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特許7008080固体電解質組成物、固体電解質含有シート及び全固体二次電池並びに固体電解質含有シート及び全固体二次電池の製造方法
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  • 特許-固体電解質組成物、固体電解質含有シート及び全固体二次電池並びに固体電解質含有シート及び全固体二次電池の製造方法 図1
  • 特許-固体電解質組成物、固体電解質含有シート及び全固体二次電池並びに固体電解質含有シート及び全固体二次電池の製造方法 図2
  • 特許-固体電解質組成物、固体電解質含有シート及び全固体二次電池並びに固体電解質含有シート及び全固体二次電池の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】固体電解質組成物、固体電解質含有シート及び全固体二次電池並びに固体電解質含有シート及び全固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20220203BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220203BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220203BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220203BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20220203BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220203BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220203BHJP
   H01B 1/20 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/0585
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01B1/20 A
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019551016
(86)(22)【出願日】2018-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2018038269
(87)【国際公開番号】W WO2019087752
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2017209602
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100202898
【弁理士】
【氏名又は名称】植松 拓己
(72)【発明者】
【氏名】串田 陽
(72)【発明者】
【氏名】牧野 雅臣
(72)【発明者】
【氏名】望月 宏顕
(72)【発明者】
【氏名】三村 智則
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/132872(WO,A1)
【文献】特開2010-212058(JP,A)
【文献】特開2013-045683(JP,A)
【文献】特開2016-139511(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046314(WO,A1)
【文献】特開2016-031868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 13/00
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 10/0585
H01M 4/13
H01M 4/62
H01B 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、バインダー(B)と、分散媒(C)と、化学構造中に、フッ素原子、酸素原子、窒素原子及び塩素原子のいずれかを有する溶媒(D)とを含み、前記バインダー(B)を構成するポリマーが下記一般式(I)で表される非環式シロキサン構造を含む部分構造及び下記一般式(II)で表される部分構造をそれぞれ有前記分散媒(C)が炭化水素分散媒である、固体電解質組成物。
【化1】
一般式(I)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を示す。nは1以上の整数を示す。*は、前記バインダー(B)を構成するポリマー中の結合部を示す。
一般式(II)中、R及びRはそれぞれ独立に、2価の連結基を示す。*は、前記バインダー(B)を構成するポリマー中の結合部を示す。
【請求項2】
前記一般式(I)で表される非環式シロキサン構造を含む部分構造の重量平均分子量が、10,000以下である、請求項1に記載の固体電解質組成物。
【請求項3】
前記一般式(I)のR及びRのいずれかが、下記一般式(III)又は(IV)で表される基である、請求項1又は2に記載の固体電解質組成物。
【化2】
式中、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を示す。m及びlはそれぞれ独立に、1~100の整数を示す。Lは2価の連結基を示す。*は、前記バインダー(B)を構成するポリマー中の結合部を示す。
【請求項4】
前記バインダー(B)を構成するポリマーが、下記一般式(V)で表される部分構造を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【化3】
式中、Lは2価の連結基を示し、Xは-O-、-NR-及び-S-のいずれか1つを示す。Rは水素原子又は置換基を示す。pは3~300の整数を示す。*は、前記バインダー(B)を構成するポリマー中の結合部を示す。
【請求項5】
前記一般式(V)中のLが、下記一般式(VI)で表される構造である、請求項4に記載の固体電解質組成物。
【化4】
式中、Zはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を示す。Lは、単結合又は2価の連結基を示す。
【請求項6】
前記一般式(II)中のR及びRの少なくとも1つが2価のヘテロ原子又はヘテロ原子を含む2価の連結基を示す、請求項1~5のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項7】
前記一般式(III)及び(IV)において、R又はRが炭素数5以下のアルキル基である、請求項3に記載の固体電解質組成物。
【請求項8】
前記バインダー(B)を構成するポリマーが、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基及びカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項9】
前記一般式(V)中、Lで示される2価の連結基が酸素原子を有する、請求項4に記載の固体電解質組成物。
【請求項10】
前記溶媒(D)が、カルボニル基又はスルホニル基を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項11】
前記無機固体電解質(A)100質量部に対する前記バインダー(B)の含有量が、0.1質量部以上20質量部以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項12】
さらに、活物質(E)を含有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項13】
さらに、導電助剤(F)を含有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項14】
前記無機固体電解質(A)が硫化物系無機固体電解質である、請求項1~13のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項15】
さらに、リチウム塩(G)を含有する、請求項1~14のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の固体電解質組成物で構成した層を有する、固体電解質含有シート。
【請求項17】
正極活物質層、負極活物質層及び固体電解質層を具備する全固体二次電池であって、前記正極活物質層、前記負極活物質層及び前記固体電解質層の少なくとも1つの層が、請求項16に記載の固体電解質含有シートである全固体二次電池。
【請求項18】
請求項16に記載の固体電解質含有シートの製造方法であって、
請求項1~15のいずれか1項に記載の固体電解質組成物を基材上に塗布する工程を含む、固体電解質含有シートの製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の製造方法を介して全固体二次電池を製造する、全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質組成物、固体電解質含有シート及び全固体二次電池並びに固体電解質含有シート及び全固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、負極と、正極と、負極及び正極の間に挟まれた電解質とを有し、両極間にリチウムイオンを往復移動させることにより充放電を可能とした蓄電池である。リチウムイオン二次電池には、従来、電解質として有機電解液が用いられてきた。しかし、有機電解液は液漏れを生じやすく、また、過充電又は過放電により電池内部で短絡が生じ発火するおそれもあり、安全性と信頼性のさらなる向上が求められている。
このような状況下、有機電解液に代えて、無機固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されている。全固体二次電池は負極、電解質及び正極のすべてが固体からなり、有機電解液を用いた電池の課題とされる安全性ないし信頼性を大きく改善することができ、また長寿命化も可能になるとされる。さらに、全固体二次電池は、電極と電解質を直接並べて直列に配した構造とすることができる。そのため、有機電解液を用いた二次電池に比べてエネルギーの高密度化が可能となるので、電気自動車や大型蓄電池等への応用が期待されている。
【0003】
上記のような各利点から、次世代のリチウムイオン電池として全固体二次電池の実用化に向けた研究開発が活発に進められている。これまでに、全固体二次電池の性能を向上させるために、全固体二次電池の層構成材料として、特定のバインダーを含有させた固体電解質組成物が報告されている。例えば、特許文献1には、かご状シルセスキオキサン骨格を側鎖に有する重合体と、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質とを含有する固体電解質組成物が記載されている。この固体電解質組成物を用いて作製した全固体二次電池は、耐湿性が優れ、イオン伝導性が高く、イオン伝導性の経時安定性も優れるとされる。また、全固体二次電池の層構成材料として、バインダーと特定の溶媒とを含有させた固体電解質組成物が報告されている。例えば、特許文献2には、硫化物系無機固体電解質と、結着剤ポリマーと、分子構造中に硫化物と反応する極性基を含まない化合物からなる溶媒とを含有する固体電解質組成物が記載されている。この固体電解質組成物を用いて作製した全固体二次電池は、溶媒と硫化物系無機固体電解質との反応を抑制することにより、リチウムイオン伝導率の低下が抑制されることが記載されている。
【0004】
【文献】特開2016-31868号公報
【文献】特開2010-212058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体二次電池の実用化に向けて、イオン伝導度等の電池性能の向上とともに、全固体二次電池の歩留りを向上させることが望まれている。固体電解質組成物のスラリーを用いた全固体二次電池の製造は、通常、スラリーを塗布し、乾燥して固体電解質層及び/又は電極活物質層を形成した後、又は、これらの層の積層体を形成した後、加圧(例えば、350MPa)する。しかしながら、スラリーを用いて形成された固体電解質層ないし電極活物質層はこの加圧により割れが発生し、所望の性能を有する全固体二次電池が得られない場合がある。そのため、固体電解質層ないし電極活物質層には、上記加圧に耐えうる力学的強度を有することが求められる。
【0006】
本発明は、固体電解質含有シートの層構成材料として用いることにより、得られる固体電解質含有シートを構成する固体電解質層及び/又は電極活物質層に優れた力学的強度を付与するだけでなく、固体電解質含有シートに高いイオン伝導度をも付与することができる固体電解質組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、上記固体電解質組成物を用いた固体電解質含有シート及びこの固体電解質含有シートを用いた全固体二次電池を提供することを課題とする。さらに、本発明は、上記固体電解質含有シート及び全固体二次電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の無機固体電解質と、バインダーと、分散媒と溶媒とを含有する固体電解質組成物であって、上記バインダーが非環式のシロキサン骨格を疎水性部位として有し、さらには、上記溶媒として特定の原子を有する化合物を用いることにより、この固体電解質組成物を層構成材料とした固体電解質含有シートを構成する固体電解質層及び/又は電極活物質層の力学的強度が優れ、さらに、固体電解質含有シートのイオン伝導性が優れることを見出した。本発明は、この知見に基づき完成された。
【0008】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>
周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、バインダー(B)と、分散媒(C)と、化学構造中に、フッ素原子、酸素原子、窒素原子及び塩素原子のいずれかを有する溶媒(D)とを含み、上記バインダー(B)を構成するポリマーが下記一般式(I)で表される非環式シロキサン構造を含む部分構造及び下記一般式(II)で表される部分構造をそれぞれ有上記分散媒(C)が炭化水素分散媒である、固体電解質組成物。
【化1】
一般式(I)中、R 及びR はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を示す。nは1以上の整数を示す。*は、上記バインダー(B)を構成するポリマー中の結合部を示す。
一般式(II)中、R 及びR はそれぞれ独立に、2価の連結基を示す。*は、上記バインダー(B)を構成するポリマー中の結合部を示す。
【0009】
<2>
上記一般式(I)で表される非環式シロキサン構造を含む部分構造の重量平均分子量が、10,000以下である、<1>に記載の固体電解質組成物。
【0010】
<3>
上記一般式(I)のR及びRのいずれかが、下記一般式(III)又は(IV)で表される基である、<1>又は<2>に記載の固体電解質組成物。
【化2】

式中、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を示す。m及びlはそれぞれ独立に、1~100の整数を示す。Lは2価の連結基を示す。*は、上記バインダー(B)を構成するポリマー中の結合部を示す。
【0011】
<4>
上記バインダー(B)を構成するポリマーが、下記一般式(V)で表される部分構造を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
【化3】

式中、Lは2価の連結基を示し、Xは-O-、-NR-及び-S-のいずれか1つを示す。Rは水素原子又は置換基を示す。pは3~300の整数を示す。*は、上記バインダー(B)を構成するポリマー中の結合部を示す。
【0012】
<5>
上記一般式(V)中のLが、下記一般式(VI)で表される構造である、<4>に記載の固体電解質組成物。
【化4】

式中、Zはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を示す。Lは、単結合又は2価の連結基を示す。
【0013】
<6>
上記一般式(II)中のR及びRの少なくとも1つが2価のヘテロ原子又はヘテロ原子を含む2価の連結基を示す、<1>~<5>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<7>
上記一般式(III)及び(IV)において、R又はRが炭素数5以下のアルキル基である、請求項3に記載の固体電解質組成物。
<8>
上記バインダー(B)を構成するポリマーが、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基及びカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する、<1>~<7>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<9>
上記一般式(V)中、Lで示される2価の連結基が酸素原子を有する、<4>に記載の固体電解質組成物。
<10>
上記溶媒(D)が、カルボニル基又はスルホニル基を有する、<1>~<9>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<11>
上記無機固体電解質(A)100質量部に対する上記バインダー(B)の含有量が、0.1質量部以上20質量部以下である、<1>~<10>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<12>
さらに、活物質(E)を含有する、<1>~<11>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<13>
さらに、導電助剤(F)を含有する、<1>~<12>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
【0014】
<14>
上記無機固体電解質(A)が硫化物系無機固体電解質である、<1>~<13>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<15>
さらに、リチウム塩(G)を含有する、<1>~<14>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物。
<16>
<1>~<15>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物で構成した層を有する、固体電解質含有シート。
<17>
正極活物質層、負極活物質層及び固体電解質層を具備する全固体二次電池であって、上正極活物質層、上記負極活物質層及び上記固体電解質層の少なくとも1つの層が、<16>に記載の固体電解質含有シートである全固体二次電池。
<18>
<16>に記載の固体電解質含有シートの製造方法であって、
<1>~<15>のいずれか1つに記載の固体電解質組成物を基材上に塗布する工程を含む、固体電解質含有シートの製造方法。
<19>
<18>に記載の製造方法を介して全固体二次電池を製造する、全固体電池の製造方法。
【0015】
本発明の説明において、特定の符号で表示された置換基及び/又は連結基が複数あるとき、あるいは複数の置換基等(置換基数の規定も同様)を同時若しくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよい。また、複数の置換基等が近接するときにはそれらが互いに結合したり縮合したりして環を形成していてもよい。
【0016】
本発明の説明において、重量平均分子量(Mw)は、特段の断りがない限り、GPCによってポリスチレン換算の分子量として計測することができる。このとき、GPC装置HLC-8220(東ソー社製)を用い、カラムはG3000HXL+G2000HXLを用い、23℃で流量は1mL/minで、RIで検出することとする。溶離液としては、THF(テトラヒドロフラン)、クロロホルム、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)、m-クレゾール/クロロホルム(湘南和光純薬社製)から選定することができ、溶解するものであればTHFを用いることとする。
【0017】
本発明の説明において、ガラス転移温度(Tg)は、特段の断りがない限り、乾燥試料を用いて、示差走査熱量計「X-DSC7000」(商品名、SII・ナノテクノロジー社製)を用いて下記の条件で測定する。測定は同一の試料で2回実施し、2回目の測定結果を採用する。
測定室内の雰囲気:窒素(50mL/min)
昇温速度:5℃/min
測定開始温度:-100℃
測定終了温度:200℃
試料パン:アルミニウム製パン
測定試料の質量:5mg
Tgの算定:DSCチャートの下降開始点と下降終了点の中間温度の小数点以下を四捨五入することでTgを算定する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の固体電解質組成物は、固体電解質含有シートの層構成材料として用いることにより、固体電解質含有シートを構成する固体電解質層及び/又は電極活物質層に力学的強度を高い水準で付与することができ、さらに、固体電解質含有シートにイオン伝導度を高い水準で付与することができる。本発明の固体電解質含有シート及び全固体二次電池は、力学的強度の優れた固体電解質層及び/又は電極活物質層を有し、イオン伝導度に優れる。本発明の固体電解質含有シートの製造方法及び全固体二次電池の製造方法は、上記の優れた特性を示す固体電解質含有シート及び全固体二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池を模式化して示す縦断面図である。
図2】実施例で使用した装置を模式的に示す縦断面図である。
図3】実施例で作製したイオン伝導度測定用試験体を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<固体電解質組成物>
周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、バインダー(B)と、分散媒(C)とを含み、上記バインダー(B)が下記一般式(I)で表される非環式シロキサンを含む部分構造及び下記一般式(II)で表される部分構造を有し、上記分散媒(C)がフッ素原子、酸素原子、窒素原子及び塩素原子のいずれかを有する化学構造の溶媒(D)を含有する、固体電解質組成物。
【0021】
【化5】
【0022】
一般式(I)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を示す。nは1以上の整数を示す。*は、バインダー(B)を構成するポリマー中の結合部を示す。
一般式(II)中、R及びRはそれぞれ独立に、2価の連結基を示す。*は、バインダー(B)を構成するポリマー中の結合部を示す。
【0023】
以下、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)を、単に無機固体電解質(A)と称することもある。また、固体電解質組成物に含有される成分、又は、含有されてもよい成分を、符号を付さずに記載することもある。例えば、無機固体電解質(A)を単に無機固体電解質と称することもある。また、バインダー(B)を単にバインダーと称することもある。
【0024】
(無機固体電解質(A))
無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)などに代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオン及びアニオンに解離又は遊離していない。この点で、電解液若しくはポリマー中でカチオン及びアニオンが解離又は遊離している無機電解質塩(LiPF、LiBF、LiFSI、LiClなど)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば特に限定されず電子伝導性を有さないものが一般的である。
【0025】
本発明において、無機固体電解質は、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオン伝導性を有する。上記無機固体電解質は、この種の製品に適用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。無機固体電解質は(i)硫化物系無機固体電解質と(ii)酸化物系無機固体電解質が代表例として挙げられる。本発明において、活物質と無機固体電解質との間により良好な界面を形成することができるため、硫化物系無機固体電解質が好ましく用いられる。
【0026】
(i)硫化物系無機固体電解質
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子(S)を含有し、かつ、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
例えば下記式(I)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が挙げられる。

a1b1c1d1e1 式(I)

式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1はさらに、1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましい。d1はさらに、2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1はさらに、0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
【0027】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0028】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi-P-S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(LiS)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mであらわされる元素の硫化物(例えばSiS、SnS、GeS)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0029】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、LiSとPとの比率は、LiS:Pのモル比で、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは68:32~78:22である。LiSとPとの比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特に制限されないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0030】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。たとえばLiS-P、LiS-P-LiCl、LiS-P-HS、LiS-P-HS-LiCl、LiS-LiI-P、LiS-LiI-LiO-P、LiS-LiBr-P、LiS-LiO-P、LiS-LiPO-P、LiS-P-P、LiS-P-SiS、LiS-P-SiS-LiCl、LiS-P-SnS、LiS-P-Al、LiS-GeS、LiS-GeS-ZnS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiS-SiS-P、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、Li10GeP12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0031】
(ii)酸化物系無機固体電解質
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
【0032】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO〔xa=0.3~0.7、ya=0.3~0.7〕(LLT)、LixbLaybZrzbbb mbnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In及びSnの少なくとも1種以上の元素でありxbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。)、Lixcyccc zcnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In及びSnの少なくとも1種以上の元素でありxcは0≦xc≦5を満たし、ycは0≦yc≦1を満たし、zcは0≦zc≦1を満たし、ncは0≦nc≦6を満たす。)、Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(ただし、1≦xd≦3、0≦yd≦1、0≦zd≦2、0≦ad≦1、1≦md≦7、3≦nd≦13)、Li(3-2xe)ee xeeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。)、LixfSiyfzf(1≦xf≦5、0<yf≦3、1≦zf≦10)、Lixgygzg(1≦xg≦3、0<yg≦2、1≦zg≦10)、LiBO-LiSO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiBaLaTa12、LiPO(4-3/2w)(wはw<1)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyh3-yh12(ただし、0≦xh≦1、0≦yh≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)等が挙げられる。またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD(Dは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、Au等から選ばれた少なくとも1種)等が挙げられる。また、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C、Ga等から選ばれた少なくとも1種)等も好ましく用いることができる。
【0033】
無機固体電解質の体積平均粒子径は特に限定されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。なお、無機固体電解質粒子の平均粒子径の測定は、以下の手順で行う。無機固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mlサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調整する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJISZ8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0034】
無機固体電解質の固体電解質組成物中の固形成分における含有量は、全固体二次電池に用いたときの界面抵抗の低減と低減された界面抵抗の維持を考慮したとき、固形成分100質量%において、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、同様の観点から、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることが特に好ましい。
ただし、固体電解質組成物が後述する活物質を含有する場合、固体電解質組成物中の無機固体電解質の含有量は、活物質と無機固体電解質との合計含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0035】
上記無機固体電解質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、本明細書において固形分(固形成分)とは、窒素雰囲気下170℃で6時間乾燥処理を行ったときに、揮発ないし蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、後述の分散媒以外の成分を指す。
【0036】
(バインダー(B))
本発明の固体電解質組成物は、バインダー(B)を含有する。
本発明に用いられるバインダー(B)を構成するポリマー(以下、「バインダーポリマー」とも称する。)は、有機高分子であり、下記一般式(I)で表される非環式シロキサン構造を含む部分構造及び下記一般式(II)で表される部分構造を有する。
【0037】
本発明に用いられるバインダーポリマーの形態は制限されず、線状ポリマー、グラフトポリマー及び三次元架橋構造を有するポリマーのいずれでもよい。また、ランダムコポリマーでもよく、ブロックコポリマーでもよい。
本発明に用いられるバインダーポリマーがグラフトポリマーの場合、バインダーポリマーは、一般式(I)で表される非環式シロキサン構造を含む部分構造及び一般式(II)で表される部分構造を主鎖及び側鎖のいずれに有してもよい。
本発明に用いられるバインダーポリマーが三次元架橋構造を有するポリマーの場合、バインダーポリマーは、一般式(I)で表される非環式シロキサン構造を含む部分構造及び一般式(II)で表される部分構造の少なくとも一方を架橋成分として有してもよい。
また、一般式(I)で表される非環式シロキサン構造を含む部分構造及び一般式(II)で表される部分構造以外の成分を有してもよい。
【0038】
本発明の説明において、「主鎖」とは、バインダーポリマーにおける全ての分子鎖のうち、側鎖以外のすべての分子鎖(長分子鎖及び/又は短分子鎖)が、主鎖に対するペンダントとみなし得る線状分子鎖を意味する。典型的には、ポリマーを構成する分子鎖のうち最長鎖が主鎖である。ただし、ポリマー末端が有する官能基ないし有機基は主鎖に含まず、末端官能基ないし有機基として別に規定する。
【0039】
【化6】
【0040】
一般式(I)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を示す。nは1以上の整数を示す。*は、バインダーポリマー中の結合部を示す。nが2以上の場合、繰り返し単位は1種単独でもよく、2種以上の繰り返し単位からなるものでもよい。
一般式(II)中、R及びRはそれぞれ独立に、2価の連結基を示す。
【0041】
-非環式シロキサン構造を含む部分構造-
「シロキサン」とはケイ素原子と酸素原子との結合(シロキサン結合、Si-O)を骨格として有する化合物であり、特にSi-O-Si結合を有する部分骨格を持つ化合物をシロキサン化合物と称する。シロキサンはリチウムイオンの伝導を阻害しにくいため、シロキサン構造を導入したポリマーにより構成されるバインダー(B)は高いイオン伝導性を示す。
「非環式シロキサン構造」とは、シロキサン結合の繰り返しを主鎖として有する直線状のシロキサン構造であって、ケイ素原子と酸素原子により構成される環を有さないシロキサン構造を意味する。上記環を含まなければ、分岐構造を有していてもよい。環状シロキサン構造がバインダーポリマーに導入されるとバインダーポリマーの剛直性が増すため、無機固体電解質との結着性が低下する。
「非環式シロキサン構造を含む部分構造」における「非環式シロキサン構造を含む」とは、(1)非環式シロキサン構造からなる形態と、(2)非環状シロキサン構造を含む部分構造を形成するモノマー由来の、非環式シロキサン構造以外の構造と、非環式シロキサン構造とを有する形態のいずれも含む意味である。非環式シロキサン構造以外の構造として、例えば、一般式(II)で表される部分構造を有する構造が挙げられる。
【0042】
上記非環式シロキサンを含む部分構造の重量平均分子量は、バインダーポリマー合成時の反応性の観点から10,000以下が好ましく、7,000以下がより好ましく、3,000以下がさらに好ましい。下限に特に制限はないが、1000以上であることが実際的である。重量平均分子量は、原料となるモノマーから算出することができる。
【0043】
また、バインダー(B)の重量平均分子量は、10000~500000が好ましく、15000~300000がより好ましく、20000~150000が特に好ましい。
【0044】
nは、3~180の整数が好ましく、5~150の整数がより好ましく、10~100の整数が特に好ましい。
【0045】
一般式(I)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を示す。nは1以上の整数を示す。置換基としては、[置換基群I]に属する置換基及び下記一般式(III)又は(IV)で表される基が挙げられる。
【0046】
[置換基群I]
アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、ヘテロアリールオキシ基
【0047】
アルキル基の炭素原子数は10以下が好ましく、5以下がより好ましく、1又は2がさらに好ましい。アルキル基は鎖状でも環状でもよく、例えば、メチル、エチル、i-プロピル、t-ブチル及びシクロヘキシルが挙げられる。
【0048】
アルコキシ基中のアルキル基は、上記アルキル基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0049】
アリール基の環を構成する炭素原子数は20以下が好ましく、15以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。下限は6であり、8以上が好ましく、12以上がより好ましい。アリール基の具体例として、フェニル、ナフチル及びアントラセニルが挙げられる。
【0050】
アリールオキシ基中のアリール基は、上記アリール基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0051】
ヘテロアリール基の環を構成する炭素原子数は20以下が好ましく、15以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。下限は0であり、2以上が好ましく、4以上がより好ましい。ヘテロアリール基の環を構成するヘテロ原子(例えば、窒素原子、硫黄原子、酸素原子)の数は、1~5が好ましい。ヘテロアリール基の環は4~8員環が好ましく、環の具体例として、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、フラン及びピリジンが挙げられる。
【0052】
ヘテロアリールオキシ基中のアリールオキシ基は上記アリール基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0053】
一般式(I)のR及びRのいずれかが、下記一般式(III)又は(IV)で表される基であることが好ましい。
【0054】
【化7】
【0055】
式中、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を示す。m及びlはそれぞれ独立に、1~100の整数を示す。Lは2価の連結基を示す。*は、上記バインダー(B)を構成するポリマー中の結合部を示す。より具体的には、式(I)中のケイ素原子との結合部を示す。
、R及びRの少なくともいずれかが下記[置換基群II]から選択される群を含むことが好ましい。また、下記官能基群IIから選ばれる官能基を2種以上組み合わせてもよい。
また、R及びRが炭素数5以下のアルキル基であることが好ましい。
【0056】
[置換基群II]
アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、ヘテロアリールオキシ基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エポキシ基
【0057】
アルキル基の炭素原子数は20以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。アルキル基は鎖状でも環状でもよく、例えば、メチル、エチル、i-プロピル、t-ブチル及びシクロヘキシルが挙げられる。
【0058】
アルコキシ基中のアルキル基は、上記アルキル基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0059】
アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基及びヘテロアリールオキシ基は、置換基群Iに記載されたアリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基及びヘテロアリールオキシ基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0060】
で示される2価の連結基は、例えば、エチレングリコール由来の2価基、プロピレングリコール由来の2価基、テトラメチレングリコール由来の2価基のようなオキシアルキレン基、エステル結合を含む化合物由来の2価基、カーボネート構造を含む化合物由来の2価の基が挙げられる。
【0061】
mとlの値には特に制限はないが、高分子量に伴う結着性の低下を抑制する観点から、50以下が好ましく、20以下がさらに好ましい。
【0062】
一般式(I)で表される非環式シロキサン構造を含む部分構造は、下記一般式(1)で示されるモノマーで組み込むことが好ましい。
【0063】
【化8】
【0064】
一般式(1)中、R、R及びnは一般式(I)におけるR、R及びnと同義であり、好ましい範囲も同じである。Ra及びRbは、水素原子、求核反応性のヘテロ原子を有する基、エチレン性不飽和基を有する基、または非反応性の置換基を示す。ただし、Ra及びRbの少なくとも一方は、求核反応性のヘテロ原子を有する基またはエチレン性不飽和基を有する基である。
【0065】
ここで、求核反応性のヘテロ原子を有する基における求核反応性のヘテロ原子は、ヒドロキシ基、アミノ基、スルファニル基(-SH)が挙げられる。
エチレン性不飽和基を有する基におけるエチレン性不飽和基は、置換基を有してもよいビニル基が好ましく、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基がより好ましい。
エチレン性不飽和基を有する基は、上記エチレン性不飽和基が、単結合もしくは2価の連結基に結合した基であり、2価の連結基としては、アルキレン基、アリーレン基が挙げられ、アルキレン基が好ましい。
エチレン性不飽和基を有する基は、なかでも、下記一般式(a)で表される基が好ましい。
【0066】
【化9】
【0067】
一般式(a)中、Rcは水素原子又はアルキル基を示す。Yは-O-またはーNR-を示す。xは1~10の整数である。ここで、Rは水素原子又は置換基を示す。
Rにおける置換基は、脂肪族基、アリール基またはヘテロ環基が好ましい。
また、上記の脂肪族基としては、アルキル基、シクロアルキル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
Rcで示されるアルキル基は、置換基群IIのアルキル基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
Rで示されるアルキル基は、置換基群IIのアルキル基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
Rで示されるシクロアルキル基の炭素数は、3~10が好ましく、5~8がより好ましい。
Rで示されるアリール基は、置換基群Iのアリール基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
Rで示されるヘテロ環基は、置換基群Iのヘテロアリール基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0068】
非環状シロキサンを含む部分構造を形成するモノマーの具体例を以下に示すが、本発明は、下記の具体例に限定されない。以下の具体例において、pは1~50の整数を示す。qは5~50の整数を示す。rは1~20の整数を示す。
ここで、Meはメチル基(-CH)であり、Etはエチル基(-C)であり、Phはフェニル基(-C)である。
【0069】
【化10】
【0070】
バインダーポリマーは、下記一般式(II)で表される部分構造を含む。バインダーポリマーのカルボニル基が溶媒(D)及び無機固体電解質表面の官能基と相互作用することにより、固体電解質組成物の分散性がより向上する。
【0071】
【化11】
【0072】
式中、R及びRはそれぞれ独立に、2価の連結基を示す。*は、バインダーポリマー中の結合部を示す。
【0073】
2価の連結基は特に限定されるものではないが、R及びRの少なくとも一方は2価のヘテロ原子又はヘテロ原子を含む2価の連結基を示すことが好ましく、R及びRの少なくとも一方は-O-、-NR-若しくは-S-又はこれらを含む2価の連結基を示すことがより好ましい。Rは水素原子又は置換基を示す。バインダーポリマーは、一般式(II)で表される部分構造の2種類以上の組み合わせを有してもよい。R及びRは繰り返し構造を含んでいてもよい。
ここで、Rにおける置換基は、一般式(a)におけるRと同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0074】
バインダーポリマーは、イオン伝導性を向上させる目的で、下記一般式(V)で表される部分構造を含むことが好ましい。
【0075】
【化12】
【0076】
式中、Lは2価の連結基であり、pは3~300の整数を示す。*は、バインダーポリマー中の結合部を示す。Xは-O-、-NR-(Rは一般式(a)におけるRと同義であり、好ましい範囲も同じである)又は-S-を示し、-O-であることが好ましい。Lで示される2価の連結基は、酸素原子を有することが好ましく、繰り返し構造を含んでいてもよい。ただし、「-O-O-」結合を含むことはない。
【0077】
一般式(V)中のLは、リチウムイオンとの親和性向上および、バインダー(B)を構成するポリマーのガラス転移温度の低下のため、下記一般式(VI)で表される構造であることが好ましい。
【化13】

式中、Zはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を示す。Lは、単結合又は2価の連結基を示す。
【0078】
Zで示される置換基として、Rで示される置換基が挙げられ、Rで示されるアルキル基が好ましく、好ましいアルキル基の範囲も同じである。
【0079】
で示される2価の連結基として、メチレン(-CH-)、エチレン(-CHCH-)のようなアルキレン基、カルボニル基(-C(=O)-)、-O-及びこれらの組み合せが好ましい。
【0080】
一般式(V)で表される構造として、例えば、ポリエチレングリコールの主鎖両末端から水素原子を除いた2価の構造、ポリプロピレングリコールの主鎖両末端から水素原子を除いた2価の構造、ポリテトラメチレングリコールの主鎖両末端から水素原子を除いた2価の構造のようなオキシアルキレン基、ポリエステルの主鎖両末端から水素原子を除いた2価の構造、ポリカーボネートの主鎖両末端から水素原子を除いた2価の構造が挙げられる。
pは、高分子量に伴う結着性の低下を抑制する観点から、50以下の整数が好ましく、20以下の整数がさらに好ましい。
【0081】
一般式(II)で表される部分構造は、下記一般式(2)で示されるモノマーで組み込むことが好ましい。
【0082】
【化14】
【0083】
一般式(2)中、RcおよびYは、一般式(a)におけるRcおよびYと同義であり、好ましい範囲も同じである。Rdは、水素原子又は置換基を示す。
置換基としては、脂肪族基、アリール基またはヘテロ環基を示す。Rdにおける置換基はエチレン性不飽和基を有していてもよく、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、リン酸基、フッ素原子などのハロゲン原子、シアノ基、イソシアネート基を有していても構わない。
Rdで示される脂肪族基としては、アルキル基、シクロアルキル基が好ましい。
上記アルキル基の炭素原子数は3~50が好ましく、2~30がより好ましく、1~10がさらに好ましい。アルキル基は鎖状でも環状でもよく、鎖中に-O-、-C(=O)-及び/又はこれらの組み合わせを有してもよい。
Rdで示されるシクロアルキル基は、Rで示されるシクロアルキル基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
Rdで示されるアリール基及びヘテロ環基は、Rで示されるアリール基及びヘテロ環基と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0084】
一般式(II)で表される部分構造は、ポリマー鎖がウレタン結合もしくはウレイド結合を有する場合、ジイソシアネート化合物とジオール化合物、または、ジイソシアネート化合物とアミノ化合物との縮合反応で得られる。
また、一般式(II)で表される部分構造は、ポリマー鎖がエステル結合を有する場合、ジカルボン酸化合物、その酸無水物、ジカルボン酸ジエステル、ジカルボン酸ジハロゲン化物などのジカルボン酸もしくはその誘導体とジオール化合物の縮合反応で得られる。
なお、一般式(1)で示されるモノマーにおいて、RaおよびRbの少なくとも一方が、求核反応性のヘテロ原子を有する基の場合、ジイソシアネート化合物や、ジカルボン酸もしくはその誘導体との反応でも得られる。
【0085】
バインダーポリマーは、活物質及び/又は無機固体電解質への吸着性を向上させる観点から、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基及び/又はカルボキシ基を有することが好ましい。バインダーポリマーは、これらの官能基を1種単独で有してもよく、2種以上を組み合わせて有してもよい。
【0086】
本発明におけるバインダーの重合に使用するモノマーの例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。nは、1~80の整数を示す。
【0087】
【化15】
【0088】
【化16】
【0089】
バインダーポリマー中の、非環式ポリシロキサン構造を含む部分構造以外の構造の具体例を以下に示す。本発明において、バインダー構造は下記の具体例に限定されない。下記具体例中の繰り返し単位に付した数字は、各繰り返し単位の質量%を示し、非環式ポリシロキサン構造を含む部分構造との合計が100質量%である。
【0090】
【化17】
【0091】
本発明に用いられるバインダーは、例えば、特開2015-088486号公報および特許第6110823号に記載の方法を参照して合成できる。
【0092】
本発明に用いられるバインダーポリマーの形状は特に限定されず、固体電解質組成物、固体電解質含有シート又は全固体二次電池中において粒子状であっても不定形状であってもよい。
【0093】
本発明において、バインダーポリマーが分散媒に対して不溶の粒子であることが、固体電解質組成物の分散安定性の観点、及び、高いイオン伝導性を有する全固体二次電池を得られる観点から好ましい。ここで、「バインダーポリマーが分散媒に対して不溶の粒子である」とは、25℃の分散媒に添加し、24時間静置しても、平均粒子径が10%以上低下しないことを意味し、5%以上低下しないことが好ましく、3%以上低下しないことがより好ましい。
【0094】
また、固体電解質組成物中におけるバインダーポリマーは、無機固体電解質等の粒子間イオン伝導性の低下抑制のため、粒子状であることが好ましく、平均粒子径は、10nm~1000nmが好ましく、100nm~500nmがより好ましい。
本発明に用いられるバインダー(B)の平均粒子径は、特に断らない限り、以下に記載の測定条件により測定することができる。
【0095】
バインダー(B)を任意の溶媒(固体電解質組成物の調製に用いる分散媒。例えば、オクタン)を用いて20mlサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調製する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、得られた体積平均粒子径を平均粒子径とする。その他の詳細な条件等は必要によりJISZ8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製して測定し、その平均値を採用する。
なお、作製された全固体二次電池からの測定は、例えば、電池を分解し電極を剥がした後、その電極材料について上記バインダー(B)の平均粒子径の測定方法に準じてその測定を行い、あらかじめ測定していたバインダー(B)以外の粒子の平均粒子径の測定値を排除することにより行うことができる。
【0096】
本発明に用いられるバインダー(B)の固体電解質組成物中での含有量は、全固体二次電池に用いたときの良好な界面抵抗の低減性とその維持性を考慮すると、固形成分100質量%において、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。上限としては、電池特性の観点から、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。
本発明において、無機固体電解質(A)とバインダー(B)からなる固体電解質組成物のイオン伝導度を効果的に向上させるため、無機固体電解質(A)100質量部に対するバインダー(B)の含有量が、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以上10質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以上5質量部以下であることが特に好ましい。
本発明では、バインダー(B)の質量に対する、無機固体電解質と活物質の合計質量(総量)の質量比[(無機固体電解質の質量+活物質の質量)/バインダー(B)の質量]は、1,000~1の範囲が好ましい。この比率はさらに500~2がより好ましく、100~10がさらに好ましい。
【0097】
バインダーポリマーの重合反応又は縮合反応に用いる溶媒は、特に限定されない。なお、無機固体電解質や活物質と反応しないこと、さらにそれらを分解しない溶媒を用いることが好ましい。例えば、炭化水素溶媒(トルエン、ヘプタン、キシレン)、エステル溶媒(酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、エーテル溶媒(テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジエトキシエタン)、ケトン溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、ニトリル溶媒(アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル)、ハロゲン溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム)を用いることができる。無機固体電解質や活物質に対する低反応性と沸点の観点から、反応溶媒の構造には炭素原子を4原子以上含むことが好ましく、6原子以上含むことがより好ましい。上限は特に限定されないが、炭素原子が12原子以下であることが好ましい。
【0098】
本発明において、バインダー(B)は、上記のものを1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
本発明に用いられるバインダー(B)を構成するポリマーの水分濃度は、100ppm(質量基準)以下が好ましい。
また、本発明に用いられるバインダー(B)を構成するポリマーは、晶析させて乾燥させてもよく、ポリマー溶液をそのまま用いてもよい。金属系触媒(ウレタン化、ポリエステル化触媒=スズ、チタン、ビスマス)は少ない方が好ましい。重合時に少なくするか、晶析で触媒を除くことで、共重合体中の金属濃度を、100ppm(質量基準)以下とすることが好ましい。
【0100】
(分散媒(C))
本発明に用いられる分散媒(C)は、25℃で、無機固体電解質(A)を添加し、6時間静置しても、無機固体電解質(A)の平均粒子径の低下が5%以下(好ましくは3%以下)の化合物である。分散媒(C)は、LogP値が16以上18.5以下(好ましくは16以上18以下)の化合物であることが好ましい。
なお、LogP値はPerkinElmer社製ChemBioDraw(商品名)Version:12.9.2.1076で算出した値である。
分散媒の具体例としては下記の化合物の分散媒が挙げられる。
【0101】
ケトン化合物分散媒としては、例えば、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノン、ジブチルケトンが挙げられる。
【0102】
エステル化合物分散媒としては、例えば、酢酸ヘキシル、プロピオン酸ブチル、酪酸ペンチル、吉草酸メチル、吉草酸ブチル、カプロン酸ブチルが挙げられる。
【0103】
芳香族化合物分散媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン及びメシチレンが挙げられる。
【0104】
脂肪族化合物分散媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、ペンタン、シクロペンタン、デカリン及びシクロオクタンが挙げられる。
【0105】
分散媒は常圧(1気圧)での沸点が50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。上限は250℃以下であることが好ましく、220℃以下であることが更に好ましい。
上記分散媒は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
シロキサン構造との親和性向上の観点から、エステル化合物分散媒及び炭化水素分散媒が好ましく、炭化水素分散媒(芳香族化合物分散媒及び脂肪族化合物分散媒)がより好ましい。
炭化水素分散媒の中でも、芳香族化合物分散媒としてはトルエン又はキシレンが好ましく、脂肪族化合物分散媒としてはヘプタン、オクタン、シクロヘキサン又はシクロオクタンが好ましい。
【0106】
なお、本発明の固体電解質組成物に占める分散媒(C)と溶媒(D)の含有量の合計の割合は特に制限されないが、20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましく、40~60質量%が特に好ましい。
【0107】
(溶媒(D))
本発明に用いられる溶媒(D)として、フッ素原子、酸素原子、窒素原子及び塩素原子のいずれかを化学構造中に有する化合物を用いる。溶媒(D)は、25℃で、無機固体電解質(A)を添加し、6時間静置した際に、無機固体電解質(A)の平均粒子径の低下が5%より大きい(好ましくは8%以上の)化合物である。溶媒(D)は、LogP値が18.5より大きく23以下(好ましくは19以上23以下)の化合物であることが好ましい。
上記フッ素原子、酸素原子、窒素原子及び塩素原子は電気陰性度が高く、溶媒(D)分子中の電荷の分極を増大させる。分極した溶媒はバインダーの酸素原子と無機固体電解質表面の官能基のそれぞれと相互作用することにより、分散媒と相俟って固体電解質組成物の分散性を向上させる。溶媒(D)の具体例としては下記のものが挙げられる。
【0108】
フッ素原子を有する溶媒としては、例えば、ハイドロフルオロエーテル(ノベック、登録商標、化合物名:ヘプタフルオロ-1-メトキシプロパン、スリーエム社製)、バートレル(登録商標、化合物名:パーフルオロ-2H,3H-ペンタン、三井デュポンフルオロケミカル社製)、フロリナート(登録商標、化合物名:フルオロカーボン混合物、スリーエム社製)、デカフルオロペンタン、テトラデカフルオロヘキサンが挙げられる。
【0109】
酸素原子を有する溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、アルキレングリコールアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等)、ジアルキルエーテル(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル等)、テトラヒドロフラン、ジオキサン(1,2-、1,3-及び1,4-の各異性体を含む)、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジブチルケトン、ジイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、カプロン酸メチル、カプロン酸エチル、カプロン酸プロピル、メタンスルホン酸イソプロピル、エタンスルホン酸イソプロピル、メタンスルホン酸エチル、1,3-プロパンスルトン、テトラメチレンスルホキシド、テトラヒドロチオフェン1,1-ジオキシド、メチルエチルスルホン、エチルイソプロピルスルホンが挙げられる。
【0110】
窒素原子を有する溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、1-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、1-メチルピペリジン、2,6-ジメチルピペリジン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルが挙げられる。
【0111】
塩素原子を有する溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロプロパンが挙げられる。
【0112】
これらのなかでも、無機固体電解質(A)及びバインダー(B)が有する極性基と相互作用することにより、固体電解質組成物の高い分散性を実現する観点から、カルボニル基又はスルホニル基を有する溶媒が好ましい。
上記溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0113】
なお、本発明の固体電解質組成物中、分散媒(C)中と溶媒(D)の含有量の合計に占める溶媒(D)の含有量の割合は特に制限されないが、1~80質量%が好ましく、2~70質量%がより好ましく、3~50質量%が特に好ましい。
【0114】
<(E)活物質>
本発明の固体電解質組成物は、さらに、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属元素のイオンの挿入放出が可能な活物質を含有してもよい。
活物質としては、正極活物質及び負極活物質が挙げられ、正極活物質である遷移金属酸化物、又は、負極活物質である金属酸化物が好ましい。
本発明において、活物質(正極活物質、負極活物質)を含有する固体電解質組成物を、電極用組成物(正極用組成物、負極用組成物)ということがある。
【0115】
-正極活物質-
本発明の固体電解質組成物が含有してもよい正極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、遷移金属酸化物や、有機物、硫黄などのLiと複合化できる元素や硫黄と金属の複合物などでもよい。
中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素M(Co、Ni、Fe、Mn、Cu及びVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素M(リチウム以外の金属、周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P又はBなどの元素)を混合してもよい。混合量としては、遷移金属元素Mの量(100mol%)に対して0~30mol%が好ましい。Li/Maのモル比が0.3~2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物及び(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
【0116】
(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiCoO(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi(ニッケル酸リチウム)LiNi0.85Co0.10Al0.05(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])及びLiNi0.5Mn0.5(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn(LMO)、LiCoMnO4、LiFeMn、LiCuMn、LiCrMn及びLiNiMnが挙げられる。
(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO及びLiFe(PO等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP等のピロリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類ならびにLi(PO(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、LiFePOF等のフッ化リン酸鉄塩、LiMnPOF等のフッ化リン酸マンガン塩及びLiCoPOF等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、LiFeSiO、LiMnSiO及びLiCoSiO等が挙げられる。
本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、LCO、LMO、NCA又はNMCがより好ましい。
【0117】
正極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。正極活物質の体積平均粒子径(球換算平均粒子径)は特に限定されない。例えば、0.1~50μmとすることができる。正極活物質を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機や分級機を用いればよい。焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、有機溶剤にて洗浄した後使用してもよい。正極活物質粒子の体積平均粒子径(球換算平均粒子径)は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて測定することができる。
【0118】
上記正極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極活物質層を形成する場合、正極活物質層の単位面積(cm)当たりの正極活物質の質量(mg)(目付量)は特に限定されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができる。
【0119】
正極活物質の、固体電解質組成物中における含有量は、特に限定されず、固形分100質量%において、10~95質量%が好ましく、30~90質量%がより好ましく、50~85質量がさらに好ましく、55~80質量%が特に好ましい。
【0120】
-負極活物質-
本発明の固体電解質組成物が含有してもよい負極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、酸化錫等の金属酸化物、酸化ケイ素、金属複合酸化物、リチウム単体及びリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、並びに、Sn、Si、Al及びIn等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。中でも、炭素質材料又はリチウム複合酸化物が信頼性の点から好ましく用いられる。また、金属複合酸化物としては、リチウムを吸蔵及び放出可能であることが好ましい。その材料は、特には制限されないが、構成成分としてチタン及び/又はリチウムを含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。
【0121】
負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、黒鉛(天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛等)、及びPAN(ポリアクリロニトリル)系の樹脂やフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。さらに、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維及び活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカーならびに平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
【0122】
負極活物質として適用される金属酸化物及び金属複合酸化物としては、特に非晶質酸化物が好ましく、さらに金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイトも好ましく用いられる。ここでいう非晶質とは、CuKα線を用いたX線回折法で、2θ値で20°~40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有するものを意味し、結晶性の回折線を有してもよい。
【0123】
上記非晶質酸化物及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物、及びカルコゲナイドがより好ましく、周期律表第13(IIIB)族~15(VB)族の元素、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb及びBiの1種単独あるいはそれらの2種以上の組み合わせからなる酸化物、ならびにカルコゲナイドが特に好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドの具体例としては、例えば、Ga、SiO、GeO、SnO、SnO、PbO、PbO、Pb、Pb、Pb、Sb、Sb、SbBi、SbSi、Bi、SnSiO、GeS、SnS、SnS、PbS、PbS、Sb、Sb及びSnSiSが好ましく挙げられる。また、これらは、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、LiSnOであってもよい。
【0124】
負極活物質はチタン原子を含有することも好ましい。より具体的にはLiTi12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制されリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
【0125】
本発明においては、Si系の負極を適用することもまた好ましい。一般的にSi負極は、炭素負極(黒鉛及びアセチレンブラックなど)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位質量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。
【0126】
負極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。負極活物質の平均粒子径は、0.1~60μmが好ましい。所定の粒子径にするには、通常の粉砕機や分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル及び旋回気流型ジェットミルや篩などが好適に用いられる。粉砕時には水、あるいはメタノール等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕も必要に応じて行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級方法としては特に限定はなく、篩、風力分級機などを必要に応じて用いることができる。分級は乾式及び湿式ともに用いることができる。負極活物質粒子の平均粒子径は、前述の正極活物質の体積平均粒子径の測定方法と同様の方法により測定することができる。
【0127】
上記焼成法により得られた化合物の化学式は、測定方法として誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、簡便法として、焼成前後の粉体の質量差から算出できる。
【0128】
上記負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
負極活物質層を形成する場合、負極活物質層の単位面積(cm)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)は特に限定されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができる。
【0129】
負極活物質の、固体電解質組成物中における含有量は、特に限定されず、固形分100質量%において、10~80質量%であることが好ましく、20~80質量%がより好ましい。
【0130】
正極活物質及び負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi,Nb、Ta,W,Zr、Al,Si又はLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、ニオブ酸リチウム系化合物等が挙げられ、具体的には、LiTi12、LiTi、LiTaO、LiNbO、LiAlO、LiZrO、LiWO、LiTiO、Li、LiPO、LiMoO、LiBO、LiBO、LiCO、LiSiO、SiO、TiO、ZrO、Al、B等が挙げられる。
また、正極活物質又は負極活物質を含む電極表面は硫黄又はリンで表面処理されていてもよい。
さらに、正極活物質又は負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていても良い。
【0131】
(導電助剤(F))
本発明の固体電解質組成物は、さらに、導電助剤を含有してもよい。導電助剤としては、特に制限はなく、一般的な導電助剤として知られているものを用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック類、ニードルコークスなどの無定形炭素、カーボンナノファイバー、気相成長炭素繊維及びカーボンナノチューブなどの炭素繊維類、グラフェンやフラーレンなどの炭素質材料であっても良いし、銅、ニッケルなどの金属粉、金属繊維でも良く、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体など導電性高分子を用いても良い。またこれらの内1種を用いても良いし、2種以上を用いても良い。
【0132】
導電助剤の含有量は、無機固体電解質100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。上限としては、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0133】
(リチウム塩(G))
本発明の固体電解質組成物は、さらに、リチウム塩(Li塩)を含有してもよい。
本発明に用いることができるリチウム塩としては、通常この種の製品に用いられるリチウム塩が好ましく、特に制限はないが、例えば、以下に述べるものが好ましい。
【0134】
(L-1)無機リチウム塩:LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF等の無機フッ化物塩;LiClO、LiBrO、LiIO等の過ハロゲン酸塩;LiAlCl等の無機塩化物塩等。
【0135】
(L-2)含フッ素有機リチウム塩:LiCFSO等のパーフルオロアルカンスルホン酸塩;LiN(CFSO(LiTFSI)、LiN(CFCFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO)(CSO)等のパーフルオロアルカンスルホニルイミド塩;LiC(CFSO等のパーフルオロアルカンスルホニルメチド塩;Li[PF(CFCFCF)]、Li[PF(CFCFCF]、Li[PF(CFCFCF]、Li[PF(CFCFCFCF)]、Li[PF(CFCFCFCF]、Li[PF(CFCFCFCF]等のフルオロアルキルフッ化リン酸塩等。
【0136】
(L-3)オキサラトボレート塩:リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート等。
これらのなかで、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiClO、Li(RfSO)、LiN(RfSO、LiN(FSO、及びLiN(RfSO)(RfSO)が好ましく、LiPF、LiBF、LiN(RfSO、LiN(FSO、及びLiN(RfSO)(RfSO)などのリチウムイミド塩がさらに好ましい。ここで、Rf、Rfはそれぞれパーフルオロアルキル基を示す。
なお、リチウム塩は、1種を単独で使用しても、2種以上を任意に組み合わせてもよい。
【0137】
リチウム塩の含有量は、無機固体電解質100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましい。上限としては、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0138】
<その他のバインダー>
本発明の固体電解質組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、上述のバインダー(B)の他に、全固体二次電池において通常用いられるバインダーを含有してもよい。
通常用いられるバインダーとしては有機ポリマーが挙げられ、例えば、以下に述べる樹脂からなるバインダーが好ましく使用される。
【0139】
含フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニレンジフルオリド(PVdF)、ポリビニレンジフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)が挙げられる。
炭化水素系熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素添加スチレンブタジエンゴム(HSBR)、ブチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレンが挙げられる。アクリル樹脂としては、各種の(メタ)アクリルモノマー類、(メタ)アクリルアミドモノマー類、及びこれら樹脂を構成するモノマーの共重合体(好ましくは、アクリル酸とアクリル酸メチルとの共重合体)が挙げられる。
また、その他のビニル系モノマーとの共重合体(コポリマー)も好適に用いられる。
その他の樹脂としては例えばポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース誘導体樹脂等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0140】
なお、上記バインダーは市販品を用いることができる。また、常法により調製することもできる。
【0141】
<分散剤>
本発明の固体電解質組成物は、分散剤を含有してもよい。分散剤を含有することで電極活物質及び無機固体電解質のいずれかの濃度が高い場合においても、粒子径が細かく表面積が増大する場合においても、その凝集を抑制し、均一な活物質層及び固体電解質層を形成することができる。分散剤としては、全固体二次電池に通常使用されるものを適宜選定して用いることができる。一般的には粒子吸着と立体反発及び/又は静電反発を意図した化合物が好適に使用される。
【0142】
(固体電解質組成物の調製)
本発明の固体電解質組成物の調製法の一例としては、無機固体電解質(A)と、バインダー(B)とを分散媒(C)及び溶媒(D)の存在下で分散して、スラリー化する方法を挙げることができる。
スラリー化は、各種の混合機を用いて無機固体電解質(A)と、バインダー(B)と、分散媒(C)と、溶媒(D)とを混合することにより行うことができる。混合装置としては、特に限定されないが、例えば、ボールミル、ビーズミル、プラネタリミキサ―、ブレードミキサ―、ロールミル、ニーダー及びディスクミルが挙げられる。混合条件は特に制限されないが、例えば、ボールミルを用いた場合、150~700rpm(rotation per minute)で1時間~24時間混合することが好ましい。
活物質、分散剤等の成分を含有する固体電解質組成物を調製する場合には、上記の無機固体電解質(A)及びバインダー(B)の分散工程と同時に添加及び混合してもよく、別途添加及び混合してもよい。なお、バインダー(B)は、無機固体電解質(A)の分散工程と、別途添加及び混合してもよい。また、本発明の固体電解質組成物の調製に用いられるバインダーポリマーの形態は、バインダーポリマーそのものであっても、バインダーポリマーの溶液であっても、バインダーポリマーの分散液であってもよい。なかでも、無機固体電解質の分解を抑制し、かつ、活物質と無機固体電解質の粒子表面に点在化してイオン伝導度を担保できる点からは、粒子状のバインダーポリマーの分散液が好ましい。なお、バインダーポリマーの分散液を使用する場合、バインダーポリマーの体積平均粒子径は10~10000nmが好ましく、50~5000nmがより好ましく、100~1000nmがさらに好ましい。
【0143】
[固体電解質含有シート]
本発明の固体電解質含有シートは、少なくとも無機固体電解質(A)とバインダー(B)とを含有する。
【0144】
本発明の固体電解質含有シートは、固体粒子間の結着性に優れることにより押し込み強度が優れながら、イオン伝導度が高い。この理由は定かではないが以下のように考えられる。すなわち、バインダー(B)及び溶媒(D)が固体電解質表面の官能基と相互作用して配位するため、固体電解質組成物調製時に無機固体電解質の再凝集を抑制することで無機固体電解質粒子の粒子径の大径化を避けることができる。また、非環式シロキサン構造を有するバインダーポリマーはイオン伝導を阻害しにくいため、固体電解質層及び正極活物質層にバインダー(B)を含有させることによる高抵抗化を抑制できる。したがって、バインダー(B)と溶媒(D)とを組み合わせて用いることにより、本発明の固体電解質組成物で形成された固体電解質含有シートのイオン伝導度を向上させつつ、無機固体電解質同士の結着性向上に寄与する。この結果、本発明の固体電解質含有シートは、押し込み強度が高く、リチウムイオン伝導性に優れると考えられる。
【0145】
また、本発明の固体電解質含有シートに含有されるバインダーポリマーが粒子状であり、体積平均粒子径が10~1000nm以下である場合、本発明の固体電解質組成物から本発明の固体電解質含有シートを形成する過程において、分散媒(C)及び溶媒(D)の除去に伴いバインダーポリマーは固体表面に濡れ広がると考えられる。この際、バインダーポリマーの平均粒子径が小さいため、固体粒子表面を完全に覆うことなく濡れ広がると推定され、上記結着性の効果を示しつつ、イオン伝導度の阻害を大きく低減することができる。この結果、上記平均粒子径を有するバインダーを含有する本発明の固体電解質含有シートは結着性とイオン伝導度とをさらに高い水準で両立することが可能となり、本発明の固体電解質含有シートは優れた力学的強度(押し込み強度)を示し、この固体電解質含有シートを有する全固体二次電池は高い電池電圧を示すと考えられる。
【0146】
本発明の固体電解質含有シートは、全固体二次電池に好適に用いることができ、その用途に応じて種々の態様を含む。例えば、固体電解質層に好ましく用いられるシート(全固体二次電池用固体電解質シート又は固体電解質シートともいう)、電極又は電極と固体電解質層との積層体に好ましく用いられるシート(全固体二次電池用電極シート)等が挙げられる。
【0147】
固体電解質含有シートは、固体電解質層及び/又は活物質層(電極層)を有するシートであればよく、固体電解質層及び/又は活物質層(電極層)が基材上に形成されているシートでも、基材を有さず、固体電解質層及び/又は活物質層(電極層)から形成されているシート(基材を有さないシート)であってもよい。以降、基材上に固体電解質層又は活物質層(電極層)を有する態様のシートを例に、詳細に説明する。
この固体電解質含有シートは、基材と固体電解質層及び/又は活物質層を有していれば、他の層を有してもよいが、活物質を含有するものは後述する全固体二次電池用電極シートに分類される。他の層としては、例えば、保護層、集電体、コート層(集電体、固体電解質層、活物質層)等が挙げられる。
全固体二次電池用固体電解質シートとして、例えば、固体電解質層と保護層とを基材上に、この順で有するシートが挙げられる。
基材としては、固体電解質層を支持できるものであれば特に限定されず、後記集電体で説明した材料、有機材料及び無機材料等のシート体(板状体)等が挙げられる。有機材料としては、各種ポリマー等が挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン及びセルロース等が挙げられる。無機材料としては、例えば、ガラス及びセラミック等が挙げられる。
【0148】
固体電解質含有シートの固体電解質層の層厚は、後述の、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池において説明した固体電解質層の層厚と同じである。
【0149】
本発明の全固体二次電池用電極シート(単に「電極シート」ともいう。なお、正極用の電極シートを「正極シート」、負極用の電極シートを「負極シート」と称することもある。)は、全固体二次電池の活物質層を形成するためのシートであって、集電体としての金属箔上に活物質層を有する。この電極シートは、通常、集電体及び活物質層を有するシートであるが、集電体、活物質層及び固体電解質層をこの順に有する態様、並びに、集電体、活物質層、固体電解質層及び活物質層をこの順に有する態様も含まれる。
電極シートを構成する各層の層厚は、後述の、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池において説明した各層の層厚と同じである。
【0150】
[全固体二次電池]
本発明の全固体二次電池は、正極と、この正極に対向する負極と、正極及び負極の間の固体電解質層とを有する。正極は、正極集電体上に正極活物質層を有する。負極は、負極集電体上に負極活物質層を有する。
負極活物質層、正極活物質層及び固体電解質層の少なくとも1つの層は、本発明の固体電解質組成物を用いて形成される。また、負極活物質層、正極活物質層及び固体電解質層の少なくとも1つの層は、本発明の固体電解質含有シートである。
固体電解質組成物を用いて形成された活物質層及び/又は固体電解質層は、好ましくは、含有する成分種及びその含有量比について、特段の断りをしない限り、固体電解質組成物の固形分におけるものと基本的に同じである。
以下に、図1を参照して、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0151】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に有する。各層はそれぞれ接触しており、積層した構造をとっている。このような構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e)が供給され、そこにリチウムイオン(Li)が蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li)が正極側に戻され、作動部位6に電子が供給される。図示した例では、作動部位6に電球を採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。本発明の固体電解質組成物は、上記負極活物質層、正極活物質層、固体電解質層の成形材料として好ましく用いることができる。また、本発明の固体電解質含有シートは、上記負極活物質層、正極活物質層、固体電解質層として好適である。
本明細書において、正極活物質層(以下、正極層とも称す。)と負極活物質層(以下、負極層とも称す。)をあわせて電極層又は活物質層と称することがある。
【0152】
正極活物質層4、固体電解質層3、負極活物質層2の厚さは特に限定されない。なお、一般的な電池の寸法を考慮すると、10~1,000μmが好ましく、20μm以上500μm未満がより好ましい。本発明の全固体二次電池においては、正極活物質層4、固体電解質層3及び負極活物質層2の少なくとも1層の厚さが、50μm以上500μm未満であることがさらに好ましい。
【0153】
〔正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層〕
全固体二次電池10においては、正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層のいずれかが本発明の固体電解質組成物を用いて作製されている。
すなわち、固体電解質層3が本発明の固体電解質組成物を用いて作製されている場合、固体電解質層3は、無機固体電解質(A)とバインダー(B)とを含む。固体電解質層は、通常、正極活物質及び/又は負極活物質を含まない。
正極活物質層4及び/又は負極活物質層2が、活物質を含有する本発明の固体電解質組成物を用いて作製されている場合、正極活物質層4及び負極活物質層2は、それぞれ、正極活物質又は負極活物質を含み、さらに、無機固体電解質(A)とバインダー(B)とを含む。活物質層が無機固体電解質を含有するとイオン伝導度を向上させることができる。
正極活物質層4、固体電解質層3及び負極活物質層2が含有する無機固体電解質(A)及びバインダー(B)は、それぞれ、互いに同種であっても異種であってもよい。
【0154】
〔集電体(金属箔)〕
正極集電体5及び負極集電体1は、電子伝導体が好ましい。
本発明において、正極集電体及び負極集電体のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、集電体と称することがある。
正極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたもの(薄膜を形成したもの)が好ましく、その中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金がより好ましい。
負極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム、銅、銅合金又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましく、アルミニウム、銅、銅合金及びステンレス鋼がより好ましい。
【0155】
集電体の形状は、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。
集電体の厚みは、特に限定されないが、1~500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0156】
本発明において、負極集電体、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層及び正極集電体の各層の間又はその外側には、機能性の層や部材等を適宜介在ないし配設してもよい。また、各層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
【0157】
〔筐体〕
上記の各層を配置して全固体二次電池の基本構造を作製することができる。用途によってはこのまま全固体二次電池として使用してもよいが、乾電池の形態とするためにはさらに適当な筐体に封入して用いる。筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金及びステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
【0158】
[固体電解質含有シートの製造]
本発明の固体電解質含有シートは、本発明の固体電解質組成物を基材上(他の層を介していてもよい)に製膜(塗布乾燥)して、基材上に固体電解質層を形成することにより、得られる。
上記態様により、無機固体電解質(A)とバインダー(B)とを基材上に有する固体電解質含有シートを作製することができる。また、作製した固体電解質含有シートから基材を剥がし、固体電解質層からなる固体電解質含有シートを作製することもできる。また、後述の全固体二次電池の製造方法において記載される固体電解質層も本発明の固体電解質含有シートに含まれる。
その他、塗布等の工程については、下記全固体二次電池の製造に記載の方法を使用することができる。
なお、固体電解質含有シートは、電池性能に影響を与えない範囲内で分散媒(C)及び/又は溶媒(D)を含有してもよい。具体的には、全質量中1ppm以上10000ppm以下含有してもよい。また、全固体二次電池用電極シートも電池性能に影響を与えない範囲内で分散媒(C)及び/又は溶媒(D)を含有してもよい。具体的には、全質量中1ppm以上10000ppm以下含有してもよい。
【0159】
なお、本発明の固体電解質含有シート中の分散媒(C)及び/又は溶媒(D)の含有割合は、以下の方法で測定することができる。
固体電解質含有シートを20mm角で打ち抜き、ガラス瓶中で重テトラヒドロフランに浸漬させる。得られた溶出物をシリンジフィルターでろ過してH-NMRにより定量操作を行う。H-NMRピーク面積と溶媒の量の相関性は検量線を作成して求める。
【0160】
[全固体二次電池及び全固体二次電池用電極シートの製造]
全固体二次電池及び全固体二次電池用電極シートの製造は、常法によって行うことができる。具体的には、全固体二次電池及び全固体二次電池用電極シートは、本発明の固体電解質組成物等を用いて、上記の各層を形成することにより、製造できる。以下詳述する。
【0161】
本発明の全固体二次電池は、本発明の固体電解質組成物を、基材(例えば、集電体となる金属箔)上に塗布し、塗膜を形成(製膜)する工程を含む(介する)方法により、製造できる。
例えば、正極集電体である金属箔上に、正極用材料(正極用組成物)として、正極活物質を含有する固体電解質組成物を塗布して正極活物質層を形成し、全固体二次電池用正極シートを作製する。次いで、この正極活物質層の上に、固体電解質層を形成するための固体電解質組成物を塗布して、固体電解質層を形成する。さらに、固体電解質層の上に、負極用材料(負極用組成物)として、負極活物質を含有する固体電解質組成物を塗布して、負極活物質層を形成する。負極活物質層の上に、負極集電体(金属箔)を重ねることにより、正極活物質層と負極活物質層の間に固体電解質層が挟まれた構造の全固体二次電池を得ることができる。必要によりこれを筐体に封入して所望の全固体二次電池とすることができる。
また、各層の形成方法を逆にして、負極集電体上に、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層を形成し、正極集電体を重ねて、全固体二次電池を製造することもできる。
【0162】
別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シートを作製する。また、負極集電体である金属箔上に、負極用材料(負極用組成物)として、負極活物質を含有する固体電解質組成物を塗布して負極活物質層を形成し、全固体二次電池用負極シートを作製する。次いで、これらシートのいずれか一方の活物質層の上に、上記のようにして、固体電解質層を形成する。さらに、固体電解質層の上に、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートの他方を、固体電解質層と活物質層とが接するように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
また別の方法として、次の方法が挙げられる。すなわち、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートを作製する。また、これとは別に、固体電解質組成物を基材上に塗布して、固体電解質層からなる全固体二次電池用固体電解質シートを作製する。さらに、全固体二次電池用正極シート及び全固体二次電池用負極シートで、基材から剥がした固体電解質層を挟むように積層する。このようにして、全固体二次電池を製造することができる。
【0163】
上記の形成法の組み合わせによっても全固体二次電池を製造することができる。例えば、上記のようにして、全固体二次電池用正極シート、全固体二次電池用負極シート及び全固体二次電池用固体電解質シートをそれぞれ作製する。次いで、全固体二次電池用負極シート上に、基材から剥がした固体電解質層を積層した後に、上記全固体二次電池用正極シートと貼り合わせることで全固体二次電池を製造することができる。この方法において、固体電解質層を全固体二次電池用正極シートに積層し、全固体二次電池用負極シートと貼り合わせることもできる。
なお、上述の固体電解質シートと同様、本発明の全固体二次電池用電極シートには、基材を有さない形態も含まれる。
【0164】
(各層の形成(成膜))
固体電解質組成物の塗布方法は、特に限定されず、適宜に選択できる。例えば、塗布(好ましくは湿式塗布)、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート、スリット塗布、ストライプ塗布及びバーコート塗布が挙げられる。
このとき、固体電解質組成物は、それぞれ塗布した後に乾燥処理を施してもよいし、重層塗布した後に乾燥処理をしてもよい。乾燥温度は特に限定されない。下限は30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましい。上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。このような温度範囲で加熱することで、分散媒(C)及び溶媒(D)を除去し、固体状態にすることができる。また、温度を高くしすぎず、全固体二次電池の各部材を損傷せずに済むため好ましい。これにより、全固体二次電池において、優れた総合性能を示し、かつ良好な結着性を得ることができる。
【0165】
固体電解質含有シート、又は、全固体二次電池を作製した後に、各層又は全固体二次電池を加圧することが好ましい。また、各層を積層した状態で加圧することも好ましい。加圧方法としては油圧シリンダープレス機等が挙げられる。加圧力としては、特に限定されず、一般的には50~1500MPaの範囲であることが好ましい。
また、塗布した固体電解質組成物は、加圧と同時に加熱してもよい。加熱温度としては、特に限定されず、一般的には30~300℃の範囲である。無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。
加圧は分散媒(C)及び溶媒(D)をあらかじめ乾燥させた状態で行ってもよいし、分散媒(C)及び溶媒(D)が残存している状態で行ってもよい。
なお、各組成物は同時に塗布しても良いし、塗布乾燥プレスを同時及び/又は逐次行っても良い。別々の基材に塗布した後に、転写により積層してもよい。
【0166】
加圧中の雰囲気としては、特に限定されず、大気下、乾燥空気下(露点-20℃以下)及び不活性ガス中(例えばアルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)などいずれでもよい。
プレス時間は短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。全固体二次電池用シート以外、例えば全固体二次電池の場合には、中程度の圧力をかけ続けるために、全固体二次電池の拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。
プレス圧はシート面等の被圧部に対して均一であっても異なる圧であってもよい。
プレス圧は被圧部の面積や膜厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で変えることもできる。
プレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
【0167】
(初期化)
上記のようにして製造した全固体二次電池は、製造後又は使用前に初期化を行うことが好ましい。初期化は、特に限定されず、例えば、プレス圧を高めた状態で初充放電を行い、その後、全固体二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を開放することにより、行うことができる。
【0168】
[全固体二次電池の用途]
本発明の全固体二次電池は種々の用途に適用することができる。適用態様には特に限定はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、メモリーカードなどが挙げられる。その他民生用として、自動車(電気自動車等)、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【0169】
本発明の好ましい実施形態によれば、以下のような各応用形態が導かれる。
〔1〕正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層の全ての層が本発明の固体電解質含有シートである全固体二次電池。
〔2〕正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層の少なくとも1層がリチウム塩を含有する全固体二次電池。
〔3〕固体電解質層が、分散媒及び溶媒によって、リチウム塩及び硫化物系無機固体電解質が分散されたスラリーを湿式塗布し製膜される全固体二次電池の製造方法。
〔4〕無機固体電解質、バインダー、活物質、分散媒、溶媒及びリチウム塩を含有する固体電解質組成物。
〔5〕上記固体電解質組成物を金属箔上に適用(例えば、湿式塗布)し、製膜してなる全固体二次電池用電極シート。
〔6〕上記固体電解質組成物を金属箔上に適用(例えば、湿式塗布)し、製膜する全固体二次電池用電極シートの製造方法。
【0170】
上記好ましい実施形態の〔3〕及び〔6〕に記載するように、本発明の全固体二次電池及び全固体二次電池用電極シートの好ましい製造方法は、いずれも湿式プロセスである。これにより、正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも1層における無機固体電解質の含有量が10質量%以下の低い領域でも、活物質と無機固体電解質の密着性が高まり効率的なイオン伝導パスを維持することができ、電池質量あたりのエネルギー密度(Wh/kg)及び出力密度(W/kg)が高い全固体二次電池を製造することができる。
【0171】
全固体二次電池とは、正極、負極、電解質がともに固体で構成された二次電池を言う。換言すれば、電解質としてカーボネート系の溶媒を用いるような電解液型の二次電池とは区別される。このなかで、本発明は無機全固体二次電池を前提とする。全固体二次電池には、電解質としてポリエチレンオキサイド等の高分子化合物を用いる有機(高分子)全固体二次電池と、上記のLi-P-S系ガラス、LLTやLLZ等を用いる無機全固体二次電池とに区分される。なお、無機全固体二次電池に有機化合物を適用することは妨げられず、正極活物質、負極活物質、無機固体電解質のバインダーや添加剤として有機化合物を適用することができる。
無機固体電解質とは、上述した高分子化合物をイオン伝導媒体とする電解質(高分子電解質)とは区別されるものであり、無機化合物がイオン伝導媒体となるものである。具体例としては、上記のLi-P-S系ガラス、LLTやLLZが挙げられる。無機固体電解質は、それ自体が陽イオン(Liイオン)を放出するものではなく、イオンの輸送機能を示すものである。これに対して、電解液ないし固体電解質層に添加して陽イオン(Liイオン)を放出するイオンの供給源となる材料を電解質と呼ぶことがある。上記のイオン輸送材料としての電解質と区別する際には、これを「電解質塩」又は「支持電解質」と呼ぶ。電解質塩としては、例えばLiTFSIが挙げられる。
本発明において「組成物」というときには、2種以上の成分が均一に混合された混合物を意味する。ただし、実質的に均一性が維持されていればよく、所望の効果を奏する範囲で、一部において凝集や偏在が生じていてもよい。
【実施例
【0172】
以下に、実施例に基づき本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、「室温」は25℃を意味する。表中の「-」は該当する成分を含有しないことを意味する。
【0173】
<硫化物系無機固体電解質Li-P-S系ガラスの合成>
硫化物系無機固体電解質として、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.HamGa,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235及びA.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873の非特許文献を参考にして、Li-P-S系ガラスを合成した。
【0174】
具体的には、アルゴン雰囲気下(露点-70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(LiS、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42g及び五硫化二リン(P、Aldrich社製、純度>99%)3.90gをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入し、メノウ製乳棒を用いて、5分間混合した。LiS及びPの混合比は、モル比でLiS:P=75:25とした。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66g投入し、上記の硫化リチウムと五硫化二リンの混合物全量を投入し、アルゴン雰囲気下で容器を完全に密閉した。フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)に容器をセットし、温度25℃で、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行うことで、黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li-P-Sガラス、Li-P-Sと表記することがある。)6.20gを得た。
【0175】
<バインダー(B)の調製例>
以下、バインダー(B)分散液又は溶液の調製例を記載する。なお、分散媒中に粒子状で存在するもののみバインダーの平均粒子径を記載している。
【0176】
(バインダー(P-1)の調製)
200mL3つ口フラスコにX-22-174ASX(商品名、信越シリコーン社製、表1中のMC4の列に記載のM-1)7.50gとヘプタン22.5gを加えて80℃で攪拌し、均一に溶解させた。このようにして溶液Aを得た。別途、50mLメスシリンダーにヒドロキシブチルアクリレート(表1中のMC1の列に記載のA-7)10g、アクリル酸(A-8、表1中のMC2)5.00g、エチルアクリレート(表1中のMC3の列に記載のA-2)2.50g、V-601(商品名、和光純薬社製)0.25gとヘプタン14.0gを加えて攪拌し、均一に溶解させた。このようにして溶液Bを得た。溶液Aに溶液Bを80℃で2時間かけて滴下し、その後さらに80℃で2時間、90℃で2時間攪拌を続け、バインダー(P-1)のラテックスを得た。Mwは106,000であり、体積平均粒子径は240nmであった。
【0177】
(バインダー(P-2)の調製)
下記表1に記載のMC1、MC2、MC3及びMC4を用いたこと以外は、上記バインダー(P-1)の調製と同様にしてバインダー(P-2)のラテックスを得た。Mwは22,000であり、体積平均粒子径は180nmであった。
【0178】
(バインダー(P-3)の調製)
下記表1に記載のMC1、MC2、MC3及びMC4を用いたこと以外は、上記バインダー(P-1)の調製と同様にしてバインダー(P-3)のラテックスを得た。Mwは58,000であり、体積平均粒子径は450nmであった。
【0179】
(バインダー(P-5)の調製)
下記表1に記載のMC1、MC2及びMC4を用いたことと、ヘプタンに代えてジイソプロピルケトンを用いたこと以外は、上記バインダー(P-1)の調製と同様にしてバインダー(P-5)のラテックスを得た。Mwは45,000であり、体積平均粒子径は230nmであった。
【0180】
(バインダー(P-6)の調製)
下記表1に記載のMC1、MC2、MC3及びMC4を用いたことと、ヘプタンに代えてジイソブチルケトンを用いたこと以外は、上記バインダー(P-1)の調製と同様にして、バインダー(P-6)のラテックスを得た。Mwは92,000であり、体積平均粒子径は270nmであった。
【0181】
(バインダー(P-8)の調製)
下記表1に記載のMC1、MC2及びMC4を用いたことと、ヘプタンに代えてジイソブチルケトンを用いたこと以外は、上記バインダー(P-1)の調製と同様にして、バインダー(P-8)のラテックスを得た。Mwは40,000であり、体積平均粒子径は280nmであった。
【0182】
(バインダー(P-9)の調製)
下記表1に記載のMC1、MC2、MC3及びMC4を用いたことと、ヘプタンに代えて酪酸ブチルを用いたこと以外は、上記バインダー(P-1)の調製と同様にして、バインダー(P-9)のラテックスを得た。Mwは37,000であり、体積平均粒子径は190nmであった。
【0183】
(バインダー(P-10)の調製)
下記表1に記載のMC1及びMC4を用いたことと、ヘプタンに代えてジイソプロピルケトンを用いたこと以外は、上記バインダー(P-1)の調製と同様にして、バインダー(P-10)の溶液を得た。Mwは29,000であった。
【0184】
(バインダー(P-11)の調製)
下記表1に記載のMC1及びMC4を用いたことと、ヘプタンに代えてジイソプロピルケトンを用いたこと以外は、上記バインダー(P-1)の調製と同様にして、バインダー(P-11)の溶液を得た。Mwは25,000であった。
【0185】
(バインダー(P-13)の調製)
下記表1に記載のMC1、MC2、MC3及びMC4を用いたことと、ヘプタンに代えてジイソプロピルケトンを用いたこと以外は、上記バインダー(P-1)の調製と同様にして、バインダー(P-13)の溶液を得た。Mwは79,000であった。
【0186】
(バインダー(P-14)の調製)
下記表1に記載のMC1及びMC4を用いたことと、ヘプタンに代えてジイソプロピルケトンを用いたこと以外は、上記バインダー(P-1)の調製と同様にして、バインダー(P-14)の溶液を得た。Mwは46,000であった。
【0187】
(バインダー(P-15)の調製)
下記表1に記載のMC1、MC2、MC3及びMC4を用いたこと以外は、上記ポリマー(P-1)の調製と同様にして、バインダー(P-15)のラテックスを得た。Mwは59,000であり、体積平均粒子径は180nmであった。
【0188】
(バインダー(P-16)の調製)
下記表1に記載のMC1、MC2及びMC4を用いたこと以外は、上記バインダー(P-1)の調製と同様にして、バインダー(P-16)のラテックスを得た。Mwは34,000であり、体積平均粒子径は340nmであった。
【0189】
(バインダー(P-17)の調製)
下記表1に記載のMC1、MC2、MC3及びMC4を用いたこと以外は、上記ポリマー(P-1)の調製と同様にして、バインダー(P-17)のラテックスを得た。Mwは31,000であり、体積平均粒子径は270nmであった。
【0190】
(バインダー(P-18)の調製)
下記表1に記載のMC1、MC2、MC3及びMC4を用いたこと以外は、上記バインダー(P-1)の調製と同様にして、バインダー(P-18)のラテックスを得た。Mwは47,000であり、体積平均粒子径は260nmであった。
【0191】
(バインダー(P-4)の調製)
300mL3つ口フラスコに1,4-ブタンジオール(表1中のMC2の列に記載のB-11)1.20gとポリカーボネートジオール(商品名:デュラノールT5650E、旭化成社製 Mw500、表1中のMC3の列に記載のN-1)2.5gとKF-6000(商品名、信越化学社製、表1中のMC4の列に記載のM-4)13gとを加え、MEK(メチルエチルケトン)56gに溶解した。この溶液に、4,4'-ジイソシアン酸メチレンジフェニル7.5g(表1中のMC1の列に記載のB-1)を加えて80℃で撹拌し、均一に溶解させた。この溶液に、ネオスタンU-600(商品名、日東化成社製)100mgを添加して80℃で8時間攪伴し、白濁した粘性ポリマー溶液を得た。この溶液にメタノール1gを加えてポリマー末端を封止して、重合反応を停止し、バインダー(P-4)のMEK溶液を得た。
次に、上記で得られたバインダー(P-4)のMEK溶液を500rpmで撹拌しながら、オクタン96gを1時間かけて滴下し、バインダー(P-4)の乳化液を得た。窒素フローしながらこの乳化液を85℃で120分加熱した。さらに、残留物にオクタン50gを加えて同様に85℃で60分加熱する操作を4回繰り返して、MEKを除去してバインダー(P-4)の10質量%オクタン分散液を得た。Mwは18,000であり、体積平均粒子径は200nmであった。
【0192】
(バインダー(P-7)の調製)
下記表1に記載のMC1、MC2、MC3及びMC4を用いたこと以外は、上記バインダー(P-4)の調製と同様にして、バインダー(P-7)のラテックスを得た。Mwは33,000であり、体積平均粒子径は390nmであった。
【0193】
(バインダー(P-12)の調製)
下記表1に記載のMC1、MC2、MC3及びMC4を用いたこと以外は、上記バインダー(P-4)の調製と同様にして、バインダー(P-12)のラテックスを得た。Mwは76,000であり、体積平均粒子径は440nmであった。
【0194】
【表1】
【0195】
<表の注>
A-数字:上述の例示化合物を示す。
B-数字:上述の例示化合物を示す。
N-1:DURANOL T5650E(商品名、旭化成社製)
N-2:DURANOL T5650J(商品名、旭化成社製)
N-3:P-1010(商品名、クラレ社製)
M-1:X-22-174ASX(商品名、信越シリコーン社製)
M-2:X-22-174BX(商品名、信越シリコーン社製)
M-3:X-22-164AS(商品名、信越シリコーン社製)
M-4:KF-6000(商品名、信越シリコーン社製)
M-5:KF-6002(商品名、信越シリコーン社製)
M-6:KF-2012(商品名、信越シリコーン社製)
M-7:AB-6(商品名、東亞合成社製、ブチルアクリレートセグメントを有するモノマー)
上記表中の質量部は、固形分の質量部を示す。
M-1~M-6は、式(I)で表される部分構造を有する化合物である。
【0196】
[実施例1]
<固体電解質組成物の調製例>
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、無機固体電解質とバインダーと分散媒と溶媒とを投入した後に、フリッチュ社製遊星ボールミルP-7(商品名)に容器をセットし、室温下、回転数300rpmで2時間混合して固体電解質組成物を調製した。なお、固体電解質組成物が活物質を含有する場合は、活物質を投入してさらに室温下、回転数150rpmで5分間混合し、固体電解質組成物を調製した。また、固体電解質組成物が導電助剤を含有する場合は、上記無機固体電解質とバインダーと導電助剤と分散媒と溶媒とを合わせてボールミルP-7に投入して混合し、固体電解質組成物を調製した。このようにして、下記表2に記載の、No.S-1~S-19及びT’-1~T’-6固体電解質組成物を調製した。
ここで、No.S-1~S-19が本発明例であり、No.T’-1~T’-6が比較例である。
【0197】
【表2】
【0198】
<表の注>
(A):無機固体電解質
LLT:Li0.33La0.55TiO(平均粒径3.25μm豊島製作所製)
Li-P-S:上記で合成したLi-P-S系ガラス
(B):バインダー
P-1~P-17:上記バインダーP-1~P-17
T-1:水素添加スチレンブタジエンゴム(HSBR、JSR社製)
T-2:RTVシリコーンゴム(商品名:KE-1417、信越シリコーン社製)
(E):活物質
NMC:LiNi1/3Co1/3Mn1/3(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム)
NCA:LiNi0.85Co0.10Al0.05(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム)
(F):導電助剤
AB:アセチレンブラック
VGCF:商品名、昭和電工社製カーボンナノファイバー
(G):リチウム塩
LiTFSI:リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
上記表中の質量部は、固形分の質量部を示す。
【0199】
<固体電解質含有シートの作製>
上記で調製した固体電解質組成物S-1を、集電体である厚み20μmのステンレス鋼(SUS)箔上にバーコーダーにより塗工した。SUS箔を下面としてホットプレート上に設置し、80℃で1時間加熱して分散媒及び溶媒を除去し、さらに300MPaで加圧プレスして、固体電解質層を有するNo.101の固体電解質含有シートを作製した。No.101の固体電解質含有シートの作製と同様にして、上記表2に記載のNo.S-2~S-19及びT’-1~T’-6の固体電解質組成物を用いて、No.102~119及びc11~c16の固体電解質含有シートを作製した。ここで、No.101~119が本発明であり、No.c11~c16が比較例である。得られた固体電解質含有シートの固体電解質層又は活物質層の厚さを下記表3に示す。
【0200】
<評価>
上記で作製した固体電解質含有シートについて押し込み試験及びイオン伝導度測定を行った。以下に試験方法を記載し、結果を下記表3にまとめて記載する。
【0201】
[押し込み試験]
得られた固体電解質含有シートについて卓上型引張圧縮試験機 MCT2150(エーアンドデイ社製)、受圧板(JM-X004-500N、エーアンドデイ社製)を用いて押し込み試験を行った。
上記で作製した固体電解質含有シートを、ハンドパンチ(野上技研社製)を用いて10mmφに打ち抜き、卓上型引張圧縮試験機のテーブル上に固体電解質層又は活物質層が上側になるように設置した。受圧板を1分間に1cmの速度で降下させ、固体電解質層又は活物質層にひび割れが生じた際の圧力を読み取り、以下のA~Eで評価した。なお、評価「D」以上が本試験の合格レベルである。
【0202】
-評価基準-
A:ひび割れが生じた際の圧力が、15MPa以上
B:ひび割れが生じた際の圧力が、10MPa以上15MPa未満
C:ひび割れが生じた際の圧力が、5MPa以上10MPa未満
D:ひび割れが生じた際の圧力が、1MPa以上5MPa未満
E:ひび割れが生じた際の圧力が、0.5MPa以上1MPa未満
【0203】
(イオン伝導度の評価)
上記で得られた固体電解質含有シートを直径14.5mmの円板状に2枚切り出し、塗布面(固体電解質層又は電極層)を貼り合わせたイオン伝導度測定用シート(図2中、符号15、図3中、符号17で示す。)を、スペーサーとワッシャー(図3に示していない。)を組み込んで、ステンレス製の2032型コインケース16(図2において14)に入れた(コイン型のイオン伝導度測定用試験体18を作製した)。図2に示すように、下部支持板12と上部支持板11とにイオン伝導度測定用試験体13(図2において18)を挟んで、トルクレンチでネジSを8ニュートン(N)の力で締め付けて、イオン伝導度測定用試験体101~119及びc11~c16を作製した。
上記で得られた各イオン伝導度測定用試験体を用いて、イオン伝導度を測定した。具体的には、30℃の恒温槽中、1255B FREQUENCY RESPONSE ANALYZER(商品名、SOLARTRON社製)を用いて、電圧振幅5mV、周波数1MHz~1Hzまで交流インピーダンス測定した。これにより、貼り合わせた固体電解質含有シート(試料)の膜厚方向の抵抗を求め、下記式(1)により計算して、イオン伝導度を求めた。
【0204】
イオン伝導度σ(mS/cm)=1000×試料膜厚(cm)/(抵抗(Ω)×試料面積(cm))・・・式(1)
[試料膜厚は固体電解質層又は電極層の厚さを意味する。]
【0205】
以下のA~Eで評価した。評価「D」以上が本試験の合格レベルである。
-評価基準-
A:0.70≦σ
B:0.60≦σ<0.70
C:0.50≦σ<0.60
D:0.40≦σ<0.50
E:σ<0.40
【0206】
【表3】
【0207】
上記表3から明らかなように、本発明の規定を満たさないバインダーを含有する、又は、本発明の規定を満たさない溶媒を含有する固体電解質組成物から作製した、No.c11~c16の固体電解質含有シートは、いずれも押し込み試験及びイオン伝導度評価が不合格であった。
これに対して、本発明の固体電解質組成物から作製したNo.101~119の固体電解質含有シートは、いずれも押し込み試験及びイオン伝導度評価が合格であった。
【0208】
No.101~119の固体電解質含有シートの結果から、本発明の固体電解質組成物を用いて作製した固体電解質含有シートないしは全固体二次電池用電極シートは、全固体二次電池に用いると、高いイオン伝導度を示す。更には、本発明の固体電解質含有シート(固体電解質シート)を固体電解質層として用いると、短絡発生を抑制できるという優れた特性を全固体二次電池に付与できることが分かる。また、本発明の固体電解質含有シートないしは全固体二次電池用電極シートは、押し込み試験の結果が優れることから、本発明の固体電解質組成物を用いて全固体二次電池の製造することにより、全固体二次電池の歩留まりを向上させることができることがわかる。
【符号の説明】
【0209】
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 固体電解質層
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位
10 全固体二次電池
11 上部支持板
12 下部支持板
13 イオン伝導度測定用試験体
14 2032型コインケース
15 イオン伝導度測定用シート
S ネジ
16 2032型コインケース
17 イオン伝導度測定用シート
18 イオン伝導度測定用試験体
図1
図2
図3