(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】単結晶引き上げ装置、および、シリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20220117BHJP
【FI】
C30B29/06 502C
(21)【出願番号】P 2018224843
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2020-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 裕
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-033962(JP,U)
【文献】特開平06-279169(JP,A)
【文献】特開2001-002489(JP,A)
【文献】特開平09-309789(JP,A)
【文献】特開2011-246341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン融液を収容する坩堝と、
種子結晶を前記シリコン融液に接触させた後に引き上げることで、シリコン単結晶を育成する引き上げ部と、
前記坩堝の上方において前記シリコン単結晶を囲むように設けられた円筒状または円錐台筒状の熱遮蔽体と、
前記坩堝、および前記熱遮蔽体を収容するチャンバと、
前記チャンバ内に設けられるパージチューブであって、
円筒状に形成され、前記チャンバの外部から導入される不活性ガスをシリコン融液側に案内する円筒部と、
前記円筒部の外周面から外側に向けて鍔状に突出する鍔部とを備え、
前記鍔部の少なくとも一部には、前記チャンバの外部に設けられた光学観察手段によって、シリコン単結晶の育成状況の観察を可能にする透過部が設けられてい
るパージチューブ
と、
前記チャンバの外部から当該チャンバの内部に不活性ガスを導入するガス導入部と、
前記チャンバの外部に設けられ、前記パージチューブの前記透過部を介して、前記シリコン単結晶の育成状況を観察する光学観察手段とを備え、
前記熱遮蔽体の内周面には、前記パージチューブを下方から支持するパージチューブ支持部が設けられていることを特徴とする単結晶引き上げ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の
単結晶引き上げ装置において、
前記透過部は、当該透過部の上面に対する前記光学観察手段の光軸の入射角が45°以下になるように形成されていることを特徴とする
単結晶引き上げ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の
単結晶引き上げ装置において、
前記透過部は、前記入射角が0°になるように形成されていることを特徴とする
単結晶引き上げ装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の
単結晶引き上げ装置において、
前記透過部は、厚さが均一の平板状の石英で形成されていることを特徴とする
単結晶引き上げ装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の
単結晶引き上げ装置において、
前記鍔部は、前記円筒部の中心軸と直交する方向に延びる円環板状に形成されていることを特徴とする
単結晶引き上げ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の
単結晶引き上げ装置において、
前記鍔部は、厚さが均一に形成されていることを特徴とする
単結晶引き上げ装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の
単結晶引き上げ装置において、
前記鍔部の外径は、前記チャンバ内に設けられる円筒状または円錐台筒状の熱遮蔽体の下端の内径よりも大きいことを特徴とする
単結晶引き上げ装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の
単結晶引き上げ装置において、
前記円筒部は、黒鉛により形成されていることを特徴とする
単結晶引き上げ装置。
【請求項9】
請求項
1から請求項
8のいずれか一項に記載の単結晶引き上げ装置を用いたシリコン単結晶の製造方法であって、
前記光学観察手段の観察結果に基づいて、前記シリコン単結晶の育成条件を制御することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶引き上げ装置、および、シリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン単結晶の製造中に、チャンバ外部の撮像手段を用いて内部を撮像し、シリコン単結晶の育成状況の基づきシリコン単結晶の育成条件を制御することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の単結晶引き上げ装置は、石英製のパージチューブを備えている。パージチューブは、透明な覗き窓を備えている。この覗き窓を介して、CCDカメラがシリコン単結晶の育成状況を撮像できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成では、覗き窓の表面と鉛直線(重力の方向に延びる直線)とが平行なため、覗き窓の表面に対するCCDカメラの光軸の入射角が大きくなっている。このため、覗き窓の表面での反射像がCCDカメラで撮像されてしまい、シリコン単結晶の育成状況を適切に撮像できないおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、チャンバの外部からシリコン単結晶の育成状況を適切に把握することを可能にする単結晶引き上げ装置、および、シリコン単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のパージチューブは、単結晶引き上げ装置のチャンバ内に設けられるパージチューブであって、円筒状に形成され、前記チャンバの外部から導入される不活性ガスをシリコン融液側に案内する円筒部と、前記円筒部の外周面から外側に向けて鍔状に突出する鍔部とを備え、前記鍔部の少なくとも一部には、前記チャンバの外部に設けられた光学観察手段によって、シリコン単結晶の育成状況の観察を可能にする透過部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
光学観察手段で観察するシリコン単結晶の育成状況としては、シリコン単結晶とシリコン融液の液面との境界に存在する円環状のメニスカスの発生状況や、シリコン融液の液面から熱遮蔽体下端までの距離(以下、「ギャップ」という場合がある)などが例示できる。
本発明によれば、円筒部の中心軸と鉛直線とが平行になるように、パージチューブを単結晶引き上げ装置に設けることで、透過部の上面に対する光学観察手段の光軸の入射角を、上記特許文献1のような構成(以下、「従来の構成」という)と比べて小さくすることができる。したがって、透過部上面での反射成分が光学観察手段で観察されてしまうことを抑制でき、光学観察手段でシリコン単結晶の育成状況を適切に把握できる。
【0009】
シリコン単結晶の育成状況を適切に把握できない場合、シリコン単結晶製造中のギャップを精密に制御できないといった問題や、製造中のシリコン単結晶の直径を精密に制御できないといった問題、さらに、シリコン単結晶の直径制御と密接に関連している引き上げ速度制御も精密に行うことができないおそれがある。
本発明は、シリコン単結晶の育成状況を適切に把握できるため、精密なギャップ制御、精密なシリコン単結晶の直径制御、あるいは、精密な引き上げ速度制御、もしくはこれらが同時に求められる半導体用のシリコン単結晶の製造に好適である。
【0010】
本発明のパージチューブにおいて、前記透過部は、当該透過部の上面に対する前記光学観察手段の光軸の入射角が45°以下になるように形成されていることが好ましい。
【0011】
上記入射角が45°以下の場合とは、側面視における円筒部の外周面と透過部の上面とのなす角度が鋭角になる場合と、鈍角になる場合との両方を含む。
本発明によれば、透過部上面での反射成分が光学観察手段で観察されてしまうことをより抑制できる。なお、上記入射角は、22.5°以下になるように形成されていることがより好ましい。
【0012】
本発明のパージチューブにおいて、前記透過部は、前記入射角が0°になるように形成されていることが好ましい。
【0013】
入射角が0°の場合とは、0°に加えて、-5°から5°の範囲も含む。
本発明によれば、透過部上面での反射成分が光学観察手段で観察されてしまうことを防止できる。
【0014】
本発明のパージチューブにおいて、前記透過部は、厚さが均一の平板状の石英で形成されていることが好ましい。
【0015】
本発明によれば、二次元観察時の観察結果の歪みを抑制でき、光学観察手段でシリコン単結晶の育成状況をより適切に把握できる。
【0016】
本発明のパージチューブにおいて、前記鍔部は、前記円筒部の中心軸と直交する方向に延びる円環板状に形成されていることが好ましい。特に、前記鍔部は、厚さが均一に形成されていることが好ましい。
【0017】
本発明によれば、鍔部を単純な形状にすることによって、当該鍔部を容易に製造できる。
【0018】
本発明のパージチューブにおいて、前記鍔部の外径は、前記チャンバ内に設けられる円筒状または円錐台筒状の熱遮蔽体の下端の内径よりも大きいことが好ましい。
【0019】
本発明によれば、鍔部と熱遮蔽体との当接のみによって、パージチューブを容易に設置できる。
【0020】
本発明のパージチューブにおいて、前記円筒部は、黒鉛により形成されていることが好ましい。
【0021】
本発明によれば、パージチューブの軽量化とコストダウンを図れる。
【0022】
本発明の単結晶引き上げ装置は、シリコン融液を収容する坩堝と、種子結晶を前記シリコン融液に接触させた後に引き上げることで、シリコン単結晶を育成する引き上げ部と、前記坩堝の上方において前記シリコン単結晶を囲むように設けられた円筒状の熱遮蔽体と、上述のパージチューブと、前記坩堝、前記熱遮蔽体および前記パージチューブを収容するチャンバと、前記チャンバの外部から当該チャンバの内部に不活性ガスを導入するガス導入部と、前記チャンバの外部に設けられ、前記パージチューブの前記透過部を介して、前記シリコン単結晶の育成状況を観察する光学観察手段とを備えていることを特徴とする。
【0023】
本発明の単結晶引き上げ装置において、前記熱遮蔽体の内周面には、前記パージチューブを下方から支持するパージチューブ支持部が設けられていることが好ましい。特に、前記パージチューブの鍔部を下方から支持することが好ましい。
【0024】
本発明によれば、パージチューブを容易に位置決めできる。特に、鍔部を下方から支持すれば、パージチューブが傾かずに安定する。
【0025】
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、上述の単結晶引き上げ装置を用いたシリコン単結晶の製造方法であって、前記光学観察手段の観察結果に基づいて、前記シリコン単結晶の育成条件を制御することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る単結晶引き上げ装置の模式図。
【
図2】前記第1実施形態における単結晶引き上げ装置の要部の拡大図。
【
図3】前記第1実施形態におけるパージチューブを示し、(A)は平面図、(B)は断面図、(C)は(B)のIIIC-IIIC線に沿う断面図。
【
図4】本発明の第2実施形態に係るパージチューブを示し、(A)は平面図、(B)は(A)のIVB-IVB線に沿う断面図。
【
図5】前記第2実施形態における単結晶引き上げ装置の模式図。
【
図6】前記第2実施形態における単結晶引き上げ装置の要部の拡大図。
【
図7】本発明の実施例を示し、(A)は実験例におけるシリコン融液表面近傍の状態を表す断面図、(B)はパージチューブの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照して説明する。
【0028】
〔関連技術〕
まず、単結晶引き上げ装置の一般的な構成について説明する。
図1に示すように、単結晶引き上げ装置1は、CZ法(Czochralski法)に用いられる装置であって、引き上げ装置本体2と、光学観察手段3と、制御部4とを備えている。
引き上げ装置本体2は、チャンバ21と、このチャンバ21内に配置された坩堝22と、この坩堝22を加熱するヒータ23と、引き上げ部24と、熱遮蔽体25と、チャンバ21の内壁に設けられた断熱材26と、坩堝駆動部27とを備えている。
なお、単結晶引き上げ装置1は、二点鎖線で示すように、MCZ(Magnetic field applied Czochralski)法に用いられる装置であって、チャンバ21の外側において坩堝22を挟んで配置された一対の電磁コイル28を有していてもよい。
【0029】
チャンバ21は、メインチャンバ211と、このメインチャンバ211の上部にゲートバルブ212を介して接続されたプルチャンバ213とを備えている。
メインチャンバ211は、上面がする形状に形成され、坩堝22、ヒータ23、熱遮蔽体25などが配置される本体部211Aと、本体部211Aの上面を閉塞する蓋部211Bとを備えている。蓋部211Bには、Arガスなどの不活性ガスをメインチャンバ211に導入するための開口部211Cと、光学観察手段3がチャンバ21内部を観察するための石英製の窓部211Dとが設けられている。本体部211Aと蓋部211Bとの間には、内側に延びる支持部211Eが設けられている。
プルチャンバ213には、Arガスなどの不活性ガスをメインチャンバ211内に導入するガス導入口21Aが設けられている。メインチャンバ211の本体部211Aの下部には、当該メインチャンバ211内の気体を排出するガス排気口21Bが設けられている。
【0030】
坩堝22は、石英坩堝221と、この石英坩堝221を収容する黒鉛坩堝222とを備えている。
ヒータ23は、坩堝22の周囲に配置されており、坩堝22内のシリコンを融解する。
引き上げ部24は、一端に種結晶SCが取り付けられるケーブル241と、このケーブル241を昇降および回転させる引き上げ駆動部242とを備えている。
【0031】
熱遮蔽体25は、シリコン単結晶SMを囲むように設けられ、ヒータ23から上方に向かって放射される輻射熱を遮断する。熱遮蔽体25は、下方に向かうにしたがって直径が小さくなる円錐台筒状に形成された熱遮蔽体本体部251と、熱遮蔽体本体部251の上端から外側に向けて鍔状に延びる被支持部252とを備えている。
図2に示すように、熱遮蔽体本体部251には、その内周面から円周方向に連続して突出するパージチューブ支持部251Aが設けられている。
熱遮蔽体25は、支持部211E上に被支持部252が固定されることによって、坩堝22の上方に配置される。
坩堝駆動部27は、黒鉛坩堝222を下方から支持する支持軸271を備え、坩堝22を所定の速度で回転および昇降させる。
【0032】
光学観察手段3は、シリコン融液Mの液面に存在するメニスカスの発生状況や、ギャップGなどをシリコン単結晶SMの育成状況として観察する。光学観察手段3は、撮像手段31と、演算手段32とを備えている。撮像手段31は、例えば二次元CCDカメラであり、チャンバ21の外部から窓部211Dを介して、シリコン融液Mの液面を撮像する。演算手段32は、撮像手段31の撮像結果に基づいて、シリコン単結晶SMの育成状況を演算して求める。
【0033】
制御部4は、メモリ41に記憶された各種情報や、作業者の操作に基づいて、シリコン単結晶SMを製造する。メモリ41に記憶された情報としては、チャンバ21内のガス流量や炉内圧、ヒータ23に投入する電力、坩堝22やシリコン単結晶SMの回転数などが例示できる。
【0034】
〔パージチューブの構成〕
次に、単結晶引き上げ装置1に設けられるパージチューブの構成について説明する。
図3(A)~(C)に示すように、パージチューブ5は、円筒状の円筒部51と、当該円筒部51の下端から外側に向けて鍔状に突出する鍔部52とを備えている。
【0035】
鍔部52は、下方に向かうにしたがって直径が大きくなる円錐台筒状に形成されている。鍔部52は、鍔本体部521と、透過部522とを備えている。
鍔本体部521は、平面視において、厚さが均一の円錐台筒形状の一部が切り欠かれた略C字状に形成されている。つまり、鍔本体部521の上面521Aは、曲面になっている。
透過部522は、厚さが均一の平板状に形成されている。つまり透過部522の上面522Aは、平面になっている。透過部522は、鍔本体部521における切り欠かれた部分を埋めるように設けられている。透過部522は、側面視において、上面522Aと円筒部51の外周面51Aとのなす角度θ
1が鈍角となるように設けられている。透過部522は、
図2に示すように、その上面522Aに対する撮像手段31の光軸Pの入射角(上面522Aの法線Nに対する光軸Pの角度)が45°以下となるように設けられている。本第1実施形態では、入射角が0°、つまり上面522Aと光軸Pとのなす角度θ
2が90°となるように設けられている。
【0036】
円筒部51、鍔本体部521および透過部522は、それぞれ透明な石英により形成されており、これらは、円筒部51の中心軸と鍔本体部521の中心軸とが一致するように、溶接によって一体化されている。平面視において、鍔部52の外形は円形になっており、その外径は、熱遮蔽体25の下端開口の内径よりも大きくなっている。シリコン単結晶SMは、この円筒部51の内部を通過して上方に引き上げられる。
【0037】
〔パージチューブを備える単結晶引き上げ装置の構成〕
図1および
図3に示すように、パージチューブ5は、鍔部52が熱遮蔽体本体部251の内周面から突出するパージチューブ支持部251Aによって下方から支持されることによって、シリコン融液Mの液面から透過部522までの距離がL
1となるように位置決めされている。この距離をL
1にすることによって、透過部522の下端の位置が、後述する実施例におけるパージチューブ9の変色領域Aの上端位置よりも高くなる。また、パージチューブ5は、円筒部51の中心軸と熱遮蔽体25の中心軸とが一致するように、かつ、円筒部51の中心軸が鉛直線Vと平行になるように位置決めされている。
【0038】
引き上げ装置本体2内には、ドローチューブ29が設けられていてもよい。ドローチューブ29は、例えば金属によって内径がパージチューブ5の円筒部51の外径よりも大きい円筒状に形成されている。ドローチューブ29は、その外周面が蓋部211Bの開口部211Cの内周面に固定されることによって、その下端が熱遮蔽体25の内部に位置し、かつ、その内部に鍔部52の上端部が位置するように設けることができる。なお、本実施形態では、パージチューブ5とドローチューブ29とが接触していないが、両者が接触していてもよい。
【0039】
〔シリコン単結晶の製造方法〕
次に、単結晶引き上げ装置1を用いたシリコン単結晶SMの製造方法について説明する。
なお、本製造方法によって、200mm、300mm、450mmなどのシリコンウェーハを取得可能なシリコン単結晶SMを製造してもよい。
【0040】
まず、単結晶引き上げ装置1の制御部4は、シリコン単結晶SMに要求される品質、例えば抵抗率、酸素濃度を満足するための引き上げ条件である不活性ガスの流量、チャンバ21内部の圧力、坩堝22やシリコン単結晶SMの回転数、ヒータ23の加熱条件などを設定する。なお、この設定条件は、作業者が入力したものであってもよいし、作業者が入力した目標の酸素濃度などに基づき制御部4が演算して求めたものであってもよい。
【0041】
次に、制御部4は、坩堝22を加熱することで、当該坩堝22内のポリシリコン素材(シリコン原料)を融解させ、シリコン融液Mを生成する。なお、シリコン融液Mは、シリコン単結晶SMの抵抗率調整用のドーパントを含んでいてもよい。
その後、制御部4は、ガス導入口21Aからチャンバ21内に不活性ガスを所定の流量で導入するとともに、チャンバ21内の圧力を減圧して、チャンバ21内を減圧下の不活性雰囲気に維持する。
その後、制御部4は、種結晶SCをシリコン融液Mに浸漬して、坩堝22およびケーブル241を所定の方向に回転させながら、当該ケーブル241を引き上げることで、シリコン単結晶SMを育成する。
【0042】
このシリコン単結晶SMの育成中、シリコン融液Mのシリコンが蒸発して酸素と反応して、SiOが生成される場合がある。このSiOがメインチャンバ211の蓋部211Bの内壁に付着して凝集すると、この凝集物が熱遮蔽体25の内部を通過してシリコン融液Mに落下してしまい、シリコン単結晶SMが多結晶化するおそれがある。しかし、本実施形態では、円錐台筒状の鍔部52の外縁全周が熱遮蔽体25の内周面に接触しているため、凝集物が熱遮蔽体25の内部に落下しても、鍔部52によって凝集物がシリコン融液Mに到達することを防止できる。
【0043】
また、シリコン単結晶SMの育成中、光学観察手段3は、透過部522を透過するシリコン融液Mやシリコン単結晶SMの像を撮像手段31で撮像し、この撮像結果に基づいて、演算手段32でシリコン単結晶SMの育成状況を求める。そして、制御部4は、光学観察手段3で得られた育成状況に基づいて、所望のシリコン単結晶SMが製造されるように、シリコン単結晶SMの直径やギャップGなどの育成条件を制御する。
【0044】
〔第1実施形態の作用効果〕
第1実施形態によれば、以下のような作用効果を奏することができる。
(1)円筒部51と鍔部52とで構成されたパージチューブ5を、円筒部51の中心軸と鉛直線Vとが平行になるように、チャンバ21内で位置決めしている。
このため、透過部522の上面522Aに対する撮像手段31の光軸Pの入射角を、従来の構成と比べて小さくすることができる。その結果、透過部522の上面522Aでの反射成分が撮像手段31で撮像されることを抑制でき、チャンバ21の外部からシリコン単結晶SMの育成状況を適切に把握できる。
【0045】
(2)特に、上面522Aに対する光軸Pの入射角が0°となるように透過部522を構成しているため、上面522Aでの反射成分が撮像手段31で撮像されることを防止できる。
(3)また、平板状の透過部522の厚さを均一にしているため、二次元観察時の観察結果の歪みを抑制できる。
これら(2)、(3)の効果によって、撮像手段31は、シリコン融液Mやシリコン単結晶SMの実際の状況がほぼ正確に、かつ、クリアに映し出された像を撮像できる。特に、シリコン融液Mとシリコン単結晶SMの境界部およびその周辺の像をクリアに撮像できる。
その結果、チャンバ21の外部からシリコン単結晶SMの育成状況をほぼ正確に把握できる。そして、把握した育成状況に基づいて、シリコン単結晶SMの直径およびギャップGを精密に制御することができる。すなわち、クリアな像により、狙いの直径に対する乖離量、あるいは狙いのギャップGに対する乖離量を正確に把握し、その乖離量をなくすように制御することが可能となる。
【0046】
(4)鍔部52の外径を熱遮蔽体25の下端開口の内径よりも大きくしているため、鍔部52と熱遮蔽体25との当接のみによって、パージチューブ5を容易に設置できる。
【0047】
(5)シリコン融液Mの液面から透過部522までの距離がL1となるように、パージチューブ5を位置決めしているため、シリコン融液Mの輻射熱によって透過部522が変色することを抑制できる。
この変色は、酸化ケイ素(SiOx)が透過部522に付着、結合することにより発生するため、フッ酸などによる酸洗浄により除去することができるが、除去費用が発生するため製造のコスト増につながる。
上記実施形態では、透過部522の変色を抑制できるため、コスト増を抑制できる。
【0048】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、説明を省略または簡略にする。
【0049】
〔パージチューブの構成〕
まず、パージチューブの構成について説明する。
図4(A)~(B)に示すように、パージチューブ7は、円筒状の円筒部71と、当該円筒部71の下端から外側に向けて鍔状に突出する鍔部72とを備えている。
図5に示すように、鍔部72の外径は熱遮蔽体25の下端開口の内径よりも大きく、さらに熱遮蔽体25の上端開口の内径よりも大きいことを特徴とする。
【0050】
円筒部71は、黒鉛により形成されている。
鍔部72は、透明な石英により形成されている。鍔部72は、円筒部71の中心軸と直交する方向に延び、かつ、厚さが均一の円環板状に形成されている。鍔部72の外径は、熱遮蔽体25の下端開口の内径よりも大きく、さらに熱遮蔽体25の上端開口の内径よりも大きい。パージチューブ7がチャンバ21内に設けられたときに、鍔部72における撮像手段31の光軸Pと重なる部分を含む一部の領域が、透過部721として機能する。例えば、
図4(A)において、二点鎖線で囲まれる領域が、透過部721として機能するが、パージチューブ7の設置状態によっては、他の領域が透過部721となり得る。このような構成によって、透過部721の上面721Aは、平面になる。
鍔部72の上面72Aには、円環板状の内縁に沿う円形の位置決め溝部72Bが設けられている。この位置決め溝部72Bに円筒部71の下端が嵌め込まれることで、円筒部71の中心軸と鍔部72の中心軸とが一致するように、両者が位置決めされる。透過部721は、側面視において、その上面721Aと円筒部71の外周面71Aとのなす角度θ
3が直角となるように設けられる。
【0051】
〔パージチューブを備える単結晶引き上げ装置の構成〕
図5および
図6に示すように、パージチューブ7は、単結晶引き上げ装置1Aのチャンバ21内に設けられる。パージチューブ7は、熱遮蔽体25の上端開口の内径よりも大きいので、熱遮蔽体25の被支持部252の上面に載置することができる。鍔部72が熱遮蔽体25の被支持部252の上面に載置されることによって、シリコン融液Mの液面から透過部721までの距離L
2を、第1実施形態の距離L
1よりも長くすることができ、透過部721の下端の位置を確実にパージチューブ9の変色領域Aの上端位置よりも高くすることができる。さらに、パージチューブ7が第1実施形態と比較して高温に晒されることを避けることができるので、より多くの繰り返しの使用が可能となる。
また、パージチューブ7は、円筒部71の中心軸と熱遮蔽体25の中心軸とが一致し、かつ、円筒部71の中心軸が鉛直線Vと平行になるように位置決めされている。さらに、パージチューブ7は、その上端側の一部分が蓋部211Bの開口部211C内に位置するように、位置決めされている。パージチューブ7と開口部211Cとが接触していないが、両者が接触していてもよい。
以上のように、パージチューブ7がチャンバ21内で支持されることによって、透過部721の上面721Aに対する撮像手段31の光軸Pの入射角θ
4(上面721Aの法線Nに対する光軸Pの入射角θ4)は、45°以下になる。
【0052】
〔シリコン単結晶の製造方法〕
次に、単結晶引き上げ装置1Aを用いたシリコン単結晶SMの製造方法について説明する。
なお、シリコン単結晶SMの製造工程は第1実施形態と同じため、パージチューブ5の代わりにパージチューブ7を設けたことによる相違点のみ説明する。
【0053】
シリコン単結晶SMの育成中、シリコン融液Mの蒸発に伴いSiOの凝集物が熱遮蔽体25の内部に落下するおそれがあるが、本実施形態では、円環板状の鍔部72の外縁全周が熱遮蔽体本体部251の上端開口よりも外側に位置しているため、鍔部72によって凝集物がシリコン融液Mに到達することを防止できる。
【0054】
また、シリコン単結晶SMの育成中、光学観察手段3の撮像手段31は、透過部721を透過する像を撮像する。そして、制御部4は、光学観察手段3で得られた育成状況に基づいて、所望のシリコン単結晶SMが製造されるように、育成条件を制御する。
【0055】
〔第2実施形態の作用効果〕
第2実施形態によれば、第1実施形態の(4)、(5)と同様の作用効果に加えて、以下のような作用効果を奏することができる。
(6)円筒部71と鍔部72とで構成されたパージチューブ7を、円筒部71の中心軸と鉛直線Vとが平行になるように、チャンバ21内で位置決めしている。
このため、透過部721の上面721Aに対する撮像手段31の光軸Pの入射角θ4を、従来の構成と比べて小さくすることができ、チャンバ21の外部からシリコン単結晶SMの育成状況を適切に把握できる。
【0056】
(7)鍔部72を円筒部71の中心軸と直交する方向に延び、かつ、厚さが均一の円環板状に形成しているため、当該鍔部72を容易に製造できる。
【0057】
(8)円筒部71を黒鉛により形成しているため、パージチューブ7の軽量化とコストダウンを図れる。
【0058】
[変形例]
なお、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の改良ならびに設計の変更などが可能である。
【0059】
例えば、透過部522は、上面522Aと円筒部51の外周面51Aとのなす角度θ1が鋭角となり、かつ、上面522Aに対する光軸Pの入射角が45°以上となるように設けられてもよい。
透過部522は、上面522Aと円筒部51の外周面51Aとのなす角度θ1が180°未満であれば、つまり従来の構成のように180°でなければ、上面522Aに対する光軸Pの入射角が45°を超えるように設けられてもよい。このような構成でも、上面522Aに対する光軸Pの入射角を、従来の構成と比べて小さくすることができ、透過部522での反射成分が撮像手段31で撮像されることを抑制できる。
透過部522,721は、厚さが不均一の板状であってもよい。
曲面状の鍔本体部521の上面521Aを透過部として機能させてもよく、この場合、鍔部52全体を円錐台筒状に形成してもよい。
【0060】
円筒部71をステンレスなどの金属や石英で形成してもよいし、円筒部51や、鍔本体部521や、鍔部72の透過部721として機能する領域以外を、黒鉛や金属で形成してもよい。
熱遮蔽体25の熱遮蔽体本体部251は、円筒状であってもよいし、熱遮蔽体本体部251にパージチューブ支持部251Aを設けなくてもよい。
【実施例】
【0061】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0062】
まず、
図7(A)に示すようなパージチューブ9を熱遮蔽体25の内部に配置した。パージチューブ9は、上記先行技術文献(特開2011-246341号公報)の
図1に示すように、石英によって円筒状に形成されている。パージチューブ9は、熱遮蔽体25の下端から内側に突出する突出部259によって、その下端91が支持されている。
【0063】
図7(A)の構成を有する単結晶引き上げ装置を用いて、シングル引き上げ法(1個の石英坩堝を用いて1本のシリコン単結晶を製造する方法)で複数のシリコン単結晶SMを製造し、各シリコン単結晶SMを製造するごとに、パージチューブ9の変色を観察した。このとき、パージチューブ9の下端側の側面部分を介して光学観察手段3で育成状況を観察しつつ、ギャップGを調整した。
【0064】
1本目のシリコン単結晶SMの製造後から、
図7(B)に示すように、変色が発生し始め、製造本数が多くなるにしたがって変色の色が濃くなることが確認できた。ヒータ23の通電開始後50時間を経過した辺りのシリコン単結晶を製造した時点で、光学観察手段3での観察が困難な状態までパージチューブ9が変色した。
そして、パージチューブ9の下端91から変色領域Aの上端までの高さHと、熱遮蔽体25の内側表面の変色した位置とを確認した。
この確認結果に基づき、透過部522,721の下端の位置が、パージチューブ9の変色領域Aの上端位置、および、熱遮蔽体25内側の変色領域の上端位置よりも高くなるように、パージチューブ5,7を設置することで、変色を抑制できる可能性があることが確認できた。
実際に、第1,第2実施形態の構成において、上記確認結果に基づく位置にパージチューブ5,7を設置してシリコン単結晶SMを製造したところ、ヒータ23の通電開始後50時間を超えても変色は見られなかった。
【符号の説明】
【0065】
1,1A…単結晶引き上げ装置、21…チャンバ、22…坩堝、24…引き上げ部、25…熱遮蔽体、251A…パージチューブ支持部、3…光学観察手段、5,7…パージチューブ、51,71…円筒部、51A,71A…外周面、52,72…鍔部、522,721…透過部、522A,721A…上面、M…シリコン融液、SM…シリコン単結晶。