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特許7007688吸着装置、成膜装置、吸着方法、成膜方法及び電子デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】吸着装置、成膜装置、吸着方法、成膜方法及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/50 20060101AFI20220117BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20220117BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20220117BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C23C14/50 F
C23C14/04 A
H05B33/10
H05B33/14 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020141210
(22)【出願日】2020-08-24
(65)【公開番号】P2021042467
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】10-2019-0111120
(32)【優先日】2019-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593075418
【氏名又は名称】株式会社アオイ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 一史
(72)【発明者】
【氏名】石井 博
(72)【発明者】
【氏名】川畑 奉代
(72)【発明者】
【氏名】諸橋 悟
(72)【発明者】
【氏名】富井 広樹
(72)【発明者】
【氏名】細谷 映之
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-502017(JP,A)
【文献】特開2008-147430(JP,A)
【文献】特表2016-539489(JP,A)
【文献】特開2011-181462(JP,A)
【文献】特開2002-093895(JP,A)
【文献】特開平06-310589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 21/68
H01L 27/32
H05B 33/00-33/28
G03F 7/20- 7/24
C03F 9/00- 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1被吸着体と該第1被吸着体を挟んで第2被吸着体を吸着するための静電吸着力を発生させるための第1電極と第2電極を有する静電チャックと、
前記第1電極と前記第2電極に位を付与する電位付与部と、
前記電位付与部による前記第1電極への電位の付与と前記第2電極への電位の付与と独立に制御するための電位制御部とを備え、
前記電位制御部は、前記第1被吸着体を吸着させる静電吸着力を発生させるために前記第1電極に第1電位を付与し前記第2電極に第2電位を付与した後に、前記第1電位と前記第2電位の少なくとも一つを変化させ、前記第1電極に第3電位を付与し前記第2電極に第4電位を付与し、
前記第3電位と前記第4電位との電位差は、前記第1電位と前記第2電位との電位差と同一であり、
前記第3電位と前記第4電位との和の絶対値は、前記第1電位と前記第2電位との和の絶対値よりも大きいことを特徴とする吸着装置。
【請求項2】
前記第1電位と前記第2電位は、絶対値の大きさは同一で、接地電位に対する極性は反対であることを特徴とする請求項1に記載の吸着装置。
【請求項3】
前記第3電位と前記第4電位のうち一つは、0Vであることを特徴とする請求項1または2に記載の吸着装置。
【請求項4】
前記第1電極と前記第2電極は、交互に配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の吸着装置。
【請求項5】
前記第1被吸着体は、絶縁性の基板で、前記第2被吸着体は、金属性のマスクであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の吸着装置。
【請求項6】
第1被吸着体と該第1被吸着体を挟んで第2被吸着体を吸着するための静電吸着力を発生させるための第1電極と第2電極を有する静電チャックと、
前記第1電極と前記第2電極に位を付与する電位付与部と、
前記電位付与部による前記第1電極への電位の付与と前記第2電極への電位の付与と独立に制御するための電位制御部とを備え、
前記電位制御部は、
前記静電チャックに前記第1被吸着体が吸着され記静電チャックに前記第2被吸着体が吸着されない静電吸着力が発生している状態から、前記第1電極と前記第2電極に付与される電位の少なくとも一つを変化させることによって、前記第2被吸着体に及ぼす静電吸着力を変化させ、
前記第1電極に付与される電位と前記第2電極に付与される電位との間の電位差は変化させずに、前記第1電極に付与される電位と前記第2電極に付与される電位との和の絶対値を大きくすることを特徴とする吸着装置。
【請求項7】
前記電位制御部は、前記静電チャックに前記第1被吸着体が吸着され、前記静電チャックに前記第2被吸着体が吸着されていない状態から、前記静電チャックと前記第2被吸着体を支持する支持機構との間の離隔距離を維持したまま、前記第1電極と前記第2電極に付与される電位の少なくとも一つを変化させることによって、前記第2被吸着体に及ぼす静電吸着力を変化させることを特徴とする請求項6に記載の吸着装置。
【請求項8】
基板にマスクを介して成膜を行うための成膜装置であって、
第1被吸着体である基板、及び前記基板越しに第2被吸着体であるマスクを吸着するための吸着装置を含み、
前記吸着装置は、請求項1から7のいずれか一項に記載の吸着装置であることを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
第1電極と第2電極を有する静電チャックに、第1被吸着体と該第1被吸着体を挟んで第2被吸着体吸着するための方法であって、
接地電位に対する第1電位を前記第1電極に付与し前記第2電極に前記接地電位に対する第2電位を付与して静電吸着力が発生し、前記第2被吸着体は吸着せずに前記第1被吸着体を前記静電チャックに吸着する第1吸着段階と、
前記接地電位に対する第3電位を前記第1電極に付与し前記接地電位に対する第4電位を前記第2電極に付与し、前記第1被吸着体を挟んで前記第2被吸着体を前記静電チャックに吸着する第2吸着段階とを含み、
前記第3電位と前記第4電位との電位差は、第1電位と前記第2電位との電位差と同一であり、
前記第3電位と前記第4電位との和の絶対値は、前記第1電位と前記第2電位との和の絶対値よりも大きいことを特徴とする吸着方法。
【請求項10】
前記第1電位と前記第2電位は、絶対値の大きさは同じで、極性は反対であることを特徴とする請求項9に記載の吸着方法。
【請求項11】
前記第3電位と前記第4電位のうち一つは、0Vであることを特徴とする請求項9または10に記載の吸着方法。
【請求項12】
前記第1電極と前記第2電極は、交互に配置されていることを特徴とする請求項9から11のいずれか一項に記載の吸着方法。
【請求項13】
前記第1被吸着体は絶縁性の基板であり、前記第2被吸着体は金属性のマスクであるこ
とを特徴とする請求項9から12のいずれか一項に記載の吸着方法。
【請求項14】
第1電極と第2電極を有する静電チャックに基板と該基板を挟んでマスクを吸着し、成膜材料を成膜する成膜方法であって、
真空容器内にマスクを搬入する段階と、
前記真空容器内に基板を搬入する段階と、
接地電位に対する第1電位を前記第1電極に付与し前記接地電位に対する第2電位を前記第2電極に付与し、前記マスクは吸着せずに前記基板を前記静電チャックに吸着する段階と、
前記接地電位に対する第3電位を前記第1電極に付与し前記接地電位に対する第4電位を前記第2電極に付与し、前記基板を挟んで前記マスクを前記静電チャックに吸着する段階と、
前記静電チャックに前記基板及び前記マスクが吸着された状態で、前記成膜材料を放出させて、前記マスクを介して前記基板に前記成膜材料を成膜する段階とを含み、
前記第3電位と前記第4電位との電位差は、前記第1電位と前記第2電位との電位差と同一であり、
前記第3電位と前記第4電位との和の絶対値は、前記第1電位と前記第2電位との和の絶対値よりも大きいことを特徴とする成膜方法。
【請求項15】
請求項14の成膜方法を用いて、電子デバイスを製造することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着装置、成膜装置、吸着方法、成膜方法及び電子デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、フラットパネル表示装置として有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)が脚光を浴びている。有機EL表示装置は、自発光ディスプレイであり、応答速度、視野角、薄型化などの特性が液晶パネルディスプレイより優れており、モニタ、テレビ、スマートフォンに代表される各種の携帯端末などで既存の液晶パネルディスプレイを早いスピードで代替している。また、自動車用ディスプレイ等にも、その応用分野を広げている。
【0003】
有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子;OLED)は、2つの向かい合う電極(カソード電極、アノード電極)の間に発光を起こす有機物層が形成された基本構造を持つ。例えば、有機発光素子の有機物層と金属電極層は、成膜装置において、成膜材料が収容された成膜源から放出される成膜材料を画素パターンに基づくパターンが形成されたマスクを介して基板に堆積させることで製造される。
【0004】
上向蒸着方式(デポアップ)の成膜装置において、成膜源は成膜装置の真空容器の下部に設けられ、基板は真空容器の上部に配置され、成膜材料は基板の下面に蒸着される。このような上向蒸着方式の成膜装置の真空容器内において、基板はその下面の周辺部だけが基板ホルダによって保持されるので、基板がその自重によって撓み、これが蒸着精度を落とす一つの要因となっている。上向蒸着方式以外の方式の成膜装置においても、基板の自重による撓みが生じる可能性はある。
【0005】
基板の自重による撓みを低減するための方法として、静電チャックを使う技術が検討されている。すなわち、基板の上面をその全体にわたって静電チャックで吸着することで、基板の撓みを低減することができる。
【0006】
特許文献1(韓国特許公開公報第2007-0010723号)には、静電チャックで基板及びマスクを吸着する技術が提案されている。
ところが、このように静電チャックで基板越しにマスクを吸着する場合には、基板とマスク間のアライメントが完了した後は、基板とマスクの両方を静電チャックによって十分吸着し、両者間の密着度を高める必要があるが、アライメントを行う間には基板とマスクが互いに接触しないようにすることが好ましい。つまり、アライメント完了後、成膜を行う際には、成膜精度を向上させるためには基板とマスクを隙間なく密着させることが好ましいが、アライメントを行っている間には両者間の接触が生じると、基板又はマスクの損傷、或いは前の工程で基板上に成膜された膜などが損傷する可能性があり、かつ、アライメントの精度も低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】韓国特許公開公報第2007-0010723号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、静電チャックで基板越しにマスクを吸着する場合には、アライメント時の要求事項(基板/マスクの損傷防止、及びアライメント精度の低下の抑制)と、アライメ
ント以降の要求事項(基板とマスク間の密着性向上)を共に達成できるように、静電チャックに付与される電位を効果的に制御する必要があるが、従来は、これに関する認識や研究がされていなかった。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、アライメント以降は基板とマスクの両方が静電チャックに十分吸着されるようにし、アライメント時には静電チャックに吸着された基板がマスクと接触しないようにするための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態による吸着装置は、第1被吸着体と、該第1被吸着体を挟んで第2被吸着体を吸着するための静電吸着力を発生させるための第1電極と第2電極を有する静電チャックと、前記第1電極と前記第2電極に位を付与する電位付与部と、前記電位付与部による前記第1電極への電位の付与と前記第2電極への電位の付与と独立に制御するための電位制御部とを備え、前記電位制御部は、前記第1被吸着体を吸着させる静電吸着力を発生させるために前記第1電極に第1電位を付与し前記第2電極に第2電位を付与した後に、前記第1電位と前記第2電位の少なくとも一つを変化させ、前記第1電極に第3電位を付与し前記第2電極に第4電位を付与し、前記第3電位と前記第4電位との電位差は、前記第1電位と前記第2電位との電位差と同一であり、前記第3電位と前記第4電位との和の絶対値は、前記第1電位と前記第2電位との和の絶対値よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
本発明の他の実施形態による吸着装置は、第1被吸着体と該第1被吸着体を挟んで第2被吸着体を吸着するための静電吸着力を発生させるための第1電極と第2電極を有する静電チャックと、前記第1電極と前記第2電極に位を付与する電位付与部と、前記電位付与部による前記第1電極への電位の付与と前記第2電極への電位の付与と独立に制御す
るための電位制御部とを備え、前記電位制御部は、前記静電チャックに前記第1被吸着体が吸着され記静電チャックに前記第2被吸着体が吸着されない静電吸着力が発生している状態から、前記第1電極と前記第2電極に付与される電位の少なくとも一つを変化させることによって、前記第2被吸着体に及ぼす静電吸着力を変化させ、前記第1電極に付与される電位と前記第2電極に付与される電位との間の電位差は変化させずに、前記第1電極に付与される電位と前記第2電極に付与される電位との和の絶対値を大きくすることを特徴とする。
【0012】
本発明の実施形態による成膜装置は、基板にマスクを介して成膜を行うための成膜装置であって、第1被吸着体である基板、及び前記基板越しに第2被吸着体であるマスクを吸着するための吸着装置を含み、吸着装置は、施形態による吸着装置のいずれかの一つであることを特徴とする。

【0013】
本発明の実施形態による吸着方法は、第1電極と第2電極を有する静電チャックに、第1被吸着体と該第1被吸着体を挟んで第2被吸着体吸着するための方法であって、接地電位に対する第1電位前記第1電極に付与し前記第2電極に前記接地電位に対する第2電位を付与して静電吸着力が発生し、前記第2被吸着体は吸着せずに前記第1被吸着体を前記静電チャックに吸着する第1吸着段階と、前記接地電位に対する第3電位を前記第1電極に付与し前記接地電位に対する第4電位を前記第2電極に付与し、前記第1被吸着体を挟んで前記第2被吸着体を前記静電チャックに吸着する第2吸着段階とを含み、前記第3電位と前記第4電位との電位差は、第1電位と前記第2電位との電位差と同一であり、前記第3電位と前記第4電位との和の絶対値は、前記第1電位と前記第2電位との和の絶対値よりも大きいことを特徴とする。
【0014】
本発明の実施形態による成膜方法は、第1電極と第2電極を有する静電チャックに基板と該基板を挟んでマスクを吸着し、成膜材料を成膜する成膜方法であって、真空容器内にマスクを搬入する段階と、前記真空容器内に基板を搬入する段階と、接地電位に対する第1電位を前記第1電極に付与し前記接地電位に対する第2電位を前記第2電極に付与し、前記マスクは吸着せずに前記基板を前記静電チャックに吸着する段階と、前記接地電位に対する第3電位を前記第1電極に付与し前記接地電位に対する第4電位を前記第2電極に付与し、前記基板を挟んで前記マスクを前記静電チャックに吸着する段階と、前記静電チャックに前記基板及び前記マスクが吸着された状態で、前記成膜材料を放出させて、前記マスクを介して前記基板に前記成膜材料を成膜する段階とを含み、前記第3電位と前記第4電位との電位差は、前記第1電位と前記第2電位との電位差と同一であり、前記第3電位と前記第4電位との和の絶対値は、前記第1電位と前記第2電位との和の絶対値よりも大きいことを特徴とする。


【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アライメント以降は基板とマスクの両方が静電チャックに十分吸着されるようにし、アライメント時には静電チャックに吸着された基板がマスクと接触しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、電子デバイスの製造装置の一部の模式図である。
図2図2は、本発明の一実施形態による成膜装置の模式図である。
図3図3は、本実施形態の吸着装置の概念的なブロック図である。
図4図4(a)~図4(c)は、基板及びマスクの静電チャックへの吸着方法の一例を示す端面模式図である。
図5図5は、電子デバイスを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がないかぎりは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0018】
本発明は、基板の表面に各種材料を堆積させて成膜を行う装置に適用することができ、真空蒸着によって所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に望ましく適用することができる。基板の材料としては、ガラス、高分子材料のフィルム、金属などの任意の材料を選択することができ、基板は、例えば、ガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが積層された基板であってもよい。また、成膜材料としても、有機材料、金属性材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択してもいい。なお、以下の説明において説明する真空蒸着装置以外にも、スパッタ装置やCVD(Chemical Vapor Deposition)装置を含む成膜装置にも、本発明を適用することができる。本発明の技術は、具体的には、有機電子デバイス(例えば、有機発光素子、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。その中でも、成膜材料を蒸発させてマスクを介して基板に蒸着させることで有機発光素子を形成する有機発光素子の製造装置は、本発明の好ましい適用例の一つである。
【0019】
<電子デバイスの製造装置>
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の構成を模式的に示す平面図である。
図1の製造装置は、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば、4.5世代の基板(約700mm×約900mm)や6世代のフルサイズ(約1500mm×約1850mm)又はハーフカットサイズ(約1500mm×約925mm)の基板に、有機EL素子の形成のための成膜を行った後、該基板を切り抜いて複数の小さなサイズのパネルに製作する。
【0020】
電子デバイスの製造装置は、一般的に、複数のクラスタ装置1と、クラスタ装置の間を繋ぐ中継装置とを含む。
クラスタ装置1は、基板Sに対する処理(例えば、成膜)を行う複数の成膜装置11と、使用前後のマスクMを収納する複数のマスクストック装置12と、その中央に配置される搬送室13と、を具備する。搬送室13は、図1に示すように、複数の成膜装置11およびマスクストック装置12のそれぞれと接続されている。
【0021】
搬送室13内には、基板およびマスクを搬送する搬送ロボット14が配置されている。搬送ロボット14は、上流側に配置された中継装置のパス室15から成膜装置11へと基板Sを搬送する。また、搬送ロボット14は、成膜装置11とマスクストック装置12との間でマスクMを搬送する。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板S又はマスクMを保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットである。
【0022】
成膜装置11(蒸着装置ともいう)では、成膜源に収納された成膜材料がヒータによって加熱されて蒸発し、マスクを介して基板上に蒸着される。搬送ロボット14との基板Sの受け渡し、基板SとマスクMの相対位置の調整(アライメント)、マスクM上への基板Sの固定、成膜(蒸着)などの一連の成膜プロセスは、成膜装置11によって行われる。
【0023】
マスクストック装置12には、成膜装置11での成膜工程に使われる新しいマスクと、使用済みのマスクとが、二つのカセットに分けて収納される。搬送ロボット14は、使用済みのマスクを成膜装置11からマスクストック装置12のカセットに搬送し、マスクストック装置12の他のカセットに収納された新しいマスクを成膜装置11に搬送する。
【0024】
クラスタ装置1には、基板Sの流れ方向において上流側からの基板Sを当該クラスタ装置1に伝達するパス室15と、当該クラスタ装置1で成膜処理が完了した基板Sを下流側の他のクラスタ装置に伝えるためのバッファー室16が連結される。搬送室13の搬送ロボット14は、上流側のパス室15から基板Sを受け取って、当該クラスタ装置1内の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11a)に搬送する。また、搬送ロボット14は、当該クラスタ装置1での成膜処理が完了した基板Sを複数の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11b)から受け取って、下流側に連結されたバッファー室16に搬送する。
【0025】
バッファー室16とパス室15との間には、基板の向きを変える旋回室17が設置される。旋回室17には、バッファー室16から基板Sを受け取って基板Sを180°回転させ、パス室15に搬送するための搬送ロボット18が設けられる。これにより、上流側のクラスタ装置と下流側のクラスタ装置で基板Sの向きが同じくなり、基板処理が容易になる。
【0026】
パス室15、バッファー室16、旋回室17は、クラスタ装置間を連結する、いわゆる中継装置であり、クラスタ装置の上流側及び/又は下流側に設置される中継装置は、パス室、バッファー室、旋回室のうち少なくとも1つを含む。
【0027】
成膜装置11、マスクストック装置12、搬送室13、バッファー室16、旋回室17などは、有機発光素子の製造の過程で、高真空状態に維持される。パス室15は、通常低真空状態に維持されるが、必要に応じて高真空状態に維持されてもいい。
【0028】
本実施例では、図1を参照して、電子デバイスの製造装置の構成について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の種類の装置やチャンバーを有してもよく、これらの装置やチャンバー間の配置が変わってもいい。
以下、成膜装置11の具体的な構成について説明する。
【0029】
<成膜装置>
図2は、成膜装置11の構成を示す模式図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を用いる。成膜時に基板Sが水平面(XY平面)と平行となるよう固定された場合、基板Sの短手方向(短辺に平行な方向)をX方向、長手方向(長辺に平行な方向)をY方向とする。また、Z軸まわりの回転角をθで表す。
【0030】
成膜装置11は、真空雰囲気又は窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される真空容器21と、真空容器21の内部に設けられる、基板支持ユニット22と、マスク支持ユニット23と、静電チャック24と、成膜源25とを含む。
【0031】
基板支持ユニット22は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14から基板Sを受取って保持する手段であり、基板ホルダとも呼ばれる。
基板支持ユニット22の下方には、マスク支持ユニット23が設けられる。マスク支持ユニット23は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14からマスクMを受取って保持する手段であり、マスクホルダとも呼ばれる。
【0032】
マスクMは、基板S上に形成する薄膜パターンに対応する開口パターンを有し、マスク支持ユニット23の上に載置される。特に、スマートフォン用の有機EL素子を製造するのに使われるマスクは、微細な開口パターンが形成された金属製のマスクであり、FMM(Fine Metal Mask)ともいう。
【0033】
基板支持ユニット22の上方には、基板を静電引力によって吸着し固定するための静電チャック24が設けられる。静電チャック24は、誘電体(例えば、セラミック材質)マトリックス内に金属電極などの電気回路が埋設された構造を有する。金属電極は、電極対を含むように設置することができ、以下では、電極対をなす金属電極を第1電極と第2電極と表すことにする。
【0034】
静電チャック24は、クーロン力タイプの静電チャックであってもよいし、ジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックであってもよいし、グラジエント力タイプの静電チャックであってもよい。静電チャック24は、グラジエント力タイプの静電チャックであることが好ましい。静電チャック24がグラジエント力タイプの静電チャックであることによって、基板Sが絶縁性基板である場合であっても、静電チャック24によって良好に吸着することができる。静電チャック24がクーロン力タイプの静電チャックである場合には、金属電極にプラス(+)及びマイナス(-)の電位が付与されると、誘電体マトリックスを通じて基板Sなどの被吸着体に金属電極と反対極性の分極電荷が誘導され、これら間の静電引力によって基板Sが静電チャック24に吸着固定される。
【0035】
静電チャック24は、一つのプレートで形成されてもよく、複数のサブプレートを有するように形成されてもいい。また、一つのプレートで形成される場合にも、その内部に複数の電気回路を含み、一つのプレート内で位置によって静電引力が異なるように制御してもいい。また、静電チャック24は、一つのプレートで形成されようが、複数のプレートで形成されようが、位置によらず、全面が同じ静電引力になるように制御されてもよい。
【0036】
本実施形態では、後述のように、成膜前に静電チャック24で基板S(第1被吸着体)だけでなく、マスクM(第2被吸着体)をも吸着し保持する。
即ち、本実施例では、静電チャック24の鉛直方向の下側に置かれた基板S(第1被吸着体)を静電チャック24で吸着及び保持した状態で、基板SとマスクMとの相対位置を調整し、基板SとマスクM間の相対位置調整が終わったら、基板S(第1被吸着体)を挟んで静電チャック24と反対側に置かれたマスクM(第2被吸着体)も静電チャック24
で吸着し保持する。特に、基板SとマスクMとの相対位置調整後、基板S越しにマスクMを静電チャック24で吸着する際に、電極対をなす第1電極と第2電極にそれぞれ付与される、接地電位に対する電位(以下、略して「電位」と呼ぶ)の和の絶対値は、基板SとマスクMとの相対位置調整時に第1電極と第2電極にそれぞれ付与される電位の和の絶対値よりも大きくなるように、第1電極と第2電極の少なくとも一つの電極に付与される電位を制御する。これについては、図3図5を参照して後述する。
【0037】
図2には図示しなかったが、静電チャック24の吸着面とは反対側に基板Sの温度上昇を抑える冷却機構(例えば、冷却板)を設けることで、基板S上に堆積された有機材料の変質や劣化を抑制する構成としてもよい。
【0038】
成膜源25(蒸着源、蒸発源ともいう)は、基板に成膜される成膜材料が収納されるるつぼ(不図示)、るつぼを加熱するためのヒータ(不図示)、成膜源25からの蒸発レートが一定になるまで成膜材料が基板に飛散することを阻むシャッタ(不図示)などを含む。成膜源25は、点(point)成膜源や線状(linear)成膜源など、用途に従って多様な構成を有することができる。
【0039】
図2に図示しなかったが、成膜装置11は、基板に蒸着された膜の厚さを測定するための膜厚モニタ及び膜厚算出ユニットを含む。
【0040】
真空容器21の上部外側(大気側)には、基板Zアクチュエータ26、マスクZアクチュエータ27、静電チャックZアクチュエータ28、位置調整機構29などが設けられる。これらのアクチュエータと位置調整機構は、例えば、モータとボールねじ、或いはモータとリニアガイドなどで構成される。基板Zアクチュエータ26は、基板支持ユニット22を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。マスクZアクチュエータ27は、マスク支持ユニット23を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。静電チャックZアクチュエータ28は、静電チャック24を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。
【0041】
位置調整機構29は、静電チャック24のアライメントのための駆動手段である。位置調整機構29は、静電チャック24全体を基板支持ユニット22及びマスク支持ユニット23に対して、X方向移動、Y方向移動、θ回転させる。なお、本実施形態では、基板Sを吸着した状態で、静電チャック24をX、Y、θ方向に位置調整することで、基板SとマスクMの相対的位置を調整するアライメントを行う。
【0042】
真空容器21の外側上面には、上述した駆動機構の他に、真空容器21の上面に設けられた透明窓を介して、基板S及びマスクMに形成されたアライメントマークを撮影するためのアライメント用カメラ20を設置してもよい。本実施例においては、アライメント用カメラ20は、矩形の基板S、マスクM及び静電チャック24の対角線に対応する位置または、矩形の4つのコーナー部に対応する位置に設置しても良い。
【0043】
本実施形態の成膜装置11に設置されるアライメント用カメラ20は、基板SとマスクMとの相対的な位置を高精度で調整するのに使われるファインアライメント用カメラであり、その視野角は狭いが高解像度を持つカメラである。成膜装置11は、ファインアライメント用カメラ20の他に相対的に視野角が広くて低解像度であるラフアライメント用カメラを有してもよい。
【0044】
尚、位置調整機構29は、アライメント用カメラ20によって取得した基板S(第1被吸着体)及びマスクM(第2被吸着体)の位置情報に基づいて、基板S(第1被吸着体)とマスクM(第2被吸着体)を相対的に移動させて位置調整するアライメントを行う。
【0045】
成膜装置11は、制御部(不図示)を具備する。制御部は、基板Sの搬送及びアライメント、成膜源25の制御、成膜の制御などの機能を有する。制御部は、例えば、プロセッサ、メモリー、ストレージ、I/Oなどを持つコンピューターによって構成可能である。この場合、制御部の機能はメモリーまたはストレージに格納されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピューターとしては、汎用のパーソナルコンピューターを使用してもよく、組込み型のコンピューターまたはPLC(programmable logic controller)を使用してもよい。または、制御部の機能の一部または全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。また、成膜装置ごとに制御部が設置されていてもよく、一つの制御部が複数の成膜装置を制御するように構成してもよい。
【0046】
<吸着装置>
図3を参照して本実施形態による吸着装置30について説明する。
図3は、本実施形態の吸着装置30の概念的なブロック図である。図3に示すように、本実施形態の吸着装置30は、静電チャック24と、電位付与部31と、電位制御部32とを含む。
【0047】
電位付与部31は、静電チャック24の電極部に電位を付与し、2つの電極部の間に電位差を発生させて静電引力を発生させる。なお、電位付与部31による各電極部への電位の付与は、各電極部と不図示の接地電極との間に所望の電圧をそれぞれ印加することで行っても良い。
【0048】
電位制御部32は、吸着装置30の吸着工程または成膜装置11の成膜工程の進行に応じて、電位付与部31から電極部に加えられる電位の大きさ、電位の付与開始時点、電位の維持時間、電位の付与順番などを制御する。電位制御部32は、例えば、静電チャック24の電極部に含まれる第1電極241と第2電極242への電位付与を独立に制御することができる。本実施形態では、電位制御部32が成膜装置11の制御部とは別途に設けられるが、本発明はこれに限定されず、成膜装置11の制御部に統合されてもいい。
【0049】
静電チャック24は、吸着面に被吸着体(例えば、基板S、マスクM)を吸着するための静電吸着力を発生させる、複数の電極を有する電極部を含み、電極部は、電極対をなす第1電極241と第2電極242とを含む。第1電極241は、電位制御部32の制御によって電位付与部31が所定の電位(Va)を付与する電極または電極のセットを指し、第2電極242は、電位制御部32の制御によって電位付与部31が、第1電極241に付与される電位(Va)とは異なる所定の電位(Vb)を付与する電極または電極のセットを指す。そして、第1電極241と第2電極242にそれぞれ付与される電位によって、静電チャック24は、基板Sだけを吸着する静電引力か、または基板SとマスクMを共に吸着する静電引力を発生することができる。
【0050】
図3には、第1電極241と第2電極242が一つずつ交互に配置されているが、これに限定されず、第1電極241と第2電極242は他の形態で(例えば、2つずつ交互に)配置されていてもよい。
【0051】
交互に配置されている第1電極241及び第2電極242は、被吸着体との間で静電引力を発生させることができるかぎり、多様な形状を有することができる。例えば、第1電極241及び第2電極242は、それぞれ櫛形状を有してもよい。櫛状の第1電極241及び第2電極242は、それぞれ複数の櫛歯部と、複数の櫛歯部に連結される基部とを含む。各電極241、242の基部は櫛歯部に電位を供給し、複数の櫛歯部は、被吸着体との間で静電吸着力を生じさせる。このため、第1電極241の各櫛歯部は、第2電極24
2の各櫛歯部と対向するように、交互に配置される。このように、各電極241、242の各櫛歯部が対向しかつ互いに入り組んだ構成とすることで、異なる電位が付与される電極間の間隔を狭くすることができ、大きな不平等電界を形成し、グラジエント力によって被吸着体を吸着することができる。
【0052】
<吸着装置による吸着及方法及び電位の制御>
図4(a)~図4(c)は、本発明による吸着方法によって、静電チャック24に基板S及びマスクMを順次に吸着する過程と、その時の電位制御を示す断面模式図である。
【0053】
図4(a)は、真空容器21内の基板支持ユニット22に基板S、そして、マスク支持ユニット23にマスクMがそれぞれ載置されている状態を示す。図4(a)を参照すると、静電チャック24から所定の間隔で離隔されている基板Sは、静電チャック24がある方向とは反対方向にマスクMとも所定の間隔をもって離隔されている。そして、静電チャック24の第1電極241と第2電極242には電位が付与されておらず、静電チャック24には静電引力が誘発されていない。
【0054】
続いて、第1電極241と第2電極242に所定の電位を付与し静電チャック24に基板Sを吸着させた後、静電チャック24に吸着された基板Sと、マスクMとの相対位置を調整する。
【0055】
図4(b)は、このように、基板Sを静電チャック24に吸着させた状態で、マスクMとの相対位置を調整する工程を示している。具体的な図示は省略しているが、マスクとの相対位置の調整は、基板SとマスクMが接触しない範囲内で相互間の離隔距離が狭まった状態で行われることが好ましく、そのため、基板吸着の後、静電チャック24を下降させるかマスク支持ユニット23を上昇させて、基板SとマスクMとの相対位置を調整する高さまで基板SまたはマスクMを移動させる工程が追加で行われてもよい。
【0056】
図4(b)を参照すると、静電チャック24の第1電極241には、第1電位(V1)が付与され、同時に、第2電極242には、第2電位(V2)が付与される。第1電位(V1)及び第2電位(V2)は、静電チャック24に基板Sを吸着させる際に第1電極241と第2電極242にそれぞれ付与していた電位で、この基板吸着時の付与電位がそのまま維持される状態で、基板SとマスクMとの相対位置を調整(アライメント)する。
【0057】
このとき、静電チャック24に基板Sのみ吸着され、マスクMは吸着されない程度の吸引力が誘発する限り、第1電位(V1)と第2電位(V2)それぞれの大きさや極性などに特に制限はない。好ましくは、第1電位(V1)は1kV、第2電位(V2)は-1kVのように、第1電位(V1)と第2電位(V2)は、接地電位に対する電位の絶対値の大きさは同じく、極性は異なる値を有することができる。これによれば、第1電極241と第2電極242との間の電位差(ΔV)は、基板Sを十分に吸着することができる大きさとなり、一方、第1電位(V1)または第2電位(V2)自体の大きさ、つまり、第1電極241または第2電極242の接地電位に対する電位は、相対的に小さく(例えば、1kV)、マスクMは静電チャック24の静電引力によって吸引されない。したがって、静電チャック24に基板Sを吸着した状態で、基板SとマスクMのアライメントを行っても、基板SとマスクMは互いに接触しないので、基板Sの表面やその上部に形成されている物質膜の損傷を防止することができる。
【0058】
静電チャック24に基板Sを吸着した状態で基板SとマスクMのアライメント工程を行った後には、基板S越しにマスクMを静電チャック24で吸着する工程を行う。図4(c)は、静電チャック24に、基板S越しにマスクMを吸着させる工程を示している。図4(c)を参照すると、静電チャック24の第1電極241には第3電位(V3)を付与し
、同時に、第2電極242には第4電位(V4)を付与する。
【0059】
本発明の実施例では、基板S越しにマスクMを静電チャック24に吸着することができる十分な大きさの吸引力が誘発されるように、第1電極241と第2電極242の少なくとも一つの電極に付与される電位を変化させる。つまり、第3電位(V3)と第4電位(V4)の和の絶対値が、第1電位(V1)と第2電位(V2)の和の絶対値よりも大きくなるように、第1電極241と第2電極242の電位を制御する。
【0060】
より具体的には、図4(b)を参照して前述したように、基板SとマスクMのアライメント時には、第1電位(V1)と第2電位(V2)との間の電位差(ΔV)が所定の大きさとなるように、第1電極241と第2電極242の電位を制御する。つまり、静電チャック24に基板Sのみ吸着される吸引力が発生するように電位差(ΔV)を制御する。要するに、基板Sを吸着する力は、主に静電チャック24の電極対241、242の電位差の大きさを調整することでコントロールすることができる。一方、マスクMを吸着する力は、電位差(ΔV)は同じであっても、静電チャック24の電極対241、242を構成する各電極の電位の大きさを調整することによっても変化させることができる。そこで、図4(c)に示すように、基板S越しにマスクMを吸着する際には、第3電位(V3)と第4電位(V4)の少なくとも一つの大きさ(絶対値)が大きくなるように、第1電極241と第2電極242それぞれの電位を制御する。
【0061】
例えば、基板SとマスクMのアライメント時には、第1電位(V1)と第2電位(V2)は、絶対値の大きさは同じで、極性は異なる電位になるように制御される。一方、アライメント終了後、基板S越しにマスクMを吸着する際には、第3電位(V3)と第4電位(V4)の和の絶対値が、第1電位(V1)と第2電位(V2)の和の絶対値よりも大きくなるように、第1電極241と第2電極242の少なくとも一つの電極に付与される電位を変化させる。つまり、第1電極241と第2電極242に付与される電位が、+側または-側に寄せられるように制御する。
【0062】
このとき、第3電位(V3)と第4電位(V4)間の電位差(ΔV)は、第1電位(V1)と第2電位(V2)間の電位差(ΔV)と同一になるように制御されることができる。同じ電位差を維持することで、マスクMの吸着が行われる間に、基板Sは引き続き静電チャック24に吸着されている状態となる。例えば、前述した例のように、第1電位(V1)は1kV、第2電位(V2)は-1kVである場合、第3電位(V3)と第4電位(V4)は、2kVの電位差(ΔV)を維持しつつ、制御することができる。すなわち、第3電位(V3)と第4電位(V4)は、それぞれ、2kVと0kV、4kVと2kV、0kVと-2kV、または-2kVと-4kVなどのように制御することができる。このうち、第3電位(V3)と第4電位(V4)のいずれかが接地電位である場合(例えば、第3電位(V3)と第4電位(V4)が、2kVと0kV、または0kVと-2kVである場合)は、他の場合(例えば、第3電位(V3)と第4電位(V4)が、4kVと2kV、または-2kVと-4kVである場合)に比べて、相対的に低電位の電源で第1電極241と第2電極242それぞれに電位を付与することができる。
【0063】
これとは異なり、第3電位(V3)と第4電位(V4)間の電位差(ΔV)が、第1電位(V1)と第2電位(V2)間の電位差(ΔV)よりも大きくなるように、制御することもできる。この場合は、基板Sを吸着する力が増加し、基板Sは引き続き静電チャック24に吸着されていることができ、また、マスクMを吸着する力も共に増加し、基板SとマスクMの密着度を高めることもできる。
【0064】
<成膜プロセス>
以下、本実施形態による静電チャックの電位制御を採用した成膜方法について説明する

真空容器21内のマスク支持ユニット23にマスクMが支持された状態で、搬送室13の搬送ロボット14によって成膜装置11の真空容器21内に基板が搬入される。
真空容器21内に進入した搬送ロボット14のハンドが下降し、基板Sを基板支持ユニット22の支持部上に載置する。
【0065】
続いて、静電チャック24が基板Sに向かって下降し、基板Sに十分に近接或いは接触した後に、静電チャック24の電極対、すなわち第1電極241と第2電極242にそれぞれ第1電位(V1)と第2電位(V2)を付与し、基板Sを吸着する。
【0066】
本発明の一実施形態においては、基板Sを静電チャック24に十分吸着させるとともに、後述する基板SとマスクMのアライメント時にマスクMが吸引され基板Sと接触することを防止するために、第1電位(V1)と第2電位(V2)は、大きさは同じで極性は異なるように制御される。
【0067】
静電チャック24に基板Sが吸着された状態で、基板SのマスクMに対する相対的な位置ずれを計測するために、基板SをマスクMに向かって下降させる。このとき、第1電極241と第2電極242にそれぞれ付与される第1の電位(V1)と第2電位(V2)は、同じ大きさで維持される。
【0068】
基板Sが計測位置まで下降すると、アライメント用カメラ20で基板SとマスクMに形成されたアライメントマークを撮影して、基板とマスクの相対的な位置ずれ量を計測する。計測の結果、基板のマスクに対する相対的な位置ずれ量が閾値を超えることが判明すれば、静電チャック24に吸着された状態の基板Sを水平方向(XYθ方向)に移動させて、基板をマスクに対して、位置調整(アライメント)する。なお、基板SとマスクMにそれぞれ形成されたアライメントマークの計測を行う計測工程の後に行われる、基板SとマスクMの少なくとも一方を移動させる位置調整工程の際には、計測工程における基板SとマスクMとの間の間隔よりも、位置調整工程における基板SとマスクMとの間の間隔が大きくなるようにしてもよい。このようにすることで、基板SとマスクMとを相対移動させる際に基板SとマスクMとが接触して基板Sや基板S上に形成されている素子、マスクMの損傷をより確実に抑制することができるようになる。このような場合には、少なくとも、アライメント工程のうちの計測工程において、第1電極241に第1の電位(V1)が付与され、第2電極242に第2電位(V2)が付与されるようにすることが好ましい。
【0069】
アライメント工程の後、マスクMを基板S越しに静電チャック24に吸着させる。このため、静電チャック24の電極対、つまり、第1電極241と第2電極242に、それぞれ第3電位(V3)と第4電位(V4)を付与する。このとき、第3電位(V3)と第4電位(V4)の電位差は、第1電位(V1)と第2電位(V2)の電位差と同じで、かつ、第3電位(V3)と第4電位(V4)との和の絶対値は、第1電位(V1)と第2電位(V2)との和の絶対値よりも大きくなるように、第1電極241と第2電極242の少なくとも一つの電極に付与される電位を変化させる。実施例によっては、第3電位(V3)と第4電位(V4)の電位差は、第1電位(V1)と第2電位(V2)の電位差よりも大きくすることもできる。
【0070】
このようなマスクMの吸着工程が完了した後、成膜源25のシャッタを開け、成膜材料をマスクを介して基板Sに蒸着させる。
【0071】
なお、上述の説明では、成膜装置11は、基板Sの成膜面が鉛直方向下方を向いた状態で成膜が行われる、いわゆる上向蒸着方式(デポアップ)の構成としたが、これに限定はされず、基板Sが真空容器21の側面側に垂直に立てられた状態で配置され、基板Sの成
膜面が重力方向と平行な状態で成膜が行われる構成であってもよい。
【0072】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施形態の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
【0073】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。図5(a)は有機EL表示装置60の全体図、図5(b)は1画素の断面構造を表している。
【0074】
図5(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例にかかる有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0075】
図5(b)は、図5(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、陽極64と、正孔輸送層65と、発光層66R、66G、66Bのいずれかと、電子輸送層67と、陰極68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R、66G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、陽極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と陰極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、陽極64と陰極68とが異物によってショートするのを防ぐために、陽極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0076】
図5(b)では正孔輸送層65や電子輸送層67が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を含む複数の層で形成されてもよい。また、陽極64と正孔輸送層65との間には陽極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、陰極68と電子輸送層67の間にも電子注入層が形成されることができる。
【0077】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および陽極64が形成された基板63を準備する。
【0078】
陽極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、陽極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0079】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の有機材料成膜装置に搬入し、静電チ
ャックにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の陽極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0080】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャックにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、静電チャックにてマスクを基板越しに保持し、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
【0081】
発光層66Rの成膜と同様に、第3有機材料成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0082】
電子輸送層67まで形成された基板を金属性材料成膜装置で移動させて陰極68を成膜する。
その後、プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0083】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0084】
上記実施例は本発明の一例を示したが、本発明は上記実施例の構成に限定されないし、その技術思想の範囲内で適切に変形しても良い。
【符号の説明】
【0085】
11:成膜装置
21:真空容器
22:基板支持ユニット
23:マスク支持ユニット
24:静電チャック
30:吸着装置
31:電位付与部
32:電位制御部
241、242:電極対(第1電極、第2電極)
図1
図2
図3
図4
図5