(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】回転子およびそれを備えた回転電気機械
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20220117BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K1/22 A
H02K1/22 Z
(21)【出願番号】P 2018214262
(22)【出願日】2018-11-15
【審査請求日】2019-11-06
【審判番号】
【審判請求日】2020-09-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 能成
(72)【発明者】
【氏名】三箇 義仁
(72)【発明者】
【氏名】真田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】森本 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】井上 征則
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】田合 弘幸
【審判官】熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-296685(JP,A)
【文献】特開2013-81302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/00-1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に並んだ3つ以上の貫通孔(25)からなる貫通孔群(100)が所定の磁極に形成されたコア部(21)を備えた回転子(20)であって、
上記3つ以上の貫通孔(25)は、上記回転子(20)の軸心(O)に向かって凸となる円弧状の領域に沿って配置され、
上記コア部(21)に設けられ、上記貫通孔群(100)に含まれる隣接する上記貫通孔(25)の間に位置する2つ以上のリブ(24)を備え、
上記2つ以上のリブ(24)には、上記周方向における上記磁極の中心と上記回転子(20)の上記軸心(O)とを通る直線を磁極中心線(MC)として、該磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が互いに異なる少なくとも2つのリブ(24)が含まれ、
上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に小さい上記リブ(24)の方が、上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に大きい上記リブ(24)よりも幅狭であ
り、
上記2つ以上のリブ(24)のうちのいずれかのリブ(24)を示す任意リブについての、上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)は、上記磁極中心線(MC)上の任意の点と上記任意リブの中心とを結んだ直線と、上記磁極中心線(MC)とがなす角度(θ)を示し、
上記2つ以上のリブ(24)のうち上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に小さいリブ(24)ほど磁極中心線(MC)に対して相対的に平行に延びる
ことを特徴とする回転子。
【請求項2】
請求項1において、
上記2つ以上の
リブ(24)は、上記周方向における上記磁極中心線(MC)との距離(L)が相対的に小さい近傍リブ(24-1)と、上記周方向における上記磁極中心線(MC)との距離(L)が相対的に大きい離間リブ(24-2,24-3)とを含み、
上記近傍リブ(24-1)の上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ1)は、上記離間リブ(24-2,24-3)の上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ2,θ3)よりも小さく、
上記近傍リブ(24-1)の方が、上記離間リブ(24-2,24-3)よりも幅狭である
ことを特徴とする回転子。
【請求項3】
請求項1または2において、
上記貫通孔(25)における上記リブ(24)に隣接する部分をリブ隣接部(25a)として、各上記貫通孔(25)の上記リブ隣接部(25a)にR面取りが形成されており、
上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に小さい上記リブ(24)に隣接する上記リブ隣接部(25a)の上記R面取りの寸法(R)は、上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に大きい上記リブ(24)に隣接する上記リブ隣接部(25a)の上記R面取りの寸法(R)よりも小さい
ことを特徴とする回転子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項において、
上記貫通孔群(100)は、上記磁極中心線(MC)に関して略対称に配置された4以上の偶数個の上記貫通孔(25)からなり、
上記2つ以上の
リブ(24)は、上記磁極中心線(MC)上に位置する中心リブ(24-1)を含む
ことを特徴とする回転子。
【請求項5】
請求項1において、
上記2つ以上の
リブ(24)は、上記磁極中心線(MC)に対して略平行に延びる平行リブ(24-1)と、上記磁極中心線(MC)に対して傾斜して延びる傾斜リブ(24-2,24-3)とを含み、
上記平行リブ(24-1)の方が、上記傾斜リブ(24-2,24-3)よりも幅狭である
ことを特徴とする回転子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項において、
上記3つ以上の
貫通孔(25)の一部または全部に、永久磁石(26)が配置されている
ことを特徴とする回転子。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の回転子(20)と、
上記回転子(20)の径方向外側に設けられる固定子(10)とを備える
ことを特徴とする回転電気機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転子およびそれを備えた回転電気機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の貫通孔からなる貫通孔群が形成されたコア部を備えた回転子が知られている(例えば、特許文献1)。同文献の回転子のコア部は、貫通孔の間に位置するリブを有しており、各リブの幅は、互いに実質的に等しくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コア部のリブには、回転子が回転する場合に、貫通孔群よりも径方向外側の部分に働く遠心力に起因する力が作用する。各リブは、そのような力を受けて破損することがないよう必要十分な寸法に設計される必要がある。
【0005】
本開示の目的は、回転子のリブの寸法を最適化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様は、周方向に並んだ3つ以上の貫通孔(25)からなる貫通孔群(100)が所定の磁極に形成されたコア部(21)を備えた回転子(20)を対象とする。上記3つ以上の貫通孔(25)は、上記回転子(20)の軸心(O)に向かって凸となる円弧状の領域に沿って配置される。この回転子(20)は、上記コア部(21)に設けられ、上記貫通孔群(100)に含まれる隣接する上記貫通孔(25)の間に位置する2つ以上のリブ(24)を備える。上記2つ以上のリブ(24)には、上記周方向における上記磁極の中心と上記回転子(20)の軸心(O)とを通る直線を磁極中心線(MC)として、該磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が互いに異なる少なくとも2つのリブ(24)が含まれる。上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に小さい上記リブ(24)の方が、上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に大きい上記リブ(24)よりも幅狭である。
【0007】
ここで、本願発明者は、所定の磁極において、貫通孔群(100)の径方向外側の部分に働く遠心力が磁極中心線(MC)と実質的に平行に当該磁極内のリブ(24)に作用することと、リブ(24)の磁極中心線に対する傾き(θ)が小さくなるにつれて、当該遠心力に起因して当該リブ(24)に作用する曲げ方向の力が小さくなることとを見出した。さらに、本願発明者は、リブ(24)に作用する曲げ方向の力が小さいほど、当該リブ(24)を幅狭に設計しても強度設計上の問題がないことを見出した。
【0008】
そこで、第1の態様では、所定の磁極において、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に小さいリブ(24)を、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に大きいリブ(24)よりも幅狭に設計している。前者のリブ(24)の方が、後者のリブ(24)よりも遠心力に起因して作用する曲げ方向の力が小さく、幅狭に設計しても強度設計上の問題が生じないためである。このように所定のリブ(24)をできるだけ幅狭に設計することにより、回転子(20)のリブ(24)の寸法を必要十分なものにして最適化することができる。
【0009】
なお、本明細書において、磁極中心線(MC)に対するリブ(24)の「傾き」とは、
図5に示すように、当該リブ(24)の中心線(CL)(すなわち、当該リブ(24)に隣接する2つの貫通孔(25)の中間を通る直線)と磁極中心線(MC)とがなす角度(θ)を意味する。また、本明細書において、リブ(24)の「幅」とは、当該リブ(24)の最短の長さ(W)を意味する。より具体的に、リブ(24)の「幅」とは、
図5に示すように、当該リブ(24)の中心線(CL)に直交する方向における当該リブ(24)の最短の長さ(W)であってもよいし、当該リブ(24)に隣接する2つの貫通孔(25)の端が互いに平行に形成されている場合には、その端の中間を通る直線の中心線(CL)に直交する方向における当該リブ(24)の最短の長さ(W)であってもよい。
【0010】
本開示の第2の態様は、上記第1の態様において、2つ以上の上記リブ(24)は、上記周方向における上記磁極中心線(MC)との距離(L)が相対的に小さい近傍リブ(24-1)と、上記周方向における上記磁極中心線(MC)との距離(L)が相対的に大きい離間リブ(24-2,24-3)とを含み、上記近傍リブ(24-1)の上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ1)は、上記離間リブ(24-2,24-3)の上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ2,θ3)よりも小さく、上記近傍リブ(24-1)の方が、上記離間リブ(24-2,24-3)よりも幅狭であることを特徴とする。
【0011】
第2の態様では、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ1)が相対的に小さい近傍リブ(24-1)の方が、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ2,θ3)が相対的に大きい離間リブ(24-2,24-3)よりも幅狭に設計される。換言すると、遠心力に起因して作用する曲げ方向の力が相対的に小さい近傍リブ(24-1)の方が、同様の曲げ方向の力が相対的に大きい離間リブ(24-2,24-3)よりも幅狭に設計される。これにより、近傍リブ(24-1)および離間リブ(24-2,24-3)の寸法を必要十分なものにして最適化することができる。
【0012】
なお、本明細書において、周方向における磁極中心線(ML)との「距離」とは、
図5に示すように、磁極中心線(ML)からリブ(24)の長手方向および幅方向の中心までの周方向距離(L)のことを意味する。
【0013】
本開示の第3の態様は、上記第1または第2の態様において、上記貫通孔(25)における上記リブ(24)に隣接する部分をリブ隣接部(25a)として、各上記貫通孔(25)の上記リブ隣接部(25a)にR面取りが形成されており、上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に小さい上記リブ(24)に隣接する上記リブ隣接部(25a)の上記R面取りの寸法(R)は、上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に大きい上記リブ(24)に隣接する上記リブ隣接部(25a)の上記R面取りの寸法(R)よりも小さいことを特徴とする。
【0014】
第3の態様では、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に小さいリブ(24)が、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に大きいリブ(24)と比較して、幅狭に設計されることに加えて、その中心線(CL)に沿う方向である長手方向の広い範囲にわたって幅狭に設計される。なぜなら、リブ(24)のうち、リブ隣接部(25a)のR面取りが形成された部分に隣接する部分はその他の部分よりも幅広になるところ、前者のリブ(24)は、後者のリブ(24)よりも、そのように幅広になる範囲が小さくなるためである。これにより、相対的に小さな曲げ方向の力が作用する前者のリブ(24)の寸法をより一層最適化することができる。
【0015】
なお、本明細書において「R面取り」とは、交差する面の部分を丸めた形状にすることを意味する。
【0016】
本開示の第4の態様は、上記第1~第3の態様のいずれか1つにおいて、上記貫通孔群(100)は、上記磁極中心線(MC)に関して略対称に配置された4以上の偶数個の上記貫通孔(25)からなり、2つ以上の上記リブ(24)は、上記磁極中心線(MC)上に位置する中心リブ(24-1)を含むことを特徴とする。
【0017】
第4の態様では、貫通孔群(100)の径方向外側の部分の質点が、中心リブ(24-1)の中心線(CL)上(すなわち、磁極中心線(MC)上)に位置する。このため、当該質点に働く遠心力に起因して中心リブ(24-1)に作用する曲げ方向の力が極めて小さくなる。それにより、磁極中心線(MC)上以外の位置に中心リブ(24-1)を設ける場合に比べて、中心リブ(24-1)の幅を狭くすることができ、よって中心リブ(24-1)を経由する磁束漏れ(すなわち、トルク発生に寄与しない磁束の発生)を抑制することができる。
【0018】
なお、本明細書において、「略」対称であるとは、磁極中心線(MC)に関して厳密に対称である場合のみでなく、製造誤差に起因して磁極中心線(MC)に関してわずかに非対称である場合をも含むことを意味する。
【0019】
本開示の第5の態様は、上記第1の態様において、2つ以上の上記リブ(24)は、上記磁極中心線(MC)に対して略平行に延びる平行リブ(24-1)と、上記磁極中心線(MC)に対して傾斜して延びる傾斜リブ(24-2,24-3)とを含み、上記平行リブ(24-1)の方が、上記傾斜リブ(24-2,24-3)よりも幅狭であることを特徴とする。
【0020】
第5の態様では、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ1)が相対的に、さらには非常に小さい平行リブ(24-1)の方が、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ2,θ3)が相対的に大きい傾斜リブ(24-2,24-3)よりも幅狭に設計される。平行リブ(24-1)の方が、傾斜リブ(24-2,24-3)よりも、遠心力に起因して作用する曲げ方向の力が小さいためである。このような寸法設計により、平行リブ(24-1)および傾斜リブ(24-2,24-3)の寸法を必要十分なものにして最適化することができる。
【0021】
なお、本明細書において、「略」平行であるとは、磁極中心線(MC)とリブ(24)の中心線(CL)とがなす角度(θ)が5°未満であることを意味し、「傾斜」しているとは、磁極中心線(MC)とリブ(24)の中心線(CL)とがなす角度(θ)が5°以上であることを意味する。また、本明細書において、リブ(24)が「延びる」方向とは、リブ(24)の中心線(CL)が延びる方向を意味する。
【0022】
本開示の第6の態様は、上記第1~第5の態様のいずれか1つにおいて、3つ以上の上記貫通孔(25)の一部または全部に、永久磁石(26)が配置されていることを特徴とする。
【0023】
第6の態様では、永久磁石(26)の磁束を効率的に利用することができる。なぜなら、リブ(24)の幅寸法が強度設計上、必要最低限の寸法に設計され、これにより永久磁石(26)の磁束がリブ(24)を経由して回転子(20)内で短絡しにくくなっているためである。
【0024】
本開示の第7の態様は、回転電気機械(1)を対象とする。この回転電気機械(1)は、上記第1~第6の態様のいずれか1つの回転子(20)と、上記回転子(20)の径方向外側に設けられる固定子(10)とを備える。
【0025】
第7の態様では、回転電気機械(1)は、インナーロータ型の回転電気機械となる。そして、回転電気機械(1)が備える回転子(20)のリブ(24)が、強度設計上、必要十分な寸法に設計されているため、高速回転(例えば、10,000~15,000rpm以上)での運転を行っても遠心力に起因する回転子(20)の破損が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、実施形態の電動機を示す平面図である。
【
図2】
図2は、回転子を構成するコア部材を示す平面図である。
【
図3】
図3は、回転子における1つの磁極に対応する貫通孔群を示す部分平面図である。
【
図4】
図4は、その他の実施形態の回転子における1つの磁極に対応する貫通孔群を示す部分平面図である。
【
図5】
図5は、貫通孔およびリブに関連する寸法などについて説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
実施形態について説明する。本実施形態の電動機(1)は、回転電気機械の一例であって、埋込磁石型の電動機として構成されている。以下、電動機(1)の構成について説明する。
【0028】
図1に示すように、電動機(1)は、固定子(10)と、回転子(20)と、駆動軸(30)とを備える。なお、以下の説明において、軸方向とは駆動軸(30)の軸心の方向を、径方向とは軸方向と直交する方向をそれぞれ意味する。外周側とは軸心から遠離する側を、内周側とは軸心に近接する側をそれぞれ意味する。
【0029】
〈固定子〉
固定子(10)は、円筒状の固定子コア(11)と、コイル(図示せず)とを備える。
【0030】
固定子コア(11)は、プレス加工機によって電磁鋼板を打抜加工して形成した複数の板状部材が軸方向に積層されて構成されている。すなわち、固定子コア(11)は、いわゆる積層コアである。なお、固定子コア(11)は、例えば圧粉磁心によって構成されていてもよい。
【0031】
固定子コア(11)は、1つのバックヨーク部(12)と、複数のティース(13)と、ティース(13)と同数のツバ部(14)とを備える。
【0032】
バックヨーク部(12)は、固定子コア(11)の外周側の、平面視で環状の部分である。また、各ティース(13)は、固定子コア(11)において径方向に延びる直方体状の部分である。各ティース(13)には、例えば分布巻方式で上記コイルが巻回される。相互に隣接するティース(13)間の空間が当該コイルを収容するためのコイル用スロット(15)として機能する。以上により、各ティース(13)には電磁石が構成されている。なお、コイルは、集中巻方式でティース(13)に巻回されてもよい。
【0033】
ツバ部(14)は、各ティース(13)の内周側に連続して両側に張り出した部分である。したがって、ツバ部(14)は、ティース(13)よりも幅(周方向の長さ)が大きく形成されている。ツバ部(14)は、内周側の面が円筒面であり、その円筒面は、回転子(20)の外周面(円筒面)と所定の距離(エアギャップ)をもって対向している。
【0034】
〈回転子〉
回転子(20)は、回転子コア(21)と、複数の永久磁石(26)とを備える。回転子(20)では、これらの永久磁石(26)によって8つの磁極が形成されている。これらの永久磁石(26)は、全て同形状になっている。これらの永久磁石(26)は、例えば焼結磁石によって構成される。この例の永久磁石(26)は、希土類元素を用いたいわゆる希土類磁石である。永久磁石(26)は、回転子コア(21)を軸方向に貫通している。回転子コア(21)は、コア部を構成している。
【0035】
回転子コア(21)は、プレス加工機によって例えば厚さが0.1~0.5mmの電磁鋼板を打抜加工して形成したコア部材(22)が、軸方向に多数枚積層されて円筒状に構成されている。すなわち、回転子コア(21)は、いわゆる積層コアである。なお、回転子コア(21)は、例えば高張力電磁鋼板、ケイ素含有率6.5%のシリコン鋼板、または圧粉磁心によって構成されていてもよい。
【0036】
この回転子コア(21)は、その中心に軸穴(23)が形成されている。軸穴(23)には、負荷(例えば、空調装置のロータリ式圧縮機)を駆動するための駆動軸(30)が締まり嵌め(例えば、焼き嵌め)によって固定されている。したがって、回転子コア(21)の軸心(O)(すなわち、回転子(20)の軸心(O))と駆動軸(30)の軸心とは同軸上に存在する。
【0037】
また、コア部材(22)には、複数の貫通孔(25)が形成されている。これらの貫通孔(25)は、永久磁石(26)を収容する磁石用スロットを形成する。なお、
図1からわかるように、各貫通孔(25)は、永久磁石(26)を挿入した状態で、必要に応じて空隙ができるようにその形状が定められている。
【0038】
図2および
図3に示すように、コア部材(22)には、磁極毎に、周方向に並んだ複数の貫通孔(25)からなる貫通孔群(100)が、径方向に多層(この例では、2層)に形成されている。各層の貫通孔群(100)は、回転子(20)の軸心(O)に向かって凸となる円弧状の領域に沿って配置されている。なお、
図3では、各貫通孔(25)や各貫通孔群(100)などを識別するために、参照符号の末尾に枝番を付してある(例えば、25-1、25-2、100-1など)。
【0039】
図3に示すように、1つの磁極には、2つ(2層ともいう)の貫通孔群(100)がある。外周側の層の貫通孔群(100-2)は、2つの貫通孔(25-5,25-6)によって形成されている。また、内周側の層の貫通孔群(100-1)は、4つの貫通孔(25-1,25-2,25-3,25-4)によって形成されている。内周側の層の貫通孔群(100-1)を構成する4つの貫通孔(25-1,25-2,25-3,25-4)は、周方向における磁極の中心と回転子(20)の軸心(O)とを通る直線を磁極中心線(MC)として、この磁極中心線(MC)に関して対称に配置されている。
【0040】
コア部材(22)では、各貫通孔群(100)における互いに対向した2つの貫通孔(25)の間にリブ(24)が形成されている。ここで、各リブ(24)の幅は、当該リブ(24)における磁束漏れ(すなわち、トルク発生に寄与しない磁束の発生)を小さくするという観点からは、できるだけ狭いことが望ましい。一方、各リブ(24)の幅は、電動機(1)の運転時に回転子コア(21)に作用する遠心力に耐え得る強度を確保するという観点からは、できるだけ広いことが望ましい。
【0041】
本実施形態では、リブ(24)の幅をできるだけ狭くしつつ、当該リブ(24)の十分な強度を確保できるように、各リブ(24)の構成などに工夫を加えてある。この点について、以下に説明する。
【0042】
図3に示すように、コア部材(22)における内周側の層の貫通孔群(100-1)では、当該貫通孔群(100-1)を構成する4つの貫通孔(25-1,25-2,25-3,25-4)の間にそれぞれリブ(24-1,24-2,24-3)が存在する。これら3つのリブ(24-1,24-2,24-3)は、1つの中心リブ(24-1)と、2つの離間リブ(24-2,24-3)とを含む。
【0043】
中心リブ(24-1)は、磁極中心線(MC)上に位置している。中心リブ(24-1)は、磁極中心線(MC)に対して平行に延びている。中心リブ(24-1)は、離間リブ(24-2,24-3)よりも幅狭である。中心リブ(24-1)の幅は、離間リブ(24-2,24-3)の幅の1/2~1/5程度であることが好ましい。例えば、外径128mmのコア部材(22)の中心リブ(24-1)の幅は0.5~1.5mm程度、離間リブ(24-2,24-3)の幅は1.5~5.0mm程度であることが望ましい。中心リブ(24-1)の幅は、コア部材(22)の厚みの2倍以上であることが好ましい。中心リブ(24-1)は、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ1)(すなわち、実質的に0°)が相対的に小さいリブを構成しかつ平行リブを構成している。また、中心リブ(24-1)は、近傍リブを構成している。
【0044】
各離間リブ(24-2,24-3)は、磁極中心線(MC)から離間して位置している。換言すると、各離間リブ(24-2,24-3)は、周方向における磁極中心線(MC)との距離(L2,L3)が、中心リブ(24-1)における同様の距離(L1)(すなわち、実質的にゼロ)よりも大きい。2つの離間リブ(24-2,24-3)は、磁極中心線(MC)に関して対称形になっている。各離間リブ(24-3,24-3)は、磁極中心線(MC)に対して傾斜して延びている。換言すると、各離間リブ(24-2,24-3)は、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ2,θ3)が、中心リブ(24-1)の同様の傾き(θ1)よりも大きい。離間リブ(24-2,24-3)は、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ2,θ3)が相対的に大きいリブを構成しかつ傾斜リブを構成している。
【0045】
また、コア部材(22)における内周側の層の貫通孔群(100-1)では、各貫通孔(25)におけるリブ(24)に隣接する部分をリブ隣接部(25a)として、各貫通孔(25)のリブ隣接部(25a)にR面取りが形成されている。そして、中心リブ(24-1)のR面取りの寸法(R1)は、離間リブ(24-2,24-3)のR面取りの寸法(R2,R3)よりも小さい。
【0046】
一方、外周側の層の貫通孔群(100-2)では、当該貫通孔群(100-2)を構成する2つの貫通孔(25-5,25-6)の間にリブ(24-4)が存在する。このリブ(24-4)は、磁極中心線(MC)上に位置している。このリブ(24-4)は、上記中心リブ(24-1)よりも幅狭であることが好ましい。また、このリブ(24-4)の幅は、コア部材(22)の厚みの2倍以上であることが好ましい。
【0047】
なお、回転子コア(21)が、電磁鋼板を打抜加工して形成したコア部材(22)を軸方向に多数枚積層してなる場合、それぞれの電磁鋼板について、上記構成を満たしていても同様の効果が得られる。
【0048】
-実施形態の効果-
本実施形態の回転子(20)は、周方向に並んだ4つの貫通孔(25)からなる貫通孔群(100-1)が全ての磁極に形成された回転子コア(21)を備え、上記回転子コア(21)に設けられ、上記貫通孔(25)の間に位置する3つのリブ(24)を備え、上記周方向における上記磁極の中心と上記回転子(20)の軸心(O)とを通る直線を磁極中心線(MC)として、該磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に小さい上記リブ(24)の方が、上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に大きい上記リブ(24)よりも幅狭である。
【0049】
ここで、本願発明者は、所定の磁極において、貫通孔群(100)の径方向外側の部分に働く遠心力が磁極中心線(MC)と実質的に平行に当該磁極内のリブ(24)に作用することと、リブ(24)の磁極中心線に対する傾き(θ)が小さくなるにつれて、当該遠心力に起因して当該リブ(24)に作用する曲げ方向の力が小さくなることとを見出した。さらに、本願発明者は、リブ(24)に作用する曲げ方向の力が小さいほど、当該リブ(24)を幅狭に設計しても強度設計上の問題がないことを見出した。
【0050】
そこで、本実施形態では、全ての磁極において、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に小さいリブ(24)を、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に大きいリブ(24)よりも幅狭に設計している。前者のリブ(24)の方が、後者のリブ(24)よりも遠心力に起因して作用する曲げ方向の力が小さく、幅狭に設計しても強度設計上の問題が生じないためである。このように所定のリブ(24)をできるだけ幅狭に設計することにより、回転子(20)のリブ(24)の寸法を必要十分なものにして最適化することができる。
【0051】
さらに、本実施形態によると、回転子(20)の各リブ(24)の幅寸法を必要最低限なものにし、よって回転子(20)の磁気的特性を向上させることができる。なぜなら、リブ(24)が幅広になるほど当該リブ(24)を経由する磁束漏れ(すなわち、トルク発生に寄与しない磁束の発生)が増大するところ、そのような磁束漏れを抑制することができるためである。換言すると、本実施形態によると、回転子(20)のリブ(24)に対して、強度的設計および磁気的設計の両方を最適化することができる。
【0052】
また、本実施形態の回転子(20)は、3つの上記リブ(24)が、上記周方向における上記磁極中心線(MC)との距離(L)が相対的に小さい近傍リブ(24-1)と、上記周方向における上記磁極中心線(MC)との距離(L)が相対的に大きい離間リブ(24-2,24-3)とを含み、上記近傍リブ(24-1)の上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ1)が、上記離間リブ(24-2,24-3)の上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ2,θ3)よりも小さく、上記近傍リブ(24-1)の方が、上記離間リブ(24-2,24-3)よりも幅狭である。したがって、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ1)が相対的に小さい近傍リブ(24-1)の方が、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ2,θ3)が相対的に大きい離間リブ(24-2,24-3)よりも幅狭に設計される。換言すると、遠心力に起因して作用する曲げ方向の力が相対的に小さい近傍リブ(24-1)の方が、同様の曲げ方向の力が相対的に大きい離間リブ(24-2,24-3)よりも幅狭に設計される。これにより、近傍リブ(24-1)および離間リブ(24-2,24-3)の寸法を必要十分なものにして最適化することができる。
【0053】
また、本実施形態の回転子(20)は、上記貫通孔(25)における上記リブ(24)に隣接する部分をリブ隣接部(25a)として、各上記貫通孔(25)の上記リブ隣接部(25a)にR面取りが形成されており、上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に小さい上記リブ(24)に隣接する上記リブ隣接部(25a)の上記R面取りの寸法(R)が、上記磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に大きい上記リブ(24)に隣接する上記リブ隣接部(25a)の上記R面取りの寸法(R)よりも小さい。したがって、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に小さいリブ(24)が、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ)が相対的に大きいリブ(24)と比較して、幅狭に設計されることに加えて、その中心線(CL)に沿う方向である長手方向の広い範囲にわたって幅狭に設計される。なぜなら、リブ(24)のうち、リブ隣接部(25a)のR面取りが形成された部分に隣接する部分はその他の部分よりも幅広になるところ、前者のリブ(24)は、後者のリブ(24)よりも、そのように幅広になる範囲が小さくなるためである。これにより、相対的に小さな曲げ方向の力が作用する前者のリブ(24)の寸法をより一層最適化することができる。
【0054】
また、本実施形態の回転子(20)は、上記貫通孔群(100)が、上記磁極中心線(MC)に関して略対称に配置された4つの上記貫通孔(25)からなり、3つの上記リブ(24)が、上記磁極中心線(MC)上に位置する中心リブ(24-1)を含む。したがって、貫通孔群(100)の径方向外側の部分の質点が、中心リブ(24-1)の中心線(CL)上(すなわち、磁極中心線(MC)上)に位置する。このため、当該質点に働く遠心力に起因して中心リブ(24-1)に作用する曲げ方向の力が極めて小さくなる。それにより、磁極中心線(MC)上以外の位置に中心リブ(24-1)を設ける場合に比べて、中心リブ(24-1)の幅を狭くすることができ、よって中心リブ(24-1)を経由する磁束漏れを抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態の回転子(20)は、3つの上記リブ(24)が、上記磁極中心線(MC)に対して略平行に延びる平行リブ(24-1)と、上記磁極中心線(MC)に対して傾斜して延びる傾斜リブ(24-2,24-3)とを含み、上記平行リブ(24-1)の方が、上記傾斜リブ(24-2,24-3)よりも幅狭である。したがって、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ1)が相対的に、さらには非常に小さい平行リブ(24-1)の方が、磁極中心線(MC)に対する傾き(θ2,θ3)が相対的に大きい傾斜リブ(24-2,24-3)よりも幅狭に設計される。平行リブ(24-1)の方が、傾斜リブ(24-2,24-3)よりも、遠心力に起因して作用する曲げ方向の力が小さいためである。このような寸法設計により、平行リブ(24-1)および傾斜リブ(24-2,24-3)の寸法を必要十分なものにして最適化することができる。
【0056】
また、本実施形態の回転子(20)は、4つの上記貫通孔(25)の全部に、永久磁石(26)が配置されている。したがって、永久磁石(26)の磁束を効率的に利用することができる。なぜなら、リブ(24)の幅寸法が強度設計上、必要最低限の寸法に設計され、これにより永久磁石(26)の磁束がリブ(24)を経由して回転子(20)内で短絡しにくくなっているためである。
【0057】
さらに、本実施形態の電動機(1)は、本実施形態の回転子(20)と、上記回転子(20)の径方向外側に設けられる固定子(10)とを備える。したがって、電動機(1)は、インナーロータ型の電動機となる。そして、電動機(1)が備える回転子(20)のリブ(24)が、強度設計上、必要十分な寸法に設計されているため、高速回転(例えば、10,000~15,000rpm以上)での運転を行っても遠心力に起因する回転子(20)の破損が生じにくい。
【0058】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0059】
例えば、回転子(20)では、複数の貫通孔(25)の一部にのみ永久磁石(26)が設けられていてもよいし、永久磁石(26)が全く設けられていなくてもよい。後者の場合、回転子(20)は、リラクタンスモータ用の回転子を構成する。
【0060】
また、例えば、各実施形態で説明した回転子(20)の構成は、発電機(回転電気機械の一例)にも採用できる。
【0061】
また、例えば、回転子(20)において、一部の磁極のみが
図3に示すような構成を有していてもよい。なお、回転子(20)において、全ての磁極が
図3に示すような構成を有することが好ましい。
【0062】
また、例えば、回転子(20)において、各磁極における貫通孔群(100)の層数は1層でもよいし(
図4を参照)、3層以上であってもよい。
【0063】
また、例えば、回転子(20)において、各貫通孔群(100)がスキュー構造を有していてもよい。なお、この場合には、回転子コア(21)の磁極を基準として本願技術を適用してもよいし、コア部材(22)毎の磁極を基準として本願技術を適用してもよいし、または回転子コア(21)の任意の横断面の磁極を基準として本願技術を適用してもよい。
【0064】
また、例えば、回転子(20)の回転子コア(21)は、
図3における内周側の層の貫通孔群(100-1)の上側の2つの貫通孔(25-1,25-2)がつながったような形状を有するコア部材と、同貫通孔群(100-1)の下側の2つの貫通孔(25-3,25-4)がつながったような形状を有するコア部材とが、任意の組合せにおいて、例えば交互に、積層されて構成されていてもよい。
【0065】
また、例えば、各貫通孔群(100)において、当該貫通孔群(100)を構成する複数の貫通孔(25)は、磁極中心線(MC)に関して非対称に配置されていてもよい。
【0066】
また、例えば、各貫通孔群(100)において、当該貫通孔群(100)を構成する貫通孔(25)の数は奇数であってもよい。
【0067】
また、例えば、回転子(20)において、貫通孔(25)のリブ隣接部(25a)にR面取りが形成されていなくてもよいし、R面取りに代えて直線状の面取りが形成されていてもよい。そして、これらの場合において、各面取りの寸法は任意に設定可能である。
【0068】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明したように、本開示は、回転子およびそれを備えた回転電気機械について有用である。
【符号の説明】
【0070】
1 電動機(回転電気機械)
10 固定子
20 回転子
21 回転子コア(コア部)
24 リブ
24-1 近傍リブ、中心リブ、平行リブ
24-2 離間リブ、傾斜リブ
24-3 離間リブ、傾斜リブ
25 貫通孔
25a リブ隣接部
26 永久磁石
100 貫通孔群
MC 磁極中心線
O (回転子の)軸心
θ (リブの)傾き
L (磁極中心線との)距離
R (R面取りの)寸法