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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】経皮吸収シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20220118BHJP
   B29C 39/24 20060101ALI20220118BHJP
   B29C 39/26 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
A61M37/00 505
A61M37/00 530
B29C39/24
B29C39/26
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020549258
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2019037478
(87)【国際公開番号】W WO2020067101
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2018180246
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】玉木 健一郎
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-168325(JP,A)
【文献】特開2009-241358(JP,A)
【文献】特開2010-234669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
B29C 39/24
B29C 39/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針状凹部を有し、前記針状凹部が形成された領域の周囲に前記針状凹部が形成された領域より高い段差部を備えるモールドの、前記針状凹部に薬液を充填し、乾燥させて薬剤層を形成する工程と、
前記段差部内にポリマー層形成液を供給する工程と、
前記ポリマー層形成液を乾燥させて、ポリマー層を形成し、経皮吸収シートを形成する工程と、
前記モールドから前記経皮吸収シートを剥離する工程と、を有し、
前記剥離する工程は、前記経皮吸収シートがモールドから離れる第1の方向とは逆の第2の方向で、前記段差部の一部に押圧力を付与し、前記経皮吸収シートの前記モールドとは反対側から真空吸着パッドで吸引することで、前記第1の方向に、前記モールドと前記経皮吸収シートを剥離し、
前記押圧力の付与は、筒状の基部と、前記基部に設けられた爪部と、を備えるおさえ治具を用いて、前記爪部を段差部に接触させることで行う、
経皮吸収シートの製造方法。
【請求項2】
前記真空吸着パッドがフラットパッドである請求項1に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【請求項3】
前記押圧力を付与する部分は、前記モールドの前記段差部の全周の75%以下である請求項1又は2に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【請求項4】
前記押圧力は、前記段差部の全周に等間隔に付与する請求項1から3のいずれか1項に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【請求項5】
前記ポリマー層形成液を供給する工程は、前記段差部と、前記針状凹部が形成された領域から段差部に向かって形成される壁部と、の接点を接触位置としたとき、前記針状凹部が形成された領域から前記接触位置を超えて前記ポリマー層形成液を供給した後、前記ポリマー層形成液を収縮させながら前記接触位置に固定する請求項1から4のいずれか1項に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【請求項6】
前記第1の方向は、前記針状凹部が形成された領域に垂直な方向である請求項1から5のいずれか1項に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【請求項7】
前記真空吸着パッドでの吸引圧が、50kPa以上である請求項1から6のいずれか1項に記載の経皮吸収シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経皮吸収シートの製造方法に係り、特に、針状凹部が形成されたモールドを用いて形状転写により経皮吸収シートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、痛みを伴わずにインシュリン(Insulin)及びワクチン(Vaccines)及びhGH(human Growth Hormone)などの薬剤を皮膚内に投与可能な新規剤型として、マイクロニードルアレイ(Micro-Needle Array)が知られている。マイクロニードルアレイは、薬剤を含み、生分解性のあるマイクロニードル(微細針、又は、微小針ともいう)をアレイ状に配列したものである。このマイクロニードルアレイを皮膚に貼付することにより、各マイクロニードルが皮膚に突き刺さり、これらマイクロニードルが皮膚内で吸収され、各マイクロニードル中に含まれた薬剤を皮膚内に投与することができる。マイクロニードルアレイは経皮吸収シートとも呼ばれる。
【0003】
上述のようなマイクロニードルアレイのような微細な突起状パターンを有する成形品を作製するため、微細な突起状パターンを有する原版から樹脂性の反転形状のモールドを形成し、このモールドから成形品を作製することが行われている。このような微細なパターンを有する成形品の生産性を向上させることが求められており、種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、スタンパからニードルシートを剥離する際に、スタンパ上に載置された枠体の全周を抑え、剥離力とは逆方向に働く固定力を付与し、スタンパ及びニードルシートを撓ませることで、ニードルシートを型から適切に剥離できるニードルシートの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-241358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の方法においては、枠体の全周に剥離力とは逆方向に働く固定力を付与しているため、スタンパが充分に撓みにくく、製造されたニードルシートも撓ませることで、ニードルシートの剥離を行っている。そのため、ニードル部が破損したり、製造されたニードルシートが変形してしまい、安定した形状のニードルシートを製造できていなかった。
【0007】
また、経皮吸収シートの量産を想定すると、機械的に自動でモールドから経皮吸収シートを離型可能とすることが望まれていた。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、剥離する際の針状凸部の破損、及び、経皮吸収シートの破損を抑え、経皮吸収シートの形状を安定して製造できる経皮吸収シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的を達成するために、本発明に係る経皮吸収シートの製造方法は、針状凹部を有し、針状凹部が形成された領域の周囲に針状凹部が形成された領域より高い段差部を備えるモールドの、針状凹部に薬液を充填し、乾燥させて薬剤層を形成する工程と、段差部内にポリマー層形成液を供給する工程と、ポリマー層形成液を乾燥させて、ポリマー層を形成し、経皮吸収シートを形成する工程と、モールドから経皮吸収シートを剥離する工程と、を有し、剥離する工程は、経皮吸収シートがモールドから離れる第1の方向とは逆の第2の方向で、段差部の一部に押圧力を付与し、経皮吸収シートのモールドとは反対側から真空吸着パッドで吸引することで、第1の方向に、モールドと経皮吸収シートを剥離する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の経皮吸収シートの製造方法によれば、経皮吸収シートをモールドから剥離する際、段差部の一部に、モールドから経皮吸収シートが離れる第1方向とは逆の第2の方向に押圧力を付与している。この状態で、真空吸着パッドで経皮吸収シートを第1の方向に吸引することで、モールドの端部は第2の方向に押され、中央部が第1の方向に引っ張られ、モールドを撓ませることができる。モールドには、段差部の一部に押圧力を付与しているため、モールドを変形しやすくすることができる。したがって、経皮吸収シートを真空吸着パッドで吸引することで、針状凸部の破損、及び、経皮吸収シートの変形を抑制して、安定した形状の経皮吸収シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】モールドを製造する手順を示す工程図である。
図2】モールドを製造する手順を示す工程図である。
図3】モールドを製造する手順を示す工程図である。
図4】モールドを製造する手順を示す工程図である。
図5】モールドを製造する手順を示す工程図である。
図6】経皮吸収シートを製造する手順を示す工程図である。
図7】経皮吸収シートを製造する手順を示す工程図である。
図8】経皮吸収シートを製造する手順を示す工程図である。
図9】経皮吸収シートを製造する手順を示す工程図である。
図10】経皮吸収シートを製造する手順を示す工程図である。
図11】おさえ治具の斜視図である。
図12】モールドの平面図である。
図13】経皮吸収シートを剥離する手順を示す工程図である。
図14】経皮吸収シートを剥離する手順を示す工程図である。
図15】経皮吸収シートを剥離する手順を示す工程図である。
図16】剥離後の経皮吸収シートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に従って、本発明に係る経皮吸収シートの製造方法について説明する。なお、本明細書において、「~」とは、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0013】
<モールド>
[モールドの製造方法]
図1から図5は、モールドの製造方法の手順を示す工程図である。モールド50は、原版10から、樹脂原盤にインプリントにより、第1モールド20を形成する。第1モールド20を形成した後、電鋳処理により、複製金型30を形成する。次に複製金型30から樹脂膜を用いて、複製金型30の反転型である針状凹部42を有するモールドシート40を形成する。最後に、モールドシート40を打抜き、パターン毎に切断することで、モールド50を形成する。以下、各工程について説明する。
【0014】
まず、図1に示すように、複数の針状凸部12がアレイ状に配置された突起状パターン14が形成された原版10を用意する。突起状パターン14が形成された原版10の作製方法は、特に限定されないが、例えば、ステンレスなどの金属基板に、ボールエンドミルなどの切削工具を用いた機械切削で加工することにより、原版10の表面に複数の針状凸部12を作成することができる。
【0015】
他の方法として、Si基板にフォトレジストを塗布した後、露光、現像を行う。そしてRIE(リアクティブイオンエッチング:Reactive Ion Etching)などによるエッチングを行うことにより、原版10の表面に、針状凸部12を作製する。なお、原版10の表面に針状凸部12を形成するためにRIEなどのエッチングを行う際には、Si基板を回転させながら斜め方向からのエッチングを行うことにより、針状凸部12を形成することが可能である。
【0016】
次に図2に示すように、インプリント方式により、原版10を利用して複数の針状凹部22からなる凹状パターン24を有する第1モールド20を作製する。第1モールド20を作製する方法としては、熱可塑性樹脂等の第1モールド20の材料から構成される樹脂原盤を準備する。加熱した原版10を、樹脂原盤の表面にプレスし、冷却等をして樹脂原盤を硬化させ、樹脂原盤表面に針状凹部22を形成する。その後、原版10を樹脂原盤から剥離し、必要に応じて樹脂原盤を成形し、第1モールド20を製造することができる。なお、図2においては、原版10を用いて針状凹部22を有する2つ凹状パターン24を形成する図を示しているが、凹状パターンの数は限定されない。3つ以上の凹状パターンが形成された第1モールドを製造してもよい。
【0017】
次に図3に示すように、第1モールド20を用いて針状凸部32からなる突起状パターン34を有する複製金型30を製作する。複製金型30は電鋳処理により製作されることが好ましい。
【0018】
電鋳処理においては、まず、第1モールド20に対して、導電化処理を行う。第1モールド20に、金属(例えば、ニッケル)をスパッタし、第1モールド20の表面及び針状凹部22に金属を付着する。
【0019】
次いで、導電化処理を経た第1モールド20を陰極に保持する。金属ペレットを金属製のケースに保持し陽極とする。第1モールド20を保持する陰極と金属ペレットを保持する陽極とを電鋳液中に浸漬し、通電することで、第1モールド20の針状凹部22に金属が埋め込まれ、剥離することで突起状パターン34を有する複製金型30が製作される。
【0020】
また、突起状パターン34を有する複製金型30の製作は、電鋳処理に限定されず、第1モールド20に樹脂を供給し、硬化させることで製作することもできる。供給する樹脂に金属粒子を分散させることで、複製金型30に金属を含ませることができる。
【0021】
なお、突起状パターン34を有する複製金型30の製作は、図1から図3に示す工程に限定されず、原版10と同様の方法で製作された複数の突起状パターンが形成された金型(大判の原版)を用いることもできる。しかしながら、原版の製作は、微細で複雑なパターン形状になるほどコストがかかるため、大判の原版を製作することはコストがかかる。また、針状凸部の形状が異なることも懸念される。したがって、図1から図3に示すように、原版10からインプリントにより複数の凹状パターンを有する第1モールド20を作製し、金型を製作することで、低コストで金型を製作することができる。
【0022】
次に図4に示すように、複製金型30を用いて、モールドシート40を製造する。モールドシート40の製造は、複製金型30に医療グレードのシリコーン材料(例えば、ダウ・コーニング社製MDX4-4210)を流し込み、150℃で加熱処理し硬化した後に、複製金型30からモールドシート40を剥離することで製造することができる。また、別の方法としては、紫外線を照射することにより硬化するUV硬化樹脂を複製金型30に流し込み、窒素雰囲気中で紫外線を照射した後に、複製金型30からモールドシート40を剥離することにより製造することができる。さらに、別の方法として、ポリスチレン及びPMMA(ポリメチルメタクリレート:polymethylmethacrylate)等のプラスチック樹脂を有機溶剤に溶解させたものを剥離剤の塗布された複製金型30に流し込み、乾燥させることにより有機溶剤を揮発させて硬化させた後に、複製金型30からモールドシート40を剥離することにより製造することができる。複製金型30の突起状パターン34が、モールドシート40の凹状パターン44に対応して形成される。
【0023】
次に図5に示すように、モールドシート40を針状凹部42が形成された凹状パターン44毎に切断することで、モールド50を製造する。これにより、原版10の反転型であり、アレイ状に配置された複数の針状凹部42を有するモールド50を形成することができる。
【0024】
[経皮吸収シートの製造方法]
次に、上記の製造方法で製造されたモールド50を用いて、経皮吸収シートを製造する方法について説明する。
【0025】
まず、図6に示すようにモールド50を用意する。次に、図7に示すように、薬液を針状凹部42に供給し、乾燥することで、針状凹部42内に薬剤を含む薬剤層110を形成する。薬剤層110の形成は、薬剤を含む薬液を針状凹部42が形成された領域48に塗布する。塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、ノズルにより供給することができる。また、点着方法を用いてもよい。薬液を供給後、モールド50の裏面から吸引することで薬液を吸引でき、針状凹部42内へ薬液の充填を促進させることができる。
【0026】
薬液を針状凹部42内に充填した後、薬液を乾燥し、薬剤層110を形成する。薬の乾燥は、温湿度条件を制御して乾燥速度を最適化することにより、針状凹部42の壁面に薬液が固着することを低減することができ、乾燥により薬液が針状凹部42の先端に集まりながら乾燥を進めることができる。
【0027】
薬液を乾燥させることで、薬液が固化し、薬液を充填した際の状態よりも収縮させることができる。これにより、モールド50から経皮吸収シート120を剥離する際に針状凹部42から薬剤層110を容易に剥離することができる。
【0028】
次に、図8に示すように、所定量の薬剤を含む薬剤層110の上にポリマー層形成液112を供給し、ポリマー層形成液112を針状凹部42及び針状凹部42が形成された領域48上に供給する。ポリマー層形成液112は、ポリマー層114を形成するポリマー溶解液である。ポリマー層形成液112の供給は、ディスペンサーによる塗布、バー塗布やスピン塗布、スプレーなどによる塗布、また、点着による塗布などを適用することができるがこれに限定されない。薬剤層110は乾燥により固化されているので、薬剤層110に含まれる薬剤がポリマー層形成液112に拡散することを抑制できる。
【0029】
ポリマー層形成液112の供給は、図8に示すように、針状凹部42が形成された領域48の周囲に設けられた段差部52の少なくとも一部を覆い、針状凹部42が形成された領域48側から接触位置56を超えて、ポリマー層形成液112を供給手段90により供給する。供給されたポリマー層形成液112は、モールド50により弾かれ、表面張力により収縮する。収縮したポリマー層形成液112は、図9に示すように、モールド50の段差部52と、針状凹部42が形成された領域48から段差部52に向かって形成される壁部54と、の接点である接触位置56で固定(ピニング)される。接触位置56で固定された状態で、ポリマー層形成液112を乾燥することで、経皮吸収シートのポリマー層114の形状を安定して形成することができる。また、ポリマー層形成液112の乾燥を行う前に、モールド50の針状凹部42が形成された領域48の反対側から吸引を行ってもよい。吸引を行うことで、ポリマー層形成液112を針状凹部42内に充填することができる。また、ポリマー層形成液112内に気泡を有する場合、吸引することで気泡を除去することができる。
【0030】
ポリマー層形成液112をモールド50に供給した後、ポリマー層形成液112を乾燥固化させる。これにより、図10に示すように、ポリマー層114を薬剤層110の上に形成することができ、薬剤層110とポリマー層114とを有する経皮吸収シート120が製造される。
【0031】
なお、ポリマー層形成液112の乾燥は、ポリマー層形成液112が接触位置56に固定された状態で開始してもよく、ポリマー層形成液112が段差部52に残っている状態で開始してもよい。段差部52にポリマー層形成液112が残った状態で、乾燥を開始する場合は、段差部52のポリマー層形成液112を速く乾燥することが有効である。段差部52のポリマー層形成液112を乾燥させることで、ポリマー層形成液112を接触位置56で固定することができる。
【0032】
ポリマー層形成液112が乾燥することで、ポリマー層形成液112は体積が縮小する。ポリマー層形成液112が乾燥中にモールド50に密着していれば体積の縮小はシートの膜厚方向に起こり、膜厚が薄くなる。
【0033】
乾燥による経皮吸収シート120の水分量等は適宜設定される。なお、乾燥により、ポリマー層114の水分量が低くなりすぎると剥離しにくくなるため、弾性力を維持している状態の水分量を残存させておくことが好ましい。
【0034】
次に、乾燥後の経皮吸収シート120をモールド50から剥離する。経皮吸収シート120をモールド50から剥離する際は、段差部52の一部に押圧力を付与する。図11は、段差部52に押圧力を付与する際に用いられるおさえ治具の斜視図である。また、図12は、モールド50の平面図である。
【0035】
図11に示すおさえ治具150は、中を貫通させた筒状の基部152と、この基部152に設けられた爪部154により構成される。図13は、おさえ治具を段差部に載置し、押圧力を付与した状態を示す図である、段差部52に押圧力を付与する際は、おさえ治具150の爪部154が、段差部52と接触するように載置する。図11では、おさえ治具150を爪部154がわかりやすいように、爪部154を上方に向けた図としているが、使用時は、反転させて使用する。モールド50は、図12に示すように、円形形状であり、段差部52も円形に形成されている。おさえ治具150を押圧することで、爪部154が接触する位置で、段差部52に押圧力を付与することができる。おさえ治具150は基部152内を貫通させることで、真空吸着パッド160で経皮吸収シートを吸引する際に、基部152内を真空吸着パッド通過させることができる。これにより、経皮吸収シート120の裏面側(モールド50の反対側)を真空吸着パッド160で吸引することができる。
【0036】
おさえ治具150の形状は、図11に示す形状に限定されない。段差部52の一部を押圧することができ、かつ、経皮吸収シート120の裏面側から真空吸着パッド160で吸引することができれば、特に限定されない。また、爪部154の数も、図11に示す2つに限定せず、3つ以上有するおさえ治具とすることができる。ただし、爪部154の数が多くなると、おさえ治具150で段差部52に押圧力を付与した際に、モールド50の変形が小さくなり、経皮吸収シート120が剥離しにくくなるため好ましくない。また、経皮吸収シート120とモールド50を吸引により離型する際に、モールド50をモールド接地面に固定でき、経皮吸収シート120と一緒につれ上がらなければ爪部の数は1つとすることもできる。図11に示すおさえ治具150の場合は、爪部154の数が、段差部52を抑える位置の数となる。
【0037】
段差部52の複数個所に押圧力を付与する場合は、押圧力付与する位置を等間隔に配置することが好ましい。等間隔に配置することで、モールド50の変形を均等に行うことができ、経皮吸収シートを剥離しやすくすることができる。
【0038】
また、段差部に押圧力を付与する部分は、段差部52の全周の75%以下とすることが好ましく、より好ましくは50%以下である。また、15%以上とすることが好ましい。押圧力を付与する部分を上記範囲とすることで、経皮吸収シートを剥離する際にモールド50を撓ませることができる。また、経皮吸収シート120を真空吸着パッド160で吸引し、剥離する際に、モールド50が浮き上がることを防止することができる。
【0039】
真空吸着パッド160は、吸着時(吸引時)の経皮吸収シート120の変形を抑えるため、フラットパッドを用いることが好ましい。
【0040】
図14は、真空吸着パッド160を用いて剥離を開始した状態を示す図である。モールド50の端部は、押圧力により第2の方向Bに押圧される。また、経皮吸収シート120は、針状凹部42が形成された領域48に垂直な方向である第1の方向A(第2の方向Bと逆方向)に、真空吸着パッド160により吸引されるため、モールド50の中心部は、経皮吸収シート120に引っ張られる。したがって、図14に示すように、針状凹部42が形成された領域48の端部側(壁部54側)から変形し、まず、経皮吸収シート120の端部と、モールド50の針状凹部42が形成された領域48の端部側との剥離が開始する。
【0041】
真空吸着パッド160により、経皮吸収シート120を、第1の方向Aに引き上げることで、モールド50の中央部は経皮吸収シート120にさらに引っ張られる。モールド50の端部は、押圧力により抑えられているので、モールド50の撓みにより、経皮吸収シート120の針状凸部122とモールド50とが離型し、剥離の際に、針状凸部122が破損することを抑制することができる。さらに、真空吸着パッド160で吸引することで、モールド50が経皮吸収シート120と一緒につれ上がることなく経皮吸収シート120のみを引き上げることができる(図15)。また、モールド50を十分に撓ませることで、低い吸引圧で、経皮吸収シート120をモールド50から剥離することができる。吸引圧としては、50kPa以上の吸引圧で剥離することができる。
【0042】
真空吸着パッド160は、フラットパッドとすることが好ましい。フラットパッドとすることで、経皮吸収シート120をフラットな状態で吸引することができるので、剥離する際の経皮吸収シート120の変形を抑えることができる。
【0043】
図16は、剥離後の経皮吸収シート120の一例を示す断面図である。製造される経皮吸収シート120の針状凸部122の形状は、先端が先細り形状となっていれば、特に限定されないが、例えば、円錐、又は、三角錐、四角錐等の角錐状の形状とすることができる。また、先細り形状のニードル部と、ニードル部と接続さえた錐台部とにより形成することができる。
【0044】
突起状パターンの針状凸部122の高さHは、100μm以上2000μm以下の範囲であり、好ましくは、200μm以上1500μm以下である。
【0045】
製造される針状凸部122を有する経皮吸収シート120は、突起状パターン14を有する原版10の複製であるため、原版10の突起状パターン14の形状を所望の形状とすることで、製造される経皮吸収シート120の針状凸部122を所望の形状とすることができる。
【0046】
[ポリマー層形成液]
本実施形態に使用されるポリマー樹脂の溶解液であるポリマー層形成液について説明する。
【0047】
ポリマー層形成液に用いられる樹脂ポリマーの素材としては、生体適合性のある樹脂を用いることが好ましい。このような樹脂としては、グルコース、マルトース、プルラン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルデンプンなどの糖類、ゼラチンなどのタンパク質、ポリ乳酸、乳酸・グリコール酸共重合体などの生分解性ポリマーを使用することが好ましい。これらの中でもゼラチン系の素材は多くの基材と密着性をもち、ゲル化する材料としても強固なゲル強度を持つため、モールドから経皮吸収シートを剥離する際に、基材と密着させることができ、モールドから基材を用いて経皮吸収シートの剥離を容易に行うことができ、好適に利用することができる。濃度は材料によっても異なるが、ポリマー層形成液中に樹脂ポリマーが10~50質量%含まれる濃度とすることが好ましい。また、溶解に用いる溶媒は、温水以外であっても揮発性を有するものであればよく、メチルエチルケトン(MEK:methyl ethyl ketone)、アルコールなどを用いることができる。
【0048】
ポリマー層形成液の調製方法としては、水溶性の高分子(ゼラチンなど)を用いる場合は、水溶性粉体を水に溶解することで行うことができる。水に溶解しにくい場合は、加温して溶解してもよい。温度は高分子材料の種類により、適宜選択可能であるが、約60℃以下の温度で加温することが好ましい。ポリマー層形成液の粘度は、2000Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは1000Pa・s以下とすることが好ましい。ポリマー層形成液の粘度を適切に調整することにより、モールドの針状凹部に容易にポリマー層形成液を注入することができる。ポリマー層形成液の粘度は、例えば、細管式粘度計、落球式粘度計、回転式粘度計又は振動式粘度計で測定することができる。
【0049】
[薬液]
薬剤層110を形成する薬液について説明する。薬液は、上記のポリマー層形成液に所定量の薬剤を含有した液である。所定量の薬剤を含むか否かは、体表に穿刺した際に薬効を発揮できるか否かで判断される。したがって、所定量の薬剤を含むとは、体表に穿刺した際に薬効を発揮する量の薬剤を含むことを意味する。
【0050】
薬液に含有させる薬剤は、薬剤としての機能を有するものであれば限定されない。特に、ペプチド、タンパク質、核酸、多糖類、ワクチン、水溶性低分子化合物に属する医薬化合物、又は化粧品成分から選択することが好ましい。
【0051】
薬液中のポリマー濃度(薬剤自体がポリマーである場合は薬剤を除いたポリマーの濃度)としては、0~30質量%含まれることが好ましい。また、薬液の粘度は、100Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは10Pa・s以下とすることが好ましい。
【実施例
【0052】
以下に、本発明の実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例に示される材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0053】
モールドは、121本の針状凹部を有する直径20mmの円形の形状のシリコーンゴムモールド(SIL-5930製)を用いた。段差部の幅は2mmであり、段差部内部の直径(針状凹部が形成された領域の直径)は16mmである。また、段差部の深さ(段差部から針状凹部が形成された領域までの距離)は0.5mmである。
【0054】
このモールドの段差部内に、コンドロイチン硫酸(CS)40wt%水溶液を250mg滴下し、乾燥させ、経皮吸収シートを製造した。なお、本実施例で製造される経皮吸収シートは、剥離する工程での離型性を確認する目的で製作しているため、薬剤層は形成せず、ポリマー層形成液のみで経皮吸収シートを製造した。製造された経皮吸収シートの含水率は18wt%であった。モールド外周の段差部上に、図12に示すおさえ治具を設置し、おさえ治具上部からモールドをえ、押圧力を付与した。おさえ治具は、外20mm、内径18mm、爪部の高さ2mmである。また、爪部の周方向の長さを5mmとし、爪部は円周上に等間隔に配置した。なお、図11に示す、爪部が2つ設けられているおさえ治具の他に、爪部が3つ、及び、4つ設けられているおさえ治具についても離型性の試験を行った。爪部が3つ、及び4つ設けられているおさえ治具についても、爪部の周方向の長さは5mmであり、円周上に等間隔に配置した。おさえ治具でモールドに押圧力を付与した状態で、経皮吸収シートの裏面側から真空吸着パッド(フラットパッド)を接触させ、50~60kPaの吸引圧で引き上げた。
【0055】
また、比較例として、上記実施例と同様に、コンドロイチン硫酸40wt%水溶液を用いて、経皮吸収シートを製造した。このモールドの段差部の全周をおさえることで、モールドをモールド設置面に固定した。この状態で、経皮吸収シートの裏面側から真空吸着パッドを接触させ、98kPaの吸引圧で引き上げた。離型性評価は、以下の基準で行った。
【0056】
A:針状凸部が破損することなく、モールドから経皮吸収シートを剥離できた。
【0057】
B:剥離する際に針状凸部の破損が見られるが、経皮吸収シートの使用上問題無いレベルであった。
【0058】
C:経皮吸収シートの剥離ができなかった。
【0059】
結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
段差部上の2点、及び、3点でモールドに押圧力を付与した実施例1及び実施例2においては、針状凸部が変形することなく、経皮吸収シートを剥離することができた。段差部上の4点でモールドに押圧力を付与した実施例3においても、経皮吸収シートの使用上、問題無いレベルであった。
【0062】
モールドの段差部の全周をおさえ、押圧力を付与した比較例1では、モールドが変形せず、実施例1から3より強い吸引圧で吸引し、真空吸着パッドを引き上げても経皮吸収シートの剥離は不可能であった。本実施例によれば、比較例より低い吸引圧で、経皮吸収シートの剥離を行うことができた。
【0063】
本発明の経皮吸収シートの製造方法によれば、モールドの周囲の一部に押圧力を付与することで、モールドの周囲の全周に押圧力を付与した場合と比較し、押圧力によりモールドを変形させることができる。また、押圧力は、モールドから経皮吸収シートを剥離する方向と逆の方向であるため、真空吸着パッドで吸引することで、モールドを撓ませることができ、針状凸部をモールドから剥離しやすくできる。したがって、経皮吸収シートを、針状凹部が形成された領域に垂直方向に剥離することで、経皮吸収シートの針状凸部が破損することなく、経皮吸収シートを製造することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 原版
12、32 針状凸部
14、34 突起状パターン
20 第1モールド
22、42 針状凹部
24、44 凹状パターン
30 複製金型
40 モールドシート
48 針状凹部が形成された領域
50 モールド
52 段差部
54 壁部
56 接触位置
90 供給手段
110 薬剤層
112 ポリマー層形成液
114 ポリマー層
120 経皮吸収シート
122 針状凸部
150 おさえ治具
152 基部
154 爪部
160 真空吸着パッド
A 第1の方向
B 第2の方向
図1
図2
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