を含有することも好ましい。本発明の電荷輸送膜用組成物(B)における正孔輸送性化合物の含有量は、電荷輸送性イオン化合物に対する値で、好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、また、10000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以下であることがさらに好ましい。
【0180】
本発明の電荷輸送膜用組成物(B)から形成される電荷輸送膜は、電荷輸送性イオン化合物から近傍の中性の正孔輸送性化合物に正電荷が移動することにより、高い正孔注入・輸送能を発揮することから、電荷輸送性イオン化合物と中性の正孔輸送性化合物とが、質量比で1:100~100:1程度であることが好ましく、1:20~20:1程度の割合であることが更に好ましい。
【0181】
〔II-3.溶媒等〕
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)は、上述の電子受容性化合物及び正孔輸送性化合物に加え、必要に応じてその他の成分、例えば溶媒や各種の添加剤等を含んでいてもよい。特に、本発明の電荷輸送膜用組成物を用いて、湿式成膜法により電荷輸送膜を形成する場合には、溶媒を用いて前述の電子受容性化合物及び正孔輸送性化合物を溶解させた状態とすることが好ましい。
【0182】
ここで、本発明の電荷輸送性イオン化合物は、本発明の電子受容性化合物と、本発明の正孔輸送性化合物とを混合することによって生成する。すなわち、電荷輸送性イオン化合物は電子受容性化合物と正孔輸送性化合物とに由来する化合物である。このため、本発明の電荷輸送性イオン化合物を含有する電荷輸送膜用組成物(B)は、電荷輸送膜用組成物(A)と同様に必要に応じてその他の成分を含んでいてもよく、湿式成膜法により電荷輸送膜を形成する場合には、溶媒を用いて本発明の電荷輸送性イオン化合物を溶解させた状態とすることが好ましい。
【0183】
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)に含まれる溶媒としては、前述の電子受容性化合物及び前述の正孔輸送性化合物をともに溶解することが可能な溶媒であれば、その種類は特に限定されない。また、本発明の電荷輸送膜用組成物(B)に含まれる溶媒としては、本発明の電荷輸送性イオン化合物を溶解することが可能な溶媒であれば、その種類は特に限定されない。ここで、前述の電子受容性化合物及び前述の正孔輸送性化合物を溶解する溶媒とは、正孔輸送性化合物を通常0.005質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上溶解する溶媒であり、また、電子受容性化合物を通常0.001質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上溶解する溶媒である。本発明に用いられる前述の電子受容性化合物は高い溶解性を有するため、種々の溶媒が適用可能である。また、本発明の電荷輸送性イオン化合物を溶解する溶媒とは、本発明の電荷輸送性イオン化合物を通常0.001質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上溶解する溶媒である。
【0184】
また、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)に含まれる溶媒としては、電子受容性化合物、正孔輸送性化合物、それらの混合から生じるフリーキャリア(カチオンラジカル)を失活させるおそれのある失活物質又は失活物質を発生させるものを含まないものが好ましい。同様に、本発明の電荷輸送膜用組成物(B)に含まれる溶媒としては、本発明の電荷輸送性イオン化合物を失活させるおそれのある失活物質又は失活物質を発生させるものを含まないものが好ましい。
【0185】
本発明に用いる電子受容性化合物、正孔輸送性化合物、それらの混合から生じるフリーキャリア(カチオンラジカル)、及び、本発明の電荷輸送性イオン化合物は、熱力学的、電気化学的に安定であるため、種々の溶媒を用いることが可能である。好ましい溶媒としては、例えば、エーテル系溶媒及びエステル系溶媒が挙げられる。具体的には、エーテル系溶媒としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0186】
上述のエーテル系溶媒及びエステル系溶媒以外に使用可能な溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。また、これらの溶媒のうち一種又は二種以上を、上述のエーテル系溶媒及びエステル系溶媒のうち一種又は二種以上と組み合わせて用いてもよい。特に、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒は、電子受容性化合物、フリーキャリア(カチオンラジカル)を溶解する能力が低いため、エーテル系溶媒及びエステル系溶媒と混合して用いることが好ましい。
【0187】
溶媒を使用する場合、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)に対する溶媒の濃度は、通常10質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50%質量以上、また、通常99.999質量%以下、好ましくは99.99質量%以下、更に好ましくは99.9質量%以下の範囲である。なお、二種以上の溶媒を混合して用いる場合には、これらの溶媒の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0188】
なお、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)を有機電界発光素子に用いる場合、有機電界発光素子は多数の有機化合物からなる層を積層して形成するため、各層がいずれも均一な層であることが要求される。湿式成膜法で層形成する場合、薄膜形成用の溶液(電荷輸送膜用組成物)に水分が存在すると、塗膜に水分が混入して膜の均一性が損なわれるため、溶液中の水分含有量はできるだけ少ない方が好ましい。また、一般に有機電界発光素子は、陰極等の水分により著しく劣化する材料が多く使用されているため、素子の劣化の観点からも水分の存在は好ましくない。
【0189】
具体的に、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)に含まれる水分量は、通常1質量%以下、中でも0.1質量%以下、更には0.05質量%以下に抑えることが好ましい。
組成物中の水分量を低減する方法としては、例えば、窒素ガスシール、乾燥剤の使用、溶媒を予め脱水する、水の溶解度が低い溶媒を使用する等が挙げられる。中でも、塗布工程中に溶液塗膜が大気中の水分を吸収して白化する現象を防ぐという観点からは、水の溶解度が低い溶媒を使用することが好ましい。
【0190】
湿式成膜法により成膜する用途に用いる場合、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)は、水の溶解度が低い溶媒、具体的には、例えば25℃における水の溶解度が1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下である溶媒を、組成物全体に対して通常10質量%以上、中でも30質量%以上、特に50質量%以上の濃度で含有することが好ましい。
その他、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)が含有していてもよい成分としては、バインダー樹脂、塗布性改良剤等が挙げられる。これらの成分の種類や含有量は、電荷輸送膜用組成物の用途に応じて適宜選択すればよい。
【0191】
〔II-4.電荷輸送膜用組成物(A)と(B)の関係〕
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)により形成される電荷輸送膜は、耐熱性に優れるとともに、高い正孔注入・輸送能を有する。この様な優れた特性が得られる理由を以下に説明する。
【0192】
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)は、前述した本発明の電子受容性化合物と正孔輸送性化合物とを含有している。本発明の電子受容性化合物中のカチオンは、超原子価の中心原子を有し、その正電荷が広く非局在化しているため、高い電子受容性を有している。これによって、正孔輸送性化合物から電子受容性化合物のカチオンへと電子移動が起こり、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンとからなる電荷輸送性イオン化合物が生成する。この正孔輸送性化合物のカチオンラジカルが電荷のキャリアとなるため、電荷輸送膜の電気伝導度を高めることができる。すなわち、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)を調製すると、少なくとも一部は正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと本発明の電子受容性化合物の対アニオンとからなる本発明の電荷輸送性イオン化合物が生成すると考えられる。
【0193】
例えば、下記の式(17)で表わされる正孔輸送性化合物から式(1’)で表わされる電子受容性化合物へ電子移動が起きる場合、式(18)で表わされる正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンからなる電荷輸送性イオン化合物が生成する。
【0194】
【0195】
また、本発明の電子受容性化合物は、容易には昇華したり、分解したりせずに、効率よく正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンからなる電荷輸送性イオン化合物を生成させるという特徴を有している。こうした特徴によって、本発明の電子受容性化合物、及び、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンからなる電荷輸送性イオン化合物は、優れた耐熱性、電気化学的耐久性を発揮する。その結果として、電荷輸送膜用組成物の耐熱性、電気化学的耐久性も向上する。
【0196】
また、本発明の電荷輸送膜用組成物(B)は、耐熱性、電気化学的耐久性に優れる電荷輸送性イオン化合物を含有する。その結果として、電荷輸送膜用組成物(B)は、耐熱性及び電気化学的耐久性に優れる。
【0197】
この様に、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)により形成される電荷輸送膜及び本発明の電荷輸送性イオン化合物を含む電荷輸送膜は、優れた耐熱性と高い正孔注入・輸送能とを併せ持っているので、有機電界発光素子、電子写真感光体、光電変換素子、有機太陽電池、有機整流素子等の各種用途に好適に使用できる。中でも、有機電界発光素子の材料として使用することが好ましい。特に、有機電界発光素子の電荷輸送層を形成する用途で用いるのが好適である。中でも、有機電界発光素子の陽極と発光層との間に存在する層、特に正孔注入層を形成することにより、陽極と正孔輸送層又は発光層との電気的接合が改善され、駆動電圧が低下すると同時に連続駆動時の安定性も向上する。
【0198】
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)により形成される電荷輸送膜を各種の用途に使用する場合には、膜状に成形することが好ましい。成膜に用いる手法は特に制限されないが、電子受容性化合物及び電荷輸送性イオン化合物は溶媒に対する溶解性に優れているため、湿式成膜法による薄膜生成に好適に使用できる。
【0199】
特に、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)を用いて電荷輸送膜を形成する場合には、成膜時に高温で加熱乾燥することが可能であり、製造工程の簡便性及び素子特性の安定性を向上させることができる。特に、湿式塗布法により有機電界発光素子の正孔注入層を形成する場合、塗膜中の水分量を低減する方法として有用である高温での加熱乾燥が可能となり、有機電界発光素子を著しく劣化させる要因となる水分及び残留溶媒の存在を低減することができる。また、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)により形成される電荷輸送膜は耐熱性が高いため、製造された有機電界発光素子の耐熱性も大きく改善される。
【0200】
更に、本発明の電子受容性化合物は耐熱性が高く、高い電子受容性を有するとともに、適度な昇華性を有するため、前記の湿式成膜法の他に真空蒸着法による薄膜生成にも使用でき、有機電界発光素子等の設計の自由度を拡大することができる。
【0201】
〔III.架橋基を有する電子受容性化合物の使用〕
架橋基を有する電荷輸送性化合物が高分子化合物(以下、電荷輸送性高分子化合物と記載する。)であり、電子受容性化合物が低分子化合物であって架橋基を有する場合、電荷輸送性高分子化合物の架橋基の架橋開始温度と、電子受容性化合物の架橋基の架橋開始温度が異なることが好ましい。
【0202】
本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)により形成される電荷輸送膜中では、正孔輸送性化合物の一部分と電子受容性化合物とがイオン結合している部位が生じている。正孔輸送性化合物の一部分と電子受容性化合物とがイオン結合している部位は、電子受容性化合物がイオン結合していない正孔輸送性化合物の他の部分と比べて嵩高い構造となる。そのため、電子受容性化合物が存在する部位と存在しない部位との間で、正孔輸送性化合物に応力が発生しやすいと考えられる。
【0203】
この応力は、加熱時は熱による正孔輸送性化合物の大きな熱運動によって緩和されるが、常温に戻った際、電子受容性化合物が介在している周囲では正孔輸送性化合物に応力が残存すると考えられる。
【0204】
正孔輸送性化合物の架橋基と電子受容性化合物の架橋基が同じ場合、これらの原因による残存応力が、通電時の電荷の局在化を招いて発光効率向上を妨げる要因となったり、正孔輸送性化合物の化学的安定性が低下して駆動寿命の長寿命化を妨げる要因になったりする可能性があると考えられる。
【0205】
ここで、相対的に架橋開始温度の低い架橋基を有する化合物と、相対的に架橋開始温度の高い架橋基を有する化合物との混合系について考える。この混合系を、架橋開始温度の高い架橋基を架橋可能な温度下で架橋する場合、一般的に、架橋反応は温度が高いほど起こりやすいので、一定の温度下においても相対的に架橋開始温度の低い架橋基どうしの方がより反応しやすいと考えられる。
【0206】
従って、電子受容性化合物の架橋基の架橋開始温度の方が正孔輸送性化合物の架橋基の架橋開始温度よりも低い場合は、電子受容性化合物同士の架橋反応が先に開始すると考えられる。このとき、膜中での電子受容性化合物の存在比は正孔輸送性化合物よりも少ないため、互いに架橋可能な電子受容性化合物が近傍に存在する確率が低く、電子受容性化合物同士が架橋したドメインは微小なものになると考えられる。そして、未反応の単分子の電子受容性化合物の存在比が小さくなり、正孔輸送性化合物が架橋する際、正孔輸送性化合物が電子受容性化合物によって架橋される比率が小さくなり、膜中に応力が残存しにくいと考えられる。
【0207】
逆に、正孔輸送性化合物の架橋基の架橋開始温度の方が電子受容性化合物の架橋基の架橋開始温度より低い場合、正孔輸送性化合物同士の架橋反応が先に開始すると考えられる。このとき、電子受容性化合物が適度に拡散することにより、正孔輸送性化合物の熱運動による応力を緩和すると考えられる。そのため、正孔輸送性化合物同士が架橋する際、電子受容性化合物によって固定されないため、膜中に応力が残存しにくいと考えられる。また、正孔輸送性化合物同士が先に応力を緩和しつつ架橋するため、電子受容性化合物の架橋基の架橋開始温度の方が正孔輸送性化合物の架橋基の架橋開始温度よりも低い場合よりも、より安定であると考えられる。
【0208】
以上の様に、正孔輸送性化合物の架橋基と電子受容性化合物の架橋基の架橋開始温度が異なる場合、膜中に応力が残存しにくく、有機電界発光素子の発光効率の向上効果や、駆動寿命の向上効果があると考えられる。そして、正孔輸送性化合物の架橋基の架橋開始温度の方が電子受容性化合物の架橋基の架橋開始温度より低い場合の方が、この効果は高いと考えられる。
【0209】
さらに、正孔輸送性化合物が高分子化合物である場合、この効果は顕著であると考えられる。その理由は、高分子化合物は加熱時の高温による分子の熱運動が大きく、架橋によって固定される分子の形状が複雑になり、常温に戻った際の残留応力が大きいと考えられる。したがって、前述の効果が高いと考えられる。
【0210】
架橋開始温度とは、架橋基同士が温度上昇とともに結合を開始する温度のことである。架橋開始温度の好ましい範囲は、通常100℃以上400℃以下であり、化合物の安定性の面からより好ましくは130℃以上350℃以下であり、特に好ましくは140℃以上300℃以下であり、最も好ましくは150℃以上280℃以下である。
【0211】
架橋開始温度は、DSC法にて測定する。DSC法では、横軸を温度、縦軸を発熱量とし、サンプルを一定速度で昇温した時の発熱量をプロットしたチャートが得られる。
図2にチャートの模式図を示す。このチャートにおいて、発熱前の領域をベースラインとし、発熱量が一定の割合で増加している領域を架橋反応中のラインとみなし、これら二つのラインを外挿して交わる点の温度を架橋開始温度として求める。
【0212】
本発明における架橋基の架橋開始温度としては、後述の通り、モデル化合物に当該架橋基を設けた化合物を用いて架橋開始温度を測定したものを当該架橋基の架橋開始温度とみなすこととする。
【0213】
本発明の電荷輸送膜用組成物は、後述するように、湿式成膜法によって薄膜形成、乾燥した後、加熱処理をおこなう。本発明の電荷輸送膜用組成物に架橋基を有する電荷受容性化合物または架橋基を有する電荷輸送性化合物が含まれている場合、前記加熱処理時に架橋反応が起こる。電荷輸送性高分子化合物の架橋基の架橋開始温度と、電子受容性化合物の架橋基の架橋開始温度が異なる場合、高い方の架橋開始温度をTH(℃)、低い方の架橋開始温度をTL(℃)、前記加熱処理時の温度をTB(℃)とした場合、
【0214】
THとTLの関係は、TH-TL≧10であることが好ましく、TH-TL≧20であることがさらに好ましい。
また、TH、TLおよびTBの関係は、TL<TBであることが好ましく、TL<TB≦TL+10であることがさらに好ましく、TL<TB≦THであることが一層好ましい。
この理由は、TBがTLより高いと、架橋温度が低い方の化合物の方がより架橋反応しやすいためである。また、TBがTL+10℃以下であれば、架橋温度が高い方の架橋反応は架橋反応が低い方の架橋反応よりも反応が緩やかであるため、前述の効果が得られやすい。また、架橋開始温度以下であっても、
図2に示すとおりDSC測定では発熱が観測されるため、架橋基の一部は緩やかに架橋反応していると考えられる。これは、系の温度が架橋の活性化エネルギー以下であっても、活性化エネルギーを超える状態にある架橋基が確率的には若干存在するためである。そのため、TBがTH以下であっても、架橋開始温度が高い架橋基も架橋反応が進行するが、その反応は緩やかであるため、架橋温度が低い方の架橋基の方が先に架橋反応が進行し、前述の効果が得られやすいと考えられる。
【0215】
〔IV.有機電界発光素子〕
次に、本発明の有機電界発光素子について、
図1(a)~
図1(c)を参照しながら説明する。なお、
図1(a)~
図1(c)は何れも、本発明の一実施形態に係る有機電界発光素子の構成の例を模式的に示す断面図である。
【0216】
図1(a)に示された有機電界発光素子100aは、基板101と、基板101上に順次積層された陽極102と、正孔注入層103と、発光層105と、陰極107とを有する。有機電界発光素子100aは、電気エネルギーにより発光する。
基板101は、有機電界発光素子100aの支持体である。基板101を形成する材料としては、石英板、ガラス板、金属板、金属箔、プラスチックフィルム及びプラスチックシート等が挙げられる。これらの中でも、ガラス板、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明なプラスチックシートが好ましい。なお、基板101にプラスチックを用いる場合には、基板101の片面又は両面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を高めることが好ましい。
【0217】
陽極102は、基板101上に設けられ、正孔注入層103への正孔注入の役割を果たすものである。陽極102の材料としては、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウム及び/又はスズの酸化物等の導電性の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック;ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等が挙げられる。陽極102の形成方法としては、通常、基板101上へのスパッタリング、真空蒸着等;銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子又は導電性高分子微粉末等を適当なバインダー樹脂溶液中に分散させて基板101上に塗布する方法;電解重合により基板101上に直接導電性重合薄膜を形成する方法;基板101上に導電性高分子溶液を塗布する方法等が挙げられる。陽極102は、可視光の透過率が通常60%以上、特に80%以上であることが好ましい。陽極102の厚さは、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下であり、通常5nm以上、好ましくは10nm以上である。
【0218】
正孔注入層103は、陽極102の上に設けられる。
正孔注入層103は、前述の〔I.電子受容性化合物〕に記載の電子受容性化合物と、前述の〔II-1-1.正孔輸送性化合物〕に記載の正孔輸送性化合物とを含む層であることが好ましい。この場合、正孔注入層103における電子受容性化合物の含有量は、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、また、通常50質量%以下、好ましくは25質量%以下の範囲である。なお、ここで規定する電子受容性化合物の含有量の範囲は、電子受容性化合物を含有する層が有機電界発光素子における正孔注入層以外の層として設けられた場合も同様である。
【0219】
本発明における架橋基を有する電子受容性化合物を用いた正孔注入層103上には、
図1(a)に示すように直接発光層105を形成することが好ましい。通常、電子受容性化合物を含む層に接して発光層を形成すると、電子受容性化合物または電子受容性化合物のアニオンが発光層内にごく微量拡散し、発光層内のエキシトンがクエンチされ、発光効率が低下し、そのため、ある輝度で発光させるためには高電圧化し、駆動寿命が低下する恐れがある。
しかしながら、本発明の架橋基を有する電子受容性化合物を用いた正孔注入層内では、架橋によって電子受容性化合物が固定されているため、発光層内には拡散せず、発光効率が向上し、駆動電圧が上昇せず、むしろ低下し、さらに駆動寿命が向上すると考えられる。
【0220】
又は、正孔注入層103は、前述の〔II-2-2.電荷輸送性イオン化合物〕に記載の電荷輸送性イオン化合物を含む層であることが好ましい。この場合、正孔注入層103における本発明の電荷輸送性イオン化合物の含有量は、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、また、通常99質量%以下、好ましくは95質量%以下の範囲である。なお、ここで規定する電荷輸送性イオン化合物の含有量の範囲は、電荷輸送性イオン化合物を含有する層が有機電界発光素子における正孔注入層以外の層として設けられた場合も同様である。
【0221】
ここで、本発明の電荷輸送性イオン化合物及び電子受容性化合物は、前述の如く、耐熱性に優れ、高い電子受容性を有するとともに、適度な昇華性を有し、かつ溶媒への溶解性が高いため、真空蒸着法による層形成にも、湿式成膜法による層形成にも対応可能である。
【0222】
真空蒸着法による層形成の場合には、電子受容性化合物と正孔輸送性化合物とを真空容器内に設置された別々のるつぼに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、各々のるつぼを加熱して、電子受容性化合物と正孔輸送性化合物を独立に蒸発量を制御して蒸発させ、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極102上に正孔注入層103を形成させる。
又は、電荷輸送性イオン化合物を真空容器内に設置されたるつぼに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して、蒸発量を制御して蒸発させ、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極102上に正孔注入層103を形成させる。好ましくは、正孔輸送性化合物を電荷輸送性イオン化合物とは別のるつぼに入れ、蒸発量を制御して蒸発させて、陽極102上に電荷輸送性イオン化合物と正孔輸送性化合物からなる正孔注入層103を形成させる。
【0223】
湿式成膜法による層形成の場合は、電子受容性化合物と正孔輸送性化合物の所定量を、必要により電荷のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤を添加して、塗布溶液、即ち、電荷輸送膜用組成物(A)を調製し、スピンコート法やディップコート法等の湿式成膜法により陽極102上に塗布し、乾燥して、正孔注入層103を形成させる。
又は、電荷輸送性イオン化合物の所定量を、必要により正孔輸送性化合物や電荷のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤を添加して、塗布溶液、即ち、電荷輸送膜用組成物(B)を調製し、スピンコート法やディップコート法等の湿式成膜法により陽極102上に塗布し、乾燥して、正孔注入層103を形成させる。
【0224】
このようにして形成される正孔注入層103の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0225】
発光層105は、正孔注入層103上に設けられ、電界を与えられた電極間において陰極107から注入された電子と正孔注入層103から輸送された正孔を効率よく再結合し、かつ、再結合により効率よく発光する材料から形成される。発光層105を形成する材料としては、従来公知の材料を適宜用いればよいが、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、ビススチリルベンゼン誘導体、ビススチリルアリーレン誘導体、(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体、シロール誘導体等の低分子発光材料;ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]、ポリ(3-アルキルチオフェン)、ポリビニルカルバゾール等の高分子化合物に発光材料と電子移動材料を混合した系等が挙げられる。
【0226】
また、例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体をホスト材料として、ルブレン等のナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、ペリレン等の縮合多環芳香族環等を、ホスト材料に対して通常0.1質量%以上、10質量%以下の範囲の量となるようにドープすることにより、有機電界発光素子の発光特性、特に駆動安定性を大きく向上させることができる。
【0227】
これらの材料は、正孔注入層103上に、真空蒸着法又は湿式成膜法により正孔注入層103上に塗布して薄膜形成される。このようにして形成される発光層105の膜厚は、通常10nm以上、好ましくは30nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0228】
陰極107は、発光層105に電子を注入する役割を果たす。陰極107として用いられる材料は、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム-銀合金、マグネシウム-インジウム合金、アルミニウム-リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。陰極107の膜厚は通常、陽極102と同様の範囲である。低仕事関数金属から成る陰極107を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは素子の安定性を増す上で有効である。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。更に、陰極107と発光層105との界面にLiF、MgF2、Li2O等の極薄絶縁膜(膜厚0.1~5nm)を挿入し、陰極とすることにより、有機電界発光素子の効率を向上させることができる。
【0229】
図1(b)に示された有機電界発光素子100bは、有機電界発光素子の発光特性を向上させるために、正孔注入層103と発光層105との間に正孔輸送層104が設けられ、その他の層は、
図1(a)に示した有機電界発光素子100aと同様な構成を有する。正孔輸送層104の材料としては、正孔注入層103からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが必要である。そのためには、適度なイオン化ポテンシャルを有し、しかも正孔移動度が大きく、更に安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。また、発光層105と直接接する層であるために、発光を消光する物質が含まれていないことが望ましい。
【0230】
正孔輸送層104を形成するために用いられる材料としては、本発明の電荷輸送膜用組成物及び有機電界発光素子に含まれる正孔輸送性化合物として例示した化合物と同様なものが挙げられる。正孔輸送層104は、これらの正孔輸送性化合物を湿式成膜法又は真空蒸着法により正孔注入層103上に積層することにより形成される。このようにして形成される正孔輸送層104の膜厚は、通常10nm以上、好ましくは30nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0231】
図1(c)に示された有機電界発光素子100cは、発光層105と陰極107との間に正孔阻止層108及び電子輸送層106が設けられ、その他の層は、
図1(b)に示した有機電界発光素子100bと同様の構成を有する。
【0232】
正孔阻止層108は、発光層105と後述の電子輸送層106との間に設けられる。正孔阻止層108は、陽極102から移動してくる正孔が陰極107に到達するのを阻止する役割と、陰極107から注入された電子を効率よく発光層105に輸送する役割とを有する。正孔阻止層108を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層6の材料としては、例えば、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2-メチル-8-キノラト)アルミニウム-μ-オキソ-ビス-(2-メチル-8-キノリノラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物、3-(4-ビフェニルイル)-4-フェニル-5(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール等のトリアゾール誘導体、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体などが挙げられる。更に、2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層108の材料として好ましい。正孔阻止層108の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上であり、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0233】
電子輸送層106に用いられる化合物には、陰極107からの電子注入が容易で、電子の輸送能力が更に大きいことが要求される。このような電子輸送性材料としては、例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体、オキサジアゾール誘導体又はそれらをポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の樹脂に分散した系、フェナントロリン誘導体、2-t-ブチル-9,10-N,N’-ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。電子輸送層106の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上である。但し、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0234】
なお、
図1(a)~
図1(c)に示した有機電界発光素子100a~100cは、図示のものに限定されるものではない。例えば、
図1(a)~
図1(c)に示したものとは逆の構造、即ち、基板101上に陰極107、発光層105、正孔注入層103、陽極102の順に積層することも可能である。また、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、
図1(a)~
図1(c)に示した各層の間に更に別の任意の層を設けたり、任意の二以上の層を一体に設けたりすることも可能である。更に、少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に有機電界発光素子を設けることも可能である。
【0235】
なお、本発明の電荷輸送性イオン化合物を含有する層は、陽極102に接する正孔注入層103である必要はなく、陽極102と陰極107との間に設けられるいずれの層でもよいが、陽極102と発光層105との間、即ち、正孔注入層103又は正孔輸送層104であることが好ましく、正孔注入層103であることが更に好ましい。
【0236】
本発明の電荷輸送膜用組成物を用いて、湿式成膜法により形成した薄層を有する有機電界発光素子100a~100cの製造方法について、更に詳細に説明する。有機電界発光素子100a~100cは、基板101上へのスパッタリング、真空蒸着等により陽極102を形成し、形成された陽極102の上層に、正孔注入層103及び正孔輸送層104の少なくとも1層を、本発明の電荷輸送膜用組成物を用いて湿式成膜法により形成し、形成された正孔注入層103及び/又は正孔輸送層104の上層に、真空蒸着法又は湿式成膜法により発光層105を形成し、形成された発光層105の上層に、必要に応じて、真空蒸着法又は湿式成膜法により正孔阻止層108及び/又は電子輸送層106を形成し、形成された電子輸送層106上に陰極107を形成することにより製造される。
【0237】
正孔注入層103及び正孔輸送層104の少なくとも1層を、湿式成膜法により形成する場合は、通常、電子受容性化合物及び正孔輸送性化合物の所定量に、必要により電荷のトラップにならないバインダー樹脂又は塗布性改良剤等の添加剤等を添加し、溶解して塗布液、即ち、電荷輸送膜用組成物を調製し、スピンコート法やディップコート法等の湿式成膜法により陽極102上に塗布し、乾燥し、正孔注入層103及び正孔輸送層104の少なくとも1層を形成する。
【0238】
バインダー樹脂の含有量は、正孔移動度の面から、これらの層に対して通常50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、実質的にバインダー樹脂を含有しない状態が最も好ましい。
【0239】
また、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)を用いて形成される薄膜は、乾燥工程の後、更に加熱工程を経ることにより、得られる膜に含まれる分子のマイグレーションを活性化し、熱的に安定な薄膜構造に到達させることができ、これにより膜の表面平坦性が向上するとともに、素子劣化の原因となる薄膜中に含まれる水分の量を低減するため好ましい。
【0240】
具体的には、湿式成膜法による薄膜形成及び乾燥工程の後、加熱処理による表面平坦化効果及び脱水効果を十分に得るために、通常60℃以上、中でも90℃以上、更には120℃以上、特に150℃以上、また、通常350℃以下の温度で処理することが好ましい。但し、該組成物中に正孔輸送性化合物が含まれ、正孔輸送性化合物の結晶性が高い場合、加熱によって結晶化が進行し膜の表面平坦性が低下するおそれがあるため、正孔輸送性化合物のガラス転移温度Tgより低い温度、好ましくは10℃以上低い温度で加熱することが好ましい。一方、該組成物中に含まれる正孔輸送性化合物の非晶質性が高い場合、正孔輸送性化合物分子のマイグレーションがより活性化すると考えられ、膜の表面平坦性がより向上するために、正孔輸送性化合物のガラス転移温度Tg以上の温度で処理することが好ましい。
【0241】
なお、本発明において、正孔輸送性化合物の結晶性が高いとは、DSC測定においてガラス転移温度Tg以上、350℃以下の範囲で結晶化温度Tcが観測されること、又は、DSC測定において350℃以下の範囲で明確なガラス転移温度Tgが観測されないことをいう。一方、正孔輸送性化合物の非晶質性が高いとは、DSC測定においてガラス転移温度Tg以上、350℃以下の範囲で結晶化温度Tcが観測されないことをいう。
【0242】
加熱時間は、通常1分以上、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、また、通常8時間以下、好ましくは3時間以下、より好ましくは90分以下の範囲である。
この様に、本発明の電荷輸送膜用組成物(A)、(B)を用いて湿式成膜法により形成される層は、表面が平滑なものとなるため、ITO等の陽極102の表面粗さに起因する素子作製時の短絡の問題を解消することができる。
【0243】
電子受容性化合物と電荷輸送性化合物を含有する電荷輸送膜に用いられる電荷輸送性化合物としては、前述の正孔輸送性化合物として例示したものを使用することが出来、好ましいものも前記と同様である。また、適宜、電子受容性化合物と電荷輸送性化合物以外のものを含んでいてもよい。この電荷輸送膜は、抵抗率が低く、有機電界発光素子に用いられることが好ましいが、その他、電子写真感光体、光電変換素子、有機太陽電池、有機整流素子等の各種用途に使用できる。
【0244】
通常、該電荷輸送膜は、該電子受容性化合物と電荷輸送性化合物を含有する電荷輸送膜用組成物を用いて、湿式成膜法により形成されることが好ましい。該組成物に含有される電荷輸送性化合物は、前記と同じである。また、湿式成膜法により形成される場合には、該組成物は、通常溶媒を含有するものであって、溶媒としては、前述の電荷輸送性イオン化合物を含有する電荷輸送膜用組成物に使用する溶媒として例示したものと同様である。尚、該組成物は、電子受容性化合物、電荷輸送性化合物及び溶媒以外のものを含んでいてもよい。
【実施例】
【0245】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその趣旨に反しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0246】
[合成例1(B-1)の合成]
リチウムテトラキス(ノナフルオロビフェニル)ホウ素(89.5g)の塩化メチレン(900ml)溶液に塩化クミルトリルヨードニウム(26g)を添加し、室温下で5時間反応させた。塩化メチレン層を精製水で数回洗浄し、活性炭処理後、減圧下で濃縮した。残渣を再結晶し、目的物(B-1)(31g)を得た。
合成した化合物の構造はMS分析、NMRにより同定した。MS分析の測定条件は以下の通りである。
MS分析測定条件:イオン化法:ESI(+/-)
カチオン:C16H18I+(337.0)
アニオン:C48BF36
-(1271.0)
【0247】
[合成例2(B-18)の合成]
3-ビシクロ[4,2,0]オクタ-1,3,5-トリエンボロン酸(30.3g)、1,4-ジブロモ-2,3,5,6-テトラフルオロベンゼン(125.9g)、1,2-ジメトキシエタン(1L)、2.0M リン酸三カリウム水溶液(0.26L)の混合溶液をアルゴンで脱気した。その後、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)(7.3g)を添加し、内温73℃にて、7.5時間加熱撹拌した。
【0248】
室温迄放冷後、精製水(0.25L)を添加し、トルエン(1.8L)で抽出した。有機層を精製水(0.5L)、飽和塩化ナトリウム水溶液(0.5L)で順次洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、3-(4-ブロモ-2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)ビシクロ[4,2,0]オクタ-1,3,5-トリエン(45.5g)を得た。
【0249】
アルゴン気流下、3-(4-ブロモ-2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)ビシクロ[4,2,0]オクタ-1,3,5-トリエン(44.4g)の乾燥ジエチルエーテル(760mL)溶液を内温-74℃まで冷却し、1.65M n-ブチルリチウム-n-ヘキサン溶液(82.1mL)を、50分間かけて滴下し、1時間10分間撹拌した。次いで、1M 三塩化ほう素-ヘプタン溶液(26.8mL)を18分間かけて滴下した。2時間20分間かけ、内温10℃まで昇温撹拌した後、室温にて15時間撹拌した。精製水(80mL)を滴下し暫く撹拌した後、油水を分離し、水層をジエチルエーテル(100mL)で抽出した。有機層を合わせて減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、リチウムテトラキス(4-(ビシクロ[4,2,0]オクタ-1,3,5-トリエン-3-イル)-2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)ボレート(17.7g)を得た。
【0250】
アルゴン気流下、リチウムテトラキス(4-(ビシクロ[4,2,0]オクタ-1,3,5-トリエン-3-イル)-2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)ボレート(17.6g)のメタノール(230mL)溶液に、内温14℃で、塩化クミルトリルヨードニウム(6.40g)を6分間かけて分割投入した。内温17℃にて2時間撹拌後、減圧下にメタノールを留去した。ジクロロメタン(150mL)に再溶解させ、無機塩を濾去した後、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し、目的物(B-18)(19.77g)を得た。合成した化合物の構造はNMRにより同定した。
【0251】
[合成例3(B-20)の合成]
アルゴン気流下、リチウムテトラキス[4’-(1,2-ジヒドロシクロブタ[a]ナフタレン-4-イル)-2,2’3,3’,5,5’,6,6’-オクタフルオロ-1,1’-ビフェニル-4-イル]ボレート(25.6g)、ジクロロメタン(80mL)のメタノール(330mL)溶液に、内温8℃にて撹拌下、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムクロリド(4.24g,1.00eq.)をゆっくり分割投入した。内温8~9℃にて2時間撹拌後、減圧下にメタノールを留去した。ジクロロメタン(150mL)に再溶解し、無機塩を濾去した後、濾液を濃縮した。
残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ジクロロメタン=1/2~1/4)で精製し、目的物(B-20)(20.9g,収率85.6%)を得た。合成した化合物の構造はNMRにより同定した。
【0252】
[合成例4(B-23)の合成]
アルゴン雰囲気下、リチウムテトラキス[2,2’3,3’,5,5’,6,6’-オクタフルオロ-3’’-5’’-ビス(トリフルオロメチル)[1,1’:4’,1’’]ターフェニル-4-イル]ボレート(530mg,0.2132mmol)のジクロロメタン(1mL)、メタノール(12mL)溶液に、氷冷にて撹拌下、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムクロリド(79.5mg,1.00eq.)をゆっくり投入した。室温にて2時間撹拌後、減圧下にメタノールを留去した。ジクロロメタン(5mL)に再溶解し、無機塩を濾去した後、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ジクロロメタン=1/2~1/4)で精製し、目的物(B-23)(395mg,収率77.6%)を得た。合成した化合物の構造はNMRにより同定した。
【0253】
[合成例5(B-24)の合成]
アルゴン雰囲気下、リチウムテトラキス[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート(17.6g)、ジクロロメタン(90mL)、メタノール(350mL)の溶液に、氷冷にて撹拌下、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムクロリド(7.40g,1.00eq.)をゆっくり投入した。室温にて4時間撹拌後、減圧下にメタノールを留去した。ジクロロメタンに再溶解し、無機塩を濾去した後、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ジクロロメタン=1/1、ジクロロメタン、アセトニトリル)で数回精製し、残渣をn-ペンタンで懸洗し、目的物(B-24)(15.9g,収率65%)を得た。
【0254】
合成した化合物の構造はMS分析、NMRにより同定した。MS分析の測定条件は以下の通りである。
MS分析測定条件:イオン化法:ESI(+/-)
カチオン:C16H18I+(337.0)
アニオン:C28BF28
-(879.0)
【0255】
[合成例6(B-28)の合成]
アルゴン気流下、2-(1,2-ジヒドロシクロブタ[a]ナフタレン-4-イル)-4,4,5,5,-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン(9.10g,32.48mmol)、4,4’-ジブロモオクタフルオロ-1,1’-ビフェニル(29.80g,2.0eq.)、1,2-ジメトキシエタン(162mL)の溶液に、2.0M リン酸三カリウム水溶液(40.6mL,2.50equiv.)を室温で添加し、40度でアルゴン置換した。その後、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(2.40g,6.4mol%)を加え、内温72~74℃にて、9時間加熱撹拌した。
【0256】
室温へ冷却後、トルエン(500mL)と精製水(150mL)を注ぎ、暫く撹拌後、油水を分離し、水層をトルエン(500mL)で抽出した。2つの有機層を合わせ、精製水(200mL)、brine(200mL)で順次洗浄後、無水硫酸マグネシウム乾燥し、濾過後、濾液を濃縮した。
【0257】
残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製し、4’-ブロモ-2,2’3,3’,5,5’,6,6’-オクタフルオロ-4-(1,2-ジヒドロシクロブタ[a]ナフタレン-4-イル)[1,1’]-ビフェニル(10.11g,収率58.8%)を得た。
【0258】
アルゴン雰囲気下、4-ブロモ-2,3,5,6-テトラフルオロベンゾトリフルオリド(1.00g,3.37mmol,3.18eq.)、乾燥ジエチルエーテル(10mL)の溶液を内温-74℃まで冷却後、1.6M n-ブチルリチウム-n-ヘキサン溶液(2.0mL,3.20equiv.)を内温-74~-68℃にて滴下し、更に1時間撹拌した。次いで、1M 三塩化ほう素-ヘプタン溶液(1.1mL,1.06mmol)を内温-72~-69℃にて滴下し、トリス[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]ボランの溶液を得た。
【0259】
アルゴン雰囲気下、4’-ブロモ-2,2’3,3’,5,5’,6,6’-オクタフルオロ-4-(1,2-ジヒドロシクロブタ[a]ナフタレン-4-イル)[1,1’]-ビフェニル(561mg,1.06mmol)の乾燥ジエチルエーテル(11mL)溶液を内温-75℃まで冷却後、1.6M n-ブチルリチウム-n-ヘキサン溶液(700uL,1.06equiv.)を内温-75~-68℃にて滴下し、更に1時間撹拌した。得られたリチオ体溶液を先に調製したトリス[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]ボランの溶液へ内温-77~-66℃で滴下した。反応液を室温で一夜撹拌した後、精製水(5mL)でクエンチし、油水を分離し、水層をジエチルエーテルで抽出した。2つのエーテル層を合わせ、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/1~1/0~メタノール/酢酸エチル=1/49で溶出)でカラム精製し、リチウム[4’-(1,2-ジヒドロシクロブタ[a]ナフタレン-4-イル)-2,2’,3,3’,5,5’,6,6’-オクタフルオロ-1,1’-ビフェニル-4-イル]-トリス[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート(0.77g,41.4%)を得た。
【0260】
アルゴン雰囲気下、リチウム[4’-(1,2-ジヒドロシクロブタ[a]ナフタレン-4-イル)-2,2’,3,3’,5,5’,6,6’-オクタフルオロ-1,1’-ビフェニル-4-イル]-トリス[2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート(1.350g,0.8245mmol)のジクロロメタン(4mL)、メタノール(15mL)溶液に、氷冷にて撹拌下、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムクロリド(307mg,1.00equiv.)をゆっくり投入した。室温にて2時間撹拌後、減圧下にメタノールを留去した。ジクロロメタン(9mL)に再溶解し、無機塩を濾去した後、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/1~1/0、メタノール/酢酸エチル=1/49、アセトニトリル)で数回精製し、目的物(B-28)(630mg,収率52.7%)を得た。
【0261】
合成した化合物の構造はMS分析、NMRにより同定した。MS分析の測定条件は以下の通りである。
MS分析測定条件:イオン化法:ESI(+/-)
カチオン:C16H18I+(337.0)
アニオン:C45BF29
-(1111.0)
【0262】
[合成例7(B-19)の合成]
アルゴン雰囲気下、化合物7(3.00g)、ジクロロメタン(11mL)、メタノール(45mL)を仕込み、氷冷にて撹拌下、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムクロリド(653mg,1.00equiv.)をゆっくり投入した。室温にて2時間撹拌後、減圧下にメタノールを留去した。ジクロロメタン(15mL)に再溶解し、無機塩を濾去した後、濾液を濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/3~1/0、メタノール/酢酸エチル=1/49、アセトニトリル)で数回精製し、目的物(B-19)(1.722g,収率58.6%)を得た。合成した化合物の構造はMS分析、NMRにより同定した。MS分析の測定条件は以下の通りである。
MS測定条件:イオン化法:ESI(+/-)
カチオン:C16H18I+(337.0)
アニオン:C63H21BF29
-(1339.0)
【0263】
[実施例1]
図1(c)に示した有機電界発光素子100cと同様の層構成を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を130nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。このようにITOをパターン形成した基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
まず、下記の構造式(HI-1)を有する電荷輸送性高分子化合物100質量部と、(B-1)の構造を有する電子受容性化合物を電荷輸送性高分子化合物に対して0.2mol/kgとなる量を安息香酸エチルに溶解し、5000質量部の溶液を調製した。
この溶液を、大気中で上記基板上にスピンコートし、大気中クリーンオーブン230℃、60分で乾燥させ、膜厚36nmの均一な薄膜を形成し、正孔注入層とした。
次に、下記の構造式(HT-1)を有する電荷輸送性高分子化合物100質量部を、シクロヘキシルベンゼンに溶解させ、2.5wt%の溶液を調製した。
この溶液を、上記正孔注入層を塗布成膜した基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで230℃、60分間乾燥させ、膜厚40nmの均一な薄膜を形成し、正孔輸送層とした。
【0264】
【0265】
引続き、発光層の材料として、下記の構造式(H-1)を45質量部、下記の構造式(H-2)を55質量部、および下記の構造式(D-1)を20質量部秤量し、シクロヘキシルベンゼンに溶解させ6wt%の溶液を調製した。
この溶液を、上記正孔輸送層を塗布成膜した基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで130℃、20分間乾燥させ、膜厚56nmの均一な薄膜を形成し、発光層とした。
【0266】
【0267】
【0268】
発光層までを成膜した基板を真空蒸着装置に設置し、装置内を2×10-4Pa以下になるまで排気した。
次に、下記の構造式(HB-1)に示す化合物を、発光層上に真空蒸着法にて1Å/秒の速度で成膜し、膜厚10nmの正孔阻止層を形成した。
続いて、電子輸送層の材料として下記の構造式(E-1)に示すアルミニウムの8-ヒドロキシキノリン錯体をルツボで加熱して蒸着を行った。
蒸着速度は1Å/秒で、膜厚10nmの膜を正孔阻止層上に積層して電子輸送層を形成した。
【0269】
【0270】
【0271】
ここで、電子輸送層までの成膜を行った基板を一度真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプとは直交するように基板に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が4×10-4Pa以下になるまで排気した。次に、陰極として、先ず、フッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.15Å/秒で、0.5nmの膜厚で電子輸送層上に蒸着した。さらに、アルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度1~8.6Å/秒で膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極を形成した。以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
【0272】
[比較例1]
正孔注入層の電子受容性化合物を(B-1)から下記(AC-1)に変えたこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0273】
【0274】
得られた実施例1および比較例1の有機電界発光素子を、輝度1000cd/m2で発光させたときの電圧(V)、電流効率(cd/A)、電力効率(lm/W)を測定し、電圧(V)は比較例1の値を引いた相対値(V)を、電流効率、電力効率は、比較例1を100としたときの相対値を下記の表1に記した。表1の結果に表すが如く、(AC-1)で作成した有機電界発光素子に比較して、本発明の電子受容性化合物(B-1)を正孔注入層材料に使用した有機電界発光素子では、より低電圧駆動が可能となり、さらに効率が向上することが判った。
【0275】
【0276】
[実施例2]
図1(c)に示した有機電界発光素子100cと同様の層構成を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を70nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。このようにITOをパターン形成した基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
まず、下記の構造式(HI-2)を有する電荷輸送性高分子化合物100質量部と、(B-23)の構造を有する電子受容性化合物20質量部を安息香酸ブチルに溶解し、2.0wt%の溶液を調製した。
この溶液を、大気中で上記基板上にスピンコートし、大気中クリーンオーブン230℃、60分で乾燥させ、膜厚30nmの均一な薄膜を形成し、正孔注入層とした。
次に、構造式(HT-1)を有する電荷輸送性高分子化合物100質量部を、シクロヘキシルベンゼンに溶解させ、1.5wt%の溶液を調製した。
この溶液を、上記正孔注入層を塗布成膜した基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで230℃、60分間乾燥させ、膜厚20nmの均一な薄膜を形成し、正孔輸送層とした。
【0277】
【0278】
引続き、発光層の材料として、下記の構造式(H-3)を22.5質量部、下記の構造式(H-4)を22.5質量部、下記の構造式(H-5)を55質量部、および下記の構造式(D-2)を30質量部秤量し、シクロヘキシルベンゼンに溶解させ5.0wt%の溶液を調製した。
この溶液を、上記正孔輸送層を塗布成膜した基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで120℃、20分間乾燥させ、膜厚60nmの均一な薄膜を形成し、発光層とした。
【0279】
【0280】
【0281】
【0282】
【0283】
発光層までを成膜した基板を真空蒸着装置に設置し、装置内を2×10-4Pa以下になるまで排気した。
次に、構造式(H-4)に示す化合物を発光層上に真空蒸着法にて1Å/秒の速度で成膜し、膜厚5nmの正孔阻止層を形成した。
続いて、電子輸送層の材料として下記の構造式(E-2)に示す化合物を正孔阻止層上に真空蒸着法にて1Å/秒の速度で成膜し、膜厚5nmの電子輸送層を形成した。
【0284】
【0285】
ここで、電子輸送層までの成膜を行った基板に、実施例1と同様にして陰極を形成し、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
【0286】
[実施例3]
正孔注入層の電子受容性化合物を(B-23)から(B-24)へ変えたこと以外は、実施例2と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0287】
[比較例2]
正孔注入層の電子受容性化合物を(B-23)から(AC-1)へ変えたこと以外は、実施例2と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0288】
得られた実施例2、3および比較例2の有機電界発光素子を、輝度2500cd/m2で発光させたときの電流効率(cd/A)と、15mA/cm2で定電流駆動させた際に、初期輝度から97%の値となるまでの時間(h)を駆動寿命として測定し、電流効率および駆動寿命について、比較例2を100とした時の相対値を、それぞれ相対電流効率および相対駆動寿命として下記の表2に記した。表2の結果に表すが如く、比較例2の有機電界発光素子に比較して、本発明の電子受容性化合物を正孔注入層材料に使用した有機電界発光素子では、電流効率、駆動寿命ともに向上することが判った。
【0289】
【0290】
[実施例4]
正孔注入層の電子受容性化合物を(B-24)から(B-19)へ変更し、発光層材料を(H-3),(H-4),(H-5)および(D-2)から下記構造式(H-6)および(D-3)へ変更し、発光層膜厚を60nmから30nmにしたこと以外は、実施例3と同様にして有機電界発光素子を作製した。なお、発光層は、(H-6)を100質量部、(D-3)を10質量部秤量し、シクロヘキシルベンゼンに溶解させ3.0wt%の溶液を調製し塗布した。
【0291】
【0292】
【0293】
[比較例3]
正孔注入層の電子受容性化合物を(B-19)から(AC-1)へ変更したこと以外は、実施例4と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0294】
得られた実施例4および比較例3の有機電界発光素子を10mA/cm2で発光させたときの電圧(V)、電流効率(cd/A)と、15mA/cm2で定電流駆動させた際に、初期輝度から95%の値となるまでの時間(h)を駆動寿命として測定し、電圧については比較例3の値を引いた電圧(V)を相対電圧(V)として、また、電流効率および駆動寿命については、比較例3を100とした時の相対値を、それぞれ相対電流効率および相対駆動寿命として下記の表3に記した。表3の結果に表すが如く、比較例3の有機電界発光素子に比較して、本発明の電子受容性化合物を正孔注入層材料に使用した有機電界発光素子では、より低電圧駆動が可能となり、さらに電流効率、駆動寿命ともに向上することが判った。
【0295】
【0296】
[実施例5]
正孔輸送層の電荷輸送性高分子化合物を(HT-1)から下記構造式(HT-2)へ変更し、発光層の溶液濃度を5.0wt%へ、膜厚を30nmから60nmにしたこと以外は、実施例4と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0297】
【0298】
[比較例4]
正孔注入層の電子受容性化合物を(B-19)から(AC-1)へ変更したこと以外は、実施例5と同様にして有機電界発光素子を作製した。
得られた実施例5および比較例4の有機電界発光素子を10mA/cm2で発光させたときの電圧(V)、電流効率(cd/A)と、20mA/cm2で定電流駆動させた際に、初期輝度から70%の値となるまでの時間(h)を駆動寿命として測定し、電圧については比較例4の値を引いた電圧(V)を相対電圧(V)として、また、電流効率および駆動寿命については、比較例4を100とした時の相対値を、それぞれ相対電流効率および相対駆動寿命として下記の表4に記した。表4の結果に表すが如く、比較例4の有機電界発光素子に比較して、本発明の電子受容性化合物を使用した有機電界発光素子では、より低電圧駆動が可能となり、さらに電流効率、駆動寿命ともに向上することが判った。
【0299】
【0300】
[実施例6]
正孔注入層の電子受容性化合物を(B-19)から(B-18)へ変更したこと以外は、実施例4と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0301】
[実施例7]
正孔注入層の電子受容性化合物を(B-18)から(B-20)へ、溶液濃度を3.0wt%へ変更したこと以外は、実施例6と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0302】
[比較例5]
正孔注入層の電子受容性化合物を(B-18)から(AC-1)へ変更したこと以外は、実施例6と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0303】
得られた実施例6、7および比較例5の有機電界発光素子を1000cd/m2で発光させたときの電流効率(cd/A)と、20mA/cm2で定電流駆動させた際に、初期輝度から70%の値となるまでの時間(h)を駆動寿命として測定し、電流効率および駆動寿命について、比較例5を100とした時の相対値を、それぞれ相対電流効率および相対駆動寿命として下記の表5に記した。表5の結果に表すが如く、比較例5の有機電界発光素子に比較して、本発明の電子受容性化合物を使用した有機電界発光素子では、電流効率、駆動寿命ともに向上することが判った。
【0304】
【0305】
[実施例8]
正孔注入層の電子受容性化合物を(B-23)から(B-1)へ、正孔輸送層の材料を(HT-1)から(HT-2)へ変更したこと以外は、実施例2と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0306】
[比較例6]
正孔注入層の電子受容性化合物を(B-1)から(AC-1)へ変更したこと以外は、実施例8と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0307】
得られた実施例8および比較例6の有機電界発光素子を2500cd/m2で発光させたときの電流効率(cd/A)と、15mA/cm2で定電流駆動させた際に、初期輝度から95%の値となるまでの時間(h)を駆動寿命として測定し、電流効率および駆動寿命について、比較例6を100とした時の相対値を、それぞれ相対電流効率および相対駆動寿命として下記の表6に記した。表6の結果に表すが如く、比較例6の有機電界発光素子に比較して、本発明の電子受容性化合物を使用した有機電界発光素子では、電流効率、駆動寿命ともに向上することが判った。
【0308】
【0309】
[実施例9]
図1(c)に示した有機電界発光素子100cと同様の層構成を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
まず、下記の構造式(HI-3)を有する電荷輸送性高分子化合物100質量部と、(B-18)の構造を有する電子受容性化合物20質量部を配合させ、安息香酸ブチルに溶解し、2.0wt%の溶液を調製した。
この溶液を、大気中で実施例2と同様に準備した基板上にスピンコートし、大気中クリーンオーブン220℃、30分で乾燥させ、膜厚30nmの均一な薄膜を形成し、正孔注入層とした。
次に、実施例5と同様に正孔輸送層を形成した。
【0310】
【0311】
引続き、溶液濃度を3.0wt%へ変更した以外は、実施例5と同様に発光層を形成した。
さらに、実施例2と同様にして、正孔阻止層、電子輸送層および陰極を形成し、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
【0312】
[実施例10]
正孔注入層の電子受容性化合物を(B-18)から(B-20)に変更し、電荷輸送性高分子化合物を(HI-3)から下記構造式(HI-4)へ変更した以外は、実施例9と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0313】
【0314】
[実施例11]
正孔注入層の電子受容性化合物を(B-18)から(B-20)へ変更した以外は、実施例9と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0315】
[実施例12]
正孔注入層の電荷輸送性高分子化合物を(HI-3)から(HI-4)へ変更した以外は、実施例9と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0316】
実施例9~12で得られた有機電界発光素子を輝度1000cd/m2で発光させたときの電流効率と、20mA/cm2で定電流駆動させた際に、初期輝度から70%の値となるまでの時間(h)を駆動寿命として測定し、電流効率および駆動寿命について、実施例12を100とした時の相対値を、それぞれ相対電流効率および相対駆動寿命として下記の表7に記した。
【0317】
[参考例]
式(7)および式(8)の架橋基を有するモデル化合物として、下記化合物(MC-1)および(MC-2)を国際公開第2015/133437号に記載の通り合成した。
【0318】
【0319】
【0320】
これらの化合物を、島津製作所社製DSC-50を用いて、化合物1の示差走査熱量測定(DSC)を行い、架橋開始温度を求めた。その結果、化合物(MC-1)が有する架橋基の架橋開始温度は202℃、化合物(MC-2)が有する架橋基の架橋開始温度は225℃であった。
【0321】
実施例9~12の正孔注入層の電荷輸送性高分子化合物および電子受容性化合物はいずれも架橋基を有しており、それらは前記式(7)で表される架橋基もしくは前記式(8)で表される架橋基である。式(7)で表される架橋基の架橋開始温度は225℃であり、式(8)で表される架橋基の架橋開始温度は202℃である。表7には、実施例9~12の正孔注入層の電荷輸送性高分子化合物および電子受容性化合物がいずれの架橋基を有するかについても示した。表7に示す結果から、正孔注入層の電荷輸送性高分子化合物および電子受容性化合物が有する架橋基が同一、すなわち架橋開始温度が同一である実施例11、12に比べ、正孔注入層の電荷輸送性高分子化合物および電子受容性化合物が有する架橋基が異なり、架橋開始温度が異なる実施例9、10の方が、良好な電流効率及び駆動寿命を示すことが判る。さらには、電子受容性化合物の架橋基の架橋開始温度が電荷輸送性高分子化合物の架橋基の架橋開始温度より大きい実施例9の方が、その逆の関係である実施例10に比べ良好な特性を示すことが判る。
【0322】
【0323】
[実施例13]
図1(c)に示した有機電界発光素子100cと同様の層構成を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
まず、実施例1と同様に準備したITOをパターン形成した基板上に、実施例7と同様にして、正孔注入層を形成した。
次に、下記の構造式(HT-3)を有する電荷輸送性高分子化合物を、シクロヘキシルベンゼンに溶解させ、1.5wt%の溶液を調製した。
この溶液を、上記正孔注入層を塗布成膜したITO基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで230℃、60分間乾燥させ、膜厚20nmの均一な薄膜を形成し、正孔輸送層とした。
【0324】
【0325】
引続き、実施例2と同様にして発光層を形成した。
さらに、実施例2と同様にして、正孔阻止層、電子輸送層および陰極を形成し、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
【0326】
[実施例14]
正孔輸送層を設けず、正孔注入層の上に直接発光層を形成したこと以外は、実施例13と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0327】
[実施例15]
正孔注入層の電子受容性化合物を(B-20)から(B-19)に変更したこと以外は、実施例13と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0328】
[実施例16]
正孔輸送層を設けず、正孔注入層の上に直接発光層を形成したこと以外は、実施例15と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0329】
実施例13および14で得られた有機電界発光素子を輝度1000cd/m2で発光させたときの電圧(V)と、15mA/cm2で定電流駆動させた際に、初期輝度から75%の値となるまでの時間(h)を駆動寿命として測定し、電圧については実施例13の値を引いた電圧(V)を相対電圧(V)として、また、駆動寿命については、実施例13を100とした時の相対値を、相対駆動寿命として表8に記した。実施例15および16についても、それぞれ実施例13および14と同様にして相対電圧および相対駆動寿命を算出し、表8に記した。表8の結果に表すが如く、本発明の電子受容性化合物を使用した場合、正孔輸送層を設けた場合よりも正孔輸送層を設けない場合の方が、低電圧駆動が可能となり、駆動寿命も向上することが判った。
【0330】
【産業上の利用可能性】
【0331】
本発明の電荷輸送膜用組成物は、耐熱性の高い電子受容性化合物、及び、該電子受容性化合物への電子移動によって生じた熱的に安定なフリーキャリアを含むため、耐熱性が高く、また、電荷輸送性(正孔注入・輸送性)にも優れている。よって、電荷輸送材料として、有機電界発光素子、電子写真感光体、光電変換素子、有機太陽電池、有機整流素子等の各種用途に好適に使用できる。
また、本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極又は発光層との間に存在する層に、上述の電荷輸送性イオン化合物を含有する。これによって、優れた耐熱性を発揮するとともに、より低電圧での駆動が可能となる。よって、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、特に、高耐熱性が要求される車載用表示素子として、その技術的価値は大きい。
【0332】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2016年3月24日出願の日本特許出願(特願2016-060764)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0333】
100a,100b,100c 有機電界発光素子
101 基板
102 陽極
103 正孔注入層
104 正孔輸送層
105 発光層
106 電子輸送層
107 陰極
108 正孔阻止層