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特許7009984ノイズ除去フィルタ装置及びノイズ除去方法
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  • 特許-ノイズ除去フィルタ装置及びノイズ除去方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】ノイズ除去フィルタ装置及びノイズ除去方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 21/00 20060101AFI20220119BHJP
   H04B 1/10 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
H03H21/00
H04B1/10 U
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017250494
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019117999
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390041346
【氏名又は名称】新光電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100918
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 公治
(72)【発明者】
【氏名】相川 直幸
(72)【発明者】
【氏名】岡本 光平
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-202348(JP,A)
【文献】特開2014-174131(JP,A)
【文献】特開2013-183357(JP,A)
【文献】特開2013-250237(JP,A)
【文献】特開2010-028756(JP,A)
【文献】特開2005-223960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 19/00-21/00
H03H 1/00- 3/00
H03H 5/00- 7/13
H03H 17/00-17/08
H04B 1/10
G05B 1/00-21/02
G01G 1/00-23/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流成分にノイズが重畳した信号から前記ノイズを除去するノイズ除去フィルタ装置であって、
前記信号のサンプリングデータが入力するIIR型ノッチフィルタと、
前記信号のサンプリングデータが順次入力し、前後する前記サンプリングデータの差分を算出してサンプリング差分データを生成する差分算出部と、
前記サンプリング差分データからノイズ成分を除去するようにフィルタ係数の更新を繰り返すIIR型適応ノッチフィルタと、
前記IIR型適応ノッチフィルタの前記フィルタ係数の収束状態を監視するフィルタ係数監視部と、
を備え、
前記IIR型適応ノッチフィルタの前記フィルタ係数が収束状態にあるとき、該フィルタ係数が前記IIR型ノッチフィルタのフィルタ係数としてコピーされ、
前記信号のサンプリングデータが入力した前記IIR型ノッチフィルタから、前記ノイズが除去されたサンプリングデータが出力され
前記IIR型適応ノッチフィルタの前記フィルタ係数が収束状態に無いとき、前記信号のサンプリングデータが前記IIR型ノッチフィルタを経ずに出力されることを特徴とするノイズ除去フィルタ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のノイズ除去フィルタ装置であって、
前記IIR型ノッチフィルタの出力に対して該IIR型ノッチフィルタのステップ応答を補正するステップ応答補正部を更に備えるノイズ除去フィルタ装置。
【請求項3】
直流成分にノイズが重畳した信号から前記ノイズを除去するノイズ除去方法であって、
前記信号の時間的に前後するサンプリングデータの差分を算出してサンプリング差分データを生成する差分算出ステップと、
前記サンプリング差分データをIIR型適応ノッチフィルタに供給し、該IIR型適応ノッチフィルタに前記サンプリング差分データからノイズ成分を除去するようにフィルタ係数の更新を行わせるフィルタ係数算出ステップと、
前記IIR型適応ノッチフィルタの前記フィルタ係数が収束状態にあるか否かを判定する判定ステップと、
前記IIR型適応ノッチフィルタの前記フィルタ係数が収束状態にあるときには、前記信号のサンプリングデータを供給するIIR型ノッチフィルタのフィルタ係数として、前記IIR型適応ノッチフィルタの前記フィルタ係数をコピーし、前記IIR型ノッチフィルタからノイズが除去されたサンプリングデータを出力させ、前記IIR型適応ノッチフィルタの前記フィルタ係数が収束状態に無いときには、前記信号のサンプリングデータを、前記IIR型ノッチフィルタを経ずに出力させる出力ステップと、
を備えるノイズ除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号に重畳するノイズを除去するノイズ除去フィルタ装置とノイズ除去方法に関し、高精度のノイズ除去を短時間で実施できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
IIR(Infinite Impurse Response)型のノッチフィルタは、音声・音響信号や生体信号等からノイズを除去するために、様々な信号処理分野で使われている。
例えば下記特許文献1には、受信波中の妨害波を除去するために無線受信機で利用されるノッチフィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-246926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
薬液などの液体を容器に入れて計量装置で計量する場合、液体が揺れていると、揺れの周波数に対応するノイズが重量値に加算されるため、揺れが収まるまで待たなければ高精度の計量ができないという問題がある。
本発明は、このように、大きな直流成分(即ち、被計量物の重量値)に対してノイズ成分が重なる信号からノイズ成分を効率的、且つ、高精度に除去できるノイズ除去フィルタ装置とノイズ除去方法とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、直流成分にノイズが重畳した信号からノイズを除去するノイズ除去フィルタ装置であって、信号のサンプリングデータが入力するIIR型ノッチフィルタと、信号のサンプリングデータが順次入力し、前後する前記サンプリングデータの差分を算出してサンプリング差分データを生成する差分算出部と、このサンプリング差分データからノイズ成分を除去するようにフィルタ係数の更新を繰り返すIIR型適応ノッチフィルタと、IIR型適応ノッチフィルタのフィルタ係数の収束状態を監視するフィルタ係数監視部と、を備え、IIR型適応ノッチフィルタのフィルタ係数が収束状態にあるとき、そのフィルタ係数がIIR型ノッチフィルタのフィルタ係数としてコピーされ、信号のサンプリングデータが入力したIIR型ノッチフィルタから、ノイズが除去されたサンプリングデータが出力され、IIR型適応ノッチフィルタのフィルタ係数が収束状態に無いとき、信号のサンプリングデータがIIR型ノッチフィルタを経ずに出力されることを特徴とする。
このノイズ除去フィルタ装置では、信号のノイズ除去が可能なフィルタ係数をIIR型適応ノッチフィルタからIIR型ノッチフィルタにコピーしているため、効率的なノイズ除去が可能である。また、本発明のノイズ除去フィルタ装置では、適応ノッチフィルタのフィルタ係数が収束状態に無いとき、信号のサンプリングデータがIIR型ノッチフィルタを経ずに出力されるが、これは、IIR型ノッチフィルタのフィルタ係数の更新が完了しなければ、信号に対するノイズ除去効果が得られないためである。
【0006】
また、本発明のノイズ除去フィルタ装置では、ノッチフィルタの出力に対してノッチフィルタのステップ応答を補正するステップ応答補正部を更に設けることが望ましい。
ノッチフィルタのステップ応答を補正することで、高精度のノイズ除去が可能になる。
【0008】
また、本発明は、直流成分にノイズが重畳した信号から前記ノイズを除去するノイズ除去方法であって、信号の時間的に前後するサンプリングデータの差分を算出してサンプリング差分データを生成する差分算出ステップと、このサンプリング差分データをIIR型適応ノッチフィルタに供給し、IIR型適応ノッチフィルタにサンプリング差分データからノイズ成分を除去するようにフィルタ係数の更新を行わせるフィルタ係数算出ステップと、IIR型適応ノッチフィルタのフィルタ係数が収束状態にあるか否かを判定する判定ステップと、IIR型適応ノッチフィルタのフィルタ係数が収束状態にあるときには、信号のサンプリングデータを供給するIIR型ノッチフィルタのフィルタ係数として、IIR型適応ノッチフィルタのフィルタ係数をコピーし、IIR型ノッチフィルタからノイズが除去されたサンプリングデータを出力させ、IIR型適応ノッチフィルタのフィルタ係数が収束状態に無いときには、信号のサンプリングデータを、IIR型ノッチフィルタを経ずに出力させる出力ステップと、
を備える。 この方法により、直流成分にノイズが重畳した信号から効率的にノイズを除去することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のノイズ除去フィルタ装置及びノイズ除去方法により、直流成分にノイズが重畳した信号から、効率的、且つ、高精度にノイズを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るノイズ除去フィルタ装置を示す図
図2】IIR適応ノッチフィルタのブロック図
図3】IIRノッチフィルタのブロック図
図4】ステップ応答補正を説明する数式
図5】(a)図1の装置不使用、(b)図1のノッチフィルタ処理、(c)図1のノッチフィルタ処理及びステップ応答補正処理、を受けた信号の特性を示す図
図6】本発明のノイズ除去方法を示すフロー図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係るノイズ除去フィルタ装置の構成をブロック図で示している。
この装置は、直流成分にノイズが重畳した入力信号のサンプリングデータが入力し、このサンプリングデータの後退差分を算出して差分信号を出力する差分算出部621と、差分信号からノイズを除去するようにフィルタ係数の更新を繰り返すIIR型適応ノッチフィルタ622と、適応ノッチフィルタ622のフィルタ係数の収束状態を監視するフィルタ係数監視部623と、入力信号のサンプリングデータのノイズを除去するIIR型ノッチフィルタ626と、適応ノッチフィルタ622のフィルタ係数が収束状態にあるとき、適応ノッチフィルタ622のフィルタ係数をノッチフィルタ626のフィルタ係数としてコピーする係数更新部624と、ノッチフィルタ626の出力のステップ応答を補正するステップ応答補正部627と、適応ノッチフィルタ622のフィルタ係数が収束状態に無いとき、入力のサンプリングデータをノッチフィルタ626を通さずに出力する選択部625と、を備えている。
【0012】
なお、差分算出部621、適応ノッチフィルタ622、フィルタ係数監視部623、ノッチフィルタ626、係数更新部624、ステップ応答補正部627及び選択部625は、マイクロコンピュータやDSP(Digital Signal Processer)等の演算処理装置がプログラムで指定された処理を実行することにより実現される。
【0013】
この装置において、差分算出部621は、入力するサンプリングデータの時間的に前後するデータx(n)、x(n-1)を用いて次式(数2)により差分信号y(n)を算出し、出力する。
y(n)=x(n)-x(n-1) (数2)
y(n)は、入力信号から直流成分を除いたノイズ成分の信号に相当する。
【0014】
適応ノッチフィルタ622は、図2に示す構成を有している。この適応ノッチフィルタ622は、差分信号y(n)からノイズ成分を除去するため、次式(数3)によりノッチ係数a(n)の更新を繰り返す。
a(n+1)=a(n)-μ(n)u(n-1)e(n) (数3)
μ(n)=μ0Σλk2(n-k)
(Σは、k=0からnまで加算)
(数3)において、λは忘却係数、μ0はステップサイズ、μ(n)は可変ステップサイズである。
【0015】
係数監視部623は、適応ノッチフィルタ622のフィルタ係数a(n)を監視し、
a(n)-a(n-1)≦0.02 (数4)
のとき、フィルタ係数が収束状態にあると判定し、(数4)の収束条件を満たさないとき、フィルタ係数が収束状態にないと判定する。係数監視部623は、その判定結果を選択部625及び係数更新部624に伝える。
ノッチフィルタ626は、図3に示す構成を有している。この構成は、適応ノッチフィルタ622(図2)と同様である。
適応ノッチフィルタ622のフィルタ係数が収束状態にあるとき、選択部625は、入力するサンプリングデータx(n)をノッチフィルタ626に供給し、係数更新部624は、ノッチフィルタ626のフィルタ係数として適応ノッチフィルタ622のフィルタ係数をコピーする。
この処理を受けたノッチフィルタ626は、入力信号からノイズ成分を除いた信号を出力する。
【0016】
なお、選択部625は、適応ノッチフィルタ622のフィルタ係数が収束状態にないときには、入力信号を、ノッチフィルタ626を通さずに出力する。これは、ノッチフィルタ626のフィルタ係数の更新が完了しなければ、入力信号に対するノイズ除去効果が得られないためである。
【0017】
ステップ応答補正部627は、ノッチフィルタ626のステップ応答による出力信号の乱れを補正する。
ステップ信号が入力するノッチフィルタ626では、帯域幅決定パラメータrの値に応じて、リンギングや立ち上がりの遅れなどのステップ応答が発生する。ステップ応答補正部627は、ノッチフィルタ626の出力信号に含まれる「ステップ応答を悪化させる成分」を打ち消す信号を発生して、出力信号の乱れを補正する。
【0018】
具体的には、次のとおりである。
図4に示すように、ノッチフィルタの伝達関数は(数5)で表せる。ここで、X(z)は入力、Y(z)は出力である。
(数6)に示す振幅Aのステップ信号がノッチフィルタに入力すると、ノッチフィルタの出力は(数7)のようになる。
(数7)を逆Z変換すると、ノッチフィルタの出力y(n)は(数8)のようになる。
(数8)において第2項がステップ応答を悪化させる項である。
ステップ応答補正部627は、ノッチフィルタ入力の瞬時値x(n)を用いて、ノッチフィルタの出力y(n)から(数8)の第2項をキャンセルさせる項((数9)の第2項)を作成し、「ステップ応答を悪化させる成分」を打ち消した(数9)のw(n)をステップ応答補正部627から出力する。
【0019】
図5は、容器に液体を入れたものを被計量物として計量装置で計量したときの計量信号の時間変動を示している。図5(a)は、ノイズ除去フィルタ装置60を使用しないときの計量信号の特性を示し、図5(b)は、ノイズ除去フィルタ装置60のノッチフィルタ626で処理された段階の計量信号の特性を示し、図5(c)は、ノイズ除去フィルタ装置60のノッチフィルタ626及びステップ応答補正部627での処理を受けた計量信号の特性を示している。
図5から、ノッチフィルタ626のノイズ除去により、液揺れの影響が短時間で除去できることが分かり、ノッチフィルタ626のノイズ除去とステップ応答補正部627のステップ応答補正とを併せて行うことにより、液揺れの影響がさらに短時間で収束することが分かる。
【0020】
図6は、このノイズ除去フィルタ装置60によるノイズ除去手順をフロー図で示している。
入力信号の時間的に前後するサンプリングデータの差分を算出し(ステップ1)、得られたサンプリング差分データを適応ノッチフィルタ(ANF)に与えて、ノイズ除去が可能なフィルタ係数を求める(ステップ2)。
【0021】
適応ノッチフィルタのフィルタ係数が収束条件を満たす場合は(ステップ3でYes)、そのフィルタ係数を、入力信号のサンプリングデータが入力するノッチフィルタ(NF)のフィルタ係数として設定し、そのノッチフィルタで入力信号のサンプリングデータのノイズを除去する(ステップ4)。
また、ステップ3において、適応ノッチフィルタのフィルタ係数が収束条件を満たさない場合は(ステップ3でNo)、入力信号のサンプリングデータをノッチフィルタを通さずに出力する。
入力信号のサンプリングデータのノイズをノッチフィルタで除去したときは、ノッチフィルタの出力に対してノッチフィルタのステップ応答を補正する処理を行った後、出力する(ステップ5)。
こうした処理により、直流成分にノイズが重畳した入力信号のノイズを効率的、且つ、高精度に除去することができる。
【0022】
ここでは、液体を被計量物とするときの計量信号からノイズ除去を行う場合について説明したが、本発明は、サンプリングデータの差分算出によりノイズ成分が抽出できる信号であれば適用が可能である。
【0023】
本発明のノイズ除去フィルタ装置には、次のような態様も含まれる。
ノイズ除去フィルタ装置が、適応ノッチフィルタのフィルタ係数の収束状態を監視するフィルタ係数監視部を備え、適応ノッチフィルタのフィルタ係数が収束状態にあるとき、適応ノッチフィルタのフィルタ係数がコピーされたノッチフィルタに入力信号のサンプリングデータが供給され、適応ノッチフィルタのフィルタ係数が収束状態に無いとき、サンプリングデータがノッチフィルタを経ずに出力されること。
【0024】
本発明のノイズ除去方法には、次のような態様も含まれる。
ノッチフィルタの出力のステップ応答を補正するステップ応答補正ステップを更に備えること。
フィルタ係数算出ステップにおいて、適応ノッチフィルタのフィルタ係数の収束状態を監視し、フィルタ係数が収束状態にあるとき、フィルタ係数設定ステップに進み、適応ノッチフィルタのフィルタ係数が収束状態に無いとき、入力信号のサンプリングデータを、ノッチフィルタを経ずに出力すること。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のノイズ除去フィルタ装置及びノイズ除去方法は、信号のノイズを効率的に除去することが可能であり、音声・音響信号や生体信号、計測信号等の信号処理を扱う広い分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0026】
60 ノイズ除去フィルタ装置
621 差分算出部
622 適応ノッチフィルタ
623 フィルタ係数監視部
624 係数更新部
625 選択部
626 ノッチフィルタ
627 ステップ応答補正部
図1
図2
図3
図4
図5
図6