(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】微小物体の集積装置、および、それに用いられる集積容器ならびに微小物体の集積方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/12 20060101AFI20220203BHJP
B82B 3/00 20060101ALI20220203BHJP
C01B 32/28 20170101ALI20220203BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20220203BHJP
G02B 21/36 20060101ALN20220203BHJP
G02B 27/00 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
B01J19/12 B
B82B3/00
C01B32/28
C12M1/42
G02B21/36
G02B27/00 S
(21)【出願番号】P 2019503080
(86)(22)【出願日】2018-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2018007608
(87)【国際公開番号】W WO2018159706
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2017037316
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 琢也
(72)【発明者】
【氏名】床波 志保
(72)【発明者】
【氏名】山本 靖之
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/150758(WO,A1)
【文献】特開2011-062607(JP,A)
【文献】特開2013-254940(JP,A)
【文献】特開2007-225330(JP,A)
【文献】特開2009-281794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00-12
B82B 3/00
C01B 32/28
C12M 1/00-42
G01N 1/00
G02B 21/00-36、27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでのサイズを有する複数の微小物体を集積する、微小物体の集積装置であって、
光を発する光源と、
前記複数の微小物体が分散した分散液を保持可能に構成された容器とを備え、
前記容器は、
前記光源からの光を熱に変換する光熱変換部材が形成された底面と、
前記分散液と接触した場合に前記分散液により浸漬ぬれが生じる内側面とを有し、
前記光熱変換部材は、前記分散液を加熱することによって前記分散液中に熱対流を生じさせ、
前記内側面は、前記分散液と前記分散液の周囲の気体との界面である気液界面にマランゴニ対流を生じさせる、微小物体の集積装置。
【請求項2】
前記分散液は、水性の液体であり、
前記内側面は、親水性を示し、
前記容器は、前記気液界面に対して凹となるメニスカスが形成されるように前記分散液を保持する、請求項1に記載の微小物体の集積装置。
【請求項3】
前記容器に保持される前記分散液の量を調整可能に構成された液量調整機構と、
前記気液界面に対して凹となるメニスカスが形成されるように前記液量調整機構を制御する制御装置とをさらに備える、請求項2に記載の微小物体の集積装置。
【請求項4】
前記底面は、略円形形状を有し、
前記光熱変換部材は、前記底面の中心領域に形成される、請求項1~3のいずれか1項に記載の微小物体の集積装置。
【請求項5】
前記容器は、前記内側面により規定される空間が略円柱形状を有するガラスボトムディッシュである、請求項4に記載の微小物体の集積装置。
【請求項6】
前記容器は、前記底面上に固定され、かつ前記光熱変換部材の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有する断熱スペーサをさらに含み、
前記光熱変換部材は、前記断熱スペーサ上に形成され、
前記光源は、前記光熱変換部材の吸収波長域であり、かつ前記断熱スペーサの吸収波長域でない光を前記光熱変換部材に照射する、請求項1~5のいずれか1項に記載の微小物体の集積装置。
【請求項7】
前記光熱変換部材は、第1および第2の光熱変換層を含み、
前記第1の光熱変換層は、前記底面上に形成され、
前記容器は、前記第1の光熱変換層上に固定された断熱スペーサをさらに含み、
前記第2の光熱変換層は、前記断熱スペーサ上に形成され、
前記断熱スペーサの熱伝導率は、前記第1および第2の光熱変換層の熱伝導率よりも低く、
前記光源は、前記第1および第2の光熱変換層の吸収波長域であり、かつ前記断熱スペーサの吸収波長域でない光を前記第1および第2の光熱変換層に照射する、請求項1~5のいずれか1項に記載の微小物体の集積装置。
【請求項8】
前記容器は、前記断熱スペーサを固定するための接着部材をさらに含む、請求項6または7に記載の微小物体の集積装置。
【請求項9】
前記光源からの光を集光する対物レンズをさらに備え、
前記断熱スペーサのサイズは、前記対物レンズにより集光された光の焦点の直径よりも大きい、請求項6~8のいずれか1項に記載の微小物体の集積装置。
【請求項10】
前記焦点が前記断熱スペーサの前記光熱変換部材上での固定位置近傍に位置するように、前記光熱変換部材と前記対物レンズとの相対的な位置関係を調整することが可能に構成された位置調整機構をさらに備える、請求項9に記載の微小物体の集積装置。
【請求項11】
各々がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでのサイズを有する複数の微小物体を集積する集積装置に用いられる、微小物体の集積容器であって、
光を熱に変換する光熱変換部材が形成された底面と、
前記複数の微小物体が分散した分散液と接触した場合に前記分散液により浸漬ぬれが生じる内側面とを有し、
前記光熱変換部材は、前記集積容器内に前記分散液が保持された状態で前記光熱変換部材の吸収波長域の光が照射された場合に、前記分散液を加熱することによって前記分散液中に熱対流を生じさせ、
前記内側面は、前記分散液と前記分散液の周囲の気体との界面である気液界面にマランゴニ対流を生じさせる、微小物体の集積容器。
【請求項12】
前記分散液は、水性の液体であり、
前記内側面は、親水性を示し、
前記集積容器は、前記気液界面に対して凹となるメニスカスが形成されるように前記分散液を保持する、請求項11に記載の微小物体の集積容器。
【請求項13】
前記底面と前記内側面とがなす角度は、45°以上かつ135°以下である、請求項11または12に記載の微小物体の集積容器。
【請求項14】
前記底面は、略円形形状を有し、
前記光熱変換部材は、前記底面の中心領域に形成される、請求項11~13のいずれか1項に記載の微小物体の集積容器。
【請求項15】
前記集積容器は、前記内側面により規定される空間が略円柱形状を有するガラスボトムディッシュである、請求項14に記載の微小物体の集積容器。
【請求項16】
前記集積容器は、前記底面上に固定され、かつ前記光熱変換部材の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有する断熱スペーサをさらに含み、
前記光熱変換部材は、前記断熱スペーサ上に形成され、
前記光熱変換部材には、前記光熱変換部材の吸収波長域であり、かつ前記断熱スペーサの吸収波長域でない光が照射される、請求項11~15のいずれか1項に記載の微小物体の集積容器。
【請求項17】
前記光熱変換部材は、第1および第2の光熱変換層を含み、
前記第1の光熱変換層は、前記底面上に形成され、
前記集積容器は、前記第1の光熱変換層上に固定された断熱スペーサをさらに含み、
前記第2の光熱変換層は、前記断熱スペーサ上に形成され、
前記断熱スペーサの熱伝導率は、前記第1および第2の光熱変換層の熱伝導率よりも低く、
前記光熱変換部材には、前記第1および第2の光熱変換層の吸収波長域であり、かつ前記断熱スペーサの吸収波長域でない光が照射される、請求項11~15のいずれか1項に記載の微小物体の集積容器。
【請求項18】
前記断熱スペーサを固定するための接着部材をさらに含む、請求項16または17に記載の微小物体の集積容器。
【請求項19】
各々がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでのサイズを有する複数の微小物体を集積する、微小物体の集積方法であって、
前記複数の微小物体が分散した分散液により浸漬ぬれが生じる内側面を有する容器に前記分散液を保持させるステップと、
前記保持させるステップの後に、前記容器の底面に形成された光熱変換部材の吸収波長域の光を前記光熱変換部材に照射することによって前記分散液を加熱するステップと、
前記分散液を加熱することで前記分散液中に熱対流を生じさせるとともに、前記分散液と前記分散液の周囲の気体との界面である気液界面にマランゴニ対流を生じさせるステップとを含む、微小物体の集積方法。
【請求項20】
前記加熱するステップに先立ち、両親媒性物質を前記分散液に分散させるステップをさらに含む、請求項19に記載の微小物体の集積方法。
【請求項21】
前記加熱するステップに先立ち、前記気液界面からの前記分散液の蒸発を抑制するための界面活性剤を前記分散液に導入するステップをさらに含む、請求項19または20に記載の微小物体の集積方法。
【請求項22】
前記導入するステップは、前記界面活性剤の濃度が前記界面活性剤の臨界ミセル濃度を含む所定範囲内になるように、前記界面活性剤を前記分散液に導入するステップを含む、請求項21に記載の微小物体の集積方法。
【請求項23】
前記分散液を加熱することで前記容器の底面上にマイクロバブルを発生させるステップと、
前記マイクロバブルと前記容器の底面との間に集積された前記複数の微小物体の総体積と、前記複数の微小物体の各々の体積と、前記分散液を加熱する加熱時間とに基づいて、前記分散液中の前記複数の微小物体の濃度を推定するステップとをさらに含む、請求項19~22のいずれか1項に記載の微小物体の集積方法。
【請求項24】
前記複数の微小物体の各々は、ナノダイヤモンドである、請求項19~23のいずれか1項に記載の微小物体の集積方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微小物体の集積装置、および、それに用いられる集積容器ならびに微小物体の集積方法に関し、より特定的には、液体中に分散した複数の微小物体を集積する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光照射によって微粒子または微生物などの微小物体を狙った位置に集積する技術が提案されている。たとえば国際公開第2015/170758号(特許文献1)は、ビーズが分散した液体を保持する基板へのレーザ光の照射により、レーザ光の照射位置(レーザスポット)にビーズを集積する技術を開示する。
【0003】
より詳細には、特許文献1によれば、サンプル(多数のビーズが分散した分散液)が滴下された基板には、光エネルギーを熱エネルギーに変換する金薄膜が形成されている。そのため、金薄膜にレーザ光を照射すると、光エネルギーが熱エネルギーに変換されることで液体が加熱され、液体中に温度勾配が生じる。それにより、液体中に熱対流が生じる。この熱対流を用いることにより、レーザスポット近傍にビーズを集積することができる(たとえば特許文献1の
図1~
図6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液体中に分散した複数の微小物体を集積する技術では、より短時間に微小物体を集積すること、あるいは、より多くの微小物体を集積すること、言い換えると、より高効率に微小物体を集積することが要望される。
【0006】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、液体中に分散した複数の微小物体を高効率に集積可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示のある局面に従う微小物体の集積装置は、各々がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでのサイズを有する複数の微小物体を集積する。微小物体の集積装置は、光を発する光源と、複数の微小物体が分散した分散液を保持可能に構成された容器とを備える。容器は、底面と、内側面とを有する。底面には、光源からの光を熱に変換する光熱変換部材が形成される。内側面では、分散液と接触した場合に分散液により浸漬ぬれが生じる。光熱変換部材は、分散液を加熱することによって分散液中に熱対流を生じさせる。内側面は、分散液と分散液の周囲の気体との界面である気液界面にマランゴニ対流を生じさせる。
【0008】
(2)好ましくは、分散液は、水性の液体である。内側面は、親水性を示す。容器は、気液界面に対して凹となるメニスカスが形成されるように分散液を保持する。
【0009】
(3)より好ましくは、微小物体の集積装置は、液量調整機構と、制御装置とをさらに備える。液量調整機構は、容器に保持される分散液の量を調整可能に構成される。制御装置は、気液界面に対して凹となるメニスカスが形成されるように液量調整機構を制御する。
【0010】
(4)好ましくは、底面は、略円形形状を有する。光熱変換部材は、底面の中心領域に形成される。
【0011】
(5)より好ましくは、容器は、上記内側面により規定される空間が略円柱形状を有するガラスボトムディッシュである。
【0012】
(6)好ましくは、容器は、底面上に固定され、かつ光熱変換部材の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有する断熱スペーサをさらに含む。光熱変換部材は、断熱スペーサ上に形成される。光源は、光熱変換部材の吸収波長域であり、かつ断熱スペーサの吸収波長域でない光を光熱変換部材に照射する。
【0013】
(7)好ましくは、光熱変換部材は、第1および第2の光熱変換層を含む。第1の光熱変換層は、底面上に形成される。容器は、第1の光熱変換層上に固定された断熱スペーサをさらに含む。第2の光熱変換層は、断熱スペーサ上に形成される。断熱スペーサの熱伝導率は、第1および第2の光熱変換層の熱伝導率よりも低い。光源は、第1および第2の光熱変換層の吸収波長域であり、かつ断熱スペーサの吸収波長域でない光を第1および第2の光熱変換層に照射する。
【0014】
(8)好ましくは、上記容器は、断熱スペーサを固定するための接着部材をさらに含む。
【0015】
(9)好ましくは、微小物体の集積装置は、光源からの光を集光する対物レンズをさらに備える。断熱スペーサのサイズは、対物レンズにより集光された光の焦点の直径よりも大きい。
【0016】
(10)より好ましくは、微小物体の集積装置は、位置調整機構をさらに備える。位置調整機構は、対物レンズにより集光された光の焦点が断熱スペーサの光熱変換部材上での固定位置近傍に位置するように、光熱変換部材と対物レンズとの相対的な位置関係を調整することが可能に構成される。
【0017】
(11)本開示の他の局面に従う微小物体の集積容器は、各々がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでのサイズを有する複数の微小物体を集積する集積装置に用いられる。集積容器は、光を熱に変換する光熱変換部材が形成された底面と、複数の微小物体が分散した分散液と接触した場合に分散液により浸漬ぬれが生じる内側面とを有する。光熱変換部材は、集積容器内に分散液が保持された状態で光熱変換部材の吸収波長域の光が照射された場合に、分散液を加熱することによって分散液中に熱対流を生じさせる。内側面は、分散液と分散液の周囲の気体との界面である気液界面にマランゴニ対流を生じさせる。
【0018】
(12)好ましくは、分散液は、水性の液体である。内側面は、親水性を示す。集積容器は、気液界面に対して凹となるメニスカスが形成されるように分散液を保持する。
【0019】
(13)好ましくは、底面と内側面とがなす角度は、45°以上かつ135°以下である。
【0020】
(14)好ましくは、底面は、略円形形状を有する。光熱変換部材は、底面の中心領域に形成される。
【0021】
(15)好ましくは、集積容器は、内側面により規定される空間が略円柱形状を有するガラスボトムディッシュである。
【0022】
(16)好ましくは、集積容器は、底面上に固定され、かつ光熱変換部材の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有する断熱スペーサをさらに含む。光熱変換部材は、断熱スペーサ上に形成される。光熱変換部材には、光熱変換部材の吸収波長域であり、かつ断熱スペーサの吸収波長域でない光が照射される。
【0023】
(17)好ましくは、光熱変換部材は、第1および第2の光熱変換層を含む。第1の光熱変換層は、底面上に形成される。集積容器は、第1の光熱変換層上に固定された断熱スペーサをさらに含む。第2の光熱変換層は、断熱スペーサ上に形成される。断熱スペーサの熱伝導率は、第1および第2の光熱変換層の熱伝導率よりも低い。光熱変換部材には、第1および第2の光熱変換層の吸収波長域であり、かつ断熱スペーサの吸収波長域でない光が照射される。
【0024】
(18)より好ましくは、微小物体の集積容器は、断熱スペーサを固定するための接着部材をさらに含む。
【0025】
(19)本開示のさらに他の局面に従う微小物体の集積方法は、各々がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでのサイズを有する複数の微小物体を集積する。微小物体の集積方法は、第1~第3のステップを含む。第1のステップは、内側面を有する容器に分散液を保持させるステップである。内側面では、分散液と接触した場合に分散液により浸漬ぬれが生じる。第2のステップは、第1のステップの後に、容器の底面に形成された光熱変換部材の吸収波長域の光を光熱変換部材に照射することによって分散液を加熱するステップである。第3のステップは、分散液を加熱することで分散液中に熱対流を生じさせるとともに、分散液と分散液の周囲の気体との界面である気液界面にマランゴニ対流を生じさせるステップである。
【0026】
(20)好ましくは、微小物体の集積方法は、第2のステップに先立ち、両親媒性物質を分散液に分散させる第4のステップをさらに含む。
【0027】
(21)好ましくは、微小物体の集積方法は、第2のステップに先立ち、気液界面からの分散液の蒸発を抑制するための界面活性剤を分散液に導入するステップをさらに含む。
【0028】
(22)好ましくは、上記導入するステップは、界面活性剤の濃度が界面活性剤の臨界ミセル濃度を含む所定範囲内になるように、界面活性剤を分散液に導入するステップを含む。
【0029】
(23)好ましくは、微小物体の集積方法は、第5および第6のステップをさらに含む。第5のステップは、分散液を加熱することで容器の底面上にマイクロバブルを発生させるステップである。第6のステップは、マイクロバブルと容器の底面との間に集積された複数の微小物体の総体積と、複数の微小物体の各々の体積と、分散液を加熱する加熱時間とに基づいて、分散液中の複数の微小物体の濃度を推定するステップである。
【0030】
(24)好ましくは、複数の微小物体の各々は、ナノダイヤモンドである。
【発明の効果】
【0031】
本開示によれば、液体中に分散した複数の微小物体を集積する集積装置および集積方法において、微小物体を高効率に集積することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】実施の形態1に係る細菌の集積装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】比較例における集積キットの構成を模式的に示す図である。
【
図3】実施の形態1における集積キットの構成を模式的に示す図である。
【
図4】実施の形態1における細菌の集積方法を示すフローチャートである。
【
図5】比較例における細菌の集積メカニズムを説明するための図である。
【
図6】実施の形態1における細菌の集積メカニズムを説明するための図である。
【
図7】細菌(より詳細には黄色ブドウ球菌)の集積結果の一例を示す連続画像である。
【
図8】細菌の蛍光染色手法を説明するための図である。
【
図9】集積された細菌(より詳細には黄色ブドウ球菌)の蛍光観察像である。
【
図10】ビーズの集合面積の時間変化の一例を示す図である。
【
図11】ビーズの粒子径の影響を説明するための図である。
【
図12】細菌の濃度推定精度の検証結果を説明するための図である。
【
図13】超音波処理の非実施時におけるビーズの集積の様子を示す連続画像である。
【
図14】超音波処理の実施時におけるビーズの集積の様子を示す連続画像である。
【
図15】超音波処理による集積促進メカニズムを説明するための図である。
【
図16】実施の形態1の変形例における集積キットの周辺構成を模式的に示す図である。
【
図17】実施の形態2における集積キットの構成を模式的に示す図である。
【
図18】
図17に示した断熱スペーサの周囲の構成を、より詳細に説明するための図である。
【
図19】ビームウエストの高さ依存性を説明するための図である。
【
図20】ビームウエストの高さh=0μmの場合のビーズの集積の様子を示す連続画像である。
【
図21】ビームウエストの高さh=10μmの場合のビーズの集積の様子を示す連続画像である。
【
図22】実施の形態2における大腸菌の集積結果を示す図である。
【
図23】実施の形態2における黄色ブドウ球菌の集積結果を示す図である。
【
図24】実施の形態2における界面活性剤の影響を説明するための図である。
【
図25】界面活性剤の濃度の影響を説明するための図である。
【
図26】界面活性剤の濃度がビーズの集合面積に及ぼす影響を説明するための図である。
【
図27】ビーズの濃度がビーズの集積に及ぼす影響を説明するための図である。
【
図28】光照射開始時から300秒経過後におけるビーズの集積結果の一例を示す画像である。
【
図29】
図27に示した図に対して式(1)によるフィッティング(曲線回帰)を行なった図である。
【
図30】ビーズの濃度と集合レートとの関係を示す図である。
【
図31】実施の形態2の変形例1における集積キットの構成を模式的に示す図である。
【
図32】実施の形態2の変形例2における集積キットの構成を模式的に示す図である。
【
図33】実施の形態2の変形例3における集積キットの構成を模式的に示す図である。
【
図34】実施の形態2の変形例3において界面活性剤を導入した場合のビーズの集積結果の一例を示す連続画像である。
【
図35】実施の形態3における集積キットの構成を模式的に示す図である。
【
図36】
図35に示した断熱スペーサの周囲の構成を、より詳細に説明するための図である。
【
図37】実施の形態3におけるビーズの集積の様子を示す画像である。
【
図38】実施の形態3においてレーザ出力が0.1Wの場合の大腸菌の集積結果を示す図である。
【
図39】実施の形態3においてレーザ出力が0.2Wの場合の大腸菌の集積結果を示す図である。
【
図40】実施の形態3の変形例における集積キットの構成を模式的に示す図である。
【
図41】第10のサンプルにおけるナノダイヤモンドの集積結果を説明するための図である。
【
図42】第11のサンプルにおけるナノダイヤモンドの集積結果を説明するための図である。
【
図43】第12のサンプルにおけるナノダイヤモンドの集積結果を説明するための図である。
【
図44】第13のサンプルにおいて、ある箇所に光照射を行なった場合のナノダイヤモンドの集積結果を説明するための図である。
【
図45】第13のサンプルにおいて、他の箇所に光照射を行なった場合のナノダイヤモンドの集積結果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0034】
本開示において、「微小物体」との用語は、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでのサイズを有する物体を意味する。微小物体の形状は特に限定されず、たとえば球形、楕円球形、ロッド形状等である。微小物体が楕円球形の場合、楕円球の短軸方向および長軸方向の長さの少なくとも一方がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲内であればよい。微小物体がロッド形状の場合、ロッドの幅および長さの少なくとも一方がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲内であればよい。
【0035】
微小物体の例としては、金属ナノ粒子、金属ナノ粒子集合体、金属ナノ粒子集積構造体、半導体ナノ粒子、有機ナノ粒子、樹脂ビーズ、PM(Particulate Matter)、ナノダイヤモンドなどが挙げられる。「金属ナノ粒子」とは、ナノメートルオーダーのサイズを有する金属粒子である。「金属ナノ粒子集合体」とは、複数の金属ナノ粒子が凝集することによって形成された集合体である。「金属ナノ粒子集積構造体」とは、たとえば複数の金属ナノ粒子が相互作用部位を介してビーズの表面に固定され、互いに隙間を設けて、金属ナノ粒子の直径以下の間隔で配置された構造体である。「半導体ナノ粒子」とは、ナノメートルオーダーのサイズを有する半導体粒子である。「有機ナノ粒子」とは、ナノメートルオーダーのサイズを有する有機化合物からなる粒子である。「樹脂ビーズ」とは、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲のサイズを有する樹脂からなる粒子である。「PM」とは、マイクロメートルオーダーのサイズを有する粒子状物質である。PMの例としては、PM2.5、SPM(Suspended Particulate Matter)が挙げられる。「ナノダイヤモンド」とは、ダイヤモンドの結晶構造を有する、ナノメートルオーダーの粒子である。
【0036】
また、微小物体は生体由来の物質(生体物質)であってもよい。より具体的には、微小物体は、細胞、微生物(細菌、真菌等)、生体高分子(タンパク質、核酸、脂質、多糖類等)、抗原(アレルゲン等)およびウイルスを含み得る。
【0037】
本開示において、「ナノメートルオーダー」には、1nmから1000nm(=1μm)までの範囲が含まれる。「マイクロメートルオーダー」には、1μmから1000μm(=1mm)までの範囲が含まれる。したがって、「ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまで」との用語は、1nmから1000μmまでの範囲を示すが、典型的には数十nm~数百μmの範囲を示し、好ましくは100nm~100μmの範囲を示し、より好ましくは1μm~数十μmの範囲を示し得る。
【0038】
本開示において、「浸漬ぬれ」とは、液体と固体(より詳細には水平方向の固体面)とが接触した場合に、液体と固体とが静止した状態においてなす接触角(液体の内部にある角)θが0°よりも大きく、かつ90°未満となる状態、言い換えれば、液体の拡がりが0°<θ<90°のいずれかの接触角θで安定となる状態を意味する。浸漬ぬれは、液体が水性であり、かつ固体表面が親水性である場合に生じ得る。また、浸漬ぬれは、液体が有機溶媒であり、かつ固体表面が親溶媒性である場合にも生じ得る。
【0039】
本開示において、「両親媒性物質」とは、親水基および疎水基(あるいは親油基および疎油基)の両方を持つ物質を意味する。両親媒性物質は、界面活性剤、乳化剤、生体高分子(リン脂質、膜タンパクなど)を含む。
【0040】
本開示において、「界面活性剤」とは、系の少なくとも一相に溶解し、他相との界面で、ある配向をもって吸着して単分子膜を形成する物質を意味する。
【0041】
本開示において、「吸収波長域である光」とは、照射対象(たとえば後述する光熱変換部材)に照射した場合の光熱変換効率が規定値以上となる波長域の光を意味する。一方、「吸収波長域でない光」とは、照射対象に照射した場合の光熱変換効率が規定値未満(たとえば略0%)となる波長域の光を意味する。
【0042】
本開示において、「マイクロバブル」とは、マイクロメートルオーダーのサイズを有する気泡である。
【0043】
[実施の形態1]
実施の形態1では、本開示に係る「微小物体」の一例として、主に黄色ブドウ球菌(単に「細菌」と記載する)を集積する構成を例に説明する。
【0044】
以下の説明では、x方向およびy方向は水平方向を表す。x方向とy方向とは互いに直交する。z方向は鉛直方向を表す。重力の向きはz方向下方である。z方向上方を「上方」と略し、z方向下方を「下方」と略す。
【0045】
<集積装置の全体構成>
図1は、実施の形態1に係る細菌の集積装置1の構成を概略的に示す図である。集積装置1は、集積キット10と、XYZ軸ステージ2と、調整機構3と、サンプル供給部4と、レーザ光源5と、光学部品6と、対物レンズ7と、照明光源8と、撮影機器9と、制御部100とを備える。
【0046】
集積キット10は、サンプルを保持する。本実施の形態において、サンプルは、細菌が分散した液体(分散液)である。集積キット10の詳細な構成については
図3にて説明する。集積キット10は、XYZ軸ステージ2上に載置される。なお、集積キット10は、本開示に係る「集積容器」に相当する。
【0047】
調整機構3は、制御部100からの指令に応じて、XYZ軸ステージ2と対物レンズ7との相対的な位置関係を調整する。本実施の形態では、対物レンズ7の位置が固定されている。そのため、XYZ軸ステージ2のx方向、y方向およびz方向の位置調整により、XYZ軸ステージ2と対物レンズ7との相対的な位置関係が調整される。なお、調整機構3としては、たとえば、顕微鏡に付属のサーボモータおよび焦準ハンドルなどの駆動機構(図示せず)を用いることができるが、調整機構3の具体的な構成は特に限定されない。調整機構3は、対物レンズ7の位置を調整できるように構成されていてもよい。調整機構3は、本開示に係る「位置調整機構」に相当する。
【0048】
サンプル供給部4は、制御部100からの指令に応じて、集積キット10上に分散液を供給する。サンプル供給部4としては、たとえばディスペンサを用いることができる。サンプル供給部4は、本開示に係る「液量調整機構」に相当する。
【0049】
レーザ光源5は、制御部100からの指令に応じて、たとえば近赤外(たとえば波長1064nm)のレーザ光L1を発する。ただし、レーザ光L1の波長は、後述する薄膜12(
図3参照)の材料の吸収波長域に含まれる波長であれば、これに限定されるものではない。なお、レーザ光源5は、本開示に係る「光源」に相当する。
【0050】
光学部品6は、たとえば、ミラー、ダイクロイックミラーまたはプリズムを含んで構成される。集積装置1の光学系は、レーザ光源5からのレーザ光L1が光学部品6により対物レンズ7へと導かれるように調整される。
【0051】
対物レンズ7は、レーザ光源5からのレーザ光L1を集光する。対物レンズ7により集光された光は集積キット10に照射される。ここで、「照射する」とは、レーザ光L1が集積キット10を通過する場合を含む。すなわち、対物レンズ7により集光された光のビームウエストが集積キット10内に位置する場合に限定されない。なお、光学部品6および対物レンズ7は、たとえば倒立型顕微鏡本体または正立型顕微鏡本体(図示せず)に組み込むことができる。
【0052】
照明光源8は、制御部100からの指令に応じて、集積キット10内の分散液を照らすための白色光L2を発する。1つの実施例として、ハロゲンランプを照明光源8として用いることができる。対物レンズ7は、集積キット10に照射された白色光L2を取り込むためにも用いられる。対物レンズ7により取り込まれた白色光L2は、光学部品6により撮影機器9へと導かれる。
【0053】
撮影機器9は、制御部100からの指令に応じて、白色光L2が照射された集積キット10内の分散液を撮影し、撮影された画像(動画または静止画)を制御部100に出力する。撮影機器9には、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサまたはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサを含むビデオカメラが用いられる。
【0054】
制御部(制御装置)100は、いずれも図示しないが、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、入出力ポートとを含んで構成されるマイクロコンピュータである。制御部100は、集積装置1内の各機器(サンプル供給部4、調整機構3、レーザ光源5、照明光源8および撮影機器9)を制御する。また、制御部100は、撮影機器9により撮影された画像に所定の画像処理を施すことも可能である。
【0055】
なお、集積装置1の光学系は、レーザ光源5からのレーザ光L1を集積キット10に照射することが可能であるととともに、集積キット10に照射された白色光L2を撮影機器9に取り込むことが可能であれば、
図1に示した構成に限定されない。たとえば、集積装置1の光学系は、光ファイバ等を含んで構成されてもよい。また、集積装置1において、調整機構3、サンプル供給部4、照明光源8および撮影機器9は必須の構成要素ではない。
【0056】
<集積キットの構成>
実施の形態1に係る細菌の集積装置1は、集積キット10の構成に特徴を有する。この特徴の理解を容易にするために、以下では、比較例における集積キット90の構成と対比しながら集積キット10の構成について説明する。比較例に係る集積装置の集積キット90以外の構成は、実施の形態1に係る集積装置1の対応する構成と基本的に同等であるため、詳細な説明は繰り返さない。
【0057】
図2は、比較例における集積キット90の構成を模式的に示す図である。
図2(A)は、集積キット90の斜視図を示す。
図2(B)は、
図2(A)のIIB-IIB線に沿う集積キット90の断面図を示す。
図3は、実施の形態1における集積キット10の構成を模式的に示す図である。
図3(A)は、集積キット10の斜視図を示す。
図3(B)は、
図3(A)のIIIB-IIIB線に沿う集積キット10の断面図を示す。なお、
図2および
図3では、XYZ軸ステージ2の図示を省略している。
【0058】
図2(A)および
図2(B)を参照して、集積キット90は、基板91と、薄膜92とを含む。基板91は、薄膜92によるレーザ光L1の光熱変換(後述)に影響を与えず、かつ白色光L2に対して透明な材料により形成される。そのような材料としては石英、シリコンなどが挙げられる。比較例では、基板91として、ガラス基板(カバーガラス)が用いられる。
【0059】
図3(A)および
図3(B)を参照して、集積キット10は、容器11と、薄膜12とを含む。容器11は、底面111と、内側面112とを有する。容器11の底面111には、基板91と同様に、薄膜12によるレーザ光L1の光熱変換に影響を与えず、かつ白色光L2に対して透明な材料が用いられる。容器11の内側面112には、親水性を示す材料が用いられる。
【0060】
実施の形態1では、容器11として、分散液Dを保持する内部空間(ウエル)が円柱形状のガラスボトムディッシュが用いられる。この場合、容器11の底面111および内側面112の材料であるガラスは、通常は親水性を示す。しかし、底面111上に薄膜12を形成すると、底面111は、疎水性を示すようになる。つまり、容器11の内側面112は、底面111と比べて、高い親水性を示す。
【0061】
なお、ガラスは通常は親水性を示す材料であるものの、ガラスが置かれた状況(保存状態等)によっては親水性の程度が弱くなる(あるいは疎水性になる)場合がある。そのため、容器11の内側面112には親水化処理を施すことが望ましい。具体的には、容器11の内側面112をアセトンで洗浄したり、容器11の内面にプラズマエッチングを行なったりすることができる。
【0062】
一方、容器11の外側面の材料は特に限定されず、親水性/撥水性のいずれを示すものであってもよい。また、容器11の外側面は、レーザ光L1を吸収するものであってもよいし、白色光L2を透過しないものであってもよい。
【0063】
薄膜12と薄膜92とは基本的に同等であるため、以下では薄膜12について代表的に説明する。薄膜12は、レーザ光源5からのレーザ光L1を吸収し、光エネルギーを熱エネルギーに変換する。薄膜12の材料は、レーザ光L1の波長域(本実施の形態では近赤外域)における光熱変換効率が高い材料であることが好ましい。実施の形態1では、厚み(膜厚)がナノメートルオーダーの金薄膜が薄膜12として形成される。金薄膜は、スパッタまたは無電解メッキなどの公知の手法を用いて形成することができる。
【0064】
薄膜12が金薄膜の場合、金薄膜表面の自由電子は表面プラズモンを形成し、レーザ光L1によって振動する。これにより分極が生じる。この分極のエネルギーは、自由電子と原子核との間のクーロン相互作用により格子振動のエネルギーに変換される。その結果、金薄膜は熱を発生させる。以下では、この効果を「光発熱効果」とも称する。
【0065】
実施の形態1では、波長1064nmの近赤外光を用いて光発熱効果を生じさせるが、金薄膜の表面プラズモン共鳴波長(空気中または水中では400nm~800nmの可視光の波長域に存在する波長)に近い波長の光を用いてもよい。これにより、レーザ光L1の強度(以下「レーザ出力」とも記載する)が同じでも、より多くの熱を発生させることができる。
【0066】
また、薄膜12の材料は金に限定されるものではなく、光発熱効果を生じ得る金以外の金属元素(たとえば銀)または金属ナノ粒子集積構造体(たとえば金ナノ粒子もしくは銀ナノ粒子を用いた構造体)などであってもよい。あるいは、薄膜12の材料は、レーザ光L1の波長域の光吸収率が高い金属以外の材料であってもよい。そのような材料としては、黒体に近い材料(たとえばカーボンナノチューブ黒体)が挙げられる。薄膜12の厚みは、レーザ出力ならびに薄膜12の材料の吸収波長域および光熱変換効率を考慮して、設計的または実験的に決定される。なお、薄膜12は、本開示に係る「光熱変換部材」に相当する。
【0067】
実施の形態1において容器11内に保持される液体、および、比較例において基板91上に滴下される液体は、いずれも水性の分散媒(たとえば超純水)中に細菌Bが分散した分散液Dである。この場合、基板91上に滴下された分散液Dは、
図2(A)および
図2(B)に示すように、半楕円球状になる。これに対し、容器11内に保持された分散液では、容器11の内側面112が親水性を示す。このため、内側面112では分散液Dにより浸漬ぬれが生じ、内側面112では
図3(B)に示すように、分散液Dと周囲の気体との気液界面に対して凹型のメニスカスが形成される。内側面112が鉛直方向に延在する場合、分散液Dと内側面112とのなす動的接触角θdが、
図3(B)に示す例では0°よりも大きく、かつ90°未満となる。ただし、本開示における「接触角」は、上述のように、液体と水平方向の固体面とが接触した場合に液体と固体とが静止した状態において測定される値であって、動的接触角θdとは必ずしも一致しないことを確認的に記載する。
【0068】
対物レンズ7は、たとえば容器11の底面111の下方に配置され、下方からのレーザ光L1を集光する。集光された光は、対物レンズ7の上方の分散液Dに照射される。レーザ光L1の照射位置(レーザスポット)は、たとえば、分散液Dの円形の底面111の中心領域Cとすることが好ましい。また、レーザ光L1の焦点(ビームウエスト)の鉛直方向の位置は、分散液Dと容器11の底面111との固液界面近傍とすることが好ましい。後述する測定結果では、レーザスポットの様子が撮影機器9により上方から下方に向けて撮影されている。ここでは実施の形態1における容器11について説明したが、比較例における基板91についても同様である。
【0069】
以下では、容器11の底面111の中心領域C(すなわちレーザスポットの位置)における気液界面の高さをHと記載し、容器11の直径(内径)をφと記載する。なお、
図3(B)では、底面111全体に薄膜12が形成された例を示すが、底面111の中心領域Cに薄膜12を部分的に形成してもよい。
【0070】
また、
図3(B)に示した例では、底面111に対して内側面112が直角であるが、底面111と内側面112とのなす角度Ψ(すなわち、底面111の中心領域Cと内側面112とのなす角度Ψ)は鋭角であってもよいし鈍角であってもよい。角度Ψは、内側面112に形成されるメニスカスの形状に応じて選択することができる。ただし、角度Ψが大き過ぎると、内側面112に凹型のメニスカスが生じにくくなる。このことは、角度Ψを増加させていくと、極限的には容器11が平面(すなわち比較例と同様の基板91)となることから理解される。角度Ψは、典型的には30°~150°の範囲内であり、好ましくは45°~135°の範囲内である。
【0071】
<集積フロー>
図4は、実施の形態1における細菌Bの集積方法を示すフローチャートである。このフローチャートに含まれる各ステップは、基本的には制御部100によるソフトウェア処理によって実現されるが、その一部または全部が制御部100内に作製されたハードウェア(電気回路)によって実現されてもよい。なお、比較例における細菌Bの集積方法では、後述する集積処理(ステップS80の処理)以外の処理は、
図4に示した細菌Bの集積方法と共通である。
【0072】
図1および
図4を参照して、ステップS10において、細菌Bが分散した分散液Dが準備される。詳細は後述するが、分散液Dには、両親媒性物質をさらに分散させるための超音波処理を施すことが好ましい。
【0073】
ステップS20において、ステップS10にて準備された分散液Dに界面活性剤が導入される。ただし、この処理は必須ではなく、本明細書に開示された測定例では、実施の形態2の変形例2にて実施される(
図24および
図25参照)。この処理の詳細についても後述する。ステップS10,S20にて準備された分散液Dは、サンプル供給部4内に蓄えられる。
【0074】
ステップS30において、制御部100は、集積キット10(容器11)をXYZ軸ステージ2上に設置する。この処理は、たとえば容器11の送り機構(図示せず)により実現することができる。
【0075】
ステップS40において、制御部100は、サンプル供給部4を制御することによって、適量の分散液Dが容器11内に保持されるように分散液Dを滴下させる。分散液Dの滴下量は、たとえば数十μL~数百μL程度の微量であってもよいし、より多量であってもよいが、実施の形態1においては、
図3(B)に示したような凹型のメニスカスが形成されるように定められる。サンプル供給部4からの分散液Dの滴下量の調整は、気液界面の高さHおよび気液界面の形状(メニスカスの形状)を調整することに相当するが、このことの技術的意義については後述する。
【0076】
ステップS50において、制御部100は、容器11内の分散液Dに照射するための白色光L2を発するように照明光源8を制御するとともに、分散液Dの撮影を開始するように撮影機器9を制御する。
【0077】
ステップS60において、制御部100は、レーザ光源5からのレーザ光L1が容器11の適切な位置に照射されるように、調整機構3を制御することによってXYZ軸ステージ2の水平方向の位置を調整する。この位置調整は、たとえば、撮影機器9により撮影された画像から、パターン認識の画像処理技術を用いて容器11の外形パターンを抽出することによって実現することができる。また、ビームウエストの上下方向の位置(後述する高さh)は、レーザ光L1の波長および対物レンズ7の仕様(倍率等)から既知である。よって、XYZ軸ステージ2の上下方向の位置を調整することで、容器11内の狙った高さにビームウエストを位置させることができる。
【0078】
ステップS70において、制御部100は、レーザ光L1の照射(以下「光照射」とも略す)を開始するようにレーザ光源5を制御する。レーザ光源5からのレーザ光L1は対物レンズ7により集光され、集光された光が容器11の底面111の少なくとも中心領域Cに形成された薄膜12に照射される。
【0079】
ステップS80において、細菌Bを集積するための「集積処理」が実現される。この処理の詳細については後述する。
【0080】
ステップS90において、制御部100は、レーザ光源5を制御して容器11への光照射を停止させる。これにより、一連の処理が終了する。
【0081】
なお、ステップS50の処理は、分散液Dを観察するための処理であって、細菌Bを集積するために必須の処理ではない。したがって、ステップS50の処理を含まないフローチャートを実行した場合でも細菌Bを集積することができる。
【0082】
<集積メカニズム>
次に、ステップS80の集積処理における細菌Bの集積メカニズムについて、比較例および実施の形態1の順に説明する。
【0083】
図5は、比較例における細菌Bの集積メカニズムを説明するための図である。
図5(A)に示すように、光照射を開始すると、レーザスポットでの薄膜92の光発熱効果により、レーザスポット近傍が局所的に加熱される。その結果、レーザスポット近傍の分散液Dが沸騰してレーザスポットにマイクロバブルMBが発生する(
図5(B)参照)。マイクロバブルMBは、時間の経過とともに成長する。
【0084】
レーザスポットに近いほど分散液Dの温度は高い。つまり、光照射により分散液D中に温度勾配が生じる。この温度勾配に起因して、分散液D中に規則的な熱対流(浮力対流)が定常的に発生する(
図5(C)参照)。熱対流の方向は、HCで示すように、一旦マイクロバブルMBに向かい、その後、マイクロバブルMBから遠ざかる方向である。
【0085】
このように熱対流が生じる理由は以下のように説明することができる。すなわち、マイクロバブルMBが生じた領域の上方に存在する分散液Dが、加熱により相対的に希薄となり浮力によって上昇する。それとともに、マイクロバブルMBの水平方向に存在する相対的に低温の液体がマイクロバブルMBに向けて流入する。
【0086】
細菌Bが熱対流に乗ってマイクロバブルMBに向けて運ばれることによって、細菌Bがレーザスポット近傍に集積される。より詳細には、マイクロバブルMBと薄膜92の上面との間には、熱対流の流速がほぼゼロとなる領域(以下「淀み領域」と称する)SRが生じるところ、熱対流に乗って運ばれてきた細菌Bは、淀み領域SRに滞留して集積される(
図5(D)参照)。その後、光照射を停止すると熱対流は弱まり、やがて止まる。
【0087】
図6は、実施の形態1における細菌Bの集積メカニズムを説明するための図である。光照射を開始すると、比較例と同様に、レーザスポットでの薄膜12の光発熱効果により、レーザスポット近傍が局所的に加熱される(
図6(A)参照)。加熱に伴い、レーザスポット近傍の分散液Dが沸騰し、レーザスポットにマイクロバブルMBが発生して時間の経過とともに成長する(
図6(B)参照)。
【0088】
光照射により生じた分散液D中の温度勾配に起因して、分散液D中に熱対流(HCで示す)が発生する(
図6(C)参照)。
【0089】
また、実施の形態1では、凹型の気液界面が形成されるので、レーザスポットと、その上方における気液界面との距離が比較的近い。そのため、レーザスポットの上方における気液界面の温度が、気液界面の他の領域の温度よりも高くなりやすい。よって、レーザスポットの上方では、気液界面からの分散媒の蒸発量が相対的に大きくなる。この蒸発した分散媒を補うための分散液Dの流れ(図示せず)が、主として、マイクロバブルMBから気液界面に向けて(すなわち上方に向けて)生じる。この流れにより、上述の熱対流が加速される。
【0090】
さらに、実施の形態1においては、気液界面における界面張力の勾配に起因して、気液界面にマランゴニ対流(MCで示す)が発生する。より詳細に説明すると、実施の形態1では、内側面112に凹型のメニスカスが形成されている。このような場合、ラプラスの法則(ヤング-ラプラスの式)によれば、内側面112近傍の気液界面における界面張力は、底面111の中心領域C上方の気液界面における界面張力よりも大きい。よって、界面張力が相対的に小さい中心領域C上方の分散液Dは、界面張力が相対的に大きい内側面112近傍へと引っ張られる。これにより、マランゴニ対流が生じる。
【0091】
上述のように、熱対流は、気液界面ではマイクロバブルMBから遠ざかる方向に生じる。そのため、気液界面においては、熱対流の方向とマランゴニ対流の方向とが、いずれも中心領域C上方から容器11の内側面112へと向かう方向であって同一である。したがって、気液界面では熱対流とマランゴニ対流とが強め合うことで、比較例と比べて、分散液Dの流速が上昇する。分散液Dは容器11内を循環しているため、気液界面における分散液Dの流速上昇に伴い、分散液Dの内部における流速(マイクロバブルMBに向かう流れの流速)も上昇する。したがって、細菌Bの移動速度が速くなり、より短時間に細菌Bを集積することが可能になる。あるいは、一定時間内での細菌Bの集積量(集積数)を増加させることが可能になる。言い換えると、細菌Bを高効率に集積することができる(
図6(D)参照)。
【0092】
なお、図示しないが、マイクロバブルMBの近傍においても、光照射による温度勾配に起因するマランゴニ対流が生じ得る。より詳細に説明すると、一般に、界面温度が高いほど界面張力は小さくなる。そのため、マイクロバブルMBの表面(気液界面)のうちレーザスポット近傍の領域では、レーザスポットからある程度離れた領域と比べて、界面張力が小さくなる。したがって、マイクロバブルMBの表面近傍では、レーザスポットから遠ざかる方向にマランゴニ対流が生じ得る。このマランゴニ対流は、比較例の構成においても生じ得る。
【0093】
また、気液界面の高さH(
図3(B)参照)が低いほど(すなわち水深が浅いほど)、熱対流の影響が小さくなる一方で、マランゴニ対流の影響が大きくなる。逆に、気液界面の高さHが高いほど、マランゴニ対流の影響が小さくなる一方で、熱対流の影響が大きくなる。また、容器11の直径φが過度に大きい場合には、メニスカスによる界面張力の勾配が緩やかになり、マランゴニ対流の影響が小さくなる。したがって、気液界面の高さHおよび容器11の直径φは、集積対象とする微小物体の性質(サイズ、形状、質量、密度等)、分散媒の性質(表面張力、密度、粘性等)、および、分散媒に対する容器11の内側面112の濡れやすさ(親水性/疎水性の程度等)に応じて、実験またはシミュレーションにより適宜定められる。
【0094】
また、容器11内の分散液Dを保持する空間、言い換えると内側面112により規定される空間が円柱形状を有することが好ましい。内側面112により規定される空間が円柱形状を有する場合、熱対流と気液界面でのマランゴニ対流とが円柱の中心軸に関して軸対称に発生する。これにより、熱対流およびマランゴニ対流の規則性が高くなり、その結果、細菌Bの集積効率が高くなる。内側面112により規定される空間の形状が円錐形状、円錐台形状、半球状または紡錘形状である場合にも同様である。ただし、内側面112により規定される空間の形状は軸対称の形状に限定されず、たとえば角柱形状、角錐形状、角錐台形状などであってもよい。なお、容器11の外部形状には、容器11の内部形状(内側面112により規定される空間の形状)に影響を与えない範囲で任意の形状を採用することができる。
【0095】
<細菌の集積結果>
まず、細菌Bの詳細な集積条件について説明する。実施の形態1において、容器11の底面111の直径φは、12mmであった。容器11の内側面112の高さは、1.5mm(=1500μm)であった。この容器11に金スパッタを行ない、厚み10nmの薄膜12を形成した。その後、容器11の内面が汚染されないように、図示しない保管装置内に容器11を24時間保管した。
【0096】
また、細菌B(詳細には黄色ブドウ球菌)の分散液を調製した。分散液における細菌Bの濃度は、2.0×108(個/mL)であった。この分散液に対して、23kHzで10分間、超音波処理を行なった(超音波処理の効果については後述する)。そして、分散液を100μLだけ容器11の底面111に滴下した。容器11の中心での気液界面の高さHは、分散液Dの分散媒である水の屈折率(1.33)を考慮して補正すると、560μm(測定に用いた顕微鏡に設けられたXYZ軸ステージの上下方向(z方向)の目盛で420目盛)であった。一方、内側面112では水の屈折率を考慮した補正は行なわなくてよく、内側面112における気液界面の高さは、600μm~800μmの範囲内(上記目盛で600目盛)であった。なお、水の屈折率を考慮しない場合、1目盛=1μmとの関係がおおよそ成り立つ。
【0097】
集積装置1の光学系は以下のように設定した。倍率40倍の対物レンズ7を用いた。レーザスポット径は約2.5μmであった。対物レンズ7を通過後のレーザ出力は、レーザ光源5から出射直後のレーザ出力の約35%となる。容器11の底面111および薄膜12を通過後のレーザ出力は、約100mWであった。
【0098】
比較例における基板91上の薄膜92は、容器11の底面111上の薄膜12と同等である。また、比較例における細菌Bの分散液および集積装置の光学系は、実施の形態1のものと共通である。
【0099】
図7は、細菌Bの集積結果の一例を示す連続画像である。
図7(A)は比較例における細菌Bの集積の様子を示し、
図7(B)は実施の形態1における細菌Bの集積の様子を示す。
図7(A)および
図7(B)では、光照射開始から1秒、10秒、30秒および60秒経過後の画像を示す。なお、各画像の焦点(フォーカス位置)は、容器11の底面111の上面、あるいは基板91の上面に設定した。
【0100】
図7(A)および
図7(B)では、マイクロバブルMBの直径(「赤道」の位置における径)の位置をMBで示している。実施の形態1におけるマイクロバブルMBの直径は、比較例におけるマイクロバブルMBの直径よりも大きかった。具体的には、比較例におけるマイクロ
バブルMBの直径(複数の測定結果の平均値であり、以下の数値についても同様である)が66.0μmであったのに対し、実施の形態1におけるマイクロバブルMBの直径は109μmであった。すなわち、実施の形態1によれば、マイクロバブルMBの直径が1.7倍になった。
【0101】
また、細菌Bが集積された領域の面積(以下「集合面積」とも称する)Aは、比較例では1.75×103μm2であったのに対し、実施の形態1においては3.74×103μm2であった。すなわち、実施の形態1によれば、集合面積Aが2.1倍になった。
【0102】
さらに、連続画像のなかから特定の細菌Bを追跡して、その移動速度(レーザスポットから約200μm離れた位置での移動速度)を算出したところ、細菌Bの移動速度は、比較例では5.58μm/sであったのに対し、実施の形態1においては175μm/sであった。すなわち、実施の形態1によれば、細菌Bの移動速度が31倍にも上昇することが確認された。
【0103】
<細菌の生死判定>
光照射により分散液Dの温度が過度に上昇すると、集積された細菌Bが熱による損傷を受け、死滅してしまう場合がある。以下では、集積された細菌Bの生死を蛍光染色により判定した結果について説明する。
【0104】
図8は、細菌Bの蛍光染色手法を説明するための図である。一般に、細菌を染色するための蛍光色素として、SYTO9(登録商標)とPI(Propidium Iodide)とが知られている。SYTO9は、膜透過性を有するDNA染色試薬であり、細菌の細胞膜に損傷が生じているか否かにかわらずDNAを染色する。つまり、生存している細菌(生菌)と、死滅した細菌(死菌)との両方がSYTO9により染色される。SYTO9を含む細菌にSYTO9の励起波長の光を照射すると、緑色の蛍光を発する。一方、PIは膜透過性を有さない。そのため、細胞膜に損傷が生じている細菌(すなわち死菌)のみがPIにより染色される。PIを外部から励起すると、赤色の蛍光を発する。
【0105】
図9は、集積された細菌Bの蛍光観察像である。
図9(A)および
図9(B)は、比較例における、SYTO9の励起波長による蛍光観察像(以下「SYTO9画像」とも記載する)と、PIの励起波長による蛍光観察像(以下「PI画像」とも記載する)とをそれぞれ示す。
図9(C)および
図9(D)は、実施の形態1における、SYTO9画像およびPI画像をそれぞれ示す。
【0106】
図9(A)および
図9(C)のSYTO9画像を対比すると、実施の形態1では、比較例と比べて、より多くの細菌Bが集積されたことが分かる。また、
図9(B)および
図9(D)のPI画像に示すように、比較例および実施の形態1のいずれにおいてもレーザスポット近傍に死菌
が観察される。SYTO9画像とPI画像とを比較した場合に、その差分が生菌量に相当する。比較例および実施の形態1のいずれにおいても、細菌Bを生きたまま集積できていることが分かる。
【0107】
<ビーズの集積結果>
次に、ビーズの集積結果の一例について説明する。集積対象とするビーズには、直径1.0μmのポリスチレンビーズ(Micromod社製)を用いた。また、この測定においても、倍率40倍の対物レンズ7を用いた。対物レンズ7通過後のレーザ出力は、約100mWであった。
【0108】
図10は、ビーズの集合面積Aの時間変化の一例を示す図である。
図10(A)は比較例におけるビーズの集積の様子を示し、
図10(B)は実施の形態1におけるビーズの集積の様子を示す。横軸は、光照射開始時からの経過時間を示し、縦軸は、ビーズの集合面積Aを示す。エラーバーは、5回の測定結果から求められたものである。
図10(A)および
図10(B)より、実施の形態1におけるビーズの集合面積Aの方が、比較例におけるビーズの集合面積Aよりも数倍大きいことが分かる。
【0109】
<粒子径の影響>
ビーズの粒子径がビーズの集積に及ぼす影響について説明する。以下に説明する例では、粒子径(直径)が互いに異なる5種類のポリスチレンビーズを準備した。ビーズの粒子径は、小さいものから順に、50nm、100nm、200nm、500nm、1μmであった。粒子径が1μmのビーズはPolysciene社製であり、残りのビーズはMicromod社製であった。分散液Dのビーズの濃度は、粒子径50nmのビーズについては8.1×1011(個/mL)に設定し、粒子径100nmのビーズについては1.0×1011(個/mL)に設定し、粒子径200nmのビーズについては1.3×1010(個/mL)に設定し、粒子径500nmのビーズについては8.1×108(個/mL)に設定し、粒子径1μmのビーズについては1.0×1011(個/mL)に設定した。また、超純水を溶媒とする分散液Dに界面活性剤であるTween20(登録商標)を導入した。界面活性剤の濃度(体積パーセント濃度)は10-3(vol%)であった。
【0110】
図11は、ビーズの粒子径の影響を説明するための図である。なお、光照射時間は、粒子径にかかわらず300秒で共通とした。
図11において、横軸はビーズの粒子径を示す。縦軸は、単位時間当たりのビーズの集積数である「集合レート」(Assembly Rate)α(個/s)を対数目盛りで示す。
【0111】
ビーズの集合レートαは、下記式(1)に従って算出することができる。式(1)では、集合面積A(たとえば
図7(A)および
図7(B)参照)で示した領域内に集積されたビーズの総体積をV(A)で表し、各ビーズの体積をvpで表し、光照射時間(加熱時間)をtで表している。
【0112】
V(A)-vp×α×t=0 ・・・(1)
ビーズの総体積V(A)は、ビーズが集積された領域(ビーズの集合面積Aに対応する領域)において、球に近似可能であるマイクロバブルMBと、薄膜12との間に挟まれた空間の体積として算出することができる。また、ビーズの体積vpはビーズの粒子径から既知であり、光照射時間tも時間計測により既知である。よって、これらのパラメータを式(1)に代入することにより、ビーズの集合レートαを算出することができる。
【0113】
図11に示すように、ビーズの粒子径が大きくなるに従って集合レートαが低下するものの、50nm~1μmの広範囲に亘ってビーズを集積可能であることが確認された。
【0114】
<微小物体の濃度推定精度>
分散液D中に分散した微小物体の濃度(分散液Dの体積が既知あるいは測定可能であれば、分散液D中の微小物体の個数と言い換えてもよい)を推定することが求められる場合がある。そのような微小物体の濃度推定を光照射による集積メカニズムを利用して行なった場合の濃度推定精度の検証結果について以下に説明する。この検証では、直径1μmの黄色ブドウ球菌(以下、細菌Bと記載する)を微小物体として用いた。光照射時間は300秒とした。
【0115】
図12は、細菌Bの濃度推定精度の検証結果を説明するための図である。
図12の縦軸が細菌Bの濃度を示す。
図12には、濃度が異なるサンプルを用いた5回の検証結果が示されている。実施の形態1における集積装置1により集積された細菌Bの濃度推定精度を濃い棒グラフ(2本並んだ棒グラフのうちの左側のグラフ)で示す。
【0116】
分散液D中の細菌Bの濃度Cと、細菌Bの集合レートαとの間には相関関係が存在する。より詳細に説明すると、後に
図30に示すように、直径1μmのビーズにおいて、集合レートαと濃度Cとの間には、係数βおよび指数kを用いてα=βC
kと表される相関関係が存在する。係数βおよび指数kは、微小物体のサイズが同程度であれば、微小物体の種類がビーズと細菌とで異なっていても共通である(この例では、レーザ照射時間300秒のとき、β=6.3×10
-8、k=1.18)。このような知見に基づき、濃度Cが既知であるビーズの分散液Dを複数準備し、各分散液Dについて上記式(1)に従ってビーズの集合レートαを算出することにより、ビーズの濃度Cと集合レートαとの相関関係(α=βC
k)を求めることができる。そして、この相関関係を参照することによって、細菌Bについても集合レートαから濃度Cを推定することが可能である。
【0117】
図12では、比較のため、従来、広く用いられている細菌Bの培養法による濃度推定結果を薄い棒グラフ(右側のグラフ)で示す。5回のいずれの検証結果においても、実施の形態1により推定された細菌Bの濃度が、培養法により推定された細菌Bの濃度とよく一致していることが確認された。
【0118】
<超音波処理の影響>
続いて、超音波処理の実施時と非実施時との集積結果を対比することで、超音波処理の効果について詳細に説明する。この測定では、集積対象にビーズを用いた。しかし、以下の説明では、ビーズを細菌B(あるいは他の微小物体)に適宜読み替えることができる。
【0119】
超音波処理においては、たとえば、ビーズの分散液が超音波処理用の別の容器(図示しないマイクロチューブなど)に移され、所定周波数(たとえば23kHz)の超音波が所定時間(たとえば10分間)だけ照射される。このマイクロチューブの内面には、微量の両親媒性物質19(
図15(B)参照)を予め付着させることができる。このようなマイクロチューブにビーズの分散液を加えて超音波処理を実施すると、両親媒性物質がマイクロチューブの内面から剥がれ、分散液D中に分散する。その結果、ビーズの分散液をマイクロチューブから容器11に移し替える際に、両親媒性物質19も容器11に移されることになる。
【0120】
図13は、超音波処理の非実施時におけるビーズの集積の様子を示す連続画像である。
図14は、超音波処理の実施時におけるビーズの集積の様子を示す連続画像である。いずれの連続画像においても両親媒性物質を内面に付着させたマイクロチューブを用いた結果が示されている。図中の数値は、光照射開始時からの経過時間を示す。
【0121】
図13および
図14に示す連続画像において、たとえば、光照射開始から2.16秒経過後の画像同士を比較すると、超音波処理の実施時にはビーズが淀み領域SRに高密度に集積しているのに対し、超音波処理の非実施時には淀み領域SRにおけるビーズの集積密度が相対的に低い。これらの結果から、超音波処理によってビーズの集積を促進可能であることが分かる。
【0122】
図15は、超音波処理による集積促進メカニズムを説明するための図である。
図15(A)に示すように、熱対流によって、たとえば細菌BがマイクロバブルMBの側面付近に到達した場合、細菌Bには、外力FHと外力FIとが作用する。
【0123】
外力FHは、熱対流に起因する力である。マイクロバブルMBの下方が光照射により加熱されているため、マイクロバブルMBの下方の温度の方が、マイクロバブルMBの上方の温度よりも高い。そのため、熱対流は下方から上方に生じる。したがって、熱対流に起因する外力FHは、下方から上方に向けて細菌Bに作用する。
【0124】
マイクロバブルMBの表面においても、マイクロバブルMBの表面に沿う方向(上下方向)の温度差に起因する界面張力の勾配により、マイクロバブルMBの表面に沿ってマランゴニ対流が発生する。外力FIは、分散液DとマイクロバブルMBとの間の界面張力である。温度が高いほど界面張力は小さくなるので、マイクロバブルMBの下方の界面張力の方が、マイクロバブルMBの上方の界面張力よりも小さい。一方、分散液DとマイクロバブルMBとの間の界面張力の作用方向は、分散液Dの性質(より具体的には、分散液Dに含まれる物質およびその濃度分布ならびに分散液Dの温度分布)に応じて定まる。
【0125】
両親媒性物質19は、分散液D中を浮遊(分散)した状態を維持するよりも、疎水基をマイクロバブルMBに向けてマイクロバブルMBの表面(一種の気液界面)に吸着した状態となる方がエネルギー的に安定である。そのため、両親媒性物質19は、マイクロバブルMBの表面に吸着しやすい。光照射に伴う加熱によりマイクロバブルMBが成長する際、マイクロバブルMBの上方領域の方が、マイクロバブルMBの下方領域と比べて、分散液D中の両親媒性物質19との接触確率(衝突確率)が高い。したがって、マイクロバブルMBの上面に吸着した両親媒性物質19の濃度が、マイクロバブルMBの下方に吸着した両親媒性物質19の濃度よりも高くなりやすい。液体中では、両親媒性物質の濃度が高いほど界面張力(界面自由エネルギー)が低くなる。よって、超音波処理を実施した場合には、両親媒性物質19の上下方向の濃度差によっては外力FIが上方から下方へと作用し得る。
【0126】
図15(B)に示すように、外力FIが上方から下方へと作用することで、細菌BがマイクロバブルMBの上方へと上昇しにくくなり、それにより細菌Bが淀み領域SRに滞留しやすくなる。つまり、細菌Bが淀み領域SRに集積されやすくなる。界面活性剤を分散液D中に分散させるための超音波処理を実施すると、このようなメカニズムにより細菌Bの集積効率を一層高めることができる。
図7および
図9に示した集積結果は、すべて超音波処理を実施したものである。
【0127】
なお、ここでは両親媒性物質19をマイクロチューブ内面に付着させた例を説明したが、両親媒性物質19を容器11の内面に付着させ、容器11に超音波処理を実施してもよい。また、両親媒性物質19を分散液D中に直接加えてもよい。
【0128】
以上のように、実施の形態1によれば、気液界面に対して凹となるメニスカスが形成されるように分散液Dが容器11に保持される。これにより、薄膜12への光照射に伴う光発熱効果によって分散液D中に温度勾配を生じせ、それにより分散液D中に熱対流を発生させるとともに、気液界面にマランゴニ対流を発生させることができる。熱対流とマランゴニ対流とが同一方向に流れ、互いに強め合うことで、細菌Bの移動速度が上昇する。その結果、淀み領域SRへの細菌Bの集積量を増加させることができる。このように、実施の形態1によれば、分散液D中に分散した細菌Bを高効率かつ高密度に集積することができる。
【0129】
[実施の形態1の変形例]
図16は、実施の形態1の変形例における集積キット20の周辺構成を模式的に示す図である。
図16に示すように、集積キット20には、マイクロウェルアレイ20Aが形成されている。マイクロウェルアレイ20Aは、アレイ状に配列された複数のマイクロウェル21を含む。
【0130】
各マイクロウェル21の内部構成は、実施の形態1にて説明した容器11の内部構成(
図3参照)と基本的に同等であるため、詳細な説明は繰り返さない。なお、
図16では、図面が煩雑になるのを防ぐため、4つのマイクロウェル21が形成された例を示すが、マイクロウェル21の個数は複数であれば特に限定されず、たとえば数百個~数千個程度であってもよい。
【0131】
さらに、実施の形態1の変形例に係る集積装置は、対物レンズ7に代えて、マイクロレンズアレイ7Aを備える。マイクロレンズアレイ7Aでは、集積キット20に形成された各マイクロウェル21と1対1に対応するようにレンズが配列されている。マイクロレンズアレイ7Aは、レーザ光源5からのレーザ光L1を分岐するとともに集光して、複数のマイクロウェル21の各々に照射する。実施の形態1の変形例に係る集積装置の上記以外の構成は、実施の形態1に係る集積装置1の対応する構成(
図1参照)と同等である。
【0132】
以上のように、実施の形態1の変形例によれば、マイクロウェルアレイ20Aとマイクロレンズアレイ7Aとが設けられる。これにより、1つのレーザ光源5からのレーザ光L1で多数の集積作用を同時に生じさせることが可能になる。また、マイクロウェル21毎に異なる種類の微小物体を含む分散液Dを滴下した場合には、一回の集積処理で複数種類の微小物体を集積することができる。
【0133】
[実施の形態2]
実施の形態1では、レーザスポット近傍に細菌Bを高密度かつ高効率に集積可能であることを説明した。ただし、集積条件(薄膜12の厚みまたはレーザ出力など)の設定によってはレーザスポット近傍の温度が過度に上昇し、細菌を損傷させてしまう可能性がある。実施の形態2においては、熱による損傷を抑制しつつ細菌等の微小物体を集積可能な技術について説明する。
【0134】
実施の形態2においても、細菌(より詳細には大腸菌および黄色ブドウ球菌)を集積する構成を例に説明する。しかし、集積対象とする微小物体は、熱による損傷を抑制することが望ましいものであれば特に限定されるものではなく、たとえば他の生体物質であってもよい。なお、実施の形態2に係る集積装置の全体構成は、実施の形態1における集積装置1の構成(
図1参照)と同等であるため、説明は繰り返さない。
【0135】
<集積キットの構成>
図17は、実施の形態2における集積キット30の構成を模式的に示す図である。
図17には、集積キット30の断面図が示されている。集積キット30は、基板31と、薄膜32と、断熱スペーサ(以下「スペーサ」と略す)33とを含む。
【0136】
基板31は、薄膜32による光発熱効果に影響を与えない材料により形成され、比較例(
図2参照)と同様に、たとえばガラス基板である。
【0137】
スペーサ33は、熱伝導を抑制するための空間を確保することを目的に、基板31上に形成される。そのため、スペーサ33には、レーザ光源5からのレーザ光L1を吸収せず、かつ熱伝導率が低い材料が用いられる。スペーサ33は、たとえば、マイクロメートルオーダーのサイズを有する樹脂ビーズである。実施の形態2では、直径100μmのポリスチレンビーズがスペーサ33として用いられる。
【0138】
基板31上のスペーサ33は以下のように準備される。まず、スペーサ33の分散液を所定量(たとえば数μL)だけ基板31上に滴下する。その後、基板31を自然乾燥または真空乾燥させることより、分散媒を蒸発させる。このようにすることで、スペーサ33を基板31上に固定することができる。
【0139】
スペーサ33の形状は特に限定されるものではなく、たとえば、直方体形状であってもよいし、円柱形状であってもよいし、より複雑な形状であってもよい。また、スペーサ33の材料もポリスチレンに限定されず、アクリル、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の他の樹脂であってもよいし、たとえばシリカであってもよい。また、基板31とスペーサ33とが同じ材料により一体的に形成されていてもよい。
【0140】
集積キット30では、基板31上に固定されたスペーサ33のさらに上に薄膜32が形成される。薄膜32は、比較例および実施の形態1と同様に、たとえば、厚みがナノメートルオーダーの金属薄膜である。実施の形態2では、スパッタにより厚み10nmの金薄膜を形成した。薄膜32の形成手法は特に限定されず、無電解メッキであってもよい。
【0141】
図18は、
図17に示したスペーサ33の周辺構成を、より詳細に説明するための図である。なお、
図18(A)には対比のため、比較例におけるレーザスポットの周囲の様子が示されている。また、
図18および後述する
図31では、分散液D中の細菌等の微小物体の図示を省略している。
【0142】
比較例では、
図18(A)に示すように、レーザスポットの位置で薄膜92による光発熱効果が生じる。その後、
図5にて説明したように、マイクロバブルMBが成長するとともに熱対流が生じ、それにより細菌Bが淀み領域SR
に集積する。
【0143】
淀み領域SRの分散液Dには、マイクロバブルMBが比較的大きな接触面積で接触している。マイクロバブルMBは、分散媒(この例では水)が薄膜92の光発熱効果により局所的に沸騰して気化することにより生成する。よって、マイクロバブルMBは高温である。このことは、淀み領域SRの近傍に、いわば「熱源」が設けられた状況と言うことができる。したがって、
図18(A)に示した構成では、淀み領域SRと熱源とが接触することになるので、淀み領域SRの温度が上昇しやすい。その結果、淀み領域SRに集積された細菌Bが熱による損傷を受ける可能性がある。
【0144】
これに対し、実施の形態2においては、基板31上にスペーサ33が設けられる(
図18(B)参照)。これにより、以下に説明する主に3点の理由により、細菌Bの集積領域の過度の温度上昇を防止することができる。
【0145】
第1に、薄膜32を形成するためのスパッタは、基板31上へのスペーサ33の固定後に行なわれる。そのため、基板31とスペーサ33との間には、薄膜32が形成されていない(つまり、スパッタされた金ナノ粒子が付着していない)下方領域LRが存在する。このため、レーザ光L1を照射した場合、下方領域LRでは光発熱効果が起こらず、スペーサ33の上方領域URに形成された薄膜32の光発熱効果により熱が発生する。したがって、比較例(
図18(A)参照)と比べて、細菌Bの集積領域と加熱領域(上方領域UR)との間の距離を確保することができる。
【0146】
第2に、スペーサ33の熱伝導率は、薄膜32の熱伝導率よりも著しく低い。より詳細には、金の熱伝導率は、金の形状(たとえば金薄膜の膜厚)に依存するが、一般的には、80~320(W/m・K)の範囲内である。これに対し、スペーサ33の材料であるポリスチレンの熱伝導率は0.1(W/m・K)である。つまり、スペーサ33の熱伝導率は、金の熱伝導率と比べて3桁小さい。なお、水の熱伝導率は、0.6(W/m・K)であり、ガラスの熱伝導率は1(W/m・K)である。このようにスペーサ33の熱伝導率が低いため、薄膜32にて発生した熱は、スペーサ33の内部には伝導しにくい。したがって、必然的に高温となるマイクロバブルMBと異なり、スペーサ33の温度は上昇しにくい。
【0147】
第3に、薄膜32(より詳細には上方領域UR)にて発生した熱は、スペーサ33の表面に形成された薄膜32を伝導する。薄膜32の熱容量は小さい。その一方で、薄膜32の表面積、すなわち周囲の分散液Dとの接触面積は大きい。したがって、薄膜32は、対流している分散液Dとの熱交換により冷却されやすい。
【0148】
以上の主に3点の理由により、実施の形態2によれば、スペーサ33を設けることで細菌Bの集積領域の過度の温度上昇を防止することができる。その結果、集積された細菌Bへの熱による損傷を抑制することができる。
【0149】
なお、実施の形態2では、スペーサ33の上方領域URにて発生した熱によって分散液Dが加熱される。そのため、熱対流は、主にスペーサ33の上方に発生し、比較例における淀み領域SRに相当する領域(
図18(A)参照)での流れは相対的に弱い。
【0150】
<ビーズの集積結果>
以下では、基板31の上面を基準としたレーザ光L1のビームウエストの高さ(基板31の上面とビームウエストとの間の距離)をhと表す(
図18(C)参照)。まず、ビームウエストの高さhが微小物体の集積に与え得る影響について調べた。ここでは、細菌Bの分散液に代えて、直径1μmのポリスチレンビーズ(以下「ビーズ」と略す)の分散液を用いた。
【0151】
図19は、ビームウエストの高さ依存性を説明するための図である。ビームウエストの高さhは、上から順に0μm、10μmおよび20μmである。図中に示された多数の微小な黒点がビーズである。
【0152】
ビームウエストの高さhが0μmまたは10μmであった場合、ビーズは、光照射によりスペーサ33の付近に集積した。一方で、ビームウエストの高さhが20μmであった場合、ビーズを適切に集積できず、ビーズがスペーサ33から遠ざかる方向に移動してしまう様子が確認された。したがって、以下ではビームウエストの高さhが0μmまたは10μmであった場合について、より詳細に測定を行なった。
【0153】
図20は、ビームウエストの高さh=0μmの場合のビーズの集積の様子を示す連続画像である。
図21は、ビームウエストの高さh=10μmの場合のビーズの集積の様子を示す連続画像である。各図の中心(縦線と横線との交点)がレーザスポットの位置である。図中の数値は、光照射開始時からの経過時間を示す。
【0154】
図20を参照して、ビームウエストの高さh=0μmの場合、光照射開始後、数十秒程度でスペーサ33の周囲にビーズが高密度に集積されることが確認された。ただし、ビーズは、スペーサ33からある程度の距離範囲内(
図20に示す例では数十μmの範囲内)には集積されにくいことが分かる。このことは以下のように説明される。
【0155】
スペーサ33の材料として樹脂(ポリスチレン等)またはシリカを用いた場合、各スペーサ33は負に帯電しているため、スペーサ33の周囲には電気二重層が形成されている。一方、ビーズも負に帯電している(より詳細には、ビーズがポリスチレンの場合にはゼータ電位が-30mV程度である)。したがって、ビーズとスペーサ33との間には電気的反発力(斥力)が働く。ビームウエストの高さh=0μmの場合、熱対流が比較的緩やかである。このため、スペーサ33の近傍では、ビーズに作用する電気的反発力の方が熱対流による外力よりも強い。その結果、スペーサ33との間にある程度の距離を隔てた状態でビーズが集積されると考えられる。
【0156】
一方、
図21を参照して、ビームウエストの高さh=10
μmの場合、ビームウエストの高さh=0μmの場合と比べて熱対流が激しい。そのため、光照射開始時からのビーズの集積速度が速いことが確認された。また、スペーサ33の直近までビーズを集積可能であることが分かる。
【0157】
<細菌の集積および生死判定>
続いて、細菌Bの集積結果および生死判定結果の一例を説明する。実施の形態2では、細菌Bとして、大腸菌および黄色ブドウ球菌を用いた。大腸菌は棹菌であり、その長軸長さは数μmである。一方、黄色ブドウ球菌は球菌であり、その直径は約1μmである。しかし、大腸菌と黄色ブドウ球菌とを区別しない場合には単に細菌Bと記載する。
【0158】
以下では、レーザ光L1のビームウエストの高さhを0μmに設定するとともに、対物レンズ7および基板31を通過後のレーザ出力を1.0Wに設定した。また、レーザ光L1の照射時間は1分間に設定した。各透過像は、光照射開始から1分間が経過した時刻のものである。さらに、光照射の終了直後に蛍光観察像を取得した。
【0159】
図22は、実施の形態2における大腸菌の集積結果を示す図である。
図23は、実施の形態2における黄色ブドウ球菌の集積結果を示す図である。
図22(A)および
図23(A)は透過像を示し、
図22(B)および
図23(B)は蛍光観察像を示す(上部にSYTO9画像を示し、下部にPI画像を示す)。
【0160】
図22(A)および
図23(A)の透過像に示すように、細菌Bの形状にかかわらず、光照射により細菌Bを集積できることが分かる。さらに、
図22(B)および
図23(B)のPI画像から、集積された細菌Bには死菌がほとんど発生しておらず、高い割合で細菌Bを生きたまま集積可能であることが分かる。
【0161】
以上のように、実施の形態2によれば、薄膜32の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有し、薄膜32からの熱伝導を妨げるスペーサ33を基板31上に設けることによって、薄膜32の光発熱効果により発生した熱が細菌Bの集積領域に伝わりにくくなる。これにより、細菌Bの集積領域の過度の温度上昇を防止し、熱による細菌Bの損傷を抑制することができる。その結果、高い生存率(集積された全細菌数に対する生菌数の割合)を実現することができる。
【0162】
<界面活性剤の影響>
細菌Bまたはビーズ等の微小物体の集積メカニズム(
図5および
図6参照)に関し、微小物体の集積に寄与する作用として、熱対流と、気液界面でのマランゴニ対流とを説明するとともに、気液界面からの分散媒の蒸発により熱対流が加速されることを説明した。このような作用を利用した集積過程では、集積条件(たとえば、レーザ光源5からのレーザ出力または薄膜52の厚み)によっては、熱対流が過度に激しく生じ、微小物体がスペーサ33(あるいはマイクロバブルMB)近傍に適切に集積されない場合がある。その場合には、界面活性剤を分散液Dに導入することができる。実施の形態2では、分散液Dに界面活性剤を導入した場合の界面活性剤の作用についても説明する。
【0163】
実施の形態2および後述する実施の形態2の変形例2においても、界面活性剤としてTween20(登録商標)を用いた。界面活性剤の濃度には、淀み領域SRへの微小物体(以下の例ではMicromod社製のビーズ)の集積に適した濃度が存在するところ、事前の評価試験の結果、界面活性剤の濃度(体積パーセント濃度)を10-1(vol%)に設定した。また、対物レンズ7の倍率を40倍とし、対物レンズ7通過後のレーザ出力を0.05Wに設定した。
【0164】
図24は、実施の形態2における界面活性剤の影響を説明するための図である。
図24(A)は、界面活性剤を導入しなかった場合のスペーサ33近傍の様子を示し、
図24(B)は、界面活性剤を導入した場合のスペーサ23近傍の様子を示す。図中の数値は、光照射開始時からの経過時間を示す。
【0165】
界面活性剤を導入しなかった場合、激しい熱対流が確認された。そのため、ビーズは、スペーサ33の近傍に集積されなかった(
図24(A)参照)。これに対し、界面活性剤を導入した場合には、熱対流が緩やかになり、ビーズがスペーサ53近傍に集積される様子が確認された(
図24(B)参照)。これは、分散液Dとその周囲の気体との気液界面に界面活性剤が吸着して単分子膜を形成することで分散媒が蒸発しにくくなり、それにより熱対流の加速が抑制されたためと考えられる。このように、熱対流を加速する作用に限らず、熱対流の加速を抑制する作用もビーズの集積に寄与する作用である。したがって、熱対流の加速を抑制する作用を生じさせることも、分散液D中の流速を集積に最適な速度に調整する点において、液体中に分散した微小物体の高効率集積に含まれ得る。
【0166】
図25は、界面活性剤の濃度の影響を説明するための図である。
図25に示す例では、界面活性剤の濃度が異なる4種類の分散液D(第1~第4のサンプル)を準備した。第1のサンプルには界面活性剤が含まれない。第2~第4のサンプルに含まれる界面活性剤の濃度は、それぞれ、1.0×10
-3,1.0×10
-2,1.0×10
-1(vol%)であった。
【0167】
Tween20の臨界ミセル濃度は、6.7×10-3(vol%)である。そのため、第3および第4のサンプルに含まれる界面活性剤の濃度は臨界ミセル濃度以上であり、第2のサンプルに含まれる界面活性剤の濃度は臨界ミセル濃度未満である。レーザスポットの直径を2.5μmに設定するとともに、対物レンズ7通過後のレーザ出力を0.1Wに設定した。
【0168】
第2~第4のサンプルでは、第1のサンプル比べて、
図15にて説明したメカニズムに従い、ビーズの集積数が増加することが分かる。ビーズの集積数を増加させる観点からは、特に第3または第4のサンプルのように、界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度以上であることが望ましい。ただし、第2のサンプルのように、界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度を大きく下回らないのであれば(たとえばオーダーが1桁または2桁小さい程度であれば)、臨界ミセル濃度未満(この例では数分の1)であってもよい。逆に、界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度よりも過度に高い(たとえばオーダーが3桁高い)ことは好ましくない。つまり、界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度と同程度であることが好ましい。このことは、界面活性剤の濃度は臨界ミセル濃度を含む所定範囲内(たとえば、臨界ミセル濃度よりもオーダーが2桁低い濃度以上であり、かつ、臨界ミセル濃度よりもオーダーが2桁高い濃度以下である、実験的に定めることが可能な範囲内)であることが好ましいと言い換えることができる。なお、
図25より、界面活性剤の濃度が高くなるに従ってマイクロバブルMBの大きさが小さくなることも分かる。
【0169】
図26は、界面活性剤の濃度がビーズの集合面積Aに及ぼす影響を説明するための図である。
図26において、横軸は光照射時間を示し、縦軸はビーズの集合面積Aを示す。
【0170】
図26より、界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度以上である場合(第3および第4のサンプル)には、界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度未満である場合(第1および第2のサンプル)と比べて、ビーズの集合面積Aが大きいことが分かる。特に、界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度に最も近い第3のサンプルにおいて、ビーズの集合面積Aが最大となる。
【0171】
<ビーズの濃度の影響>
図27は、ビーズの濃度がビーズの集積に及ぼす影響を説明するための図である。
図27において、横軸は光照射時間を示し、縦軸はビーズの集合面積Aを対数目盛りで示す。
図28は、光照射開始時から300秒経過後におけるビーズの集積結果の一例を示す画像である。
【0172】
この例では、ビーズの濃度が互いに異なる5種類の分散液D(第5~第9のサンプル)を準備した。第5~第9のサンプルに含まれるビーズの濃度は、この順に高く、それぞれ、4.55×10
8,4.55×10
7,4.55×10
6,4.55×10
5,4.55×10
4(個/mL)であった。なお、界面活性剤の濃度は、1.0×10
-2(vol%)で共通にした。
図27に示すように、ビーズの濃度が高いほど集合面積Aが大きい。このことは
図28の比較画像に顕著に示されている。
【0173】
図29は、
図27に示した図に対して式(1)によるフィッティング(曲線回帰)を行なった図である。
図29では、回帰分析により求められた曲線を太線で示している。
【0174】
図30は、ビーズの濃度と集合レートαとの関係を示す図である。
図30においては、横軸にビーズの濃度が示され、縦軸に集合レートαが示されている。
図30に示すように、ビーズの濃度が高いほど集合レートαが高いとの相関関係の存在が確認された。
【0175】
[実施の形態2の変形例1]
実施の形態2では、比較例と同様に、基板31上に滴下され半楕円球状となった分散液D中にスペーサ33を設ける構成について説明した(
図17参照)。しかし、スペーサは、実施の形態1にて説明したように、容器の内側面に凹型のメニスカスが形成された状態の分散液内に設けてもよい。
【0176】
図31は、実施の形態2の変形例1における集積キット40の構成を模式的に示す図である。
図31を参照して、集積キット40は、容器41と、薄膜42と、スペーサ43とを含む。容器41は、底面411と、内側面412とを有する。容器41の底面411および内側面412は、実施の形態1における容器11の底面111および内側面112(
図3参照)とそれぞれ同等である。また、薄膜42およびスペーサ43は、実施の形態2における薄膜32およびスペーサ33(
図17参照)とそれぞれ同等である。したがって、集積キット40の構成についての詳細な説明は繰り返さない。
【0177】
[実施の形態2の変形例2]
基板上へのスペーサの固定手法として、スペーサが分散した分散液を基板上に滴下し、その基板を乾燥させて分散媒を蒸発させる手法を説明した。この手法は簡易ではあるものの、スペーサの固定度合いが比較的弱く、スペーサが対流により基板から剥離してしまう場合がある。そこで、実施の形態2の変形例2においては、スペーサの、より強固な固定手法が採用される。
【0178】
図32は、実施の形態2の変形例2における集積キット50の構成を模式的に示す図である。
図32を参照して、集積キット50は、容器51と、薄膜52と、スペーサ53と、接着部材54とを含む。容器51は、底面511と、内側面512とを有する。容器51の底面511および内側面512は、実施の形態2の変形例1における容器41の底面411および内側面412(
図31参照)とそれぞれ同等である。
【0179】
接着部材54は、容器51の底面511とスペーサ53との間に設けられ、底面511とスペーサ53とを接着する。接着部材54には、レーザ光源5からのレーザ光L1を吸収しない材料が用いられる。そのような材料としては、たとえば、少なくともレーザ光L1の波長域(近赤外域)において透明の両面テープが挙げられる。両面テープの厚みは、たとえば100μm程度である。このように、接着部材54を用いることで、スペーサ53を底面511上に強固に固定することができる。接着部材54を介してスペーサ53を底面511上に固定した後に、たとえばスパッタにより薄膜52が形成される。薄膜52は、実施の形態2における薄膜42と同等である。
【0180】
以上のように、実施の形態2の変形例2によれば、接着部材54を用いることでスペーサ53を底面511上に強固に固定することができる。これにより、熱対流によるスペーサ53の剥離を防止することができる。
【0181】
なお、実施の形態2の変形例2においても実施の形態2と同様に、分散液D中に界面活性剤を導入してもよい。これにより、ビーズがスペーサ53近傍に集積しやすくなるように熱対流の強さを調整する(熱対流を緩やかにする)ことができる。気液界面に対して凹となるメニスカスが形成されている場合には、気液界面に対して凹となるメニスカスが形成されてい
ない場合(
図17参照)と比べて、レーザスポットと、その上方の気液界面との間の距離が近くなりやすいので、レーザスポット上方の気液界面の温度が上昇しやすい。その結果、気液界面からの分散媒の蒸発の影響、すなわち分散媒の蒸発による熱対流の加速作用が大きくなりやすくなる。したがって、気液界面に対して凹となるメニスカスが形成されている場合には、気液界面への界面活性剤の吸着により分散媒の蒸発を抑制する作用を利用することが特に重要となる。
【0182】
[実施の形態2の変形例3]
図33は、実施の形態2の変形例3における集積キット60の構成を模式的に示す図である。
図33(A)は、集積キット60の断面を模式的に示し、
図33(B)は、集積キット60の上方からの写真を示す。集積キット60の構成は、実施の形態2の変形例2における集積キット50の構成(
図32参照)と基本的に同等である。ただし、集積キット60は、気液界面が内側面612の上端よりも高くなるように分散液Dが容器61に保持されている点において、集積キット50と異なる。
【0183】
このように、分散液Dにより浸漬ぬれが生じる内側面612を用いた場合であっても、分散液Dの滴下量(保持量)によっては気液界面が内側面612の上端よりも高くなる。このように、分散液Dにより内側面612に浸漬ぬれが生じた状態とは、気液界面に対して凹となるメニスカスが形成される状態に限定されず、気液界面に対して凸となるメニスカスが形成される状態をも含み得る。ただし、実施の形態2の変形例3によれば、内側面612を有する容器61を用いることにより、比較例のように基板91を用いた構成と異なり、気液界面の高さおよび気液界面の形状(メニスカスの形状)を調整することが可能になる。
【0184】
図34は、実施の形態2の変形例3において界面活性剤を導入した場合のビーズの集積結果の一例を示す連続画像である。図中の数値は、光照射開始時からの経過時間を示す。容器61の中心(レーザスポット上方)での気液界面の高さHは、分散媒である水の屈折率を考慮して補正すると、2540μm(上記目盛りで1910目盛り)であった。内側面612での気液界面の高さについては、水の屈折率を考慮した補正は必要なく、内側面612の高さと同程度の1500μm~1720μmの範囲内(上記目盛りで1724目盛り)であった。
【0185】
実施の形態2(
図24参照)と同様に、界面活性剤を導入することで熱対流が緩やかになり、ビーズがスペーサ
33近傍に集積しやすくなった。
【0186】
以上のように、実施の形態2の変形例3によれば、気液界面が内側面612の上端よりも高くなるように分散液Dが容器61に保持されている。この状態においても、適度な濃度の界面活性剤を分散液D中に導入することで、分散媒の蒸発量を低減し、過度に激しい熱対流を抑制することが可能になる。その結果、適切な強度の熱対流を発生させ、ビーズ等の微小物体をスペーサ53の近傍に集積することができる。
【0187】
[実施の形態3]
実施の形態3においては、熱による細菌Bの損傷を抑制可能な集積キットの他の構成について説明する。実施の形態3に係る集積装置の全体構成は、実施の形態1における集積装置1の構成(
図1参照)と同等である。
【0188】
図35は、実施の形態3における集積キット70の構成を模式的に示す図である。
図35を参照して、集積キット
70は、2層の薄膜72,75を含む点において、実施の形態2における集積キット30(
図17参照)と異なる。集積キット70の基板71およびスペーサ73は、集積キット30の基板31およびスペーサ33とそれぞれ同等である。
【0189】
図36は、
図35に示したスペーサ73の周辺構成を、より詳細に説明するための図である。
図36(A)に示す構成は、たとえば以下のように準備することができる。すなわち、まず、たとえばスパッタにより基板71上に薄膜72が形成される。その後、薄膜72上にスペーサ73が固定(形成)される。スペーサ73の固定手法は、スペーサ33の上述の固定手法と同等である。そして、スペーサ73が固定された状態の基板71のさらに上に、たとえばスパッタにより薄膜75が形成される。
【0190】
薄膜72,75の各々は、たとえば、厚みがナノメートルオーダーの金属薄膜である。実施の形態3では、各薄膜72,75を金薄膜とし、その厚みを10nmとした。しかし、薄膜72の材料と薄膜75の材料とが異なってもよいし、薄膜72の厚みと薄膜75の厚みとが異なってもよい。
【0191】
図36(B)を参照して、光照射を行なうと、レーザ光L1の一部が薄膜72(下方領域LR)により熱に変換され、他の一部が薄膜75(上方領域UR)により熱に変換される。薄膜72により発生する熱量と薄膜75により発生する熱量との割合は、主に各薄膜72,75の厚みに応じて定まる。上記のように同じ厚みの場合には、薄膜72により発生する熱量の方が薄膜75により発生する熱量よりも大きくなる。なお、薄膜72および薄膜75は、本開示に係る「第1の光熱変換層」および「第2の光熱変換層」にそれぞれ相当する。
【0192】
実施の形態3においては、スペーサ73が設けられる。スペーサ73の熱伝導率は、薄膜72,75の熱伝導率よりも著しく低いため、薄膜72,75にて発生した熱は、スペーサ73の内部には伝導しにくい。したがって、スペーサ73の温度は上昇しにくい。また、薄膜75の上方領域URにて発生した熱は、スペーサ73の表面(表面上の薄膜65)を伝導して広がる。薄膜75の熱容量は小さく、かつ、薄膜75と周囲の分散液Dとの接触面積は大きい。よって、薄膜75と分散液Dとの熱交換により、薄膜75が効果的に冷却される。
【0193】
このように、実施の形態3においても実施の形態2と同様に、スペーサ73を設けることで細菌Bの集積領域の過度の温度上昇を防止することができる。したがって、集積された細菌Bへの熱による損傷を抑制することができる。さらに、実施の形態3によれば、実施の形態2と比べて、薄膜の形成量が多い分だけ発熱量も大きくなる。そのため、より低いレーザ出力で細菌Bを集積することができる。
【0194】
<ビーズの集積結果>
図37は、実施の形態3におけるビーズの集積の様子を示す画像である。
図37に示した例では、ビームウエストの高さhを0μm,10μm,20μmのいずれかに設定した。実施の形態3では、いずれの高さhにおいてもビーズの集積が確認された。
【0195】
<細菌の生死判定>
実施の形態3では、レーザ光L1のビームウエストの高さhを0μmに設定した。また、比較例ではレーザ出力を1.0Wに設定したのに対し、大腸菌集積時のレーザ出力を0.1Wまたは0.2Wに設定した。レーザ光L1の照射時間は1分間に設定した。
【0196】
図38は、実施の形態3においてレーザ出力が0.1Wの場合の大腸菌の集積結果を示す図である。
図39は、実施の形態3においてレーザ出力が0.2Wの場合の大腸菌の集積結果を示す図である。各画像の並び方は、
図22または
図23における画像の並び方と同等である。
【0197】
図38(A)および
図39(A)の透過像から、レーザ出力が0.1W程度の低出力であっても細菌Bを集積できることが分かる。また、
図38(B)および
図39(B)のPI画像から、集積された細菌Bには死菌がほとんど発生してないことが分かる。
【0198】
以上のように、実施の形態3によれば、実施の形態2と同様に熱伝導率が低いスペーサ73を設けることにより、薄膜72,75の光発熱効果により発生した熱が細菌Bの集積領域に伝わりにくくなる。これにより、細菌Bの集積領域の過度の温度上昇を防止し、熱による細菌Bの損傷を抑制することができる。さらに、2層の薄膜72,75を用いることにより、実施の形態2の構成と比べて、発熱量が大きくなるので、より低いレーザ出力で細菌Bを集積することができる。
【0199】
[実施の形態3の変形例]
実施の形態2の比較例と同様に、実施の形態3におけるスペーサ73の周辺構成を、容器の内側面に凹型のメニスカスが形成される分散液内に適用してもよい。
【0200】
図40は、実施の形態3の変形例における集積キット80の構成を模式的に示す図である。集積キット80は、容器81と、薄膜82と、スペーサ83と、薄膜85とを含む。容器81は、底面811と、内側面812とを有する。容器81の底面811および内側面812は、実施の形態1における容器11の底面111および内側面112(
図3参照)とそれぞれ同等である。また、薄膜82,85およびスペーサ83は、実施の形態3における薄膜72,75およびスペーサ73(
図35参照)とそれぞれ同等である。したがって、集積キット80の構成についての詳細な説明は繰り返さない。
【0201】
以上で説明した実施の形態2(およびその変形例1~3)の構成と、実施の形態3(およびその変形例)の構成とは、集積対象とする微小物体の量あるいは耐熱性などに応じて、適宜使い分けることができる。たとえば、比較的熱に弱い細菌等を少量集積することを目的とする場合には、実施の形態2(またはその変形例1~3)の構成を採用することができる。一方、ある程度高温に耐えられる細菌等を多量に集積することが求められる場合には、実施の形態3(またはその変形例)の構成を採用することができる。
【0202】
また、実施の形態1の変形例で説明したマイクロウェルアレイ20Aおよびマイクロレンズアレイ7Aの構成(
図16参照)を、実施の形態2(およびその変形例1~3)ならびに実施の形態3(およびその変形例)の構成と組み合わせてもよい。また、接着部材54(
図32参照)および界面活性剤(
図34参照)についても、他の実施の形態および変形例と適宜組み合わせることができる。
【0203】
なお、実施の形態1~3およびその変形例では、分散液Dが水性の液体であり、容器11の内側面112が親水性を示す例について説明した。これにより、容器11は、気液界面に対して凹となるメニスカスが形成されるように分散液Dを保持することになる。しかし、分散液Dは有機溶媒であってもよい。この場合には、内側面112が親溶媒性(たとえば親油性または疎水性)を示す容器11が用いられる。そうすることにより、分散液Dが水性の液体である場合と同様に、容器11は、気液界面に対して凹となるメニスカスが形成されるように分散液Dを保持することになる。
【0204】
[他の実施例]
ナノダイヤモンドは、近年、注目を集めているナノ物質であり、生体適合性を示すことから生物分野(医療分野など)への応用が期待されている。一例として、結晶構造中に窒素原子(N)と空孔中心(V)とからなる複合欠陥(NV)を含むナノダイヤモンドは蛍光を発することから、生体分子のダイナミクス(動きおよび構造変化)を観察するための蛍光標識剤としての利用が検討されている。この実施例では、ナノダイヤモンドの集積結果について説明する。なお、集積装置の全体構成は、実施の形態1における集積装置1の構成(
図1参照)と同等であるため、詳細な説明は繰り返さない。以下の
図41~
図45に示される各画像では、画像中央が光照射位置(レーザスポット)である。
【0205】
<ナノダイヤモンドの集積結果>
実施例では、光照射によりナノダイヤモンドを集積した結果について説明する。以下の
図41~
図43には、第10~第12のサンプルにおけるナノダイヤモンドNDの集積結果が示されている。第10~第12のサンプルにおいて、ナノダイヤモンドNDの粒子径は、それぞれ、10nm,40nm,100nmであった。なお、粒子径10nmのナノダイヤモンドNDの発光波長は、約640nmである。粒子径40nmのナノダイヤモンドNDの発光波長は、約660~680nmである。粒子径100nmのナノダイヤモンドNDの発光波長は、約680~700nmである。
【0206】
図41は、第10のサンプルにおけるナノダイヤモンドNDの集積結果を説明するための図である。
図42は、第11のサンプルにおけるナノダイヤモンドNDの集積結果を説明するための図である。
図43は、第12のサンプルにおけるナノダイヤモンドNDの集積結果を説明するための図である。
図41~
図43の各図では、上から順に、光照射開始時の透過像と、光照射終了後(光照射開始から60秒後)の透過像と、光照射終了後の蛍光観察像とが示されている。
【0207】
図41(B)、
図42(B)および
図43(B)に示す透過像より、ナノダイヤモンドNDがレーザスポット(図の中心)の周囲に発生したマイクロバブルMBと基板31との間に集積されていることが分かった。また、
図41(C)、
図42(C)および
図43(C)に示す蛍光観察像より、ナノダイヤモンドND由来の発光が確認された。
【0208】
<ナノダイヤモンドの細胞への集積結果>
続いて、ナノダイヤモンドと生体試料との両方を含む第13のサンプルを準備し、光照射を行なった集積結果について説明する。第13のサンプルは、粒子径10nmのナノダイヤモンドNDと、ヒト急性リンパ芽球性白血病細胞株(CCRF-CEM)とを含むサンプルである。以下では、CCRF-CEMを簡単のため「細胞」と記載する。
【0209】
図44は、第13のサンプルにおいて、ある箇所に光照射を行なった場合のナノダイヤモンドNDの集積結果を説明するための図である。
図45は、第13のサンプルにおいて、他の箇所に光照射を行なった場合のナノダイヤモンドNDの集積結果を説明するための図である。
図44では、光照射開始時の透過像と、光照射終了後(レーザ照射開始から60秒後)の透過像と、光照射終了後の蛍光観察像(
図44(C)および
図44(D))とが示されている。
図44(C)と
図44(D)とは、露光時間およびアナログゲインが互いに異なる(
図44(C)では露光時間30秒でアナログゲイン22.5であり、
図44(D)では露光時間100秒でアナログゲイン13.6である)。
図45の撮像条件は、レーザ照射時間が120秒である点以外は
図44の撮像条件と共通である。
【0210】
図44および
図45より、ナノダイヤモンドNDを細胞表面に集積可能であることが示された。特に、
図44の集積結果と比べて、光照射時間が長い
図45の集積結果の方が、マイクロバブルMBと基板31との間だけでなく、マイクロバブルMBの近傍の細胞が多く明るく光っている。このため、集積されたナノダイヤモンドNDの数が多い様子が分かる。このことから、レーザ照射時間が長い方が、より多くのナノダイヤモンドNDを細胞に集積できることが示された。
【0211】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0212】
本開示は、人類にとって有用な生体物質等の微小物体を集積する集積装置として利用することができる。たとえば、バイオマーカーとしてのナノダイヤモンドや蛍光色素を細胞に集積化してバイオイメージングの高効率化に利用することができる。また、新薬開発において、微量の薬物を光照射位置に集積して高濃度にし、光照射位置の周囲の細胞または生体組織への影響を評価するなど、医療分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0213】
1 集積装置、2 XYZ軸ステージ、3 調整機構、4 サンプル供給部、5 レーザ光源、6 光学部品、7 対物レンズ、7A マイクロレンズアレイ、8 照明光源、9 撮影機器、10,20,30,40,50,60,70,80,90 集積キット、11,41,51,71,81 容器、20A マイクロウェルアレイ、21 マイクロウェル、111,211,411,511,611,711,811 底面、112,212,412,512,612,712,812 側面、12,22,32,42,52,62,72,75,82,85,92 薄膜、31,61,91 基板、33,43,53,63,73,83 断熱スペーサ、54 接着部材、19 両親媒性物質、100 制御部、B 細菌、D 分散液。