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特許7006739合金粉及びその製造方法、並びに有価金属の回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】合金粉及びその製造方法、並びに有価金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20220117BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20220117BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20220117BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20220117BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20220117BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20220117BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20220117BHJP
   C22B 23/02 20060101ALI20220117BHJP
   C22C 30/02 20060101ALI20220117BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
B22F1/00 L
C22B7/00 C
C22B15/00
C22B23/00
C22B3/06
C22C9/06
B22F1/00 M
B22F9/08 A
C22B23/02
C22C30/02
C22C19/03 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020144467
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2021-11-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】富樫 亮
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-77912(JP,A)
【文献】国際公開第2020/013293(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00
C22B7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を構成成分として含み、
体積粒度分布における累積50%径(D50)が30μm以上85μm以下であり、
酸素量が0.01質量%以上1.00質量%以下である、合金粉。
【請求項2】
前記累積50%径(D50)が35μm以上55μm以下である、請求項1に記載の合金粉。
【請求項3】
前記合金粉の体積粒度分布における累積10%径(D10)、累積50%径(D50)及び累積90%径(D90)が、2.50≦(D90-D10)/D50≦3.00の関係を満足する、請求項1又は2に記載の合金粉。
【請求項4】
銅(Cu):24.0~80.0質量%、コバルト(Co):0.1~15.0質量%、ニッケル(Ni):10.0~50.0質量%、鉄(Fe):0.01~10.0質量%、及びマンガン(Mn):0.01~5.0質量%を含み、残部不可避不純物の組成を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の合金粉。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の合金粉を製造する方法であって、以下の工程;
銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を構成成分として含む合金原料を準備する工程、
前記合金原料を加熱熔解して、合金熔湯にする工程、及び
前記合金熔湯をアトマイズ装置のチャンバー内で落下させ、落下する合金熔湯に水を噴射し、それにより冷却して合金粉にする工程を含み、
前記合金粉にする工程で、噴射する水の圧力を6MPa以上20MPa以下とし、且つ合金熔湯の落下量に対する水の噴射量の質量比(比水率)を5.0倍以上7.0倍以下にする、方法。
【請求項6】
前記合金粉にする工程で、合金熔湯の落下量を10kg/分以上75kg/分以下にする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記合金粉にする工程で、噴射する水の温度を2℃以上35℃以下にする、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記合金熔湯にする工程で、合金熔湯の温度を1430℃以上1590℃以下にする、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記合金原料が、廃リチウムイオン電池由来の原料である、請求項5~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項に記載の合金粉を製造する方法であって、以下の工程;
廃リチウムイオン電池を熔融原料として準備する工程、
前記熔融原料を加熱熔融して、銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を含む合金と、この合金の上方に位置するスラグと、にする工程、
前記スラグを分離して、前記合金を合金原料として回収する工程、
前記合金原料を加熱熔解して、合金熔湯にする工程、及び
前記合金熔湯をアトマイズ装置のチャンバー内で落下させ、落下する合金熔湯に水を噴射し、それにより冷却して合金粉にする工程を含み、
前記合金粉にする工程で、噴射する水の圧力を6MPa以上20MPa以下とし、且つ合金熔湯の落下量に対する水の噴射量の質量比(比水率)を5.0倍以上7.0倍以下にする、方法。
【請求項11】
請求項5~10のいずれか一項に記載される方法で合金粉を製造する工程、及び
製造された前記合金粉に酸溶媒による浸出処理を施して、前記合金粉からニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を前記酸溶媒に選択的に溶解し、それにより銅(Cu)を分離する工程、を含む、有価金属(Ni、Co、Cu)の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金粉及びその製造方法、並びに有価金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力の電池としてリチウムイオン電池が普及している。よく知られているリチウムイオン電池は、外装缶内に負極材と正極材とセパレータと電解液とを封入した構造を有している。ここで外装缶は、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)等の金属からなる。負極材は、負極集電体(銅箔等)に固着させた負極活物質(黒鉛等)からなる。正極材は、正極集電体(アルミニウム箔等)に固着させた正極活物質(ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等)からなる。セパレータはポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなる。電解液は六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を含む。
【0003】
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。そのため自動車のライフサイクルにあわせて、搭載されたリチウムイオン電池が将来的に大量に廃棄される見込みである。また製造中に不良品として廃棄されるリチウムイオン電池がある。このような使用済み電池や製造中に生じた不良品の電池(以下、「廃リチウムイオン電池」)を資源として再利用することが求められている。
【0004】
再利用の手法として、廃リチウムイオン電池を高温炉(熔融炉)で全量熔解する乾式製錬プロセスが従来から提案されている。乾式製錬プロセスは、破砕した廃リチウムイオン電池を熔融処理し、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)に代表される回収対象である有価金属と、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)に代表される付加価値の低い金属とを、それらの間の酸素親和力の差を利用して分離回収する手法である。この手法では、付加価値の低い金属はこれを極力酸化してスラグとする一方で、有価金属はその酸化を極力抑制して合金として回収する。
【0005】
回収される合金は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、及びコバルト(Co)を主として含む。乾式製錬プロセスで回収合金から各有価金属(Cu、Ni、Co)を分離回収することができれば、低コストでの回収が可能となる。このような乾式製錬プロセスとして、回収合金を銅製錬プロセスに投入する手法が考えられる。しかしながら、回収合金は、通常は一定量の鉄(Fe)を含む。そのため回収合金を銅製錬プロセスに投入すると、コバルト(Co)が鉄(Fe)とともに酸化物に分配されてしまい、その結果、コバルト(Co)を単体で回収することが困難になる。
【0006】
したがって湿式製錬プロセスで回収合金から有価金属を回収する手法が検討されている。具体的には、回収合金(銅ニッケルコバルト合金)に酸浸出処理を施して、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を溶媒中に溶解させる。そしてニッケル及びコバルトを含む溶液と溶解残渣たる銅とを分離する。そして既存の製錬プロセスを活用して、銅、ニッケル及びコバルトを回収する。
【0007】
例えば、特許文献1には、ニッケルとコバルトを含有するリチウムイオン電池の廃電池からニッケルとコバルトを含む有価金属を回収する有価金属回収方法に関して、該回収方法が、リチウムイオンの廃電池を熔融して熔融物を得る熔融工程と、熔融物又は廃電池に対して酸化処理する酸化工程と、熔融物からスラグを分離して有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、合金に含有されるリンを分離する脱リン工程と、を備える旨が記載されている(特許文献1の請求項1)。また特許文献1には、脱リン工程を経て得た合金に合金ショット化処理を施して粒状物にする旨、合金を酸溶解した後、脱鉄、銅分離回収、ニッケル/コバルト分離、ニッケル回収及び、コバルト回収という手順で元素分離を行い、有価金属を回収する旨が記載されている(特許文献1の[0047]~[0053])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5853585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、湿式製錬プロセスで回収合金(銅ニッケルコバルト合金)から有価金属を回収する方法が提案されるものの、従来の手法には改良の余地があった。すなわち、一般の銅ニッケルコバルト合金は耐食性が高い。そのため、粒径、形状、表面粗さ、組成分布などの粒形態によっては、硫酸中に24時間を超えて浸漬させても、全く溶解しないことがある。したがって、この合金に酸浸出処理を施しても、ニッケル及びコバルトを十分な量で分離回収することが困難なことがある。
【0010】
本発明者は、このような問題点に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、銅ニッケルコバルト合金に酸浸出処理を施す上で、合金のメジアン径とともに酸素量が重要であり、これらを適切に制御することで、ニッケル及びコバルトが容易に酸溶解し、その結果、これらの成分を安定的に酸浸出できるとの知見を得た。また本発明者は、水アトマイズ法で粉末化して合金粉を製造すること、及びその際に噴出する水の圧力及び量が、安定的に酸浸出できる合金粉を得る上で重要との知見を得た。
【0011】
したがって、本発明は、ニッケル及びコバルトが容易に酸溶解し、これらの成分を安定的に酸浸出できる合金粉の提供を課題とする。また本発明は、これらの成分を安定的に酸浸出できる合金粉を安価に得ることができる製造方法の提供を課題とする。さらに本発明は、前記製造方法を利用した有価金属の回収方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記(1)~(11)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0013】
(1)銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を構成成分として含み、
体積粒度分布における累積50%径(D50)が30μm以上85μm以下であり、
酸素量が0.01質量%以上1.00質量%以下である、合金粉。
【0014】
(2)前記累積50%径(D50)が35μm以上55μm以下である、上記(1)の合金粉。
【0015】
(3)前記合金粉の体積粒度分布における累積10%径(D10)、累積50%径(D50)及び累積90%径(D90)が、2.50≦(D90-D10)/D50≦3.00の関係を満足する、上記(1)又は(2)の合金粉。
【0016】
(4)銅(Cu):24.0~80.0質量%、コバルト(Co):0.1~15.0質量%、ニッケル(Ni):10.0~50.0質量%、鉄(Fe):0.01~10.0質量%、及びマンガン(Mn):0.01~5.0質量%を含み、残部不可避不純物の組成を有する、上記(1)~(3)のいずれかの合金粉。
【0017】
(5)上記(1)~(4)のいずれかの合金粉を製造する方法であって、以下の工程;
銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を構成成分として含む合金原料を準備する工程、
前記合金原料を加熱熔解して、合金熔湯にする工程、及び
前記合金熔湯をアトマイズ装置のチャンバー内で落下させ、落下する合金熔湯に水を噴射し、それにより冷却して合金粉にする工程を含み、
前記合金粉にする工程で、噴射する水の圧力を6MPa以上20MPa以下とし、且つ合金熔湯の落下量に対する水の噴射量の質量比(比水率)を5.0倍以上7.0倍以下にする、方法。
【0018】
(6)前記合金粉にする工程で、合金熔湯の落下量を10kg/分以上75kg/分以下にする、上記(5)の方法。
【0019】
(7)前記合金粉にする工程で、噴射する水の温度を2℃以上35℃以下にする、上記(5)又は(6)の方法。
【0020】
(8)前記合金熔湯にする工程で、合金熔湯の温度を1430℃以上1590℃以下にする、上記(5)~(7)のいずれかの方法。
【0021】
(9)前記合金原料が、廃リチウムイオン電池由来の原料である、上記(5)~(8)のいずれかの方法。
【0022】
(10)上記(1)~(4)のいずれかの合金粉を製造する方法であって、以下の工程;
廃リチウムイオン電池を熔融原料として準備する工程、
前記熔融原料を加熱熔融して、銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を含む合金と、この合金の上方に位置するスラグと、にする工程、
前記スラグを分離して、前記合金を合金原料として回収する工程、
前記合金原料を加熱熔解して、合金熔湯にする工程、及び
前記合金熔湯をアトマイズ装置のチャンバー内で落下させ、落下する合金熔湯に水を噴射し、それにより冷却して合金粉にする工程を含み、
前記合金粉にする工程で、噴射する水の圧力を6MPa以上20MPa以下とし、且つ合金熔湯の落下量に対する水の噴射量の質量比(比水率)を5.0倍以上7.0倍以下にする、方法。
【0023】
(11)上記(5)~(10)のいずれかの方法で合金粉を製造する工程、及び
製造された前記合金粉に酸溶媒による浸出処理を施して、前記合金粉からニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を前記酸溶媒に選択的に溶解し、それにより銅(Cu)を分離する工程、を含む、有価金属(Ni、Co、Cu)の回収方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ニッケル及びコバルトが容易に酸溶解し、これらの成分を安定的に酸浸出できる合金粉が提供される。また本発明によれば、これらの成分を安定的に酸浸出できる合金粉を安価に得ることができる製造方法が提供される。さらに本発明によれば、前記製造方法を利用した有価金属の回収方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】水アトマイズ法による合金粉製造の概略図を示す。
図2】合金粉製造の工程図の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0027】
[合金粉]
本実施形態の合金粉は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を構成成分として含み、体積粒度分布における累積50%径(D50)が30μm以上85μm以下であり、酸素量が0.01質量%以上1.00質量%以下である。
【0028】
合金粉は、銅、ニッケル及びコバルトを構成成分として含む。ここで「構成成分として含む」とは、銅、ニッケル及びコバルトを主たる成分として含むことを意味し、他の成分や不可避不純物の含有を除外するものではない。なお不可避不純物とは、原料又は製造装置に由来して不可避的に混入する成分であり、その含有量は、典型的には1000ppm(0.1質量%)以下である。
【0029】
合金粉の原料は限定されない。金属銅、金属ニッケル及び金属コバルトを熔解及び粉末化して製造したものであってもよい。また酸化銅などの酸化物を還元及び粉末化して製造したものであってもよい。しかしながら廃リチウムイオン電池を原料にして製造された合金粉が好ましい。これにより廃リチウムイオン電池に含まれる有価金属(Cu、Ni及びCo)を効率的に回収することが可能になる。
【0030】
合金粉の組成は特に限定されない。すなわち銅、ニッケル及びコバルトを、不可避不純物量(1000ppm)を超えて含有していればよい。合金粉が銅、ニッケル及びコバルトのみからなってもよく、あるいは他の成分を含んでもよい。例えば、廃リチウムイオン電池を原料にする合金粉は、鉄(Fe)やマンガン(Mn)を含むことが多い。このような合金粉は、典型的には、銅(Cu):24.0~80.0質量%、コバルト(Co):0.1~15.0質量%、ニッケル(Ni):10.0~50.0質量%、鉄(Fe):0.01~10.0質量%、及びマンガン(Mn):0.01~5.0質量%を含み、残部不純物の組成を有する。
【0031】
合金粉は、体積粒度分布における累積50%径(D50)が30μm以上85μm以下である。累積50%径(D50)は、体積粒度分布において小粒径側から累積していった累積割合が丁度50%になる径のことであり、メジアン径とも呼ばれている。D50が85μm超であると、合金粉を硫酸等の酸に浸漬させる酸浸出処理を行っても、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)の溶解が不十分になる。そのためニッケル及びコバルトの回収率が低下する恐れがある。特にD50が100μm超の合金粉は粒径500μm以上の粗大粒子を含むことが多く、このような粗大粒子からニッケル及びコバルトを酸浸出させることが困難である。好適にはD50は55μm以下である。一方でD50が30μm未満であると、酸浸出後に溶液と銅残渣とを分離する際に、分離回収性が困難になる恐れがある。またニッケル及びコバルトの溶解が過度に早く進行するため、安定的な酸浸出が困難になる恐れがある。好適にはD50は35μm以上であることが好ましい。
【0032】
合金粉は、その酸素量が0.01質量%以上1.00質量%以下である。酸素量が1.00質量%超であると、合金粉を硫酸に浸漬させる酸浸出処理に供したときに、ニッケル及びコバルトの溶解が不十分になる。そのためニッケル及びコバルトの回収率が低下する恐れがある。好適には酸素量は0.60質量%以下である。酸浸出を容易に進行させる観点から、合金粉の酸素量は少ないほど好ましい。しかしながら酸素量を0.01質量%より少なくしても、ニッケル及びコバルトの酸浸出はそれ以上には進まない。また酸素量を0.01質量%より少ない合金粉を製造するためには、その製造コストが高くなる。したがって酸素量を0.01質量%以上にする。
【0033】
好適には、合金粉は、その体積粒度分布における累積10%径(D10)、累積50%径(D50)及び累積90%径(D90)が、2.50≦(D90-D10)/D50≦3.00の関係を満足する。ここで(D90-D10)/D50は粒度分布のバラツキ(幅)の指標となるものであり、この値が小さいほどシャープな粒度分布を意味する。(D90-D10)/D50が3.00超であると、粒度分布のバラツキが大きくなる。そのため合金粉に粗大粒子が含まれることになり、この粗大粒子がニッケル及びコバルトの酸浸出を困難にする恐れがある。酸浸出を容易に進行させる観点から、粒度分布のバラツキは小さいほど好ましい。しかしながら粒度分布のバラツキを過度に小さくするためには、合金粉を製造するための製造コストが高くなる恐れがある。したがって(D90-D10)/D50は2.50以上であることが好ましい。
【0034】
[第1の態様における合金粉の製造方法]
本実施形態の第1の態様における合金粉の製造方法は、以下の工程;銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を構成成分として含む合金原料を準備する工程(合金原料準備工程)、準備した合金原料を加熱熔解して、合金熔湯にする工程(熔湯化工程)、及び得られた合金熔湯をアトマイズ装置のチャンバー内で落下させ、落下する合金熔湯に水を噴射し、それにより冷却して合金粉にする工程(合金粉作製工程)を含む。また合金粉にする工程(合金粉作製工程)で、噴射する水の圧力を6MPa以上20MPa以下とし、且つ合金熔湯の落下量に対する水の噴射量の質量比(比水率)を5.0倍以上7.0倍以下にする。各工程の詳細について以下に説明する。
【0035】
<合金原料準備工程>
合金原料準備工程では、銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を構成成分として含む合金原料を準備する。合金原料は、銅、ニッケル及びコバルトを金属状態で含む限り、特に限定されない。銅、ニッケル及びコバルトを単体金属の混合物の形態で含んでもよく、あるいは合金の形態で含んでもよい。後続する熔湯化工程を経て合金熔湯になるものであれば、いずれの形態であってもよい。
【0036】
好適には、合金原料は廃リチウムイオン電池由来の原料である。廃リチウムイオン電池は、これを資源として再利用することが求められている。また廃リチウムイオン電池は有価金属(Cu、Ni、Co)を多量に含んでいる。したがって廃リチウムイオン電池由来の原料を合金原料にすることで、有価金属を高効率且つ低コストで分離回収することが可能になる。また廃リチウムイオン電池以外のリサイクル材も使用可能である。例えば、電子部品や電子機器には、有価金属(Cu、Ni、Co)を多量に含むものがある。そのような電子部品や電子機器由来の原料を合金原料として用いてもよい。
【0037】
<熔湯化工程>
熔湯化工程では、準備した合金原料を加熱熔解して、合金熔湯にする。具体的には、合金原料を坩堝炉内に投入し、投入した合金原料を坩堝炉内で加熱して、流動性がある熔湯にする。後述する合金粉作製工程で所望の合金粉を得る観点から、加熱温度は1430℃以上1590℃以下が好ましい。
【0038】
<合金粉作製工程>
合金粉作製工程では水アトマイズ法により合金粉を作製する。すなわち、得られた合金熔湯をアトマイズ装置のチャンバー内で落下させ、落下する合金熔湯に水を噴射し、それにより冷却して合金粉にする。この工程で用いられるアトマイズ装置の構成を図1に示す。アトマイズ装置は、底部にノズル(3)が設けられるタンディッシュ(4)と、チャンバー(6)と、ガス排出構造(9)と、高圧水ノズル(11)と、給水ポンプ(15)と、チラー(16)とを備える。
【0039】
坩堝炉(2)内で加熱された熔湯(1)を、アトマイズ装置のタンディッシュ(4)に注ぐ。この際、熔湯面高さ(5)が一定になるように、熔湯供給量を調整する。タンディッシュ(4)に注がれた熔湯を、ノズル(3)を通してチャンバー(6)内に落下させる。熔湯面高さ(5)が一定であるので、ノズルから落下する単位時間あたりの熔湯量(合金熔湯の落下量)はノズル径に応じて一定になる。またチャンバー(6)は、空気が侵入しないように、その内圧を窒素ガス等の不活性ガス(7)で大気圧より高く維持できるように構成されている。さらにこのチャンバー(6)にはガス排出構造(9)が設けられており、空気が流入することなく、チャンバー(6)内の水素ガス等のガス(8)をガス排出構造(9)から排出できるようになっている。チャンバー(6)内で落下する合金熔湯(10)に高圧水ノズル(11)から高圧水(12)を噴射する。噴射する水と落下する合金熔湯との角度は、得られる合金粉の収量が最大となるように調整されている。具体的には、高圧水ノズル(11)は、落下する合金熔湯(10)を中心軸として、相対するように偶数個(例えば、2個、4個、6個)設けられる。また相対する高圧水ノズル(11)から噴射される水の相対角度(頂角)が30~50°になるように、高圧水ノズル(11)の向きが調整されている。すなわち落下する合金熔湯(10)に対する水の噴射角度(頂角)は15~25°である。
【0040】
合金粉にする工程で、噴射する水の圧力を6MPa以上20MPa以下に設定する。圧力が6MPa未満であると、得られる合金粉の粒径が過度に大きくなる。そのためこの合金粉に酸浸出処理を施した際に、ニッケル及びコバルトの回収率が低下する恐れがある。一方で圧力が20MPa超であると、合金粉が過度に微細になる。そのため安定的な酸浸出が困難になるとともに、溶液と銅残渣との分離回収性が低下する恐れがある。また圧力を高めるためには、高価なポンプを使用する必要があり、合金粉の製造コストが高くなる。商業的な観点など種々の要件を考慮に入れて、水の圧力を20MPa以下にする。
【0041】
合金熔湯の落下量に対する水の噴射量の質量比(比水率)を5.0倍以上7.0倍以下に設定する。ここで落下量は単位時間あたりの平均落下量であり、また噴射量は単位時間あたりの平均噴射量である。すなわち落下量や噴射量が時間変動する場合には、その平均値である。比水率が5.0倍未満であると、熔湯の冷却が不十分になり、得られる合金粉の粒径が過度に大きくなる。一方で比水率が7.0倍超であると、熔湯の冷却が過度に早く進み、合金粉が微細になり過ぎる。
【0042】
好適には、合金熔湯の落下量を10kg/分以上75kg/分以下にする。落下量が過度に少ないと、粒径10μm未満の微粉が発生しやすくなり、合金粉に酸浸出処理を施した際に、安定的な酸浸出が困難になるとともに、分離回収性が低下する恐れがある。また合金粉の生産性が低くなり、製造コストの観点から問題になる。一方で落下量が過度に多いと、ポンプの給水圧を高めたり、あるいはポンプの台数を増やしたりする必要があり、製造コストが高くなる。合金熔湯の落下量を上述の範囲内にすることで、1時間当たりの合金熔湯処理量を600kg以上4500kg以下にすることができる。その結果、合金粉の製造をコスト的に製錬事業として成立する規模にすることが可能になる。
【0043】
好適には、噴射する水の温度を2℃以上35℃以下にする。水温が過度に低いと、設備を停止した場合に、配管内で水が凍結して水漏れなどの問題を引き起こす恐れがある。一方で水温が過度に高いと、得られる合金粉の粒径が大きくなる傾向にある。そのため酸浸出性が悪化したり、あるいは酸浸出時の生産管理面で問題が生じたりする恐れがある。水の温度は、チラーの設定温度を調整することで制御できる。
【0044】
好適には、合金熔湯の温度は1430℃以上1590℃以下である。熔湯温度が過度に低いと、タンディッシュノズルからの湯流れが悪くなり、ノズル詰まりが発生する恐れがある。また高圧水による破砕がうまくいかずに合金粉が粗大化したりする恐れがある。一方で熔湯温度が過度に高いと、加熱エネルギーが無駄となり、加熱する際の耐火材の寿命が短くなる恐れがある。また循環する高圧水の水温が上昇するため、チラーの冷却能を高める必要があり、コスト増につながる。
【0045】
このように合金粉を水アトマイズ法で製造し、さらにアトマイズ条件を調整することで、銅ニッケルコバルト合金粉を、商業的規模で安価に製造することができる。この合金粉は、累積50%径(D50)が30μm以上85μm以下であり、且つ酸素量が0.01質量%以上1.00質量%以下である。またこの合金粉は酸浸出性及び分離回収性に優れる。そのためこの合金粉に硫酸を用いた酸浸出処理を施すことで、銅を硫化銅として沈殿させるとともに、ニッケル及びコバルトを溶液として分離回収することができる。したがって、有価金属(Cu、Ni、Co)の分離回収を高効率且つ低コストで行うことが可能になる。
【0046】
なお水アトマイズ法の代わりに、高圧ガスを合金熔湯に吹き付けて冷却するガスアトマイズ法が考えられる。ガスアトマイズ法で製造した合金粉は酸素量が低く、酸浸出性に優れている。しかしながらガスアトマイズ法では、真空チャンバー内で合金粉の製造を行う必要がある。また生産性が低いという問題がある。そのため本実施形態では水アトマイズ法を採用している。製造された合金粉を見ると、ガスアトマイズ法で製造された合金粉は球形に近いのに対し、水アトマイズ法で製造された合金粉は異形状の粉末が多いという違いがある。
【0047】
[第2の態様における合金粉の製造方法]
本実施形態の第2の態様における合金粉の製造方法は、以下の工程;廃リチウムイオン電池を熔融原料として準備する工程(熔融原料準備工程)、準備した熔融原料を加熱熔融して、銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を含む合金と、この合金の上方に位置するスラグと、にする工程(熔融工程)、スラグを分離して、合金を合金原料として回収する工程(スラグ分離工程)、回収した合金原料を加熱熔解して、合金熔湯にする工程(熔湯化工程)、及び合金熔湯をアトマイズ装置のチャンバー内で落下させ、落下する合金熔湯に水を噴射し、それにより冷却して合金粉にする工程(合金粉作製工程)を含む。また合金粉にする工程(合金粉作製工程)で、噴射する水の圧力を6MPa以上20MPa以下とし、且つ合金熔湯の落下量に対する水の噴射量の質量比(比水率)を5.0倍以上7.0倍以下にする。この態様の工程図の一例を図2に示す。また各工程の詳細について以下に説明する。
【0048】
<熔融原料準備工程‐廃電池前処理工程>
熔融原料準備工程では、まず廃電池を前処理する。廃電池前処理工程(S1)は、廃リチウムイオン電池の爆発防止及び無害化並びに外装缶の除去を目的に行われる。リチウムイオン電池は密閉系であるため、内部に電解液などを有している。そのためそのままの状態で粉砕処理を行うと、爆発の恐れがあり危険である。何らかの手法で放電処理や電解液除去処理を施すことが好ましい。また外装缶は金属であるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)から構成されることが多く、こうした金属製の外装缶はそのまま回収することが比較的容易である。このように廃電池前処理工程(S1)で電解液及び外装缶を除去することで、安全性を高めるとともに、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。
【0049】
廃電池前処理の具体的な方法は特に限定されない。例えば針状の刃先で廃電池を物理的に開孔し、電解液を除去する手法が挙げられる。また廃電池を加熱して、電解液を燃焼して無害化する手法が挙げられる。
【0050】
廃電池前処理工程(S1)で外装缶に含まれるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)を回収する場合には、除去した外装缶を粉砕した後に、粉砕物を篩振とう機を用いて篩分けしてもよい。アルミニウム(Al)は軽度の粉砕で容易に粉状になるため、これを効率的に回収することができる。また磁力選別によって、外装缶に含まれる鉄(Fe)を回収してもよい。
【0051】
<熔融原料準備工程‐破砕工程>
破砕工程(S2)では廃リチウムイオン電池の内容物を破砕して破砕物にする。得られた破砕物が熔融原料になる。この工程は乾式製錬プロセスでの反応効率を高めることを目的にしている。反応効率を高めることで、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。具体的な破砕方法は特に限定されない。カッターミキサー等の従来公知の粉砕機を用いて破砕することができる。
【0052】
<酸化焙焼工程>
必要に応じて、熔融工程の前に、破砕した廃リチウムイオン電池(破砕物)を酸化焙焼して酸化焙焼物にする工程(酸化焙焼工程;S3)を設けてもよい。酸化焙焼工程では廃リチウムイオン電池に含まれる炭素量を減少させる。この工程を設けることで、廃リチウムイオン電池が炭素を過剰に含む場合であっても、この炭素を酸化除去し、それにより、後続する熔融工程での有価金属の合金一体化を促進させることができる。すなわち熔融工程で有価金属は還元されて局所的な熔融微粒子になる。炭素は熔融微粒子(有価金属)が凝集する際に物理的な障害となることがある。そのため酸化焙焼工程を設けないと、熔融微粒子の凝集一体化及びそれによる熔融合金(メタル)とスラグの分離を炭素が妨げ、有価金属回収率が低下してしまう場合がある。これに対して、予め酸化焙焼工程で炭素を除去しておくことで、熔融工程での熔融微粒子(有価金属)の凝集一体化が進行し、有価金属の回収率をより一層に高めることが可能になる。またリン(P)は比較的還元されやすい不純物であるため、炭素が過剰に存在すると、リンが還元されて有価金属とともに熔融合金に取り込まれてしまう恐れがある。過剰な炭素を予め除去しておくことで、熔融合金へのリンの混入を防ぐことができる。酸化焙焼物の炭素量は1質量%未満であることが好ましい。
【0053】
その上、酸化焙焼工程を設けることで、酸化のばらつきを抑えることが可能となる。酸化焙焼工程では、廃リチウムイオン電池に含まれる付加価値の低い金属(Al等)を酸化することが可能な酸化度で処理(酸化焙焼)することが望ましい。一方で、酸化焙焼の処理温度、時間及び/又は雰囲気を調整することで、酸化度を容易に制御できる。酸化焙焼工程によって酸化度をより厳密に調整することができ、酸化ばらつきを抑制できる。
【0054】
酸化度の調整は次のようにして行う。アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)は、一般的にAl>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。酸化焙焼工程では、アルミニウム(Al)の全量が酸化されるまで酸化を進行させる。鉄(Fe)の一部が酸化されるまで酸化を促進させてもよいが、コバルト(Co)が酸化されてスラグへ分配されることがない程度に酸化度を留める。
【0055】
酸化焙焼は、酸化剤の存在下で行うことが好ましい。これにより不純物たる炭素(C)の酸化除去及びアルミニウム(Al)の酸化を効率的に行うことができる。酸化剤は特に限定されない。しかしながら取り扱いが容易な点で、酸素含有ガス(空気、準酸素、酸素富化ガス等)が好ましい。また酸化剤の導入量としては、例えば酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度が好ましい。
【0056】
酸化焙焼の加熱温度は600℃以上が好ましく、700℃以上がより好ましい。これにより炭素の酸化効率をより一層に高めることができ、加熱時間を短縮することができる。また加熱温度は900℃以下が好ましい。これにより熱エネルギーコストを抑制することができ、酸化焙焼の効率を高めることができる。
【0057】
酸化焙焼は、公知の焙焼炉を用いて行うことができる。また後続する熔融工程で使用する熔融炉とは異なる炉(予備炉)を用い、その予備炉内で行うことが好ましい。酸化焙焼炉として、装入物を焙焼しながら酸化剤(酸素等)を供給してその内部で酸化処理を行うことが可能な炉である限り、あらゆる形式の炉を用いることができる。一例して、従来公知のロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)が挙げられる。
【0058】
<熔融工程>
熔融工程(還元熔融工程;S4)では、溶融原料(廃リチウムイオン電池の破砕物又は酸化焙焼物)を加熱熔融して、銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を含む合金(メタル)と、この合金の上方に位置するスラグと、にする。具体的には、溶融原料を加熱熔融して熔体にする。この熔体は合金とスラグとを熔融した状態で含む。次いで得られた熔体を熔融物にする。この熔融物は合金とスラグとを凝固した状態で含む。合金は有価金属を主として含む。そのため有価金属とその他の成分のそれぞれを、合金及びスラグとして分離することが可能である。付加価値の低い金属(Al等)は酸素親和力が高いのに対し、有価金属は酸素親和力が低いからである。例えばアルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)は、一般的にAl>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。つまりアルミニウム(Al)が最も酸化され易く、銅(Cu)が最も酸化されにくい。そのため付加価値の低い金属(Al等)は容易に酸化されてスラグになり、有価金属(Cu、Ni、Co)は還元されて合金になる。このようにして付加価値の低い金属と有価金属とを、スラグと合金とに分離することができる。
【0059】
熔融原料を熔融する際に、酸素分圧を制御してもよい。酸素分圧の制御は公知の手法で行えばよい。例えば、溶融原料やそれが熔解した熔体に還元剤や酸化剤を導入することが挙げられる。還元剤として、炭素品位の高い材料(黒鉛粉、黒鉛粒、石炭、コークス等)や一酸化炭素を用いることができる。また熔融原料のうち炭素品位の高い成分を還元剤として用いることもできる。酸化剤として、酸化性ガス(空気、酸素等)や炭素品位の低い材料を用いることができる。また熔融原料のうち炭素品位の低い成分を酸化剤として用いることもできる。
【0060】
還元剤や酸化剤の導入も公知の手法で行えばよい。還元剤や酸化剤が固体状物質の場合には、これを熔融原料や熔体に投入すればよい。還元剤や酸化剤がガス状物質の場合には、熔融炉に設けられたランスなどの導入口からこれを導入すればよい。還元剤や酸化剤の導入タイミングも限定されない。熔融原料を熔融炉内に投入する際に、同時に還元剤や酸化剤を導入してもよく、あるいは熔融原料が熔融して熔体になった段階で還元剤や酸化剤を導入してもよい。
【0061】
熔融工程でフラックスを導入(添加)してもよい。フラックスを添加することで、熔融処理温度を低温化することができ、エネルギーコストを低減させることができるとともに、リン(P)の除去をより一層進めることができる。フラックスとして、不純物元素を取り込んで融点の低い塩基性酸化物を形成する元素を含むものが好ましい。リンは酸化すると酸性酸化物になるため、熔融工程で形成されるスラグが塩基性になるほど、スラグにリンを取り込ませて除去し易くなる。その中でも、安価で常温において安定なカルシウム化合物を含むものがより好ましい。カルシウム化合物として、例えば酸化カルシウム(CaO)や炭酸カルシウム(CaCO)を挙げることができる。
【0062】
熔融原料を熔融する際の加熱温度は特に限定されない。しかしながら1400℃以上1600℃以下が好ましく、1450℃以上1550℃以下がより好ましい。加熱温度を1400℃以上にすることで、有価金属(Cu、Co、Ni)が十分に熔融し、流動性が高められた状態で合金を形成する。そのため後述するスラグ分離工程で合金とスラグとの分離を効率的に行うことができる。また加熱温度を1450℃以上にすることで合金の流動性が非常に良好になり、不純物成分と有価金属との分離効率がより向上する。一方で加熱温度が1600℃を超えると、熱エネルギーが無駄に消費されるとともに、坩堝や炉壁等の耐火物の消耗が激しくなり、生産性が低下する恐れがある。
【0063】
<スラグ分離工程>
スラグ分離工程では、熔融工程で得られた溶融物からスラグを分離して、有価金属を含む合金を合金原料として回収する。スラグと合金は比重が異なる。合金に比べ比重の小さいスラグは合金の上部に集まるので、比重分離により容易に分離回収することができる。
【0064】
<熔湯化工程>
熔湯化工程(S5)では、回収した合金原料を加熱熔解して合金熔湯にする。この工程の詳細は第1の態様で説明したとおりである。
【0065】
<合金粉作製工程>
合金粉作製工程(S6)では、得られた合金熔湯をアトマイズ装置のチャンバー内で落下させ、落下する合金熔湯に水を噴射し、それにより冷却して合金粉にする。この工程の詳細は第1の態様で説明したとおりである。
【0066】
[有価金属の回収方法]
本実施形態の有価金属(Cu、Ni、Co)の回収方法は、合金粉を製造する工程(合金粉製造工程)、及び製造された合金粉に酸溶媒による浸出処理を施して、合金粉からニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を酸溶媒に選択的に溶解し、それにより銅(Cu)を分離する工程(有価金属分離工程)、を含む。なお有価金属は回収対象となるものであり、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金である。
【0067】
<合金粉製造工程>
合金粉製造工程では、第1の態様又は第2の態様で説明した方法で合金粉を製造する。
【0068】
<有価金属回収工程>
有価金属回収工程では、製造された合金粉に酸溶媒による浸出処理を施して、合金粉からニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を酸溶媒に選択的に溶解する。またそれにより銅(Cu)を分離する。酸溶媒として、有価金属の回収に用いられる公知の酸溶液を用いることができる。このような酸溶液として硫酸が挙げられる。合金粉を硫酸に浸漬させると、合金粉中のニッケル及びコバルトが硫酸溶液中に溶解して、溶液中で硫酸ニッケル及び硫酸コバルトになる。一方で合金粉中の銅は、溶解度の低い硫酸銅になり、残渣物として沈殿する。したがって沈殿物となった銅成分(硫酸銅)を、ニッケル及びコバルトを含む溶液から分離回収することができる。
【0069】
本実施形態の合金粉は酸浸出性及び分離回収性に優れるという特徴がある。そのためこの合金粉を用いる本実施形態の有価金属の回収方法によれば、有価金属(Cu、Ni、Co)の分離回収を高効率且つ低コストで行うことが可能になる。
【実施例
【0070】
本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(1)合金粉の作製
[例1]
例1では、廃リチウムイオン電池を原料とし、水アトマイズ法により合金粉を作製した。具体的には、廃電池市場で流通しているリチウムイオン電池工場中間品スクラップや無害化された使用済廃電池を混合して組成試料(原料)とした。次いで、組成試料から熔融工程(S4)にて合金原料を得、熔湯化工程(S5)及び合金粉作製工程(S6)にて合金粉の作製試験を行った。また合金粉の製造条件を表1に示す。
【0072】
熔湯化工程(S5)では周波数400Hzの誘導炉の出力により炉内熔湯合金の温度を調整した。合金粉作製工程(S6)では誘導炉を傾動させて直径4~7mmのジルコニアノズルを底部へ装着したアルミナ製タンディッシュへ熔湯合金を流し込んだ。タンディッシュ内の熔湯面高さを一定に保つことで単位時間当たりの出湯量を一定にし、ジルコニアノズルの孔径を変えることで出湯量を調整した。また高圧ポンプ出力と開閉バルブの調整により水圧と水量を調整し、チラーの冷却能により噴射する水の温度を調整した。
【0073】
ここで誘導炉内の熔湯合金の温度と、タンディッシュノズルから出湯する熔湯合金の温度がなるべく同じ温度になるように、事前に空のタンディッシュ内をLPGバーナーで1000℃以上に加熱しておいた。この操作により高圧水に接触する熔湯合金の温度と誘導炉内での温度との差は出湯開始後間もなく解消された。
【0074】
[例2及び例3]
例2及び例3では、合金粉の製造条件を表1に示されるように変えた。それ以外は例1と同様にして合金粉を作製した。
【0075】
[例4~例7]
例4~例7では、廃リチウムイオン電池の配合割合を調整し、合金粉の組成を表3に示すように変えた。また合金粉の製造条件を表1に示すように変えた。それ以外は例1と同様にして合金粉を作製した。
【0076】
[例8(比較例)]
例8では、廃リチウムイオン電池を原料とし、ガスアトマイズ法により合金粉を作製した。具体的には、熔湯化工程(S5)で、真空チャンバーを有する誘導炉を用いてアルゴンガス雰囲気中で合金を熔解した。そして合金粉作製工程(S6)で、アルゴンガスアトマイズによって、溶解した合金を粉化して合金粉を作製した。
【0077】
[例9(比較例)]
例9では、合金粉の製造条件を表1に示すように変えた。具体的には、水アトマイズ時の吸水圧力を3.1MPaに下げた。それ以外は例1と同様にして合金粉を作製した。
【0078】
[例10(比較例)]
例10では、例5で作製した合金粉を大気中で酸化した。
【0079】
(2)評価
例1~例10で得られた合金粉について、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0080】
<粒度分布>
合金粉の粒度分布を乾式篩法で評価した。そして得られた粒度分布から累積10%径(D10)、累積50%径(メジアン径;D50)、及び累積90%径(D90)を求めて、(D90-D10)/D50を算出した。
【0081】
<組成>
合金粉の組成をICP分析装置にて測定した。
【0082】
<酸素量>
合金粉の酸素量を赤外吸収法式で測定した。
【0083】
<酸浸出性(回収率)>
合金粉の酸浸出性(回収率)は、ろ液中の対象元素の質量を合金粉中の対象元素の質量で除すことで求めた。
【0084】
酸浸出性の評価結果に基づき、以下の基準にしたがって合金粉を格付けした。
◎:6時間の酸浸出でニッケル及びコバルトの回収率が98%以上
〇:9時間の酸浸出でニッケル及びコバルトの回収率が96%以上
×:9時間の酸浸出でニッケル及びコバルトの回収率が96%未満
【0085】
<コスト>
製造コストの観点から、以下の基準にしたがって合金粉を格付けした。
〇:製造装置が安価であり、生産性が高い
×:製造装置が高価であり、生産性が低い
【0086】
<総合評価>
酸浸出性及びコストを総合的に判断して、以下の基準にしたがって合金粉を格付けした。
◎:酸浸出性の評価結果が「◎」であり、コストの評価結果が「〇」
〇:酸浸出性及びコストのいずれも評価結果が「〇」
×:酸浸出性及びコストのいずれかの評価結果が「×」
【0087】
(3)結果
例1~例10につき、評価結果を表2にまとめて示す。
【0088】
例1及び例2の合金粉は、酸素含有率が0.01質量%以上1質量%以下であり、また粒径D50は60μm以上85μm以下であった。硫酸への酸浸出性は良好であり、ニッケルおよびコバルトの回収率が9時間以内で96%以上であった。そのため総合評価が「〇」であった。
【0089】
例3~例7の合金粉は、酸素含有率は0.01質量%以上1質量%以下であり、また粒径D50は35μm以上55μm以下であった。硫酸への酸浸出性は極めて良好であり、ニッケルおよびコバルトの回収率が6時間以内で98%以上であった。そのため総合評価が「◎」であった。
【0090】
水アトマイズ法で作製した例1~例7の合金粉は異形状の粒子を多く含み、合金粉の(D90-D10)/D50は2.58~2.93であった。
【0091】
例8の合金粉は、酸素含有率が0.002質量%と低かった。またガス流量を調整することで、この合金粉の粒径D50を45μmに制御した。そのため酸浸出性は良好であり、ニッケル及びコバルトの回収率が6時間以内で98.5%程度であった。
【0092】
しかしながらガスアトマイズ法は真空チャンバーを必要とする。またガスアトマイズ法では生産性が低いために、水アトマイズ加工での処理量と同じ処理量を確保するためには装置を複数台導入しなければならない。初期投資やスペースといった理由で問題があり、商業的な観点から「×」と判断した。
【0093】
なおガスアトマイズ法で作製した例8の合金粉は、それに含まれる粒子が球形に近かった。また合金粉の(D90-D10)/D50は2.38であった。
【0094】
例9の合金粉は、酸素含有率が0.14質量%と低かった。しかしながら粒径D50が110μmと大きかった。そのため酸浸出性に劣り、ニッケルおよびコバルトの回収率は9時間で96%未満と低かった。したがって商業的な観点から「×」と判断した。
【0095】
例10の合金粉は、酸素含有率が2.2質量%と高かった。そのため酸浸出性に劣り、ニッケルおよびコバルトの回収率は9時間で96%未満と低かった。したがって商業的な観点から「×」と判断した。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【符号の説明】
【0099】
1:銅ニッケルコバルト
2:坩堝炉
3:ノズル
4:タンディッシュ
5:熔湯面高さ
6:チャンバー
7:窒素ガス等不活性ガス
8:充満ガス
9:ガス排出構造
10:落下する合金熔湯
11:高圧水ノズル
12:高圧水
13:水相
14:合金粒
15:給水ポンプ
16:チラー


【要約】
【課題】ニッケル及びコバルトが容易に酸溶解し、安定的に酸浸出できる合金粉、安定的に酸浸出できる合金粉を安価に得ることができる製造方法、及び前記製造方法を利用した有価金属の回収方法を提供すること。
【解決手段】銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を構成成分として含み、 体積粒度分布における累積50%径(D50)が30μm以上85μm以下であり、酸素量が0.01質量%以上1.00質量%以下である、合金粉。
【選択図】図1
図1
図2