IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ADEKAの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】油中水型乳化油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20220117BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20220117BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20220117BHJP
   A21D 13/16 20170101ALI20220117BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/16
A21D13/00
A21D13/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017065026
(22)【出願日】2017-03-29
(65)【公開番号】P2018166417
(43)【公開日】2018-11-01
【審査請求日】2019-12-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小中 隆太
(72)【発明者】
【氏名】廣川 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】平野 智久
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-165369(JP,A)
【文献】特開2016-060697(JP,A)
【文献】特開平02-299545(JP,A)
【文献】特開2013-188205(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02153725(EP,A1)
【文献】油脂の酸価、過酸化物価の測定,Japan Food Research Lab., 2000年,No.16,p.1-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00-9/06
A21D 2/00-17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件(1)~(3)を満たすロールイン用油中水型乳化油脂組成物。
(1)油中水型乳化油脂組成物中に、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を1つ以上含むジグリセリド(DG)を0.2~2.2質量%含有すること。
(2)油中水型乳化油脂組成物中に含有される、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を含むモノグリセリド(MG)と炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基が1つ以上含まれるジグリセリド(DG)との質量比が、前者:後者で、1:0.4~2.0であること。
(3)油中水型乳化油脂組成物を構成する油相の酸価が5以下であること。
【請求項2】
上記条件(1)~(3)を満たすように反応モノグリセリドが含有される、請求項1に記載のロールイン用油中水型乳化油脂組成物。
【請求項3】
連続相である油相のトリグリセリド組成が下記条件を全て満たす請求項1又は2に記載のロールイン用油中水型乳化油脂組成物。
i)S3の含有量が0.1~12質量%
ii)s2Uの含有量が15質量%以上
iii)s2Uを構成するPとStとの質量比率であるP/Stが2より大きいこと
iv)sD2の含有量とU3の含有量との合計量が25~55質量%
上記条件i)~iv)中のS、s、U、P、St及びDは、それぞれ以下の脂肪酸残基を示し、S3、s2U、sD2、及びU3は以下のトリグリセリドを示す。
S:飽和脂肪酸残基
s:炭素数16~18の飽和脂肪酸残基
U:炭素数16~18の不飽和脂肪酸残基
P:パルミチン酸残基
St:ステアリン酸残基
D:炭素数16~18の多価不飽和脂肪酸残基
S3:Sが3分子結合しているトリグリセリド
s2U:sが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
sD2:sが1分子、Dが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のロールイン用油中水型乳化油脂組成物を用いたベーカリー食品
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベーカリー用、特にロールイン用に適した油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ベーカリー食品の中でもペストリー食品は、その内部に焼成時の加熱に伴って生じた空隙が存在し、この空隙に依って特徴的な食感と内観を有する食品である。
この空隙はペストリー生地の調製の際に、小麦粉と水を含む生地(ドウ)にシート状のロールイン用油脂組成物を包み込むように含有させ、圧延と折り畳みを繰り返すことで、ドウと油脂組成物とが交互に積層された生地を、圧延、成形後、焼成することにより生じる。
より具体的には、ドウからなる層と油脂組成物からなる層とが交互に積層されてなることにより、焼成時の加熱によって、(1)ドウや油脂組成物に含まれる水分の蒸発や、(2)ドウ中の小麦粉が抱き込んでいる空気の膨張が、加熱によって経時的に消失する油脂組成物の層で起こることにより、ペストリー生地全体が膨張することによる。
【0003】
この膨張したこうぞう状態が、焼成時の加熱によって硬化した小麦粉中の澱粉やグルテンが支えることで維持され、好ましく空隙を有する、即ち良好な浮きや内層を有するペストリー食品を得ることができる。
このことからも分かるように、良好な浮きや内層を有するペストリー食品を得るためには、ドウからなる層の間に、一定量の油脂組成物を存在させることが必要とされてきた。ペストリー生地を調製する際には、良好な内層や浮きを得るために、生地中の小麦粉100質量部に対して、折り込み耐性を有する油脂を50質量部程度使用することが知られている。(非特許文献1)
【0004】
ここで、市場では低カロリー志向、健康志向の高まりから、飲食品中の油分含量を抑える傾向にある。ペストリー食品においても例外ではなく、ペストリー生地に折り込む油脂組成物に着目した低油分化検討が従来行われてきた。
ペストリー食品を低油分化する手法としては、従来(A)水分含量を高め、相対的に油脂分を減少させた油中水型乳化油脂組成物(以下、単に高水分型ロールイン用油脂組成物と記載する場合がある)を用いる手法、及び(B)ペストリー生地に対して折り込む油脂組成物の量を低減する手法が検討されてきた。
【0005】
まず、(A)の手法について述べる。
(A)の手法は、ペストリー生地調製時に折り込む油脂組成物を、水分含量を高め相対的に油分含量を減じた、高水分型ロールイン用油脂組成物に置き換えることにより、ペストリー食品全体の油脂含量を減じる手法である。
この高水分型ロールイン油脂組成物の製造中あるいは製造後の油水分離を防ぎ、且つロールイン耐性を付与する観点から、(A)の手法を用いる場合には大別して(A-1)水相の粘度上昇させる手法、(A-2)乳化剤により油中水型乳化の安定化させる手法のいずれかの手法がとられてきた。
【0006】
(A-1)の手法は、食物繊維や増粘多糖類を水相に加えることで、水相の粘度を高めて乳化安定性を向上させると共に、ロールイン耐性を持たせる手法である。
例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3では、ロールイン用油中水型乳化物中の油脂含量を低減させる代わりに相対的に水分含量を増加させ、また水相にイヌリン等の食物繊維やペクチン等の増粘多糖類を含有させ、増粘させることにより、作業性を損なわずに低油分化を達成したロールイン用油脂組成物を開示している。
【0007】
(A-2)の手法は乳化剤によって、高水分型ロールイン用油脂組成物の油中水型乳化を強固なものとし乳化安定性を高める手法である。
例えばポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、レシチン、酢酸グリセリンエステルを併用してなる高水分型ロールイン用油脂組成物が開示された特許文献4、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル及び/又は重合度3以上のポリグリセリン脂肪酸エステルとを併用して成る高水分型ロールイン用油脂組成物が開示された特許文献5などがある。
【0008】
次に(B)の手法について述べる。
この手法は、ペストリー生地を調製する際に折り込む油脂組成物の量を減じることで、得られるペストリー食品全体の低油分化を図る手法である。
単純に油脂組成物の量を減じた場合、得られるペストリー食品の浮きが乏しくなる上、パン目となり易く、ボリュームに欠け、食感が重たくなりやすい。そのため、通常、ロールインする油脂組成物中の油相のトリ飽和トリグリセリド含量やジ飽和モノ不飽和トリグリセリド含量を高め、耐熱性を向上させることで、得られるペストリー食品の内層を改善する手法がとられる。
【0009】
即ち、(B)の手法は、耐熱性を向上させたロールイン用油脂組成物を、少ない折込量で使用することにより、低油分化と好ましい内層の両立を図る手法である。
例えば、特許文献6には、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドの合計割合が油脂全量に対して40~65質量%であり、構成脂肪酸残基の総炭素数が40~48であるトリグリセリドの割合が油脂全量に対して10~30質量%である層状食品用油脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2015-073470号公報
【文献】特開2011-152088号公報
【文献】特開2008-000082号公報
【文献】特開平8-187051号公報
【文献】特開昭61-119137号公報
【文献】特開2015-142570号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】竹谷光司著、「新しい製パン基礎知識」、第9版、(株)パンニュース社、平成4年1月10日、p.176-177
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、ペストリー食品の低油分化に際し、まず先行技術について詳細に検討を行った。
まず、(A-1)の手法について検討を行った。
増粘多糖類や食物繊維を用いて水相を増粘させることによって、油脂組成物中の油脂分を低減する(A-1)の手法について、特許文献1、特許文献2、及び特許文献3に開示された発明では、油脂組成物中の水分含量を増加させるために保存性の低下が起こりやすかった。また、含有する油脂分が少ない、若しくは融点の低い油相を使用するために、良好な内層や浮きが得られにくかった。
【0013】
次に(A-2)の手法について検討を行った。
乳化剤を多く含有させ油脂組成物の乳化安定性を高める(A-2)の手法について、特許文献4や特許文献5に開示された発明では、乳化安定性は向上するものの、ペストリー生地の調製時に、ロールイン用油脂組成物に対して求められる伸展性やロールイン耐性が不足し易くなり、ロールイン用油脂組成物として必要な物性が欠ける恐れがあった。また、油脂分の乏しさから、良好な内層や浮きが得られにくく、口溶けの点からも好ましいペストリー食品が得られにくかった。
【0014】
したがってペストリー食品の低油分化を考える際、上記(A-1)や(A-2)の手法をとった、従来の高水分型ロールイン用油脂組成物では、良好な浮きや内層を有するペストリー食品が安定して得られにくいという課題と、好ましい口溶けを有するペストリー食品が得られにくいという課題があった。
【0015】
次に(B)の手法について検討を行った。
(B)の手法について、特許文献6に開示された手法では、トリ飽和トリグリセリドやジ飽和モノ不飽和トリグリセリド含量を高めることにより良好な内層や浮きを有し軽い歯触りのペストリー食品が得られやすいものの、口溶けや風味が悪化してしまいやすく、風味や食感の観点から好ましいペストリー食品が得られにくかった。
したがってペストリー食品の低油分化を考える際、上記(B)の手法をとり、低油分化されたペストリー生地を使用した場合において、良好な浮きや内層を有するペストリー食品は得られやすいが、好ましい口溶けや風味を有するペストリー食品が得られにくいという課題があった。
【0016】
よって、本発明は、下記3点を併せて解決することを課題とした。
(1)ベーカリー食品、特にペストリー食品の低油分化を図ること。
(2)良好な浮きと内層を有するペストリー食品を提供すること。
(3)良好な口溶けが得られ、風味良好なベーカリー食品を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記課題を解決すべく、まず良好な浮きと内層を有するペストリー食品が得られる手法について調査・検討を進める中で次の知見を得た。
すなわち、ペストリー生地の調製から、焼成品であるペストリー食品を得るまでの間、特にホイロ~焼成初期において、加熱により膨化したドウ層間に、ロールインされた油脂組成物が十分に留まることで、ロールイン用油脂組成物の生地に対する折り込み量を低減しても、良好な浮きと内層を有するペストリー食品が得られるという知見を得た。
加えて、次の条件(1)~(3)を満たす油中水型乳化油脂組成物を、ペストリー生地製造時の油脂層として使用することで、加熱により膨化したドウ層間に油脂が十分に留まり、折り込むロールイン用油脂組成物の量を減じた場合でも、良好な浮きと内層を有し且つ良好な口溶けを有する、好ましい風味のペストリー食品が得られるという知見を得た。
(1)油中水型乳化油脂組成物中に、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を1つ以上含むジグリセリド(DG)を0.2~2.6質量%含有すること。
(2)油中水型乳化油脂組成物中に含有される、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を含むモノグリセリド(MG)と炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基が1つ以上含まれるジグリセリド(DG)との質量比が、前者:後者で、1:0.4~2.0であること。
(3)油中水型乳化油脂組成物を構成する油相の酸価が5以下であること。
本発明はこの知見に基づくものである。すなわち、上記条件(1)~(3)を満たす油中水型乳化油脂組成物を用いることで、上記の課題が解決したペストリー食品が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の油中水型乳化油脂組成物を使用することにより、従来のペストリー生地に対する折込量と比較して少ない折込量であっても、良好な浮きと内層を有するペストリー食品を得ることができる。
また、本発明の油中水型乳化油脂組成物を使用することにより、好ましい口溶けと風味のペストリー食品を得ることができる。
更に、油脂の折込量を低減することができるため、ペストリー食品の低油分化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態に基づいて詳述する。
本明細書において、ペストリー食品の良好な「浮き」とは、十分に窯伸びし比容積が大きくなることであり、ペストリー食品の良好な「内層」とは、クラムの気泡が大きく気泡膜が薄い状態のことである。また、「ロールイン耐性を有する」とは、ペストリー生地を調製する過程の中で、ドウ層間に折り込む油脂組成物が、ドウに練り込まれることなく、ドウと共に伸びる性質を有していることを示す。
【0020】
まず、本発明の油中水型乳化油脂組成物が満たすべき下記条件(1)~(3)について、各条件ごとに詳述する。
(1)油中水型乳化油脂組成物中に、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を1つ以上含むジグリセリド(DG)を0.2~2.6質量%含有すること。
(2)油中水型乳化油脂組成物中に含有される、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を含むモノグリセリド(MG)と炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基が1つ以上含まれるジグリセリド(DG)との質量比が、前者:後者で、1:0.4~2.0であること。
(3)油中水型乳化油脂組成物を構成する油相の酸価が5以下であること。
【0021】
条件(1)
本発明においては、油中水型乳化油脂組成物中に、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を1つ以上含むジグリセリド(DG)を0.2~2.6質量%含有することを要する。
油中水型乳化油脂組成物中、炭素数20以上の飽和脂肪酸残基を1つ以上含むジグリセリドの含有量が0.2質量%未満であった場合、本発明の油中水型乳化油脂組成物をロールイン用油脂として用いたペストリー食品の製造工程中、ホイロ~焼成初期において、油中水型乳化油脂組成物がドウ層間に留まりにくくなるか、又は、ドウ層に吸収されやすくなってしまうことから、良好な浮きと内層を有するペストリー食品を得るという本発明の課題を解決することができない。また、油中水型乳化油脂組成物中、炭素数20以上の飽和脂肪酸残基を1つ以上含むジグリセリドの含有量が2.6質量%超であった場合、油中水型乳化油脂組成物の粘性が過度に高まってしまい、ベーカリー生地に練り込む場合にベーカリー生地に練り込まれにくくなり、ペストリー生地を調製する際のロールイン用油脂として用いる場合はドウと共に伸展しにくくなるため、良好な内層や浮きを有し、口溶けのよいベーカリー製品を得ることができない。
本発明においては、油中水型乳化油脂組成物中に、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を1つ以上含むジグリセリドを0.4~2.4質量%含有することが好ましく、0.6~2.2質量%含有することがより好ましい。
油中水型乳化油脂組成物中の、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を1つ以上含むジグリセリドの含有量は、例えば、イアトロスキャン Mk-6s((株)LSIメディエンス)等を用いることにより測定することができる。
【0022】
また、上記の、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を1つ以上含むジグリセリドが、構成脂肪酸組成中に、炭素数が20以上の飽和脂肪酸以外の脂肪酸(以下、その他の脂肪酸ともいう)を含有する場合、好ましくは該その他の脂肪酸が飽和脂肪酸であり、より好ましくは該その他の脂肪酸が、炭素数が16以上20未満の飽和脂肪酸である。
上記の、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を1つ以上含むジグリセリドは、不飽和脂肪酸を含んでいる場合がある。上記の、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を1つ以上含むジグリセリドが、不飽和脂肪酸を含んでいても、本発明の効果を得ることは可能だが、上記の条件を満たすこと、即ち、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を1つ以上含むジグリセリドが構成脂肪酸組成中に飽和脂肪酸のみ含有する場合には、ホイロ~焼成初期において、一層ドウ層間に留まり易くなるため、好ましい内層と浮きを有し、良好な口溶けを有するペストリー食品が得られ易くなる。
【0023】
条件(2)
本発明においては、油中水型乳化油脂組成物中に含有される、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を含むモノグリセリド(MG)と炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基が1つ以上含まれるジグリセリド(DG)との質量比が、前者:後者で、1:0.4~2.0であることを要する。上記モノグリセリドと上記ジグリセリドとの質量比が、前者:後者で、1:0.4~2.0の範囲外であった場合、ドウ層間に油脂層が十分に留まることができないため、良好な内層や浮きを有し、且つ低油分化されたペストリー食品を得ることができない。
特に、上記モノグリセリドと上記ジグリセリドとの質量比が、前者:後者で、1:0.6~1.7であることが好ましく、1:0.8~1.4であることがより好ましい。上記質量比が上記範囲内である場合、油中水型乳化油脂組成物が、よりドウ層間に留まるために、良好な内層や浮きを有する低油分化されたペストリー食品が得られる油脂組成物となりやすく好ましい。
油中水型乳化油脂組成物中の、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を含むモノグリセリドの含有量は、例えば、イアトロスキャン Mk-6s((株)LSIメディエンス)等を用いることにより測定することができる。
【0024】
これら2つの条件(1)及び(2)を満たす油中水型乳化油脂組成物をロールイン用油脂として用いることで、ペストリー生地に対する折込量を減らした場合であっても、好ましい内層と浮きを有し、良好な口溶けを有するペストリー食品を得ることができる。
【0025】
条件(3)
本発明においては、好ましい風味のペストリー食品を得るために、油中水型乳化油脂組成物を構成する油相の酸価が5以下であることを要する。
油相の酸価が5超であっても、熱や光によって酸化された油脂を、油相を構成する油脂として1つ以上用いることで、上記条件(1)及び(2)を満たすこと自体は可能な場合がある。しかしながら、油相の酸価が5超である場合、得られる油中水型乳化油脂組成物に異味や雑味が生じ、風味が劣ってしまい、結果、これを用いて製造されたベーカリー食品の風味も低下してしまう。
尚、好ましくは油相の酸価が3以下であり、より好ましくは油相の酸価が1以下であることが、異味雑味の生じない油中水型乳化油脂組成物を得る観点から好ましい。
尚、勿論、油相の酸価が5以下となれば、熱や光等によって酸化された油脂や、油脂の分解物等を本発明の油中水型乳化油脂組成物に含有させてもよい。
油中水型乳化油脂組成物を構成する油相の酸価は、例えば、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.3.1-203」の手法に則って測定することができる。
【0026】
上記条件(1)及び(2)を満たすことで、本発明の油中水型乳化油脂組成物の粘性が強まるため、加熱による軟化のタイミングを遅らせることができる。その結果、ドウ層間に油脂分が留まりやすくなり、生地に対して折り込む油脂組成物の量が少なくても、良好な浮きと内層を有し、且つ口溶けが良好なペストリー食品が得ることができる。
また、上記条件(3)を満たすことで、本発明の油中水型乳化油脂組成物の風味が、異味雑味等なく、好ましい風味となるため、好ましい風味のベーカリー製品を得ることができる。
したがって、本発明においては上記条件(1)~(3)を満たすことが求められる。
【0027】
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、上記条件(1)~(3)を満たすように、精製された単一のグリセリン脂肪酸エステルを複数種混合することによって得ることができる。また、効率化の観点や脂肪酸組成の調整のしやすさの観点から、容易に上記条件(1)~(3)を満たす油中水型乳化油脂組成物を製造できると共に、任意の油中水型乳化油脂組成物の物性を、ホイロ~焼成初期においてドウ層間に留まりやすい、粘りのある物性へと調整することが容易であることから、本発明においては、反応モノグリセリドを含有させることによっても、上記条件(1)~(3)を満たす油中水型乳化油脂組成物を好ましく得ることができる。本明細書において反応モノグリセリドとは、グリセリンと脂肪酸、あるいはグリセリンと油脂とをエステル交換したものから得られるものである。
【0028】
本発明の油中水型乳化油脂組成物中の反応モノグリセリドの含有量は、油中水型乳化油脂組成物の油相を構成する油脂にも依るが、油中水型乳化油脂組成物100質量%中、0.5~8.0質量%、好ましくは1.5~6質量%であることが好ましい。
反応モノグリセリドの含有量が0.5質量%未満の場合、本発明の効果が得られにくい。また8.0質量%超の場合、口溶けが悪化する他、伸展性が低下するため、ペストリー生地を調製する際にドウ層間で油脂層の割れが生じやすくなる。
【0029】
また、上記条件(1)~(3)を満たすように含有させるのであれば、本発明において用いることのできる反応モノグリセリドに特に制限はないが、反応モノグリセリドを構成する全脂肪酸中、炭素数が20以上の飽和脂肪酸を40質量%以上含有することが好ましく、45質量%以上含有することがより好ましく、50質量%以上含有することが最も好ましい。
全脂肪酸中、炭素数が20以上の飽和脂肪酸を40質量%以上含有する反応モノグリセリドを用いることで、油中水型乳化油脂組成物中の反応モノグリセリドの含有量が少量であっても上記条件(1)~(3)を満たすことが可能になる上、炭素数が20以上の飽和脂肪酸を5%以上含まないような脂肪酸組成を有する油脂を1つ以上用いてロールイン耐性を有する油中水型乳化油脂組成物を製造する場合であっても、油中水型乳化油脂組成物に、ホイロ~焼成初期においてドウ層間に留まりやすい物性を付与することが可能になる。
【0030】
本発明において、反応モノグリセリドを用いて上記条件(1)~(3)を満たす場合は、反応モノグリセリド中の、モノグリセリド(MG)、ジグリセリド(DG)、トリグリセリド(TG)の質量比組成が、30~50:30~50:10~30であることが、製造中、油相に反応モノグリセリド由来の沈殿を生じさせない観点から好ましい。
【0031】
また、反応モノグリセリドはHLBが1.0~4.0であることが好ましい。
本発明の油中水型乳化油脂組成物に含有させる反応モノグリセリドのHLBが1.0~4.0である場合、反応モノグリセリドの構成成分が油相に偏在しやすくなるため、加熱による油脂の軟化のタイミングを十分に遅らせることができ、結果として、ペストリー生地に対して折り込む油脂組成物の量が少なくても、良好な浮きと内層が得られ、且つ好ましい口溶けを有するペストリー食品が得られ易い。
尚、HLB値は、Griffin式(Atlas社法)により求めることができる。
尚、反応モノグリセリドを用いて上記条件(1)~(3)を満たす油中水型乳化油脂組成物を製造する場合は、十分に溶解させ、油脂組成物中に均一分散させる観点から、反応モノグリセリドを、製造時に水相ではなく油相に含有させることが好ましい。
【0032】
次に本発明の油中水型乳化油脂組成物における、連続相である油相について述べる。
本発明の油相に使用することのできる食用油脂としては特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明においては、これらの油脂を単独で油相として用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて油相として用いることもできる。
【0033】
上記条件(1)~(3)を満たす油中水型乳化油脂組成物を構成する油相のトリグリセリド組成が、下記条件i)~iv)を全て満たすことで、ペストリー食品の内層・浮きが一層良好となり、良好な口溶けと風味のペストリー食品が得られる。
i)S3の含有量が0.1~12質量%
ii)s2Uの含有量が15質量%以上
iii)s2Uを構成するPとStとの質量比率であるP/Stが2より大きいこと
iv)sD2の含有量とU3の含有量との合計量が25~55質量%
上記条件i)~iv)中のS、s、U、P、St及びDは、それぞれ以下の脂肪酸残基を示し、S3、s2U、sD2、及びU3は以下のトリグリセリドを示す。
S:飽和脂肪酸残基
s:炭素数16~18の飽和脂肪酸残基
U:炭素数16~18の不飽和脂肪酸残基
P:パルミチン酸残基
St:ステアリン酸残基
D:炭素数16~18の多価不飽和脂肪酸残基
S3:Sが3分子結合しているトリグリセリド
s2U:sが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
sD2:sが1分子、Dが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
上記条件i)~iv)は、本発明の油中水型乳化油脂組成物に含有される反応モノグリセリド由来のトリグリセリドも含めて考慮することとする。
【0034】
本発明におけるトリグリセリド組成の条件i)について述べる。
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、油相のトリグリセリド組成におけるS3の含有量が、好ましくは0.1~12質量%、より好ましくは3~11質量%、最も好ましくは5~10質量%である。
上記のSは飽和脂肪酸残基を示し、具体的には、炭素数が8~22である飽和脂肪酸残基を示す。炭素数が8~22である飽和脂肪酸残基としては、具体的には、カプリル酸残基、カプリン酸残基、ラウリン酸残基、ミリスチン酸残基、パルミチン酸残基、ステアリン酸残基、アラキジン酸残基及びベヘン酸残基の中から選ばれた1種又は2種以上である。上記のS3は、トリグリセリドを構成する3つの脂肪酸残基がいずれも上記のSであるトリグリセリドを示す。
油相のトリグリセリド組成における上記のS3の含有量が0.1質量%よりも少ないと、本発明の油中水型乳化油脂組成物をロールイン用油脂組成物として用いたペストリー食品において、内層不良となりやすかったり、気泡膜が厚くなりやすかったり、目が詰まりやすい。また、上記のS3の含有量が12質量%よりも多いと、良好な内層や浮きは得られやすくなるものの、口溶けが悪く、風味の発現性が低いペストリー食品となりやすい。
【0035】
本発明における条件ii)について述べる。
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、s2Uの含有量が15質量%以上、好ましくは18質量%以上、更に好ましくは20~30質量%である。上記のs2Uの含有量が15質量%よりも少ないと油脂の粘度や融点が低下しやすく、ホイロ~焼成初期の段階でドウ層へ油脂層が吸収されやすくなるため、目が詰まりやすくなり、良好な内層と浮きのペストリー食品を得られにくい。尚、s2Uの含有量の上限は40質量%である。
上記sは炭素数が16~18の飽和脂肪酸残基を示し、具体的にはパルミチン酸残基(P)及び/又はステアリン酸残基(St)である。
上記Uは炭素数16~18の不飽和脂肪酸残基を示し、具体的にはオレイン酸残基、リノール酸残基及びリノレン酸残基の中から選ばれた1種又は2種以上である。上記のs2Uは、トリグリセリドを構成する3つの脂肪酸残基のうち、2つが上記のsであり1つが上記のUであるトリグリセリドを示す。
【0036】
本発明における条件iii)について述べる。
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、s2Uを構成するPとStとの質量比率であるP/Stが2より大きく、好ましくは2~6、更に好ましくは2~5、最も好ましくは2~4である。
上記のs2Uを構成するPとStとの質量比率であるP/St(質量基準)が2以下であるとs2Uの融点が高くなりやすいため、得られるペストリー食品の口溶けや悪く、また風味の発現性が低くなりやすい。
【0037】
本発明における条件iv)について述べる。
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、sD2の含有量とU3の含有量との合計量が25~55質量%、好ましくは30~50質量%、更に好ましくは35~45質量%である。
上記のsD2の含有量とU3の含有量との合計量が25質量%よりも少ないと、伸展性が低下し易く、ペストリー生地を調製する際の作業性が悪くなりやすい。また、55質量%よりも多いと得られる油中水型乳化油脂組成物のロールイン耐性が乏しくなり易く、良好な内層や浮きを有するペストリー食品が得られにくい。
上記のDは、炭素数16~18の多価不飽和脂肪酸残基を示し、具体的にはリノール酸残基及び/又はリノレン酸残基である。上記のsD2は、トリグリセリドを構成する3つの脂肪酸残基のうち、1つが上記のsであり2つが上記のDであるトリグリセリドを示す。上記のU3は、トリグリセリドを構成する3つの脂肪酸残基がいずれも上記のUであるトリグリセリドを示す。
【0038】
本発明の油中水型乳化油脂組成物の全油脂中のトリグリセリド組成が上記のi)~iv)の条件の全てを満たす具体的な配合油脂は、以下の油脂Aと油脂Bと油脂Cとを、上記i)~iv)の条件を全て満たすように配合することにより得られる。
【0039】
上記の油脂Aは豚脂系油脂及び/又は牛脂系油脂であり、具体的には豚脂、牛脂並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が好ましく用いられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。本発明では油脂Aとして特に豚脂系油脂を用いることが好ましい。
【0040】
上記の油脂Bは融点が50℃以上の油脂である。具体的には、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、キャノーラ油、ハイオレイックキャノーラ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、落花生油、カポック油、胡麻油、月見草油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂に対して、水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した油脂が好ましく用いられる。これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができるが、本発明では油脂Bとして、口溶けや風味への影響の点でキャノーラ極度硬化油、ハイオレイックキャノーラ極度硬化油、大豆極度硬化油、パーム極度硬化油及びパーム分別硬部油の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0041】
尚、本発明の油中水型乳化油脂組成物は、油脂Bとして硬化油を含有しないことが好ましい。
上記の硬化油を含有しないとは、硬化油には通常、構成脂肪酸中にトランス酸が10~50質量%程度含まれているためであり、トランス酸に起因する健康阻害回避のため本発明では含有しないことが好ましい。
ただし、極度硬化油脂は完全に水素添加されており、トランス酸を含まないため、本発明では極度硬化油を含有することは構わない。本発明の油中水型乳化油脂組成物の全油脂中の脂肪酸組成において、トランス酸を好ましくは10質量%未満、より好ましくは5質量%以下、最も好ましくは2質量%以下の含有量とすることが望ましい。
【0042】
上記の油脂Cは常温(25℃)で液状の油脂である。具体的には、大豆油、菜種油、米油、綿実油、とうもろこし油、サフラワー油、ひまわり油、落花生油、ゴマ油、キャノーラ油、ハイオレイックキャノーラ油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックひまわり油、オリーブ油等の常温で液状の油脂や、常温で固形である油脂、例えばパーム油、パーム核油、ヤシ油、落花生油、カポック油、胡麻油、月見草油、カカオ脂、シア脂、サル脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の分別軟部油であってもよく、本発明ではこれらの液状油脂の中から選ばれた1種又は2種以上の油脂を用いることができる。特に本発明では、大豆油、菜種油、米油、ゴマ油、キャノーラ油、ハイオレイックキャノーラ油、ハイオレイックサフラワー油及びハイオレイックひまわり油の中から選ばれた1種又は2種以上の油脂を用いることが好ましい。
【0043】
上記油脂Aの含有量は、本発明の油中水型乳化油脂組成物の全油脂中、好ましくは20~70質量%、更に好ましくは25~60質量%、最も好ましくは35~55質量%である。本発明の油中水型乳化油脂組成物の全油脂中、上記油脂Aの含有量が20質量%よりも少ないと、油相中のS2U成分が不足し、可塑性が乏しくなる上にロールイン耐性が低下しやすい。また70質量%よりも多いと、伸展性が乏しくなり生地と共に伸びにくいため、内層や浮きが良好で、口溶けや風味に優れた、良好なペストリー食品が得にくい。
【0044】
上記油脂Bの含有量は、本発明の油中水型乳化油脂組成物の全油脂中、好ましくは10~40質量%、更に好ましくは15~35質量%、最も好ましくは20~30質量%である。本発明の油中水型乳化油脂組成物の全油脂中、上記油脂Bの含有量が10質量%よりも少ないと、本発明の油中水型乳化油脂組成物をロールイン用油脂組成物として用いたペストリー食品において内層不良となりやすく、また、本発明の油中水型乳化油脂組成物を練り込み用油脂組成物として用いた場合にはベーカリー食品の内相において気泡膜が厚くなりやすかったり、目が詰まりやすい。40質量%よりも多いと口溶けが悪くなりやすく、また、本発明の油中水型乳化油脂組成物をロールイン用油脂として使用した場合、伸展性が低下しやすいため、ペストリー生地を調製する際に。ドウ層間で油脂層の割れが生じやすい。
【0045】
上記油脂Cの含有量は、本発明の油中水型乳化油脂組成物の全油脂中、好ましくは15~50質量%、更に好ましくは20~45質量%、最も好ましくは25~40質量%である。本発明の油中水型乳化油脂組成物の全油脂中、上記油脂Cの含有量が15質量%よりも少ないと本発明の油中水型乳化油脂組成物の伸展性が乏しくなり易く、良好な浮きや内層が得すくなる上、本願発明の課題である、「低油分化」、「良好な内層や浮き」、「良好な口溶けと風味」を併せて達成したペストリー食品を得ることが難しくなってしまう。
尚、本発明の油中水型乳化油脂組成物で含有させる以下のその他の成分が油脂を含有する場合、その他の成分に由来する油脂も全油分含量に含めるものとする。
【0046】
本発明の油中水型乳化油脂組成物中における水分含有量は、油中水型乳化油脂組成物基準で、好ましくは10~35質量%、より好ましくは10~30質量%、最も好ましくは15~25質量%である。
本発明の油中水型乳化油脂組成物において、水分含有量が10質量%未満であると適度な可塑性が得られずに、本発明の油中水型乳化油脂組成物をロールイン用油脂として使用した場合に、ペストリー生地を調製する際にドウ層間で割れてしまいやすい他、ペストリー生地中に均一に折り込まれにくくなってしまう。
また、水分含有量が35質量%超である場合、油中水型乳化油脂組成物の乳化が不安定となりやすくなってしまう他、含有する油脂分が十分でないために、良好な内層や浮きが得られにくい。
尚、本発明の油中水型乳化油脂組成物に水分を含有する副原料を使用した場合には、それらの副原料に含まれる水分も上記水分含有量に含めるものとする。
【0047】
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲において、その他の成分を含有することができる。
その他の成分としては、糖類、甘味料、乳化剤、乳製品、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、CMC、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等の増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、アミラーゼ、プロテアーゼ、アミログルコシダーゼ、プルラナーゼ、ペントサナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、ホスフォリパーゼ、カタラーゼ、リポキシゲナーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、スルフィドリルオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ等の酵素、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、β―カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料類、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、卵類、調味料、アミノ酸、pH調整剤、原料アルコール、焼酎、ウイスキー、ウォッカ、ブランデー等の蒸留酒、ワイン、日本酒、ビール等の醸造酒、各種リキュール、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、コーヒー、紅茶、緑茶、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、着香料等を添加してもよい。
【0048】
上記の糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、はちみつ、オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、還元乳糖、ソルビトール、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、トレハロース等が挙げられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記の甘味料としては、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、ソーマチン、サッカリン、ネオテーム、アセスルファムカリウム、甘草、羅漢果等が挙げられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
本発明の油中水型乳化油脂組成物において、上記の糖類の含有量及び上記の甘味料の含有量の合計は、甘味度を考慮したショ糖換算で好ましくは1~30質量%、より好ましくは5~20質量%である。
【0049】
尚、甘味度とは、甘味の強さを示す尺度のことであり、通常、基準にショ糖溶液を用い、ショ糖の甘味を1として、ショ糖以外の甘味料の甘さの強さをショ糖の甘さの強さに対する倍率で示したものである。
尚、下に述べるその他の成分が、上記糖類や甘味料を含有する場合は、その純含有量についても、上記の糖類の含有量及び上記の甘味料の含有量の合計に含めることとする。
【0050】
上記の乳化剤として、例えば蒸留モノグリセリド、ジグリセリド、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム及びポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、例えば大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の天然乳化剤が挙げられる。本発明の油中水型乳化油脂組成物では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。
本発明の油中水型乳化油脂組成物において、上記の乳化剤の含有量は、上記条件(1)~(3)を満たす反応モノグリセリドと併せて、本発明の油中水型乳化油脂組成物100質量%中、好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、最も好ましくは8質量%以下である。
【0051】
上記乳製品としては、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリーム、クリームパウダー、サワークリーム、乳清蛋白質、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、ホエイ蛋白質濃縮物(WPC及び/又はWPI)、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)、バターミルク、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、はっ酵乳、ヨーグルト、乳酸菌飲料、乳飲料、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム、ホエイプロテインコンセートレート、トータルミルクプロテイン及び乳清ミネラル等が挙げられる。本発明ではこれらの乳製品の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0052】
上述の記載から明らかなように、本発明の油中水型乳化油脂組成物の好ましい組成は、上記油脂Aを20~70質量%、上記油脂Bを10~40質量%及び上記油脂Cを15~40質量%それぞれ含有する油相からなっており、該油相中のトリグリセリド組成が、上記条件i)~iv)を全て満たすものである。
【0053】
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、上記油相と、水相とを乳化混合してなる油中水型乳化油脂組成物である。尚、本発明の油中水型乳化油脂組成物は、ベーカリー生地にロールインする際や練り込む際の作業性の点から可塑性を有することが好ましい。
【0054】
ここで本発明の油中水型乳化油脂組成物の好ましい製造方法について以下に説明する。
本発明の油中水型乳化油脂組成物は、その製造方法が特に制限されるものではなく、公知の方法で製造することができる。好ましくは、上記i)~iv)の条件を満たす油相を溶解し、溶解した油相と水相とを混合・乳化して混合液を調製し、得られた混合液を冷却することにより、油中水型乳化油脂組成物を得ることができる。
【0055】
具体的には、まず油相を溶解し、溶解した油相と水相とを混合乳化する。
油相と水相との質量比率(前者:後者)は、好ましくは20~95:5~80、更に好ましくは50~90:10~50、最も好ましくは70~90:10~30である。本発明において油相が20質量%よりも少なく水相が80質量%よりも多いと乳化が不安定となりやすい。また、油相が95質量%よりも多く、水相が5質量%よりも少ないと、良好な可塑性が得られにくい。
【0056】
そして次に、殺菌処理をすることが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続方式でも構わない。また殺菌温度は好ましくは80~100℃、更に好ましくは80~95℃、最も好ましくは80~90℃とする。その後、必要により油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行なう。予備冷却の温度は好ましくは40~60℃、更に好ましくは40~55℃、最も好ましくは40~50℃とする。
【0057】
次に、冷却、好ましくは急冷可塑化を行なう。この急冷可塑化は、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーターなどの密閉型連続式掻き取りチューブチラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機等が挙げられ、また開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターの組み合わせが挙げられる。この急冷可塑化を行なうことにより、可塑性を有する油脂組成物となる。急冷可塑化の際に、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
【0058】
上記の油中水型乳化油脂組成物の製造工程において、窒素、空気等を含気させても、含気させなくても構わない。
【0059】
このようにして得られた本発明の油中水型乳化油脂組成物は、ベーカリー食品のロールイン用、練り込み用、サンド・フィリング用、スプレッド用、スプレー・コーティング用、フライ用として使用することができるが、本発明の油中水型乳化油脂組成物は一度溶解し、冷却され、固化する工程を経ることにより効果を発揮するため、ロールイン用や練り込み用で用いることが好ましい。
特に本発明においては、焼成前のベーカリー生地中に局在化して存在し、低油分であっても良好な内層と浮きが得られる点で、ロールイン用油脂として使用することが好ましい。
【0060】
本発明の油中水型乳化油脂組成物をロールイン用油脂組成物として用いる場合は、急冷可塑化後にシート状、ブロック状、円柱状、直方体等の形状とする。各々の形状についての好ましいサイズは、シート状:縦50~1000mm、横50~1000mm、厚さ1~50mm、ブロック状:縦50~1000mm、横50~1000mm、厚さ50~500mm、円柱状:直径1~25mm、長さ5~100mm、直方体:縦5~50mm、横5~50mm、高さ5~100mmである。
【0061】
本発明の油中水型乳化油脂組成物を練り込み用油脂組成物として用いる場合は、急冷可塑化後にケースやカップなどの容器に流し込む。
【0062】
次に本発明の油中水型乳化油脂組成物を用いたベーカリー製品について説明する。
本発明のベーカリー食品は、上述した本発明の油中水型乳化油脂組成物を含有したベーカリー生地を加熱することにより得られる。本発明の油中水型乳化油脂組成物が好ましく含有されるベーカリー食品としては、特に限定されず、食パン、菓子パン、バラエティーブレッド、バターロール、ソフトロール、ハードロール、フランスパン、スイートロール、デニッシュ生クロワッサン等のペストリー、饅頭等が挙げられる。この中でも特に本発明の効果が得られ易い点から、ペストリー中に本発明の油中水型乳化油脂組成物をロールイン用油脂として含有させることが好ましい。
【0063】
尚、上記のペストリー食品としては、クロワッサンやデニッシュ・ペストリー 、パイ等の積層状の外観を呈した食品であり、チョココーティングや、グレーズ、バタークリーム、マヨネーズ等をサンド、トッピングする等の装飾を施してもよい。
【0064】
尚、本発明の油中水型乳化油脂組成物をロールイン用油脂として使用する場合、その使用量は特に限定されず、従来知見の通り、穀粉類100質量部に対して50質量部程度含有、即ち対粉50質量部含有させてもよいが、好ましくは対粉25質量部以上、より好ましくは対粉30質量部以上とすることにより、低油分化が図られ、且つ好ましい浮きと内層を有し、好ましい風味と口溶けのペストリー食品が得られる。
尚、低油分化を図る観点からは、使用量の上限は対粉40質量部である。
【0065】
また、本発明のペストリー食品の層数は、目的とする製品により異なるものであり、特に限定されるものではないが、好ましくは9~144層、より好ましくは16~64層である。
【実施例
【0066】
以下に実施例、比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0067】
(製造例1)
油脂Aとして豚脂(S3:3.7質量%、s2U:30.9質量%、s2U中のP/St:1.8、sD2+U3:26.6質量%)、油脂Bとしてパームの分別硬部油(S3:27.5質量%、s2U:42.3質量%、s2U中のP/St:13.3、sD2+U3:11.2質量%)、油脂Cとして菜種油(S3:0質量%、s2U:0.8質量%、s2U中のP/St:3.7、sD2+U3:83質量%)を選定し、溶融した油脂Aと油脂Bと油脂Cとを用いて、油脂Aを50質量部、油脂Bを20質量部、油脂Cを30質量部量りとり、混合して、混合油脂(1)を得た。
尚、混合油脂(1)のS3は7.4質量%、S2Uは24.2質量%、S2U中のP/Stは3.0、SD2+U3は40.4質量%であった。
【0068】
(製造例2)
製造例1と同様に、油脂Aとして豚脂、油脂Bとしてパームの分別硬部油、油脂Cとして菜種油を用い、溶融した状態で、油脂Aを20質量部、油脂Bを50質量部、油脂Cを30質量部量りとり、混合して、混合油脂(2)を得た。
尚、混合油脂(2)のS3は14.5質量%、S2Uは23.4質量%、S2U中のP/Stは6.5、SD2+U3は35.8質量%であった。
【0069】
(比較例1~3)
油相に、製造例1で調製した混合油脂(1)、又は混合油脂(2)を用いて、表1の配合で、下記の通り比較例1~3の油中水型乳化油脂組成物を調製した。
まず、溶融した状態で秤量した混合油脂(1)、又は混合油脂(2)に、蒸留モノグリセリド(構成脂肪酸中、炭素数が20以上の飽和脂肪酸が実質含有されない)、レシチン、フレーバーを加えて、よく撹拌し分散・溶解させて、油相を調製した。尚、本発明において「炭素数が20以上の飽和脂肪酸が実質含有されない」とは、全脂肪酸中に炭素数が20以上の飽和脂肪酸が0.3質量%未満であることを意味する。
尚、比較例3の油相を調製する際には、反応モノグリセリド(モノグリセリド:ジグリセリド:トリグリセリド=40:40:20、HLB2.7、脂肪酸組成中の炭素数20以上の脂肪酸含量55質量%)も同時に加えて、よく分散・溶解させた。
調製した油相に、水相として水を加えて、油中水型に乳化し85度で殺菌した。この後、50℃まで予備冷却した。
次に予備冷却した油脂組成物を6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。
その後、サイズが縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形し、冷蔵5℃で2週間保管し、本発明の比較例1~3のロールイン用の油中水型乳化油脂組成物A、B、Iを得た。
尚、得られた油中水型乳化油脂組成物中の、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基が1つ以上含まれるジグリセリド含有量は、油中水型乳化油脂組成物A中0質量%、油中水型乳化油脂組成物B中0質量%、油中水型乳化油脂組成物I中2.9質量%であった。
また、油中水型乳化油脂組成物中に含有される、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を含むモノグリセリドと炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を1つ以上含むジグリセリドとの質量比は、油中水型乳化油脂組成物Iで、1:1.4であった。尚、油中水型乳化油脂Aと油中水型乳化油脂Bには、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を含むモノグリセリドの含量は0質量%であった。
油中水型乳化油脂組成物Aを構成する油相の酸価は0.1、油中水型乳化油脂組成物Bを構成する油相の酸価は0.1、油中水型乳化油脂組成物Iを構成する油相の酸価は0.1であり、全ての油中水型乳化油脂組成物の酸価が5以下であった。
【0070】
(実施例1~6)
油相に、製造例1で調製した混合油脂(1)、又は混合油脂(2)を用いて、表1の配合で、下記の通り実施例1~6の油中水型乳化油脂組成物を調製した。
まず、溶融した状態で秤量した混合油脂(1)、又は混合油脂(2)に、蒸留モノグリセリド(飽和脂肪酸を含有し、構成脂肪酸中、炭素数が20以上の飽和脂肪酸が実質含有されない)、反応モノグリセリド(モノグリセリド:ジグリセリド:トリグリセリド=40:40:20、HLB2.7、脂肪酸組成中の炭素数20以上の脂肪酸含量55質量%)、レシチン、フレーバーを加えて、よく撹拌し分散・溶解させて、油相を調製した。
調製した油相に、水相として水を加えて、油中水型に乳化し85度で殺菌した。この後、50℃まで予備冷却した。
次に予備冷却した油脂組成物を6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。
その後、サイズが縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形し、冷蔵5℃で2週間保管し、本発明の実施例1~6のロールイン用の油中水型乳化油脂組成物C~Hを得た。
【0071】
尚、得られた油中水型乳化油脂組成物中の、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基が1つ以上含まれるジグリセリド含有量は、油中水型乳化油脂組成物C中0.3質量%、油中水型乳化油脂組成物D中0.6質量%、油中水型乳化油脂組成物E中1.3質量%、油中水型乳化油脂組成物F中1.3質量%、油中水型乳化油脂組成物G中1.9質量%、油中水型乳化油脂組成物H中1.3質量%であった。
また、油中水型乳化油脂組成物中に含有される、炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を含むモノグリセリドと炭素数が20以上の飽和脂肪酸残基を1つ以上含むジグリセリドとの質量比は、油中水型乳化油脂組成物Cで1:1.4、油中水型乳化油脂組成物Dで1:1.4、油中水型乳化油脂組成物Eで1:1.4、油中水型乳化油脂組成物Fで1:1.4、油中水型乳化油脂組成物Gで1:1.4、油中水型乳化油脂組成物Hで1:1.4であった。
尚、油中水型乳化油脂組成物Cを構成する油相の酸価は0.1、油中水型乳化油脂組成物Dを構成する油相の酸価は0.1、油中水型乳化油脂組成物Eを構成する油相の酸価は0.1、油中水型乳化油脂組成物Fを構成する油相の酸価は0.1、油中水型乳化油脂組成物Gを構成する油相の酸価は0.1、油中水型乳化油脂組成物Hを構成する油相の酸価は0.1、全ての油中水型乳化油脂組成物の酸価が5以下であった。
【0072】
<評価>
実施例1~6及び比較例1~3で得られたロールイン用の油中水型乳化油脂組成物A~Iを用いて、下記配合と製法によりデニッシュA~Iをそれぞれ製造した。
製造したデニッシュを常温下で1日置き、製造1日後のデニッシュの口溶けを、製造1日後の内層及び浮きを下記評価基準により評価した。また、デニッシュ生地を調製する際のロールイン用の油中水型乳化油脂組成物の伸展性を下記評価基準により評価した。その結果を表1に示す。
【0073】
<デニッシュの配合>
強力粉 100質量部
イースト 4質量部
イーストフード 0.1質量部
上白糖 15質量部
食塩 2質量部
全卵 5質量部
ショートニング((株)ADEKA製 プレミアムショートCF) 5質量部
油中水型乳化油脂組成物A~I 35質量部
水 45質量部
【0074】
<デニッシュの製法>
油中水型乳化油脂組成物A~I以外の原料をミキサーボールに入れ、フックを用い、縦型ミキサーにてL3、M5にてミキシングを行い、生地を調製した。この生地をフロアタイム20分とった後、-5℃の冷凍庫で24時間リタードさせた。この生地に、15℃に調温しておいた油中水型乳化油脂組成物A~Iをのせ、常法により、ロールイン(3つ折り3回)し、成型(縦10センチ、横10センチ、厚さ3ミリ)した。そしてホイロ(34℃、60分、80%RH)をとり、200℃15分にて焼成し、デニッシュA~Iを得た。
【0075】
<伸展性の評価基準>
◎:良好な伸展性を有し、生地の端から端まで均一にロールイン用油脂組成物が折り込まれている
○:伸展性を有するが、生地の端までロールイン用油脂組成物が折り込まれていない
△:やや伸展性が乏しく、生地中のロールイン用油脂組成物に若干の割れがみられる
×:伸展性が乏しく、生地中のロールイン用油脂組成物に割れがみられる
<口溶けの評価基準>
○:好ましい口溶けを有していた
△:ワキシ―感があった。
×:強いワキシ―感が感じられ、口中での分散性が乏しかった。
<内層及び浮きの評価基準>
◎:きれいな層状で且つ膜がとても薄く、浮きが良好
○:きれいな層状で且つ膜が薄いが、やや浮きが不十分
△:きれいな層状であるがやや膜が厚く、浮きが不十分
×:層状の部分とパン目の部分があり、浮きも不十分
【0076】
【表1】
【0077】
比較例1と実施例1を比較すると、デニッシュを喫食した際の口溶けについて変化はみられないものの、上記条件(1)~(3)を満たす反応モノグリセリドを加えることで伸展性の向上が認められる他、内層や浮きについての改善効果が認められた。内層や浮きについての改善効果については、反応モノグリセリドを油相に含有させたことにより、得られる油中水型乳化油脂組成物が粘りのある物性となり、生地成形時から焼成初期段階に至るまで、ドウ層間に留まったためであると推察される。
また、比較例2と実施例4の比較から、この改善効果は油脂中のトリグリセリド組成が変化しても得られるものであることを確認した。
また、反応モノグリセリドの油相中の含有量が増えるのに伴って、内層・浮きは改善され、良好なものとなった。添加量が4質量%超となると、添加量によって伸展性や口溶けに悪影響を与える場合があることも確認した。
実施例3、実施例4、及び実施例6では、調温後の伸展性はそれぞれ良好であるが、実施例4と実施例6の油中水型乳化油脂組成物では、経時的に伸展性が低下しやすく、作業性の低下が実施例3の品と比較して早期に起こる傾向にあった。これは、実施例4の油中水型乳化油脂組成物においては、実施例3のものと比較してS3を多く含むことに起因するものと考えられ、実施例6の油中水型乳化油脂組成物における経時的な伸展性の低下は、水分含量の減少により、水/油界面由来の粘性が低下したことに起因するものと考えられる。即ち、この水/油界面由来の粘性の低下に伴って、油中水型乳化油脂組成物の可塑性が低下してしまい、生地調製時の伸展性が低下したものと考えられる。