IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人理化学研究所の特許一覧 ▶ 株式会社リコーの特許一覧

<>
  • 特許-パルス電磁波発生装置および計測装置 図1
  • 特許-パルス電磁波発生装置および計測装置 図2
  • 特許-パルス電磁波発生装置および計測装置 図3
  • 特許-パルス電磁波発生装置および計測装置 図4
  • 特許-パルス電磁波発生装置および計測装置 図5
  • 特許-パルス電磁波発生装置および計測装置 図6
  • 特許-パルス電磁波発生装置および計測装置 図7
  • 特許-パルス電磁波発生装置および計測装置 図8
  • 特許-パルス電磁波発生装置および計測装置 図9
  • 特許-パルス電磁波発生装置および計測装置 図10
  • 特許-パルス電磁波発生装置および計測装置 図11
  • 特許-パルス電磁波発生装置および計測装置 図12
  • 特許-パルス電磁波発生装置および計測装置 図13
  • 特許-パルス電磁波発生装置および計測装置 図14
  • 特許-パルス電磁波発生装置および計測装置 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】パルス電磁波発生装置および計測装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/10 20060101AFI20220203BHJP
   H01S 3/113 20060101ALI20220203BHJP
   H01S 3/0941 20060101ALI20220203BHJP
   G02F 1/39 20060101ALI20220203BHJP
   G01N 21/3581 20140101ALN20220203BHJP
【FI】
H01S3/10 Z
H01S3/113
H01S3/0941
G02F1/39
G01N21/3581
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018044783
(22)【出願日】2018-03-12
(65)【公開番号】P2019160977
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】池應 敏行
(72)【発明者】
【氏名】東 康弘
(72)【発明者】
【氏名】和田 芳夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓海
(72)【発明者】
【氏名】南出 泰亜
(72)【発明者】
【氏名】縄田 耕二
(72)【発明者】
【氏名】瀧田 佑馬
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-075583(JP,A)
【文献】特開2003-302666(JP,A)
【文献】特開2014-225542(JP,A)
【文献】特開平10-294517(JP,A)
【文献】特開2000-133864(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0103801(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/30
G02F 1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光源と、前記励起光源からの励起光が入射するレーザー共振器と、パルス発生部と、前記パルス発生部から発生するパルス光群を入射し、前記パルス光群の各パルスを波長変換したパルス電磁波を発生する波長変換部と、を有するパルス電磁波発生装置であって、
前記励起光源の1回の励起行程において、周波数(ω)および発振タイミング(t)の異なる少なくとも2つ以上のパルス光を含むパルス光群を発生し、
前記パルス光群における各パルス光の発振周波数差(Δω)は、前記レーザー共振器の縦モード間隔の整数倍である、
ことを特徴とするパルス電磁波発生装置。
【請求項2】
前記パルス発生部は、Qスイッチ素子である、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルス電磁波発生装置。
【請求項3】
前記波長変換部は、
前記パルス光発生装置とは異なる周波数のレーザー光を発振するレーザー光源と、
前記パルス光群と前記レーザー光の周波数差の周波数のパルス電磁波を発生させる波長変換素子と、
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のパルス電磁波発生装置。
【請求項4】
前記波長変換素子は、酸化マグネシウム添加のニオブ酸リチウム(MgO:LiNbO)結晶である、
ことを特徴とする請求項3に記載のパルス電磁波発生装置。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一項に記載のパルス電磁波発生装置と、
前記パルス電磁波発生装置から発生した発振周波数および発振時間の異なるパルス電磁波を時間的に分離して検出できる検出器と、
を備えることを特徴とする計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス電磁波発生装置および計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の二酸化炭素や水蒸気濃度を計測する環境計測や、テロや危険物質の横行を未然に防止するためのガスセンシングなど、高速かつ高感度な分子計測(定量評価)装置の需要が高まっている。その中の一つに、気体に対して特長的な吸収スペクトル(指紋スペクトル)を持つテラヘルツ波を利用したガスセンシングが注目されている。
【0003】
差分吸収ライダ(LiDAR)は、測定対象の吸収波長に周波数を合わせたON波長と、ON波長から周波数をずらしたOFF波長とを用いて、分子計測・濃度計測を行う分光方法である。差分吸収ライダ(LiDAR)は、大気中の二酸化炭素濃度の計測などに利用されている。
【0004】
テラヘルツ波帯は、様々な物質の指紋スペクトルが多く存在する周波数領域であり、テラヘルツ波を用いた分子計測は、医療・セキュリティなど様々な分野から注目されている。テラヘルツ波光源のひとつとして、非線形光学効果を利用した光注入型テラヘルツ波パラメトリック発生方式(is-TPG)がある。is-TPGによって発生するテラヘルツ波の周波数は、非線形光学結晶に入射するポンプ光とシード光の周波数差によって決定される。このis-TPGでは、ポンプ光として高ピークパワーが必要であることから固体レーザーが使用される。すなわち、ポンプ光の発振波長は固体レーザーのレーザー媒質によっておおよそ決定される。
【0005】
特許文献1には、is-TPGを用いたテラヘルツ分光において、波長可変機能を有するシード光源の波長を掃引することで、テラヘルツ波帯の周波数スペクトルを取得する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術によれば、テラヘルツ波の周波数を切り替える速度は固体レーザーの繰り返し周波数によって制限されてしまい、その繰り返し周波数は100Hzオーダーである。このため、従来のテラヘルツ光源を用いて、気流のある環境下にあるガスなど、環境状況によって濃度変化が生じやすい物質を測定する場合、テラヘルツ波の周波数を切り換えて測定する間に、すなわち固体レーザーを発振させるまでの間に、測定対象の状態が変化し、測定精度が劣化することが課題として挙げられる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、短い時間間隔で異なる周波数のパルス電磁波を出射するパルス電磁波発生装置および計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、励起光源と、前記励起光源からの励起光が入射するレーザー共振器と、パルス発生部と、前記パルス発生部から発生するパルス光群を入射し、前記パルス光群の各パルスを波長変換したパルス電磁波を発生する波長変換部と、を有するパルス電磁波発生装置であって、前記励起光源の1回の励起行程において、周波数(ω)および発振タイミング(t)の異なる少なくとも2つ以上のパルス光を含むパルス光群を発生し、前記パルス光群における各パルス光の発振周波数差(Δω)は、前記レーザー共振器の縦モード間隔の整数倍である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境状況によって濃度変化が生じやすい物質を測定する場合、測定対象の状態が変化し、測定精度が劣化することを防止することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態にかかる計測装置の構成を示す図である。
図2図2は、マイクロチップレーザーの構成を示す図である。
図3図3は、パルス光の例を示す図である。
図4図4は、マイクロチップレーザーの発振スペクトルの一例を示す図である。
図5図5は、ホールバーニング効果とレーザーの発振波長の関係を示す図である。
図6図6は、パルス電磁波発生装置の概略を示す図である。
図7図7は、周波数軸および時間軸でのテラヘルツ波について示した図である。
図8図8は、マイクロチップレーザーからの光パルスおよびテラヘルツ波パルスの測定結果を示す図である。
図9図9は、2パルス発振状態での水蒸気の吸収スペクトルの測定結果を示す図である。
図10図10は、計測装置を示す図である。
図11図11は、周波数軸および時間軸でのテラヘルツ波について示した図である。
図12図12は、SBDでのテラヘルツ波の検出信号を示す図である。
図13図13は、差分吸収計測におけるテラヘルツ波の周波数の設定を示す図である。
図14図14は、テラヘルツ波パルス強度の時間変化を示す図である。
図15図15は、図14の第1パルス-第2パルスの強度の差分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照して、パルス電磁波発生装置および計測装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
図1は、実施の形態にかかる計測装置1の構成を示す図である。図1に示すように、計測装置1は、パルス電磁波発生装置2と、検出器3と、を備えている。パルス電磁波発生装置2は、パルス光発生装置4と、波長変換部5と、を備えている。検出器3は、パルス電磁波発生装置2から発生するテラヘルツ波(THz波)パルスを検出する。
【0013】
図1に示すように、パルス光発生装置4は、高ピークパワーの短パルスレーザー光を発振するマイクロチップレーザー6を備える。
【0014】
図1に示すように、波長変換部5は、シード光源である単一波長の連続波を発振する半導体レーザーであるシードレーザー(CW-Laser)11を備えている。また、波長変換部5は、ノンコリニア位相整合のパラメトリック発生を可能とする非線形光学結晶のニオブ酸リチウム結晶(MgO:LiNbO結晶)を用いて単色性のテラヘルツ波を発生する光注入型テラヘルツ波パラメトリック発生方式(is-TPG)の波長変換素子12を備えている。
【0015】
マイクロチップレーザー6は、励起光源であるファイバー結合型高出力VCSEL(面発光型半導体レーザー)7と、レーザー共振器8と、を備えている。レーザー共振器8は、VCSEL7からの励起光を受けて高ピークパワーの短パルスレーザーを発生するNd:YAG/Cr:YAGコンポジット結晶10を有する。Cr:YAGは、パルス発生部(Qスイッチ素子)である。Nd:YAG/Cr:YAGコンポジット結晶10は、励起光入射面にAR808nm/HR1064nmのコーティング、出射面にR=30~70%@1064nmのコーティングを施されている。また、レーザー共振器8は、共振器ミラー9を有する。
【0016】
ここで、図2はマイクロチップレーザー6の構成を示す図、図3はパルス光の例を示す図である。図2に示すように、マイクロチップレーザー6は、VCSEL7からの励起光を光ファイバーで伝送して、Nd:YAG/Cr:YAGコンポジット結晶10に入射する。
【0017】
図3に示すように、VCSEL7の発光時間は0.5~1msで、発光の繰り返し周波数は1~100Hzである。マイクロチップレーザー6からは、VCSEL7の発光期間中に10kHz程度の間隔で高ピークパワーのパルスを発振する。最終的に発振するパルス数は、パルスの発信時間間隔と、VCSEL7の発振時間および出力強度によって決定される。
【0018】
なお、励起光源は、レーザー媒質であるNd:YAGの吸収波長を発光する光源であれば、VCSEL7に限らず端面発光型レーザーなどであっても良い。また、本実施形態では光ファイバー13で励起光を伝送し、レーザー媒質に集光させていたが、VCSEL7から直接レーザー媒質へ集光させても良い。
【0019】
図4は、マイクロチップレーザー6の発振スペクトルの一例を示す図である。図4に示す例は、マイクロチップレーザー6において、1パルスのみの発振波長(実線)と、2パルス目が発振した直後の1パルス目と2パルス目の発振波長を合わせて測定した結果(破線)を示したものである。
【0020】
図4に示すように、1パルスのみ発振している時は、波長のピークは1つであったが、2パルスを同時に計測した時は、ピーク波長が2つになっていることが確認される。その一方のピーク波長が、1パルスのみ発振させた際のピーク波長と一致していることから、2パルス目が別のピーク波長で発振していることが分かる。
【0021】
加えて、1パルス目のピーク波長は1064.38nmに対して、2パルス目のピーク波長は1064.34nmであり、その波長差は0.04nmである。一方、このときのマイクロチップレーザー6に用いられた共振器長は7mmであり、屈折率(n=1.82)を考慮した時のレーザー共振器8の縦モード間隔は△λ=0.04nmと求められるため、1パルス目と2パルス目の波長差と一致する。すなわち、マイクロチップレーザー6から複数パルス発振させた場合、パルスごと発振波長はマイクロチップレーザー6のレーザー共振器8の縦モード間隔の分だけ変化して発振することが確認された。
【0022】
次に、発振波長の変化について説明する。
【0023】
ここで、図5はホールバーニング効果とレーザーの発振波長の関係を示す図である。図5に示すように、レーザー媒質は不均一に広がる利得を持つ。一方、レーザーの発振波長は、レーザー共振器8の共振器長とレーザー共振器8の屈折率から決定される縦モード間隔δf=c/2nLの整数倍と、レーザー媒質の利得で決定される。レーザー媒質の利得中で発振しやすい波長は、縦モード間隔δfで決定されている。レーザー媒質が励起され、利得が十分に高くなり、反転分布を形成すると、縦モードの中で最も利得の高い波長で発振する。このレーザー発振をした時、レーザー媒質の利得は発振波長で利得が下がるホールバーニングが起きる。
【0024】
次のレーザー発振までの時間が十分に長い場合は、発振波長の利得が回復し、同じ波長のレーザー光を発振する。しかし、次のレーザー発振までの時間が十分に短い場合、利得は回復することなく反転分布を形成するため、レーザー光はレーザー共振器8の共振器長中の縦モードの中で、次に利得の高い波長で発振する。すなわち、レーザー光を非常に短い時間間隔で発振させた場合、ホールバーニング効果により、発振波長が変化し、その変化量はレーザー共振器8の縦モード間隔に依存する。このホールバーニング効果は、本実施の形態で扱ったNd:YAGに限らず、すべてのレーザー媒質の起こりうる現状であるため、レーザー媒質刃Nd:YAGに限定しない。
【0025】
従来のis-TPG方式テラヘルツ波光源では、1回のテラヘルツ波の発生サイクルにおいて、すなわち励起光源によるマイクロチップレーザーの1回の励起行程において、固体レーザーから単一波長のレーザー光を発振させる。そのため、発生するテラヘルツ波の波長を変化させたい場合、シード光源に波長可変機能を持たせる必要があるのに加え、発生するテラヘルツ波の周波数を切り換えられる時間間隔は固体レーザーの繰り返し周波数に依存する。
【0026】
本実施の形態では、レーザー共振器8の構造や励起光の励起条件を変え、1回の励起行程で少なくとも2つ以上の高ピークパワー・短パルスレーザー光を異なる発振時間で発振するマイクロチップレーザー6をポンプ光源(励起光源)として用いる。マイクロチップレーザー6から1回の励起行程で複数のパルスを異なる発振時間で発振させる場合、ホールバーニング効果により、発振パルスごと発振波長が異なり、発振波長の変化量はマイクロチップレーザー6のレーザー共振器8の縦モード間隔によって制御される。
【0027】
ここで、図6はパルス電磁波発生装置2の概略を示す図、図7は周波数軸および時間軸でのテラヘルツ波について示した図である。図6に示すように、パルス電磁波発生装置2は、is-TPG方式テラヘルツ波光源を用いたものである。
【0028】
図7に示すように、マイクロチップレーザー6から発振する第1のパルスとシードレーザー11の周波数差Δfとして、位相整合角でMgO:LiNbO結晶である波長変換素子12に入射すると、中心周波数がΔfのテラヘルツ波が発生される。そして、マイクロチップレーザー6から発生した第2パルスは、第1パルスに比べてレーザー共振器8の縦モード間隔δfの分だけ周波数がずれることから、中心周波数Δf+δfのテラヘルツ波が発生する。
【0029】
上記のように発振時間および発振波長の異なるパルスを1回の励起行程で発振するマイクロチップレーザー6をポンプ光源(励起光源)として用いることで、シード光に波長可変機能を必要とせず、1回の励起行程において周波数の異なる複数のテラヘルツ波パルスを時間的に分離して発生させることが可能になる。加えて、マイクロチップレーザー6から発振されるパルスの時間間隔は、励起条件等によるが、数k~数十kHzオーダーであり、固体レーザーの繰り返し周波数よりも一桁以上高速である。すなわち、従来のis-TPG式テラヘルツ波光源と異なり、1回の励起行程で、少なくとも2つ以上の周波数情報が獲得でき、獲得のための時間間隔が短い。加えて、シード光に波長可変機能を必要としないことから、システム構成が簡略化される。
【0030】
なお、本実施の形態では、MgO:LiNbO結晶を用いたis-TPG方式テラヘルツ波光源を述べたが、MgO:LiNbO結晶に限定せず、KTPやSiO、GaAS、GaPなどの無機系の非線形光学結晶でも、DASTやBNAの有機系の非線形光学結晶であっても良い。
【0031】
ここで、図8はマイクロチップレーザー6からの光パルスおよびテラヘルツ波パルスの測定結果を示す図である。図8は、下から順に、1パルス、2パルス、3パルスを1回の励起行程で発振させた時の時間波形である。各波形を比較すると、マイクロチップレーザー6を2パルス以上発振させた時、テラヘルツ波パルスもマイクロチップレーザー6と同じ時間間隔で発振していることが確認できる。
【0032】
ここで、図9は2パルス発振状態での水蒸気の吸収スペクトルの測定結果を示す図である。図9は、マイクロチップレーザー6を図4に示した条件で2パルス発振させた状態で、シードレーザー11に波長可変レーザーを用いて、水蒸気の吸収スペクトルを測定した結果である。分光の際、発振する第1のテラヘルツ波パルスと第2のテラヘルツ波パルスそれぞれの強度を独立に検出した。
【0033】
図9から分かるように、第1と第2それぞれのパルスで水蒸気の特徴的なスペクトルが検出されているが、第2のスペクトルは第1のスペクトルに比べて11GHz低周波数側にシフトしていることが分かる。なぜなら、1回の励起行程中において、シード光源の波長は一定に保っている一方、ポンプ光(励起光)の第1パルスと第2パルスは波長が変化している。図4から分かるように、第2のパルスは第1のパルスに比べて短波長(高周波数)である。そして、発生するテラヘルツ波パルスもまた、第2のテラヘルツ波パルスの周波数は第1のテラヘルツ波パルスよりも高周波であることから、第1のパルスを基準に分光した場合、見かけ上、第2のテラヘルツ波パルスの周波数が低周波側にシフトしたように見える。すなわち、図9より、発振するテラヘルツ波パルスもまた、マイクロチップレーザーの縦モード間隔の分だけ周波数が変化することが確認された。
【0034】
ここで、図10は計測装置1を示す図、図11は周波数軸および時間軸でのテラヘルツ波について示した図、図12はSBDでのテラヘルツ波の検出信号を示す図である。図10に示す計測装置1は、図9までにおいて説明した、一回の励起行程において、発振波長および発振時間の異なるテラヘルツ波パルスを発生するis-TPGテラヘルツ波光源を用いて、水蒸気量の差分吸収計測を行う。
【0035】
図10に示すように、is-TPGテラヘルツ波光源から出射されたテラヘルツ波パルスは、窒素パージされた空間を伝播し、検出器3であるショットキーバリアダイオード(SBD)で検出される。is-TPGテラヘルツ波光源からSBD間のテラヘルツ波の光路中に、大気を取り込めるガスセル20を設ける。ガスセル20が窒素パージされた状態から大気を入れ込んだときにテラヘルツ波の強度変化をSBD検出する。ポンプ光源(励起光源)からは1回の励起で2つのパルスを発振させると、SBDで検出したテラヘルツ波は、図12に示すように、時間的に異なるタイミングで検出できる。
【0036】
ここで、図13は差分吸収計測におけるテラヘルツ波の周波数の設定を示す図である。差分吸収計測を行う際は、図13に示すように、第2パルスが測定したいガス(ここでは水蒸気)の吸収周波数になるように設定する。これにより、第1パルスは、ポンプ光源(励起光源)の縦モード間隔の分だけ周波数がずれるため、吸収ピークの裾にかかる形となる。上記設定の元、ポンプ光源を50Hzの周波数で発振させると、同じ50Hzの時間間隔で、吸収周波数およびその裾の周波数の2つの周波数の情報を計測することが可能になる。
【0037】
図14は、テラヘルツ波パルス強度の時間変化を示す図である。図14は、上記条件の下、窒素パージしたガスセル20中に大気を吹き込んだときのそれぞれのパルスの検出強度の時間変化を計測した結果である。吸収帯の裾にかかっている第1パルスは大気を入れることでわずかに強度が変化している一方で、吸収周波数である第2パルスは、大気を入れたタイミングで水蒸気を吸収し、テラヘルツ波の検出強度が大きく下がり、再び窒素が増えると検出強度が増加している。これにより、各テラヘルツ波パルスをポンプ光源の繰り返し周波数で計測できていることが確認できる。
【0038】
図15は、図14の第1パルス-第2パルスの強度の差分を示す図である。図15より、水蒸気が入ったタイミングで、テラヘルツ波の差分強度が大きく増加しており、ガスセル20中の早い気体の状態変化を検出できることを示す。また、水蒸気を入れる前の時間帯では、信号強度が揺らいでいる。これは、テラヘルツ波光源および検出器3の揺らぎを示し、この線幅が、定量計測のベースラインとなる。
【0039】
上記のように、本実施の形態では、1回の励起行程で、少なくとも2つ以上の周波数情報が獲得でき、獲得のための時間間隔が短いことから、分子計測における測定精度が向上される。また、発生するテラヘルツ波の時間間隔は、ショットキーバリアダイオードなどのテラヘルツ波帯で使用される検出器3で検出、時間分解可能な値である。
【符号の説明】
【0040】
1 計測装置
2 パルス電磁波発生装置
3 検出器
4 パルス光発生装置
5 波長変換部
7 励起光源
8 レーザー共振器
10 パルス発生部
11 レーザー光源
12 波長変換素子
【先行技術文献】
【特許文献】
【0041】
【文献】特許第3747319号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15