(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】光学素子および導光素子
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220118BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20220118BHJP
G02B 27/02 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B5/22
G02B27/02 Z
(21)【出願番号】P 2020511117
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2019014134
(87)【国際公開番号】W WO2019189809
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2018067198
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 之人
(72)【発明者】
【氏名】村松 彩子
(72)【発明者】
【氏名】野尻 真裕美
(72)【発明者】
【氏名】西川 秀幸
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/169920(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/194961(WO,A1)
【文献】特開2010-111750(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0231568(US,A1)
【文献】特表2008-532085(JP,A)
【文献】特表2016-519327(JP,A)
【文献】特開2016-139566(JP,A)
【文献】特開2015-045710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02B 5/22
G02B 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶化合物および赤外線吸収色素を含む組成物を用いて形成された光学異方性層を備え、
前記光学異方性層は、前記液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有し、
前記赤外線吸収色素の短軸方向の波長700~2000nmの吸収が、前記赤外線吸収色素の長軸方向の波長700~2000nmの吸収よりも大きい、光学素子。
【請求項2】
前記赤外線吸収色素の波長700~2000nmの吸光度の積算値が、前記赤外線吸収色素の波長400~700nmの吸光度の積算値よりも大きい、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記赤外線吸収色素が、式(1)で表される化合物である、請求項1または2に記載の光学素子。
【化1】
R
11およびR
12は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表し、少なくとも一方は電子求引性基であり、R
11およびR
12は結合して環を形成してもよい。R
13は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、置換ホウ素または金属原子を表し、R
11と共有結合または配位結合していてもよい。R
14は、それぞれ独立に、メソゲン基を有する基を表す。
【請求項4】
前記光学軸が前記光学異方性層の厚み方向でねじれて回転する領域を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記液晶化合物が厚み方向にコレステリック配向している、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記液晶化合物由来の光学軸の向きが面内で180°回転する長さを1周期とした際に、前記液晶配向パターンにおける前記1周期の長さが異なる領域を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記液晶配向パターンにおける前記液晶化合物由来の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する前記一方向に向かって、前記液晶配向パターンの前記1周期が、漸次、短くなる、請求項
6に記載の光学素子。
【請求項8】
前記光学異方性層の前記液晶配向パターンが、前記液晶化合物由来の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する前記一方向を、内側から外側に向かう同心円状に有する、同心円状のパターンである、請求項1~7のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項9】
前記光学異方性層を、複数層、備え、
前記光学異方性層の厚み方向でねじれて回転する方向が互いに異なる光学異方性層を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項10】
前記液晶化合物由来の光学軸の向きが面内で180°回転する長さを1周期とした際に、前記液晶配向パターンにおける前記1周期の長さが50μm以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の光学素子と、導光板とを含む、導光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過した光を屈折させる光学素子、および、この光学素子を用いる導光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非特許文献1に記載されるような、実際に見ている光景に、仮想の映像および各種の情報等を重ねて表示する、AR(Augmented Reality(拡張現実))グラスが実用化されている。ARグラスは、スマートグラス、ヘッドマウントディスプレイ(HMD(Head Mounted Display))、および、ARメガネ等とも呼ばれている。
【0003】
非特許文献1に示されるように、ARグラスは、一例として、ディスプレイ(光学エンジン)が表示した映像を、導光板の一端に入射して伝播し、他端から出射することにより、使用者が実際に見ている光景に、仮想の映像を重ねて表示する。
ARグラスでは、回折素子を用いて、ディスプレイからの光(投影光)を回折(屈折)させて導光板の一方の端部に入射する。これにより、角度を付けて導光板に光を導入して、導光板内で光を伝播させる。導光板を伝播した光は、導光板の他方の端部において同じく回折素子によって回折されて、導光板から、使用者による観察位置に出射される。
【0004】
ARグラスに用いられる導光板としては、一例として、特許文献1に記載される導光板(導波路)が知られている。
この導光板は、光を反射して導波する前面および後面を有し、前面または後面に設けられる第1の部分、および、前面または後面に設けられる第2の部分を有する。第1の部分は、第1の部分からの反射によって、第1の量だけ光の位相を変化させる構造を有する。また、同じ表面の第2の部分は、第2の部分からの反射によって、第1の量とは異なる第2の量だけ光の位相を変化させる、第1の部分とは異なる構造を有する。さらに、この導光板において、第1の部分は、第2の量と第1の量との差に実質的に一致する距離だけ、第2の部分とオフセットされる構成を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第2016/0231568号公報
【文献】特表2010-525394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載されているような面内で液晶配向パターンを変化させて光を回折させる素子は、ARグラス等の光学部材としての適用が期待される。しかしながら、広帯域または複数の波長からなる光に対しては、透過光の強度が弱くなるという問題がある。特許文献2においては、液晶を多層化した複雑な層構成を用いる方法が提案されている。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、簡易な構成で、広い波長領域にわたって、屈折して透過する光または所定の方向に反射する光の光強度が強く、例えば、同じ方向から入射した異なる波長の光が、屈折して透過したとき、または、所定の方向に反射したとき、いずれの波長でも透過光または反射光が明るい光学素子を提供することを課題とする。
また、本発明は、この光学素子を用いる導光素子を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明の光学素子は、以下の構成を有する。
(1) 液晶化合物および赤外線吸収色素を含む組成物を用いて形成された光学異方性層を備え、
光学異方性層は、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有し、
赤外線吸収色素の短軸方向の波長700~2000nmの吸収が、赤外線吸収色素の長軸方向の波長700~2000nmの吸収よりも大きい、光学素子。
(2) 赤外線吸収色素の波長700~2000nmの吸光度の積算値が、赤外線吸収色素の波長400~700nmの吸光度の積算値よりも大きい、(1)に記載の光学素子。
(3) 赤外線吸収色素が、後述する式(1)で表される化合物である、(1)または(2)に記載の光学素子。
(4) 光学軸が光学異方性層の厚み方向でねじれて回転する領域を有する、(1)~(3)のいずれかに記載の光学素子。
(5) 液晶化合物が厚み方向にコレステリック配向している、(1)~(4)のいずれかに記載の光学素子。
(6) 液晶化合物由来の光学軸の向きが面内で180°回転する長さを1周期とした際に、液晶配向パターンにおける1周期の長さが異なる領域を有する、(1)~(5)のいずれかに記載の光学素子。
(7) 液晶配向パターンにおける液晶化合物由来の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する一方向に向かって、液晶配向パターンの1周期が、漸次、短くなる、(1)~(6)のいずれかに記載の光学素子。
(8) 光学異方性層の液晶配向パターンが、液晶化合物由来の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する一方向を、内側から外側に向かう同心円状に有する、同心円状のパターンである、(1)~(7)のいずれかに記載の光学素子。
(9) 光学異方性層を、複数層、備え、
光学異方性層の厚み方向でねじれて回転する方向が互いに異なる光学異方性層を有する、(1)~(8)のいずれかに記載の光学素子。
(10) 液晶配向パターンにおける1周期の長さが50μm以下である、(1)~(9)のいずれかに記載の光学素子。
(11) (1)~(10)のいずれかに記載の光学素子と、導光板とを含む、導光素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光学素子は、広い波長領域にわたって、屈折して透過する光または所定の方向に反射する光の光強度が強く、例えば、同じ方向から入射した異なる波長の光が、屈折して透過したとき、または、所定の方向に反射したとき、いずれの波長でも明るい光を出射できる。
また、この光学素子を用いる本発明の導光素子は、1枚の導光板で、波長の異なる複数種の光を導光して、明るい光を出射できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の光学素子の一例を概念的に示す図である。
【
図2】
図1に示す光学素子の光学異方性層を概念的に示す図である。
【
図3】
図1に示す光学素子の光学異方性層の平面図である。
【
図4】
図1に示す光学素子の光学異方性層の作用を示す概念図である。
【
図5】
図1に示す光学素子の光学異方性層の作用を示す概念図である。
【
図6】従来の逆波長分散性を示す光学異方性層の波長分散と理想の位相差の波長分散との比較を示す図である。
【
図7】有機分子の屈折率と吸収係数との波長分散特性を示す図である。
【
図8】所定の吸収特性の有無による異常光線屈折率neと常光線屈折率noとの波長分散との比較を示す図である。
【
図9】
図1に示す光学素子の配向膜を露光する露光装置の一例を概念的に示す図である。
【
図10】本発明の光学素子の光学異方性層の別の例の平面図である。
【
図11】
図10に示す光学異方性層を形成する配向膜を露光する露光装置の一例を概念的に示す図である。
【
図12】本発明の導光素子の一例を用いるARグラスの一例を概念的に示す図である。
【
図13】本発明の光学素子の光学異方性層の別の例を概念的に示す図である。
【
図14】光強度の測定方法を説明するための概念図である。
【
図15】光強度の測定方法を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の光学素子について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0012】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートおよびメタクリレートのいずれか一方または双方」の意味で使用される。
本明細書において、「同一」は、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。
【0013】
本明細書において、可視光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の光であり、380~780nmの波長域の光を示す。非可視光は、380nm未満の波長域および780nmを超える波長域の光である。
また、可視光のうち、420~490nmの波長域の光は青色光であり、495~570nmの波長域の光は緑色光であり、620~750nmの波長域の光は赤色光である。
【0014】
本明細書において、Re(λ)は、波長λにおける面内のレタデーションを表す。特に記載がないときは、波長λは、550nmとする。
本明細書において、Re(λ)は、AxoScan(Axometrics社製)において、波長λで測定した値である。AxoScanにて平均屈折率((nx+ny+nz)/3)と膜厚(d(μm))を入力することにより、
遅相軸方向(°)
Re(λ)=R0(λ)
が算出される。
なお、R0(λ)は、AxoScanで算出される数値として表示されるものであるが、Re(λ)を意味している。
【0015】
本発明の光学素子は、液晶化合物および赤外線吸収色素を含む組成物を用いて形成された光学異方性層を備え、
光学異方性層は、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有し、
赤外線吸収色素の短軸方向の波長700~2000nmの吸収が、赤外線吸収色素の長軸方向の波長700~2000nmの吸収よりも大きい。
後に詳述するが、本発明の光学素子は、このような構成を有することにより、入射して透過する光の光強度の波長依存性を小さくすることができる。
【0016】
[光学素子の態様]
図1に、本発明の光学素子の一例を概念的に示す。
図示例の光学素子10は、第1光学異方性部材12を有する。
前述のように、本発明の光学素子は、液晶化合物および赤外線吸収色素を含む組成物を用いて形成された、液晶化合物由来の光学軸が回転する所定の液晶配向パターンを有する光学異方性層を、厚さ方向に配列したものである。第1光学異方性部材12は、支持体20、配向膜24Aおよび第1光学異方性層26A、を有する。
【0017】
また、図示例の光学素子10は、各光学異方性部材に支持体20を有しているが、本発明の光学素子は、光学異方性部材毎に支持体20を設けなくてもよい。
例えば、本発明の光学素子は、上記構成から、支持体20を剥離して、配向膜24Aおよび第1光学異方性層26Aのみで、または、配向膜24Aも剥離して、第1光学異方性層26Aのみで、本発明の光学素子を構成してもよい。
【0018】
すなわち、本発明の光学素子は、液晶化合物および赤外線吸収色素を含む組成物を用いて形成された光学異方性層を備え、
光学異方性層は、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有し、
赤外線吸収色素の短軸方向の波長700~2000nmの吸収が、赤外線吸収色素の長軸方向の波長700~2000nmの吸収よりも大きいものであれば、各種の層構成が利用可能である。
【0019】
<光学異方性部材>
本発明の光学素子10は、第1光学異方性部材12を設けたものである。
前述のように、第1光学異方性部材12は、支持体20、配向膜24Aおよび第1光学異方性層26A、を有する。
【0020】
<<支持体>>
第1光学異方性部材12において、支持体20は、配向膜24A、ならびに、第1光学異方性層26Aを支持するものである。
以下の説明では、配向膜を他の配向膜と区別する必要がない場合には、単に『配向膜』とも言う。また、以下の説明では、光学異方性層を他の光学異方性層と区別する必要がない場合には、単に『光学異方性層』とも言う。
【0021】
支持体20は、配向膜および光学異方性層を支持できるものであれば、各種のシート状物(フィルム、板状物)が利用可能である。
支持体20としては、透明支持体が好ましく、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリル系樹脂フィルム、セルローストリアセテート等のセルロース系樹脂フィルム、シクロオレフィンポリマー系フィルム(例えば、商品名「アートン」、JSR社製、商品名「ゼオノア」、日本ゼオン社製)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、および、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
支持体20は、可撓性のフィルムに限らず、ガラス基板等の非可撓性の基板であってもよい。
【0022】
支持体20の厚さには、制限はなく、光学素子10の用途および支持体20の形成材料等に応じて、配向膜および光学異方性層を保持できる厚さを、適宜、設定すればよい。
支持体20の厚さは、1~1000μmが好ましく、3~250μmがより好ましく、5~150μmがさらに好ましい。
【0023】
<<配向膜>>
第1光学異方性部材12において、支持体20の表面には配向膜24Aが形成される。
配向膜24Aは、第1光学異方性部材12の第1光学異方性層26Aを形成する際に、液晶化合物30を所定の液晶配向パターンに配向するための配向膜である。
【0024】
後述するが、本発明の光学素子10において、光学異方性層は、液晶化合物30に由来する光学軸30A(
図3参照)の向きが、面内の一方向(後述する矢印X方向)に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する。従って、各光学異方性部材の配向膜は、光学異方性層が、この液晶配向パターンを形成できるように、形成される。
【0025】
以下の説明では、『光学軸30Aの向きが回転』を単に『光学軸30Aが回転』とも言う。
【0026】
配向膜は、公知の各種のものが利用可能である。
例えば、ポリマー等の有機化合物からなるラビング処理膜、無機化合物の斜方蒸着膜、マイクログルーブを有する膜、ならびに、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライドおよびステアリル酸メチル等の有機化合物のラングミュア・ブロジェット法によるLB(Langmuir-Blodgett:ラングミュア・ブロジェット)膜を累積させた膜、等が例示される。
【0027】
ラビング処理による配向膜は、ポリマー層の表面を紙または布で一定方向に数回こすることにより形成できる。
配向膜に使用する材料としては、ポリイミド、ポリビニルアルコール、特開平9-152509号公報に記載された重合性基を有するポリマー、特開2005-97377号公報、特開2005-99228号公報、および、特開2005-128503号公報に記載の配向膜等の形成に用いられる材料が好ましい。
【0028】
本発明の光学素子10においては、配向膜は、光配向性の素材に偏光または非偏光を照射して配向膜とした、いわゆる光配向膜が好適に利用される。すなわち、本発明の光学素子10においては、配向膜として、支持体20上に、光配向材料を塗布して形成した光配向膜が、好適に利用される。
偏光の照射は、光配向膜に対して、垂直方向または斜め方向から行うことができ、非偏光の照射は、光配向膜に対して、斜め方向から行うことができる。
【0029】
本発明に利用可能な光配向膜に用いられる光配向材料としては、例えば、特開2006-285197号公報、特開2007-76839号公報、特開2007-138138号公報、特開2007-94071号公報、特開2007-121721号公報、特開2007-140465号公報、特開2007-156439号公報、特開2007-133184号公報、特開2009-109831号公報、特許第3883848号公報および特許第4151746号公報に記載のアゾ化合物、特開2002-229039号公報に記載の芳香族エステル化合物、特開2002-265541号公報および特開2002-317013号公報に記載の光配向性単位を有するマレイミドおよび/またはアルケニル置換ナジイミド化合物、特許第4205195号および特許第4205198号に記載の光架橋性シラン誘導体、特表2003-520878号公報、特表2004-529220号公報および特許第4162850号に記載の光架橋性ポリイミド、光架橋性ポリアミドおよび光架橋性エステル、ならびに、特開平9-118717号公報、特表平10-506420号公報、特表2003-505561号公報、国際公開第2010/150748号、特開2013-177561号公報および特開2014-12823号公報に記載の光二量化可能な化合物(特に、シンナメート化合物、カルコン化合物およびクマリン化合物等)が好ましい。
中でも、アゾ化合物、光架橋性ポリイミド、光架橋性ポリアミド、光架橋性エステル、シンナメート化合物、および、カルコン化合物は、好適に利用される。
【0030】
配向膜の厚さには制限はなく、配向膜の形成材料に応じて、必要な配向機能を得られる厚さを、適宜、設定すればよい。
配向膜の厚さは、0.01~5μmが好ましく、0.05~2μmがより好ましい。
【0031】
配向膜の形成方法には制限はなく、配向膜の形成材料に応じた公知の方法が、各種、利用可能である。一例として、配向膜を支持体20の表面に塗布して乾燥させた後、配向膜をレーザ光によって露光して、配向パターンを形成する方法が例示される。
【0032】
図9に、配向膜を露光して配向パターンを形成する露光装置の一例を概念的に示す。なお、
図9に示す例では、一例として、第1光学異方性部材12の配向膜24Aの露光を例示している。
【0033】
図9に示す露光装置60は、レーザ62を備えた光源64と、レーザ62が出射したレーザ光Mの偏光方向を変えるλ/2板65と、レーザ62が出射したレーザ光Mを光線MAおよびMBの2つに分離する偏光ビームスプリッター68と、分離された2つの光線MAおよびMBの光路上にそれぞれ配置されたミラー70Aおよび70Bと、λ/4板72Aおよび72Bと、を備える。
なお、図示は省略するが、光源64は直線偏光P
0を出射する。λ/4板72Aは、直線偏光P
0(光線MA)を右円偏光P
Rに、λ/4板72Bは直線偏光P
0(光線MB)を左円偏光P
Lに、それぞれ変換する。
【0034】
配向パターンを形成される前の配向膜24Aを有する支持体20が露光部に配置され、2つの光線MAと光線MBとを配向膜24A上において交差させて干渉させ、その干渉光を配向膜24Aに照射して露光する。
この際の干渉により、配向膜24Aに照射される光の偏光状態が干渉縞状に周期的に変化するものとなる。これにより、配向膜24Aにおいて、配向状態が周期的に変化する配向パターンが得られる。
露光装置60においては、2つの光線MAおよびMBの交差角αを変化させることにより、配向パターンの周期を調節できる。すなわち、露光装置60においては、交差角αを調節することにより、液晶化合物30に由来する光学軸30Aが一方向に沿って連続的に回転する配向パターンにおいて、光学軸30Aが回転する1方向における、光学軸30Aが180°回転する1周期の長さ(1周期Λ)を調節できる。
このような配向状態が周期的に変化した配向パターンを有する配向膜上に、光学異方性層を形成することにより、後述するように、液晶化合物30に由来する光学軸30Aが一方向に向かって連続的に回転する液晶配向パターンを有する、第1光学異方性層26Aを形成できる。
また、λ/4板72Aおよび72Bの光学軸を各々90°回転することにより、光学軸30Aの回転方向を逆にすることができる。
【0035】
なお、本発明の光学素子において、配向膜は、好ましい態様として設けられるものであり、必須の構成要件ではない。
例えば、支持体20をラビング処理する方法、支持体20をレーザ光等で加工する方法等によって、支持体20に配向パターンを形成することにより、第1光学異方性層26A等が、液晶化合物30に由来する光学軸30Aの向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する構成とすることも、可能である。
【0036】
<<光学異方性層>>
第1光学異方性部材12において、配向膜24Aの表面には、第1光学異方性層26Aが形成される。
なお、
図1(および、後述する
図4~5)においては、図面を簡略化して光学素子10の構成を明確に示すために、第1光学異方性層26Aは、配向膜の表面の液晶化合物30(液晶化合物分子)のみを示している。しかしながら、第1光学異方性層26Aは、
図2に第1光学異方性層26Aを例示して概念的に示すように、通常の液晶化合物を含む組成物を用いて形成された光学異方性層と同様に、配向された液晶化合物30が積み重ねられた構造を有する。
また、後述するように光学異方性層には、図示しない赤外線吸収色素も含まれている。
【0037】
前述のように、本発明の光学素子10において、光学異方性層(第1光学異方性層26A)は、液晶化合物および赤外線吸収色素を含む組成物を用いて形成されたものである。
光学異方性層は、面内レタデーションの値をλ/2に設定した場合に、一般的なλ/2板としての機能、すなわち、光学異方性層に入射した光に含まれる互いに直交する2つの直線偏光成分に半波長すなわち180°の位相差を与える機能を有している。
【0038】
光学異方性層は、光学異方性層の面内において、液晶化合物に由来する光学軸の向きが、矢印Xで示す一方向に連続的に回転しながら変化する液晶配向パターンを有する。
なお、液晶化合物30に由来する光学軸30Aとは、液晶化合物30において屈折率が最も高くなる軸、いわゆる遅相軸である。例えば、液晶化合物30が棒状液晶化合物である場合には、光学軸30Aは、棒形状の長軸方向に沿っている。
以下の説明では、『矢印Xで示す一方向』を単に『矢印X方向』とも言う。また、以下の説明では、液晶化合物30に由来する光学軸30Aを、『液晶化合物30の光学軸30A』または『光学軸30A』とも言う。
光学異方性層において、液晶化合物30は、それぞれ、光学異方性層において、矢印X方向と、この矢印X方向と直交するY方向とに平行な面内に二次元的に配向している。なお、
図1、
図2、後述する
図4~
図5では、Y方向は、紙面に直交する方向となる。
【0039】
図3に、第1光学異方性層26Aの平面図を概念的に示す。
なお、平面図とは、
図1において、光学素子10を上方から見た図であり、すなわち、光学素子10を厚さ方向(=各層(膜)の積層方向)から見た図である。言い換えれば、第1光学異方性層26Aを主面と直交する方向から見た図である。
また、
図3では、本発明の光学素子10の構成を明確に示すために、
図1と同様、液晶化合物30は配向膜24Aの表面の液晶化合物30のみを示している。しかしながら、第1光学異方性層26Aは、厚さ方向には、
図2に示されるように、この配向膜24Aの表面の液晶化合物30から、液晶化合物30が積み重ねられた構造を有するのは、前述のとおりである。
【0040】
なお、
図3では、第1光学異方性層26Aを代表例として説明するが、後述する液晶配向パターンの1周期の長さ(1周期Λ)が異なる以外は、基本的に、同様の構成および作用効果を有する。
【0041】
第1光学異方性層26Aは、第1光学異方性層26Aの面内において、液晶化合物30に由来する光学軸30Aの向きが、矢印X方向に沿って連続的に回転しながら変化する液晶配向パターンを有する。
液晶化合物30の光学軸30Aの向きが矢印X方向(所定の一方向)に連続的に回転しながら変化しているとは、具体的には、矢印X方向に沿って配列されている液晶化合物30の光学軸30Aと、矢印X方向とが成す角度が、矢印X方向の位置によって異なっており、矢印X方向に沿って、光学軸30Aと矢印X方向とが成す角度がθからθ+180°あるいはθ-180°まで、順次、変化していることを意味する。
なお、矢印X方向に互いに隣接する液晶化合物30の光学軸30Aの角度の差は、45°以下であるのが好ましく、15°以下であるのがより好ましく、より小さい角度であるのがさらに好ましい。
【0042】
一方、第1光学異方性層26Aを形成する液晶化合物30は、矢印X方向と直交するY方向、すなわち光学軸30Aが連続的に回転する一方向と直交するY方向では、光学軸30Aの向きが等しい液晶化合物30が等間隔で配列されている。
言い換えれば、第1光学異方性層26Aを形成する液晶化合物30において、Y方向に配列される液晶化合物30同士では、光学軸30Aの向きと矢印X方向とが成す角度が等しい。
【0043】
本発明の光学素子10においては、このような液晶化合物30の液晶配向パターンにおいて、面内で光学軸30Aの向きが連続的に回転して変化する矢印X方向において、液晶化合物30の光学軸30Aが180°回転する長さ(距離)を、液晶配向パターンにおける1周期の長さΛとする。言い換えれば、液晶配向パターンにおける1周期の長さは、液晶化合物30の光学軸30Aと矢印X方向とのなす角度がθからθ+180°となるまでの距離により定義される。
すなわち、矢印X方向に対する角度が等しい2つの液晶化合物30の、矢印X方向の中心間の距離を、1周期の長さΛとする。具体的には、
図3に示すように、矢印X方向と光学軸30Aの方向とが一致する2つの液晶化合物30の、矢印X方向の中心間の距離を、1周期の長さΛとする。以下の説明では、この1周期の長さΛを『1周期Λ』とも言う。
本発明の光学素子10において、光学異方性層の液晶配向パターンは、この1周期Λを、矢印X方向すなわち光学軸30Aの向きが連続的に回転して変化する一方向に繰り返す。
【0044】
前述のように光学異方性層において、Y方向に配列される液晶化合物30は、光学軸30Aと矢印X方向(液晶化合物30の光学軸の向きが回転する1方向)とが成す角度が等しい。この光学軸30Aと矢印X方向とが成す角度が等しい液晶化合物30が、Y方向に配置された領域を、領域Rとする。
この場合に、それぞれの領域Rにおける面内レタデーション(Re)の値は、半波長すなわちλ/2であるのが好ましい。これらの面内レタデーションは、領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差Δnと光学異方性層の厚さとの積により算出される。ここで、光学異方性層における領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差とは、領域Rの面内における遅相軸の方向の屈折率と、遅相軸の方向に直交する方向の屈折率との差により定義される屈折率差である。すなわち、領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差Δnは、光学軸30Aの方向の液晶化合物30の屈折率と、領域Rの面内において光学軸30Aに垂直な方向の液晶化合物30の屈折率との差に等しい。つまり、上記屈折率差Δnは、液晶化合物の屈折率差に等しい。
【0045】
このような光学異方性層(第1光学異方性層26A)に円偏光が入射すると、光は、屈折され、かつ、円偏光の方向が変換される。
この作用を、
図4に第1光学異方性層26Aを例示して概念的に示す。なお、第1光学異方性層26Aは、液晶化合物の屈折率差と光学異方性層の厚さとの積の値がλ/2であるとする。
図4に示すように、第1光学異方性層26Aの液晶化合物の屈折率差と光学異方性層の厚さとの積の値がλ/2の場合に、第1光学異方性層26Aに左円偏光である入射光L
1が入射すると、入射光L
1は、第1光学異方性層26Aを通過することにより180°の位相差が与えられて、透過光L
2は、右円偏光に変換される。
また、入射光L
1は、第1光学異方性層26Aを通過する際に、それぞれの液晶化合物30の光学軸30Aの向きに応じて絶対位相が変化する。このとき、光学軸30Aの向きは、矢印X方向に沿って回転しながら変化しているため、光学軸30Aの向きに応じて、入射光L
1の絶対位相の変化量が異なる。さらに、第1光学異方性層26Aに形成された液晶配向パターンは、矢印X方向に周期的なパターンであるため、第1光学異方性層26Aを通過した入射光L
1には、
図4に示すように、それぞれの光学軸30Aの向きに対応した矢印X方向に周期的な絶対位相Q1が与えられる。これにより、矢印X方向に対して逆の方向に傾いた等位相面E1が形成される。
そのため、透過光L
2は、等位相面E1に対して垂直な方向に向かって傾くように屈折され、入射光L
1の進行方向とは異なる方向に進行する。このように、左円偏光の入射光L
1は、入射方向に対して矢印X方向に一定の角度だけ傾いた、右円偏光の透過光L
2に変換される。
【0046】
一方、
図5に概念的に示すように、第1光学異方性層26Aの液晶化合物の屈折率差と光学異方性層の厚さとの積の値がλ/2のとき、第1光学異方性層26Aに右円偏光の入射光L
4が入射すると、入射光L
4は、第1光学異方性層26Aを通過することにより、180°の位相差が与えられて、左円偏光の透過光L
5に変換される。
また、入射光L
4は、第1光学異方性層26Aを通過する際に、それぞれの液晶化合物30の光学軸30Aの向きに応じて絶対位相が変化する。このとき、光学軸30Aの向きは、矢印X方向に沿って回転しながら変化しているため、光学軸30Aの向きに応じて、入射光L
4の絶対位相の変化量が異なる。さらに、第1光学異方性層26Aに形成された液晶配向パターンは、矢印X方向に周期的なパターンであるため、第1光学異方性層26Aを通過した入射光L
4は、
図5に示すように、それぞれの光学軸30Aの向きに対応した矢印X方向に周期的な絶対位相Q2が与えられる。
ここで、入射光L
4は、右円偏光であるので、光学軸30Aの向きに対応した矢印X方向に周期的な絶対位相Q2は、左円偏光である入射光L
1とは逆になる。その結果、入射光L
4では、入射光L
1とは逆に矢印X方向に傾斜した等位相面E2が形成される。
そのため、入射光L
4は、等位相面E2に対して垂直な方向に向かって傾くように屈折され、入射光L
4の進行方向とは異なる方向に進行する。このように、入射光L
4は、入射方向に対して矢印X方向とは逆の方向に一定の角度だけ傾いた左円偏光の透過光L
5に変換される。
【0047】
第1光学異方性層26Aにおいて、複数の領域Rの面内レタデーションの値は、半波長であるのが好ましいが、波長が550nmである入射光に対する第1光学異方性層26Aの複数の領域Rの面内レタデーションRe(550)=Δn550×dが下記式(X-1)に規定される範囲内であるのが好ましい。ここで、Δn550は、入射光の波長が550nmである場合の、領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差であり、dは、第1光学異方性層26Aの厚さである。
200nm≦Δn550×d≦350nm・・・(X-1)
すなわち、第1光学異方性層26Aの複数の領域Rの面内レタデーションRe(550)=Δn550×dが式(X-1)を満たしていれば、第1光学異方性層26Aに入射した光の十分な量の円偏光成分を、矢印X方向に対して順方向または逆方向に傾いた方向に進行する円偏光に変換することができる。面内レタデーションRe(550)=Δn550×dは、225nm≦Δn550×d≦340nmがより好ましく、250nm≦Δn550×d≦330nmがさらに好ましい。
なお、上記式(X-1)は波長550nmである入射光に対する範囲であるが、波長がλnmである入射光に対する光学異方性層の複数の領域Rの面内レタデーションRe(λ)=Δnλ×dは下記式(X-2)に規定される範囲内であるのが好ましく、適宜設定することができる。
0.7×(λ/2)nm≦Δnλ×d≦1.3×(λ/2)nm・・・(X-2)
【0048】
また、第1光学異方性層26Aにおける、複数の領域Rの面内レタデーションの値は、上記式(X-1)の範囲外で用いることもできる。具体的には、Δn550×d<200nmまたは350nm<Δn550×dとすることで、入射光の進行方向と同一の方向に進行する光と、入射光の進行方向とは異なる方向に進行する光に分けることができる。Δn550×dが0nmまたは550nmに近づくと入射光の進行方向と同一の方向に進行する光の成分は増加し、入射光の進行方向とは異なる方向に進行する光の成分は減少する。
【0049】
また、光学異方性層は、入射光の波長に対して広帯域であることが望ましい。
【0050】
本発明の光学異方性層に含まれる赤外線吸収色素の短軸方向の波長700~2000nmの吸収が、赤外線吸収色素の長軸方向の波長700~2000nmの吸収よりも大きい。この吸収特性によって、得られる効果について以下に詳述する。
まず、
図6に、測定波長550nmでの位相差(Re(550nm))を1として規格化した可視光線領域での各波長における位相差(Re)の波長分散特性を示す。例えば、上述した理想的なλ/2板は、
図6の点線に示すように、位相差が測定波長に対し比例関係にあるため、測定波長が長いほど位相差が大きくなる「負の分散」特性を有する。それに対して、従来の逆波長分散性を示す光学異方性層は、
図6の実線に示すように、短波長領域においては点線で示す理想曲線と重なる位置にもあるが、長波長領域においては理想曲線から外れる傾向を示す。
本発明の光学異方性層においては、赤外線吸収色素が波長700~2000nmにおける吸収特性を有することにより、白抜き矢印で示すように、長波長領域における光学特性を理想曲線に近づけることができる。
【0051】
上記特性が得られる理由としては、まず、一般的な有機分子の屈折率波長分散特性について
図7を参照しながら説明する。
図7中、上側は波長に対する屈折率の挙動を示し、下側では波長に対する吸収特性の挙動(吸収スペクトル)を示す。
有機分子は、固有吸収波長から離れた領域(
図7のaの領域)における屈折率nは波長が増すと共に単調に減少する。このような分散は「正常分散」と言われる。これに対して、固有吸収を含む波長域(
図7のbの領域)における屈折率nは、波長が増すとともに急激に増加する。このような分散は「異常分散」と言われる。
つまり、
図7に示すように、吸収がある波長領域の直前においては屈折率の増減が観察される。
【0052】
本発明の光学異方性層において、液晶化合物の配向に沿って、赤外線吸収色素も合わせて配向する。その際、赤外線吸収色素の長軸が液晶化合物の光学軸と平行となるように、赤外線吸収色素が配向する。
そのため、光学異方性層の上述した各領域Rにおいては、液晶化合物の光学軸に赤外線吸収色素の長軸が平行となるように、赤外線吸収色素が配置される。言い換えれば、領域Rの面内における遅相軸の方向に赤外線吸収色素の長軸が配向となるように、赤外線吸収色素が配置される。なお、上記遅相軸とは液晶化合物の光学軸に由来する軸であり、主に液晶化合物の屈折率が最も大きい方向に該当する。
そのため、上述したように、光学異方性層は、光学異方性層の面内において、液晶化合物に由来する光学軸の向きが、一方向(
図3の矢印X方向)に沿って連続的に回転しながら変化する液晶配向パターンを有しているが、同時に、光学異方性層は、光学異方性層の面内において、赤外線吸収色素に長軸の向きが、上記一方向と同一の方向(
図3の矢印X方向)に沿って連続的に回転しながら変化する配向パターンも有している。
【0053】
上述したように、赤外線吸収色素の短軸方向の波長700~2000nmの吸収が、赤外線吸収色素の長軸方向の波長700~2000nmの吸収よりも大きい。そのため、赤外線吸収色素の吸収特性の影響を受けて、光学異方性層の各領域Rにおいては、領域Rにおける進相軸の方向(遅相軸の方向と直交する方向)での波長700~2000nmにおける吸収が、遅相軸の方向での波長700~2000nmにおける吸収よりも大きくなる。以後、このような吸収特性を、吸収特性Xともいう。後段で詳述するように、上記吸収特性Xは、光学異方性層中において赤外線吸収色素の吸光度の高い軸方向を進相軸の方向と平行になるように配置することにより達成される。
吸収特性Xを示す光学異方性層の領域Rにおいては、吸収特性Xを有さない光学異方性層の領域Rよりも、常光線屈折率がより低下する。
具体的には、
図8において、上記吸収特性Xの有無による異常光線屈折率neと常光線屈折率noとの波長分散の比較を示す図である。
図8中、太線は吸収特性Xがない場合の異常光線屈折率neのカーブを示し、実線は吸収特性Xがない場合の常光線屈折率noのカーブを示す。それに対して、吸収特性Xを有する光学異方性層の領域Rにおいては、上記
図7で示したような波長700~2000nmの吸収に由来する影響を受けて、破線で示すように可視光線領域の長波長領域において常光線屈折率noの値がより低下する。結果として、可視光線領域の長波長領域において、異常光線屈折率neと常光線屈折率noとの差である複屈折(屈折率差)Δnがより大きくなり、
図6に示す矢印の挙動が達成される。
図6のような挙動が達成されると、光学異方性層の領域Rの分散特性が理想曲線により近くなり、同じ方向から入射した異なる波長の光が、屈折して透過したとき、いずれの波長でも透過光が明るい状況が得られる。
以下、光学異方性層の構成について詳述する。
【0054】
波長450nmにおける第1光学異方性層26Aの領域Rの面内レタデーションRe(450)=Δn450×dと、波長550nmにおける第1光学異方性層26Aの領域Rの面内レタデーションRe(550)=Δn550×dは、下記式(A)を満たすのが好ましい。ここで、Δn450は、波長450nmである場合の、領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差である。
(Δn450×d)/(Δn550×d)<1.0・・・(A)
式(A)は、第1光学異方性層26Aの領域Rが逆分散性を有していることを表している。すなわち、式(A)が満たされることにより、第1光学異方性層26Aは、広帯域の波長の入射光に対応できる。
なかでも、(Δn450×d)/(Δn550×d)は、0.97以下が好ましく、0.92以下がより好ましく、0.87以下がさらに好ましい。下限は特に制限されないが、0.70以上の場合が多い。
【0055】
光学異方性層の(Δn650×d)/(Δn550×d)は特に制限されないが、1.05以上が好ましく、1.10以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、1.25以下が好ましく、1.20以下がより好ましい。
なお、Re(650))=Δn650×dは、波長650nmにおける光学異方性層の領域Rの面内レタデーションを表す。
【0056】
また、組成物に捩れ成分を付与することにより、また、異なる位相差層を積層することにより、入射光の波長に対して光学異方性層を実質的に広帯域にすることも好ましい。例えば、光学異方性層において、捩れ方向が異なる2層の液晶を積層することによって広帯域のパターン化されたλ/2板を実現する方法が特開2014-089476号公報等に示されており、本発明において好ましく使用することができる。
【0057】
ここで、第1光学異方性層26Aに形成された液晶配向パターンの1周期Λを変化させることにより、透過光L2およびL5の屈折の角度を調節できる。具体的には、液晶配向パターンの1周期Λが短いほど、互いに隣接した液晶化合物30を通過した光同士が強く干渉するため、透過光L2およびL5を大きく屈折させることができる。さらに、矢印X方向に沿って回転する、液晶化合物30の光学軸30Aの回転方向を逆方向にすることにより、透過光の屈折の方向を、逆方向にできる。
【0058】
光学異方性層は、液晶化合物(例えば、棒状液晶化合物または円盤状液晶化合物)および赤外線吸収色素を含む組成物の硬化層からなり、液晶化合物の光学軸(棒状液晶化合物の光学軸または円盤状液晶化合物の光学軸)が、上記のように配向された液晶配向パターンを有している。
支持体20上に配向膜を形成し、配向膜上に組成物を塗布して、硬化することにより、組成物の硬化層からなる光学異方性層を得ることができる。なお、いわゆるλ/2板として機能するのは光学異方性層であるが、本発明は、支持体20および配向膜を一体的に備えた積層体がλ/2板として機能する態様を含む。
また、光学異方性層を形成するための組成物は、液晶化合物(棒状液晶化合物または円盤状液晶化合物)および赤外線吸収色素を含み、さらに、レベリング剤、配向制御剤、重合開始剤および配向助剤等のその他の成分を含んでいてもよい。
【0059】
光学異方性層においては、光学異方性層の領域Rの進相軸の方向での波長700~2000nmにおける吸収(以下、「吸収F」ともいう)が、光学異方性層の領域Rの遅相軸の方向での波長700~2000nmにおける吸収(以下、「吸収S」ともいう)よりも大きい。
上記「吸収Fが吸収Sよりも大きい」とは、光学異方性層の領域Rの進相軸に平行な偏光を光学異方性層に照射した際に得られる吸収スペクトルの波長700~2000nmにおける最大吸光度が、光学異方性層の領域Rの遅相軸に平行な偏光を光学異方性層に照射した際に得られる吸収スペクトルの波長700~2000nmにおける最大吸光度よりも大きいことを意図する。
なお、上記測定は、赤外線用偏光子を備えた分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて実施できる。
【0060】
なお、上記のような吸収の異方性は、後述するように赤外線吸収色素を用いることにより実現できる。特に、二色性の赤外線吸収色素を用いて、この色素の吸光度のより高い軸方向を光学異方性層の領域Rの進相軸方向と平行とすることにより、吸収Fを吸収Sよりも大きくできる。
【0061】
赤外線吸収色素の波長700~2000nmにおける極大吸収波長における光学異方性層の領域Rの配向秩序度S0は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、式(B)の関係を満たすことが好ましい。
式(B) -0.50<S0<-0.15
なかでも、配向秩序度S0は-0.40~-0.20であることがより好ましい。
【0062】
本明細書において、波長λnmにおける光学異方性層の領域Rの配向秩序度S0(λ)は、式(C)で表される値である。
式(C) S0(λ)=(Ap-Av)/(Ap+2Av)
式(C)中、Apは、光学異方性層の領域Rの遅相軸方向に対して平行方向に偏光した光に対する吸光度を表す。Avは、光学異方性層の領域Rの遅相軸方向に対して直交方向に偏光した光に対する吸光度を示す。
光学異方性層の領域Rの配向秩序度S0(λ)は、光学異方性層の領域Rの偏光吸収測定により求めることができる。なお、上記測定は、赤外線用偏光子を備えた分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて実施できる。λは、光学異方性層の領域Rの吸収測定で得られた波長700~2000nmにおける吸収スペクトルの極大吸収波長である。
【0063】
光学異方性層は、液晶化合物および赤外線吸収色素を含む組成物から形成された層である。以下では、使用される材料について詳述し、その後、光学異方性層の製造方法について詳述する。
【0064】
―液晶化合物―
液晶化合物の種類は特に制限されないが、その形状から、棒状タイプ(棒状液晶化合物)と円盤状タイプ(円盤状液晶化合物。ディスコティック液晶化合物)とに分類できる。さらにそれぞれ低分子タイプと高分子タイプとがある。高分子とは一般に重合度が100以上のものを指す(高分子物理・相転移ダイナミクス,土井 正男 著,2頁,岩波書店,1992)。なお、2種以上の棒状液晶化合物、2種以上の円盤状液晶化合物、または、棒状液晶化合物と円盤状液晶化合物との混合物を用いてもよい。
【0065】
液晶化合物の極大吸収波長の位置は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、紫外線領域に位置することが好ましい。
【0066】
光学特性の温度変化および湿度変化を小さくできることから、液晶化合物としては、重合性基を有する液晶化合物(棒状液晶化合物または円盤状液晶化合物)が好ましい。液晶化合物は2種類以上の混合物でもよく、その場合、少なくとも1つが2以上の重合性基を有していることが好ましい。
つまり、光学異方性層は、重合性基を有する液晶化合物(棒状液晶化合物または円盤状液晶化合物)が重合等によって固定されて形成された層であることが好ましく、この場合、層となった後はもはや液晶性を示す必要はない。
上記重合性基の種類は特に制限されず、ラジカル重合またはカチオン重合が可能な重合性基が好ましい。
ラジカル重合性基としては、公知のラジカル重合性基を用いることができ、アクリロイル基またはメタアクリロイル基が好ましい。
カチオン重合性基としては、公知のカチオン重合性基を用いることができ、具体的には、脂環式エーテル基、環状アセタール基、環状ラクトン基、環状チオエーテル基、スピロオルソエステル基、および、ビニルオキシ基が挙げられる。なかでも、脂環式エーテル基またはビニルオキシ基が好ましく、エポキシ基、オキセタニル基、または、ビニルオキシ基がより好ましい。
特に、好ましい重合性基の例としては下記が挙げられる。
【0067】
【0068】
なかでも、液晶化合物としては、式(I)で表される化合物が好ましい。
式(I) L1-SP1-A1-D3-G1-D1-Ar-D2-G2-D4-A2-SP2-L2
上記式(I)中、D1、D2、D3およびD4は、それぞれ独立に、単結合、-O-CO-、-C(=S)O-、-CR1R2-、-CR1R2-CR3R4-、-O-CR1R2-、-CR1R2-O-CR3R4-、-CO-O-CR1R2-、-O-CO-CR1R2-、-CR1R2-O-CO-CR3R4-、-CR1R2-CO-O-CR3R4-、-NR1-CR2R3-、または、-CO-NR1-を表す。
【0069】
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、または、炭素数1~4のアルキル基を表す。
また、上記式(I)中、G1およびG2は、それぞれ独立に、炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を表し、脂環式炭化水素基を構成する-CH2-の1個以上が-O-、-S-または-NH-で置換されていてもよい。
また、上記式(I)中、A1およびA2は、それぞれ独立に、単結合、炭素数6以上の芳香環、または、炭素数6以上のシクロアルキレン環を表す。
また、上記式(I)中、SP1およびSP2は、それぞれ独立に、単結合、炭素数1~14の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、または、炭素数1~14の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を構成する-CH2-の1個以上が-O-、-S-、-NH-、-N(Q)-、もしくは、-CO-に置換された2価の連結基を表し、Qは、重合性基を表す。
また、上記式(I)中、L1およびL2は、それぞれ独立に1価の有機基(例えば、アルキル基、または、重合性基)を表す。
なお、Arが後述する式(Ar-1)、式(Ar-2)、式(Ar-4)、または、式(Ar-5)で表される基である場合、L1およびL2の少なくとも一方は重合性基を表す。また、Arが、後述する式(Ar-3)で表される基である場合は、L1およびL2ならびに下記式(Ar-3)中のL3およびL4の少なくとも1つが重合性基を表す。
【0070】
上記式(I)中、G1およびG2が示す炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基としては、5員環または6員環が好ましい。また、脂環式炭化水素基は、飽和脂環式炭化水素基でも不飽和脂環式炭化水素基でもよいが、飽和脂環式炭化水素基が好ましい。G1およびG2で表される2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、特開2012-21068号公報の段落[0078]の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0071】
上記式(I)中、A1およびA2が示す炭素数6以上の芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、および、フェナンスロリン環等の芳香族炭化水素環;フラン環、ピロール環、チオフェン環、ピリジン環、チアゾール環、および、ベンゾチアゾール環等の芳香族複素環;が挙げられる。なかでも、ベンゼン環(例えば、1,4-フェニル基等)が好ましい。
また、上記式(I)中、A1およびA2が示す炭素数6以上のシクロアルキレン環としては、例えば、シクロヘキサン環、および、シクロヘキセン環等が挙げられ、なかでも、シクロヘキサン環(例えば、シクロヘキサン-1,4-ジイル基等)が好ましい。
【0072】
上記式(I)中、SP1およびSP2が示す炭素数1~14の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、または、ブチレン基が好ましい。
【0073】
上記式(I)中、L1およびL2で表される重合性基は、特に制限されないが、ラジカル重合性基(ラジカル重合可能な基)またはカチオン重合性基(カチオン重合可能な基)が好ましい。
ラジカル重合性基の好適範囲は、上述の通りである。
【0074】
一方、上記式(I)中、Arは、下記式(Ar-1)~(Ar-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの芳香環を表す。なお、下記式(Ar-1)~(Ar-5)中、*1はD1との結合位置を表し、*2はD2との結合位置を表す。
【0075】
【0076】
ここで、上記式(Ar-1)中、Q1は、NまたはCHを表し、Q2は、-S-、-O-、または、-N(R5)-を表し、R5は、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表し、Y1は、置換基を有してもよい、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、または、炭素数3~12の芳香族複素環基を表す。
R5が示す炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、および、n-ヘキシル基が挙げられる。
Y1が示す炭素数6~12の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、2,6-ジエチルフェニル基、および、ナフチル基等のアリール基が挙げられる。
Y1が示す炭素数3~12の芳香族複素環基としては、例えば、チエニル基、チアゾリル基、フリル基、ピリジル基、および、ベンゾフリル基等のヘテロアリール基が挙げられる。なお、芳香族複素環基には、ベンゼン環と芳香族複素環とが縮合した基も含まれる。
また、Y1が有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、アルキルスルホニル基、アルキルオキシカルボニル基、シアノ基、および、ハロゲン原子等が挙げられる。
アルキル基としては、例えば、炭素数1~18の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、および、シクロヘキシル基)がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基がさらに好ましく、メチル基またはエチル基が特に好ましい。
アルコキシ基としては、例えば、炭素数1~18のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~8のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-ブトキシ基、および、メトキシエトキシ基)がより好ましく、炭素数1~4のアルコキシ基がさらに好ましく、メトキシ基またはエトキシ基が特に好ましい。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、および、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子、または、塩素原子が好ましい。
【0077】
また、上記式(Ar-1)~(Ar-5)中、Z1、Z2およびZ3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、-NR6R7、または、-SR8を表し、R6~R8は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表し、Z1およびZ2は、互いに結合して環を形成してもよい。環は、脂環式、複素環、および、芳香環のいずれであってもよく、芳香環であることが好ましい。なお、形成される環には、置換基が置換していてもよい。
炭素数1~20の1価の脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~15のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ペンチル基(1,1-ジメチルプロピル基)、tert-ブチル基、または、1,1-ジメチル-3,3-ジメチル-ブチル基がさらに好ましく、メチル基、エチル基、または、tert-ブチル基が特に好ましい。
炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、メチルシクロヘキシル基、および、エチルシクロヘキシル基等の単環式飽和炭化水素基;シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、シクロオクテニル基、シクロデセニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロオクタジエニル基、および、シクロデカジエン基等の単環式不飽和炭化水素基;ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デシル基、トリシクロ[3.3.1.13,7]デシル基、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデシル基、および、アダマンチル基等の多環式飽和炭化水素基;が挙げられる。
炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、2,6-ジエチルフェニル基、ナフチル基、および、ビフェニル基等が挙げられ、炭素数6~12のアリール基(特にフェニル基)が好ましい。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、および、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子、塩素原子、または、臭素原子が好ましい。
一方、R6~R8が示す炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、および、n-ヘキシル基が挙げられる。
【0078】
また、上記式(Ar-2)および(Ar-3)中、A3およびA4は、それぞれ独立に、-O-、-N(R9)-、-S-、および、-CO-からなる群から選択される基を表し、R9は、水素原子または置換基を表す。
R9が示す置換基としては、上記式(Ar-1)中のY1が有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0079】
また、上記式(Ar-2)中、Xは、水素原子または置換基が結合していてもよい第14族~第16族の非金属原子を表す。
また、Xが示す第14族~第16族の非金属原子としては、例えば、酸素原子、硫黄原子、置換基を有する窒素原子、および、置換基を有する炭素原子が挙げられ、置換基としては、上記式(Ar-1)中のY1が有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0080】
また、上記式(Ar-3)中、D5およびD6は、それぞれ独立に、単結合、-O-CO-、-C(=S)O-、-CR1R2-、-CR1R2-CR3R4-、-O-CR1R2-、-CR1R2-O-CR3R4-、-CO-O-CR1R2-、-O-CO-CR1R2-、-CR1R2-O-CO-CR3R4-、-CR1R2-CO-O-CR3R4-、-NR1-CR2R3-、または、-CO-NR1-を表す。R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、または、炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0081】
また、上記式(Ar-3)中、SP3およびSP4は、それぞれ独立に、単結合、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、または、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を構成する-CH2-の1個以上が-O-、-S-、-NH-、-N(Q)-、もしくは、-CO-に置換された2価の連結基を表し、Qは、重合性基を表す。
【0082】
また、上記式(Ar-3)中、L3およびL4は、それぞれ独立に、1価の有機基(例えば、アルキル基、または、重合性基)を表し、上述したように、L3およびL4ならびに上記式(I)中のL1およびL2の少なくとも1つが重合性基を表す。
【0083】
また、上記式(Ar-4)~(Ar-5)中、Axは、芳香族炭化水素環および芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも1つの芳香環を有する、炭素数2~30の有機基を表す。
また、上記式(Ar-4)~(Ar-5)中、Ayは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、または、芳香族炭化水素環および芳香族複素環からなる群から選択される少なくとも1つの芳香環を有する、炭素数2~30の有機基を表す。
ここで、AxおよびAyにおける芳香環は、置換基を有していてもよく、AxとAyとが結合して環を形成していてもよい。
また、Q3は、水素原子、または、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基を表す。
AxおよびAyとしては、国際公開第2014/010325号パンフレットの段落[0039]~[0095]に記載されたものが挙げられる。
また、Q3が示す炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、および、n-ヘキシル基が挙げられ、置換基としては、上記式(Ar-1)中のY1が有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0084】
なかでも、本発明の効果がより優れる点で、A1およびA2の少なくとも一方が、炭素数6以上のシクロアルキレン環であることが好ましく、A1およびA2の一方が、炭素数6以上のシクロアルキレン環であることがより好ましい。
【0085】
組成物中における液晶化合物の含有量は特に制限されないが、組成物中の全固形分に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、90質量%以下の場合が多い。
なお、組成物中の全固形分には、溶媒は含まれない。
【0086】
―円盤状液晶化合物―
円盤状液晶化合物としては、例えば、特開2007-108732号公報および特開2010-244038号公報に記載の化合物が好ましい。
なお、光学異方性層に円盤状液晶化合物を用いた場合には、光学異方性層において、液晶化合物30は厚さ方向に立ち上がっており、液晶化合物に由来する光学軸30Aは、円盤面に垂直な軸、いわゆる進相軸として定義される(
図13参照)。
【0087】
―赤外線吸収色素―
赤外線吸収色素としては、赤外線(特に、波長700~2000mの光)を吸収する色素である。本発明で用いられる赤外線吸収色素においては、赤外線吸収色素の短軸方向の波長700~2000nmの吸収は、赤外線吸収色素の長軸方向の波長700~2000nmの吸収よりも大きい。つまり、赤外線吸収色素は、二色性色素である。なお、二色性色素とは、分子の長軸方向における吸光度と、短軸方向における吸光度とが異なる性質を有する色素をいう。
なお、上記「赤外線吸収色素の短軸方向の波長700~2000nmの吸収は、赤外線吸収色素の長軸方向の波長700~2000nmの吸収よりも大きい」とは、赤外線吸収色素の短軸方向に平行な偏光を赤外線吸収色素に照射した際に得られる吸収スペクトルの波長700~2000nmにおける最大吸光度が、赤外線吸収色素の長軸方向に平行な偏光を赤外線吸収色素に照射した際に得られる吸収スペクトルの波長700~2000nmにおける最大吸光度よりも大きいことを意図する。
なお、赤外線吸収色素の上記特性を測定する方法としては、例えば、液晶化合物および赤外線吸収色素を含む組成物を用いて、液晶化合物を一軸配向させて得られる試料を用いる方法が挙げられる。上記試料においては、液晶化合物の配向方向に沿って赤外線吸収色素の長軸が平行となるように、赤外線吸収色素が配列していることから、この試料の液晶化合物の一軸配向方向に平行な方向の偏光を照射することにより、赤外線吸収色素の長軸方向の吸収特性を観測でき、液晶化合物の一軸配向方向に直交する方向の偏光を照射することにより、赤外線吸収色素の短軸方向の吸収特性を観測できる。
なお、上記測定は、赤外線用偏光子を備えた分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて実施できる。
【0088】
赤外線吸収色素の種類は特に制限されないが、長軸と短軸とを有する棒状の赤外線吸収色素であることが好ましい。
赤外線吸収色素としては、例えば、ジケトピロロピロール系色素、ジインモニウム系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、アゾ系色素、ポリメチン系色素、アントラキノン系色素、ピリリウム系色素、スクアリリウム系色素、トリフェニルメタン系色素、シアニン系色素、および、アミニウム系色素が挙げられる。
赤外線吸収色素は1種単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
赤外線吸収色素の極大吸収波長は、本発明の効果がより優れる点で、650~1500nmに位置することが好ましく、700~1300nmに位置することがより好ましい。
【0090】
本発明の効果がより優れる点で、赤外線吸収色素の波長700~2000nmの吸光度の積算値は、赤外線吸収色素の波長400~700nmの吸光度の積算値よりも大きいことが好ましい。
上記吸光度の積算値とは、X~Ynmにおけるそれぞれの波長における吸光度を合計した値である。
上記測定は、分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて実施できる。
【0091】
本発明の効果がより優れる点で、赤外線吸収色素はメソゲン基を有することが好ましい。赤外線吸収色素がメソゲン基を有することにより、上述した液晶化合物と共に配向しやすく、所定の吸収特性の制御がしやすい。
メソゲン基とは、剛直かつ配向性を有する官能基である。メソゲン基の構造としては、例えば、芳香環基(芳香族炭化水素環基および芳香族複素環基)および脂環基からなる群から選択される基が、複数個、直接または連結基(例えば、-O-、-CO-、-C(R0)2-、-CH=CH-、-CH=N-、-N=N-、-C≡C-、-NR0-、または、これらの組み合わせ(例えば、-COO-、-CONR0-、-COOCH2CH2-、-CONRCH2CH2-、-OCOCH=CH-、および、-C≡C-C≡C-)を表す。なお、R0は、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表す。)を介して連なった構造が挙げられる。
【0092】
赤外線吸収色素の好適態様としては、式(1)で表される化合物が挙げられる。式(1)で表される化合物であれば、短軸方向の波長700~2000nmの吸収が、赤外線吸収色素の長軸方向の波長700~2000nmの吸収よりも大きい。
式(1)で表される化合物は、可視光線領域の吸収が少なく、得られる光学異方性層の着色がより抑制される。また、この化合物はメソゲン基を有する基を含むことから、液晶化合物と共に配向しやすい。
その際、化合物の中心にある窒素原子を含む縮合環部分から横方向に延びる形でメソゲン基を有する基が配置されているため、形成される光学異方性層の領域Rの遅相軸に対して、上記縮合環部分が直交する方向に配列しやすい。つまり、光学異方性層の領域Rの遅相軸に直交する方向に、縮合環部分に由来する赤外線領域(特に、波長700~2000nm)における吸収が得られやすく、所望の特性を示す光学異方性層が得られやすい。
【0093】
【0094】
R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表し、少なくとも一方は電子求引性基であり、R11およびR12は結合して環を形成してもよい。なお、後述するように、R11はメソゲン基を有する基であってもよい。
置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、芳香族ヘテロ環オキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、芳香族ヘテロ環チオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(例えば、ヘテロアリール基)、シリル基、および、これらを組み合わせた基等が挙げられる。なお、上記置換基は、さらに置換基で置換されていてもよい。
また、置換基として、メソゲン基を有する基も挙げられる。メソゲン基を有する基については、後段で詳述する。
【0095】
電子求引性基としては、ハメット(Hammett)の置換基定数σp値(シグマパラ値)が正の置換基を表し、例えば、シアノ基、アシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、スルフィニル基、および、ヘテロ環基が挙げられる。
これら電子求引性基はさらに置換されていてもよい。
ハメットの置換基定数σ値について説明する。ハメット則は、ベンゼン誘導体の反応または平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年L.P.Hammettにより提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。ハメット則に求められた置換基定数にはσp値とσm値があり、これらの値は多くの一般的な成書に見出すことができる。例えば、J.A.Dean編、「Lange’s Handbook of Chemistry」第12版,1979年(Mc Graw-Hill)や「化学の領域」増刊,122号,96~103頁,1979年(南光堂)、Chem.Rev.,1991年,91巻,165~195ページ等に詳しい。本発明において電子求引性基としては、ハメットの置換基定数σp値が0.20以上の置換基が好ましい。σp値としては、0.25以上が好ましく、0.30以上がより好ましく、0.35以上がさらに好ましい。上限は特に制限はないが、0.80以下が好ましい。
具体例としては、シアノ基(0.66)、カルボキシル基(-COOH:0.45)、アルコキシカルボニル基(-COOMe:0.45)、アリールオキシカルボニル基(-COOPh:0.44)、カルバモイル基(-CONH2:0.36)、アルキルカルボニル基(-COMe:0.50)、アリールカルボニル基(-COPh:0.43)、アルキルスルホニル基(-SO2Me:0.72)、および、アリールスルホニル基(-SO2Ph:0.68)が挙げられる。
本明細書において、Meはメチル基を、Phはフェニル基を表す。なお、括弧内の値は代表的な置換基のσp値をChem.Rev.,1991年,91巻,165~195ページから抜粋したものである。なお、本発明において各置換基をハメットの置換基定数σp値により限定したり、説明したりするが、これは上記の成書で見出せる、文献既知の値がある置換基にのみ限定されるという意味ではなく、その値が文献未知であってもハメット則に基づいて測定した場合にその範囲内に包まれるであろう置換基をも含むことはいうまでもない。
【0096】
R11およびR12が結合して環を形成する場合は、5~7員環(好ましくは5~6員環)の環を形成し、形成される環としては通常メロシアニン色素で酸性核として用いられるものが好ましい。
R11およびR12が結合して形成される環としては、1,3-ジカルボニル核、ピラゾリノン核、2,4,6-トリケトヘキサヒドロピリミジン核(チオケトン体も含む)、2-チオ-2,4-チアゾリジンジオン核、2-チオ-2,4-オキサゾリジンジオン核、2-チオ-2,5-チアゾリジンジオン核、2,4-チアゾリジンジオン核、2,4-イミダゾリジンジオン核、2-チオ-2,4-イミダゾリジンジオン核、2-イミダゾリン-5-オン核、3,5-ピラゾリジンジオン核、ベンゾチオフェン-3-オン核、またはインダノン核が好ましい。
【0097】
R11は、ヘテロ環基であることが好ましく、芳香族ヘテロ環基であることがより好ましい。ヘテロ環基は、単環であっても、多環であってもよい。ヘテロ環基としては、ピラゾール環基、チアゾール環基、オキサゾール環基、イミダゾール環基、オキサジアゾール環基、チアジアゾール環基、トリアゾール環基、ピリジン環基、ピリダジン環基、ピリミジン環基、ピラジン環基、これらのベンゾ縮環基(例えば、ベンゾチアゾール環基、ベンゾピラジン環基)もしくはナフト縮環基、または、これら縮環の複合体が好ましい。
上記ヘテロ環基には、置換基が置換していてもよい。置換基としては、上述したR11およびR12で表される置換基で例示した置換基の例が挙げられる。
【0098】
R13は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、置換ホウ素(-B(Ra)2、Raは置換基を表す)または金属原子を表し、R11と共有結合または配位結合していてもよい。
R13で表される置換ホウ素の置換基は、R11およびR12について上述した置換基と同義であり、アルキル基、アリール基、または、ヘテロアリール基が好ましい。置換ホウ素の置換基(例えば、上述した、アルキル基、アリール基、または、ヘテロアリール基)は、さらに置換基で置換されていてもよい。置換基としては、R11およびR12で表される置換基で例示した基が挙げられる。
また、R13で表される金属原子は、遷移金属原子、マグネシウム原子、アルミニウム原子、カルシウム原子、バリウム原子、亜鉛原子、または、スズ原子が好ましく、アルミニウム原子、亜鉛原子、スズ原子、バナジウム原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、パラジウム原子、イリジウム原子、または、白金原子がより好ましい。
【0099】
R14は、それぞれ独立に、メソゲン基を有する基を表す。メソゲン基の定義は、上述した通りである。
R14は、式(2)で表される基であることが好ましい。*は、結合位置を表す。
式(2) *-M1-(X1-M2)n-X2-P
M1は、置換もしくは無置換のアリーレン基、または、置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基としては、フェニレン基が挙げられる。ヘテロアリーレン基としては、ピラゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、これらのベンゾ縮環(例えば、ベンゾチアゾール環、ベンゾピラジン環)もしくはナフト縮環、または、これら縮環の複合体から任意の2つの水素原子を除いた2価の基が挙げられる。上記アリーレン基および上記ヘテロアリーレン基が置換基を有する場合、置換基としては、R11およびR12で表される置換基で例示した基が挙げられる。
X1は、単結合、-O-、-CO-、-C(R0)2-、-CH=CH-、-CH=N-、-N=N-、-C≡C-、-NR0-、または、これらの組み合わせ(例えば、-COO-、-CONR0-、-COOCH2CH2-、-CONRCH2CH2-、-OCOCH=CH-、および、-C≡C-C≡C-)を表す。R0は、水素原子または炭素数1~5のアルキル基を表す。
M2は、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基、または、置換もしくは無置換のシクロアルキレン基を表す。アリーレン基としては、フェニレン基が挙げられる。ヘテロアリーレン基としては、ピラゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、これらのベンゾ縮環(例えば、ベンゾチアゾール環、ベンゾピラジン環)もしくはナフト縮環、または、これら縮環の複合体から任意の2つの水素原子を除いた2価の基が挙げられる。シクロアルキレン基に含まれる炭素数は、5~7が好ましい。上記アリーレン基、上記ヘテロアリーレン基、および、上記シクロアルキレン基が置換基を有する場合、置換基としては、R11およびR12で表される置換基で例示した基が挙げられる。
X2は、単結合または2価の連結基を表す。2価の連結基としては、例えば、2価の炭化水素基(例えば、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~10のアルケニレン基、および、炭素数1~10のアルキニレン基等の2価の脂肪族炭化水素基、アリーレン基等の2価の芳香族炭化水素基)、2価の複素環基、-O-、-S-、-NH-、-N(Q)-、-CO-、または、これらを組み合わせた基(例えば、-O-2価の炭化水素基-、-(O-2価の炭化水素基)m-O-(mは、1以上の整数を表す)、および、-2価の炭化水素基-O-CO-等)が挙げられる。Qは、水素原子またはアルキル基を表す。
nは1~10を表す。なかでも、1~5が好ましく、2~4がより好ましい。
Pは、水素原子、または、重合性基を表す。重合性基の定義は、後述する液晶化合物が有していてもよい重合性基の定義と同義である。
【0100】
赤外線吸収色素は、式(3)で表される化合物であることがより好ましい。
【0101】
【0102】
R14の定義は、上述した通りである。
R22は、それぞれ独立に、シアノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、または、含窒素ヘテロアリール基を表す。
R15およびR16は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、または、ヘテロアリール基を表し、R15およびR16は結合して環を形成してよい。形成される環としては、炭素数5~10の脂環、炭素数6~10の芳香族炭化水素環、または、炭素数3~10の芳香族複素環が挙げられる。R15およびR16が結合して形成される環には、さらに置換基が置換していてもよい。置換基としては、R11およびR12で表される置換基の説明で例示した基が挙げられる。
R17およびR18は、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、または、ヘテロアリール基を表す。R17およびR18で表される基には、さらに置換基が置換してもよい。置換基としては、R11およびR12で表される置換基の説明で例示した基が挙げられる。
Xは、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、-NR-、-CRR’-、-CH=CH-、または、-N=CH-を表し、RおよびR’は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、または、アリール基を表す。
【0103】
組成物中における赤外線吸収色素の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、液晶化合物全質量に対して、5~70質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。
【0104】
―赤外線吸収色素IR-Aの合成―
一例として、以下に赤外線吸収色素IR-Aの合成スキームを示す。
【0105】
【0106】
赤外線吸収色素IR-Aは、特開2011-68731号公報を参考にして、上記スキームに従って合成した。
【0107】
―他の成分―
上記組成物は、上述した液晶化合物および赤外線吸収色素以外の成分を含んでいてもよい。
組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。使用される重合開始剤は、重合反応の形式に応じて選択され、例えば、熱重合開始剤、および、光重合開始剤が挙げられる。重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤としては、α-カルボニル化合物、アシロインエーテル、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物、多核キノン化合物、および、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせが挙げられる。
組成物中における重合開始剤の含有量は、組成物の全固形分に対して、0.01~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましい。
【0108】
また、組成物は、重合性モノマーを含んでいてもよい。
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性またはカチオン重合性の化合物が挙げられる。なかでも、多官能性ラジカル重合性モノマーが好ましい。また、重合性モノマーとしては、上記の重合性基を有する液晶化合物と共重合性のモノマーが好ましい。例えば、特開2002-296423号公報中の段落[0018]~[0020]に記載の重合性モノマーが挙げられる。
組成物中における重合性モノマーの含有量は、液晶化合物の全質量に対して、1~50質量%が好ましく、2~30質量%がより好ましい。
【0109】
また、組成物は、界面活性剤を含んでいてもよい。
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、フッ素系化合物が好ましい。例えば、特開2001-330725号公報中の段落[0028]~[0056]に記載の化合物、および、特願2003-295212号明細書中の段落[0069]~[0126]に記載の化合物が挙げられる。
【0110】
また、組成物は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、アミド(例:N,N-ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例:ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例:ピリジン)、炭化水素(例:ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例:クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例:酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル)、ケトン(例:アセトン、メチルエチルケトン)、および、エーテル(例:テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン)が挙げられる。なお、2種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0111】
また、組成物は、垂直配向剤、および、水平配向剤等の各種配向制御剤を含んでいてもよい。これらの配向制御剤は、界面側において液晶化合物を水平または垂直に配向制御可能な化合物である。
さらに、組成物は、上記成分以外に、密着改良剤、可塑剤、および、ポリマーを含んでいてもよい。
【0112】
<光学素子の作用>
前述のように、液晶化合物を含む組成物を用いて形成された、光学軸30Aの方向が矢印X方向に沿って回転する液晶配向パターンを有する光学異方性層は、円偏光を屈折させるが、屈折した光の透過光強度は波長がλnmである入射光に対する光学異方性層の面内レタデーションRe(λ)=Δnλ×dに依存する。具体的にはΔnλ×d=λ/2のとき、波長がλnmである円偏光の入射光を、最も効率的に屈折して透過させる、つまり、透過光を最も明るくすることができる。一般的な液晶化合物の複屈折波長分散特性は理想的な曲線から外れる傾向を示すため、光学異方性層の面内レタデーションを特定の波長でλ/2に設定したとしても、他の波長ではλ/2から外れる。そのため、屈折した光の透過光強度は、光の波長によって異なる。従って、例えば、入射光が赤色光、緑色光および青色光である場合に、光学異方性層の面内レタデーションを緑色光がλ/2となるように膜厚を合わせたときに、屈折した光の透過光強度は、緑色光が最も強く、赤色光と青色光は弱くなる、つまり、緑色光の透過光は明るく、赤色光と青色光の透過光は暗くなる。
そのため、例えば、ARグラスの導光板において、導光板への光の入射および出射のための回折素子として、光学軸30Aの向きが回転する上述の液晶配向パターンを有する光学異方性層による光学素子を用いた場合には、フルカラー画像では、赤色光と緑色光と青色光とで透過光の明るさが異なってしまう。
【0113】
これに対し、本発明の光学素子は、液晶化合物および赤外線吸収色素を含む組成物を用いて形成された光学異方性層を備え、光学異方性層は、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有し、赤外線吸収色素の短軸方向の波長700~2000nmの吸収が、赤外線吸収色素の長軸方向の波長700~2000nmの吸収よりも大きい。
このような本発明の光学素子によれば、透過光の光強度の波長依存性を低減して、透過・出射できる。そのため、本発明の光学素子(一例として後述する光学素子32)を、例えば、ARグラスにおいて、導光板に光を入射させる回折素子および/または導光板から光を出射させる回折素子として用いることにより、赤色画像、緑色画像および青色画像を伝播して、透過光の明るさの波長依存性の少ない、適正な画像を使用者に表示できる。
【0114】
以下、光学素子10の作用を詳細に説明する。
【0115】
前述のように、光学素子10は、第1光学異方性層26Aを有する第1光学異方性部材12を設けたものである。
光学素子10は、一例として、青色光の円偏光および緑色光の円偏光および赤色光の円偏光を対象として、入射光を所定の方向に屈折して透過させる。
【0116】
光学素子10において、前述のように、所定の特性を有する赤外線吸収色素を用いることで、長波長領域において、異常光線屈折率neと常光線屈折率noとの差である複屈折Δnλがより大きくなり、複屈折の光学特性を理想曲線に近づけることができる。
ここで、第1光学異方性層26Aの領域Rの面内レタデーションΔnλ×dを緑色光(550nm)がλ/2となるように膜厚を合わせたとき、前述のように、屈折した緑色光の透過光は明るくなる。また、第1光学異方性層26Aに赤外線吸収色素を用いることにより、第1光学異方性層26Aの領域Rの赤色光(650nm)の面内レタデーションΔn650×dも、赤外線吸収色素を用いない場合に対し、λ/2に近づくことから、屈折した赤色光の透過光を明るくすることができる。
【0117】
また、光学素子10において、所定の特性を有する赤外線吸収色素を用いることで、異常光線屈折率neと常光線屈折率noとの差である複屈折Δnλが大きくなる。
第1光学異方性層26Aに赤外線吸収色素を用いることにより、複屈折Δnλが大きくなることで、屈折した光の透過光は明るくなる。赤外線吸収色素を用いることにより、特に、長波長領域である、赤色光(650nm)のΔn650が、赤外線吸収色素を用いない場合に対し、より大きくなることから、屈折した赤色光の透過光を明るくすることができる。
【0118】
さらに、光学素子10において、第1光学異方性層26Aの液晶化合物として、逆波長分散性を示す液晶化合物を用いることにより、短波長領域において、複屈折Δnが小さくなり、複屈折の光学特性を理想曲線に近づけることができる。
ここで、第1光学異方性層26Aの領域Rの面内レタデーションΔnλ×dを緑色光(550nm)がλ/2となるように膜厚を合わせたとき、前述のように、屈折した緑色光の透過光は明るくなる。また、第1光学異方性層26Aの領域Rに逆波長分散性を示す液晶化合物を用いることにより、短波長領域において、順波長分散性を示す液晶化合物に対し、複屈折Δnが小さくなり、第1光学異方性層26Aの領域Rの青色光(450nm)の面内レタデーションΔn650×dも、順波長分散性を示す液晶化合物を用いた場合に対し、λ/2に近づくことから、屈折した青色光の透過光を明るくすることができる。
【0119】
このように、本発明の光学素子10では、複屈折の光学特性を理想曲線に近づけることにより、透過光の光強度の波長依存性を低減して、透過・出射できる。
【0120】
また、本発明の光学素子では、液晶化合物を含む組成物を用いて形成された、光学軸30Aの方向が矢印X方向に沿って回転する液晶配向パターンを有する光学異方性層は、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層を用いてもよい。すなわち、第1光学異方性層26Aは、コレステリック構造を有する液晶化合物30(液晶材料)からなる層であってもよい。
【0121】
コレステリック液晶相は、特定の波長において選択反射性を示すことが知られている。選択反射の中心波長(選択反射中心波長)λは、コレステリック液晶相における螺旋構造のピッチP(=螺旋の周期)に依存し、コレステリック液晶相の平均屈折率nとλ=n×Pの関係に従う。そのため、この螺旋構造のピッチを調節することによって、選択反射中心波長を調節できる。
【0122】
コレステリック液晶相は、特定の波長において左右いずれかの円偏光に対して選択反射性を示す。反射光が右円偏光であるか左円偏光であるかは、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向(センス)による。コレステリック液晶相による円偏光の選択反射は、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向が右の場合は右円偏光を反射し、螺旋の捩れ方向が左の場合は左円偏光を反射する。
【0123】
また、選択反射を示す選択反射帯域(円偏光反射帯域)の半値幅Δλ(nm)は、コレステリック液晶相のΔnと螺旋のピッチPとに依存し、Δλ=Δn×Pの関係に従う。そのため、選択反射帯域の幅の制御は、Δnを調節して行うことができる。
【0124】
本発明の光学素子では、光学素子10において、所定の特性を有する赤外線吸収色素を用いることで、長波長領域において、異常光線屈折率neと常光線屈折率noとの差である複屈折Δnがより大きくすることができる。
一例として、第1光学異方性層26Aであるコレステリック液晶層の選択反射中心波長を赤色光(650nm)に合わせたとき、複屈折Δn650を大きくすることができることから、赤外線吸収色素を用いない場合に対し、選択反射帯域の半値幅を広帯域にすることができる。
【0125】
このように、本発明の光学素子10では、光学異方性層としてコレステリック液晶層を用いることにより、鏡面反射に対して所定方向に角度を有して光を反射できる光学素子において、選択反射帯域の半値幅を広帯域にすることができる。すなわち、反射光の光強度の波長依存性を低減して、反射できる。
【0126】
なお、本発明の光学素子において、光学異方性層の液晶配向パターンにおける1周期Λには、制限はなく、光学素子の用途等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0127】
ここで、本発明の光学素子は、導光板とともに用いて、導光素子を形成できる。一例として、ARグラスにおいて、ディスプレイが表示した光を屈折して導光板に導入する回折素子、および、導光板を伝播した光を屈折して導光板から使用者による観察位置に出射させる回折素子に、好適に利用される。特に、フルカラー画像に対応可能な光学素子32は、ARグラスにおける回折素子として好適に利用可能である。
この際においては、導光板で光を全反射させるためには、入射光に対して、ある程度の大きな角度で光を屈折させて導光板に導入する必要がある。また、導光板を伝播してきた光を確実に出射させるためにも、入射光に対して、ある程度の大きな角度で光を屈折させる必要がある。
また、前述のように、光学異方性層による光の透過角度は、液晶配向パターンにおける1周期Λを短くすることで、入射光に対する透過光の角度を大きくできる。
【0128】
この点を考慮すると、光学異方性層の液晶配向パターンにおける1周期Λは、50μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。
なお、液晶配向パターンの精度等を考慮すると、光学異方性層の液晶配向パターンにおける1周期Λは、0.1μm以上とするのが好ましい。
【0129】
図1~
図5に示す光学素子は、光学異方性層の液晶配向パターンにおける液晶化合物30の光学軸30Aは、矢印X方向のみに沿って、連続して回転している。
しかしながら、本発明は、これに制限はされず、光学異方性層において、液晶化合物30の光学軸30Aが一方向に沿って連続して回転するものであれば、各種の構成が利用可能である。
【0130】
一例として、
図10の平面図に概念的に示すような、液晶配向パターンが、液晶化合物30の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する一方向を、内側から外側に向かう同心円状に有する、同心円状のパターンである、光学異方性層34が例示される。言い換えれば、
図10に示す光学異方性層34の液晶配向パターンは、液晶化合物30の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する一方向が、光学異方性層34の中心から放射状に設けられた液晶配向パターンである。
【0131】
なお、
図10においても、
図4と同様、配向膜の表面の液晶化合物30のみを示すが、光学異方性層34においては、
図2に示されるように、この配向膜の表面の液晶化合物30から、液晶化合物30が積み重ねられた構造を有するのは、前述のとおりである。
また、光学異方性層34には、図示しない赤外線吸収色素も含まれている。
【0132】
図10に示す光学異方性層34において、液晶化合物30の光学軸(図示省略)は、液晶化合物30の長手方向である。
光学異方性層34では、液晶化合物30の光学軸の向きは、光学異方性層34の中心から外側に向かう多数の方向、例えば、矢印A1で示す方向、矢印A2で示す方向、矢印A3で示す方向…に沿って、連続的に回転しながら変化している。
この液晶配向パターンを有する光学異方性層34に入射した円偏光は、液晶化合物30の光学軸の向きが異なる個々の局所的な領域において、それぞれ、絶対位相が変化する。この際に、それぞれの絶対位相の変化量は、円偏光が入射した液晶化合物30の光学軸の向きに応じて異なる。
【0133】
このような、同心円状の液晶配向パターン、すなわち、放射状に光学軸が連続的に回転して変化する液晶配向パターンを有する光学異方性層34は、液晶化合物30の光学軸の回転方向および入射する円偏光の方向に応じて、入射光を、発散光または集束光として透過できる。
すなわち、光学異方性層の液晶配向パターンを同心円状とすることにより、本発明の光学素子は、例えば、凸レンズまたは凹レンズとして機能を発現する。
【0134】
ここで、光学異方性層の液晶配向パターンを同心円状として、光学素子を凸レンズとして作用させる場合には、液晶配向パターンにおいて光学軸が180°回転する1周期Λを、光学異方性層34の中心から、光学軸が連続的に回転する1方向の外方向に向かって、漸次、短くするのが好ましい。
前述のように、入射方向に対する光の屈折の角度は、液晶配向パターンにおける1周期Λが短いほど、大きくなる。従って、液晶配向パターンにおける1周期Λを、光学異方性層34の中心から、光学軸が連続的に回転する1方向の外方向に向かって、漸次、短くすることにより、光学異方性層34による光の集束力を、より向上でき、凸レンズとしての性能を、向上できる。
【0135】
なお、本発明においては、例えば凹レンズとする場合等、光学素子の用途によっては、液晶配向パターンにおいて光学軸が180°回転する1周期Λを、光学異方性層34の中心から、光学軸が連続的に回転する方向を逆方向に回転させ、1方向の外方向に向かって、漸次、短くするのが好ましい。
前述のように、入射方向に対する光の屈折の角度は、液晶配向パターンにおける1周期Λが短いほど、大きくなる。従って、液晶配向パターンにおける1周期Λを、光学異方性層34の中心から、光学軸が連続的に回転する1方向の外方向に向かって、漸次、短くすることにより、光学異方性層34による光の発散力を、より向上でき、凹レンズとしての性能を、向上できる。
【0136】
なお、本発明においては、例えば光学素子を凹レンズとする場合等、入射する円偏光の旋回方向を逆にするのも好ましい。
【0137】
本発明において、光学素子を凸レンズまたは凹レンズとして作用させる場合には、下記の式を満たすのが好ましい。
Φ(r)=(π/λ)[(r2+f2)1/2-f]
ここで、rは同心円の中心からの距離で次式r=(x2+y2)1/2で表される。x、yは面内の位置を表し、(x、y)=(0、0)は同心円の中心を表す。Φ(r)は中心からの距離rにおける光学軸の角度、λは波長、fは目的とする焦点距離を表す。
【0138】
なお、本発明においては、逆に、同心円状の液晶配向パターンにおける1周期Λを、光学異方性層34の中心から、光学軸が連続的に回転する1方向の外方向に向かって、漸次、長くしてもよい。
さらに、例えば透過光に光量分布を設けたい場合等、光学素子の用途によって、光学軸が連続的に回転する1方向に向かって、1周期Λを、漸次、変更するのではなく、光学軸が連続的に回転する1方向において、部分的に1周期Λが異なる領域を有する構成も利用可能である。
加えて、本発明の光学素子は、1周期Λが全面的に均一な光学異方性層と、1周期Λが異なる領域を有する光学異方性層とを有してもよい。この点に関しては、後述する、
図1に示すような、一方向のみに光学軸が連続的に回転する構成でも、同様である。
【0139】
図11に、配向膜(例えば、配向膜24A)に、このような同心円状の配向パターンを形成する露光装置の一例を概念的に示す。
露光装置80は、レーザ82を備えた光源84と、レーザ82からのレーザ光MをS偏光MSとP偏光MPとに分割する偏光ビームスプリッター86と、P偏光MPの光路に配置されたミラー90AおよびS偏光MSの光路に配置されたミラー90Bと、S偏光MSの光路に配置されたレンズ92と、偏光ビームスプリッター94と、λ/4板96とを有する。
【0140】
偏光ビームスプリッター86で分割されたP偏光MPは、ミラー90Aによって反射されて、偏光ビームスプリッター94に入射する。他方、偏光ビームスプリッター86で分割されたS偏光MSは、ミラー90Bによって反射され、レンズ92によって集光されて偏光ビームスプリッター94に入射する。
P偏光MPおよびS偏光MSは、偏光ビームスプリッター94で合波されて、λ/4板96によって偏光方向に応じた右円偏光および左円偏光となって、支持体20の上の配向膜24に入射する。
ここで、右円偏光と左円偏光の干渉により、配向膜24に照射される光の偏光状態が干渉縞状に周期的に変化するものとなる。同心円の内側から外側に向かうにしたがい、左円偏光と右円偏光の交差角が変化するため、内側から外側に向かってピッチが変化する露光パターンが得られる。これにより、配向膜24において、配向状態が周期的に変化する同心円状の配向パターンが得られる。
【0141】
この露光装置80において、液晶化合物30の光学軸が一方向に沿って連続的に180°回転する液晶配向パターンの1周期Λは、レンズ92の屈折力(レンズ92のFナンバー)レンズ92の焦点距離、および、レンズ92と配向膜24との距離等を変化させることで、制御できる。
また、レンズ92の屈折力(レンズ92のFナンバー)を調節することによって、光学軸が連続的に回転する一方向において、液晶配向パターンの1周期の長さΛを変更できる。
具体的には、平行光と干渉させる、レンズ92で広げる光の広がり角によって、光学軸が連続的に回転する一方向において、液晶配向パターンの1周期の長さΛを変えることができる。より具体的には、レンズ92の屈折力を弱くすると、平行光に近づくため、液晶配向パターンの1周期の長さΛは、内側から外側に向かって緩やかに短くなり、Fナンバーは大きくなる。逆に、レンズ92の屈折力を強めると、液晶配向パターンの1周期の長さΛは、内側から外側に向かって急に短くなり、Fナンバーは小さくなる。
【0142】
このように、光学軸が連続的に回転する1方向において、光学軸が180°回転する1周期Λを変更する構成は、
図1~5に示す、矢印X方向の一方向のみに液晶化合物30の光学軸30Aが連続的に回転して変化する構成でも、利用可能である。
例えば、液晶配向パターンの1周期Λを、矢印X方向に向かって、漸次、短くすることにより、集光するように光を透過する光学素子を得ることができる。また、液晶配向パターンにおいて、光学軸が180°回転する方向を逆にすることにより、矢印X方向にのみ拡散するように光を透過する光学素子を得ることができる。なお、入射する円偏光の旋回方向を逆にすることでも、矢印のX方向にのみ拡散するように光を透過する光学素子を得ることができる。
さらに、例えば透過光に光量分布を設けたい場合等、光学素子の用途によって、矢印X方向に向かって、1周期Λを漸次、変更するのではなく、矢印X方向において、部分的に1周期Λが異なる領域を有する構成も利用可能である。例えば、部分的に1周期Λを変更する方法として、集光したレーザ光の偏光方向を任意に変えながら、光配向膜をスキャン露光してパターニングする方法等を利用することができる。
【0143】
本発明の光学素子は、光学装置における光路変更部材、光集光素子、所定方向への光拡散素子、および、回折素子等、入射方向とは異なる方向に光を透過する、各種の用途に利用可能である。
【0144】
好ましい一例として、
図12に概念的に示すように、光学素子32を2枚用意して、離間して導光板42に設けることで、ディスプレイ40が照射した光(投影像)を、全反射に十分な角度で導光板42に導入し、導光板42を伝播した光を、導光板42からARグラスの使用者Uによる観察位置に出射できる。
【0145】
以上の例は、本発明の光学素子を、可視光を透過または反射する光学素子に利用したものであるが、本発明は、これに限定はされず、各種の構成が利用可能である。
例えば、本発明の光学素子は、赤外線または紫外線を透過または反射する構成でもよく、可視光以外の光のみを透過または反射する構成でもよい。
【0146】
以上、本発明の光学素子および導光素子について詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0147】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、使用量、物質量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0148】
[比較例1]
<第1光学異方性部材の作製>
(支持体、および、支持体の鹸化処理)
支持体として、市販されているトリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム社製、Z-TAC)を用意した。
支持体を、温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させて、支持体の表面温度を40℃に昇温した。
その後、支持体の片面に、バーコーターを用いて下記に示すアルカリ溶液を塗布量14mL(リットル)/m2で塗布し、支持体を110℃に加熱し、さらに、スチーム式遠赤外ヒーター(ノリタケカンパニーリミテド社製)の下を、10秒間搬送した。
続いて、同じくバーコーターを用いて、支持体のアルカリ溶液塗布面に、純水を3mL/m2塗布した。次いで、得られた支持体に対して、ファウンテンコーターによる水洗およびエアナイフによる水切りを3回繰り返した後に、70℃の乾燥ゾーンを10秒間搬送して乾燥させ、支持体の表面をアルカリ鹸化処理した。
【0149】
アルカリ溶液
――――――――――――――――――――――――――――――――――
水酸化カリウム 4.70質量部
水 15.80質量部
イソプロパノール 63.70質量部
界面活性剤
SF-1:C14H29O(CH2CH2O)2OH 1.0質量部
プロピレングリコール 14.8質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0150】
(下塗り層の形成)
支持体のアルカリけん化処理面に、下記の下塗り層形成用塗布液を#8のワイヤーバーで連続的に塗布した。塗膜が形成された支持体を60℃の温風で60秒間、さらに100℃の温風で120秒間乾燥し、下塗り層を形成した。
【0151】
下塗り層形成用塗布液
――――――――――――――――――――――――――――――――――
下記変性ポリビニルアルコール 2.40質量部
イソプロピルアルコール 1.60質量部
メタノール 36.00質量部
水 60.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0152】
【0153】
(配向膜の形成)
下塗り層を形成した支持体上に、下記の配向膜形成用塗布液を#2のワイヤーバーで連続的に塗布した。この配向膜形成用塗布液の塗膜が形成された支持体を60℃のホットプレート上で60秒間乾燥し、配向膜を形成した。
【0154】
配向膜形成用塗布液
――――――――――――――――――――――――――――――――――
光配向用素材A 1.00質量部
水 16.00質量部
ブトキシエタノール 42.00質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 42.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0155】
-光配向用素材A-
【0156】
【0157】
(配向膜の露光)
図9に示す露光装置を用いて配向膜を露光して、配向パターンを有する配向膜P-1を形成した。
露光装置において、レーザとして波長(325nm)のレーザ光を出射するものを用いた。干渉光による露光量を100mJ/cm
2とした。なお、2つのレーザ光およびの干渉により形成される配向パターンの1周期(液晶化合物由来の光学軸が180°回転する長さ)は、2つの光の交差角(交差角α)を変化させることによって制御した。
【0158】
(第1光学異方性層の形成)
光学異方性層を形成する組成物として、下記の組成物A-1を調製した。
組成物A-1
――――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
光増感剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
クロロホルム 520.00質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0159】
液晶化合物L-1
【0160】
【0161】
レベリング剤T-1
【0162】
【0163】
第1光学異方性層は、組成物A-1を配向膜P-1上に多層塗布することにより形成した。多層塗布とは、先ず配向膜の上に1層目の組成物A-1を塗布、加熱、冷却後に紫外線硬化を行って液晶固定化層を作製した後、2層目以降はその液晶固定化層に重ね塗りして塗布を行い、同様に加熱、冷却後に紫外線硬化を行うことを繰り返すことを指す。多層塗布により形成することにより、液晶層の総厚が厚くなった時でも配向膜の配向方向が液晶層の下面から上面にわたって反映される。
【0164】
先ず1層目は、配向膜P-1上に下記の組成物A-1を塗布して、塗膜をホットプレート上で120℃に加熱し、その後、60℃に冷却した後、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を100mJ/cm2の照射量で塗膜に照射することにより、液晶化合物の配向を固定化した。この時の1層目の液晶層の膜厚は0.2μmであった。
【0165】
2層目以降は、この液晶層に重ね塗りして、上と同じ条件で加熱、冷却後に紫外線硬化を行って液晶固定化層を作製した。このようにして、総厚が所望の膜厚になるまで重ね塗りを繰り返し、第1光学異方性層を形成して、第1光学異方性部材を作製した。
【0166】
なお、組成物A-1の硬化層の各領域Rの複素屈折率Δn550は、0.16であった。複素屈折率Δn550は、組成物A1を別途に用意したリターデーション測定用の配向膜付き支持体上に塗布し、液晶化合物のダイレクタが基材に水平となるよう配向させた後に紫外線照射して固定化して得た液晶固定化層(硬化層)のレタデーション値および膜厚を測定して求めた。レタデーション値を膜厚で除算することによりΔn550を算出できる。レタデーション値はAxometrix 社のAxoscanで550nmの波長で測定し、膜厚は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)を用いて測定した。以降、レタデーション値は適宜目的の波長で測定を行った。
【0167】
第1光学異方性層においては、最終的にΔn
550×厚さ(Re(550))が275nmになり、かつ、
図3に示すような周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡で確認した。なお、この第1光学異方性層の液晶配向パターンにおいて、液晶化合物由来の光学軸が180°回転する1周期は、1.0μmであった。また、Δn
450×厚さ(Re(450))が300nm、Δn
650×厚さ(Re(650))が264nmであった。よって、(Δn
450×d)/(Δn
550×d)は1.09、(Δn
650×d)/(Δn
550×d)は0.96であった。以下、特に記載が無い場合には、『Δn
550×d』等の測定は、同様に行った。
【0168】
[実施例1]
(第1光学異方性層の形成)
光学異方性層を形成する組成物として、下記の組成物A-2を調製した。
組成物A-2
――――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶化合物L-1 100.00質量部
赤外線吸収色素IR-1 5.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
光増感剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
クロロホルム 545.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0169】
赤外線吸収色素IR-1
【0170】
【0171】
赤外線吸収色素IR-1は、赤外線吸収色素IR-Aのスキームを参考にして合成した。
【0172】
組成物A-2を用いた以外は比較例1と同様にして第1光学異方性層を形成した。
【0173】
第1光学異方性層は、最終的にΔn
550×厚さ(Re(550))が275nmになり、かつ、
図3に示すような周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡で確認した。なお、この第1光学異方性層の液晶配向パターンにおいて、液晶化合物由来の光学軸が180°回転する1周期は、1.0μmであった。また、Δn
450×厚さ(Re(450))が294nm、Δn
650×厚さ(Re(650))が273nmであった。よって、(Δn
450×d)/(Δn
550×d)は1.07、(Δn
650×d)/(Δn
550×d)は0.99であった。ここで、Δn
550=0.17であった。
【0174】
赤外線吸収色素IR-1の短軸方向の波長700~2000nmの吸収が、赤外線吸収色素IR-1の長軸方向の波長700~2000nmの吸収よりも大きかった。
また、赤外線吸収色素IR-1の波長700~2000nmの吸光度の積算値は、赤外線吸収色素IR-1の波長400~700nmの吸光度の積算値よりも大きかった。
また、組成物A-2を別途用意した配向膜付き支持体上に塗布し、液晶化合物のダイレクタが基材に水平となるよう配向させた後に紫外線照射して固定化して得た液晶固定化層(硬化層)を吸収測定用の光学異層性層として、赤外線用偏光子を備えた分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて、赤外線領域での吸収を確認したところ、波長700~2000nmにおいて、光学異方性層の領域Rの進相軸と平行な方向での吸収が、遅相軸と平行な方向での吸収よりも大きいことが確認された。
また、赤外線吸収色素IR-1の極大吸収波長における光学異方性層の領域Rの配向秩序度S0は、-0.56であった。
【0175】
[比較例2]
(第1光学異方性層の形成)
光学異方性層を形成する組成物として、下記の組成物A-3を調製した。
組成物A-3
――――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶化合物L-2 100.00質量部
重合開始剤PI-1 0.50質量部
レベリング剤T-1 0.50質量部
クロロホルム 510.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0176】
-液晶化合物L-2-
【0177】
【0178】
-重合開始剤PI-1-
【0179】
【0180】
組成物A-3を用い、塗膜のホットプレート上で加熱を190℃にし、その後、120℃に冷却して液晶化合物の配向を固定化した以外は比較例1と同様にして第1光学異方性層を形成した。
【0181】
第1光学異方性層は、最終的にΔn
550×厚さ(Re(550))が275nmになり、かつ、
図3に示すような周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡で確認した。なお、この第1光学異方性層の液晶配向パターンにおいて、液晶化合物由来の光学軸が180°回転する1周期は、1.0μmであった。また、Δn
450×厚さ(Re(450))が205nm、Δn
650×厚さ(Re(650))が288nmであった。よって、(Δn
450×d)/(Δn
550×d)は0.74、(Δn
650×d)/(Δn
550×d)は1.05であった。ここで、Δn
550=0.042であった。
【0182】
[実施例2]
(第1光学異方性層の形成)
光学異方性層を形成する組成物として、下記の組成物A-4を調製した。
組成物A-4
――――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶化合物L-2 100.00質量部
赤外線吸収色素IR-1 5.00質量部
重合開始剤PI-1 0.50質量部
レベリング剤T-1 0.50質量部
クロロホルム 535.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0183】
赤外線吸収色素IR-1
【0184】
【0185】
組成物A-4を用いた以外は比較例2と同様にして第1光学異方性層を形成した。
【0186】
第1光学異方性層は、最終的にΔn
550×厚さ(Re(550))が275nmになり、かつ、
図3に示すような周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡で確認した。なお、この第1光学異方性層の液晶配向パターンにおいて、液晶化合物由来の光学軸が180°回転する1周期は、1.0μmであった。また、Δn
450×厚さ(Re(450))が211nm、Δn
650×厚さ(Re(650))が307nmであった。よって、(Δn
450×d)/(Δn
550×d)は0.77、(Δn
650×d)/(Δn
550×d)は1.12であった。ここで、Δn
550=0.045であった。
【0187】
また、赤外線用偏光子を備えた分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて、赤外線領域での吸収を確認したところ、波長700~2000nmにおいて、光学異方性層の領域Rの進相軸と平行な方向での吸収が、遅相軸と平行な方向での吸収よりも大きいことが確認された。
また、赤外線吸収色素IR-1の極大吸収波長における光学異方性層の領域Rの配向秩序度S0は、-0.23であった。
【0188】
[比較例3]
(コレステリック液晶層の形成)
コレステリック液晶層を形成する組成物として、下記の組成物A-5を調製した。
この組成物A-5は、選択反射中心波長が630nmで、右円偏光を反射するコレステリック液晶層(コレステリック液晶相)を形成する、組成物である。
組成物A-5
――――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
光増感剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
キラル剤Ch-1 4.69質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
クロロホルム 560.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0189】
キラル剤Ch-1
【0190】
【0191】
組成物A-5を用い、塗膜のホットプレート上で加熱を95℃にした以外は比較例1の第1光学異方性層と同様にしてコレステリック液晶層を形成した。
【0192】
反射層の断面をSEM(Scanning Electron Microscope)で確認したところ、反射層のコレステリック液晶相は8ピッチであった。
反射コレステリック液晶層は、
図3に示すような周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡で確認した。なお、この反射コレステリック液晶層の液晶配向パターンにおいて、液晶化合物由来の光学軸が180°回転する1周期は、1.0μmであった。また、Δn
630が0.155であった。
【0193】
[実施例3]
(コレステリック液晶層の形成)
コレステリック液晶層を形成する組成物として、下記の組成物A-6を調製した。
この組成物A-6は、選択反射中心波長が630nmで、右円偏光を反射するコレステリック液晶層(コレステリック液晶相)を形成する、組成物である。
組成物A-6
――――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
光増感剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
赤外線吸収色素IR-1 5.00質量部
キラル剤Ch-1 4.69質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
クロロホルム 580.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0194】
赤外線吸収色素IR-1
【0195】
【0196】
組成物A-6を用いた以外は比較例3と同様にしてコレステリック液晶層を形成した。
【0197】
反射層の断面をSEM(Scanning Electron Microscope)で確認したところ、反射層のコレステリック液晶相は8ピッチであった。
反射コレステリック液晶層は、
図3に示すような周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡で確認した。なお、この反射コレステリック液晶層の液晶配向パターンにおいて、液晶化合物由来の光学軸が180°回転する1周期は、1.0μmであった。また、Δn
630が0.17であった。
【0198】
[円偏光板の作製]
後述する『光強度の測定』を行うために、下記のようにして、円偏光板を作製した。
比較例1と同様にして下塗り層を形成した支持体を用意した。
【0199】
(配向膜P-10の形成)
下塗り層を形成した支持体上に、下記の配向膜P-10形成用塗布液を#2.4のワイヤーバーで連続的に塗布した。この配向膜P-10形成用塗布液の塗膜が形成された支持体を80℃のホットプレート上で5分間乾燥し、配向膜P-10を形成した。
【0200】
<配向膜P-10形成用塗布液>
――――――――――――――――――――――――――――――――――
光配向用素材 重合体A2 4.35質量部
低分子化合物B2 0.80質量部
架橋剤C1 2.20質量部
化合物D1 0.48質量部
化合物D2 1.15質量部
酢酸ブチル 100.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0201】
<<重合体A2の合成>>
撹拌機、温度計、滴下漏斗および還流冷却管を備えた反応容器に、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン100質量部、メチルイソブチルケトン500質量部、および、トリエチルアミン10質量部を仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水100質量部を滴下漏斗より30分かけて滴下した後、還流下で混合しつつ、80℃で6時間反応させた。反応終了後、有機相を取り出し、0.2質量%硝酸アンモニウム水溶液により洗浄後の水が中性になるまで洗浄した後、減圧下で溶媒および水を留去することにより、エポキシ含有ポリオルガノシロキサンを粘調な透明液体として得た。
このエポキシ含有ポリオルガノシロキサンについて、1H-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)分析を行ったところ、化学シフト(δ)=3.2ppm付近にオキシラニル基に基づくピークが理論強度どおりに得られ、反応中にエポキシ基の副反応が起こっていないことが確認された。このエポキシ含有ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量Mwは2,200、エポキシ当量は186g/モルであった。
次に、100mLの三口フラスコに、上記で得たエポキシ含有ポリオルガノシロキサン10.1質量部、アクリル基含有カルボン酸(東亜合成社製、アロニックスM-5300、アクリル酸ω-カルボキシポリカプロラクトン(重合度n≒2))0.5質量部、酢酸ブチル20質量部、特開2015-26050号公報の合成例1の方法で得られた桂皮酸誘導体1.5質量部、および、テトラブチルアンモニウムブロミド0.3質量部を仕込み、90℃で12時間撹拌した。反応終了後、反応溶液と等量(質量)の酢酸ブチルで希釈し、3回水洗した。
この溶液を濃縮し、酢酸ブチルで希釈する操作を2回繰り返し、最終的に、光配向性基を有するポリオルガノシロキサン(下記重合体A2)を含む溶液を得た。この重合体A2の重量平均分子量Mwは9,000であった。また、1H-NMR分析の結果、重合体A2中のシンナメート基を有する成分は23.7質量%であった。
【0202】
-重合体A2-
【0203】
【0204】
-低分子化合物B2-
下記式で表される低分子化合物B2(日清オイリオ社、ノムコートTAB)を用いた。
【0205】
【0206】
-架橋剤C1-
下記式で表される架橋剤C1(ナガセケムテックス社製、デナコールEX411)を用いた。
【0207】
【0208】
-化合物D1-
下記式で表される化合物D1(川研ファインケミカル社製、アルミキレートA(W))を用いた。
【0209】
【0210】
-化合物D2-
下記式で表される化合物D2(東洋サイエンス社製、トリフェニルシラノール)を用いた。
【0211】
【0212】
(配向膜P-10の露光)
得られた配向膜P-10に偏光紫外線を照射(20mJ/cm2、超高圧水銀ランプ使用)することで、配向膜P-10の露光を行った。
【0213】
[光学異方性層(λ/4板)の作製]
光学異方性層は、後述する組成物C-1を配向膜P-10上に塗布することにより形成した。塗布した塗膜をホットプレート上で110℃に加熱し、その後、60℃に冷却した後、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を500mJ/cm2の照射量で塗膜に照射することにより、液晶化合物の配向を固定化して、光学異方性層を作製した。
得られた光学異方性層のΔn650×d(Re(650))は162.5nmであった。
【0214】
組成物C-1
――――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶化合物L-3 42.00質量部
液晶化合物L-4 42.00質量部
液晶化合物L-5 16.00質量部
重合開始剤PI-1 0.50質量部
レベリング剤G-1 0.20質量部
メチルエチルケトン 176.00質量部
シクロペンタノン 44.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0215】
-液晶化合物L-3-
【0216】
【0217】
-液晶化合物L-4-
【0218】
【0219】
-液晶化合物L-5-
【0220】
【0221】
-重合開始剤PI-1-
【0222】
【0223】
-レベリング剤G-1-
【0224】
【0225】
[円偏光板の作製]
光学異方性層(λ/4板)のトリアセチルセルロースフィルム側に、粘着剤を介して偏光板を貼り合わせて円偏光板Rを得た。
【0226】
[円偏光板の作製]
上記円偏光板の作製において、光学異方性層の膜厚を変更し、Δn450×d(Re(450))を112.5nm、Δn530×d(Re(530))を132.5nm、およびΔn635×d(Re(635))を158.8nmにした以外は、同様にして、円偏光板B、円偏光板Gおよび円偏光板R2を作製した。
【0227】
[光強度の測定]
図14に示す方法で、相対光強度を測定した。
作製した光学素子に正面(法線に対する角度0°の方向)から光を入射した際における、透過光の、入射光に対する相対光強度を測定した。
具体的には、赤色光(650nm)、緑色光(530nm)および青色光(450nm)に出力中心波長を持つレーザ光Lを、光源100から、作製した光学素子Sに垂直入射させた。透過光を100cmの距離に配置したスクリーンで捉えて、透過角度を算出した。透過角θで透過された透過光Ltの光強度を光検出器102で測定した。そして、透過光Ltの光強度と光Lの光強度との比をとり、透過光Ltの入射光(レーザ光L)に対する相対光強度値を求めた(透過光Lt/レーザ光L)。透過角θは、先に測定した透過角度とした。
なお、レーザ光を各波長に対応する円偏光板B、円偏光板Gおよび円偏光板Rに垂直入射させて、円偏光にした後、作製した光学素子に光を入射し、評価を行った。
【0228】
比較例1と実施例1において、作製した光学素子における透過光の、入射光に対する相対光強度を測定した結果を比較した。比較例1に対し、実施例1では透過光の相対光強度が強く、透過光量の改善がみられた。特に、赤色光(650nm)での透過光量の改善が大きかった。また、実施例1は比較例1に対し、透過光の相対光強度の波長差が小さく、波長依存性が改善された。
【0229】
比較例2と実施例2において、作製した光学素子における透過光の、入射光に対する相対光強度を測定した結果を比較した。比較例2に対し、実施例2は透過光の相対光強度が強く、透過光量の改善がみられた。特に、赤色光(650nm)での透過光量の改善が大きかった。また、実施例2は実施例1に対し、透過光の相対光強度の波長差が小さく、波長依存性が改善された。
【0230】
図15に示す方法で、相対光強度を測定した。
作製した光学素子に正面(法線に対する角度0°の方向)から光を入射した際における、反射光の、入射光に対する相対光強度を測定した。
具体的には、650nmおよび635nmに出力中心波長を持つレーザ光Lを、光源100から、作製した光学素子Sに垂直入射させた。反射光を100cmの距離に配置したスクリーンで捉えて、反射角度を算出した。反射角θで反射された反射光Lrの光強度を光検出器102で測定した。そして、反射光Lrの光強度と光Lの光強度との比をとり、反射光Lrの入射光(レーザ光L)に対する相対光強度値を求めた(反射光Lr/レーザ光L)。反射角θは、先に測定した反射角度とした。
なお、レーザ光の波長に対応する円偏光板に垂直入射させて、円偏光にした後、作製した光学素子に光を入射し、評価を行った。
【0231】
比較例3と実施例3において、作製した光学素子における反射光の、入射光に対する相対光強度を測定した結果を比較した。比較例3に対し、実施例3は反射光の相対光強度が強く、反射光量の改善がみられた。特に、650nmでの反射光量が改善され、反射光の相対強度の波長差が小さく、波長依存性が改善された。
【0232】
上記表に示されるように、所定の光学素子は、透過光または反射光の光強度の波長依存性を低減して、透過または反射できる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0233】
ARグラスの導光板に光を入射および出射させる回折素子等、光学装置において光を屈折させる各種の用途に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0234】
10,32 光学素子
12 第1光学異方性部材
20 支持体
24A 配向膜
26A 第1光学異方性層
30 液晶化合物
30A 光学軸
34 光学異方性層
40 ディスプレイ
42 導光板
60,80 露光装置
62,82 レーザ
65 λ/2板
64,84 光源
68 ビームスプリッター
70A,70B,90A,90B ミラー
72A,72B,96 λ/4板
86.94 偏光ビームスプリッター
92 レンズ
M レーザ光
MA,MB 光線
MP P偏光
MS S偏光
PO 直線偏光
PR 右円偏光
PL 左円偏光
Q1,Q2 絶対位相
E1,E2 等位相面
U 使用者