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特許7009756駆動装置、モータシステム、画像形成装置、搬送装置、および駆動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】駆動装置、モータシステム、画像形成装置、搬送装置、および駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 8/04 20060101AFI20220203BHJP
   G03G 15/00 20060101ALN20220203BHJP
   B65H 5/06 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
H02P8/04
G03G15/00 420
B65H5/06 J
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017054918
(22)【出願日】2017-03-21
(65)【公開番号】P2018157731
(43)【公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉水 英毅
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-046859(JP,A)
【文献】特開2015-164583(JP,A)
【文献】特開2009-060719(JP,A)
【文献】特開2000-287498(JP,A)
【文献】特開2008-011655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 8/04
G03G 15/00
B65H 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステッピングモータを駆動するドライバ回路と、該ドライバ回路に制御信号を送信する上位コントローラとを備える駆動装置であって、
前記ドライバ回路は、
前記ステッピングモータのロータ位置を推定する位置推定部と、
上位装置から受ける信号に含まれる動作プロファイルに基づく方式で、前記ステッピングモータのスルーアップ前のホールド動作を行うように制御する駆動電流制御部と、
前記位置推定部によって推定された前記ロータ位置に基づいて、前記ステッピングモータのスルーアップ前のホールド動作を行う際の、最初に励磁する前記ステッピングモータの相を設定する励磁設定部と
有し、
前記上位コントローラは、
前記位置推定部によって推定された前記ロータ位置に基づいて、前記ステッピングモータのスルーアップ前のホールド動作に用いる方式を決定する方式決定部と、
前記方式決定部によって決定された前記ホールド動作に用いる方式に基づいて前記制御信号を生成する制御信号生成部と
を有し、
前記制御信号生成部は、
前記方式決定部によって決定された方式により、前記ステッピングモータのスルーアップ前のホールド動作を行うようにするための指令値を、前記ドライバ回路に供給される、前記ステッピングモータの目標位置を指定するための制御信号に含める
駆動装置。
【請求項2】
前記励磁設定部は、
前記位置推定部によって推定された前記ロータ位置の最寄りの位置にある前記ステッピングモータの相を、前記ステッピングモータのスルーアップ前のホールド動作を行う際の、最初に励磁する前記ステッピングモータの相として設定する
請求項1に記載の駆動装置
【請求項3】
前記方式決定部は、
前記位置推定部によって推定された前記ロータ位置に基づく、前記ステッピングモータのロータ磁極位相が、予め定められた所定の閾値範囲内にあるか否かに応じて、前記ステッピングモータのスルーアップ前のホールド動作に用いる方式として、複数パルスによる方式、または、1パルスによる方式を決定する
請求項1または2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記ステッピングモータと、
請求項1から3のいずれか一項に記載の駆動装置
を備えるモータシステム。
【請求項5】
請求項に記載のモータシステム
を備える画像形成装置。
【請求項6】
請求項に記載のモータシステム
を備える搬送装置。
【請求項7】
ステッピングモータを駆動する駆動方法であって、
前記ステッピングモータのロータ位置を推定する位置推定工程と、
上位装置から受ける信号に含まれる動作プロファイルに基づく方式で、前記ステッピングモータのスルーアップ前のホールド動作を行うように制御する駆動電流制御工程と、
前記位置推定工程において推定された前記ロータ位置に基づいて、前記ステッピングモータのスルーアップ前のホールド動作を行う際の、最初に励磁する前記ステッピングモータの相を設定する励磁設定工程と
前記位置推定工程において推定された前記ロータ位置に基づいて、前記ステッピングモータのスルーアップ前のホールド動作に用いる方式を決定する方式決定工程と、
前記方式決定工程において決定された前記ホールド動作に用いる方式に基づいてドライバ回路に送信する制御信号を生成する制御信号生成工程と
を含み、
前記制御信号生成工程では、
前記方式決定工程において決定された方式により、前記ステッピングモータのスルーアップ前のホールド動作を行うようにするための指令値を、前記ドライバ回路に供給される、前記ステッピングモータの目標位置を指定するための制御信号に含める
駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動装置、モータシステム、画像形成装置、搬送装置、および駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像形成装置や搬送装置等の各種装置において、各種駆動対象(例えば、搬送ローラ、搬送シート等)を駆動するためのステッピングモータが用いられている。このようなステッピングモータにおいては、コイル励磁位相とロータ磁極位相とが一致しないままスルーアップ動作を行ってしまうと、脱調してしまう。このため、従来、このような脱調を生じさせないように、ステッピングモータを駆動することが課題となっている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、ステッピングモータによりレジローラやピックアップローラ等を駆動するように構成されたフルカラープリンタにおいて、ステッピングモータの初期化動作として、ステッピングモータの励磁電流がオフされた状態から、100%励磁状態にして十分なホールド時間をとった後、ステッピングモータが十分に起動できる自起動領域内の周波数にてステッピングモータを駆動するようにした技術が開示されている。この技術によれば、安価なPM型ステッピングモータを用いて、短い起動時間でも脱調することなく、ステッピングモータを回転させることができる、とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記特許文献1の技術では、ステッピングモータの初期化動作において、相励磁の位置とモータ(ロータ)の相位相とを完全に一致させるために、8クロック分以上のクロックパルスで、ステッピングモータを回転させるようにしている。しかしながら、ステッピングモータのスルーアップ前のホールド動作の際に、入力パルス数をむやみに増加させてしまうと、各種不具合(例えば、異音、ホールド時間増加、ホールド電流増加、ファーストプリント時間増加等)が発生してしまう虞がある。
【0005】
本発明は、上述した従来技術の課題を解決するため、ステッピングモータのスルーアップ前のホールド動作の際に、入力パルス数の増加に伴う各種不具合の発生を抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明のドライバ回路は、ステッピングモータを駆動するドライバ回路であって、前記ステッピングモータのロータ位置を推定する位置推定部と、前記位置推定部によって推定された前記ロータ位置に基づいて、前記ステッピングモータのスルーアップ前のホールド動作を行う際の、最初に励磁する前記ステッピングモータの相を設定する励磁設定部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ステッピングモータのスルーアップ前のホールド動作の際に、入力パルス数の増加に伴う各種不具合の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係るモータシステムの構成を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る駆動装置による処理の手順を示すフローチャートである。
図3】本発明の第1実施形態に係るステッピングモータの動作プロファイルを示す図である。
図4】従来のステッピングモータにおいて生じ得る脱調現象について説明するための図である。
図5】従来の脱調現象解消方法について説明するための図である。
図6】本発明の第2実施形態に係るモータシステムの構成を示す図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る駆動装置による処理の手順を示すフローチャートである。
図8】本発明の第1実施例に係る画像形成装置の概略構成を示す図である。
図9】本発明の第2実施例に係る搬送装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔第1実施形態〕
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
【0010】
(モータシステム10の構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係るモータシステム10の構成を示す図である。図1に示すモータシステム10は、駆動装置11およびステッピングモータ12を備えている。
【0011】
駆動装置11は、ステッピングモータ12へ駆動電流を供給することにより、ステッピングモータ12を駆動する。図1に示すように、駆動装置11は、上位コントローラ100およびドライバ回路110を備えている。上位コントローラ100(本発明の「上位装置」の一例)は、制御信号および回転方向信号を、ドライバ回路110へ出力する。ドライバ回路110は、上位コントローラ100から出力された制御信号および回転方向信号に基づいて、ステッピングモータ12の各相(A相およびB相)に駆動電流を供給することにより、ステッピングモータ12を駆動する。
【0012】
ステッピングモータ12は、ドライバ回路110から供給された駆動電流によって駆動される。具体的には、ステッピングモータ12は、ロータ(回転子)と、2相(A相およびB相)の励磁コイル(固定子)とを有している。A相の励磁コイルは、A+端子およびA-端子を有している。また、B相の励磁コイルは、B相はB+端子およびB-端子を有している。このように構成されたステッピングモータ12は、2相(A相およびB相)の励磁コイルの各々が、ドライバ回路110から供給された駆動電流によって励磁されることにより、ロータが回転する。
【0013】
ここで、上位コントローラ100およびドライバ回路110の機能について具体的に説明する。図1に示すように、上位コントローラ100は、制御信号生成部201、方式決定部207、およびプリホールド実施制御部208を有している。また、ドライバ回路110は、駆動電流制御部202、増幅部203、高周波発生部204、電流検出部205、および位置推定部206を有している。
【0014】
制御信号生成部201は、ステッピングモータ12を制御するための目標位置信号である制御信号および回転方向信号を生成して、当該制御信号および回転方向信号を、ドライバ回路110へ出力する。駆動電流制御部202は、制御信号生成部201から出力された制御信号および回転方向信号に応じて、ステッピングモータ12を駆動するための駆動電流を出力する。増幅部203は、駆動電流制御部202から出力された駆動電流を増幅して、当該駆動電流をステッピングモータ12の各相へ供給する。
【0015】
高周波発生部204は、所定の高周波電流を、駆動電流制御部202および増幅部203を介して、ステッピングモータ12の各相に供給する。または、高周波発生部204は、所定の高周波電流を、駆動電流制御部202から出力される駆動電流に重畳して、ステッピングモータ12の各相に供給する。
【0016】
電流検出部205は、高周波発生部204から供給された高周波電流の応答信号を検出する。電流検出部205としては、公知の各種電流センサを用いることができる。位置推定部206は、電流検出部205によって検出された高周波成分の応答信号に応じて、ステッピングモータ12のロータ位置を推定する。なお、高周波成分の応答信号に応じてステッピングモータ12のロータ位置を推定する方法としては、例えば、特開2016-46859号公報に開示されている技術を用いることができる。
【0017】
方式決定部207は、位置推定部206によって推定されたロータ位置に基づいて、ステッピングモータ12のスルーアップ前のホールド動作(以下、「プリホールド」と示す)に用いる方式を決定する。具体的には、方式決定部207は、位置推定部206によって推定されたロータ位置に基づいて、ステッピングモータ12のロータ磁極位相が所定の閾値範囲内にあると判断した場合、ステッピングモータ12のプリホールドに用いる方式として、複数パルスによる方式を決定する。一方、方式決定部207は、ステッピングモータ12のロータ磁極位相が所定の閾値範囲内にないと判断した場合、ステッピングモータ12のプリホールドに用いる方式として、1パルスによる方式を決定する。「所定の閾値範囲」とは、ロータ磁極位相が、脱調を引き起こす逆位相(電気角の-180°)にある場合を含む、ロータ磁極位相の範囲である。例えば、「所定の閾値範囲」を、-180°±22.5°とする。但し、これに限らず、「所定の閾値範囲」を、-180°±45°等としてもよい。
【0018】
プリホールド実施制御部208は、方式決定部207によって決定された方式(1パルスによる方式または複数パルスによる方式)で、ステッピングモータ12のプリホールドが行われるように制御する。具体的には、プリホールド実施制御部208は、方式決定部207によって決定された方式による、ステッピングモータ12のプリホールドを行わせるための指令値が、制御信号生成部201が生成する制御信号の動作プロファイルに含まれるように、制御信号生成部201に方式に関する情報を送る。
【0019】
これにより、ステッピングモータ12は、方式決定部207によって決定された方式で、プリホールドを行うようになる。すなわち、ステッピングモータ12は、ステッピングモータ12のロータ磁極位相が、脱調を引き起こす可能性の高い所定の閾値範囲内にある場合、複数パルスによるプリホールドを行う。一方、ステッピングモータ12は、ステッピングモータ12のロータ磁極位相が、脱調を引き起こす可能性の高い所定の閾値範囲内にない場合、1パルスによるプリホールドを行う。
【0020】
(ステッピングモータ駆動装置による処理の手順)
図2は、本発明の第1実施形態に係る駆動装置11による処理の手順を示すフローチャートである。
【0021】
まず、ステッピングモータ12の回転が停止している状態(励磁がOFFの状態)で、高周波発生部204が、ステッピングモータ12の各相に高周波電流を供給する(ステップS201)。このとき、電流検出部205が、ステップS201で供給された高周波電流の応答信号を検出する(ステップS202)。そして、位置推定部206が、ステップS202で検出された応答信号に基づいて、ステッピングモータ12のロータ位置を推定する(ステップS203)。
【0022】
次に、方式決定部207が、ステップS203で推定されたロータ位置に基づいて、ステッピングモータ12のロータ磁極位相が、脱調の可能性がある所定の閾値範囲内にあるか否かを判定する(ステップS204)。
【0023】
ステップS204において、ロータ磁極位相が所定の閾値範囲内にあると判定された場合、方式決定部207が、ステッピングモータ12のプリホールドに用いる方式として、複数パルスによる方式を決定する(ステップS205)。そして、駆動装置11は、ステップS207へ処理を進める。
【0024】
一方、ステップS204において、ロータ磁極位相が所定の閾値範囲内にないと判定された場合、方式決定部207が、ステッピングモータ12のプリホールドに用いる方式として、1パルスによる方式を決定する(ステップS206)。そして、駆動装置11は、ステップS207へ処理を進める。
【0025】
ステップS207では、プリホールド実施制御部208が、ステップS205またはステップS206で決定された方式による、ステッピングモータ12のプリホールドの実施指令を、制御信号生成部201が生成する制御信号の動作プロファイルに含める。これに応じて、ドライバ回路110が、制御信号生成部201から出力された動作プロファイルにより、ステッピングモータ12をプリホールドさせる(ステップS208)。
【0026】
その後、ドライバ回路110が、制御信号生成部201から出力された動作プロファイルにより、ステッピングモータ12をスルーアップさせる(ステップS209)。そして、ドライバ回路110が、制御信号生成部201から出力された動作プロファイルにより、ステッピングモータ12を等速回転させる(ステップS210)。さらに、ドライバ回路110が、制御信号生成部201から出力された動作プロファイルにより、ステッピングモータ12をスルーダウンさせる(ステップS211)。
【0027】
続いて、ドライバ回路110が、制御信号生成部201から出力された動作プロファイルにより、スルーダウン後のホールド動作をステッピングモータ12に行わせる(ステップS212)。また、ドライバ回路110が、制御信号生成部201から出力された動作プロファイルにより、ステッピングモータ12の励磁をOFFにする(ステップS213)。そして、駆動装置11は、図2に示す一連の処理を終了する。
【0028】
(ステッピングモータ12の動作プロファイル)
図3は、本発明の第1実施形態に係るステッピングモータ12の動作プロファイルを示す図である。図3に示すように、本実施形態のステッピングモータ12は、上位コントローラ100から供給された制御信号(動作プロファイル)に基づいて、ドライバ回路110の制御により、励磁がOFFの状態(図中状態1)から、順次、プリホールド(図中状態2B)、スルーアップ(図中状態3)、定常回転(図中状態4)、スルーダウン(図中状態5)、スルーダウン後ホールド(図中状態6)を行い、その後、励磁がOFFの状態(図中状態7)となる。
【0029】
ここで、図3に示すように、本実施形態のステッピングモータ12では、プリホールド(図中状態2B)の前に、センサレスによるロータ位置検出(図中状態2A)が追加で設けられている。そして、プリホールド(図中状態2B)では、ロータ位置検出結果に応じて、適切な方式(1パルスによる方式または複数パルスによる方式)が選択的に用いられて、ロータとステータとの位相合わせが行われるようになっている。なお、図3の例では、ロータ位置検出(図中状態2A)は、ステッピングモータ12の励磁がOFFの状態で行われるようにしているが、ロータが回転しない程度にステッピングモータ12が励磁された状態で行われてもよい。
【0030】
(従来のステッピングモータにおいて生じ得る脱調現象)
図4は、従来のステッピングモータにおいて生じ得る脱調現象について説明するための図である。図4の上段は、従来のステッピングモータの正常動作を示す。図4の下段は、従来のステッピングモータの異常動作(脱調)を示す。なお、図4では、ステッピングモータを簡略化して表している。図4に示すモータは、ステータ12aと、ステータの内部空間に配置されたロータ12bとを備えている。ステータ12aの内周面には、90°間隔で、4つの突起が形成されている。各突起には、ステータコイルが巻設されている。各突起は、ステータコイルを電流が流れることで電磁石となり、電流の流れる方向に応じて、N極またはS極が発生する。ここで、ロータ12bを挟んで対向する一対の突起が異なる磁極となるように、各ステータコイルに電流が供給される。ロータ12bの外周面は、半周ずつ、N極とS極とに着磁されている。
【0031】
図4の上段において、(a)は、ステータコイルに電流が流れていない無励磁状態を示す。このとき、ロータ12bの磁極位置は、不定状態である。この例では、ロータ12bのN極の中心は、上方に対して、右側に45°傾いた状態となっている。この状態から、最初のパルスを入力し、(b)に示すように、ステータ12aの上側の突起をN極に励磁し、ステータ12aの下側の突起をS極に励磁すると、ロータ12bが時計回りに回転し、(c)に示すように、ロータ12bのS極の中心が、ステータ12aの上側の突起(N極)を向いた状態となり、コイル励磁位相とロータ磁極位相とが一致した状態(ホールド状態)となる。その後、次のパルスを入力し、(d)に示すように、ステータ12aの右側の突起をN極に励磁し、ステータ12aの左側の突起をS極に励磁すると、ロータ12bがさらに時計回りに45°回転し、(e)に示すように、ロータ12bのS極の中心が、ステータ12aの右側の突起(N極)を向いた状態となる。以降、順次、パルスを入力することにより、励磁する突起を時計回りに45°ずつ変更してゆくことで、ロータ12bが、これに追従して時計回りに回転することとなる。
【0032】
図4の下段において、(a')は、ステータコイルに電流が流れていない無励磁状態を示す。このとき、ロータ12bの磁極位置は、不定状態である。この例では、ロータ12bのN極の中心は、上方を向いた状態となっている。この状態から、最初のパルスを入力し、(b')に示すように、ステータ12aの上側の突起をN極に励磁し、ステータ12aの下側の突起をS極に励磁すると、ロータ12bのN極とステータ12aのN極、ロータ12bのS極とステータ12aのS極が互いに釣りあってしまい、(c')に示すように、ロータ12bは静止したままである。その後、次のパルスを入力し、(d')に示すように、ステータ12aの右側の突起をN極に励磁し、ステータ12aの左側の突起をS極に励磁すると、ロータ12bが反時計回りに45°回転(すなわち、逆回転)し、それ以降、順次、パルスを入力しても、ロータ12bは、これに追従することができず、脱調状態となる。なお、コイル励磁位相とロータ磁極位相とが逆位相になる事は、理論上極めてまれであるが、モータ駆動を用いた実際の装置では、機械的負荷(例えば、摩擦負荷やタイミングベルトテンション等)が有るため、完全な逆位相(-180°)位置でなくても、ある回転角幅でこのような釣り合い現象が発生する。
【0033】
(従来の脱調現象解消方法)
図5は、従来の脱調現象解消方法について説明するための図である。ここでは、2相励磁方式のバイポーラ型ステッピングモータを用いた、従来の脱調現象解消方法について説明する。
【0034】
図5の上段に示す表は、一般的なステッピングモータにおける2相励磁のパターンを表す。この表に示すように、一般的なステッピングモータでは、初めに、A相およびB相を励磁し、それ以降、順次、B相およびA(-)相、A(-)相およびB(-)相、A相およびB(-)相を励磁する。このような順序で各相を励磁することにより、ロータが正回転することとなる。
【0035】
図5の下段は、ステッピングモータの4つのステータコイル相(A相,B相,A(-)相,B(-)相)を、電気角の360°で表現した図である。ここで、一般的なPM型ステッピングモータの、機械的なステップ角は7.5°であるため、この場合、電気角360°が機械角30°に相当する。
【0036】
従来、無励磁状態の不定ロータ位置とステータコイル位置を一致させるために、最初のパルスを、A相およびB相に入力し、十分安定した状態(ロータハンチングが収束した状態)となった後に、以降のパルスを、順次、B相およびA(-)相、A(-)相およびB(-)相、A相およびB(-)相に入力していた。
【0037】
ここで、脱調が発生するのは、ロータのN極が、A相およびB相を励磁することによって発生するS極の合力方向近傍に位置している場合である。この場合、1回の励磁だけでは、脱調の発生をゼロにすることは困難である。このため、従来、複数パルス(例えば、特許文献1の技術では8パルス以上)を使って、コイル励磁位相とロータ磁極位相とを一致させる方法が用いられている。
【0038】
しかしながら、入力パルス数をむやみに増加させてしまうと、各種不具合(例えば、異音、ホールド時間増加、ホールド電流増加、ファーストプリント時間増加等)が発生してしまことは、既に説明したとおりである。
【0039】
本実施形態のモータシステム10では、これまでに説明したとおり、入力パルス数を増加させることなく、ステッピングモータ12のプリホールドを行い、コイル励磁位相とロータ磁極位相とを一致させることができる。
【0040】
以上説明したように、本発明の第1実施形態によれば、位置推定部206によって推定されたステッピングモータ12のロータ位置に基づく、ステッピングモータ12のロータ磁極位相が、所定の閾値範囲内にあるか否かに応じて、ステッピングモータ12のプリホールドに用いる方式(1パルスによる方式または複数パルスによる方式)を決定する。ここで、ステッピングモータ12のロータ磁極位相が所定の閾値範囲内にあるケースは、極めて稀である。このため、本発明の第1実施形態によれば、殆どのケースにおいて、1パルスによるステッピングモータ12のプリホールドを行うことができる。したがって、本発明の第1実施形態によれば、ステッピングモータ12のプリホールドの際に、入力パルス数の増加に伴う各種不具合(異音、ホールド時間増加、ホールド電流増加、ファーストプリント時間増加等)の発生を抑制することができる。
【0041】
〔第2実施形態〕
次に、図6および図7を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。以下、第1実施形態からの変更点について説明する。
【0042】
(モータシステム10Aの構成)
図6は、本発明の第2実施形態に係るモータシステム10Aの構成を示す図である。図6に示すモータシステム10Aは、駆動装置11の代わりに駆動装置11Aを備える点で、第1実施形態のモータシステム10と異なる。駆動装置11Aは、上位コントローラ100およびドライバ回路110の代わりに、上位コントローラ100Aおよびドライバ回路110Aを備える点で、第1実施形態の駆動装置11と異なる。
【0043】
上位コントローラ100Aは、方式決定部207およびプリホールド実施制御部208を有していない点で、第1実施形態の上位コントローラ100と異なる。ドライバ回路110Aは、駆動電流制御部202に励磁設定部209が設けられている点で、第1実施形態のドライバ回路110と異なる。
【0044】
励磁設定部209は、位置推定部206によって推定されたロータ位置に基づいて、ステッピングモータ12のプリホールド時のロータの回転量が最小となるように、ステッピングモータ12のプリホールド時に最初に励磁する2つの相を設定する。例えば、通常、ステッピングモータ12のプリホールド時に最初にA相とB相とを励磁するように構成されている場合において、ロータ磁極位相がA(-)相とB(-)相との間にある場合(すなわち、逆位相にある場合)、A相とB相とを励磁してプリホールドを行ってもロータが回転できない場合がある。そこで、このような場合、励磁設定部209は、プリホールド時に最初にA(-)相とB(-)相とを励磁するように設定を変更する。この変更に伴い、駆動電流制御部202は、ステッピングモータ12のプリホールドを行う際に、励磁設定部209によって設定されたステッピングモータ12の2つの相を、最初に励磁するようになる。
【0045】
(ステッピングモータ駆動装置による処理の手順)
図7は、本発明の第2実施形態に係る駆動装置11Aによる処理の手順を示すフローチャートである。
【0046】
まず、ステッピングモータ12の回転が停止している状態(励磁がOFFの状態)で、高周波発生部204が、ステッピングモータ12の各相に高周波電流を供給する(ステップS701)。このとき、電流検出部205が、ステップS701で供給された高周波電流の応答信号を検出する(ステップS702)。そして、位置推定部206が、ステップS702で検出された応答信号に基づいて、ステッピングモータ12のロータ位置を推定する(ステップS703)。
【0047】
次に、励磁設定部209が、ステップS703で推定されたロータ位置に基づいて、ステッピングモータ12のプリホールド時のロータの回転量が最小となるように、ステッピングモータ12のプリホールド時に最初に励磁する2つの相を設定する(ステップS704)。そして、ドライバ回路110Aが、制御信号生成部201から出力された動作プロファイルにより、1パルスによるプリホールドを、ステッピングモータ12に実施させる(ステップS705)。
【0048】
ステップS706以降の処理は、第1実施形態(図2)のステップS209以降の処理と同様であるため、説明を省略する。
【0049】
以上説明したように、本発明の第2実施形態によれば、位置推定部206によって推定されたロータ位置の最寄りの位置にあるステッピングモータ12の相を、ステッピングモータ12のプリホールドを行う際の、最初に励磁するステッピングモータ12の相として設定する。これにより、本発明の第2実施形態によれば、常に、1パルスによるステッピングモータ12のプリホールドを行うことができる。したがって、本発明の第2実施形態によれば、ステッピングモータ12のプリホールドの際に、入力パルス数の増加に伴う各種不具合(異音、ホールド時間増加、ホールド電流増加、ファーストプリント時間増加等)の発生を抑制することができる。
【0050】
〔第1実施例〕
図8は、本発明の第1実施例に係る画像形成装置800の概略構成を示す図である。図8に示す画像形成装置800は、プリントサーバ810および本体820を備えている。プリントサーバ810には、印刷データが記憶されている。プリントサーバ810に記憶されている印刷データは、ユーザからの指示により、本体820へと送信される。
【0051】
本体820は、光学装置821、感光体ドラム822、現像ローラ823、転写ローラ824、転写ベルト825、転写ローラ826、定着装置827、搬送装置831、用紙トレイ832、搬送路833、排紙トレイ834、および記録紙835を備えている。
【0052】
本体820は、印刷データに色補正、濃度変換、小値化等の処理を行う。そして、本体820は、最終的に2値となった印刷データを、光学装置821に送る。
【0053】
光学装置821は、レーザダイオード等をレーザ光源として用いている。光学装置821は、一様に帯電した状態の感光体ドラム822に対して、印刷データに応じたレーザ光の照射を行う。
【0054】
感光体ドラム822は、一様に帯電した状態で、印刷データに応じたレーザ光が表面に照射されることにより、レーザ光が照射された部分だけ電荷が消失する。これにより、感光体ドラム822の表面には、印刷データに応じた潜像が形成される。ここで形成された潜像は、感光体ドラム822の回転に伴って、対応する現像ローラ823の方向へと移動する。
【0055】
現像ローラ823は、回転しながら、トナーカートリッジから供給されたトナーを、その表面に付着させる。そして、現像ローラ823は、その表面に付着されたトナーを、感光体ドラム822の表面に形成された潜像に付着させる。これにより、現像ローラ823は、感光体ドラム822の表面に形成された潜像を顕像化して、感光体ドラム822の表面にトナー像を形成する。
【0056】
感光体ドラム822の表面に形成されたトナー像は、感光体ドラム822と転写ローラ824との間において、転写ベルト825上に転写される。これにより、転写ベルト825上に、トナー画像が形成される。
【0057】
図8に示す例では、光学装置821、感光体ドラム822、現像ローラ823、および転写ローラ824は、4つの印刷色(Y,C,M,K)の各々に対して設けられている。これにより、転写ベルト825上には、各印刷色のトナー画像が形成される。
【0058】
搬送装置831は、用紙トレイ832から搬送路833へ、記録紙835を送出する。搬送路833に送出された記録紙835は、転写ベルト825と転写ローラ826との間に搬送される。これにより、転写ベルト825と転写ローラ826との間において、転写ベルト825上に形成された各印刷色のトナー画像が、記録紙835に転写される。その後、記録紙835は、定着装置827によって熱および圧力が加えられることにより、トナー画像が定着される。そして、記録紙835は、排紙トレイ834に搬送される。
【0059】
例えば、このように構成された画像形成装置800において、上記実施形態のモータシステム10(またはモータシステム10A)を適用して、各種ローラ(例えば、給紙ローラ、紙搬送ローラ等)を駆動するステッピングモータの動作を制御することにより、当該ステッピングモータのプリホールド時の各種不具合の発生を抑制することができる。
【0060】
〔第2実施例〕
図9は、本発明の第2実施例に係る搬送装置900の概略構成を示す図である。図9に示す搬送装置900は、用紙Pを搬送するための装置である。図9に示すように、搬送装置900は、ステッピングモータ12A、ステッピングモータ12B、搬送ローラ901、および搬送ローラ902を備えている。搬送ローラ901は、ステッピングモータ12Aの駆動により回転する。搬送ローラ902は、ステッピングモータ12Bの駆動により回転する。この搬送装置900は、搬送ローラ901と搬送ローラ902とが互いに同一の方向に回転することにより、ステッピングモータ12Aの出力トルクとステッピングモータ12Bの出力トルクとの合成トルクにより、用紙Pを搬送方向に搬送することができる。例えば、このように構成された搬送装置900において、上記実施形態のモータシステム10(またはモータシステム10A)を適用して、ステッピングモータ12Aおよびステッピングモータ12Bの各々の動作を制御することにより、当該ステッピングモータ12A,12Bのプリホールド時の各種不具合の発生を抑制することができる。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施形態および実施例について詳述したが、本発明はこれらの実施形態および実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形又は変更が可能である。
【0062】
例えば、上記第1,第2実施例では、本発明のモータシステムを画像形成装置,搬送装置に適用する例を説明したが、本発明のモータシステムは、モータによって何らかの駆動対象を駆動する構成を採用しているものであれば、如何なる装置にも適用することが可能である。
【0063】
一例として、本発明のモータシステムは、シート状のプリプレグや、紙幣等を搬送する搬送装置において、搬送ローラを駆動する構成に適用することができる。その他、本発明のモータシステムは、例えば自動車やロボットやアミューズメント機器等において、モータによって駆動される回転軸の回転運動により、動力を得ることを目的とする構成に適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 モータシステム
11 駆動装置
12 ステッピングモータ
100 上位コントローラ
110 ドライバ回路
201 制御信号生成部
202 駆動電流制御部
203 増幅部
204 高周波発生部
205 電流検出部
206 位置推定部
207 方式決定部
208 プリホールド実施制御部
800 画像形成装置
900 搬送装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0065】
【文献】特開2002-366001号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9