(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】繊維状物質を用いる検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
G01N33/543 521
G01N33/543 525C
G01N33/543 515F
(21)【出願番号】P 2017151058
(22)【出願日】2017-08-03
【審査請求日】2020-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2016156775
(32)【優先日】2016-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016217584
(32)【優先日】2016-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017017706
(32)【優先日】2017-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017077086
(32)【優先日】2017-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017102715
(32)【優先日】2017-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松葉 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】小林 龍司
(72)【発明者】
【氏名】武藤 悠
(72)【発明者】
【氏名】河合 康俊
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-100660(JP,A)
【文献】特表2004-532387(JP,A)
【文献】国際公開第2010/134592(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/011543(WO,A1)
【文献】特開2012-047747(JP,A)
【文献】特表2013-529788(JP,A)
【文献】JASENKA, Memisevic et al.,Electrospun sol-gel fibers for fluorescence-based sensing,PROCEEDINGS OF SPIE,2009年,vol.7313,page73130I
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)
直鎖状態の繊維状物質に結合させた第一の認識物質、
b)標識された第二の認識物質、及び
c)検出対象物質
(但し、第一の認識物質と第二の認識物質は、いずれも検出対象物質と結合しうるものである)
を分散状態で接触させ、
上述のa,b,及びcが結合した複合体を形成させ、
当該複合体と、結合しなかったbとを、分離し、
得られた当該複合体の標識を検出することを特徴とする、検出対象物質の検出方法。
【請求項2】
直鎖状態の繊維状物質
の直径が
1~500ナノメートルの繊維である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
直鎖状態の繊維状物質が自己組織化することで構築される繊維又はエレクトロスピニング法で作製するポリマーである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
分離の方法がろ過分離又は電気泳動のいずれかである、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
認識物質が検出対象物質に対する抗体である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維を分子間相互作用の検出に利用する検出系に関する。
【背景技術】
【0002】
抗原と抗体の相互作用は、抗原と抗体が溶液中で均一に存在する場合に反応速度が速いことは知られている。その利点を生かした測定系がホモジニアス測定系で、抗原と抗体を混合すると極めて短時間に平衡状態に達するため、通常試薬混合後数分で測定が開始できる場合が多い。これらの測定系はこれまでにいくつか報告されており、代表的なものが蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer,略して「FRET」)である。その原理は、ある蛍光分子(以下ドナーと略)の蛍光スペクトルと、もうひとつの蛍光分子(以下アクセプターと略)の励起スペクトルに重なりがあって、それらが数ナノメートル程度まで近接すると、ドナーの蛍光エネルギーがアクセプターを励起し、アクセプターに由来する蛍光が生じる現象である。抗原を二つの抗体で挟み込むサンドイッチアッセイを例として説明する。一つの抗体にドナーを、もう一つの抗体にアクセプターを標識した場合、抗原を介して二つの標識抗体が近接すると、エネルギー移動が起こり、アクセプターの蛍光シグナルが生じる。つまり、抗原の量に応じて蛍光シグナルも増加するため、ホモジニアスで抗原の量を定量できる。しかし抗原が存在しない場合でも、ある一定の確率でドナーとアクセプターは近接するため、それに伴うシグナルが発生する。これがバックグラウンドシグナルとなる。
【0003】
バックグラウンドノイズ低減方法の一つとして、極めて親和性の高い抗体を使用することが考えられる。その方法によると、測定系中の抗体濃度を低減できるため、ドナーとアクセプターの非特異的な近接が減少するため、バックグラウンドシグナルは低減する。しかし、測定系に利用できる超高親和性の抗体を準備することは現実的に難しく、たとえ準備できたとしても、未結合の物質を分離する工程(以下B/F分離と略)を行うヘテロジニアス測定系のようにバックグラウンドのシグナルを低減させることは不可能である。
【0004】
また、抗原を介した抗体の近接が起きた場合に、2種類の蛍光物質間でのエネルギー転移が効率よく起きるような標識方法が確立されているわけではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ホモジニアス系には反応速度が高いという利点があるが、S/N比が高くないというデメリットがある。そこで高S/N比が要求される測定系の場合は、B/F分離操作を行うヘテロジニアス測定系が採用される場合が多い。これは、B/F分離操作により、反応に関与しなかった物質を系外に除去できるため、バックグラウンドのシグナルを大幅に低減することができ、S/N比が向上するためである。このためには、水不溶性担体などに測定対象物に結合能を有する物質(以下、抗体で例示する)を固定化する必要がある。しかし、そうすると、測定対象物と抗体間の反応は固液反応となるため、ホモジニアス反応と比較して平衡に達するまで時間がかかる。
【0006】
反応時間を短縮する方法として、水不溶性担体を微粒子化してゆく方法がある。そうすると、溶液中での抗体の分散度が高くなるため反応速度は向上してゆく。たとえば、水不溶性担体として磁気微粒子を使用し、磁気で微粒子を分離する方法が例示できる。さらに、微粒子化を進めるに従いホモジニアス測定系に近づいてゆくため、反応速度は速くなるが、磁気分離などによる簡便なB/F分離が難しくなってゆき、遠心分離操作などによる煩雑な分離が必要となってくる。つまり、測定系を構築する事自体が煩雑となり産業上の利用は難しくなる。
【0007】
結果的に、抗原抗体間の反応速度と簡便なB/F分離工程の両方を考慮して、水不溶性担体としては、磁気等で短時間にB/F分離が可能な数μmからサブミクロン程度までの微粒子を用いることが現実的であった。
【0008】
このように、高い反応速度と簡便な分離を達成するためには、数μmからサブミクロン程度までの微粒子化が必要であるが、このサイズの粒子は不透明である。そのため標識物を直接目視、吸収、蛍光などで検出する場合は、検出器からみて粒子の裏に隠れた標識物は検出できないことになり、特に低濃度域の検出が難しいという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
高感度測定を短時間に達成するには、高S/N比の維持と反応速度の向上が必要である。前者については、シグナルの値を向上させることと、ノイズの低減が課題となる。後者についてはできるだけホモジニアス反応に近づける必要がある。そこで、S/N比を向上させるために、B/F分離が可能な材料と、ホモジニアス反応と同等の反応速度を有する材料について種々検討したところ、繊維状物質を抗原認識物質の固定場として利用する事を見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち本発明は、以下のとおりである。
(1)a)繊維状物質に結合させた第一の認識物質、
b)標識された第二の認識物質、及び
c)検出対象物質
(但し、第一の認識物質と第二の認識物質は、いずれも検出対象物質と結合しうるものである)を分散状態で接触させ、上述のa,b,及びcが結合した複合体を形成させ、当該複合体と、結合しなかったbとを、分離し、得られた当該複合体の標識を検出することを特徴とする、検出対象物質の検出方法。
(2)繊維状物質が直鎖状態の繊維である、(1)に記載の方法。
(3)繊維状物質が自己組織化することで構築される繊維又はエレクトロスピニング法で作製するポリマーである、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)分離の方法がろ過分離、遠心分離又は電気泳動のいずれかである、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)認識物質が検出対象物質に対する抗体である、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明で使用する繊維状物質の形態は、第一の認識物質と結合させても溶液中で分散状態で存在できるものであればよく、たとえばPBSやTBSなどといった、通常生化学関係の実験で利用する緩衝液中や、タンパク質を含む緩衝液中で分散状態で存在できるという特性を有した繊維であればよい。たとえば、繊維状物質が溶液の上部と下部で濃度差が20%以内、好ましくは10%以内の状態を示せば問題ない。
【0013】
線維状物質は、一本の直鎖状の繊維からなっているものだけでなく、途中で枝分かれしているもの、折れ曲がっているもの、網目状になっているものが例示でき、繊維の太さも均一ではなくても、溶液中で分散状態で存在でき、ろ過分離等できる物性を有していれば良い。ただし、天然物を解繊して得る繊維状物質の中には、繊維がほぐれる途中の不規則な枝分かれ様の構造を含む場合が多いが、この構造が多いと構築した測定系のバックグラウンドシグナルの上昇の原因となるため、該構造は実用上問題にならない程度に低減させる事が好ましい。該構造がバックグラウンドシグナルの上昇につながる明確な理由は不明であるが、不規則な枝分かれに、金コロイドなどの標識物が捕捉されてしまうためと予想される。
【0014】
以上のことから、本目的には直鎖状態の繊維を好ましく利用することができる。たとえば、ペプチドやタンパク質が自己組織化することで構築される繊維や、エレクトロスピニング法で作製するポリマーも本目的に好ましく利用することができる。
【0015】
また、繊維の断面の形も特に限定されず、円形、四角形、ひし形、星形、などの対称性を有した形だけではなく、定まった形を有していないものでもよい。さらに、繊維が一本ずつ別個に存在していてもよく、又は繊維が複数本集まったあるいは複数本集まってねじれた形やシート状になっていても良い。
【0016】
繊維状物質の大きさは、繊維状物質の形状や使用する溶液のタンパク質の濃度や緩衝液の種類によって一概に規定できないが、たとえば、1本の直鎖状の繊維状物質の場合は、直径が1~数マイクロメートル好ましくは、1~500ナノメートルで、長さが100ナノメートル~50マイクロメートルの物(以下、ナノファイバーと略することもある)が例示され、また、繊維の直径に対する長さの比は2以上、好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上であり、その上限は特に限定されるものではないが、10,000以下のものを例示することができる。
【0017】
本発明で使用する繊維状物質の種類は、たとえばタンパク質系のファイバーとしては、鞭毛、微小管、アミロイド繊維、アクチンフィラメント、コラーゲン、ラミニン、ゼラチン等の繊維を例示することができる。タンパク質系以外の例としては、カーボンナノファイバー、セルロースナノファイバー、カルボキシメチルセルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバーやそれらの誘導体などを例示でき、金、銀、銅、コバルト、ニッケルなどの金属繊維や、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化タングステンなどの金属酸化物繊維なども利用することができる。また、エレクトロスピニング法などで作製するナノファイバーも利用することができる。たとえば、エレクトロスピニング法で作製することのできるポリマーの一例をあげると、PVDF,ポリスチレン、ポリ乳酸、ナイロン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリール、ポリアニリン、ポリウレタン、ポリヒドロキシブチラート、ポリカプロラクトン、キトサン、コラーゲン、セルロース等を単独で紡糸する方法や、機能向上のため、複数の高分子をブレンド後に紡糸する方法、コポリマーを紡糸する方法、高分子以外の材料を混合して紡糸する方法が例示できる。また、複数のノズルから異種のポリマーを同時に紡糸し、ポリマーが混和していない状態で単一の繊維として紡糸された材料も例示することができるが、これらに限定されたものではない。また、その他の方法で作製されたナノファイバーも利用することができる。
【0018】
また、ナノファイバーの作製方法も特に規定されない。たとえば、微生物を培養・抽出して作製する方法、培養時に各種材料を添加して培養する方法、天然の材料を粉砕する方法、原料を化学的に成長させて作製する方法等を例示することができる。
【0019】
認識物質については、構築する反応系によって適宜選択することができる。たとえば、タンパク質、ペプチド、有機物質、無機物質、核酸などを用いることができ、タンパク質系の認識物質の例としては抗体などを用いることが好ましい。認識物質の固定化方法は、化学結合や何らかのタグを介して繊維状物質に結合すればよい。たとえば前者の場合は、アミノ基同士の反応、アミノ基とSH基間の反応、アミノ基とカルボキシ基間の反応などを例示することができるが、その他の方法でも構わない。また、遺伝子工学的な手法で繊維表面に官能基を提示させてその官能基を介した固定化も実施可能である。また、後者の方法としてはタグペプチドとタグ認識抗体の組み合わせや、ビオチンとアビジンの結合性を利用した方法などが例示できる。その他繊維状物質をシランカップリング剤などでコーティングし、表面を改質した後に、タンパク質などの認識物質を結合させることもできる。また、PVDFやPSといったポリマー繊維などの場合は、疎水結合によりポリマー表面に抗体を固定化することができるし、表面の官能基を介した固定化も可能である。なお繊維状物質に抗体を結合させる場合は、インタクト抗体のみならず、F(ab’)2、Fab、scFvなどの抗原結合部位が残った形のフラグメントをも例示することができるが、これらの形には限定されない。
【0020】
また認識物質を固定化した繊維は、冷蔵、冷凍、凍結乾燥などの方法で、保存することができる。この際必要に応じて、各種の安定化剤などを添加することもできる。
【0021】
本発明では、第一の認識物質と第二の認識物質とを用いるが、それらが検出対象物質に対して同時に結合状態をとりうる限り、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
標識物質としては、金コロイド、色素、蛍光色素、微粒子、蛍光微粒子、酵素などをあげることができ、それら標識物質に応じた検出方法で検出すればよい。もちろん感度を高めるために通常知られている方法を併用することも可能である。
【0023】
検出対象物質に関しては、特に限定はなく、通常のイムノアッセイで測定している対象物質を測定することができる。たとえば、抗原、タンパク質系の物質や低分子有機化合物、ウイルス、細菌、細胞等を例示することができるが、これらに限定されたものではない。
【0024】
本発明では、まず、
a)繊維状物質に結合させた第一の認識物質、
b)標識された第二の認識物質、及び
c)検出対象物質
を溶液中で分散状態で接触させ、a,b,及びcが結合した複合体を形成させる。このときの接触順序には特に限定はなく、順次接触させてもよく、また同時に接触させてもよい。好ましくは、aとcを接触させて結合させた後、結合しなかったcをろ過分離等して除去し、その後にbを接触させるという順序であり、優れた感度を有するため好ましい方法である。
【0025】
また繊維状物質の分散性を高めるために、検出系に添加剤を添加することができる。たとえば、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤が例示できる。また、タンパク質あるいはポリエチレングリコールなどの添加により繊維状物質の分散性を高めることもできる。
【0026】
認識物質と検出対象物質との反応時間は、認識物質の結合力、繊維状物質の大きさや分散度によって異なるが、通常10分以下、好ましくは3分以下、さらに好ましくは1分以下である。
【0027】
次いで、上述のa,b,及びcが結合した複合体と、結合しなかったbとを、分離する。分離方法は特に限定されず、ろ過分離、遠心分離、電気泳動などの方法で分離することができる。ろ過分離の方法としては、ろ過膜を使うことができる。この時、前述の複合体は通過せず、結合しなかったbは通過するようなろ過膜を選択すればよい。たとえば通常のろ紙、ガラスファイバー、PVDFなどの材料や、0.22、0.45、0.6マイクロメーターのポアサイズのフィルター等を例示することができるが、材質および膜厚は特に限定されない。遠心分離の方法は、標識体が結合した繊維状物質が沈殿するが、標識体は沈殿しない重力加速度で遠心分離することで分離することができる。また電気泳動を用いる方法は、一定の電場下での、標識体が結合した繊維状物質と標識体の移動度の違いで分離することができる。
【0028】
この後、分離された複合体の標識を検出することにより、検出対象物質を検出することができる。このときの検出は定量的であっても定性的であってもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明のように、水不溶性の担体も繊維状物質に形を変えると、繊維状物質の直径が細くなるに従い、溶液中で分散された状態で存在できるようになり、遠心分離などの操作をしない限り溶液中にとどまり分散する。さらに長軸方向に十分な長さを有しているので、ろ過等することで繊維状物質を容易に分離することが可能となる。つまり、繊維状物質を用いることで、ホモジニアス系で反応し、かつ、容易に分離が可能という、これまでの考え方からすると相反する特徴を有した測定系を構築することができる。本発明の方法を用いることで、通常のヘテロジニアス測定系と比較して、反応時間は短く、かつS/N比の高い測定系を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2】精製したH48抗原の電子顕微鏡写真である。
【
図3】精製したH48抗原のSDS-PAGEを示す図である。
【
図4】ペプチド結合鞭毛とペプチド認識抗体固定化金コロイドの反応(1)を示す図である。
【
図5】ペプチド結合鞭毛とペプチド認識抗体固定化金コロイドの反応(2)を示す図である。
【
図6】反応(2)後の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図7】ペプチド結合鞭毛とペプチド認識抗体固定化金コロイドの反応(3)を示す図である。
【
図8】ペプチド結合鞭毛とペプチド認識抗体固定化金コロイドの反応(4)を示す図である。
【
図9】フルオレッセイン結合鞭毛とALP標識抗フルオレッセイン抗体の反応(1)を示す図である。
【
図10】繊維状物質を用いたBNPのサンドイッチアッセイを示す図である。
【
図11】サンプルをろ過した後のフィルターの写真である(実施例2)。
【
図12】イムノクロマトリーダーでバンドの濃さを定量した図である(実施例2)。
【
図13】サンプルをろ過した後のフィルターの写真である(実施例3)。
【
図14】イムノクロマトリーダーでバンドの濃さを定量した図である(実施例3)。
【
図15】サンプルをろ過した後のフィルターの写真である(実施例4)。
【
図16】イムノクロマトリーダーでバンドの濃さを定量した図である(実施例4)。
【
図17】精製したシステイン置換鞭毛のSDS-PAGE写真である(実施例5)。
【
図18】精製したシステイン置換鞭毛の透過型電子顕微鏡写真である(実施例5)。
【
図19】システイン置換鞭毛に抗体を固定化して得られた生成物のSDS-PAGE写真である(実施例5)。
【
図20】濃度が異なるBNPの検出を、抗体固定化鞭毛と抗体固定化金コロイドを用いて行ったメンブレンフィルターの写真である(実施例5)。
【
図21】BNPの濃度とメンブレンフィルター上の金コロイドの吸光度の関係を示す図である(実施例5)。
【
図22】サンプルをろ過した後のフィルターの写真である(実施例6)。
【
図23】イムノクロマトリーダーでバンドの濃さを定量した図である(実施例6)。
【
図24】分光光度計で吸光度を測定した結果である。(実施例7)。
【
図25】アガロース電気泳動後のゲルの写真と、それを解析した結果である(実施例8)。
【
図26】サンプルをろ過した後のフィルターの写真である(実施例9)。
【
図27】イムノクロマトリーダーでバンドの濃さを定量した図である(実施例9)。
【
図28】短鎖ナノ繊維の電子顕微鏡写真である(実施例10)。
【
図29】サンプルをろ過した後のフィルターの写真とイムノクロマトリーダーでバンドの濃さを定量した図である(実施例10)。
【
図30】サンプルをろ過した後のフィルターの写真とイムノクロマトリーダーでバンドの濃さを定量した図である(比較例1)。
【
図31】イムノクロマトリーダーでバンドの濃さを定量した図である(比較例1)
【
図32】鞭毛と粒子で呈色強度の差を比較した図である(比較例1)。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例により限定されるものではない。
【0032】
参考例1 鞭毛繊維の作製
特開2000-279176号公報に記載された方法で鞭毛を作製した。簡単に説明すると、大腸菌のH48抗原をコードする遺伝子をpET-19b(Novagen製)にクローニングしたプラスミドと、T7-RNAポリメラーゼ遺伝子を持つプラスミド(pPG1-2)を、大腸菌K12株のfliC変異株(YK4130)に導入し、カナマイシン(50μg/ml)とアンピシリン(100μg/ml)を含むLB培地で、30℃で一晩培養した。その後、JEM-1400plus(透過型電子顕微鏡:日本電子製)で、大腸菌に鞭毛が形成されていることを確認した後(
図1)、同公報に記載の方法で、鞭毛をペレットとして回収した。鞭毛の透過型電子顕微鏡写真とSDS-PAGEの結果から、高純度な鞭毛繊維を得たことが示された(
図2,3)。
【0033】
参考例2 鞭毛繊維のペプチド修飾
PBSで5mg/mlに調製した参考例1で作製したH48鞭毛200ulに、1mgのsulfo-SMCC(Thermo製)を添加して、室温で1時間反応させた。その後、分画分子量100Kの限外ろ過膜Amicon Ultra(Millipore製)を使い、未反応の試薬を除去した。その後、特開2012-140331号公報に記載の配列番号10で示されるペプチド1mgを添加し、4℃で一昼夜反応させた。その後、前述と同じ限外ろ過膜を使い未反応のペプチドを除去し、ペプチド結合鞭毛を得た。また、上記ペプチド結合鞭毛を65℃で15分加熱処理することで、ペプチド結合鞭毛(モノマー)を得た。
【0034】
参考例3 ペプチド認識抗体を固定化した金コロイドの作製
BNPの環状部分を認識する抗体であるBM33-28(特開2012-140331号公報に記載の抗体)を、定法によりF(ab’)2化し、蒸留水で100μg/mlに調製した。9mlの40nmの金コロイド溶液(BBI製)に1mlの50mMリン酸緩衝液pH7.0を混合した溶液に、上記抗体溶液1mlを添加した。その後、室温で10分間反応させることで金コロイドに抗体を固定化した。その後、0.55mlの1%ポリエチレングリコール20,000(和光純薬製)と、1.1mlの10%BSA水溶液を添加し、8,000×gで1分間遠心分離することで、抗体が固定された金コロイドを回収した。金コロイドを金コロイド保存緩衝液(0.05% PEG20000、150mM NaCl、1%BSA、0.1%NaN3、20mM トリス塩酸緩衝液、pH8)で数回洗浄し、520nmの吸光度が6.0になるように同緩衝液で希釈し、ペプチド認識抗体固定化金コロイドを得た。
【0035】
参考例4 ペプチド結合鞭毛とペプチド抗体固定化金コロイドの反応(1)
参考例2で作製したそれぞれ100μgのペプチド結合鞭毛とペプチド結合鞭毛(モノマー)を、参考例3で作製したペプチド認識抗体固定化金コロイド(10μl)と室温で5分間反応させ、0.45μmのDurapore Multiscreenフィルター(Millipore製)でろ過した結果を
図4に示す。なおペプチド認識抗体固定化金コロイド(10μl)だけをろ過した結果を
図1に示す。
ペプチド結合鞭毛の場合は金コロイドの色がフィルター上に残るが、ペプチド結合鞭毛(モノマー)の場合と、ペプチド認識抗体固定化金コロイドだけをろ過した場合は金コロイドの色が残らない(白色)ことから、金コロイド表面の抗体が鞭毛表面のペプチドに結合し、フィルター上に残っていることが示された。
【0036】
参考例5 ペプチド結合鞭毛とペプチド抗体固定化金コロイドの反応(2)
参考例2で作製したペプチド結合鞭毛50μgまたは参考例1で作製した鞭毛50μgと、参考例4で作製した抗体固定化金コロイド5μlを室温で5分間反応させ、0.6μmのDuraporeメンブレンフィルター(メルクミリポア製)でろ過した結果を
図5に示す。これらの結果から、ペプチド結合鞭毛の場合だけがフィルター上に金コロイドの色が残っていることから、鞭毛により金コロイドが巻き込まれているのではなく、鞭毛表面のペプチドを介して金コロイドが鞭毛に結合していることが示された。
【0037】
参考例6 参考例5のTEM撮影
参考例2で作製したペプチド結合鞭毛と、参考例3で作製したペプチド認識抗体固定化金コロイドまたは市販されているストレプトアビジン固定化金コロイド(BBI製)を混合後、コロジオン膜貼付メッシュ(日進EM製)上で、リンタングステン酸でネガティブ染色し、JEM-1400plusで透過型電子顕微鏡写真を撮影した(
図6)。左側の写真がペプチド結合鞭毛とペプチド認識抗体固定化金コロイドを混合したもの、右側の写真がペプチド結合鞭毛とストレプトアビジン固定化金コロイドを混合したものである。この写真から、ペプチド結合鞭毛表面へペプチド抗体固定化金コロイドが特異的に結合していることが確認された。
【0038】
参考例7 ペプチド結合鞭毛とペプチド抗体固定化金コロイドの反応(3)
参考例3で作製した抗体固定化金コロイド(5μl)と、参考例2で作製した種々の量(図中の数値を参照)のペプチド結合鞭毛を室温で5分間反応させた後、0.6μmのDuraporeメンブレンフィルターでろ過した。その結果、ペプチド結合鞭毛の量が減少するに従い、フィルター上の金コロイドの色合いが、赤色から黒色に変化してゆく結果が得られた(
図7)。金コロイドは近接することで、赤色から黒色に変化してゆくことが知られていることから、反応系に存在するペプチド結合鞭毛の量が減少してゆくと、鞭毛上で結合する金コロイドが近接するため、黒色に変化していると考えられる。このことからも、鞭毛上に金コロイドが結合していることが確認された。
【0039】
参考例8 ペプチド結合鞭毛とペプチド抗体固定化金コロイドの反応(4)
参考例3で作製したペプチド認識抗体固定化金コロイド5μlと参考例2で作製したペプチド結合鞭毛10μgを混合してからろ過するまでの時間を種々変化(図中の数値を参照)させた時のフィルターの色を観察した(
図8)。その結果、両者を混合後60秒以降はフィルターの色がほとんど変化しなかったことから、極めて短時間に反応が進む測定系であることが確認された。
【0040】
参考例9 フルオレッセイン結合鞭毛とALP標識抗フルオレッセイン抗体の反応
フルオレッセインを結合させたアルブミンを免疫抗原として、定法により抗フルオレッセイン抗体を単離した。その後、ALP標識試薬であるLK-12(同仁化学製)の説明書に従い、ALP標識抗フルオレッセイン抗体を作製した。
参考例1で作製した1mgのH48鞭毛をPBSで5mg/mlに調整した中に、NHS-フルオレッセイン(Thermo製)1mgを20μlのDMSOに溶解した溶液を全量添加し、室温で1時間反応させた。その後、分画分子量100Kの限外ろ過膜Amicon Ultraで未反応の試薬を除去し、フルオレッセイン結合鞭毛を得た。
その後、1マイクログラムのフルオレッセイン結合鞭毛または参考例2で作製したペプチド結合鞭毛と、1000倍希釈したALP標識抗フルオレッセイン抗体(100μl)を室温で5分反応させた後に、参考例4で使用したフィルターでろ過した。その後200μlのPBSで3回ろ過洗浄を行い、ALP用発色試薬であるNBT/BCIN試薬(Roche製)をフィルター上に添加し室温で1時間反応させた。その結果、フルオレッセイン結合鞭毛とALP標識抗フルオレッセイン抗体の組み合わせの時だけ、フィルターが発色した(
図9)。これらのことより、ALP標識抗フルオレッセイン抗体が結合した鞭毛がフィルター上に捕捉されていることが確認された。
【0041】
実施例1 抗体結合鞭毛とALP標識抗体でのBNPの検出
(1)鞭毛への抗体の結合
3mgの鞭毛(直径:約20nm、平均の長さ:1.2μm、直鎖状)に、1.2mgのSMCC(Thermo製)を250μlのDMSOに溶解した溶液を75μl添加して、室温で1時間反応させた。その後、参考例2で使用した分画分子量100Kの限外ろ過膜で未反応の試薬を除去することで、マレイミド基を導入した鞭毛を作製した。次にBNPのC末端を認識する抗体であるBC23-11(特許第5810514号公報に記載の抗体)3mgに1.2mgのTraut’s Reagent(Thermo製)を250μlの水に溶解した溶液全量を添加して、室温で1時間放置した。その後脱塩カラムPD-10(GE製)で未反応の試薬を除去し、SH基が導入されたBC23-11を得た。その後、マレイミド基を導入した鞭毛とSH基が導入されたBC23-11を混合し室温で3時間反応した後、40,000rpmで30分超遠心分離し得られたペレットをPBSに溶解することで、BC23-11が結合した鞭毛を得た。
(2)ALP標識した抗体の作製
参考例3で作製した、F(ab’)
2化されたBM33-28を、LK-12でALP標識した。
(3)BNPの検出
BC23-11が結合した鞭毛(10μg/100μl PBS)を2本用意し、それぞれに2種類のBNP標準液100μlを添加した。BNP標準液は、AIA試薬用のBNP標準液(東ソー製)のうち、Cal1(BNP 0pg/ml)とCal6(BNP 2420pg/ml)を使用した。これらを室温で1時間反応させた後、参考例4と同じフィルターでろ過した。200μlのPBSを添加してろ過洗浄する操作を3回行った後、1000倍希釈したALP標識したBM33-28を100μl添加し、室温で1時間フィルター上で反応させ、BNPを介して、BC23-11が結合した鞭毛とALP標識したBM33-28のサンドイッチを形成させた。その後、200μlのPBSを添加してろ過洗浄する操作を3回行なった。その後、参考例9で使用したALP発色試薬を100μl添加し、室温で1時間反応させた結果を
図10に示した。Cal1ではほとんど発色が見られないが、Cal6では濃赤色の発色が確認できた。このように、2種類の抗体でBNPを挟み込む測定系が鞭毛上で構築できることを示した。
【0042】
実施例2 抗体結合鞭毛と抗体固定化金コロイドを用いたBNPの検出
(1)鞭毛への抗体の結合
定法に従いBM33-28をペプシン消化及び還元を行い、BM33-28のFab’化抗体を作製した。次に、参考例1で作製した1mg/mlの鞭毛溶液500μl(PBS、10mM EDTA溶液)に対し、250mMのSM(PEG)12(Thermo製)のDMSO溶液を6μl添加し、室温で1時間反応させた。その後、PD-10(GE製)で未反応の試薬を除去した後、BM33-28のFab’化抗体を4mg添加し、反応液量が1mlになるようにPBSを添加し、室温で2時間反応させた。その後、参考例2で使用した分画分子量100Kの限外ろ過膜で未反応のFab’化抗体を除去することで、BM33-28のFab’化抗体を結合した鞭毛を作製した。
(2)抗体の金コロイドへの固定化
金コロイドは、ワインレッドケミカル社製の直径60nmの金コロイド(WRGH1-60NM)を用いた。250μlの金コロイド溶液にpH9.2の10mM Tris-HCl溶液を250μl添加した。その中に、0.1mg/mlのBC23-11溶液(10mM Tris-HCl)を500μl添加し、15分間静置した。さらに、250mMのMethyl-PEG-NHS-Ester(Theromo製)のDMSO溶液10μlを添加し、30分静置した。引き続き、BSAとポリエチレングリコール20,000(和光純薬製)の混合液を1000μl添加し、15分静置した。その後、8,000gで9分間の遠心操作を行い、透明になった上清を廃棄した。BSAとポリエチレングリコール20,000の混合液を1000μl添加し、遠心分離する操作を繰り返した。最終的に金コロイド保存用の緩衝液300μlにペレットを懸濁し、OD
520=6.0となるよう、金コロイド保存用の緩衝液を用いて金コロイド溶液を希釈し,BC23-11固定化金コロイドを得た。
(3)BNPの検出
上記の方法で作製したBM33-28を結合した鞭毛及び、BC23-11固定化金コロイドを用いてBNP測定を以下のように行った。まず、1μgのBM33-28結合鞭毛にBC23-11固定化金コロイド溶液20μl添加し、PBSで25μlに調整した混合液を6つ用意した。次に、AIA試薬用のBNP標準液(東ソー製)のCal1~6(BNP 0,15,42,157,599,2420pg/ml)をそれぞれ225μl添加し、5分間静置した。その後バイオドットSF装置(BIORAD製)を用い、0.65μmのDuraporeメンブレンフィルターで吸引ろ過を行った。メンブレン上に残った金コロイドの様子を
図11に示す。また、メンブレン上の金コロイドによる呈色強度をイムノクロマトリーダー:C10066(浜松フォトニクス製)を用いて測定した結果を
図12に示す。BNP濃度に応じて金コロイド由来の呈色強度が強くなることが確認された。このように、BNPのサンドイッチアッセイを目視で検出可能な系が構築可能であることが示された。
【0043】
実施例3 抗体結合セルロースと抗体固定化金コロイドを用いたBNPの検出
(1)セルロースへの抗体の結合
2%セルロース(直径約0.65μm、長さ約4.8μm)溶液(スギノマシン社製)2mlを100×gで5分遠心して得られた上清を15,000rpmで5分遠心し、沈殿物を回収した。70%エタノール水溶液(pH 3.7)で、トリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)-シラン(東京化成製)の5%溶液を作製し、前記遠心分離で得られた沈殿物に本溶液1ml加え、室温で2時間反応させた。その後、15,000rpmで5分遠心分離後沈殿を回収した。エタノールでの洗浄操作を2回行い、沈殿を乾燥させた(70℃、3時間)。乾燥物に0.2mg/mlのBM33-28溶液(50mM 炭酸ナトリウムBuffer pH8.5)を500μL加え懸濁させ、4℃で終夜反応させた。PBS1mlを添加し、15,000rpmで5分遠心分離後沈殿を回収した。PBSでの洗浄操作を2回行い、沈殿をPBS500μlに懸濁することで、BM33-28を固定化したセルロースを得た。
(2)金コロイドへの抗体の固定化
BC23-11を固定化した金コロイドは実施例2で作製したものを使用した。
(3)BNPの検出
PBSで5倍に希釈したBM33-28結合セルロース20μlにBC23-11固定化金コロイド溶液20μl添加した混合液を6つ用意した。次に、実施例2と同じBNP標準液をそれぞれ210μl添加し、5分間静置した。その後バイオドットSF装置を用い、0.65μmのDuraporeメンブレンフィルターで吸引ろ過を行った。メンブレン上に残った金コロイドの様子を
図13に示す。また、メンブレン上の金コロイドによる呈色強度をイムノクロマトリーダーで測定した結果を
図14に示す。BNP濃度に応じて金コロイド由来の呈色強度が強くなることが確認された。このようにセルロース繊維を用いてBNPのサンドイッチアッセイを目視で検出可能な系が構築可能であることが示された。
【0044】
実施例4 抗体結合キトサン(直径約0.4μm、長さ約3.5μm)と抗体固定化金コロイドを用いたBNPの検出
(1)キトサンが有するアミノ基のチオール基への変換
まずキトサンを0.05%(weight/volume)となるよう1mlのPBS溶液に懸濁した。次にこの溶液を15,000rpmで5分間遠心し、キトサンをペレットとして回収した。その後このペレットに酸性Traut’s溶液(100mM CH3COONa、2mg/ml 2-イミノチオラン塩酸塩、pH5.0)を1ml加えてからソニケーションし、室温で1時間反応させた。反応後この溶液に200μlの中和溶液(1M トリス(ヒドロキシメチル)―アミノメタン、100mM Gly Cl、pH8)を加え、15,000rpmで5分間遠心した。
ペレットとなったキトサンに1mlのPBS溶液を加えてからソニケーションし、15,000rpmで5分間遠心した。PBSによるこの洗浄操作を合計3回行った後、ペレットとなったキトサンに100mM CH3COONa(pH5)を1ml加えた。以上により、アミノ基をチオール基へ変換したキトサンを調製した。
【0045】
(2)抗体へのマレイミド基の導入
1mgのBC23-11をPBS溶液中で1mg/mlとなるよう濃度を調整した。次にSM(PEG12)を250mMとなるようジメチルスルホキシドに溶かし、抗体溶液へ1μl加えた。この溶液を室温で1時間反応させた後、1M Tris-HCl緩衝液(pH8)を加え反応を停止した。その後この抗体溶液600μlをPD-10カラム(GE社製)に通し、100mM CH3COONa(pH5)へバッファ交換した。そしてこのカラムの溶出液を分画分子量30,000の限外ろ過膜で500μlまで濃縮し、マレイミド基を導入した抗体とした。
【0046】
(3)キトサンへの抗体結合
アミノ基をチオール基へ変換したキトサン溶液500μlと、マレイミド基を導入した抗体溶液500μlとを混ぜ、4℃で一昼夜反応させた。その後この反応液へ1M Tris-HCl緩衝液(pH8)を200μl加えて中和した。次にこの溶液を15,000rpmで5分間遠心し、抗体を結合したキトサンをペレットとして回収した。このペレットに1mlのPBS溶液を加えてソニケーションした後、15,000rpmで5分間遠心して抗体を結合したキトサンを洗浄した。この洗浄を合計3回行った後、抗体を結合したキトサンを500μlのPBS溶液に懸濁してソニケーションした。この溶液をBC23-11結合キトサンとした。
【0047】
(4)金コロイドへの抗体感作
直径40nmの金コロイド(BBI製)溶液を4.5mlに、50mM KH2PO4(pH7)溶液を500μl加えた。その後この溶液に30μg/mlのBM33-28を500μl加え、室温で10分間感作させた。そしてこの溶液へ1% PEG20000溶液275μlと10%BSA溶液550μlを加え、8000g、10℃で15分間遠心した。遠心後は上清を捨て、1mlの金コロイド保存溶液にペレットを懸濁した。その後この溶液を8000g、10℃で15分遠心し、金コロイドをペレットとして回収した。そしてこのペレットに1mlの金コロイド保存液を加え懸濁し、再度8000g、10℃で15分遠心した。このペレットに500μlの金コロイド保存溶液を加え、BM33-28感作金コロイドとした。
【0048】
(5)BNPの検出
実施例2で使用したのと同様なBNPキャリブレーター溶液200μlにBM33-28感作金コロイドを10μl加えた。次にこの溶液へBC23-11結合キトサンを1μl加え、よく撹拌した。この溶液を室温で5分間静置した後、ポアサイズが0.65μmのDuraporeメンブレンフィルターでろ過した。ろ過後メンブレンを回収し、キャリブレーター溶液の通過した場所を写真で撮影した(
図15)。また、この場所をはさみで切りぬき、イムノクロマトリーダーでバンドの濃さを定量した。実験の結果、BNPの存在によってメンブレン上にバンドが出現することを確認できた(
図16)。
【0049】
実施例5 抗体を固定化したシステイン置換鞭毛と抗体固定化金コロイドを用いたBNPの検出
(1)システイン置換鞭毛の作製
大腸菌のH48抗原のうち1ヶ所のアミノ酸をシステインに置換した変異体を遺伝子工学的手法によって作製した。まず、参考例1で使用したH48抗原をコードする遺伝子を持つプラスミドを鋳型として使用し、フォワードプライマー配列GTGCAGGTTCCGCAACTGCCAACCとリバースプライマー配列AATTATCAATCTGAACAGGTGTAのペアによるインバースPCRを行うことにより、H48抗原の291番目のスレオニンがシステインに置換された変異体H48-T291Cをコードするプラスミドを構築した。
次に、参考例1に示す方法で、システイン置換鞭毛繊維を回収した。回収した鞭毛を非還元条件下のSDS-PAGEで解析し、高純度に鞭毛繊維が単離されたことを確認した(
図17)。また、回収した鞭毛を透過型電子顕微鏡で観察し、鞭毛の構造を示していることを確認した(
図18)。
【0050】
(2)システイン置換鞭毛に対する抗体の固定化
180μgのBC23-11をPBSで5.0mg/mLに濃度調整し、SM(PEG)6(Thermo製)を6nmolを添加し、室温で1時間反応させた。その後、Zeba Spin Desalting Columns(Thermo製)を用いて未反応の試薬を除去し、マレイミド基が導入された抗体を得た。次に、45μgのマレイミド基導入抗体を、45μgのシステイン置換鞭毛と混合し、室温で30分間反応させた。その後、分画分子量1000Kの透析膜(Spectrum製)を用いて、試料溶液の1000倍量のPBSで12時間の透析を5回行うことで、未反応のマレイミド基導入抗体を除去した。得られた生成物を非還元条件下のSDS-PAGEで解析し、目的とした抗体固定化鞭毛291-PEG6-BCが得られたことを確認した(
図19)。
【0051】
(3)抗体を固定化した金コロイドの作製
BM33-28固定化金コロイドAu70-BM(Fab’)は、実施例2に記載された方法によって作製した。抗体は、ペプシン消化した後に2-メルカプトエタンで部分還元することによって得られたFab’断片化抗体を使用した。金コロイドは、粒子径70nmのWRGH1-70NM(ワインレッドケミカル製)を使用した。
【0052】
(4)BNPの検出
(2)で作製した抗体固定化鞭毛291-PEG6-BCと、(3)で作製した抗体固定化金コロイドAu70-BM(Fab’)を用いて、BNPのサンドイッチアッセイを以下の方法で行った。測定試料は、実施例2で使用したBNP標準液を用いた。まず、0.4mg/mLに濃度調整した抗体固定化鞭毛を8μL、OD
520=6.0になるように濃度調整した抗体固定化金コロイドを8μL、および測定試料100μLを混合し、37℃で30分間静置して反応させた。その後、バイオドットSF装置を用いて孔径0.65μmのDuraporeメンブレンフィルターで吸引ろ過し、メンブレンフィルターの上に残った金コロイドの着色を観察した(
図20)。また、金コロイドによる吸光度をイムノクロマトリーダーを用いて測定した(
図21)。その結果、測定試料中のBNP濃度が高いほど、メンブレンフィルター上の金コロイドによる吸光度が大きくなることが、目視および吸光度測定で確認できた。
【0053】
実施例6 抗体結合コラーゲンと抗体固定化金コロイドを用いたBNPの検出
(1)クラゲ由来コラーゲンへのマレイミド基の導入
PBSで1mg/mlに調製したクラゲ由来コラーゲン(海月研究所製)600μlに、250mMのSM(PEG)12のDMSO溶液を24μl加えた。その後室温で1時間反応させた後に、1Mトリス塩酸緩衝液pH8.0を76μl加え反応を止めた。反応後にPBS溶液で平衡化したPD-10カラム(GE社製)へ通し、未反応の試薬を除くことで、マレイミド基が導入されたコラーゲンを得た。
【0054】
(2)抗体が有するアミノ基のチオール基への変換
PBSで1mg/mlに調製した2mlのBC23-11に、2mg/mlのPBS溶液に調製したTraut’s Reagentを44μl加えた。その後室温で1時間反応させた後に100mMグリシン,1Mトリス塩酸緩衝液pH8.0を456μl加え、反応を止めた。反応後にPBS溶液で平衡化したPD-10カラムへ通し、未反応の試薬を除去した。以上により、抗体が有するアミノ基をチオール基へ変換した。
【0055】
(3)クラゲ由来コラーゲンへの抗体標識
マレイミド基を導入したコラーゲンと、アミノ基をチオール基へ変換した抗体とを混ぜ、4℃で一昼夜反応させた。その後この溶液を1000k cutの透析膜(spectrum製)の中へ入れてPBS溶液で透析し、コラーゲンに標識されなかった抗体を除いた。以上により、抗体標識されたコラーゲンを調製した。
【0056】
(4)金コロイドへの抗体感作
直径40nmの金コロイド(BBI社製)溶液を4.5ml取り、この溶液へ50mM KH2PO4(pH7)溶液を500μl加えた。その後30μg/mlのBNM33-28水溶液を500μl加え、室温で10分間感作させた。そしてこの溶液へ1% PEG2000溶液275μlと10%BSA溶液550μlを加え、8000g、10℃で15分間遠心した。遠心後のペレットは、1mlの金コロイド保存溶液に懸濁した。その後この溶液を8000g、10℃で15分遠心し、金コロイドをペレットとして回収した。そしてこのペレットに1mlの金コロイド保存液を加え懸濁し、同条件で遠心した。このペレットに500μlの金コロイド保存溶液を加え、BNM33-28感作金コロイドとした。
【0057】
(5)BNPの検出
実施例1で使用したのと同様のキャリブレーター200μlにBNM33-28感作金コロイドを10μl加え、次にBC23-11で標識されたコラーゲンを20μl加え、よく撹拌した。この溶液を室温で5分間静置した後、ポアサイズが0.65μmのDuraporeメンブレンフィルターでろ過した(
図22)。また、イムノクロマトリーダーでバンドの濃さを定量した。実験の結果、BNPの存在によってメンブレン上にバンドが出現することを確認できた(
図23)。
【0058】
実施例7 遠心分離を用いたBNPの検出
実施例2で作製したBM33-28結合鞭毛と、LK-12を用いて作製したALP標識されたBC23-11を使用した。
10μgのBM33-28結合鞭毛に、PBSで1000倍希釈したBC23-11-ALPを300μl添加した溶液を2つ用意した。次に、実施例1と同じBNP標準液をそれぞれ300μl添加し、15分間静置した。その後、40,000rpmで30分間遠心分離を行い、BNPを介したBM33-28結合鞭毛とBC23-11-ALPの複合体を沈殿させた。上清を除いた後、沈殿をPBS1mlで懸濁し、再度同条件で遠心分離後沈殿を回収することで、未反応のBC23-11-ALPを除去した。この操作を2回繰り返した。次に、1mg/mlのp-ニトロフェニルリン酸(pNPP)溶液(1M diethanolamine、0.5mM MgCl
2)を1ml添加し、30分後405nmの吸光度を測定した。結果を
図24に示す。結果からBNPの存在により、基質由来の吸光度が上昇することを確認した。以上の結果から、BNPを介したBM33-28結合鞭毛とBC23-11-ALPの複合体と、複合体を形成しなかったBC23-11-ALPは遠心分離が可能なことから、複合体の検出方法として遠心分離が利用できることが示された。
【0059】
実施例8 電気泳動分離を用いたBNPの検出
実施例2で作製した3μgのBM33-28結合鞭毛とBC23-11固定化金コロイド20μlを混合し、PBSで30μlとなるよう調整した溶液を2つ用意した。次に、実施例1と同じBNP標準液をそれぞれ20μl添加し5分間静置した。その後、0.7%のアガロースゲルを用いて、電気泳動装置(Mupid-exu、ADVANCE社製)で135V、30分間泳動させた(TAE緩衝液)。撮影したゲルを
図25Aに示す。金コロイドは負に帯電しているため、電圧をかけるとプラス側に泳動する。BC23-11金コロイド、BNP及び、BM33-28結合鞭毛の複合体は分子が大きくなるため、アガロースゲル中を泳動し難くなり、複合体を形成していないBC23-11金コロイドに比べ泳動距離が短くなる。
図25A中、a1,b1はアガロースゲルのウェルの部分、a2,b2は複合体に由来する金コロイド呈色部分、a3,b3は複合体を形成していないBC23-11金コロイドに由来する呈色部分である。
図25Bには、Aの画像を画像解析ソフト(ImageJ)で処理した結果を示す。a2、b2を比較するとBNP存在下で電気泳動を行ったb2の方が金コロイドに由来する呈色強度が強いことが分かる。imajeJを用いてa2、b2の面積を求めると,a2:2955、b2:7860となり、この結果からも複合体の形成により、金コロイドの電気泳動距離が短くなったことが分かる。
以上の結果から、アガロースゲル電気泳動を用いて、BNPを介したBM33-28結合鞭毛とBC23-11固定化金コロイドの複合体と、複合体を形成しなかったBC23-11固定化金コロイドを、分離可能であることが示された。
【0060】
実施例9 直鎖繊維、分岐繊維を用いた場合のバックグランド値の比較
それぞれ、抗体を固定していない鞭毛、コラーゲン(海月研究所製)、キトサン(BiNFi―s8、スギノマシン製)、セルロース(BiNFi―s5、スギノマシ社製)を、
図26に記載の濃度になるよう繊維溶液をPBSで調整した。繊維溶液100μl、実施例1と同じBNP標準液のうちcal1(0pg/ml)を100μl、実施例2に記載のBC23-11固定化金コロイド20μlを混合した後、バイオドットSF装置を用い、0.65μmのDuraporeメンブレンフィルターで吸引ろ過を行った。膜上に残った金コロイドの様子を
図26に示す。また、メンブレン上の金コロイドによる呈色強度をイムノクロマトリーダーを用いて測定した結果を
図27に示す。結果から、直鎖繊維はアッセイあたりに使用する繊維量を増加させてもバックグランドがほとんど上昇しないが、分岐繊維を用いた場合は、繊維量の増加にともないバックグランドが上昇することが確認された。
【0061】
実施例10 エレクトロスピニング繊維(PVDF)を用いた測定系
(1)PVDFナノ短繊維の作製
PVDF(SOLEF社製)をDMF/アセトン(60/40)で12.5wt%になるように溶解し、NANON-1(MECC製)を用い、3,000rpmで回転するΦ200ドラムコレクターを用いて、配向性ナノファイバーをエレクトロスピニング法により作製した(20KV、1.0ml/hr)。繊維径は約400nmであった。得られたナノファイバーを100μm間隔で切断し、長さが100μmのPVDF繊維を得た。
(2)PVDFナノ繊維への抗体の固定化
PVDF繊維をメタノール中に分散し遠心(15,000rpm、5分)することで、沈殿にPVDF繊維を得た。沈殿を0.2M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.4)に分散させ遠心し、上清を捨てることで、メタノールを除去した。次に参考例3で作製したBM33-28のペプシン消化断片(F(ab‘)2)を1μg/mlに濃度調整し(0.2M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.4))、上記沈殿に1mL添加して、4℃で終夜静置した。遠心操作(15,000rpm、5分)で繊維に固定化されていない抗体を除去した後、沈殿に1%BSA溶液(PBS)を1mL加え室温で1時間静置することで、ブロッキング操作を行った。その後PBSで洗浄する操作を3回繰り返した後、PBS100μlを加えることで、抗体結合PVDF繊維溶液を得た。抗体結合PVDF繊維を顕微鏡(Minscope TM-1000 日立社製)を用いて観察した画像を
図28に示す。
(3)BNPの検出
抗体結合PVDF繊維20μlと実施例2に記載のBC23-11結合金コロイド20μlを混合した溶液を2つ準備した。次に、実施例1と同じBNP標準液をそれぞれ100μl添加し、5分間静置した。静置後、バイオドットSF装置を用い、0.65μmのDuraporeメンブレンフィルターで吸引ろ過を行った。膜上に残った金コロイドの様子と、イムノクロマトリーダーを用いて測定した結果も
図29に示す。結果からBNPの存在により金コロイド由来の呈色強度が強くなることが確認された。このように、PVDF繊維を用いた場合においても本発明の測定系が構築可能であることが示された。
【0062】
比較例1 抗体結合マイクロ粒子と抗体固定化金コロイドを用いたBNPの検出
(1)BM33-28のマイクロ粒子への固定化
白色マイクロ粒子(粒子径:3μm、表面修飾:‐NH
2、ラテックス粒子、Micromer製)懸濁溶液(5.64×10
-1pM)100μLに、50mMのKH
2PO
4(pH8.0)を200μL加えた。250mMのSM(PEG)
6(Thermo製)のDMSO溶液を5μL添加し、30分室温で反応させマレイミド基をマイクロ粒子表面に導入後、5,000gで10分間の遠心操作を2回繰り返すことで、未反応の試薬を除去した。
その後、0.1mg/mL(5mM KH
2PO
4、pH 8.0)に調製した実施例2に記載したFab’化したBM33-28抗体を500μL添加し室温で30分反応させた。次に80mMのHS-PEG
6-OMe(SIGMA-ALDRICH社製)を10μL添加し未反応のマレイミド基をブロックし、その後10%のBSA溶液100μLを加えブロッキングを行った。その後、PBSで洗浄する操作を2回行うことで、未反応の抗体を除去した。沈殿物をPBS緩衝液500μLに懸濁させ、BM33-28固定化マイクロ粒子を得た。
(2)BNPの検出
BM33-28固定化マイクロ粒子溶液20μLと、実施例2で作製したBC23-11標識金コロイド溶液20μL及び、実施例2と同じBNP標準液各210μLをそれぞれ混合し、5分静置した。次にバイオドットSF装置を用い、0.65μmのDuraporeメンブレンフィルターで吸引ろ過を行った。メンブレン上に残った金コロイドの様子を
図30に示す。また、メンブレン上の金コロイドによる呈色強度をイムノクロマトリーダーを用いて測定した結果を
図31に示す。
図30、
図31からBNPの濃度に応じて金コロイド由来の呈色強度が強くなることが確認できた。
(3)データの比較
実施例2に記載の鞭毛を用いたアッセイ系と、本比較例のアッセイによるイムノクロマトリーダーで測定した呈色強度測定結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
表1から鞭毛、マイクロ粒子を用いたアッセイ系の呈色強度の変化量(cal1からの呈色強度変化量、ΔmABS)を計算した結果を
図32に示す。その結果、繊維(鞭毛)を用いたアッセイ系はマイクロ粒子を用いたアッセイ系に比べ低濃度域(cal2-1、cal3-1)でΔmABSが大きいことが確認された。ΔmABSが小さい場合、目視による判定が困難になる。そのため、本発明の実施には、マイクロ粒子でなく繊維を用いることがより好ましいことが示された。