(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】シリコン単結晶製造装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20220117BHJP
C30B 15/20 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C30B29/06 502C
C30B15/20
(21)【出願番号】P 2019037335
(22)【出願日】2019-03-01
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】尼ヶ▲崎▼ 晋
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/083859(WO,A1)
【文献】特開2002-104896(JP,A)
【文献】特表2008-531444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインチャンバと、
ゲートバルブと、
プルチャンバと、
前記メインチャンバに配置された坩堝内のシリコン融液表面の温度を測定する融液表面温度測定部とを備え、
前記融液表面温度測定部は、
前記ゲートバルブおよび前記プルチャンバの間に配置され、外周面に開口が形成された筒状部と、
放射熱を透過する材料から構成され、前記筒状部の開口に設けられる窓部と、
前記筒状部の内側に配置され、前記シリコン融液表面から放射された放射熱を、前記窓部に導く導熱部と、
前記筒状部の外側に配置され、前記窓部を介して前記導熱部から導かれた放射熱を測定する放射温度計とを備えていることを特徴とするシリコン単結晶製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコン単結晶製造装置において、
前記導熱部は、前記筒状部に挿通され、当該挿通方向に移動自在な支持部材によって支持されていることを特徴とするシリコン単結晶製造装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のシリコン単結晶製造装置において、
前記筒状部の外周面には、当該筒状部の外周方向に沿って複数の開口が形成され、
前記複数の開口は、前記窓部、前記導熱部および前記放射温度計が着脱自在に配置可能に構成され、
前記窓部が設けられる開口以外の開口は、蓋部によって塞がれていることを特徴とするシリコン単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の引き上げは、メインチャンバ内に坩堝を設置し、坩堝内に投入されたシリコンを加熱して融液状態とし、シリコン融液に種結晶を着床させ、引き上げワイヤーにより種結晶を上方に引き上げることにより行われる。引き上げられたシリコン単結晶は、メインチャンバの上部に設けられたプルチャンバ内に収納され、ゲートバルブによりメインチャンバを密閉した後、プルチャンバを移動させて引き上げ装置から取り出される。
【0003】
シリコン単結晶の引き上げに際しては、坩堝内のシリコン融液表面の温度が重要なパラメータの一つであり、融液表面の温度を正確に測定をすることにより、シリコン単結晶の品質を精密に制御することが可能となる。
従来、特許文献1には、プルチャンバの上部に放射温度計と二次元温度計を配置し、
これら二つの温度計を用いて、シリコン融液表面の温度を測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、シリコン融液表面から温度計までの測定距離が大きくなってしまう。特に放射温度計は、測定距離が長くなると、測定可能な測定スポット径が大きくなり、スポット内の平均温度が表示されることが原因で、測定値がばらつくという課題がある。
また、測定距離が長くなると、放射温度計がメインチャンバ、プルチャンバ内で乱反射した放射熱などの外乱を拾ってしまい、シリコン融液表面の温度を正確に測定できないという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、シリコン単結晶の品質を高精度に制御可能なシリコン単結晶製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のシリコン単結晶製造装置は、メインチャンバと、ゲートバルブと、プルチャンバと、前記メインチャンバに配置された坩堝内のシリコン融液表面の温度を測定する融液表面温度測定部とを備え、前記融液表面温度測定部は、前記ゲートバルブおよび前記プルチャンバの間に配置され、外周面に開口が形成された筒状部と、放射熱を透過する材料から構成され、前記筒状部の開口に設けられる窓部と、前記筒状部の内側に配置され、前記シリコン融液表面から放射された放射熱を、前記窓部に導く導熱部と、前記筒状部の外側に配置され、前記窓部を介して前記導熱部から導かれた放射熱を測定する放射温度計とを備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、メインチャンバおよびプルチャンバの間に融液表面温度測定部が配置される。したがって、前述した特許文献1に記載の技術と比較して放射温度計の測定距離を短くでき、計測スポット径を小さくしてシリコン融液表面の温度を正確に測定できる。そして、この温度測定結果に基づいて、シリコン単結晶の品質を高精度に制御できる。
【0009】
本発明のシリコン単結晶製造装置において、前記導熱部は、前記筒状部に挿通され、当該挿通方向に移動自在な支持部材によって支持されていることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、支持部材をその挿通方向に進退させることにより、導熱部を筒状部の径方向に移動させることができる。よって、シリコン融液表面上で計測スポットを移動させることにより、坩堝径方向の温度分布を容易に測定できる。また、径方向で任意の位置の温度を測定できる。
【0011】
本発明のシリコン単結晶製造装置において、前記筒状部の外周面には、当該筒状部の外周方向に沿って複数の開口が形成され、前記複数の開口は、前記窓部、前記導熱部および前記放射温度計が着脱自在に配置可能に構成され、前記窓部が設けられる開口以外の開口は、蓋部によって塞がれていることが好ましい。
【0012】
本発明によれば、窓部、導熱部および放射温度計を複数の開口のいずれかに移動させることができ、シリコン融液表面の所望の位置の温度を測定できる。また、窓部が設けられない開口が蓋部で塞がれることにより、メインチャンバ内の放射熱が外部に漏れることを抑制でき、シリコン融液表面の温度測定を一層正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシリコン単結晶製造装置の概略構成を示す縦断面図。
【
図2】前記シリコン単結晶製造装置を構成するゲートバルブの横断面図。
【
図3】前記シリコン単結晶製造装置を構成する融液表面温度測定部の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施形態]
以下、本発明の一実施形態について説明する。
〔シリコン単結晶製造装置の構成〕
図1に示すように、シリコン単結晶製造装置1は、MCZ(Magnetic field applied Czochralski)法に用いられる装置である。シリコン単結晶製造装置1は、メインチャンバ2と、ゲートバルブ3と、融液表面温度測定部4と、プルチャンバ5とを備えている。
【0015】
メインチャンバ2の内部には、坩堝21、ヒータ22、熱遮蔽体23、冷却筒24などが配置されている。坩堝21には、シリコン融液Mが収容される。メインチャンバ2の外部には、一対の電磁コイル25が設けられている。
【0016】
ゲートバルブ3は、メインチャンバ2の上端に設けられている。ゲートバルブ3は、
図2にも示すように、弁箱31と、弁体32と、旋回軸33と、連結部材34と、旋回駆動部35とを備えている。
弁箱31は、内部に弁体32を収容可能に構成されている。弁箱31は、メインチャンバ2の上端に着脱自在に固定される。弁箱31は、メインチャンバ2への固定時に上側に位置する上開口311と、下側に位置する下開口312とを備えている。
弁体32は、下開口312を閉塞可能な円板状に形成されている。旋回軸33は、その一部が弁箱31内に位置するように、弁箱31に回転自在に設けられている。
連結部材34は、弁体32の上部と旋回軸33とを連結する。旋回駆動部35は、弁箱31の外部に配置されている。
旋回駆動部35は、旋回軸33における弁箱31外に位置する部分に連結され、当該旋回軸33を回転させることで、
図2に実線で示すようにメインチャンバ2の上部を閉塞する閉塞位置と、二点鎖線で示すようにメインチャンバ2の上部を開放する開放位置との間で、弁体32を旋回させる。
【0017】
融液表面温度測定部4は、
図1,3,4に示すように、環状円板部41と、筒状部42と、測定ユニット43と、蓋部44とを備えている。
【0018】
環状円板部41は、筒状部42の上端に設けられており、筒状部42は、ゲートバルブ3の上端に設けられている。環状円板部41は、ステンレスなどの金属で構成されている。環状円板部41は、外形が円形で、その下端内形と同形の開口が形成されている。
【0019】
筒状部42は、平面視の外形が16角形で、内形が円形の筒状に形成されている。筒状部42は、例えば環状円板部41と同じ材料で構成されている。筒状部42における平面視で互いに隣り合わない8個の直線部分には、当該筒状部42の内外を貫通する開口421がそれぞれ設けられている。
【0020】
測定ユニット43は、閉塞部材431と、載置台432と、窓部433と、導熱部としてのミラー434と、支持部材435と、移動駆動部436と、放射温度計437とを備えている。
筒状部42の開口421には、当該開口を閉塞する閉塞部材431が設けられている。閉塞部材431は、8個の開口421のうちいずれか1つ、若しくは複数箇所に、着脱自在に固定される。閉塞部材431は、例えば筒状部42と同じ材料で構成されている。閉塞部材431には、上下に並ぶ2つの貫通孔が設けられている。下側の貫通孔には、ガイド筒部材438が設けられている。ガイド筒部材438は、その中心軸が水平面と平行になるように設けられている。
載置台432は、板状に形成され、筒状部42の下部から外側に延びるように固定されている。
窓部433は、シリコン融液Mの放射熱Hを透過する材料から構成されている。例えば、窓部433は、石英で構成されている。窓部433は、閉塞部材431の上側の貫通孔を塞ぐように固定されている。
【0021】
ミラー434は、放射熱Hを反射する材料から構成されている。ミラー434は、例えばシリコンミラーで構成されている。
支持部材435は、棒状部435Aと、ミラー保持部435Bとを備えている。棒状部435Aは、外形がガイド筒部材438の内形と同じ形状に形成され、ガイド筒部材438に摺動自在に挿通されている。ミラー保持部435Bは、棒状部435Aにおける筒状部42内側の端部に設けられている。ミラー保持部435Bには、水平面とミラー434の反射面434Aとのなす角度が45°となるように、ミラー434が固定されている。
【0022】
移動駆動部436は、載置台432上における平面視で支持部材435の棒状部435Aと重ならない位置に固定されている。移動駆動部436は、連結部材436Aを介して棒状部435Aにおける筒状部42外側の端部に固定されている。移動駆動部436は、棒状部435Aを介してミラー434を移動させる。
放射温度計437は、筒状部42外側の載置台432上における平面視で移動駆動部436と重ならない位置に固定されている。放射温度計437は、ミラー434の反射面434Aで反射された放射熱Hを測定する。
【0023】
蓋部44は、筒状部42と同じ材料で構成されている。蓋部44は、閉塞部材431と同形状であるが、閉塞部材431のような貫通孔を有さない。蓋部44は、筒状部42の8個の開口421のうち、測定ユニット43が設けられていない開口421に着脱自在に固定され、開口421を閉塞する。
【0024】
プルチャンバ5は、融液表面温度測定部4の環状円板部41の上部に設けられている。プルチャンバ5には、メインチャンバ2内にArガスなどの不活性ガスを導入するための図示しない導入部や、シリコン単結晶Sを引き上げるケーブル51を昇降および回転させる図示しない引き上げ駆動部などが設けられている。
【0025】
〔融液表面温度測定部を用いたシリコン単結晶の製造方法〕
次に、融液表面温度測定部4を用いたシリコン単結晶Sの製造方法について説明する。なお、本実施形態では、外周研削後の直胴部S2の直径が300mmのシリコン単結晶Sを製造する場合を例示するが、200mm、450mmあるいは他の大きさのシリコン単結晶Sを製造してもよい。また、抵抗率調整用のドーパントをシリコン融液Mに添加してもよいし、しなくてもよい。
【0026】
まず、ミラー434が
図1における実線で示す位置に存在している状態で、図示しない制御部が、メインチャンバ2内を減圧下の不活性ガス雰囲気に維持し、坩堝21を回転させるとともに、坩堝21に充填した多結晶シリコンなどの固形原料をヒータ22の加熱により溶融させ、シリコン融液Mを生成する。
このシリコン融液Mの生成後、まず、放射温度計437は、シリコン融液M表面における第1の測定点P1の温度を測定する。その後、制御部が移動駆動部436を駆動させ、ミラー434を
図1に二点鎖線で示す2箇所の位置に順次移動させつつ、放射温度計437が、シリコン融液M表面における第2の測定点P2の温度と第3の測定点P3の温度とを測定する。このとき、第2の測定点P2および第3の測定点P3のうち一方のみの温度を測定してもよい。また、第1の測定点P1と第2の測定点P2との間や、第2の測定点P2と第3の測定点P3との間、あるいは第3の測定点P3よりも
図1における右側の任意の位置の温度を測定してもよい。
そして、制御部は、第1~第3の測定点P1~P3の測定結果に基づいて、シリコン融液M表面の温度分布を検出する。制御部は、所望の温度分布になるようにヒータ22を制御してから、再度、第1~第3の測定点P1~P3の温度を測定し、所望の温度分布になるまで、ヒータ22の制御と第1~第3の測定点P1~P3の温度測定とを繰り返す。
【0027】
制御部は、シリコン融液M表面が所望の温度分布になると、電磁コイル25を制御して、シリコン融液Mに磁場を印加する。その後、制御部は、ミラー434が
図1の実線で示す位置に存在している状態で、磁場の印加を継続したまま、肩部S1、直胴部S2、図示しないテール部を有するシリコン単結晶Sを引き上げる。
この引き上げの際、放射温度計437が第1の測定点P1の温度を所定のタイミングで測定する。制御部は、この温度測定結果に基づいて、シリコン融液Mの温度が肩部S1、直胴部S2、テール部の形成に適した温度になるように、ヒータ22を制御する。
【0028】
制御部は、シリコン単結晶Sがシリコン融液Mから切り離されると、シリコン融液Mへの磁場の印加を停止し、シリコン単結晶Sを冷却するようにヒータ22を制御する。制御部は、シリコン単結晶S全体がプルチャンバ5内に収容されたら、ゲートバルブ3の旋回駆動部35を制御して弁体32を閉塞位置に移動させる。その後、シリコン単結晶Sをプルチャンバ5から取り出す。
【0029】
〔実施形態の作用効果〕
上記実施形態によれば、メインチャンバ2とプルチャンバ5との間に融液表面温度測定部4を配置しているため、放射温度計437の測定距離を短くできる。したがって、計測スポット径を小さくして、シリコン融液表面の温度測定のバラツキを小さくすることができ、正確な温度測定結果に基づきシリコン単結晶Sの品質を高精度に制御できる。
計測スポット径が小さくなるので、計測位置の制限となる計測視野の干渉による視野欠けを抑制でき、坩堝21の径方向の測定位置を拡大できる。したがって、より広い範囲の温度分布を測定できる。
さらに、筒状部42に複数の開口421を形成しているため、測定したいシリコン融液M表面の位置に応じて、例えば
図4に二点鎖線で示すように、測定ユニット43の配置位置変更、もしくは追加ができる。
また、測定ユニット43をユニット構造にしたので、測定位置変更が容易になる。
【0030】
[変形例]
なお、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の改良ならびに設計の変更などが可能である。
【0031】
例えば、筒状部42に開口421を1個だけ設けてもよい。この場合、1個の開口421に測定ユニット43を着脱不能に固定してもよいし、着脱可能に固定してもよい。
ミラー434を移動不能に閉塞部材431または窓部433に固定してもよい。
複数の測定ユニット43を同時に複数の開口421のそれぞれに配置して、各放射温度計437で温度測定を行ってもよい。
環状円板部41を設けずに、筒状部42上にプルチャンバ5を直接固定してもよい。
上記実施形態では、シリコン融液Mへの磁場印加前、肩部S1形成時、直胴部S2形成時、テール部形成時の全てのタイミングで温度測定を行ったが、1つ以上3つ以下のタイミングで行ってもよい。シリコン融液Mへの磁場印加前に、1つの測定点のみの温度を測定してもよい。
電磁コイル25を有さない、いわゆるCZ法によるシリコン単結晶Sの製造に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0032】
1…シリコン単結晶製造装置、2…メインチャンバ、3…ゲートバルブ、4…融液表面温度測定部、5…プルチャンバ、21…坩堝、42…筒状部、421…開口、433…窓部、434…ミラー(導熱部)、435…支持部材、437…放射温度計、H…放射熱、M…シリコン融液、S…シリコン単結晶。