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特許7008920血漿カリクレイン阻害剤および遺伝性血管浮腫発作を予防するためのその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】血漿カリクレイン阻害剤および遺伝性血管浮腫発作を予防するためのその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220118BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220118BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61K47/02 ZMD
A61K47/12
A61K47/22
A61K47/10
A61K9/08
A61P9/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2017549388
(86)(22)【出願日】2016-03-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-06-07
(86)【国際出願番号】 US2016024921
(87)【国際公開番号】W WO2016160926
(87)【国際公開日】2016-10-06
【審査請求日】2019-03-27
(31)【優先権主張番号】62/214,293
(32)【優先日】2015-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/140,289
(32)【優先日】2015-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/140,277
(32)【優先日】2015-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】チユン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】アデルマン,ブルト
(72)【発明者】
【氏名】セクストン,ダニエル ジェイ.
【審査官】渡邊 倫子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/152232(WO,A2)
【文献】特表2014-515763(JP,A)
【文献】特表2006-501168(JP,A)
【文献】国際公開第2013/186700(WO,A1)
【文献】Ann Allergy Asthma Immunol,2014年,Vol.113,pp.460-466
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61K 47/00
A61K 9/00
A61P 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の遺伝性血管浮腫を治療するための、活性血漿カリクレインに結合する300mgの抗体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物であって、前記薬学的に許容される担体は、30mMの濃度のリン酸ナトリウム、クエン酸、50mMの濃度のヒスチジン、90mMの濃度の塩化ナトリウムおよび0.01%のTween80からなり、前記抗体は、配列番号1に記載の重鎖(HC)配列および配列番号2に記載の軽鎖(LC)配列を含み、前記医薬組成物は2週間ごとに1回または4週間ごとに1回前記対象に投与され、前記対象は前記抗体の投与前の1年間に少なくとも2回の遺伝性血管浮腫(HAE)発作を経験しているヒトの患者である、医薬組成物。
【請求項2】
皮下に投与するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物は、pH約6.0である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物は、最初に負荷投与期間のために、次いで維持期間のために投与し、前記負荷投与期間では、前記医薬組成物を毎週1回投与し、前記維持期間では前記抗体を2~4週間ごとに1回投与する、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
その必要がある対象に遺伝性血管浮腫(HAE)の発作を予防するかHAE発作率を低下させるための医薬の製造における、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物の使用。
【請求項6】
前記対象はI型またはII型遺伝性血管浮腫(HAE)を有するヒトの患者である、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ヒトの患者は初回投与前の6ヶ月以内に少なくとも1回のHAE発作を有したものであるか、
前記ヒトの患者は初回投与前の3ヶ月以内に少なくとも2回のHAE発作を有したものであるか、
前記ヒトの患者は初回投与前の3ヶ月以内に少なくとも9回のHAE発作を有したものである、請求項1~4および6のいずれか1項に記載の医薬組成物または請求項5に記載の使用
【請求項8】
前記抗体を2週間ごとに前記対象に投与する、請求項1~4、6および7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記抗体を4週間ごとに前記対象に投与する、請求項1~4、6および7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記抗体の投与により前記対象の切断されたキニノーゲンを健康な対象に匹敵するレベルまで減少させる、請求項1~4および6~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記対象はHAEを有するかその疑いまたはリスクのあるヒトの患者である、および/または
HAE発作を予防するかHAE発作率を低下させるために前記抗体を投与する、請求項1~および10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記負荷投与期間に前記抗体を300mgで前記対象に投与する、および/または
前記負荷投与期間は2週間であり、前記抗体を0日目、7日目および14日目に投与する、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記維持期間は10週間であり、前記抗体を28日目、42日目、56日目、70日目および84日目に投与する、請求項または12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記維持期間の後に、2~4週間ごとに1回、前記抗体を前記対象にさらに投与する、請求項12、または13に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、35U.S.C.§119(e)の下で、2015年3月30日に出願された米国仮出願第62/140,277号、2015年9月24日に出願された米国仮出願第62/214,293号および2015年3月30日に出願された米国仮出願第62/140,289号の利益を主張するものであり、その各開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
血漿カリクレインは接触系のセリンプロテアーゼ成分であり、異なる炎症性疾患、心疾患、感染症(敗血症)および腫瘍疾患のための薬物標的候補である(Sainz I.M.ら, Thromb Haemost 98, 77-83, 2007)。この接触系は、異物面すなわち陰性荷電表面に接触した際に第XIIa因子によって、あるいは内皮細胞表面でプロリルカルボキシペプチダーゼによって活性化される(Sainz I.M.ら, Thromb Haemost 98, 77-83, 2007)。血漿カリクレインの活性化は、第XII因子のそのフィードバック活性化により内因系凝固を増幅させ、かつ炎症誘発性ノナペプチドのブラジキニンの産生により炎症を促進させる。循環中の主要なキニノゲナーゼとして、血漿カリクレインは血管系におけるブラジキニンの産生に大きく寄与している。血漿カリクレインの主要な天然阻害剤であるC1インヒビタータンパク質(C1-INH)の遺伝的欠損により遺伝性血管浮腫(HAE)が生じる。HAEを有する患者は、未知の誘因によって引き起こされることが多い疼痛性浮腫の急性発作に悩まされている(Zuraw B.L.ら, N Engl J Med 359, 1027-1036, 2008)。
【発明の概要】
【0003】
本開示は一つには、ヒト血漿カリクレインの活性型に結合する抗体であるDX-2930の投与(例えば、2週間ごとに投与される30mg、100mg、300mgまたは400mg)がヒトの患者におけるHAE発作の予防またはHAE発作率の低下において予期せぬ有効性を示したことを証明する臨床研究から得られた結果に基づいている。さらに、DX-2930治療は、ヒトに投与した際に用量を制限する毒性の証拠を示さなかった。全体として、DX-2930はHAE治療において高い有効性を示した最初の完全に特異的な血漿カリクレイン阻害剤であるため、本研究から得られた結果は予期せぬものであった。これは、血漿カリクレインが疾病病因の中心をなすものであることを実証している。
【0004】
従って、本開示の一態様は、HAE発作を予防するかHAE(例えば、I型、II型またはIII型HAE)発作率を低下させる方法であって、それを必要とする対象にヒト血漿カリクレインの活性型に結合する抗体(例えばDX-2930)を有効量(例えば、約30mg~400mg、約100mg~400mg、約100mg~300mgまたは約300mg~400mg)で投与する工程を含む方法を特徴とする。いくつかの実施形態では、当該抗体を2~4週間ごとに少なくとも2回投与する。いくつかの実施形態では、当該抗体を2~4週間ごと(例えば、2週間または4週間ごと)に300mgまたは400mgで投与する。
【0005】
本明細書に記載されている方法のいずれか1つにおいて、当該抗体を皮下投与によって投与することができる。いくつかの実施形態では、当該対象は1年間に少なくとも2回のHAE発作(例えば、初回投与前の6ヶ月以内に少なくとも1回のHAE発作、初回投与前の3ヶ月以内に少なくとも2回のHAE発作または初回投与前の3ヶ月以内に少なくとも9回のHAE発作)を経験しているヒトの患者である。HAEはI型HAEであってもII型HAEであってもよい。例えば、本明細書に記載されている方法はHAEの予防的治療のためのものである。
【0006】
本明細書に記載されている方法のいずれかで使用される抗体は、DX-2930と同じエピトープに結合するか活性ヒト血漿カリクレインに結合するためにDX-2930と競合する抗体(例えば、完全長抗体または抗原結合断片)であってもよい。いくつかの実施形態では、当該抗体は同じ重鎖および軽鎖CDRを含む。一例では、当該抗体はDX-2930である。本明細書に記載されている抗体のいずれか(例えばDX-2930)を薬学的に許容される担体を含む医薬組成物として製剤化してもよい。いくつかの例では、当該医薬組成物は、リン酸ナトリウム、クエン酸、ヒスチジン、塩化ナトリウムおよびTween80を含む。一例では、当該抗体(例えばDX-2930)を30mMのリン酸ナトリウム、8.6mMのクエン酸、50mMのヒスチジン、90mMの塩化ナトリウムおよび0.01%のTween80(pH6.0)中で製剤化する。
【0007】
さらに他の態様では、本開示は、HAE(例えばI型、II型またはIII型)を治療する方法であって、それを必要とする対象にヒト血漿カリクレインの活性型に結合する抗体(例えばDX-2930)を有効量(例えば、100~400mg、100~300mg、150mgまたは300mg)で投与する工程を含み、負荷投与期間(例えば、最初に少なくとも1週間などにわたって毎週投与)と、維持期間(例えば、その後に2~4週間ごとに投与)と、任意で追加期間とを有する投与レジメンでDX-2930抗体を投与する方法を特徴とする。
【0008】
いくつかの実施形態では、当該抗体を負荷投与期間中に100~300mg(例えば150mgまたは300mg)で当該対象に投与する。負荷投与期間は2週間であってもよい。当該抗体を例えば150mgまたは300mgで0日目、7日目および14日目に投与してもよい。
【0009】
代わりまたは追加として、当該抗体を維持期間中に100~300mg(例えば150mgまたは300mg)で当該対象に投与する。維持期間は10週間続いてもよい。当該抗体を28日目、42日目、56日目、70日目および84日目に投与してもよい。
【0010】
本明細書に記載されている方法のいずれかにおいて、本方法は、当該抗体を維持期間後2~4週間ごと(例えば、2週間または4週間ごと)に1回当該対象に投与する工程をさらに含んでもよい。いくつかの例では、当該抗体を100~400mg(例えば100mg~300mg、例えば150mgまたは300mg)で投与する。
【0011】
本明細書に記載されている方法のいずれか1つのいくつかの実施形態では、当該抗体を皮下投与によって投与することができる。いくつかの実施形態では、当該対象はHAE発作に悩まされているかその疑いまたはリスクのあるヒトの患者である。例えば、本明細書に記載されている方法はHAEの予防的治療のためのものである。当該対象は、治療前の1年間に少なくとも2回の発作(例えば、4週間の間に少なくとも1回の発作)を経験したヒトの患者であってもよい。いくつかの実施形態では、HAE発作を予防するかHAE発作率を低下させるために当該抗体を投与する。
【0012】
いくつかの実施形態では、当該抗体(例えばDX-2930)を最初に1、2または3週間にわたって毎週投与し、その後に2、3または4週間ごとに投与する。いくつかの実施形態では、当該抗体(例えばDX-2930)をその後に10週間にわたって2週間ごとに投与する。いくつかの実施形態では、当該対象は初回投与前に4週間の間に少なくとも1回の発作を有する。
【0013】
本明細書に記載されている方法のいずれかで使用される抗体は、DX-2930と同じエピトープに結合するか活性ヒト血漿カリクレインに結合するためにDX-2930と競合する抗体であってもよい。いくつかの実施形態では、当該抗体は同じ重鎖および軽鎖CDRを含む。一例では、当該抗体はDX-2930である。
【0014】
(a)HAEを治療する(例えば、HAE発作を予防するかHAE発作率を低下させる)際に使用される医薬組成物であって、本明細書に記載されている抗カリクレイン抗体のいずれかと薬学的に許容される担体とを含み、本明細書に記載されている治療レジメンのいずれかに従って対象に投与される医薬組成物、および(b)HAEの治療薬の製造のための当該医薬組成物の使用も本開示の範囲に含まれる。本明細書に記載されている治療レジメンに従い、意図される目的のために当該抗体の使用を実施することができる。
【0015】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を以下の「発明を実施するための形態」に記載する。本発明の他の特徴または利点は、いくつかの実施形態の以下の図面および詳細な説明から明らかになると共に、添付の特許請求の範囲からも明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1b相試験におけるHAE患者の皮下投与後のDX-2930血漿中薬物濃度を示す。
図2】第1b相試験から得られたHAE患者試料の蛍光発生(fluorogenic)活性アッセイを示す。
図3】第1b相試験から得られたHAE患者のSCAT169血漿のウェスタンブロット分析である。
図4】第1b相試験から得られたHAE患者のクエン酸添加血漿のウェスタンブロット分析である。
図5】第1b相試験から得られたHAE患者のFXIIaによって生体外で活性化されたクエン酸添加血漿のウェスタンブロット分析である。
図6】異なる投薬コホートにおける患者の一次有効性評価期間を示す。A.:300mgのコホート。B.:400mgのコホート。赤い棒は有効性について評価される間隔を示す。
図7】300mg、400mg、組み合わせ(300mgおよび400mg)またはプラセボで治療した患者におけるHAE発作率の低下を示す。ベースラインは投薬前の最近3ヶ月間の過去に生じたHAE発作として定めた。当該データは、最近3ヶ月間に2回以上のベースライン発作率を有する患者を含む。8~50日目の発作率はベースライン率に対して補正しなかった。分散分析(ベースライン発作率を共変量とした)による混合モデル反復測定に基づき、かつポアソン分布を推定して、プラセボよりも高いHAE発作率の低下率(%)およびp値を計算した。
図8】プラセボで治療した対象におけるHAE発作の発生率を示す。X軸は試験日数を示す。
図9】30mgの投与後の平均DX-2930濃度およびHAE発作の発生率を示す。
図10】100mgの投与後の平均DX-2930濃度およびHAE発作の発生率を示す。
図11】300mgの投与後の平均DX-2930濃度およびHAE発作の発生率を示す。
図12】400mgの投与後の平均DX-2930濃度およびHAE発作の発生率を示す。1回しか用量を摂取しなかった1人の患者を除外する(平均薬物動態曲線を導出するため)。
図13】3ヶ月間に9回以上の発作の過去の発作率を有する患者におけるDX-2930濃度およびHAE発作を示す。A.:プラセボ患者。B.:300mgで治療した患者およびC.~F.:400mgで治療した患者。
図14】治療期間の延長または休薬期間がその後に続く場合もある、負荷投与期間および維持期間を含む例示的な投薬レジメンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
便宜上、本発明のさらなる説明の前に、本明細書、実施例および添付の特許請求の範囲で用いられている特定の用語についてここで定義する。他の用語については本明細書中に出てきた際に定義する。
【0018】
単数形の「1つの(a)」、「1つの(a)」および「前記(the)」は、その文脈が明らかに別の意を示していない限り複数の指示対象を含む。
【0019】
「抗体」という用語は、少なくとも1つの免疫グロブリン可変ドメイン(可変領域)または免疫グロブリン可変ドメイン(可変領域)配列を含むタンパク質を指す。例えば、抗体は、重(H)鎖可変領域(本明細書ではVHまたはHVと略す)と、軽(L)鎖可変領域(本明細書ではVLまたはLVと略す)とを含んでもよい。別の例では、抗体は2つの重(H)鎖可変領域と2つの軽(L)鎖可変領域とを含む。「抗体」という用語は、抗体の抗原結合断片(例えば、一本鎖抗体、FabおよびsFab断片、F(ab’)2、Fd断片、Fv断片、scFvおよびドメイン抗体(dAb)断片(de Wildtら, Eur J Immunol. 1996; 26(3):629-39))ならびに完全抗体を包含する。抗体は、IgA、IgG、IgE、IgD、IgM(ならびにそれらのサブタイプ)の構造的特徴を有し得る。抗体は任意の供給源からのものであってもよいが、霊長類(ヒトおよび非ヒト霊長類)ならびに霊長類化抗体が好ましい。
【0020】
VHおよびVL領域は、「フレームワーク領域」(「FR」)と呼ばれるより保存された領域が散在する「相補性決定領域」(「CDR」)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細かく分けることができる。フレームワーク領域およびCDRの程度は定義されている(Kabat, E.A.ら (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242, およびChothia, C.ら (1987) J. Mol. Biol. 196:901-917を参照)。本明細書ではカバットの定義が使用されている。VHおよびVLはそれぞれ、典型的にアミノ末端からカルボキシ末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配列された3つのCDRおよび4つのFRからなる。
【0021】
本明細書で使用される「免疫グロブリン可変ドメイン配列」とは、1つ以上のCDR領域が抗原結合部位に適した立体構造に配置されるように免疫グロブリン可変ドメインの構造を形成することができるアミノ酸配列を指す。例えば、その配列は天然に生じる可変ドメインのアミノ酸配列の全てまたは一部を含んでいてもよい。例えば、当該配列は1つ、2つまたはそれ以上のN末端またはC端末アミノ酸、内部アミノ酸を含んでいなくてもよく、1つ以上の挿入または追加の末端アミノ酸を含んでいてもよく、あるいは他の変化を含んでいてもよい。一実施形態では、免疫グロブリン可変ドメイン配列を含むポリペプチドは別の免疫グロブリン可変ドメイン配列と結合して抗原結合部位、例えば血漿カリクレインと優先的に相互作用する構造を形成することができる。
【0022】
抗体のV鎖またはV鎖は、重鎖または軽鎖の定常領域の全てまたは一部をさらに含み、それにより免疫グロブリン重鎖または軽鎖をそれぞれ形成することができる。一実施形態では、抗体は2本の免疫グロブリン重鎖および2本の免疫グロブリン軽鎖からなる四量体であり、この免疫グロブリン重鎖および軽鎖は、例えばジスルフィド結合によって相互接続されている。IgGでは、重鎖定常領域は3つの免疫グロブリンドメインCH1、CH2およびCH3を含む。軽鎖定常領域はCLドメインを含む。重鎖および軽鎖の可変領域は抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は典型的に、免疫系の各種細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的な補体系の第1成分(Clq)を含む宿主組織または因子への抗体の結合を媒介する。免疫グロブリン軽鎖はκ型であってもλ型であってもよい。一実施形態では、抗体はグリコシル化されている。抗体は抗体依存性細胞傷害および/または補体媒介性細胞傷害に関して機能的であってもよい。
【0023】
抗体の1つ以上の領域はヒト型または事実上ヒト型であってもよい。例えば可変領域の1つ以上がヒト型または事実上ヒト型であってもよい。例えばCDRの1つ以上、例えば、HC-CDR1、HC-CDR2、HC-CDR3、LC-CDR1、LC-CDR2および/またはLC-CDR3がヒト型であってもよい。軽鎖(LC)および/または重鎖(HC)CDRのそれぞれがヒト型であってもよい。HC-CDR3がヒト型であってもよい。フレームワーク領域の1つ以上、例えばHCおよび/またはLCのFR1、FR2、FR3および/またはFR4がヒト型であってもよい。例えばFc領域がヒト型であってもよい。一実施形態では、全てのフレームワーク領域がヒト型であり、例えばヒトの体細胞、例えば免疫グロブリンを産生する造血細胞または非造血細胞由来である。一実施形態では、ヒトの配列は、例えば生殖系列核酸によってコードされる生殖系列配列である。一実施形態では、選択されたFabのフレームワーク(FR)残基を最も類似する霊長類の生殖系列遺伝子、特にヒトの生殖系列遺伝子中の対応する残基のアミノ酸型に変換することができる。定常領域の1つ以上はヒト型または事実上ヒト型であってもよい。例えば、免疫グロブリン可変ドメイン、定常領域すなわち定常ドメイン(CH1、CH2、CH3および/またはCL1)の少なくとも70、75、80、85、90、92、95、98または100%あるいは抗体全体がヒト型または事実上ヒト型であってもよい。
【0024】
抗体の全てまたは一部を免疫グロブリン遺伝子またはそのセグメントによってコードすることができる。例示的なヒト免疫グロブリン遺伝子としては、κ、λ、α(IgA1およびIgA2)、γ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、δ、εおよびμ定常領域遺伝子ならびに多くの免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。完全長免疫グロブリン「軽鎖」(約25KDaまたは約214個のアミノ酸)は、NH2末端(約110個のアミノ酸)の可変領域遺伝子およびCOOH末端のκもしくはλ定常領域遺伝子によってコードされる。完全長免疫グロブリン「重鎖」(約50KDaまたは約446個のアミノ酸)は同様に可変領域の遺伝子(約116個のアミノ酸)および他の上記定常領域遺伝子のうちの1つ、例えばγ(約330個のアミノ酸をコードする)によってコードされる。HC-CDR3は約3個のアミノ酸残基から35個超のアミノ酸残基まで変動するため、ヒトHCの長さは大きくに変動する。
【0025】
完全長抗体の「抗原結合断片」という用語は、目的の標的に特異的に結合する能力を保持する完全長抗体の1つ以上の断片を指す。完全長抗体の「抗原結合断片」という用語に包含され、かつ機能性を保持する結合断片の例としては、(i)Fab断片、すなわちVL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価の断片、(ii)F(ab’)2断片、すなわちヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって結合された2つのFab断片を含む二価の断片、(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片、(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Wardら, (1989) Nature 341:544-546)、および(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメインすなわちVLおよびVHは別個の遺伝子によってコードされるが、組換え方法を用いて、VLおよびVH領域が対になって単鎖Fv(scFv)として知られている一価の分子を形成する単一のタンパク質鎖として作製することができる合成リンカーでそれらを連結することができる。例えば、米国特許第5,260,203号、第4,946,778号および第4,881,175号ならびにBirdら (1988) Science 242:423-426およびHustonら (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883を参照されたい。
【0026】
抗体断片は、当業者に知られている従来の技術を含む任意の適当な技術を用いて得ることができる。「単一特異性抗体」という用語は、特定の標的、例えばエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を示す抗体を指す。この用語は、「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」を含み、本明細書で使用されるその言葉は、抗体の産生方法に関係なく、単一分子組成物の抗体またはその断片の調製物を指す。
【0027】
抗体は、結合特性が実質的に保持される限り、フレームワーク領域内の1つ以上の非生殖系列アミノ酸を当該抗体の対応する生殖系列アミノ酸に復帰突然変異させることにより「生殖系列化(germlined)」される。
【0028】
阻害定数(Ki)は阻害剤の効力の尺度を提供する。この定数は酵素活性を半分まで低下させるのに必要な阻害剤の濃度であり、酵素または基質濃度に依存しない。見かけのKi(Ki,app)は、異なる濃度の阻害剤(例えば阻害性結合タンパク質)の反応(例えば酵素活性)の程度に対する阻害効果を測定することによって異なる基質濃度において得られ、阻害剤濃度の関数としての擬一次速度定数の変化をモリソン式(式1)に当てはめることにより見かけのKi値の推定を得る。Kiは、基質濃度に対するKi,appのプロットの線形回帰分析から引き出されるy切片から得られる。
【数1】
式1
(式中、v=測定された速度、v0=阻害剤の非存在下での速度、Ki,app=見かけの阻害定数、I=総阻害剤濃度、E=総酵素濃度)。
【0029】
本明細書で使用される「結合親和性」とは、見かけの結合定数すなわちKAを指す。KAは解離定数(KD)の逆数である。例えば結合抗体は、特定の標的分子(例えば血漿カリクレイン)に対して少なくとも10、10、10、10、10、1010および1011-1の結合親和性を有していてもよい。第2の標的と比べて第1の標的に対する結合抗体のより高い親和結合は、第2の標的に結合するためのKA(または数値KD)よりも高い第1の標的に結合するためのKA(またはより小さい数値KD)によって示すことができる。そのような場合、結合抗体は、第2の標的(例えば、第2の立体構造の同じタンパク質またはその模倣物あるいは第2のタンパク質)と比べて第1の標的(例えば、第1の立体構造のタンパク質またはその模倣物)に対して特異性を有する。結合親和性(例えば、特異性または他の比較物)における差は、少なくとも1.5、2、3、4、5、10、15、20、37.5、50、70、80、91、100、500、1000、10,000または10倍であってもよい。
【0030】
結合親和性は、平衡透析、平衡結合、ゲル濾過、ELISA、表面プラズモン共鳴または分光法(例えば蛍光アッセイを用いる)などの様々な方法によって決定することができる。結合親和性を評価するための例示的な条件は、HBS-P緩衝液(10mMのHEPES(pH7.4)、150mMのNaCl、0.005%(v/v)の界面活性剤P20)中である。これらの技術を使用して、結合タンパク質(または標的)濃度の関数として結合されている結合タンパク質および遊離している結合タンパク質の濃度を測定することができる。以下の方程式により、結合されている結合タンパク質([Bound])の濃度は、遊離している結合タンパク質([Free])の濃度および標的上の結合タンパク質の結合部位の濃度に関係している。
[Bound]=N・[Free]/((1/KA)+[Free])
(式中、(N)は、標的分子当たりの結合部位の数である)
【0031】
但し、KAの正確な決定を行うことは必ずしも必要ではなく、その理由は、例えばELISAまたはFACS分析などの方法を用いて測定される親和性の定量的測定値を得るだけで十分な場合もあり、それはKAに比例するため、より高い親和性が例えば2倍より高いか否かの決定などの比較のためにそれを使用して、例えば機能的アッセイ、例えば生体外または生体内アッセイにおける活性によって親和性の定性的測定値を得るか親和性の推論を得ることができるからである。
【0032】
「結合抗体」(または本明細書において同義で使用される「結合タンパク質」)という用語は、標的分子と相互作用することができる抗体を指す。この用語は「リガンド」と同義で使用される。「血漿カリクレイン結合抗体」は、血漿カリクレインと相互作用する(例えば結合する)ことができる抗体を指し、特に血漿カリクレインと優先的または特異的に相互作用し、かつ/またはそれを阻害する抗体を含む。抗体は、当該抗体の非存在下および同じ条件下での血漿カリクレインの活性と比較して血漿カリクレインの活性の低下を生じている場合、血漿カリクレインを阻害している。
【0033】
「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が同様の側鎖を有するアミノ酸残基で置換されている置換である。同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが当該技術分野において定義されている。これらのファミリーとしては、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、極性無電荷側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐鎖側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が挙げられる。
【0034】
結合タンパク質の1つ以上のフレームワークおよび/またはCDRアミノ酸残基は、本明細書に記載されている結合タンパク質に対して1つ以上の突然変異(例えば、置換(例えば、保存的置換または非必須アミノ酸の置換)、挿入または欠失)を含むことができる。血漿カリクレイン結合タンパク質は、本明細書に記載されている結合タンパク質に対して、突然変異(例えば、置換(例えば、保存的置換または非必須アミノ酸の置換)、挿入または欠失)(例えば、少なくとも1、2、3または4つおよび/または15、12、10、9、8、7、6、5、4、3または2つ未満の突然変異)、例えばタンパク質機能に対して大きな影響を有しない突然変異を有していてもよい。突然変異はフレームワーク領域、CDRおよび/または定常領域に存在していてもよい。いくつかの実施形態では、突然変異はフレームワーク領域に存在している。いくつかの実施形態では、突然変異はCDRに存在している。いくつかの実施形態では、突然変異は定常領域に存在している。特定の置換が許容されるか否か、すなわち結合活性などの生物学的特性に悪影響を与えるか否かを、例えばその突然変異が保存的であるか否かを評価することにより、あるいはBowie,ら (1990) Science 247:1306-1310の方法によって予測することができる。
【0035】
「事実上ヒト型」の免疫グロブリン可変領域は、免疫グロブリン可変領域が正常なヒトにおいて免疫原性応答を誘発しないような十分な数のヒトフレームワークアミノ酸位置を含む免疫グロブリン可変領域である。「事実上ヒト型」の抗体は、当該抗体が正常なヒトにおいて免疫原性応答を誘発しないような十分な数のヒトアミノ酸位置を含む抗体である。
【0036】
「エピトープ」とは、結合タンパク質(例えば、Fabまたは完全長抗体などの抗体)によって結合される標的化合物上の部位を指す。標的化合物がタンパク質である場合、当該部位は完全にアミノ酸成分からなるか、完全にタンパク質のアミノ酸の化学修飾部分(例えばグリコシル部分)からなるか、あるいはそれらの組み合わせからなっていてもよい。重複するエピトープは、少なくとも1つの一般的なアミノ酸残基、グリコシル基、リン酸基、硫酸基または他の分子的特徴を含む。
【0037】
第1の結合抗体は、第1の結合抗体が第2の結合抗体が結合する標的化合物上の同じ部位に結合するか、第2の結合抗体が結合する部位と重複する(例えば、アミノ酸配列または他の分子的特徴(例えばグリコシル基、リン酸基または硫酸基)に関して、例えば50%、60%、70%、80%、90%または100%重複する)部位に結合する場合に、第2の結合抗体と「同じエピトープに結合する」。
【0038】
第1の結合抗体は、第1の結合抗体のそのエピトープへの結合によりそのエピトープに結合する第2の結合抗体の量を(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%またはそれ以上)減少させる場合に、第2の結合抗体と「結合のために競合する」。この競合は直接的(例えば、第1の結合抗体は第2の結合抗体によって結合されるエピトープと同じであるかそれに重複するエピトープに結合する)、または間接的(例えば、第1の結合抗体のそのエピトープへの結合により、第2の結合抗体がそのエピトープに結合する能力を低下させる標的化合物の立体構造変化を引き起こす)であってもよい。
【0039】
2つの配列間の「相同性」または「配列同一性」の計算(これらの用語は本明細書において同義で使用される)は以下のように行う。最適な比較のためにこれらの配列をアラインメントする(例えば、最適なアラインメントのために第1および第2のアミノ酸または核酸配列の一方または両方にギャップを導入することができ、比較のために非相同な配列を無視することができる)。ギャップペナルティ=12、ギャップ伸長ペナルティ=4およびフレームシフトギャップペナルティ=5にして、BLOSSUM62スコア行列を含むGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムを用いて、最適なアラインメントを最良のスコアとして決定する。次いで、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置にあるアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1の配列中の位置が第2の配列中の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占められている場合、当該分子はその位置において同一である(本明細書で使用されるアミノ酸または核酸の「同一性」はアミノ酸または核酸の「相同性」に相当する)。2つの配列間の同一性の割合は、当該配列によって共有される同一の位置の数の関数である。
【0040】
好ましい実施形態では、比較のためにアライメントされる参照配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、80%、90%、92%、95%、97%、98%または100%である。例えば、参照配列は免疫グロブリン可変ドメイン配列の長さであってもよい。
【0041】
「ヒト化」免疫グロブリン可変領域は、免疫グロブリン可変領域が正常なヒトにおいて免疫原性応答を誘発しないように十分な数のヒトフレームワークアミノ酸位置を含むように修飾された免疫グロブリン可変領域である。「ヒト化」免疫グロブリンの説明としては、例えば、米国特許第6,407,213号および米国特許第5,693,762号が挙げられる。
【0042】
「単離された」抗体とは、単離された抗体を得ることができる天然の試料の少なくとも1つの成分の少なくとも90%から取り出された抗体を指す。抗体は、目的の生物種または生物種集団が重量/重量基準で少なくとも5、10、25、50、75、80、90、92、95、98または99%純粋であれば、「少なくとも」ある程度の純度のものであり得る。
【0043】
本主題の方法によって治療される「患者」、「対象」または「宿主」(これらの用語は同義で使用される)は、ヒトまたは非ヒト動物のどちらを意味してもよい。
【0044】
「プレカリクレイン」および「プレ血漿カリクレイン」という用語は本明細書において同義で使用され、プレカリクレインとしても知られている活性血漿カリクレイン酵素前駆体を指す。
【0045】
本明細書で使用される「実質的に同一の」(または「実質的に相同な」)という用語は、第1および第2のアミノ酸または核酸配列が同様の活性、例えば、結合活性、結合優先度(binding preference)または生物活性を有する(またはそれらを有するタンパク質をコードする)ように、第2のアミノ酸または核酸配列と同一または同等の(例えば同様の側鎖、例えば保存アミノ酸置換を有する)アミノ酸残基またはヌクレオチドを十分な数で含む第1のアミノ酸または核酸配列を指すように本明細書で使用される。抗体の場合、第2の抗体は同じ特異性を有し、かつ同じ抗原に対して少なくとも50%、少なくとも25%または少なくとも10%の親和性を有する。
【0046】
本明細書に開示されている配列と同様または相同な(例えば、少なくとも約85%の配列同一性の)配列も本出願の一部である。いくつかの実施形態では、配列同一性は約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上であってもよい。いくつかの実施形態では、血漿カリクレイン結合抗体は、本明細書に記載されている抗体と約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有していてもよい。いくつかの実施形態では、血漿カリクレイン結合抗体は、HCおよび/またはLCフレームワーク領域(例えば、HCおよび/またはLC-FR1、2、3および/または4)において、本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)と約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有していてもよい。いくつかの実施形態では、血漿カリクレイン結合抗体は、HCおよび/またはLC-CDR(例えば、HCおよび/またはLC-CDR1、2および/または3)において、本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)と約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有していてもよい。いくつかの実施形態では、血漿カリクレイン結合抗体は、定常領域(例えば、CH1、CH2、CH3および/またはCL1)において、本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)と約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有していてもよい。
【0047】
また、実質的な同一性は、核酸セグメントが選択的ハイブリダイゼーション条件(例えば、高ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件)下で相補鎖とハイブリダイズする場合に存在する。核酸は全細胞または細胞溶解物として、あるいは部分的に精製された形態または実質的に純粋な形態として存在してもよい。
【0048】
統計的有意性は、あらゆる当業者に知られている方法によって決定することができる。例示的な統計的検定としては、ステューデントt検定、ノンパラメトリックなマン・ホイットニーのU検定およびノンパラメトリックなウィルコクソンの統計的検定が挙げられる。いくつかの統計的に有意な関係のp値は0.05または0.02未満である。特定の結合タンパク質は、例えば統計的に有意な特異性または結合における差(例えば、p値<0.05または0.02)を示す場合がある。例えば2つの状態の間の識別可能な定性的または定量的差を示す「誘発する」、「阻害する」、「増強する」、「上昇させる」、「増加させる」、「減少させる」などの用語は、2つの状態の間の差、例えば統計的有意差を指してもよい。
【0049】
「治療的に有効な投与量」は、測定可能なパラメーター、例えば血漿カリクレインの活性を未治療の対象に対して統計的に有意な程度または少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約40%、さらにより好ましくは少なくとも約60%、なおより好ましくは少なくとも約80%調節することが好ましい。測定可能なパラメーター、例えば疾患関連パラメーターを調節する化合物の能力は、ヒトの疾患および病気における有効性を予測する動物モデル系で評価することができる。あるいは、組成物のこの特性は、生体外でパラメーターを調節する化合物の能力を調べることにより評価することができる。
【0050】
本明細書で使用される「治療する」という用語は、疾患、疾患の症状または疾患に対する素因を治療する、治癒させる、軽減させる、緩和させる、変化させる、修復する、寛解させる、改善するかそれに影響を及ぼす目的で、アレルギー性疾患、アレルギー性疾患の症状またはアレルギー性疾患に対する素因を有する対象に1種以上の活性剤を含む組成物を施用または投与することを指す。「予防的治療(preventive treatment)」としても知られている「予防的治療(prophylactic treatment)」は、人を保護すること、または既に曝露されているか今後曝され得る疾患のリスクを減らすことを目指す治療を指す。
【0051】
対象において疾患を「予防する」という用語は、当該疾患の少なくとも1つの症状が予防されるように当該対象に薬物治療を行うこと(例えば薬物を投与すること)、すなわち宿主が望ましくない病気を発症するのを保護するように、望ましくない病気(例えば、宿主動物の疾患または他の望ましくない状態)の臨床的発現前に投与を行うことを指す。また、疾患を「予防する」ことを「予防法」または「予防的治療」と呼んでもよい。
【0052】
「予防的有効量」とは、所望の予防的結果を達成するのに必要な投与量および期間での有効量を指す。典型的には、対象において疾患の前または初期段階で予防的用量が使用されるため、予防的有効量は治療的有効量よりも少なくなる。
【0053】
血漿カリクレインに特異的な抗体
本明細書に記載されている方法で使用される血漿カリクレイン結合抗体は、完全長(例えば、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA(例えば、IgA1、IgA2)、IgDおよびIgE)であってもよく、あるいは、抗原結合断片(例えば、Fab、F(ab’)2またはscFv断片のみを含んでいてもよい。当該結合抗体は、2本の免疫グロブリン重鎖および2本の免疫グロブリン軽鎖を含んでいても一本鎖抗体であってもよい。血漿カリクレイン結合抗体は、ヒト化抗体、CDR移植抗体、キメラ抗体、脱免疫化(deimmunized)抗体または生体外で産生された抗体などの組換えタンパク質であってもよく、かつ任意でヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の定常領域を含んでいてもよい。一実施形態では、血漿カリクレイン結合抗体はモノクローナル抗体である。
【0054】
一態様では、本開示は、血漿カリクレイン(例えば、ヒト血漿カリクレインおよび/またはマウスカリクレイン)に結合し、かつ少なくとも1つの免疫グロブリン可変領域を含む抗体(例えば、単離された抗体)を特徴とする。例えば、当該抗体は、重鎖(HC)免疫グロブリン可変ドメイン配列および/または軽鎖(LC)免疫グロブリン可変ドメイン配列を含む。一実施形態では、当該抗体は、血漿カリクレイン、例えばヒト血漿カリクレインおよび/またはマウスカリクレインに結合して阻害する。
【0055】
当該抗体は、以下の特性:(a)ヒトCDRまたはヒトフレームワーク領域、(b)本明細書に記載されているHC可変領域のCDRと少なくとも85、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%同一の1つ以上(例えば、1、2または3つの)CDRを含むHC免疫グロブリン可変ドメイン配列、(c)本明細書に記載されているLC可変ドメインのCDRと少なくとも85、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%同一の1つ以上(例えば、1、2または3つの)CDRを含むLC免疫グロブリン可変ドメイン配列、(d)本明細書に記載されているLC可変ドメインと少なくとも85、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%同一である(例えば、全体あるいはフレームワーク領域またはCDRにおいて)LC免疫グロブリン可変ドメイン配列、(e)本明細書に記載されているHC可変ドメインと少なくとも85、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%同一である(例えば、全体あるいはフレームワーク領域またはCDRにおいて)HC免疫グロブリン可変ドメイン配列、(f)本明細書に記載されている抗体によって結合されるエピトープに結合するか本明細書に記載されている抗体と結合のために競合する抗体、(g)霊長類CDRまたは霊長類フレームワーク領域、(h)本明細書に記載されているHC可変ドメインのCDR1とは少なくとも1つのアミノ酸であって、多くても2または3つ以下のアミノ酸だけ異なるCDR1を含むHC免疫グロブリン可変ドメイン配列、(i)本明細書に記載されているHC可変ドメインのCDR2とは少なくとも1つのアミノ酸であって、多くても2、3、4、5、6、7または8つのアミノ酸だけ異なるCDR2を含むHC免疫グロブリン可変ドメイン配列、(j)本明細書に記載されているHC可変ドメインのCDR3とは少なくとも1つのアミノ酸であって、多くても2、3、4、5または6つのアミノ酸だけ異なるCDR3を含むHC免疫グロブリン可変ドメイン配列、(k)本明細書に記載されているLC可変ドメインのCDR1とは少なくとも1つのアミノ酸であって、多くても2、3、4または5つのアミノ酸だけ異なるCDR1を含むLC免疫グロブリン可変ドメイン配列、(l)本明細書に記載されているLC可変ドメインのCDR2とは少なくとも1つのアミノ酸であって、多くても2、3または4つのアミノ酸だけ異なるCDR2を含むLC免疫グロブリン可変ドメイン配列、(m)本明細書に記載されているLC可変領域のCDR3とは少なくとも1つのアミノ酸であって、多くても2、3、4または5つのアミノ酸だけ異なるCDR3を含むLC免疫グロブリン可変ドメイン配列、(n)本明細書に記載されているLC可変ドメインとは少なくとも1つのアミノ酸であって、多くても2、3、4、5、6、7、8、9または10個のアミノ酸だけ異なる(例えば、全体あるいはフレームワーク領域またはCDRにおいて)LC免疫グロブリン可変ドメイン配列、および(o)本明細書に記載されているHC可変領域とは少なくとも1つのアミノ酸であって、多くても2、3、4、5、6、7、8、9または10個のアミノ酸だけ異なる(例えば、全体あるいはフレームワーク領域またはCDRにおいて)HC免疫グロブリン可変ドメイン配列のうちの1つ以上を含むことができる。
【0056】
当該血漿カリクレイン結合タンパク質は単離された(例えば、他のタンパク質を少なくとも70、80、90、95または99%含まない)抗体であってもよい。いくつかの実施形態では、当該血漿カリクレイン結合抗体またはその組成物は、当該血漿カリクレイン結合抗体と比較して不活性または部分的に活性な(例えば、5000nM以上のKi,appで血漿カリクレインに結合する)抗体切断断片(例えばDX-2930)から単離されている。例えば、当該血漿カリクレイン結合抗体はそのような抗体切断断片を少なくとも70%含まず、他の実施形態では当該結合抗体は不活性または部分的に活性な抗体切断断片を少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%またはさらには100%含まない。
【0057】
当該血漿カリクレイン結合抗体は、血漿カリクレイン(例えばヒト血漿カリクレイン)をさらに阻害してもよい。
【0058】
いくつかの実施形態では、当該血漿カリクレイン結合抗体は、プレカリクレイン(例えば、ヒトプレカリクレインおよび/またはマウスプレカリクレイン)に結合しないが、血漿カリクレイン(例えば、ヒト血漿カリクレインおよび/またはマウスカリクレイン)の活性型に結合する。
【0059】
特定の実施形態では、当該抗体は、血漿カリクレインまたはその断片の触媒ドメインの活性部位またはその近くで結合するか、血漿カリクレインの活性部位と重複するエピトープに結合する。
【0060】
いくつかの態様では、当該抗体は同じエピトープに結合するか、本明細書に記載されている抗体と結合のために競合する。
【0061】
当該抗体は少なくとも10、10、10、10、10、1010および1011-1の結合親和性で血漿カリクレイン(例えばヒト血漿カリクレイン)に結合することができる。一実施形態では、当該抗体は1×10-3、5×10-4-1または1×10-4-1よりも遅いKoffでヒト血漿カリクレインに結合する。一実施形態では、当該抗体は1×10、1×10または5×10-1-1よりも速いKonでヒト血漿カリクレインに結合する。一実施形態では、当該抗体は血漿カリクレインに結合するが、組織カリクレインおよび/または血漿プレカリクレインには結合しない(例えば、当該抗体は血漿カリクレインに結合するほど有効には組織カリクレインおよび/または血漿プレカリクレインに結合しない(例えば、陰性対照と比較した場合、例えば5、10、50、100または1000倍少なく結合するか全く結合しない))。
【0062】
一実施形態では、当該抗体は、例えば10-5、10-6、10-7、10-8、10-9および10-10M未満のKiでヒト血漿カリクレインの活性を阻害する。当該抗体は、例えば100nM、10nM、1、0.5または0.2nM未満のIC50を有することができる。例えば、当該抗体は、血漿カリクレインの活性ならびに(例えば第XII因子からの)第XIIa因子および/または(例えば高分子量キニノーゲン(HMWK)からの)ブラジキニンの産生を調節してもよい。当該抗体は、血漿カリクレインの活性および/または(例えば第XII因子からの)第XIIa因子および/または(例えば高分子量キニノーゲン(HMWK)からの)ブラジキニンの産生を阻害してもよい。当該抗体のヒト血漿カリクレインとの親和性は、100nm未満、10nM未満、5nM未満、1nM未満、0.5nM未満のKDによって特徴づけることができる。一実施形態では、当該抗体は血漿カリクレインを阻害するが組織カリクレインを阻害しない(例えば、当該抗体は血漿カリクレインを阻害するほど有効には組織カリクレインを阻害しない(例えば陰性対照と比較した場合、例えば5、10、50、100または1000倍少なく阻害するか全く阻害しない))。
【0063】
いくつかの実施形態では、当該抗体は、1000、500、100、5、1、0.5または0.2nM未満の見かけの阻害定数(Ki,app)を有する。
【0064】
血漿カリクレイン結合抗体は、単一のポリペプチド(例えばscFv)に含まれるか異なるポリペプチド(例えばIgGまたはFab)上にそれらのHCおよびLC可変ドメイン配列を有していてもよい。
【0065】
一実施形態では、HCおよびLC可変領域ドメイン配列は同じポリペプチド鎖の構成要素である。別の実施形態では、HCおよびLC可変領域ドメイン配列は異なるポリペプチド鎖の構成要素である。例えば、当該抗体はIgG、例えばIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である。当該抗体は可溶性Fabであってもよい。他の実施形態では、当該抗体は、Fab2’、scFv、ミニボディ(minibody)、scFv::Fc融合体、Fab::HSA融合体、HSA::Fab融合体、Fab::HSA::Fab融合体または本明細書中の結合タンパク質の1種の抗原結合部位を含む他の分子を含む。これらのFabのVHおよびVL領域は、IgG、Fab、Fab2、Fab2’、scFv、ペグ化Fab、ペグ化scFv、ペグ化Fab2、VH::CH1::HSA+LC、HSA::VH::CH1+LC、LC::HSA+VH::CH1、HSA::LC+VH::CH1または他の適当な構築物として提供することができる。
【0066】
一実施形態では、当該抗体はヒトまたはヒト化抗体であるか、ヒトにおいて非免疫原性である。例えば、当該抗体は1つ以上のヒト抗体フレームワーク領域、例えば全てのヒトフレームワーク領域またはヒトフレームワーク領域と少なくとも85、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%同一のフレームワーク領域を含む。一実施形態では、当該抗体はヒトFcドメインまたはヒトFcドメインと少なくとも95、96、97、98または99%同一のFcドメインを含む。
【0067】
一実施形態では、当該抗体は霊長類または霊長類化抗体であるか、ヒトにおいて非免疫原性である。例えば、当該抗体は1つ以上の霊長類抗体のフレームワーク領域、例えば全ての霊長類フレームワーク領域または霊長類フレームワーク領域と少なくとも85、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%同一のフレームワーク領域を含む。一実施形態では、当該抗体は霊長類Fcドメインまたは霊長類Fcドメインと少なくとも95、96、97、98または99%同一のFcドメインを含む。「霊長類」としては、ヒト(学名:Homo sapiens)、チンパンジー(学名:Pan troglodytesおよびボノボ(学名:Pan paniscus))、ゴリラ(学名:Gorilla gorilla)、テナガザル、サル、キツネザル、アイアイ(学名:Daubentonia madagascariensis)およびメガネザルが挙げられる。
【0068】
いくつかの実施形態では、霊長類抗体のヒト血漿カリクレインとの親和性は、1000、500、100、10、5、1、0.5nM未満、例えば10nM未満、1nM未満または0.5nM未満のKDによって特徴づけられる。
【0069】
特定の実施形態では、当該抗体は、マウスまたはウサギ由来の配列を含んでいない(例えばマウスまたはウサギ抗体ではない)。
【0070】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されている方法で使用される抗体は、本明細書に記載されているDX-2930またはその機能的変異体、あるいはDX-2930と同じエピトープに結合するか活性血漿カリクレインへの結合のためにDX-2930と競合する抗体であってもよい。
【0071】
一例では、DX-2930の機能的変異体は、同じ方法で決定した場合にDX-2930と同じ相補性決定領域(CDR)を含む。別の例では、DX-2930の機能的変異体は、DX-2930のVおよびVにおけるFRと比較した場合に、VまたはVのいずれかのFRにおいて1つ以上の突然変異(例えば保存的置換)を含んでいてもよい。日常的な技術によって決定することができるそのような突然変異は、1つ以上のCDRと相互作用すると予測される残基では生じないことが好ましい。他の実施形態では、本明細書に記載されている機能的変異体は、DX-2930の1つ以上のCDR領域に1つ以上(例えば、1、2または3つ)の突然変異を含む。そのような機能的変異体は、その親抗体と同じ抗原結合に関与する領域/残基を保持していることが好ましい。さらに他の実施形態では、DX-2930の機能的変異体は、DX-2930のVと少なくとも85%(例えば、90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%または99%)同一のアミノ酸配列を含むV鎖および/またはDX-2930のVと少なくとも85%(例えば、90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%または99%)同一のアミノ酸配列を有するV鎖を含んでいてもよい。これらの変異体は血漿カリクレインの活性型に結合することができ、好ましくはプレカリクレインに結合しない。
【0072】
2つのアミノ酸配列の「同一性の割合(%)」は、Karlin and Altschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77, 1993において修正されているKarlin and Altschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68, 1990のアルゴリズムを用いて決定する。そのようなアルゴリズムは、Altschul,ら J. Mol. Biol. 215:403-10, 1990のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。XBLASTプログラム(スコア=50、ワード長さ=3)を用いてBLASTタンパク質検索を行って、目的のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得ることができる。2つの配列間にギャップが存在する場合、Altschulら, Nucleic Acids Res. 25(17):3389-3402, 1997に記載されているようにGapped BLASTを利用することができる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメーターを使用することができる。
【0073】
いくつかの実施形態では、本方法で使用される抗体および本明細書に記載されている組成物はDX-2930抗体であってもよい。シグナル配列をイタリック体にしたDX-2930の重鎖および軽鎖の完全および可変配列を以下に示す。CDRは太字であり、下線が引かれている(カバットの番号付けスキームに基づく)。
DX-2930の重鎖アミノ酸配列(451個のアミノ酸、49439.02Da)
【化1】
DX-2930の軽鎖アミノ酸配列(213個のアミノ酸、23419.08Da)
【化2】
DX-2930の重鎖可変ドメインアミノ酸配列
【化3】
DX-2930の軽鎖可変ドメインアミノ酸配列
【化4】
【表1】
【0074】
抗体の調製
本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)は、当該技術分野で知られている任意の方法によって調製することができる。例えば、Harlow and Lane, (1988) Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York and Greenfield, (2013) Antibodies: A Laboratory Manual, Second edition, Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。
【0075】
目的の抗体、例えばDX-2930をコードする配列を宿主細胞内にベクターに入れて維持してもよく、次いでこの宿主細胞を後で使用するために増殖させて凍結することができる。代替法として、遺伝子操作のためにこのポリヌクレオチド配列を使用して当該抗体を「ヒト化する」か、当該抗体の親和性(親和性成熟)または他の特性を改善してもよい。例えば、その定常領域をヒトの定常領域により酷似するように操作して、当該抗体をヒトにおける臨床試験および治療において使用する際に免疫応答を回避してもよい。標的抗原に対するより高い親和性およびPKalの活性を阻害する際により高い有効性を得るように、当該抗体配列を遺伝子操作することが望ましい場合がある。当該抗体に対して1つ以上のポリヌクレオチドの変化を行ってもなお標的抗原に対するその結合特異性を維持できることは当業者には明らかであろう。
【0076】
他の実施形態では、特異的なヒト免疫グロブリンタンパク質を発現するように操作された市販のマウスを用いて完全ヒト抗体を得ることができる。ヒト化抗体またはヒト抗体の産生のために、より望ましい(例えば完全ヒト抗体)またはより強い免疫応答を生じるように設計されたトランスジェニック動物を使用してもよい。そのような技術の例は、Amgen社(カリフォルニア州フリーモント)のXenomouse(登録商標)およびMedarex社のHuMAb-Mouse(登録商標)およびTC Mouse(商標)(ニュージャージー州プリンストン)である。別の代替法では、ファージディスプレイ法または酵母法による組換えにより抗体を調製してもよい。例えば、米国特許第5,565,332号、第5,580,717号、第5,733,743号および第6,265,150号ならびにWinterら, (1994) Annu. Rev. Immunol. 12:433-455を参照されたい。あるいは、ファージディスプレイ法(McCaffertyら, (1990) Nature 348:552-553)を使用して、未免疫のドナーから得た免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからヒト抗体および抗体断片を生体外で産生させることができる。
【0077】
日常的な方法によりインタクトな抗体(完全長抗体)の抗原結合断片を調製することができる。例えば、抗体分子のペプシン消化によりF(ab’)2断片を生成することができ、かつF(ab’)2断片のジスルフィド架橋を還元することによりFab断片を生成することができる。
【0078】
例えば従来の組換え技術により、ヒト化抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体および二重特異性抗体などの遺伝子操作された抗体を産生させることができる。一例では、標的抗原に特異的なモノクローナル抗体をコードするDNAを容易に単離したり合成したりすることができる。このDNAを1つ以上の発現ベクターの中に入れて、次いで、これを大腸菌細胞、サルのCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞または骨髄腫細胞などの宿主細胞に形質移入し(そうしなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しない)、組換え宿主細胞においてモノクローナル抗体の合成を得てもよい。例えば、PCT公報の国際公開第87/04462号を参照されたい。次いで、例えば相同なマウスの配列の代わりにヒト重鎖および軽鎖定常ドメインのコード配列に置き換えることにより(Morrisonら, (1984) Proc. Nat. Acad. Sci. 81:6851)、あるいは非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全てまたは一部を免疫グロブリンコード配列に共有結合的に結合させることにより、このDNAを修飾することができる。このようにして、標的抗原の結合特異性を有する「キメラ」抗体または「ハイブリッド」抗体などの遺伝子操作された抗体を調製することができる。
【0079】
「キメラ抗体」の産生のために開発された技術が当該技術分野でよく知られている。例えば、Morrisonら (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81, 6851; Neubergerら (1984) Nature 312, 604およびTakedaら (1984) Nature 314:452を参照されたい。
【0080】
ヒト化抗体を構築するための方法も当該技術分野でよく知られている。例えば、Queenら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:10029-10033 (1989)を参照されたい。一例では、親の非ヒト抗体のVHおよびVLの可変領域を当該技術分野で知られている方法に従って3次元分子モデリング解析に供する。次に、正確なCDR構造の形成にとって重要であると予測されるフレームワークアミノ酸残基を同じ分子モデリング解析を用いて同定する。並行して、親のVHおよびVL配列を検索クエリとして用いて、親の非ヒト抗体のアミノ酸配列と相同なアミノ酸配列を有するヒトのVHおよびVL鎖を任意の抗体遺伝子データベースから同定する。次いで、ヒトのVHおよびVLアクセプター遺伝子を選択する。
【0081】
選択されたヒトのアクセプター遺伝子内のCDR領域を親の非ヒト抗体またはその機能的変異体からのCDR領域で置き換えることができる。必要に応じて、CDR領域と相互作用する際に重要であると予測される親の鎖のフレームワーク領域内の残基(上の記載を参照)を使用して、ヒトのアクセプター遺伝子内の対応する残基を置き換えることができる。
【0082】
一本鎖抗体は、重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列と軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列とを連結する組換え技術により調製することができる。柔軟なリンカーを2つの可変領域の間に組み込むことが好ましい。あるいは、一本鎖抗体の作製について記載されている技術(米国特許第4,946,778号および第4,704,692号)を改変してファージまたは酵母scFvライブラリーを構築することができ、日常的な手順に従い、そのライブラリーからPKalに特異的なscFvクローンを同定することができる。陽性のクローンをさらにスクリーニングしてPKal活性を阻害するものを同定することができる。
【0083】
いくつかの抗体(例えばFab)は細菌細胞、例えば大腸菌細胞において産生させることができる(例えば、Nadkarni, A.ら, 2007 Protein Expr Purif 52(1):219-29を参照)。例えば、Fabがディスプレイ実体とバクテリオファージタンパク質(またはその断片)との間に抑制可能な終止コドンを含むファージディスプレイベクターに入れた配列によってコードされる場合、終止コドンを抑制できない細菌細胞内にベクター核酸を移動させることができる。この場合、Fabは遺伝子IIIタンパク質に融合されず、周辺質および/または培地の中に分泌される。
【0084】
抗体は真核性細胞において産生させることもできる。一実施形態では、当該抗体(例えば、scFv)をピキア属(例えば、Powersら, 2001, J. Immunol. Methods. 251:123-35; Schoonooghe S.ら, 2009 BMC Biotechnol. 9:70; Abdel-Salam, HA.ら, 2001 Appl Microbiol Biotechnol 56(1-2):157-64; Takahashi K.ら, 2000 Biosci Biotechnol Biochem 64(10):2138-44; Edqvist, J.ら, 1991 J Biotechnol 20(3):291-300を参照)、ハンゼヌラ属またはサッカロミセス属などの酵母細胞において発現させる。当業者は、例えば、酸素条件(例えば、Baumann K.ら 2010 BMC Syst. Biol. 4:141を参照)、モル浸透圧濃度(例えば、Dragosits, M.ら, 2010 BMC Genomics 11:207)、温度(例えば、Dragosits, M.ら, 2009 J Proteome Res. 8(3):1380-92を参照)、発酵条件(例えば、Ning, D.ら 2005 J. Biochem. and Mol. Biol. 38(3): 294-299を参照)、酵母菌株(例えば、Kozyr, AVら 2004 Mol Biol (Mosk) 38(6):1067-75; Horwitz, AH.ら, 1988 Proc Natl Acad Sci U S A 85(22):8678-82; Bowdish, K.ら 1991 J Biol Chem 266(18):11901-8を参照)、抗体産生を高めるためのタンパク質の過剰発現(例えば、Gasser, B.ら, 2006 Biotechol. Bioeng. 94(2):353-61を参照)、培養物の酸性レベル(例えば、Kobayashi H.ら, 1997 FEMS Microbiol Lett 152(2):235-42を参照)、基質および/またはイオンの濃度(例えば、Ko JH.ら, 2996 Appl Biochem Biotechnol 60(1):41-8を参照)を最適化することにより酵母における抗体産生を最適化することができる。また、酵母系を使用して長い半減期を有する抗体を産生させることができる(例えば、Smith, BJ.ら 2001 Bioconjug Chem 12(5):750-756を参照)。
【0085】
好ましい一実施形態では、抗体を哺乳類の細胞で産生させる。クローン抗体またはその抗原結合断片を発現させるための好ましい哺乳類宿主細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)(例えばKaufman and Sharp, 1982, Mol. Biol. 159:601 621に記載されているDHFR選択可能なマーカーと共に使用される、Urlaub and Chasin, 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216-4220に記載されているdhfrCHO細胞を含む)、リンパ球細胞株、例えばNS0骨髄腫細胞およびSP2細胞、COS細胞、HEK293T細胞(J. Immunol. Methods (2004) 289(1-2):65-80)、およびトランスジェニック動物(例えばトランスジェニック哺乳類)からの細胞が挙げられる。例えば当該細胞は乳房上皮細胞である。
【0086】
いくつかの実施形態では、血漿カリクレイン結合抗体を植物または無細胞系で産生させる(例えば、Galeffi, P.ら, 2006 J Transl Med 4:39を参照)。
【0087】
多様な免疫グロブリンドメインをコードする核酸配列に加えて、組換え発現ベクターは、宿主細胞においてベクターの複製を制御する配列(例えば複製起点)および選択可能なマーカー遺伝子などのさらなる配列を運搬してもよい。選択可能なマーカー遺伝子により、その中にベクターが導入されている宿主細胞の選択が容易になる(例えば、米国特許第4,399,216号、第4,634,665号および第5,179,017号を参照)。例えば、典型的には選択可能なマーカー遺伝子は、ベクターが導入されている宿主細胞に対してG418、ハイグロマイシンまたはメトトレキサートなどの薬物に対する耐性を与える。好ましい選択可能なマーカー遺伝子としては、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子(メトトレキサートによる選択/増幅を用いてdhfr宿主細胞で使用するため)およびneo遺伝子(G418選択のため)が挙げられる。
【0088】
抗体またはその抗原結合部分の組換え発現のための例示的な系では、リン酸カルシウム法による形質移入により、抗体重鎖および抗体軽鎖の両方をコードする組換え発現ベクターをdhfrCHO細胞に導入する。組換え発現ベクターの中では、この抗体重鎖および軽鎖遺伝子はそれぞれ、遺伝子の高レベルの転写を活性化するためのエンハンサー/プロモーター調節エレメント(例えば、SV40、CMV、アデノウイルスなどに由来する、CMVエンハンサー/AdMLPプロモーター調節エレメントまたはSV40エンハンサー/AdMLPプロモーター調節エレメントなど)に機能的に連結されている。組換え発現ベクターはDHFR遺伝子も運搬し、これによりメトトレキサートによる選択/増幅を用いてベクターで形質転換されているCHO細胞の選択が可能になる。選択された形質転換体宿主細胞を培養して抗体の重鎖および軽鎖の発現を可能にし、インタクトな抗体をこの培地から回収する。標準的な分子生物学技術を使用して組換え発現ベクターを調製し、宿主細胞を形質転換させ、形質転換体を選択し、宿主細胞を培養して、この培地から抗体を回収する。例えば、一部の抗体は、タンパク質Aまたはタンパク質G結合マトリックスを用いる親和性クロマトグラフィーによって単離することができる。
【0089】
Fcドメインを含む抗体では、抗体産生系によりFc領域がグリコシル化された抗体を産生させてもよい。例えばIgG分子のFcドメインは、CH2ドメインのアスパラギン297においてグリコシル化されている。このアスパラギンは二分岐オリゴ糖による修飾のための部位である。このグリコシル化はFcg受容体および補体C1qによって媒介されるエフェクター機能のために必要であることが実証されている(Burton and Woof, 1992, Adv. Immunol. 51:1-84; Jefferisら, 1998, Immunol. Rev. 163:59-76)。一実施形態では、Fcドメインは、アスパラギン297に対応する残基を適当にグリコシル化する哺乳類の発現系において産生される。Fcドメインは他の真核生物翻訳後修飾も含むことができる。
【0090】
トランスジェニック動物によって抗体を産生させることもできる。例えば、米国特許第5,849,992号は、トランスジェニック哺乳類の乳腺において抗体を発現させる方法について記載している。乳汁特異的プロモーターおよび目的の抗体をコードする核酸および分泌のためのシグナル配列を含む導入遺伝子を構築する。そのようなトランスジェニック哺乳類の雌によって生成される乳汁は、その中で分泌される目的の抗体を含む。この抗体を乳汁から精製したり、いくつかの用途では直接使用したりすることができる。
【0091】
医薬組成物
本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)は組成物、例えば薬学的に許容される組成物または医薬組成物中に存在していてもよい。本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)を薬学的に許容される担体と共に製剤化することができる。いくつかの実施形態では、30mg~400mgのDX-2930抗体は任意で薬学的に許容される担体と共に組成物、例えば薬学的に許容される組成物または医薬組成物中に存在する。いくつかの実施形態では、30mg、100mg、150mg、300mgまたは400mgのDX-2930抗体は任意で薬学的に許容される担体と共に組成物、例えば薬学的に許容される組成物または医薬組成物中に存在する。
【0092】
薬学的に許容される担体としては、生理学的に適合可能なありとあらゆる溶媒、分散媒、被覆剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが挙げられる。担体は皮下、静脈内、筋肉内、非経口、脊髄または表皮投与(例えば、注射または注入による)に適していることが好ましいが、吸入および鼻腔内投与に適した担体も想定される。いくつかの実施形態では、薬学的に許容される担体は、リン酸ナトリウム、クエン酸、ヒスチジン、塩化ナトリウムおよびTween80のうちの1種以上である。いくつかの実施形態では、薬学的に許容される担体はリン酸ナトリウム、クエン酸、ヒスチジン、塩化ナトリウムおよびTween80である。いくつかの実施形態では、DX-2930などの抗体を30mMのリン酸ナトリウム、8.6mMのクエン酸、50mMのヒスチジン、90mMの塩化ナトリウム、0.01%のTween80(pH6.0)中で製剤化する。いくつかの実施形態では、当該組成物は、30mMのリン酸ナトリウム、8.6mMのクエン酸、50mMのヒスチジン、90mMの塩化ナトリウム、0.01%のTween80の溶液1mL当たり100mgのDX-2930を含むかそれからなる。
【0093】
薬学的に許容される塩は、当該化合物の所望の生物活性を保持し、かつどんな望ましくない毒性作用も与えない塩である(例えば、Berge, S.M.ら, 1977, J. Pharm. Sci. 66:1-19を参照)。そのような塩の例としては酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素、ヨウ化水素、亜リン酸などの非毒性の無機酸、ならびに脂肪族モノおよびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸などの非毒性の有機酸から得られるものが挙げられる。塩基付加塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属ならびにN,N’-ジベンジルエチレンジアミン、N-メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカインなどの非毒性の有機アミンから得られるものが挙げられる。
【0094】
当該組成物は様々な形態であってもよい。そのような形態としては、例えば、液体溶液(例えば、注射可能および注入可能な溶液)、分散液または懸濁液、錠剤、丸剤、粉末、リポソームおよび坐剤などの、液体、半固体および固体の剤形が挙げられる。これらの剤形は、意図される投与様式および治療用途によって決まってもよい。多くの組成物は、ヒトに抗体を投与するために使用されるものと同様の組成物などの、注射可能または注入可能な溶液の形態である。例示的な投与様式は非経口(例えば、静脈内、皮下、腹膜内、筋肉内)である。一実施形態では、当該血漿カリクレイン結合タンパク質を静脈内注入または注射によって投与する。別の好ましい実施形態では、当該血漿カリクレイン結合タンパク質を筋肉内または皮下注射によって投与する。別の好ましい実施形態では、当該血漿カリクレイン結合タンパク質を腹膜内注射によって投与する。
【0095】
本明細書で使用される「非経口投与」および「非経口で投与される」という語句は、腸内および局所投与以外の通常は注射による投与様式を意味し、限定されるものではないが、静脈内、筋肉内、動脈内、クモ膜下腔内、関節内、眼窩内、心臓内、皮内、腹膜内、気管内、皮下、表皮下、関節内、被膜下、クモ膜下、脊椎内、硬膜外および胸骨内注射および注入が挙げられる。
【0096】
当該組成物を溶液、マイクロエマルション、分散液、リポソームまたは、高い薬物濃度に適した他の規則構造体として製剤化することができる。上に列挙した1種の成分または成分の組み合わせを含む適当な溶媒に当該結合タンパク質を必要な量で組み込み、かつ必要に応じてその後に濾過滅菌することにより、無菌注射溶液を調製することができる。一般に、基礎分散媒および上に列挙したもののうち必要な他の成分を含む無菌媒体に活性化合物を組み込むことにより分散液を調製する。無菌注射溶液の調製のための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は真空乾燥および凍結乾燥であり、それにより以前に無菌濾過したその溶液から活性成分の粉末+あらゆるさらなる所望の成分を得る。溶液の適切な流動性は、例えばレシチンなどの被覆剤の使用により、分散液の場合には必要な粒径の維持により、そして界面活性剤の使用により維持することができる。当該組成物中に吸収を遅らせる薬剤、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンを含めることにより、注射可能な組成物の長期吸収をもたらすことができる。
【0097】
本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)は、静脈内注射または注入などの様々な方法によって投与することができる。例えば、いくつかの治療用途では、当該抗体を静脈内注入により30、20、10、5または1mg/分未満の速度で、約1~100mg/mまたは7~25mg/mの用量に達するように投与することができる。投与の経路および/または様式は所望の結果に応じて異なる。特定の実施形態では、埋込物およびマイクロカプセル化送達システムなどの制御放出製剤のように、当該活性化合物を当該化合物の急速放出を防ぐ担体と共に調製してもよい。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物(polyanhydride)、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸などの生分解性の生体適合性ポリマーを使用することができる。そのような製剤の多くの調製方法が利用可能である。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems, J.R. Robinson, ed., 1978, Marcel Dekker, Inc., New Yorkを参照されたい。
【0098】
医薬組成物は医療装置を用いて投与することができる。例えば、一実施形態では、本明細書に開示されている医薬組成物を装置、例えば無針皮下注射装置、ポンプまたは埋込物を用いて投与することができる。
【0099】
特定の実施形態では、本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)を生体内で適切に分布させることができるように製剤化することができる。例えば、血液脳関門(BBB)は多くの高親水性化合物を透過させない。本明細書に開示されている治療用化合物がBBBを透過する(所望であれば)ことができるように、それらを例えばリポソームに入れて製剤化することができる。リポソームの製造方法については、例えば、米国特許第4,522,811号、第5,374,548号および第5,399,331号を参照されたい。リポソームは特異的な細胞または臓器の中に選択的に輸送される1つ以上の部分を含んでもよく、このようにして標的とされる薬物送達を高めてもよい(例えば、V.V. Ranade, 1989, J. Clin. Pharmacol. 29:685を参照)。
【0100】
最適な所望の応答(例えば治療応答)を得るように投与レジメンを調整する。例えば、単回ボーラスを投与してもよく、ゆっくり時間をかけていくつかの分割用量を投与してもよく、あるいは治療の状況の緊急性によって必要が示される場合には用量を比例的に増減させてもよい。投与の容易性および投与量の均等性のために、非経口組成物を単位剤形で製剤化すると特に有利である。本明細書で使用される単位剤形とは、治療される対象のための単位投与量として適した物理的に分離した単位を指し、各単位は、必要な医薬担体と組み合わせた、所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含む。単位剤形の詳細は、(a)当該活性化合物の固有の特性および達成される特定の治療効果、ならびに(b)個体における感受性に対処するためのそのような活性化合物の配合の分野における固有の限界によって決まり、かつそれらに直接依存する。
【0101】
本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)の治療的または予防的有効量の例示的な非限定的範囲は、30mg~400mgまたはそれらの間の任意の整数、例えば、100~400mg、100~300mgまたは300~400mgである。いくつかの実施形態では、治療的または予防的有効量は30mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mgまたは400mgである。
【0102】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)の治療的または予防的有効量は30mg、100mg、150mg、300mgまたは400mgである。いくつかの実施形態では、治療的または予防的有効量は150mgである。いくつかの実施形態では、治療的または予防的有効量は300mgである。いくつかの実施形態では、治療的または予防的有効量は400mgである。
【0103】
いくつかの実施形態では、治療的または予防的有効量を少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、少なくとも10回またはそれ以上で投与する。いくつかの実施形態では、治療的または予防的有効量を隔週で(すなわち2週間ごとに)投与する。いくつかの実施形態では、治療的または予防的有効量は300mgまたは400mgであり、その量を2週間ごとに投与する。いくつかの実施形態では、治療的または予防的有効量は300mgであり、この量の抗体を2週間ごとに投与する。いくつかの実施形態では、治療的または予防的有効量は400mgであり、この量の抗体を2週間ごとに投与する。
【0104】
いくつかの実施形態では、DX-2930などの抗pKal抗体のいずれかの治療は、少なくとも負荷投与期間および維持期間を含む治療レジメンを含む。いくつかの実施形態では、負荷投与期間の当該抗体の治療的または予防的有効量は各投与当たり100~300mg(例えば150mgまたは300mg)である。この期間中に、当該抗体を毎週(例えば、1、2または3週間にわたって毎週)投与してもよい。一例では、負荷投与期間は2週間であり、当該抗体を0日目、7日目および14日目に投与する。
【0105】
代わりまたは追加として、維持期間のための治療的または予防的有効量は、各投与当たり約100~300mg(例えば150mgまたは300mg)である。この期間中に、当該抗体を隔週(すなわち2週間ごと)、3週間ごと、または4週間ごとに投与することができる(例えば、10週間にわたって2週間ごとに投与し、全部で5回の用量の送達が得られる)。一例では、維持期間は10週間続いてもよく、当該抗体を28日目、42日目、56日目、70日目および84日目に投与する。
【0106】
いくつかの実施形態では、DX-2930などの抗pKal抗体を150mgまたは300mgで投与し、その量を最初に好適な期間にわたって毎週(例えば、1、2または3週間にわたって毎週)投与し、その後に好適な期間にわたって2~4週間ごと(例えば、2、3または4週間ごと)に投与する。
【0107】
本明細書に記載されている方法のいずれかにおいて、当該治療レジメンは維持期間後に経過観察期間をさらに含んでもよい。経過観察期間では、DX-2930などの抗体を2~4週間ごとに100~300mg、例えば300mgで投与してもよい。場合によっては、負荷投与期間、維持期間および経過観察期間のうちの1つ以上で投与量を400mgまで増加させてもよい。
【0108】
本明細書に開示されている医薬組成物は、「治療的有効量」または「予防的有効量」の本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)を含んでもよい。
【0109】
キット
本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)をキットに入れて、例えばキットの構成要素として提供することができる。例えば、当該キットは、(a)DX-2930抗体、例えば当該抗体を含む組成物(例えば医薬組成物)と、任意で(b)情報資料とを含む。情報資料は記述的資料、説明資料、マーケティング資料または、本明細書に記載されている方法および/または例えば本明細書に記載されている方法のための本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)の使用に関する他の資料であってもよい。いくつかの実施形態では、当該キットは1回以上の用量のDX-2930を含む。いくつかの実施形態では、1回以上の用量は30mg、100mg、150mg、300mgまたは400mgである。
【0110】
当該キットの情報資料はその形態に限定されない。一実施形態では、情報資料は、当該化合物の生成、当該化合物の分子量、濃度、使用期限、バッチまたは製造場所情報などに関する情報を含むことができる。一実施形態では、情報資料は、疾患および病気(例えば血漿カリクレインに関連する疾患または病気)を治療、予防または診断するための当該抗体の使用に関する。
【0111】
一実施形態では、情報資料は本明細書に記載されている方法を実施するのに好適な方法で、例えば好適な用量、剤形、投与様式または投薬スケジュール(例えば、本明細書に記載されている用量、剤形、投薬スケジュールまたは投与様式)で本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)を投与するための説明書を含むことができる。別の実施形態では、情報資料は好適な対象、例えばヒト(例えば、疾患または病気に関連する血漿カリクレインを有するかそのリスクのあるヒト)に本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)を投与するための説明書を含むことができる。例えば、当該資料は、例えば本明細書に記載されている投薬スケジュールに従い、本明細書に記載されている疾患または病気(例えば血漿カリクレイン関連疾患)を有する患者に本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)を投与するための説明書を含むことができる。当該キットの情報資料はその形態に限定されない。多くの場合、情報資料(例えば説明書)は印刷物として提供されるが、コンピュータ可読媒体などの他の形式であってもよい。
【0112】
本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)をあらゆる形態、例えば、液体、乾燥または凍結乾燥した形態で提供することができる。抗体は実質的に純粋かつ/または無菌であることが好ましい。抗体を液体溶液として提供する場合、その液体溶液は好ましくは水溶液であり、無菌水溶液が好ましい。抗体を乾燥した形態で提供する場合、再構成は一般に好適な溶媒の添加によるものである。その溶媒(例えば滅菌水または緩衝液)は任意で当該キットに入れて提供することができる。
【0113】
当該キットは、本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)を含む組成物のための1つ以上の容器を含むことができる。いくつかの実施形態では、当該キットは、当該組成物および情報資料のための別個の容器、仕切りまたは区画を含む。例えば、当該組成物を瓶、バイアルまたは注射器に収容することができ、情報資料をその容器に付随して含めることができる。他の実施形態では、当該キットの別個の要素を仕切りのない単一の容器に収容する。例えば、ラベルの形態の情報資料が貼り付けられた瓶、バイアルまたは注射器に当該組成物を収容する。いくつかの実施形態では、当該キットは、それぞれが本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)の1つ以上の単位剤形(例えば、本明細書に記載されている剤形)を含む複数の個々の容器(例えばパック)を含む。例えば、当該キットは、それぞれが本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)の単回の単位用量を含む複数の注射器、アンプル、ホイルパケットまたはブリスターパックを含む。当該キットの容器は、気密性、防水性(例えば、湿気の変化または蒸発に対して不透水性)および/または遮光性であってもよい。
【0114】
当該キットは任意で当該組成物の投与に適した装置、例えば注射器またはあらゆるそのような送達装置を含む。一実施形態では、当該装置は定量された抗体を投与する埋込装置である。本開示は、例えば本明細書に記載されている構成要素を1つにまとめてキットを提供する方法も特徴とする。
【0115】
治療
いくつかの態様では、本開示はHAEを治療する際の本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)の使用を提供する。
【0116】
遺伝性血管浮腫
遺伝性血管浮腫(HAE)は「クインケ浮腫」、C1エステラーゼインヒビター欠損、C1インヒビター欠損および遺伝性血管神経性浮腫(HANE)としても知られている。HAEは、例えば、肢、顔、性器、消化管および気道を冒し得る重度の腫れ(血管浮腫)の再発性の症状発現を特徴とする。HAEの症状としては、例えば、腕、脚、唇、眼、舌および/または喉の腫れ、喉の腫れや突然の嗄声を伴うことがある気道閉塞、明らかな原因が不明の腹部痙攣の反復性症状発現および/または腸の腫れなどが挙げられ、それらは重症になることがあり、腹部痙攣、嘔吐、脱水、下痢、疼痛および/またはショックを引き起こすことがある。このようなHAEを有する個体の約3分の1が発作中に有縁性紅斑と呼ばれる痒みのない発疹を生じる。
【0117】
気道の腫れは生命を脅かす可能性があり、患者の中には死亡するものもいる。死亡率は15~33%と推定されている。HAEが原因で1年間に約15,000~30,000人が救急に来院する。
【0118】
外傷またはストレス、例えば、歯科治療、病気(例えば、風邪やインフルエンザなどのウイルス性疾患)、月経および外科手術が血管浮腫の発作の誘因となることがある。HAEの急性発作を防ぐために、患者は以前に発作を引き起こしたことのある特定の刺激を回避することを試みることができる。しかし、発作は公知の誘因以外で生じることが多い。典型的には、HAE症状は最初に幼児期に現れ、思春期の間に悪化する。平均すると、未治療の個体は1~2週間ごとに発作を有し、大部分の症状発現は約3~4日間続く(ghr.nlm.nih.gov/condition/hereditary-angioedema)。発作の頻度および持続期間は遺伝性血管浮腫を有する人々の中で大きく異なり、同じ家族の人々の間でさえも大きく異なる。
【0119】
I型、II型およびIII型として知られている3つの型のHAEがあり、それら全てを本明細書に記載されている方法によって治療することができる。HAEは50,000人に1人を冒し、I型は症例の約85%を占め、II型は症例の約15%を占め、III型は非常に稀であると推定されている。I型またはII型HAEを有する患者は典型的にC1-INHが欠損している。そのような患者は、欠陥のあるC1-INH遺伝子を有するため、C1-INHを産生しないか通常でないC1-INHタンパク質を産生する。III型は最も新しく登場した形態であり、当初は女性のみに生じると考えられていたが、罹患した男性がいる家族が確認されている。III型HAEはC1-INHとは関連がないと考えられている。III型HAEを有する患者は正常なC1-INHタンパク質を有していることがある。
【0120】
HAEは、罹患した人が1人の罹患した親から突然変異を受け継いだ可能性があるような常染色体優性遺伝形式で受け継がれる。遺伝子における新しい突然変異も生じる可能性があり、従って、HAEは自身の家族の中にその疾患の既往歴がない人々においても生じる可能性がある。症例の20~25%は新しい自然発生的な突然変異に起因するものであると推定されている。
【0121】
SERPING1遺伝子の突然変異が、I型およびII型遺伝性血管浮腫を引き起こす。SERPING1遺伝子は炎症を制御するのに重要なC1インヒビタータンパク質を産生するための命令を与える。C1インヒビターは炎症を促進する特定のタンパク質の活性を阻止する。I型遺伝性血管浮腫を引き起こす突然変異により血中のC1インヒビターレベルが減少する。対照的に、II型を引き起こす突然変異により、異常に機能するC1インヒビターが産生される。適切なレベルの機能的C1インヒビターが存在しないと、過剰な量のブラジキニンが産生される。ブラジキニンは、血管壁から体組織内への流体の漏れを増加させることにより炎症を促進する。体組織内の流体の過剰な蓄積は、I型およびII型遺伝性血管浮腫を有する個体に見られる腫れの症状発現を引き起こす。
【0122】
F12遺伝子の突然変異は、III型遺伝性血管浮腫のいくつかの症例に関連している。F12遺伝子は第XII凝固因子を産生するための命令を与える。第XII因子は血液凝固(凝血)において重要な役割を担うだけでなく、炎症の重要な刺激物質でもあり、ブラジキニンの産生に関与する。F12遺伝子の特定の突然変異により、高い活性を有する第XII因子が産生される。その結果、より多くのブラジキニンが産生され、血管壁はより漏れやすくなり、これにより腫れの症状発現が生じる。III型遺伝性血管浮腫の他の症例の原因は未知なままである。1種以上の未だに同定されていない遺伝子の突然変異がこれらの症例における疾患に関与しているかもしれない。
【0123】
HAEは、アレルギーまたは他の医学的状態から生じる他の形態の血管浮腫と同じように現れる場合があるが、原因および治療において顕著に異なる。遺伝性血管浮腫がアレルギーと誤診された場合、最も一般的には、通常HAEには効果がない抗ヒスタミン薬、ステロイドおよび/またはエピネフリンで治療されるが、エピネフリンは生命を脅かす反応に対して使用することができる。誤診により腹部の腫れを有する患者に対して不必要な診査手術も行われ、HAE患者の中には腹痛が心因性のものとして誤診されるものもいる。
【0124】
C1インヒビター療法ならびにHAEのための他の治療法については、Kaplan, A.P., J Allergy Clin Immunol, 2010, 126(5):918-925に記載されている。
【0125】
早急に浮腫の進行を食い止めるためにHAE発作の急性治療が行われる。静脈内に投与されるドナー血液から得られたC1インヒビター濃縮物は急性治療の1つであるが、この治療は多くの国々で利用可能ではない。C1インヒビター濃縮物が利用可能ではない緊急事態では、新鮮な凍結させた血漿(FFP)もC1インヒビターを含むため、代わりとして使用することができる。
【0126】
欧州では1979年からヒトの血液由来の精製されたC1インヒビターが使用されている。米国ではいくつかのC1インヒビター治療が現在利用可能であり、カナダでは2種類のC1インヒビター製品が現在利用可能である。殺菌されているBerinert P(CS LBehring社)が急性発作のために2009年にF.D.A.によって認可された。ナノ濾過されているCinryze(ViroPharma社)が予防のために2008年にF.D.A.によって認可された。Rhucin(Pharming社)は、ヒト血液由来の病原体による感染症伝播のリスクのない開発中の組換えC1インヒビターである。
【0127】
急性HAE発作の治療は、鎮痛および/または点滴のための薬物療法も含むことができる。
【0128】
他の治療法は、C1インヒビターの合成を刺激するかC1インヒビターの消費を減少させることができる。ダナゾールなどのアンドロゲン薬物療法は、C1インヒビターの産生を刺激することにより発作の頻度および重症度を低下させることができる。
【0129】
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は腹部の発作の誘因になり得る。ピロリ菌を治療するための抗生物質は腹部の発作を減少させる。
【0130】
より新しい治療は接触カスケードを攻撃する。エカランチド(KALBITOR(登録商標)、DX-88、Dyax社)は血漿カリクレインを阻害するものであり、米国で認可されている。イカチバント(FIRAZYR(登録商標)、Shire社)は、ブラジキニンB2受容体を阻害するものであり、欧州および米国で認可されている。
【0131】
HAEの診断は、例えば家族歴および/または血液検査に依存することができる。I型、II型およびIII型HAEに関連する検査所見については、例えばKaplan, A.P., J Allergy Clin Immunol, 2010, 126(5):918-925に記載されている。I型HAEでは、C4レベルと同じようにC1インヒビターレベルは低下するが、C1qレベルは正常である。II型HAEでは、C1インヒビターレベルは正常であるか上昇するが、C1インヒビター機能は異常である。C4レベルは低下し、C1qレベルは正常である。III型では、C1インヒビター、C4およびC1qのレベルは全て正常である可能性がある。
【0132】
HAEの症状は、例えば質問表(例えば患者、臨床医または家族の一員が記入する質問表)を用いて評価することができる。そのような質問表は当該技術分野で知られており、例えば視覚的アナログスケールが挙げられる。例えば、McMillan, C.V.ら Patient. 2012;5(2):113-26を参照されたい。
【0133】
抗PKal抗体によるHAEの治療
本開示は、例えば本明細書に記載されている投薬スケジュールに従い、本明細書に記載されている抗体(例えば、治療的有効量の本明細書に記載されている抗体)を、HAEを有するかその疑いのある対象に投与することにより遺伝性血管浮腫(HAE)を治療する(例えば、1つ以上の症状を寛解、安定化または除去する)方法を提供する。さらに、例えば本明細書に記載されている投薬スケジュールに従うか、第2の治療法(例えば、本明細書に記載されている例えば1種の他の薬剤)と組み合わせて、本明細書に記載されている抗体(例えば、治療的有効量の本明細書に記載されている抗体)を投与することによりHAEを治療する方法を提供する。本開示は、例えば本明細書に記載されている投薬スケジュールに従い、本明細書に記載されている抗体(例えば、予防的有効量の本明細書に記載されている抗体)を、HAEを発症するリスクのある対象(例えば、HAEまたはそれに対する遺伝的素因を有する家族の一員がいる対象)に投与することによりHAEまたはその症状を予防する方法も提供する。いくつかの例では、当該対象は治療の時点でHAEの症状を有していないヒトの患者であってもよい。
【0134】
治療は当該疾患、当該疾患の症状または当該疾患に対する素因を軽減させる、緩和させる、変化させる、修復する、寛解させる、改善するかそれに影響を及ぼすのに有効な量の投与を含む。当該治療により、疾患または病気の発症を遅らせもよく、例えばその発症を予防するかその悪化を防止してもよい。
【0135】
DX-2930抗体の投与方法については「医薬組成物」の箇所にも記載されている。使用される抗体の好適な投与量は、当該対象の年齢および体重ならびに使用される特定の薬物によって決まってもよい。当該抗体は、例えば血漿カリクレインとその基質(例えば、第XII因子またはHMWK)との間での望ましくない相互作用を阻害するか減少させるための競合薬として使用することができる。当該抗体の用量は、患者の特に疾患部位における血漿カリクレインの活性の90%、95%、99%または99.9%を阻止するのに十分な量であればよい。これには、例えば2週間ごとに投与される30mg、100mg、300mgまたは400mgが必要となることがある。
【0136】
一実施形態では、当該抗体を使用して例えば生体内での血漿カリクレインの活性を阻害する(例えば、血漿カリクレインの少なくとも1つの活性を阻害する、例えば第XIIa因子および/またはブラジキニン産生を減少させる)。当該結合タンパク質は単独で、あるいは薬剤(例えば、細胞毒性薬、細胞毒素、酵素または放射性同位体)に結合させて使用することができる。
【0137】
当該抗体を直接生体内で使用して、天然の補体依存性細胞傷害(CDC)または抗体依存性細胞傷害(ADCC)により抗原発現細胞を除去することができる。本明細書に記載されている抗体は、IgG1、IgG2またはIgG3のFc部分あるいは補体に結合するIgMの対応する部分などの補体結合エフェクタードメインを含むことができる。一実施形態では、標的細胞集団を本明細書に記載されている抗体および適当なエフェクター細胞により生体外で処理する。この処理は補体または補体を含む血清の添加により補うことができる。さらに、本明細書に記載されている抗体で被覆された標的細胞の食作用を、補体タンパク質の結合によって高めることができる。別の実施形態では、補体結合エフェクタードメインを含む抗体で被覆された標的細胞を補体により溶解する。
【0138】
DX-2930抗体の投与方法は「医薬組成物」の箇所に記載されている。使用される分子の好適な投与量は対象の年齢および体重ならびに使用される特定の薬物によって決まってもよい。当該抗体は、例えば自然物質または病的物質と血漿カリクレインとの間での望ましくない相互作用を阻害するか減少させるための競合薬として使用することができる。
【0139】
治療的有効量の本明細書に記載されている抗体を、HAEを有するかその疑いまたはリスクのある対象に投与し、それにより当該疾患を治療する(例えば、疾患の症状または特徴を寛解または改善させ、疾患の進行を遅らせ、安定化させ、かつ/または食い止める)ことができる。
【0140】
本明細書に記載されている抗体を治療的有効量で投与することができる。抗体の治療的有効量は、そのような治療の非存在下で期待される程度を超える程度まで対象を治療する、例えば対象における疾患の少なくとも1つの症状を治癒、軽減、緩和または改善させる際に対象に単回または複数回用量を投与すると有効な量である。
【0141】
最適な所望の応答(例えば治療応答)を得るように投与レジメンを調整することができる。例えば、単回ボーラスを投与してもよく、ゆっくり時間をかけていくつかの分割用量を投与してもよく、あるいは治療の状況の緊急性によって必要が示される場合には用量を比例的に増減させてもよい。投与の容易性および投与量の均等性のために、非経口組成物を単位剤形で製剤化すると特に有利である。本明細書で使用される単位剤形とは、治療される対象のための単位投与量として適した物理的に分離した単位を指し、各単位は、必要な医薬担体と組み合わせた、所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含む。
【0142】
いくつかの実施形態では、2週間ごとに1回、3週間ごとに1回、4週間ごとに1回、6週間ごとに1回、8週間ごとに1回またはそれによりも少ない頻度などの複数回用量によりDX-2930抗体を投与する。複数回用量はそれぞれ、30mg、100mg、150mg、300mg、350mgまたは400mgであってもよい。場合によっては、複数回用量を患者に好適な期間にわたって2週間ごとに1回与えてもよい。いくつかの実施形態では、DX-2930を2週間ごとに300mgまたは400mgで投与してもよい。他の実施形態では、DX-2930を4週間ごとに300mgまたは400mgで投与してもよい。さらに他の実施形態では、DX-2930を4週間ごとに150mgで投与してもよい。本明細書に記載されている方法のいずれかにおいて、本明細書に記載されている複数回用量のDX-2930で治療される対象を、維持治療により経過観察してもよい。
【0143】
本明細書に記載されている方法のいずれかにおいて、対象を負荷投与期間において複数回用量のDX-2930で治療し、次いで維持期間により経過観察してもよい。負荷投与期間では、当該対象を好適な期間にわたって2~4週間ごと(例えば、2週間、3週間または4週間ごと)に1回の約100mg~約400mg(例えば、100~300mgまたは150~300mg、例えば、100mg、150mg、200mg、300mgまたは400mg)のDX-2930で治療してもよい。負荷投与期間では、当該対象を好適な期間にわたって2~4週間ごと(例えば、2週間、3週間または4週間ごと)に1回の約100mg~約300mg(例えば、100~300mgまたは150~300mg、例えば、100mg、150mg、200mgまたは300mg)のDX-2930で治療してもよい。
【0144】
いくつかの実施形態では、治療の前もしくは後または治療中に、副作用(例えば、クレアチンホスファターゼレベルの上昇)および/または当該抗体によるpKalの阻害レベル(例えば、当該抗体の血清もしくは血漿中濃度またはpKal活性レベル)について患者を監視してもよい。有害作用を観察する場合、当該抗体の用量を減少させてもよく、あるいは当該治療を終了してもよい。阻害レベルが最小治療レベル未満であれば、当該抗体のさらなる用量を当該患者に投与してもよい。
【0145】
いくつかの実施形態では、治療の有効性を評価するために、当該抗体(例えばDX-2930)の血漿もしくは血清中濃度を治療中(例えば初回投与後)に測定してもよい。当該抗体の血漿もしくは血清中濃度が約80nMよりも低ければ、経過観察投与を必要としてもよく、その量は初回投与量と同じかそれ以上であってもよい。当該対象から得られた血漿もしくは血清試料中の当該抗体のタンパク質レベルを例えば免疫測定法またはMSアッセイによって測定することで、当該抗体の血漿もしくは血清中濃度を測定してもよい。また、当該抗体で治療した対象から得られた血漿もしくは血清試料中のpKalの阻害レベルを測定することで、当該抗体の血漿もしくは血清中濃度を測定してもよい。そのようなアッセイとしては、本明細書に記載されている切断されたキニノーゲンを測定するための合成基質アッセイ(synthetic substrate assay)またはウェスタンブロットアッセイを挙げることができる。
【0146】
代わりまたは追加として、治療中にクレアチンキナーゼの血漿もしくは血清レベルを監視してもよい。クレアチンキナーゼの血漿もしくは血清レベルが治療中に上昇することが分かった場合、当該抗体の投与量を減少させてもよく、あるいは治療を終了してもよい。
【0147】
いくつかの実施形態では、当該抗体(例えばDX-2930)の最適な投与量(例えば、最適な予防的投与量または最適な治療的投与量)を以下のように決定してもよい。当該抗体を初回用量で治療を必要とする対象に与える。当該対象における当該抗体の血漿中濃度を測定する。その血漿中濃度が80nMよりも低ければ、その後の投与において当該抗体の用量を増加させる。当該抗体の血漿中濃度を約80nM超に維持する当該抗体の投与量を当該対象にとって最適な投与量として選択することができる。治療中に当該対象のクレアチンホスホキナーゼレベルを監視してもよく、クレアチンホスホキナーゼレベルに基づき対象にとって最適な投与量をさらに調節することができ、例えば、治療中にクレアチンホスホキナーゼの上昇が観察された場合、当該抗体の投与量を減少させてもよい。いくつかの実施形態では、DX-2930などの抗体を投与して切断されたキニノーゲンのレベルを健康な対象に匹敵するレベルまで減少させる。
【0148】
いくつかの実施形態では、DX-2930などの本明細書に開示されている抗体のいずれかおよびその機能的変異体を使用して、HAE発作の病歴を有するヒトの患者においてHAE発作を予防するかHAE発作率を低下させてもよい。いくつかの例では、当該ヒトの患者は、1年間に少なくとも2回および任意で当該治療前の6ヶ月以内に少なくとも1回のHAE発作を経験したものである。他の例では、当該ヒトの患者は当該治療前の3ヶ月以内に少なくとも2回のHAE発作を経験したものである。他の例では、当該ヒトの患者は、当該治療前の3ヶ月以内に少なくとも9回のHAE発作、および任意で当該治療前の12ヶ月以内に少なくとも25回の発作(例えば36回の発作)を有したものである。
【0149】
併用療法
本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)を、血漿カリクレインの活性に関連する疾患または病気、例えば本明細書に記載されている疾患または病気を治療するための1種以上の他の治療法と組み合わせて投与することができる。例えば、本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)を外科手術、別の抗血漿カリクレインFabまたはIgG(例えば、本明細書に記載されている別のFabまたはIgG)、別の血漿カリクレイン阻害剤、ペプチド阻害剤または小分子阻害剤と共に、治療的または予防的に使用することができる。本明細書に記載されている血漿カリクレイン結合抗体との併用療法で使用することができる血漿カリクレイン阻害剤の例としては、例えば国際公開第95/21601号または国際公開第2003/103475号に記載されている血漿カリクレイン阻害剤が挙げられる。
【0150】
1種以上の血漿カリクレイン阻害剤を本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)と組み合わせて使用することができる。例えば、その組み合わせにより、必要とされる阻害剤の用量を低下させることができ、その結果として副作用が減少する。
【0151】
本明細書に記載されている抗体(例えばDX-2930)を、HAEを治療するための1種以上の現在の治療法と組み合わせて投与することができる。例えば、DX-2930抗体をエカランチド、C1エステラーゼインヒビター(例えば、CINRYZE(商標))、アプロチニン(トラジロール(TRASYLOL)(登録商標))および/またはブラジキニンB2受容体阻害剤(例えば、イカチバント(FIRAZYR)(登録商標))などの第2の抗HAE治療薬と同時に使用することができる。
【0152】
「組み合わせ」という用語は、その使用または作用が時間と共に重なり合う、同じ患者を治療するための2種以上の薬剤または治療法の使用を指す。当該薬剤または治療法を同時に(例えば、患者に投与される単一製剤または同時に投与される2種類の別個の製剤として)または任意の順序で連続的に与えることができる。連続投与は異なる時間で行われる投与である。一方の薬剤の投与と他方の薬剤の投与との時間は分、時間、日または週単位であってもよい。本明細書に記載されている血漿カリクレイン結合抗体は、別の治療法の投与量を減少させるために、例えば投与されている別の薬剤に付随する副作用を減少させるために使用することもできる。従って、組み合わせは、当該血漿カリクレイン結合抗体の非存在下で使用される場合よりも少なくとも10、20、30または50%少ない投与量での第2の薬剤の投与を含むことができる。
【0153】
併用療法は、他の治療法の副作用を減少させる薬剤の投与を含むことができる。当該薬剤は血漿カリクレイン関連疾患の治療の副作用を減少させる薬剤であってもよい。
【0154】
さらなる詳細がなくとも、当業者であれば上記説明に基づき本発明を最大限に利用することができると考えられる。従って、以下の具体的な実施形態は単なる例示として解釈されるべきであり、いかなる場合であっても決して本開示の残りの部分を限定するものではない。本明細書で引用されている全ての刊行物は、本明細書で言及されている目的または主題のために参照により組み込まれる。
【実施例
【0155】
実施例1:遺伝性血管浮腫対象におけるDX-2930の安全性、耐容性および薬物動態を評価するための第1b相、二重盲検、複数回漸増用量試験
遺伝性血管浮腫(HAE)対象において異なる用量レベルのDX-2930の複数回皮下投与の安全性および耐容性を評価するために、第1b相試験を行った。本試験に含まれるHAE患者には、以下の全てに基づきHAE(I型またはII型)の文書化された診断を有する患者が含まれていた:HAE(蕁麻疹を伴わない皮下または粘膜の非そう痒性の腫れの症状発現)に一致する文書化された病歴を有すること、正常なレベルの40%未満のC1インヒビター(C1-INH)抗原または機能的レベル(正常範囲未満のC4レベルおよびI型またはII型HAEに一致する家族歴も有していれば、正常なレベルの40~50%の抗原または機能的C1-INHレベルを有する対象も試験に参加した)を有すること、最初の血管浮腫症状の発症を報告した年齢が30歳以下であるかI型またはII型HAEに一致する家族歴を有すること、および1年間に2回以上のHAE発作を経験しており、その少なくとも1回の発作が最近6ヶ月間に当該対象によって報告されていること。試験に参加したHAE患者を2:1の活性薬物:プラセボの比で無作為化し、30mg(n=4)、100mg(n=4)、300mg(n=5)および400mg(n=11)のDX-2930またはプラセボ(n=13)の皮下用量を14日間隔で2回の用量として投与した。400mg群中の1人の患者は用量を1回しか摂取せず、その上2回目の用量も摂取できずに交替させられた。代わりの患者も本試験に無関係であるという理由で本試験を完了することができず、その結果、全部で10人の患者が400mgの用量を完了し、評価に含められた。最長50日目にデータが利用可能である400mgの用量を摂取した群を除いて、投与から最長120日目(15週)の時点で血漿を採取した。分析には安全性、薬物動態、薬力学(バイオマーカー)および有効性が含められた。当該薬物群およびプラセボ群は、年齢、人種、民族性およびBMIに関して群にまとめたが、プラセボ(54%)群に対してDX-2930群(67%)には僅かに多くの女性が含まれていた。
【0156】
DX-2930の薬物動態
DX-2930(M293-D02)に対する抗イディオタイプ抗体を使用する有効な免疫学的検定によってDX-2930薬物濃度を血漿中で測定した。DX-2930投与後の日数に対する各用量群の平均血漿中薬物濃度のプロットから、薬物濃度が用量依存的であり、かつヒトモノクローナル抗体に典型的な長期半減期を示すことは明らかであった。重要な薬物動態観察が表2および図1に要約する。最初に、Cmax薬物濃度は予想通りに用量の増加に伴い増加した。また、2回目の投与後のTmaxは約20日であり、半減期は約14日であった。これらのパラメーターは健康志願者における第1a相試験で得られた値と一致しており、1ヶ月に1回または2回の投薬のどちらも支持するものであった。
【表2】
【0157】
DX-2930の薬力学的活性:蛍光発生活性アッセイ
2種類の異なるバイオマーカーアッセイを使用してHAE患者の血漿中のDX-2930の薬力学的(PD)活性を調べた。第1のPDアッセイを蛍光発生活性アッセイと呼び、これは、DX-2930の薬物動態学的特性を決定するために使用される投薬後の同じ時点で治療した患者から得られたクエン酸添加血漿中のDX-2930の生理活性の尺度を提供する。このアッセイにより、接触経路の活性化後に希釈血漿中で産生される活性血漿カリクレインの量を測定した。具体的には、希釈血漿に接触経路の酵素カスケードを伝播させる活性な第XIIa因子(FXIIa)を添加し、2分後にFXIIa阻害剤であるコーントリプシン阻害剤を添加して反応を停止させ、試料中に存在する活性血漿カリクレインの量をプロ蛍光性(pro-fluorescent)合成ペプチド基質を加水分解するその能力によって測定した。治療した健康志願者(第1a相試験)またはHAE患者(第1b相試験)の血漿中の高レベルのDX-2930の存在は、観察される血漿カリクレイン酵素反応速度(enzymatic rate)における用量依存的減少に関連していた(図2)。各時点で観察される阻害率(%)を各患者の投与前の試料中の血漿カリクレインの活性量に対して計算した。図2の観察された生理活性は、図1のDX-2930の薬物動態学的特性と十分に相関していた。投薬後に300mgおよび400mgの用量において顕著な阻害が観察された。100mgの用量において中間の阻害が観察され、30mgの用量において見かけの阻害は明らかでなかった。
【0158】
DX-2930の薬力学的活性:ウェスタンブロットアッセイ
HAE患者は、血漿カリクレインの内因性インヒビターであるC1インヒビターが欠損している。その結果、これらの患者は、その1本鎖高分子量キニノーゲン基質を2本鎖に変換させる活性血漿カリクレイン、およびHAEにおける疼痛および浮腫の重要なメディエーターであるブラジキニンを上昇させた。DX-2930は、2本鎖およびブラジキニン産生を阻止する活性血漿カリクレインの非常に強力な阻害剤である。
【0159】
異なる血漿抗凝固因子および治療条件における血漿中の1本鎖および2本鎖高分子量キニノーゲンの相対量を測定するために、ウェスタンブロットアッセイを開発した。図3は、プロテアーゼ阻害剤の存在下で採取したHAE患者血漿(SCAT169血漿)中で観察された2本鎖の割合(%)を示す。SCAT169血漿の存在は、接触系の活性化および血液採取および血漿処理中に生じ得るその後の2本鎖の産生を防止した。従って、この2本鎖のレベルは、第1b相試験におけるHAE患者(27%)および健康志願者(12%)の内因性レベルの割合に極めて一致することが予想された。DX-2930で治療したHAE患者は、投薬後8日または22日目のいずれかに採取した試料中で測定した際に、より低い2本鎖レベルを示した。
【0160】
図4によれば、第1b相試験中にHAE患者から得られた投与前のクエン酸添加血漿は約52%の2本鎖を含んでいた。対照的に、第1a相試験中に得られた健康志願者からのクエン酸添加血漿試料は約8%の2本鎖を含んでいた。8日目および22日目に採取した第1b相対象の血漿中の平均2本鎖レベルも調べ、図4に示す。投与前のレベルに対する300mgおよび400mgの用量群における2本鎖レベルの統計的に有意な減少により、DX-2930の薬力学的活性が実証された。
【0161】
図5から、DX-2930を投与したHAE患者から得られたクエン酸添加血漿が第XIIa凝固因子(FXIIa)により生体外で活性化された後により少ない2本鎖を示したことが分かる。300mgおよび400mgの用量群は、2本鎖の量を健康志願者で観察される量よりも少ないレベルまで減少させた。この生体外での活性化を重度のHAE発作の生体外モデルとみなしてもよい。
【0162】
これらのPDバイオマーカーアッセイの両方が、300mgおよび400mgの用量群で得られる薬物濃度を達成する用量選択を支持した。
【0163】
安全性
有害事象の要約を以下の表3に示す。DX-2930の安全性懸念を示す治療中に発生した有害事象(TEAE)に平衡失調は存在しなかった。最も一般的なAEはHAE発作、注射部位疼痛および頭痛であった。3つの深刻なTEAE(1分間持続する注射部位疼痛、1分間持続する悪化する頭痛および寝汗)が存在した。ベースラインからの臨床検査(バイタルサインまたは身体検査)異常または変化あるいは心電図(ECG)における異常または変化について安全性シグナルは確認されなかった。これらの結果は、DX-2930が最大400mgの用量でHAE患者において十分に耐容性があるように見えることを示唆している。
【表3】
【0164】
免疫原性
5人の患者は抗薬物抗体が陽性であった(5人中2人が断続的に変動する結果であった)。但し、陽性試料は中和しておらず、過敏症の臨床的証拠は認められず、かつ薬物動態またはバイオマーカーに対する明らかな影響も認められなかった。
【0165】
有効性の評価
個々および組み合わせの300mgおよび400mgの用量のDX-2930に焦点を当てて、プラセボと比較する後向き主要有効性解析を行った。第1a相から得られたPKモデリングが6週間の主要評価期間(8日目から50日目)中に顕著な薬物曝露を示唆したため、この期間を使用した(図6Aおよび図6B)。主要解析は、最近3ヶ月間に少なくとも2回の発作の最小のベースライン病歴を有する対象に焦点を当てた。当該対象の大部分が最近3ヶ月間に少なくとも2回の発作の最小要件のベースライン病歴を満たしていた。13人のプラセボ対象のうち11人がこの要件を満たしていた。300mgまたは400mgのDX-2930で治療した16人の対象のうち15人がこの要件を満たしていた。プラセボ、300mgおよび400mg群におけるベースラインHAE発作率はそれぞれ1週間に0.39回、0.33回および0.55回の発作であった。300mgおよび400mgの組み合わせ群におけるベースライン率は1週間に0.49回の発作であった。
【0166】
主要手法は包括解析(ITT)であった。ベースライン発作率を共変量として用いる分散分析(ANOVA)による反復測定モデルを使用した。読み出しはプラセボ発作率と比較したDX-2930によるHAE発作の低下率として表し、p値を計算した。
【0167】
有効性評価の結果を表4および表5ならびに図7に示す。どちらもプラセボと比較して個々および組み合わせの300mgおよび400mgの用量のDX-2930によるHAE発作率の低下を示している。特に、300mgまたは400mgで治療した15人のDX-2930対象中13人が本試験の持続期間にわたって発作を生じなかったが、プラセボ群では発作を生じなかったのは11人の対象中たった3人であった。
【表4】
【表5】
【0168】
プラセボ対象では、一次有効性評価期間中に全部で24回の発作を生じた。これらの24回の発作のうち、それらの主要発作位置は13人において腹部であり、1人において喉頭であった。その発作のうち10回は重度であり、6回は中等度であった。24回の発作のうち22回で発作の急性治療を行った。
【0169】
300mgまたは400mgのDX-2930で治療した対象のうち、400mgで治療した1人の対象が1回のHAE発作を生じた。この発作は末梢における軽度なものであり8時間持続したが、急性治療は全く必要ではなかった。発作を経験した400mgのDX-2930で治療したそれ以外の対象は2回の末梢での発作を有した。一方の発作は中等度であり、他方は重度であり、どちらの発作も急性治療法で治療した。HAE発作の特性の要約を表6に示す。
【表6】
【0170】
次に、修正された包括(mITT)事後解析を行った。2人の対象(2回の投与を受けなかった1人の対象とI型またはII型HAEを有していなかった1人の対象)を除外したこと以外は、ITT集団を使用した。修正された解析の結果を表7に示す。8日目から50日目におけるこの修正された包括解析では、プラセボと比較して、300mgのDX-2930群では0.0001未満のp値で発作において100%の低下率が認められた。400mgのDX-2930群では0.0022のp値で発作において95%の低下率が認められた。300mgおよび400mgの組み合わせDX-2930群では0.0007のp値でHAE発作において97%の低下率が認められた。
【表7】
【0171】
経時的な薬物曝露に関連するHAE発作の発生率も評価した。理論によって縛られたくはないが、仮説では、より高い薬物濃度はHAE発作の予防に相関するはずであると考えられており、これは(a)投薬前ならびに投薬後の数日間は発作が観察されるはずであり、(b)薬物濃度が蓄積するにつれて、発作は稀になるか無くなることさえあるはずであり、かつ(c)薬物濃度が低下するにつれて、発作は再び現れるはずであることを意味している。この評価の結果を図8図13に示す。
【0172】
プラセボ群では、高い発作発生率が明らかであった(図8)。これらの事象はどんな特定のパターンもなく本試験の持続期間全体にわたって分散されていた。
【0173】
30mgおよび100mgのDX-2930群では、8日目から50日目に発作は生じなかった(図9および図10)。しかし、これらの群のベースライン発作率は比較的低く、30mg群の薬力学的効果は、目に見える程にはプラセボの効果と異なってはいなかった。300mgのDX-2930群では、投薬前に生じた発作があった。薬物濃度が上昇するにつれて当該対象は発作を生じなくなり、薬物濃度が低下するにつれて発作が再び現れた(図11)。同様のパターンが400mgのDX-2930群でも観察された(図12)。発作の発生率は顕著な薬物曝露の期間中、特に8日目から50日目までの期間内で実質的に低下した。この期間は、薬物の蓄積前または薬物濃度の低下に伴うより低い薬物曝露の期間中に生じる発作に挟まれていた。これらの結果は、DX-2930薬物曝露とHAE発作の予防との間に明らかな関連性があることを示している。
【0174】
DX-2930の有効性をさらに評価するために、高いベースライン発作率を有するHAE患者でも観察されたDX-2930の治療効果を調べた。投薬前の最近3ヶ月間に少なくとも9回の発作を有した対象を特定して評価した。プラセボで治療した1人、300mgのDX-2930で治療した1人および400mgのDX-2930で治療した4人のそのような6人の対象が存在した。
【0175】
プラセボ対象では、観察期間を通して高い割合で発作が生じた(図13、パネルA)。対照的に、薬物濃度が高い場合に300mgのDX-2930で治療した対象は発作を生じなかった(図13、パネルB)。
【0176】
400mgのDX-2930で治療した高いベースライン発作率を有する4人の対象では、8日目から50日目までの期間中に、これらの対象のうち4人全員が発作を生じなかった(図13、パネルC~F)。ここには最近3ヶ月間に36回の発作という非常に高いベースライン率を有する1人の対象が含まれていた。これらのDX-2930で治療した対象における発作のパターンは全体として300mgおよび400mg群に見られたパターンと一致していた。これらの個体は薬物濃度が高い場合はどんな発作も経験しなかった。有意義な薬物蓄積の前または薬物濃度の低下後のいずれかにおいて、薬物濃度が低い場合にのみ発作が生じた。
【0177】
これらのデータから、DX-2930の治療効果が高いベースライン発作率を有するHAE患者のおいて明らかであることも観察された。
【0178】
要約すると、本試験は、(a)DX-2930について明らかな安全性シグナルは存在しなかったこと、(b)PKプロファイルが全体としてモノクローナル抗体と一致し、かつ2週間ごとに1回またはさらにそれよりも少ない頻繁での投薬レジメンを支持したこと、(c)薬力学的データがDX-2930により少なくともキニノーゲンバイオマーカーアッセイの関連においてHAE血漿の異常な不安定性が正常化されたことを実証したこと、および(d)DX-2930によるHAE発作予防の極めて統計的に有意な所見が観察されたことを示している。具体的には、プラセボと比較して、300mgおよび400mgのDX-2930治療群によりそれぞれ発作において100%および88%の低下が認められた。この臨床的効果は経時的な薬物曝露と論理的に関連しており、高いベースライン発作率を有する患者のサブセットでも観察された。
【0179】
これらのデータは、HAE発作に対する長期間の予防におけるDX-2930の概念実証を示している。
【0180】
実施例2:遺伝性血管浮腫患者における血漿カリクレインに対するDX-2930の薬力学的効果
遺伝性血管浮腫(HAE)の発作は、高分子量キニノーゲン(HMWK)を切断して2本鎖HMWKを生じる血漿カリクレイン(pKal)および浮腫誘導性ペプチドであるブラジキニンの急増を生じさせる制御されない接触系の活性化に起因している。DX-2930は、HAE発作の予防のために開発中のpKalのヒトモノクローナル抗体阻害剤である。HAEを有する対象においてDX-2930の薬力学的生理活性を評価した。
【0181】
上記実施例1に記載したように、第1b相多施設二重盲検試験では、I型またはII型HAEを有する対象を無作為化して30mg、100mg、300mgまたは400mg(n=4、4、5、11)用量群あるいはプラセボ(n=13)群として2回のDX-2930皮下投与を行った。試験薬の投与前および投与後(1、8、22、64、92、120日目)に血液試料を得た。2本鎖HMWKのためにウェスタンブロットを用いて、ベースおよびFXIIAで活性化されたクエン酸添加血漿中でpKalを阻害するDX-2930の能力を評価した。
【0182】
本試験から得られた結果から、プラセボで治療した対象と比較した場合、平均2本鎖HMWKレベルが有意に減少し、かつ8および22日目にならびに8、22および50日目に300mgおよび400mgの用量群のそれぞれにおいて本質的に正常化されることが分かった。300mgまたは400mgのDX-2930による治療により、2本鎖産生の急上昇もFXIIAで活性化された試料において健康な個体で観察されるレベルまたはそれよりも低いレベルまで弱まった。低い薬物曝露の期間に対応するDX-2930の投与後64、92または120日目に採取された活性化試料または非活性化試料のいずれにおいても、2本鎖HMWKのレベルは投与前の血漿試料と異ならなかった。
【0183】
要約すると、本試験は、DX-2930がHAE患者において用量および時間依存的にpKalを阻害することを示している。
【0184】
実施例3:薬物曝露と遺伝性血管浮腫を有する対象におけるDX-2930の第1b相試験で観察される臨床的応答との関係
DX-2930は、遺伝性血管浮腫(HAE)発作の予防のために開発中の血漿カリクレインのヒトモノクローナル抗体阻害剤である。上記実施例1に記載されているHAE対象におけるDX-2930の第1b相試験で得られたデータを解析して、薬物曝露と臨床的応答との関係を特徴づけた。
【0185】
この第1b相多施設二重盲検試験では、I型またはII型HAEを有する対象を無作為化して30mg、100mg、300mgまたは400mg(n=4、4、5、11)用量群あるいはプラセボ(n=13)群として2回のDX-2930皮下投与を行った。この事後解析では、HAE発作の発生率を経時的な薬物曝露との関連で評価した。また、DX-2930の最大用量レジメンを摂取する対象との関連で臨床的効果を評価するために、事後の修正された包括有効性解析(mITT)を行った。
【0186】
プラセボで治療した対象は本試験中にHAE発作を報告した(9人の対象、65回のHAE発作)。300mgおよび400mgの用量群では、初回投薬前または直後にHAE発作が報告された。薬物濃度が高いとき(8~50日目)には、1人の対象を除く全ての対象が発作を生じなかった。薬物濃度が低くなるにつれて発作は再び現れた。mITT有効性解析では、8~50日目にプラセボと比較して、300mgおよび400mgのDX-2930群ではそれぞれ発作において100%(P<0.0001)および95%(P=0.0022)の減少が認められた。
【0187】
従って、本試験は、顕著な薬物曝露の期間中にHAE発作が実質的に減少したか皆無になったことを示しており、これは、より高い薬物濃度がHAE発作予防と相関しているはずであるという示唆に一致している。
【0188】
実施例4:遺伝性血管浮腫の長期間の予防のためのDX-2930投薬レジメン候補を特定するためのモデリングおよび解析
DX-2930は遺伝性血管浮腫(HAE)発作の予防のために開発中の血漿カリクレインのヒトモノクローナル抗体阻害剤である。上記実施例1に記載されているDX-2930の第1相試験から得られたデータをモデル化および解析して投薬レジメン候補を特定した。
【0189】
第1相臨床試験から得られた薬物動態、薬力学および有効性データを調べた。血漿薬物濃度に対するHAE発作の発生率を評価して、発作を予防するために必要な薬物濃度を通して定常状態を推定した。
【0190】
極めて重要な有効性研究のために、2週間ごと(q2)または4週間ごと(q4)に300mgおよび4週間ごとに150mgのDX-2930からなる投薬レジメンを検討する。薬物動態学的モデリングにより27,000、9,500および4,750ng/mLの血漿中濃度のそれぞれを通して定常状態を予測する。第1b相試験では、27,000ng/mL(300mgのDX-2930の22日目におけるおおよその薬物濃度に対応する)において、2本鎖高分子量キニノーゲンが健康な対象で観察されるレベルに近いレベルまで抑制された。従って、300mg(q2)は定常状態においてHAE血漿の不安定性を正常化させるものと予測される。HAE予防の成功にはそのような高レベルの薬力学的効果を必要としない場合があるため、血漿薬物濃度に関連する臨床的効果の解析も行った。DX-2930治療後の第1b相試験では、24/25回の発作(96%)、21/25回の発作(84%)および18/25回の発作(72%)がそれぞれ、27,000、9,500および4,750ng/mL未満の血漿中濃度において生じ、これは臨床的応答の有意義な範囲はこの薬物曝露の範囲と関連していることを示唆している。
【0191】
この解析では、極めて重要な有効性研究におけるさらなる臨床試験のためにDX-2930の投薬レジメン候補を特定した。
【0192】
実施例5:Health Analytics社レセプト情報データベースの解析において遺伝性血管浮腫は神経因性疼痛、全身性エリテマトーデスおよび全身性肥満細胞症に関連している
血漿カリクレインキニン系(KKS)は、遺伝性血管浮腫(HAE)の重要なメディエーターであるだけでなく様々な疾患に関連づけられている。本研究では、HAE患者がそのようなKKS関連疾患、すなわち腹部の大動脈瘤、アナフィラキシー、心血管麻痺症候群(cardiac vasoplegia syndrome)、クローン病、糖尿病性黄斑浮腫、特発性アナフィラキシー、神経因性疼痛、乾癬、乾癬性関節炎、網膜症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性肥満細胞症、全身性脈管炎、血栓性脳血管障害(thrombotic cerebrovascular accident)および潰瘍性大腸炎を発症する傾向があるか否かを調査した。
【0193】
本研究では、2010年から1月から2014年7月までの米国の8000万人の生命のための医療費支払人の個々のレベルのレセプト情報データおよびメディケア追加計画を含むTruven MarketScanデータベースを利用した。このデータセット内では、HAE集団(n=1063)および2つの対照集団、すなわちHAE患者を除く血管浮腫集団(n=138,851)および一般集団(n=79,971,098)がICD-9と処方薬物コードとの組み合わせを用いて定められていた。併存疾患のためのレセプト情報を特定して、計算したオッズ比および95%信頼区間(CI)を用いて当該集団全体を比較した。
【0194】
以下の表8に示すように、HAE集団では、血管浮腫対照集団よりも2.3倍(OR:2.30、95%CI:1.47~3.59)も多い頻度でSLEが観察された。血管浮腫対照集団よりも1.45倍(OR:1.45、95%CI:1.01~2.09)多い頻度で神経因性疼痛が観察され、4.79倍(OR:4.79、95%CI:1.51~15.18)も多い頻度で全身性肥満細胞症が観察された。
【表8】
【0195】
要約すると、大型の長期レセプト情報データベースの解析により、SLE、神経因性疼痛および全身性肥満細胞症の併存疾患が他の型の血管浮腫よりもHAE患者において大きな割合を占めていることが明らかとなり、これはKKSの活性がこれらの疾患の発現に寄与している可能性があることを示唆している。従って、HAEを有するかそのリスクのある患者は、神経因性疼痛、全身性エリテマトーデスおよび全身性肥満細胞症などのKKS関連疾患に罹患しやすい傾向があり得る。従って、DX-2930などのpKal阻害剤による治療により、そのようなKKS関連疾患の発生リスクを低下させることができる。
【0196】
実施例6:負荷投与期間および維持期間を含む二重盲検試験
無作為化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較試験を行う。4週間の間に少なくとも1回の発作を有するI型またはII型HAE患者を含むように患者を選択する。導入期間を使用してベースラインHAE発作率を評価する。患者を1:1:1で無作為化して3種類の異なる治療群(300mgのDX-2930、150mgのDX-2930またはプラセボ)に分けて、皮下注射により投与する。本試験を負荷投与期間および維持期間を含めて設計する(図14)。負荷投与期間中の0、7および14日目に対象を治療し、その後は維持期間中に2週間ごとに投薬を行う(28、42、56、70および84日目)。
【0197】
他の実施形態
本明細書に開示されている全ての特徴をあらゆる組み合わせで組み合わせてもよい。本明細書に開示されている各特徴を同じ、同等または同様の目的を果たす他の特徴で置き換えてもよい。従って、明示的に別段の定めがない限り、開示されている各特徴は一般的な一連の同等または同様の特徴の単なる例である。
【0198】
当業者であれば、上記説明から本発明の必須の特性を容易に確認することができ、その趣旨および範囲から逸脱することなく本発明の各種変形および修正を行い、それを各種用法および条件に適合させることができる。従って、他の実施形態も特許請求の範囲に含まれる。
【0199】
均等物
本発明のいくつかの実施形態について本明細書に説明および図示してきたが、当業者であれば、当該機能を実施し、かつ/または本明細書に記載されている結果および/または1つ以上の利点を得るための様々な他の手段および/または構造を容易に思い付き、そのような変形および/または修正のそれぞれが本明細書に記載されている本発明の実施形態の範囲内であるとみなされる。より一般には、当業者であれば、本明細書に記載されている全てのパラメーター、寸法、材料および構成が例示的なものであり、実際のパラメーター、寸法、材料および/または構成は本発明の教示が使用される具体的な用途によって決まることを容易に理解するであろう。当業者であれば、本明細書に記載されている本発明の具体的な実施形態の多くの均等物を認識しているか、日常的な実験法のみを用いて確かめることができる。従って、当然のことながら、上記実施形態は例としてのみ提供されており、添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内で、具体的に記載および特許請求されているもの以外の方法で本発明の実施形態を実施することができる。本開示の本発明の実施形態は、本明細書に記載されている各個々の特徴、システム、物品、材料、キットおよび/または方法に関する。また、2つ以上のそのような特徴、システム、物品、材料、キットおよび/または方法のあらゆる組み合わせは、そのような特徴、システム、物品、材料、キットおよび/または方法が互いに相反しない限り、本開示の本発明の範囲に含まれる。
【0200】
本明細書で定義および使用されている全ての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれる文献内での定義および/または定義されている用語の通常の意味よりも優先されるものと理解されるべきである。
【0201】
本明細書および特許請求の範囲において本明細書で使用される不定冠詞の「1つの(a)」および「1つの(an)」は、特に明らかな矛盾がない限り、「少なくとも1つ」を意味するものとして解釈されるべきである。
【0202】
本明細書および特許請求の範囲において本明細書で使用される「および/または」という語句は、そのように結合された要素、すなわち場合によっては合接的に存在し、かつそれ以外の場合には離接的に存在する要素の「いずれか一方または両方」を意味するものとして解釈されるべきである。「および/または」と共に列挙されている複数の要素は同様に、すなわち、そのように結合された要素の「1つ以上」と解釈されるべきである。具体的に特定されているそれらの要素に関連しているか否かに関わらず、「および/または」の句によって具体的に特定されている要素以外の他の要素が任意で存在してもよい。従って、非限定的な例として、「Aおよび/またはB」という言及は、「含む(comprising)」などの非限定的な言語と共に使用されている場合、例えば、一実施形態ではAのみ(任意でB以外の要素を含む)を指すことができ、別の実施形態ではBのみ(任意でA以外の要素を含む)を指すことができ、さらに別の実施形態ではAおよびBの両方(任意で他の要素を含む)を指すことができる。
【0203】
本明細書および特許請求の範囲において本明細書で使用される「または(or)」は、上に定義した「および/または」と同じ意味を有するものとして理解されるべきできある。例えば列挙されている項目を区切る場合の「または」あるいは「および/または」は包括的なもの、すなわち少なくとも1つを包含するが複数または列挙されている要素の2つ以上も含み、かつ任意でさらなる列挙されていない項目も含むものとして解釈されるべきである。「~のうちのたった1つ」または「~のうちの厳密に1つ」などの明らかに矛盾していることを示す用語のみ、あるいは特許請求の範囲において使用されている場合の「~からなる(consisting of)」は、複数または列挙されている要素の厳密に1つの要素の包含を指す。一般に、本明細書で使用される「または(or)」という用語は、「~のうちのいずれか」、「~のうちの1つ」、「~のうちの1つのみ」または「~のうちの厳密に1つ」などの排他性の用語が付随している場合に、排他的な二者択一(すなわち「一方または他方であるが両方ではない」)を示すものとしてのみ解釈されるべきである。「本質的に~からなる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲で使用される場合、特許法の分野で使用されるその通常の意味を有するものとする。
【0204】
本明細書および特許請求の範囲において本明細書で使用される「少なくとも1つ」という語句は、列挙されている1つ以上の要素について言及する場合、その列挙されている要素の中の任意の1つ以上の要素から選択される少なくとも1つの要素を意味するものとして解釈されるべきであるが、必ずしもその列挙されている要素の中のありとあらゆる具体的に列挙されている要素の少なくとも1つを含むものではなく、その列挙されている要素の中の要素のどんな組み合わせも排除するものではない。この定義は、具体的に特定されているそれらの要素に関連しているか否かに関わらず、「少なくとも1つ」という語句が指すその列挙されている要素の中の具体的に特定されている要素以外の要素が任意で存在してもよいことも認める。従って、非限定的な例として、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」(または、同等に「AまたはBのうちの少なくとも1つ」、あるいは同等に「Aおよび/またはBのうちの少なくとも1つ」)は、例えば、一実施形態ではBが存在しない少なくとも1つの(任意で2つ以上を含む)A(および任意でB以外の要素を含む)を指すことができ、別の実施形態では、Aが存在しない少なくとも1つの(任意で2つ以上を含む)B(および任意でA以外の要素を含む)を指すことができ、さらに別の実施形態では、少なくとも1つの(任意で2つ以上を含む)Aおよび少なくとも1つの(任意で2つ以上を含む)B(および任意で他の要素を含む)を指すことができる。
【0205】
また当然のことながら、特に明らかな矛盾がない限り、2つ以上の工程または行為を含む本明細書において特許請求されているあらゆる方法において、当該方法の工程または行為の順序は必ずしも当該方法の工程または行為が列挙されている順序に限定されない。
【0206】
特許請求の範囲ならびに上記本明細書において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「保有する(carrying)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「含む(involving)」、「保持する(holding)」、「~からなる(composed of)」などの全ての移行語は、非限定的なもの、すなわち「~を含むがそれに限定されない」を意味するように理解されるべきである。「~からなる(consisting of)」および「本質的に~からなる(consisting essentially of)」という移行語だけは、特許審査手順の米国特許庁マニュアルのセクション2111.03に記載されているようにそれぞれ限定的または半限定的な移行語とする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図13F
図14
【配列表】
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