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特許7006493接着剤を用いた金属材料の接着方法及び金属材料接合体
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  • 特許-接着剤を用いた金属材料の接着方法及び金属材料接合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】接着剤を用いた金属材料の接着方法及び金属材料接合体
(51)【国際特許分類】
   C09J 5/02 20060101AFI20220117BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20220117BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220117BHJP
   C09D 133/02 20060101ALI20220117BHJP
   C09D 139/04 20060101ALI20220117BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220117BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20220117BHJP
   B32B 15/18 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C09J5/02
C09J201/00
C09D5/00 D
C09D133/02
C09D139/04
B32B15/08 N
B32B15/082 Z
B32B15/18
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2018088754
(22)【出願日】2018-05-02
(65)【公開番号】P2019019308
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2017139666
(32)【優先日】2017-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017139669
(32)【優先日】2017-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017139673
(32)【優先日】2017-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017142533
(32)【優先日】2017-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】宮内 恭子
(72)【発明者】
【氏名】山辺 秀敏
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-168535(JP,A)
【文献】特開平07-108646(JP,A)
【文献】特開平08-311424(JP,A)
【文献】特開平08-259901(JP,A)
【文献】特開平10-081867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
C09D 1/00-201/10
B32B 1/00- 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキサゾリンで架橋された重量平均分子量5,000以上450,000以下のポリアクリル酸を有する薄膜を金属材料の表面に形成した後、前記薄膜の表面に接着剤を塗布して被接着金属と接着することを特徴と金属材料の接着方法。
【請求項2】
前記金属材料が、ステンレス鋼、銅材料、鋼材、又はアルミニウム材料であることを特徴とする、請求項1に記載の金属材料の接着方法。
【請求項3】
前記被接着金属が、ステンレス鋼、銅材料、鋼材、又はアルミニウム材料であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の金属材料の接着方法。
【請求項4】
前記ステンレス鋼が、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、及びマルテンサイト系ステンレス鋼からなる群より選ばれる一種であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の金属材料の接着方法。
【請求項5】
前記銅材料が、純銅又は銅合金であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の金属材料の接着方法。
【請求項6】
前記アルミニウム材料が、純アルミニウム、Al-Cu系合金、Al-Mn系合金、Al-Si系合金、及びAl-Mg系合金からなる群より選ばれる一種であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の金属材料の接着方法。
【請求項7】
前記薄膜は、重量平均分子量5,000以上450,000以下のポリアクリル酸とオキサゾリン含有ポリマーとの混合物を含む水溶液を塗布し、その後120℃以上の温度で加熱処理することにより得られることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の金属材料の接着方法。
【請求項8】
前記水溶液は、前記ポリアクリル酸を0.1質量%以上2.0質量%以下含み且つ該ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマーを30質量部を超え100質量部以下含有することを特徴とする、請求項7に記載の金属材料の接着方法
【請求項9】
前記接着剤が、ラジカル重合型接着剤であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の金属材料の接着方法。
【請求項10】
オキサゾリンで架橋された重量平均分子量5,000以上450,000以下のポリアクリル酸を有する薄膜を表面に備える金属材料と、被接着金属とが接着剤で接合されてなることを特徴とする金属材料接合体。
【請求項11】
前記金属材料が、ステンレス鋼、銅材料、鋼材、又はアルミニウム材料であることを特徴とする、請求項10に記載の金属材料接合体。
【請求項12】
前記被接着金属が、ステンレス鋼、銅材料、鋼材、又はアルミニウム材料であることを特徴とする、請求項10又は11に記載の金属材料接合体。
【請求項13】
前記ステンレス鋼が、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、及びマルテンサイト系ステンレス鋼からなる群より選ばれる一種であることを特徴とする、請求項10又は11に記載の金属材料接合体。
【請求項14】
前記銅材料が、純銅又は銅合金であることを特徴とする、請求項10又は11に記載の金属材料接合体。
【請求項15】
前記アルミニウム材料が、純アルミニウム、Al-Cu系合金、Al-Mn系合金、Al-Si系合金、及びAl-Mg系合金からなる群より選ばれる一種であることを特徴とする、請求項10又は11に記載の金属材料接合体。
【請求項16】
前記薄膜は、重量平均分子量5,000以上450,000以下のポリアクリル酸とオキサゾリン含有ポリマーとの混合物を含む水溶液を塗布し、その後120℃以上の温度で加熱処理することにより得られることを特徴とする、請求項10から15のいずれか1項に記載の金属材料接合体。
【請求項17】
前記水溶液は、前記ポリアクリル酸を0.1質量%以上2.0質量%以下含み且つ該ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマーを30質量部を超え100質量部以下含有することを特徴とする、請求項16に記載の金属材料接合体。
【請求項18】
前記接着剤が、ラジカル重合型接着剤であることを特徴とする、請求項10から17のいずれか1項に記載の金属材料接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤を用いた金属材料の接着方法及び金属材料接合体に関し、更に詳しくはオキサゾリンで架橋された水溶性ポリアクリル酸を有する薄膜が形成された金属材料に対して接着剤を用いて接着する方法及び該金属材料が接着剤で接着されてなる金属材料接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材、銅材料、アルミニウム材料、ステンレス鋼などの金属材料は、それら金属が有する特性を活かして様々な分野で広く利用されている。従来、これら金属材料の接合は溶接接合が主流であったが、近年、接着剤の塗布により金属材料を接着させる接着工法が注目されている。しかしながら、かかる接着工法による金属材料の接合は、各金属材料に特有の問題を抱えているのが実情である。
【0003】
具体的に説明すると、鋼材においては、その優れた加工性、強度、及び表面外観を活かして自動車用の分野において高強度鋼板のハイテン材として用いられており、強度を低下させずに軽量化を実現できるので、燃費向上による省資源・省エネルギーに大きく貢献している。一方で、鋼材は更なる軽量化を目指して、アルミニウム合金や繊維強化プラスチックとの複合化が検討されている。しかしながら、自動車組み立て工程における鉄板の接合法としては溶接接合が一般的であるため、アルミニウム合金との溶接接合においては異種金属接触による電気化学的腐食が問題になることがあり、導電性のない繊維強化プラスチックとの接合においては溶接接合は適用できない。
【0004】
そこで、接合部の絶縁性に優れ、かつ繊維強化プラスチックとも接合可能な接着工法への期待が高まっている。接着工法による成型体の作製では、溶接工法にみられる板金工程が不要になる上、接合部の応力分散が大きくなるので信頼性を高めることができるが、鉄板の場合は接着接合界面の耐水性が低く、鉄板の接着部を高温高湿雰囲気に曝すと水が接着界面に侵入して水含有層を形成し、接着力が短期間で大きく低下する問題が生じることがあった。
【0005】
この接着力低下の対策として、脱脂とそれに続くエッチング処理による鉄(軟鋼)の接着用表面処理が提案されている。例えば非特許文献1のJIS-K6848-2には、工業用メタノール2L、オルトリン酸1Lからなる60℃溶液に10分間浸漬し、流水洗浄後ナイロンブラシによるスマット除去、加熱乾燥する酸処理が開示されている。また、予め鋼材表面を有機系薄膜でプライマー塗装し、接着性を高める方法が試みられている。例えば、特許文献1には、酸性リン酸エステル及び/又はその塩と水を含む水性プライマーで金属板を処理する技術が開示されており、特許文献2にはシラン系カップリング剤で金属表面を処理することで、フッ素系塗膜との密着性を改善する技術が開示されている。
【0006】
銅材料においては、その優れた加工性、耐食性、導電性、熱伝導性を活かして例えば銅合金からなるリードフレーム材料が電子産業の分野において使用されている。このリードフレーム材は、そのモールド樹脂との密着性を確保するため薬品による粗面化処理が行われている。この粗面化処理は、表面に形成された凹凸へのモールド樹脂の食い込みによる投錨効果が密着性向上の基礎となっている。しかし、銅表面は極めて酸化されやすいため、粗面化処理後に酸化皮膜が成長し、これが脆弱層となって密着性を低下させることがある。
【0007】
この接着力低下の対策として、予め銅材料を酸で活性化処理することが提案されており、例えば非特許文献2のJIS-K6848-2では、硝酸水溶液によるエッチング処理、塩化第二鉄と硝酸混合水溶液によるエッチング処理、過硫酸アンモニウム水溶液によりエッチング処理する技術が開示されている。また、予め銅材料を有機系薄膜でプライマー塗装し、接着性を高める方法が試みられている。例えば非特許文献5には、イミダゾールシラン化合物水溶液により銅板を処理すると、接着性が向上することが報告されている。
【0008】
純アルミニウムや各種アルミニウム合金などのアルミニウム材料においては、その優れた軽量性、加工性や表面外観を活かして例えば建築構造材や機械部品等として用いられている。アルミニウム材料を使用するときは、アルミニウム材料と他の材料との接合が必要となる場合があり、その接合方法には従来溶接を用いることが多かった。しかし、溶接による接合では、溶接されたアルミニウム材料の表面に溶接痕が残ったり、溶接歪みが生じたりすることがあった。
【0009】
そこで、この溶接接合に代わる接合法として、接着剤を用いてアルミニウム材料を接合する接着法が注目されている。接着法では、上記の溶接法にみられる溶接痕が生じない上、接合部に応力が生じないので歪みの問題が起きにくいため、板金加工が不要となる。しかし、アルミニウム材料を接着接合した場合はその接着界面の耐水性が低くなりやすく、アルミニウム材料の接着部を高温高湿雰囲気に曝すと水が接着界面に侵入し、水分を含んだ層を形成して耐水接着性が短期間で大きく低下するという問題が生じることがあった。
【0010】
この接着力低下の対策として、接着法において有効なアルミニウム材料の表面処理による前処理が検討されている。例えば非特許文献3には、アルミニウムへのリン酸陽極酸化処理と硫酸・重クロム酸水溶液浸漬処理のエポキシ接着における高温・高湿耐久性が優れている試験結果が示されている。また、予めアルミニウム材料を有機系薄膜でプライマー塗装し、接着性を高める方法が試みられている。例えば非特許文献6には、シラン系カップリング剤でアルミニウム材料表面を処理することで、エポキシとの接着を改善する技術が開示されている。
【0011】
ステンレス鋼においては、その優れた耐食性や表面外観を活かして例えば建築構造材や機械部品等として用いられており、その際、ステンレス鋼同士あるいはステンレス鋼と他の材質との接合が必要となる場合があり、その接合方法には従来溶接を用いることが多かった。しかし、溶接による接合では、溶接されたステンレス鋼板の表面に溶接痕が残ったり、溶接歪みが生じたりすることがあった。これらの溶接痕や溶接歪みを除去するためには多大な時間及び労力のかかる板金加工が必要となる上、この板金加工は騒音発生等の作業環境上の問題を抱えているので作業者から敬遠されている。更に、溶接は技量を要するので作業者によっては十分な接合強度が得られないこともあった。
【0012】
そこで、この溶接接合に代わる接合法として、接着剤を用いてステンレス鋼を接合する接着法が注目されている。接着法では、上記の溶接法にみられる溶接痕が生じない上、接合部に応力が生じないので歪みの問題が生じにくく、よって、板金加工が不要となる。しかし、ステンレス鋼を接着接合した場合はその接着界面の耐水性が低くなりやすく、ステンレス鋼の接着部を高温高湿雰囲気に曝すと水が接着界面に侵入し、水分を含んだ層を形成して接着力が短期間で大きく低下する問題が生じることがあった。
【0013】
この接着力低下の対策として、予めステンレス鋼を酸で活性化処理することが提案されており、例えば非特許文献4のJIS-K6848-2には硫酸とシュウ酸の混合水溶液でステンレス鋼表面を処理する技術が開示されている。また、予めステンレス鋼を有機系薄膜でプライマー塗装し、接着性を高める方法が試みられている。例えば非特許文献7には、ポリアクリル酸水溶液から成るプライマーでステンレス鋼を処理することにより、アクリル系接着剤の耐水接着性が向上することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平6-93211号公報
【文献】特公平6-57872号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】JIS-K6848-2、7.2.1.7鋼(軟鋼)
【文献】JIS-K6848-2、7.2.1.4銅及び銅合金
【文献】山辺秀敏、「構造接着における金属材料の表面と界面について」、色材協会誌、1993年、第66巻、P.605-613
【文献】JIS-K6848-2、7.2.1.8鋼(ステンレス鋼)
【文献】ネットワークポリマー、2000年、21巻、169ページ
【文献】K.Dusek (ed.),Advances in Polymer Science, Epoxy Resins and Composites 2, Springer-Verlag 1986, p.51
【文献】山辺秀敏、外3名、「ステンレス鋼の表面改質に関する研究(II)」、色材協会誌、1996年、第69巻、P.158-166
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、非特許文献1~4に開示された酸処理により金属材料表面を活性化させると、該金属材料表面にスマットが発生することがあった。このスマットは、重クロム酸・硫酸混合水溶液で金属材料表面を再度処理することにより除去することができるが、この脱スマット処理では、環境上の観点から厳しく規制されているクロム含有排水が排出されるため、その処理にコストがかかることが問題になる。脱スマット処理に代えて金属ブラシによりスマット除去を行うことが考えられるが、金属ブラシによるスマット除去は多大な手間を要する。
【0017】
また、特許文献1に開示されたリン酸エステルや、特許文献2及び非特許文献5~6に開示されたシランカップリング剤を使用した表面処理は、接着剤に対する金属材料の親和性の向上が確かに認められるものの、高温時の耐水接着性を得ることは難しかった。また、非特許文献7に開示されたポリアクリル酸を使用した表面処理では、ポリアクリル酸自体が水溶性であり、金属材料表面との水素結合に寄与しない遊離カルボキシル基が存在するため、過酷な高温高湿条件では金属材料の接着部の接着力が低下し、長期に亘って安定した接着力を要する構造体の用途には適していなかった。
【0018】
本発明は、このような従来の接合法が抱える問題点に鑑みてなされたものであり、金属材料表面に形成する有機系薄膜の接着性を極めて簡便な方法で改善することにより、該金属材料表面の外観を損なうことなく、各種酸水溶液で処理した場合と同等以上の接着性を有し、更に高温高湿条件で優れた耐水接着性を実現する金属材料の接着方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属材料の接着方法は、オキサゾリンで架橋された重量平均分子量5,000以上450,000以下のポリアクリル酸を有する薄膜を金属材料の表面に形成した後、前記薄膜の表面に接着剤を塗布して被接着金属と接着することを特徴としている。
【0020】
また、本発明に係る金属材料接合体は、オキサゾリンで架橋された重量平均分子量5,000以上450,000以下のポリアクリル酸を有する薄膜を表面に備える金属材料と、被接着金属とが接着剤で接合されてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、オキサゾリンにより架橋された重量平均分子量5,000以上450,000以下のポリアクリル酸を有する薄膜の金属材料の表面に対する強固な結合力と水に対するバリアー性とを利用して、各種酸処理に匹敵する高い剪断接着強度で被接着金属と接着していることから、接着部は耐水接着性が良好であり、高い接着強度を長期間に亘って保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の金属材料接合体の一具体例の縦断面図である。
図2】本発明の金属材料接合体の他の具体例の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の金属材料の接着方法の実施形態について説明する。まず、本発明の金属材料の接着方法が適用できる金属材料の種類としては、鋼材(steel)においては、一般的な圧延鋼材である一般構造用圧延鋼材(SS材)、溶接構造用圧延鋼材(SM材)、建築構造用圧延鋼材(SN材)などの炭素鋼(S-C材)のほか、クロムモリブデン鋼(SCM材)、ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM材)等の幅広い種類の鋼材に適用できる。
【0024】
銅材料においては、純銅や銅合金のような銅を主成分とするいずれの銅材料にも好適に適用することができる。純銅としては、無酸素銅、タフピッチ銅、脱酸銅などを挙げることができ、銅合金としては、ベリリウム銅、チタン銅、ジルコニウム銅、銅‐ニッケル合金などを挙げることができる。アルミニウム材料としては、純アルミニウム、Al-Cu系合金、Al-Mn系合金、Al-Si系合金、Al-Mg系合金等の幅広い種類のアルミニウム材料に適用できる。
【0025】
ステンレス鋼においては、JISに規定されているような、鉄を主成分としてクロムやニッケルを添加した様々な組成のステンレス鋼に適用することができる。それらの中では、オーステナイト系ステンレス鋼(クロムニッケル系)、フェライト系ステンレス鋼(クロム系)、マルテンサイト系ステンレス鋼(クロム系)に対して好適に適用できる。
【0026】
これら接着される金属材料の形状としては、被接着金属との接着面がフラットな平面形状をしているのであれば、それ以外の部分の形状は特に制限はないが、板状であるのが好ましく、平板状であるのが特に好ましい。この金属材料に接着させる被接着金属の材料には特に制限はないが、上記の金属材料のうちのいずれかであるのが好ましく、互いに同種の金属材料であれば本発明の効果を最大限に発揮させることができるのでより好ましい。
【0027】
この本発明の実施形態の金属材料の接着方法は、金属材料表面にオキサゾリン基を有するポリマー(以降、オキサゾリン含有ポリマーとも称する)と重量平均分子量5,000以上450,000以下のポリアクリル酸との混合物を含む水溶液の薄膜を形成し、次いで、この薄膜を加熱することで水分を蒸発させると共にポリアクリル酸に含まれる遊離カルボキシル基をオキサゾリン基で架橋し、その後、この薄膜の表面に接着剤を塗布して被接着金属との接着を行うものである。
【0028】
これにより、図1に示すようなオキサゾリンで架橋されたポリアクリル酸を有する薄膜2(以降、オキサゾリン架橋ポリアクリル酸薄膜とも称する)が形成された鋼材、銅材料、アルミニウム材料、又はステンレス鋼からなる金属材料1と被接着金属4とが接着剤3で互いに接合された接合体を作製することができる。接合体の形態はこれに限定されるものではなく、例えば図2に示すように、被接着金属4の表面にもオキサゾリン架橋ポリアクリル酸薄膜2を形成してもよい。この場合は、被接着金属4は鋼材、銅材料、アルミニウム材料、又はステンレス鋼からなるのが好ましく、金属材料1と同じ材料であるのがより好ましい。
【0029】
上記の金属材料1の表面や被接着金属4の表面にポリアクリル酸とオキサゾリン含有ポリマーとの混合物を含む水溶液の薄膜を形成するには、該混合物を含む水溶液に上記の金属材料1や被接着金属4を浸漬することで塗布してもよいし、これら金属材料1や被接着金属4の表面に該混合物を含む水溶液をスプレーしたり、ロールコーターや刷毛を用いたりして塗布してもよい。
【0030】
上記の混合物に使用するポリアクリル酸には、重量平均分子量5,000以上450,000以下のものを用いる。ポリアクリル酸の重量平均分子量が5,000未満では、金属材料の表面に吸着されたポリアクリル酸のうち、高分子鎖の末端が分子運動によって離脱するものの割合が多くなり、均一な薄膜の形成が困難になる。また、ポリアクリル酸の重量平均分子量が450,000を超えると、ポリアクリル酸の特徴である水溶性が低下して凝集物が析出しやすくなり、金属材料の表面に均一な薄膜を形成することが困難になる。
【0031】
より均一な薄膜を金属材料の表面に形成するため、上記の混合物を含む水溶液中のポリアクリル酸の濃度は0.1質量%以上2.0質量%以下であるのが好ましく、0.2質量%以上2.0質量%以下であるのがより好ましい。この濃度が0.1質量%未満では、金属材料の表面にポリアクリル酸を均一に塗布するのが難しくなり、逆にこの濃度が2.0質量%を超えると、オキサゾリン架橋ポリアクリル酸薄膜中に遊離カルボキシル基が存在することになり、これらカルボキシル基同士による相互の水素結合が水によって容易に解離しやすくなり、接着性が低下するおそれがある。
【0032】
一方、上記の混合物に使用するオキサゾリンを有するポリマーは、上記のポリアクリル酸と共に水に分散又は溶解させた状態で使用されるため、エマルジョンタイプ又は水溶性タイプを用いることができる。これらのタイプの中では、エマルジョンタイプよりも水溶性タイプの方が好ましい。その理由は、エマルジョンタイプの場合、エマルジョン内部のオキサゾリン基はカルボキシル基との反応による架橋にほとんど寄与しないからである。これに対して、水溶性タイプは水溶液に溶解しやすいので、同じく水溶液に溶解しているポリアクリル酸のカルボキシル基と十分に接触し、その結果、容易にアミドエステル化による架橋を行わせることができる。
【0033】
上記の混合物を含む水溶液の調製では、ポリアクリル酸100質量部に対して30質量部を超え100質量部以下のオキサゾリン含有ポリマーを配合することが好ましく、50質量部以上100質量部未満のオキサゾリン含有ポリマーを配合することがより好ましい。オキサゾリン含有ポリマーの量が30質量部以下ではポリアクリル酸に含まれる遊離カルボキシル基を十分に架橋できなくなる場合があり、逆に100質量部を超えると接合部の耐水接着性がかえって低下するおそれがある。なお、このオキサゾリン含有ポリマーは、使用直前にポリアクリル酸の水溶液に添加するのが好ましい。その理由は、混合後は時間の経過と共にオキサゾリン基とポリアクリル酸のカルボキシル基とのアミドエステル化反応が進み、混合液の粘度が上昇したり、ゲル化が生じたりして均一な水溶液の薄膜を形成するのが困難になるからである。
【0034】
従ってポリアクリル酸とオキサゾリン含有ポリマーとの混合後は、得られた混合物を含む水溶液を浸漬、スプレー、ロールコーターなどの公知の方法によって直ぐに金属材料表面に塗布させるのが好ましい。塗布後は、120℃以上の温度で加熱処理する。これにより、オキサゾリン基とポリアクリル酸に含まれるカルボキシル基とのアミドエステル化反応を短時間で進行させることができる。なお、オキサゾリンで架橋されたポリアクリル酸を有する薄膜中に水分が含まれていると、この残留水分が接着剤とオキサゾリンで架橋されたポリアクリル酸を有する薄膜との接着界面を可塑化し、接着性を低下させる原因となるため、上記の加熱処理は水分を蒸発させることも目的としている。また、加熱処理温度の上限は特に限定はないが、一般的には250℃以下が好ましい。
【0035】
このオキサゾリンで架橋されたポリアクリル酸を有する薄膜の表面に接着剤を塗布して被接着金属と接合することで極めて接着強度の高い接合が可能となる。このように高い接着強度が得られる理由は、ポリアクリル酸は、その構造中に含まれるカルボキシル基により金属材料の接着面の表面に強く吸着される傾向を示すからである。すなわち、鋼材においては、一般に鋼材の表面は鉄酸化物膜で覆われており、最表面は大気中の水分により水和したFe-OH型などの水酸基層になっている。そのため、ポリアクリル酸のカルボキシル基は、この最表面の水酸基層と水素結合し、更に当該水酸基層にプロトンを供与してカルバニオンとなる。そして、プロトン化した最表面の水酸基層との間に、酸塩基相互作用に由来する強固な結合を形成するためと考えられる。
【0036】
銅材においては、一般に銅材料の表面は銅酸化物膜で覆われており、最表面は大気中の水分により水和したCu-OH型などの水酸基層になっている。そのため、ポリアクリル酸のカルボキシル基は、この最表面の水酸基層と水素結合し、更に当該水酸基層にプロトンを供与してカルバニオンとなる。そして、プロトン化した最表面の水酸基層との間に、酸塩基相互作用に由来する強固な結合を形成するためと考えられる。
【0037】
アルミニウム材料においては、一般にアルミニウム材料の表面はアルミニウム酸化物膜で覆われており、最表面は大気中の水分により水和したAl-OH型などの水酸基層になっている。そのため、ポリアクリル酸のカルボキシル基は、この最表面の水酸基層と水素結合し、更に当該水酸基層にプロトンを供与してカルバニオンとなる。そして、プロトン化した最表面の水酸基層との間に、酸塩基相互作用に由来する強固な結合を形成するためと考えられる。
【0038】
ステンレス鋼においては、一般にステンレス鋼の表面はクロム酸化物膜で覆われており、最表面は大気中の水分により水和したCr-OH型などの水酸基層になっている。そのため、ポリアクリル酸のカルボキシル基は、この最表面の水酸基層と水素結合し、更に当該水酸基層にプロトンを供与してカルバニオンとなる。そして、プロトン化した最表面の水酸基層との間に、酸塩基相互作用に由来する強固な結合を形成するためと考えられる。
【0039】
しかしながら、上記のポリアクリル酸のカルボキシル基はその全てが上記の金属材料表面の水酸基層と結合するわけではなく、遊離カルボキシル基が存在している。この遊離カルボキシル基は、二量体のように遊離した状態で薄膜中に存在する。この二量体のような形態で存在する遊離カルボキシル基は水溶性であり、例えば高温高湿試験中に水和し、薄膜の耐水接着性を低下させる原因となる。そこで、ポリアクリル酸にオキサゾリン含有ポリマーを添加することで、オキサゾリン基と上記の遊離カルボキシル基とのアミドエステル化反応を引き起こさせている。その結果、架橋が生じて水和が抑制されるので、薄膜の耐水接着性が向上する。なお、上記のオキサゾリンで架橋されたポリアクリル酸を有する薄膜の強固な接着作用は、その薄膜の形成に先立ち、金属材料の表面を脱脂や酸洗等の清浄化処理を行うことで更に顕著なものとなる。
【0040】
上記のようにして接着性が改善された金属材料に対して、適切な接着剤を塗布することで被接着金属と接着することができる。これにより得られる金属材料接合体は、剪断接着強度が極めて高く且つ水分吸収による劣化も少ない接着部が得られ、強固な接合体となる。
【0041】
使用する接着剤としては、ポリアクリル酸のアクリル部と水素結合を形成できる、すなわちアクリルと相溶性を有する接着剤であれば特に限定はなく、例えばアクリル系のラジカル重合型接着剤、更にはエポキシ系、ポリウレタン系、ポリエステル系などの接着剤を挙げることができ、特にアクリル系ラジカル重合型接着剤が好ましい。なお、シアノアクリレート系接着剤は、ポリアクリル酸の酸性により重合反応が阻害され硬化不良を引き起こすことがあるので好ましくない。また、低極性のシリコーン系接着剤は、薄膜との親和性が低いので効果がほとんど得られない。
【0042】
本発明の実施形態の金属材料の接合方法は、上記したようにオキサゾリン基で架橋されたポリアクリル酸を有する薄膜を金属材料の表面に成膜することで、強固な接着力と水に対するバリアー性とが得られる。これにより、各種酸処理に匹敵する高い接着強度を長期間に亘って維持することができる。また、本発明の実施形態の接着方法によれば、例えば屋外で使用する建築構造体として金属材料を組み立てる際に有害物質を発生させない上、作業環境の劣悪化を招くこともなく、簡単な施工法で強度的に優れた構造体を得ることができる。よって、工業上顕著な効果を奏するものである。次に、本発明を実施例、比較例により更に詳しく説明する。
【実施例
【0043】
[実施例1]
基材として板厚1.0mmのオーステナイト系ステンレス鋼板SUS304の2B仕上げ材から幅25mm及び長さ100mmの試験片を複数枚切り出し、これら試験片を室温でアセトンに3分間浸漬させて脱脂した後、室温で10%塩酸水溶液に3分間浸漬させて酸洗し、蒸留水を用いて洗浄した。このようにして、全ての試験片に対して前処理を行った。
【0044】
次に、重量平均分子量90,000のポリアクリル酸とオキサゾリン含有ポリマーとして株式会社日本触媒製のエポクロスWS-300とを用意し、ポリアクリル酸100質量部に対するオキサゾリン含有ポリマーの配合割合が0質量部(すなわち、オキサゾリン含有ポリマーを添加せず)、50質量部、75質量部、及び100質量部の4種類の水溶液を調製した。これら4種類の水溶液の各々を3つに小分けし、蒸留水を加えてポリアクリル酸の濃度がそれぞれ0.20質量%、1.0質量%、及び2.0質量%になるようにした。
【0045】
このようにしてポリマーの濃度が異なる12種類の水溶液を調製した。これら12種類の水溶液の各々に上記の前処理済み試験片を4枚ずつ1分間浸漬させて表面に水溶液を塗布した後、雰囲気温度120℃で5分間保持する加熱処理を行った。加熱処理後は、これら12種類の試験片を室温まで冷却することで薄膜の種類が4枚ずつ異なる12種類の試験片(計48枚)を作製した。上記の12種類の試験片に前述した前処理のみ行った薄膜を有していない4枚の試験片を加えた13種類の試験片(計52枚)に対して、各種類2枚ずつペアにして電気化学工業株式会社製のアクリル系ラジカル重合型接着剤である第二世代アクリル系接着剤SGA(ハードロックC355)を接着剤として塗布してラップ幅12.5mmで貼り合わせた。接着部は室温で7日間保持することで完全に硬化させた。
【0046】
このようにして試料1~13の接合体を各試料2個ずつ作製した。そして、各試料2個の接合体のうちの1個に対して、JIS-K6850に準拠して初期剪断接着強度を測定した。また、各試料の残りの1個の接合体に対して、接着部の耐水接着性の評価を行うべく沸騰水中に7日間浸漬した後、室温まで冷却して速やかにJIS-K5850に準拠して剪断接着強度を測定した。これらの測定結果を薄膜の形成に用いた水溶液中のポリアクリル酸及びオキサゾリン含有ポリマーの濃度並びにその配合割合(すなわちポリアクリル酸100質量部に対するオキサゾリン含有ポリマーの質量部の値)と共に下記表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
上記表1から、オキサゾリン基により架橋された重量平均分子量90,000のポリアクリル酸を有する薄膜を形成することにより特に耐水接着性が大きく向上していることが分かる。これは、ポリアクリル酸がステンレス鋼板の表面に強く吸着されると共に遊離カルボキシル基がオキサゾリン基により架橋され、水和が抑制されたためと推測される。また、ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマーは50質量部以上100質量部以下が好ましいことが分かる。なお、ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマー100質量部の場合は、耐水接着性の効果は維持されるがやや低下しており、その理由は、架橋に寄与しないオキサゾリン基が過剰となり、未反応のまま残存するためと推測される。また、オキサゾリン含有ポリマーを添加せずにポリアクリル酸のみの水溶液で薄膜を形成した場合は、耐水密着性の試験でいずれも試験片は分解してしまった。
【0049】
[比較例1]
比較のため、実施例1と同様に2B仕上げのSUS304ステンレス鋼板からなる12枚の試験片を前処理した後、4枚ずつ3組に分けて3種類の従来の処理法でそれぞれ処理し、実施例1と同様に接着剤で接着して試料14~16の接合体を各試料2個ずつ作製した。すなわち、試料14ではリン酸エステル系プライマーでの浸漬処理を施してから接着剤で接着し、試料15では信越化学工業株式会社製のγ-グリシドオキシプロピルリメトキシシラン(品番KBM403)1%水溶液を使用して浸漬法でシランカップリング処理を行ってから接着剤で接着し、試料16では硫酸10質量部とシュウ酸10質量部との混合水溶液(60℃)に10分浸漬した後、重クロム酸混液で処理し、水洗してから接着剤で接着した。これら試料14~16の接合体に対して、実施例1と同様に接着部の初期剪断接着強度及び耐水接着性の評価を行った。その結果を下記表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
従来の処理法でステンレス鋼板を処理してから接着剤で接着した結果を示す上記表2と上記表1とを対比することで分かるように、初期せん断強度は高い強度を示したが、耐水接着性の試験ではいずれも試験片は分解し、オキサゾリンにより架橋されたポリアクリル酸を有する薄膜を形成することで耐水接着性を顕著に改善することができることが分かる。
【0052】
[実施例2]
重量平均分子量90,000に代えて重量平均分子量1,500、5,000、18,000、450,000、600,000のポリアクリル酸をそれぞれ用いた以外は上記実施例1の試料11の場合と同様にして試料17~21の接合体を作製した。更に、重量平均分子量450,000のポリアクリル酸を用い且つオキサゾリン含有ポリマーを添加しないこと以外は上記実施例1の試料11の場合と同様にして試料22の接合体を作製した。これら試料17~22の接合体に対して実施例1と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
上記表3から、重量平均分子量が5,000以上450,000以下のポリアクリル酸をオキサゾリンにより架橋することで得られる薄膜を介して接着剤で接合することにより、優れた耐水接着性が得られることが分かる。これに対して重量平均分子量600,000のポリアクリル酸は水に溶解不能であり、重量平均分子量1,500のポリアクリル酸は耐水接着性に劣っていた。ポリアクリル酸の重量平均分子量が450,000の場合でも、実施例1の重量平均分子量が90,000の場合と同様に、オキサゾリンによる架橋を行わないと耐水接着性評価で試験片は分解し接着力を維持できないことが確認された。
【0055】
[実施例3]
基材としてオーステナイト系ステンレス鋼板SUS304に代えてフェライト系ステンレス鋼板SUS405を使用し、その浸漬用水溶液として重量平均分子量90,000に代えて重量平均分子量5,000のポリアクリル酸を用い、該ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマーの配合割合が30質量部、50質量部、75質量部、及び100質量部の4種類の水溶液を調製し、蒸留水を加えてポリアクリル酸の濃度がいずれも0.10質量%になるようにした以外は上記実施例1と同様にして試料23~26の接合体を作製した。
【0056】
また、同様に基材としてフェライト系ステンレス鋼板SUS405を使用すると共にその浸漬用水溶液として重量平均分子量5,000のポリアクリル酸を用い、該ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマーの配合割合が30質量部、50質量部、60質量部、75質量部、及び100質量部の5種類の水溶液を調製し、蒸留水を加えてポリアクリル酸の濃度がいずれも2.0質量%になるようにした以外は上記実施例1と同様にして試料27~31の接合体を作製した。
【0057】
更に、同様に基材としてフェライト系ステンレス鋼板SUS405を使用し、その浸漬用水溶液として重量平均分子量90,000に代えて重量平均分子量450,000のポリアクリル酸を用い、該ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマーの配合割合が30質量部、50質量部、60質量部、75質量部、及び100質量部の5種類の水溶液を調製し、蒸留水を加えてポリアクリル酸の濃度がいずれも0.10質量%になるようにした以外は上記実施例1と同様にして試料32~36の接合体を作製した。
【0058】
また、同様に基材としてフェライト系ステンレス鋼板SUS405を使用すると共にその浸漬用水溶液として重量平均分子量450,000のポリアクリル酸を用い、該ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマーの配合割合が50質量部、75質量部、及び100質量部の3種類の水溶液を調製し、蒸留水を加えてポリアクリル酸の濃度がいずれも2.0質量%になるようにした以外は上記実施例1と同様にして試料37~39の接合体を作製した。これら試料23~39の接合体に対して実施例1と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
上記表4から、フェライト系ステンレス鋼板SUS405の場合においても、重量平均分子量が5,000以上450,000以下のポリアクリル酸をオキサゾリンにより架橋することで得られる薄膜を介して接着剤で接合することにより、オーステナイト系ステンレス鋼板SUS304と同様に優れた耐水接着性が得られることが分かる。
【0061】
[実施例4]
基材としてオーステナイト系ステンレス鋼板SUS304に代えてマルテンサイト系ステンレス鋼板SUS403を使用し、その浸漬用水溶液として重量平均分子量90,000に代えて重量平均分子量5,000のポリアクリル酸を用い、該ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマーの配合割合が30質量部、50質量部、75質量部、及び100質量部の4種類の水溶液を調製し、蒸留水を加えてポリアクリル酸の濃度がいずれも0.10質量%になるようにした以外は上記実施例1と同様にして試料40~43の接合体を作製した。
【0062】
また、同様に基材としてマルテンサイト系ステンレス鋼板SUS403を使用すると共にその浸漬用水溶液として重量平均分子量5,000のポリアクリル酸を用い、該ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマーの配合割合が30質量部、50質量部、60質量部、75質量部、及び100質量部の5種類の水溶液を調製し、蒸留水を加えてポリアクリル酸の濃度がいずれも2.0質量%になるようにした以外は上記実施例1と同様にして試料44~48の接合体を作製した。
【0063】
更に、同様に基材としてマルテンサイト系ステンレス鋼板SUS403を使用し、その浸漬用水溶液として重量平均分子量90,000に代えて重量平均分子量450,000のポリアクリル酸を用い、該ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマーの配合割合が30質量部、50質量部、60質量部、75質量部、及び100質量部の5種類の水溶液を調製し、蒸留水を加えてポリアクリル酸の濃度がいずれも0.10質量%になるようにした以外は上記実施例1と同様にして試料49~53の接合体を作製した。
【0064】
また、同様に基材としてマルテンサイト系ステンレス鋼板SUS403を使用すると共にその浸漬用水溶液として重量平均分子量450,000のポリアクリル酸を用い、該ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマーの配合割合が50質量部、75質量部、及び100質量部の3種類の水溶液を調製し、蒸留水を加えてポリアクリル酸の濃度がいずれも2.0質量%になるようにした以外は上記実施例1と同様にして試料54~56の接合体を作製した。これら試料40~56の接合体に対して実施例1と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表5に示す。
【0065】
【表5】
【0066】
上記表5から、マルテンサイト系ステンレス鋼板SUS403の場合においても、重量平均分子量が5,000以上450,000以下のポリアクリル酸をオキサゾリンにより架橋することで得られる薄膜を介して接着剤で接合することにより、オーステナイト系ステンレス鋼板SUS304と同様に優れた耐水接着性が得られることが分かる。
【0067】
[実施例5]
基材としてオーステナイト系ステンレス鋼板SUS304に代えて冷間圧延鋼板(SPCC材)を使用した以外は上記実施例1と同様にして試料1F1~13F1の接合体を作製し、実施例1と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表6に示す。なお、この実施例5の各試料は、その番号からF1を省いた試料番号を有する実施例1の試料と同じ条件で薄膜を形成したものである。
【0068】
【表6】
【0069】
上記表6から、冷間圧延鋼板においても、オキサゾリン基により架橋された重量平均分子量90,000のポリアクリル酸を有する薄膜を形成することにより特に耐水接着性が大きく向上していることが分かる。また、ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマーは50質量部以上100質量部以下が好ましいことが分かる。
【0070】
[実施例6]
基材としてオーステナイト系ステンレス鋼板SUS304に代えて冷間圧延鋼板(SPCC材)を使用した以外は上記実施例2と同様にして試料17F1~22F1の接合体を作製し、実施例2と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表7に示す。なお、この実施例6の各試料は、その番号からF1を省いた試料番号を有する実施例2の試料と同じ条件で薄膜を形成したものである。
【0071】
【表7】
【0072】
上記表7から、冷間圧延鋼板においても、重量平均分子量が5,000以上450,000以下のポリアクリル酸をオキサゾリンにより架橋することで得られる薄膜を介して接着剤で接合することにより、優れた耐水接着性が得られることが分かる。
【0073】
[実施例7]
基材としてオーステナイト系ステンレス鋼板SUS304に代えて一般構造用圧延鋼板SS材(SS330)を使用した以外は上記実施例1と同様にして試料1F2~13F2の接合体を作製し、実施例1と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表8に示す。なお、この実施例7の各試料は、その番号からF2を省いた試料番号を有する実施例1の試料と同じ条件で薄膜を形成したものである。
【0074】
【表8】
【0075】
上記表8から、一般構造用圧延鋼板においても、オキサゾリン基により架橋された重量平均分子量90,000のポリアクリル酸を有する薄膜を形成することにより特に耐水接着性が大きく向上していることが分かる。また、ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマーは50質量部以上100質量部以下が好ましいことが分かる。
【0076】
[実施例8]
基材としてオーステナイト系ステンレス鋼板SUS304に代えて一般構造用圧延鋼板SS材(SS330)を使用した以外は上記実施例2と同様にして試料17F2~20F2、及び22F2の接合体を作製し、実施例2と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表9に示す。なお、実施例8の各試料は、その番号からF2を省いた試料番号を有する実施例2の試料と同じ条件で薄膜を形成したものである。
【0077】
【表9】
【0078】
上記表9から、一般構造用圧延鋼板においても、重量平均分子量が5,000以上450,000以下のポリアクリル酸をオキサゾリンにより架橋することで得られる薄膜を介して接着剤で接合することにより、優れた耐水接着性が得られることが分かる。
【0079】
[実施例9]
基材としてオーステナイト系ステンレス鋼板SUS304に代えて銅板(2600銅合金)を使用した以外は上記実施例1と同様にして試料1C1~13C1の接合体を作製し、実施例1と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表10に示す。なお、この実施例9の各試料は、その番号からC1を省いた試料番号を有する実施例1の試料と同じ条件で薄膜を形成したものである。
【0080】
【表10】
【0081】
上記表10から、2600銅合金においても、オキサゾリン基により架橋された重量平均分子量90,000のポリアクリル酸を有する薄膜を形成することにより特に耐水接着性が大きく向上していることが分かる。また、ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマーは50質量部以上100質量部以下が好ましいことが分かる。
【0082】
[実施例10]
基材としてオーステナイト系ステンレス鋼板SUS304に代えて銅板(2600銅合金)を使用した以外は上記実施例2と同様にして試料17C1~22C1の接合体を作製し、実施例2と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表11に示す。なお、この実施例10の各試料は、その番号からC1を省いた試料番号を有する実施例2の試料と同じ条件で薄膜を形成したものである。
【0083】
【表11】
【0084】
上記表11から、2600銅合金においても、重量平均分子量が5,000以上450,000以下のポリアクリル酸をオキサゾリンにより架橋することで得られる薄膜を介して接着剤で接合することにより、優れた耐水接着性が得られることが分かる。
【0085】
[実施例11]
基材としてフェライト系ステンレス鋼板SUS405に代えて純銅を使用した以外は上記実施例3と同様にして試料23C2~39C2の接合体を作製し、実施例3と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表12に示す。なお、この実施例11の各試料は、その番号からC2を省いた試料番号を有する実施例3の試料と同じ条件で薄膜を形成したものである。
【0086】
【表12】
【0087】
上記表12から、純銅においても、重量平均分子量が5,000以上450,000以下のポリアクリル酸をオキサゾリンにより架橋することで得られる薄膜を介して接着剤で接合することにより、優れた耐水接着性が得られることが分かる。
【0088】
[実施例12]
基材としてオーステナイト系ステンレス鋼板SUS304に代えてA2024-T3アルミニウム合金板を使用した以外は上記実施例1と同様にして試料1A1~13A1の接合体を作製し、実施例1と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表13に示す。なお、この実施例12の各試料は、その番号からA1を省いた試料番号を有する実施例1の試料と同じ条件で薄膜を形成したものである。
【0089】
【表13】
【0090】
上記表13から、A2024-T3アルミニウム合金板においても、オキサゾリン基により架橋された重量平均分子量90,000のポリアクリル酸を有する薄膜を形成することにより特に耐水接着性が大きく向上していることが分かる。また、ポリアクリル酸100質量部に対してオキサゾリン含有ポリマーは50質量部以上100質量部以下が好ましいことが分かる。
【0091】
[実施例13]
基材としてオーステナイト系ステンレス鋼板SUS304に代えてA2024-T3アルミニウム合金板を使用した以外は上記実施例2と同様にして試料17A1~22A1の接合体を作製し、実施例2と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表14に示す。なお、この実施例13の各試料は、その番号からA1を省いた試料番号を有する実施例2の試料と同じ条件で薄膜を形成したものである。
【0092】
【表14】
【0093】
上記表14から、A2024-T3アルミニウム合金板においても、重量平均分子量が5,000以上450,000以下のポリアクリル酸をオキサゾリンにより架橋することで得られる薄膜を介して接着剤で接合することにより、優れた耐水接着性が得られることが分かる。
【0094】
[実施例14]
基材としてフェライト系ステンレス鋼板SUS405に代えて純アルミ(A1050-H18)を使用した以外は上記実施例3と同様にして試料23A2~39A2の接合体を作製し、実施例3と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表15に示す。なお、この実施例14の各試料は、その番号からA2を省いた試料番号を有する実施例3の試料と同じ条件で薄膜を形成したものである。
【0095】
【表15】
【0096】
上記表15から、純アルミ(A1050-H18)においても、重量平均分子量が5,000以上450,000以下のポリアクリル酸をオキサゾリンにより架橋することで得られる薄膜を介して接着剤で接合することにより、優れた耐水接着性が得られることが分かる。
【0097】
[実施例15]
基材としてフェライト系ステンレス鋼板SUS405に代えてAl-Mn系合金(A3003-H18)を使用した以外は上記実施例3と同様にして試料23A3~39A3の接合体を作製し、実施例3と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表16に示す。なお、この実施例14の各試料は、その番号からA3を省いた試料番号を有する実施例3の試料と同じ条件で薄膜を形成したものである。
【0098】
【表16】
【0099】
上記表16から、Al-Mn系合金(A3003-H18)においても、重量平均分子量が5,000以上450,000以下のポリアクリル酸をオキサゾリンにより架橋することで得られる薄膜を介して接着剤で接合することにより、優れた耐水接着性が得られることが分かる。
【0100】
[実施例16]
基材としてフェライト系ステンレス鋼板SUS405に代えてAl-Mg系合金(A5052-H38)を使用した以外は上記実施例3と同様にして試料23A4~39A4の接合体を作製し、実施例3と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表17に示す。なお、この実施例14の各試料は、その番号からA4を省いた試料番号を有する実施例3の試料と同じ条件で薄膜を形成したものである。
【0101】
【表17】
【0102】
上記表17から、Al-Mg系合金(A5052-H38)においても、重量平均分子量が5,000以上450,000以下のポリアクリル酸をオキサゾリンにより架橋することで得られる薄膜を介して接着剤で接合することにより、優れた耐水接着性が得られることが分かる。
【0103】
[実施例17]
基材としてフェライト系ステンレス鋼板SUS405に代えてAl-Si系合金(A4032-T6)を使用した以外は上記実施例3と同様にして試料23A5~39A5の接合体を作製し、実施例3と同様に接続部の初期剪断接着強度及び耐水接着性を評価した。その測定結果を下記表18に示す。なお、この実施例14の各試料は、その番号からA5を省いた試料番号を有する実施例3の試料と同じ条件で薄膜を形成したものである。
【0104】
【表18】
【0105】
上記表18から、Al-Si系合金(A4032-T6)においても、重量平均分子量が5,000以上450,000以下のポリアクリル酸をオキサゾリンにより架橋することで得られる薄膜を介して接着剤で接合することにより、優れた耐水接着性が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0106】
1 金属材料
2 オキサゾリン架橋ポリアクリル酸薄膜
3 接着剤
4 被接着金属
図1
図2