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特許7007539N-アシル化ホモセリンラクトン(AHL)ラクトナーゼ、それを用いた水処理剤及び水処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】N-アシル化ホモセリンラクトン(AHL)ラクトナーゼ、それを用いた水処理剤及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/18 20060101AFI20220203BHJP
   C02F 1/00 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20220203BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
C12N9/18 ZNA
C02F1/00 U
C12N1/20 Z
C12N15/55
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018056739
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019165688
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】飯泉 太郎
(72)【発明者】
【氏名】諸星 知広
【審査官】宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-140787(JP,A)
【文献】特開2013-240762(JP,A)
【文献】特表2005-525849(JP,A)
【文献】特開2018-143107(JP,A)
【文献】MOROHOSHI T. et al.,Journal of Bioscience and Bioengineering,2017年,Vol.123 No.5,p.569-575
【文献】MOROHOSHI T. et al.,Journal of Bioscience and Bioengineering,2015年,Vol.120 No.1,p.1-5
【文献】Accession No. A0A246JQJ3,MBL fold metallo-hydrolase,Database Uniprot [online],2018年02月28日,Retrieved from the Internet, URL:<https://www.uniprot.org/uniprot/A0A246JQJ3.txt?version=5>
【文献】Accession No. Q1GR83, Beta-lactamase-like protein,Database Uniprot [online],2018年02月28日,Retrieved from the Internet, URL:<https://www.uniprot.org/uniprot/Q1GR83.txt?version=67>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/18
C02F 1/00
C12N 1/20
C12N 15/55
C12N 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-アシル化ホモセリンラクトン(AHL)ラクトナーゼを菌体外に分泌する細菌由来のAHLラクトナーゼであって、50℃、10分間の熱処理後の残存活性が80%以上である熱安定性を有するAHLラクトナーゼであって、
配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列との同一性が90%以上のアミノ酸配列を有する、AHLラクトナーゼ。
【請求項2】
前記細菌がスフィンゴピクシス属に属する、請求項1に記載のAHLラクトナーゼ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のAHLラクトナーゼ又は当該AHLラクトナーゼを産生するAHL分解菌を含有する水処理剤。
【請求項4】
請求項に記載の水処理剤を用いる水処理方法。
【請求項5】
さらに水処理機器を併用する請求項に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AHLラクトナーゼ、それを用いた水処理剤及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは、細菌が物質固相表面に付着及び増殖して、多糖類などの高分子有機物を生産することにより形成される。バイオフィルムは、膜状の構造体であり、生物膜やスライムとも呼ばれる。
【0003】
バイオフィルムは、冷却水系などの循環水系において、伝熱効率の低下や配管の目詰まりの要因となることが知られている。また、バイオフィルムは、製紙工程において生産性低下や品質の劣化などの障害(スライム障害)の要因となることが知られ、逆浸透膜(RO膜)を利用した水処理工程においてRO膜のフラックスの低下の要因となることが知られている。
【0004】
上記の循環水系、製紙工程、水処理工程など(以下、まとめて「水処理系」という)においてバイオフィルムに起因する上記の各問題を防止するために、様々な処置方法が考案されている。
【0005】
それら様々な処置方法のうち、最も一般的なものは、殺菌剤や増殖抑制剤を用いて細菌の繁殖を防止する方法である。これら殺菌剤や増殖抑制剤を用いる方法では、従来、塩素、臭素ならびにその派生物、ClMIT(5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンと2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合物)やDBNPA(2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド)といった有機抗菌剤、オゾンや過酸化水素などの酸化性の殺菌剤が利用されている。その他、界面活性剤を利用した分散処理や剥離処理も行われており、これらの方法では、アルキルベンゼンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリエチレンイミンなどが利用されている。
【0006】
また近年、細胞間情報伝達物質がバイオフィルム形成のシグナルとして重要な役割を担っていることが明らかになり、細胞間情報伝達物質を分解してバイオフィルムの形成を抑制する技術開発も進んでいる。
【0007】
細胞間情報伝達物質を分解してバイオフィルムの形成を抑制する技術として、グラム陰性細菌の中で幅広く使われている細胞間情報伝達物質であるN-アシル化ホモセリンラクトン(AHL)に着目した技術が開示されている。
【0008】
具体的には、例えば、水処理プロセスにおいて、磁気微粒子に固定化したAHL分解酵素を用いてバイオフィルムの形成を抑制する方法(非特許文献1)が開示されている。また、系内に導入したAHL分解菌が産生する酵素によりバイオフィルム形成を低減する技術はすでに実験室レベルで実証されている(特許文献1、非特許文献2)。
AHL分解酵素は、ラクトン環を開裂するAHLラクトナーゼと、アシル基を切断するアシラーゼに分類される。
公知のAHL分解酵素の多くは、AHL分解菌がその菌体内に産生する菌体内酵素である。その菌体内酵素で分解されるAHLは、AHL分解菌の菌体内に浸透したAHLに限定され、菌体外に存在するAHLは分解されない。
【0009】
AHL分解菌が産生し菌体外に分泌する菌体外酵素であるAHLラクトナーゼとして、Muricauda olearia由来のAHLラクトナーゼが報告されている(非特許文献3)。このAHLラクトナーゼは、作用最適温度が40℃であり、熱処理後に残存する酵素活性(以下、残存活性ともいう)は、60℃の熱処理後で30%である。
酵素は蛋白質であることから、自然界では、微生物が産生する蛋白質分解酵素によって分解され易く、また、紫外線や熱、あるいは酸化剤等によって失活し易い。産業用途に用いる酵素としては、安定な構造を有するものが要望され、一般には熱に対する安定性(以下、耐熱性)がその指標とされる。
非特許文献3の上記AHLラクトナーゼは、産業用途に用いる酵素としては、耐熱性が不十分である。
【0010】
耐熱性酵素として、Bacillus属細菌が菌体内に産生するAHLラクトナーゼ(非特許文献4)や、Geobacillus caldoxylosilyticusが菌体内に産生するAHLラクトナーゼ(非特許文献5)が知られている。これらの菌株は菌体内酵素であり、その酵素で分解されるAHLはAHL分解菌の菌体内に浸透したAHLに限定され、菌体外に存在するAHLは分解されない。
さらには、耐熱性酵素として、Thermaerobacter marianensisが産生するAHLラクトナーゼであって、蛋白質の分泌に必要なN末端シグナルペプチド様構造を有さないことから菌体内蛋白質とみられるものが報告されている(非特許文献6)。本菌株は70℃を超える生育環境を必要とするため、通常の水処理プロセスでの利用は困難である。
以上のように、これまでに報告されているAHLラクトナーゼの多くは菌体内酵素であり、産業用途に用いる酵素としては適さない。また、菌体外酵素として報告されているAHLラクトナーゼも、耐熱性の観点から、産業用途に用いる酵素としては適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許5850441号明細書
【非特許文献】
【0012】
【文献】Environmental Science & Technology,43巻、7403‐7409頁、2009年
【文献】Environmental Science & Technology, 47巻、836‐842頁、2013年
【文献】Applied Environmental Microbiology, 81巻、774‐782頁、2015年
【文献】Applied Environmental Microbiology, 78巻、1899‐1908頁、2012年
【文献】Bio science, Biotechnology, and Biochemistry, 75巻、1789‐1795頁、2011年
【文献】Journal of Bioscience and Bioengineering, 120巻 、1‐5頁、2015年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、菌体外に分泌され、かつ、産業用途に用いるのに適した耐熱性を備え、通常の水処理プロセスでの利用に適したAHLラクトナーゼ、それを用いた水処理剤及び水処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記のような問題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、本発明者らが分離して寄託済みのスフィンゴピクシス属細菌の産生するAHLラクトナーゼにより、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の[1]~[7]を提供する。
[1]N-アシル化ホモセリンラクトン(AHL)ラクトナーゼを菌体外に分泌する細菌由来のAHLラクトナーゼであって、50℃、10分間の熱処理後の残存活性が80%以上である熱安定性を有するAHLラクトナーゼ。ここで、「AHLラクトナーゼを菌体外に分泌する細菌由来のAHLラクトナーゼ」には、AHL分解菌が産生し菌体外に分泌したAHLラクトナーゼの他に、AHL分解菌の菌体からAHLラクトナーゼ遺伝子を分離後、発現ベクターに連結して、大腸菌等の宿主に導入し、得られた組換え菌を用いて産生させたAHLラクトナーゼも含まれる。
[2]前記細菌がスフィンゴピクシス属に属する、[1]に記載のAHLラクトナーゼ。
[3]配列番号1に記載のアミノ酸配列との同一性が90%以上のアミノ酸配列を有する、[1]又は[2]のAHLラクトナーゼ。
[4]配列番号2に記載のアミノ酸配列との同一性が90%以上のアミノ酸配列を有する、[1]又は[2]のAHLラクトナーゼ。
[5][1]~[4]の何れかに記載のAHLラクトナーゼ又は当該AHLラクトナーゼを産生するAHL分解菌を含有する水処理剤。
[6][5]に記載の水処理剤を用いる水処理方法。
[7]さらに水処理機器を併用する[6]に記載の水処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、菌体外に分泌され、かつ、産業用途に用いるのに適した耐熱性を備え、通常の水処理プロセスでの利用に適したAHLラクトナーゼ、それを用いた水処理剤及び水処理方法を提供することができる。
当該AHLラクトナーゼあるいは当該AHLラクトナーゼを産生するAHL分解菌を水処理系内に導入することにより、水処理系内のAHLを常時分解し、バイオフィルムによる障害を防止することができる。
当該AHLラクトナーゼを利用することにより、従前のAHLラクトナーゼやAHL分解菌を用いる場合と比較して、安定的かつ効率的に、水処理系内のAHLを分解することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のAHLラクトナーゼは、本発明者らが分離して寄託済みのスフィンゴピクシス属細菌であるスフィンゴピクシス属EG6株(以下、EG6株)又はスフィンゴピクシス属FD7株(以下、FD7株)により産生されて菌体外に分泌される菌体外酵素であるAHLラクトナーゼとの同一性が90%以上のアミノ酸配列を有する。
アミノ酸配列の同一性は、ラクトナーゼ遺伝子の塩基配列から蛋白質の一次構造(アミノ酸配列)を求め、相互比較することで判断することができる。相互比較は、一般的に容易に利用可能な配列比較プログラムの補助によって行うことができる。これらの市販のコンピュータプログラムは、2つ以上の配列の間の同一性(%)を計算し得る。
【0017】
EG6株及びFD7株は、2016年9月23日付で、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託した。
受託番号は、以下の通り。
EG6株:NITE P-02355
FD7株:NITE P-02356
【0018】
本発明のAHLラクトナーゼは、EG6株及びFD7株を、30℃前後の温度条件、好ましくは25~30℃で、1/10~1/5濃度のTBS培地やLB培地で培養することにより、産生されて菌体外に分泌される。
【0019】
例えば、EG6株及びFD7株を水処理系に導入し、水処理系で増殖させることで、本発明のAHLラクトナーゼが産生され分泌される環境を作ることができる。
EG6株及びFD7株は、30℃前後の生育環境、好ましくは25~30℃で効率よく増殖させることができる。
本発明のAHLラクトナーゼの作用最適温度は60℃であり、50℃、10分間の熱処理後の残存活性が80%以上である熱安定性を有する。
水処理系に分泌されたAHLラクトナーゼは、水処理系内のAHLを分解してバイオフィルムによる障害を防止する。
EG6株及びFD7株から菌体外に分泌されるAHLラクトナーゼは水処理系内で拡散するため、従来のAHL分解菌がその菌体内に産生する菌体内酵素を利用した処理と比べて、効率の良い処理が可能となる。
【0020】
EG6株及びFD7株の培養液あるいは培養液上澄みを酵素液として利用することもできるし、さらに濃縮や精製を行い、より純化した酵素を標品として得ることもできる。
【0021】
本発明のAHLラクトナーゼは、EG6株及びFD7株からAHLラクトナーゼ遺伝子を分離し、適切な発現ベクターに連結して、大腸菌等の宿主に導入し、得られた組換え菌を用いて産生させることもできる。この場合、宿主の種類によっては、発現した酵素が必ずしも菌体外分泌を示さないケースもあるが、この場合は菌体内やペリプラズムから酵素を分取することができる。
従来のAHL分解菌がその菌体内に産生する菌体内酵素は、AHL分解菌の菌体内に蓄積されるため産生量に限界があるが、本発明のAHLラクトナーゼは、菌体内に蓄積されないため、菌体の細胞に負担がかからず、突然変異等の育種により酵素産生量を大きく増加させることも可能である。
【0022】
AHLラクトナーゼが菌体内に存在するか、菌体外に存在するか(以下、AHLラクトナーゼの局在性ともいう)は、AHLラクトナーゼを産生する菌を液体培地中で培養した培養物を遠心分離或いはろ過によって、菌体と上澄みに分け、どちらの画分にAHLラクトナーゼの酵素活性(以下、AHLラクトナーゼ活性ともいう)が存在するかを確認する従来手法で容易に調べることができる。
【0023】
AHLラクトナーゼ活性は、AHL分ラクトナーゼとAHL標準品を混合して反応させた後、その反応物の残留AHL量から、AHLの分解速度を算出して評価することができる。
AHL量の定量には、HPLCを利用することができる(Applied Environmental Microbiology,76巻、2524-2530頁、2010年)。
【0024】
また、AHLラクトナーゼ活性は、レポーター細菌と呼ばれるクロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceus)の遺伝子組み換え体(AHL合成遺伝子破壊株)を利用した公知の方法によって評価することもできる。
具体的には、レポーター細菌を混合したLB寒天培地にAHLを含むペーパーディスクを置くと、AHLに応答してレポーター細菌は紫色色素(ビオラセイン)を生産することから、紫色の強度を指標としてAHLの量を半定量することができる。未反応のAHLが示す紫色色素の強度に対して、AHLラクトナーゼでの処理により色調がどれだけ低下したかを比較評価することで、分解性を半定量することができる。
こうしたレポーター細菌株としては、短鎖AHL(C4~C8:アシル基の鎖長を示す)に応答するCV026株(Microbiology誌、143巻、3703-3711頁、1997年)や長鎖AHL(C8~C18)に応答するVIR07株(FEMS Microbiol. Lett.誌、279巻、124-130頁、2007年.)を利用することができる。
【0025】
酵素の耐熱性は、熱処理した後の残存活性を指標として求めることができる。本明細書では、50℃、10分間の熱処理後に80%以上の酵素活性が残存する酵素を耐熱性酵素と定義する。
【実施例
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
(AHLラクトナーゼの局在性評価)
実施例1では、EG6株を1/5濃度のTBS培地で30℃の条件下24時間培養した。
実施例2では、FD7株を1/5濃度のTBS培地で30℃の条件下24時間培養した。
比較例1では、Bacills sp.を1/5濃度のTBS培地で30℃の条件下24時間培養した。
比較例2では、Solibacillus silvestris.を1/5濃度のTBS培地で30℃の条件下24時間培養した。
比較例3では、Chryseobacterium sp.を1/5濃度のTBS培地で30℃の条件下24時間培養した。
比較例4では、菌を無添加とした。
培養液は15,000×g 、10分間の遠心分離を行い、菌体と培養上清に分画した。菌体はもとの培養液と等量となるようにPBS緩衝液に懸濁し、超音波破砕によって菌体抽出液を得た。
各画分のAHLラクトナーゼ活性を、レポーター細菌を用いたアッセイにより評価した結果を表1に示す。
前記のように、AHLがAHLラクトナーゼによって分解されるとクロモバクテリウムの色素生産性が低くなり呈色が弱くなる。
【0028】
【表1】
【0029】
表1に示すように、実施例1及び実施例2では、菌体外のAHLラクトナーゼ活性が高いことが確認された。
比較例1~3では、菌体外のAHLラクトナーゼ活性は殆ど認められず、菌体抽出液にAHLラクトナーゼ活性が認められ、菌体内酵素であることが確認された。
【0030】
(AHLラクトナーゼ一次構造の決定)
EG6株及びFD7株からAHLラクトナーゼ遺伝子をクローニングし、得られた遺伝子の塩基配列を基に、AHLラクトナーゼの一次構造を決定した。
さらに上記比較例1~3で用いた3種類のAHLラクトナーゼを含めて、一次構造の比較を行った。比較結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
表2に示すように、EG6株由来のAHLラクトナーゼとFD7株由来のAHLラクトナーゼは一次構造の比較において、81%の同一性を示すことが確認された。
このように、EG6株由来のAHLラクトナーゼとFD7株由来のAHLラクトナーゼは一次構造が非常に似ていたのに対し、他の3種類のAHLラクトナーゼは、EG6株由来のAHLラクトナーゼ及びFD7株由来のAHLラクトナーゼとの同一性が30%以下と低く、一次構造が大きく異なることが確認された。
【0033】
(AHLラクトナーゼの耐熱性)
AHLラクトナーゼC末端に6個のヒスチジン残基(His-tag)を付加するように設計されたDNAプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により合成したEG6株(実施例1)及びFD7株(実施例2)由来のAHLラクトナーゼ遺伝子を、融合蛋白質発現ベクターpMAL-c2X(ニューイングランドバイオラボ社)に連結し、それぞれ大腸菌DH5αに導入した。得られた培養液より調整した菌体抽出液より、His60 Ni Gravity Column Purification Kit(タカラバイオ社)を用いて、His-tag付加AHLラクトナーゼ蛋白質をSDS-PAGEで単一蛋白質として分取した。
Bacills sp.(比較例1)、Solibacillus silvestris.(比較例2)、Chryseobacterium sp. (比較例3)由来のラクトナーゼは、AHLラクトナーゼ遺伝子をPCR合成しpMAL-c2Xに連結し、それぞれ大腸菌DH5αに導入した。各培養液より調整した菌体抽出液より、MBPTrapキット(GEヘルスケア社)を用いて、マルトース結合蛋白-AHLラクトナーゼ融合蛋白質をSDS-PAGEで単一蛋白質として分取した。
なお、発現に用いた各遺伝子は全て塩基配列を解読し、元株の染色体由来の遺伝子配列と同一であることを確認して利用した。
得られた酵素水溶液は、50℃若しくは60℃で10分間熱処理した後、急冷した。
熱処理した酵素水溶液は2mMのC8-ホモセリンラクトン(AHLの1種。以下、C8-HSL)と30℃の温度条件で3分間反応させ、残留するC8-HSL濃度をHPLC(Mightysil PR-18GPカラム)で算出し、残存活性を定量した。定量結果を表3に示す。
【0034】
【表3】
【0035】
表3に示すように、EG6株(実施例1)由来のAHLラクトナーゼでは、50℃で10分間の熱処理後に80%以上の残存活性が確認され、60℃で10分間の熱処理後も80%以上の残存活性が確認された。
FD7株(実施例2)由来のAHLラクトナーゼでは、50℃で10分間の熱処理後に80%以上の残存活性が確認された。
Solibacillus silvestris.(比較例2)、Chryseobacterium sp. (比較例3)由来のAHLラクトナーゼは、何れの温度条件でも残存活性が低く、耐熱性に劣ることが確認された。
Bacills sp.(比較例1)由来のAHLラクトナーゼでは、50℃で10分間の熱処理後に80%以上の残存活性を示し、FD7株同等の耐熱性を有することが示されたが、表1に示したように、Bacills sp.(比較例1)由来のAHLラクトナーゼは、菌体内酵素であるため、水処理系内で使用した場合に水処理系内に拡散させることができず、菌体外酵素を用いた場合のような効率の良い処理を行うことはできない。
【0036】
(AHLラクトナーゼの作用最適温度)
EG6株(実施例1)、FD7株(実施例2)、Bacills sp.(比較例1)、Solibacillus silvestris.(比較例2)、Chryseobacterium sp. (比較例3)由来のAHLラクトナーゼの作用最適温度を求めた。
20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃の各温度条件で、5分間、C8-HSLを分解して、上述の方法でHPLCにより、C8-HSL濃度を求めてAHLラクトナーゼ活性を調べて、AHLラクトナーゼの作用最適温度を評価した。評価結果を表4に示す。
【表4】
【0037】
表4に示すように、EG6株(実施例1)、FD7株(実施例2)由来のAHLラクトナーゼは作用最適温度が60℃であることが確認された。
Bacills sp.(比較例1)、Solibacillus silvestris.(比較例2)、Chryseobacterium sp. (比較例3)由来のAHLラクトナーゼの作用最適温度は、それぞれ、40℃、50℃、40℃であり、EG6株(実施例1)、FD7株(実施例2)由来のAHLラクトナーゼは、熱に対して安定な酵素であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、例えば、冷却水系などの循環水系、或いは製紙工程、或いは逆浸透膜(RO膜)を利用した水処理工程において、バイオフィルムの形成を抑制するために利用することができる。
【配列表】
0007007539000001.app