(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】単結晶の製造方法及び装置及びシリコン単結晶インゴット
(51)【国際特許分類】
C30B 13/12 20060101AFI20220119BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20220119BHJP
C30B 13/28 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C30B13/12
C30B29/06 501A
C30B13/28
(21)【出願番号】P 2018164796
(22)【出願日】2018-09-03
【審査請求日】2020-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】十河 慎二
(72)【発明者】
【氏名】杉田 圭謙
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 利行
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-221079(JP,A)
【文献】特開2002-249393(JP,A)
【文献】特開2017-095319(JP,A)
【文献】国際公開第2017/137438(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドープガスを溶融帯域に吹き付けながら単結晶の育成を行うガスドープ法を用いたFZ法による単結晶の製造方法であって、
前記ドープガスの流量を一定にしたときの単結晶中の抵抗率の面内分布及び許容変動幅に基づいて、前記ドープガスの流量の増減幅及び繰り返し周期を決定し、
前記ドープガスの流量を
前記増減幅及び前記繰り返し周期にて繰り返し増減させることを特徴とする単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記ドープガスの流量の波形は矩形波又はパルス波である、
請求項1に記載の単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記ドープガスの流量を一定にしたときの単結晶中の抵抗率の面内分布が下凸形状となる条件下で前記単結晶を育成すると共に、前記ドープガスの流量の1周期に占める前記ドープガスの流量がハイレベルとなる期間の割合が0.5以下となるように前記ドープガスの流量を制御する、
請求項2に記載の単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記ドープガスの流量がローレベルのときの流量に対するハイレベルのときの流量の比が3以上である、
請求項3に記載の単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記ドープガスの流量の1周期に占める前記ドープガスの流量がハイレベルとなる期間の割合が0.1以下となるように前記ドープガスの流量を制御する、
請求項3に記載の単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記ドープガスの流量がローレベルのときの流量に対するハイレベルのときの流量の比が4以上である、
請求項5に記載の単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記ドープガスの流量を一定としたとき単結晶中の抵抗率の面内分布が上凸形状となる条件下で前記単結晶を育成すると共に、ドープガス流量波形の1周期に占める前記ドープガス流量がローレベルとなる期間の割合が0.5以下となるようにドープガス流量を制御する、
請求項2に記載の単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記ドープガスの流量がハイレベルのときの流量に対するローレベルのときの流量の比が3以上である、
請求項7に記載の単結晶の製造方法。
【請求項9】
前記ドープガス流量波形の1周期に占める前記ドープガス流量がローレベルとなる区間の割合が0.1以下となるように前記ドープガスの流量を制御する、
請求項7又は8に記載の単結晶の製造方法。
【請求項10】
前記ドープガスの流量がハイレベルのときの流量に対するローレベルのときの流量の比が4以上である、
請求項9に記載の単結晶の製造方法。
【請求項11】
前記単結晶の直径を徐々に大きくしながら育成するテーパー部育成工程と、
前記単結晶の直径を一定に維持しながら育成する直胴部育成工程とを含み、
前記直胴部育成工程中において前記ドープガス流量を
前記増減幅及び前記繰り返し周期にて周期的に増減させる、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の単結晶の製造方法。
【請求項12】
前記テーパー部育成工程中に前記ドープガスの吹き付けを開始し、
前記テーパー部育成工程中は前記ドープガスの流量を一定に維持し、
前記直胴部育成工程に移行した後に前記ドープガスの流量を
前記増減幅及び前記繰り返し周期にて繰り返し増減させる、
請求項11に記載の単結晶の製造方法。
【請求項13】
ドープガスを溶融帯域に吹き付けながら単結晶の育成を行うガスドープ法を用いたFZ法による単結晶製造装置であって、
原料を昇降可能に支持する上軸と、
前記単結晶を昇降可能に支持する下軸と、
前記原料を加熱して前記溶融帯域を形成する誘導加熱コイルと、
前記溶融帯域にドープガスを吹き付けるガスドープ装置とを備え、
前記ガスドープ装置は、
前記ドープガスの流量を一定にしたときの単結晶中の抵抗率の面内分布及び許容変動幅に基づいて、前記ドープガスの流量の増減幅及び繰り返し周期を決定し、前記ドープガスの流量を
前記増減幅及び前記繰り返し周期にて繰り返し増減させることを特徴とする単結晶製造装置。
【請求項14】
外周面の抵抗率が結晶長手方向に沿って周期的に増減していることを特徴とするシリコン単結晶インゴット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶の製造方法及び装置に関し、特に、ガスドープ法を用いたFZ法(フローティングゾーン法)による単結晶の製造方法及び単結晶製造装置に関する。また本発明は、そのようなガスドープ法により製造されるシリコン単結晶インゴットに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンなどの単結晶を育成する方法の一つとしてFZ法が知られている。FZ法では、多結晶の原料ロッドの一部を加熱して溶融帯域を形成し、溶融帯域の上方及び下方にそれぞれ位置する原料ロッド及び単結晶をゆっくり引き下げることにより、単結晶を徐々に成長させる。FZ法では融液を支持するルツボを使用しないので、シリコン単結晶の品質がルツボの影響を受けることがなく、CZ法よりも高純度な単結晶を育成することが可能である。
【0003】
FZ法において単結晶の電気抵抗率(以下、単に抵抗率という)を制御する方法としてガスドープ法が知られている。ガスドープ法は、溶融帯域にドーパントを含むキャリアガスを供給することにより所望の抵抗率を有する単結晶を育成する方法である。単結晶中にn型ドーパントであるP(リン)をドープする場合にはドープガスとして例えばB2H6を含むArガスが用いられ、またp型ドーパントであるB(ホウ素)をドープする場合には例えばPH3を含むArガスが用いられる。
【0004】
ガスドープ法を用いたFZ法によるシリコン単結晶の製造方法では、抵抗率の面内分布の均一化が求められている。例えば、特許文献1には、抵抗率の面内ばらつきを低減するため、半導体単結晶の径方向の抵抗率分布を予め取得し、ガスドーピングによるドーパントのドープ量を、予め取得した径方向の抵抗率分布に応じて調節することにより、半導体単結晶の径方向の抵抗率分布が均一になるように制御することが記載されている。具体的には、中心部よりも外周部の抵抗率が高い下凸形状の分布の場合には、単結晶が成長するにつれてドーパントのドープ量を減少させて抵抗率を上昇させ、中心部よりも外周部の抵抗率が低い上凸形状の分布の場合には、単結晶が成長するにつれてドーパントのドープ量を増加させて抵抗率を低下させる。
【0005】
また特許文献2には、1本のFZ単結晶棒の製造の途中でドープガスの濃度を変更することにより複数の抵抗品種を1本の単結晶棒中に形成するマルチドープFZ単結晶棒製造方法において、ドープガス濃度を変更前濃度C1から変更後濃度C3に切り換える際に、変更後濃度C3よりも高い濃度C2のドープガスを所定時間供給することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-215431号公報
【文献】特開平5-286792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の製造方法は、単結晶の全長に亘って抵抗率が上がり続ける方向もしくは下がり続ける方向のどちらか一方向にドープガス流量を調整するので、ウェーハ面内での抵抗率分布の改善効果が低いという問題がある。またガスドープ量の変化の方向が一方向であるため、ある抵抗率(例えば50Ω±10%)を持つウェーハを取得できる領域が単結晶の長手方向のごく一部に限られ、歩留まりが悪いという問題がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、所望の抵抗率を有し抵抗率の面内分布が均一な単結晶の製造歩留まりを高めることが可能なFZ法による単結晶の製造方法及び装置を提供することにある。また、本発明の目的は、所望の抵抗率を有し抵抗率の面内分布が均一なウェーハの製造歩留まりを高めることが可能な単結晶インゴットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明による単結晶の製造方法は、ドープガスを溶融帯域に吹き付けながら単結晶の育成を行うガスドープ法を用いたFZ法による単結晶の製造方法であって、前記ドープガスの流量を繰り返し増減させることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、ドープガス流量を比較的短い周期で繰り返し増減させることで抵抗率の面内分布の改善効果を高めることができ、抵抗率の面内分布を改善するために抵抗率を減少させ続けた場合には単結晶中の抵抗率が低くなりすぎて抵抗率の規格を満たすことができなくなるが、本発明によればそのような事態を防止することができる。また、結晶面内の抵抗率分布が下凸形状であった場合、ドープガス流量が高い期間中は結晶長手方向の抵抗率が減少するので単結晶の抵抗率の面内分布は悪化するが、ドープガス流量が低い期間中は結晶長手方向の抵抗率が増加するので抵抗率の面内分布を改善することができる。したがって、単結晶の一部を犠牲にしつつ残りの部分の抵抗率の面内分布を非常に良好することができ、抵抗率の面内分布が非常に均一な単結晶の歩留まりを高めることができる。
【0011】
本発明による単結晶の製造方法は、前記単結晶と前記溶融帯域との固液界面形状に基づいて、前記ドープガスの流量の増減幅及び繰り返し周期を決定することが好ましく、前記ドープガスの流量を一定にしたときの単結晶中の抵抗率の面内分布及び許容変動幅に基づいて、前記ドープガスの流量の増減幅及び繰り返し周期を決定することもまた好ましい。
これによれば、単結晶の抵抗率の面内分布の改善効果を高めることができる。
【0012】
本発明において、前記ドープガスの流量の波形は矩形波又はパルス波であることが好ましい。これによれば、抵抗率の面内分布の改善効果を高めることができる。
【0013】
本発明による単結晶の製造方法は、前記ドープガスの流量を一定にしたときの単結晶中の抵抗率の面内分布が下凸形状となる条件下で前記単結晶を育成すると共に、前記ドープガスの流量の1周期に占める前記ドープガスの流量がハイレベルとなる期間の割合が0.5以下となるように前記ドープガスの流量を制御することが好ましく、前記ドープガスの流量がローレベルのときの流量に対するハイレベルのときの流量の比は3以上であることが好ましい。これによれば、下凸形状となる抵抗率の面内分布の改善効果を高めることができる。
【0014】
本発明による単結晶の製造方法は、前記ドープガスの流量の1周期に占める前記ドープガスの流量がハイレベルとなる期間の割合が0.1以下となるように前記ドープガスの流量を制御することがさらに好ましい。この場合、前記ドープガスの流量がローレベルのときの流量に対するハイレベルのときの流量の比が4以上であることが特に好ましい。これによれば、下凸形状となる抵抗率の面内分布の改善効果をより一層高めることができる。
【0015】
本発明による単結晶の製造方法は、前記ドープガスの流量を一定としたとき単結晶中の抵抗率の面内分布が上凸形状となる条件下で前記単結晶を育成すると共に、ドープガス流量波形の1周期に占める前記ドープガス流量がローレベルとなる期間の割合が0.5以下となるようにドープガス流量を制御することが好ましく、前記ドープガスの流量がハイレベルのときの流量に対するローレベルのときの流量の比が3以上であることが好ましい。これによれば、上凸形状となる抵抗率の面内分布の改善効果を高めることができる。
【0016】
本発明による単結晶の製造方法は、前記ドープガス流量波形の1周期に占める前記ドープガス流量がローレベルとなる区間の割合が0.1以下となるように前記ドープガスの流量を制御することがさらに好ましい。この場合、前記ドープガスの流量がハイレベルのときの流量に対するローレベルのときの流量の比が4以上であることが好ましい。これによれば、上凸形状となる抵抗率の面内分布の改善効果をより一層高めることができる。
【0017】
本発明において、矩形波又はパルス波である前記ドープガスの流量波形のデューティ比は0.5以上であることが好ましく、0.9以上であることが特に好ましい。ここで、デューティ比とは、ドープガス流量を減少又は増加させることによって抵抗率の面内分布が良化される期間が、ドープガス流量の1周期に占める割合のことをいう。具体的には、ドープガスの流量を一定にしたときの抵抗率の面内分布が下凸形状となる条件下でのデューティ比は、ドープガス流量の1周期Tに占めるドープガス流量がローレベルとなる期間TLの割合(TL/T)である。また、ドープガスの流量を一定にしたときの抵抗率の面内分布が上凸形状となる条件下でのデューティ比は、ドープガス流量の1周期Tに占めるドープガス流量がハイレベルとなる期間THの割合(TH/T)である。これによれば、下凸形状又は上凸形状となる抵抗率の面内分布の改善効果を高めることができる。
【0018】
本発明による単結晶の製造方法は、前記単結晶の直径を徐々に大きくしながら育成するテーパー部育成工程と、前記単結晶の直径を一定に維持しながら育成する直胴部育成工程とを含み、前記直胴部育成工程中において前記ドープガス流量を周期的に増減させることが好ましい。この場合、前記テーパー部育成工程中に前記ドープガスの吹き付けを開始し、前記テーパー部育成工程中は前記ドープガスの流量を一定に維持し、前記直胴部育成工程に移行した後に前記ドープガスの流量を繰り返し増減させることが特に好ましい。
【0019】
また、本発明による単結晶製造装置は、ドープガスを溶融帯域に吹き付けながら単結晶の育成を行うガスドープ法を用いたFZ法による単結晶製造装置であって、原料を昇降可能に支持する上軸と、前記単結晶を昇降可能に支持する下軸と、前記原料を加熱して前記溶融帯域を形成する誘導加熱コイルと、前記溶融帯域にドープガスを吹き付けるガスドープ装置とを備え、前記ガスドープ装置は、前記単結晶の育成中に前記ドープガスの流量を繰り返し増減させることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、ドープガス流量を比較的短い周期で繰り返し増減させることで抵抗率の面内分布の改善効果を高めることができ、抵抗率の面内分布を改善するために抵抗率を減少させ続けた場合には単結晶中の抵抗率が低くなりすぎて抵抗率の規格を満たすことができなくなるが、本発明によればそのような事態を防止することができる。またドープガス流量が高い期間中は結晶長手方向の抵抗率が減少するので単結晶の抵抗率の面内分布は悪化するが、ドープガス流量が低い期間中は結晶長手方向の抵抗率が増加するので抵抗率の面内分布を改善することができる。したがって、単結晶の一部を犠牲にしつつ残りの部分の抵抗率の面内分布を非常に良好することができ、抵抗率の面内分布が非常に均一な単結晶の歩留まりを高めることができる。
【0021】
さらにまた、本発明によるシリコン単結晶インゴットは、FZ法により製造された単結晶であって、外周面の抵抗率が結晶長手方向に沿って周期的に増減していることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、単結晶の一部を犠牲にしつつ残りの部分の抵抗率の規格内に収めると共に面内分布を非常に良好することができ、抵抗率の面内分布が非常に均一な単結晶の歩留まりを高めることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、所望の抵抗率を有し抵抗率の面内分布が均一な単結晶の製造歩留まりを高めることが可能なFZ法による単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態によるFZ単結晶製造装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、FZ法によるシリコン単結晶インゴットの製造工程を概略的に示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、シリコン単結晶インゴットの形状を示す略側面図である。
【
図4】
図4(a)~(i)は、ドープガス流量の制御方法を説明するための図であって、(a)は固液界面の断面図、(b)は単結晶から切り出したウェーハWの断面図、(c)、(e)及び(h)はドープガス流量を示すグラフ、(d)、(f)、(g)及び(i)は抵抗率の面内分布を示すグラフである。
【
図5】
図5(a)~(c)は、結晶成長に合わせたドープガス流量の変化を示すグラフであり、(a)はハイレベルの区間T
Hとローレベルの区間T
Lとの比が1:1の矩形波、(b)はハイレベルの区間T
Hとローレベルの区間T
Lとの比が1:4の矩形波(パルス波)、(c)はのこぎり波をそれぞれ示している。
【
図6】
図6(a)~(f)は、ドープガス流量を一定とした場合に単結晶中の抵抗率の面内分布が下凸形状となる条件下でのドープガス流量と抵抗率との関係を説明するための図であって、(a)及び(b)は、
図5(a)及び(b)に示した矩形波(又はパルス波)のドープガス流量をそれぞれ示すグラフであり、(c)及び(d)は、(a)及び(b)のドープガス流量の変化に伴う結晶長手方向の抵抗率の変化をそれぞれ示すグラフであり、(e)は、(a)~(d)における区間T
H中に育成される単結晶の抵抗率の面内分布を示すグラフであり、(f)は、(a)~(d)における区間T
L中に育成される単結晶の抵抗率の面内分布を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)~(f)は、ドープガス流量を一定とした場合に単結晶中の抵抗率の面内分布が上凸形状となる条件下でのドープガス流量と抵抗率との関係を説明するための図であって、(a)及び(b)は、
図5(b)及び(c)に示した矩形波(又はパルス波)のドープガス流量をそれぞれ示すグラフであり、(c)及び(d)は、(a)及び(b)のドープガス流量の変化に伴う結晶長手方向の抵抗率の変化をそれぞれ示すグラフであり、(e)は、(a)~(d)における区間T
L中に育成される単結晶の抵抗率の面内分布を示すグラフであり、(f)は、(a)~(d)における区間T
H中に育成される単結晶の抵抗率の面内分布を示すグラフである。
【
図8】
図8は、本発明の第2の実施の形態によるFZ単結晶製造装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図9】
図9は、比較例によるシリコン単結晶から切り出したウェーハの抵抗率の面内分布を示すグラフである。
【
図10】
図10は、比較例によるシリコン単結晶から切り出した全ウェーハのRRGを示すヒストグラムである。
【
図11】
図11は、実施例1におけるドープガス流量波形を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例1によるシリコン単結晶の側面の抵抗率分布を示すグラフである。
【
図13】
図13は、抵抗率分布の改善効果が最大となる
図12のグラフ中の極小値PLの場所から切り出したウェーハの抵抗率の面内分布の実測値及び予測値を示すグラフである。
【
図14】
図14は、抵抗率の悪化が見込まれる
図12のグラフ中の極大値PHの場所から切り出したウェーハの抵抗率の面内分布の実測値及び予測値を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実施例1によるシリコン単結晶から切り出した全ウェーハのRRGを示すヒストグラムである。
【
図16】
図16は、実施例2におけるドープガス流量波形を示すグラフである。
【
図17】
図17は、実施例2によるシリコン単結晶の側面の抵抗率分布を示すグラフであり、
【
図18】
図18は、抵抗率分布の改善効果が最大となる
図17のグラフ中の極小値PLの場所から切り出したウェーハの抵抗率の面内分布の実測値及び予測値を示すグラフである。
【
図19】
図19は、抵抗率の悪化が見込まれる
図17のグラフ中の極大値PHの場所から切り出したウェーハの抵抗率の面内分布の実測値及び予測値を示すグラフである。
【
図20】
図20は、実施例2によるシリコン単結晶から切り出した全ウェーハのRRGを示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の第1の実施の形態によるFZ単結晶製造装置の構成を模式的に示す断面図である。
【0027】
図1に示すように、このFZ単結晶製造装置10は、シリコン単結晶を育成するための装置であって、原料ロッド1を回転可能及び昇降可能に支持する上軸11と、種結晶2(単結晶3)を回転可能及び昇降可能に支持する下軸12と、原料ロッド1の外周面を囲むリング状の誘導加熱コイル13と、成長が進んで大型化した単結晶3の重量を支える単結晶保持具14と、溶融帯域4にドープガスを供給するガスドープ装置15とを備えている。
【0028】
原料ロッド1はモノシラン等のシリコン原料を精製して得られた高純度多結晶シリコンからなり、原料ロッド1の上端は上軸11に取り付けられている。原料ロッド1の下端部分は誘導加熱コイル13により加熱されて融解し、これにより溶融帯域4が形成される。その後、下軸12に取り付けられた種結晶2を溶融帯域4に接触させ、下方に引き下げつつ、所望の直径になるように増径させながら結晶化させる。このとき、同時に原料ロッド1を下方へ移動させることで、原料ロッド1の下端部分を連続的に融解させ、結晶化に必要な量の融液を供給する。単結晶3は、ある程度成長して重量が増したところで単結晶保持具14により支持される。
【0029】
ガスドープ装置15は、溶融帯域4にドープガスを吹き付けてドーパントを取り込ませるための装置であり、溶融帯域4にドープガスを吹き付けるガスノズル15aと、ガスノズル15aから噴出されるドープガスの流量を制御するマスフローコントローラ15bと、ドープガスが高圧状態で収容されたガスボンベ15cと、ガスボンベ15cからのドープガスのガスライン圧を調整するバルブ15dとを備えている。ガスライン圧はバルブ15dの開度に応じて調整され、マスフローコントローラ15bは予め設定されたシーケンスプログラム(制御信号)に従ってドープガス流量を制御する。ガスノズル15aは、図示のように誘導加熱コイル13の近傍に配置されている。
【0030】
本実施形態において溶融帯域4へのドーパントの供給量はドープガス流量を変えることによって調整される。ドーパントの供給量を安定的に制御するためにはドープガス濃度を一定に維持し、ドープガス流量のみを調整することが好ましい。ただし、ドープガス濃度を変えることでドーパントの供給量を制御することも可能である。
【0031】
図2は、FZ法によるシリコン単結晶インゴットの製造工程を概略的に示すフローチャートである。また、
図3は、シリコン単結晶インゴットの形状を示す略側面図である。
【0032】
図2及び
図3に示すように、FZ法によるシリコン単結晶インゴットの製造では、原料ロッド1の先端部を溶融して種結晶2に融着させる融着工程S1、無転位化のため単結晶3の直径が細く絞られた絞り部3aを形成する絞り工程S2、単結晶3の直径を目標の直径まで徐々に拡大させてテーパー部3bを育成するテーパー部育成工程S3、単結晶3の直径を一定に維持して直胴部3cを育成する直胴部育成工程S4、単結晶3の直径を縮小させたボトム部3dを育成するボトム部育成工程S5、及び単結晶3の育成を終了して冷却する冷却工程S6が順に実施される。こうして、絞り部3a、テーパー部3b、直胴部3c、ボトム部3dが順に形成されたシリコン単結晶インゴット3Iが完成する。
【0033】
シリコン単結晶インゴット3Iのうち実際にウェーハとして製品化される部分は直胴部3cである。そのため、少なくとも直胴部育成工程S4中は所定の流量のドープガスを供給して単結晶中の抵抗率を精密に制御する必要がある。直胴部3cの育成開始直後からドープガスを安定的に供給するためには、テーパー部育成工程S3中にドープガスの供給を開始することが好ましい。
【0034】
図3に示すように、本実施形態によるシリコン単結晶インゴット3Iの直胴部3cの外周面3sの抵抗率は、当該インゴットの長手方向に沿って周期的に増減している。外周面の抵抗率の最大値及び最小値はウェーハの抵抗率の規格に収まるように設計されているが、規格に収まっていればよいというものではなく、抵抗率の面内変動が小さいことも製品化の条件となる。詳細は後述するが、ドープガス流量を一定とする通常ドープ時の抵抗率の面内分布が下凸形状となる場合、外周面の抵抗率の変動波形が上昇している部位で面内分布が良化し、抵抗率の変動波形が下降している部位で面内分布が悪化するので、抵抗率の変動波形が上昇している部位をウェーハ製品として使用することができる。逆に、通常ドープ時の抵抗率の面内分布が上凸形状となる場合、外周面の抵抗率の変動波形が上昇している部位で面内分布が悪化し、抵抗率の変動波形が下降している部位で面内分布が良化するので、抵抗率の変動波形が下降している部位をウェーハ製品として使用することができる。このようなシリコン単結晶インゴット3Iによれば、単結晶の一部を犠牲にしつつ抵抗率の面内分布の良好なシリコンウェーハの製造歩留まりを高めることができる。
【0035】
上記のような抵抗率分布を有する単結晶インゴット3Iは、ドープガス供給期間中においてドープガス流量を繰り返し増減させることにより製造することができる。次に、ドープガス流量の制御方法について説明する。
【0036】
図4(a)~(i)は、ドープガス流量の制御方法を説明するための図であって、(a)は固液界面の断面図、(b)は単結晶から切り出したウェーハWの断面図、(c)、(e)及び(h)はドープガス流量を示すグラフ、(d)、(f)、(g)及び(i)は抵抗率の径方向の分布を示すグラフである。
【0037】
通常、FZ法において、単結晶3と溶融帯域4との固液界面の断面形状は
図4(a)に示すように下凸形状となる。この場合、溶融帯域4の外周部Peが最初に結晶化し、中心部Pcが最後に結晶化する。そのため、
図4(b)に示すように、単結晶3から切り出したウェーハWの外周部Peの形成時期と中心部Pcの形成時期との間には時間差(t1-t2)が生じている。
【0038】
図4(c)に示すように時刻t1からt2までの期間においてドープガス流量が一定である場合において、
図4(d)に示すようにウェーハWの外周部Peよりも中心部Pcの抵抗率が低くなる場合(つまり下凸形状となる場合)には、
図4(e)に示すように時刻t1から時刻t2までの期間においてドープガス流量を減少させる。このようにすることで、外周部Peのドーパント量を相対的に増やすことができ、中心部Pcのドーパント量を相対的に減らすことができる。したがって、
図4(d)に示した抵抗率の面内分布の変化を
図4(f)のように緩和することができる。
【0039】
図4(c)に示すように時刻t1からt2までの期間においてドープガス流量が一定である場合において、
図4(g)に示すようにウェーハWの外周部Peよりも中心部Pcの抵抗率が高くなる場合(つまり上凸形状となる場合)には、
図4(h)に示すように時刻t1から時刻t2までの期間においてドープガス流量を増加させる。このようにすることで、外周部Peのドーパント量を相対的に減らすことができ、中心部Pcのドーパント量を相対的に増やすことができる。したがって、
図4(g)に示した抵抗率の面内分布の変化を
図4(i)のように緩和することができる。
【0040】
以上のように、抵抗率の面内分布に基づいてドープガス流量を適切に変化させることにより、外周部Peと中心部Pcの抵抗率の偏差を小さくすることが可能である。しかし、ドープガス流量を低くし続けると単結晶中の抵抗率が高くなりすぎることにより、ウェーハ製品に要求される所望の抵抗率(例えば50Ω・cm±10%)を確保することができなくなる。またドープガス流量を高くし続けると単結晶中の抵抗率が低くなりすぎることにより、ウェーハ製品に要求される所望の抵抗率(例えば50Ω・cm±10%)を確保することができなくなる。また、抵抗率の規格に収まる範囲内で抵抗率を変化させる場合において結晶全長に亘ってドープガス流量を常に減少又は増加させる場合には、ウェーハ一枚分の結晶成長期間における抵抗率の変化が緩やかになるため、抵抗率の面内分布を改善する効果が非常に小さいという問題もある。
【0041】
そこで本実施形態においては、ウェーハWの外周部Peと中心部Pcとの抵抗率の偏差を小さくするために変化させたドープガス流量を元の流量まで戻して、ドープガス流量を再び変化させる増減動作を繰り返す。これにより、単結晶の抵抗率を規格内に収めることができ、また、ドープガス流量の増減の繰返し周期を短くすることで抵抗率の面内分布の改善効果を高めることができる。
【0042】
図5(a)~(c)は、結晶成長に合わせたドープガス流量の変化を示すグラフであり、(a)はハイレベルの区間T
Hとローレベルの区間T
Lとの比が1:1の矩形波、(b)はハイレベルの区間T
Hとローレベルの区間T
Lとの比が1:4の矩形波(パルス波)、(c)はのこぎり波をそれぞれ示している。図中のグラフの横軸は結晶長、縦軸はドープガス流量をそれぞれ示している。
【0043】
図5(a)~(c)に示すように、単結晶の直胴部3cの育成中のドープガス流量は増減を繰り返すように制御される。このうち、
図5(a)及び(b)に示すドープガス流量の波形は矩形波であり、ドープガス流量は時刻taから時刻tbまでの結晶成長区間T
Hにおいて最大流量Q1(ハイレベル)を維持し、時刻tbにおいて最大流量Q1から最小流量Q2まで直ちに低下する。その後、時刻tbから時刻tcまでの結晶成長区間T
Lにおいて最小流量Q2(ローレベル)を維持し、時刻tcにおいて最小流量Q2から最大流量Q1まで直ちに増加する。すなわち、最大流量Q1(第1の流量)と最小流量Q2(第2の流量)とが交互に繰り返し供給される。
【0044】
図5(a)のドープガス流量波形は、ハイレベルの区間T
Hとローレベルの区間T
Lとの比が1:1の場合である。これに対して、
図5(b)のドープガス流量波形は、ハイレベルの区間T
Hとローレベルの区間T
Lとの比が1:4の場合である。
図5(a)及び(b)において、ドープガス流量を増減させる際の最大流量Q1は基準流量Q0よりも大きく、最小流量Q2は基準流量Q0よりも小さい。ここで基準流量Q0は、ドープガス流量を一定とする場合に所望の抵抗率を付与することができる流量のことをいう。また、ハイレベルな流量とは、基準流量Q0を上回る流量のことであり、ローレベルな流量とは、基準流量Q0を下回る流量のことである。
【0045】
ドープガス流量を繰り返し増減させる場合において、1周期T当たりの総流量((Q1×T
H+Q2×T
L)は、ドープガス流量を一定とする場合における繰り返し周期T当たりの総流量(Q0×T)と等しく設定される。したがって、
図5(b)のようにハイレベルの区間T
Hを短くした場合における最大流量Q1は、
図5(a)のようにハイレベルの区間T
Hを長くした場合における最大流量Q1よりも大きくなる。
【0046】
ドープガス流量の増減幅及び繰り返し周期Tは、単結晶3と溶融帯域4との固液界面形状(固液界面深さD)に基づいて決定することができる。ドープガス流量の増減幅及び繰り返し周期Tは、ドープガス流量を基準流量Q0で一定にしたときの単結晶3中の抵抗率の面内分布及び許容変動幅に基づいて決定することが好ましい。
【0047】
図5(b)のようにハイレベルの区間とローレベルの区間との比率を変える場合には、ドープガス流量を一定にしたときの単結晶中の抵抗率の面内分布に基づいてハイレベルの区間とローレベルの区間との比率を決定することが好ましい。上記のように、ドープガス流量を一定にしたときの単結晶中の抵抗率の面内分布が下凸形状となる場合、ドープガス流量がハイレベルの区間T
Hで抵抗率の面内分布が悪化し、ローレベルの区間T
Lで良化するので、ドープガス流量波形の1周期Tに占めるハイレベルの区間T
Hの割合を0.5以下にすることが好ましく、0.1以下にすることが特に好ましい。換言すると、抵抗率の面内分布が良化される期間である期間T
Lが1周期Tに占める割合T
L/T(デューティ比)は、0.5以上であることが好ましく、0.9以上であることが特に好ましい。
【0048】
逆にドープガス流量を一定にしたときの単結晶の抵抗率の面内分布が上凸形状となる場合、ドープガス流量がローレベルの区間TLで抵抗率の面内分布が悪化し、ハイレベルの区間THで良化するので、ドープガス流量波形の1周期に占めるローレベルの区間TLの割合を0.5以下にすることが好ましく、0.1以下にすることが特に好ましい。換言すると、抵抗率の面内分布が良化される期間である期間THが1周期Tに占める割合TH/T(デューティ比)は、0.5以上であることが好ましく、0.9以上であることが特に好ましい。
【0049】
図5(c)に示すドープガス流量の波形はのこぎり波であり、最大流量Q1から最小流量Q2まで徐々に低下した後、一定時間Tの経過後に最大流量Q1に直ちに戻り、このような流量の増減が周期的に繰り返される。最大流量Q1は基準流量Q0よりも大きく、最小流量Q2は基準流量Q0よりも小さい。ドープガス流量を繰り返し増減させる場合において、一周期T当たりの総流量は、ドープガス流量を一定とする場合における一周期T当たりの総流量と等しく設定される。すなわち、{(Q1+Q2)×T}/2=Q0×Tである。のこぎり波のドープガス流量の変化は、矩形波やパルス波に比べて緩慢であるため、矩形波やパルス波の場合よりも効果は小さいが、抵抗率の面内変動を緩和することが可能である。
【0050】
図6(a)~(f)は、ドープガス流量を一定とした場合に単結晶中の抵抗率の面内分布が下凸形状となる条件下でのドープガス流量と抵抗率との関係を説明するための図であって、(a)及び(b)は、
図5(a)及び(b)に示した矩形波(又はパルス波)のドープガス流量をそれぞれ示すグラフであり、(c)及び(d)は、(a)及び(b)のドープガス流量の変化に伴う結晶長手方向の抵抗率の変化をそれぞれ示すグラフであり、(e)は、(a)~(d)における区間T
H中に育成される単結晶の抵抗率の面内分布を示すグラフであり、(f)は、(a)~(d)における区間T
L中に育成される単結晶の抵抗率の面内分布を示すグラフである。
【0051】
図6(a)~(d)に示すように、単結晶の抵抗率は、ドープガス流量がハイレベルの区間T
Hで減少し、ローレベルの区間T
Lで増加する。そして、抵抗率が減少する区間T
H中に育成された単結晶の抵抗率の面内分布の変動幅ρdevは、
図6(e)に示すように大きくなり、抵抗率が増加する区間T
L中に育成された単結晶の抵抗率の面内分布の変動幅ρdevは、
図6(f)に示すように小さくなる。
【0052】
図6(a)に示すように、ドープガス流量波形のハイレベルの区間T
Hが相対的に長い場合には、ドープ流量のローレベルの区間T
Lが短くなるので、
図6(c)に示すように抵抗率の増加率は大きくなる。したがって、抵抗率の面内分布を改善する効果を高めることができるが、面内分布が改善された単結晶の長さは短くなる。なお、単結晶の直胴部における結晶成長速度は一定であるため、結晶長を示す横軸は時間軸に置き換えて見ることができる。
【0053】
一方、
図6(b)に示すように、ドープガス流量波形のハイレベルの区間T
Hが相対的に短い場合には、ドープ流量のローレベルの区間T
Lが長くなるので、
図6(d)に示すように抵抗率の増加率は緩やかになる。したがって、抵抗率の面内分布を改善する効果が小さくなるが、面内分布が改善された単結晶の長さはd2長くなる。また、ドープガス流量がハイレベルの区間T
Hでの抵抗率の減少率が急であるため抵抗率の変動幅が拡大して面内分布の悪化が著しいが、ハイレベルの区間T
Hが短いため、面内分布が悪化した単結晶の長さd1は短くなる。
【0054】
したがって、面内分布が改善された単結晶の長さよりも抵抗率の面内分布の改善効果を優先する場合には、
図6(a)のようにドープガス流量波形のハイレベルの区間T
Hを長くしたほうがよい。逆に、抵抗率の面内分布の改善効果よりも面内分布が改善された単結晶の長さを優先する場合には、
図6(b)のようにドープガス流量波形のハイレベルの区間T
Hを短くしたほうがよい。この場合、ドープガス流量の1周期に占めるハイレベルの区間T
Hの割合は0.1以下であることが好ましく、ドープガス流量がローレベルのときの最小流量Q2に対するハイレベルのときの最大流量Q1の比は4以上であることが好ましい。
【0055】
図7(a)~(f)は、ドープガス流量を一定とした場合に単結晶中の抵抗率の面内分布が上凸形状となる条件下でのドープガス流量と抵抗率との関係を説明するための図であって、(a)及び(b)は、
図5(b)及び(c)に示した矩形波(又はパルス波)のドープガス流量をそれぞれ示すグラフであり、(c)及び(d)は、(a)及び(b)のドープガス流量の変化に伴う結晶長手方向の抵抗率の変化をそれぞれ示すグラフであり、(e)は、(a)~(d)における区間T
L中に育成される単結晶の抵抗率の面内分布を示すグラフであり、(f)は、(a)~(d)における区間T
H中に育成される単結晶の抵抗率の面内分布を示すグラフである。
【0056】
図7(a)~(d)に示すように、単結晶の抵抗率は、ドープガス流量がローレベルの区間T
Lで増加し、ハイレベルの区間T
Hで増加する。そして、抵抗率が増加する区間T
L中に育成された単結晶の抵抗率の面内分布の変動幅ρdevは、
図7(e)に示すように大きくなり、抵抗率が減少する区間T
H中に育成された単結晶の抵抗率の面内分布の変動幅ρdevは、
図7(f)に示すように小さくなる。
【0057】
図7(a)に示すように、ドープガス流量波形のローレベルの区間T
Lが相対的に長い場合には、ドープ流量のハイレベルの区間T
Hが短くなるので、
図7(c)に示すように抵抗率の減少率は大きくなる。したがって、抵抗率の面内分布を改善する効果を高めることができるが、面内分布が改善された単結晶の長さd2は短くなる。なお、単結晶の直胴部における結晶成長速度は一定であるため、結晶長を示す横軸は時間軸に置き換えて見ることもできる。
【0058】
一方、
図7(b)に示すように、ドープガス流量波形のローレベルの区間T
Lが相対的に短い場合には、ドープ流量のハイレベルの区間T
Hが長くなるので、
図7(d)に示すように抵抗率の減少率は緩やかなる。したがって、抵抗率の面内分布を改善する効果が小さくなるが、面内分布が改善された単結晶の長さd2は長くなる。また、ドープガス流量がローレベルの区間T
Lでの抵抗率の増加率が急であるため抵抗率の変動幅が拡大して面内分布の悪化が著しいが、ローレベルの区間T
Lが短いため、面内分布が悪化した単結晶の長さd1は短くなる。
【0059】
したがって、面内分布が改善された単結晶の長さよりも抵抗率の面内分布の改善効果を優先する場合には、
図7(a)のようにドープガス流量波形のローレベルの区間T
Lを長くしたほうがよい。逆に、抵抗率の面内分布の改善効果よりも面内分布が改善された単結晶の長さを優先する場合には、
図7(b)のようにドープガス流量波形のローレベルの区間T
Lを小さくしたほうがよい。この場合、ドープガス流量の1周期に占めるローレベルの区間T
Lの割合は0.1以下であることが好ましく、ドープガス流量がローレベルのときの最小流量Q2に対するハイレベルのときの最大流量Q1の比は4以上であることが好ましい。
【0060】
このように、本実施形態によれば、ドープガス流量を結晶長手方向に沿って繰り返し増減させることで抵抗率の面内分布の変動幅ρdev=ρ1-ρ2(
図4(e)参照)を小さくすることができる。ウェーハ抵抗率の面内分布は、元の面内抵抗率分布が下凸形状であった場合、抵抗率が結晶長手方向に増加する区間T
Lで緩和され、抵抗率が結晶長手方向に減少する区間T
Hで悪化する。区間T
Lでの変動幅ρdevの縮小効果は、ΔRES×D/d1で表すことができる。ここで、ΔRESは、製造しようとする単結晶に許容される抵抗率の規格幅であり、例えば許容される抵抗率が50Ω・cm±10%の場合、抵抗率の規格幅は10%となる。またDは固液界面の深さ(
図4(a)参照)であり、製造条件によって決まる値である。d1は、抵抗率分布が良化する区間T
Lにおける結晶長である。
【0061】
以上説明したように、本実施形態による単結晶の製造方法は、溶融帯域4にドープガスを吹き付けながら単結晶3をFZ法により製造する際に、ドープガス流量を繰り返し増減させるので、抵抗率の面内分布が良好な単結晶の歩留まりを高めることができる。
【0062】
図8は、本発明の第2の実施の形態によるFZ単結晶製造装置の構成を模式的に示す断面図である。
【0063】
図8に示すように、本実施形態の特徴は、ガスボンベ15c
1から供給されるドープガスとボンベ15c
2から供給される不活性ガス(例えば、Ar)との混合ガスをガスノズル15aを通じて溶融帯域4に吹き付ける点にある。ガスボンベ15c
1から供給されるドープガスの流量はマスフローコントローラ15b
1によって制御され、またボンベ15c
2から供給される不活性ガスの流量はマスフローコントローラ15b
1によって制御される。そしてドープガスと不活性ガスの流量比を変化させることにより、ガスノズル15aから溶融帯域4に吹き付ける混合ガスのドープ濃度を変化させる。ガスノズル15aから溶融帯域4に吹き付ける混合ガスの流量は一定量とすることが好ましい。本実施形態においては、ボンベ15c
1から供給されるドープガスの流量を繰り返し増減させるので、
図1に示した第1の実施の形態と同様の効果を奏することができ、抵抗率の面内分布が良好な単結晶の製造歩留まりを高めることができる。
【0064】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0065】
例えば、上記実施形態においてはシリコン単結晶を製造する場合を例に挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、FZ法により製造可能な種々の単結晶を対象とすることができる。
【実施例】
【0066】
<比較例>
ガスドープ法による直径200mmのシリコン単結晶の製造時に、ドープガス流量を変動させずに一定流量に維持しながら成長させた比較例によるシリコン単結晶を用意した。このシリコン単結晶からウェーハを切り出し、抵抗率の面内分布を測定した。
図9は、ウェーハの抵抗率の面内分布を示すグラフであり、横軸はウェーハ中心からの距離(mm)、縦軸は抵抗率の規格値(%)をそれぞれ示している。抵抗率の基準値(0%)は狙い抵抗率である。
【0067】
図9に示すように、比較例によるシリコン単結晶の抵抗率の面内分布は下凸形状であった。また、抵抗率偏差ρdevは11%であった。また、この成長条件での固液界面深さDは20mmであることを確認した。
【0068】
次に、得られた全ウェーハの抵抗率の面内分布を測定し、面内の抵抗率の変化率の指標であるRRG(Radial Resistivity Gradient)を評価した。RRGは、ウェーハ面内の最大抵抗率ρmaxと最小抵抗率ρminとの差を最小抵抗率ρminで除した値を百分率で表したものである。すなわち、RRG=((ρmax-ρmin) /ρmin)×100である。
【0069】
図10は、比較例によるシリコン単結晶から切り出した全ウェーハのRRGを示すヒストグラムである。
図10に示すように、RRGは10~11%を中心に7~16%の範囲内に集中的に分布していることが分かった。この結果からRRG≦10%を判定基準とすると、良品率は31%程度であった。
【0070】
<実施例1>
ドープガス流量を変動させた点以外は比較例と同一条件下で実施例1によるシリコン単結晶を製造した。
図11のようにドープガス流量波形は矩形波であり、流量がハイレベルの区間における結晶長d2とローレベルの区間における結晶長d1との比は15:20とし、比較例のドープガス流量(一定値)を基準として+70%と-45%との間で上下に変動させた。ドープガス流量比は3.4であった。
【0071】
次に、得られたシリコン単結晶の側面の抵抗率分布を結晶成長方向に沿って測定した。シリコン単結晶の側面の抵抗率は四端針法により測定した。
図12は、実施例1によるシリコン単結晶の側面の抵抗率分布を示すグラフであり、横軸は結晶の長さ方向の位置(mm)、縦軸は抵抗率の規格値(%)をそれぞれ示している。
【0072】
図12に示すように、結晶長手方向の抵抗率はドープガス流量がローレベルの区間で増加し、ハイレベルの区間で減少した。実測値は、狙い値によく一致していることが分かる。
【0073】
これにより、単結晶に許容される抵抗率の規格幅ΔRES=11%、d1=20(mm)となるので、抵抗率偏差ρdevに対して最大で11%の補正効果が見込まれる。
【0074】
抵抗率分布の改善効果が最大となる
図12のグラフ中の極小値PLの場所から切り出したウェーハの抵抗率の面内分布の実測値及び予測値を
図13に示す。また、抵抗率の悪化が見込まれる
図12のグラフ中の極大値PHの場所から切り出したウェーハの抵抗率の面内分布の実測値及び予測値を
図14に示す。
【0075】
図13に示すように、極小値PLの場所から切り出したウェーハの抵抗率の面内分布はほぼフラットとなり、抵抗率偏差ρdevは3%程度まで改善された。一方、
図14に示すように、極大値PHの場所から切り出したウェーハの抵抗率の面内分布は大きく変化し、抵抗率偏差ρdevは23%まで悪化した。
【0076】
図15は、実施例1によるシリコン単結晶から切り出した全ウェーハのRRGを示すヒストグラムである。
図15に示すように、RRGは3~34%の範囲内に広く分布し、比較例に対して良化するものだけでなく悪化するものも増加する結果となった。RRG≦10%を判定基準とすると、良品率は35%程度であった。実施例1の良品率は比較例と比べて大きな改善はないが、比較例では得られなかったRRGが5%以下となる抵抗率分布が非常にフラットなウェーハ製品を得ることができた。
【0077】
<実施例2>
ドープガス流量の変動条件を異ならせた点以外は実施例1と同一条件下で実施例2によるシリコン単結晶を製造した。
図16のようにドープガス流量波形はパルス波であり、ハイレベルの区間における結晶長d2とローレベルの区間における結晶長d1との比は4:75とし、比較例のドープガス流量(一定値)を基準として+312%と-14%との間を上下に変動させた。ドープガス流量比は4.8であった。
【0078】
次に、得られたシリコン単結晶の側面の抵抗率分布を結晶成長方向に沿って測定した。シリコン単結晶の側面の抵抗率は四端針法により測定した。
図17は、実施例2によるシリコン単結晶の側面の抵抗率分布を示すグラフであり、横軸は結晶の長さ方向の位置(mm)、縦軸は抵抗率の規格値(%)をそれぞれ示している。
【0079】
図17に示すように、結晶長手方向の抵抗率はドープガス流量がローレベルの区間で増加し、ハイレベルの区間で減少した。実測値は、狙い値よりも大きい傾向があるものの概ね一致していることが分かる。
【0080】
これにより、単結晶に許容される抵抗率の規格幅ΔRES=11%、d1=75(mm)となるので、抵抗率偏差ρdevに対して最大で2.9%の補正効果が見込まれる。
【0081】
抵抗率分布の改善効果が最大となる
図17のグラフ中の極小値PLの場所から切り出したウェーハの抵抗率の面内分布の実測値及び予測値を
図18に示す。また、抵抗率の悪化が見込まれる
図17のグラフ中の極大値PHの場所から切り出したウェーハの抵抗率の面内分布の実測値及び予測値を
図19に示す。
【0082】
図18に示すように、極小値PLの場所から切り出したウェーハの抵抗率偏差ρdevは約3%低減し、8%程度まで改善された。一方、
図19に示すように、極大値PHの場所から切り出したウェーハの抵抗率偏差ρdevは21%まで悪化した。
【0083】
図20は、実施例2のシリコン単結晶から切り出した全ウェーハのRRGを示すヒストグラムである。
図20に示すように、RRGは3~28%の範囲内に広く分布するが、分布がまとまっており、悪化するものが少なかった。比較例に比べて全体的に分布が良化方向へシフトしていることが分かる。RRG≦10%を判定基準とすると、良品率は78%程度となった。
【符号の説明】
【0084】
1 原料ロッド
2 種結晶
3 単結晶(シリコン単結晶)
3I シリコン単結晶インゴット
3a 絞り部
3b テーパー部
3c 直胴部
3d ボトム部
3s 外周面
4 溶融帯域
10 単結晶製造装置
11 上軸
12 下軸
13 誘導加熱コイル
14 単結晶保持具
15 ガスドープ装置
15a ガスノズル
15b,15b1,15b2 マスフローコントローラ
15c,15c1,15c2 ガスボンベ
15d,15d1,15d2 バルブ
Pc ウェーハ中心部(結晶中心部)
Pe ウェーハ外周部(結晶外周部)
Q0 基準流量
Q1 最大流量
Q2 最小流量
S1 融着工程
S2 絞り工程
S3 テーパー部育成工程
S4 直胴部育成工程
S5 ボトム部育成工程
S6 冷却工程
W ウェーハ