(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】複合タングステン酸化物粒子含有樹脂、複合タングステン酸化物粒子分散液および複合タングステン酸化物粒子分散粉
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20220119BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20220119BHJP
G02C 7/00 20060101ALI20220119BHJP
C01G 41/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
G02B5/22
G02C7/10
G02C7/00
C01G41/00 A
(21)【出願番号】P 2017139397
(22)【出願日】2017-07-18
【審査請求日】2020-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】町田 佳輔
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-042517(JP,A)
【文献】特開2017-106007(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035633(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/002763(WO,A1)
【文献】特開2015-189933(JP,A)
【文献】特開2010-164713(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0049466(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第106362731(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
G02C 7/10
G02C 7/00
C01G 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式M
x
WO
y
(但し、Mは、Cs、Rbから選択される1種類以上の金属元素、0.1≦x≦0.5、2.2≦y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の粒子が、樹脂中に分散している複合タングステン酸化物粒子含有樹脂であって、
前記樹脂中における前記複合タングステン酸化物の数平均粒子径が26nm以下であり、
さらに、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸エステル、リン酸基、リン酸エステル、スルホン酸基、スルホン酸エステル、チオール基、または、エポキシ基から選択される1種類以上の基を、官能基として有する分散剤を、含有しており、
前記分散剤は、示差熱・熱重量同時測定装置を用いて測定される熱分解温度が250℃以上ある分散剤であり(但し、前記熱分解温度とは、前記示差熱・熱重量同時測定装置を用いJIS K 7120:1987に準拠した測定において、当該分散剤の熱分解による重量減少が始まる温度である。)、
前記樹脂中における前記複合タングステン酸化物の含有量が、前記樹脂の投影面積あたり5.2g/m
2
以上であり、
波長800nmから1600nmの近赤外線領域における光学濃度(OD)の値が
2.8以上であることを特徴とする複合タングステン酸化物粒子含有樹脂。
【請求項2】
一般式M
x
WO
y
(但し、Mは、Cs、Rbから選択される1種類以上の金属元素、0.1≦x≦0.5、2.2≦y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の粒子が、樹脂中に分散している複合タングステン酸化物粒子含有樹脂であって、
前記樹脂中における前記複合タングステン酸化物の数平均粒子径が26nm以下であり、
さらに、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸エステル、リン酸基、リン酸エステル、スルホン酸基、スルホン酸エステル、チオール基、または、エポキシ基から選択される1種類以上の基を、官能基として有する分散剤を含有しており、
前記分散剤は、示差熱・熱重量同時測定装置を用いて測定される熱分解温度が250℃以上ある分散剤であり(但し、前記熱分解温度とは、前記示差熱・熱重量同時測定装置を用いJIS K 7120:1987に準拠した測定において、当該分散剤の熱分解による重量減少が始まる温度である。)、
前記樹脂中における前記複合タングステン酸化物の含有量が、前記樹脂の投影面積あたり
5.2g/m
2
以上14.0g/m
2以下であることを特徴とする複合タングステン酸化物粒子含有樹脂。
【請求項3】
前記樹脂が、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂から選択されるいずれか1種以上を含有することを特徴とする
請求項1または2に記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂。
【請求項4】
さらに、紫外線吸収剤を含有していることを特徴とする
請求項1から3のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂。
【請求項5】
さらに、酸化防止剤を含有していることを特徴とする
請求項1から4のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂。
【請求項6】
JIS R 3106:1998で算出される可視光透過率が10%以上であることを特徴とする
請求項1から5のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の樹脂層を有することを特徴とする近赤外線遮蔽レンズ。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の樹脂層、または、
請求項7に記載の近赤外線遮蔽レンズを有することを特徴とする近赤外線遮蔽眼鏡。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の樹脂層、または、
請求項7に記載の近赤外線遮蔽レンズを有することを特徴とする保護具。
【請求項10】
請求項1から6のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の樹脂層を有することを特徴とする近赤外線遮蔽窓材。
【請求項11】
請求項10に記載の近赤外線遮蔽窓材を有することを特徴とする近赤外線遮蔽器具。
【請求項12】
請求項1から6のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の樹脂層が、フィルム基板上に設けられていることを特徴とする近赤外線遮蔽フィルム。
【請求項13】
請求項1から6のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の樹脂層が、ガラス基板上に設けられていることを特徴とする近赤外線遮蔽ガラス。
【請求項14】
請求項1から6のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の樹脂層を製造する為に用いる複合タングステン酸化物粒子分散液であって、
前記複合タングステン酸化物粒子が、一般式M
x
WO
y
(但し、M元素は、Cs、Rbから選択される1種類以上の元素、0.1≦x≦0.5、2.2≦y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の粒子が、有機溶媒中に分散しており、
前記複合タングステン酸化物粒子の数平均粒子径が
26nm以下であり、
さらに、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸エステル、リン酸基、リン酸エステル、スルホン酸基、スルホン酸エステル、チオール基、または、エポキシ基から選択される1種類以上の基を、官能基として有する分散剤を含有しており、
前記分散剤は、示差熱・熱重量同時測定装置を用いて測定される熱分解温度が250℃以上ある分散剤である(但し、前記熱分解温度とは、前記示差熱・熱重量同時測定装置を用いJIS K 7120:1987に準拠した測定において、当該分散剤の熱分解による重量減少が始まる温度である。)、ことを特徴とする複合タングステン酸化物粒子分散液。
【請求項15】
請求項14に記載の複合タングステン酸化物粒子分散液から、前記有機溶媒が除去されたものであることを特徴とする複合タングステン酸化物粒子分散粉。
【請求項16】
前記複合タングステン酸化物粒子の数平均粒子径が
26nm以下であることを特徴とする
請求項15に記載の複合タングステン酸化物粒子分散粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として近赤外光の暴露から眼を保護する為に用いられる、複合タングステン酸化物粒子含有樹脂、当該複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の製造に用いることのできる複合タングステン酸化物粒子分散液、および複合タングステン酸化物粒子分散粉に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織は紫外光~可視光~近赤外光の各波長を持つ光(電磁波)から様々な影響を受ける。その影響は生体組織の部位によって異なるが、特に眼の組織では可視光線および近赤外線は網膜まで達する。この為、可視光線および近赤外線が、長時間または強い強度で眼の組織に作用したときは、虹彩、網膜などに重く持続的な障害を起こすことが知られている。一方、紫外線は角膜や水晶体で強く吸収される為、長時間または強い強度で眼の組織に作用したときには、眼炎、白内障などの障害を引き起こすことが知られている。
【0003】
例えば太陽光は、紫外光~可視光~近赤外光の各波長を持つ光を多く有している。この為、十分に遮蔽されていない一般的な屋外および屋内環境において、太陽光線は人の眼に対して上述した障害を引き起こす恐れがある。このような障害を避ける為、例えば車のドライバー、スポーツ選手、航空機パイロットなど強い太陽光線に長時間暴露される可能性のある者は、太陽光線から眼を保護するために、紫外光~可視光~近赤外光の各波長を持つ光を低減する層を有する眼鏡(アイウェア)を着用することがある。
【0004】
また、例えば紫外~可視光~近赤外光の各波長を持つレーザー(本発明において「レーザ」と記載する場合がある。)は、その強い強度から、太陽光線と同様あるいはより深刻に眼への障害を引き起こすことが知られている。
また、例えばガス溶接作業、ガス溶断作業、アーク灯または水銀灯などを用いる作業、赤外線灯または殺菌灯などを用いる作業、高炉・鋼片加熱炉・造塊などの作業においては、当該作業により発生する強力な光による眼への暴露により、眼に障害が引き起こされるおそれがあることが知られている。
このような強力な光に暴露される作業に携わる者もまた、紫外光~可視光~近赤外光の各波長を持つ光を低減する層を有する眼鏡(アイウェア)を着用するか、当該光を低減する層を窓(作業用覗き窓)として有する保護面等を用いることがある。
【0005】
上述した眼鏡(アイウェア)、保護面等において、近赤外光等から眼を保護するための部材として、これまでにも様々なものが提案されてきた。
例えばJIS T 8141:2003には、目に対して有害な紫外放射および近赤外放射並びに強烈な可視光を生じる場所において作業者の目を保護する為、各人が着用する遮光保護具について規定されている。またJIS T 8143:1994には、波長180nmから1mmまでのレーザー放射から作業者の目を保護する為に使用するレーザー保護フィルタおよびレーザー保護眼鏡について規定されている。
【0006】
さらに特許文献1には、より具体的な部材として、透明樹脂基板の両面に高屈折率の誘電体膜と低屈折率の誘電体膜とを交互に積層させた、多層膜の眼鏡レンズ用近赤外線フィルタが開示されている。
また特許文献2には、双眼鏡に様々なフィルターを取り付けるためのアダプタが開示され、当該フィルターとしてイエローガラス、熱線吸収ガラスおよびソーダライムガラスの少なくともいずれかから選ばれたガラスを用いることが開示されている。
また特許文献3には、レーザ光遮光用の第一レンズ要素と、防眩用の第二レンズ要素とを重ね合わせた保護眼鏡用レンズが開示されている。そして、当該レーザ光遮光用の第一レンズ要素は、紫外線波長域、可視光線波長域あるいは赤外線波長域において特定の波長を有するレーザ光線を選択的に吸収する吸収剤を含有すると共に、可視光線波長域において透明な基材であることが開示されている。
また特許文献4には、所定のアクリル樹脂、共重合可能な多官能単量体、油溶性染料および/または近赤外線吸収剤を重合してレンズを作製し、当該レンズを加工してなるレーザー保護眼鏡用レンズが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-161731号公報
【文献】国際公開第1998/058290号公報
【文献】特開2006-184596号公報
【文献】特開平4-353819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、これら先行技術について検討した。
すると、当該先行技術は近赤外光の遮光に関し[1]多層膜による光の反射、[2]有機色素による吸収、のいずれかの原理を利用したものであり、各々、課題を有するものであった。
以下、各々の原理と課題について説明する。
【0009】
[1]多層膜による光の反射
この原理は、屈折率の異なる2種類の層(即ち、高屈折率層と低屈折率層)を交互に積層するが、このとき1層あたりの厚みを[反射する光の波長]÷4とすることで、光の干渉効果により特定の波長の光のみを選択的に反射するものである。例えば、上述した先行技術文献のうち、特許文献1、2は、このような多層膜による光の反射を原理とした近赤外光の遮蔽を開示している。
【0010】
しかし、多層膜による光の反射は、一種類の層厚による積層構造では、特定の波長を中心とした狭い領域でしか光を反射することができないという問題点があった。この為、ある波長の近赤外光に対しては高い遮蔽性能を有しても、異なる波長の光に対してはほとんど遮蔽性能を有さないことがあった。ここで、積層数を上げることで反射する波長範囲を広くすることもできるが、工程が煩雑になりコストも上がる。
【0011】
また多層膜による光の反射を原理とする為、光の入射角が異なると干渉が生じる光路長が変化するため、干渉により反射される光の波長が、当初の設計と異なる波長へシフトしてしまう、という問題点も有していた。例えばレーザ保護眼鏡にこの原理を用いた場合、レーザの散乱光は眼鏡の正面からのみならず、意図しない角度から眼鏡に対して入射することが想定されるため、問題となることがあった。
【0012】
[2]有機色素による吸収
この原理は、基材に近赤外光を吸収する特性を有する有機色素を高濃度で含有させることで、特定の波長の光のみを選択的に吸収させるものである。例えば、上述した先行技術文献のうち特許文献3、4は、このような有機色素による吸収を原理とした近赤外光の遮蔽を開示している。
【0013】
しかし、有機色素による吸収は、当該有機色素が一般に非常に狭い波長範囲にしか吸収を持たないために、特定の波長を中心とした狭い領域でしか光を吸収することができないという問題点があった。この為、ある波長の近赤外光に対しては高い遮蔽性能を有しても、異なる波長の光に対してはほとんど遮蔽性能を有さないことがあった。さまざまな波長に対応した複数の有機色素を同時に含有させることで、波長範囲を広くする構成も考えられたが、工程が煩雑になりコストも上がる。さらに有機色素が可視光を同時に吸収するために、可視光透過率が低下するという問題があった。その上、有機色素の耐候性は一般に低く、使用される環境および時間によっては、有機色素の劣化により近赤外光に対する遮蔽性能が低下していくことがあった。
【0014】
本発明は上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、可視光透過率を保ちながら、波長800~1600nmの近赤外光に対して高い光学濃度(OD)を有し、レーザなどの強力な近赤外光であっても眼に対する影響を大幅に軽減することができるという優れた光学特性を発揮する樹脂、当該樹脂の層を有する近赤外線遮蔽レンズ、近赤外線遮蔽眼鏡、保護具、近赤外線遮蔽窓材、近赤外線遮蔽器具、および、近赤外線遮蔽フィルムやガラス、前記複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の製造に用いることのできる複合タングステン酸化物粒子分散液、および複合タングステン酸化物粒子分散粉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決する為、本発明者らが鋭意検討を行った結果、複合タングステン酸化物粒子を樹脂等の媒体に含有させることで、近赤外光に対して高い値の光学濃度を発揮する複合タングステン酸化物粒子含有樹脂(本発明において「MWO粒子含有樹脂」と記載する場合がある。)を得ることが実現可能であることを知見し、本発明を完成した。
【0016】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の金属元素を含む複合タングステン酸化物粒子が、樹脂中に分散している複合タングステン酸化物粒子含有樹脂であって、
波長800nmから1600nmの近赤外線領域における光学濃度(OD)の値が1.5以上であることを特徴とする複合タングステン酸化物粒子含有樹脂である。
第2の発明は、
Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の金属元素を含む複合タングステン酸化物粒子が、樹脂中に分散している複合タングステン酸化物粒子含有樹脂であって、
前記樹脂中における前記複合タングステン酸化物の含有量が、前記樹脂の投影面積あたり3.0g/m2以上14.0g/m2以下であることを特徴とする複合タングステン酸化物粒子含有樹脂である。
第3の発明は、
前記樹脂中における前記複合タングステン酸化物の数平均粒子径が、40nm以下であることを特徴とする第1または第2の発明に記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂である。
第4の発明は、
前記複合タングステン酸化物粒子が、一般式MxWOy(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の金属元素、0.1≦x≦0.5、2.2≦y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の粒子であることを特徴とする第1から第3の発明のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂である。
第5の発明は、
前記金属元素が、Csおよび/またはRbであることを特徴とする第1から第4の発明のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂である。
第6の発明は、
前記樹脂が、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂から選択されるいずれか1種以上を含有することを特徴とする第1から第5の発明のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂である。
第7の発明は、
さらに、紫外線吸収剤を含有していることを特徴とする第1から第6の発明のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂である。
第8の発明は、
さらに、酸化防止剤を含有していることを特徴とする第1から第7の発明のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂である。
第9の発明は、
さらに、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸エステル、リン酸基、リン酸エステル、スルホン酸基、スルホン酸エステル、チオール基、または、エポキシ基から選択される1種類以上の基を、官能基として有する分散剤を含有していることを特徴とする第1から第8の発明のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂である。
第10の発明は、
JIS R 3106:1998で算出される可視光透過率が10%以上であることを特徴とする第1から第9の発明のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂である。
第11の発明は、
第1から第10の発明のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の樹脂層を有することを特徴とする近赤外線遮蔽レンズである。
第12の発明は、
第1から第10の発明のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の樹脂層、または、第11の発明に記載の近赤外線遮蔽レンズを有することを特徴とする近赤外線遮蔽眼鏡である。
第13発明は、
第1から第10の発明のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の樹脂層、または、第11の発明に記載の近赤外線遮蔽レンズを有することを特徴とする保護具である。
第14の発明は、
第1から第10の発明のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の樹脂層を有することを特徴とする近赤外線遮蔽窓材である。
第15の発明は、
第14の発明に記載の近赤外線遮蔽窓材を有することを特徴とする近赤外線遮蔽器具である。
第16の発明は、
第1から第10の発明のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の樹脂層が、フィルム基板上に設けられていることを特徴とする近赤外線遮蔽フィルムである。
第17の発明は、
第1から第10の発明のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の樹脂層が、ガラス基板上に設けられていることを特徴とする近赤外線遮蔽ガラスである。
第18の発明は、
第1から第10の発明のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子含有樹脂の樹脂層を製造する為に用いる複合タングステン酸化物粒子分散液であって、
Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素を含む複合タングステン酸化物粒子が、有機溶媒中に分散しており、
前記複合タングステン酸化物粒子の数平均粒子径が、40nm以下であることを特徴とする複合タングステン酸化物粒子分散液である。
第19の発明は、
前記複合タングステン酸化物粒子が、一般式MxWOy(但し、M元素は、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素、0.1≦x≦0.5、2.2≦y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の粒子であることを特徴とする第18の発明に記載の複合タングステン酸化物粒子分散液である。
第20の発明は、
さらに、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸エステル、リン酸基、リン酸エステル、スルホン酸基、スルホン酸エステル、チオール基、または、エポキシ基から選択される1種類以上の基を、官能基として有する分散剤を含有していることを特徴とする第18または第19の発明に記載の複合タングステン酸化物粒子分散液である。
第21の発明は、
第18から第20の発明のいずれかに記載の複合タングステン酸化物粒子分散液から、前記有機溶剤が除去されたものであることを特徴とする複合タングステン酸化物粒子分散粉である。
第22の発明は、
前記複合タングステン酸化物粒子の数平均粒子径が40nm以下であることを特徴とする第21の発明に記載の複合タングステン酸化物粒子分散粉である。
第23の発明は、
さらに、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸エステル、リン酸基、リン酸エステル、スルホン酸基、スルホン酸エステル、チオール基、または、エポキシ基から選択される1種類以上の基を、官能基として有する分散剤を含有していることを特徴とする第21または第22の発明に記載の複合タングステン酸化物粒子分散粉である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い可視光透過率を保ちながら波長800~1600nmの近赤外光に対して高い光学濃度(OD)を有し、レーザなどの強力な近赤外光であっても眼に対する影響を大幅に軽減することができるという優れた光学特性を発揮するMWO粒子含有樹脂を提供することができる。また、当該MWO粒子含有樹脂を有する近赤外線遮蔽レンズ、近赤外線遮蔽眼鏡、保護具、近赤外線遮蔽窓材、近赤外線遮蔽器具、および、近赤外線遮蔽フィルムやガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】六方晶を有する複合タングステン酸化物の結晶構造の模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について[1]複合タングステン酸化物粒子含有樹脂とその構成成分、[2]複合タングステン酸化物粒子含有樹脂と当該樹脂を用いた樹脂層の製造方法、[3]複合タングステン酸化物粒子含有樹脂を用いた製品、の順に説明する。尤も、本発明は当該実施形態に制限されることはない。即ち、本発明の範囲を逸脱することなく、当該実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0020】
[1]複合タングステン酸化物粒子含有樹脂とその構成成分
本発明に係るMWO粒子含有樹脂は、複合タングステン酸化物粒子と、樹脂と、所望によりその他の成分とを含有する。
本発明に係るMWO粒子含有樹脂について、(1)本発明に係る複合タングステン酸化物粒子含有樹脂、(2)複合タングステン酸化物粒子、(3)樹脂、(4)その他の成分、(5)まとめ、の順に説明する。
【0021】
(1)本発明に係る複合タングステン酸化物粒子含有樹脂
本発明に係るMWO粒子含有樹脂は、複合タングステン酸化物粒子として一般式MxWOy(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素、0.1≦x≦0.5、2.2≦y≦3.0)で示される複合タングステン酸化物の粒子を含有している。
当該複合タングステン酸化物の粒子は、従来、日射遮蔽ウィンドウフィルムや日射遮蔽合わせ透明基材、日射遮蔽樹脂シートといった、近赤外光からの眼の保護という分野とは異なる日射遮蔽分野で用いられてきた。
【0022】
上述した日射遮蔽分野において、複合タングステン酸化物粒子は透明性を保ちつつ近赤外光を遮蔽する目的で用いられてきた。そして、当該日射遮蔽分野においては、近赤外光からの眼の保護という分野とは異なり、高い光学濃度は要求されなかった。具体的には、波長800nmから1600nmの近赤外光領域において、透過率を10%(光学濃度1.0に相当)以下、極端な例であっても1%(光学濃度2.0相当)以下程度に迄まで下げる水準であって、光学濃度として3以上の高い値が求められる例はなかった。
【0023】
複合タングステン酸化物が、低い光学濃度の領域でのみ用いられていた理由の一つは、所定波長の近赤外光の透過率が1%であれば、太陽光における当該所定波長の近赤外光のうち99%は遮蔽されていることになる。従って、これ以上光学濃度を上げたとしても、日射遮蔽分野における赤外線の遮蔽性能を示す指標の値は、ほとんど向上しない為であると考えられる。尚、日射遮蔽分野で赤外線の遮蔽性能を示す指標としては、例えばJIS R3106:1998で規定された日射透過率が挙げられる。
【0024】
また、低い光学濃度の領域においてのみ複合タングステン酸化物が用いられていたもう一つの理由は、複合タングステン酸化物の添加量を増やすことで、上述した日射遮蔽ウィンドウフィルムや日射遮蔽合わせ透明基材、日射遮蔽樹脂シートの透明性が失われると考えられていた為である。即ち、複合タングステン酸化物粒子を用いた場合、日射遮蔽分野で用いられるような低い光学濃度の領域においてさえ、複合タングステン酸化物の持つ可視光領域の吸収のために、膜は青い色味を帯びる。従って、さらに高い光学濃度を実現する為、複合タングステン酸化物の含有量を増加させた場合、可視光領域の吸収により可視光の透明性はさらに失われるものと考えられていた。その上、複合タングステン酸化物粒子による光の散乱(ミー散乱やレイリー散乱)も、また複合タングステン酸化物粒子の含有量の増加によって増加する為、当然、可視光の領域における透明性は失われるものと考えられていた。
【0025】
以上説明したように、複合タングステン酸化物粒子を用いた場合、可視光に対する透明性を保ちながら、日射遮蔽分野に求められる程度の低い光学濃度は実現できるものの、レーザ遮蔽分野で求められる高い光学濃度を実現することはできないというのが、従来の常識であった。
【0026】
しかし、本発明者らが鋭意検討を行った結果、複合タングステン酸化物粒子を、日射遮蔽分野で用いられる一般的な投影面積あたりの含有量をはるかに上回る添加量をもって、後述する樹脂等の媒体へ含有させることで、近赤外光に対して高い値の光学濃度を発揮するMWO粒子含有樹脂を実現可能であることを見出した。
【0027】
具体的には、複合タングステン酸化物を、投影面積あたり3.0~14.0g/m2という非常に高い添加量をもって樹脂等の媒体へ含有させた場合、波長800~1600nmの近赤外領域の範囲において、最小値でも1.5以上、最大値では8.0を超える光学濃度(OD)の値が実現可能であることを知見した。
【0028】
さらに驚くべきことに、上述した高い光学濃度の値を実現する迄に複合タングステン酸化物の含有量を高めた場合でも、可視光に対する透明性は十分に高い水準で保たれることが見出された。具体的には、JIS R 3106:1998で算出される可視光透過率が、例えば10~60%といった高い可視光透過率を保ったまま、上述した高い値の光学濃度(OD)を実現可能であることが見出されたのである。
【0029】
以上説明した本発明に係るMWO粒子含有樹脂は、近赤外領域の光の内、特定波長の光だけではなく、波長800~1600nmの幅広い領域に渡って高い光学濃度を有するといいう、従来の技術に係るレーザ遮蔽部材と比較して鮮烈な優位点を有している。
これは従来の技術に係るレーザ遮蔽部材が、上述したように多層膜による干渉や、有機色素による吸収といった、狭い波長範囲においてのみ遮蔽機能をもたらす原理に基づくものであったためである。これに対し本発明の複合タングステン酸化物粒子は、ナノ粒子中の自由電子による局在表面プラズモン共鳴という原理に基づいていることによるものである。
【0030】
この局在表面プラズモン共鳴という原理によれば、特定のフォトンエネルギー(すなわち、特定の光波長)を中心として、広いフォトンエネルギーの範囲(すなわち。広い光波長の範囲)に渡って光の吸収が実現される為、波長800~1600nmの近赤外光にわたる幅広い波長領域において、高い光学濃度の値を実現することができた為と考えられる。
また複合タングステン酸化物粒子は、局在表面プラズモン共鳴を持つ他の粒子と比較して、近赤外光の吸収に対する可視光の透明性が飛び抜けて高いために、波長800~1600nmの近赤外光にわたる幅広い領域において高い光学濃度を実現したにも拘らず、可視光領域においては、高い透過率を担保できたと考えられる。
【0031】
(2)複合タングステン酸化物粒子
本発明に係る複合タングステン酸化物粒子には、一般式MxWOy(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素、0.1≦x≦0.5、2.2≦y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の粒子を好ましく用いることができる。
尚、複合タングステン酸化物を示す化学式MxWOy中、Wはタングステン、Oは酸素を示している。また、上記式中の元素Mとしては上述のように、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Sn、Al、Cu、Naから選択される1種類以上の元素であることが好ましい。
【0032】
上述した本発明に係るMWO粒子含有樹脂は、当該複合タングステン酸化物粒子を含有することにより、赤外領域、特に近赤外領域の光の透過を抑制することができ、熱線遮蔽能を発揮することができる。また、可視領域の光の吸光係数が、近赤外領域の光の吸光係数と比較して非常に小さいため、近赤外領域の光の透過を十分に抑制したときでも、可視領域の光に対して高い透過性を保つことができる。
【0033】
本発明に係る複合タングステン酸化物は、上述したように一般式MxWOyで示され、タングステン酸化物(WOy)に元素Mを添加した組成を有している。
本発明の発明者らの検討によると、タングステン酸化物(WOy)も赤外線吸収特性を有している。しかし、タングステン酸化物の場合、例えば三酸化タングステン(WO3)中には有効な自由電子が存在しないため近赤外領域の吸収反射特性が少ない。ここで、タングステン酸化物(WOy)のタングステンに対する酸素の比率であるyの値を3未満とすることによって、当該タングステン酸化物中に自由電子を生成し、効率の良い赤外線吸収性粒子とすることができる。一方、WO2の結晶相は、可視領域の光に対して吸収や散乱を生じさせる為、可視光の透明性を損なう場合がある。
この為、タングステン酸化物の粒子の場合、WOyで示される化学式中のyの値が、2.2≦y<3.0を満たすことにより、WO2の結晶相が生じることを抑制し、効率の良い赤外線吸収性粒子とすることができる。
【0034】
また、タングステン酸化物の粒子において、yの値が2.45≦y<3.0で表される組成比を有する、所謂「マグネリ相」は化学的に安定であり、近赤外領域の光の吸収特性も良いので、赤外線吸収性粒子としてより好ましく用いることができる。
【0035】
そして、上述した本発明に係るMWO粒子含有樹脂で使用する複合タングステン酸化物においては、タングステン酸化物に元素Mを添加することにより、当該複合タングステン酸化物中に自由電子が生成され、近赤外領域に自由電子由来のより強い吸収特性が発現するものである。この結果、複合タングステン酸化物は、近赤外線を吸収する赤外線吸収性材料として特に高い特性を示す。
【0036】
複合タングステン酸化物においては、タングステン酸化物において説明した酸素量の制御と、自由電子を生成する元素Mの添加とを併用することで、より効率の良い赤外線吸収性材料とすることができる。当該酸素量の制御と、当該自由電子を生成する元素Mの添加とを併用する場合、複合タングステン酸化物を示す一般式MxWOyにおいて、0.1≦x≦0.5、2.2≦y≦3.0の関係を満たすことが好ましい。
【0037】
ここで、上述した複合タングステン酸化物の一般式において、元素Mの添加量を示すxの値について説明する。xの値が0.1以上の場合、十分な量の自由電子が生成され、目的とする赤外線吸収効果を得ることができるため好ましい。そして、元素Mの添加量が多いほど自由電子の供給量が増加し、赤外線吸収効率も上昇するが、xの値が0.5程度で当該効果も飽和する。また、xの値が0.5以下であれば、当該赤外線吸収性材料中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0038】
次に、酸素量の制御を示すyの値について説明する。yの値については、MxWOyで表記される赤外線吸収性材料においても、上述したタングステン酸化物(WOy)と同様の機構が働くことに加え、y=3.0においても上述した元素Mの添加量による自由電子の供給がある。この為、2.2≦y≦3.0が好ましい。特に、タングステン酸化物のマグネリ相について説明したように、化学的安定性の観点から2.45≦y≦3.0がより好ましい。
【0039】
複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物の結晶構造は、特に限定されるものではなく、任意の結晶構造の複合タングステン酸化物を含有することができきる。但し、複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合、当該粒子の可視領域の光の透過率、および近赤外領域の光の吸収が特に向上するため好ましい。
【0040】
係る六方晶を有する複合タングステン酸化物の結晶構造の模式的な平面図を
図1に示す。
図1において、符号1で示されるWO
6単位により形成される8面体が、6個集合して六角形の空隙(トンネル)が構成されている。そして、当該空隙中に、符号2で示される元素Mを配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。
【0041】
このように、複合タングステン酸化物粒子において、WO
6単位で形成される8面体が6個集合して六角形の空隙を構成し、当該空隙中に元素Mが配置した単位構造を含む複合タングステン酸化物を含有する場合、可視領域の光の透過率および近赤外領域の光の吸収を特に向上できる。尚、複合タングステン酸化物粒子全体が
図1に示した構造を有する結晶質の複合タングステン酸化物粒子により構成されている必要はなく、例えば局所的に係る構造を有する場合でも可視領域の光の透過率および近赤外領域の光の吸収を向上する効果を得ることができる。この結果、複合タングステン酸化物粒子全体としては、結晶質であっても非晶質であってもよい。
【0042】
そして、複合タングステン酸化物の元素Mとして、イオン半径の大きな元素Mを添加したときに上述の六方晶が形成され易い。具体的には元素Mとして例えばCs、Rb、K、Tlのうちの1種類以上を添加したとき六方晶が形成され易い。この為、元素MはCs、Rb、K、Tlのうちの1種類以上を含むことが好ましく、Cs、Rb、K、Tlのうちの1種類以上であることがより好ましい。尚、六方晶が形成されるためには、元素Mがこれら以外の元素であっても、WO6単位で形成される六角形の空隙に元素Mが存在できれば良く、元素Mとして上述した元素を添加した場合に限定される訳ではない。
【0043】
複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物の結晶構造を、均一な六方晶とする場合、元素Mの添加量を示すxの値が0.20≦x≦0.50を満たすことがより好ましく、0.25≦x≦0.40を満たすことがさらに好ましい。yの値については上述したように、2.2≦y≦3.0とすることが好ましい。尚、y=3.0の時、xの値が0.33となることで、元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0044】
また、複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物は、上述の六方晶以外に、正方晶、立方晶のタングステンブロンズといった構造をとることもできる。係る構造の複合タングステン酸化物も赤外線吸収性材料として有効であり、本発明に係るMWO粒子含有樹脂に添加する複合タングステン酸化物粒子を構成する複合タングステン酸化物として好適に用いることができる。
【0045】
複合タングステン酸化物はその結晶構造によって、近赤外領域の光の吸収位置が変化する傾向がある。例えば、近赤外領域の光の吸収位置は、立方晶よりも正方晶のときの方が長波長側に移動し、さらに六方晶のときは正方晶のときよりも長波長側に移動する傾向がある。また、当該光の吸収位置の変動に付随して、可視領域の光の吸収は六方晶が最も少なく、次に正方晶であり、立方晶はこれらの中では可視領域の光の吸収が最も大きい。従って、可視領域の光の透過率が高く、近赤外領域の光の吸収率が高いことが特に求められる場合には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。但し、以上に説明した光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加した元素Mの種類や、添加量、酸素量によっても変化する。この為、本発明に係るMWO粒子含有樹脂に用いる赤外線吸収性粒子の材料が、六方晶の複合タングステン酸化物に限定されるわけではない。
【0046】
本発明に係るMWO粒子含有樹脂に用いることのできる複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物の結晶構造は、上述したように特に限定されるものではない。例えば、異なる結晶構造の複合タングステン酸化物を同時に含んでいてもよい。
但し、上述したように六方晶の複合タングステン酸化物の粒子は可視光の透過率と、近赤外の光の吸収率とを高めることができる。この為、本発明に係るMWO粒子含有樹脂に含まれる複合タングステン酸化物粒子の複合タングステン酸化物は、六方晶の結晶系であることが好ましい。
【0047】
また、元素Mとして例えばCsおよび/またはRbを用いた場合、上述したように複合タングステン酸化物の結晶構造が六方晶となり易い。さらに、可視領域の光の透過率が高く、他方、赤外領域、特に近赤外領域の光の透過率が低くなる為、可視領域の光の透過率と、赤外領域の光の透過率とのコントラストが大きくなる。この為、複合タングステン酸化物を示す一般式MxWOyの元素Mが、Csおよび/またはRbであることがさらに好ましい。特に元素MがCsを含む場合、該複合タングステン酸化物の耐候性がより高くなることから、元素MはCsを含むことが特に好ましい。
【0048】
本発明に係る複合タングステン酸化物粒子の粒子径は特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。例えば本発明に係るMWO粒子含有樹脂、眼鏡、窓、多層フィルムの用途、使用目的により要求される近赤外領域の光の吸収の程度や、生産性等に基づいて選択することができる。
【0049】
さらに、本発明に係る複合タングステン酸化物粒子は、一般的な熱線遮蔽用途で用いる場合よりも微細な粒子径を持つことが好ましい。具体的には、熱線遮蔽用途の実施形態例において、複合タングステン酸化物粒子の数平均粒子径は1nm以上500nm以下であることが好ましいとされる。これは数粒子径が500nm以下であれば、粒子による強力な近赤外吸収を発揮でき、また数平均粒子径が1nm以上であれば、工業的な製造が容易であるからである。
【0050】
これに対し、本発明に係る複合タングステン酸化物粒子の投影面積あたりの添加量は、前記熱線遮蔽用途の実施形態における投影面積あたりの使用量と比較して非常に多い。そこで、複合タングステン酸化物粒子の粒子径を微細にすることによって、複合タングステン酸化物粒子に起因するミー散乱およびレイリー散乱による光の散乱を抑制する。そして、当該光の散乱の抑制により可視光に対する透明性を担保し、本発明に係るMWO粒子含有樹脂が、実質的に透明性を発揮するものである。
【0051】
以上の理由により、本発明に係る複合タングステン酸化物粒子は数平均粒子径が1nm以上40nm以下であることが好ましい。熱線遮蔽粒子の数平均粒子径が40nm以下の場合、本実施形態のように複合タングステン酸化物粒子の投影面積あたりの含有量が多い場合でも、粒子のミー散乱およびレイリー散乱による光の散乱が十分に抑制され、可視光波長領域の視認性を保持し、同時に効率よく透明性を保持することができるからである。特に透明性が求められる用途に使用する場合は、さらに散乱を抑制するため、熱線遮蔽粒子の数平均粒子径は、30nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがさらに好ましい。
【0052】
尚、複合タングステン酸化物粒子の数平均粒子径は、当該複合タングステン酸化物粒子の分散液を観察用試料台(メッシュ)に滴下した後、乾燥させ、透過型電子顕微鏡(TEM、HF-220、日立製)で観察した。平均粒子径は、観察された倍率5万倍のTEM像において、複合タングステン酸化物粒子100個の粒子径を計測し、その平均値とした。
【0053】
以上、説明したように、光の散乱を回避する観点からは、複合タングステン酸化物粒子の数平均粒子径は小さい方が好ましい。但し、複合タングステン酸化物粒子の数平均粒子径が所定値であることにより、MWO粒子含有樹脂を製造する際の取り扱いが容易になる場合や、MWO粒子含有樹脂内で凝集を回避できる場合がある為、当該複合タングステン酸化物粒子の数平均粒子径は1nm以上であることが好ましい。
【0054】
MWO粒子含有樹脂に含まれる複合タングステン酸化物粒子の量(含有量)は、例えばMWO粒子含有樹脂の投影面積における単位面積あたりの含有量が3.0g/m2以上14.0g/m2以下とすることが好ましく、4.0g/m2以上14.0g/m2とすることがより好ましい。当該単位面積あたりの含有量を3.0g/m2以上とすることで、近赤外の領域に高い光学濃度を実現することができる。一方、当該単位面積あたりの含有量を14.0g/m2以下とすることで、複合タングステン酸化物粒子の持つ可視光の吸収や散乱によって、可視光の透過性が失われるのを防ぐことが出来る。
【0055】
(3)樹脂
本発明に係るMWO粒子含有樹脂に用いる樹脂は、任意の樹脂を用いることができる。尤も、本発明に係るMWO粒子含有樹脂の用途を鑑みれば、十分な透明性を持った樹脂であることが望ましい。また加工性を考慮すると、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
具体的には、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アイオノマー樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、という樹脂群から選択される1種の樹脂、または当該樹脂群から選択される2種以上の樹脂の混合物、または当該樹脂群から選択される2種以上の樹脂の共重合体から、好ましい樹脂の選択を行うことができる。
なかでも透明性が高く、かつ剛性、軽量性、長期耐久性、コストなどの面を考慮すると、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂から選択される1種の樹脂、または当該樹脂群から選択される2種以上の樹脂の混合物、または当該樹脂群から選択される2種以上の樹脂の共重合体であることが好ましい。
【0056】
本発明に係るMWO粒子含有樹脂に用いるポリカーボネート樹脂としては、2価フェノール類とカーボネート系前駆体とを、溶液法または熔融法で反応させることによって得られるものが好ましい。当該2価フェノールとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が代表例として挙げられる。
また、当該2価フェノールとして、ビス(4-ヒドロキシフェニル)のアルカン系があり、特にビスフェノールAを主成分とするものが好ましい。
【0057】
(4)その他の成分
本発明に係るMWO粒子含有樹脂には、上述した複合タングステン酸化物、および樹脂成分以外にも、さらに任意の成分を添加することができる。任意に添加できる成分の例として、(i)分散剤、(ii)紫外線吸収剤、(iii)ヒンダードアミン系光安定化剤、(iv)酸化防止剤、(v)その他の添加成分がある。これらの成分について以下に説明する。
【0058】
(i)分散剤
本発明に係るMWO粒子含有樹脂へ、上述した複合タングステン酸化物粒子を均一に分散させる為に分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては特に限定されるものではなく、MWO粒子含有樹脂の製造条件等に応じて任意に選択することができる。
例えば、示差熱・熱重量同時測定装置(本発明において「TG-DTA」と記載する場合がある。)を用いて測定される熱分解温度が250℃以上ある分散剤であることが好ましい。上述した熱分解温度は300℃以上あることがより好ましい。ここで、熱分解温度とはTG-DTAを用いJIS K 7120:1987に準拠した測定において、当該分散剤の熱分解による重量減少が始まる温度である。
【0059】
分散剤の熱分解温度が250℃以上の場合、樹脂成分との混練時に分散剤が分解することを抑制でき、分散剤の分解に起因したMWO粒子含有樹脂の褐色着色、可視光透過率の低下等を抑制し、本来の光学特性が得られない事態をより確実に回避できるためである。
また分散剤は、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸エステル、リン酸基、リン酸エステル、スルホン酸基、スルホン酸エステル、チオール基、または、エポキシ基から選択される1種類以上を官能基として有することが好ましい。上述のいずれかの官能基を有する分散剤は、複合タングステン酸化物粒子の表面に吸着し、複合タングステン酸化物粒子の凝集を防ぎ、MWO粒子含有樹脂中で複合タングステン酸化物粒子をより均一に分散させることができるため、好適に用いることができる。
さらに当該分散剤は主鎖として、アクリル、スチレン、ウレタン、ポリエチレン、エステル、ポリエチレンイミンからなる主鎖、または、これらの構造から選択される二種類以上の共重合からなる主鎖を有することが好ましい。これは、上述したいずれかの主鎖を有する分散剤は、立体障害により複合タングステン酸化物粒子の凝集を防ぐとともに、インクの溶媒や樹脂に相溶し、樹脂中へ複合タングステン酸化物粒子をより均一に分散させることができる為である。なかでも主鎖が、ポリエステルおよびポリエチレンイミンであると、主鎖構造中に複合タングステン酸化物粒子に対する吸着性を有する構造を有する為、複合タングステン酸化物粒子の凝集を防ぎ、MWO粒子含有樹脂中で複合タングステン酸化物粒子をより均一に分散させることが出来る為、さらに好適である。
また当該分散剤は、必要に応じて2種類以上を併用することも好ましい構成である。
【0060】
上述のいずれかの官能基を有する分散剤としては具体的には例えば、カルボキシル基を官能基として有するアクリル-スチレン共重合体系分散剤、アミンを含有する基を官能基として有するアクリル系分散剤等が挙げられる。また、カルボキシル基などの官能基を有したアクリル樹脂なども使用できる。
官能基にアミンを含有する基を有する分散剤では分子量Mw2000~200000、アミン価5~100mgKOH/gのものが好ましい。また、カルボキシル基を有する分散剤では分子量Mw2000~200000、酸価1~50mgKOH/gのものが好ましい。
【0061】
分散剤の添加量は特に限定されるものではないが、例えば複合タングステン酸化物粒子100質量部に対し10質量部以上1000質量部以下となるように添加することが好ましく、30質量部以上400質量部以下となるように添加することがより好ましい。
分散剤の添加量が上記範囲にあれば、複合タングステン酸化物粒子をより確実に樹脂中に均一に分散でき、得られるMWO粒子含有樹脂の物性に悪影響を及ぼすことがないからである。
【0062】
上述した分散剤の市販品における具体例としては、ADEKA社製アデカコール(登録商標)TS-230E、CS-141E、CS-1361E、PS-984、PS-440E、PS-807、日油社製ポリスター(登録商標)OM、OMR、OMP、A-1060、SMX-1H、OMA、OMA-500、マリアリム(登録商標)AKM-0531、AKM-1511-60、AFB-1521、AAB-0851、AWS-0851、HKM-50A、ナイミーン(登録商標)L-201、L-202、マープルーフ(登録商標)G-0150M、G-0115S、G-0250S、G-0130S-P、G-1010S、味の素社製アジスパー(登録商標)PB-711、PB-821、PB-822、PB-881、PN-411、PA-111、楠本化成社製ディスパロン(登録商標)1210、2150、KS-860、KS-873N、7004、1830、1850、1860、DA-1401、PW-36、DN-900、DA-1200、DA-550、DA-7301、DA-325、DA-375、DA-234、ルーブリゾール社製SOLSPERSE(登録商標)3000、5000、9000、11200、12000、13240、13350、13940、16000、17000、18000、20000、21000、22000、24000SC、24000GR、26000、27000、28000、31845、32000、32500、32550、32600、33000、34750、35100、35200、36000、36600、37500、38500、39000、41000、41090、43000、44000、46000、47000、53095、54000、55000、56000、71000、76500、Solplus(登録商標)D510、D520、D530、D540、L300、L400、K200、K210、K500、C800、C825、DP310、DP320、DP330、R700、東亞合成社製レゼダ(登録商標)GP-301、アルフオン(登録商標)UF-5022、UF-5080、UC-3000、UC-3910、UC-3920、UG-4030、UG-4040、UG-4070、ビックケミー社製Disperbyk(登録商標)101、108、102、103、106、109、110、111、112、116、130、140、142、145、160、161、162、163、164、166、167、168、170、171、171、174、180、181、182、183、184、185、187、190、191、192、193、194、2000、2010、2020、2025、2050、2070、2090、2091、2095、2096、2150、2155、2163、2164、BYK(登録商標)P104、P104S、P105、154、9076、9076、P9077、220S、W980、W985、BASF社製EFKA(登録商標)2020、2025、2720、3030、3031、3236、4008、4009、4010、4015、4020、4046、4047、4050、4055、4060、4080、4300、4310、4400、4401、4402、4403、4510、4520、4550、4560、4570、4580、4590、6230、7414、8215、ジョンクリル(登録商標)J-67、J-586、J-587、J-611、J-680、J-690、J-810、JDX-C3000、JDX-C3020などを挙げることができる。
【0063】
(ii)紫外線吸収剤
本発明に係るMWO粒子含有樹脂へは、紫外線吸収剤を添加することが好ましい。
上述したように、本発明に係るMWO粒子含有樹脂の樹脂と当該樹脂を用いた樹脂層(本発明において「樹脂等」と記載する場合がある。)は複合タングステン酸化物粒子を含有しているため、主に近赤外領域の光の透過を抑制し、かかる有害光から目を保護することができる。
そして、MWO粒子含有樹脂へさらに紫外線吸収剤を添加することで、紫外領域の光をさらにカットすることが可能となり、有害光の抑止効果を更に高めることができる。
また、複合タングステン酸化物粒子を樹脂中に含有するMWO粒子含有樹脂の樹脂等は、強力な紫外線の長期暴露により透過率が低下することがあるが、紫外線吸収剤を添加することで、係る透過率の低下を抑制することができる。さらに、MWO粒子含有樹脂の分散媒体である高分子そのものが、紫外線の長期暴露により黄変などの劣化を起こすおそれがあるが、さらに紫外線吸収剤を添加することで、かかる高分子の黄変などの劣化を抑制することができる。
【0064】
紫外線吸収剤としては特に限定されるものではなく、MWO粒子含有樹脂の可視光透過率等に与える影響や、紫外線吸収能、耐久性等に応じて任意に選択することができる。
紫外線吸収剤としては例えば、ベンゾフェノン化合物、サリチル酸化合物、ベンゾトリアゾール化合物、トリアジン化合物、ベンゾトリアゾリル化合物、ベンゾイル化合物等の有機紫外線吸収剤や、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機紫外線吸収剤等が挙げられる。特に紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物から選択される1種以上を含有することが好ましい。これは、ベンゾトリアゾール化合物およびベンゾフェノン化合物は、紫外線を十分に吸収するだけの濃度を添加した場合でもMWO粒子含有樹脂の可視光透過率を非常に高くすることができ、かつ強力な紫外線の長期暴露に対する耐久性が高いためである。
【0065】
MWO粒子含有樹脂の樹脂等における紫外線吸収剤の含有率は特に限定されるものではなく、樹脂等に要求される可視光透過率や、紫外線遮蔽能等に応じて任意に選択することができる。樹脂等における紫外線吸収剤の含有率は例えば、0.02質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。これは紫外線吸収剤の含有率が0.02質量%以上であれば、複合タングステン酸化物粒子で吸収しきれない紫外光を十分に吸収することができるためである。また含有率が5.0質量%以下であれば、樹脂等中で紫外線吸収剤が析出することがなく、また膜の強度や耐貫通性に大きな影響を与えないためである。
【0066】
(iii)ヒンダードアミン系光安定化剤
また、MWO粒子含有樹脂の樹脂等はさらにヒンダードアミン系光安定化剤(本発明において「HALS」と記載する場合がある。)を含有することもできる。
上述の通り、樹脂等へ紫外線吸収剤を添加することで、本発明に係るMWO粒子含有樹脂の紫外線吸収能力を高めることができる。しかし本発明に係るMWO粒子含有樹脂が使用される環境、あるいは紫外線吸収剤の種類によっては、長時間の使用に伴って紫外線吸収剤自体が劣化し、紫外線吸収能力が低下してしまうことがある。これに対して、樹脂等へHALSを添加することにより、紫外線吸収剤の劣化を防止し、本発明に係るMWO粒子含有樹脂の紫外線吸収能力の維持に寄与することができる。
また上述の通り、強力な紫外線の長期暴露により、樹脂等中に分散した複合タングステン酸化物粒子の透過率が低下することがある。しかし、当該樹脂等にHALSを添加することでも、紫外線吸収剤を添加した場合と同様に、本発明に係るMWO粒子含有樹脂の樹脂等における透過率の低下を抑制することができる。
【0067】
さらにHALSにおいては、それ自体が紫外線の吸収能力をもつ化合物がある。この場合、当該化合物の添加によって、上述した紫外線吸収剤の添加による効果と、HALSの添加による効果を兼ね備えることができる。
【0068】
HALSの種類としては特に限定されるものではなく、樹脂等の可視光透過率等に与える影響や、紫外線吸収剤との相性、耐久性等に応じて任意に選択することができる。例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケード、1-[2-[3-(3,5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ[4,5]デカン-2,4-ジオン、ビス-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロネート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、(Mixed 1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル/トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、Mixed{1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル/β,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエチル}-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、(Mixed 2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル/トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、Mixed{2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル/β,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエチル}-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、ポリ[(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノール]、ジメチルサシネートポリマ-with-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノール、N,N’,N’’,N’’’-テトラキス-(4,6-ビス-(ブチル-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-トリアジン-2-イル)-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン、ジブチルアミン-1,3,5-トリアジン-N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステル等を好適に用いることができる。
【0069】
MWO粒子含有樹脂の樹脂等中のHALSの含有率は特に限定されるものではなく、当該樹脂等に要求される可視光透過率や耐候性等に応じて任意に選択することができる。
当該樹脂等中のHALSの含有率は例えば、0.05質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。これはHALSの含有率が0.05質量%以上であれば、前記HALSの添加による効果を樹脂等中で十分に発揮することができるためである。また含有率が5.0質量%以下であれば、樹脂等中でHALSが析出することがなく、また膜の強度や耐貫通性に大きな影響を与えないためである。
【0070】
(iv)酸化防止剤
MWO粒子含有樹脂の樹脂等はさらに酸化防止剤(抗酸化剤)を含有することもできる。
当該樹脂等への酸化防止剤の添加により、当該樹脂等の酸化劣化を抑制し、さらに耐候性を向上させることができる。また、当該樹脂等中に含有される他の添加剤、例えば複合タングステン酸化物、紫外線吸収剤、HALSや、後述する染料化合物、顔料化合物、カップリング剤、界面活性剤、帯電防止剤等の酸化劣化を抑制し、耐候性を向上させることができる。
【0071】
酸化防止剤としては特に限定されるものではなく、樹脂等の可視光透過率等に与える影響や、所望する耐久性等に応じて任意に選択することができる。例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤およびリン系酸化防止剤等を好適に用いることができ、さらに具体的には、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス-(4-メチル-6-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス-(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデン-ビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス-(2-メチル-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,3-トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェノール)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス(3,3’-t-ブチルフェノール)ブチリックアッシドグリコールエステル、トリフェニルホスフィン、ビス-(ジフェニルホスフィノエタン)、トリナフチルホスフィン、トリス(2,4-ジ-Tert-ブチルフェニル)ホスファイト等を好適に用いることができる。
【0072】
樹脂等中の酸化防止剤の含有率は特に限定されるものではなく、樹脂等に要求される可視光透過率や耐候性等に応じて任意に選択することができる。樹脂等中の酸化防止剤の含有率は例えば、0.05質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。これは酸化防止剤の含有率が0.05質量%以上であれば、前記酸化防止剤の添加による効果を樹脂等中で十分に発揮することができるためである。また含有率が5.0質量%以下であれば、樹脂等中で酸化防止剤が析出することがなく、また膜の強度や接着力、耐貫通性に大きな影響を与えないためである。
【0073】
(v)その他の添加成分
以上、任意の添加成分として、分散剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定化剤(HALS)、酸化防止剤について説明したが、他種の添加剤を配合することも可能である。
例えば、所望により任意の色調を与えるための、アゾ系染料、シアニン系染料、キノリン系、ペリレン系染料、カーボンブラック等、樹脂の着色に利用することができる染料化合物、顔料化合物を添加しても良い。
その他の添加剤としても、例えば、カップリング剤、界面活性剤、帯電防止剤等を添加することもできる。
【0074】
(5)まとめ
以上に説明したMWO粒子含有樹脂を用いた樹脂等は、可視光の透明性と近赤外光の遮蔽性とが高いものである。
尤も、当該樹脂等に要求される可視光の透明性や近赤外光の遮蔽性の程度は、予め限定されるものではなく、当該樹脂等の用途等に応じて適宜定められるものである。例えば、当該樹脂等を窓材等の用途に用いる場合、人間の眼に対する光の透過性を保つ観点からは可視光透過率が高いほうが好ましい。また当該樹脂等を、アーク溶接切断作業、ガス溶接・切断作業、レーザ実験等による近赤外光の入射を低減する用途に用いる場合、人間の眼を有害光線から保護する観点から光学濃度が高いことが好ましい。
そして、当該樹脂等の可視光の透明性と、近赤外光の遮蔽性とは、それぞれ可視光透過率と、光学濃度とにより評価を行うことができる。
【0075】
[2]複合タングステン酸化物粒子含有樹脂と当該樹脂を用いた樹脂等の製造方法
本発明に係るMWO粒子含有樹脂と、当該MWO粒子含有樹脂を用いた樹脂等の製造方法について、一例を挙げながら説明する。尚、以下説明する樹脂等の製造方法において、一般的な樹脂等の製造方法であって公知の部分については説明を省略している。
本発明に係るMWO粒子含有樹脂の樹脂等の製造方法は、例えば、以下の工程を有する。
(1)分散液製造工程:本発明に係るMWO粒子と分散剤とを有機溶剤に分散させて、本発明に係るMWO粒子分散液を製造する工程である。
(2)分散粉製造工程:分散液製造工程で製造された本発明に係るMWO粒子分散液から有機溶剤を除去することで、本発明に係るMWO粒子分散粉(本発明において「分散粉」と記載する場合がある。)を製造する工程である。
(3)樹脂の混練工程:本発明に係るMWO粒子分散粉と所定の樹脂とを混練し、本発明に係るMWO粒子含有樹脂を製造する工程である。
(4)樹脂の成形工程:本発明に係るMWO粒子含有樹脂を、各種所定の樹脂等や樹脂成形体へ成形する工程である。
【0076】
尚、「(2)分散粉製造工程」を実施することなく、「(1)分散液製造工程」で製造した分散液を「(3)樹脂の混練工程」に供し、当該樹脂の混練工程において、MWO粒子分散液と樹脂とを混練することもできる。この場合、当該混練工程において、樹脂中へMWO粒子を均一に分散させるのと同時に、有機溶剤を除去することができる。但し、多量の有機溶剤や気泡が樹脂等に残留することを回避する観点、および200℃を超える樹脂混練の高温に多量の有機溶剤が晒される際の安全上確保の観点、に留意することが求められる。
【0077】
本発明に係るMWO粒子含有樹脂の樹脂等の製造方法における(1)分散液製造工程、(2)分散粉製造工程、(3)樹脂の混練工程、(4)樹脂の成形工程、の各工程について説明する。
(1)分散液製造工程
分散液製造工程は、MWO粒子と分散剤とを、有機溶剤に添加・混合し、一般的な分散方法を用いてMWO粒子の有機溶剤分散液を得る工程である。
分散方法としては特に限定されるものではないが、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散、ペイントシェーカーなどの分散方法を用いることができる。
当該分散液製造工程で好適に用いることができるMWO粒子、および分散剤については、「[1]複合タングステン酸化物粒子含有樹脂とその構成成分、(1)本発明に係る複合タングステン酸化物粒子含有樹脂」の欄にて説明したものを用いる。
【0078】
また、分散液製造工程で用いる有機溶剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、120℃以下の沸点をもつものを好ましく使用できる。これは沸点が120℃以下であれば、後工程である分散粉製造工程等で当該有機溶剤を容易に除去できるためである。分散粉製造工程等において有機溶剤の除去が迅速に進むことにより、MWO粒子分散粉の生産性を向上させることができる。さらに、分散粉の製造工程が容易かつ十分に進行するので、製造されるMWO粒子分散粉体中に過剰な有機溶剤が残留するのを回避できる。この結果、成形工程において樹脂等内に気泡が発生する等の不具合が発生することをより確実に回避できる。
【0079】
有機溶剤の具体例としては、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、エタノール等を好適に用いることができるが、これらに限定されるものではない。沸点が120℃以下で、かつ複合タングステン酸化物粒子を均一に分散可能なものであれば、好適に用いることができる。
有機溶剤の添加量については特に限定されるものではなく、MWO粒子および分散剤の添加量に応じて分散液を形成できるように、任意にその添加量を選択することができる。
【0080】
尚、分散剤の添加量は上述したように、特に限定されるものではない。例えばMWO粒子100質量部に対し10質量部以上1000質量部以下となるように添加することが好ましく、30質量部以上400質量部以下となるように添加することがより好ましい。
分散剤の添加方法は、分散液製造工程において分散液を製造する際に全量を添加する必要はない。例えば分散液の粘度等を考慮して、分散剤の全添加量のうち一部とMWO粒子と有機溶剤とを混合物とし、既述の分散方法により分散液を形成した後、残部の分散剤を添加してもよい。
【0081】
(2)分散粉製造工程
分散粉製造工程は、MWO粒子と分散剤とを有機溶剤に分散した分散液に対し、所望によりさらに適量の分散剤を添加した後、当該有機溶剤を除去することで、MWO粒子分散粉を製造するものである。
MWO粒子と分散剤とを有機溶剤に分散した分散液から、有機溶剤を除去する方法としては特に限定されないが、例えば減圧乾燥を好ましく用いることができる。具体的には、MWO粒子と分散剤とを有機溶剤に分散した分散液を攪拌しながら減圧乾燥して、MWO粒子分散粉と有機溶剤成分とを分離できる。減圧乾燥に用いる装置としては、例えば真空攪拌型の乾燥機が挙げられるが、上記機能を有する装置であれば良く、特に限定されない。また、有機溶剤を除去する際の具体的な減圧の圧力は限定されず、適宜選択できる。
【0082】
当該分散粉製造工程において、減圧乾燥法を用いることで有機溶剤の除去効率が向上するとともに、製造されるMWO粒子分散粉が長時間高温に曝されることがないので、製造されるMWO粒子分散粉の凝集が起こらず好ましい。さらに生産性も上がり、蒸発した有機溶剤を回収することも容易で、環境的配慮からも好ましい。
【0083】
(3)樹脂の混練工程
混練工程は、分散粉製造工程で得られたMWO粒子分散粉と樹脂とを混練し、MWO粒子含有樹脂を得るものである。
当該混練工程において、必要に応じて紫外線吸収剤や、HALS、酸化防止剤、赤外線吸収性有機化合物等その他の添加剤を添加し、あわせて混練してMWO粒子含有樹脂を得ることもできる。尚、これらの添加剤等を添加するタイミングは特に限定されるものではなく、例えば分散液製造工程等、他の工程において添加することもできる。混練方法は特に限定されるものではなく、公知の樹脂混練方法を任意に選択して用いることができる。
【0084】
(4)樹脂の成形工程
成形工程は、混練工程で得られたMWO粒子含有樹脂を成形し各種の成形体を得る工程である。
成形方法は特に限定されるものではなく、製造する成形体の厚さ等のサイズや形状、混練物の粘度等に応じて任意に選択することができる。例えば、押出成形法、カレンダー成形法等成形方法を採用することができる。
また、成形体の形状は特に限定されるものではなく、要求される形状に応じて選択することができ、例えばシート状、ボード状、またはフィルム状の成形体に成形することができる。成形体を例えば眼鏡のレンズとする場合、所望するレンズの形状に加工し、また公知の方法により他のレンズ要素と張り合わせた多層レンズを製造することもできる。
【0085】
[3]複合タングステン酸化物粒子含有樹脂を用いた製品
本発明に係るMWO粒子含有樹脂の樹脂等の使用形態は特に限定されるものではない。
例えば、有害光線から保護するための溶接用保護面や遮光保護具等の保護具、レーザ光から保護するためのレーザ用保護メガネ、一般的なサングラス等の眼鏡に使用できる。ここで、レーザ用保護メガネや一般的なサングラス等は、視力矯正用の度付きのもの、および、度無しのものを含む。
ここで、本発明に係るMWO粒子含有樹脂の樹脂等を成形して、上述した保護具、眼鏡等とすることが出来る。また、透明基材の上に、本発明に係るMWO粒子含有樹脂の樹脂等を成形して得たフィルムや樹脂膜を設けて、上述した保護具、眼鏡等とすることも出来る。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例、比較例における試料の評価方法について、(1)数平均粒子径、(2)可視光透過率、光学濃度、の順に説明する。
【0087】
(1)数平均粒子径
微粒子分散液中における複合タングステン酸化物粒子の数平均粒子径は、当該分散液を観察用試料台(メッシュ)に滴下した後、乾燥させ、透過型電子顕微鏡(TEM、HF-220、日立製)でTEM像を観察して測定した。数平均粒子径は、倍率5万倍のTEM像において、複合タングステン酸化物粒子100個の粒子径を計測し、その平均値として求めた。
【0088】
(2)可視光透過率、光学濃度
本発明に係るMWO粒子含有樹脂の樹脂等および多層フィルムの可視光透過率は、分光光度計(株式会社日立製作所製 型式:UH-4150)を用いて測定した、波長380nm~780nmの透過率から、JIS R 3106:1998に基づいて算出した。
【0089】
本発明に係るMWO粒子含有樹脂の樹脂等および多層フィルムの光学濃度(OD)は、可視光透過率と同様に分光光度計を用いて測定した、波長800~1600nmの透過率から、以下の式に基づいて算出した。
ここでOD(λ)は波長λでの光学濃度、T(λ)は波長λでの透過率(0~100%)である。
尚、測定装置の限界により、この方法では8.0より大きい光学濃度を具体的に測定することが困難である。そこで本発明において、樹脂等および多層フィルムが8.0を超える光学濃度を持つと算出された場合、単に「8.0より大きい」あるいは「>8.0」と記載する。
【0090】
[実施例1]
複合タングステン酸化物粒子としてCs0.33WO3粒子(本発明において「粒子a」と記載する場合がある。)を20質量部、官能基としてアミンを含有する基とアクリル主鎖を有する分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃)(本発明において「分散剤a」と記載する場合がある。)を10質量部、有機溶剤であるメチルイソブチルケトン(沸点116.2℃)70質量部となるように秤量した。これらの原料を、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、10時間粉砕・分散処理し、粒子aの分散液(本発明において「粒子分散液a」と記載する場合がある。)を得た。尚、粒子aについて予め粉末X線回折測定を行ったところ、六方晶のCs0.33WO3を含んでいることが確認された。
【0091】
ここで、粒子分散液a内における粒子aの数平均粒子径を上述の方法で測定したところ22nmであった。尚、以後の工程では粉砕処理等、粒子aの数平均粒子径が変化する操作を行わないことから、当該数平均粒子径をもって実施例1に係るMWO粒子含有樹脂の樹脂等中における粒子aの数平均粒子径とした。
【0092】
分散液中の粒子aに対する分散剤aの質量比率が[複合タングステン酸化物]/[分散剤]=100/200となるように、粒子分散液aに対して分散剤aを添加した後、十分に混合した。尚、上記式中の分散剤aの質量は、粒子分散液aを製造する際、すなわち分散液製造工程で添加した分散剤aの質量と、粒子分散液aを製造後に添加した分散剤aの質量との和を示している。
【0093】
次いで、得られた混合液を攪拌型真空乾燥機へ装填した。
そして、攪拌型真空乾燥機により常温で減圧乾燥を行ってメチルイソブチルケトンを除去し、粒子aの分散粉(本発明において「分散粉a」と記載する場合がある。)を得た。得られた分散粉a中のメチルイソブチルケトン含有量は2.9質量%であった。
【0094】
アクリル樹脂のペレットであるアクリペットVH000(三菱レイヨン製。本発明において「アクリル樹脂A」と記載する場合がある。)と分散粉aとを秤量し、十分に混合した。混合の比率は、実施例1に係るMWO粒子含有樹脂中における最終的な複合タングステン酸化物微粒子の投影面積あたり含有量が、後述する値になるよう調整した。
得られたアクリル樹脂のペレットと、分散粉aとの混合物を260℃に設定した二軸押出機に供給して、混練を行った後、Tダイから押し出しカレンダーロール法により2.0mm厚のシート状に成形した。これにより実施例1に係るMWO粒子含有樹脂の樹脂層(本発明において「樹脂層A」と記載する場合がある。)を得た。尚、作製した樹脂層Aの投影面積における単位面積あたりの複合タングステン酸化物粒子の含有量は3.1g/m2となっている。
以上の製造条件を表1に示した。
【0095】
樹脂層Aの可視光透過率を上述の方法により測定したところ、56%であった。また近赤外領域の光学濃度を同様に測定し、波長800nmから1600nmの範囲における光学濃度(OD)のプロファイルを観測したところ、波長805nmの光に対する光学濃度(本発明において単に「805nmの光学濃度」と記載する場合がある。他の波長でも同様に記載する場合がある。)は1.7、840nmにおいて光学濃度が2.0、870nmにおいて光学濃度が2.1、920nmにおいて光学濃度が2.2、1065nmにおいて光学濃度が2.3、1470nmにおいて光学濃度が3.0であった。従って、波長800nmから1600nmの範囲において光学濃度の最小値は1.7、最大値は3.0であった。
以上の測定結果を表2に示した。
【0096】
[実施例2~6]
アクリル樹脂Aと分散粉aとを秤量・混合する際に、アクリル樹脂Aに対する分散粉aの量を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2~6に係るMWO粒子含有樹脂の樹脂層(本発明においてそれぞれ「樹脂層B」「樹脂層C」「樹脂層D」「樹脂層E」および「樹脂層F」と記載する場合がある。)を作製した。尚、作製した樹脂層の投影面積における単位面積あたりの粒子aの含有量を、それぞれ表1に示す。
樹脂層B~Fにおける、可視光透過率および近赤外領域の光学濃度を、実施例1と同様に測定した。
その測定結果を表2に示した。
【0097】
[実施例7]
アクリル樹脂Aと分散粉aを秤量・混合する際に、アクリル樹脂Aに対する分散粉aの量を変更し、さらに紫外線吸収剤と酸化防止剤とを秤量し添加した以外は、実施例1と同様にして、実施例7に係るMWO粒子含有樹脂の樹脂層(本発明において「樹脂層G」と記載する場合がある。)を作製した。ここで紫外線吸収剤としてはTinuvin 326(BASF社製。ベンゾトリアゾール化合物。本発明において「紫外線吸収剤A」と記載する場合がある。)を用いた。また酸化防止剤としてはIrganox 1010(BASF社製、CAS No.6683-19-8で示される、ペンタエリスリトール・テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]。本発明において「酸化防止剤A」と記載する場合がある。)を用いた。
尚、作製した樹脂層の投影面積における単位面積あたりの複合タングステン酸化物粒子の含有量、作製した樹脂層中の紫外線吸収剤および酸化防止剤の濃度を表1に示す。
樹脂層Gの可視光透過率ならびに近赤外領域の光学濃度を、実施例1と同様に測定した。
その測定結果を表2に示した。
【0098】
[実施例8]
粒子aを10質量部、官能基としてカルボキシル基を持ちアクリル主鎖を有する分散剤(酸価3.5mgKOH/g、分解温度290℃)(本発明において「分散剤b」と記載する場合がある。)を10質量部、有機溶剤であるトルエン(沸点110.6℃)80質量部となるように秤量した。
これらの原料を0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、14時間粉砕・分散処理し、粒子aの分散液(本発明において「粒子分散液b」と記載する場合がある。)を得た。
ここで、粒子分散液b内における複合タングステン酸化物粒子の数平均粒子径を上述の方法で測定したところ18nmであった。尚、以後の工程では粉砕処理等、粒子aの数平均粒子径が変化する操作を行わないことから、当該数平均粒子径を以って樹脂層中の粒子aの数平均粒子径とした。
【0099】
分散液中の粒子aに対する分散剤の質量比率が[複合タングステン酸化物]/[分散剤]=100/200となるように、粒子分散液bに対して分散剤bを添加した後、十分に混合した。尚、上記式中の分散剤の質量は、粒子分散液bを製造する際、すなわち分散液製造工程で添加した量と、粒子分散液bを製造後に添加した量との和を示している。
【0100】
次いで、得られた混合液を攪拌型真空乾燥機へ装填した。
そして、攪拌型真空乾燥機により常温で減圧乾燥を行ってトルエンを除去し、粒子aの分散粉(本発明において「分散粉b」と記載する場合がある。)を得た。得られた分散粉b中のトルエン含有量は3.5質量%であった。
【0101】
ポリカーボネート樹脂のペレットであるパンライト AD-5503(帝人製。本発明において「ポリカーボネート樹脂A」と記載する場合がある。)と分散粉bとを秤量し、十分に混合した。混合の比率は、最終的な実施例8に係るMWO粒子含有樹脂中における粒子aの投影面積あたり含有量が、後述する値になるよう調整した。
【0102】
得られたポリカーボネート樹脂Aのペレットと、分散粉bとの混合物を290℃に設定した二軸押出機に供給して、混練を行った後、Tダイから押し出しカレンダーロール法により2.0mm厚のシート状に成形した。これにより実施例8に係る樹脂層(本発明において「樹脂層H」と記載する場合がある。)を得た。尚、作製した樹脂層Hの投影面積における単位面積あたりの粒子aの含有量は7.8g/m2となっている、これを表1に示す。
樹脂層Hの可視光透過率ならびに近赤外領域の光学濃度を、実施例1と同様に測定した。
その測定結果を表2に示した。
【0103】
[実施例9]
複合タングステン酸化物粒子としてRb0.33WO3粒子(本発明において「粒子b」と記載する場合がある。)を20質量部、分散剤aを10質量部、有機溶剤であるメチルイソブチルケトンを70質量部となるように秤量した。これらの原料を、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、9時間粉砕・分散処理し、粒子bの分散液(本発明において「粒子分散液c」と記載する場合がある。)を得た。
尚、粒子bについて予め粉末X線回折測定を行ったところ、六方晶のRb0.33WO3を含んでいることが確認された。
【0104】
ここで、粒子分散液c内における粒子bの数平均粒子径を上述の方法で測定したところ26nmであった。尚、以後の工程では粉砕処理等、粒子bの数平均粒子径が変化する操作を行わないことから、当該数平均粒子径を以って樹脂層中の粒子bの数平均粒子径とした。
【0105】
分散液中の粒子bに対する分散剤の質量比率が[複合タングステン酸化物]/[分散剤]=100/200となるように、粒子分散液cに対して分散剤aを添加した後、十分に混合した。尚、上記式中の分散剤の質量は、粒子分散液cを製造する際、すなわち分散液製造工程で添加した量と、粒子分散液cを製造後に添加した量との和を示している。
【0106】
次いで、得られた混合液を攪拌型真空乾燥機へ装填した。
そして、攪拌型真空乾燥機により常温で減圧乾燥を行ってメチルイソブチルケトンを除去し、粒子bの分散粉(本発明において「分散粉c」と記載する場合がある。)を得た。得られた分散粉c中のメチルイソブチルケトン含有量は2.7質量%であった。
【0107】
アクリル樹脂Aと分散粉cとを秤量し、十分に混合した。混合の比率は、最終的なアクリル樹脂層中における粒子bの、投影面積あたり含有量が後述する値になるよう調整した。
得られたアクリル樹脂のペレットと、分散粉cとの混合物を260℃に設定した二軸押出機に供給して、混練を行った後、Tダイから押し出しカレンダーロール法により2.0mm厚のシート状に成形した。これにより実施例9に係るMWO粒子含有樹脂の樹脂層(本発明において「樹脂層I」と記載する場合がある。)を得た。尚、作製した樹脂層Iの投影面積における単位面積あたりの粒子bの含有量は7.4g/m2となっている。これを表1に示す。
樹脂層Iの可視光透過率ならびに近赤外領域の光学濃度を、実施例1と同様に測定した。
その測定結果を表2に示した。
【0108】
[実施例10]
実施例1で得られた粒子分散液aを、アクリル系の紫外線硬化樹脂であるアロニックスUV-3701(東亞合成社製。本発明において「アクリル樹脂B」と記載する場合がある。)と、粒子分散液200質量部に対してアクリル樹脂Bが100重量部となる割合で混合し、十分に攪拌して混合液を調製した。
【0109】
次に調製した塗布液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであるテイジンテトロンフィルムHPE-50(帝人デュポンフィルム社製)上にバーコーターで塗布し塗布膜を形成した。このとき、最終的な実施例10に係るMWO粒子含有樹脂の多層フィルム中における複合タングステン酸化物微粒子の、投影面積あたり含有量が後述する値になるよう、コーティング層の膜厚を調整した。
【0110】
そして、塗布膜を80℃で60秒間乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させることで、粒子aを含有した樹脂層(アクリル樹脂によるコーティング層)を形成した。当該操作により、粒子aを含有する樹脂層(本発明において「樹脂層J」と記載する場合がある。)と、PETフィルムの基材層からなる多層フィルム(本発明において「多層フィルムJ」と記載する場合がある。)とを作製した。尚、作製した樹脂層Jの投影面積における単位面積あたりの粒子aの含有量は6.1g/m2となっている。そしてPETフィルムの基材層は粒子aを含有しないので、作製した多層フィルムJの投影面積における単位面積あたりの粒子aの含有量もまた6.1g/m2となっている。これを表1に示す。
多層フィルムJの可視光透過率ならびに近赤外領域の光学濃度を、実施例1と同様に測定した、その測定結果を表2に示した。
【0111】
[比較例1]
アクリル樹脂Aのペレットのみを260℃に設定した二軸押出機に供給して、混練を行った後、Tダイから押し出しカレンダーロール法により2.0mm厚のシート状に成形した。これにより比較例1に係る樹脂の樹脂層(本発明において「樹脂層α」と記載する場合がある。)を得た。尚、作製した樹脂層αは粒子aを含有せず、樹脂層αの投影面積における単位面積あたりの粒子aの含有量は0.0g/m2となっている。これを表1に示す。
樹脂層αの可視光透過率ならびに近赤外領域の光学濃度を、実施例1と同様に測定した。
その測定結果を表2に示した。
【0112】
[比較例2]
アクリル樹脂Aと分散粉aとを秤量・混合する際に、アクリル樹脂Aに対する分散粉aの量を変更した以外は実施例1と同様にして、比較例2に係るMWO粒子含有樹脂の樹脂層(本発明において「樹脂層β」と記載する場合がある。)を作製した。尚、作製した樹脂層βの投影面積における単位面積あたりの粒子aの含有量は、2.2g/m2となっている。これを表1に示す。
樹脂層βの可視光透過率ならびに近赤外領域の光学濃度を、実施例1と同様に測定した。
その測定結果を表2に示した。
【0113】
【0114】
(実施例1~10および比較例1~2の評価)
以上に示した実施例の結果によると、実施例1~実施例10に係る樹脂層A~Jならびに多層フィルムJは、10~60%といった高い可視光透過率を保ちながら、波長800~1600nmという近赤外領域の範囲における光学濃度(OD)のプロファイルにおいて、最小値でも2.0以上、最大値では8.0を超える光学濃度(OD)の値を実現していた。
従って、当該樹脂層A~Jおよび多層フィルムJは、レーザなどの強力な近赤外光の目に対する影響を大幅に軽減することが出来る優れた光学特性を発揮することが示された。
【0115】
樹脂層A~Jは、一般的なアクリル樹脂またはポリカーボネート樹脂を媒体としているため、適切な公知の成形処理を行うことで、眼鏡や窓に加工することができる。また、当該窓を有するレーザ保護器具を公知の方法で作製することができる。一方、多層フィルムJは、公知の方法で任意の透明基材へ貼り付けることで、当該透明基材の可視透明性を保ちながら、レーザ保護機能を付与することができる。
【0116】
これに対して比較例1に係る樹脂層αは、複合タングステン酸化物を含有しないため、可視光透過率こそ高いものの、波長800~1600nmの光に対する光学濃度が十分ではなく、強力な近赤外光の目に対する影響を軽減する機能をほとんど有しなかった。
また比較例2に係る樹脂層βは、複合タングステン酸化物を含有するものの、投影面積における単位面積あたりの複合タングステン酸化物粒子の含有量が少ないために、やはり波長800~1600nmの光に対する光学濃度が十分ではなく、強力な近赤外光の目に対する影響を軽減する機能は低いものに留まった。
【符号の説明】
【0117】
1.WO6単位
2.元素M