(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】成膜装置、成膜方法、及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20220118BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20220118BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20220118BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
C23C14/50 F
C23C14/04 A
H05B33/10
H05B33/14 A
(21)【出願番号】P 2018179291
(22)【出願日】2018-09-25
【審査請求日】2020-02-21
(31)【優先権主張番号】10-2017-0155584
(32)【優先日】2017-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 毅
(72)【発明者】
【氏名】大倉 敏和
(72)【発明者】
【氏名】石井 博
(72)【発明者】
【氏名】諸橋 悟
(72)【発明者】
【氏名】富井 広樹
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 一史
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-206939(JP,A)
【文献】国際公開第2009/084623(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0045518(KR,A)
【文献】特開2004-152704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/50
C23C 14/04
H05B 33/10
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクを介して基板に蒸着材料を成膜するための成膜装置であって、
マスクに磁力を印加するための磁力印加手段と、
前記磁力印加手段による前記マスクと前記基板との間の距離を測定するための測定手段と、
前記測定手段によって測定された前記距離に基づいて、前記磁力印加手段を制御するための制御部
を含み、
前記制御部は、前記測定手段によって測定された前記距離が基準値より大きい場合、前記磁力印加手段をマスクから離れるように上昇させた後、前記磁力印加手段がV字の形を取った状態で前記磁力印加手段を前記マスクの方に下降させ、次いで平面に戻すように制御することにより、前記マスクに対する前記磁力印加手段の磁力を弱めた後、前記マスクに対する前記磁力印加手段の磁力が前記マスクの中央部から再印加されるように前記磁力印加手段を制御する成膜装置。
【請求項2】
マスクを介して基板上に蒸着材料を成膜するための成膜方法であって、
成膜装置内にマスクを搬入して、マスク台上に載置する段階、
前記成膜装置内に基板を搬入して基板保持ユニット上に載置する段階、
前記マスクと前記基板の相対的な位置を調整するアライメント段階、
位置調整された前記基板を前記マスク上に載置する段階、
磁力印加手段によって前記基板を介して前記マスクに磁力を印加することで、前記基板と前記マスクを密着させる段階、
測定手段によって前記マスクと前記基板との間の距離を測定する段階、
前記測定手段によって測定された前記距離を基準値と比較する段階、
前記測定手段によって測定された前記距離が前記基準値より大きい場合、前記マスクに対する前記磁力印加手段の磁力を弱めた後、前記マスクに対する前記磁力印加手段の磁力が前記マスクの中央部から再印加されるように制御する段階、及び
前記測定手段によって測定された前記距離が前記基準値以下である場合、前記マスクを介して前記基板に対する成膜を行う段階を含み、
前記制御する段階は、前記測定手段によって測定された前記距離が前記基準値より大きい場合、前記磁力印加手段をマスクから離れるように上昇させた後、前記磁力印加手段が
V字の形を取った状態で前記磁力印加手段を前記マスクについて下降させるように制御する段階を含む成膜方法。
【請求項3】
請求項
2に記載の成膜方法を用いて電子デバイスを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び成膜方法に関するものであり、具体的には、密着度検出手段によってマスクと基板との間の密着度を検出して、検出された結果に基づいて当該マスクと基板との間の密着度を高めるように磁力印加手段の磁力を制御することができる成膜装置、及びこれらの成膜装置を用いる成膜方法に関するものである。
【0002】
また、本発明は、このような成膜方法を用いて、電子デバイスを製造する方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0003】
最近、フラットパネル表示装置として有機EL表示装置が脚光を浴びている。有機EL表示装置は自発光ディスプレイであり、応答速度、視野角、薄型化などの特性が液晶パネルディスプレイより優れており、モニター、テレビ、スマートフォンに代表される各種携帯端末などで既存の液晶パネルディスプレイに対する代替が加速している。また、自動車用ディスプレイ等にも、その応用分野を広げている。
【0004】
有機EL表示装置の素子は2つの向かい合う電極(カソード電極、アノード電極)の間に発光を起こす有機物層が形成された基本構造を持つ。有機ELディスプレイ素子の有機物層と電極金属層は真空チャンバ内で、画素パターンが形成されたマスクを介して基板に蒸着物質を蒸着させることで製造されるが、マスク上の画素パターンを高精度で基板に転写するためには、基板への蒸着が行われる前にマスクと基板の相対的位置を精密に調整し、マスクを基板の成膜面に密着させなければならない。
【0005】
従来技術では、マスクを基板の成膜面に密着させるため、マグネット板を用いて基板の上部から基板の下部の金属製マスクに磁気引力を印加する。すなわち、従来技術では相対的位置が調整(アライメント)された基板をマスクの上面に載置した状態で、マグネット板(及び/又は冷却板)を基板の上面に当接させることで、マグネット板によって金属製マスクに印加される磁気引力を通じて基板とマスクを密着させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来技術ではマグネット板によって基板とマスクがどれほど密着したかを蒸着工程の開始前にイン・サイチュ(in-situ)で確認できず、有機ELパネルの製造が完了した後点灯テストの段階で確認するしかないので、マスクと基板との間の密着度が低い場合にも成膜工程がそのまま進み、成膜ボケなどの製品不良が発生する。
【0007】
また、点灯テスト段階でマスクと基板との間の密着度問題が確認されても、真空状態で成膜が行われている成膜装置の動作を止めて大気開放してマグネット板の配置を手動で変更しなければならず、マスクを交換するたびにマグネット板の配置を調整することが必要になる可能性が高く、生産性が低下するなどの問題がある。
【0008】
特に、マスクは自重によってその中央部が下方に撓むが、この状態でマスクと基板との間の密着度を高めるため、単にマグネット板による磁力を強く制御する場合、マスクと基板との間の間隙が小さくできても、マスクの中央部に生じるしわを除去することはできず、間隙の分布そのものは変わらない。
【0009】
本発明は、成膜工程の開始前にイン・サイチュで基板とマスクとの密着度を検知し、マ
スクしわを除去することによってマスクと基板との間の密着度を高められる成膜方法、成膜装置及び電子デバイスの製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1態様による成膜装置は、マスクを介して基板に蒸着材料を成膜するための成膜装置であって、マスクに磁力を印加するための磁力印加手段と、前記磁力印加手段による前記マスクと前記基板との間の距離を測定するための測定手段と、前記測定手段によって測定された前記距離に基づいて、前記磁力印加手段を制御するための制御部を含み、前記制御部は、前記測定手段によって測定された前記距離が基準値より大きい場合、前記磁力印加手段をマスクから離れるように上昇させた後、前記磁力印加手段がV字の形を取った状態で前記磁力印加手段を前記マスクの方に下降させ、次いで平面に戻すように制御することにより、前記マスクに対する前記磁力印加手段の磁力を弱めた後、前記マスクに対する前記磁力印加手段の磁力が前記マスクの中央部から再印加されるように前記磁力印加手段を制御する成膜装置。
【0011】
本発明の第2態様による成膜方法は、マスクを介して基板上に蒸着材料を成膜するための成膜方法であって、成膜装置内にマスクを搬入して、マスク台上に載置する段階、前記成膜装置内に基板を搬入して基板保持ユニット上に載置する段階、前記マスクと前記基板の相対的な位置を調整するアライメント段階、位置調整された前記基板を前記マスク上に載置する段階、磁力印加手段によって前記基板を介して前記マスクに磁力を印加することで、前記基板と前記マスクを密着させる段階、測定手段によって前記マスクと前記基板との間の距離を測定する段階、前記測定手段によって測定された前記距離を基準値と比較する段階、前記測定手段によって測定された前記距離が前記基準値より大きい場合、前記マスクに対する前記磁力印加手段の磁力を弱めた後、前記マスクに対する前記磁力印加手段の磁力が前記マスクの中央部から再印加されるように制御する段階、及び前記測定手段によって測定された前記距離が前記基準値以下である場合、前記マスクを介して前記基板に対する成膜を行う段階を含み、前記制御する段階は、前記測定手段によって測定された前記距離が前記基準値より大きい場合、前記磁力印加手段をマスクから離れるように上昇させた後、前記磁力印加手段がV字の形を取った状態で前記磁力印加手段を前記マスクについて下降させるように制御する段階を含む。
【0012】
本発明の第3態様による電子デバイス製造方法は本発明の第2態様による成膜方法を用いて電子デバイスを製造する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、成膜工程の開始前にイン・サイチュでマスクと基板との間の密着度を検出して、密着度が所定の基準値より低い場合、成膜工程(蒸着工程)を遂行する前に磁力印加手段によってマスクに印加される磁力を一旦弱めて、再び磁力を強めるように制御することにより、基板とマスクとの間の密着度を向上させることができる。これにより、成膜不良を予防して有機EL表示装置の収率を向上させ、また製造時間を短縮することにより、生産性を高めることができる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、有機EL表示装置の製造ラインの一部の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明による成膜装置の模式図である。
【
図3】
図3は、本発明による密着度検出手段の模式図である。
【
図4】
図4は、本発明による制御部による制御を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態による成膜方法を説明するフローチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の実施例による成膜装置において、磁力印加手段の制御方法を示す概略図である。
【
図7】
図7は、本発明の他の実施例による成膜装置において、磁力印加手段の制御方法を示す概略図である。
【
図8】
図8は、本発明のまた他の実施例による成膜装置において、磁力印加手段の制御方法を示す概略図である。
【
図9】
図9は、本発明のまた他の実施例による成膜装置において、磁力印加手段の制御方法を示す概略図である。
【
図10】
図10は、本発明による成膜方法を用いて製造される電子デバイスの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がないかぎりは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
本発明は、基板の表面に真空蒸着によってパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に望ましく適用することができる。基板の材料では硝子、高分子材料のフィルム、金属などの任意の材料を選択することができ、また、蒸着材料としても有機材料、金属性材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択することができる。本発明の技術は、具体的には、有機電子デバイス(例えば、有機EL表示装置、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。その中でも、有機EL表示装置の製造装置は、基板の大型化又は、表示パネルの高精密化などによって、基板とマスクのアラインメント精度及び密着精度のさらなる向上が求められているので、本発明の望ましい適用例の一つである。
【0017】
<電子デバイス製造ライン>
【0018】
図1は、電子デバイスの製造ラインの構成の一部を模式的に示す上面図である。
図1の製造ラインは、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば約1800mm×約1500mmのサイズの基板に有機ELの成膜を行った後、該基板をダイシングして複数の小サイズのパネルが作製される。
【0019】
電子デバイスの製造ラインは、一般に、
図1に示すように、複数の成膜室11、12と、搬送室13とを有する。搬送室13内には、基板10を保持し搬送する搬送ロボット14が設けられている。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板10を保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットであり、各成膜室への基板10の搬入/搬出を行う。
【0020】
各成膜室11、12にはそれぞれ成膜装置(蒸着装置とも呼ぶ)が設けられている。搬送ロボット14との基板10の受け渡し、基板10とマスクの相対位置の調整(アライメント)、マスク上への基板10の固定、成膜(蒸着)などの一連の成膜プロセスは、成膜装置によって自動で行われる。
【0021】
以下、成膜室の成膜装置の構成について説明する。
【0022】
<成膜装置>
【0023】
図2は成膜装置2の構成を概略的に示す断面図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を用いる。成膜時に基板10が水平面(XY平面)と平行に固定されると想定したときに、基板10の短辺に平行な方向をX方向、長辺に平行な方向をY方向とする。またZ軸周りの回転角をθで示す。
【0024】
成膜装置2は成膜工程が行われる空間を定義する真空チャンバー20を具備する。真空
チャンバー20の内部は真空雰囲気、或いは、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気で維持される。
【0025】
成膜装置2の真空チャンバー20内の上部には基板を保持して搬送する基板保持ユニット21、マスクを保持して搬送するマスク保持ユニット22、基板を冷却するための冷却板23、金属材質のマスクに磁力を印加するためのマグネット板24、位置調整されたマスクを置くマスク台25などが設けられ、成膜装置の真空チャンバー20内の下部には蒸着材料が収納される蒸着源26などが設けられる。
【0026】
基板保持ユニット21は搬送室13の搬送ロボット14から受け取った基板10を保持し、搬送する手段であり、基板ホルダとも呼ぶ。基板保持ユニット21は、基板下面の周縁部を支持する複数の支持部材及び複数の支持部材と対応するように設置され、複数の支持部材との間で基板を挟持する複数の押圧部材を含む。一対の支持部材と押圧部材が一つの挟持機構(クランプとも呼ぶ)を構成して、基板保持ユニット21に置かれた基板を固定させる。本発明はクランプ構造の挟持機構の代わりに支持部材と靜電チャックとを用いて基板を固定させる構成も含む。
【0027】
マスク保持ユニット22は成膜装置2の真空チャンバー20内に搬入されたマスクをマスク台25上に載置するまでマスクを保持及び搬送する手段である。
【0028】
基板保持ユニット21の下には真空チャンバー20に固定されたフレーム状のマスク台25が設置され、マスク台25には基板10上に形成される薄膜パターンに対応する開口パターンを有するマスク251が置かれる。特に、スマホ用の有機EL素子を製造するのに使われるマスクは微細な開口パターンが形成された金属製のマスクであり、FMM(Fine Metal Mask)とも呼ぶ。
【0029】
冷却板23は基板保持ユニット21の支持部上方に設置されて、成膜時に基板10のマスク251とは反対側の面に密着されて成膜時の基板10の温度の上昇を抑制することで有機材料の変質や劣化を抑制する役目をする板型部材である。
【0030】
冷却板23の上には金属製のマスク251に磁気力を印加してマスクの撓みを防止し、マスク251と基板10とを密着させるためのマグネット板24が設けられる。マグネット板24は永久磁石または電磁石からなることができ、複数のモジュールに区画されることができる。マグネット板24は冷却板23と一体に形成されることもできる。本発明の成膜装置2は、磁力印加手段24により基板10とマスク251が密着された度合いを測定するための密着度測定手段28を含む。密着度測定手段28の具体的な構成及び測定結果に基づく密着度制御については、
図3乃至5を参照して後述する。
【0031】
蒸着源26は基板に成膜される蒸着材料が収納されるるつぼ(不図示)、るつぼを加熱するためのヒータ(不図示)、蒸着源からの蒸発レートが一定になるまで蒸着材料が基板に飛散することを阻むシャッタ(不図示)などを含む。蒸着源26は点(point)蒸着源、線形(linear)蒸着源、リボルバ蒸着源などの用途によって多様な構成を持つことができる。
【0032】
図2に図示されていないが、成膜装置2は基板に蒸着された膜の厚さを測定するための膜厚モニタ(不図示)及び膜厚算出ユニット(不図示)を含む。
【0033】
成膜装置2の真空チャンバー20の外部上面には、基板保持ユニット21、マスク保持ユニット22、冷却板23/マグネット板24などを鉛直方向(Z方向、第3方向)に昇降させるための昇降機構、及び基板とマスクとのアライメントのために水平面に平行に(
X方向、Y方向、θ方向に)基板保持ユニット21またはマスク保持ユニット22を移動させるための駆動機構などが設置される。
【0034】
また、本発明の成膜装置2にはマスクと基板のアライメントのために真空チャンバー20の天井に設けられた窓を通じて基板及びマスクに形成されたアライメントマークを撮影するアライメント用カメラ(不図示)も設けられる。
【0035】
成膜装置2は制御部27を具備する。制御部27は基板10の搬送及びアライメント、蒸着源の制御、成膜の制御などの機能を有する。制御部27は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、I/Oなどを有するコンピュータによって構成可能である。この場合、制御部27の機能はメモリーまたはストレージに格納されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピュータとしては汎用のパーソナルコンピュータを使用しても、組込み型のコンピュータまたはPLC(programmable logic controller)を使用してもよい。または、制御部27の機能の一部または全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。また、成膜装置ごとに制御部27が設置されていてもよいし、一つの制御部27が複数の成膜装置を制御するものとしてもよい。
【0036】
以下、本発明の成膜装置で行われる成膜プロセスの各段階を説明する。
【0037】
まず、成膜装置の真空チャンバー20内に新たなマスクが搬入され、マスク保持ユニット22上に載置されると、マスク保持ユニット22が昇降機構によって下降して、マスクがマスク台25上に載置される。
【0038】
搬送室13の搬送ロボット14によって基板が真空チャンバー20内に搬入されて基板保持ユニット21に置かれる。引き継いで、基板10とマスク251のXYθの方向への相対的位置の測定及び調整を行う基板アライメント工程が行われる。基板アライメント工程が完了すると、基板保持ユニット21が昇降機構によって降りて基板10をマスク251上に置き、その後に冷却板23とマグネット板24が昇降機構によって降りて基板10とマスク251を密着させる。
【0039】
この状態で、蒸着源26のシャッタが開かれて蒸着源26のるつぼから蒸発された蒸着材料がマスクの微細パターン開口を通して基板に蒸着される。
【0040】
基板に蒸着された蒸着材料の膜厚が所定の厚さに到逹すると、蒸着源26のシャッタを閉じ、搬送ロボット14が基板を真空チャンバー20から搬送室13に搬出する。
【0041】
所定の枚数の基板に対して基板搬入から基板搬出までの工程を繰り返して行った後、蒸着材料が堆積されてこれ以上使うことができなくなったマスクを成膜装置から搬出して、新しいマスクを成膜装置に搬入する。
【0042】
<マスクと基板との間の密着度測定手段>
【0043】
次に、本発明によるマスクと基板との間の密着度測定について
図3を参照して説明する。
【0044】
基板のマスクに対するアライメントが完了すると、基板保持ユニット21がマスク上に下降して、マスクの上に基板を載置する。続いて、冷却板23及び磁力印加手段24が下降して、基板10の上面上に置かれる。この時、磁力印加手段24の磁力によって金属製マスク251が引力を受けることになり、基板とマスクが密着される。
【0045】
本発明においては、マスクと基板との間の密着工程が遂行された後、密着度測定手段28による密着度測定工程がイン・サイチュで遂行される。
【0046】
例えば、
図3に示したとおり、磁力印加手段(例えば、マグネット板)の上方にXYZ軸方向に沿って移動可能に配置される密着度測定手段としてのレーザー変位計を設置して、マスクの上面と基板の成膜面(下面)それぞれに対してレーザー光を照射し、これらから反射される反射光に基づいてマスクの上面と基板の成膜面(下面)の間の間隙(密着度または平坦度)を測定する。
【0047】
具体的には、密着度測定手段28は、基板とマスクが密着される時の基板とマスクとの間の間隔を測定するための距離測定部であり、本発明の実施例では、たとえばレーザー光を用いたレーザー変位センサーを含むレーザー変位計によって非接触方式で基板とマスクとの間の間隔を測定している。しかし、非接触方式のレーザー変位計以外にも、基板とマスクとの間の間隔を測定できる構成であれば、多様な接触/非接触式変位計を使用することができる。例えば、密着度測定手段として共焦点センサー(confocal sensor)を利用することもできる。
【0048】
本実施例ではレーザー光を利用して測定対象までの距離を測定するレーザー変位計を採用した場合について説明する。
【0049】
成膜装置の真空チャンバーにXY方向に移動可能に設置されるレーザー変位計は、光源部(不図示)、ミラー部(不図示)、レンズ部(不図示)、レンズ駆動部(不図示)、および受光部(不図示)などを含む。光源部からのレーザー光は、レンズ駆動部によって上下振動するレンズ部、磁力印加手段24に形成された開口241、基板を順次経て、マスクに照射される。この時、レンズ駆動部によってレンズ部を上下振動させているので、レーザー光の焦点が合った基板又は、マスクの被測定箇所(すなわち、基板の下面及びマスクの上面)によって反射されたレーザー光が受光部で受光される。被測定箇所によって反射されたレーザー光は、その他の部分によって反射されたレーザー光と比較すると、強度が大きいため、受光部は被測定箇所の位置をレーザー光の強度のピーク値として検出することができる。
【0050】
即ち、
図3に示したとおり、照射されたレーザー光は、基板の成膜面(下面)によって反射光L1が生成され、この反射光L1が受光部によってピーク値として検出される。同様に照射されたレーザー光はマスクの上面によって反射光L2が生成され、この反射光L2も受光部によってピーク値として検出される。したがって、上記反射光L1と反射光L2それぞれから検出されたピーク値の間隔を算出すると、マスクの上面と基板の成膜面の間の間隙(距離)を測定することができる。
【0051】
一方、本実施例では、成膜装置の真空チャンバーにXY方向に移動可能にレーザー変位計を設置しているが、必要に応じてZ軸方向にも移動可能に設置することで、基板とマスクを移動させなくても、レーザー変位センサの測定範囲内に被測定対象である基板とマスクが容易に位置するようにすることもできる。
【0052】
マスクの上面と基板の成膜面との間の間隙を測定するマスク上の箇所はマスクと基板間の間隙が最も顕著なマスク中央部を含む複数の箇所であることが望ましいが、本発明はこれに限定されておらず、マスク中央部だけで間隙を測定してもよい。例えば、マスク中央部において長辺方向(Y方向)の複数の箇所で間隙を測定してもよいし、長辺方向(Y方向)の一つの箇所で間隙を測定してもよい。さらには、一つの測定箇所で一回測定することもでき、複数回にわたって測定を行うことも可能である。
【0053】
また、レーザー変位計からのレーザー光を通せる磁力印加手段24に形成された開口241は基板とマスクとの間の密着度を測定できる限りその形成位置と数は特に限定されない。
【0054】
本発明の成膜装置は密着度測定手段28を含むので、イン・サイチュで、つまり、成膜装置での成膜プロセスの中断なくリアルタイムで基板とマスクとの間の密着度を測定することにより、後述するとおりの密着度調節ができるようになる。
【0055】
<基板とマスク間の密着度制御>
【0056】
次に、
図4および
図5を参照して、密着度測定手段28によって得られた基板とマスクの密着度に関する情報に基づいて、基板とマスクの密着度をさらに向上させるための磁力制御について説明する。
【0057】
図4は密着度測定手段28によって検出された基板の下面とマスクの上面間の距離ないし間隙に関する情報に基づいた、本発明の成膜装置2の制御部27による磁力制御を図示するブロック図であり、
図5は、本発明による磁力制御のフローチャートである。
【0058】
密着度測定手段28によって検出された基板とマスクとの間の密着度に関する情報は成膜装置2の制御部27に伝送される。
【0059】
本発明の成膜装置の制御部27は密着度測定手段28から受信された密着度(基板下面とマスク上面との間の距離)があらかじめ決められた基準値から外れているかを判定する。この際、密着度判定の基準となる基準値は各測定箇所ごとに異なるようにしてもよいし、複数の箇所で密着度が測定された場合は、例えば、マスクの長辺に平行な方向(Y方向)に並んだ複数の測定箇所の測定値から平均値を算出して基準値と対比することもできる。基準値はマスクの種類(厚さなど)によって異なるように設定してもよい。
【0060】
もし密着度があらかじめ決められた基準値以上であると判定された場合には、制御部27は蒸着源26のシャッターを開けて成膜(蒸着)工程が実行されるように制御する。
【0061】
密着度があらかじめ決められた基準値より小さいと判定された場合(例えば、基板とマスク間の距離が所定の基準値より大きいと判定された場合)には、制御部27は、磁力制御部40に磁力印加手段24による基板とマスクとの密着工程を再び遂行するように命令を下す。制御部27からの命令に従って、磁力制御部40は、磁力印加手段24によってマスクに印加される磁力を一度弱めた後、マスクに対する磁力印加手段24の磁力を再び強めるように磁力印加手段24を制御する。
【0062】
すなわち、本発明においては、基板とマスク間の間隙が所定の基準値より大きい場合に、磁力制御部40は磁力印加手段24により印加される磁力が単純に強くなるよう制御するのではなく、一度磁力印加手段24によってマスクに印加される磁力を弱めた後、再び磁力を強くする。磁力を強くする前に一度磁力印加手段24によってマスクに印加される磁力を弱めることで(例えば、磁力の印加を中止することで)、マスクの中央部にしわがなかった元の状態に戻した後、以下で説明するようにしわが生じない方式で再び磁力を強くすることにより、基板とマスクが十分に密着することができるようにする。
【0063】
本実施形態では、成膜装置の制御部27及び磁力制御部40が別途に設置されることを前提に説明したが、磁力制御部40は制御部27に統合され、制御部27が磁力印加手段24によってマスクに作用する磁力を直接制御してもよい。
【0064】
磁力制御部40によって磁力印加手段24が制御されてマスクに対して改めて磁力を印加した後、制御部27は密着度測定手段28に基板とマスク間の密着度を再び測定させ、新たに得られた測定値を基準値と比べる。その結果、新たな測定値が基準値以上である場合、成膜工程が実行されるように蒸着源26を制御し、基準値より小さい場合には、測定値が基準値以上になるまで、前述した磁力制御工程を繰り返す。
【0065】
磁力制御工程の遂行回数が所定の回数を超えると、磁力制御方式で基板とマスクの間の密着度がイン・サイチュで調節されないものと判定して、作業者にアラーム乃至通知を行う。つまり、制御部27は密着度測定工程の遂行回数をカウンター41に格納して、カウンター41が示す回数が所定の回数を超えると、アラーム通知部42に、作業者に基板とマスクとの間の密着度が所定の基準値以上に調節できないことを通知させる。
【0066】
<磁力印加手段の磁力制御>
【0067】
以下、
図6ないし
図9を参照して、磁力制御部による磁力印加手段の制御の具体的な実施例について、より詳細に説明する。
【0068】
<実施例1>
【0069】
図6は、本発明の実施例1に関する磁力印加手段24の構成及び磁力印加手段24によるマスクへの磁力印加方法を概略的に図示している。
【0070】
実施例1においては、磁力印加手段24がマスクの対向する両辺のいずれかの辺(例えば、1つの長辺)から磁力を印加するように制御する。そのため、実施例1においては、例えば、磁力印加手段24の一辺に回動部44を設け、磁力印加手段24が当該辺を軸に回動可能に構成されている。
【0071】
本実施例による磁力印加過程では、
図6に図示したように、磁力制御部40は回動部44を軸に磁力印加手段24を回動させて傾斜させた状態で冷却板に対して下降させた後、(または下降させながら)平面に戻すように制御する。これによって、磁力印加手段24がマスクの一辺からマスクの中央部を経てマスクの他辺の方に順次磁力を印加できるようにする。これによって、撓んでいるマスクの中央部が磁力印加手段24から最も遅れて磁力を受けて、マスク中央部にしわが残ってしまう問題を解決できるようになる。
【0072】
本実施例において、磁力印加手段24は電磁石または永久磁石で実現することができる。
【0073】
磁力印加手段24の傾斜した状態での下降と平面への復帰以降に実行された密着度測定工程で密着度が所定の基準値から外れたと判定された場合、制御部27は、磁力制御部40に磁力印加手段24を鉛直上方に上昇させることで、一度磁力を弱めるか解除(例えば、電磁石に印加する電流を遮断)した後、再度、回動部を軸として磁力印加手段24を回動させて磁力印加手段24の傾斜した状態で冷却板側(つまり、マスク側)に向かって下降させ、次いで平面に磁力印加手段24を戻すことによって、マスクの一辺を基点として他辺に向かって磁力の印加が進むように制御する。
【0074】
この実施例では、磁力印加手段24をマスク面に対して傾かせるため、回動部を用いる構成について説明したが、本発明はこれに限らず、他の方法を用いて磁力印加手段24をマスク面に対して傾かせてもよい。
【0075】
<実施例2>
【0076】
本発明による実施例2は、磁力印加手段24によってマスクの中央部から両辺に向かって磁力の印加が進むという点で実施例1と差がある。
【0077】
つまり、
図7に図示したように、本発明による実施例2では、磁力印加手段24を複数のモジュール(本実施例では2個)に分けて、その中央部に回動部としてのヒンジ部44が設けられ、2つのモジュールが当該ヒンジ部44によって相対的に回動可能になっている。
【0078】
磁力印加過程では、
図7に図示したように、磁力印加手段24を、ヒンジ部44を中心として両側の磁力印加手段モジュールがV字の形を取るようにした状態で、冷却板に対して下降させた後(または下降させながら)、平面に戻す。これによって、マスクの中央部が最も先に磁力印加手段24によって磁力を受けて基板に向かって持ち上げられて(マスクが鉛直下方に凹んだ状態から鉛直上方に出っ張る状態になりながら)、続いて、マスクの中央部からマスクの両辺側(対向する2つの長辺側)に向かって行きながら、マスクが基板に密着されるようになる。これによって、マスクが基板にしわなく密着されるようにする。
【0079】
本実施例も、磁力印加手段24を永久磁石または電磁石で実現することができる。
【0080】
磁力印加手段モジュールの下降と平面への復帰以降に実行された密着度測定工程において密着度が基準値から外れたものと判定された場合、磁力制御機構は、磁力印加手段24を一度鉛直上方に上昇させることで、磁力を弱めるか解除した後、再度、ヒンジ部44を中心として両側の磁力印加手段モジュールがV字の形を取るようにした状態で冷却板に対して下降させた後(または下降させながら)、平面に戻すことによって、マスクに対して磁力を印加する。
【0081】
<実施例3>
【0082】
図8に図示した本発明の実施例3は、3つ以上の電磁石モジュール24-1に分けられた磁力印加手段24を用いて、実施例1のように、マスクの一端側(一長辺側)からマスクの中央部を経てマスクの他端側(対向する長辺側)にマスクの基板への密着が進行されるようにする。
【0083】
すなわち、本実施例の磁力印加手段24は3つ以上の電磁石モジュール24-1で構成され、これによる磁力印加は、例えば、3つの電磁石モジュール24-1のうち、マスクの一長辺側に対応する位置の電磁石モジュールに先に電源を印加して、マスクの該当長辺側が先に基板に密着されるようにする。続いて、マスクの中央部に対応する位置の電磁石モジュール24-1に電源を印加して、マスクの中央部が基板に密着されるようにし、最後にマスクの他の長辺側に対応する位置の電磁石モジュール24-1に電源を印加することにより、マスクの当該他の長辺側が基板に密着されるようにする。このように磁力印加手段24を制御することにより、マスクが基板にしわなく密着されるようにする。
【0084】
特に、本実施例3では電磁石モジュール24-1に印加する電源をON/OFFすることで、磁力を制御できるために実施例1および2のような磁力印加手段24の昇降は不要という点で、成膜装置の構造を機構的に簡単にでき、機構の制御も簡単になる。
【0085】
磁力印加過程では、
図8に図示したように、個別電磁石モジュールに印加する電源の手順を適切に制御することで、基板に対するマスクの密着度(平坦度)の向上を図ることが
できる。
【0086】
本実施例でも、密着度測定手段によって測定された密着度が所定の基準値から外れる場合には磁力印加手段24により印加される磁力を弱める(電磁石に流れる電流量を減少させる)か解除(電磁石に流れる電流を遮断)した後、再度、一端側の電磁石モジュールから順次電源を印加して、マスクが基板にしわなく密着されるように制御する。
【0087】
実施例3の変形例として、3つの電磁石モジュールの中央の電磁石モジュールに先に電源を加えてマスクの中央部が基板に先に密着されるようにした後、両端部の電磁石モジュールに電源を印加して対応する位置のマスク部分が基板に密着されるようにすることができる。これによって、実施例2のようなヒンジ部や昇降駆動がなくても、実施例2と同様の密着効果を達成することができる。
【0088】
<実施例4>
【0089】
本発明の実施例4においては、
図9に図示したように、磁力印加手段24を複数の永久磁石(本実施例では3個)モジュールで構成しており、複数の個別永久磁石モジュール24-2をマスクに対して機械的に下降させる手順を適切に制御することで、基板に対するマスクの密着度(平坦度)の向上を図ることができる。
【0090】
具体的には、実施例1と同様にマスクの一端(例えば、対向する両辺の中のいずれかの1つの辺)を基点として他端(例えば、対向する両辺の中の他の1つの辺)に向かって行きながら磁力が印加されるように、マスクの一端に対応するように配置された永久磁石モジュールから、マスクの中央部に対応するように配置された永久磁石モジュール、マスクの他端に対応するように配置された永久磁石モジュールの手順で鉛直上方から機械的に下降させことにより、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0091】
本発明の実施例4の変形例として、マスクの中央部に対応する位置に配置された永久磁石モジュールからマスクの両端側に対応するように配置された永久磁石モジュールに向かって行きながら磁力が印加されるように下降手順を制御して実施例2と同様の作用効果を得ることもできる。
【0092】
<その他の実施例>
【0093】
以上、本発明の望ましい実施例について図面を参照して説明したが、本発明は、前記例示した実施例に限定されない。例えば、実施例2では複数のモジュールがV字の形を取るものとして説明したが、これに限らず、逆V字の形を取ることも可能であり、磁力印加手段24として柔軟性のあるシート磁石を使用することも可能である。
【0094】
例えば、実施例2のように磁力印加手段24をヒンジで連結する構成の代わりに柔軟性を持つシート型の磁力印加手段24を用いて類似の作用効果を得ることができる。つまり、柔軟性を持つシート型の磁力印加手段24の両長辺側を支持すれば、その中央部が下方に撓むようになるが、この状態でそのまま基板上にシート型の磁力印加手段24を下降させることにより、実施例2の構成と同様の作用効果を得ることができる。
【0095】
また、前述した説明では磁力印加手段24と冷却板を別の構成要素として説明したが、磁力印加手段24と冷却版が一体で構成されてもよい。
【0096】
また、本発明は必ず靜電チャックを使用した成膜装置だけでなく、通常の基板クランプを使用した成膜装置でも適用可能できるのは言うまでもない。
【0097】
<電子デバイスの製造方法>
【0098】
次に、本実施形態の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
【0099】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図10(a)は有機EL表示装置60の全体図、
図10(b)は1画素の断面構造を表している。
【0100】
図10(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例にかかる有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0101】
図10(b)は、
図10(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、第1電極(陽極)64と、正孔輸送層65と、発光層66R、66G、66Bのいずれかと、電子輸送層67と、第2電極(陰極)68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R、66G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、第1電極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と第2電極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極64と第2電極68とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0102】
図10(b)では正孔輸送層65や電子輸送層67が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を含む複数の層で形成されてもよい。また、第1電極64と正孔輸送層65との間には第1電極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、第2電極68と電子輸送層67の間にも電子注入層を形成することができる。
【0103】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0104】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および第1電極64が形成された基板63を準備する。
【0105】
第1電極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0106】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の有機材料成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の第1電極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0107】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の有機材料成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板とマスクを磁力印加手段24によって密着させる。この状態で、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
【0108】
本発明によると、マスクと基板との間の密着度を測定する密着度測定装置によって測定された密着度があらかじめ決められた基準値から外れた場合に、マスクに対する磁力印加手段24の磁力を弱めた後、マスクに対する磁力印加手段24の磁力を再び強くするように磁力印加手段24を制御することにより、マスクと基板との間の密着度が低い場合でもこれを検出して、成膜工程の遂行の前に効果的に密着度を上げてから成膜工程を遂行することができ、これによって有機EL表示装置の収率を向上させ、また製造時間を短縮させることができる。
【0109】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0110】
電子輸送層67まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて第2電極68を成膜する。
【0111】
その後プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0112】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0113】
前記実施例は本発明の一例を示し、本発明は前記実施例の構成に限定されず、また、その技術思想の範囲内で適切に変形されてよい。
【符号の説明】
【0114】
10:基板
14:搬送ロボット
20:真空チャンバー
21:基板保有支持ユニット
22:マスク保有支持ユニット
23:冷却板
24:磁力印加手段
25:マスク台
27:制御部
28:密着度測定手段
40:磁力制御部
44:回動部(ヒンジ部)