IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 一般財団法人電力中央研究所の特許一覧

特許7007994周波数変化率耐量の算出プログラム、算出方法および算出装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】周波数変化率耐量の算出プログラム、算出方法および算出装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20220118BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/38 180
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018130953
(22)【出願日】2018-07-10
(65)【公開番号】P2019221121
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】P 2018113957
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年3月5日発行の平成30年電気学会全国大会講演論文集の第493、494頁にて公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年6月1日に一般財団法人電力中央研究所 研究報告書のウェブサイトにて公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白崎 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】天野 博之
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-007320(JP,A)
【文献】国際公開第2018/033638(WO,A1)
【文献】特表2019-530394(JP,A)
【文献】特開2014-121252(JP,A)
【文献】特開2005-198370(JP,A)
【文献】特開2015-073399(JP,A)
【文献】特開2011-030306(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0098449(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力の周波数が所定の初期値から一定の周波数変化率で変化するものとして、直近の第1の期間の電力の周波数の移動平均と所定の経過期間前の過去の第2の期間の電力の周波数の移動平均との差がしきい値となる前記周波数変化率の限度値を算出し、
算出された前記限度値に基づく情報を出力する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする周波数変化率耐量の算出プログラム。
【請求項2】
前記限度値を算出する処理は、前記第1の期間の電力の周波数の移動平均を前記第1の期間の中間点の周波数とし、前記第2の期間の電力の周波数の移動平均を前記第2の期間の中間点の周波数として、前記限度値を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の周波数変化率耐量の算出プログラム。
【請求項3】
前記限度値を算出する処理は、前記初期値をf0とし、前記第1の期間をtnとし、前記経過期間をtrとし、前記第2の期間をtとし、前記しきい値をΔTtとした場合、(1)式から前記限度値を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の周波数変化率耐量の算出プログラム。
【数1】
【請求項4】
前記しきい値をΔTtとした場合、単独運転検出機能の検出方式が電圧位相跳躍検出方式である場合、電圧位相跳躍検出方式のしきい値Δθtから(2-1)式を用いて前記しきい値ΔTtを算出し、単独運転検出機能の検出方式が周波数変化率検出方式である場合、周波数変化率検出方式のしきい値Δftから(2-2)式を用いて前記しきい値ΔTtを算出する
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載の周波数変化率耐量の算出プログラム。
【数2】
【請求項5】
算出された前記限度値、前記第2の期間および前記経過期間に基づき、前記限度値に対する周波数変化率の倍数に対して、脱落の検出に要する検出期間が、前記第2の期間と前記経過期間とを加算した加算期間に反比例するものとして、脱落が発生する境界となる周波数変化率と前記検出期間の条件を算出する処理をコンピュータにさらに実行させ、
前記出力する処理は、算出された前記条件に基づく情報を出力する
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1つに記載の周波数変化率耐量の算出プログラム。
【請求項6】
前記出力する処理は、前記条件に基づき、周波数変化率と前記検出期間の関係をグラフで表示する
ことを特徴とする請求項5に記載の周波数変化率耐量の算出プログラム。
【請求項7】
電力の周波数が所定の初期値から一定の周波数変化率で変化するものとして、直近の第1の期間の電力の周波数の移動平均と所定の経過期間前の過去の第2の期間の電力の周波数の移動平均との差がしきい値となる前記周波数変化率の限度値を算出し、
算出された前記限度値に基づく情報を出力する
処理をコンピュータが実行することを特徴とする周波数変化率耐量の算出方法。
【請求項8】
電力の周波数が所定の初期値から一定の周波数変化率で変化するものとして、直近の第1の期間の電力の周波数の移動平均と所定の経過期間前の過去の第2の期間の電力の周波数の移動平均との差がしきい値となる前記周波数変化率の限度値を算出する算出部と、
前記算出部により算出された前記限度値に基づく情報を出力する出力部と、
を有することを特徴とする周波数変化率耐量の算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数変化率耐量の算出プログラム、算出方法および算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
低炭素社会の実現に向け再生可能エネルギー電源、特に太陽光発電(以下「PV」とも記載する。)の導入が進んでいる。電力を需要家の受電設備に供給する電力系統(以下「系統」とも記載する。)では、PVの導入拡大に伴い、平常時の需給運用のみならず、緊急時の安定性への影響が顕在化しつつある。
【0003】
電力会社は、一定の需要に対して、PVの出力が増加すれば、既存の同期発電機(発電機)による出力を減少させる必要があり、下げ代の制約や経済運用のために発電機を停止させる場合もある。このとき、系統に並列された発電機の容量の減少は、系統全体の慣性や電圧維持能力などが減少することを意味しており、系統事故時の周波数安定性や過渡安定度が低下するおそれがある。例えば、大電源脱落や系統分離などが発生した場合においては、慣性の減少により、系統に残された発電機の回転速度は変化しやすくなる。このため、系統を流れる電力の周波数変化率(RoCoF:Rate of Change of Frequency)は、増加傾向となる。なお、周波数変化率は、系統に供給される電力の周波数fの単位時間当たりの変化として、|df/dt|と表せる。
【0004】
PVは、パワーコンディショナ(PCS:Power Conditioning Subsystem)を介して系統に接続される。PCSは、単独運転検出機能を基本的に備えており、連系点電圧の周期偏差または周波数偏差による単独運転の判定を行なっている。PVが大量に連系されている系統では、PVが一斉に脱落すると、系統の電力に電圧変動、周波数変動などの外乱が発生し、電力品質を大きく低下させてしまう原因となる。ここでの「脱落」とは、PCSがゲートブロック後、系統条件が異常で復帰できない状態を指す。
【0005】
そこで、現在、日本では、事故時運転継続(Fault Ride Through)要件(以下「FRT要件」とも記載する。)が規定されている。FRT要件では、±2[Hz/sec]の周波数変動に対して、PCSが系統と連携した運転を継続することを要求している。PCSの単独運転検出機能は、FRT要件を満足するように設計する必要がある。一方、PCSには、FRT要件が定められる以前のFRT非対応の機種がある。FRT非対応のPCS機種については、RoCoFが±2[Hz/sec]に達していなくとも脱落するおそれがある。
【0006】
このため、大電源脱落事故時は、電圧位相跳躍および周波数低下が生じるため、FRT非対応のPCS機種が単独運転検出機能の検出方式の不要動作により広範囲で脱落し、周波数低下を助長するおそれがある。
【0007】
単独運転検出機能の設定値は、PCSの機種毎に異なり、脱落が生じるRoCoFには差異がある。このため、現状は、各種の単独運転検出機能を個別にモデリングし、所望の周波数変動を与えるシミュレーション解析などによりPCS機種の脱落を推定している。
【0008】
非特許文献1には、シミュレーション解析により系統の安定性を評価する技術が提案されている。非特許文献1の技術では、PV単体の特性を模擬したY法用PVモデルを用いてPVが連携する下位系統のモデルを構築し、シミュレーション解析を行う。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】白崎 圭亮、北内 義弘、“再生可能エネルギー大量導入時の各種系統条件が基幹系統の系統安定度に及ぼす基本的な影響”、電力中央研究所報告R14013、2015年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の技術では、PCSの機種毎にモデルを構築して、シミュレーション解析を行わなければならず、PCSが脱落するかを簡易に推定できなかった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、PCSが脱落するかを簡易に推定できる周波数変化率耐量の算出プログラム、算出方法および算出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の周波数変化率耐量の算出プログラムは、コンピュータに、電力の周波数が所定の初期値から一定の周波数変化率で変化するものとして、直近の第1の期間の電力の周波数の移動平均と所定の経過期間前の過去の第2の期間の電力の周波数の移動平均との差がしきい値となる周波数変化率の限度値を算出し、算出された限度値に基づく情報を出力する処理を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、PCSが脱落するかを簡易に推定できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、判定ロジックを概略的に示した図である。
図2図2は、電力の周波数の変化に対する周期偏差の変化の一例を示した図である。
図3図3は、周波数がランプ状に変動する場合の判定ロジックを概略的に示した図である。
図4図4は、期間t+trの周期偏差ΔTの変化の一例を示す図である。
図5図5は、算出装置の機能的な構成の一例を示す図である。
図6図6は、表示されるグラフの一例を示す図である。
図7図7は、算出処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図8A図8Aは、単独運転検出機能の検出方式、判定ロジック、設定値を示す図である。
図8B図8Bは、単独運転検出機能の検出方式、判定ロジック、設定値を示す図である。
図9A図9Aは、基準周波数50HzのRoCoF耐量を示す図である。
図9B図9Bは、基準周波数60HzのRoCoF耐量を示す図である。
図10A図10Aは、基準周波数50Hzについてシミュレーション解析を行った周波数変化率を示す図である。
図10B図10Bは、基準周波数60Hzについてシミュレーション解析を行った周波数変化率を示す図である。
図11A図11Aは、基準周波数50Hzでのシミュレーション解析による脱落の有無の結果を示す図である。
図11B図11Bは、基準周波数60Hzでのシミュレーション解析による脱落の有無の結果を示す図である。
図12A図12Aは、Bのグループのシミュレーション解析の結果を示す図である。
図12B図12Bは、Nのグループのシミュレーション解析の結果を示す図である。
図12C図12Cは、Hのグループのシミュレーション解析の結果を示す図である。
図12D図12Dは、Sのグループのシミュレーション解析の結果を示す図である。
図13A図13Aは、基準周波数50Hzについて、N、H、Sのグループの周波数変化率RoCoFと、当該周波数変化率RoCoFに対応するRoCoF検出時間の関係を示したグラフである。
図13B図13Bは、基準周波数60Hzについて、N、H、Sのグループの周波数変化率RoCoFと、当該周波数変化率RoCoFに対応するRoCoF検出時間の関係を示したグラフである。
図14図14は、算出プログラムを実行するコンピュータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明にかかる周波数変化率耐量の算出プログラム、算出方法および算出装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。そして、各実施例は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【実施例1】
【0016】
[周波数変化率耐量(RoCoF耐量)の算出手法]
最初に、PCSが脱落に至らない周波数変化率(RoCoF)の限度値(周波数変化率耐量、以下、「RoCoF耐量」とも記載する。)の算出手法について説明する。上述のように、PCSは、FRT要件により、±2[Hz/sec]の周波数変動に対して、系統と連携した運転を継続することが要求されている。PCSの単独運転検出機能は、FRT要件を満足するように設計する必要がある。一方、PCSには、FRT要件が定められる以前のFRT非対応の機種がある。FRT非対応のPCS機種については、RoCoFが±2[Hz/sec]に達していなくとも脱落するおそれがある。
【0017】
FRT非対応機種の単独運転検出機能は、受動的方式の検出感度が高く、受動的方式の代表的な検出方式には、周波数変化率検出方式と電圧位相跳躍検出方式とがある。
【0018】
図1は、判定ロジックを概略的に示した図である。周波数変化率検出方式および電圧位相跳躍検出方式は、基本的に移動平均により算出された最近周期と過去周期との周期偏差がしきい値を超えたかどうかで、単独運転の判定を行っている。例えば、周波数変化率検出方式および電圧位相跳躍検出方式は、判定対象とする時刻t1を基準として、時刻t1から直近の第1の期間tnの電力の周期の移動平均と、時刻t1から所定の経過期間tr前の過去の第2の期間tの電力の周期の移動平均を算出し、第1の期間tnの周期の移動平均と第2の期間tの周期の移動平均との差分がしきい値を超えたかどうかで単独運転の判定を行っている。このため、周波数変化率検出方式および電圧位相跳躍検出方式は、基本的な判定ロジックが共通とみなすことができると考えられる。交流電力の周期は、交流電力の周波数の逆数である。このため、第1の期間tnの周期の移動平均は、第1の期間tnの周波数の移動平均fnの逆数となる。また、第2の期間tの周期の移動平均は、第2の期間tの周波数の移動平均fの逆数となる。
【0019】
図2は、電力の周波数の変化に対する周期偏差の変化の一例を示した図である。図2(A)には、電力の周波数がランプ状に変動する場合の周波数の変化が示されている。電力の周波数のランプ状の変動とは、周波数が一定の周波数変化率で増加または低下する状態である。図2(A)には、電力の周波数が、時刻tsに初期値f0から0.5[Hz/sec]、1.0[Hz/sec]、2.0[Hz/sec]の周波数変化率でそれぞれ低下している状態を示している。初期値f0は、例えば、電力の基準周波数(50Hzまたは60Hz)である。
【0020】
図2(B)には、電力の周波数がランプ状に変動する場合の周期偏差の変化の一例が示されている。図2Bには、電力の周波数が0.5[Hz/sec]、1.0[Hz/sec]、2.0[Hz/sec]の周波数変化率でそれぞれ低下する場合の周期偏差ΔTの変化が示されている。図2Bに示すように、周期偏差ΔTは、周波数変化率の大きさに関わらず、時刻tsにランプ状の周波数変動が開始してから第2の期間tと経過期間trを加算した期間t+trを経過するまで急増する。そして、周期偏差ΔTは、期間t+trの経過後、緩やかに増加する。
【0021】
ここで、本発明者は、電力の周波数がランプ状に変動する場合について、周波数変化率検出方式および電圧位相跳躍検出方式に関する判定ロジックの設定値から、PCSが脱落に至らないRoCoF耐量を簡易的に求める手法を考案した。なお、本実施例では、電圧位相跳躍による不要動作防止用のオンディレイタイマの影響は、検出時間に影響があるものの、RoCoF耐量に影響しないため、考慮しないこととする。
【0022】
図3は、周波数がランプ状に変動する場合の判定ロジックを概略的に示した図である。なお、図3の例では、電力の周波数が、周波数の初期値f0から一定の周波数変化率で低下している状態を示している。
【0023】
周波数変化率検出方式および電圧位相跳躍検出方式の判定ロジックでは、判定対象とする時刻t1を基準として、時刻t1から直近の第1の期間tnの電力の周波数の移動平均fnと、時刻t1から経過期間tr前の過去の第2の期間tの電力の周波数の移動平均fをそれぞれ算出する。
【0024】
電力の周波数がランプ状に変化している場合、電力の周波数変化率が大きいほど、判定ロジックの中で算出された周期偏差ΔTが増大する。周波数変化率検出方式および電圧位相跳躍検出方式は、周期偏差ΔTが周期換算のしきい値ΔTtを超えた場合に単独運転状態と判定される。この判定条件は、以下の(1)式で表すことができる。
【0025】
【数1】
【0026】
電圧位相跳躍検出方式の場合、判定に用いるしきい値は、しきい値Δθt[deg]として与えられる。周波数変化率検出方式の場合、判定に用いるしきい値は、しきい値Δft[%]として与えられる。しきい値Δθt[deg]は、以下の(2-1)式により、しきい値ΔTt[sec]に換算できる。また、しきい値Δf[%]は、以下の(2-2)式により、しきい値ΔTt[sec]に換算できる。
【0027】
【数2】
【0028】
図2(B)に示したように、周期偏差ΔTは、周波数変化率の大きさに関わらず、ランプ状の周波数変動が開始してから期間t+trを経過するまで急増する。そこで、期間t+trを経過時点で周期偏差ΔTがしきい値ΔTtに達するランプ状の周波数変動のレベルが概ねRoCoF耐量に相当すると考え、期間t+trを経過した時点の移動平均fn、移動平均fおよび周期偏差ΔTを定式化することを考える。
【0029】
電力の周波数が、周波数変化率df/dt<0でランプ状に変動する場合、図3に示すように、第1の期間tnの周波数の移動平均fnは、第1の期間tnの中間点の周波数と考えることができる。また、第2の期間tの周期の移動平均は、第2の期間tの中間点の周波数と考えることができる。このため、移動平均fn、移動平均fは、第1の期間tn、第2の期間t、経過期間tr、周波数変化率df/dt、周波数の初期値f0を用いて、以下の(3-1)、(3-2)式で表される。
【0030】
【数3】
【0031】
単独運転検出条件である上記の(1)式と上記の(3)式を連立すれば以下の(4)式が得られる。すなわち、(4)式の不等式が成り立つ場合に単独運転が検出されることを意味し、等号が成り立つ場合の周波数変化率df/dtが、RoCoF耐量に対応する。
【0032】
【数4】
【0033】
ここで、後述する図8A図8Bの示したPCSの代表的な設定値を与えた場合、いずれの場合も右辺の(df/dt)2の項の絶対値が他の項に比べ十分小さくなる。そこで、(4)式から(df/dt)2の項を除くと、以下の(5-1)式のようにRoCoFの概算式が得られる。(5-1)式の不等式が成り立つ場合の(5-2)式がRoCoF耐量に対応する。
【0034】
【数5】
【0035】
なお、単独運転検出機能の検出方式には、過去周期、最近周期の算出に移動平均値でなく合計値を用いる機種も存在する。しかし、nサイクルの移動平均値に対してnサイクルの合計値は、n倍の値となる。したがって、検出しきい値を1/n倍とすれば合計値を移動平均値とみなせるため、(5-2)式を適用することができる。これには、例えば、後述する図8AのNのグループなどが該当するが、検出しきい値は他と同程度の設定となっているため、RoCoF耐量が小さくなる特徴がある。
【0036】
図4は、期間t+trの周期偏差ΔTの変化の一例を示す図である。図4に示すように、周波数の変動開始から期間t+trが経過するまで、周期偏差ΔTの増加は、S字カーブを描く。期間t+trでは、周波数の初期値f0に対する電力の周波数の移動平均fの乖離が比較的小さいことに着目し、周期偏差ΔTの増加度合いを簡易的に線形とみなせば、周期偏差ΔTの増加の傾きと、RoCoF検出時間とは、ほぼ反比例の関係となる。すなわち、RoCoF耐量のn(>1)倍の周波数変化率が生じた場合のRoCoF検出時間は、1/n倍になるとみなせる。この関係は、以下の(6)式で表すことができる。なお、本実施例では、オンディレイタイマの影響を考慮していないが、考慮する場合は、以下の(6)式で示したRoCoF検出時間にタイマ時間を加算すればよい。
【0037】
【数6】
【0038】
この(6)式を用いることにより、周波数変化率RoCoFごとに、当該周波数変化率
RoCoFで脱落が検出される検出期間(RoCoF検出期間)を算出できる。
【0039】
[算出装置の構成]
次に、上述のRoCoF耐量の算出手法を適用した算出装置10の構成について説明する。図5は、算出装置の機能的な構成の一例を示す図である。算出装置10は、本実施例に係る手法を用いてRoCoF耐量を算出する情報処理装置である。算出装置10は、ノートパソコンやパーソナルコンピュータなどのコンピュータであってもよく、タブレット端末などの携帯端末装置であってもよい。
【0040】
算出装置10は、表示部20と、入力部21と、記憶部22と、制御部23とを有する。算出装置10は、図5に示した機能部以外にも既知の各種の機能部を有してもよい。例えば、算出装置10は、他の端末と通信を行う通信インタフェース部などを有してもよい。
【0041】
表示部20は、各種情報を表示する表示デバイスである。表示部20としては、LCD(Liquid Crystal Display)などの表示デバイスが挙げられる。表示部20は、各種情報を表示する。例えば、表示部20は、各種の操作画面や算出結果を表示する。
【0042】
入力部21は、各種の情報を入力する入力デバイスである。例えば、入力部21としては、算出装置10に接続されたキーボードやマウス、算出装置10に設けられた各種のボタン、表示部20上に設けられた透過型のタッチセンサなどの入力デバイスが挙げられる。なお、図5の例では、機能的な構成を示したため、表示部20と入力部21を別に分けているが、例えば、タッチパネルなど表示部20と入力部21を一体的に設けたデバイスで構成してもよい。
【0043】
記憶部22は、各種のデータを記憶する記憶デバイスである。例えば、記憶部22は、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)、光ディスクなどの記憶装置である。なお、記憶部22は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ、NVSRAM(Non Volatile Static Random Access Memory)などのデータを書き換え可能な半導体メモリであってもよい。
【0044】
記憶部22は、制御部23で実行されるOS(Operating System)や各種プログラムを記憶する。例えば、記憶部22は、後述する算出処理を実行する算出プログラムを含む各種のプログラムを記憶する。さらに、記憶部22は、制御部23で実行されるプログラムで用いられる各種データを記憶する。
【0045】
制御部23は、算出装置10を制御するデバイスである。制御部23としては、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)等の電子回路や、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路を採用できる。制御部23は、各種の処理手順を規定したプログラムや制御データを格納するための内部メモリを有し、これらによって種々の処理を実行する。制御部23は、各種のプログラムが動作することにより各種の処理部として機能する。例えば、制御部23は、受付部40と、第1算出部41と、第2算出部42と、出力部43とを有する。
【0046】
受付部40は、各種の受け付けを行う。例えば、受付部40は、RoCoF耐量の算出に用いる各種の情報の入力や各種の操作指示を受け付ける。例えば、受付部40は、不図示の操作画面を表示部20に表示させ、操作画面から、電力の周波数の初期値f0、直近の移動平均を求める第1の期間tn、過去の移動平均を求める第2の期間t、第2の期間tまでの経過期間tr、および、判定に用いるしきい値ΔTtの入力を受け付ける。なお、受付部40は、操作画面から、判定に用いるしきい値として、電圧位相跳躍検出方式のしきい値Δθt[deg]、周波数変化率検出方式のしきい値Δft[%]の入力を受け付けてもよい。また、受付部40は、不図示の操作画面からRoCoF耐量の算出開始の指示を受け付ける。
【0047】
第1算出部41は、受付部40に受け付けた各種の情報に基づき、電力の周波数が初期値f0から一定の周波数変化率で変化するものとして、直近の第1の期間tnの電力の周波数の移動平均と経過期間tr前の過去の第2の期間tの周波数の移動平均との差がしきい値ΔTtとなるRoCoF耐量を算出する。例えば、第1算出部41は、受付部40に受け付けた初期値f0、第1の期間tn、第2の期間t、経過期間tr、および、しきい値ΔTtから、上述の(5-2)式を用いてRoCoF耐量を算出する。
【0048】
なお、操作画面から、判定に用いるしきい値として、しきい値Δθt、しきい値Δftの入力を受け付けた場合、第1算出部41は、上述の(2-1)式、(2-2)式により、しきい値ΔTt[sec]に換算した後、RoCoF耐量を算出する。
【0049】
第2算出部42は、算出されたRoCoF耐量、第2の期間tおよび経過期間trに基づき、RoCoF耐量に対する周波数変化率の倍数に対して、脱落の検出に要する検出期間が、第2の期間tと経過期間trとを加算した期間t+trが反比例するものとして、脱落が発生する境界となる周波数変化率と検出期間の条件を算出する。例えば、第2算出部42は、上述の(6)式に、RoCoF耐量と期間t+trを代入し、周波数変化率RoCoFを様々に変化させて、周波数変化率RoCoFに対応するRoCoF検出時間する。
【0050】
出力部43は、各種の出力を行う。例えば、出力部43は、第1算出部41により算出されたRoCoF耐量に基づく情報を出力する。一例として、出力部43は、算出されたRoCoF耐量を操作画像に出力する。これにより、ユーザは、RoCoF耐量を把握できる。
【0051】
また、出力部43は、第2算出部42により算出された条件に基づく情報を出力する。一例として、出力部43は、周波数変化率RoCoFと、当該周波数変化率RoCoFに対応するRoCoF検出時間の関係を操作画面にグラフで表示する。
【0052】
図6は、表示されるグラフの一例を示す図である。図6には、各種の周波数変化率RoCoFと当該周波数変化率RoCoFに対応するRoCoF検出時間とを結んだグラフが示されている。それぞれの周波数変化率RoCoFでは、グラフの線の下側のRoCoF検出時間では単独運転が検出されず、グラフの線の上側のRoCoF検出時間となると単独運転が検出される。これにより、ユーザは、周波数変化率RoCoFごとに、単独運転が検出される境界となるRoCoF検出時間を把握できる。
【0053】
なお、出力部43は、RoCoF耐量に基づく情報や、周波数変化率RoCoFと、当該周波数変化率RoCoFに対応するRoCoF検出時間の関係を操作画面に出力する以外に、データとして外部の端末装置や記憶装置に出力してもよい。
【0054】
これにより、例えば、電力会社の担当者は、算出装置10を用いることで、PCSの機種ごとのRoCoF耐量や周波数変化率RoCoFごとのRoCoF検出時間を把握でき、PCSの機種ごとの脱落の発生しやすさを把握できる。電力会社の担当者は、算出されたRoCoF耐量や周波数変化率RoCoFごとのRoCoF検出時間を利用して、周波数変化に対する系統の安定性の評価を行うことができる。
【0055】
また、例えば、PCSメータの担当者は、算出装置10を用いることで、周波数変化に対してPCSの単独運転検出機能が適切に動作するか評価できる。また、PCSメータの担当者は、PCSの単独運転検出機能が想定した動作となるよう、PCSの単独運転検出機能の設定値の調整に算出装置10を利用できる。
【0056】
[処理の流れ]
次に、本実施例に係る算出装置10がRoCoF耐量を算出する算出処理の流れについて説明する。図7は、算出処理の手順の一例を示すフローチャートである。この算出処理は、所定のタイミング、例えば、受付部40によりRoCoF耐量の算出開始の指示を受け付けたタイミングで実行される。
【0057】
図7に示すように、第1算出部41は、受付部40に受け付けた各種の情報に基づき、電力の周波数が初期値f0から一定の周波数変化率で変化するものとして、直近の第1の期間tnの電力の周波数の移動平均と経過期間tr前の過去の第2の期間tの周波数の移動平均との差がしきい値ΔTtとなる周波数変化率の限度値(RoCoF耐量)を算出する(S10)。例えば、第1算出部41は、受付部40に受け付けた初期値f0、第1の期間tn、第2の期間t、経過期間tr、および、しきい値ΔTtから、上述の(5-2)式を用いてRoCoF耐量を算出する。
【0058】
第2算出部42は、算出されたRoCoF耐量、第2の期間tおよび経過期間trに基づき、RoCoF耐量に対する周波数変化率の倍数に対して、脱落の検出に要する検出期間が、第2の期間tと経過期間trとを加算した期間t+trが反比例するものとして、脱落が発生する境界となる周波数変化率と検出期間の条件を算出する(S11)。例えば、第2算出部42は、上述の(6)式に、RoCoF耐量と期間t+trを代入し、周波数変化率RoCoFを様々に変化させて、周波数変化率RoCoFに対応するRoCoF検出時間する。
【0059】
出力部43は、算出結果を出力し(S12)、処理を終了する。例えば、出力部43は、算出されたRoCoF耐量を操作画像に出力する。また、出力部43は、周波数変化率RoCoFと、当該周波数変化率RoCoFに対応するRoCoF検出時間の関係を操作画面にグラフで表示する。
【0060】
[算出の具体例]
次に、算出装置10を用いてRoCoF耐量を算出した具体例を説明する。日本電機工業会(JEMA)のWebページ(https://www.jema-net.or.jp/Japanese/res/fukusudai/kenshutsu.html)上では、単独運転検出機能の検出方式や判定ロジック、設定値がある程度公開されており、さらに、同一とした複数の機種がグルーピングされている。
【0061】
厳密には時期が異なるが、FRT要件が定められた時期と新型能動的方式であるステップ注入付周波数フィードバック方式の販売が開始された時期は近い。このため、本実施例では、ステップ注入付周波数フィードバック方式が採用されていない機種をFRT非対応機種とみなした。FRT非対応機種52グループ中、本実施例に係る手法が適用可能と考えられる機種として49グループが該当した。
【0062】
図8Aおよび図8Bは、単独運転検出機能の検出方式、判定ロジック、設定値を示す図である。図8Aおよび図8Bには、本実施例に係る手法が適用可能と考えられる49グループについて、グループごとに、検出方式、判定ロジック、設定値を示している。図8Aおよび図8Bに示したPCSの機種のグループは、日本電機工業会のWebページに記載されたグループを使用している。方式の項目は、単独運転検出機能の検出方式を示しており、「位」が電圧位相跳躍検出方式であることを示し、「周」が周波数変化率検出方式であることを示している。tの項目は、第2の期間tの設定値を示す。tnの項目は、第1の期間tnの設定値を示す。trの項目は、経過期間trの設定値を示す。ΔTtの項目は、しきい値ΔTtの設定値を示しており、検出方式に対応したしきい値を(2-1)式または(2-2)式によりしきい値ΔTt[sec]に換算した値を、系統の電力の基準周波数50Hz、60Hzに対応して示している。
【0063】
また、図8Aおよび図8Bには、RoCoF耐量の項目に、これらの設定値と上述の(5)式により算出したRoCoF耐量を系統の電力の基準周波数50Hz、60Hzに対応して示している。ただし、FRT非対応機種には、図8Aおよび図8Bに示すように、(5)式からRoCoF耐量を算出するために必要な設定値が部分的に不明の機種がいくつか存在する。そこで、機種によってばらつきが大きいと考えられる第2の期間tや検出しきい値が不明の場合は、RoCoF耐量を不明とした。第1の期間tnが不明の場合は、第1の期間tnを仮の値として1cycとし、経過期間trが不明の場合は、図8Aおよび図8Bから、経過期間tr=第1の期間tnの場合が多い傾向が読み取れることから、経過期間trを第1の期間tnと同値として、RoCoF耐量を算出した。図8Aおよび図8Bでは、算出したRoCoF耐量が2[Hz/sec]を下回る機種のRoCoF耐量の項目にパターンを付している。
【0064】
図8Aおよび図8Bに示すように、第2の期間t、経過期間trが大きいほど、また、しきい値ΔTt、第1の期間tnが小さいほど、RoCoF耐量は小さくなる。また、FRT非対応機種であってもRoCoF耐量がFRT要件である2[Hz/sec]を下回る機種は限られる。ただし、周波数変化率検出方式には、第2の期間tが大きく、さらに、しきい値ΔTtが小さいことによりRoCoF耐量が非常に小さい機種が存在する。
【0065】
また、判定ロジックおよび設定値が同一であっても、RoCoF耐量は、基準周波数が50Hzの場合と60Hzの場合で、基本的に1.44倍、または、1.2倍の大きさとなる。この理由は、(5-2)式において、ΔTt・f0は無次元量であり、分母のtの与え方が「サイクル数」の場合は分母がf0の逆数に比例するため、RoCoF耐量はf0 2に比例する。これは電圧位相跳躍検出方式が多く該当する。一方、分母の与え方が「秒」の場合は、分母がf0に依存せず一定となるため、RoCoF耐量はf0に比例する。これは、周波数変化率検出方式が多く該当する。図8Aおよび図8Bには、RoCoF耐量の算出に必要な設定値が部分的に不明の機種が存在する。PCSメーカからの情報提供などにより、設定値が明らかとなれば、RoCoF量の算出精度が向上する。
【0066】
次に、算出したRoCoF耐量およびRoCoF検出時間の妥当性を検証する。RoCoF耐量の妥当性を検証するため、図8Aおよび図8Bを参考に、電圧位相跳躍検出方式および周波数変化率検出方式からそれぞれ2種ずつ代表的なB、N、H、Sの各グループを選定し、本実施例に係る手法を用いて、各グループのPCS機種の設定値からRoCoF耐量を算出した。図9Aは、基準周波数50HzのRoCoF耐量を示す図である。図9Bは、基準周波数60HzのRoCoF耐量を示す図である。図9Aおよび図9Bには、シB、N、H、Sの各グループのPCS機種の設定値も示されている。
【0067】
また、例えば、非特許文献1に記載の技術により、B、N、H、Sの各グループについて、図9Aおよび図9Bの設定値で、Y法用PVモデルを用いてPVが連携する下位系統のモデルを構築し、基準周波数50Hzおよび60Hzでそれぞれ周波数変化率を変えて周波数がランプ状に低下する場合の各検出方式での単独運転の判定の有無のシミュレーション解析を行った。なお、シミュレーション解析では、ランプ状の周波数変動は下限値を基準周波数50Hzで47.5Hzと設定し、基準周波数60Hzで57.0Hzと設定した。また、周波数変動を開始してから20[sec]が経過した時点で計算打ち切りとした。
【0068】
図10Aは、基準周波数50Hzについてシミュレーション解析を行った周波数変化率を示す図である。図10Bは、基準周波数60Hzについてシミュレーション解析を行った周波数変化率を示す図である。各グループのRoCoF耐量は、異なる。このため、図10Aおよび図10Bには、RoCoF耐量の周波数変化率を100%として、シミュレーションの際の周波数変化率の比率を周波数変動レベルとして%値で示している。
【0069】
図11Aは、基準周波数50Hzでのシミュレーション解析による脱落の有無の結果を示す図である。図11Bは、基準周波数60Hzでのシミュレーション解析による脱落の有無の結果を示す図である。図11Aおよび図11Bでは、RoCoF耐量の周波数変化率を100%とした周波数変動レベルで脱落の有無が示されている。「○」は、シミュレーション解析において検出方式の単独運転が動作せず、系統と連携した運転が継続したことを示す。「×」は、シミュレーション解析において単独運転が検出され、脱落したことを示す。
【0070】
図11Aおよび図11Bに示すように、いずれのグループもRoCoF耐量(100%値)に対して「×」となっており、精度面は、概ね良好であることが確認された。しかし、N、Sのグループにおいては、算出されたRoCoF耐量(100%値)と、シミュレーション結果で単独運転が検出される周波数変動レベルとの乖離が比較的大きかった。
【0071】
そこで、各グループに周波数変動レベルが97%値の周波数変動を与えた場合を比較して原因を考察する。
【0072】
図12Aは、Bのグループのシミュレーション解析の結果を示す図である。図12A(A)には、基準周波数60Hzについて周波数変動レベルが97%値である4.414[Hz/sec]の周波数変化率で周波数を低下させた際の電力の周波数の変化が示されている。図12A(B)には、図12A(A)のように電力の周波数が変化した場合の周期偏差ΔTの変化が示されている。
【0073】
周波数変化率が4.414[Hz/sec]の場合、周波数変動を開始してから約0.68[sec]経過時点で周波数は、60Hzから57Hzに達する。これに対し、期間t+trは、0.55[sec]であり、差分は、約0.13[sec]である。周波数変動開始から期間t+trが経過した後も周期偏差ΔTは、緩やかに増加し誤差要因となるが、その時間が0.15[sec]と短いため、本実施例に係る手法とY法用PVモデルによるシミュレーション結果との乖離も小さいものと考えられる。
【0074】
図12Bは、Nのグループのシミュレーション解析の結果を示す図である。図12B(A)には、基準周波数60Hzについて周波数変動レベルが97%値である0.580[Hz/sec]の周波数変化率で周波数を低下させた際の電力の周波数の変化が示されている。図12B(B)には、図12B(A)のように電力の周波数が変化した場合の周期偏差ΔTの変化が示されている。
【0075】
周波数変化率が0.580[Hz/sec]の場合、周波数変動を開始してから約5.2[sec]経過時点で周波数は、60Hzから57Hzに達する。これに対し、期間t+trは、0.33[sec]であるため、その差分は約4.8[sec]である。周波数変動開始から期間t+trが経過した後も周期偏差ΔTは、緩やかに増加し誤差要因となるが、その時間が4.8[sec]と長いため、本実施例に係る手法とY法用PVモデルによるシミュレーション結果との乖離が大きくなったものと考えられる。
【0076】
図12Cは、Hのグループのシミュレーション解析の結果を示す図である。図12C(A)には、基準周波数60Hzについて周波数変動レベルが97%値である0.0338[Hz/sec]の周波数変化率で周波数を低下させた際の電力の周波数の変化が示されている。図12C(B)には、図12C(A)のように電力の周波数が変化した場合の周期偏差ΔTの変化が示されている。
【0077】
周波数変化率が0.0338[Hz/sec]の場合、周波数変動を開始してから約88.8[sec]経過時点で周波数は、60Hzから57Hzに達する。なお、本実施例では、シミュレーション時間は周波数変動開始から20[sec]で打ち切っている。これに対し、期間t+trは、10.2[sec]であるため、その差分は9.8[sec]である。周波数変動開始から期間t+trが経過した後も周期偏差ΔTは、緩やかに増加し誤差要因となるが、周波数の変化速度が非常に緩やかであるため、期間t+tr経過後の周期偏差ΔTの増加も非常に緩やかである。このため、Hのグループの場合は、誤差要因の影響度合いが相対的に小さいことにより、本実施例に係る手法とY法用PVモデルによるシミュレーション結果との乖離が小さくなったものと考えられる。
【0078】
図12Dは、Sのグループのシミュレーション解析の結果を示す図である。図12D(A)には、基準周波数60Hzについて周波数変動レベルが97%値である0.862[Hz/sec]の周波数変化率で周波数を低下させた際の電力の周波数の変化が示されている。図12D(B)には、図12D(A)のように電力の周波数が変化した場合の周期偏差ΔTの変化が示されている。
【0079】
Sのグループのシミュレーション結果は、Nのグループと同様の考察になる。周波数変化率が0.862[Hz/sec]の場合、周波数変動を開始してから約3.5[sec]経過時点で周波数は60Hzから57Hzに達する。これに対し、期間t+trは、1.10[sec]であるため、その差分は、約2.4[sec]である。周波数変動開始から期間t+trが経過した後も周期偏差ΔTは、緩やかに増加し誤差要因となるが、その時間が2.4[sec]と長いため、本実施例に係る手法とY法用PVモデルによるシミュレーション結果との乖離が大きくなったものと考えられる。
【0080】
以上のことから、誤差要因は、次のように整理できる。期間t+trが経過した後の周期偏差ΔTの増加の程度が誤差となる。周波数変化率が大きいほど、期間t+tr後の周期偏差ΔTの増加の程度が大きくなる。周波数が下げ止まるまでの時間と期間t+trとの差分による誤差の時間だけ、周波数変化率に応じて、周期偏差ΔTは、増加する。
【0081】
このように、本実施例に係る手法は、一部のグループで若干の誤差が生じるものの、全体としては、精度面で概ね良好である。
【0082】
次に、RoCoF検出時間の妥当性について検証する。RoCoF耐量が2[Hz/sec]以下と算出されたN、H、Sのグループに対し、基準周波数50Hzおよび60Hzでそれぞれ、各種の周波数変化率RoCoFと当該周波数変化率RoCoFに対応するRoCoF検出時間を算出した。
【0083】
また、例えば、非特許文献1に記載の技術により、N、H、Sの各グループについて、Y法用PVモデルを用いてPVが連携する下位系統のモデルを構築し、基準周波数50Hzおよび60Hzでそれぞれ周波数変化率を変えて周波数がランプ状に低下する場合の各検出方式での単独運転の判定の有無のシミュレーション解析を行った。
【0084】
図13Aは、基準周波数50Hzについて、N、H、Sのグループの周波数変化率RoCoFと、当該周波数変化率RoCoFに対応するRoCoF検出時間の関係を示したグラフである。図13Bは、基準周波数60Hzについて、N、H、Sのグループの周波数変化率RoCoFと、当該周波数変化率RoCoFに対応するRoCoF検出時間の関係を示したグラフである。図13Aおよび図13Bには、N、H、Sのグループの周波数変化率RoCoFと、当該周波数変化率RoCoFに対応するRoCoF検出時間の関係を示したグラフが示されている。また、図13Aおよび図13Bには、N、H、Sのグループについて、Y法用PVモデルを用いたシミュレーション解析で単独運転の判定がされなかった周波数変化率RoCoFに対応するRoCoF検出時間が「×」で示されている。図13Aおよび図13Bに示すように、「×」とグラフは、対応しており、本実施例に係る手法によるRoCoF検出時間が概ね妥当であることを確認できる。
【0085】
また、図13Aおよび図13Bのグラフは、N、H、Sのグループの機種毎の脱落領域を表している。すなわち、RoCoFおよびRoCoF検出時間がグラフの上側内に入ると、その機種の検出方式が不要動作するものとして、脱落する機種を簡易的に推定することが可能である。このため、PCSの機種毎に、図13Aおよび図13Bのグラフのような脱落領域をあらかじめ求めておけば、シミュレーションによらず、ランプ状の周波数変動のレベルおよびその継続時間に対して脱落するおそれのあるPCS機種を効率的に把握できる。
【0086】
また、本実施例に係る手法により求めたPCSの機種毎の脱落領域は、各機種の分布および日射量による出力予測などの情報と組み合わせることで、周波数変動が生じた場合のPVの脱落量を簡易的かつ高速に推定することにも活用可能と考えられる。
【0087】
[効果]
上述してきたように、本実施例に係る算出装置10は、電力の周波数が所定の初期値f0から一定の周波数変化率で変化するものとして、直近の第1の期間tnの電力の周波数の移動平均と所定の経過期間tr前の過去の第2の期間tの電力の周波数の移動平均との差がしきい値となる周波数変化率の限度値(RoCoF耐量)を算出する。算出装置10は、算出された限度値に基づく情報を出力する。これにより、ユーザは、PCSのモデルを構築してシミュレーションを行うことなく、算出装置10からPCSが脱落に至らない周波数変化率の限度値を取得できる。この結果、ユーザは、限度値からPCSが脱落するかを簡易に推定できる。
【0088】
また、本実施例に係る算出装置10は、第1の期間tnの電力の周波数の移動平均を第1の期間tnの中間点の周波数とし、第2の期間tの電力の周波数の移動平均を第2の期間tの中間点の周波数として、限度値を算出する。これにより、算出装置10は、移動平均を求める演算を簡易化でき、限度値を簡易に算出できる。
【0089】
また、本実施例に係る算出装置10は、初期値f0、第1の期間tn、経過期間tr、第2の期間t、しきい値ΔTtから、上述の(5-2)式により限度値(RoCoF耐量)を算出する。これにより、算出装置10は、PCSのモデルを構築したシミュレーションを行うことなく、限度値を算出できる。
【0090】
また、本実施例に係る算出装置10は、単独運転検出機能の検出方式が電圧位相跳躍検出方式である場合、電圧位相跳躍検出方式のしきい値Δθtから(2-1)式を用いてしきい値ΔTtを算出し、単独運転検出機能の検出方式が周波数変化率検出方式である場合、周波数変化率検出方式のしきい値Δftから(2-2)式を用いてしきい値ΔTtを算出する。これにより、算出装置10は、電圧位相跳躍検出方式および周波数変化率検出方式について、同じ手法でPCSが脱落に至らない周波数変化率の限度値を算出できる。
【0091】
また、本実施例に係る算出装置10は、算出された限度値(RoCoF耐量)、第2の期間tおよび経過期間trに基づき、限度値に対する周波数変化率の倍数に対して、脱落の検出に要する検出期間が、期間t+trに反比例するものとして、脱落が発生する境界となる周波数変化率と検出期間の条件を算出する。算出装置10は、算出された条件に基づく情報を出力する。これにより、算出装置10は、脱落が発生する境界となる周波数変化率と検出期間の条件を提供できる。
【0092】
また、本実施例に係る算出装置10は、条件に基づき、周波数変化率と前記検出期間の関係をグラフで表示する。これにより、ユーザは、表示されたグラフから脱落が発生する境界となる周波数変化率と検出期間を把握できる。
【実施例2】
【0093】
さて、これまで開示の装置に関する実施例について説明したが、開示の技術は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下では、本発明に含まれる他の実施例を説明する。
【0094】
例えば、上記の実施例では、RoCoF耐量の算出に用いる各種の設定値の入力を操作画面から受け付ける場合について説明したが、開示の装置はこれに限定されない。例えば、各種の設定値の一部または全部をデータとして記憶しておき、各種の設定値の一部または全部をデータから読み出してRoCoF耐量を算出してもよい。例えば、算出装置10は、電力の周波数の初期値f0、第1の期間tn、第2の期間t、経過期間trおよびしきい値ΔTtの設定値を記憶したデータを用いてRoCoF耐量を算出してもよい。
【0095】
また、上記の実施例では、上述の(5-1)式において(df/dt)2の項を除いた場合について説明したが、開示の装置はこれに限定されない。例えば、(df/dt)2の項も含めた式からRoCoF耐量に算出してもよい。例えば、以下の(7-2)-(7-4)ように、a、b、cを表した場合、上述の(4)式から、以下の(7-1)式のように周波数変化率df/dtに関する式が得られる。(7-1))式の不等式の境界がRoCoF耐量に対応する。これにより、RoCoF耐量をより精度よく算出できる。
【0096】
【数7】
【0097】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的状態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、受付部40、第1算出部41、第2算出部42および出力部43の各処理部が適宜統合されてもよい。また、各処理部の処理が適宜複数の処理部の処理に分離されてもよい。さらに、各処理部にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0098】
[周波数変化率耐量の算出プログラム]
また、上記の実施例で説明した各種の処理は、あらかじめ用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータシステムで実行することによって実現することもできる。そこで、以下では、上記の実施例と同様の機能を有するプログラムを実行するコンピュータシステムの一例を説明する。図14は、算出プログラムを実行するコンピュータを示す図である。
【0099】
図14に示すように、コンピュータ300は、CPU(Central Processing Unit)310、HDD(Hard Disk Drive)320、RAM(Random Access Memory)340を有する。これら300~340の各部は、バス400を介して接続される。
【0100】
HDD320には上記の受付部40、第1算出部41、第2算出部42および出力部43と同様の機能を発揮する算出プログラム320aが予め記憶される。なお、算出プログラム320aについては、適宜分離してもよい。
【0101】
また、HDD320は、各種情報を記憶する。例えば、HDD320は、RoCoF耐量の算出に用いる各種データを記憶する。
【0102】
そして、CPU310が、算出プログラム320aをHDD320から読み出して実行することで、実施例の各処理部と同様の動作を実行する。すなわち、算出プログラム320aは、受付部40、第1算出部41、第2算出部42および出力部43と同様の動作を実行する。
【0103】
なお、上記した算出プログラム320aについては、必ずしも最初からHDD320に記憶させることを要しない。
【0104】
例えば、コンピュータ300に挿入されるフレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」にプログラムを記憶させておく。そして、コンピュータ300がこれらからプログラムを読み出して実行するようにしてもよい。
【0105】
さらには、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介してコンピュータ300に接続される「他のコンピュータ(またはサーバ)」などにプログラムを記憶させておく。そして、コンピュータ300がこれらからプログラムを読み出して実行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0106】
10 算出装置
20 表示部
21 入力部
22 記憶部
23 制御部
40 受付部
41 第1算出部
42 第2算出部
43 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図12D
図13A
図13B
図14