(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】二次電池用正極活物質、その製造方法及びそれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220118BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220118BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20220118BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01G11/30
(21)【出願番号】P 2020520154
(86)(22)【出願日】2018-10-17
(86)【国際出願番号】 KR2018012300
(87)【国際公開番号】W WO2019083221
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2020-04-08
(31)【優先権主張番号】10-2017-0140217
(32)【優先日】2017-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ナ・リ・パク
(72)【発明者】
【氏名】スン・スン・パク
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/141258(WO,A1)
【文献】特開2011-023121(JP,A)
【文献】特開2006-351378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01G 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される複合遷移金属化合物の前駆体を準備する段階と、
前記前駆体、リチウムソース及びドーピング元素ソースを混合して焼成し、ドーピングされたリチウム複合遷移金属酸化物を形成する段階と、を含み、
前記ドーピング元素ソースは
、Zr(OH)
4
、Co(OH)
2
、Ti(OH)
4
及びBa(OH)
2
からなる群から選択される一つ以上のヒドロキシド系化合物であり、
[化学式1]
Ni
1-(x1+y1)Co
x1M
a
y1(OH)
2
前記化学式1で、M
aはMn及びAlからなる群から選択される一つ以上の元素であり、0<x1≦0.4、0<y1≦0.4であり、0<x1+y1≦0.4である、二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、遷移金属全体のうちニッケル(Ni)の含量が60モル%以上である、請求項
1に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記焼成の焼成温度は600から800℃である、請求項1
又は2に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記リチウム複合遷移金属酸化物を形成した後、水洗して2次焼成する段階をさらに含む、請求項1から
3のいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記2次焼成の焼成温度は300から700℃である、請求項
4に記載の二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
ニッケル(Ni)とコバルト(Co)を含み、且つマンガン(Mn)及びアルミニウム(Al)からなる群から選択される一つ以上を含むリチウム複合遷移金属酸化物である二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、遷移金属全体のうちニッケル(Ni)の含量が60モル%以上であり、
前記リチウム複合遷移金属酸化物は
、ZrとMgとのうちの一つ以上のドーピング元素でドーピングされ、
熱重量分析(TGA)時の600℃における重量減少率が1.0%以下であり、900℃における重量減少率が2.0%以下である、二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記ドーピング元素は、1,000から10,000ppm含有されている、請求項
6に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項8】
前記ドーピング元素は、リチウム複合遷移金属酸化物粒子の中心から表面までの半径のうち中心側50%に該当するコア領域に、全ドーピング元素の含量のうち30モル%以上が含有されている、請求項
6又は7に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項9】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、下記化学式2で表され、
[化学式2]
Li
pNi
1-(x2+y2+z2)Co
x2M
a
y2M
b
z2M
c
q2O
2
前記化学式2で、M
aはMn及びAlからなる群から選択される一つ以上の元素であり、M
bはZr
及びMgからなる群から選択される一つ以上の元素であり、M
cはAl、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo、W及びCrからなる群から選択される一つ以上の元素であり、0.9≦p≦1.5、0<x2≦0.4、0<y2≦0.4、0≦z2≦0.1、0≦q2≦0.1であり、0<x2+y2+z2≦0.4である、請求項
6から
8のいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項10】
前記リチウム複合遷移金属酸化物に存在する残留リチウム副産物の含量が0.6重量%以下である、請求項
6から
9のいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項11】
前記リチウム複合遷移金属酸化物の構造内のリチウム層におけるニッケル(Ni)カチオンのカチオンディスオーダーの比率が0.5%以下である、請求項
6から
10のいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項12】
請求項
6から
11のいずれか一項に記載の二次電池用正極活物質を含む二次電池用正極。
【請求項13】
請求項
12に記載の二次電池用正極を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2017年10月26日付韓国特許出願第10-2017-0140217号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、二次電池用正極活物質、その製造方法及びそれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、携帯電話、ノート型パソコン、電気自動車などの電池を用いる電子器具の急速な普及に伴って、小型軽量でありながらも相対的に高容量である二次電池の需要が急速に増大している。特に、リチウム二次電池は、軽量で高エネルギー密度を有しているので、携帯機器の駆動電源として脚光を浴びている。これにより、リチウム二次電池の性能を向上させるための研究開発の努力が活発に進められている。
【0004】
リチウム二次電池は、リチウムイオンの挿入(intercalation,インタカレーション)及び脱離(deintercalation,デインタカレーション)が可能な活物質からなる正極と負極の間に有機電解液またはポリマー電解液を充填させた状態でリチウムイオンが正極及び負極で挿入/脱離される際の酸化と還元反応によって電気エネルギーが生産される。
【0005】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMnO2またはLiMn2O4など)、リン酸鉄リチウム化合物(LiFePO4)などが主に用いられていた。また、LiNiO2の優れた可逆容量は維持しながらも低い熱安定性を改善するための方法として、ニッケル(Ni)の一部をコバルト(Co)やマンガン(Mn)/アルミニウム(Al)で置換したリチウム複合金属酸化物(以下、簡単に「NCM系リチウム複合遷移金属酸化物」または「NCA系リチウム複合遷移金属酸化物」という)が開発された。しかし、従来に開発されたNCM系/NCA系リチウム複合遷移金属酸化物は、容量特性が十分でないため適用に限界があった。
【0006】
このような問題点を改善するため、最近には、NCM系/NCA系リチウム複合遷移金属酸化物でNiの含量を増加させようとする研究がなされている。しかし、ニッケルの含量が高い高濃度ニッケル正極活物質の場合、活物質の構造的安定性と化学的安定性が下がり、熱安定性が急激に低下するとの問題点がある。また、活物質内のニッケルの含量が高くなるに伴い、正極活物質の表面にLiOH、Li2CO3形態で存在するリチウム副産物の残留量が高くなり、これによるガス及びスウェリング(swelling)現象の発生で、電池の寿命及び安定性が低下するという問題点も発生する。
【0007】
したがって、高容量化に適合しながらも構造的及び熱的安定性に優れ、リチウム副産物の残留量を減少させた高濃度ニッケル(High‐Ni)正極活物質の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高容量の確保のためにニッケル(Ni)を60モル%以上含有した高濃度ニッケル(High‐Ni)NCMまたはNCA系正極活物質において、ドーピング元素の拡散性を向上させることで、正極活物質の内部まで均一にドーピングされるようにして、リチウムイオンの拡散経路を確保し、構造的安定性及び熱的安定性を向上させた二次電池用正極活物質の提供を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記化学式1で表される複合遷移金属化合物の前駆体を準備する段階;及び前記前駆体、リチウムソース及びドーピング元素ソースを混合して焼成し、ドーピングされたリチウム複合遷移金属酸化物を形成する段階;を含み、前記ドーピング元素ソースはヒドロキシド(hydroxide)系化合物である二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
[化学式1]
Ni1-(x1+y1)Cox1Ma
y1(OH)2
前記式で、MaはMn及びAlからなる群から選択される一つ以上の元素であり、0<x1≦0.4、0<y1≦0.4であり、0<x1+y1≦0.4である。
【0010】
また、本発明は、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)を含み、且つマンガン(Mn)及びアルミニウム(Al)からなる群から選択される一つ以上を含むリチウム複合遷移金属酸化物である二次電池用正極活物質であって、前記リチウム複合遷移金属酸化物は、遷移金属全体のうちニッケル(Ni)の含量が60モル%以上であり、前記リチウム複合遷移金属酸化物は一つ以上のドーピング元素でドーピングされ、熱重量分析(thermogravimetric analysis,TGA)時の600℃における重量減少率が1.0%以下であり、900℃における重量減少率が2.0%以下である二次電池用正極活物質を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記正極活物質を含む正極及びリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ニッケル(Ni)を60モル%以上含有した高濃度ニッケル(High‐Ni)NCMまたはNCA系正極活物質であって、高容量の確保が可能であり、ドーピング元素の拡散性を向上させることで、正極活物質の内部まで均一にドーピングされるようにして、リチウムイオンの拡散経路を確保し、構造的安定性及び熱的安定性を向上させることができる。
【0013】
また、ニッケル(Ni)を60モル%以上含有した高濃度ニッケル(High‐Ni)NCMまたはNCA系正極活物質は、残留リチウム副産物を除去するために水洗工程を経るが、本発明は、初期結晶化時にリチウムイオンの拡散経路をさらに広くて深く確保することで、水洗工程という苛酷な物理化学的工程を経た正極活物質の表面を再結晶化する際に効果的に再結晶化することができ、除去されていない残留リチウム副産物の一部が再び正極活物質の内部に入り、残留リチウム副産物をさらに減少させるという効果も発生させ得る。
【0014】
このような本発明による二次電池用正極活物質を用いて製造されたリチウム二次電池は、初期容量、効率及び高温貯蔵安定性の特性が向上し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1により製造された正極活物質をEPMA分析した結果を示した図である。
【
図2】比較例2により製造された正極活物質をEPMA分析した結果を示した図である。
【
図3】実施例1、比較例2及び比較例3により製造された正極活物質を熱重量分析(TGA)した結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に対する理解を助けるために、本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明の説明及び特許請求の範囲で用いられた用語や単語は、通常的かつ辞典的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適宜定義することができるとの原則に即し、本発明の技術的思想に適合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0018】
本発明の二次電池用正極活物質は、下記化学式1で表される複合遷移金属化合物の前駆体を準備する段階;及び前記前駆体、リチウムソース及びドーピング元素ソースを混合して焼成し、ドーピングされたリチウム複合遷移金属酸化物を形成する段階;を含み、前記ドーピング元素ソースはヒドロキシド(hydroxide)系化合物を用いて製造する。
[化学式1]
Ni1-(x1+y1)Cox1Ma
y1(OH)2
前記式で、MaはMn及びAlからなる群から選択される一つ以上の元素であり、0<x1≦0.4、0<y1≦0.4であり、0<x1+y1≦0.4である。
【0019】
本発明は、ドーピング元素ソースとしてヒドロキシド(hydroxide)系化合物を用いることにより、ドーピング元素の拡散性を向上させることで、正極活物質の内部まで均一にドーピングされるようにして、リチウムイオンの拡散経路をより広くて深く確保し、構造的安定性及び熱的安定性を向上させた。
【0020】
従来には、ドーピング元素ソースとして主にオキサイド(oxide)系化合物を用いたが、オキサイド(oxide)系化合物の場合、解離温度が正極活物質の焼成温度範囲内にあるので、カチオンの使用を容易にするためであった。しかし、オキサイド(oxide)系化合物のドーピング元素ソースを用いると、拡散性が不良で活物質の表面にだけドーピングされるため、ニッケル(Ni)を60モル%以上含有した高濃度ニッケル(High‐Ni)NCMまたはNCA系正極活物質の場合、ニッケル含量が高い高濃度ニッケル(High‐Ni)NCM系またはNCA系正極活物質の特性上、構造的安定性及び熱的安定性が確保されない問題が発生した。よって、本発明は、ニッケル(Ni)を60モル%以上含有した高濃度ニッケル(High‐Ni)NCM系またはNCA系正極活物質を製造する際、1次焼成時のドーピング元素ソースとしてヒドロキシド(hydroxide)系化合物を用いてドーピングさせることで、オキサイド(oxide)系化合物を用いる際より拡散性を向上させ、正極活物質の内部までドーピング元素が均一にドーピングされるようにし、構造的安定性及び熱的安定性を向上させた。また、初期結晶化時のリチウムイオンの拡散経路をより広くて深く確保することで、残留リチウム副産物を除去するための水洗工程を経ながら荒くなった表面を効果的に再結晶化させて表面の構造安定性も向上させ、除去されていない残留リチウム副産物の一部が再び正極活物質の内部に入り、残留リチウム副産物をさらに減少させるという効果も発生することを確認した。
【0021】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を下記で段階別に具体的に説明する。
【0022】
先ず、下記化学式1で表される複合遷移金属化合物の前駆体を準備する。
[化学式1]
Ni1-(x1+y1)Cox1Ma
y1(OH)2
前記式で、MaはMn及びAlからなる群から選択される一つ以上の元素であり、0<x1≦0.4、0<y1≦0.4であり、0<x1+y1≦0.4である。
【0023】
前記化学式1の正極活物質前駆体において、Niは1-(x1+y1)に該当する含量、例えば、0.6≦1-(x1+y1)<1で含まれてもよい。前記化学式1の正極活物質前駆体内のNiの含量が0.6以上の組成になると、充放電に寄与するのに十分なNi量が確保されて高容量化を図ることができる。より好ましくは、Niは0.8≦1-(x1+y1)≦0.99で含まれてもよい。このように本発明で用いられる正極活物質前駆体の遷移金属全体のモル比のうちニッケル(Ni)が60モル%以上の高濃度ニッケル(High‐Ni)系である場合、構造的安定性及び熱的安定性の確保がさらに難しいので、ドーピング元素の拡散性を向上させて活物質の内部まで均一にドーピングされるようにすることがさらに重要である。
【0024】
前記化学式1の正極活物質前駆体において、Coはx1に該当する含量、すなわち0<x1≦0.4で含まれてもよい。前記化学式1の正極活物質前駆体内のCoの含量が0.4を超える場合、費用増加の虞がある。Co含有による容量特性の改善効果の著しさを考慮する際、前記Coは、より具体的に0.05≦x1≦0.2の含量で含まれてもよい。
【0025】
前記化学式1の正極活物質前駆体において、MaはMnまたはAlであるか、Mn及びAlであってよく、このような金属元素は活物質の安定性を向上させ、結果として電池の安定性を改善させることができる。寿命特性の改善効果を考慮する際、前記Maはy1に該当する含量、すなわち0<y1≦0.4の含量で含まれてもよい。前記化学式1の正極活物質前駆体内のy1が0.4を超えると、却って電池の出力特性及び容量特性が低下する虞があり、前記Maはより具体的に0.05≦y1≦0.2の含量で含まれてもよい。
【0026】
次に、前記前駆体、リチウムソース及びドーピング元素ソースを混合して焼成し、ドーピングされたリチウム複合遷移金属酸化物を形成する。このとき、前記ドーピング元素ソースはヒドロキシド(hydroxide)系化合物を用いる。
【0027】
前記ドーピング元素ソースは、Zr(OH)4、Mg(OH)2、Al(OH)3、Co(OH)2、Ti(OH)4及びBa(OH)2からなる群から選択される一つ以上のものであってよく、より好ましくはZr(OH)4を用いてもよい。
【0028】
本発明は、前駆体及びリチウムソースを投入して1次焼成する際、ドーピング元素ソースとしてヒドロキシド(hydroxide)系化合物を用いてドーピングさせることで、正極活物質の内部までドーピング元素が均一にドーピングされるようにして、リチウムイオンの拡散経路をさらに深くて広く確保し、ニッケル(Ni)を60モル%以上含有した高濃度ニッケル(High‐Ni)NCM系またはNCA系正極活物質の構造的安定性及び熱的安定性を向上させることができる。
【0029】
前記ヒドロキシド(hydroxide)系化合物のドーピング元素ソースは、オキサイド(oxide)系ドーピング元素ソースに比べて拡散に必要な活性化エネルギーが低く、同じ熱源を受けても反応性が大きいので、オキサイド(oxide)系ドーピング元素ソースを用いる際より少ない量を投入しても優れた効果を具現することができる。よって、前記ヒドロキシド(hydroxide)系化合物のドーピング元素ソースは、オキサイド(oxide)系化合物を投入する場合の投入量100モル部対比で40から60モル部で投入してもよい。このようにドーピング元素ソースの投入量を減少させることで製造コストを節減することができ、正極活物質内の主な金属元素の密度を増加させることができる。
【0030】
前記リチウムソースとしては、リチウム含有硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、ハロゲン化物、水酸化物またはオキシ水酸化物などが用いられてよく、水に溶解され得る限り、特に限定されない。具体的に、前記リチウム原料物質は、Li2CO3、LiNO3、LiNO2、LiOH、LiOH・H2O、LiH、LiF、LiCl、LiBr、LiI、CH3COOLi、Li2O、Li2SO4、CH3COOLi、またはLi3C6H5O7などであってよく、これらのうちいずれか一つまたは二つ以上の混合物が用いられてよい。
【0031】
前記リチウムソースの使用量は、最終に製造されるリチウム複合遷移金属酸化物におけるリチウムと、リチウムを除外した金属元素(Co、Mn/Alなど)の含量により決定されてよく、具体的には、最終に製造されるリチウム複合遷移金属酸化物が、リチウムとリチウムを除去した金属元素のモル比(リチウム/金属元素のモル比)が0.98から1.1になるようにする量で用いられてよい。
【0032】
前記焼成温度は、600℃から800℃で行われてよく、より好ましくは、650から750℃で行われてよい。より具体的には、前記焼成温度で空気や酸素などの酸化性雰囲気で5時間から30時間の間焼成を行ってもよい。
【0033】
このように形成されたドーピングされたリチウム複合遷移金属酸化物は、遷移金属全体のうちニッケル(Ni)の含量が60モル%以上の高濃度ニッケル(High‐Ni)NCM系またはNCA系正極活物質であってもよい。
【0034】
前記のとおり、高濃度ニッケル(High‐Ni)NCM系またはNCA系リチウム複合遷移金属酸化物を形成した後、残留リチウム副産物を除去するために水洗工程をさらに経て2次で焼成することができる。
【0035】
前記で言及したとおり、高濃度ニッケル(High‐Ni)NCM系またはNCA系リチウム複合遷移金属酸化物の場合、正極活物質の表面にLiOH、Li2CO3の形態で存在するリチウム副産物の残留量が高くなるので、これによりガス及びスウェリング(swelling)現象が発生する問題がある。よって、残留リチウム副産物を除去するための水洗工程を経ることができる。しかし、水洗工程を経る過程で、残留リチウム副産物のみならず結晶構造内のリチウムがともに抜け出して結晶化度が落ちることになり、表面の構造安定性が低下し得る。よって、水洗後2次焼成して活物質表面の金属元素を再結晶化する工程をさらに経ることができる。前記2次焼成温度は、300から700℃であってよく、より好ましくは300から500℃であってよい。
【0036】
このとき、本発明は、ヒドロキシド(hydroxide)系化合物のドーピング元素ソースを用いてドーピングさせることで、初期結晶化時のリチウムイオンの拡散経路をさらに広くて深く確保したため、2次焼成で表面を再結晶化させる際に一層効果的に再結晶化して表面の構造安定性を向上させることができ、除去されていない残留リチウム副産物の一部が再び正極活物質の内部に入り、残留リチウム副産物をさらに減少させるという効果も発生し得る。すなわち、従来のオキサイド(oxide)系ドーピング元素ソースを用いるときより、ヒドロキシド(hydroxide)系化合物のドーピング元素ソースを用いて製造した本発明の正極活物質は、リチウムイオンの拡散経路がさらに広くて深く確保されるため、水洗工程で荒くなった表面の再結晶化及び残留リチウム副産物の減少においてさらに有利である。
【0037】
次に、本発明による二次電池用正極活物質に対して説明する。
【0038】
前記のような方法で製造された本発明の二次電池用正極活物質は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)を含み、マンガン(Mn)及びアルミニウム(Al)からなる群から選択される一つ以上を含むリチウム複合遷移金属酸化物であり、前記リチウム複合遷移金属酸化物は遷移金属全体のうちニッケル(Ni)の含量が60モル%以上であり、前記リチウム複合遷移金属酸化物は一つ以上のドーピング元素でドーピングされ、熱重量分析(thermogravimetric analysis,TGA)時の600℃における重量減少率が1.0%以下であり、900℃における重量減少率が2.0%以下である。
【0039】
一般に、遷移金属のうちニッケル(Ni)の含量が60モル%以上の高濃度ニッケル(High‐Ni)NCM系またはNCA系リチウム複合遷移金属酸化物は、構造的安定性と化学的安定性が落ちるので熱安定性が急激に低下するが、本発明の高濃度ニッケル(High‐Ni)NCM系またはNCA系リチウム複合遷移金属酸化物は、ヒドロキシド(hydroxide)系化合物のドーピング元素ソースを用いて構造的安定性及び熱的安定性を大きく向上させた。よって、熱重量分析(thermogravimetric analysis,TGA)時の600℃における重量減少率が1.0%以下であり、900℃における重量減少率が2.0%以下を満たし得る。より好ましくは、熱重量分析(thermogravimetric analysis,TGA)時の600℃における重量減少率が0.8%以下であり、900℃における重量減少率が1.8%以下であってもよい。
【0040】
前記ドーピング元素は、Zr、Mg、Al、Co、Ti及びBaからなる群から選択される一つ以上であり、より好ましくはZrであってよい。前記ドーピング元素は、正極活物質内に1,000から10,000ppmで含有されてよく、より好ましくは、1,000から5,000ppm含有されてよい。
【0041】
また、本発明は、ヒドロキシド(hydroxide)系化合物のドーピング元素ソースを用いてドーピング元素が活物質の内部まで均一にドーピングされるようにしたので、前記ドーピング元素はリチウム複合遷移金属酸化物粒子の中心から表面までの半径のうち中心側50%に該当するコア領域に全ドーピング元素の含量のうち30モル%以上が含有されてよい。より好ましくは、前記コア領域に全ドーピング元素の含量のうち40から60モル%が含有されてよい。このように、本発明の正極活物質は、内部までドーピング元素が均一にドーピングされることで構造的安定性が向上し、リチウムイオンの拡散経路をさらに深くて広く確保することができ、リチウム二次電池の初期容量、効率及び高温貯蔵安定性の特性を向上させることができる。
【0042】
より具体的に、前記リチウム複合遷移金属酸化物は、下記化学式2で表されてよい。
[化学式2]
LipNi1-(x2+y2+z2)Cox2Ma
y2Mb
z2Mc
q2O2
前記式で、MaはMn及びAlからなる群から選択される一つ以上の元素であり、MbはZr、Mg、Al、Co、Ti及びBaからなる群から選択される一つ以上の元素であり、McはAl、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo、W及びCrからなる群から選択される一つ以上の元素であり、0.9≦p≦1.5、0<x2≦0.4、0<y2≦0.4、0≦z2≦0.1、0≦q2≦0.1であり、0<x2+y2+z2≦0.4である。
【0043】
前記化学式2のリチウム複合遷移金属酸化物において、Liはpに該当する含量、すなわち、0.9≦p≦1.5で含まれてよい。pが0.9未満であると容量が低下する虞があり、1.5を超えると焼成工程で粒子が焼結され、正極活物質の製造が難しくなり得る。Li含量の制御による正極活物質の容量特性の改善効果の著しさ及び活物質製造の容易性を考慮する際、前記Liは、より好ましくは、1.0≦p≦1.15の含量で含まれてよい。
【0044】
これ以外に、前記化学式2の正極活物質におけるNi、Co、Maの好ましい組成は、前記で説明した正極活物質前駆体の組成の範囲と同一であってよい。
【0045】
但し、前記Mbは正極活物質の結晶構造内に含まれているドーピング元素であってよく、Mbはz2に該当する含量、すなわち、0≦z2≦0.1で含まれてよい。よって、前記リチウム複合遷移金属酸化物は、Niが1-(x2+y2+z2)に該当する含量、例えば、0.6≦1-(x2+y2+z2)<1で含まれてよい。また、前記正極活物質の遷移金属全体のモル比のうちニッケル(Ni)が60モル%以上の高濃度ニッケル(High‐Ni)系であってよく、より好ましくは、さらなる高容量を具現するため、Niは0.8≦1-(x2+y2+z2)≦0.99で含まれてよい。
【0046】
また、前記Mcの金属元素は、正極活物質内に含まれなくてよく、前駆体とリチウムソースを混合して焼成する際、Mcソースをともに混合して焼成するか、リチウム複合遷移金属酸化物を形成した後、別途でMcソースを投入して焼成する方法を介し、前記Mcが活物質の表面にドーピングされたリチウム複合遷移金属酸化物を製造することができる。
【0047】
一方、本発明の高濃度ニッケル(High‐Ni)NCM系またはNCA系リチウム複合遷移金属酸化物は、残留リチウム副産物が1.0重量%以下、より好ましくは0.6重量%以下で存在してよい。本発明の場合、ヒドロキシド(hydroxide)系化合物のドーピング元素ソースを用いることで、構造安定性を向上させて残留リチウム副産物の発生自体を減少させることができ、さらには、水洗工程を経ることで発生した残留リチウム副産物を除去することができ、除去されていないリチウム副産物は、一部が再び正極活物質の内部に入ることもあって、最終的に残留リチウム副産物を0.6重量%以下に製造することができる。
【0048】
また、本発明の高濃度ニッケル(High‐Ni)NCM系またはNCA系リチウム複合遷移金属酸化物は、初期結晶化時のリチウムイオンの拡散経路をさらに広くて深く確保したので、2次焼成で表面を再結晶化させる際に一層効果的に再結晶化することができ、よって、前記高濃度ニッケル(High‐Ni)NCM系またはNCA系リチウム複合遷移金属酸化物の構造内のリチウム層におけるNiカチオンのカチオンディスオーダー(cation disorder)の比率が0.5%以下の値を満たすことができる。
【0049】
本発明のまた他の一実施形態によれば、前記正極活物質を含むリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供する。
【0050】
具体的に、前記正極は、正極集電体及び前記正極集電体の上に形成され、前記正極活物質を含む正極活物質層を含む。
【0051】
前記正極において、正極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが用いられてもよい。また、前記正極集電体は、通常、3から500μmの厚さを有してもよく、前記正極集電体表面上に微細な凹凸を形成し、正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体などの様々な形態で用いられてもよい。
【0052】
また、前記正極活物質層は、前記で説明した正極活物質とともに、導電材及びバインダーを含んでもよい。
【0053】
このとき、前記導電材は、電極に導電性を付与するために用いられるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こすことなく電子伝導性を有するものであれば、特別な制限なく使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などを挙げることができ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記導電材は、通常、正極活物質層の総重量に対し、1から30重量%で含まれてもよい。
【0054】
また、前記バインダーは、正極活物質の粒子間の付着及び正極活物質と正極集電体との接着力を向上する役割を担う。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド‐ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF‐co‐HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体を挙げることができ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記バインダーは、正極活物質層の総重量に対して1から30重量%で含まれてもよい。
【0055】
前記正極は、前記正極活物質を用いることを除いては、通常の正極製造方法により製造されてもよい。具体的に、前記正極活物質、及び選択的にバインダー及び導電材を含む正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥及び圧延することで製造されてもよい。このとき、前記正極活物質、バインダー、導電材の種類及び含量は、前記で説明したところと同一である。
【0056】
前記溶媒としては、技術分野で一般的に用いられる溶媒であってもよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide,DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N‐メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などを挙げることができ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造収率を考慮して、前記正極活物質を、導電材及びバインダーを溶解または分散させ、それ以後、正極製造のための塗布の際に優れた厚さ均一度を示し得る粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0057】
また、他の方法で、前記正極は、前記正極活物質層形成用組成物を別途の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得たフィルムを正極集電体上にラミネーションすることにより製造されてもよい。
【0058】
本発明のまた他の一実施形態によれば、前記正極を含む電気化学素子が提供される。前記電気化学素子は、具体的に電池またはキャパシタなどであってよく、より具体的にはリチウム二次電池であってよい。
【0059】
前記リチウム二次電池は、具体的に正極、前記正極と対向して位置する負極、前記正極と負極の間に介在されるセパレータ及び電解質を含み、前記正極は前記で説明したところと同一である。また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器、及び前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0060】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体及び前記負極集電体上に位置する負極活物質層を含む。
【0061】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などに表面処理したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが用いられてもよい。また、前記負極集電体は、通常、3から500μmの厚さを有してもよく、正極集電体と同じく、前記集電体表面に微細な凹凸を形成し、負極活物質の結合力を強化させることもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態で用いられてもよい。
【0062】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに、選択的にバインダー及び導電材を含む。前記負極活物質層は、一例として、負極集電体上に負極活物質、及び選択的にバインダー及び導電材を含む負極形成用組成物を塗布して乾燥するか、または、前記負極形成用組成物を別途の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得たフィルムを負極集電体上にラミネーションすることにより製造されてもよい。
【0063】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインタカレーション及びデインタカレーションの可能な化合物が用いられてもよい。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金などのリチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOx(0<x<2)、SnO2、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープ及び脱ドープすることができる金属酸化物;またはSi‐C複合体またはSn‐C複合体のように前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などを挙げることができ、これらのうちいずれか一つまたは二つ以上の混合物が用いられてもよい。また、前記負極活物質として金属リチウム薄膜が用いられてもよい。また、炭素材料は、低結晶炭素及び高結晶性炭素などがいずれも用いられてもよい。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)及び硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、麟片状、球形または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、メソ相ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、メソ炭素微小球体(meso‐carbonmicrobeads)、メソ相ピッチ(Mesophasepitches)及び石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
また、前記バインダー及び導電材は、前記正極で説明したところと同一のものであってよい。
【0064】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離してリチウムイオンの移動通路を提供するものであって、通常、リチウム二次電池においてセパレータとして用いられるものであれば、特別な制限なく使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗であるとともに電解液含湿能に優れたものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体及びエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が用いられてもよい。また通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が用いられてもよい。また、耐熱性または機械的強度を確保するために、セラミック成分または高分子物質が含まれているコーティングされたセパレータが用いられてもよく、選択的に単層または多層構造で用いられてもよい。
【0065】
また、本発明で用いられる電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型グ高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などを挙げることができ、これらに限定されるものではない。
【0066】
具体的に、前記電解質は、有機溶媒及びリチウム塩を含むことができる。
【0067】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動できる媒質の役割を担うことができるものであれば、特別な制限なく用いられてもよい。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ‐ブチロラクトン(γ‐butyro lactone)、ε‐カプロラクトン(ε‐capro lactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate,DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate,DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate,MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate,EMC)、エチレンカーボネート(ethylenecarbonate,EC)、プロピレンカーボネート(propylenecarbonate,PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R‐CN(Rは、C2からC20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3‐ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが用いられてもよい。この中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度及び高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1から約1:9の体積比で混合して用いるのが電解液の性能が優れて現われ得る。
【0068】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池で用いられるリチウムイオンを提供することができる化合物であれば、特別な制限なく用いられてもよい。具体的に、前記リチウム塩は、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlO4、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(C2F5SO3)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiCl、LiI、またはLiB(C2O4)2などが用いられてよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1から2.0Mの範囲内で用いられるのがよい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度及び粘度を有するため、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0069】
前記電解質には、前記電解質構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池の容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などを目的として、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのようなハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n‐グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N‐置換オキサゾリジノン、N,N‐置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2‐メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれてもよい。このとき、前記添加剤は電解質の総重量に対して0.1から5重量%で含まれてもよい。
【0070】
前記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性及び容量維持率を安定的に示すため、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの携帯用機器、及びハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle,HEV)などの電気自動車分野などに有用である。
【0071】
これによって、本発明の他の一具現例によれば、前記リチウム二次電池を単位セロとして含む電池モジュール及びそれを含む電池パックが提供される。
【0072】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle,EV)、ハイブリッド電気自動車、及びプラグインハイブリッド電気自動車(Plug‐in Hybrid Electric Vehicle,PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのいずれか一つ以上の中大型デバイスの電源として用いられてよい。
【0073】
以下、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できるよう、本発明の実施例に対して詳しく説明する。しかし、本発明は、いくつか異なる形態に具現されてよく、ここで説明する実施例に限定されない。
【0074】
実施例1
正極活物質前駆体Ni0.8Co0.15Al0.05(OH)2及びリチウムソースLiOHを1.01:1.00モル比になるようにヘンシェルミキサー(700L)に投入し、Zr(OH)40.0025molをさらに投入した後、中心部300rpmで20分間ミキシング(mixing)した。混合した粉末を330mm×330mmのサイズのアルミナるつぼに入れ、酸素雰囲気下750℃で15時間の間1次焼成し、Zrドーピングされたリチウム複合遷移金属酸化物を製造した。
【0075】
製造されたZrドーピングされたリチウム複合遷移金属酸化物を純水240mLに入れ、30分間撹拌して水洗し、20分間フィルタリングを行った。フィルタリングされたリチウム複合金属酸化物を真空オーブンで130℃で乾燥させた後、ふるい分け(sieving)を進めた。前記水洗されたリチウム複合遷移金属酸化物を酸素雰囲気下で400℃で5時間の間2次焼成して正極活物質を製造した。
【0076】
実施例2
Zr(OH)4を0.005mol投入したことを除いては、実施例1と同一に実施して正極活物質を製造した。
【0077】
実施例3
Zr(OH)4の代わりにMg(OH)2を0.0025mol投入したことを除いては、実施例1と同一に実施して正極活物質を製造した。
【0078】
比較例1
Zr(OH)4を投入しないことを除いては、実施例1と同一に実施して正極活物質を製造した。
【0079】
比較例2
Zr(OH)4の代わりにZrO2を0.0025mol投入したことを除いては、実施例1と同一に実施して正極活物質を製造した。
【0080】
比較例3
Zr(OH)4の代わりにZrO2を0.005mol投入したことを除いては、実施例1と同一に実施して正極活物質を製造した。
【0081】
比較例4
Mg(OH)2の代わりにMgOを0.0025mol投入したことを除いては、実施例3と同一に実施して正極活物質を製造した。
【0082】
比較例5
1次焼成時にZr(OH)4を投入せず、2次焼成時にZr(OH)4を0.0025mol投入したことを除いては、実施例1と同一に実施して正極活物質を製造した。
【0083】
[実験例1:XRD構造の分析]
実施例1、比較例1、比較例2及び比較例5で製造された正極活物質をブルカー(Bruker)社のAXS D4 Endeavor XRDを用いてXRD分析を行い、その分析によるリチウム層におけるNiカチオンのカチオンディスオーダー(cation disorder)値を表1及び表2に示した。
【0084】
【0085】
【0086】
前記表1を参照すると、ドーピングしていない比較例1と、2次焼成時にZr(OH)4を投入した比較例5は、c軸値がほぼ同一に現われたので、2次焼成時にZr(OH)4を投入する場合は活物質に構造的に影響を及ぼさないことを確認することができる。一方、1次焼成時にZr(OH)4を投入した実施例1は、c軸値が比較例1と違って増加したことからみて、活物質の内部までドーピング元素が拡散されて構造的に安定し、リチウムイオンの拡散経路もさらに広くて深く確保されたことが分かる。また、実施例1の場合、比較例1及び比較例2に比べてカチオンディスオーダー量が減少した。これは、実施例1の場合、比較例1及び比較例2に比べて初期結晶化時にリチウムイオンの拡散経路をさらに広くて深く確保することにより、2次焼成後、表面残留リチウム及び金属イオンの間の再結晶化がより効果的になされたことを示す。
【0087】
[実験例2:EPMA分析]
実施例1及び比較例2で製造された正極活物質を、電子線マイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer,EPMA)を利用して正極活物質の中心から表面に移動しながら金属の元素比(atomic ratio)を測定した。加速電圧(Accelerating Voltage)は15keV、ビーム電流(Beam Current)は20nA、ビームサイズ(Beam size)は1μmでライン分析(Line Analysis)した。その結果は、
図1(実施例1)及び
図2(比較例2)に示した。
【0088】
図1(実施例1)に示す通り、ドーピング元素ソースとしてヒドロキシド(hydroxide)系化合物を用いた実施例1の正極活物質の場合、活物質粒子の表面より内部で却ってドーピング元素のZrの分布が高いことが分かり、粒子の中心から表面までの半径のうち中心側50%に該当するコア領域に全ドーピング元素の含量のうち50モル%以上が含有されていることを確認することができる。
【0089】
一方、
図2(比較例2)に示す通り、ドーピング元素ソースとしてオキサイド(oxide)系化合物を用いた比較例2の正極活物質の場合、活物質粒子の内部までドーピング元素のZrが拡散することができず、粒子の表面にもドーピング量が多くなかった。
【0090】
[実験例3:熱重量分析(thermogravimetric analysis,TGA)]
実施例1、比較例2及び比較例3で製造された正極活物質をパーキンエルマー社(USA)製のTGA7機器を用いて、20℃/minの加熱速度で50ml/minの周辺空気流れ下で熱重量分析(TGA)を行い、その結果を表3及び
図3に示した。
【0091】
【0092】
表3及び
図3を参照すると、ドーピング元素ソースとしてヒドロキシド(hydroxide)系化合物を用いた実施例1の正極活物質の場合、600℃における重量減少率が1.0%以下であり、900℃における重量減少率が2.0%以下を満たした。実施例1の場合、ドーピング元素のZrが活物質の内部まで均一にドーピングされ、構造的安定性が向上して熱的安定性が向上したためである。
【0093】
一方、ドーピング元素としてオキサイド(oxide)系化合物を用いた比較例2及び比較例3は、600℃における重量減少率が1.0%を超え、900℃における重量減少率が2.0%を超えた。比較例3はドーピング元素の含量を実施例1に比べて2倍にしたにもかかわらず熱的安定性は落ちた。
【0094】
[実験例4:残留リチウム副産物の評価]
実施例1から3及び比較例1から5によって製造された正極活物質10gを水100mLに分散させた後、0.1MのHClで滴定しながらpH値の変化を測定することで、pH滴定曲線(pH titration Curve)を得た。前記pH滴定曲線を用いて各正極活物質内のLiOH残留量とLi2CO3残留量を計算し、これらを合わせた値を全リチウム副産物の残留量と評価して下記表4に示した。
【0095】
【0096】
前記表4を参照すると、ドーピング元素ソースとしてヒドロキシド(hydroxide)系化合物を用いた実施例1から3の正極活物質の場合、ドーピングしないか、ドーピング元素ソースとしてオキサイド(oxide)系化合物を用いるか、2次焼成時にドーピングソースを投入した比較例に比べて残留リチウム副産物の含量が減少した。
【0097】
[実験例5:電池特性の評価]
実施例1から3及び比較例1から5により製造されたそれぞれの正極活物質、カーボンブラック導電材及びPVdFバインダーを、N‐メチルピロリドン溶媒中で重量比として95:2.5:2.5の割合で混合して正極合剤(粘度:5000mPa・s)を製造し、これをアルミニウム集電体の片面に塗布した後、130℃で乾燥してから圧延して正極を製造した。
【0098】
また、負極活物質として天然黒鉛、カーボンブラック導電材及びPVdFバインダーを、N‐メチルピロリドン溶媒中で重量比として85:10:5の割合で混合して負極活物質層形成用組成物を製造し、これを銅集電体の片面に塗布して負極を製造した。
【0099】
前記のように製造された正極と負極の間に多孔性ポリエチレンのセパレータを介在して電極組立体を製造し、前記電極組立体をケースの内部に位置させた後、ケースの内部に電解液を注入してリチウム二次電池を製造した。このときの電解液は、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート(EC/DMC/EMCの混合体積比=3/4/3)からなる有機溶媒に1.0M濃度のリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)を溶解させて製造した。
【0100】
前記のように製造された各リチウム二次電池セル(full cell)に対して充放電実験を進めて初期容量及び初期効率を測定し、その結果を下記表5に示した。
【0101】
また、前記のように製造された各リチウム二次電池セル(full cell)を充電して60℃のオーブンで2週間保管し、保管する間のセル抵抗を測定し、高温貯蔵後、放電‐充電‐放電を進めて高温貯蔵前に対する残留放電容量の割合(Ret)及び回復充放電の割合(Rec)を確認し、その測定結果を表6に示した。
【0102】
【0103】
前記表5を参照すると、本発明の一実施形態によりヒドロキシド(hydroxide)系化合物をドーピング元素ソースとして用いた実施例等は、比較例等に比べて初期容量及び効率が向上した。
【0104】
ドーピング元素ソースとしてZr(OH)4を0.0025mol投入した実施例1が、ZrO2を0.005mol投入した比較例3に比べ、ドーピング元素ソースの投入量を1/2にしたにもかかわらず、初期容量及び効率が却ってさらに向上した。
【0105】
【0106】
前記表6を参照すると、ヒドロキシド(hydroxide)系化合物をドーピング元素ソースとして用いた実施例等は、オキサイド(oxide)系化合物を用いた比較例等に比べて高温貯蔵後の抵抗値が減少した。また、高温貯蔵後の残留放電容量及び回復充放電が増加した。