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特許7006438熔融分離装置、廃リチウムイオン電池からのアルミニウムの分離方法、及び廃リチウムイオン電池からの有価物の回収方法
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  • 特許-熔融分離装置、廃リチウムイオン電池からのアルミニウムの分離方法、及び廃リチウムイオン電池からの有価物の回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】熔融分離装置、廃リチウムイオン電池からのアルミニウムの分離方法、及び廃リチウムイオン電池からの有価物の回収方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20220117BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20220117BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20220117BHJP
   C22B 9/02 20060101ALI20220117BHJP
   C22B 21/00 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
H01M10/54
C22B1/02
C22B7/00 C
C22B9/02
C22B21/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018058789
(22)【出願日】2018-03-26
(65)【公開番号】P2019175546
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】富樫 亮
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 純一
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-132660(JP,A)
【文献】特開2017-004920(JP,A)
【文献】特開平07-207349(JP,A)
【文献】特開2012-251220(JP,A)
【文献】特開昭62-112737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に傾斜するとともに縞状に突起が形成された傾斜面を有する仕切り板で上部と下部とに区分けされた熔融分離装置を用い、該仕切り板上に、アルミニウムを含む廃リチウムイオン電池を載置し、
前記熔融分離装置の内部の温度が700℃以上900℃以下の範囲となるように加熱することによって、前記廃リチウムイオン電池のアルミニウムを熔融させ、
熔融したアルミニウムを、前記仕切り板の傾斜面の最低部に形成された開口部から流出させ、前記熔融分離装置の下部に集めることによって、該アルミニウムを分離する
廃リチウムイオン電池からのアルミニウムの分離方法。
【請求項2】
予め、前記廃リチウムイオン電池を無害化焙焼処理し、その無害化焙焼処理後の廃リチウムイオン電池を、前記熔融分離装置の仕切り板上に載置する
請求項1に記載の廃リチウムイオン電池からのアルミニウムの分離方法。
【請求項3】
廃リチウムイオン電池から有価物を回収する有価物の回収方法であって、
請求項1に記載の方法を実行するアルミニウム分離工程を含む
廃リチウムイオン電池からの有価物の回収方法。
【請求項4】
蓋体を有する容器と、
前記容器の内部に設けられ、該容器を上部と下部とに区分けする仕切り板と、を備え、
前記仕切り板は、所定の方向に傾斜した傾斜面を有し、前記傾斜面には縞状に突起が形成されており、前記傾斜面の最低部に開口部が形成されており、
前記仕切り板上に熔融分離対象の成分を含む物質が載置され、
前記容器の内部が前記熔融分離対象の成分が熔融可能な温度に加熱されて、加熱により熔融した該成分が、前記仕切り板の傾斜面に形成された前記開口部から流出して、前記容器の下部にて回収される
熔融分離装置。
【請求項5】
廃リチウムイオン電池に含まれるアルミニウムを熔融分離する
請求項4に記載の熔融分離装置。
【請求項6】
前記開口部は、前記仕切り板上に載置される物質の最小幅よりも小さい
請求項4又は5に記載の熔融分離装置。
【請求項7】
前記容器の下部は、皿状体により構成されている
請求項4乃至6のいずれかに記載の熔融分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熔融分離装置、それを用いた廃リチウムイオン電池からのアルミニウムの分離方法、及び有価物の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力の二次電池としてリチウムイオン電池が普及している。リチウムイオン電池は、アルミニウムや鉄等の金属製の外装缶の内部に、銅箔からなる負極集電体に黒鉛等の負極活物質を固着させた負極材と、アルミニウム箔からなる正極集電体にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質を固着させた正極材と、ポリプロピレンの多孔質有機樹脂フィルム等からなるセパレータと、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を含む電解液等を封入した構造を有する。
【0003】
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。これらに使用されたリチウムイオン電池は、自動車が寿命に達したり、あるいは電池自身が寿命に達したりすると、廃リチウムイオン電池となる。自動車のライフサイクルと共に、自動車に搭載されたリチウムイオン電池も将来大量に廃棄される見込みとなっている。
【0004】
このような使用済みの電池や製造中に生じた不良品(以下、これらを「廃リチウムイオン電池」と総称する)を資源として再利用する提案が多くなされている。例えば、特許文献1には、アルミニウム外装缶を備える廃リチウムイオン電池を網状体の上に載置し、アルミニウムの融点のおよそ660℃以上の温度で加熱することによって、アルミニウム材を溶融させて網状体の網目から落下させ、一方で、電池本体部を構成する非溶融の材料を網状体上に残存させることにより、溶融したアルミニウム材と、非溶融の材料とを分離する方法が提案されている。
【0005】
ところで、廃リチウムイオン電池には、電解液中に六フッ化リン酸リチウム液が含まれ、また充電が残っていることがあり、加熱処理を施すことによって、爆発あるいは発火を生じさせ易くなる。また、爆発した場合には、外装缶内の有価金属を含む正極材の一部が破砕して、加熱により溶融したアルミニウムと一体化し、分離回収できなくなるという問題がある。
【0006】
また、特許文献1に記載された方法のように、網状体を使用して溶融アルミニウムを網状体の網目から落下させて分離する方法では、正極材を構成する粉末が容易に網目から落下し、アルミニウムと混合してしまうことがある。このような混合が生じると、有価なニッケルやコバルトの回収ロスとなり、またアルミニウムの純度も低下するため、いずれにとっても好ましくない。
【0007】
さらに、900℃を超えるような高い温度で加熱すると、電極体に含まれるリチウムが電極体外に滲み出して炉内に付着し、電極体から分離してしまう問題もある。後工程において電極体を乾式方法で溶融して処理しようとする場合、リチウムはスラグの融点を低下させる効果があるものの、そのリチウムが電極体外に滲み出して失われると、融点が上昇し、エネルギーコストが増加したり炉の損傷が促進されたりする等、好ましくない。
【0008】
このように、廃リチウムイオン電池から有価な金属を回収するにあたり、電極体に含まれるリチウムや銅、ニッケル等の有価物を分離させずに、外装を構成するアルミニウムを効率的に分離することを可能にする前処理方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-4920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、例えば、廃リチウムイオン電池中の電極体に含有される有価物を回収するにあたり、電池の外装等を構成する成分を効率よく分離し、有価物の回収ロスを抑制することができる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、所定の方向に傾斜する傾斜面を有する仕切り板を内部に設けた特定の熔融分離装置を用い、廃リチウムイオン電池を加熱してアルミニウムを熔融させることで、アルミニウムのみを効率的に分離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、所定の方向に傾斜する傾斜面を有する仕切り板で上部と下部とに区分けされた熔融分離装置を用い、該仕切り板上に、アルミニウムを含む廃リチウムイオン電池を載置し、前記熔融分離装置の内部の温度が700℃以上900℃以下の範囲となるように加熱することによって、前記廃リチウムイオン電池のアルミニウムを熔融させ、熔融したアルミニウムを、前記仕切り板の傾斜面の最低部に形成された開口部から流出させ、前記熔融分離装置の下部に集めることによって、該アルミニウムを分離する、廃リチウムイオン電池からのアルミニウムの分離方法である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、予め、前記廃リチウムイオン電池を無害化焙焼処理し、その無害化焙焼処理後の廃リチウムイオン電池を、前記熔融分離装置の仕切り板上に載置する、廃リチウムイオン電池からのアルミニウムの分離方法である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、廃リチウムイオン電池から有価物を回収する有価物の回収方法であって、請求項1に記載の方法を実行するアルミニウム分離工程を含む、廃リチウムイオン電池からの有価物の回収方法である。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、蓋体を有する容器と、前記容器の内部に設けられ、該容器を上部と下部とに区分けする仕切り板と、を備え、前記仕切り板は、所定の方向に傾斜した傾斜面を有し、該傾斜面の最低部に開口部が形成されており、前記仕切り板上に熔融分離対象の成分を含む物質が載置され、前記容器の内部が前記熔融分離対象の成分が熔融可能な温度に加熱されて、加熱により熔融した該成分が、前記仕切り板の傾斜面に形成された前記開口部から流出して、前記容器の下部にて回収される、熔融分離装置である。
【0016】
(5)本発明の第5の発明は、第4の発明において、廃リチウムイオン電池に含まれるアルミニウムを熔融分離する、熔融分離装置である。
【0017】
(6)本発明の第6の発明は、第4又は第5の発明において、前記開口部は、前記仕切り板上に載置される物質の最小幅よりも小さい熔融分離装置である。
【0018】
(7)本発明の第7の発明は、第4乃至第6のいずれかの発明において、前記容器の下部は、皿状体により構成されている、熔融分離装置である。
【0019】
(8)本発明の第8の発明は、第4乃至第7のいずれかの発明において、前記仕切り板は、前記傾斜面が平滑である、熔融分離装置である。
【0020】
(9)本発明の第9の発明は、第4乃至第7のいずれかの発明において、前記仕切り板は、前記傾斜面に縞状に突起が形成されている、熔融分離装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、例えば、廃リチウムイオン電池中の電極体に含有される有価物を回収するにあたり、電池の外装等を構成するアルミニウム等の成分を効率よく分離することができ、有価物の回収ロスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1の実施態様に係る熔融分離装置の構成を示す図である。
図2】第2の実施態様に係る熔融分離装置の構成を示す図である。
図3】第3の実施態様に係る熔融分離装置の構成を示す図である。
図4】第4の実施態様に係る熔融分離装置の構成を示す図である。
図5】第5の実施態様に係る熔融分離装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0024】
≪1.概要≫
本発明に係るアルミニウムの分離方法は、廃リチウムイオン電池における例えば外装材等に構成されているアルミニウムを分離する方法である。したがって、この方法は、廃リチウムイオン電池からアルミニウムからなる外装を分離して除去する廃リチウムイオン電池の解体方法として定義することもできる。
【0025】
なお、外装材がアルミニウムにより構成されていない廃リチウムイオン電池であっても、電池の内部材料としてアルミニウムが含まれていれば、その内部材料のアルミニウムを分離する目的として、本発明に係る分離方法を適用することができる。その場合、外装の一部を破壊して穴を開ける等することにより、効果的に内部材料のアルミニウムを分離することができる。
【0026】
この分離方法は、廃リチウムイオン電池の電極体に含まれるリチウムや銅、ニッケル、コバルト等の有価物(有価金属)を回収するプロセスにおける、外装を構成するアルミニウムを分離するアルミニウム分離工程における処理に適用することができる。
【0027】
有価金属の回収プロセスにおいて、アルミニウム分離工程にて効果的にアルミニウムを分離することができれば、その後の工程にて電極体から有価物を分離回収するにあたり、アルミニウムの混入を抑制した純度の高い有価物を回収することができる。また、アルミニウム分離工程にて、回収対象の有価物の一部がアルミニウムと一緒に分離されることを抑制しながら処理することで、その有価物の回収ロスを低減することができる。
【0028】
具体的に、本発明に係るアルミニウムの分離方法は、先ず、所定の方向に傾斜する傾斜面を有する仕切り板で上部と下部とに区分けされた熔融分離装置を用い、その仕切り板上に、アルミニウムを含む廃リチウムイオン電池を載置する。次に、熔融分離装置の内部の温度が700℃以上900℃以下の範囲となるように加熱することによって、廃リチウムイオン電池に含まれるアルミニウムを熔融させる。そして、加熱により熔融したアルミニウムを、仕切り板の傾斜面の最低部に形成された開口部から流出させ、熔融分離装置の下部に集めることによって、アルミニウムを分離する。
【0029】
このような方法によれば、熔融させたアルミニウムを効率的に分離回収することができるとともに、電極体等に含まれる有価物が熔融したアルミニウムに混入してしまうことを抑制することができる。これにより、廃リチウムイオン電池からの有価物の回収プロセスにおいて、その有価物の回収ロスを効果的に低減することができる。
【0030】
≪2.廃リチウムイオン電池からの有価物の回収プロセス≫
先ず、より具体的なアルミニウムの分離方法の説明に先立ち、当該分離方法を前処理工程(アルミニウム分離工程)として適用することができる、廃リチウムイオン電池からの有価物の回収プロセスについて説明する。
【0031】
有価物の回収プロセスは、例えば、廃リチウムイオン電池の電解液及び外装を除去する前処理工程S1と、電池の内容物を粉砕して粉砕物とする粉砕工程S2と、粉砕物を酸化焙焼する酸化焙焼工程S3と、酸化焙焼物を還元及び熔融して合金化する還元熔融工程S4と、を有する。なお、このような各工程を有する有価物の回収プロセスは、あくまでも一例であって、これに限定されない。
【0032】
ここで、この有価物の回収プロセスは、アルミニウムを含む外装を備える廃リチウムイオン電池を処理対象とする。
【0033】
[前処理工程(アルミニウム分離工程)]
前処理工程S1では、廃リチウムイオン電池を構成する外装を除去する。上述のように、処理対象の廃リチウムイオン電池の外装は、アルミニウムにより構成されている。
【0034】
このように、外装であるアルミニウムを分離除去する前処理工程S1を経ることで、アルミニウムを有価物として比較的容易に回収することができる。また、次工程以降において外装内に配置されている電極体に含まれる有価物を回収するにあたり、回収の物理的障害となるアルミニウムを除去することができる。また、その電極体に含まれる有価物にアルミニウムが混入して純度が低下することを防ぎ、回収生産性を高めることができる。
【0035】
詳細は後述するが、この前処理工程S1では、本発明に係るアルミニウムの分離方法を適用することができる。具体的には、後述する熔融分離装置を用いた分離処理によって、アルミニウムを分離除去する。これにより、アルミニウムを効率的に分離除去できるとともに、電極体に含まれる有価物の回収ロスを低減することができる。
【0036】
なお、外装のアルミニウムを分離除去するに先立ち、廃リチウムイオン電池に対して所定の温度で加熱して無害化する無害化焙焼処理を施すようにすることができる。また、針状の刃先で電池を物理的に開孔することにより、内部の電解液を流し出して除去するようにしてもよい。これにより、例えば電解液に起因する爆発等の発生をより効果的に防ぐことができ、安全性を高めることができる。
【0037】
[粉砕工程]
粉砕工程S2では、前処理工程S1を経て外装のアルミニウムが分離除去された電池の内容物を粉砕して粉砕物を得る。粉砕工程S2における処理は、次工程以降の乾式製錬プロセスでの反応効率を高めることを目的として行われ、反応効率を高めることで、銅、ニッケル、コバルト等の有価物の回収率を高めることができる。粉砕方法は、特に限定されないが、カッターミキサー等の従来公知の粉砕機を用いて行うことができる。
【0038】
[酸化焙焼工程]
酸化焙焼工程S3では、粉砕物を酸化焙焼して酸化焙焼物を得る。酸化焙焼工程S3では、電池の内容物中に含まれる炭素を酸化除去する。
【0039】
このように、酸化焙焼工程S3では、粉砕物を酸化焙焼することで、電池の内容物に含まれる炭素を除去することができ、その結果、次工程の還元熔融工程S4において局所的に発生する還元有価物の熔融微粒子が、炭素による物理的な障害なく凝集することが可能となり、一体化した合金として回収できる。また、還元熔融工程S4において電池の内容物に含まれるリンが炭素により還元されることを防ぎ、有効にリンを酸化除去して、有価物の合金中に分配されることを抑制することができる。
【0040】
酸化焙焼処理の温度(酸化焙焼温度)としては、例えば、600℃以上とすることができる。酸化焙焼温度を600℃以上とすることで、電池に含まれる炭素を有効に酸化除去することができる。また、好ましくは酸化焙焼温度を700℃以上とすることで、処理時間を短縮させることもできる。また、酸化焙焼温度の上限値としては900℃以下とすることが好ましく、これにより、熱エネルギーコストを抑制することができ、処理効率を高めることができる。
【0041】
酸化焙焼処理は、公知の焙焼炉を使用して行うことができる。焙焼炉としては、あらゆる形式のキルンを用いることができ、ロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)等を好適に用いることができる。
【0042】
[還元熔融工程]
還元熔融工程S4では、酸化焙焼工程S3にて得られた酸化焙焼物を還元熔融して、スラグと有価物を含む合金(還元物)とを得る。還元熔融工程S4では、酸化焙焼処理にて酸化させて得られた、不純物からなる不要な酸化物は酸化物のままで、その酸化焙焼処理で酸化してしまった銅等の有価物の酸化物については還元及び熔融させて、還元物を一体化した合金として回収する。なお、熔融物として得られる合金を「熔融合金」ともいう。
【0043】
還元熔融工程S4では、少なくとも炭素の存在下で還元熔融処理を行うことが好ましい。炭素は、回収対象である有価物の銅、ニッケル、コバルト等を容易に還元する能力がある還元剤である。したがって、還元剤としての炭素の存在下で還元熔融を行うことで、有価物を効率的に還元して、その有価物を含む合金をより効果的に得ることができる。
【0044】
熔融処理の温度(熔融温度)としては、例えば、1320℃以上1600℃以下の範囲が好ましく、1450℃以上1550℃以下の範囲がより好ましい。1320℃以上の温度で熔融することにより、銅、ニッケル、コバルト等の有価物を熔融合金として回収しやすくなる。また、1450℃以上で熔融すると、熔融合金の流動性が非常に良好となり、不純物成分と有価物との分離効率が向上してより好ましい。
【0045】
還元熔融処理においては、酸化物系フラックスを用いることが好ましい。酸化物系フラックスを用いて還元熔融処理を施すことによって、不純物成分の酸化物を含有するスラグをフラックスに溶解させて除去することができる。酸化物系フラックスとしては、融点が1500℃以下となる酸化カルシウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化鉄等が挙げられる。さらに、還元熔融処理においては、フッ化カルシウム等を添加してスラグの融点を低下させることもでき、これによりエネルギーコストを低減させることができる。
【0046】
≪3.アルミニウムの分離方法≫
本発明に係るアルミニウムの分離方法は、上述した廃リチウムイオン電池からの有価物の回収方法における前処理工程(アルミニウム分離工程)S1に適用することができるものであり、電池を構成する外装のアルミニウムを熔融させて分離する。なお、熔融したアルミニウムを「熔融アルミニウム」ともいう。
【0047】
具体的に、アルミニウムの分離方法は、所定の方向に傾斜する傾斜面を有する仕切り板で上部と下部とに区分けされた熔融分離装置を用いて行うことを特徴としている。
【0048】
<3-1.熔融分離装置>
(1)第1の実施態様
図1は、第1の実施態様に係る熔融分離装置1の構成を示す図であり、(A)は正面からの断面図であり、(B)は仕切り板を上面から視たときの図(容器11の蓋体11aを外して容器の上部から仕切り板12を視たときの図)である。なお、熔融分離対象のアルミニウムを含む廃リチウムイオン電池を、符号「B」として示している。また、加熱により熔融させて得られた熔融アルミニウムを、符号「M」として示している。
【0049】
熔融分離装置1は、蓋体11aを有する容器11と、容器11の内部に設けられて容器11を上部と下部とに区分けする仕切り板12と、を備えている。そして、その仕切り板12は、所定の方向に傾斜した傾斜面12sを有しており、傾斜面12sの最低部に開口部12hが形成されていることを特徴としている。
【0050】
[容器]
容器11は、例えば円筒形状からなる耐熱性の容器である。容器11は、熔融分離の対象であるアルミニウムを外装に含む廃リチウムイオン電池Bが内部に装入される。なお、このような廃リチウムイオン電池Bを、容器11内に装入する「装入物B」ともいう。
【0051】
また、容器11は、外部から加熱装置等によって加熱され、その内部の温度が所定の温度、すなわち、装入物に含まれる外装のアルミニウムが十分に熔融可能な温度となるように加熱される。ここで、加熱方法としては、特に限定されず、例えば、燃料の燃焼熱エネルギーを利用する方法、油バーナー、ガスバーナー、ラジアントチューブ等による加熱方法、電気エネルギーを利用する方法、発熱体に直接通電して発生するジュール熱や外部コイルからの誘導渦電流により発生するジュール熱を利用する方法等が挙げられる
【0052】
なお、耐熱性の容器11自体を、燃料の燃焼熱エネルギーを利用する燃焼炉や電気エネルギーを利用する電気炉とすることもできる。あるいは、耐熱性の容器11を箱状の炉内で静止した状態で加熱するバッチ式加熱炉、容器11を台車に載せて炉内を移動させながら連続的に加熱する台車式加熱炉、容器11をベルトに載せて炉内を移動させながら連続的に加熱するベルト式加熱炉等を利用して加熱することもできる。
【0053】
容器11は、上部に蓋体11aを有する。蓋体11aを取り外すと、容器11の上部が開口した状態となり、その開口を介して内部に設けられた仕切り板12上に装入物Bを装入することができる。一方、容器11は、上述したように所定の温度に加熱されることから、蓋体11aを有することによって密閉空間を形成することができ、加熱効率を向上させることができる。また、蓋体11aにより容器11内を密閉空間とすることで、加熱により内部に炭酸ガスを充満させやすくなり、熔融したアルミニウムの酸化を抑制して、アルミニウムの分離をより効率的に行うことができる。
【0054】
容器11は、耐熱性の高い材料により構成されていることが好ましい。その中でも、オーステナイト系ステンレスにより容器11を構成することで、高温強度が高まって加熱による変形を抑えることができ、また複数回使用しても腐食による劣化を抑えることができ、耐久性を高めることができる。さらに、オーステナイト系ステンレスを用いることで、錆の発生を抑制することもできるため、経時劣化によって錆が落下して熔融アルミニウムを汚染するというリスクもない。なお、後述する仕切り板12や熔融アルミニウム受け部13についても、同様の材料により構成することができる。
【0055】
[仕切り板]
仕切り板12は、容器11の内部に設けられる板状部材であり、円筒形状の容器11の内部を上部(上部空間)と下部(下部空間)とに区分けする円盤状の部材である。仕切り板12は、所定の方向に傾斜した傾斜面12sを有しており、その傾斜面12sの最低部に開口部12hが形成されていることを特徴としている。
【0056】
ここで、傾斜面12sの最低部とは、所定の方向に傾斜した傾斜面12sにおける高さ方向の高さが最低である部分をいう。また、その最低部に形成される開口部12hは、容器11内に装入され仕切り板12上に載置される廃リチウムイオン電池(装入物)Bの最小幅よりも小さい。したがって、容器11内に装入されたのち、アルミニウムが熔融する前に、その装入物Bが仕切り板12から開口部12hを介して落下することはない。
【0057】
仕切り板12においては、傾斜面12s上にアルミニウムを含む廃リチウムイオン電池が載置され、所定の温度範囲での加熱により熔融したアルミニウムが、その仕切り板12上を傾斜面12sの傾斜方向に沿って流動する。この傾斜面12sは、例えば平滑な面であり、熔融したアルミニウムが傾斜に沿って流動する流動面とも言い換えることができる。したがって、この仕切り板12は、規則的に網目が並んだ網状体とは異なる。
【0058】
第1の実施態様に係る熔融分離装置1においては、仕切り板12は、一方向に傾斜した傾斜面12sを有する。具体的には、図1(A)に示すように、仕切り板12の傾斜面12sは、図1(A)の右側から左側に向かって下がるように傾斜している。したがって、仕切り板12の傾斜方向は一方向のみであり、この仕切り板12上に載置させて加熱により熔融したアルミニウムは、重力によって傾斜面(流動面)12sの高さが低い方向(図1(B)中の矢印で示す方向)に流動しながら落下する。そして、傾斜面12sの最低部に形成されている開口部12hから、熔融したアルミニウムが流出するようになる。
【0059】
開口部12hを介して流出した熔融アルミニウムは、容器11の下部空間内に落下し、その下部空間の底部(容器11の底部)に集められる。
【0060】
ここで、例えば網目を有する「網状体」(特許文献1参照)に廃リチウムイオン電池を載置してアルミニウムを熔融させる場合、無害化焙焼されて電極体が損傷している電池や昇温中に爆発や発火した電池等では、電極体が破損することで発生する正極材粒が、熔融アルミニウムの流動や容器の移動等で生じる振動等で、その網目を通って容易に落下してしまう。その結果、その正極材粒に含まれる有価物までも、熔融アルミニウムと共に分離されてしまい、有価物の回収ロスとなる。
【0061】
これに対して、熔融分離装置1では、傾斜面12sを有する仕切り板12上に廃リチウムイオン電池Bを載置してアルミニウムを熔融させるため、正極材粒が発生してもすぐには容器11の下部空間に落下しない。また、仕切り板12上に装入物Bを載置させているため、発生した正極材粒が仕切り板12上を移動中に大きな電極体に引っ掛かるようになり、容易には開口部12hに到達することはない。したがって、このような熔融分離装置1によれば、有価物の回収ロスを有効に低減することができる。
【0062】
[熔融アルミニウム受け部]
熔融アルミニウム受け部13は、仕切り板12の傾斜面12sを傾斜方向に沿って流動し、傾斜面12sの最低部に形成されている開口部12hを介して流出した熔融アルミニウムを受ける受け部材である。この熔融アルミニウム受け部13は、例えば、皿状体により構成することができる。
【0063】
図1(A)では、熔融アルミニウム受け部13が、容器11と一体に構成されている例を示している。熔融アルミニウム受け部13は、図1(A)に示すように、皿状体により構成されており、容器11と所定の箇所で嵌合されている。また、熔融アルミニウム受け部13としては、容器11と一体に構成されている態様に限られず、例えば後述する第4の実施態様に係る熔融分離装置4のように(図4(A)を参照)、皿状体からなる熔融アルミニウム受け部13を容器11とは別個に設け、その熔融アルミニウム受け部13の内部に底部が開口した容器11を嵌め込むようにしてもよい。
【0064】
(2)第2の実施態様
図2は、第2の実施態様に係る熔融分離装置2の構成を示す図であり、(A)は正面からの断面図であり、(B)は仕切り板を上面から視たときの図(容器11の蓋体11aを外して容器の上部から仕切り板12を視たときの図)である。なお、仕切り板12を含めて、熔融分離装置2の構成する各部材の機能は、第1の実施形態に係る熔融分離装置1の構成と同じであり、同一の符号をつけてここでの説明は省略する。
【0065】
熔融分離装置2は、蓋体11aを有する容器11と、円筒形状の容器11の内部に設けられて容器11を上部と下部とに区分けする円盤状の仕切り板12と、を備えている。また、その仕切り板12は、所定の方向に傾斜した傾斜面12sを有しており、傾斜面12sの最低部に開口部12hが形成されている。
【0066】
熔融分離装置2においては、仕切り板12が、上面視したとき(図2(B)参照)に、中央部に向かって下方向に傾斜する傾斜面12sを有する、いわゆるテーパー形状(図2(A)参照)となっている。したがって、仕切り板12の傾斜面12sの中央部が最低部となり、その中央部に開口部12hが形成されている。
【0067】
このような熔融分離装置2では、仕切り板12の傾斜方向はその仕切り板12の周縁部から中央部に下方向に向かう一方向であり、この仕切り板12上に装入物Bを載置させて加熱により熔融したアルミニウムMは、重力によって傾斜面(流動面)12sの高さが低い方向(図2(B)中の矢印で示す方向)に流動しながら落下する。そして、傾斜面12sの最低部(仕切り板12を上面視したときの中央部)に形成されている開口部12hから、熔融したアルミニウムMが流出する。
【0068】
(3)第3の実施態様
図3は、第3の実施態様に係る熔融分離装置3の構成を示す図であり、(A)は正面からの断面図であり、(B1)及び(B2)は仕切り板を上面から視たときの図(容器11の蓋体11aを外して容器の上部から仕切り板12を視たときの図)である。なお、仕切り板12を含めて、熔融分離装置3の構成する各部材の機能は、第1の実施形態に係る熔融分離装置1の構成と同じであり、同一の符号をつけてここでの説明は省略する。
【0069】
熔融分離装置3は、蓋体11aを有する容器11と、円筒形状の容器11の内部に設けられて容器11を上部と下部とに区分けする円盤状の仕切り板12と、を備えている。また、その仕切り板12は、所定の方向に傾斜した傾斜面12sを有しており、傾斜面12sの最低部に開口部12hが形成されている。
【0070】
熔融分離装置3においては、仕切り板12が、断面視したときに山型の形状(図3(A)参照)となっており、山型の頂部から仕切り板12の周縁部に向かって下方向に傾斜する傾斜面12s(12s’)を有している。したがって、仕切り板12の周縁部が傾斜面12sの最低部となり、そこに開口部12hが形成されている。
【0071】
ここで、図3(B1)は、対称性のある半割円となるように山型に折り曲げたような形状を有する仕切り板12の上面図である。図3(B1)に示す仕切り板12では、その折り曲げ部分が線状の頂部となって周縁部に向かって下方向に向かう傾斜面12s,12s’を有している。このような仕切り板12上に装入物Bを載置させて加熱により熔融したアルミニウムMは、重力によって傾斜面(流動面)12sの高さが低い方向(図3(B1)中の矢印で示す方向)にそれぞれ流動しながら落下する。そして、傾斜面12sの最低部(仕切り板12の周縁部)に形成されている開口部12hから、熔融したアルミニウムMが流出する。
【0072】
また、図3(B2)は、上面視したときにその中央部を頂点とする山型の形状を有する仕切り板12の上面図である。図3(B2)に示す仕切り板12では、山型の頂点から仕切り板12の周縁部に向かって下方向に向かう傾斜面12sを有している。このような仕切り板12上に装入物Bを載置させて加熱により熔融したアルミニウムは、重力によって傾斜面(流動面)12sの高さが低い方向(図3(B2)中の矢印で示す方向)にそれぞれ流動しながら落下する。そして、傾斜面12sの最低部(仕切り板12の周縁部)に形成されている開口部12hから、熔融したアルミニウムが流出する。
【0073】
(4)第4の実施態様
図4は、第4の実施態様に係る熔融分離装置4の構成を示す図であり、(A)は正面からの断面図であり、(B)は仕切り板を上面から視たときの図(容器11の蓋体11aを外して容器の上部から仕切り板12を視たときの図)である。なお、仕切り板12を含めて、熔融分離装置4の構成する各部材の機能は、第1の実施形態に係る熔融分離装置1の構成と同じであり、同一の符号をつけてここでの説明は省略する。
【0074】
熔融分離装置4は、蓋体11aを有する容器11と、円筒形状の容器11の内部に設けられて容器11を上部と下部とに区分けする円盤状の仕切り板12と、を備えている。また、その仕切り板12は、所定の方向に傾斜した傾斜面12s及び傾斜面12s’を有しており、傾斜面12s及び傾斜面12s’の最低部に開口部12hが形成されている。
【0075】
熔融分離装置4においては、円盤状の仕切り板12が、その面上に、リング状の形成された開口部12hを有している(図4(B)参照)。仕切り板12は、周縁部からその開口部12hに向かって下方向に傾斜する傾斜面12sを有している。また、仕切り板12は、円盤状の中央部付近(中央部から開口部12hまでの箇所)においてその中央部を頂部とする山型形状となっており、山型の頂部から開口部12hに向かって下方向に向かう傾斜面12s’を有している。このように、熔融分離装置4における仕切り板12は、2種類の傾斜面12s,12s’を有しており、その傾斜面12s,12s’の下方向に向かう傾斜先に形成された開口部12hを共通にしている。
【0076】
このような熔融分離装置4では、仕切り板12における傾斜面12s上に装入物Bを載置すると、加熱により熔融したアルミニウムMは、重力によって傾斜面(流動面)12sの高さが低い方向、すなわち周縁部から開口部12hに向かう方向(図4(B)中の矢印で示す方向)に流動しながら落下する。また、仕切り板12における傾斜面12s’上に装入物Bを載置すると、加熱により熔融したアルミニウムMは、重力によって傾斜面(流動面)12s’の高さが低い方向、すなわち山型になった中央部から開口部12hに向かう方向(図4(B)中の矢印で示す方向)に流動しながら落下する。そして、傾斜面12s,12s’の最低部に形成されている開口部12h(略リング状の開口部12h)から、熔融したアルミニウムMが流出する。
【0077】
(5)第5の実施態様
図5は、第5の実施態様に係る熔融分離装置5の構成を示す図であり、(A)及び(B)は正面からの断面図である。なお、仕切り板12を含めて、熔融分離装置4の構成する各部材の機能は、第1の実施形態に係る熔融分離装置1の構成と同じであり、同一の符号をつけてここでの説明は省略する。
【0078】
熔融分離装置5,5’では、仕切り板12において、装入物Bが載置される傾斜面12s、言い換えると熔融したアルミニウムMが傾斜に沿って流動する流動面に、縞状に複数の突起(縞状突起)12pが形成されている(図5(A)及び(B)参照)。例えば、このような仕切り板12は、縞状鋼板により構成することができる。なお、仕切り板12は、例えば、周縁部(外側)から中央部(内側)に向かって下方向に傾斜するような傾斜面12sを有しており、その傾斜面12sの表面が縞状の突起12pを形成している。
【0079】
このような熔融分離装置5においては、傾斜面12sに装入物Bを載置すると、加熱により熔融したアルミニウムMは、その縞状に形成された突起12pの間(隙間)を傾斜面12に沿って流動するようになり、下方向に向かう傾斜の先にある開口部12hから流出するようになる。一方で、例えば、電極体が何らかの事由により破損して有価物を含む電極体粒(正極材粒等)が露出されても、発生した固体状の電極体粒は、傾斜面12s上に形成された縞状の突起12pや隙間に引っ掛かるようになるため、容易には開口部12hに到達しない。したがって、傾斜面12sに突起12pが形成されている熔融分離装置5によれば、電極体粒が発生した場合でも、熔融アルミニウムMと共に有価物を含む電極体粒が分離されることを防ぐことができ、有価物の回収ロスをより効果的に低減することができる。
【0080】
ここで、図5(A)は、仕切り板12が、円筒形状の容器11の内壁に接合されるよう設けられている態様の例(熔融分離装置5)を示している。また、図5(B)は、仕切り板12において、脚部12fが設けられ、その脚部12fを有する仕切り板(仕切り板体)12が容器11の内部に設置されている態様の例(熔融分離装置5’)を示している。なお、図5(B)に示す熔融分離装置5’であっても、容器11においては、仕切り板12によって、上部(仕切り板12の傾斜面12sよりも上部)と下部(仕切り板12の傾斜面12sよりも下部であって脚部12fに囲まれる部分)とに区分けされる。
【0081】
なお、図5(B)に示す脚部12fを有する仕切り板12は、傾斜面12sに縞状の突起12pが形成されているものへの適用には限られず、例えば、上述した第1の実施形態から第4の実施形態に示した熔融分離装置1~4の仕切り板12においても、同様にして脚部12fを有する構成としてもよい。
【0082】
<3-2.廃リチウムイオン電池からのアルミニウムの分離方法>
廃リチウムイオン電池から有価物を回収するにあたっての前処理(前処理工程S1)として、廃リチウムイオン電池の外装を構成するアルミニウムを、上述した熔融分離装置1(1~5)を用いて効果的に分離することができる。
【0083】
なお、以下では、熔融分離装置として、上述した第1の実施形態に係る「熔融分離装置1」を用いた場合の例を示すが、もちろんこれに限定されるものではない。
【0084】
具体的には、このアルミニウムの分離方法では、先ず、所定の方向に傾斜する傾斜面12sを有する仕切り板12で上部と下部とに区分けされた熔融分離装置1を用い、その仕切り板12上に、アルミニウムを含む廃リチウムイオン電池Bを載置する。
【0085】
熔融分離装置1では、上述したように、容器11の内部を区分けする仕切り板12において傾斜面12sが設けられており、アルミニウムを含む廃リチウムイオン電池Bは、その仕切り板12の傾斜面12s上に載置される。このとき、熔融分離装置1内に装入する廃リチウムイオン電池Bとしては、予め、無害化焙焼処理を施したもの装入することが好ましく、このような無害化焙焼処理後の廃リチウムイオン電池Bを仕切り板12の傾斜面12s上に載置する。なお、無害化焙焼処理後の廃リチウムイオン電池Bは、アルミニウムの外装がほぼそのまま残った状態であり、そのような廃リチウムイオン電池Bを仕切り板12上に載置する。
【0086】
仕切り板12上に載置するにあたり、廃リチウムイオン電池Bに対して無害化焙焼処理を施しておくことによって、爆発や発火等が生じることを防ぐことができる。より具体的に、熔融分離装置1では、後述のように、アルミニウムの融点を超える温度で加熱されることから、そのような高温度への急激な上昇によって爆発や発火が生じる可能性があるが、予め所定の温度で加熱する無害化焙焼処理を施しておくことで、そのような爆発や発火が生じることを抑えることができる。そして、爆発等によって熔融分離装置1が変形したり、廃リチウムイオン電池Bを構成する電極体の破片が吹き飛ぶといったことを防ぐことができ、分離処理の安全性を高めることができるとともに、有価物の回収プロセスにおいて有価物の回収ロスを防ぐことにも寄与する。
【0087】
次に、アルミニウムの分離方法では、廃リチウムイオン電池Bを装入させた熔融分離装置1の内部の温度が700℃以上900℃以下の範囲となるように加熱し、これにより、廃リチウムイオン電池Bの外装等を構成するアルミニウムを熔融させる。
【0088】
外装等を構成するアルミニウムは、融点がおよそ660℃であり、熔融分離装置1の内部の温度が、その融点を超える700℃以上の温度となるように加熱することによって、挿入した廃リチウムイオン電池Bからアルミニウムが有効に熔融される。加熱処理の温度の上限値としては、900℃以下とする。ここで、電極体に含まれる有価物である銅、ニッケル、コバルト等は、融点が1000℃以上であることから、熔融分離装置1の内部の温度が700℃以上900℃以下の範囲となるように加熱することで、アルミニウムを熔融させる一方で、銅やニッケル、コバルト等の有価物については固体のままで残存させることができる。
【0089】
そして、アルミニウムの分離方法では、加熱により熔融したアルミニウムを、熔融分離装置1における仕切り板12の傾斜面12sの最低部に形成された開口部12hから流出させ、熔融分離装置1の下部に集めることによって、そのアルミニウムを分離する。
【0090】
上述したように、熔融分離装置1では、廃リチウムイオン電池Bを載置させた傾斜面12sが所定の方向に傾斜している。具体的には、図1(A)に示したように、仕切り板12の傾斜面12sは、図1(A)の右側から左側に向かって下がるように傾斜している。したがって、加熱により熔融したアルミニウムMは、重力によってその傾斜面12sの高さが低い方向(図1(B)中の矢印で示す方向)に流動しながら落下していくようになり、傾斜面12sの最低部に形成されている開口部12hから流出する。
【0091】
一方で、加熱により熔融しない銅、ニッケル、コバルト等の有価物は、固体の電極体のまま、仕切り板12上に残存する。このようにして、廃リチウムイオン電池Bから外装等を構成するアルミニウムのみが分離されるようになる。
【実施例
【0092】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0093】
≪実施例及び比較例≫
実施例及び比較例において、下記表1に示すような構成となるようにして車載向け角型の廃リチウムイオン電池(縦140mm×横60mm×厚さ12mmの略直方体形状)を用いて電極体を収納するアルミニウム外装缶の溶融除去試験を行った。
【0094】
具体的には、カンタルスーパーを発熱体とする卓上高温電気炉(デンケン・ハイデンタル株式会社製、KDF-1700)(表1では「卓上炉」と表記)、又は、シリコニットを発熱体とする上部が開口する煉瓦製の大型のるつぼ炉(表1では「るつぼ炉」と表記)を用い、それらの炉内に、図1等の模式図に示すような容器(熔融分離装置)を設置して、その熔融分離装置の内部の温度が700℃となるように加熱し、30分間保持した。なお、るつぼ炉では、上部開口部を耐火物(株式会社ITM製、RCFフリーボード)で蓋をして処理した。
【0095】
ここで、処理する廃リチウムイオン電池として、電池メーカーにて電極体をアルミニウム製外装缶に挿入して電解液を入れる直前まで組み立てられた「半完成品」と、電解液を挿入して充電と放電を繰り返した後の使用済廃電池を電解液が無くなるまでに焙焼した「無害化焙焼品」との2種類の廃電池を用いた。
【0096】
また、炉に設置した熔融分離装置において、円筒形状の容器(図1中の符号11)としては、オーステナイト系のSUS304製の缶と、ブリキ缶と、SUS304製バットとを用いた。また、その円筒形状の容器の内部を上部と下部との区分けする仕切り板(図1中の符号12)としては、オーステナイト系のSUS304製の厚さ0.6mmの板と、SUS304の板の面に縞状突起が加工形成したものを用いた。なお、縞板状の加工はポンチを用いて裏側から凸部を形成加工した。
(熔融分離装置(容器))
SUS304製の円筒缶:上部225mmφ×下部185mmφ×高さ296mm
ブリキ缶 :上部235mmφ×下部235mmφ×高さ340mm
SUS304製のバット:上部253mmφ×下部194mmφ×高さ42mm
【0097】
また、熔融分離装置の仕切り板は、所定の方向に傾斜するように容器内に設け、その傾斜の高さ方向の最低部には開口部(図1中の符号12)を形成させた。表1中の「最小開口幅」とは、その開口部の最小の幅という。
【0098】
なお、比較例1にて用いたSUS網は、市販の目開き16mmのSUS304製のステンレスネットを用いた。また、比較例2では、容器内に仕切り板等を用いずに行い、その容器缶内に廃電池を直接投入して試験を行った。なお、比較例2における表1中に最小開口幅は、SUS304製のバットの上部開口部の幅である。
【0099】
≪結果及び評価≫
熔融分離装置を用いた加熱により、電極体と熔融アルミニウムとの分離の度合いと、電極体の破片の熔融分離装置の下部への落下、及びその破片の回収可能性により、アルミニウムの分離性を『良』、『不良』、『不可』の3段階で評価した。下記表1に、試験条件と評価結果をまとめて示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1の結果に示すように、実施例1~4では、外装缶を構成するアルミニウムと電極体とを良好に分離することができた。具体的には、熔融分離装置内の仕切り板の上に、電極体がきれいに残り、仕切り板の下には加熱により熔融したアルミニウムが塊状に凝固していた。
【0102】
一方で、比較例1では、網から落下した電極体破片の一部薄片が、加熱により熔融したアルミニウムと結合しており、分離性は不良であった。また、比較例2では、熔融したルミニウムと電極体が結合している部分があり、分離は不可能であった。
【0103】
なお、実施例の1、3、5で使用したSUS缶については、耐熱性が良好であると見られ、複数回の使用にも耐えられるであろうと推察された。一方で、実施例の2、4、6で使用したブリキ缶については、アルミニウム分離後にブリキ缶表面の一部に酸化が確認された。また、廃電池としては電解液を含まない半完成品や焙焼品を用いたため、発火や爆発も無く、温度管理も容易であり、炉の蓋が飛んだり炉内が損傷したりといった問題の発生も見られなかった。
【符号の説明】
【0104】
1、2、3、4、5 熔融分離装置
11 容器
12 仕切り板
12s,12s’ 傾斜面
12h 開口部
12f 脚部
図1
図2
図3
図4
図5