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特許7007537カリウムイオン電池用正極活物質、カリウムイオン電池用正極、及び、カリウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】カリウムイオン電池用正極活物質、カリウムイオン電池用正極、及び、カリウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20220117BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20220117BHJP
   C01B 25/455 20060101ALI20220117BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M10/054
C01B25/455
C01B25/45 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018552575
(86)(22)【出願日】2017-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2017041726
(87)【国際公開番号】W WO2018097109
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2016229130
(32)【優先日】2016-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】駒場 慎一
(72)【発明者】
【氏名】久保田 圭
(72)【発明者】
【氏名】智原 久仁子
(72)【発明者】
【氏名】加藤木 晶大
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/119208(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/048341(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 10/054
C01B 25/455
C01B 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を含む
カリウムイオン電池用正極活物質。
KMOPO1-x (1)
式(1)中、Mは、V、Fe、Co、Ni及びMnよりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を表し、xは、0以上1以下の数を表す。ただし、MがVである場合、xは、0を超え1未満の数である。
【請求項2】
前記式(1)におけるMが、Vである請求項1に記載のカリウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
前記式(1)におけるxが、0を超え1以下の数である請求項1又は請求項2に記載のカリウムイオン電池用正極活物質。
【請求項4】
前記式(1)におけるxが、1である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のカリウムイオン電池用正極活物質。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のカリウムイオン電池用正極活物質を含むカリウムイオン電池用正極。
【請求項6】
請求項5に記載のカリウムイオン電池用正極を備えたカリウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カリウムイオン電池用正極活物質、カリウムイオン電池用正極、及び、カリウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高エネルギー密度の二次電池として、非水電解質を使用し、例えばリチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電を行うようにした非水電解質二次電池が多く利用されている。
【0003】
このような非水電解質二次電池において、一般に正極としてニッケル酸リチウム(LiNiO)、コバルト酸リチウム(LiCoO)等の層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が用いられ、負極としてリチウムの吸蔵及び放出が可能な炭素材料、リチウム金属、リチウム合金等が用いられている(例えば、特開2003-151549号公報参照)。
【0004】
充放電可能な電池である二次電池としては、高電圧で高エネルギー密度を達成できるリチウムイオン二次電池がこれまでのところ主として使用されているが、リチウムは、資源量が比較的限定されており、高価である。また、資源が南米に偏在しており、日本では全量を海外からの輸入に依存している。そこで、電池の低コスト化及び安定的な供給のために、リチウムイオン二次電池に代わるナトリウムイオン二次電池についても現在開発が進められている。しかし、原子量がリチウムよりも大きく、標準電極電位がリチウムよりも0.33V程高く、セル電圧も低くなることから、高容量化しにくいという問題がある。
【0005】
最近では、リチウムイオン及びナトリウムイオンの代わりにカリウムイオンを利用した非水電解質二次電池の研究が始められている。
カリウムイオン二次電池を構成する電極活物質、特に正極活物質は、カリウムイオンの供給源とならなくてはならないため、構成元素としてカリウムを含むカリウム化合物である必要がある。現在のところ、カリウムイオン二次電池用の正極活物質としては、例えば、層状岩塩型構造を有する結晶K0.3MnOからなるもの(Christoph Vaalma, et al., Journal of The Electrochemical Society, 163(7), A1295-A1299 (2016)参照)やプリシアンブルー系材料結晶からなるもの(Ali Eftekhari, Journal of Power Souces, 126, 221-228 (2004)参照)等が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高出力であり、充放電を繰り返しても充放電容量が劣化しにくいカリウムイオン電池が得られるカリウムイオン電池用正極活物質、及び、前記カリウムイオン電池用正極活物質を含むカリウムイオン電池用正極、又は、前記カリウムイオン電池用正極を備えたカリウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の<1>、<5>又は<6>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>~<4>とともに以下に記載する。
<1> 下記式(1)で表される化合物を含むカリウムイオン電池用正極活物質。
KMOPO1-x (1)
式(1)中、Mは、V、Fe、Co、Ni及びMnよりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を表し、xは、0以上1以下の数を表す。
<2> 前記式(1)におけるMが、Vである<1>に記載のカリウムイオン電池用正極活物質。
<3> 前記式(1)におけるxが、0を超え1以下の数である<1>又は<2>に記載のカリウムイオン電池用正極活物質。
<4> 前記式(1)におけるxが、1である<1>~<3>のいずれか1つに記載のカリウムイオン電池用正極活物質。
<5> <1>~<4>のいずれか1つに記載のカリウムイオン電池用正極活物質を含むカリウムイオン電池用正極。
<6> <5>に記載のカリウムイオン電池用正極を備えたカリウムイオン電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高出力であり、充放電を繰り返しても充放電容量が劣化しにくいカリウムイオン電池が得られるカリウムイオン電池用正極活物質、及び、前記カリウムイオン電池用正極活物質を含むカリウムイオン電池用正極、又は、前記カリウムイオン電池用正極を備えたカリウムイオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係るカリウムイオン電池10の一例を示す模式図である。
図2】KVPF及び導電助剤としてアセチレンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Aを用い、充放電電圧を4.8V~2.0Vとした場合の5サイクル目までの充放電プロファイルである。
図3】KVPO及び導電助剤としてアセチレンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Aを用い、充放電電圧を4.8V~2.0Vとした場合の5サイクル目までの充放電プロファイルである。
図4】KVPO/AB及び導電助剤としてアセチレンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Aを用い、充放電電圧を4.8V~2.0Vとした場合の5サイクル目までの充放電プロファイルである。
図5】KVPF、KVPO又はKVPO/AB、及び、導電助剤としてアセチレンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Aを用い、充放電電圧を4.5V又は4.8V~2.0Vとした場合のサイクル経過における可逆容量の変化を表す図である。
図6】KVPF及び導電助剤としてアセチレンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Aを用い、充放電電圧を5.0V~2.0Vとした場合の5サイクル目までの充放電プロファイルである。
図7】KVPO及び導電助剤としてアセチレンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Aを用い、充放電電圧を5.0V~2.0Vとした場合の5サイクル目までの充放電プロファイルである。
図8】KVPO/AB及び導電助剤としてアセチレンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Aを用い、充放電電圧を5.0V~2.0Vとした場合の5サイクル目までの充放電プロファイルである。
図9】KVPF、KVPO又はKVPO/AB、及び、導電助剤としてアセチレンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Aを用い、充放電電圧を5.0V~2.0Vとした場合のサイクル経過における可逆容量の変化を表す図である。
図10】KVPF及び導電助剤としてアセチレンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Bを用い、充放電電圧を5.0V~2.0Vとした場合の5サイクル目までの充放電プロファイルである。
図11】KVPF及び導電助剤としてアセチレンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Aを用い、充放電電圧を5.0V~2.0Vとした場合のサイクル経過における可逆容量の変化を表す図である。
図12】KVPF及び導電助剤としてケッチェンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Bを用い、充電レートをC/10、充放電電圧を5.0V~2.0Vとした場合の4サイクル目までの充放電プロファイルである。
図13】KVPF及び導電助剤としてケッチェンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Bを用い、充電レートをC/20、充放電電圧を5.0V~2.0Vとした場合の4サイクル目までの充放電プロファイルである。
図14】KVPF又はKVPO/AB、及び、導電助剤としてアセチレンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Aを用い、充電レートを変化させた場合のサイクル経過における可逆容量の変化を表す図である。
図15】KVPO/AB、及び、導電助剤としてアセチレンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Aを用い、充電レートを変化させた場合のサイクル経過における充放電プロファイルである。
図16】KVPF、及び、導電助剤としてアセチレンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Aを用い、充電レートを変化させた場合のサイクル経過における充放電プロファイルである。
図17】KVO0.5PO0.5及び導電助剤としてアセチレンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Bを用い、充放電電圧を5.0V~2.0Vとした場合の5サイクル目までの充放電プロファイルである。
図18】KVO0.5PO0.5及び導電助剤としてアセチレンブラックを含むカリウムイオン電池用正極、並びに、電解液Aを用い、充放電電圧を5.0V~2.0Vとした場合のサイクル経過における可逆容量の変化を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本願明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本実施形態において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
また、本実施形態において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0011】
(カリウムイオン電池用正極活物質)
本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極活物質は、下記式(1)で表される化合物を含む。
KMOPO1-x (1)
式(1)中、Mは、V、Fe、Co、Ni及びMnよりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を表し、xは、0以上1以下の数を表す。
また、本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極活物質は、カリウムイオン二次電池用正極活物質として好適に用いられる。
【0012】
前述したように、リチウムは、資源量が比較的限定されており、高価である。また、資源が南米に偏在しており、例えば、日本では全量を海外からの輸入に依存している。
一方、カリウムは、海水にも地殻にも豊富に含まれるため、安定した資源となり、低コスト化を図ることもできる。
具体的には、2012年における全世界のリチウム生産量は、純分換算で34,970tであり、カリウム生産量は、純分換算で27,146tである。
また、リチウムイオン電池の場合にはリチウムがアルミニウム等、多くの金属と合金を作るため、負極の基板に高価な銅を使わざるを得なかったが、カリウムはアルミニウムと合金を作らず、銅の代わりに安価なアルミニウムを負極基板に使えることも大きなコスト低減の利点となる。
カリウムイオン二次電池を構成する電極活物質、特に正極活物質は、カリウムイオンの供給源とならなくてはならないため、構成元素としてカリウムを含むカリウム化合物である必要がある。
現在のところ、前述したChristoph Vaalma, et al., Journal of The Electrochemical Society, 163(7), A1295-A1299 (2016)、又は、Ali Eftekhari, Journal of Power Souces, 126, 221-228 (2004)に記載されたカリウムイオン電池用正極活物質等が知られているが、カリウムイオン電池用正極活物質として、実用化に至るだけの十分な出力が得られるものは見つかっていない。
【0013】
本実施形態においては、カリウムイオン電池用正極活物質は、前記式(1)で表される化合物を用いることにより、高出力であり、充放電を繰り返しても充放電容量が劣化しにくいカリウムイオン電池が得られる。
前記式(1)で表される化合物は、xが1の場合はMが三価、xが0の場合はMが四価であると推定され、また、価数が上昇する際に前記式(1)で表される化合物におけるカリウムイオンが放出されると推定される。
【0014】
本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極活物質は、カリウムイオン電池における出力及び充放電容量の観点から、前記式(1)で表される化合物を、カリウムイオン電池用正極活物質の全質量に対し、50質量%以上含むことが好ましく、前記式(1)で表される化合物を80質量%以上含むことがより好ましく、前記式(1)で表される化合物を90質量%以上含むことが更に好ましく、前記式(1)で表される化合物からなることが特に好ましい。
また、本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極活物質は、不純物として、前記式(1)で表される化合物のカリウムがリチウム又はナトリウムに置換された化合物を含んでいてもよい。
【0015】
前記式(1)におけるMは、V、Fe、Co、Ni及びMnよりなる群から選ばれた1種のみの元素であっても、2種以上の元素であってもよい。
前記式(1)におけるMは、カリウムイオン電池における出力及び充放電容量、並びに、化合物の取り扱いやすさの観点から、V、Fe及びMnよりなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であることが好ましく、Vであることが特に好ましい。
【0016】
前記式(1)におけるxが1の場合、式(1)で表される化合物はKMOPOであり、前記式(1)におけるxが0の場合、式(1)で表される化合物はKMPOFであり、前記式(1)におけるxが0を超え1未満の数である場合は、式(1)で表される化合物はKMOPO及びKMPOFの混合物又は固溶体(混晶も含む。)である。
前記式(1)におけるxは、取扱い性及びコストの観点から、xが0を超え1以下であることが好ましく、1であることがより好ましい。一方、前記式(1)におけるxは、化合物の純度の観点からは、xが0であることが好ましい。
【0017】
式(1)で表される化合物として具体的には、KVOPO、KVPOF、KVO0.1PO0.9、KVO0.3PO0.7、KVO0.9PO0.1、KFeOPO、KFePOF、KFeO0.1PO0.9、KFeO0.3PO0.7、KFeO0.9PO0.1、KCoOPO、KCoPOF、KCoO0.1PO0.9、KCoO0.3PO0.7、CoO0.9PO0.1、KMnOPO、KMnPOF、KMnO0.1PO0.9、KMnO0.3PO0.7、KMnO0.9PO0.1等が挙げられる。
【0018】
また、本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極活物質の形状は、特に制限はなく、所望の形状であればよいが、正極形成時の分散性の観点から、粒子状の正極活物質であることが好ましい。
本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極活物質の形状が粒子状である場合、本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極活物質の算術平均粒径は、分散性及び正極の耐久性の観点から、10nm~200μmであることが好ましく、50nm~100μmであることがより好ましく、100nm~80μmであることが更に好ましく、200nm~50μmであることが特に好ましい。
本実施形態における算術平均粒径の測定方法は、例えば、(株)堀場製作所製HORIBA Laser Scattering Particle Size Distribution Analyzer LA-950を使用し、分散媒:水、使用レーザー波長:650nm及び405nmで好適に測定することができる。
また、後述する正極においては、正極内部の正極活物質を溶剤等を使用して、又は、物理的に分離し、測定することができる。
【0019】
前記式(1)で表される化合物の製造方法は、特に制限はなく、例えば、2段階固相焼成法等の固相法が好適に挙げられる。
固相法は、粉末原料を所定の組成となるように秤量して混合し、その後熱処理によって合成する手法である。
【0020】
前記式(1)で表される化合物の製造方法の一例として、Mがバナジウム(V)及びxが0の場合には、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)とリン酸二水素アンモニウム(NHPO)とを化学量論比1:1の割合で水溶混合し、140℃で脱水乾固させた前駆体を坩堝の中にいれて、アルゴン(Ar)雰囲気下で固相焼成し、VPOを合成する。これにフッ化カリウム(KF)を1:1の化学量論比で混合して1時間焼成後、室温(25℃)まで急冷することで、KVPOFが得られる。
【0021】
また、前記式(1)で表される化合物の製造方法の一例として、MがV及びxが1の場合には、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)とリン酸二水素アンモニウム(NHPO)と炭酸カリウム(KCO)とを化学量論比1:1:1の割合で水溶混合し、140℃で脱水乾固させた前駆体を坩堝の中にいれて、アルゴン(Ar)雰囲気下で固相焼成し、前駆体を合成する。得られた前駆体を更に800℃において固相焼成し、ゆっくり冷却することで、KVOPOが得られる。また、800℃において固相焼成の際に、得られた前駆体を銅箔で包むか、又は、得られた前駆体に少量の炭素粉末を混合して固相焼成することが好ましい。
【0022】
(カリウムイオン電池用正極)
本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極は、本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極活物質を含む。
本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極は、本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極活物質以外の他の化合物を含んでいてもよい。
他の化合物としては、特に制限はなく、電池の正極の作製に用いられる公知の添加剤を用いることができる。具体的には、導電助剤、結着剤、集電体等が挙げられる。
また、本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極は、耐久性及び成形性の観点から、本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極活物質、導電助剤、及び、結着剤を含むことが好ましい。
本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極の形状及び大きさは、特に制限はなく、使用する電池の形状及び大きさに合わせ、所望の形状及び大きさとすることができる。
本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極は、カリウムイオン電池における出力及び充放電容量の観点から、前記式(1)で表される化合物を、カリウムイオン電池用正極の全質量に対し、10質量%以上含むことが好ましく、20質量%以上含むことがより好ましく、50質量%以上含むことが更に好ましく、70質量%以上含むことが特に好ましい。
【0023】
<導電助剤>
本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極においては、本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極活物質を、所望の形状に成形し、正極としてそのまま用いてもよいが、正極のレート特性(出力)を向上させるために、本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極は、導電助剤を更に含むことが好ましい。
本実施形態に用いられる導電助剤としては、カーボンブラック類、黒鉛類、カーボンナノチューブ(CNT)、気相成長炭素繊維(VGCF)等の炭素が好ましく挙げられる。
カーボンブラック類としては、アセチレンブラック、オイルファーネス、ケッチェンブラック等が挙げられる。中でも、導電性の観点から、アセチレンブラック及びケッチェンブラックよりなる群から選ばれた少なくとも1種の導電助剤であることが好ましく、アセチレンブラック又はケッチェンブラックであることがより好ましい。
導電助剤は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
正極活物質と導電助剤との混合比は、特に制限はないが、正極における導電助剤の含有量は、正極に含まれる正極活物質の全質量に対し、1質量%~80質量%であることが好ましく、2質量%~60質量%であることがより好ましく、5質量%~50質量%であることが更に好ましく、5質量%~25質量%であることが特に好ましい。上記範囲であると、より高出力の正極が得られ、また、正極の耐久性に優れる。
【0024】
導電助剤と正極活物質との混合方法としては、正極活物質を、不活性ガス雰囲気下で導電助剤と共に混合することにより、正極活物質を導電助剤によりコートすることができる。不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガス等を用いることができ、アルゴンガスを好適に用いることができる。
また、導電助剤と正極活物質とを混合する際に、乾式ボールミルや、少量の水等の分散媒を加えたビーズミル等の粉砕分散処理をしてもよい。粉砕分散処理をすることにより導電助剤と正極活物質との密着性及び分散性を高め、電極密度を上げることができる。
【0025】
<結着剤>
本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極は、成形性の観点から、結着剤を更に含むことが好ましい。
結着剤としては、特に制限はなく、公知の結着剤を用いることができ、高分子化合物が挙げられ、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ゴム状重合体、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂(ポリアミドイミドなど)、及び、セルロースエーテル等が好ましく挙げられる。
結着剤として具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ポリエチレン、芳香族ポリアミド、セルロース、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、その水素添加物、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、その水素添加物、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-α-オレフィン(炭素数2~12)共重合体、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。
【0026】
電極密度を高くするという観点から、結着剤として用いられる化合物の比重は、1.2g/cmより大きいことが好ましい。
また、電極密度を高くし、かつ接着力を高める点から、結着剤の重量平均分子量は、1,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることが更に好ましい。上限は特にないが、200万以下であることが好ましい。
【0027】
結着剤は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
正極活物質と結着剤との混合比は、特に制限はないが、正極における結着剤の含有量は、正極に含まれる正極活物質の全質量に対し、0.5質量%~30質量%であることが好ましく、1質量%~20質量%であることがより好ましく、2質量%~15質量%であることが更に好ましい。上記範囲であると、成形性及び耐久性に優れる。
【0028】
正極活物質と導電助剤と結着剤とを含む正極の製造方法としては、特に制限はなく、例えば、正極活物質と導電助剤と結着剤とを混合して加圧成形を行ってもよいし、また、後述するスラリーを調製して正極を形成する方法であってもよい。
【0029】
<集電体>
本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極は、集電体を更に含んでいてもよい。
集電体としては、ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)等の導電性の材料を用いた箔、メッシュ、エキスパンドグリッド(エキスパンドメタル)、パンチドメタル等が挙げられる。メッシュの目開き、線径、メッシュ数等は特に限定されず、従来公知のものを使用できる。
集電体の形状は、特に制限はなく、所望の正極の形状に合わせて選択すればよい。例えば、箔状、板状等が挙げられる。
【0030】
集電体に正極を形成する方法としては、特に制限はないが、正極活物質と導電助剤と結着剤と有機溶媒又は水とを混合させて正極活物質スラリーを調製し、集電体に塗工する方法が例示できる。有機溶剤としては、N,N-ジメチルアミノプロピリアミン、ジエチルトリアミン等のアミン系;エチレンオキシド、テトラヒドロフラン等のエーテル系;メチルエチルケトン等のケトン系;酢酸メチル等のエステル系、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
調製したスラリーを例えば、集電体上に塗工し、乾燥後プレスする等して固着することにより正極が製造される。こスラリーを集電体上に塗工する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法、静電スプレー法等を挙げることができる。
【0031】
(カリウムイオン電池)
本実施形態に係るカリウムイオン電池は、本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極を備える。
また、本実施形態に係るカリウムイオン電池は、カリウムイオン二次電池として好適に用いることができる。
本実施形態に係るカリウムイオン電池は、本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極、負極、及び、電解質を備えることが好ましい。
【0032】
<負極>
本実施形態に用いられる負極は、負極活物質を含むものであればよく、例えば、負極活物質からなるものや、集電体とその集電体の表面に形成された負極活物質層とを有し、負極活物質層が負極活物質及び結着剤を含むものが挙げられる。
前記集電体としては、特に制限はなく、正極において前述した集電体を好適に用いることができる。
負極の形状及び大きさは、特に制限はなく、使用する電池の形状及び大きさに合わせ、所望の形状及び大きさとすることができる。
【0033】
負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、ハードカーボン、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素材料が挙げられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は、粒子状の凝集体等のいずれでもよい。ここで炭素材料は、導電助剤としての役割を果たす場合もある。
中でも、黒鉛、又は、ハードカーボンが好ましく、黒鉛がより好ましい。
また、負極活物質としては、カリウム金属も好適に用いることができる。
更に、負極としては、国際公開第2016/059907号に記載の負極も好適に用いることができる。
【0034】
本実施形態における黒鉛とは、黒鉛系炭素材料のことをいう。
黒鉛系炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等が挙げられる。天然黒鉛としては、例えば鱗片状黒鉛、塊状黒鉛等が使用可能である。人造黒鉛としては、例えば、塊状黒鉛、気相成長黒鉛、鱗片状黒鉛、繊維状黒鉛等が使用可能である。これらの中でも、充填密度が高い等の理由で、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛が好ましい。また、2種以上の黒鉛が併用されてもよい。
黒鉛の平均粒子径は、上限値として30μmが好ましく、15μmがより好ましく、10μmが更に好ましく、下限値として0.5μmが好ましく、1μmがより好ましく、2μmが更に好ましい。黒鉛の平均粒子径は、電子顕微鏡観察の方法により測定する値である。
黒鉛としては、また、面間隔d(002)が3.354~3.370Å(オングストローム、1Å=0.1nm)であり、結晶子サイズLcが150Å以上であるもの等が挙げられる。
また、本実施形態におけるハードカーボンは、2,000℃以上の高温で熱処理してもほとんど積層秩序が変化しない炭素材料であり、難黒鉛化炭素とも呼ばれる。ハードカーボンとしては、炭素繊維の製造過程の中間生成物である不融化糸を1,000℃~1,400℃程度で炭化した炭素繊維、有機化合物を150℃~300℃程度で空気酸化した後、1,000℃~1,400℃程度で炭化した炭素材料等が例示できる。ハードカーボンの製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法により製造されたハードカーボンを使用することができる。
ハードカーボンの平均粒径、真密度、(002)面の面間隔等は特に限定されず、適宜好ましいものを選択して実施することができる。
【0035】
負極活物質は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
負極活物質層中の負極活物質の含有量は特に限定されないが、80~95質量%であることが好ましい。
【0036】
<電解質>
本実施形態に用いられる電解質としては、電解液、及び、固体電解質のいずれも使用することができる。
電解液は、カリウム塩を主電解質とするものであれば特に限定されない。
カリウム塩としては、水系電解液の場合には、例えば、KClO、KPF、KNO、KOH、KCl、KSO、及び、KS等が挙げられる。これらのカリウム塩は、1種単独で用いることもできるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
また、非水系電解液の場合には、例えば、電解質(例えば、KPF、KBF、CFSOK、KAsF、KB(C、CHSOK、KN(SOCF、KN(SO、KC(SOCF、KN(SOCF等)を、溶媒、例えば、プロピレンカーボネート(PC)を含む電解液として使用することができるが、この他にも、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒に溶解させたものや、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合溶媒に溶解させたもの等を電解液として使用することができる。
これらの中でも、カリウム塩としては、KPFが好ましい。
【0037】
また、電解液の溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、イソプロピルメチルカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタン等のカーボネート類;1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトン等のエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;3-メチル-2-オキサゾリドン等のカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3-プロパンサルトン等の含硫黄化合物;又は前記溶媒に更に水素原子の置換基としてフルオロ基を導入したものを用いることができる。
電解液の溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよいが、2種以上を混合して用いることが好ましい。
これらの中でも、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートよりなる群から選ばれた少なくとも1種の溶媒が好ましく、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートよりなる群から選ばれた少なくとも2種の混合溶媒がより好ましい。
また、電解液中のカリウム塩の濃度は、特に限定されないが、0.1mol/L以上2mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上1.5mol/L以下であることがより好ましい。
【0038】
固体電解質としては、公知の固体電解質を用いることができる。例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖又はポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物等の有機系固体電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解質溶液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものも用いることもできる。
【0039】
<セパレータ>
本実施形態に係るカリウムイオン電池は、セパレータを更に備えることが好ましい。
セパレータは、正極と負極とを物理的に隔絶して、内部短絡を防止する役割を果たす。
セパレータは、多孔質材料からなり、その空隙には電解質が含浸され、電池反応を確保するために、イオン透過性(特に、少なくともカリウムイオン透過性)を有する。
セパレータとしては、例えば、樹脂製の多孔膜の他、不織布などが使用できる。セパレータは、多孔膜の層又は不織布の層だけで形成してもよく、組成や形態の異なる複数の層の積層体で形成してもよい。積層体としては、組成の異なる複数の樹脂多孔層を有する積層体、多孔膜の層と不織布の層とを有する積層体などが例示できる。
【0040】
セパレータの材質は、電池の使用温度、電解質の組成などを考慮して選択できる。
多孔膜及び不織布を形成する繊維に含まれる樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などのポリオレフィン樹脂;ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンサルファイドケトンなどのポリフェニレンサルファイド樹脂;芳香族ポリアミド樹脂(アラミド樹脂など)などのポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂などが例示できる。これらの樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、不織布を形成する繊維は、ガラス繊維などの無機繊維であってもよい。
セパレータは、ガラス、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂よりなる群から選択される少なくとも一種の材質を含むセパレータであることが好ましい。中でも、セパレータとしては、ガラスフィルターがより好ましく挙げられる。
また、セパレータは、無機フィラーを含んでもよい。
無機フィラーとしては、セラミックス(シリカ、アルミナ、ゼオライト、チタニアなど)、タルク、マイカ、ウォラストナイトなどが例示できる。無機フィラーは、粒子状又は繊維状が好ましい。
セパレータ中の無機フィラーの含有量は、10質量%~90質量%であることが好ましく、20質量%~80質量%であることがより好ましい。
セパレータの形状や大きさは、特に限定されず、所望の電池の形状等に合わせて適宜選択すればよい。
【0041】
本実施形態に係るカリウムイオン電池は、電池ケース、スペーサー、ガスケット、及び、板ばね他、構造材料等の要素についても従来リチウムイオン電池並びにナトリウムイオン電池で使用される公知の各種材料を使用することができ、特に制限はない。
本実施形態に係るカリウムイオン電池は、前記電池要素を用いて公知の方法に従って組み立てればよい。この場合、電池形状についても特に制限されることはなく、例えば円筒状、角型、コイン型等種々の形状、サイズを適宜採用することができる。
【0042】
本実施形態に係るカリウムイオン電池の一例としては、図1に示すカリウムイオン電池が挙げられるが、これに限定されないことは言うまでもない。
図1は、本実施形態に係るカリウムイオン電池10の一例を示す模式図である。
図1に示すカリウムイオン電池10は、コイン型電池であり、負極側から順に、負極側の電池ケース12、ガスケット14、負極16、セパレータ18、本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極(正極)20、スペーサー22、板ばね24、及び、正極側の電池ケース26を重ね、電池ケース12及び電池ケース26を嵌め合わせて形成される。
セパレータ18には、電解液(不図示)が含浸されている。
【実施例
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
<KVPF(KVPOF)の合成>
メタバナジン酸アンモニウム(NHVO、アルドリッチ社製)とリン酸二水素アンモニウム(NHPO、和光純薬工業(株)製)とを化学量論比1:1の割合で水溶混合し、140℃で脱水乾固させた前駆体を坩堝の中にいれて、アルゴン(Ar)雰囲気下400℃で8時間、続けて800℃で8時間固相焼成し、VPOを合成した。これにフッ化カリウム(KF、和光純薬工業(株)製)をVPO:KF=1:1の化学量論比で混合して600℃で1時間焼成後、室温(25℃)まで急冷することで、KVPOF(KVPF)を濃紫色の粒子として得た。
得られたKVPOF(KVPF)の算術平均粒子径(2次平均粒径)は、49.7μmであった。
【0045】
(実施例2)
<KVPO(KVOPO)の合成>
メタバナジン酸アンモニウム(NHVO、アルドリッチ社製)とリン酸二水素アンモニウム(NHPO、和光純薬工業(株)製)と炭酸カリウム(KCO、和光純薬工業(株)製)とを化学量論比1:1:1の割合で水溶混合し、140℃で脱水乾固させた前駆体を坩堝の中にいれて、アルゴン(Ar)雰囲気下380℃で2時間固相焼成し、前駆体を合成した。得られた前駆体に、前駆体の全質量に対し、1.5質量%のアセチレンブラック(Strem Chemicals社製)を混合する代わりに、得られた前駆体を銅箔により包んだ以外は、前記と同様にして、KVOPO(KVPO)を茶色の粒子として得た。
得られたKVOPO(KVPO)の算術平均粒子径(2次平均粒径)は、44.3μmであった。
【0046】
(実施例3)
<KVPO/AB(KVOPO)の合成>
KVPOの合成において、得られた前駆体に、前駆体の全質量に対し、1.5質量%のアセチレンブラック(Strem Chemicals社製)を混合して、更に800℃において12時間固相焼成し、ゆっくり冷却することで、KVOPO(KVPO/AB)をこげ茶色の粒子として得た。
得られたKVOPO(KVPO/AB)の算術平均粒子径(2次平均粒径)は、6.7μmであった。
【0047】
なお、前記で得られたKVPOF、及び、2種のKVOPOはそれぞれ、元素分析、X線回折構造解析、及び、ラマンスペクトルを測定し、化学構造を特定した。また、算術平均粒径は、(株)堀場製作所製HORIBA Laser Scattering Particle Size Distribution Analyzer LA-950を使用し、分散媒:水、使用レーザー波長:650nm及び405nmにより測定した。
【0048】
<カリウムイオン電池用正極の作製>
得られたKVPOF又はKVOPOと、アセチレンブラック(AB、電気化学工業(株)製)と、PVDF(ポリフッ化ビニリデン、(株)クレハ製)とを70:25:5の質量比で混合後、又は、得られたKVPOF又はKVOPOと、ケッチェンブラック(KB、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)と、PVDF(ポリフッ化ビニリデン、(株)クレハ製)とを85:10:5の質量比で混合後、アルミニウム箔(宝泉(株)製、厚さ0.017mm)上に塗布したもの作製し、正極とした。アルミニウム箔を含まない正極の形状は、直径10mm、厚さ0.03mm~0.04mmの円筒形状とした。また、アルミニウム箔を含まない正極の質量は、3mg~5mgであった。
【0049】
<充放電測定>
充放電測定は、電解液に0.7M KPF/エチレンカーボネート(EC)-ジエチルカーボネート(DEC)(質量比EC:DEC=1:1)混合溶液(キシダ化学(株)製、電解液A)、又は、1M KPF/エチレンカーボネート(EC)-プロピレンカーボネート(PC)(質量比EC:PC=1:1)混合溶液(電解液B)、負極にカリウム金属(アルドリッチ社製)、セパレータ(ガラスフィルター、宝泉(株)製)、SUS製電池ケース及びポリプロピレン製ガスケット(宝泉(株)製CR2032)、スペーサー(材質:SUS、直径16mm×高さ0.5mm、宝泉(株)製)、及び、板ばね(材質:SUS、内径10mm、高さ2.0mm、厚さ0.25mm、宝泉(株)製ワッシャー)を用いて作製したコインセルにて行った。
電解液の使用量は、セパレータが電解液で十分満たされる量(0.15mL~0.3mL)を使用した。
なお、電解液Bは、東京化成工業(株)製KPF、キシダ化学(株)製エチレンカーボネート、及び、キシダ化学(株)製プロピレンカーボネートを用いて調製した。
【0050】
充放電条件は、充放電電流密度を定電流モードに設定し、室温(25℃)にて測定を行った。各図に記載の正極を用い、充電レートを0.05C(クーロン、1C=133mAh)に設定し、充電電圧を4.5V、4.8V又は5.0Vまで定電流充電を行った。充電後、充電電圧を4.5V、4.8V又は5.0V、放電終止電圧が2.0Vになるまで定電流放電を繰り返し行った。1回の充放電を1サイクルとし、特定のサイクルにおいて測定された可逆容量(Capacity、単位:mAh/g、なお、hはhour(時間)を表す。)を以下及び図1図13に示す。
【0051】
KVPF、アセチレンブラック、及び、電解液Aを使用し、充電電圧4.8V、放電終止電圧2.0Vの条件で充放電測定を行った場合の特定のサイクルにおいて測定された可逆容量は、5サイクル目で71.88mAh/g、50サイクル目で71.68mAh/gであった。
KVPO、アセチレンブラック、及び、電解液Aを使用し、充電電圧4.8V、放電終止電圧2.0Vの条件で充放電測定を行った場合の特定のサイクルにおいて測定された可逆容量は、5サイクル目で73.73mAh/g、25サイクル目で72.05mAh/gであった。
KVPO/AB、アセチレンブラック、及び、電解液Aを使用し、充電電圧4.8V、放電終止電圧2.0Vの条件で充放電測定を行った場合の特定のサイクルにおいて測定された可逆容量は、5サイクル目で69.51mAh/g、50サイクル目で71.29mAh/gであった。
KVPF、アセチレンブラック、及び、電解液Bを使用し、充電電圧4.8V、放電終止電圧2.0Vの条件で充放電測定を行った場合の特定のサイクルにおいて測定された可逆容量は、5サイクル目で71.88mAh/g、50サイクル目で71.68mAh/gであった。
【0052】
KVPF、アセチレンブラック、及び、電解液Aを使用し、充電電圧5.0V、放電終止電圧2.0Vの条件で充放電測定を行った場合の特定のサイクルにおいて測定された可逆容量は、5サイクル目で84.17mAh/g、32サイクル目で84.31mAh/gであった。
KVPO、アセチレンブラック、及び、電解液Aを使用し、充電電圧5.0V、放電終止電圧2.0Vの条件で充放電測定を行った場合の特定のサイクルにおいて測定された可逆容量は、5サイクル目で80.83mAh/g、34サイクル目で80.94mAh/gであった。
KVPO/AB、アセチレンブラック、及び、電解液Aを使用し、充電電圧5.0V、放電終止電圧2.0Vの条件で充放電測定を行った場合の特定のサイクルにおいて測定された可逆容量は、5サイクル目で78.41mAh/g、31サイクル目で79.95mAh/gであった。
KVPF、アセチレンブラック、及び、電解液Bを使用し、充電電圧5.0V、放電終止電圧2.0Vの条件で充放電測定を行った場合の特定のサイクルにおいて測定された可逆容量は、5サイクル目で92.3mAh/g、50サイクル目で80.37mAh/gであった。
【0053】
図2図4図6図8及び図10に、各カリウムイオン電池用正極活物質を用いた場合における5サイクル目までの充放電プロファイルを示す。また、図12及び図13に、各カリウムイオン電池用正極活物質を用いた場合における4サイクル目までの充放電プロファイルを示す。なお、各図の左上に導電助剤が明記されていない場合は、アセチレンブラックを用いた場合の充放電プロファイルであり、電解液が明記されていない場合は、電解液Aを用いた場合の充放電プロファイルである。また、図12においては、充電レートをC/10=0.1Cとして行った。
図2図4図6図8図10図12及び図13の充放電プロファイルの縦軸はカリウムの標準単極電位を基準とした電位(Voltage、単位:V(V vs. K/K))を表し、横軸は容量(Capacity、単位:mAh/g)を表す。
図12に示す場合の特定のサイクルにおいて測定された可逆容量は、1サイクル目で84.08mAh/g、4サイクル目で88.7mAh/gであった。
図13に示す場合の特定のサイクルにおいて測定された可逆容量は、1サイクル目で98.16mAh/g、4サイクル目で98.34mAh/gであった。
また、図5図9及び図11には、サイクル経過における可逆容量の変化を表す図を示す。図5図9及び図11の縦軸は、可逆容量(Capacity、単位:mAh/g)を表し、横軸はサイクル数(Cycle Number)を表す。
【0054】
前記に示すように、本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極活物質を用いることにより、高出力であり、充放電を繰り返しても充放電容量が劣化しにくいカリウムイオン電池が得られた。
【0055】
<充電レートを変化させた場合の充放電測定>
作製したカリウムイオン電池用正極(KVPF、又は、KVPO/AB)を用い、各サイクルにおける充電レートを図14に記載されているように、0.05C~5Cまで変化させた以外は、前記充放電測定と同様にして、測定を行った。測定結果を図14に示す。なお、1サイクル目の充電レートは、0.05Cである。
図14の縦軸は、可逆容量(Capacity、単位:mAh/g)を表し、横軸はサイクル数(Cycle Number)を表す。
また、図15及び図16に、各カリウムイオン電池用正極活物質を用いた場合における充電レートを変化させた場合のサイクル経過における充放電プロファイルを示す。
【0056】
図14に示すように、実施形態に係るカリウムイオン電池用正極活物質を用いることにより、カリウムイオン電池において、充電レートを変化させ、充放電を繰り返しても充放電容量が劣化しにくいことがわかる。
【0057】
(実施例4)
<KVO0.5PO0.5の合成>
メタバナジン酸アンモニウム(NHVO、アルドリッチ社製)とリン酸二水素アンモニウム(NHPO、和光純薬工業(株)製)と炭酸カリウム(KCO、和光純薬工業(株)製)とを化学量論比1:1:0.25の割合で、1質量%の過酸化水素溶液中で、水溶混合し、140℃で脱水乾固させた混合物を坩堝の中にいれて、アルゴン(Ar)ガス雰囲気下で固相焼成し、前駆体を合成した。得られた前駆体に元素組成比がV:P:K:F=1:1:1:0.5になるよう、KFを加え混合したものを銅箔で包み、更に800℃において固相焼成し、ゆっくり冷却することで、KVO0.5PO0.5が得られた。
【0058】
<カリウムイオン電池用正極の作製>
得られたKVO0.5PO0.5と、アセチレンブラック(AB、電気化学工業(株)製)と、PVDF(ポリフッ化ビニリデン、(株)クレハ製)とを70:25:5の質量比で混合後、アルミニウム箔(宝泉(株)製、厚さ0.017mm)上に塗布したもの作製し、正極とした。アルミニウム箔を含まない正極の形状は、直径10mm、厚さ0.03mm~0.04mmの円筒形状とした。また、アルミニウム箔を含まない正極の質量は、3mg~5mgであった。
【0059】
<充放電測定>
電解液Bを使用し、実施例4で得られた前記正極を用い、充電レートを0.05C(クーロン、1C=133mAh)に設定し、充電電圧を5.0Vまで定電流充電を行った。充電後、充電電圧を5.0V、放電終止電圧が2.0Vになるまで定電流放電を繰り返し行った以外は、前記充放電測定と同様にして測定を行った。1回の充放電を1サイクルとし、特定のサイクルにおいて測定された可逆容量(Capacity、単位:mAh/g、なお、hはhour(時間)を表す。)を図17及び図18に示す。
【0060】
実施例4に示すように、本実施形態に係るカリウムイオン電池用正極活物質を用いることにより、高出力であり、充放電を繰り返しても充放電容量が劣化しにくいカリウムイオン電池が得られた。
【0061】
2016年11月25日に出願された日本国特許出願第2016-229130号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び、技術規格は、個々の文献、特許出願、及び、技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0062】
10:カリウムイオン電池、12:電池ケース(負極側)、14:ガスケット、16:負極、18:セパレータ、20:正極、22:スペーサー、24:板ばね、26:電池ケース(正極側)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18