(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】信号伝送用ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 11/00 20060101AFI20220119BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20220119BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
H01B11/00 J
H01B7/18 D
H01B7/02 Z
(21)【出願番号】P 2018007464
(22)【出願日】2018-01-19
【審査請求日】2020-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐川 英之
(72)【発明者】
【氏名】杉山 剛博
(72)【発明者】
【氏名】末永 和史
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-269390(JP,A)
【文献】特開2006-294312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
H01B 7/18
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一本以上または一対以上の単数または複数の素線からなる導体を絶縁体で被覆した絶縁電線において、
前記導体を被覆する絶縁体から形成された被覆層と、
前記被覆層の周囲を覆うコーティング層と、
前記コーティング層を覆う金属材料を含む材料から形成されたメッキ層と、
を有し、
前記被覆層および前記コーティング層の間の
剥離方向の密着強度は、前記コーティング層および前記メッキ層の間の
剥離方向の密着強度よりも低い信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
前記被覆層は第1の絶縁体から形成され、
前記コーティング層は、前記第1の絶縁体とは異なる第2の絶縁体から形成されている請求項2に記載の信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
前記コーティング層における前記メッキ層と対向する領域は、粗化または親水化する改質処理が行われている請求項2または3に記載の信号伝送用ケーブル。
【請求項4】
前記被覆層における前記コーティング層に対向する領域は、粗化または親水化する改質処理が行われていない請求項1から3のいずれか1項に記載の信号伝送用ケーブル。
【請求項5】
前記被覆層は、フッ素樹脂を用いて形成されている請求項1から4のいずれか1項に記載の信号伝送用ケーブル。
【請求項6】
前記被覆層および前記コーティング層は密着している請求項1から5のいずれか1項に記載の信号伝送用ケーブル。
【請求項7】
前記メッキ層は、金属材料、または、金属材料を含む複合材料を含む請求項1から6のいずれか1項に記載の信号伝送用ケーブル。
【請求項8】
前記コーティング層は、50μm以下の厚さを有する請求項1から7のいずれか1項に記載の信号伝送用ケーブル。
【請求項9】
前記剥離方向の密着強度は、前記コーティング層を貫通して少なくとも前記被覆層に達する深さの溝を格子状に形成し、当該溝を形成した前記コーティング層の領域に粘着テープを接着させ、当該粘着テープを剥がす際の密着強度である請求項1から8のいずれか1項に記載の信号伝送用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号伝送用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
信号伝送用ケーブルとしては、導電性を有する導線と、導線の周囲に設けられた樹脂から形成された被覆層と、被覆層の外側に設けられた導電性を有するシールド層が設けられたものが一般に知られている。従来は、シールド層として銅およびポリエステルが積層されたテープを被覆層に巻き付けたものが知られていた。
【0003】
近年では、信号伝送ケーブルの低コスト化や細径化や高性能化を図るために、銅およびポリエステルが積層されたテープを用いたシールド層の代わりに、被覆層の外周面に金属メッキを施したシールド層が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、上述の信号伝送用ケーブルの端部は、導線を基板などに電気的に接続する際に段剥きが行われる(例えば、特許文献2参照。)。段剥きは、信号伝送用ケーブルの芯線を露出させる加工であるとともに、シールド層を被覆層から取り除く(剥く)加工である。この段剥きにより、露出された芯線と、シールド層の端部とが、信号伝送用ケーブルの長手方向に離れることになる。そのため、導線と基板との接点と、シールド層と基板の接点と、の距離を確保しやすくなり絶縁を図りやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-149892号公報
【文献】特表2016-529664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている被覆層の外周面に金属メッキを施したシールド層を有する信号伝送ケーブルの場合、上述の段剥きの加工が行いにくいという問題があった。具体的には、金属メッキのシールド層は、銅およびポリエステルが積層されたテープのシールド層と比較して、シールド層および被覆層が強く密着している。そのため、段剥きを行う際に、被覆層からシールド層を剥がしにくく段剥き加工が行いにくいという問題があった。
【0007】
また、段剥き加工が行いにくいため、導線とシールド層との間の絶縁を確保しにくいという問題があった。具体的には、被覆層からシールド層を剥がしにくいため、導線とシールド層の端部との距離を確保しにくく、導線とシールド層との絶縁を確保しにくいという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、ケーブルの細径化、および、段剥き加工の容易化が可能な信号伝送用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の信号伝送用ケーブルは、一本以上または一対以上の単数または複数の素線からなる導体を絶縁体で被覆した絶縁電線において、前記導体を被覆する絶縁体から形成された被覆層と、前記被覆層の周囲を覆うコーティング層と、前記コーティング層を覆う金属材料を含む材料から形成されたメッキ層と、を有し、前記被覆層および前記コーティング
層の間の密着強度は、前記コーティング層および前記メッキ層の間の密着強度よりも低い。
【0010】
本発明の信号伝送用ケーブルによれば、被覆層およびコーティング層の間の密着強度を、コーティング層およびメッキ層の間の密着強度よりも低くされている。これにより、段剥き加工の際に、メッキ層はコーティング層とともに被覆層および素線から取り除かれる。そのため、信号伝送用ケーブルのシールド層として、メッキ層を設けて細線化を図ったケーブルであっても、シールド層(メッキ層)を取り除く段剥き加工が容易となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の信号伝送用ケーブルによれば、被覆層およびコーティング層の間の密着強度を、コーティング層およびメッキ層の間の密着強度よりも低くしているため、ケーブルの細径化、および、段剥き加工の容易化が可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る信号伝送用ケーブルの構成を説明する摸式断面視図である。
【
図2】段剥き加工が施された
図1の信号伝送用ケーブルの端部を説明する模式図である。
【
図3】本発明の他の実施形態に係る信号伝送用ケーブルの構成を説明する摸式断面視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る信号伝送用ケーブル10ついて
図1から
図3を参照しながら説明する。
本実施形態では、本発明を一対の信号線導体(導体)21を有する信号伝送用ケーブル10に適用して説明する。信号伝送用ケーブル10には、
図1に示すように、一対の信号線導体21と、被覆層(第1の絶縁体)31と、コーティング層(第2の絶縁体)41と、メッキ層51と、が主に設けられている。
【0014】
信号線導体21は電気信号の伝達に用いられるものであり、例えば、銅や銅合金を含む金属材料から形成された素線である。一対の信号線導体21のうちの一方は、差動信号としてのプラス側信号を伝送する導体であり、他方は、差動信号としてのマイナス側信号を伝送する導体である。
【0015】
被覆層31は、一対の信号線導体21を被覆するものである。本実施形態では、被覆層31の横断面形状が、一対の長さが等しい平行線および一対の半円形形状により構成された形状である例に適用して説明する。なお、被覆層31の具体的な形状については、上述の形状であってもよいし、略楕円形の形状などの他の形状であってもよい。
【0016】
被覆層31の内部には、一対の信号線導体21が所定間隔で並ぶように配置され、信号線導体21の周囲には、被覆層31の厚さが少なくとも所定の厚さを有するようにされている。
【0017】
本実施形態では、被覆層31がフッ素樹脂から形成されている例に適用して説明する。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を代表とし、その他、ポリフッ化ビニル(PVF)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの公知の樹脂を例示することができる。なお、被覆層31はフッ素樹脂から形成されていてもよいし、被覆層31に
求められる絶縁性などの条件を満たす他の樹脂から形成されていてもよい。
【0018】
被覆層31における外周面、言い換えるとコーティング層41と対向する面である被覆外周面32には、粗面化や、親水化を目的とした改質処理は施されていない。例えば、被覆外周面32は、圧縮法や押出法により被覆層31のケーブル状に成形した状態のままとされている。
【0019】
コーティング層41は、被覆層31を被覆するものである。コーティング層41は、被覆層31の被覆外周面32に密着して設けられている。言い換えると、周方向および長手方向にわたり接触の程度が同様になるようにして設けられている。コーティング層41は、厚さtが50μm以下となるように形成されている。
【0020】
本実施形態では、コーティング層41がフッ素樹脂とは異なる樹脂、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE;High Density Poly-Ethylene)、から形成されている例に適用して説明する。なお、コーティング層41は発泡ポリエチレンから形成されていてもよいし、コーティング層41に求められる絶縁性などの条件を満たす他の樹脂から形成されていてもよい。
【0021】
コーティング層41における外周面、言い換えるとメッキ層51と対向する面であるコーティング外周面42には、粗面化や、親水化を目的とした改質処理が施されている。ここで改質処理としては、ブラスト処理や、プラズマ、コロナ、紫外線、電子線、イオンビーム等の高エネルギーを照射する処理や、酸性溶液、アルカリ性溶液または高濃度の酸素やオゾンを含有する溶液へ浸漬する処理などを例示することができる。
【0022】
メッキ層51は、被覆層31のコーティング外周面42に形成される層であり、外来ノイズの影響を抑制するものである。メッキ層51は、メッキ処理により形成される層であり、銅または銅合金を含む金属材料から形成された導電性を有する層である。本実施形態では、メッキ層51が銅または銅合金を含む金属材料から形成される例に適用して説明するが、導電性を有する材料、例えば銀または銀合金を含む金属材料から形成されてもよい。
【0023】
被覆層31およびコーティング層41の間の密着強度は、コーティング層41およびメッキ層51の間の密着強度よりも低い。なお、密着強度の比較方法の詳細については、後述する。
【0024】
次に、上記の信号伝送用ケーブル10において段剥き加工された端部の構成について、
図2を参照しながら説明する。
信号伝送用ケーブル10の端部は、長手方向に沿って順次に段剥きされている。段剥き加工では、信号伝送用ケーブル10の端部のメッキ層51およびコーティング層41が剥ぎ取られ、被覆層31が露出する領域が形成される。
【0025】
例えば、被覆層31に達する深さの溝を、信号伝送用ケーブル10の周方向にわたって環状に形成する。その後、当該溝よりも端部側のメッキ層51およびコーティング層41を剥ぎ取ることにより、被覆層31を露出させる。なお、上述の溝を形成する方法としては、二酸化炭素レーザーなどのレーザー光を信号伝送用ケーブル10に照射して形成する方法を例示することができる。
【0026】
その後、露出した被覆層31の先端側の一部が剥ぎ取られ一対の信号線導体21が露出する領域が形成される。これにより、信号伝送用ケーブル10の端部の先端では一対の信号線導体21が露出し、その次に被覆層31が露出する。なお、一対の信号線導体21を
露出させる方法は、公知の方法を用いることができる。
【0027】
露出している一対の信号線導体21は、信号伝送用ケーブル10が接続されるコネクタまたは基板などに設けられた信号線導体用パッド91に電気的に接続される。またメッキ層51は、接地されたグランドパッド92に電気的に接続される。
【0028】
被覆層31が露出している長さ(長手方向の長さ)Lは、信号線導体21とメッキ層51との間の絶縁が確保できる長さ以上であればよく、具体的な数値を限定するものではない。
【0029】
次に、密着強度の比較方法について説明する。
まず、比較に用いる対象である信号伝送用ケーブル10に対して、少なくとも被覆層31に達する深さの溝を格子状に形成する。次いで、信号伝送用ケーブル10の当該溝を形成した領域に粘着テープを接着させ、当該粘着テープを剥がす。
【0030】
当該粘着テープについて剥がれた信号伝送用ケーブル10の切片における粘着テープと反対側の面の材質の分析を行う。当該分析により、被覆層31を形成する材料が検出されれば、被覆層31およびコーティング層41の間の密着強度は、コーティング層41およびメッキ層51の間の密着強度よりも低いと判定される。
【0031】
その一方で、メッキ層51を形成する材料が検出されれば、被覆層31およびコーティング層41の間の密着強度は、コーティング層41およびメッキ層51の間の密着強度よりも高いと判定される。
【0032】
上記の構成の信号伝送用ケーブル10によれば、被覆層31およびコーティング層41の間の密着強度を、コーティング層41およびメッキ層51の間の密着強度よりも低くされている。これにより、段剥き加工の際に、メッキ層51はコーティング層41とともに被覆層31および信号線導体21から取り除かれる。そのため、信号伝送用ケーブル10のシールドとして、メッキ層51を設けて細線化を図ったケーブルであっても、メッキ層51を取り除く段剥き加工が容易となる。
【0033】
被覆層31およびコーティング層41をそれぞれ異なる絶縁体であるPTFEおよび発泡ポリエチレンから形成することにより、信号伝送用ケーブル10におけるノイズ特性の向上と、段剥き加工の容易化とを図りやすくなる。具体的には、被覆層31を形成する材料としてノイズ特性の向上を図りやすい材料を採用し、コーティング層41を形成する材料として段剥き加工の容易化を図りやすい材料を採用することが可能となる。
【0034】
コーティング層41におけるメッキ層51と対向するコーティング外周面42に改質処理を行うことにより、改質処理を行わない場合と比較して、コーティング層41とメッキ層51との間の密着強度を高めやすくなる。コーティング外周面42はメッキ層51が形成される面である。この対向する面に改質処理が行われることにより、メッキ層51が形成されやすくなり、コーティング層41とメッキ層51との間の密着強度を高めやすくなる。
【0035】
被覆層31におけるコーティング層41と対向する被覆外周面32に改質処理を行わないことにより、改質処理を行った場合と比較して、被覆層31とコーティング層41との間の密着強度を抑制しやすくなる。被覆外周面32はコーティング層41が形成される面である。被覆外周面32に改質処理を行わないことにより、被覆層31とコーティング層41との間の密着強度を抑制しやすくなる。
【0036】
被覆層31およびコーティング層41を密着させることにより、断続的に隙間がある場合、言い換えると断続的に接触する場合と比較して、信号伝送用ケーブル10におけるノイズ特性の悪化を抑制しやすい。
【0037】
金属材料または金属材料を含む複合材料、より好ましくは銅または銅を含む複合材料がメッキ層51に含まれていることにより、メッキ層51をシールドとして機能させることが可能となる。
【0038】
コーティング層41の厚さを50μm以下とすることにより、信号伝送用ケーブル10におけるノイズ特性の悪化を抑制しやすい。特に、信号伝送用ケーブル10の細径化を図る場合には、ノイズ特性の悪化を抑制しやすくなる。
【0039】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記の実施の形態においては、信号伝送用ケーブル10に一対の信号線導体21が設けられている例に適用して説明したが、
図3に示すように、1本の信号線導体21が設けられたものであってもよく、信号線導体21の本数を限定するものではない。
【符号の説明】
【0040】
10…信号伝送用ケーブル、21…信号線導体(導体)、31…被覆層(第1の絶縁体)、41…コーティング層(第2の絶縁体)、51…メッキ層