(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】鋼材識別装置、方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 19/06 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
G01N19/06
(21)【出願番号】P 2017198783
(22)【出願日】2017-10-12
【審査請求日】2020-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏
(72)【発明者】
【氏名】細坂 冬馬
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-032362(JP,A)
【文献】特開2016-099126(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107153063(CN,A)
【文献】特開2010-243189(JP,A)
【文献】特開2008-061892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/06
G01N 33/20-33/208
G01N 21/70
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部と、
前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部と、
前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を記憶する短直線マッチング処理部と、
前記マッチング結果から得られる、前記短直線の角度の分布に関する指標及び前記火花の線の太さの分布に関する指標の少なくとも一方に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部と、
を有し、
前記鋼材識別処理部は、炭素成分の含有量が既知である複数の鋼材の前記火花画像から取得された、前記短直線の角度の分布に関する指標及び前記火花の線の太さの分布に関する指標の少なくとも一方の指標に関する統計解析の結果と、推定対象の鋼材の前記火花画像から取得された、前記短直線の角度の分布に関する指標及び前記火花の線の太さの分布に関する指標の少なくとも一方とに基づいて、推定対象の鋼材の成分を識別し、
前記短直線の角度の分布に関する指標は、前記短直線の角度のばらつき、前記短直線の平行度、前記短直線の角度の分布の尖度、及び前記短直線の角度の分布の歪度の少なくとも1つであり、
前記火花の線の太さの分布に関する指標は、前記火花の線の太さのばらつきである、
鋼材識別装置。
【請求項2】
鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部と、
前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部と、
前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を記憶する短直線マッチング処理部と、
前記マッチング結果から得られる、前記短直線の角度の分布に関する指
標に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部と、
を有し、
前記鋼材識別処理部は、前記マッチング結果から得られる前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度のばらつき、前記短直線の平行度、前記短直線の角度の分布の尖度、及び前記短直線の角度の分布の歪度の少なくとも1つと、炭素成分の含有量が既知である鋼材から予め設定された閾値であって、かつ前記短直線の角度の分布に関する指標の閾値とに基づいて、鋼材の成分を識別する、
鋼材識別装置。
【請求項3】
鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部と、
前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部と、
前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を記憶する短直線マッチング処理部と、
前記マッチング結果から得られる
、前記火花の線の太さの分布に関する指
標に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部と、
を有し、
前記鋼材識別処理部は、前記マッチング結果から得られる前記火花の線の太さの分布に関する指標としての前記火花の線の太さのばらつきと、炭素成分の含有量が既知である鋼材から予め設定された閾値であって、かつ前記火花の線の太さの分布に関する指標としての前記火花の線の太さのばらつきの閾値とに基づいて、鋼材の成分を識別する、
鋼材識別装置。
【請求項4】
鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部と、
前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部と、
前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を記憶する短直線マッチング処理部と、
前記マッチング結果から得られる、前記短直線の角度の分布に関する指標及び前記火花の線の太さの分布に関する指標の少なくとも一方に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部と、
を有し、
前記鋼材識別処理部は、前記マッチング結果から得られる前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度のばらつき、前記短直線の平行度、前記短直線の角度の分布の尖度、及び前記短直線の角度の分布の歪度、並びに、前記マッチング結果から得られる前記火花の線の太さの分布に関する指標としての、前記火花の線の太さの平均、及び前記火花の線の太さのばらつきの少なくとも1つと、炭素成分の含有量が既知である鋼材から予め設定された閾値であって、かつ鋼材が、炭素成分の含有量が予め定められた基準値未満である低炭素の鋼材及び炭素成分の含有量が前記基準値以上である高炭素の鋼材の何れであるかを識別するための閾値に基づいて、前記鋼材が、前記低炭素の鋼材及び前記高炭素の鋼材の何れであるかを識別し、
前記鋼材が、前記低炭素の鋼材である場合には、前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度のばらつき、前記短直線の平行度、及び前記火花の線の太さの分布に関する指標としての前記火花の線の太さのばらつきの少なくとも1つに基づいて、前記低炭素の鋼材の成分を識別し、
前記鋼材が、前記高炭素の鋼材である場合には、前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度の分布の尖度、及び前記短直線の角度の分布の歪度、及び前記火花の線の太さの分布に関する指標としての前記火花の線の太さの平均の少なくとも1つに基づいて、前記高炭素の鋼材の成分を識別する、
鋼材識別装置。
【請求項5】
鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部と、
前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部と、
前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を記憶する短直線マッチング処理部と、
前記マッチング結果から得られる、前記短直線の角度の分布に関する指標及び前記火花の線の太さの分布に関する指標の少なくとも一方に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部と、
を有し、
前記鋼材識別処理部は、前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度のばらつき、前記短直線の平行度、及び前記火花の線の太さの分布に関する指標としての前記火花の線の太さのばらつきの少なくとも1つに基づいて、炭素成分の含有量が予め定められた基準値未満である低炭素の鋼材の成分を識別する、
鋼材識別装置。
【請求項6】
鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部と、
前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部と、
前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を記憶する短直線マッチング処理部と、
前記マッチング結果から得られる、前記短直線の角度の分布に関する指
標に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部と、
を有し、
前記鋼材識別処理部は、前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度の分布の尖度及び前記短直線の角度の分布の歪度の少なくとも1つに基づいて、炭素成分の含有量が予め定められた基準値以上である高炭素の鋼材の成分を識別する、
鋼材識別装置。
【請求項7】
コンピュータを、
鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部、
前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部、
前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を記憶する短直線マッチング処理部、及び
前記マッチング結果から得られる、前記短直線の角度の分布に関する指標及び前記火花の線の太さの分布に関する指標の少なくとも一方に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部として機能させるためのプログラム
であって、
前記鋼材識別処理部は、炭素成分の含有量が既知である複数の鋼材の前記火花画像から取得された、前記短直線の角度の分布に関する指標及び前記火花の線の太さの分布に関する指標の少なくとも一方の指標に関する統計解析の結果と、推定対象の鋼材の前記火花画像から取得された、前記短直線の角度の分布に関する指標及び前記火花の線の太さの分布に関する指標の少なくとも一方とに基づいて、推定対象の鋼材の成分を識別し、
前記短直線の角度の分布に関する指標は、前記短直線の角度のばらつき、前記短直線の平行度、前記短直線の角度の分布の尖度、及び前記短直線の角度の分布の歪度の少なくとも1つであり、
前記火花の線の太さの分布に関する指標は、前記火花の線の太さのばらつきである、
プログラム。
【請求項8】
コンピュータを、
鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部、
前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部、
前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を記憶する短直線マッチング処理部、及び
前記マッチング結果から得られる、前記短直線の角度の分布に関する指
標に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部として機能させるためのプログラム
であって、
前記鋼材識別処理部は、前記マッチング結果から得られる前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度のばらつき、前記短直線の平行度、前記短直線の角度の分布の尖度、及び前記短直線の角度の分布の歪度の少なくとも1つと、炭素成分の含有量が既知である鋼材から予め設定された閾値であって、かつ前記短直線の角度の分布に関する指標の閾値とに基づいて、鋼材の成分を識別する、
プログラム。
【請求項9】
コンピュータを、
鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部、
前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部、
前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を記憶する短直線マッチング処理部、及び
前記マッチング結果から得られる
、前記火花の線の太さの分布に関する指
標に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部として機能させるためのプログラム
であって、
前記鋼材識別処理部は、前記マッチング結果から得られる前記火花の線の太さの分布に関する指標としての前記火花の線の太さのばらつきと、炭素成分の含有量が既知である鋼材から予め設定された閾値であって、かつ前記火花の線の太さの分布に関する指標としての前記火花の線の太さのばらつきの閾値とに基づいて、鋼材の成分を識別する、
プログラム。
【請求項10】
コンピュータを、
鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部、
前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部、
前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を記憶する短直線マッチング処理部、及び
前記マッチング結果から得られる、前記短直線の角度の分布に関する指標及び前記火花の線の太さの分布に関する指標の少なくとも一方に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部として機能させるためのプログラム
であって、
前記鋼材識別処理部は、前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度のばらつき、前記短直線の平行度、及び前記火花の線の太さの分布に関する指標としての前記火花の線の太さのばらつきの少なくとも1つに基づいて、炭素成分の含有量が予め定められた基準値未満である低炭素の鋼材の成分を識別する、
プログラム。
【請求項11】
コンピュータを、
鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部、
前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部、
前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を記憶する短直線マッチング処理部、及び
前記マッチング結果から得られる、前記短直線の角度の分布に関する指
標に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部として機能させるためのプログラム
であって、
前記鋼材識別処理部は、前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度の分布の尖度及び前記短直線の角度の分布の歪度の少なくとも1つに基づいて、炭素成分の含有量が予め定められた基準値以上である高炭素の鋼材の成分を識別する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材識別装置、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼の火花試験により生じる火花を画像処理して鋼材の成分を識別する鋼材識別装置が知られている(例えば、特許文献1又は特許文献2を参照)。この鋼材識別装置は、鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像の所定幅の芯線に対し、複数の角度に相当する複数のテンプレートを各々マッチングする。そして、鋼材識別装置は、テンプレートが任意の火花画像の範囲において所定の数以上である場合に火花の破裂部とみなして破裂部を抽出する。そして、鋼材識別装置は、火花の破裂数及び火花画像内のマッチングされたテンプレートの総数に基づいて鋼材を識別する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012‐247206号公報
【文献】特開2016‐099126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鋼材の成分を識別する際には、なるべく簡易な処理を用いて、かつ鋼材の成分を精度よく識別することが好ましい。
【0005】
しかし、上記特許文献1~2に記載の技術では、火花画像に映る火花の破裂部を特定する必要があるため、鋼材の成分の識別の精度が火花の破裂部の抽出精度に依存してしまう。このため、火花の破裂部の抽出精度が低い場合には、鋼材の成分を精度よく識別することができない。
【0006】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたもので、鋼材を研削したときに発生する火花の画像における火花の破裂部を特定することなく、鋼材の成分を精度よく識別することができる鋼材識別装置、方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために本発明に係る鋼材識別装置は、鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部と、前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部と、前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を記憶する短直線マッチング処理部と、前記マッチング結果から得られる、前記短直線の角度の分布に関する指標及び前記火花の線の太さの分布に関する指標の少なくとも一方に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部と、を含んで構成されている。
【0008】
また、前記鋼材識別処理部は、前記マッチング結果から得られる、前記短直線の角度の分布に関する指標及び前記火花の線の太さの分布に関する指標の少なくとも一方と、炭素成分の含有量が既知である鋼材から予め設定された閾値とに基づいて、鋼材の成分を識別することができる。
【0009】
また、前記鋼材識別処理部は、炭素成分の含有量が既知である複数の鋼材の前記火花画像から取得された、前記短直線の角度の分布に関する指標及び前記火花の線の太さの分布に関する指標の少なくとも一方の指標に関する統計解析の結果と、推定対象の鋼材の前記火花画像から取得された、前記短直線の角度の分布に関する指標及び前記火花の線の太さの分布に関する指標の少なくとも一方とに基づいて、推定対象の鋼材の成分を識別することができる。
【0010】
前記鋼材識別処理部は、前記マッチング結果から得られる前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度のばらつき、前記短直線の平行度、前記短直線の角度の分布の尖度、及び前記短直線の角度の分布の歪度、並びに、前記マッチング結果から得られる前記火花の線の太さの分布に関する指標としての、前記火花の線の太さの平均、及び前記火花の線の太さのばらつきの少なくとも1つと、炭素成分の含有量が既知である鋼材から予め設定された閾値に基づいて、鋼材の成分を識別することができる。
【0011】
また、前記鋼材識別処理部は、前記マッチング結果から得られる前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度のばらつき、前記短直線の平行度、前記短直線の角度の分布の尖度、及び前記短直線の角度の分布の歪度の少なくとも1つと、炭素成分の含有量が既知である鋼材から予め設定された閾値であって、かつ前記短直線の角度の分布に関する指標の閾値とに基づいて、鋼材の成分を識別することができる。
【0012】
また、前記鋼材識別処理部は、前記マッチング結果から得られる前記火花の線の太さの分布に関する指標としての、前記火花の線の太さの平均、及び前記火花の線の太さのばらつきの少なくとも一方と、炭素成分の含有量が既知である鋼材から予め設定された閾値であって、かつ前記火花の線の太さの分布に関する指標の閾値に基づいて、鋼材の成分を識別することができる。
【0013】
また、前記鋼材識別処理部は、前記マッチング結果から得られる前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度のばらつき、前記短直線の平行度、前記短直線の角度の分布の尖度、及び前記短直線の角度の分布の歪度、並びに、前記マッチング結果から得られる前記火花の線の太さの分布に関する指標としての、前記火花の線の太さの平均、及び前記火花の線の太さのばらつきの少なくとも1つと、炭素成分の含有量が既知である鋼材から予め設定された閾値であって、かつ鋼材が、炭素成分の含有量が予め定められた基準値未満である低炭素の鋼材及び炭素成分の含有量が前記基準値以上である高炭素の鋼材の何れであるかを識別するための閾値に基づいて、前記鋼材が、前記低炭素の鋼材及び前記高炭素の鋼材の何れであるかを識別し、前記鋼材が、前記低炭素の鋼材である場合には、前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度のばらつき、前記短直線の平行度、及び前記火花の線の太さの分布に関する指標としての前記火花の線の太さのばらつきの少なくとも1つに基づいて、前記低炭素の鋼材の成分を識別し、前記鋼材が、前記高炭素の鋼材である場合には、前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度の分布の尖度、及び前記短直線の角度の分布の歪度、及び前記火花の線の太さの分布に関する指標としての前記火花の線の太さの平均の少なくとも1つに基づいて、前記高炭素の鋼材の成分を識別することができる。
【0014】
また、前記鋼材識別処理部は、前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度のばらつき、前記短直線の平行度、及び前記火花の線の太さの分布に関する指標としての前記火花の線の太さのばらつきの少なくとも1つに基づいて、炭素成分の含有量が予め定められた基準値未満である低炭素の鋼材の成分を識別することができる。
【0015】
また、前記鋼材識別処理部は、前記短直線の角度の分布に関する指標としての、前記短直線の角度の分布の尖度、及び前記短直線の角度の分布の歪度、及び前記火花の線の太さの分布に関する指標としての前記火花の線の太さの平均の少なくとも1つに基づいて、炭素成分の含有量が予め定められた基準値以上である高炭素の鋼材の成分を識別することができる。
【0016】
本発明の鋼材識別方法は、鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換し、前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行い、前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を記憶し、前記マッチング結果から得られる、前記短直線の角度の分布に関する指標及び前記火花の線の太さの分布に関する指標の少なくとも一方に基づいて、鋼材の成分を識別する、処理をコンピュータに実行させる鋼材識別方法である。
【0017】
本発明のプログラムは、コンピュータを、鋼材を研削したときに発生する火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する輝度変換処理部、前記グレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う二値化処理部、前記二値化された火花画像に映る火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングし、マッチング結果を記憶する短直線マッチング処理部、及び前記マッチング結果から得られる、前記短直線の角度の分布に関する指標及び前記火花の線の太さの分布に関する指標の少なくとも一方に基づいて、鋼材の成分を識別する鋼材識別処理部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の鋼材識別装置、方法、及びプログラムによれば、鋼材を研削したときに発生する火花の画像における火花の破裂部を特定することなく、鋼材の成分を精度よく識別することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態の鋼材識別システムの概略構成の一例を示す図である。
【
図2】本発明の鋼材識別装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【
図3】短直線マッチングを説明するための説明図である。
【
図4】短直線マッチングを説明するための説明図である。
【
図5】短直線マッチングを説明するための説明図である。
【
図6】短直線マッチングを説明するための説明図である。
【
図7】短直線マッチングを説明するための説明図である。
【
図8】短直線マッチングを説明するための説明図である。
【
図9】火花画像から得られる各指標を説明するための説明図である。
【
図10】火花画像から得られる各指標を説明するための説明図である。
【
図11】本発明の実施形態に係る鋼材成分識別処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【
図12】本発明の実施形態に係る短直線マッチング処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【
図13】本発明の実施形態に係る鋼材識別処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
<第1の実施の形態>
図1は、本実施形態の鋼材識別システムの構成を示すブロック図である。鋼材識別システム10は、カメラ12と、鋼材識別装置14と、入力装置27と、出力装置32とを含む。
【0022】
本実施形態の鋼材識別システム10のカメラ12は、検査対象の鋼材AとグラインダBとが接触して発生した火花Cを撮像する。鋼材識別システム10の鋼材識別装置14は、カメラ12によって撮像された火花Cの画像に基づいて、鋼材Aの成分を識別する。本実施形態では、火花Cの画像全体から鋼材Aの成分を識別するため、破裂部Dを特定することなく、鋼材Aの成分を識別することができる。以下、具体的に説明する。
【0023】
カメラ12は、鋼材を研削したときに発生する火花の画像を逐次撮像する。
【0024】
鋼材識別装置14は、カメラ12によって撮像された火花の画像に基づいて、鋼材の成分を識別する。鋼材識別装置14は、
図1に示されるように、CPU16、後述する各処理ルーチンを実現するためのプログラムを記憶したROM17、データを一時的に記憶するRAM18、及びHDD等の記憶装置(図示省略)を含むコンピュータによって構成されている。この鋼材識別装置14を機能ブロックで表すと、
図2に示されるように、輝度変換処理部20と、二値化処理部22と、短直線マッチング処理部24と、マッチング結果記憶部26と、データ記憶部28と、鋼材識別処理部30とを含んだ構成で表すことができる。
【0025】
輝度変換処理部20は、カメラ12によって撮像された火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する。例えば、輝度変換処理部20は、火花の画像中の各画素のRGB値を、所定の変換式である、Y=R×0.299+G×0.587+B×0.114によってグレースケール値Yへ変換する。
【0026】
二値化処理部22は、輝度変換処理部20によって得られたグレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行い、火花を表す画素を黒画素とし、火花を表していない画素を白画素とする。二値化手法としては、例えば、抽出対象が火花のような線状の場合に適している十字二値化を用いることができる(例えば、上記特許文献1及び上記特許文献2を参照)。
【0027】
短直線マッチング処理部24は、二値化処理部22によって二値化された火花画像の火花の線に対し、複数の角度に相当する短直線を表す複数のテンプレートを各々マッチングする(例えば、特開2008-61892号公報を参照)。そして、短直線マッチング処理部24は、当該マッチングされたテンプレートの種類を、マッチング結果としてマッチング結果記憶部26へ記憶する。短直線マッチングについて、以下具体的に説明する。
【0028】
【0029】
短直線マッチングでは、まず、二値化処理部22によって二値化された火花画像に対してスキャンを行うことにより黒画素を探索する。そして、探索された黒画素をマッチング開始画素として設定する。
【0030】
次に、
図3に示されるように、所定の短直線(例えば、幅t=1画素、基本長さL=20画素)の一端をマッチング開始画素上に設定する。そして、マッチング開始画素を軸にして、所定の短直線を所定角度Δθ(例えば5度)ずつ回転させて、短直線毎に、当該短直線上に位置する60%以上の画素が黒画素になるか否かを判定する。当該短直線上に位置する60%以上の画素が黒画素になる場合には、当該短直線がマッチングされたと判断し、当該短直線上に位置する60%未満の画素が黒画素になる場合には、当該短直線がマッチングされなかったと判断する。なお、本実施形態では、「60」%の数値を用いるが、これに限定されるものではない。
【0031】
次に、マッチング開始画素の位置における火花の線E(黒画素部分)の太さを計算する。具体的には、マッチング開始画素を中心に短直線を5°ずつ回転させ、
図4に示すように、各角度における中心から縁までの長さ(連続した黒画素数)t(θ)を測定する。そして、t(θ)とt(θ+180)の和をT(θ)とし、
図5に示すように、T(θ)の最小値Tminをマッチング開始画素における皮溝太さT[pixel]とする。
【0032】
次に、
図6に示すように、計算された火花の線Eの太さに応じて所定の短直線の長さを延長する。例えば、火花の線Eが太いほど、短直線の延長率が高くなる。そして、延長直線上に位置する60%以上の画素が黒画素であり、かつ、所定の短直線の延長方向と反対側の画素(マッチング開始点と異なる端部の画素)がマッチング未処理の画素であるか否かを判定する。そして、短直線の延長方向と反対側の画素がマッチング未処理の画素である場合は、延長された短直線を黒画素部分にマッチングさせて、マッチングされた短直線の終点の画素を新たなマッチング開始画素に設定する。
【0033】
そして、マッチング開始画素が探索終点(例えば二値化された表皮画像を左上からスキャンした場合では右下の画素)に達するまで、マッチングを繰り返す。短直線マッチングの結果、例えば
図7に示すように、9本の短直線が連結される。
【0034】
この場合、
図8に示されるように、短直線マッチングが行われたときの各マッチング開始画素(T
1~T
5)における太さが、マッチング結果としてマッチング結果記憶部26へ格納される。また、短直線マッチングが行われたときの各短直線の角度が、マッチング結果としてマッチング結果記憶部26へ格納される。
【0035】
ここで、短直線マッチングにより得られた結果と鋼材の成分との関係について説明する。本実施形態では、鋼材に含まれる炭素量を識別する場合を例に説明する。なお、本実施形態では、低炭素の鋼材とは、炭素成分の含有量が予め定められた基準値未満である鋼材をいう。また、高炭素の鋼材とは、炭素成分の含有量が予め定められた基準値以上である鋼材をいう。
【0036】
図9及び
図10に、短直線マッチングにより得られた各指標と鋼材の成分との関係を説明するための説明図を示す。
図9及び
図10に示される例では、鋼材の成分に対応する鋼材の種類として、S10C、S15C、S20C、S25C、S35C、S45C、S50C、及びS58Cが示されている。鋼材の種類を示す記号中の数字は、鋼材に含まれる炭素量を表している。例えば、S35Cは炭素含有量区分「35」であり、炭素の含有量が0.35%前後であることを示している。そのため、炭素の含有量に関する予め定められた基準値を、炭素の含有量「0.3%」とすれば、S10C、S15C、S20C、及びS25Cが低炭素の鋼材に該当し、S35C、S45C、S50C、及びS58Cが高炭素の鋼材に該当する。
【0037】
図9に示されるように、(A)短直線の角度のばらつきを表す分散と、(B)短直線の平行度と、(C)火花の線の太さのばらつきを表す分散とについては、低炭素の鋼材(例えば、S10C、S15C、S20C、S25C、及びS35C)で異なる値となっている。
【0038】
例えば、
図9(A)短直線の角度の分散のグラフのL1に示されるように、S10C、S15C、S20C、S25C、及びS35Cで短直線の角度の分散は大きく異なる。そのため、閾値を適切に設定することで、S10C、S15C、S20C、S25C、及びS35Cを識別可能と考えられる。
図9(B)短直線の平行度のグラフのL2及び
図9(C)火花の線の太さの分散のグラフのL3についても同様に、閾値を適切に設定することで、S10C、S15C、S20C、S25C、及びS35Cを識別可能と考えられる。
【0039】
そのため、(A)短直線の角度のばらつき、(B)短直線の平行度、及び(C)火花の線の太さのばらつきについては、低炭素の鋼材の種類を識別する際の指標として適していると考えられる。
【0040】
また、
図10に示されるように、(D)短直線の角度の分布の尖度と、(E)短直線の角度の分布の歪度と、(F)火花の線の太さの平均とについては、高炭素の鋼材(例えば、S35C、S45C、S50C、及びS58C)で異なる値となっている。
【0041】
例えば、
図10(D)短直線の角度の分布の尖度のグラフのH1に示されるように、S35C、S45C、S50C、及びS58Cで短直線の角度の分布の尖度は大きく異なる。そのため、閾値を適切に設定することで、S35C、S45C、S50C、及びS58Cを識別可能と考えられる。
図10(E)短直線の角度の分布の歪度のグラフのH2及び
図10(F)火花の線の太さの平均のグラフのH3についても同様に、閾値を適切に設定することで、S35C、S45C、S50C、及びS58Cを識別可能と考えられる。
【0042】
そのため、(D)短直線の角度の分布の尖度、(E)短直線の角度の分布の歪度、及び(F)火花の線の太さの平均については、高炭素の鋼材の種類を識別する際の指標として適していると考えられる。
【0043】
このため、本実施形態では、短直線の角度の分布に関する各指標及び火花の線の太さの分布に関する各指標と、予め設定された閾値とに応じて、鋼材の種類を識別する。閾値については、実験の結果から、鋼材の種類毎及び指標毎に予め設定される。なお、火花画像が撮像されたときの環境条件に応じて、鋼材を識別するための閾値は変化する場合が多い。そのため、識別対象の鋼材の火花画像の撮像現場において、火花画像を撮像し、その場で閾値を設定することが好ましい。
【0044】
入力装置27は、鋼材の種類毎及び指標毎に予め設定された閾値を受け付ける。閾値は、炭素成分の含有量が既知である鋼材から予め設定される。入力装置27は、例えば、キーボードやマウス等であり、例えば、ユーザの操作により入力された閾値を受け付ける。
【0045】
データ記憶部28には、鋼材の種類毎及び指標毎に予め設定された閾値が予め格納される。予め設定された閾値は、本発明の火花の線の太さの分布に関する指標の閾値及び本発明の短直線の角度の分布に関する指標の閾値の一例である。
【0046】
鋼材識別処理部30は、マッチング結果記憶部26に記憶されたマッチング結果に基づいて、短直線の角度の分布に関する指標及び火花の線の太さの分布に関する指標を算出する。
【0047】
短直線の角度の分布に関する指標としては、(A)短直線の角度のばらつきと、(B)短直線の平行度と、(D)短直線の角度の分布の尖度と、(E)短直線の角度の分布の歪度とが算出される。また、火花の線の太さの分布に関する指標としては、(C)火花の線の太さのばらつきと、(F)火花の線の太さの平均とが算出される。
【0048】
(A)短直線の角度のばらつきを表す分散σθ
2は、以下の式(1)によって表される。
【0049】
【0050】
n[θ]は角度θの短直線数を表し、n-
θはn[θ]の平均値を表し、Nは短直線の角度の分布を表すヒストグラムの階級数を表す。
【0051】
(B)短直線の平行度Cvθは、以下の式(2)によって表される。
【0052】
【0053】
σθは、短直線の角度の分布の標準偏差を表す。
【0054】
(D)短直線の角度の分布の尖度xθは、以下の式(3)によって表される。
【0055】
【0056】
(E)短直線の角度の分布の歪度yθは、以下の式(4)によって表される。
【0057】
【0058】
(C)火花の線の太さのばらつきを表す分散σT
2は、以下の式(5)によって表される。
【0059】
【0060】
n[T]は太さTの短直線数を表し、n-
θはn[T]の平均値を表し、Nは短直線の角度の分布を表すヒストグラムの階級数を表す。
【0061】
(F)火花の線の太さの平均TLは、以下の式(6)によって表される。
【0062】
【0063】
Sはマッチング開始点の総数を表し、Tiは各マッチング開始点iにおける火花の線の太さを表す。
【0064】
鋼材識別処理部30は、短直線の角度の分布の分散σθ
2と、短直線の平行度Cvθと、短直線の角度の分布の尖度xθと、短直線の角度の分布の歪度yθと、火花の線の太さのばらつきσT
2と、火花の線の太さの平均TLと、データ記憶部28に格納された各閾値とに基づいて、鋼材の成分を識別する。
【0065】
例えば、実験の結果から、短直線の角度の分布の分散の閾値として、鋼材S10Cの閾値TH1~TH2が設定され、鋼材S15Cの閾値TH3~TH4が設定され、鋼材S20Cの閾値TH5~TH6が設定され、鋼材S25Cの閾値TH7~TH8が設定されたとする。また、短直線の角度の分布の分散の閾値として、鋼材S35Cの閾値TH9~TH10が設定され、鋼材S45Cの閾値TH11~TH12が設定され、鋼材S50Cの閾値TH13~TH14が設定され、鋼材S58Cの閾値TH15~TH16が設定されたとする。
【0066】
この場合、鋼材識別処理部30は、識別対象の鋼材の火花画像から得られた短直線の角度の分布の分散σθ
2の値が、閾値TH1と閾値TH2との間の値である場合、識別対象の鋼材は、鋼材S10Cであると識別する。そして、鋼材識別処理部30は、識別結果を出力する。
【0067】
出力装置32は、鋼材識別処理部30によって得られた識別結果を出力する。出力装置32は、例えば、ディスプレイ等によって実現される。出力装置32がディスプレイによって実現される場合には、鋼材の識別結果がディスプレイに表示される。
【0068】
<鋼材識別システム10の作用>
【0069】
次に、本実施形態の鋼材識別システム10の作用について説明する。鋼材識別システム10が起動し、カメラ12によって識別対象の鋼材の火花の画像が撮像され始めると、鋼材識別装置14は、
図11に示す鋼材成分識別処理ルーチンを実行する。
【0070】
ステップS100において、輝度変換処理部20は、カメラ12によって撮像された火花の画像を読み込む。
【0071】
ステップS102において、輝度変換処理部20は、上記ステップS100で読み込まれた火花の画像をグレースケールの火花画像に変換する。
【0072】
ステップS104において、二値化処理部22は、上記ステップS102で得られたグレースケールの火花画像の画素毎に所定の閾値で二値化を行う。
【0073】
ステップS106において、短直線マッチング処理部24は、上記ステップS104で二値化された火花画像の火花の線に対し、短直線マッチングを行う。ステップS106は、
図12に示す短直線マッチング処理ルーチンによって実現される。
【0074】
<短直線マッチング処理ルーチン>
【0075】
ステップS150において、短直線マッチング処理部24は、二値化された火花画像の例えば左上からスキャンを開始して新たな黒画素を探索し、探索した黒画素をマッチング開始画素として設定する。
【0076】
ステップS152において、短直線マッチング処理部24は、所定の短直線の一端を上記ステップS150で設定されたマッチング開始画素上に設定する。そして、短直線マッチング処理部24は、上記ステップS150で設定されたマッチング開始画素を軸にして、所定の短直線を所定角度Δθずつ回転させて、短直線の60%以上の画素が黒画素になるか否かを判定し、肯定判定のときはステップS158へ進み、否定判定のときはステップS150へ戻る。
【0077】
ステップS153において、短直線マッチング処理部24は、上記ステップS152で短直線の60%以上の画素が黒画素になると判定された短直線の角度θを、マッチング結果記憶部26へ記憶する。
【0078】
ステップS154において、短直線マッチング処理部24は、マッチング開始画素の位置における火花の線(黒画素部分)の太さを計算して、マッチング結果記憶部26へ記憶する。
【0079】
ステップS156において、短直線マッチング処理部24は、上記ステップS154で計算された火花の線の太さに応じて所定の短直線の長さを延長する。そして、短直線マッチング処理部24は、延長直線の60%以上の画素が黒画素であり、かつ、所定の短直線の反対側の画素がマッチング未処理の画素であるか否かを判定し、肯定判定のときはステップS158に進み、否定判定のときはステップS150に戻る。
【0080】
ステップS158において、短直線マッチング処理部24は、延長された短直線を黒画素部分にマッチングさせる。
【0081】
ステップS160において、短直線マッチング処理部24は、マッチングされた短直線の終点の画素を新たなマッチング開始画素に設定する。
【0082】
ステップS162において、短直線マッチング処理部24は、新たなマッチング開始画素を基準にして更にマッチング処理可能であるかを判定し、肯定判定のときはステップS153へ戻り、否定判定のときはステップS164へ進む。
【0083】
ステップS164において、短直線マッチング処理部24は、マッチング開始画素が探索終点(例えば二値化された表皮画像を左上からスキャンした場合では右下の画素)に達したかを判定し、肯定判定のときは本ルーチンを終了し、否定判定のときはステップS150に戻る。
【0084】
次に、鋼材成分識別処理ルーチンのステップS108に戻り、ステップS106で得られた短直線マッチング結果に基づいて、鋼材の成分を識別する。ステップS108は、
図13に示す鋼材識別処理ルーチンによって実現される。
【0085】
<鋼材識別処理ルーチン>
【0086】
ステップS200において、鋼材識別処理部30は、マッチング結果記憶部26に記憶されたマッチングの結果に基づいて、(A)短直線の角度のばらつきと、(B)短直線の平行度と、(C)火花の線の太さのばらつきとを算出する。
【0087】
ステップS202において、鋼材識別処理部30は、マッチング結果記憶部26に記憶されたマッチングの結果に基づいて、(D)短直線の角度の分布の尖度と、(E)短直線の角度の分布の歪度と、(F)火花の線の太さの平均とを算出する。
【0088】
ステップS204において、鋼材識別処理部30は、データ記憶部28に格納された各閾値を読み込む。
【0089】
ステップS206において、鋼材識別処理部30は、上記ステップS200で算出された(A)短直線の角度のばらつきと、(B)短直線の平行度と、(C)火花の線の太さのばらつきと、上記ステップS202で算出された(D)短直線の角度の分布の尖度と、(E)短直線の角度の分布の歪度と、(F)火花の線の太さの平均と、上記ステップS204で読み込まれた各閾値とに基づいて、鋼材の成分を識別する。
【0090】
次に、鋼材成分識別処理ルーチンのステップS110に戻り、ステップS108で得られた鋼材の識別結果を出力して、鋼材成分識別処理ルーチンを終了する。
【0091】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る鋼材識別装置によれば、短直線の角度の分布に関する指標としての、短直線の平行度、短直線の角度のばらつき、短直線の角度の分布の尖度、及び短直線の角度の分布の歪度と、短直線の角度の分布に関する指標の閾値とに基づいて、鋼材の成分を識別する。また、第1の実施の形態に係る鋼材識別装置によれば、火花の線の太さの分布に関する指標としての、火花の線の太さの平均、及び火花の線の太さのばらつきと、火花の線の太さの分布に関する指標の閾値に基づいて、鋼材を識別する。これにより、火花画像に映る火花の破裂部を特定することなく、鋼材の成分を精度よく識別することができる。
【0092】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。なお、第2の実施の形態に係る鋼材識別システムの構成は、第1の実施の形態と同様の構成となるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0093】
第2の実施形態では、識別対象の鋼材が、低炭素の鋼材及び高炭素の鋼材の何れであるかを識別した後に、鋼材の詳細な種類を識別する点が、第1の実施の形態と異なる。
【0094】
上記
図9及び上記
図10に示されるように、低炭素の鋼材(例えば、S10C、S15C、S20C、及びS25C)と高炭素の鋼材(例えば、S35C、S45C、S50C、及びS58C)とでは、各指標の値の傾向が異なる。
【0095】
そのため、第2の実施形態では、識別対象の鋼材が、炭素成分の含有量が既知である鋼材から予め設定された閾値であって、かつ低炭素の鋼材及び高炭素の鋼材の何れであるのかを識別するための閾値を予め設定する。そして、鋼材識別処理部30は、各指標と閾値とに基づいて、識別対象の鋼材が、低炭素の鋼材及び高炭素の鋼材の何れであるのかを識別する。
【0096】
なお、例えば、上記
図9に示されるように、(A)短直線の角度のばらつきは、低炭素の鋼材(例えば、S10C、S15C、S20C、及びS25C)と高炭素の鋼材(例えば、S35C、S45C、S50C、及びS58C)とで大きく異なる値となっている。
【0097】
そのため、例えば、低炭素の鋼材及び高炭素の鋼材の何れであるのかを識別するための指標として(A)短直線の角度のばらつきを設定し、(A)短直線の角度のばらつきと閾値とに基づいて、識別対象の鋼材が、低炭素の鋼材及び高炭素の鋼材の何れであるのかを識別するようにすることができる。なお、(A)~(F)の複数の指標の組み合わせに応じて、低炭素の鋼材及び高炭素の鋼材の何れであるのかを識別するようにしてもよい。
【0098】
そして、鋼材識別処理部30は、識別対象の鋼材が低炭素の鋼材及び高炭素の鋼材の何れであるかを識別した後に、鋼材の詳細な種類を識別する。
【0099】
具体的には、鋼材識別処理部30は、識別対象の鋼材が低炭素の鋼材であると識別された場合には、短直線の平行度、短直線の角度のばらつき、及び火花の線の太さのばらつきの少なくとも1つに基づいて、低炭素の鋼材の種類を識別する。
【0100】
また、鋼材識別処理部30は、識別対象の鋼材が高炭素の鋼材であると識別された場合には、短直線の角度の分布の尖度、及び短直線の角度の分布の歪度、及び火花の線の太さの平均の少なくとも1つに基づいて、高炭素の鋼材の種類を識別する。
【0101】
なお、第2の実施の形態に係る鋼材識別システムの他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0102】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る鋼材識別装置によれば、識別対象の鋼材が、炭素含有量の低い低炭素の鋼材及び炭素の含有量が高い高炭素の鋼材の何れであるかを識別した後に、鋼材の詳細な種類を識別する。これにより、二段階の処理によって鋼材の種類を精度よく識別することができる。
【0103】
<第3の実施の形態>
【0104】
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第3の実施の形態に係る鋼材識別システムの構成は、第1の実施の形態と同様の構成となるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0105】
第3の実施の形態では、統計解析(又は多変量解析)の一例である主成分分析を用いて各指標の特徴を解析し、主成分分析の結果得られる主成分ベクトルと各指標とに基づいて鋼材の種類を識別する点が、第1又は第2の実施の形態と異なる。
【0106】
第3の実施の形態では、炭素成分の含有量が既知である複数の鋼材の火花画像を予め取得しておく。そして、複数の火花画像から取得された、短直線の角度のばらつき、短直線の平行度、短直線の角度の分布の尖度、及び短直線の角度の分布の歪度と火花の線の太さの平均及び火花の線の太さのばらつきとに対して予め主成分分析を行う。
【0107】
そして、主成分分析の結果得られた主成分ベクトルと、推定対象の火花画像から取得された、短直線の平行度、短直線の角度のばらつき、短直線の角度の分布の尖度、短直線の角度の分布の歪度、火花の線の太さの平均、及び火花の線の太さのばらつきとに基づいて、鋼材を識別する。
【0108】
具体的には、第3の実施の形態のデータ記憶部28には、主成分分析の結果得られた主成分ベクトルが格納される。
【0109】
第3の実施の形態の鋼材識別処理部30は、データ記憶部28に格納された主成分ベクトルを読み込み、主成分ベクトルと推定対象の火花画像から取得された各指標を表すベクトルとの内積に応じて、鋼材の種類を識別する。
【0110】
なお、第3の実施の形態に係る鋼材識別システムの他の構成及び作用については、第1又は第2の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0111】
以上説明したように、第3の実施の形態に係る鋼材識別システムによれば、訓練用の複数の火花画像から取得された主成分ベクトルと、推定対象の火花画像から取得された各指標とに基づいて鋼材を識別することにより、主成分分析を用いて鋼材を精度よく識別することができる。
【0112】
<第4の実施形態>
【0113】
次に、第4の実施の形態について説明する。なお、第4の実施の形態に係る鋼材識別システムの構成は、第1の実施の形態と同様の構成となるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0114】
第4の実施の形態では、統計解析(又は多変量解析)の一例である重回帰分析を用いて各指標の特徴を解析し、重回帰分析の結果得られる回帰係数と各指標とに基づいて鋼材の種類を識別する点が、第1~第3の実施の形態と異なる。
【0115】
第4の実施の形態では、第3の実施の形態と同様に、炭素成分の含有量が既知である複数の鋼材の火花画像を予め取得しておく。そして、複数の火花画像から取得された、短直線の角度のばらつき、短直線の平行度、短直線の角度の分布の尖度、及び短直線の角度の分布の歪度と火花の線の太さの平均及び火花の線の太さのばらつきとに対して予め重回帰分析を行う。
【0116】
そして、重回帰分析の結果得られた回帰係数と、推定対象の火花画像から取得された、短直線の平行度、短直線の角度のばらつき、短直線の角度の分布の尖度、短直線の角度の分布の歪度、火花の線の太さの平均、及び火花の線の太さのばらつきとに基づいて、鋼材を識別する。
【0117】
重回帰分析は、従属変数yN(Nは従属変数の数)を、独立変数xi(iは独立変数の数)で予測する多変量解析の一手法であり、以下の式(7)の重回帰分析式により表される。
【0118】
yN=b1x1+b2x2+・・・bixi (7)
【0119】
上記式(7)におけるbiは偏回帰係数であり、従属変数yNに対する独立変数xiの影響力及び重みを表している。本実施形態では、従属変数yNの値が鋼材に含まれる炭素量を表し、独立変数xiが各指標((A)短直線の角度のばらつき、(B)短直線の平行度、(C)火花の線の太さのばらつき、(D)短直線の角度の分布の尖度、(E)短直線の角度の分布の歪度、及び(F)火花の線の太さの平均)の値を表している。
【0120】
具体的には、第4の実施の形態のデータ記憶部28には、重回帰分析の結果得られた偏回帰係数が格納される。
【0121】
第4の実施の形態の鋼材識別処理部30は、データ記憶部28に格納された偏回帰係数を読み込み、偏回帰係数と推定対象の火花画像から取得された各指標とに応じて、鋼材の種類を識別する。
【0122】
なお、第4の実施の形態に係る鋼材識別システムの他の構成及び作用については、第1~第3の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0123】
以上説明したように、第4の実施の形態に係る鋼材識別システムによれば、訓練用の複数の火花画像から取得された重回帰分析式と、推定対象の火花画像から取得された各指標とに基づいて鋼材を識別することにより、重回帰分析を用いて鋼材を精度よく識別することができる。
【0124】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0125】
例えば、上記実施の形態では、(A)短直線の角度のばらつき、(B)短直線の平行度、(C)火花の線の太さのばらつき、(D)短直線の角度の分布の尖度、(E)短直線の角度の分布の歪度、及び(F)火花の線の太さの平均を表す全ての指標を用いて、鋼材を識別する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、(A)~(F)の各指標のうちの一つの指標のみを用いて、鋼材を識別するようにしてもよい。また、(A)~(F)の各指標の一部を組み合わせて、鋼材を識別するようにしてもよい。なお、(A)~(F)の各指標のうちの一つの指標のみを用いて鋼材を識別する場合、又は(A)~(F)の各指標の一部を組み合わせて鋼材を識別する場合には、識別する際に用いる閾値を各々に適した形式に設定する。
【0126】
また、上記実施の形態では、鋼材に含まれる炭素量を識別する場合を例に説明したが、上記各実施の形態は、鋼材の粗悪品の検出にも応用することができる。例えば、品質のよい鋼材(例えば、鋼材に含まれる炭素量が適切)から得られる火花画像と、品質の悪い鋼材(例えば、鋼材に含まれる炭素量が適切でない)から得られる火花画像とでは、画像から得られる各指標は異なる。そのため、閾値を適切に設定することで、鋼材の品質の良し悪しを識別することもできる。
【0127】
また、本願明細書中において、プログラムが予めインストールされている実施形態として説明したが、当該プログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して提供することも可能である。
【符号の説明】
【0128】
10 鋼材識別システム
12 カメラ
14 鋼材識別装置
20 輝度変換処理部
22 二値化処理部
24 短直線マッチング処理部
26 マッチング結果記憶部
28 データ記憶部
27 入力装置
30 鋼材識別処理部
32 出力装置