(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】山椒油の青葉様風味の抑制方法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20220118BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20220118BHJP
A23L 27/12 20160101ALI20220118BHJP
【FI】
A23D9/00 504
A23L27/10 E
A23L27/12
(21)【出願番号】P 2018073529
(22)【出願日】2018-04-06
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(72)【発明者】
【氏名】川原 雅典
(72)【発明者】
【氏名】奈須 敬之
(72)【発明者】
【氏名】中谷 明浩
(72)【発明者】
【氏名】竹内 茂雄
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-073517(JP,A)
【文献】特開2007-151484(JP,A)
【文献】特表2016-517689(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106720468(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103719929(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106035742(CN,A)
【文献】roca,ラー油,cookpad[online],2014年02月23日,[検索日:2021.12.06], インターネット<URL: https://cookpad.com/recipe/2516849>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山椒油の青葉様風味の抑制方法であって、
前記山椒油100質量部に対して、
唐辛子油を3質量部以上45質量部以下配合することを特徴とする、前記抑制方法。
【請求項2】
前記山椒油の製造方法が以下の工程を含む、請求項1に記載の抑制方法。
(a1)食用油脂100質量部に対し、山椒の果実及び果皮から選ばれる1種又は2種を、1質量部以上12質量部以下混合して山椒混合油脂を得る工程、及び、
(a2)前記山椒混合油脂を、50℃以上90℃以下の温度で保持する工程
【請求項3】
前記唐辛子油の製造方法が以下の工程を含む、請求項1または2に記載の抑制方法。
(b1)食用油脂100質量部に対し、唐辛子を1質量部以上18質量部以下混合して唐辛子混合油脂を得る工程、及び、
(b2)前記唐辛子混合油脂を、100℃以上180℃以下の温度で保持する工程
【請求項4】
山椒油及び唐辛子油を含む山椒風味油脂組成物の製造方法であって、
前記山椒油100質量部に対して、前記唐辛子油を3質量部以上45質量部以下配合する工程を含み、
前記山椒油が、
(a1)食用油脂100質量部に対し、山椒の果実又は果皮から選ばれる1種又は2種を、1質量部以上12質量部以下混合して山椒混合油脂を得る工程、
(a2)前記山椒混合油脂を、50℃以上90℃以下の温度で保持する工程、及び
(a3)保持した前記山椒混合油脂から、固形分を除去する工程
を含む、工程から得られ、
前記唐辛子油が、
(b1)食用油脂100質量部に対し、唐辛子を1質量部以上18質量部以下混合して唐辛子混合油脂を得る工程、
(b2)前記唐辛子混合油脂を、100℃以上180℃以下の温度で保持する工程、及び
(b3)保持した前記唐辛子混合油脂から、固形分を除去する工程を含む、工程から得られる、前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山椒油の青葉様風味を抑制する方法及び風味に優れた山椒風味油脂組成物の製造方法である。
【背景技術】
【0002】
従来から、山椒の代表的な風味として、フレッシュな柑橘類のような柑橘様風味及び摘みたての青葉のような青葉様風味が知られている。
【0003】
各風味の強度は、原料となる山椒の産地や、成熟度合によって異なる。青葉様風味が強すぎる場合には、柑橘様風味が感じにくくなるため、調理現場においては、柑橘様風味と青葉様風味のバランスを考慮して、適用する食品に最適な風味を有する山椒を選択することが行われてきた。
【0004】
工業的に山椒油を製造する場合には、原料に最適な山椒を安定的に確保し続けることは、季節的な課題、気候的な課題又はコスト的な課題から容易ではない。原料の青葉様風味が強すぎる場合には、当該原料より得た山椒油の青葉様風味を抑制することが求められていた。
【0005】
特許文献1には、青花椒油抽出物に胡椒、パプリカ、カルダモン、セロリ、カシア、ニンニク及びチリオレオレジンから選択されるオレオレジンを添加することにより、花椒芳香及び香味を増強することが記載されている。しかしながら、特許文献1には、山椒油の青葉様風味を抑制することについては一切記載されておらず、示唆すらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明においては、山椒油の青葉様風味の抑制方法及び山椒風味油脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討の結果、山椒油に所定量の唐辛子油を配合することにより、青葉様風味の抑制が可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の山椒油の青葉様風味の抑制方法は、山椒油100質量部に対して、唐辛子油を3質量部以上45質量部以下配合することを特徴とする。
【0010】
前記抑制方法は、前記山椒油の製造方法が以下の工程を含む。
(a1)食用油脂100質量部に対し、山椒の果実及び果皮から選ばれる1種または2種を、1質量部以上12質量部以下混合して山椒混合油脂を得る工程、及び、
(a2)前記山椒混合油脂を、50℃以上90℃以下の温度で保持する工程
【0011】
前記抑制方法は、前記唐辛子油の製造方法が以下の工程を含む。
(b1)食用油脂100質量部に対し、唐辛子を1質量部以上18質量部以下混合して唐辛子混合油脂を得る工程、及び、
(b2)前記唐辛子混合油脂を、100℃以上180℃以下の温度で保持する工程
【0012】
本発明の山椒風味油脂組成物の製造方法は、山椒油及び唐辛子油を含む山椒風味油脂組成物の製造方法であって、前記山椒油100質量部に対して、前記唐辛子油を3質量部以上45質量部以下配合する工程を含み、
前記山椒油が、
(a1)食用油脂100質量部に対し、山椒の果実及び果皮から選ばれる1種又は2種を、1質量部以上12質量部以下混合して山椒混合油脂を得る工程、
(a2)前記山椒混合油脂を、50℃以上90℃以下の温度で保持する工程、及び、
(a3)保持した前記山椒混合油脂から、固形分を除去する工程を含む、工程から得られ、
前記唐辛子油が、
(b1)食用油脂100質量部に対し、唐辛子を1質量部以上18質量部以下混合して唐辛子混合油脂を得る工程、
(b2)前記唐辛子混合油脂を、100℃以上180℃以下の温度で保持する工程、及び、
(b3)保持した前記唐辛子混合油脂から、固形分を除去する工程を含む、工程から得られる。
【発明の効果】
【0013】
上述の本発明の山椒油の青葉様風味の抑制方法によれば、山椒の風味のうち青葉様風味を容易に抑制することができる。
そして、本発明の山椒風味油脂組成物の製造方法によれば、柑橘様風味を維持しつつ、青葉様風味が抑制された山椒風味油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の山椒油の青葉様風味の抑制方法は、山椒油100質量部に対して、唐辛子油を3質量部以上45質量部以下、好ましくは3質量部以上35質量部以下、より好ましくは5質量部以上25質量部以下、さらに好ましくは7質量部以上15質量部以下配合するものである。
【0015】
なお、本発明において、山椒油とは、食用油脂に乾燥した山椒を混合し、当該食用油脂にて山椒の風味等の成分を抽出したものである。同様に、唐辛子油とは、食用油脂に乾燥した唐辛子を混合し、当該食用油脂にて唐辛子の風味等の成分を抽出したものである。
【0016】
また、本発明の抑制方法は、山椒油の製造方法が以下の工程を含むことが好ましい。
(a1)食用油脂100質量部に対し、山椒の果実及び果皮から選ばれる1種又は2種を、1質量部以上12質量部以下、好ましくは3質量部以上12質量部以下、より好ましくは4質量部以上10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上8質量部以下混合して山椒混合油脂を得る工程、及び、
(a2)前記山椒混合油脂を、50℃以上90℃以下、好ましくは55℃以上85℃以下、より好ましくは60℃以上80℃以下の温度で保持する工程
【0017】
さらに、本発明の抑制方法は、唐辛子油の製造方法が以下の工程を含むことが好ましい。
(b1)食用油脂100質量部に対し、唐辛子を、1質量部以上18質量部以下、好ましくは5質量部以上18質量部以下、より好ましくは6質量部以上16質量部以下、さらに好ましくは7質量部以上13質量部以下混合して唐辛子混合油脂を得る工程、及び、
(b2)前記唐辛子混合油脂を、100℃以上180℃以下、好ましくは110℃以上160℃以下、より好ましくは120℃以上150℃以下の温度で保持する工程
【0018】
前記山椒とは、ミカン科サンショウ属(Zanthoxylum)のことであり、山椒、青花椒、赤花椒、ホワジャオ等と称される。本発明においては、食用の山椒であればいずれの品種でも用いることが可能であり、例えば、華北山椒(Zanthoxylun bungeanum)が好ましい。山椒は、フレッシュな柑橘類のような柑橘様風味と、摘みたての青葉のような青葉様風味、舌が麻痺して痺れるような独特の辛味を有している。山椒の部位は、樹皮、花弁、葉、果実又は果皮等を適用することができるが、風味の観点から山椒の果実及び果皮から選ばれる1種又は2種を原料として用いることが好ましい。また、山椒の水分含量は、15質量%以下であることが好ましく、下限は特にないが、例えば0質量%以上である。山椒は、必要に応じて、粉砕して用いることができるが、風味の揮発を抑制する観点から、石臼式粉砕等の低温粉砕法を採用することが好ましい。粒度は、10メッシュ篩下50メッシュ篩上が好ましい。
【0019】
前記唐辛子とは、ナス科トウガラシ属(Capsicum)及び、その同属植物のことであり、唐辛子、蕃椒、赤トウガラシ、カプシカムペッパー等と称される。本発明においては、食用に用いられる唐辛子であれば、いずれの品種でも用いることができる。唐辛子の部位は、果実を用いることができる。また、唐辛子の水分含量は、15質量%以下であることが好ましく、下限は特にないが、例えば0質量%以上である。唐辛子は、必要に応じて、既知の方法にて粉砕して用いることができる。粒度は、20メッシュ篩下40メッシュ篩上が好ましい。
【0020】
前記食用油脂としては、特に限定されないが、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、サル脂、カカオ脂、シア油、米油、綿実油、紅花油、ヒマワリ油、オリーブ油、亜麻仁油、落花生油などの植物油脂、牛脂、豚脂、鶏脂、乳脂、魚油などの動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの合成油脂が挙げられる。また、これらの分別油、エステル交換油、水素添加油脂などの加工油脂を使用することができる。前記食用油脂は、これらの油脂から一種または二種以上を選択して用いることができるが、菜種油、大豆油、コーン油、パームオレイン、牛脂及び豚脂から選ばれる一種または二種以上を含むものが好ましく、特に菜種油が好ましい。前記食用油脂は、通常の工程にて精製を施されていることが好ましい。
【0021】
また、前記食用油脂のヨウ素価は、好ましくは30以上180以下であり、より好ましくは40以上160以下であり、さらに好ましくは80以上150以下である。
【0022】
本発明の山椒風味油脂組成物の製造方法は、山椒油及び唐辛子油を含む山椒風味油脂組成物の製造方法であって、前記山椒油100質量部に対して、前記唐辛子油を3質量部以上45質量部以下、好ましくは3質量部以上35質量部以下、より好ましくは5質量部以上25質量部以下、さらに好ましくは7質量部以上15質量部以下配合する工程を含む。
【0023】
また、本発明の製造方法は、前記山椒油が以下の工程から得られる。
(a1)食用油脂100質量部に対し、山椒の果実又は果皮から選ばれる1種又は2種を、1質量部以上12質量以下、好ましくは3質量部以上12質量以下、より好ましくは4質量部以上10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上8質量部以下混合して山椒混合油脂を得る工程
(a2)前記山椒混合油脂を、50℃以上90℃以下、好ましくは55℃以上85℃以下、より好ましくは60℃以上80℃以下の温度で保持する工程、及び、
(a3)保持した前記山椒混合油脂から、固形分を除去する工程
【0024】
前記(a1)工程における食用油脂の温度は、特に限定されないが、好ましくは0℃以上90℃以下、より好ましくは15℃以上80℃以下、さらに好ましくは15℃以上60℃以下、さらにより好ましくは15℃以上50℃以下、特に好ましくは30℃以上45℃以下である。
【0025】
前記(a2)工程においては、山椒混合油脂を撹拌しながら前記温度にて保持することが好ましい。前記温度での保持時間は、0分超200分以下であることが好ましく、5分以上120分以下であることがより好ましく、10分以上60分以下であることがさらに好ましく、20分以上50分以下であることがさらにより好ましく、15分以上45分以下であるこが特に好ましい。
【0026】
前記(a2)工程後、好ましくは3時間以上24時間以下、より好ましくは6時間以上24時間以下、さらに好ましくは8時間以上15時間以下、山椒混合油脂の状態を保持した後、前記(a3)工程を開始することが好ましい。
【0027】
さらに、本発明の製造方法は、前記唐辛子油が以下の工程から得られる。
(b1)食用油脂100質量部に対し、唐辛子を1質量部以上18質量部以下、好ましくは5質量部以上18質量部以下、より好ましくは6質量部以上16質量部以下、さらに好ましくは7質量部以上13質量部以下混合して唐辛子混合油脂を得る工程
(b2)前記唐辛子混合油脂を、100℃以上180℃以下、好ましくは110℃以上160℃以下、より好ましくは120℃以上150℃以下の温度で保持する工程、及び、
(b3)保持した前記唐辛子混合油脂から、固形分を除去する工程
【0028】
前記(b1)工程における食用油脂の温度は、特に限定されないが、好ましくは0℃以上180℃以下、より好ましくは50℃以上170℃以下、さらに好ましくは80℃以上150℃以下、さらにより好ましくは90℃以上140℃以下である。
【0029】
前記(b2)工程においては、唐辛子混合油脂を撹拌しながら前記温度にて保持することが好ましい。
【0030】
また、前記(a3)工程又は前記(b3)工程は、周知の方法によって固形分を除去することが可能である。その方法を限定するものではないが、例えば、前記山椒混合油脂又は前記唐辛子混合油脂から、濾過分離、静置分離、遠心分離又はこれらを組み合わせた方法によって固形分を取り除き、山椒油又は唐辛子油を得ることができる。
【0031】
山椒油に対して唐辛子油を配合する工程においては、山椒油の風味が損なわれることを抑制する観点から、唐辛子油の温度が10℃以上70℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましく、さらに好ましくは10℃以上50℃以下である。
【0032】
本発明の製造方法には、必要に応じて、通常、食用の油脂組成物に配合される成分を、発明の効果を損なわない範囲において添加する工程を設けてもよい。例えば、トコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、ローズマリー抽出物、茶抽出物、甘草抽出物等の酸化防止剤;クエン酸やリンゴ酸等の金属キレート剤;ビタミンA、ビタミンD等のビタミン類;香料等を添加する工程である。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明の実施例について説明するが、これに限定するものではない。まず、本実施例に用いた山椒風味油脂組成物の製造方法を説明する。
【0034】
(A)山椒油の調製
(原料)
山椒1:四川花椒末、株式会社カネカサンスパイス製(水分含量14%質量以下、粒度16メッシュ通過品)
山椒2:山椒コースA1、株式会社カネカサンスパイス製(水分含量14%質量以下、粒度20メッシュ通過品)
精製菜種油:さらさらキャノーラ油、株式会社J-オイルミルズ製(ヨウ素価112)
(調製方法)
2000mL容三つ口フラスコに入れた精製菜種油1000gをオイルバスにて加熱し、精製菜種油が40℃に達したら山椒1を33gと山椒2を33g投入して山椒混合菜種油とした。撹拌しながら山椒混合菜種油が70℃に達するまで加熱した。70℃に達したら撹拌しながら30分間その状態を保持した。保持後、オイルバスから取り出し、山椒混合菜種油が50℃になるまで撹拌しながら自然冷却した。50℃まで温度が低下したら、撹拌を停止し、12時間静置した。静置後、遠心分離機(3000rpm、3分)にて山椒混合菜種油を遠心分離した後、目開き100μmのストレーナーに通して固形分を除去し、山椒油を得た。
【0035】
(B)唐辛子油の調製
(原料)
唐辛子1:赤唐辛子末S50、株式会社カネカサンスパイス製(水分含量14質量%以下、粒度30メッシュ通過品)
唐辛子2:赤唐辛子末ROK-50、株式会社カネカサンスパイス製(水分含量14質量%以下、粒度30メッシュ通過品)
精製菜種油:さらさらキャノーラ油、株式会社J-オイルミルズ製(ヨウ素価112)
(調製方法)
2000mL容三つ口フラスコに入れた精製菜種油1000gをオイルバスにて加熱し、精製菜種油が90℃に達したら唐辛子1を71gと唐辛子2を29g投入して唐辛子混合菜種油とした。撹拌しながら唐辛子混合菜種油が140℃に達するまで加熱した。140℃に達したらオイルバスから取り出し、2時間静置させた。静置後、ステンレス製メッシュで濾過した後、12時間自然冷却した。冷却後、目開き75μmのストレーナーに通して固形分を除去して唐辛子油を得た。
【0036】
(C)山椒風味油脂組成物の調製
前記(A)山椒油の調製方法によって得た20℃の山椒油に対して、前記(B)唐辛子油の調製方法によって得た20℃の唐辛子油を配合して山椒風味油脂組成物を得た。
【0037】
<評価方法>
本実施例の評価方法について説明する。まず、前記山椒油、前記唐辛子油及び精製菜種油を用いて表1に示す評価指標を用意した。評価は、3人の専門パネラーの官能評価にて行った。評価手順は、評価指標の油脂を試食して、それぞれ青葉様風味、柑橘様風味及び唐辛子風味の感じ方を共有化した後、各試験油等について官能評価を行った。
【0038】
各評価値は、青葉様風味、柑橘様風味及び唐辛子風味について、いずれも2以上で合格とした。また、評価値は、3人の専門パネラーの合議にて決定した。
【0039】
ここで、各風味の具体的な感じ方は、以下の通りである。
青葉様風味:摘みたての青葉様の風味
柑橘様風味:爽やかなフレッシュ感のある柑橘類の風味
唐辛子風味:唐辛子が焦げた穀物様の風味
【0040】
【0041】
<唐辛子油の配合量の検討>
前記山椒油及び前記唐辛子油を用いて、表2に示す配合比にて山椒風味油脂組成物(以降、試験油1-1乃至1-4と称する)を調製した。また、各試験油の比較対照として、前記唐辛子油に替えて精製菜種油を配合した対照油1-1乃至1-4を調製した。前記山椒風味油脂組成物及び対照油について、前記評価方法により官能評価を行った。得られた評価結果を表2に示す。
【0042】
【0043】
青葉様風味の抑制効果は、表2に示すように、いずれの配合においても対照油に比べて試験油の方が優れていた。この結果から、唐辛子油は、精製菜種油に比べて青葉様風味の抑制効果に優れていることがわかる。特に、試験油1-2及び1-3において、唐辛子油による青葉様風味の抑制効果が顕著であった。
【0044】
柑橘様風味の強度は、表2に示すように、いずれの配合においても対照油に比べて試験油の方が高かった。この結果から、唐辛子油は、精製菜種油と比較して柑橘様風味の発現を阻害しにくいことがわかる。
【0045】
試験油1-4においては、唐辛子が焦げたような唐辛子油の風味が強く感じられた。
【0046】
上記3つの評価項目を総合して検討すると、山椒油100質量部に対して、唐辛子油を5質量部以上25質量部以下配合することで、青葉様風味、柑橘様風味及び唐辛子風味のバランスのとれた山椒風味油脂組成物が得られることが明らかとなった。
【0047】
<製造方法の検討>
製造方法と青葉様風味の抑制効果との関係を検討した。
(1)山椒唐辛子油1
まず、比較例1として、試験油1-2の原料比率に相当する精製菜種油、山椒及び唐辛子を用いて、前記(A)山椒油の調製に説明の方法により山椒唐辛子油1を調製した。より具体的には、300mL容三つ口フラスコ、精製菜種油182g、山椒1を10.8g、唐辛子1を1.8gとした以外は前記(A)山椒油の調製と同じ条件にて調製した。
【0048】
(2)山椒唐辛子油2
また、比較例2として、試験油1-2の原料比率に相当する精製菜種油、山椒及び唐辛子を用いて、前記(B)唐辛子油の調製に説明の方法により山椒唐辛子油2を調製した。より具体的には、2000mL容三つ口フラスコに替えて片手鍋、オイルバスに替えて直火コンロ、精製菜種油187g、山椒1を10.8g、唐辛子1を1.8gとした以外は前記(B)唐辛子油の調製と同じ条件にて調製した。
【0049】
得られた山椒唐辛子油1及び山椒唐辛子油2について、前記評価方法により官能評価を行った。試験油1-2、山椒唐辛子油1及び山椒唐辛子油2の評価結果を表3に示す。
【0050】
【0051】
表3に示すように、試験油1-2及び比較例1を比較すると、試験油1-2の方が、青葉様風味の抑制効果が高かった。比較例2は、青葉様風味及び柑橘様風味を含めた山椒の風味が感じられなかった。唐辛子風味の強度については、試験油1-2、比較例1及び比較例2において、大きな差は認められなかった。
【0052】
この結果から、山椒油に唐辛子油を配合することにより、青葉様風味、柑橘様風味及び唐辛子風味のバランスのとれた山椒風味油脂組成物を得られることが明らかとなった。
【0053】
<麻婆豆腐による評価>
麻婆豆腐に対して、試験油1-2及び1-4の山椒風味油脂組成物を添加して青葉様風味と柑橘様風味の感じ方について評価した。得られた評価結果を表4に示す。
【0054】
麻婆豆腐は以下の材料及び手順にて調製した。
(材料)
麻婆豆腐の素中辛(丸美屋食品工業株式会社製)
豆腐450g
水180mL
トロミ粉液用の水30mL
(調製方法)
1.トロミ粉に水30mLを混ぜてトロミ粉液を調製する
2.フライパンに麻婆豆腐の素中辛と水180mLを入れて、中火で煮立たせた。
3.煮立ったら、1.5cm角にカットした豆腐を入れ、さらにひと煮立ちさせてから火を止めた。
4.トロミ粉液をよくかき混ぜてから、上記3に回しかけ、混ぜあわせた。
5.再度、中火にして煮立つまで加熱し麻婆豆腐を得た。
【0055】
(官能評価)
得られた麻婆豆腐に山椒風味油脂組成物を2質量%添加し、風味について官能評価を行った。
【0056】
【0057】
表4に示すように、試験油1-2の山椒風味油脂組成物を添加した麻婆豆腐は、爽やかでフレッシュ感のある柑橘様風味に優れた麻婆豆腐であった。一方、試験油1-4の山椒風味油脂組成物を添加した麻婆豆腐は、山椒油に由来する青葉様風味も柑橘様風味も感じられない麻婆豆腐であった。