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特許7009013リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法
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  • 特許-リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法 図1
  • 特許-リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法 図2a
  • 特許-リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法 図2b
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220118BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220118BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019553257
(86)(22)【出願日】2018-05-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 KR2018005864
(87)【国際公開番号】W WO2019004602
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2019-09-27
(31)【優先権主張番号】10-2017-0082711
(32)【優先日】2017-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・シグ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】サン・スン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・ア・パク
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/204563(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/095133(WO,A1)
【文献】特開2016-044120(JP,A)
【文献】特表2015-508050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッチ(batch)式反応器を用いてリチウム二次電池用正極活物質前駆体を製造する方法であって、
前記バッチ式反応器に第1遷移金属含有溶液、第2遷移金属含有溶液、アンモニウムイオン含有溶液、及び塩基性水溶液を含む反応溶液を投入して、但し、前記バッチ式反応器が満液になれば反応器内部の反応溶液中の一部を反応器外部へ連続的に排出しつつ前記反応溶液を投入する段階を含み、
前記バッチ式反応器に投入される前記反応溶液の初期投入流量が下記式1を満たし、
前記バッチ式反応器内のpHが下記式2を満たすものであり、
下記式2における[Ni]t1が40モル%以上であり、pHt1が11以上であり、
前記第1遷移金属含有溶液及び第2遷移金属含有溶液は、それぞれ独立してニッケル、マンガン、コバルトからなる群から選択された少なくとも一つ以上の遷移金属の陽イオンを含み、かつ、前記第1遷移金属含有溶液と前記第2遷移金属含有溶液に含まれる遷移金属の陽イオンの濃度が異なるものであり、
前記第1遷移金属含有溶液は、前記第2遷移金属含有溶液に比べニッケル陽イオンの濃度が高い溶液であり、
前記第1遷移金属含有溶液の投入流量は漸進的に減少され、前記第2遷移金属含有溶液の投入流量は漸進的に増加される、リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法:
1.5×V/t≦υ+υ+υ≦10×V/t [式1]
前記式1において、
Vは、バッチ式反応器の体積、tは、全体反応時間(分)、υは、第1遷移金属含有溶液及び第2遷移金属含有溶液全体の初期投入流量(mL/分)、υは、アンモニウムイオン含有溶液の初期投入流量(mL/分)、及びυは、塩基性水溶液の初期投入流量(mL/分)である。
pH-{([Ni]-[Ni]t1)×0.05}pHt1 pH-{([Ni]-[Ni]t1)×0.005} [式2]
前記式2において、
pHt1は、t1時間で反応器内のpHであり、pHは、反応器内の初期pHであり、[Ni]は、初期に流入される遷移金属含有溶液でのNiモル濃度であり、[Ni]t1は、t1時間で流入される遷移金属含有溶液でのNiモル濃度である。
【請求項2】
前記第1遷移金属含有溶液は、50モル%から98モル%のニッケル、1モル%から40モル%のマンガン、及び1モル%から40モル%のコバルトを含むものである、請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記第2遷移金属含有溶液は、20モル%から80モル%のニッケル、1モル%から60モル%のマンガン、及び1モル%から60モル%のコバルトを含むものである、請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記第1遷移金属含有溶液及び前記第2遷移金属含有溶液は、静止型混合器を介して混合された後、バッチ式反応器に投入されるものである、請求項1からの何れか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項5】
前記アンモニウムイオン含有溶液は、NHOH、(NHSO、NHNO、NHCl、CHCOONH及びNHCOからなる群から選択される少なくとも一つ以上を含む、請求項1からの何れか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項6】
前記塩基性水溶液は、NaOH、KOH及びCa(OH)からなる群から選択される少なくとも一つ以上を含む、請求項1からの何れか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項7】
前記バッチ式反応器内のpHは、前記塩基性水溶液の投入流量によって制御されるものである、請求項1からの何れか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項8】
前記塩基性水溶液の投入流量は、下記式3を満たす、請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法:
υ3,0 × {1-(0.02×([Ni]-[Ni]t2))}≦υ3,t2<υ3,0 [式3]
前記式3において、
υ3,t2は、t2時間での塩基性水溶液の投入流量、υ3,0は、塩基性水溶液の初期投入流量、[Ni]は、初期に流入される遷移金属含有溶液でのNiモル濃度、[Ni]t2は、t2時間で流入される遷移金属含有溶液でのNiモル濃度である。
【請求項9】
前記反応溶液の排出は、フィルターを含むチューブを用いて行われることである、請求項1からの何れか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項10】
請求項1からの何れか一項に記載の方法によって製造された正極活物質前駆体をリチウム含有原料物質と混合した後焼成する段階を含む、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法によって製造された正極活物質を用いたリチウム二次電池用正極の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法によって製造された正極を用いたリチウム二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2017年6月29日付韓国特許出願第2017-0082711号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、二次電池用正極活物質前駆体の製造方法、前記方法によって製造された正極活物質前駆体を用いたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法、及び前記正極活物質を含むリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に対する技術開発と需要が増えるにつれ、エネルギー源として二次電池の需要が急激に増えている。このような二次電池のうち、高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が長くて、自己放電率の低いリチウム二次電池が常用化され広く用いられている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、この中でも作用電圧が高く、容量特性に優れたLiCoOのリチウムコバルト酸化物が主に用いられた。しかし、LiCoOは、脱リチウムによる結晶構造の不安定化によって、熱的特性が極めて劣悪であり、かつ、高価であるため、電気自動車等のような分野の動力源として大量使用するには限界がある。
【0005】
LiCoOを代替するための材料として、リチウムマンガン酸化物(LiMnO又はLiMn等)、リチウムリン酸鉄化合物(LiFePO等)又はリチウムニッケル酸化物(LiNiO等)等が開発された。この中でも約200mAh/gの高い可逆容量を有し、大容量電池の具現が容易なリチウムニッケル酸化物に対する研究及び開発がより活発に研究されている。しかし、LiNiOはLiCoOと比べ、熱安定性が悪く、充電状態で外部からの圧力等によって、内部短絡が生じると正極活物質そのものが分解され、電池の破裂及び発火をもたらす問題がある。
【0006】
そのため、LiNiOの優れた可逆容量は維持し、かつ、低い熱安定性を改善するための方法として、ニッケルの一部をコバルトで置換したLiNi1-αCoα(α=0.1~0.3)又は、ニッケルの一部をMnとCoで置換したニッケルコバルトマンガン系リチウム複合金属酸化物(以下、簡単に「NCM系リチウム酸化物」とする)が開発された。また、優れた出力特性を有しつつも金属元素の溶出等による安定性問題を解決するために、金属組成の濃度勾配を有するリチウム遷移金属酸化物も提案された。
【0007】
このような正極活物質を製造する方法には、代表的に連続反応器(CSTR)を用いて正極活物質前駆体を製造する方式と、バッチ(batch)式反応器を用いて正極活物質前駆体を製造する方式を挙げることができる。連続反応器(CSTR)は、原料を投入して共沈しつつ同時に粒子に形成された前駆体を排出する方式であり、バッチ(batch)式は、一定時間反応器の体積に応じて原料を投入し反応させ、反応終了後に前駆体を排出する方式である。
【0008】
一般的に連続反応器(CSTR)方式は、金属組成比の調節が容易な長所があるが、原料投入と生成物排出が同時に連続的に行われるため、反応器内で生成される正極活物質前駆体の反応器内での滞留時間及び反応時間に偏差があり得、それによって生成される粒子の大きさ及び成分等にもバラツキが生じる問題点がある。
【0009】
このため、粒子大きさの制御が容易で、粒度が均一な正極活物質前駆体を製造できるバッチ(batch)式方式を採択する傾向があるが、バッチ(batch)式反応器を用いる場合、連続反応器(CSTR)方式に比べ生産性が著しく低下する問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記のような問題点を解決するために、本発明の第1技術的課題はバッチ(batch)式反応器を用いてリチウム二次電池用正極活物質前駆体を製造する方法において、粒子大きさの制御が容易で、粒度が均一であり、粒子の表面が均一な正極活物質前駆体を製造できるだけではなく、前記正極活物質前駆体の生産性を著しく増加させることができる方法を提供することである。
【0011】
本発明の第2技術的課題は、均一な粒度及び表面を有する正極活物質の製造方法を提供することである。
【0012】
また、本発明の第3技術的課題は、前記で製造された正極活物質を含む正極及びリチウム二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、バッチ(batch)式反応器を用いてリチウム二次電池用正極活物質前駆体を製造する方法であって、前記バッチ式反応器に第1遷移金属含有溶液、第2遷移金属含有溶液、アンモニウムイオン含有溶液、及び塩基性水溶液を含む反応溶液を投入して、但し、前記バッチ式反応器が満液になれば、反応器内部の反応溶液中の一部を反応器外部へ連続的に排出しつつ前記反応溶液を投入する段階を含み、前記バッチ式反応器に投入される前記反応溶液の初期投入流量が下記式1を満たし、前記バッチ式反応器内のpHが下記式2を満たすものである、リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法を提供する:
1.5×V/t≦υ+υ+υ≦10×V/t [式1]
前記式1において、
Vは、バッチ式反応器の体積、tは、全体反応時間(分)、υは、第1遷移金属含有溶液及び第2遷移金属含有溶液全体の初期投入流量(mL/分)、υは、アンモニウムイオン含有溶液の初期投入流量(mL/分)、及びυは、塩基性水溶液の初期投入流量(mL/分)である。
pH-{([Ni]-[Ni]t1)×0.05}≦pHt1≦pH-{([Ni]-[Ni]t1)×0.005} [式2]
前記式2において、
pHt1は、t1時間で反応器内のpHであり、pHは、反応器内の初期pHであり、[Ni]は、初期に流入される遷移金属含有溶液でのNiモル濃度であり、[Ni]t1は、t1時間で流入される遷移金属含有溶液でのNiモル濃度である。
【0014】
また、本発明は、前記リチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法によって製造された正極活物質前駆体をリチウム含有原料物質と混合した後焼成する段階を含む、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記正極活物質の製造方法によって製造された正極活物質を含むリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、既存のバッチ(batch)式方式で製造する時より粒子大きさの制御がさらに容易で、粒度が均一なリチウム二次電池用正極活物質前駆体を製造でき、既存のバッチ(batch)式方式の短所であった生産性が低い問題を解決して正極活物質の生産性を著しく増加させることができる。
【0017】
また、本願発明のようにバッチ式反応器内のpHを調節することで、表面にナノフレーク等の欠陥のない均一な表面を有する正極活物質前駆体粒子を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態による正極活物質前駆体の製造装置を概略的に示した図である。
図2a】実施例1で製造した正極活物質前駆体の表面SEM写真である。
図2b】比較例2で製造した正極活物質前駆体の表面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0020】
本明細書及び特許請求の範囲において用いられた用語や単語は、通常的又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最善の方法によって説明するために、用語の概念を適宜定義することができるという原則に即し、本発明の技術的思想に適合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0021】
本発明の発明者は、バッチ式反応器を用いて正極活物質前駆体を製造し、かつ、反応溶液の投入流量と反応器内のpHが特定条件を満たすように制御することで、粒度が均一で、表面特性に優れた正極活物質前駆体を得られるだけでなく、正極活物質前駆体の生産性を画期的に増加させることができるのを分かり、本発明を完成させた。
【0022】
本発明は、バッチ(batch)式反応器を用いて正極活物質前駆体を製造することで、連続反応器(CSTR)に比べ反応器内の反応物の濃度、温度及び滞留時間等の反応条件が同一であるため、相対的に偏差のない均一な生成物を製造できる。
【0023】
具体的には、本発明のリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法は、バッチ(batch)式反応器に第1遷移金属含有溶液、第2遷移金属含有溶液、アンモニウムイオン含有溶液、及び塩基性水溶液を含む反応溶液を投入して、但し、前記バッチ式反応器が満液になれば、反応器内部の反応溶液中の一部を反応器外部へ連続的に排出しつつ前記反応溶液を投入する段階を含み、
前記バッチ式反応器に投入される前記反応溶液の初期投入流量が下記式1を満たし、
前記バッチ式反応器内のpHが下記式2を満たすものである。
1.5×V/t≦υ+υ+υ≦10×V/t [式1]
前記式1において、Vは、バッチ式反応器の体積、tは、全体反応時間(分)、υは、第1遷移金属含有溶液及び第2遷移金属含有溶液全体の初期投入流量(mL/分)、υは、アンモニウムイオン含有溶液の初期投入流量(mL/分)、及びυは、塩基性水溶液の初期投入流量(mL/分)である。
pH-{([Ni]-[Ni]t1)×0.05}≦pHt1≦pH-{([Ni]-[Ni]t1)×0.005} [式2]
前記式2において、pHt1は、t1時間で反応器内のpHであり、pHは、反応器内の初期pHであり、[Ni]は、初期に流入される遷移金属含有溶液でのNiモル濃度であり、[Ni]t1は、t1時間で流入される遷移金属含有溶液でのNiモル濃度である。
【0024】
以下、本発明による正極活物質前駆体の製造方法をより詳しく説明する。
【0025】
先ず、バッチ式反応器に第1遷移金属含有溶液、第2遷移金属含有溶液、アンモニウムイオン含有溶液、及び塩基性水溶液を含む反応溶液を投入する。
【0026】
このとき、前記バッチ式反応器に第1遷移金属含有溶液、第2遷移金属含有溶液、アンモニウムイオン含有溶液、及び塩基性水溶液を含む反応溶液の初期投入流量は、下記式1を満たすものである:
1.5×V/t≦υ+υ+υ≦10×V/t [式1]
前記式1において、Vは、バッチ式反応器の体積、tは、全体反応時間(分)、υは、第1遷移金属含有溶液及び第2遷移金属含有溶液全体の初期投入流量(mL/分)、υは、アンモニウムイオン含有溶液の初期投入流量(mL/分)、及びυは、塩基性水溶液の初期投入流量(mL/分)である。
【0027】
具体的に、前記第1遷移金属含有溶液、第2遷移金属含有溶液、アンモニウムイオン含有溶液及び塩基性水溶液を含む初期反応溶液を、バッチ式反応器に前記式1を満たす初期投入流量で投入すれば、既存の反応器を満たすのにかかる時間より約1.5倍から約10倍早い時間内に反応器が満液になり得、同一大きさの反応器で短時間内により多い正極活物質前駆体粒子核を生成できる。
【0028】
前記反応溶液の初期投入流量が前記式1の範囲より遅い場合、生産性が低下することがあり、前記式1範囲より早い場合、安定的に粒子核を生成できず粒度分布の制御が難しいことがある。
【0029】
前記第1遷移金属含有溶液及び第2遷移金属含有溶液は、それぞれ独立してニッケル、マンガン、コバルトからなる群から選択された少なくとも一つ以上の遷移金属の陽イオンを含み、かつ、前記第1遷移金属含有溶液と前記第2遷移金属含有溶液に含まれる遷移金属の陽イオンの濃度が異なるものであってよい。
【0030】
前記第1遷移金属含有溶液は、50から98モル%のニッケル、1から40モル%のマンガン、及び1から40モル%のコバルトを含んでよく、前記第2遷移金属含有溶液は、20から80モル%のニッケル、1から60モル%のマンガン、及び1から60モル%のコバルトを含んでよい。具体的に前記第1遷移金属含有溶液は、第2遷移金属含有溶液に比べニッケル陽イオンの濃度が高い溶液であってよい。例えば、前記第1遷移金属含有溶液は、全体遷移金属塩に対して、ニッケル塩が50モル%から98モル%、好ましくは60モル%から98モル%、70モル%から98モル%、より好ましくは80モル%から98モル%含まれてよく、前記第2遷移金属含有溶液は、全体遷移金属塩に対して、ニッケル塩が20モル%から80モル%、好ましくは40モル%から80モル%、50モル%から80モル%、より好ましくは60モル%から80モル%含まれてよい。
【0031】
また、前記第1遷移金属含有溶液は、第2遷移金属含有溶液に比べマンガン及びコバルトのうち少なくとも一つの遷移金属陽イオンの濃度が低い溶液であってよい。例えば、前記第1遷移金属含有溶液は、全体遷移金属塩に対して、マンガン塩及び/又はコバルト塩が1モル%から40モル%、好ましくは1モル%から30モル%含まれてよく、前記第2遷移金属含有溶液は、全体遷移金属塩に対して、マンガン塩及び/又はコバルト塩が1モル%から60モル%、好ましくは10モル%から50モル%含まれてよい。
【0032】
前記のように、濃度が異なる第1遷移金属含有溶液及び第2遷移金属含有溶液の投入の比率を調節し、粒子内で遷移金属が濃度勾配を有する前駆体を形成してよい。例えば、前記第1遷移金属含有溶液の投入流量は漸進的に減少させ、前記第2遷移金属含有溶液の投入流量は漸進的に相補的に増加させて濃度勾配を形成してよい。例えば、前記第1遷移金属及び第2遷移金属の混合の比率を、100体積%:0体積%から0体積%:100体積%に漸進的に変化されるように前記第1遷移金属含有溶液と前記第2遷移金属含有溶液を混合し、粒子の中心から表面まで漸進的に変化する濃度勾配を有する正極活物質前駆体粒子を形成するものであってよい。
【0033】
前記第1遷移金属含有溶液及び第2遷移金属含有溶液は、それぞれ独立して前記遷移金属の酢酸塩、窒酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硫化物、水酸化物、酸化物又はオキシ水酸化物等を含んでよく、水に溶解され得るものであれば特に限定されない。
【0034】
例えば、前記コバルト(Co)は、前記遷移金属含有溶液にCo(OH)、CoOOH、Co(OCOCH・4HO、Co(NO・6HO又はCo(SO・7HO等で含まれてよく、これらのうち少なくとも一つ以上が用いられてよい。
【0035】
また、前記ニッケル(Ni)は、前記遷移金属含有溶液にNi(OH)、NiO、NiOOH、NiCO、2Ni(OH)・4HO、NiC・2HO、Ni(NO・6HO、NiSO、NiSO・6HO、脂肪酸ニッケル塩又はニッケルハロゲン化物等で含まれてよく、これらのうち少なくとも一つ以上が用いられてよい。
【0036】
また、前記マンガン(Mn)は、前記遷移金属含有溶液にMn、MnO、及びMn等のマンガン酸化物と、MnCO、Mn(NO、MnSO、酢酸マンガン、ジカルボキシル酸マンガン塩、クエン酸マンガン及び脂肪酸マンガン塩のようなマンガン塩と、オキシ水酸化物、そして塩化マンガン等で含まれてよく、これらのうち少なくとも一つ以上が用いられてよい。
【0037】
また、前記第1遷移金属含有溶液及び/又は前記第2遷移金属含有溶液は、ニッケル、マンガン、及びコバルト以外に他の金属元素(M)をさらに含んでよい。このとき、前記Mは、W、Mo、Cr、Al、Zr、Ti、Mg、Ta及びNbからなる群から選択される少なくとも一つ以上を含んでよい。
【0038】
前記第1遷移金属含有溶液及び/又は前記第2遷移金属含有溶液が前記金属元素(M)をさらに含む場合、前記第1遷移金属含有溶液及び/又は前記第2遷移金属含有溶液の製造時に前記金属元素(M)含有原料物質が選択的にさらに添加されてもよい。
【0039】
前記金属元素(M)含有原料物質としては、金属元素(M)を含む酢酸塩、窒酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硫化物、水酸化物、酸化物又はオキシ水酸化物からなる群から選択される少なくとも一つ以上が用いられてよい。例えば、前記金属元素(M)がWの場合、酸化タングステン等が用いられてよい。
【0040】
前記塩基性水溶液は、NaOH、KOH及びCa(OH)からなる群から選択される少なくとも一つ以上を含んでよく、溶媒としては水、又は水と均一に混合可能な有機溶媒(具体的に、アルコール等)と水の混合物が用いられてよい。このとき、前記塩基性水溶液の濃度は2Mから10M、好ましくは2.5Mから3.5Mであってよい。前記塩基性水溶液の濃度が2Mから10Mの場合、均一な大きさの前駆体粒子を形成でき、前駆体粒子の形成時間が早く、収率もまた優れ得る。
【0041】
前記アンモニウムイオン含有溶液は、NHOH、(NHSO、NHNO、NHCl、CHCOONH及びNHCOからなる群から選択される少なくとも一つ以上を含んでよい。このとき、溶媒としては、水、又は水と均一に混合可能な有機溶媒(具体的に、アルコール等)と水の混合物が用いられてよい。
【0042】
一方、前記第1遷移金属含有溶液、第2遷移金属含有溶液、アンモニウムイオン含有溶液、及び塩基性水溶液は、それぞれ個別的に反応器に投入されてもよく、反応器投入の前に一部溶液又は全ての溶液を事前混合した後反応器へ投入してもよい。例えば、第1遷移金属含有溶液及び第2遷移金属含有溶液は、静止型混合器等を用いて混合した後反応器へ投入し、アンモニウムイオン含有溶液と塩基性水溶液は直接反応器へ投入する方法で反応溶液を投入してよい。
【0043】
次に、一定時間後、前記バッチ式反応器が満液になれば、反応器内部の反応溶液中の一部を反応器外部へ連続的に排出しつつ、同時に前記反応器に前記反応溶液を投入する。前記バッチ式反応器が満液になるのは、投入された前記溶液の体積がバッチ式反応器体積の90%から100%を占めることを意味してよい。
【0044】
前記反応溶液の排出流量は、前記反応溶液の投入流量と同一であってよい。例えば、前記反応溶液の投入流量が前記反応溶液の排出流量より早い場合、反応器の水位増加で持続的な反応が不可能になり得、前記反応溶液の投入流量が反応溶液の排出流量より遅い場合、反応器の水位減少及び溶液内の固形分増加によって持続的な反応が不可能になり得る。
【0045】
前記反応溶液の排出は、例えば、フィルターを含むチューブを用いて行われてよい。前記チューブに含まれるフィルターによって、正極活物質前駆体粒子が反応器外部へ排出されることが防止され、反応溶液だけが選択的に反応器外部へ排出されてよい。
【0046】
また、前記反応溶液の排出時に一定時間ごとに前記チューブをバックブロー(back blow)する段階をさらに含んでよい。例えば、前記反応溶液の排出時に正極活物質前駆体粒子が、前記チューブに含まれたフィルターに付いて前記フィルターが詰まることがある。これを防止するために、一定時間ごとに前記チューブに蒸留水又は窒素を反応溶液の排出逆方向に投入し前記チューブをバックブローすることで、前記フィルターに付いた正極活物質前駆体粒子を反応器内部へ吹き込むことができる。
【0047】
前記のように反応が完了された反応溶液を反応器外部へ排出しつつ、同時に反応器内部へ反応溶液をさらに投入することで、同じ大きさの反応器で同じ反応時間の間に粒子がさらに成長でき、これによって前駆体粒子の収率が著しく増加できる。
【0048】
一方、前記バッチ式反応器内のpHは、反応器内に投入される遷移金属水溶液に含まれるNi組成又は塩基性水溶液の流量によって制御されるものであってよい。
【0049】
例えば、第1遷移金属含有溶液と第2遷移金属含有溶液を静止型混合器を介して混合した混合溶液をバッチ式反応器に投入し、前記バッチ式反応器内のpHは、前記反応器に投入される前記混合溶液に含まれるNi組成によって制御されるものであってよい。例えば、Niの組成が80から99モル%、好ましくは85から95モル%の場合、pHは11.5から12、好ましくは11.6から11.8であってよく、このとき、正極活物質前駆体粒子の核が生成される。
【0050】
また、Niの組成が40から80モル%未満、好ましくは60から79モル%の場合、反応器のpHは10.5から11.5、好ましくは11から11.4に調節され、このとき、粒子が成長するものであってよい。
【0051】
具体的に、前記バッチ式反応器内のpHは、下記式2を満たすものである。
pH-{([Ni]-[Ni]t1)×0.05}≦pHt1≦pH-{([Ni]-[Ni]t1)×0.005} [式2]
前記式2において、pHt1は、t1時間で反応器内のpHであり、pHは、反応器内の初期pHであり、[Ni]は、初期に流入される遷移金属含有溶液でのNiモル濃度であり、[Ni]t1は、t1時間で流入される遷移金属含有溶液でのNiモル濃度である。
【0052】
前記式2において、好ましくはt時間でpHは、pH-{([Ni]-[Ni]t1)×0.02}に近接してよい。
【0053】
より具体的に、前記バッチ式反応器内のpHは、前記塩基性水溶液の投入流量によって制御されるものであってよく、前記塩基性水溶液の投入流量は下記式3を満たすものである。
υ3,0 × {1-(0.02×([Ni]-[Ni]t2))}≦υ3,t2<υ3,0 [式3]
前記式3において、υ3,t2は、t2時間での塩基性水溶液の投入流量、υ3,0は、塩基性水溶液の初期投入流量、[Ni]は、初期に流入される遷移金属含有溶液でのNiモル濃度、[Ni]t2は、t2時間で流入される遷移金属含有溶液でのNiモル濃度である。
【0054】
前記式2及び式3のように、pHを制御し正極活物質前駆体の核が生成される条件及び成長する条件を区分することで、Niの組成が80から99モル%である時、すなわち、pH11.5から12では正極活物質前駆体核の生成だけが行われ、以後Niの組成が40から80モル%未満の時、すなわちpH10.5から11.5で粒子の成長だけ行われるため、最終的に得られる正極活物質前駆体粒子の大きさ及び形状が均一で、かつ稠密な正極活物質前駆体を製造できる。
【0055】
また、本願発明のようにNi組成の変化によってpH条件を異にして正極活物質前駆体粒子を製造する場合、粒子成長の段階で粒子表面にナノフレーク等の成長なく、表面が均一な正極活物質前駆体を得ることができる。
【0056】
これに関連して、図1には本発明の一実施形態による正極活物質前駆体の製造装置が概略的に示されている。
【0057】
図1に示された通り、本発明による正極活物質前駆体は、第1遷移金属含有溶液が入っている容器と第2遷移金属含有溶液が入っている容器を静止型混合器(static mixer)とそれぞれ連結し、前記静止型混合器の排出口側にバッチ式反応器を連結して、アンモニウムイオン含有溶液が入っている容器及び塩基性水溶液が入っている容器をそれぞれバッチ式反応器に連結した装置を用いて製造されてよい。
【0058】
例えば、第1遷移金属含有溶液及び第2遷移金属含有溶液は、静止型混合器を用いて混合した後反応器へ投入し、アンモニウムイオン含有溶液と塩基性水溶液は直接反応器へ投入する。前記反応器が満液になれば、フィルターを含むチューブに連結された真空ポンプを作動させ、反応器内部の反応溶液中の一部を前記チューブを介して反応器外部へ排出しつつ、反応溶液は続いて反応器内に投入することで本発明による正極活物質前駆体を製造してよい。
【0059】
前記反応溶液の排出時、正極活物質前駆体粒子によるフィルターの詰まる現象を防止するために、例えば、一定時間ごとに前記チューブに連結された真空ポンプの作動を止めて、反応溶液の排出逆方向(バッチ式反応器方向)に蒸留水又は窒素を少量投入し前記フィルターに付いた正極活物質前駆体粒子を前記反応器内部へ吹き込んだ後、再びチューブに連結された真空ポンプを作動させ反応溶液を反応器外部へ排出することをさらに含んでよい。
【0060】
本発明の一実施形態による正極活物質前駆体の製造方法によって製造された正極活物質前駆体粒子の収率は、同一大きさのバッチ(batch)式反応器を用いて従来方法で正極活物質前駆体粒子を製造した時と比べ、200%から1100%向上され得る。
【0061】
また、最終的に生成された正極活物質前駆体粒子は、(D90-D10)/D50が0.6から0.9、好ましくは0.7から0.9の均一な粒子が生成され得る。
【0062】
本発明において、前記正極活物質前駆体粒子の粒径分布D10、D50、及びD90は、それぞれ粒径分布の10%、50%及び90%基準での粒径に定義してよい。本発明において、前記正極活物質前駆体粒子の粒径分布は、例えば、レーザー回折法(laser diffraction method)を用いて測定してよい。具体的に前記正極活物質の粒子分布は、正極活物質の粒子を分散媒中に分散させた後、市販のレーザー回折粒度測定装置(例えば、Microtrac MT 3000)に導入し約28kHzの超音波を出力60Wで照射して、測定装置における粒子直径分布のそれぞれ10%、50%及び90%基準での粒径分布を算出してよい。
【0063】
一方、本発明は、上述した通りに製造された正極活物質前駆体をリチウム含有原料物質と混合した後焼成する段階を含む、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【0064】
前記リチウム含有原料物質としては、例えば、炭酸リチウム(LiCO)又は水酸化リチウム(LiOH)等を用いてよく、前記正極活物質前駆体及びリチウム含有原料物質を1:1から1:1.15モル比で混合してよい。リチウム含有原料物質が前記範囲未満に混合される場合、製造される正極活物質の容量が低下する恐れがあり、リチウム含有原料物質が前記範囲を超過して混合される場合、焼成過程で粒子が焼結されてしまい、正極活物質の製造が難しくなり得、容量低下及び焼成後の正極活物質粒子の分離(正極活物質の含浸現象誘発)が発生し得る。
【0065】
前記焼成は、800℃から1000℃温度で行われてよい。焼成温度が800℃未満の場合、不十分な反応によって粒子内に原料物質が残留するようになり電池の高温安定性を低下させることがあり、体積密度及び結晶性が低下され構造的安定性が落ちることがある。一方、焼成温度が1000℃を超過する場合、粒子の不均一な成長が発生することがあり、粒子大きさが大きくなり過ぎて単位面積当たり含まれ得る粒子量が減るようになるため、電池の体積容量が低下することがある。一方、製造される正極活物質の粒子大きさの制御、容量、安定性及びリチウム含有副産物の減少を考慮した時、前記焼成温度は、より好ましくは850℃から950℃であってよい。
【0066】
前記焼成は、5から35時間の間行われてよい。焼成時間が5時間未満の場合、反応時間が短すぎて高結晶性の正極活物質を得にくいことがあり、35時間を超過する場合、粒子の大きさが大きくなり過ぎることがあり、生産効率が低下することがある。
【0067】
また、本発明は、上述した方法によって製造された正極活物質を含むリチウム二次電池用正極を提供する。
【0068】
具体的に、前記正極は、正極集電体、及び前記正極集電体の少なくとも一面に位置し、前記の正極活物質を含む正極活物質層を含む。
【0069】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を誘発せずに導電性を有するものであれば特に制限されるのではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素又はアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀等で表面処理したもの等が用いられてよい。また、前記正極集電体は通常3μmから500μmの厚さを有してよく、前記集電体表面上に微細な凹凸を形成し正極活物質の接着力を高めてもよい。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体等多様な形態で用いられてよい。
【0070】
前記正極活物質層は、正極活物質とともに、導電材及びバインダーを含んでよい。
【0071】
このとき、前記正極活物質は、正極活物質層の全体重量に対して80から99重量%、より具体的には85から98重量%の含量で含まれてよい。前記の含量範囲で含まれる時、優れた容量特性を示し得る。
【0072】
このとき、前記導電材は、電極に導電性を付与するために用いられるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こさずに電子伝導性を有するものであれば、特別な制限なく使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛と、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維等の炭素系物質と、銅、ニッケル、アルミニウム、銀等の金属粉末又は金属繊維と、酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカーと、酸化チタン等の導電性金属酸化物と、又はポリフェニレン誘導体等の伝導性高分子等を挙げることができ、これらのうち1種単独又は2種以上の混合物が用いられてよい。前記導電材は、通常正極活物質層の全体重量に対して1から30重量%で含まれてよい。
【0073】
前記バインダーは、正極活物質粒子間の付着及び正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割をする。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエン-ポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、又はこれらの多様な共重合体等を挙げることができ、これらのうち1種単独又は2種以上の混合物が用いられてよい。前記バインダーは、正極活物質層の全体重量に対して1から30重量%で含まれてよい。
【0074】
前記正極は、前記の正極活物質を用いることを除いては、通常の正極製造方法によって製造されてよい。具体的に、前記の正極活物質及び選択的に、バインダー及び導電材を溶媒中に混合又は分散させて製造した正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥及び圧延することで製造されてよい。このとき、前記正極活物質、バインダー、導電材の種類及び含量は、先立って説明した通りである。
【0075】
前記溶媒としては、当該技術分野で一般的に用いられる溶媒であってよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)又は水等を挙げることができ、これらのうち、1種単独又は2種以上の混合物が用いられてよい。前記溶媒の使用量はスラリーの塗布厚さ、製造収率を考慮して前記正極活物質、導電材及びバインダーを溶解又は分散させ、以後正極製造のための塗布時、優れた厚さ均一度を示し得る粘度又は固形分含量を有するようにする程度であれば十分である。
【0076】
また、他の方法として、前記正極は、前記正極活物質層形成用組成物を別途の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得たフィルムを正極集電体上にラミネーションすることで製造されてもよい。
【0077】
また、前記正極を含む電気化学素子を製造してよい。前記電気化学素子は、具体的に、電池、キャパシター等であってよく、より具体的にはリチウム二次電池であってよい。
【0078】
前記リチウム二次電池は、具体的に、正極、前記正極と対向して位置する負極、前記正極と負極の間に介在されるセパレーター及び電解質を含み、前記正極は、先立って説明した通りである。また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレーターの電極組立体を収納する電池ケース、及び前記電池ケースを密封する密封部材を選択的にさらに含んでよい。
【0079】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体及び前記負極集電体上に位置する負極活物質層を含む。
【0080】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発せずに、高い導電性を有するものであれば、特に制限されるのではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀等で表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金等が用いられてよい。また、前記負極集電体は、通常3から500μmの厚さを有してよく、正極集電体と同様に、前記集電体表面に微細な凹凸を形成し負極活物質の結合力を強化させてもよい。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体等多様な形態で用いられてよい。
【0081】
前記負極活物質層は、負極活物質と共に選択的にバインダー及び導電材を含む。
【0082】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーション及びデインターカレーションの可能な化合物が用いられてよい。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素等の炭素質材料と、Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金又はAl合金等リチウムと合金化が可能な金属質化合物と、SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープ及び脱ドープできる金属酸化物と、又はSi-C複合体又はSn-C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物等を挙げることができ、これらのうち、何れか一つ又は二つ以上の混合物が用いられてよい。また、前記負極活物質として、金属リチウム薄膜が用いられてもよい。また、炭素材料は、低結晶性炭素及び高結晶性炭素等が全て用いられてよい。低結晶性炭素としては、軟質炭素(soft carbon)及び硬質炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球状又は繊維型の天然黒鉛又は人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、メソ相ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、メソ炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、メソ相ピッチ(Mesophase pitches)及び石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)等の高温焼成炭素が代表的である。
【0083】
また、前記バインダー及び導電材は、先立って正極で説明したところと同一のものであってよい。
【0084】
前記負極活物質層は、一例として負極集電体上に負極活物質、及び選択的にバインダー及び導電材を溶媒中に溶解又は分散させて製造した負極活物質層形成用組成物を塗布し乾燥するか、又は前記負極活物質層形成用組成物を別途の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得たフィルムを負極集電体上にラミネーションすることで製造されてもよい。
【0085】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレーターは、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであって、通常リチウム二次電池においてセパレーターに用いられるものであれば、特別な制限なく使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗、かつ、電解液の含湿能力に優れたものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、及びエチレン/メタクリレート共重合体等のようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルム、又はこれらの2層以上の積層構造体が用いられてよい。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点の硝子繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等でなった不織布が用いられてもよい。また、耐熱性又は機械的強度確保のためにセラミック成分又は高分子物質が含まれたコーティングされたセパレーターが用いられてもよく、選択的に単層又は多層構造で用いられてよい。
【0086】
また、本発明で用いられる電解質としては、リチウム二次電池製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質等を挙げることができ、これらに限定されるものではない。
【0087】
具体的に、前記電解質は、有機溶媒及びリチウム塩を含んでよい。
【0088】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオン等が移動できる媒質役割のできるものであれば、特別な制限なく用いられてよい。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)等のエステル系溶媒と、ジブチルエーテル(dibutyl ether)又はテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)等のエーテル系溶媒と、シクロヘキサノン(cyclohexanone)等のケトン系溶媒と、ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)等の芳香族炭化水素系溶媒と、ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)等のカーボネート系溶媒と、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒と、R-CN(RはC2からC20の直鎖状、分岐状又は環状構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環又はエーテル結合を含んでよい)等のニトリル類と、ジメチルホルムアミド等のアミド類と、1,3-ジオキソラン等のジオキソラン類と、又はスルホラン(sulfolane)類等が用いられてよい。この中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度及び高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネート等)と、低粘度の線状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート又はジエチルカーボネート等)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1から約1:9の体積比で混合し用いた方が電解液の性能が優れて現れ得る。
【0089】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池で用いられるリチウムイオンを提供できる化合物であれば、特別な制限なく用いられてよい。具体的に、前記リチウム塩は、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAl0、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、又はLiB(C等が用いられてよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1から2.0Mの範囲内で用いた方がよい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれれば、電解質が適切な伝導度及び粘度を有するため、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動できる。
【0090】
前記電解質には、前記電解質構成成分の他にも電池の寿命特性向上、電池の容量減少抑制、電池の放電容量向上等を目的とし、例えば、ジフルオロエチレンカーボネート等のようなハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グリム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノール又は三塩化アルミニウム等の添加剤が1種以上さらに含まれてもよい。このとき、前記添加剤は、電解質全体重量に対して、0.1から5重量%で含まれてよい。
【0091】
前記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性及び容量維持率を安定的に示すため、携帯電話、ノート・パソコン、デジタルカメラ等の携帯用機器、及びハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)等の電気自動車分野等に有用である。
【0092】
これにより、本発明の他の一実施形態によれば、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュール、及びこれを含む電池パックが提供される。
【0093】
前記電池モジュール又は電池パックは、パワーツール(Power Tool)と、電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、及びプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車と、又は電力保存用システムのうち、何れか一つ以上の中大型デバイス電源に用いられてよい。
【0094】
本発明のリチウム二次電池の外形は、特に制限はないが、カンを用いた円筒型、角形、パウチ(pouch)型、又はコイン(coin)型等になってよい。
【0095】
本発明によるリチウム二次電池は、小型デバイスの電源で用いられる電池セルに用いられ得るだけでなく、多数の電池セル含む中大型電池モジュールに単位電池としても好ましく用いられ得る。
【0096】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げてより詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、色々と異なる形態で変形されてよく、本発明の範囲が以下で詳述する実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業界において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0097】
実施例
実施例1
NiSO、CoSO、MnSOをニッケル:コバルト:マンガンのモル比が90:5:5になるようにする量で水中に混合し、2M濃度の第1遷移金属含有溶液を準備する同時に、NiSO、CoSO、MnSOをニッケル:コバルト:マンガンのモル比が60:20:20のモル比になるようにする量で水中に混合し、2M濃度の第2遷移金属含有溶液を準備した。
【0098】
前記第1及び第2遷移金属含有溶液が入っている容器を静止型混合器(static mixer)とそれぞれ連結し、前記静止型混合器の排出口側にバッチ(batch)式反応器(20L)を連結した。さらに、25重量%濃度のNaOH水溶液と15重量%濃度のNHOH水溶液を準備し、それぞれ前記バッチ式反応器に連結した。
【0099】
バッチ(batch)式反応器に脱イオン水4Lを入れた後、窒素ガスを反応器に5L/分の速度でパージングして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気に造成した。
【0100】
第1遷移金属含有溶液と第2遷移金属含有溶液を、静止型混合器を介して、第1遷移金属含有溶液の投入流量は反応全体のうち100体積%から0体積%に漸進的に減少させ、第2遷移金属含有溶液の投入流量は反応全体のうち0体積%から100体積%で漸進的に増加させつつ混合した混合金属溶液を12mL/分、NaOH水溶液を7.5mL/分、NHOH水溶液を7.5mL/分の速度でそれぞれバッチ式反応器に投入し、30分間反応させてpH11.8でニッケルマンガンコバルト系複合金属水酸化物の粒子の核を形成した。
【0101】
その後、NaOH水溶液の流量を下記表1に記載された通り変化させつつ30時間の間反応させて正極活物質前駆体を製造した。このとき、反応中に前記バッチ式反応器が満液になれば、反応溶液の投入流量は維持しつつ、反応が完了された反応溶液を前記投入流量と同一流量で排出した。反応時間の間、第1遷移金属含有溶液と第2遷移金属含有溶液の混合金属溶液の流量は12mL/分、NHOH水溶液の流量は7.5mL/分であった。また、粒子の核の生成直後からそれぞれ10時間後、20時間後、30時間後の時、Niの濃度及びpHを測定した。測定結果は、下記表1に記載した。
【0102】
実施例2
第1遷移金属含有溶液と第2遷移金属含有溶液を静止型混合器を介して混合した混合金属溶液を40mL/分、NaOH水溶液を10mL/分、NHOH水溶液を10mL/分の速度でそれぞれバッチ式反応器に投入し、30分間反応させてニッケルマンガンコバルト系複合金属水酸化物の粒子の核を形成した。
【0103】
その後、NaOH水溶液の流量を下記表1に記載された通り変化させつつ30時間の間反応させて正極活物質前駆体を製造した。反応時間の間、第1遷移金属含有溶液と第2遷移金属含有溶液の混合金属溶液の流量は40mL/分、NHOH水溶液の流量は10mL/分のことを除いては、実施例1と同一の方法で正極活物質前駆体を製造した。また、粒子の核の生成直後からそれぞれ10時間後、20時間後、30時間後の時、Niの濃度及びpHを測定した。測定結果は、下記表1に記載した。
【0104】
比較例1
第1遷移金属含有溶液と第2遷移金属含有溶液を静止型混合器を介して混合した混合遷移金属含有溶液を4mL/分、NaOH水溶液を1mL/分、NHOH水溶液を1mL/分の速度でそれぞれバッチ式反応器に投入し、ニッケルマンガンコバルト系複合金属水酸化物の粒子の核を形成した。以後、前記溶液の投入流量を維持しつつ反応器が満液になるまで投入しニッケルマンガンコバルト系複合金属水酸化物粒子を成長させた後、反応器が満液になれば溶液の投入を中断して反応を終了することを除いては、実施例1と同一に正極活物質前駆体を製造しており、下記表1のように粒子の核の生成直後からそれぞれ10時間後、20時間後、30時間後の時、Niの濃度及びpHを確認した。
【0105】
【表1】
【0106】
比較例2
遷移金属含有溶液として80:10:10の単一組成物を用い、反応全般にわたって反応器内のpHをpH11.4で一定に維持しつつ反応を進行することを除いては、実施例1と同一の方法で正極活物質前駆体を製造した。
【0107】
実験例1:正極活物質前駆体収率の確認
前記実施例1及び2並びに比較例1及び2で製造された正極活物質前駆体の生産性を比較するために、実施例1及び2並びに比較例1及び2で製造された前駆体の含量を測定しており、その結果を下記表2に示した。
【0108】
【表2】
【0109】
表2を参照すれば、比較例1に比べて本発明の実施例1及び2による溶液の投入速度を増加させ、反応器が満液になれば反応器内部の反応溶液中の一部を反応器外部へ連続的に排出しつつ前記反応溶液を投入した場合、同一時間、同一大きさのバッチ式反応器を用いたにもかかわらず収率が著しく向上されたことを確認できた。
【0110】
実験例2:粒度分布の確認
前記実施例1及び2並びに比較例1及び2で製造された正極活物質前駆体の粒度分布を確認するために、Horiba LA 950V2粒度分析器を用いて実施例1及び2並びに比較例1及び2で生成された正極活物質前駆体の粒度を測定しており、その結果を下記表3に示した。
【0111】
【表3】
【0112】
表3を参照すれば、実施例1及び2の場合、比較例1及び2に比べ狭い粒度分布を示し、より均一な前駆体を生成したことが分かる。
【0113】
実験例3:正極活物質前駆体の表面特性の確認
前記実施例1及び比較例2で製造された正極活物質前駆体の表面特性を確認するために、SEMイメージを撮影した。実施例1で製造した正極活物質前駆体の表面は、図2aのように均一なものと確認された一方、比較例2で製造した正極活物質前駆体の表面には、図2bに示された通りナノフレークが観察された。これは、比較例2の場合、正極活物質前駆体粒子の製造時、核の生成及び粒子成長過程でpHの変化なくpHを同一条件で維持したため、粒子成長が確実に行われなかったのである。
【符号の説明】
【0114】
10:静止型混合器(static mixer)
100:バッチ(batch)式反応器
図1
図2a
図2b