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  • 特許-神経変性に対する保護剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】神経変性に対する保護剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/05 20060101AFI20220203BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A61K31/05
A61P25/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017152754
(22)【出願日】2017-08-07
(65)【公開番号】P2019031459
(43)【公開日】2019-02-28
【審査請求日】2020-07-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年3月18日にアクロス福岡で開催された「第67回日本木材学会大会」で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】小藤田 久義
(72)【発明者】
【氏名】山地 由恵
(72)【発明者】
【氏名】若林 篤光
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-044768(JP,A)
【文献】小児内科,2015年,47(9),1644-1696
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/05
A61P 25/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルギノールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分とする、アミロイドベータペプチド(Aβ)の蓄積による神経変性に対する保護剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性に対する保護剤に関する。より詳細には、アミロイドベータペプチド(Aβ)の蓄積による神経変性に対する保護剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会の到来とともに認知症患者が増加している。認知症のほとんどは、神経変性疾患であるアルツハイマー病(AD)によるものであり、ADはAβの蓄積によって誘発されることが知られている。従って、Aβの蓄積による神経変性に対する保護剤の研究開発が盛んに行われているが(例えば特許文献1)、ADの予防方法や治療方法は、今なお確立されるには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-101353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、Aβの蓄積による神経変性に対する保護剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の点に鑑みて鋭意検討を行った結果、スギの樹皮に含まれる揮発性抗菌成分として知られているフェルギノール(ferruginol)が、Aβの蓄積による神経変性に対する保護作用を有することを見出した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明のAβの蓄積による神経変性に対する保護剤は、請求項1記載の通り、フェルギノールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、Aβの蓄積による神経変性に対する保護剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1における、フェルギノールのAβの蓄積による神経変性に対する保護作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の神経変性に対する保護剤は、フェルギノールまたはその薬学的に許容される塩を有効成分とするものである。
【0010】
本発明において用いるフェルギノールは、スギの樹皮に含まれる揮発性抗菌成分として知られているアビエタン系のジテルペノイドであり、下記の化学構造を有する(小藤田久義ら、木材学会誌 Vol.47,No.6,p.479-486(2001))。
【0011】
【化1】
【0012】
本発明において用いるフェルギノールは、例えば、スギの樹皮を原料として、ヘキサン、酢酸エチル、クロロホルム、アセトン、アルコール(メタノールやエタノールやイソプロパノールなど)などの有機溶媒を用いた抽出操作、シリカゲルカラムクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーなどを用いた分離操作、減圧濃縮操作などを組み合わせて行うことで、取得することができる。フェルギノールは、単離精製されたものに限定されず、フェルギノールを含む溶媒抽出物や精油などの形態で用いてもよい。また、本発明において用いるフェルギノールは、有機化学的手法で合成されたものであってもよい。フェルギノールの薬学的に許容される塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩などを例示することができる。
【0013】
本発明の神経変性に対する保護剤は、各種の製剤形態に製剤化することでそれ自体を医薬品や健康食品として服用や摂取することができることに加え、各種の飲食品に配合して摂取することで、ADの予防剤や治療剤としての効果が期待できる。その適用量は、適用者の年齢や体重、症状の程度、適用形態などによって異なるが、特に制限されるものではない。また、本発明の神経変性に対する保護剤は、その有効成分であるフェルギノールが揮発性を有することから、経鼻的吸入によるアロマセラピー的用法で用いることもできる。この適用形態は、これまでにないADの予防方法や治療方法として期待される。
【実施例
【0014】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0015】
実施例1:フェルギノールのAβの蓄積による神経変性に対する保護作用
小藤田久義ら、木材学会誌 Vol.47,No.6,p.479-486(2001)に記載の方法に従って、スギの樹皮の粉末からヘキサン抽出物を得、その分画を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーと高速液体クロマトグラフィー(順相および逆相)を用いて行い、減圧濃縮して単離精製した、白色粉末のフェルギノール(マススペクトル、核磁気共鳴スペクトル、旋光度を文献値と比較することにより同定)を被験物質として、以下の実験を行った。
【0016】
(実験方法)
ヒトAβ遺伝子が導入されたトランスジェニック線虫(C.elegans CL4176系統)を用いて調べた。この線虫は、25℃において筋組織特異的にヒトAβが発現して蓄積し、麻痺状態をもたらす。この際、被験物質を共存させ、麻痺状態が抑制されるか否かを観察することで、被験物質のAβの蓄積による神経変性に対する保護作用の有無を知ることができる(Wu,Y.ら、Current Alzheimer Research,2,37(2005))。直径52mmの試験用プレートに、被験物質としてのフェルギノール5μgを含むDMSO溶液10μLを、線虫のエサとなる大腸菌(OP50株の24時間培養物)10μLとともに滴下・塗布した後、大腸菌を25℃で24時間増殖させてから、別に16℃で飼育した線虫(L3幼虫)50匹を移した。その後、25℃で線虫を飼育することで、経時的に麻痺状態になった個体数を追跡した。なお、ポジティブコントロールには、市販のギンコライドA(5μg)を用い、上記と同様の方法で、経時的に麻痺状態になった個体数を追跡した。
【0017】
(実験結果)
Aβの蓄積によってもたらされる麻痺状態にならなかった個体数の経時的変化を図1に示す。図1から明らかなように、フェルギノールは、ギンコライドAと同程度のAβの蓄積による神経変性に対する保護作用を有することがわかった。
【0018】
製剤例1:錠剤
以下の成分組成からなる神経変性に対する保護のための錠剤を自体公知の方法で製造した。
フェルギノール 1
乳糖 80
ステアリン酸マグネシウム 19 (単位:重量%)
【0019】
製剤例2:ビスケット
以下の成分組成からなる神経変性に対する保護のためのビスケットを自体公知の方法で製造した。
フェルギノール 1
薄力粉 32
全卵 16
バター 16
砂糖 24
水 10
ベーキングパウダー 1 (単位:重量%)
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、Aβの蓄積による神経変性に対する保護剤を提供することができる点において、産業上の利用可能性を有する。
図1