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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】浄化装置及び浄化電極
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/30 20060101AFI20220119BHJP
   C02F 3/10 20060101ALI20220119BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20220119BHJP
   H01M 8/16 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C02F3/30 B
C02F3/10 Z
H01M4/86 M
H01M8/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019557213
(86)(22)【出願日】2018-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2018043342
(87)【国際公開番号】W WO2019107303
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2017230016
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 覚
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄也
(72)【発明者】
【氏名】吉川 直毅
(72)【発明者】
【氏名】中西 周次
(72)【発明者】
【氏名】木村 恒太
(72)【発明者】
【氏名】三島 俊一
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199475(WO,A1)
【文献】特開2005-174573(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114139(WO,A1)
【文献】特開2014-213211(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107381725(CN,A)
【文献】国際公開第2017/208495(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F3/00-3/34
H01M8/16
H01M4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体を有し、酸素還元反応を生じさせる浄化構造体と、
前記浄化構造体と前記浄化構造体により浄化される被処理水とを内部に保持するための処理槽と、
を備え、
前記浄化構造体の上部が気相と接触し、かつ、前記浄化構造体の下部前記気相と接触せず前記被処理水と接触し、前記下部は、鉛直方向において前記上部よりも下方に位置しており、
前記浄化構造体は、鉛直方向の長さが前記鉛直方向に垂直な幅方向の長さの2倍以上になるように、前記処理槽の内部に設置され
前記浄化構造体では、前記気相中の酸素を還元する酸素還元反応が生じる前記上部と、前記被処理水中の有機物を酸化して水素イオンと電子を生成する有機物酸化反応が生じる前記下部との間に電位差が生じ、前記導電体を通じて前記下部から前記上部へ前記電子が伝導する、浄化装置。
【請求項2】
前記浄化構造体は、鉛直方向の長さが前記鉛直方向に垂直な幅方向の長さの5倍以上になるように、前記処理槽の内部に設置される、請求項1に記載の浄化装置。
【請求項3】
前記浄化構造体における前記上部には、好気性微生物が付着している、請求項1又は2に記載の浄化装置。
【請求項4】
前記浄化構造体における前記上部には、酸素還元触媒が担持されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の浄化装置。
【請求項5】
前記浄化構造体における前記下部には、嫌気性微生物が付着している、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の浄化装置。
【請求項6】
前記浄化構造体の形状は、板状、棒状又は紐状である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の浄化装置。
【請求項7】
複数の前記浄化構造体が前記処理槽の内部に設置されている、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の浄化装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の浄化装置に用いられる浄化電極であって、
前記導電体と、前記導電体に担持される酸素還元触媒と、バインダーのみからなる浄化電極。
【請求項9】
導電体を有し、酸素還元反応を生じさせる浄化構造体を備え、
前記浄化構造体の上部が気相と接触し、かつ、前記浄化構造体の下部前記気相と接触せず前記被処理水と接触し、前記下部は、鉛直方向において前記上部よりも下方に位置しており、
前記浄化構造体は、鉛直方向の長さが前記鉛直方向に垂直な幅方向の長さの2倍以上になるように設置され
前記浄化構造体では、前記気相中の酸素を還元する酸素還元反応が生じる前記上部と、前記被処理水中の有機物を酸化して水素イオンと電子を生成する有機物酸化反応が生じる前記下部との間に電位差が生じ、前記導電体を通じて前記下部から前記上部へ前記電子が伝導する浄化装置に用いられる浄化電極であって、
前記導電体と、前記導電体に担持される酸素還元触媒と、バインダーのみからなる浄化電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄化装置及び浄化電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、廃水中に含まれる有機物等を除去するために、種々の水処理方法が提供されている。具体的には、微生物の好気呼吸を利用する活性汚泥法や、微生物の嫌気呼吸を利用する嫌気性処理法などの水処理方法が提供されている。
【0003】
活性汚泥法では、微生物を含んだ泥(活性汚泥)と廃水とを生物反応槽で混合し、微生物が廃水中の有機物を酸化分解するために必要な空気を生物反応槽に送り込んで攪拌することで、廃水を浄化している。しかし、活性汚泥法は、生物反応槽のエアレーションに莫大な電力を要する。また、微生物が酸素呼吸をして活発に代謝を行う結果、産業廃棄物である大量の汚泥(微生物の死骸)が発生してしまう。
【0004】
これに対し、嫌気性処理法ではエアレーションが不要となることから、活性汚泥法に比べて必要電力量を大幅に低減することができる。また、微生物が獲得する自由エネルギーが小さいので、汚泥発生量が減少する。このような嫌気性処理法を利用した廃水処理装置としては、特許文献1に記載の微生物燃料電池が開示されている。この微生物燃料電池は、有機性基質に浸漬して嫌気性微生物を担持させる負極と、少なくとも一部分がイオン透過性隔膜で形成された外殻と入出孔とを有する密閉型中空カセットと、を備えている。さらに当該微生物燃料電池は、中空カセット内に電解液と共に封入し、又は、当該カセットの隔膜の内側に結合して有機性基質中に差し込む正極を備えている。そして、入出孔経由でカセット内に酸素を供給し、さらに負極及び正極を電気的に接続する回路経由で電気を取り出すことも開示されている。このような微生物燃料電池は、他の嫌気性処理法と比べて、廃水処理に要する日数を短縮することが可能であり、効率的に有機物を除去することができる技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5164511号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような微生物燃料電池を用いた廃水処理装置は、電極の構造が複雑であり、製造コストや維持管理コストが高くなることから、簡易的な処理装置が求められている。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、構造が簡易であり、かつ、廃水を効率的に浄化することが可能な浄化装置、及び当該浄化装置を用いられる浄化電極を提供することにある。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第一の態様に係る浄化装置は、導電体を有し、酸素還元反応を生じさせる浄化構造体と、当該浄化構造体と浄化構造体により浄化される被処理水とを内部に保持するための処理槽と、を備える。浄化構造体の一部が気相と接触し、かつ、浄化構造体の他部が被処理水と接触する。そして、浄化構造体は、鉛直方向の長さが鉛直方向に垂直な幅方向の長さよりも長くなるように、処理槽の内部に設置される。
【0009】
本発明の第二の態様に係る浄化電極は、上述の浄化装置に用いられる浄化電極であって、導電体と、導電体に担持される酸素還元触媒と、バインダーのみからなる。
【0010】
本発明の第三の態様に係る浄化電極は、導電体を有し、酸素還元反応を生じさせる浄化構造体を備え、浄化構造体の一部が気相と接触し、かつ、浄化構造体の他部が被処理水と接触し、前記浄化構造体は、鉛直方向の長さが前記鉛直方向に垂直な幅方向の長さよりも長くなるように設置される浄化装置に用いられる浄化電極である。当該浄化電極は、導電体と、導電体に担持される酸素還元触媒と、バインダーのみからなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態に係る浄化装置の一例を示す斜視図である。
図2図2は、図1中のA-A線に沿った断面図である。
図3図3は、図1中のB-B線に沿った断面図である。
図4図4は、浄化構造体により被処理水を浄化するメカニズムを説明するための断面図である。
図5図5は、浄化構造体により被処理水を浄化するメカニズムを説明するための断面図である。
図6図6は、実施例1-1及び1-2並びに実施例2-1及び2-2の浄化構造体を用いた場合における、有機性廃水中の全有機体炭素濃度の平均値を示すグラフである。
図7図7は、実施例1-1及び1-2並びに実施例2-1及び2-2の浄化構造体に付着した微生物において、全真菌に対するGeobacter菌の比率(Ratio of Geobacter)を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態に係る浄化装置及び浄化電極について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0013】
[浄化装置]
本実施形態に係る浄化装置100は、図1乃至図3に示すように、酸素還元反応を生じさせる浄化構造体10と、浄化構造体10及び浄化構造体10により浄化される被処理水30を内部に保持するための処理槽20と、を備えている。そして、浄化構造体10は、上部10aが気相40と接触し、下部10bが被処理水30と接触するように、処理槽20の内部に設置されている。
【0014】
(浄化構造体)
本実施形態において、浄化構造体10は導電体1を備えている。図1乃至図3に示すように、導電体1は、導電性材料により構成され、さらに略直方体状で扁平の板部材からなる。
【0015】
浄化構造体10は、気相40中の酸素を還元する酸素還元反応が生じる部位と、被処理水30中の有機物を酸化して水素イオンと電子を生成する有機物酸化反応が生じる部位とを有している。具体的には、浄化構造体10において、酸素還元反応が生じる部位は、気相40と接触している上部10aであり、有機物酸化反応が生じる部位は、被処理水30と接触している下部10bである。
【0016】
浄化構造体10を構成する導電体1は、酸素還元反応が生じる上部10aと有機物酸化反応が生じる下部10bとの間に、水素イオン(H)が移動するための内部空間を有することが好ましい。導電体1の内部に連続した空間が存在していることにより、後述するように、下部10bで生成した水素イオンが内部空間を通じて上部10aへ移動することが可能となる。
【0017】
導電体1の構成は、水素イオンが移動するための内部空間を有し、さらに下部10bから上部10aに向かって電気的に接続されていれば特に限定されない。また、導電体1は、下部10bから上部10aに向かって連続して延びていてもよい。あるいは、導電体1は、電気的に接続された複数の導電部分から構成されていてもよい。さらに、導電体1を構成する材料の一部は、下部10bから上部10aに向かって連続して伸びていてもよく、内部空間を横切るように伸びていてもよい。つまり、導電体1を構成する材料の一部は、導電体1の長手方向(図1乃至3では鉛直方向Y)に連続して伸びていてもよく、当該長手方向に垂直な方向(図1乃至3ではX方向及び/又はZ方向)に延びていてもよい。
【0018】
導電体1の材料は、導電性を確保できるならば特に限定されないが、例えば導電性金属、炭素材料及び導電性ポリマー材料からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。導電性金属としては、例えば、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。炭素材料としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロス及びグラファイトホイルからなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。導電性ポリマー材料としては、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリピロール及びポリ(p-フェニレンスルフィド)からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0019】
上述のように、導電体1は、上部10aと下部10bとの間に水素イオンが移動するための内部空間を有することが好ましいことから、下部10bから上部10aに向かって連続した空間を有することが好ましい。このような内部空間を確保するために、導電体1は、多孔質の導電性シートを備えることが好ましい。また、導電体1は、多孔質の導電性シートからなることがより好ましい。このような多孔質の導電性シートは、内部に多数の細孔を有しているため、水素イオンが容易に移動することが可能となる。
【0020】
導電体1は、織布状の導電性シート及び不織布状の導電性シートの少なくとも一方を備えることが好ましい。織布状の導電性シート及び不織布状の導電性シートは、多数の細孔を有しているため、水素イオンの移動を容易にすることができる。また、導電体1は、下部10bから上部10aにかけて、複数の貫通孔を有する金属板であってもよい。
【0021】
導電体1は、不織布状の導電性シートを備えることがより好ましく、不織布状の導電性シートからなることが特に好ましい。不織布はその厚みや空隙率を変更しやすいため、後述するように、導電体1の下部10bに嫌気性微生物を付着し、上部10aに酸素還元触媒又は好気性微生物を担持した構成を容易に得ることが可能となる。なお、導電体1における空間の細孔径は、下部10bから上部10aに水素イオンが移動できれば特に限定されない。
【0022】
上述の観点から、導電体1を構成する導電性材料は、グラファイトホイル、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト及びステンレス鋼(SUS)からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが特に好ましい。
【0023】
図1乃至図3に示すように、浄化構造体10における鉛直方向Yの長さL1は、鉛直方向Yに垂直な幅方向Zの長さL2よりも長いことが好ましい。また、浄化構造体10は板状であることが特に好ましい。これにより、浄化構造体10における下部10bと被処理水30の水面30aとの間の距離が大きくなり、下部10bの周囲が嫌気条件となる。そのため、浄化構造体10の下部10bに嫌気性微生物が付着し、有機物の酸化を効率的に行うことが可能となる。また、浄化構造体10において、酸素還元反応が生じる部位(上部10a)と、有機物酸化反応が生じる部位(下部10b)との間に電位差を生じさせ、導電体1を通じて下部10bから上部10aへ電子を効率的に伝導することが可能となる。
【0024】
なお、浄化構造体10における鉛直方向Yの長さL1は、幅方向Zの長さL2よりも長いことが好ましい。また、浄化構造体10における鉛直方向Yの長さL1は、幅方向Zの長さL2の2倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、8倍以上であることがさらに好ましく、10倍以上であることが特に好ましい。なお、浄化構造体10における鉛直方向Yの長さL1の上限は特に限定されないが、例えば、幅方向Zの長さL2の50倍以下であることが好ましい。
【0025】
上述のように、浄化構造体10の形状は板状であることがより好ましい。しかしながら、浄化構造体10の形状はこのような態様に限定されず、鉛直方向Yの長さL1を幅方向Zの長さL2よりも長くすることが可能ならば、棒状又は紐状であってもよい。浄化構造体の形状が、板状、棒状又は紐状であることにより、浄化構造体10における下部10bと被処理水30の水面30aとの間の距離が大きくなるため、下部10bに多くの嫌気性微生物を付着させることができる。また、浄化構造体10において、酸素還元反応が生じる上部10aと、有機物酸化反応が生じる下部10bとの間に電位差を生じさせ、微生物の代謝を制御することが可能となる。なお、浄化構造体10の形状が棒状又は紐状である場合、鉛直方向Yに垂直な幅方向Zの長さL2は、浄化構造体10の外周における2点間の最大直線距離をいう。
【0026】
図4に示すように、浄化構造体10における酸素還元反応が生じる部位(上部10a)には、酸素還元触媒2が担持されていることが好ましい。酸素還元触媒2が担持されていることにより、上部10aにおいて酸素、水素イオン及び電子による酸素還元反応を効率的に進行させることが可能となる。なお、酸素還元触媒2は、導電体1の表面に担持されていてもよく、導電体1の内部に担持されていてもよい。
【0027】
導電体1に担持され得る酸素還元触媒2は特に限定されないが、白金を含有することが好ましい。また、酸素還元触媒2は、少なくとも一種の非金属原子と金属原子とがドープされた炭素粒子を含んでもよい。炭素粒子にドープされる原子は特に限定されない。非金属原子は、例えば窒素原子、ホウ素原子、硫黄原子及びリン原子からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。また、金属原子は、例えば鉄原子及び銅原子の少なくとも一方であることが好ましい。
【0028】
酸素還元触媒2はバインダーを用いて導電体1に結着していてもよい。つまり、酸素還元触媒2はバインダーを用いて導電体1の表面及び細孔内部に担持されていてもよい。これにより、酸素還元触媒2が導電体1から脱離し、酸素還元特性が低下することを抑制できる。バインダーとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びエチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることが好ましい。また、バインダーとしては、NAFION(登録商標)を用いることも好ましい。
【0029】
浄化構造体10における有機物酸化反応が生じる部位(下部10b)に付着する微生物としては、被処理水30中の有機物を分解して水素イオンと電子を生成する嫌気性微生物であることが好ましい。嫌気性微生物3は、増殖に酸素を必要とせず、さらに被処理水30中の有機物を酸化分解するための空気を必要としない。そのため、空気を送り込むために必要な電力を大幅に低減することができる。また、微生物が獲得する自由エネルギーが小さいので、汚泥発生量を減少させることが可能となる。
【0030】
浄化構造体10の下部10bに付着する嫌気性微生物は、例えば細胞外電子伝達機構を有する電気生産細菌であることが好ましい。具体的には、嫌気性微生物として、例えばGeobacter属細菌、Shewanella属細菌、Aeromonas属細菌、Geothrix属細菌、Saccharomyces属細菌が挙げられる。
【0031】
浄化構造体10の下部10bに、嫌気性微生物を含むバイオフィルムが重ねられて固定されることで、下部10bに嫌気性微生物が付着してもよい。なお、バイオフィルムとは、一般に、微生物集団と、微生物集団が生産する菌体外重合体物質(extracellular polymeric substance、EPS)とを含む三次元構造体のことをいう。ただ、嫌気性微生物は、バイオフィルムによらずに下部10bに付着していてもよい。また、嫌気性微生物は、下部10bの表面だけでなく、内部に付着していてもよい。
【0032】
浄化構造体10における酸素還元反応が生じる部位(上部10a)に付着する微生物としては、気相40中の酸素と水素イオン及び電子とを反応させて水を生成する好気性微生物であることが好ましい。このような好気性微生物4としては、例えばSphingobacterium属細菌, Acinetobacterium属細菌、Acinetobacter属細菌が挙げられる。
【0033】
浄化構造体10は、導電体1のみからなるものであってもよい。後述するように、被処理水30に嫌気性微生物3及び好気性微生物4の両方が存在している場合には、上部10aに好気性微生物4が付着し、下部10bに嫌気性微生物3が付着することで局部電池反応が生じ、有機物を酸化分解することが可能となる。また、後述するように、浄化構造体10は、酸素還元触媒2及びバインダーと共に浄化電極を構成してもよい。このような浄化電極を用いることによっても局部電池反応が生じ、有機物を酸化分解することが可能となる。
【0034】
(処理槽)
浄化装置100は、有機物を含む被処理水30を内部に保持する、略直方体状の処理槽20を備える。処理槽20の前壁23には、被処理水30を処理槽20に供給するための流入口21が設けられている。また、処理槽20の後壁24には、処理後の被処理水30を処理槽20から排出するための流出口22が設けられている。
【0035】
被処理水30は、流入口21を通じて処理槽20の内部に連続的に供給される。また、図1及び図2に示すように、浄化構造体10は、被処理水30に浸漬するように処理槽20の内部に配置されている。そのため、処理槽20の流入口21から供給された被処理水30は、浄化構造体10に接触しながら流れ、その後、流出口22から排出される。
【0036】
浄化装置100で処理する被処理水30としては、例えば、有機性物質及び窒素を含む化合物(窒素含有化合物)の少なくとも一方からなる有機物を含有する液体とすることができる。また、被処理水30は電解液であってもよい。
【0037】
次に、本実施形態の浄化装置100の作用について説明する。浄化装置100では、被処理水30を保持した処理槽20の内部に浄化構造体10を設置する。この際、図2に示すように、浄化構造体10は、導電体1の主面1aが鉛直方向Yと略平行になるように処理槽20の内部に設置される。
【0038】
処理槽20の内部に浄化構造体10を設置した場合、図4及び図5に示すように、浄化構造体10の上部10aの一部は、気相40及び被処理水30の水面30aに接触している。さらに、浄化構造体10の上部10aの一部は、被処理水30にも接触している。なお、上部10aと接触する被処理水30は気相40の近傍に位置するため、溶存する酸素濃度が高い状態となっている。
【0039】
浄化構造体10の下部10bは、被処理水30の内部に浸漬している。なお、浄化構造体10における鉛直方向Yの長さL1は幅方向Zの長さL2よりも長いことから、下部10bは水面30aから離れており、溶存する酸素濃度が低い状態となっている。
【0040】
そして、上述のように、浄化構造体10の上部10aと接触する被処理水30は溶存する酸素濃度が高いことから、被処理水30に好気性微生物4が含まれている場合には、上部10aに好気性微生物4が付着する。ここで、例えば導電体1が多孔質体である場合には、毛管現象により被処理水30が上昇し、導電体1の上端まで被処理水30を保持することができる。そのため、浄化構造体10の上部全体に好気性微生物4を付着させることができる。
【0041】
また、浄化構造体10の下部10bは水面30aから離れており、周囲の酸素濃度が低いことから、下部10bには嫌気性微生物3が付着する。
【0042】
このような構成の浄化装置100では、浄化構造体10の下部10bにおいて、嫌気性微生物3の代謝により被処理水30に含まれる有機物の酸化反応が進行し、水素イオン(H)と電子(e)が生成する。酸化反応により生成した水素イオンは、浄化構造体10の内部空間を通って浄化構造体10の上部10aに移動する。さらに酸化反応により生成した電子は、導電体1を介して浄化構造体10の上部10aに移動する。
【0043】
そして、浄化構造体10の上部10aにおいて、下部10bから移動した電子及び水素イオンが、酸素還元触媒及び/又は好気性微生物の作用により酸素分子と反応して水が生成する。このように、浄化構造体10の下部10bで有機物の酸化反応が進行し、上部10aで酸素の還元反応が進行することから、浄化装置全体として局部電池回路が形成される。
【0044】
具体的には、例えば、被処理水30が有機性物質としてグルコースを含有する場合、上部10a及び下部10bで生じる局部電池反応(半セル反応)は、以下の式で表される。
・下部10b(アノード):C12+6HO→6CO+24H+24e
・上部10a(カソード):6O+24H+24e→12H
【0045】
このように、下部10bにおける嫌気性微生物3の触媒作用により、被処理水30中の有機物を分解し、被処理水30を浄化することが可能となる。
【0046】
ここで、浄化構造体10は、気相40中の酸素を還元する酸素還元反応が生じる部位(上部10a)と、被処理水30中の有機物を酸化して水素イオンと電子を生成する有機物酸化反応が生じる部位(下部10b)との間に電位差が生じることが好ましい。その結果、導電体1を通じて有機物酸化反応が生じる部位から酸素還元反応が生じる部位へ電子が伝導することが好ましい。
【0047】
具体的には、浄化構造体10における鉛直方向Yの長さL1は、幅方向Zの長さL2よりも長いことから、上部10aと下部10bは離間する。そして、上部10aと下部10bとの間に存在する導電体1が高い電気抵抗率を有することにより、上部10aと下部10bとの間に電位差が生じる。つまり、上部10aと下部10bとの間における導電体1の電気抵抗率が比較的高くなることにより、上部10aと下部10bとを適切な電位に制御できることから、上部10aと下部10bとの間の電位差を確保することが可能となる。そして、電位差が確保されることにより、微生物の代謝が制御されることから、導電体1を通じて下部10bから上部10aへ効率的に電子が伝導し、被処理水30中の有機物の分解効率をより高めることが可能となる。さらに浄化構造体10では、電位差を確保するための外部回路などの配線及び昇圧システムなどを設ける必要がなく、上部10aと下部10bが短絡していることから、簡易な構成とすることができる。
【0048】
浄化構造体10において、上部10aと下部10bとの間に電位差を生じさせる方法は、幅方向Zの長さL2に対して鉛直方向Yの長さL1を大きくし、上部10aと下部10bの間の距離を長くする方法がある。また、浄化構造体10における導電体1自体の電気抵抗率を高める方法がある。なお、上部10aと下部10bとの間における好ましい電位差は、カソードとなる上部10aで生じる酸素還元反応の理論電位、カソードとなる下部10bで生じる有機物酸化反応の理論電位、及び過電圧により求めることができる。
【0049】
このように、本実施形態の浄化装置100は、導電体1を有し、酸素還元反応を生じさせる浄化構造体10と、浄化構造体10と浄化構造体10により浄化される被処理水30とを内部に保持するための処理槽20と、を備える。そして、浄化構造体10の一部が気相40と接触し、かつ、浄化構造体10の他部が被処理水30と接触する。浄化構造体10は、鉛直方向Yの長さL1が鉛直方向Yに垂直な幅方向Zの長さL2よりも長くなるように、処理槽20の内部に設置される。そして、浄化構造体10における、被処理水30中の有機物を酸化して水素イオンと電子を生成する有機物酸化反応が生じる部位(下部10b)には、嫌気性微生物3が付着していることが好ましい。
【0050】
浄化装置100は、電子移動反応を介して、被処理水30に含まれる有機物を効率的に酸化分解できる。具体的には、被処理水30に含まれる有機物は、嫌気性微生物3の代謝、すなわち嫌気性微生物3の増殖によって分解され除去される。そして、この酸化分解処理は嫌気性条件下で行われるため、好気性条件下で行われる場合よりも、有機物から微生物の新しい細胞への変換効率を低く抑えることができる。このため、活性汚泥法を用いる場合よりも、微生物の増殖、すなわち汚泥の発生量を低減することが可能となる。また、通常の嫌気性処理では臭気性のメタンガスが生成されるが、本実施形態における酸化分解処理では、代謝生成物は二酸化炭素ガスであるため、メタンガスの生成を抑制できる。さらに、浄化装置100は、導電体1を有する浄化構造体10と処理槽20とにより構成されているため、構造が簡易であり、製造コストや維持管理コストを抑制することが可能となる。
【0051】
また、浄化構造体10は、鉛直方向Yの長さL1が長くなるように処理槽20に設置されることから、下部10bは水面30aから離れ、周囲の酸素濃度は低下する。そのため、下部10bには嫌気性微生物3が多く付着することから、被処理水30中の有機物を効率的に酸化分解することが可能となる。
【0052】
浄化構造体10は、気相40中の酸素を還元する酸素還元反応が生じる部位(上部10a)と、被処理水30中の有機物を酸化して水素イオンと電子を生成する有機物酸化反応が生じる部位(下部10b)との間に電位差が生じることが好ましい。これにより、導電体1を通じて有機物酸化反応が生じる部位から酸素還元反応が生じる部位へ効率的に電子を伝導することができる。その結果、電子伝導を伴う嫌気性微生物3の代謝も促進される。また、嫌気性微生物3の代謝が促進される下部10bには、嫌気性微生物3が泳動して付着する。そのため、下部10bにおいて、被処理水30における有機物の分解効率をより高めることが可能となる。
【0053】
浄化構造体10における、気相40中の酸素を還元する酸素還元反応が生じる部位(上部10a)には、好気性微生物4が付着していることが好ましい。また、浄化構造体10における、気相40中の酸素を還元する酸素還元反応が生じる部位(上部10a)には、酸素還元触媒2が担持されていることが好ましい。これにより、浄化構造体10の下部10bから移動した電子及び水素イオンが、酸素還元触媒2及び/又は好気性微生物4の作用により酸素分子と反応しやすくなる。そのため、嫌気性微生物3の代謝が促進し、有機物の酸化分解をより効率的に行うことが可能となる
【0054】
上述のように、浄化構造体10の下部10bが水面30aから離れることにより、下部10bには嫌気性微生物3が付着しやすくなる。そのため、図1乃至図3に示すように、浄化構造体10は、導電体1の主面1aが鉛直方向Yと略平行になるように処理槽20の内部に配設されることが好ましい。
【0055】
図1乃至図3に示す浄化装置100では、一つの処理槽20の内部に一つの浄化構造体10が設置されている。しかし、本実施形態はこのような態様に限定されず、複数の浄化構造体10が処理槽20の内部に設置されていてもよい。一つの処理槽20の内部に複数の浄化構造体10が設置されていることにより、被処理水30中の有機物をより効率的に浄化することが可能となる。
【0056】
浄化構造体10の下部10bには、例えば、電子伝達メディエーター分子が修飾されていてもよい。または、処理槽20内の被処理水30は、電子伝達メディエーター分子を含んでいてもよい。これにより、嫌気性微生物3から下部10bへの電子移動を促進し、より効率的な液体処理を実現できる。
【0057】
具体的には、嫌気性微生物3による代謝機構では、細胞内または最終電子受容体との間で電子の授受が行われる。被処理水30中にメディエーター分子を導入すると、メディエーター分子が代謝の最終電子受容体として作用し、かつ、受け取った電子を下部10bへと受け渡す。この結果、下部10bにおける有機物の酸化分解速度を高めることが可能になる。なお、メディエーター分子が下部10bの表面に担持されていても同様の効果が得られる。このような電子伝達メディエーター分子は、特に限定されない。電子伝達メディエーター分子としては、例えばニュートラルレッド、アントラキノン-2,6-ジスルホン酸(AQDS)、チオニン、フェリシアン化カリウム、及びメチルビオローゲンからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0058】
[浄化電極]
次に、本実施形態に係る浄化電極について説明する。なお、上述の浄化装置と同一構成には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0059】
本実施形態の浄化電極は、浄化装置に用いられものであって、導電体1と、導電体1に担持される酸素還元触媒2と、バインダーのみからなる。つまり、浄化電極は、浄化構造体10である導電体1と、導電体1の酸素還元反応が生じる部位(上部10a)に担持される酸素還元触媒2と、酸素還元触媒2を導電体1に結着するバインダーのみからなるものである。このような浄化電極を被処理水30に浸漬することにより、図4に示すように、上部10aでは、酸素還元触媒2の作用により、気相40中の酸素を還元する酸素還元反応が生じる。また、下部10bでは、嫌気性微生物3の作用により、被処理水30中の有機物を酸化して水素イオンと電子を生成する有機物酸化反応が生じる。さらに、浄化構造体10の上部10aと下部10bとの間に電位差が生じるように配置することにより、導電体1を通じて下部10bから上部10aへ効率的に電子が伝導する。その結果、電子伝導を伴う嫌気性微生物3の代謝も促進されることから、被処理水30における有機物の分解効率をより高めることが可能となる。
【0060】
なお、浄化電極の用途は、処理槽20を備える浄化装置100に限定されるものではない。つまり、浄化電極は、嫌気性微生物が存在する被処理水に浸漬するだけで、電子移動反応を介して、被処理水30に含まれる有機物を効率的に酸化分解することができる。そのため、本実施形態の浄化電極は、処理槽20を用いない浄化装置にも適用することができる。
【0061】
そのため、浄化電極は、導電体1を有し、酸素還元反応を生じさせる浄化構造体10を備え、浄化構造体10の一部が気相と接触し、かつ、浄化構造体10の他部が被処理水30と接触する浄化装置に用いられることが好ましい。このような浄化装置では、浄化構造体10は、鉛直方向Yの長さL1が鉛直方向Yに垂直な幅方向Zの長さL1よりも長くなるように設置される。そして、浄化電極は、導電体1と、導電体1に担持される酸素還元触媒2と、バインダーのみからなることが好ましい。このような浄化電極を用いることにより、バイオガスの発生を抑制しつつも、簡易なシステムで被処理水を浄化することが可能となる。また、浄化電極に対して外部から運転に必要な電力を付与する必要がなく、浄化電極を被処理水に挿入するだけで運転できるため、電力供給が困難な場所でも被処理水の浄化を行うことが可能となる。
【実施例
【0062】
以下、本実施形態を実施例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれら実施例に限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
実施例1では、導電体に酸素還元触媒を担持した浄化構造体を作製した。具体的には、まず、導電体として、縦5mm、横5mm、長さ100mmの角柱状のカーボンフェルトを8本準備した。
【0064】
次に、鉄及び窒素を担持したカーボンブラックからなる炭素系触媒80mgを、濃度が5質量%のナフィオン溶液0.76mL及びエタノール2.8mLの混合溶液に分散させることにより、触媒スラリーを調製した。そして、各カーボンフェルトの上部20mmの部分に、得られた触媒スラリーを50μLずつ4面に垂らして乾燥した。これにより、カーボンフェルトの上部に炭素系触媒を担持した浄化構造体を8本得た。なお、本例では、8本の浄化構造体を1セットとし、合計で2セット作製した。
【0065】
[実施例2]
実施例1で使用した、縦5mm、横5mm、長さ100mmの角柱状のカーボンフェルトを8本準備した。そして、当該カーボンフェルトをそのまま浄化構造体として使用した。なお、本例も、8本の浄化構造体を1セットとし、合計で2セット作製した。
【0066】
[評価]
実施例1及び実施例2で得られた浄化構造体を被処理水である有機性廃水に浸漬し、28日間運転した後における被処理水の浄化率を測定した。
【0067】
具体的には、まず、容器として、容量が100mLのバイアル瓶を準備した。そして、バイアル瓶の内部に、浄化構造体を鉛直方向に1セットずつ設置し、さらに有機性廃水を注入した。この際、有機性廃水の注入量は、浄化構造体の下から80mmが有機性廃水に浸かるように調整した。具体的には、1本のバイアル瓶の内部に、8本の浄化構造体と48mLの有機性廃水とを入れることにより、下から80mmが有機性廃水に浸かるようにした。なお、有機性廃水としては、全有機体炭素(TOC)が272mg/Lの液体を使用した。
【0068】
さらに、バイアル瓶の有機性廃水には、微生物燃料電池用の種菌を入れた。そして、バイアル瓶に、浄化構造体と有機性廃水と種菌を入れた後に密閉することにより、実施例1及び実施例2の浄化装置(バッチ系)を2組ずつ作製した。なお、各例の浄化装置では、装置外部から内部に酸素が連続的に供給されるように調整した。
【0069】
得られた実施例1-1及び1-2の浄化装置並びに実施例2-1及び2-2の浄化装置をそれぞれ28日間運転した。この際、一週間に2回ずつ有機性廃水のTOCを測定した。なお、TOCの測定毎に浄化構造体及び有機性廃水を新しいバイアル瓶に移し、さらに新たな有機性廃水を60mL注入した。また、各例の浄化装置を28日間運転した後に、有機性廃水中のTOCを測定した。
【0070】
1週間に2回及び28日間運転後に1回の合計9回のTOC測定結果の平均値を、図6に示す。図6に示すように、実施例1及び実施例2の浄化構造体の両方とも、TOCが処理前と比べて半分以下となっており、有機性廃水が浄化されていることが分かる。さらに、酸素還元触媒を担持した実施例1-1及び1-2と、酸素還元触媒を担持していない実施例2-1及び2-2を比較すると、実施例1-1及び1-2の方が、TOCが低下していることが分かる。そのため、浄化構造体に酸素還元触媒を担持することにより、酸素還元反応を促進し、より効率的に被処理水を浄化できることが分かる。
【0071】
このように、酸素還元触媒を担持した実施例1の浄化構造体は、酸素還元触媒を担持していない実施例2の浄化構造体よりも、より効率的に有機物を酸化することができる。ただ、酸素還元触媒を担持していない浄化構造体でもTOCが処理前と比べて半分以下となっていることから、導電体のみからなる浄化構造体も高い浄化性能を発揮できることが分かる。
【0072】
さらに、28日間運転した後における実施例1-1及び1-2並びに実施例2-1及び2-2の浄化構造体から、全真菌に対するGeobacter菌の比率(Ratio of Geobacter)を測定した。具体的には、まず、実施例1-1及び1-2並びに実施例2-1及び2-2の浄化構造体の下部に付着した微生物から、DNAを抽出した。次に、抽出したDNAを用い、定量PCRにより、全真菌およびGeobacter菌のDNA濃度を定量した。そして、数式1より、全真菌に対するGeobacter菌の比率を算出した。
【数1】
【0073】
なお、全真菌のDNA濃度の測定に用いた検量線は、大腸菌から抽出したDNAおよび下記のプライマーを用いた定量PCRより得た。また、括弧内は塩基配列を示した。
B1055F (5’-ATG GYT GTC GTC AGCT-3’)
B1392R (5’-ACG GGC GGT GTG TAC-3’)
また、Geobacter菌のDNA濃度の測定に用いた検量線は、geobacter sulfurreducensから抽出したDNAおよび下記のプライマーを用いた定量PCRより得た。なお、括弧内は塩基配列を示した。
Geo494F (5’-AGG AAG CAC CGG CTAACT CC-3’)
Geo825R (5’-TAC CCG CRA CAC CTA GT-3’)
【0074】
上述のようにして算出した、実施例1-1及び1-2並びに実施例2-1及び2-2の浄化構造体における全真菌に対するGeobacter菌の比率を図7に示す。図7に示すように、酸素還元触媒を用いた実施例1-1及び1-2の浄化構造体は、酸素還元触媒を用いていない実施例2-1及び2-2の浄化構造体と比べてGeobacter菌の比率が高いことが分かる。つまり、実施例1-1及び1-2の浄化構造体の方が、電流生成菌が付着している割合が高いことが分かる。このことから、酸素還元触媒を担持することにより、浄化構造体の上部において酸素還元反応が進行し、それに伴い下部から上部への電子が移動し易くなるため、嫌気性微生物の増殖が促進されることが分かる。
【0075】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。また、本実施形態に係る浄化装置及び浄化電極は、有機物を含む液体、例えば各種産業の工場などから発生する廃水や、下水汚泥などの有機性廃水などの処理に広く適用できる。さらに、浄化装置及び浄化電極は、水域の環境改善などにも利用できる。
【0076】
特願2017-230016号(出願日:2017年11月30日)の全内容は、ここに援用される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本開示によれば、構造が簡易であり、かつ、廃水を効率的に浄化することが可能な浄化装置、及び当該浄化装置を用いられる浄化電極を得ることができる。
【符号の説明】
【0078】
1,1A 導電体
10a 上部(酸素還元反応が生じる部位)
10b 下部(有機物酸化反応が生じる部位)
2 酸素還元触媒
3 嫌気性微生物
4 好気性微生物
10,10A 浄化構造体
20 処理槽
30 被処理水
40 気相
100 浄化装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7