(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】乳酸菌、乳酸菌発酵食品、血圧調整剤、及び乳酸菌発酵食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20220117BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20220117BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20220117BHJP
A23B 7/155 20060101ALI20220117BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20220117BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20220117BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220117BHJP
A61K 36/8962 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L33/135
A23L19/00 Z
A23B7/155
A61K35/747
A61P9/12
A61P43/00 111
A61K36/8962
(21)【出願番号】P 2017239041
(22)【出願日】2017-12-13
【審査請求日】2020-09-14
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-02550
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-02551
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-02552
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-02553
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-02554
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(74)【復代理人】
【識別番号】100196357
【氏名又は名称】北村 吉章
(73)【特許権者】
【識別番号】501255239
【氏名又は名称】東亜化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】木元 広実
(72)【発明者】
【氏名】守谷 直子
(72)【発明者】
【氏名】大橋 慶丈
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 将宏
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102342504(CN,A)
【文献】特開2006-256969(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102994420(CN,A)
【文献】国際公開第2017/077286(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 - C12N 7/08
A61K 35/00 - A61K 35/768
A61P 1/00 - A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)E19株(受託番号NITE P-02550)、ラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)E31株(受託番号NITE P-02551)、ラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)J11株(受託番号NITE P-02552)、ラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)J41株(受託番号NITE P-02553)、又はラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)361株(受託番号NITE P-02554)であ
り、
タマネギの皮培地で培養したときの生菌数が、8.29(Log cfu/ml)以上である
乳酸菌。
【請求項2】
請求項1に記載のいずれかの乳酸菌
及びタマネギの皮を含有する
乳酸菌発酵食品。
【請求項3】
請求項1
に記載の乳酸菌のうち、ラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)E31株を有効成分とする
血圧調整剤。
【請求項4】
前記有効成分が、アンジオテンシン変換酵素阻害剤である
請求項3に記載の血圧調整剤。
【請求項5】
請求項1に記載のいずれかの乳酸菌を用いてタマネギの皮を発酵させるステップを含むことを特徴とする
乳酸菌発酵食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タマネギの皮を発酵させるのに適した乳酸菌、前記乳酸菌を用いた乳酸菌発酵食品、血圧調整剤、及び乳酸菌発酵食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タマネギの皮は、ケルセチンといった抗酸化物質など多種多様の栄養素を含有していることが知られている。しかしながら、タマネギの皮はそのほとんどが利用されずに廃棄されているのが実情であり、含有している栄養素を有効活用しているとは言い難い。
【0003】
このようなタマネギの皮の利用方法として、例えば、乾燥させて細かくしたタマネギの皮を詰めて茶バックとし、この茶バックを適当な容器に入れて、熱湯などを注ぎ込んで煮出したタマネギの皮茶とすることでタマネギの皮を利用する方法が特許文献1に開示されている。
【0004】
このようにタマネギの皮を煮出したタマネギの皮茶は、タマネギの皮の栄養素が抽出されており、タマネギの皮の活用法として有効であると考えられている。しかし、上記方法で煮出したタマネギの皮茶は苦味や渋味が強く、飲料としては改良が必要であった。
【0005】
一方で、紅茶やウーロン茶などに知られているように、植物の葉などの栄養素を効率的に抽出するとともに飲料として改良する方法として、従来からその植物の葉などを発酵させる方法が知られているが、タマネギの皮を発酵させるのに適した細菌類についてはほとんど発見されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、上述した問題を鑑み、タマネギの皮を発酵させるのに適した乳酸菌、前記乳酸菌により発酵させた乳酸菌発酵食品及び前記乳酸菌を用いて抽出された成分を含有する血圧調整剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、ラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)E19株(受託番号NITE P-02550)、ラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)E31株(受託番号NITE P-02551)、ラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)J11株(受託番号NITE P-02552)、ラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)J41株(受託番号NITE P-02553)、又はラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)361株(受託番号NITE P-02554)であり、タマネギの皮培地で培養したときの生菌数が、8.29(Log cfu/ml)以上である乳酸菌である。
【0009】
またこの発明は、上述の乳酸菌及びタマネギの皮を含有する乳酸菌発酵食品としてもよい。
またこの発明は、上述の乳酸菌を用いてタマネギの皮を発酵させるステップを含むことを特徴とする乳酸菌発酵食品の製造方法としてもよい。
【0010】
上述の乳酸菌を用いて発酵させたタマネギの皮を含有するとは、上述の乳酸菌群を用いて発酵させたタマネギを原材料として含むもののみならず、上述の乳酸菌群を用いて発酵させたタマネギの皮そのものである場合も含む。
【0011】
またこの発明は、上述の乳酸菌のうち、ラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)E31株を有効成分とする血圧調整剤である。
またこの発明の態様として、前記有効成分が、アンジオテンシン変換酵素阻害剤としてもよい。
【0012】
上述の乳酸菌を有効成分とするとは、生菌あるいは死菌である乳酸菌そのものである場合や、例えばその乳酸菌を熱処理して抽出した抽出物などのように、生菌あるいは死菌である乳酸菌から抽出した有効成分を含む。
【0013】
またこの発明は、上述の乳酸菌を用いて発酵させたタマネギの皮から抽出した抽出物である血圧調整剤としてもよい。
またこの発明の態様として、前記抽出物が、アンジオテンシン変換酵素阻害剤である血圧調整剤としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明により、タマネギの皮を発酵させるのに適した乳酸菌、前記乳酸菌により発酵させた乳酸菌発酵食品及び前記乳酸菌を用いて抽出された成分を含有する血圧調整剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の乳酸菌は、ラクトバチラス属(Lactobacillus sp.)に属し、タマネギの皮を発酵させる乳酸菌である。より具体的には、タマネギの皮を発酵させるラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)E19株、E31株、J11株、J41株、361株である。
【0016】
なお、本発明のラクトバチラス・プランタラム(L. plantarum)E19株、E31株、J11株、J41株、361株は、それぞれ平成29年9月28日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターにNITE P-02550(受託番号)、NITE P-02551(受託番号)、NITE P-02552(受託番号)、NITE P-02553(受託番号)、NITE P-02554(受託番号)として寄託されている。
【0017】
本発明の菌株であるラクトバチラス・プランタラム(L. plantarum)E19株、E31株、J11株、J41株、361株は、下記の方法により分離・採集された。すなわち、発酵食品1gを滅菌処理したNaClの濃度0.9%、9mlの食塩水で懸濁し、適当な濃度に希釈した後、0.8%の炭酸カルシウムを添加したMRS(BBL、USA)寒天培地に塗末し、嫌気条件下において30℃で24時間培養した。その後、MRS寒天培地で生育したコロニーのうち、クリアゾーンをつくるコロニーを釣菌した。このようにして分離された菌株は、同定試験及び特性評価試験した後に、15%グリセロールを添加したMRS液体培地にて-80℃で保存した。
【0018】
本発明におけるタマネギの皮とは、タマネギのリン茎の外皮(保護皮)であり、具体的にはタマネギのリン葉の最外層、又は最外層から二枚目ぐらいまでをさす。また、タマネギは、黄タマネギに限らず、白タマネギ、赤タマネギなどのいずれのタマネギであってもよい。なお、本発明においてタマネギのリン葉を乾燥させて用いてもよい。
【0019】
本発明におけるタマネギの皮の発酵において、上述の5種の乳酸菌の菌株は単独で用いても、複数の菌株を混合して用いてもよい。
また、タマネギの皮の発酵は、例えばインキュベータなどを用いて所定の温度で行うことが好ましい。タマネギの皮の発酵温度としては、ラクトバチラス・プランタラムの生育が可能な温度である15~45℃であることが好ましく、25~40℃であることがより好ましい。また、タマネギの皮の発酵条件としては、pH値がpH3.2~8.0であることが好ましく、pH3.9~pH6.6であることがより好ましい。すなわち、酸性下においてタマネギの皮を発酵させることができる乳酸菌である。
【0020】
また本発明におけるタマネギの皮の発酵において、乳酸菌の増殖を補助するものとして、適当なデンプンや糖類などの炭素源の他、アミノ酸、タンパク質、核酸、ビタミン、ミネラルなどの栄養素を添加することができる。
【0021】
具体的には、タマネギの皮の発酵を邪魔しなければ、乳酸菌の増殖を補助する補助物質として、白米や大豆、玄米、麦類などの穀物やこれらを用いた加工品、他の植物などから適宜選択された1種以上の補助物質を添加することができる。
【0022】
本発明にかかる乳酸発酵食品は、固形状のものや、ゲル状のもの、粉末状のもの、粉末をカプセルに充填したもののほか、粉末を成形して所定の形状とした錠剤、タブレットの他、アメ、ゼリーなどとすることでき、またこれらの発酵食品から抽出された飲料や、これらを溶かして液体状にしたものなどが挙げられる。
なお、これらの乳酸発酵食品に含有する発酵組成物中において、乳酸菌は生菌であればよいが、死菌であってもよい。
【0023】
本発明にかかる血圧調整剤は、上述の乳酸菌又は上述の乳酸菌を用いて発酵させたタマネギの皮から抽出した抽出物をそのまま、又は水などで希釈して投与することができる。また、医薬組成物や機能性食品等として用いる場合には、例えば、錠剤やカプセル剤、顆粒剤、粉剤、シロップなどの液剤、吸入剤などの様な経口剤や、点滴剤、注射剤などの剤型とすることができる。なお、これらの各種製剤は、常法に従って主剤に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯臭剤、溶解補助剤、コーティング剤などの製剤技術分野において一般的に用いられる補助剤で製剤化することができる。
【実施例】
【0024】
本発明を、以下の実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0025】
実施例1:本発明に用いられる乳酸菌の培養について
<乳酸菌の前培養>
使用する乳酸菌は、TYG培地に接種して一昼夜前培養した。なお、TYG培地の組成は、0.5%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%コハク酸ナトリウム、1%塩化ナトリウム、1%グルコースである。また、TYG培地で前培養した乳酸菌は、本願発明であるラクトバチラス・プランタラム(L. plantarum)E19株、E31株、J11株、J41株、361株の他、ラクトバチラス・プランタラム(L.
plantarum)D64株、E58株、P11株、Q11株、Q18株、841株、ラクトバチラス・パラプランタラム(L. paraplantarum)I71株、567株、ラクトバチラス・プランタラム(L.
plantarum)JCM1149T株の計14種である。
【0026】
なお、比較例としてタマネギの皮の培養に用いた乳酸菌は全て、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構畜産研究部門に保存してある保存株であり、ラクトバチラス・プランタラム(L. plantarum)JCM1149T株は、理化学研究所より購入した基準株であり、比較のために使用した。
【0027】
<タマネギの皮の発酵試験>
タマネギの皮は、水道水で3回洗浄した後に、乾燥前の質量の5~10質量%となるまで80℃で乾燥させた。次に、乾燥タマネギの皮を約4×4mm片となるように裁断し、オートクレーブを用いて121℃で15分間の高圧滅菌処理を施した。その後、5倍量の滅菌蒸留水を加えた。
【0028】
常法により一晩培養した乳酸菌体を4℃、3000rpmで15分間遠心分離して菌体を集め、滅菌した食塩水(濃度0.9%)で洗浄した後に、同じ濃度の食塩水で懸濁した。このようにして得られた乳酸菌体が1%濃度(v/v)となるようにタマネギの皮培地に接種し、25~30℃で7日間培養した。
【0029】
具体的には、タマネギの皮培地で培養した乳酸菌は、ラクトバチラス・プランタラム(L. plantarum)D64株、E19株、E31株、E58株、J11株、J41株、P11株、Q11株、Q18株、361株、841株、ラクトバチラス・パラプランタラム(L. paraplantarum)I71株、567株の計13種で培養した。
【0030】
培養後、タマネギの皮培地中の乳酸菌の生菌数を測定するため、培養液を滅菌した食塩水(濃度0.9%)で希釈し、MRS寒天培地に塗布し30℃で2日間培養した。このようMRS寒天培地に出現したコロニー数を生菌数として測定した。その結果を表1に示す。なお、生菌数は2つの培養物の平均値±標準誤差で示し、生菌数に付したアルファベットは異なる文字間で有意差があることを示す(P<0.05)。
【0031】
【0032】
(結果)
表1に示すように、タマネギの皮培地中において供試したすべての乳酸菌の生菌数が、107cfu以上となったが、寄託したラクトバチラス・プランタラム(L. plantarum)E19株、E31株、J11株、J41株、361株の5種においては、生菌数が108cfuレベルに増加した。特に、ラクトバチラス・プランタラム(L. plantarum)E31株では他の4株と比べても生菌数が多かった。
【0033】
実施例2:乳酸菌株の性質について
<増殖特性試験>
上述の発酵タマネギの皮において生菌数が多かった5種の乳酸菌(ラクトバチラス・プランタラム(L. plantarum)E19株、E31株、J11株、J41株、361株)及びJCM1149T株について、培養温度を40℃又は45℃とし、MRS液体培地で一日培養し、その増殖を調べた。また、MRS液体培地中の食塩濃度を3%、6%、9%、12%に設定して上記乳酸菌を培養し、その増殖を調べた。その結果を表2に示す。
【0034】
【0035】
(結果)
培養温度を40℃とした場合、全ての菌株において増殖が見られたが、培養温度を45℃とすることで、E31株、J11株、J41株、361株がわずかに増殖するだけにとどまり、E19株、JCM1149T株は増殖しなかった。
【0036】
また、食塩濃度が3%と6%である場合には、全ての菌株において増殖が見られたが、食塩濃度が9%以上では、E19株、J11株、361株、JCM1149T株においてわずかに増殖し、他の菌株(E31株、J41株)では増殖しなかった。
【0037】
このことから、上述の5種の乳酸菌は、常温及び食塩濃度が低い環境下で良好に生育し、高温環境下及びNaCl濃度が高い環境は上述の乳酸菌の生育環境として適していないことが分かる。
【0038】
<糖発酵性試験>
上述の5種の乳酸菌及びJCM1149T株について、培養温度を30℃として、MRS液体培地で一日培養し、培養液を4℃、3000rpmで15分間遠心分離して菌体を集め、滅菌した食塩水(濃度0.9%)で洗浄した後に、同じ濃度の食塩水で懸濁した。本液を所定の濃度に調製し、BD BBL CRYSTAL GP(Becton Dickson and Company)により糖資化性を試験した。
【0039】
(乳酸菌の糖発酵性試験)
BD
BBL CRYSTAL GPを用いた上記乳酸菌の糖発酵性の結果を表3に示す。
【0040】
【0041】
(結果)
これらの糖類に対する資化性は、各菌株によって異なった。具体的には、すべての菌株においてフルクトース存在下で増殖されるが、他の糖類の存在下では増殖の特性が見られなかった。また、これらの菌株は全て他の菌株と異なる糖資化性を有することから、全てが異なる菌株であることが分かる。
【0042】
実施例3:発酵及び未発酵のタマネギの皮の成分について
<タマネギの皮の成分分析>
上述の5種の乳酸菌を用いて、発酵させたタマネギの皮と未発酵のタマネギの皮との有機酸の増減について調べた。
【0043】
(タマネギの皮の発酵方法)
タマネギの皮は、水道水で3回洗浄した後に、乾燥前の質量の5~10質量%となるまで80℃で乾燥させた。次に、乾燥タマネギの皮を約4×4mm片となるように裁断し、オートクレーブを用いて121℃で15分間の高圧滅菌処理を施した。その後、5倍量の滅菌蒸留水を加えた。
【0044】
常法により一晩培養した乳酸菌を4℃、3000rpmで15分間遠心分離して菌体を収集し、滅菌した食塩水(濃度0.9%)で洗浄した後に、同じ濃度の食塩水で懸濁した。タマネギの皮培地に寄託したラクトバチラス・プランタラム(L. plantarum)E19株、E31株、J11株、J41株、361株が1%濃度となるように接種し、25~30℃で7日間培養した。なお、タマネギの皮培地のpH値は3.9付近であった。
【0045】
(有機酸の定量方法)
タマネギの皮に含有する有機酸を抽出する抽出方法は、発酵させた又は未発酵のタマネギの皮培地から培養液を採取し、フィルター滅菌し、高速液体クロマトグラフィ法で有機酸の定量分析をおこなった。
【0046】
高速液体クロマトグラフィは、検出器としてCDD-10Avp(株式会社島津製作所製)を用いるとともに、shim-pack
SCR-102H(株式会社島津製作所製)を備えたHPLC(株式会社島津製作所製)を用い、移動相は5mMのp-トルエンスルホン酸水溶液とした。なお、緩衝液は5mMのp-トルエンスルホン酸及び100μMのEDTAを含む20mMのBis-Tris水溶液を用いた。
【0047】
分析を行った有機酸の種類は、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸であり、得られた有機酸の濃度を表4に示す。なお、有機酸の濃度は2つの培養物を測定した平均値で示し、また数値に付したアルファベットは有機酸ごとに異なる文字間で有意差があることを示す(P<0.05)。
【0048】
【0049】
(結果)
表4によると、すべての菌株においてリンゴ酸が消費されており、また主要な発酵産物は乳酸及び酢酸であった。一方で、クエン酸、コハク酸、ギ酸、プロピオン酸については多くの菌株で発酵による変化がなかった。なお、E19株におけるクエン酸量は未発酵物よりも少なかった。
【0050】
以上の結果から、上述の5種の菌株で発酵させたタマネギの皮は、未発酵のタマネギの皮と比べて乳酸及び酢酸の量が増加している。特に乳酸は、運動後に摂取することで筋肉のグルコーゲンの量を増加させ、体力の向上につながることが報告されている。また、乳酸は脂肪細胞の脂質分解を刺激することから、例えばこれらの菌株で発酵させたタマネギの皮を用いた乳酸発酵食品などでは、肥満を抑制できる。
【0051】
実施例4:発酵及び未発酵のケルセチン量について
(ケルセチン量の分析)
上述のように発酵させたタマネギの皮に含まれているケルセチン量は、以下の方法で測定した。
【0052】
各菌株により発酵させたタマネギの皮を乾燥させるとともに、タマネギの皮0.1gに、80%メタノールを0.6ml加えて、室温で一昼夜浸漬し、懸濁液の上清を回収して、分光光度計(DU-640、Beckman Coulter Inc.)を用いて360nmでの吸光度を測定した。このようにして得られた吸光度から、発酵させたタマネギの皮に含まれているケルセチン濃度を、ケルセチン2水和物(和光純薬工業株式会社)で作成した検量線により算出した。その結果、いずれの菌株についても未発酵物と比べて発酵物中のケルセチン量は有意な差は得られなかった。なお、未発酵物のケルセチン量を100%とすると、E19株で116%、E31株で93.3%、J11株で100%、J41株で87%、361株で106%であった。
【0053】
(結果)
このことから発酵によりタマネギの皮に含まれているケルセチンの量が減少することはないことが分かる。したがって、上述の5種の菌株で発酵させたタマネギの皮を用いた乳酸発酵食品を用いても、未発酵のタマネギの皮と同様にケルセチンを得ることができる。
【0054】
このケルセチンは一般的に、高脂血症・動脈硬化・血栓・高血圧の予防・改善、糖尿病の予防・改善、脂肪の吸収の抑制、アレルギー体質の改善などの多くの効能が報告されており、本願発明でも同様の効果が期待される。
【0055】
実施例5:アンジオテンシン変換酵素(ACE)の阻害特性(以下、「ACE阻害特性」と記載する。)について
<ACE阻害特性試験>
E31株を利用したタマネギ皮の未発酵物、発酵物のACE阻害活性を比較した。
【0056】
(サンプル調製方法)
タマネギの皮の培地のpH値を、3NのNaOHを用いてpH5.0以上に調製した後、ブロックヒータを用いて95℃で15分間熱処理を行った。得られた上澄みを水で40倍に希釈し、ACE-assay kit(Dojindo Laboratories, Kumamoto, Japan)を用いて測定した。
【0057】
(菌体のACE阻害活性試験)
E31株のACE阻害活性については以下のようにして測定した。
E31株を食塩水で2回洗浄した後、蒸留水で100mg(湿菌体)/mLとなるように懸濁した。この懸濁液をブロックヒータを用いて95℃で15分間熱処理を行い、遠心分離機を用いて13000Gで10分間の遠心分離を行い、上澄みを回収した。このようにして得られた熱水抽出物をACE-assay kit(Dojindo Laboratories, Kumamoto, Japan)を用いて測定した。
【0058】
(結果)
E31株を用いて発酵させたタマネギの皮のACE阻害活性は、未発酵のタマネギの皮を比べて統計的に有意に1.2倍高かった。このことから、タマネギの皮をE31株で発酵させることにより、ACE阻害活性を増加させることができる。
また、E31株から得られた熱水抽出物にもACE阻害活性が認められた。
【0059】
以上の結果から、E31株で発酵させたタマネギの皮を用いた発酵食品や、E31株を用いた発酵物を熱加工した食品などには、有効成分としてACE阻害活性を有するため、アンジオテンシン変換酵素阻害剤としての機能を有する。このように、自然食品であるタマネギの皮をE31株で発酵させた発酵食品は、安全に血圧の上昇を抑えることができ、血圧調節剤として機能する。
【0060】
実施例6:発酵させたタマネギの皮の味覚試験について
<味覚試験>
E31株を用いて発酵させたタマネギの皮及び未発酵のタマネギの皮の味覚を、味覚センサーを用いて調べた。
【0061】
(味覚成分の抽出方法)
E31株で発酵させたタマネギの皮及び未発酵のタマネギの皮を水で10倍量に希釈した後に、遠心分離機を用いて2800G、4℃で20分間の遠心分離を行い、得られた水抽出物の上清を味覚センサーSA402(INSENT, Tokyo, Japan)を用いて、酸味(先味)、塩味(先味)、旨味(先味)、苦味(先味)、渋み(先味)、苦味雑味(後味)、旨味コク(後味)、渋みの刺激(後味)8つの観点で分析した。その結果を表5に示す。なお、表5は、1つの培養物について味覚センサーを用いて3回測定した測定値の平均値を示し、表中の『*』はControlである未発酵物であると比較して有意差があったことを示す(P<0.05)。
【0062】
【0063】
(結果)
表5によると、E31株で発酵させたタマネギの皮は、未発酵物に比べて、酸味(先味)が強く、また塩味(先味)、旨味(先味)、苦味雑味(後味)、渋み刺激(後味)が弱くなった。味覚センサーで得られる値において、人間が感知できる数値の差は1.0とされていることから、酸味、塩味、旨味、苦味雑味、渋み刺激において味の違いが検知可能であった。特に、未発酵のタマネギの皮において強かった苦味雑味(後味)、渋み刺激(後味)が低減されているため、味が有意に改善され、飲みやすくなった。
【0064】
このように、上述の乳酸菌を用いてタマネギの皮を発酵させるステップを含む乳酸菌発酵食品の製造方法により発酵させたタマネギの皮を含む乳酸菌発酵食品は、従来の物に比べて味が改善されているため、飲食しやすく、また栄養を効率的に摂取できる。
【0065】
なお、上述の方法では、上述の乳酸菌体が1%濃度(v/v)となるようにタマネギの皮培地に接種し、25~30℃で7日間培養しているが、濃度や培養温度、培養日はこれらに限定する必要はなく、上述の乳酸菌を用いてタマネギの皮を発酵できれば、濃度や培養温度、培養日は適宜変更できる。また、pH値3.9付近に限定されず適宜変更できるが、pH3.2~8.0であることが好ましく、酸性であるpH3.9~pH6.6がより好ましい。