(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-14
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/78 20060101AFI20220203BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20220203BHJP
G11B 5/735 20060101ALI20220203BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20220203BHJP
G11B 5/706 20060101ALI20220203BHJP
G11B 5/842 20060101ALN20220203BHJP
G11B 21/10 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
G11B5/78
G11B5/738
G11B5/735
G11B5/73
G11B5/706
G11B5/842 Z
G11B21/10 W
(21)【出願番号】P 2019054332
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】村田 悠人
(72)【発明者】
【氏名】笠田 成人
(72)【発明者】
【氏名】香川 裕介
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-179585(JP,A)
【文献】特開2010-238346(JP,A)
【文献】特開2009-087471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/858
G11B 21/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気テープがリールに巻装された単リール型の磁気テープカートリッジであって、
前記磁気テープは、
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有し、
テープ厚みが5.3μm以下であり、
前記磁性層は、複数のサーボバンドを有し、
テープ内側末端から50m±1mの位置のテープ幅W
innerと、テープ外側末端から50m±1mの位置のテープ幅W
outerとの差、W
inner-W
outer、が、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値として、4.1μm以上19.9μm以下であり、かつ
テープ内側末端から49m~5
1mの範囲におけるサーボバンド間隔G
innerと、テープ外側末端から49m~51mの範囲におけるサーボバンド間隔G
outerと、の差、G
inner-G
outer、が、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値として、-3.9μm以上0.0μm以下である、磁気テープカートリッジ。
【請求項2】
前記磁気テープは、テープ長手方向に100gの荷重を加えた状態で温度52℃の乾燥環境下で24時間保存した後、前記荷重の除去後20分以内に測定されるテープ幅変形率が400ppm以下であり、前記テープ幅変形率は磁気テープカートリッジ製造日から100日目に前記保存を開始して得られた値である、請求項1に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項3】
前記磁気テープは、前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を有する、請求項1または2に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項4】
前記磁気テープは、前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項5】
前記非磁性支持体は、ポリエチレンナフタレート支持体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項6】
前記非磁性支持体は、芳香族ポリアミド支持体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項7】
前記非磁性支持体は、ポリエチレンテレフタレート支持体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項8】
前記強磁性粉末は、六方晶バリウムフェライト粉末である、請求項1~7のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項9】
前記強磁性粉末は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末である、請求項1~7のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項10】
前記強磁性粉末は、ε-酸化鉄粉末である、請求項1~7のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の磁気テープカートリッジと、
磁気ヘッドと、
を含む磁気テープ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体にはテープ状のものとディスク状のものがあり、データバックアップ、アーカイブ等のデータストレージ用途には、テープ状の磁気記録媒体、即ち磁気テープが主に用いられている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
磁気テープへのデータの記録および再生は、通常、磁気テープをリールに巻装させて収容した磁気テープカートリッジを、ドライブと呼ばれる磁気テープ装置にセットし、磁気テープ装置内で磁気テープを走行させテープ表面(磁性層表面)と磁気ヘッドとを接触させ摺動させることにより行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気テープへのデータの記録は、通常、磁気テープ装置内で磁気テープを走行させ、磁気ヘッドを磁気テープのデータバンドに追従させてデータバンド上にデータを記録することにより行われる。これにより、データバンドにデータトラックが形成される。 また、記録されたデータの再生時には、磁気テープ装置内で磁気テープを走行させ、磁気ヘッドを磁気テープのデータバンドに追従させてデータバンド上に記録されたデータの読み取りを行う。以上のような再生時に磁気ヘッドがデータバンドに追従する精度が低いと、再生エラーが発生しやすくなってしまう。
【0006】
ところで、近年の情報量の莫大な増大に伴い、磁気テープには記録容量を高めること(高容量化)が求められている。高容量化のための手段としては、磁気テープの厚みを薄くし(以下、「薄型化」とも記載する。)、磁気テープカートリッジ1巻あたりに収容される磁気テープ長を増すことが挙げられる。しかし本発明者らの検討によれば、磁気テープの厚みを薄くすると、再生エラーが発生し易くなる現象が見られた。
【0007】
本発明の一態様は、磁気テープの薄型化と再生エラー発生の抑制との両立を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
磁気テープがリールに巻装された単リール型の磁気テープカートリッジであって、
上記磁気テープは、
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有し、
テープ厚みが5.3μm以下であり、
上記磁性層は、複数のサーボバンドを有し、
テープ内側末端から50m±1mの位置のテープ幅Winnerと、テープ外側末端から50m±1mの位置のテープ幅Wouterとの差(Winner-Wouter)が、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値として、4.1μm以上19.9μm以下であり、かつ
テープ内側末端から49m~51mの範囲におけるサーボバンド間隔Ginnerと、テープ外側末端から49m~51mの範囲におけるサーボバンド間隔Gouterと、の差(Ginner-Gouter)が、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値として、-3.9μm以上0.0μm以下である、磁気テープカートリッジ、
に関する。
【0009】
一態様では、上記磁気テープは、テープ長手方向に100gの荷重を加えた状態で温度52℃の乾燥環境下で24時間保存した後、上記荷重の除去後20分以内に測定されるテープ幅変形率が400ppm以下であることができる。ここで、上記テープ幅変形率は、磁気テープカートリッジ製造日から100日目に上記保存を開始して得られた値である。
【0010】
一態様では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を有することができる。
【0011】
一態様では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することができる。
【0012】
一態様では、上記非磁性支持体は、ポリエチレンナフタレート支持体であることができる。
【0013】
一態様では、上記非磁性支持体は、芳香族ポリアミド支持体であることができる。
【0014】
一態様では、上記非磁性支持体は、ポリエチレンテレフタレート支持体であることができる。
【0015】
一態様では、上記強磁性粉末は、六方晶バリウムフェライト粉末であることができる。
【0016】
一態様では、上記強磁性粉末は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末であることができる。
【0017】
一態様では、上記強磁性粉末は、ε-酸化鉄粉末であることができる。
【0018】
本発明の一態様は、上記磁気テープカートリッジと、磁気ヘッドと、を含む磁気テープ装置に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、テープ厚み5.3μm以下の薄型化された磁気テープを含む磁気テープカートリッジであって、磁気テープに記録されたデータの再生における再生エラーの発生を抑制可能な磁気テープカートリッジを提供することができる。また、本発明の一態様によれば、かかる磁気テープカートリッジを含む磁気テープ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。
【
図2】LTO(Linear Tape-Open) Ultriumフォーマットテープのサーボパターン配置例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[磁気テープカートリッジ]
本発明の一態様は、磁気テープがリールに巻装された単リール型の磁気テープカートリッジであって、上記磁気テープは、非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有し、テープ厚みが5.3μm以下であり、上記磁性層は、複数のサーボバンドを有し、テープ内側末端から50m±1mの位置のテープ幅Winnerと、テープ外側末端から50m±1mの位置のテープ幅Wouterとの差(Winner-Wouter)(以下、「テープ幅差」とも記載する。)が、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値として、4.1μm以上19.9μm以下であり、かつテープ内側末端から49m~51mの範囲におけるサーボバンド間隔Ginnerと、テープ外側末端から49m~51mの範囲におけるサーボバンド間隔Gouterとの差(Ginner-Gouter)(以下、「サーボバンド間隔差」とも記載する。)が、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値として、-3.9μm以上0.0μm以下である、磁気テープカートリッジに関する。
【0022】
磁気テープに記録されたデータを再生する際に再生エラーが発生する原因の一つとして、磁気テープへのデータの記録から再生までの間に、磁気テープの幅方向の寸法が経時的に変化することが挙げられる。磁気テープの幅方向の寸法変化については、先に示した特許文献1(特開2005-346865号公報)では、強化層を設けることにより寸法安定性を高めることが提案されている(例えば特許文献1の段落0014および段落0054参照)。この提案は、変形しにくい磁気テープを提供することを指向するものと言える。
これに対し本発明者らは、磁気テープカートリッジに収容された磁気テープの寸法変化について鋭意検討を重ねた結果、以下の新たな知見を得た。
磁気テープカートリッジは、長尺状の磁気テープ原反を規定の幅にスリットして得られた磁気テープを、磁気テープカートリッジのリールに巻き取り収容して作製される。カートリッジの構成としては、リール数が1つの単リール型と、2つのリールを有する双リール型があり、近年は単リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジ内での磁気テープの経時的な変形について本発明者らが鋭意検討を重ねる中で、リールに近い部分(内側部分)はテープ厚み方向の圧縮応力によって初期より幅広に変形し、一方リールから遠い部分(外側部分)はテープ長手方向の引っ張り応力によって初期より幅狭に変形するという現象が、薄型化された磁気テープ(具体的にはテープ厚みが5.3μm以下)において顕著に発生し、経時後に内側部分と外側部分とでテープ幅が大きく相違することが明らかとなった。その理由について、本発明者らは、磁気テープが薄型化されると、磁気テープにかかるテンションが仮に同じであっても、磁気テープの各位置にかかる圧縮応力または引張応力はより大きくなり、その結果、上記の初期より幅広または幅狭になる変形が発生しやすくなるのではないかと推察している。また、高容量化のために磁気テープが薄型化されて磁気テープカートリッジ1巻あたりに収容される磁気テープ長が長くなると、磁気テープカートリッジ内の磁気テープの巻数は多くなる。その結果、磁気テープの内側部分(リールに近い部分)はより強く圧縮されるようになると考えられ、その結果、上記の内側部分が初期より幅広に変形する現象がより顕著に発生するようになると推察される。
以上の知見に基づき本発明者らは、磁気テープがデータ記録後に経時的に上記のように内側部分と外側部分とで異なる変形を起こすことが、データが記録されたデータバンドに磁気ヘッドを追従させることを困難にし、このことが再生エラーの原因になると考えるに至った。詳しくは、サーボ信号を利用してヘッドトラッキングを行うシステム(以下、「サーボシステム」と記載する。)によって、データが記録されているデータバンドに磁気ヘッドを追従させることが、上記の変形により困難になることが、再生エラーの原因になると考えるに至った。この点に関して、サーボシステムについて以下に説明する。
【0023】
サーボシステムの中で、磁気サーボ方式のサーボシステムでは、サーボパターンを磁気テープの磁性層に形成し、このサーボパターンを磁気的に読み取って得られるサーボ信号を利用してヘッドトラッキングが行われる。サーボパターンは、通常、磁気テープを磁気テープカートリッジに収容する前に形成される。サーボ信号を利用するヘッドトラッキングは、より詳しくは、例えば、次のように行われる。
まずサーボ信号読み取り素子により、磁性層に形成されているサーボパターンを読み取る。サーボパターンを読み取ることにより得られたサーボ信号に応じて、磁気テープ装置内で、データの再生のための素子を備える磁気ヘッドの位置を制御する。これにより、磁気テープに記録されたデータを再生するために磁気テープ装置内で磁気テープを走行させる際、磁気テープの位置が変動しても、磁気ヘッドをデータバンドに追従させる精度を高めることができる。例えば、磁気テープを磁気テープ装置内で走行させてデータの再生を行う際、磁気テープの位置が磁気ヘッドに対して幅方向に変動しても、サーボシステムによりヘッドトラッキングを行うことによって、磁気テープ装置内で磁気テープの幅方向における磁気ヘッドの位置を制御することができる。こうして、磁気テープ装置において、磁気テープに記録されたデータを正確に再生することが可能となる。
【0024】
上記のサーボパターンは、通常、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成される。このようなサーボパターンが連続的に複数配置されている長手方向に沿う領域は、サーボバンドと呼ばれる。即ち、1本のサーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボパターンを含んでいる。このサーボバンドは、磁性層に複数本設けられる。隣り合う2本のサーボバンドに挟まれた領域は、データバンドと呼ばれる。即ち、隣り合う2本のサーボバンドの間の領域が、データバンドである。磁気テープへのデータの記録は、通常、磁気テープのデータバンドに磁気信号を記録することにより行われる。これにより、データバンドにデータトラックが形成される。
【0025】
以上のようなサーボバンドおよびデータバンドを有する磁気テープに記録されたデータを再生する際にエラーが発生する原因としては、サーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取って得られたサーボ信号を利用してヘッドトラッキングを行っても、データの再生のための素子(再生素子)を備えた磁気ヘッドを再生すべきデータが記録された位置に位置合わせすることができずに磁気テープ装置がエラー信号を発して停止してしまうことが挙げられる。本発明者らは、このような再生エラーが発生する原因は、磁性層にサーボパターンが形成された磁気テープが、磁気テープカートリッジ内で経時的に先に記載したように内側部分と外側部分とで異なる変形を起こす結果、データバンドを介して隣り合う2本のサーボバンドの間隔も、経時後に内側部分と外側部分とで大きく異なってしまうことにあると考えた。詳しくは、隣り合う2本のサーボバンドの間隔が、磁気テープの変形に伴い、リールに近い部分(内側部分)では広くなり、リールから遠い部分(外側部分)では狭くなるために、サーボバンドの間隔が経時後に内側部分と外側部分とで大きく異なってしまうことが、再生エラーの発生原因になると考えた。そこで本発明者らは、記録から再生までの間に磁気テープカートリッジ内の磁気テープに経時的に生じ得る変形を、予め磁気テープに発生させておけば、薄型化された磁気テープにおいて記録から再生までの間の経時で発生する上記変形に起因する再生エラーの発生を抑制することにつながると考え更に鋭意検討を重ねた。これは、変形しにくい磁気テープを提供することを指向する従来の技術思想とは明らかに異なる技術思想に基づく検討であった。その結果、本発明者らは、磁気テープカートリッジ製造日から100日目において上記のテープ幅差(Winner-Wouter)が4.1μm以上19.9μm以下となるように磁気テープに予め変形を生じさせること、更に、磁気テープカートリッジ製造日から100日目においてサーボバンド間隔差(Ginner-Gouter)が-3.9μm以上0.0μm以下となるように磁性層にサーボパターンを形成することが、テープ厚みが5.3μm以下の薄型化された磁気テープに記録された情報を再生する際の再生エラーの発生を抑制することに寄与することを見出し、上記の本発明の一態様を完成させた。磁気テープカートリッジ製造日から100日目を基準日として採用した理由は、従来の磁気テープカートリッジでは、磁気テープカートリッジ製造日から100日の時点で上記のテープ幅差(Winner-Wouter)が4.1μm以上となるほどの変形は生じないからである。
ただし以上の記載には本発明者らの推察が含まれる。また、後述の記載にも本発明者らの推察が含まれる。かかる推察に本発明は限定されるものではない。
以下、上記磁気テープカートリッジについて説明する。
【0026】
<磁気テープカートリッジの構成>
上記磁気テープカートリッジは、単リール型の磁気テープカートリッジである。単リール型の磁気テープカートリッジでは、単一のリールに磁気テープが巻装されている。磁気テープカートリッジの構成については、単リール型の磁気テープカートリッジに関する公知技術を適用できる。
【0027】
<磁気テープ>
(テープ幅差)
上記磁気テープカートリッジに含まれる磁気テープは、テープ内側末端から50m±1mの位置のテープ幅Winnerとテープ外側末端から50m±1mの位置のテープ幅Wouterとの差(Winner-Wouter)が4.1μm以上19.9μm以下である。上記のテープ幅Winnerおよびテープ幅Winnerは、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値である。
磁気テープカートリッジには、製品管理のために、製造日等の個体識別情報(ID(identification)情報)が記録されている。本発明および本明細書において、「磁気テープカートリッジ製造日」とは、磁気テープカートリッジに記録されている製造日を言うものとする。かかる情報は、通常、カートリッジ内部にあるRFID(Radio Frequency Identifier)タグに記録されており、RFIDタグを読み取ることにより、製造日(通常、「Date of Manufacturer」として記録されている日付)を認識することができる。磁気テープカートリッジ製造日から100日目のテープ幅差(Winner-Wouter)が上記範囲である磁気テープカートリッジについて、この磁気テープカートリッジに収容されている磁気テープへのデータの記録および記録されたデータの再生は、磁気テープカートリッジ製造日から100日未満のいずれかの日に行われてもよく、100日目に行われてもよく、100日を超えるいずれかの日に行われてもよい。同じ製品ロット番号が付されている磁気テープカートリッジは、通常、同一原料を用いて同一製造条件下で製造されたものであるため、磁気テープカートリッジ製造日から100日目のテープ幅差(Winner-Wouter)は同じ値になるとみなすことができる。以上の点は、サーボバンド間隔差等の後述の各種物性についても同様である。
また、テープ幅差、サーボバンド間隔差等の各種物性が測定される磁気テープの一部としては、スプライシングテープ等の接合手段によって、データの記録および/または再生が行われる領域と接合されている部分は考慮されないものとする。例えば、磁気テープカートリッジからの磁気テープの引き出しおよび巻き取りのために、磁気テープのテープ外側末端にリーダーテープが接合される場合がある。かかる場合、テープ幅差、サーボバンド間隔差等の各種物性が測定される磁気テープの一部としては、リーダーテープは考慮されないものとする。したがって、リーダーテープが接合されている場合には、磁気テープのテープ外側末端は、リーダーテープが接合されている側の磁気テープの末端である。
【0028】
上記のテープ外側末端は、リールに巻装された磁気テープの両端部のうちリールから最も遠い端部であり、テープ外側末端から50m±1mの位置のテープ幅Wouterは、経時的にテンションが強くかかり、何ら対策を施さなければ初期より幅狭に大きく変形する部分のテープ幅を代表している。一方、上記のテープ内側末端は、リールへの巻き取りの起点の端部であり、テープ内側末端から50m±1mの位置のテープ幅Winnerは、経時的に強く圧縮されて、何ら対策を施さなければ初期より幅広に大きく変形する部分のテープ幅を代表している。
磁気テープカートリッジは、長尺状の磁気テープ原反を規定の幅にスリットして得られた磁気テープをリールに巻き取り磁気テープカートリッジ内に収容して作製される。上記の規定の幅は、通常、1/2インチ(1インチは0.0254メートル)であり、スリットされた磁気テープの幅は各位置で等幅である。等幅について、スリット工程において通常生じ得る製造誤差は許容されるものとする。これに対し、先に記載したように、記録から再生までの間に磁気テープは経時的に位置によって異なる変形を起こすと考えられる。しかし、従来の磁気テープカートリッジでは、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の時点では、上記のテープ幅Winnerとテープ幅Wouterとのテープ幅差(Winner-Wouter)が4.1μm以上となるような変形は生じない。これに対し、磁気テープカートリッジ製造日から100日目においてテープ幅差(Winner-Wouter)が4.1μm以上となるような変形を予め生じさせておくことは、記録から再生までの間に磁気テープが経時的に上記のように位置によって異なる変形を起こすことに起因する再生エラーの発生を抑制することに寄与すると考えられる。他方、データが記録される前の磁気テープにおいて内側部分と外側部分とのテープ幅差が大きすぎると、記録時にエラーが発生し易くなる。これに対し、磁気テープカートリッジ製造日から100日目においてテープ幅差(Winner-Wouter)が19.9μm以下であることは、磁気テープカートリッジに収容されている磁気テープの全長にわたって、データの記録を容易に行うことに寄与し得る。再生エラーの発生をより一層抑制する観点からは、テープ幅差(Winner-Wouter)は、4.5μm以上であることが好ましく、5.0μm以上であることがより好ましく、5.5μm以上であることが更に好ましい。一方、記録時のエラーの発生をより一層抑制する観点からは、テープ幅差(Winner-Wouter)は、19.5μm以下であることが好ましく、19.0μm以下であることがより好ましく、18.5μm以下であることが更に好ましい。
【0029】
上記のテープ幅差は、以下の方法によって求められる値である。以下の操作および測定は、温度20~25℃および相対湿度40~60%の環境において行われる。
磁気テープカートリッジ製造日から100日目の磁気テープカートリッジから、リールに巻装された磁気テープを取り出し、テープ外側末端から50m±1mの位置を含む長さ20cmのテープサンプル、およびテープ内側末端から50m±1mの位置を含む長さ20cmのテープサンプルを切り出す。各テープサンプルのテープ幅を、カールの影響を除去するために板状部材(例えばスライドガラス)に挟み込んだ状態でテープサンプルの長手方向中央部において測定する。テープ幅の測定は、0.1μmオーダーの精度での寸法測定が可能な公知の測定器を用いて行うことができる。また、測定は、磁気テープカートリッジから磁気テープを取り出した後20分以内に行う。上記の各テープサンプルにおいて、テープ幅はそれぞれ7回測定し(N=7)、7回の測定で得られた測定値の中の最大値および最小値を除いた5つの測定値の算術平均を求める。磁気テープカートリッジに収容されていた磁気テープの全長が950mの場合には、こうして求められた算術平均を、各位置のテープ幅(テープ幅Winnerまたはテープ幅Wouter)とする。一方、磁気テープカートリッジに収容されていた磁気テープの全長が950m以外の長さの場合には、磁気テープ全長をL1(単位:m)、上記で求められた算術平均をW1として、下記式:
W=(950/L1)×W1
により求められるWを、各位置のテープ幅(テープ幅Winnerまたはテープ幅Wouter)とする。テープ幅差(Winner
-Wouter)は、熱処理を行うことにより制御することができる。熱処理について詳細は後述する。
【0030】
(テープ幅変形率)
上記のように磁気テープカートリッジ製造日から100日目のテープ幅差(Winner-Wouter)が4.1μm以上19.9μm以下の磁気テープは、好ましくは、以下の方法により求められるテープ幅変形率が400ppm(parts per million)以下であることができ、390ppm以下であることがより好ましく、380ppm以下であることが更に好ましく、370ppm以下であることが一層好ましく、360ppm以下であることがより一層好ましく、350ppm以下であることがより一層好ましい。上記テープ幅変形率は、例えば、10ppm以上であることができ、100ppm以上、150ppm以上、200ppm以上または250ppm以上であることもできる。上記テープ幅変形率が小さいほど、磁気テープへのデータの記録から再生までの間の磁気テープの幅方向の寸法変化は小さいと考えられる。したがって、記録から再生までの間のテープ幅の変化に起因する再生エラーの発生をより一層抑制する観点からは、上記磁気テープ幅変形率は小さいほど好ましく、0ppmであってもよい。上記テープ幅変形率も、詳細を後述する熱処理によって制御することができる。
【0031】
上記テープ幅変形率は、以下の方法によって求められる値である。以下の操作および測定は、下記の保存以外、温度20~25℃および相対湿度40~60%の環境において行われる。
磁気テープカートリッジ製造日から100日目の磁気テープカートリッジから、リールに巻装された磁気テープを取り出し、テープ外側末端から10m±1mの位置を含む長さ20cmのテープサンプルを切り出し、上記方法によりテープ幅を求める。このテープ幅を、保存前テープ幅とする。この保存前テープ幅は、上記のテープ幅差を求めるために用いるテープサンプルと同じ磁気テープから、テープ外側末端から10m±1mの位置を含むように切り出したテープサンプルについて求められた値とする。
上記の保存前テープ幅を求めた長さ20cmのテープサンプルを、このテープサンプルの一方の端部を保持し他方の端部に100gの重りを吊るすことによりテープ長手方向に100gの荷重を負荷した状態で、温度52℃の乾燥環境下で24時間保存する。乾燥環境とは、相対湿度10%以下の環境である。上記保存は、磁気テープカートリッジ製造日から100日目に開始される。上記保存後、荷重の除去後20分以内に、上記方法と同様にテープ幅(7回測定で得られた測定値の中の最大値および最小値を除いた5つの測定値の算術平均)を求める。このテープ幅を、保存後テープ幅とする。
保存前後のテープ幅の差(保存前テープ幅-保存後テープ幅)を保存前テープ幅で除した値×106(単位:ppm)を、テープ幅変形率とする。
【0032】
(サーボバンド間隔差)
上記磁気テープカートリッジに含まれる磁気テープの磁性層は、複数のサーボバンドを有する。隣り合う2本のサーボバンドの間の領域が、データバンドである。サーボバンドおよびデータバンドの配置例については、後述する。そして、上記磁気テープにおいて、テープ内側末端から49m~51mの範囲におけるサーボバンド間隔Ginnerとテープ外側末端から49m~51mの範囲におけるサーボバンド間隔Gouterとの差(Ginner-Gouter)、即ちサーボバンド間隔差は、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値として、-3.9μm以上0.0μm以下である。以下、この点について更に説明する。
上記のテープ外側末端は、リールに巻装された磁気テープの両端部のうちリールから最も遠い端部であり、テープ外側末端から49m~51mの範囲におけるサーボバンド間隔Gouterは、経時的にテンションが強くかかり、何ら対策を施さなければ初期より幅狭に大きく変形する部分のサーボバンド間隔の値を代表している。テープ外側末端から49m~51mの範囲とは、テープ外側末端から49mの位置からテープ外側末端から51mの位置までの範囲である。一方、上記のテープ内側末端は、リールへの巻き取りの起点の端部であり、テープ内側末端から49m~51mの範囲におけるサーボバンド間隔Ginnerは、経時的に強く圧縮されて、何ら対策を施さなければ初期より幅広に大きく変形する部分のサーボバンド間隔の値を代表している。テープ内側末端から49m~51mの範囲とは、テープ内側末端から49mの位置からテープ内側末端から51mの位置までの範囲である。
上記のテープ幅差(Winner-Wouter)は、例えば、詳細を後述する熱処理を行うことによって磁気テープを内側部分が外側部分より幅広になるように予め変形させることにより、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値として、4.1μm以上19.9μm以下の範囲に制御することができる。例えば、このように内側部分が外側部分より幅広になるように熱処理が施される磁気テープの磁性層に既にサーボパターンが形成されていると、熱処理での磁気テープの変形に伴い、サーボバンド間隔も内側部分が外側部分より広くなり、内側部分のサーボバンド間隔と外側部分のサーボバンド間隔が大きく相違することになると推察される。例えばこうして、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値として、内側部分のサーボバンド間隔と外側部分のサーボバンド間隔が大きく相違してしまうことも、再生エラーの発生の一因になると考えられる。これに対し、例えば、詳細を後述する熱処理を施した後に磁気テープにサーボパターンを形成する等の手段を採用することによって、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値として、上記テープ幅差(Winner-Wouter)を示す磁気テープのサーボバンド間隔差(Ginner-Gouter)を、-3.9μm以上0.0μm以下の範囲に制御することができる。このことも、再生エラーの発生を抑制することに寄与し得る。上記のサーボバンド間隔差(Ginner-Gouter)が0.0μmであることは、内側部分と外側部分とでサーボバンド間隔が同様であることを示す。また、上記のサーボバンド間隔差(Ginner-Gouter)がマイナスの値であることは、内側部分のサーボバンド間隔が、外側部分のサーボバンド間隔より狭いことを意味する。これは、先に説明した磁気テープに経時的に変形が発生した後の変形(内側部分が外側部分より幅広)と逆である。磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値としてサーボバンド間隔差(Ginner-Gouter)が0.0μm以下となるようにサーボパターンを形成しておけば、データの記録から再生までの間に磁気テープの内側部分のテープ幅が外側部分のテープ幅より多少広がったとしても、再生時に内側部分と外側部分とでサーボバンド間隔が大きく異なることに起因して再生エラーが発生することを抑制することができると推察される。再生エラーの発生をより一層抑制する観点からは、上記サーボバンド間隔差(Ginner-Gouter)は、一態様では0.0μmであることも好ましく、また一態様では-0.1μm以下、-0.5μm以下または-1.0μm以下であることも好ましい。また、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値としてサーボバンド間隔差(Ginner-Gouter)が-3.9μm以上となるようにサーボパターンを形成しておくことは、記録時にエラーが発生し易くなることを抑制することに寄与し得る。記録時のエラーの発生をより一層抑制する観点からは、上記サーボバンド間隔差(Ginner-Gouter)は、-3.5μm以上であることが好ましく、-3.0μm以上であることがより好ましい。
【0033】
サーボバンド間隔差は、磁気テープカートリッジ製造日から100日目に、テープ内側末端から49m~51mの範囲におけるサーボバンド間隔Ginnerとテープ外側末端から49m~51mの範囲におけるサーボバンド間隔Gouterとの差(Ginner-Gouter)として求められる。サーボバンド間隔差は、温度23℃±1℃かつ相対湿度50%±5%の環境下で求めるものとする。サーボバンド間隔Ginnerは、テープ内側末端から49m~51mの範囲において、データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドの間隔を1 LPOS(Longitudinal Position)ワード毎に求め、テープ内側末端から49m~51mの範囲の長手方向にわたる全範囲かつサーボバンド間隔が複数存在する場合には全サーボバンド間隔について求められた全LPOSワードについてのサーボバンド間隔の算術平均として求められる値とする。サーボバンド間隔Gouterは、テープ外側末端から49m~51mの範囲において、データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドの間隔を1 LPOSワード毎に求め、テープ外側末端から49m~51mの範囲の長手方向にわたる全範囲かつサーボバンド間隔が複数存在する場合には全サーボバンド間隔について求められた全LPOSワードについてのサーボバンド間隔の算術平均として求められる値とする。データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドの間隔は、例えば、サーボ信号読み取り素子によってサーボパターンを読み取って得られるサーボ信号から求められるPES(Position Error Signal)を用いて求めることができる。詳細については、後述の実施例の記載を参照できる。サーボバンドの間隔の数は、データバンドの本数と同じである。磁気テープには、通常、サーボバンドが3本以上設けられるため、サーボバンドの間隔の数は、通常、2つ以上である。例えば、サーボバンドを5本有する磁気テープでは、データバンドを挟んで隣り合うサーボバンド間隔の数は、4つである。上記範囲のサーボバンド間隔差を有する磁気テープを製造するための方法については、後述する。
【0034】
(テープ厚み)
上記磁気テープの厚み(総厚)は、5.3μm以下である。磁気テープの薄型化は、高容量化につながるため好ましい。しかし、厚み5.3μm以下に薄型化された磁気テープは、何ら対策を施さない場合には磁気テープカートリッジ内で先に記載したように内側部分と外側部分とが経時的に異なる変形を生じる傾向があり、このことが再生エラーの発生の原因になると本発明者らは考えている。これに対し、サーボバンド間隔差が上記範囲であれば、テープ厚みが5.3μm以下の薄型化された磁気テープに磁気テープカートリッジ内で上記変形が生じても、再生エラーの発生を抑制することが可能になる。より一層の高容量化の観点からは、磁気テープの厚みは、5.2μm以下であることが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましく、4.8μm以下であることが更に好ましい。また、ハンドリングの容易性の観点からは、磁気テープの厚みは3.0μm以上であることが好ましく、3.5μm以上であることがより好ましい。
【0035】
上記テープ厚みは、以下の方法により求められる値である。
磁気テープカートリッジ製造日から100日目の磁気テープカートリッジから、リールに巻装された磁気テープを取り出し、この磁気テープの任意の部分からテープサンプル(例えば長さ5~10cm)を10枚切り出し、これらテープサンプルを重ねて厚みを測定する。測定された厚みを10分の1して得られた値(テープサンプル1枚当たりの厚み)を、テープ厚みとする。上記厚み測定は、0.1μmオーダーでの厚み測定が可能な公知の測定器を用いて行うことができる。このテープ厚みは、上記のテープ幅差(Winner-Wouter)および/またはテープ幅変形率を求めるために用いた磁気テープを用いて求めてもよく、上記のテープ幅差(Winner-Wouter)および/またはテープ幅変形率を求めるために用いた磁気テープが収容されていた磁気テープカートリッジと同じ製品ロット番号が付されている磁気テープカートリッジから取り出した磁気テープを用いて求めてもよい。
また、磁性層の厚み等の各種厚みは、以下の方法により求めることができる。
磁気テープの厚み方向の断面を、イオンビームにより露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡による断面観察を行う。断面観察において任意の2箇所において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各種厚みは、製造条件等から算出される設計厚みとして求めることもできる。
【0036】
以下、上記磁気テープカートリッジに含まれる磁気テープについて、更に詳細に説明する。
【0037】
(非磁性支持体)
上記磁気テープは、少なくとも非磁性支持体および磁性層を有する。非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、ポリエチレンナフタレート支持体、ポリアミド支持体、ポリエチレンテレフタレート支持体、ポリアミドイミド支持体等が挙げられる。これら支持体は、市販品として入手可能であるか、または公知の方法により製造することができる。支持体としては、強度、可撓性等の観点から、ポリエチレンナフタレート支持体、ポリアミド支持体およびポリエチレンテレフタレート支持体が好ましい。ポリエチレンナフタレート支持体とは、少なくともポリエチレンナフタレート層を含む支持体を意味し、単層または二層以上のポリエチレンナフタレート層からなるものとポリエチレンナフタレート層に加えて一層以上の他の層を含むものとが包含される。この点は、他の支持体についても同様である。また、ポリアミドは、芳香族骨格および/または脂肪族骨格を含むものであることができ、芳香族骨格を含むポリアミド(芳香族ポリアミド)が好ましく、アラミドがより好ましい。支持体は、二軸延伸されたものであることができる。支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等を行ってもよい。
【0038】
(磁性層)
強磁性粉末
磁性層は、強磁性粉末を含む。磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気記録媒体の磁性層において用いられる強磁性粉末として公知の強磁性粉末を一種または二種以上組み合わせて使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
【0039】
-六方晶フェライト粉末-
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、特開2012-204726号公報の段落0013~0030および特開2015-127985号公報の段落0029~0084を参照できる。
【0040】
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライト型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライト型の結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライト型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライト型の結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0041】
以下に、六方晶フェライト粉末の一態様である六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
【0042】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化された六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800nm3以上であり、例えば850nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
【0043】
「活性化体積」とは、磁化反転の単位であって、粒子の磁気的な大きさを示す指標である。本発明および本明細書に記載の活性化体積および後述の異方性定数Kuは、振動試料型磁力計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで測定し(測定温度:23℃±1℃)、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。なお異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10-1J/m3である。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2}
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m3)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm3)、A:スピン歳差周波数(単位:s-1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
【0044】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×105J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×105J/m3以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0045】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5~5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本発明および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する。)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する。)と、
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
【0046】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5~5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気テープの走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5~4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0~4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5~4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
【0047】
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。なお本発明および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として一種の希土類原子のみ含んでもよく、二種以上の希土類原子を含んでもよい。二種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率とは、二種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本発明および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、一種のみ用いてもよく、二種以上用いてもよい。二種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、二種以上の合計についていうものとする。
【0048】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか一種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
【0049】
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
【0050】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気テープの磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015-91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10~20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
【0051】
磁気テープに記録された情報を再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m2/kg以上であることができ、47A・m2/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m2/kg以下であることが好ましく、60A・m2/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本発明および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度1194kA/m(15kOe)で測定される値とする。
【0052】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0~15.0原子%の範囲であることができる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて一種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05~5.0原子%の範囲であることができる。
【0053】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または二種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe12O19の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5~10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下をより一層抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0~5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
【0054】
-金属粉末-
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0137~0141および特開2005-251351号公報の段落0009~0023を参照できる。
【0055】
-ε-酸化鉄粉末-
強磁性粉末の好ましい具体例としては、ε-酸化鉄粉末を挙げることもできる。本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄型の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁気テープの磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
【0056】
ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化されたε-酸化鉄粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300nm3以上であり、例えば500nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
【0057】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。ε-酸化鉄粉末は、好ましくは3.0×104J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは8.0×104J/m3以上のKuを有することができる。また、ε-酸化鉄粉末のKuは、例えば3.0×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し、好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0058】
磁気テープに記録された情報を再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、一態様では、ε-酸化鉄粉末のσsは、8A・m2/kg以上であることができ、12A・m2/kg以上であることもできる。一方、ε-酸化鉄粉末のσsは、ノイズ低減の観点からは、40A・m2/kg以下であることが好ましく、35A・m2/kg以下であることがより好ましい。
【0059】
本発明および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントするか、ディスプレイに表示する等して、粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0060】
粒子サイズ測定のために磁気テープから試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0061】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0062】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0063】
磁性層における強磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層は、強磁性粉末を含み、結合剤を含むことができ、任意に一種以上の更なる添加剤を含むこともできる。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0064】
結合剤、硬化剤
上記磁気テープは塗布型磁気テープであることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤は、一種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。
以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、下記測定条件により測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。後述の実施例に示す結合剤の重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。
GPC装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0065】
また、結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。磁性層形成用組成物の硬化剤の含有量は、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部であることができ、磁性層の強度向上の観点からは50.0~80.0質量部であることができる。
【0066】
添加剤
磁性層には、必要に応じて一種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末(例えば無機粉末、カーボンブラック等)、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。例えば、潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0033、0035および0036を参照できる。後述する非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0031、0034、0035および0036を参照できる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。また、磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(例えば非磁性コロイド粒子等)等が挙げられる。なお後述の実施例に示すコロイダルシリカ(シリカコロイド粒子)の平均粒子サイズは、特開2011-048878号公報の段落0015に平均粒径の測定方法として記載されている方法により求められた値である。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。研磨剤を含む磁性層に研磨剤の分散性を向させるために使用され得る添加剤の一例としては、特開2013-131285号公報の段落0012~0022に記載の分散剤を挙げることができる。
【0067】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
【0068】
(非磁性層)
次に非磁性層について説明する。上記磁気テープは、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体表面上に非磁性粉末を含む非磁性層を介して磁性層を有していてもよい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機粉末でも有機粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010-24113号公報の段落0040~0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0069】
非磁性層は、非磁性粉末および結合剤を含む層であることができ、一種以上の添加剤を更に含むことができる。非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0070】
本発明および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が100Oe以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が100Oe以下である層をいうものとする。1[kOe]=106/4π[A/m]である。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0071】
(バックコート層)
上記磁気テープは、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することもできる。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末のいずれか一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層は、非磁性粉末および結合剤を含む層であることができ、一種以上の添加剤を更に含むことができる。バックコート層の結合剤および任意に含まれ得る各種添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0072】
(各種厚み)
上記磁気テープの厚み(総厚)については、先に記載した通りである。
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.0~5.0μmである。
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等により最適化することができ、一般には0.01μm~0.15μmであり、高密度記録化の観点から、好ましくは0.02μm~0.12μmであり、更に好ましくは0.03μm~0.1μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。二層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
非磁性層の厚みは、例えば0.1~1.5μmであり、0.1~1.0μmであることが好ましい。
バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1~0.7μmが更に好ましい。
【0073】
<製造工程>
(サーボパターンが形成される磁気テープの製造工程)
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含む。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の一種または二種以上を用いることができる。溶媒については、例えば特開2011-216149号公報の段落0153を参照できる。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、結合剤を混練工程、分散工程および分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気テープを製造するためには、公知の製造技術を各種工程において用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。混練処理の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報を参照できる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を調製する任意の段階において、公知の方法によってろ過を行ってもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0074】
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体表面上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の非磁性層および/または磁性層を有する(または非磁性層および/または磁性層が追って設けられる)表面とは反対側の表面に塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010-231843号公報の段落0066を参照できる。
【0075】
磁気テープの製造のためのその他の各種工程については、公知技術を適用できる。各種工程については、例えば特開2010-231843号公報の段落0067~0070を参照できる。配向処理を行う態様では、磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤状態にあるうちに、配向ゾーンにおいて塗布層に対して配向処理が行われる。配向処理については、特開2010-24113号公報の段落0052の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。
各種工程を経ることによって、長尺状の磁気テープ原反を得ることができる。得られた磁気テープ原反は、公知の裁断機によって、磁気テープカートリッジに巻装すべき磁気テープの幅に裁断(スリット)される。上記の幅は規格にしたがい決定され、通常、1/2インチである。
【0076】
先に記載したように、記録から再生までの間に磁気テープカートリッジ内で経時的に生じ得る変形を予め発生させておくことにより、テープ幅差(Winner-Wouter)を上記範囲内に制御することができる。そのためには、上記の幅に裁断された磁気テープを、芯状部材に巻き付け、巻き付けた状態で熱処理することが好ましい。この熱処理により、記録から再生までの間に磁気テープカートリッジ内でリールに巻かれた磁気テープに経時的に生じ得る変形を予め発生させることができる。先に記載した理由から、サーボパターンの形成は、かかる熱処理後に行うことが、上記サーボバンド間隔差を上記範囲内に制御するために好ましい。
【0077】
一態様では、熱処理用の芯状部材(以下、「熱処理用巻芯」と呼ぶ。)に磁気テープを巻き付けた状態で上記熱処理を行い、熱処理後の磁気テープを、サーボパターンを形成した後に磁気テープカートリッジのリールに巻き取り、磁気テープがリールに巻装された磁気テープカートリッジを作製することができる。
熱処理用巻芯は、金属製、樹脂製、紙製等であることができる。熱処理用巻芯の材料は、スポーキング等の巻き故障の発生を抑制する観点から、剛性が高い材料であることが好ましい。この点から、熱処理用巻芯は、金属製または樹脂製であることが好ましい。また、剛性の指標として、熱処理用巻芯の材料の曲げ弾性率は0.2GPa以上が好ましく、0.3GPa以上がより好ましい。他方、高剛性の材料は一般に高価であるため、巻き故障の発生を抑制できる剛性を超える剛性を有する材料の熱処理用巻芯を用いることはコスト増につながる。以上の点を考慮すると、熱処理用巻芯の材料の曲げ弾性率は250GPa以下が好ましい。曲げ弾性率は、ISO(International Organization for Standardization)178にしたがい測定される値であり、各種材料の曲げ弾性率は公知である。また、熱処理用巻芯は中実または中空の芯状部材であることができる。中空状の場合、剛性を維持する観点から、肉厚は2mm以上であることが好ましい。また、熱処理用巻芯は、フランジを有していてもよく、有さなくてもよい。
熱処理用巻芯に巻き付ける磁気テープとして最終的に磁気テープカートリッジに収容する長さ(以下、「最終製品長」と呼ぶ。)以上の磁気テープを準備し、この磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態で熱処理環境下に置くことにより熱処理を行うことが好ましい。熱処理用巻芯に巻き付ける磁気テープ長は最終製品長以上であり、熱処理用巻芯等への巻き取りの容易性の観点からは、「最終製品長さ+α」とすることが好ましい。このαは、上記の巻き取りの容易性の観点からは5m以上であることが好ましい。熱処理用巻芯への巻き取り時のテンションは、巻き取りの容易性、熱処理によりテープ幅差(Winner-Wouter)を調整する容易性および製造適性の観点から、0.1N(ニュートン)以上が好ましい。また、過度な変形が発生することを抑制する観点から、熱処理用巻芯への巻き取り時のテンションは1.5N以下が好ましく、1.0N以下がより好ましい。熱処理用巻芯の外径は、巻き付けの容易性およびコイリング(長手方向のカール)の抑制の観点から、20mm以上が好ましく、40mm以上がより好ましい。一方、テープ幅差(Winner-Wouter)を上記範囲内に調整する容易性の観点からは、熱処理用巻芯の外径は100mm以下が好ましく、90mm以下がより好ましい。熱処理用巻芯の幅は、この巻芯に巻き付ける磁気テープの幅以上であればよい。また、熱処理後、熱処理用巻芯から磁気テープを取り外す際には、取り外す操作中に意図しないテープ変形が生じることを抑制するために、磁気テープおよび熱処理用巻芯が十分冷却された後に磁気テープを熱処理用巻芯から取り外すことが好ましい。取り外した磁気テープは、サーボパターンを形成した後に、一度別の巻芯(「一時巻き取り用巻芯」と呼ぶ。)に巻き取り、磁気テープカートリッジのリール(一般に外径は40~50mm程度)へ巻き取ることが好ましい。これにより、熱処理時の磁気テープの熱処理用巻芯に対する内側と外側との関係を維持して、磁気テープカートリッジのリールへ磁気テープを巻き取ることができる。一時巻き取り用巻芯の詳細およびこの巻芯へ磁気テープを巻き取る際のテンションについては、熱処理用巻芯に関する上記記載を参照できる。上記熱処理を「最終製品長さ+α」の長さの磁気テープに施す態様においては、任意の段階で、「+α」の長さ分を切り取ればよい。例えば、一態様では、一時巻き取り用巻芯から磁気テープカートリッジのリールへ最終製品長さ分の磁気テープを巻き取り、残りの「+α」の長さ分を切り取ればよい。切り取って廃棄される部分を少なくする観点からは、上記αは20m以下であることが好ましい。
【0078】
上記のように芯状部材に巻き付けた状態で行われる熱処理の具体的態様について、以下に説明する。
熱処理を行う雰囲気温度(以下、「熱処理温度」と呼ぶ。)は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。一方、過度な変形を抑制する観点からは、熱処理温度は75℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、65℃以下が更に好ましい。
熱処理を行う雰囲気の重量絶対湿度は、0.1g/kg Dry air以上が好ましく、1g/kg Dry air以上がより好ましい。重量絶対湿度が上記範囲の雰囲気は、水分を低減するための特殊な装置を用いずに準備できるため好ましい。一方、重量絶対湿度は、結露が生じて作業性が低下することを抑制する観点からは、70g/kg Dry air以下が好ましく、66g/kg Dry air以下がより好ましい。熱処理時間は、0.3時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。また、熱処理時間は、生産効率の観点からは、48時間以下が好ましい。
【0079】
以上説明したように熱処理を行うことによって、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値としてテープ幅差(Winner-Wouter)を4.1μm以上19.9μm以下の範囲に制御することができる。上記熱処理が行われた磁気テープのテープ幅は、テープ外側末端から内側末端に向かって徐々に広くなることが通常である。したがって、テープ幅Wouterの測定位置とテープ幅Winnerの測定位置の間の任意の位置から採取したテープサンプルについてテープ幅を測定すると、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値として、テープ幅Wouter超テープ幅Winner未満の値となることが通常であり、テープ幅Winnerの測定位置により近いほどテープ幅がより広くなることが通常である。
【0080】
(サーボパターンの形成)
上記のように製造された磁気テープには、好ましくは上記熱処理後に、サーボパターンが形成される。「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。以下に、サーボパターンの形成について説明する。
【0081】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0082】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319(June 2001)に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。本発明および本明細書において、「タイミングベースサーボパターン」とは、タイミングベースサーボ方式のサーボシステムにおけるヘッドトラッキングを可能とするサーボパターンをいう。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0083】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボパターンにより構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域が、データバンドである。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0084】
また、一態様では、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0085】
なお、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319(June 2001)に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0086】
また、各サーボバンドには、ECMA―319(June 2001)に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0087】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0088】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。一態様では、上記熱処理後に磁気テープを走行させながらサーボライトヘッドによりサーボパターンを形成する際にテープ長手方向に掛かる張力を一定に維持することによって、内側部分と外側部分とでサーボバンド間隔が同様のサーボパターンを形成することができる。また、一態様では、上記張力をサーボパターンの形成中に変化させることによって、内側部分と外側部分とでサーボバンド間隔を変えることができる。サーボパターン形成時にテープ長手方向に掛かる張力が大きいほどテープ幅方向のテープ収縮量は大きくなるため、内側部分にサーボパターンを形成する際にテープ長手方向に掛かる張力を小さくし、外側部分にサーボパターンを形成する際にテープ長手方向に掛かる張力を大きくすることにより、隣り合う2本のサーボバンドの間隔を、磁気テープカートリッジ内で経時的に磁気テープに生じ得る変形とは逆に、内側部分では狭く、外側部分では広くすることができる。また、サーボパターンを形成する際にテープ長手方向に掛かる張力は、連続的または段階的に大きくなるようにまたは小さくなるように、変化させることができる。上記サーボバンド間隔差がマイナスの値を取る場合(即ち、内側部分におけるサーボバンド間隔が外側部分におけるサーボバンド間隔より狭い場合)、テープ外側末端から51mの位置とテープ内側末端から51mの位置の間の部分では、隣り合う2本のサーボバンドの間隔は、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値として、Gouterより小さく、Ginnerより大きく、テープ内側末端により近いほど、より小さくなることが通常である。上記張力は、サーボパターン形成工程において磁気テープに不可逆なテープ幅変形が生じることを防ぐ観点からは、1.5N(ニュートン)以下とすることが好ましく、1.0N以下とすることがより好ましい。また、上記張力は、サーボパターン形成工程において磁気テープの走行および巻き取りを安定に行う観点からは、0.1N以上であることが好ましい。したがって、サーボパターン形成時に磁気テープの長手方向に掛ける張力は、上記範囲内で一定に維持するか、または上記範囲内で変化させることが好ましい。
【0089】
サーボライトヘッドは、通常、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。隣り合う2つのギャップの間隔は、一定に維持することができる。または、隣り合う2つのギャップの間隔を、磁気テープの内側部分にサーボパターンを形成する際と外側部分にサーボパターンを形成する際とで変えることによって、内側部分と外側部分とでサーボバンド間隔を変えることができる。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1~10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0090】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0091】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。なお、特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0092】
サーボパターンが形成された磁気テープは、磁気テープカートリッジに収容され、磁気テープカートリッジが磁気テープ装置に装着されて、磁気テープへのデータの記録および/または記録されたデータの再生が行われる。
【0093】
[磁気テープ装置]
本発明の一態様は、上記磁気テープカートリッジと、磁気ヘッドと、を含む磁気テープ装置に関する。
【0094】
本発明および本明細書において、「磁気テープ装置」とは、磁気テープへのデータの記録および磁気テープに記録されたデータの再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気テープ装置は、摺動型の磁気テープ装置であることができる。摺動型の磁気テープ装置とは、磁気テープへのデータの記録および/または記録されたデータの再生を行う際に磁性層表面と磁気ヘッドとが接触し摺動する装置をいう。
【0095】
上記磁気テープ装置に含まれる磁気ヘッドは、磁気テープへのデータの記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気テープに記録されたデータの再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気テープ装置は、一態様では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一態様では、上記磁気テープ装置に含まれる磁気ヘッドは、データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。以下において、データの記録のための素子および再生のための素子を、「データ用素子」と総称する。再生ヘッドとしては、磁気テープに記録されたデータを感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、AMR(Anisotropic Magnetoresistive)ヘッド、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等の公知の各種MRヘッドを用いることができる。また、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドには、サーボ信号読み取り素子が含まれていてもよい。または、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボ信号読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気テープ装置に含まれていてもよい。例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッド(以下、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ。)は、サーボ信号読み取り素子を2つ含むことができ、2つのサーボ信号読み取り素子のそれぞれが、データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドを同時に読み取ることができる。2つのサーボ信号読み取り素子の間に、1つまたは複数のデータ用素子を配置することができる。
【0096】
上記磁気テープ装置において、磁気テープへのデータの記録および/または磁気テープに記録されたデータの再生は、磁気テープの磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。上記磁気テープ装置は、本発明の一態様にかかる磁気テープカートリッジを含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【0097】
データの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボ信号を用いたトラッキングが行われる。すなわち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、データ用素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御される。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【0098】
図1に、データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。
図1中、磁気テープMTの磁性層には、複数のサーボバンド1が、ガイドバンド3に挟まれて配置されている。2本のサーボバンドに挟まれた複数の領域2が、データバンドである。サーボパターンは、磁化領域であって、サーボライトヘッドにより磁性層の特定の領域を磁化することによって形成される。サーボライトヘッドにより磁化する領域(サーボパターンを形成する位置)は規格により定められている。例えば業界標準規格であるLTO Ultriumフォーマットテープには、磁気テープ製造時に、
図2に示すようにテープ幅方向に対して傾斜した複数のサーボパターンが、サーボバンド上に形成される。詳しくは、
図2中、サーボバンド1上のサーボフレームSFは、サーボサブフレーム1(SSF1)およびサーボサブフレーム2(SSF2)から構成される。サーボサブフレーム1は、Aバースト(
図2中、符号A)およびBバースト(
図2中、符号B)から構成される。AバーストはサーボパターンA1~A5から構成され、BバーストはサーボパターンB1~B5から構成される。一方、サーボサブフレーム2は、Cバースト(
図2中、符号C)およびDバースト(
図2中、符号D)から構成される。CバーストはサーボパターンC1~C4から構成され、DバーストはサーボパターンD1~D4から構成される。このような18本のサーボパターンが5本と4本のセットで、5、5、4、4、の配列で並べられたサブフレームに配置され、サーボフレームを識別するために用いられる。
図2には、説明のために1つのサーボフレームを示した。ただし、実際には、タイミングベースサーボ方式のヘッドトラッキングが行われる磁気テープの磁性層には、各サーボバンドに、複数のサーボフレームが走行方向に配置されている。
図2中、矢印は走行方向を示している。例えば、LTO Ultriumフォーマットテープは、通常、磁性層の各サーボバンドに、テープ長1mあたり5000以上のサーボフレームを有する。
【0099】
上記磁気テープ装置は、本発明の一態様にかかる磁気テープカートリッジを含む。したがって、磁気テープに記録されたデータを再生する際にエラーが発生することを抑制することができる。
【実施例】
【0100】
以下に、本発明の一態様を実施例に基づき説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」の表示は、特に断らない限り、「質量部」、「質量%」を示す。「eq」は、当量( equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。
また、以下の各種工程および操作は、特記しない限り、温度20~25℃および相対湿度40~60%の環境において行った。
【0101】
表1中、「BaFe」は六方晶バリウムフェライト粉末を示し、「SrFe1」および「SrFe2」は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を示し、「ε-酸化鉄」はε-酸化鉄粉末を示し、「PEN」はポリエチレンナフタレート支持体を示し、「PA」は芳香族ポリアミド支持体を示し、「PET」はポリエチレンテレフタレート支持体を示す。
【0102】
[実施例1]
(1)アルミナ分散物の調製
アルファ化率約65%、BET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積20m2/gのアルミナ粉末(住友化学社製HIT-80)100.0部に対し、3.0部の2,3-ジヒドロキシナフタレン(東京化成社製)、極性基としてSO3Na基を有するポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR-4800(極性基量:80meq/kg))の32%溶液(溶媒はメチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒)を31.3部、溶媒としてメチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1(質量比)の混合溶液570.0部を混合し、ジルコニアビーズ存在下で、ペイントシェーカーにより5時間分散させた。分散後、メッシュにより分散液とビーズとを分け、アルミナ分散物を得た。
【0103】
(2)磁性層形成用組成物処方
(磁性液)
強磁性粉末 100.0部
平均粒子サイズ(平均板径)21nmの六方晶バリウムフェライト粉末(表1中、「BaFe」)
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂 14.0部
重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.2meq/g
シクロヘキサノン 150.0部
メチルエチルケトン 150.0部
(研磨剤液)
上記(1)で調製したアルミナ分散物 6.0部
(シリカゾル(突起形成剤液))
コロイダルシリカ(平均粒子サイズ120nm) 2.0部
メチルエチルケトン 1.4部
(その他の成分)
ステアリン酸 2.0部
ステアリン酸アミド 0.2部
ブチルステアレート 2.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)L) 2.5部
(仕上げ添加溶媒)
シクロヘキサノン 200.0部
メチルエチルケトン 200.0部
【0104】
(3)非磁性層形成用組成物処方
非磁性無機粉末:α-酸化鉄 100.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):0.15μm
平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
カーボンブラック 20.0部
平均粒子サイズ:20nm
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂 18.0部
重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.2meq/g
ステアリン酸 2.0部
ステアリン酸アミド 0.2部
ブチルステアレート 2.0部
シクロヘキサノン 300.0部
メチルエチルケトン 300.0部
【0105】
(4)バックコート層形成用組成物処方
カーボンブラック 100.0部
DBP(Dibutyl phthalate)吸油量74cm3/100g
ニトロセルロース 27.0部
スルホン酸基および/またはその塩を含有するポリエステルポリウレタン樹脂
62.0部
ポリエステル樹脂 4.0部
アルミナ粉末(BET比表面積:17m2/g) 0.6部
メチルエチルケトン 600.0部
トルエン 600.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネートL) 15.0部
【0106】
(5)各層形成用組成物の調製
磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。上記磁性液を、各成分をバッチ式縦型サンドミルを用いて24時間分散(ビーズ分散)することにより調製した。分散ビーズとしては、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズを使用した。上記サンドミルを用いて、調製した磁性液、上記研磨剤液ならびに他の成分(シリカゾル、その他の成分および仕上げ添加溶媒)を混合し5分間ビーズ分散した後、バッチ型超音波装置(20kHz、300W)で0.5分間処理(超音波分散)を行った。その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過を行い磁性層形成用組成物を調製した。
非磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。潤滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよびブチルステアレート)を除く上記成分を、オープンニーダにより混練および希釈処理し、その後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、潤滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよびブチルステアレート)を添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施して非磁性層形成用組成物を調製した。
バックコート層形成用組成物を、以下の方法により調製した。ポリイソシアネートを除く上記成分を、ディゾルバー撹拌機に導入し、周速10m/秒で30分間撹拌した後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、ポリイソシアネートを添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施し、バックコート層形成用組成物を調製した。
【0107】
(6)磁気テープおよび磁気テープカートリッジの作製方法
表1に記載の種類の厚み4.6μmの二軸延伸された支持体の表面上に、乾燥後の厚みが0.2μmとなるように上記(5)で調製した非磁性層形成用組成物を塗布および乾燥させて非磁性層を形成した。次いで、非磁性層上に乾燥後の厚みが0.1μmとなるように上記(5)で調製した磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。その後に、磁性層形成用組成物の塗布層が未乾燥状態にあるうちに、磁場強度0.3Tの磁場を塗布層の表面に対し垂直方向に印加して垂直配向処理を行った後、乾燥させ、磁性層を形成した。その後、上記支持体の非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対側の表面に、乾燥後の厚みが0.3μmとなるように上記(5)で調製したバックコート層形成用組成物を塗布および乾燥させてバックコート層を形成した。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールを用いて、速度100m/分、線圧300kg/cm(1kg/cmは0.98kN/m)、および90℃のカレンダ温度(カレンダロールの表面温度)にて、表面平滑化処理(カレンダ処理)を行った。
その後、長尺状の磁気テープ原反を雰囲気温度70℃の熱処理炉内に保管することにより熱処理を行った(熱処理時間:36時間)。熱処理後、1/2インチ幅にスリットして、磁気テープを得た。
上記スリット後の磁気テープ(長さ960m)を熱処理用巻芯に巻き取り、この巻芯に巻き付けた状態で熱処理した。熱処理用巻芯としては、曲げ弾性率0.8GPaの樹脂製の中実状の芯状部材(外径:50mm)を使用し、巻き取り時のテンションは0.6Nとした。熱処理は、表1に示す熱処理温度で5時間行った。熱処理を行った雰囲気の重量絶対湿度は、10g/kg Dry airであった。
上記熱処理後、磁気テープおよび熱処理用巻芯が十分冷却された後に磁気テープを熱処理用巻芯から取り外し、この磁気テープの磁性層に市販のサーボライターによってサーボパターンを形成することにより、
図2に示すLTO(Linear Tape-Open) Ultriumフォーマットにしたがう配置でデータバンド、サーボバンド、およびガイドバンドを有し、かつサーボバンド上にLTO Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターン(タイミングベースサーボパターン)を有する磁気テープを得た。上記のサーボパターン形成時に磁気テープの長手方向に掛かる張力は変化させずに0.1N~1.5Nの範囲内で一定に維持した。こうして形成されたサーボパターンは、JIS(Japanese Industrial Standards) X6175:2006およびStandard ECMA-319(June 2001)の記載にしたがうサーボパターンである。
上記サーボパターン形成後の磁気テープ(長さ960m)を、一時巻き取り用巻芯に巻き取り、その後、一時巻き取り用巻芯から磁気テープカートリッジ(LTO Ultrium8データカートリッジ)のリール(リール外径:44mm)へ最終製品長さ分(950m)巻き取り、残り10m分は切り取り、切り取り側の末端に、市販のスプライシングテープによって、Standard ECMA(European Computer Manufacturers Association)-319(June 2001) Section 3の項目9にしたがうリーダーテープを接合させた。一時巻き取り用巻芯としては、熱処理用巻芯と同じ材料製で同じ外径を有する中実状の芯状部材を使用し、巻き取り時のテンションは0.6Nとした。
以上により、長さ950mの磁気テープがリールに巻装された単リール型の実施例1の磁気テープカートリッジを作製した。
【0108】
各実施例、各比較例および参考例について、磁気テープカートリッジを3つ作製し、一つはサーボバンド間隔差を求めるために使用し、もう一つはその他の物性評価のために使用し、残る一つは後述する記録再生試験に使用した。各磁気テープカートリッジの内部のRFIDタグに、磁気テープを磁気テープカートリッジに収容した日付を磁気テープカートリッジ製造日(Date of Manufacturer)として記録した。
【0109】
[実施例2、比較例4、5]
磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態で行う熱処理を、表1に示す熱処理温度で行った点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0110】
[実施例4、5]
支持体として表1に示す種類の二軸延伸された支持体を使用した点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0111】
[実施例6]
強磁性粉末を、以下に示す方法にて得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末(表1中、「SrFe1」)に変更した以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
(六方晶ストロンチウムフェライト粉末の作製方法)
SrCO3を1707g、H3BO3を687g、Fe2O3を1120g、Al(OH)3を45g、BaCO3を24g、CaCO3を13g、およびNd2O3を235g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて635℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800mL加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは18nm、活性化体積は902nm3、異方性定数Kuは2.2×105J/m3、質量磁化σsは49A・m2/kgであった。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって部分溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子の表層部含有率を求めた。
別途、上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子のバルク含有率を求めた。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の鉄原子100原子%に対するネオジム原子の含有率(バルク含有率)は、2.9原子%であった。また、ネオジム原子の表層部含有率は8.0原子%であった。表層部含有率とバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は2.8であり、ネオジム原子が粒子の表層に偏在していることが確認された。
【0112】
上記で得られた粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0113】
[実施例7]
強磁性粉末を、以下に示す方法にて得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末(表1中、「SrFe2」)に変更した以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
(六方晶ストロンチウムフェライト粉末の作製方法)
SrCO3を1725g、H3BO3を666g、Fe2O3を1332g、Al(OH)3を52g、CaCO3を34g、BaCO3を141g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで熔融温度1380℃で溶解し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ロールで急冷圧延して非晶質体を作製した。
得られた非晶質体280gを電気炉に仕込み、645℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持し六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800mL加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは19nm、活性化体積は1102nm3、異方性定数Kuは2.0×105J/m3、質量磁化σsは50A・m2/kgであった。
【0114】
[実施例8]
強磁性粉末を、以下に示す方法にて得られたε-酸化鉄粉末に変更した以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
(ε-酸化鉄粉末の作製方法)
純水90gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、硝酸コバルト(II)6水和物190mg、硫酸チタン(IV)150mg、およびポリビニルピロリドン(PVP)1.5gを溶解させたものを、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度25℃の条件下で、濃度25%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、雰囲気温度25℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液に、クエン酸1gを純水9gに溶解させて得たクエン酸溶液を加え、1時間撹拌した。撹拌後に沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で乾燥させた。
乾燥させた粉末に純水800gを加えて再度粉末を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を液温50℃に昇温し、撹拌しながら濃度25%アンモニア水溶液を40g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)14mLを滴下し、24時間撹拌した。得られた反応溶液に、硫酸アンモニウム50gを加え、沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で24時間乾燥させ、強磁性粉末の前駆体を得た。
得られた強磁性粉末の前駆体を、大気雰囲気下、炉内温度1000℃の加熱炉内に装填し、4時間の加熱処理を施した。
加熱処理した強磁性粉末の前駆体を、4モル/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌することにより、加熱処理した強磁性粉末の前駆体から不純物であるケイ酸化合物を除去した。
その後、遠心分離処理により、ケイ酸化合物を除去した強磁性粉末を採集し、純水で洗浄を行い、強磁性粉末を得た。
得られた強磁性粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES;Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectrometry)により確認したところ、Ga、CoおよびTi置換型ε-酸化鉄(ε-Ga0.58Fe1.42O3)であった。また、先に実施例6について記載した条件と同様の条件でX線回折分析を行い、X線回折パターンのピークから、得られた強磁性粉末が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄型の結晶構造)を有することを確認した。
得られたε-酸化鉄粉末の平均粒子サイズは12nm、活性化体積は746nm3、異方性定数Kuは1.2×105J/m3、質量磁化σsは16A・m2/kgであった。
【0115】
上記の六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末の活性化体積および異方性定数Kuは、各強磁性粉末について、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて、先に記載の方法により求められた値である。
また、質量磁化σsは、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて磁場強度15kOeで測定された値である。
【0116】
[参考例1]
支持体として表1に示す種類の厚み5.3μmの二軸延伸された支持体を使用し、非磁性層を乾燥後の厚みが0.3μmとなるように形成した点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0117】
[比較例1]
磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態での熱処理を行わなかった点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0118】
[比較例2]
磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態での熱処理を行わなかった点以外、実施例4と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0119】
[比較例3]
磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態での熱処理を行わなかった点以外、実施例5と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0120】
[実施例3]
磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態での熱処理後のサーボパターンの形成を、磁気テープカートリッジに収容される際にリールから遠くに位置する部分ほど、リール近くに位置する部分と比べて磁気テープの長手方向に掛かる張力が大きくなるように、0.1N~1.5Nの範囲内で張力を連続的に変化させて行った点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0121】
[比較例6]
以下の点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態で行う熱処理を、表1に示す熱処理温度で行った。
磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態での熱処理後のサーボパターンの形成を、磁気テープカートリッジに収容される際にリールから遠くに位置する部分ほど、リール近くに位置する部分と比べて磁気テープの長手方向に掛かる張力が大きくなるように、0.1N~1.5Nの範囲内で張力を連続的に変化させて行った。
【0122】
[比較例7]
以下の点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態で行う熱処理を、表1に示す熱処理温度で行った。
1/2インチ幅にスリットした後の磁気テープに、熱処理用巻芯に巻き付けた状態での熱処理を行う前に、サーボパターン形成時に磁気テープの長手方向に掛かる張力を変化させずに0.1N~1.5Nの範囲内で一定に維持してサーボパターンを形成した点以外、実施例1と同様に磁気テープカートリッジを作製した。
【0123】
[磁気テープの評価]
(1)サーボバンド間隔差
各磁気テープカートリッジについて、磁気テープカートリッジ製造日から100日目に、温度23℃±1℃かつ相対湿度50%±5%の環境下で、以下の方法によりサーボバンド間隔差(Ginner-Gouter)を求めた。
データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドの間隔を求めるためには、サーボパターンの寸法が必要である。サーボパターンの寸法の規格は、LTOの世代によって異なる。そこでまず、磁気力顕微鏡等を用いて、AバーストとCバーストの対応する4ストライプ間の平均距離AC、およびサーボパターンのアジマス角αを計測する。
次に、リールテスタと、磁気テープの長手方向と直交する方向に間隔をおいて固定された2つのサーボ信号読み取り素子(以下では、一方を上側、他方を下側と呼ぶ。)を備えたサーボヘッドとを用いて、磁気テープに形成されたサーボパターンをテープ長手方向に沿って順次読み取る。1LPOSワードの長さにわたるAバーストとBバーストに対応する5ストライプ間の平均時間をaと定義する。1LPOSワードの長さにわたるAバーストとCバーストの対応する4ストライプの平均時間をbと定義する。このとき、AC*(1/2-a/b)/(2*tan(α))で定義される値が、1LPOSワードの長さにわたってサーボ信号読み取り素子により得られたサーボ信号に基づく幅方向の読み取り位置PESを表す。1 LPOSワードについてのサーボパターンの読み取りは、上側と下側の2つのサーボ信号読み取り素子により同時に行う。上側のサーボ信号読み取り素子により得られたPESの値をPES1、下側のサーボ信号読み取り素子により得られたPESの値をPES2とする。「PES1-PES2」として、1 LPOSワードについて、データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドの間隔を求めることができる。これは、上側と下側のサーボパターン読み取り素子がサーボヘッドに固定されてその間隔が変わらないからである。上記磁気テープには、合計5本のサーボバンドが配置されているため、データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドの間隔の数は4つである。これら4つの間隔のそれぞれについて、磁気テープカートリッジに収容された磁気テープ(全長950m)のテープ外側末端から49m~51の範囲において全LPOSワードについて求められた「PES1-PES2」の算術平均を、サーボバンド間隔Gouterとする。また、これら4つの間隔のそれぞれについて、磁気テープカートリッジに収容された磁気テープ(全長950m)のテープ内側末端から49m~51の範囲において全LPOSワードについて求められた「PES1-PES2」の算術平均を、サーボバンド間隔Ginnerとする。こうして求められたGinnerとGouterとの差(Ginner-Gouter)を、サーボバンド間隔差とする。
【0124】
(2)テープ幅差(Winner-Wouter)
各磁気テープカートリッジから、磁気テープカートリッジ製造日から100日目に磁気テープを取り出し、取り出した磁気テープについて以下の評価を行った。
テープ外側末端と接合していたリーダーテープを除去した後、テープ外側末端から50m±1mの位置を含む長さ20cmのテープサンプル、およびテープ内側末端から50m±1mの位置を含む長さ20cmのテープサンプルを切り出した。各テープサンプルのテープ幅を、カールの影響を除去するために2枚のスライドガラスの間に挟み込んだ状態でテープサンプルの長手方向中央部において測定した。テープ幅の測定は、KEYENCE社製レーザー高精度寸法測定器LS-7030を用いて、磁気テープカートリッジから磁気テープを取り出した後20分以内に行った。上記の各テープサンプルにおいて、テープ幅はそれぞれ7回測定し(N=7)、7回の測定で得られた測定値の中の最大値および最小値を除いた5つの測定値の算術平均を求めた。こうして求められた算術平均を、各位置のテープ幅(テープ幅Winnerまたはテープ幅Wouter)として、テープ幅差(Winner-Wouter)を算出した。
【0125】
(3)テープ幅変形率
上記(2)で磁気テープカートリッジから取り出した磁気テープから、テープ外側末端から10m±1mの位置を含む長さ20cmのテープサンプルを切り出し、上記(2)での方法と同様にテープ幅を求めた。こうして求めたテープ幅を、保存前テープ幅とした。
テープ外側末端から10m±1mの位置を含む長さ20cmのテープサンプルを、上記保存前テープ幅の測定後、このテープサンプルの一方の端部を保持し他方の端部に100gの重りを吊るすことによりテープ長手方向に100gの荷重を負荷した状態で温度52℃の乾燥環境下で24時間保存した。上記保存後、荷重の除去後20分以内に、上記(2)での方法と同様にテープ幅を求め、このテープ幅を保存後テープ幅とした。
保存前後のテープ幅の差(保存前テープ幅-保存後テープ幅)を保存前テープ幅で除した値×106(単位:ppm)を算出し、テープ幅変形率とした。
【0126】
(4)テープ厚み
上記(2)で磁気テープカートリッジから取りだした磁気テープの任意の部分からテープサンプル(長さ5cm)を10枚切り出し、これらテープサンプルを重ねて厚みを測定した。厚みの測定は、MARH社製Millimar 1240コンパクトアンプとMillimar 1301誘導プローブのデジタル厚み計を用いて行った。測定された厚みを10分の1して得られた値(テープサンプル1枚当たりの厚み)を、テープ厚みとした。
【0127】
[記録再生試験]
規定容量のデータを記録した磁気テープカートリッジを温度40℃相対湿度80%の環境に3ヵ月間保存(以下、「長期保存」と記載する。)した後に、記録された全データを再生(読み出し)することが可能か否か評価した。記録および再生は、LTO Ultrium8(LTO8)ドライブを用いて行った。規定容量は、12.0TB(テラバイト)である。
データの記録は、磁気テープカートリッジ製造日から100日目に、磁気テープカートリッジを評価環境下(温度20~25℃および相対湿度40~60%)に置き1日以上放置し同環境に慣らした後に行った。記録時にエラーが発生せず、規定容量の記録が可能であった場合、記録試験の評価結果を「A」とする。一方、記録時にエラーが発生し、規定容量の記録ができなかった場合、そのカートリッジはその後の評価に使用せず、記録試験の評価結果を「B」とする。この評価結果「B」の場合とは、詳しくは、上記ドライブのサーボ信号読み取り素子によってサーボパターンを読み取りヘッドトラッキングを行っても、記録すべき位置にデータ用素子を位置合わせすることができずにドライブがエラー信号を発して停止してしまった場合である。この場合、表1中の再生試験の評価結果の欄に、「-」と表記した。ただし、この場合も長期保存は実施した。
更に、記録試験の評価結果が「A」であった場合、上記保存後に、記録を行った評価環境と同じ温度および同じ湿度の評価環境下で、記録を行ったドライブと同じドライブで再生を行った。再生も、磁気テープカートリッジを評価環境下に1日以上放置し同環境に慣らした後に行った。磁気テープカートリッジ内の磁気テープに記録されている全データについて、エラーの発生なく再生が完了した場合、再生試験の評価結果を「A」とする。再生時に再生信号のSNR(signal-to-noise-ratio)が悪いために再生信号からデータを正しく読み取ることができず、再生の途中でエラーが発生して全データの再生が完了しなかった場合には再生試験の評価結果を「B」とする。
こうして得られた評価結果を、表1に示す。
更に、上記のように記録再生試験を行った後の各磁気テープカートリッジから磁気テープを取り出し、先に記載の方法により、テープ幅差(Winner-Wouter)およびテープ幅変形率を求めた。こうして求められたテープ幅差(Winner-Wouter)およびテープ幅変形率を、長期保存後の値(参考値)として、表1に示す。
【0128】
以上の結果を、表1(表1-1および表1-2)に示す。
【0129】
【0130】
【0131】
実施例1~8と比較例1~7との対比から、薄型化された磁気テープでは、磁気テープカートリッジ製造日から100日目の値として、テープ幅差(Winner-Wouter)が上記範囲となるように内側部分と外側部分とのテープ幅差を制御し、かつサーボバンド間隔差(Ginner-Gouter)が上記範囲となるようにサーボパターンを形成することによって、再生エラーの発生を抑制でき、記録時のエラーの発生も抑制できることが確認できる。
また、参考例1と比較例1~3との対比から、薄型化された磁気テープ(比較例1~3)では、テープ幅差を制御するための手段を取らずにサーボバンドの間隔が内側部分と外側部分とで同じになるようにサーボパターンを形成すると、再生エラーが発生してしまうことが確認できる。これは、テープ幅差(Winner-Wouter)が長期保存後に大きくなる結果、長期保存後に内側部分のサーボバンドの間隔が外側部分のサーボバンドの間隔より広くなり、内側部分と外側部分とでサーボバンドの間隔が大きく相違してしまうことが原因と考えられる(表1中の参考値参照)。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の一態様は、各種データストレージの技術分野において有用である。