(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】ホログラム記録再生装置
(51)【国際特許分類】
G11B 20/10 20060101AFI20220118BHJP
G11B 7/0065 20060101ALI20220118BHJP
G11B 20/12 20060101ALI20220118BHJP
G11B 7/135 20120101ALI20220118BHJP
G11B 20/18 20060101ALI20220118BHJP
G03H 1/22 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
G11B20/10 341Z
G11B7/0065
G11B20/12
G11B7/135
G11B20/18 530
G11B20/18 512A
G11B20/18 572C
G11B20/18 572Z
G03H1/22
(21)【出願番号】P 2017168810
(22)【出願日】2017-09-01
【審査請求日】2020-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】片野 祐太郎
(72)【発明者】
【氏名】室井 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】木下 延博
(72)【発明者】
【氏名】石井 紀彦
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/141997(WO,A1)
【文献】特開2012-138146(JP,A)
【文献】特開2009-032330(JP,A)
【文献】特表平09-500995(JP,A)
【文献】特開2007-004925(JP,A)
【文献】特開2009-087489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 20/10
G11B 7/0065
G11B 20/12
G11B 7/135
G11B 20/18
G03H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n(n>1)ビットのビット列データをr個の画素からなる変調シンボルに変換する変調方式により記録されたホログラム記録媒体から、データを復元するホログラム記録再生装置であって、
前記ホログラム記録媒体から再生されたページデータを、予め過去の再生ページデータを使用した機械学習によって構成されるアルゴリズムを用いた画像認識処理で
前記変調シンボルから前記ビット列データに復調することを特徴とするホログラム記録再生装置。
【請求項2】
請求項1に記載のホログラム記録再生装置において、再生ページデータを変調シンボルごとに分割し、ページデータ内の位置ごとに異なる光学特性を変調シンボル単位で機械学習させ、位置ごとに異なる復調アルゴリズムを構築することを特徴とするホログラム記録再生装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のホログラム記録再生装置において、前記機械学習はたたみ込みニューラルネットワークモデルであり、前記ニューラルネットワークモデルでは、次元を減らすプーリングを行わないことを特徴とするホログラム記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラム記録再生装置に関し、特に、2次元画像のシンボルに変調されたデータからビット列のデータを復調するホログラム記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量のデータを効率的に記録することができる媒体として、ホログラム光メモリー媒体(ホログラム記録媒体)が注目されている。ホログラフィックメモリーは、画像や音声、コンピュータ等の大容量メモリーとしての利用が期待されている。
【0003】
図6に、ホログラム記録再生装置100の光学系の一例を示す。ホログラム記録では、変調(符号化)されたビット列を二次元状に配列したデータパターン(ページデータ)を使用する。
【0004】
レーザ光源101から出力され、レンズ102、空間フィルタ103を通過したレーザ光はコリメートレンズ104で平行光線となり、1/2波長板105によって45度偏光に偏光面を回転させられた後、ミラー106で反射され、PBS(偏光ビームスプリッタ)107にて信号光と参照光とに分けられる。記録時においては、信号光はPBS108を透過し、反射型液晶素子等からなるSLM(空間光変調素子)109上に照射される。この照射された光は、SLM109の素子面に映出された白と黒のビットパターンによる2次元画像の記録ページデータを担持されて反射され、物体光としてPBS108に戻る。なお、この記録ページデータの生成は、演算装置150である記録処理部(後述)によって制御される。SLM109から戻った物体光は、PBS108により反射され、FT(フーリエ変換)レンズ110を介してホログラム記録媒体116上に照射される。
【0005】
一方、PBS107によって反射された参照光は1/2波長板111を通過し、ミラー112で反射され、PBS113で反射され、さらにガルバノミラー114で反射され、リレーレンズ115を通過後、ホログラム記録媒体116上に照射される。このようにしてホログラム記録媒体116上に照射された参照光と物体光は、このホログラム記録媒体116上で干渉して干渉縞が形成され、該干渉縞がホログラム記録媒体116に書き込まれることになる。
【0006】
次に再生時について説明する。レーザ光源101からPBS107までは記録時と同様であるが、反射された参照光は1/2波長板111を透過し、ミラー112で反射された後、PBS113を通過し、ミラー117、及びガルバノミラー118によって反射され、リレーレンズ119を通過後ホログラム記録媒体116に入射する。ホログラム記録媒体116に書かれた干渉縞によって回折された信号光は、記録ページデータの情報を有している。信号光はFTレンズ110を通過後、PBS108を通過して2次元撮像素子(イメージセンサ)120で撮像され、演算装置160である再生処理部(後述)で処理することにより、デジタルデータが復元されることになる。
【0007】
一般に、ホログラム記録装置は、角度多重、位相コード多重、球面参照光シフト多重などの様々な多重方式を用いることで、同一箇所にホログラムを多重記録可能であり、これにより高密度に情報を記録することができる。
【0008】
変調コードとしては、ページデータを分割したある一定の範囲中で輝点と暗点の判定を行う方法が提案されている(特許文献1)。これは、再生時の諸条件や、レーザ光の面内方向の輝度むらなどによって、ページデータの周辺部と中心部で再生されたページデータの輝度条件が異なるため、ページ全体を一定の閾値により輝点と暗点を判定することが困難であるためである。コードの例としては、隣り合うピクセルの回折光強度を引き算し、結果がマイナスであれば“0”、プラスであれば“1”にそれぞれ対応付ける差分コードや、5:9変調などがある。
【0009】
図7に、5:9変調によるデータ変換(変調)について説明する。ここで、n:r変調とは、nビットの1,0のビット列をr個の画素からなるシンボル(変調シンボル)に変換する変調方式をいう。5:9変調は、5ビット(2
5=32とおり)のデータを、3×3の9画素で表現する変調方式である。
図7(a)に示されるように、3×3の9画素のシンボルは、輝点2画素と暗点7画素で構成され、輝点の配置が異なる32とおりのシンボル(#1~#32)が作成される。この32とおりのシンボルをそれぞれ5ビットデータと対応付けて変調符号とする。次に、
図7(b)に示されるように、記録するデータを5ビットずつ区切り、それぞれを対応するシンボルで置き換えることにより変調する。例えば、最初の1~5ビットが「10010」であれば、これを対応するシンボル#18で置き換え、次の6~10ビットが「10111」であれば、これを対応するシンボル#23で置き換える。その後、3×3のシンボルを敷き詰めてならべることでページデータを形成する。例えば、1,740画素×1,044画素のページデータであれば、1740×1044÷(3×3)= 201,840個のシンボルが並べられ、5ビット×201840=1,009,200ビットのデータが変調されていることになる。
【0010】
次に、
図8により、5:9変調における、データ復調について説明する。ページデータは、変調シンボルに対応する一定の範囲(3×3画素)内での輝点と暗点の判定をすることで、データを復調できる。データの復調方法は、ページデータから取り出したシンボルにおける各画素の輝度を比較する、硬判定による処理が一般的である。例えば、5:9変調の場合には、輝点が2画素含まれることから、9つの画素の輝度を測定し、最も輝度が高い2点(
図8では、8ビットの輝度値232の画素と輝度値212の画素)を輝点とみなして、この位置(右上と左下)に輝点を有するシンボル#31を対応付けて、このシンボルからデータ列を復調する。
【0011】
次に、ホログラム記録再生装置の全体の構成を示す。
図9は、5:9変調を利用した従来のホログラム記録再生装置のブロック図の一例である。ホログラム記録再生装置は、記録処理部10と、光学系20と、再生処理部30とを備えている。
【0012】
記録処理部10は、記録ビット列をホログラムとして記録するための処理を行う。記録処理部10は、入力された記録ビット列に対して、前述した5:9変調を行う5:9変調部11と、5:9変調部により生成されたシンボル列を配列して、ページデータを作成するページデータ化部12とを備える。
【0013】
光学系20は、記録光学系21と、記録媒体22と、再生光学系23とを備え、例えば、
図6に示す光学要素から構成される。記録光学系21は、記録処理部10で生成したページデータが担持された物体光と参照光を記録媒体22に照射する。
【0014】
記録媒体(
図6のホログラム記録媒体116)22には、物体光と参照光の干渉により、ページデータが記録される。
【0015】
再生光学系23は、記録媒体22に参照光を照射して、ページデータの情報を有する信号光を再生し、撮像素子等によりイメージデータを取得して、ページデータを再生する。
【0016】
再生処理部30は、シンボル取り出し部31、輝度比較部32、輝点位置推定部33、5:9復調部34を備える。シンボル取り出し部31は、再生されたページデータを所定の区域ごとに切り出して、シンボル(3×3画素)を取り出す。輝度比較部32は、
図8で説明したように、シンボルを構成する各画素の輝度を測定し、その比較を行う。なお、輝度の比較に際しては、必要に応じて光学系に起因するノイズを低減する処理等を行っても良い。輝点位置推定部33は、輝度の比較の結果、最も輝度の高い2つの画素を輝点と推定し、画素パターンを特定すると共に、対応するシンボル番号を判定する。5:9復調部34は、判定されたシンボル番号を、シンボルとビット列の対応に従ってビット列に変換し、5ビットのデータを復調して、再生ビット列を生成する。
【0017】
このように、ホログラム記録再生装置は、5:9変調を利用したビット列の記録・再生を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特許第3209493号
【文献】特許第4863913号
【非特許文献】
【0019】
【文献】G. Burr et al., "Noise reduction of page-oriented data storage by inverse filtering during recording," Optics letters, 1998年, Vol.23, No.4, pp.289-291
【文献】H. Osawa et al., "Neural Network Equalizer Matched to Recording Code in Holographic Data Storage," Jpn. J. Appl. Phys., 50, 09MB05, 2011年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記のように、ある一定の画素エリア(例えば、5:9変調であれば3×3画素)の輝度比較によりビット列の判定を行うホログラム記録再生装置は、比較的読み取り誤りの少ないものであるが、この場合でも、SN比を低下させる原因は多数ある。
図10にページデータ内の位置に依存してSN比を低下させる原因のいくつかを示す。
図10において、左側が記録データ(ページデータ)であり、記録データの情報を有するレーザ光140が、光学要素(レンズ、PBS等)130を介して伝送され、右側の再生データが読み出される様子を示している。
【0021】
図10(a)は、レーザ光の輝度のむらがSN比を低下させる例である。3×3画素の範囲内でも、局所的に見ればレーザ光に面内輝度分布141は生じており、再生データの輝度のむらが、輝点の画素の特定を誤まらせ、SN比を低下させることになる。差分コードにより、輝点と暗点の判定だけを行う2値記録では影響を抑えられるものの、例えば多値記録ではこのSN比低下によってデータ誤り率の悪化は避けられない。
【0022】
図10(b)は、光学系130に付着した埃131等の汚れや、光路中での反射によって生じるモアレパターンが、ビット欠けを生じさせる例である。図に示すように、5:9変調を使ったシンボルの1つの画素でビット欠けが生じると、復調時に1点の輝点は検出できるものの、残りの8点の輝度がほぼ等しく、カメラの暗電流ノイズなどによって生じる微少な輝度差で2点目の輝点が推定され、データ誤りが生じる。
【0023】
また、
図10(c)のように、レンズ等の光学部品130による収差132はページデータ像をぼやけさせ、符号間干渉を引き起こす。これらのノイズはいずれもページデータの位置に依存して発生する。
【0024】
これらの課題に対し、SN比を改善するためのさまざまな手法が提案されている。非特許文献1では、再生ページデータから取得した光学特性を元に逆フィルタを作成し、そのフィルタによって調整されたページデータを再度記録するというプロセスを繰り返すことで、ページデータ面内の輝度むらを抑えSN比を改善できるとしている。また、特許文献2では、全画素白色のページデータを合わせて記録し、再生ページデータをそれで除算することでモアレパターンの除去を可能としている。非特許文献2では、画素ごとに構成したニューラルネットワークモデルによる等化器で信号処理を行い、符号間干渉を抑制できるとしている。
【0025】
しかしながら、非特許文献1を用いて光学系中の埃131等による画素欠陥が生じている箇所にこの手法を導入しても、再生されたページデータには欠陥が生じたままであり、復調時のビット誤り率は改善しない。また、特許文献2では、符号間干渉を抑制することはできない。非特許文献2についても、SLMに対して画素サイズがその半分のカメラが必要であると同時に、ページデータの画素ごとにニューラルネットワークを構成するため、等化器を作成するための計算量と時間は膨大となる。そして、これらの手法によりSN比を改善する処理を行った後に、ページデータ(シンボル)の復調が必要となり、2段階の処理となる。
【0026】
本発明は以上のような従来の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、ホログラム記録再生装置から再生されたデータについて、光学特性に基づくノイズの抑制とシンボルの復調を単一の処理で行うと共に、SN比を改善することができるホログラム記録再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するために本発明に係るホログラム記録再生装置は、n(n>1)ビットのビット列データをr個の画素からなる変調シンボルに変換する変調方式により記録されたホログラム記録媒体から、データを復元するホログラム記録再生装置であって、前記ホログラム記録媒体から再生されたページデータを、予め過去の再生ページデータを使用した機械学習によって構成されるアルゴリズムを用いた画像認識処理で前記変調シンボルから前記ビット列データに復調することを特徴とする。
【0028】
また、前記ホログラム記録再生装置は、再生ページデータを変調シンボルごとに分割し、ページデータ内の位置ごとに異なる光学特性を変調シンボル単位で機械学習させ、位置ごとに異なる復調アルゴリズムを構築することが望ましい。
【0029】
また、前記ホログラム記録再生装置は、前記機械学習がたたみ込みニューラルネットワークモデルであり、前記ニューラルネットワークモデルでは、次元を減らすプーリングを行わないことが望ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、光学系に含まれるノイズなどの除去と、ページデータ中のシンボルの復調を単一の処理で行うことができる。よって、低誤り率で再生するための信号処理とデータ復調を同時に実行するため、データ復調の高速化が実現できる。また、ページデータを一定範囲ごとに分割した複数のモデルを作成することで、面内位置に依存して発生するノイズによる復調時のデータ誤りの悪化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明のホログラム記録再生装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】たたみ込みニューラルネットワークによる画像認識の系統例を示す図である。
【
図3】再生ページデータの復調系統の概略を示す図である。
【
図4】従来の復調手法によるビット誤りとたたみ込みニューラルネットワークの学習回数の相関を説明する図である。
【
図5】復調手法によるビット誤りの比較を示す図である。
【
図6】ホログラム記録再生装置の光学系の一例を示す図である。
【
図7】5:9変調によるデータ変調方法を説明する図である。
【
図8】5:9変調によるデータ復調方法を説明する図である。
【
図9】従来のホログラム記録再生装置の一例を示すブロック図である。
【
図10】ページデータ内の位置に依存してSN比を低下させる原因を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0033】
図1に、本発明のホログラム記録再生装置の例を、ブロック図で示す。ここでは、シンボル(変調シンボル)を構成するための変復調方式として5:9変調を使用した。なお、変復調方式は5:9変調に限られず、ビット列をシンボルに変換する任意の変復調方式(例えば、2:4変調や、4×4画素でシンボルを構成する12:16変調等)を利用することができる。
【0034】
図9に示した、従来のホログラム記録再生装置と同一の構成は同じ符号を付す。本発明のホログラム記録再生装置は、記録処理部10と、光学系20と、再生処理部40とを備えている。
【0035】
記録処理部10は、基本的に従来の装置と同じであり、5:9変調部11とページデータ化部12とを備え、記録ビット列をホログラムとして記録するための処理を行う。
【0036】
5:9変調部11は、入力された記録ビット列(記録するデータ列)を5ビットごとに区切り、当該5ビットに対応するシンボル(3×3画素)を例えば変換テーブル等を利用して選択する。このシンボルを変調符号として、順次ページデータ化部12に出力する。
【0037】
ページデータ化部12は、5:9変調部11により生成されたシンボル列を配列して、ページデータを生成する。ページデータは、例えば1740画素×1044画素であり、1740×1044÷(3×3)=201840個のシンボルを配列して、1つのページデータを作成する。
【0038】
なお、ここでは記録ビット列のホログラム記録を行うために必要な処理について説明するが、必要に応じて、ホログラム記録再生装置に、誤り訂正機能を付加しても良い。すなわち、記録処理部10は、記録ビット列を誤り訂正符号化する誤り訂正符号化部(図示せず)等を備えることもできる。
【0039】
光学系20は、基本的に従来の装置と同じであり、例えば
図6に示される光学要素から構成され、記録光学系21と、記録媒体22と、再生光学系23とを備える。
【0040】
記録光学系21は、記録処理部10で生成したページデータをSLM(空間光変調素子)109に表示し、前述したとおり、ページデータが担持された物体光と参照光を生成して、記録媒体22(ホログラム記録媒体116)に照射する。
【0041】
記録媒体(ホログラム記録媒体)22は、物体光と参照光の干渉により、干渉縞としてページデータが記録される。一般に、記録媒体22にはホログラムが多重に記録され、高密度の情報記録が可能である。
【0042】
再生光学系23は、記録媒体22に参照光を照射し、前述したとおり、ページデータの情報を有する信号光を再生する。この信号光は撮像素子120等で撮像され、イメージデータとなって、ページデータを再生する。
【0043】
再生処理部40は、シンボル取り出し部41と、画像認識処理部42とを備えており、従来と構成が異なっている。
【0044】
シンボル取り出し部41は従来のものと同じであり、再生されたページデータを所定の区域ごとに切り出して、シンボル(3×3画素)を取り出す。
【0045】
画像認識処理部42は、シンボル取り出し部41で取り出されたシンボルから、機械学習(例えば、ディープラーニング等)を用いた画像認識(あるいはパターン認識)によって直接5ビットのデータを復調して、再生ビット列を生成する。すなわち、画像認識処理部42は、従来行われてきた光学系に起因するノイズを除去し、適切なシンボルを判定する処理と、判定されたシンボルから再生ビット列(ビット列データ)を復調する処理を、一括して行うものである。
【0046】
なお、ここでは再生ビット列の復調処理について説明したが、再生処理部40は、必要に応じて、復調されたビット列を元に、誤り訂正復号する誤り訂正復号部(図示せず)等を備えることもできる。
【0047】
以上のように、本発明のホログラム記録再生装置は、5:9変調を利用したビット列の記録・再生を行う。
【0048】
画像認識処理部42において画像認識に使用する機械学習のアルゴリズムとしては、本実施例ではたたみ込みニューラルネットワークを用いた。
図2に、たたみ込みニューラルネットワークによる画像認識の系統例を示す。再生されたページデータ中の各シンボル画像(ここでは3×3画素)を入力信号とし、その信号を受容する複数のニューロン群(ここでは各画素の輝度値を入力とする9個のニューロン)よりなる入力層と、前段の層のニューロン群の興奮パターンを受容してパターン変換を行った後、次の段へ興奮パターンを出力するニューロン群よりなる1層又は複数層の中間層と、最終の中間層のニューロンの興奮パターンを受容して変換して出力する出力層からなる。
【0049】
中間層は、近接した画素間の特徴を検出するための畳み込み層を1層以上含むものであり、ここでは3×3の畳み込みフィルタ処理の層と2×2の畳み込みフィルタ処理の層を示している。また、必要に応じて3×3画素の周囲にゼロパディングを行って、5×5画素の畳み込み処理を行ってもよい。このニューラルネットワークでは、通常特徴を抽出するために次元を減らすプーリングを行わない。
【0050】
出力層のニューロンの数を32(=5ビット)個にすれば、入力されたシンボルに対する32種類の尤度(
図2では、棒グラフのイメージで記述)が出力されることになり、最も尤度の高いものから直ちに復調データ(判定されたシンボル=復調された5ビットのデータ列)となる。
【0051】
図3に、再生ページデータの復調系統の概略を示す。
図1における画像認識処理部42は、実際にはページデータの各エリア(3×3画素)に対応する複数の画像認識処理部の集合体であり、構築する画像認識処理部(たたみ込みニューラルネットワークモデル)の数は、再生ページデータに含まれるシンボルの数と同数である。本実施例で使用したページデータのサイズは1740画素×1044画素であり、一つのページデータ中に201,840個のシンボルが存在することから、各シンボル1~201,840に対応する、201,840個のたたみ込みニューラルネットワークモデルを構築した。この構成により、画像認識処理部42-1~42-201840のそれぞれから、再生ビット列1~201840を同時に再生することができ、一つのページデータを一度に読み取ることができる。なお、並列的に出力された再生ビット列は、所定の順に配列して、入力された1,009,200ビットの記録ビット列が復調される。
【0052】
アルゴムリズムの学習に使用する教師データには、同一のホログラム記録再生装置から再生されたページデータ(過去の再生ページデータ)と、記録ビット列(記録した元データ)を用いる。多数の再生ページデータは、ページデータ中のシンボル位置ごとに集合化し、たたみ込みニューラルネットワークに入力させる。たたみ込みニューラルネットワークから出力された結果と、記録ビット列を比較し、誤差逆伝播法を用いてたたみ込みニューラルネットワークの各パラメーターを学習させる。ページデータを分割して位置ごとに、変調シンボル単位で機械学習を行うことにより、ページデータ中の位置ごとに依存して生じるノイズ源や光学的な伝達関数を考慮した5:9復調のアルゴリズムを機械的に取得し(すなわち、ホログラム記録再生装置の光学系に含まれるノイズや収差等の光学特性とページデータの復調アルゴリズムを同時に取得し)、高精度にデータを復調可能となる。
【0053】
なお、たたみ込みニューラルネットワークの各パラメーターを学習させていく上で、ページデータ内の位置ごとに光学特性が異なるため、それに依存してパラメーターを最適化させるのに必要な学習回数が異なる。これを考慮せずに、全てのたたみ込みニューラルネットワークに対して一律で学習回数を設定した場合、最適化に多くの学習回数を要するたたみ込みニューラルネットワークでは、パラメーターが最適化されていない状態で学習を完了させてしまうことになり、データ誤りの原因となる。また、少ない学習回数でパラメーターを最適化できるたたみ込みニューラルネットワークでは、余分な学習時間がかかってしまうのと同時に過学習が生じる可能性がある。
【0054】
最適化に要する学習回数が多い領域は、光学的なノイズを多く含む領域であり、5:9変調の復調アルゴリズムと光学的なノイズ特性の両方を学習する必要がある。一方、少ない学習回数で最適化することができる領域は、光学的なノイズが少ない領域であり、5:9変調の復調アルゴリズムのみを学習させればよい。したがって、従来手法である硬判定による復調を行った場合のビット誤りの数を参考に各たたみ込みニューラルネットワークの学習回数を設定することで、ページデータ全体を低誤り率で復調できると同時に、学習に必要な時間を効率化できる。
【0055】
図4に、硬判定処理による復調でのビット誤りと、パラメーターの最適化に必要な学習回数の関係を示す。横軸はページデータ内のシンボル番号(シンボル位置に対応、一部領域を抽出)であり、△がビット誤り回数(右軸)、棒グラフ(輪郭表示)が必要な学習回数(左軸)を示す。なお、回数0の太いラインは、ビット誤りの無かったシンボルの△表示が重なったものである。硬判定処理による復調でビット誤りの多いシンボルは、パラメーターの最適化に必要な学習回数が多くなる傾向が見て取れ、
図4から、双方に相関があることがわかる。よって、例えば以下の手順で学習させることで、たたみ込みニューラルネットワークの最適化を効率的に完了させることが可能である。
(1)硬判定により再生ページデータ全体を復調し、領域ごとのビット誤りを算出する。
(2)再生ページデータ内で、最もビット誤りが多い領域と最もビット誤りが少ない領域を含む、いくつかの領域のデータを使用してたたみ込みニューラルネットワークの学習を行い、パラメーターの最適化に必要な学習回数をそれぞれ求める。
(3)上記(2)の結果から、硬判定復調におけるビット誤り率に応じた学習回数を再生ページデータ内の全領域に対して設定する。
(4)再生ページデータ全体に対して、たたみ込みニューラルネットワークの学習を行う。
【0056】
本発明では、ページデータをシンボル(3×3画素)単位で機械学習に基づく画像認識処理部(ニューラルネットワークモデル)を構築するため、非特許文献2のように画素ごとにニューラルネットワークモデルを構築した従来技術に比較して、システム規模と計算量を圧縮できる。また、従来のホログラム記録再生装置(
図9)のように複数の処理ブロックで行われていた、光学系に起因するノイズを除去する処理、適切なシンボルを判定する処理、判定されたシンボルから再生ビット列を復調する処理等の一連の処理を、画像認識処理部42において一括で行うことができ、処理速度が向上する。
【0057】
図5に、復調手法によるビット誤りの比較を示す。
図5は、実際に164枚のページデータについて復調処理をした結果であり、横軸はページデータ内のシンボル番号(シンボル位置に対応)を示しており、縦軸はビット誤り回数を示す。輝度が高い2点を輝点とみなして復調する硬判定手法の結果を△の点で示し、本発明の画像認識処理の結果を●で示す。ここで用いた画像認識処理アルゴリズムは、700枚のページデータに基づいて機械学習を行ったものである。本発明の画像認識処理は従来の硬判定手法と比べ、ページデータ全体で復調時の誤りを抑制できており、全体のビット誤り率は従来の4.03×10
-4から1.59×10
-4と、ビット誤りを約61%低減した。なお、特異的にビット誤りの多いシンボルは、光学系にゴミが付着していたシンボルであった。このように定常的にノイズを有するパターンについても、本発明の画像認識処理は学習を積み重ねることにより、ビット誤りを低減できる。
【0058】
本実施例では、機械学習としてたたみ込みニューラルネットワークによる処理の例を挙げたが、たたみ込みニューラルネットワーク以外のニューラルネットワークを用いたアルゴリズムや、SVM(サポートベクターマシン)など、画像認識やパターン認識は他の機械学習を用いてもよい。
【0059】
上記の実施の形態では、ホログラム記録再生装置の構成と動作について説明したが、本発明はこれに限らず、ホログラムを再生する方法として構成されてもよい。すなわち、
図1のデータの流れに従って、ホログラム記録媒体に記録されたページデータを再生する工程と、ページデータからシンボルを取り出す工程と、シンボルから機械学習によって構成されるアルゴリズムを用いた画像認識処理でデータを復調する工程とを備えた、ホログラムを再生する方法として構成されても良い。
【0060】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 記録処理部
11 5:9変調部
12 ページデータ化部
20 光学系
21 記録光学系
22 記録媒体
23 再生光学系
30 再生処理部
31 シンボル取り出し部
32 輝度比較部
33 輝点位置推定部
34 5:9復調部
40 再生処理部
41 シンボル取り出し部
42 画像認識処理部
100 ホログラム記録再生装置
101 レーザ光源
102 レンズ
103 空間フィルタ
104 コリメートレンズ
105 1/2波長板
106 ミラー
107 PBS(偏光ビームスプリッタ)
108 PBS(偏光ビームスプリッタ)
109 SLM(空間光変調素子)
110 FTレンズ
111 1/2波長板
112 ミラー
113 PBS(偏光ビームスプリッタ)
114 ガルバノミラー
115 リレーレンズ
116 ホログラム記録媒体
117 ミラー
118 ガルバノミラー
119 リレーレンズ
120 2次元撮像素子
150 演算装置(記録処理部)
160 演算装置(再生処理部)