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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】メタルガスケットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/08 20060101AFI20220117BHJP
   F16B 4/00 20060101ALI20220117BHJP
   F02F 11/00 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
F16J15/08 H
F16B4/00 N
F16B4/00 G
F02F11/00 J
F02F11/00 Z
F02F11/00 P
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019161095
(22)【出願日】2019-09-04
(65)【公開番号】P2021038818
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2020-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000230261
【氏名又は名称】日本メタルガスケット株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134212
【弁理士】
【氏名又は名称】提中 清彦
(72)【発明者】
【氏名】永野 勲
(72)【発明者】
【氏名】小林 信秀
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 秀男
(72)【発明者】
【氏名】織田 喜光
(72)【発明者】
【氏名】小畠 奈穂
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特許第4581169(JP,B2)
【文献】特開平07-229564(JP,A)
【文献】特開平11-201287(JP,A)
【文献】特開2014-111948(JP,A)
【文献】特開2009-074626(JP,A)
【文献】特開2001-165319(JP,A)
【文献】特開平10-213230(JP,A)
【文献】特開平06-300136(JP,A)
【文献】特開平01-172682(JP,A)
【文献】特開平07-071603(JP,A)
【文献】特開平11-101346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/08
F16B 4/00
F02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体或いは粉体の少なくとも一方をシールするシール面を備えるメタルガスケットの製造方法であって、
金属材料により構成され、少なくとも1つの開口部を有するベースシートを作製するステップと、
前記ベースシートよりもバネ剛性の高い金属材料により構成され、当該ベースシートの前記開口部の内側に沿って配設される平坦状の環状部材を作製するステップと、を含み、
前記平坦状の環状部材を作製するステップは、所定長さの帯状部材の長軸方向の両端を接合して円筒状の管状要素を形成するステップと、
前記管状要素の内周面及び外周面が、それぞれ、前記平坦状の環状部材の上面或いは下面となるようにプレス加工して、前記平坦状の環状部材の上面或いは下面の少なくとも一方が前記シール面を構成するように成形するステップと、を含む、
ことを特徴とするメタルガスケットの製造方法。
【請求項2】
前記メタルガスケットが、燃焼ガス或いは燃焼排ガスをシールするシール面を備えるメタルガスケットであり、
前記環状部材が、バネ鋼、析出強化型ステンレス鋼、析出強化型耐熱鋼或いは析出強化型耐熱合金の少なくとも一方の表面に軟質な金属材料が固相接合されたクラッド材により構成される
ことを特徴とする請求項に記載のメタルガスケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体、液体などの流体、粉体などをシールするためのメタルガスケットに関し、例えば、燃焼機関のシリンダブロックとシリンダヘッドの接合部、燃焼機関と排気通路の接合部、排気通路同士の接合部、排気通路と排気処理装置(例えば各種触媒やパティキュレートフィルターなど)の接合部などにおいて利用されるメタルガスケットの改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のメタルガスケット(金属製ガスケット)としては、従来より、例えば、対面する接合部の間に介装される金属板に、流体(例えば排気)が流れる開口部を形成すると共に、その周囲に、対面する接合部同士を締結等するためのボルト等を貫通するボルト穴を開口したものが利用されている(例えば、特許文献1や特許文献2を参照)。
【0003】
ここで、このようなメタルガスケットが利用される場所が、従来に対して高温となる環境下であったり、腐食し易い環境下であったり、温度変動が大きく従来より大きな熱応力が作用する環境下であったり、従来より大きな機械的応力が作用するような環境下など、厳しい環境の場合には、このような厳しい環境に対応可能な高機能材料(高強度材料、耐疲労性材料、耐熱性材料、耐腐食性材料など、或いはこれらを少なくとも2つ以上兼ね備えた材料)を素材(材料)として採用することが考えられている。
【0004】
【文献】特開昭60-233356号公報
【文献】特開昭61-88075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、メタルガスケット全体を高機能材料で形成する場合には、コストが嵩むと共に、加工が難しくなったり、加工装置に関しても加工能力不足、工具や金型などの摩耗などの問題が生じるおそれがあり、高機能材料を採用することが実用面において難しいといった実情があった。
【0006】
また、例えば、高機能材料を使用する部位が、排気通路などの円筒状の通路を流れる高温ガスをシールする部分である場合などは、図5に示すように、高機能材料を環状に打ち抜いた環状部材200として使用することが多い。このような場合には、環状部材200を環状に打ち抜いてしまった残材201、202を有効に利用できる使い途を探し出すことは難しく、結局、残材を無駄にしてしまい、コスト低減、地球資源の保存に対しては十分に貢献できていないといった実情があった。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑みなされたもので、加工が容易で、簡易かつ低コスト化が可能な構成で、望ましくは地球資源の保存に貢献することができる、メタルガスケットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明において、前記環状部材は、前記シール面に凸形状のビード部を備えることを特徴とすることができる。
【0011】
本発明において、前記環状部材は、半径方向断面において、外径側に外側平面を有するとともに内径側に内側平面を有し、前記外側平面から折曲して続くとともに前記内側平面から折曲して続く前記ビード部を有することを特徴とすることができる。
【0013】
本発明に係るメタルガスケットの製造方法は、
流体或いは粉体の少なくとも一方をシールするシール面を備えるメタルガスケットの製造方法であって、
金属材料により構成され、少なくとも1つの開口部を有するベースシートを作製するステップと、
前記ベースシートよりもバネ剛性の高い金属材料により構成され、当該ベースシートの前記開口部の内側に沿って配設される平坦状の環状部材を作製するステップと、を含み、
前記平坦状の環状部材を作製するステップは、所定長さの帯状部材の長軸方向の両端を接合して円筒状の管状要素を形成するステップと、
前記管状要素の内周面及び外周面が、それぞれ、前記平坦状の環状部材の上面或いは下面となるようにプレス加工して、前記平坦状の環状部材の上面或いは下面の少なくとも一方が前記シール面を構成するように成形するステップと、を含む、
ことを特徴とする。
また、本発明に係るメタルガスケットの製造方法は、
前記メタルガスケットが、燃焼ガス或いは燃焼排ガスをシールするシール面を備えるメタルガスケットであり、
前記環状部材が、バネ鋼、析出強化型ステンレス鋼、析出強化型耐熱鋼或いは析出強化型耐熱合金の少なくとも一方の表面に軟質な金属材料が固相接合されたクラッド材により構成される
ことを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加工が容易で、簡易かつ低コスト化が可能な構成で、望ましくは地球資源の保存に貢献することができる、メタルガスケットの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態に係るメタルガスケットが用いられる内燃機関の排気系の一構成例を示す全体構成図である。
図2】同上実施の形態に係るメタルガスケットの正面図(排気の流れ方向に沿った方向から見た図)である。
図3】(A)はリボン材から切り出した帯状部材を示し、(B)は帯状部材から作製した環状要素をプレス加工して断面略ハの字状の環状要素を作製する過程の一例を示す図であり、(C)は(B)で作製した断面ハの字状の環状要素を平坦な環状部材へとプレス加工する過程の一例を示す図であり、(D)は(C)で作製した平坦な環状部材に対してプレス加工によりビード部を形成する様子の一例を示す図である。
図4】(A)は同上実施の形態に係るメタルガスケットのベースシートと環状部材を支持させる過程の第1工程(挿入状態)を示す側面図(断面図)であり、(B)は(A)の状態から第2工程のかしめにより同上メタルガスケットのベースシートに環状部材を支持させた状態の一例を示す側面図(断面図)であり、(C)は接合部に同上メタルガスケットを介装した状態の一例を示す側面図(断面図)である。
図5】板状部材を打ち抜いて環状部材を作製する従来の方法における問題を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る一実施の形態を、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0017】
なお、ここでは、メタルガスケット(金属製ガスケット)として、排気をシールする場合を代表的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、気体、液体などの流体、更には粉体などをシールするためのメタルガスケットであれば適用可能である。
【0018】
本発明の一実施の形態に係るメタルガスケット(金属製ガスケット)10は、図1に示すように、ディーゼル燃焼機関等の内燃機関1の排気通路の一部を構成する排気マニホールド3(シリンダヘッド2の排気ポートに接続される排気通路)と、排気ターボチャージャ4(排気タービン入口部)と、の間に介装され、排気マニホールド3と排気ターボチャージャ4の接合部(接合面3A,4A)から外部への排気の洩れを抑制するように機能する。なお、シリンダヘッド2の排気ポートと排気マニホールド3の接合部に配設されるガスケット10’や、排気ターボチャージャ4の排気出口とその下流側の排気パイプ(排気通路)5の接合部に配設されるガスケット10”にも適用可能である。
【0019】
ここで、本実施の形態に係るメタルガスケット10のベースシート(ベースシート部、本体部分)10Aは、図2に示すように、排気が流れる開口部11と、4本の貫通ボルトを貫通する貫通孔12と、を含んで構成されている。
【0020】
また、本実施の形態に係るメタルガスケット10は、比較的安価な金属材料により構成されるベースシート10Aの開口部11の内側に、ベースシート10Aとは異なる金属材料であってベースシート10Aよりもバネ剛性の高い金属材料(高機能材料)により構成される環状部材13が備えられている。
【0021】
ベースシート10Aの素材(材料)としては、例えば、SUS301、SUS304、SUS430、SPCCなどの比較的低コストな金属材料を採用することができる。
【0022】
これに対して、環状部材13は、高温の排気に晒され、比較的大きな温度変化を繰り返し受けるため、これに抗して長期間に亘ってへたることなくガスシール性を確保することができるように、環状部材13の素材(金属材料)としては、高機能材料が用いられる。
【0023】
ここで、高機能材料としては、バネ剛性に富む、バネ鋼(バネ材)、析出強化型ステンレス鋼、析出強化型耐熱鋼或いは析出強化型耐熱合金などのFe系合金およびNi系合金などが想定される。詳しくは、例えば、JIS規定の鋼種記号でいうSUP、SUSおよびSUHなどが想定される。また、例えば、17質量%Cr-5質量%Ni-3質量%Mo(残部Fe、微量添加元素および不可避的不純物)系のFe基合金 、42質量%Ni-15質量%Cr-2質量%Ti-2質量%Al(残部Fe、微量添加元素および不可避的不純物)系の合金 などが想定される。また、例えば、50質量%Ni-17質量%Cr(残部がFe、Nb、Mo、Al、Tiなどの微量添加元素および不可避的不純物)系のNi基合金(アロイ718) などが想定される。
【0024】
このように、ベースシート10Aを比較的低コストな材料とし、高機能が要求される環状部材13のみを高機能材料とすることで、低コストを実現しながら高機能なメタルガスケットを提供することができる。また、環状部材13のみを高機能材料で構成できるようにしたことにより、例えば、ベースシート10Aを比較的低コストな材料として低コスト化した分だけ、より機能を高めた高機能材料を用いて環状部材13を構成することができる。これにより、コスト水準を維持しながらも、より高機能なメタルガスケットを提供することができる。
【0025】
ベースシート(本体)10Aと、環状部材13と、は別部材であり、例えば、搬送時や組み付け時の脱落防止のために、環状部材13は、かしめ部10B(点溶接或いは接着剤などとすることもできる)などにより、ベースシート(本体)10Aに支持されている。
【0026】
ところで、板状部材から環状部材13を打ち抜き加工などにより直接抜き出すと、残材を有効利用する途を探すことが難しいため、本実施の形態では、環状部材13を以下のようにして作製(生産)する。
【0027】
まず、図3(A)に示すように、巻回されているリボン材(バネ材)から所定長さの帯状部材100を切り出す。或いは、板状部材を所定幅で切断して帯状の帯状部材100を得ることもできる。
【0028】
続いて、図3(B)最上に示すように、帯状部材100の長軸方向の両端100A、100Bを突き合わせて溶接等により接合して、円筒状の管状要素101を作製する。管状要素101の円筒状の軸方向長さは、帯状部材100の幅方向の長さに対応し、帯状部材100の厚さ方向の長さ(板厚)よりも大きい。
【0029】
但し、これに限らず、大きめの板状部材を円筒状に丸めて突き合せ、その突き合せ部を接合した後、上記した帯状部材100の幅に相当する長さに輪切り状に切断して、管状要素101を作製(生産)することも可能である。
【0030】
続いて、図3(B)下方に示すように、円筒状の管状要素101をその軸方向(X方向)からプレス加工等によりプレスして、X方向の一端である上端101Aが内径側、X方向の他端である下端101Bが外径側となるように加工する。これにより、管状要素101は垂直面Y1(円筒状の側面)が傾斜面Y2となるように成形されて、図3(C)最上に示すような、断面略ハの字状の皿バネのようなテーパ形状となる。最終的には、管状要素101の垂直面Y1が図3(C)下方に示す水平面Y3となるまでプレス加工等を行って、平坦状の環状部材13を作製(生産)する。すなわち、図3(B)に示す管状要素101の内周面aと外周面bが、それぞれ、図3(D)に示す環状部材13の上面b或いは下面aの一方となるようにプレス加工等を行う。なお、図3(B)下方に示す上型と下型の傾斜の方向を逆に設定すれば、内周面aを上面aとし、外周面bを下面bとすることも可能である。
【0031】
なお、本実施の形態において、図3(D)最上に示す環状部材13は、厚さ方向(図3(D)において上下方向)に弾性力(スプリング力)を持たせるために、図3(D)下方に示すように、プレス加工等により、内径101A側の内側平面13Aと外径101B側の外側平面13Bの高さ方向位置(厚さ方向Zにおける位置)を相違させて構成することができる。詳細については、後述する。
【0032】
但し、環状部材13の素材の持つ弾性変形(厚さ方向弾性ひずみ)のみを利用してガスシール性を確保できる場合には、図3(C)に示したような断面略ハの字状の皿バネのようなテーパ形状のままなどとすることも可能である。
【0033】
また、プレス加工後には、環状部材13に対して熱処理を行うことで、残留応力の除去や応力緩和等を行うようにしても良い。
【0034】
そして、本実施の形態では、図2で示したように、環状に形成した環状部材13を、ベースシート10Aの開口部11の内側に配設して支持させる。
【0035】
ここでは、図4(A)に示すように、環状部材13と環状部材14とを、互いの外径側同士を接触させて対面させた状態で配設することもできる。なお、環状部材14は、環状部材13と平面Hに関して面対称な形状である。
【0036】
そして、環状部材13及び環状部材14のベースシート10Aに対する支持方法の一例としては、図4(A)に示すように、内径側切欠部10Cに環状部材13及び環状部材14を挿入し、切欠底部10Dで環状部材14の底部を支持した状態とする。
【0037】
この状態で、図4(B)に示すように、内径側切欠部10Cの入口外周付近をパンチ等でかしめることによりかしめ部10Bを形成し、内径側に突出部10Eを突出させることができる。これにより、突出部10Eと、切欠底部10Dと、の間に、環状部材13及び環状部材14がベースシート10Aから脱落しない程度に支持させることができる。当該支持は、搬送時や組み付け時における脱落を防止できる程度に支持できれば十分である。
【0038】
なお、図4では、環状部材13及び環状部材14を表示しているが、どちらか一方を備える場合でも良く、支持の方法も同様の方法で支持することができる。
【0039】
また、図4(C)に示すように、環状部材13にビード部13Cを設けて構成すると、排気通路の軸方向(排気流れ方向)(Z方向)に対する熱膨張や熱収縮に伴う接合部(接合面3A,4A)の隙間Tの変動に対してガスシール性を長期に亘って高く維持することができる。なお、環状部材13と組み合せる環状部材14もビード部14Cを設けて構成することができる。
【0040】
ここで、環状部材13の具体的な構成例について説明する。
環状部材13は、例えば、図4(A)に示すように、半径方向断面において、基端側(外径101B側)に外側平面13Bを残して略逆への字状に折曲され、その先端側(内径101A側)に内側平面13Aが形成されるように、すなわちビード部13Cが頂点となるように、先ほどとは逆方向に略への字状に折曲されたような形状を備えて構成することができる。
【0041】
そして、図4(B)に示すように、ベースシート10Aの上平面10A1(或いは下平面10A2)から厚さ方向(Z方向)に内側平面13A1(或いは内側平面14A1)が所定量T1(或いはT2)だけ突き出すようにしておくことで、熱負荷の変動や振動等により隙間T(図4(C)参照)が変動した場合やベースシート10Aにへたりが生じたような場合でも、長期に亘って良好にガスシール性を維持することができる。なお、上記した所定量T1と所定量T2とは等しい値とすることができるし、異なる値とすることもできる。
【0042】
これにより、熱負荷の変動や振動等により隙間Tが増加した場合には、Z方向(接合部の隙間方向)に対して復元力(弾性力)が作用するように構成しているので、ビード部13C(14C)が隙間Z方向に伸長して接合部(接合面3A,4A)に適切に当接してガスシール性を確保することができると共に、熱負荷の変動や振動等により隙間Tが減少した場合でも、これに追従して変形することができるので、隙間Tの変動に対してガスシール性を長期に亘って高く維持することができる。
【0043】
また、熱負荷の変動や振動等により隙間Zが変動した場合の他にも、ベースシート10Aが接合部(接合面3A,4A)の厚さ方向への締め付けにより塑性変形してへたり、ベースシート10Aの塑性変形後の厚さが図4(C)に示す隙間Tと同等かそれ以下となったような場合においても、環状部材13(14)が復元力(弾性力)を備えている本実施の形態によれば、ビード部13C(14C)を接合部(接合面3A,4A)に適切に当接させることができるので、長期に亘って良好にガスシール性を維持することができる。
【0044】
また、本実施の形態では、図4(B)に示すように、径方向に関して、高温に晒された環状部材13や環状部材14が熱膨張などした際に、ベースシート10Aの開口部11に強く当接して変形等してガスシール性が低下することなどを抑制するために、径方向所定隙間Rが設けられている。また、厚さ方向(Z方向)において、ベースシート10Aに対して、環状部材13や環状部材14の遊動を許容する厚さ方向隙間tも設けている。
【0045】
これら隙間R,tにより、環状部材13や環状部材14が熱膨張などした場合でも、その膨張をベースシート10Aが必要以上に規制(干渉)することを抑制することができるため、環状部材13や環状部材14の異常な(いびつな)変形を抑制することができ、ガスシール性を長期に亘って良好に維持することができる。
【0046】
また、環状部材(13、14)のビード部(13C、14C)の復元力を高めたい場合には、プレス加工後に行う熱処理を行わないようにすることも可能である。
【0047】
このように、本実施の形態によれば、加工が容易で、簡易かつ低コスト化が可能な構成で、望ましくは地球資源の保存に貢献することができる、メタルガスケット及びその製造方法を提供することができる。
【0048】
上記したように、本実施の形態では、帯状部材100の長軸方向の両端を接合して形成した管状要素101をその幅方向X(軸方向)からプレス加工等によりプレスして、幅方向の一端である上端101A(或いは下端101B)が内径側、幅方向の他端である下端101B(或いは上端101A)が外径側となるように成形して断面略ハの字状の環状要素を作製し、最終的に、管状要素101の内周面aと外周面bが、それぞれ、環状部材13の上面b或いは下面aの一方となるようにプレス加工等を行う。また、平坦な環状部材13に対してプレス加工等によりビ―ド部13Cを形成することが想定される。
【0049】
このようなプレス加工等を行う場合、バネ鋼のような硬い材料の場合には、金型摩耗などが比較的大きく製品コストが増加すると共に製品精度を長期に亘って維持することが難しくなるおそれも想定される。そのため、成形時には加工し易いが成形後にはバネ鋼などと同等の特性(硬度や弾性力(復元力))を有するような材料、例えば、上記した析出強化型ステンレス鋼(SUS)、析出強化型耐熱鋼(SUH)などを、採用することが好ましい。
【0050】
なお、本実施の形態では、メタルガスケット10を、排気マニホールド3と排気ターボチャージャ4の間の接合部や、シリンダヘッド2の排気ポートと排気マニホールド3の間の接合部や、排気ターボチャージャ4の排気出口とその下流側の排気パイプ(排気通路)5の間の接合部に配設する場合について述べたが、本発明はこれに限定されるものではなく、シリンダヘッドとシリンダブロックの間のシリンダヘッドガスケット、その他の排気通路の接合部などの他、メタルガスケットが採用される部位であれば適用可能である。
【0051】
また、本実施の形態では、排気が流れる排気通路の接合部の対面する接合面の間に介装されるメタルガスケットについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、排気以外の気体、水、油などの液体などの流体、更には粉体の少なくとも一つをシールするために用いられるメタルガスケットに適用可能である。
【0052】
ところで、ガスシール性(マイクロガスシール性)を向上させるために、接合部材の表面の微小凹凸に追従できるように、環状部材13として、純Cuなどの軟質な金属材料を母材(例えば高機能材料)の表面に固相接合させたクラッド材を採用することができる。なお、純Cuなどの軟質な金属材料は、母材(例えば高機能材料)の一表面或いは両表面(表裏面)に接合させることができる。
但し、使用環境などによっては、環状部材13の表面にSnなどを表面にメッキにより形成(成膜)した構成とすることも可能である。
【0053】
このように、環状部材13をクラッド材とした場合や軟質のメッキなどを施した場合には、純Cuなどの軟質材を接合部材表面の微小凹凸に追従させてマイクロガスシール性を向上させることができる。また、純Cuなどの軟質な金属材料を用いたクラッド材により構成された環状部材13であれば、熱応力や機械的応力が繰り返し作用するようなメタルガスケットの使用環境下においても、環状部材13の母材を高機能材料とすることができるので、環状部材13がへたることなく長期に亘ってガスシール性を高く維持することができる。
すなわち、マイクロガスシール性能の向上と、長期にわたるガスシール性の維持の両立を図ることができる。
【0054】
なお、クラッド材とは、一方の金属の表面と他方の金属の表面とを、圧延等により圧力を加えながら接合した金属材料である。クラッド材に用いる金属は、接合可能であれば同種でも異種でも良い。クラッド材は、圧力によって金属と金属とが原子間結合されて固相接合となるため、表面には接着剤等は使わず、剥離し難い性質を持つものである。
【0055】
従って、環状部材13をクラッド材とした場合には、メッキや接着剤などによって金属膜を形成した場合に比べて、環状部材13の表面からCuなどの軟質金属が剥離し難く、長期に亘って良好なマイクロガスシール性を維持することができるという利点がある。
【0056】
更に、本実施の形態に係る製造方法により環状部材13を製造する場合、管状要素101をその幅方向(図3(B)に示すX方向)からプレス加工によりプレスする際に、図3(B)に示すように、管状要素101の上端が上型の表面に高い押圧力で押圧されて当接しながら滑り、環状要素101の下端が下型の表面に高い押圧力で押圧されて当接しながら滑りながら成形されていく形態となる。
【0057】
このため、管状要素101(環状部材13)が滑りの悪い硬い金属材料であると、成形品にしわが生じて品質が低下したり、金型の摩耗が激しいなどといったおそれがある。このような場合、Cuなどの軟質金属を環状部材13の表面に接合したクラッド材であれば、金型表面に対する滑りを改善できるため、このようなおそれを抑制でき、以ってしわなどの無い高品質な成形品を得ることに貢献できると共に、上下金型の摩耗を抑制できるため長期に亘って高品質な製品を低コストで提供することに貢献可能である。
【0058】
なお、SUSと軟質金属とのクラッド材を用いる場合、一般的なSUSの硬度(Hv100~150程度)に対して、軟質金属としてCuを用いる場合には、Hv50~60程度の硬さに焼きなましなどで調整可能である。
【0059】
また、本実施の形態では、環状部材13を略円環状として例示しているが、本願発明はこれに限定されるものではなく、例えば楕円形状などの他の形状であっても適用可能である。
【0060】
また、本実施の形態では、環状部材13のビード部13Cを、略への字状部分と略逆への字状部分と、を連接させたものを一例として示したが、これに限定されるものではなく、本発明に係るビード部は、波形状、半円形状、突起形状の他、環状部材の上面或いは下面の少なくとも一方にその表面から対面する接合面に対して突き出すように形成される凸形状とすることができるものである。
【0061】
以上で説明した本実施の形態は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 内燃機関
2 排気通路
3 排気マニホールド
4 排気ターボチャージャ
10 メタルガスケット(金属製ガスケット)
10A ベースシート(ベースシート部、本体部分)
11 開口部
13、14 環状部材
13C、14C ビード部
100 帯状部材
101 管状要素
図1
図2
図3
図4
図5