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特許7010393クラスタリング及びテンプレートを利用する脳セグメンテーション
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】クラスタリング及びテンプレートを利用する脳セグメンテーション
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20220119BHJP
   G06T 7/11 20170101ALI20220119BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20220119BHJP
【FI】
A61B5/055 380
G06T7/11
G06T7/00 612
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021000105
(22)【出願日】2021-01-04
(65)【公開番号】P2021109104
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2021-01-04
(31)【優先権主張番号】16/734775
(32)【優先日】2020-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナ プラサド アガラ ベンカテッシャ ラオ
(72)【発明者】
【氏名】シュリニジー シュリニヴァサ
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0266197(US,A1)
【文献】特表2014-501126(JP,A)
【文献】特開2010-113616(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0049540(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳物質を含むボクセルの3次元MRI画像から前記脳物質をセグメント化するために、命令を実行するコンピュータ・システムが実行する方法であって:
前記MRI画像のクラスタ・ベースのセグメンテーションを行うために、クラスタリング・アルゴリズムを前記MRI画像に適用するステップ;
前記MRI画像のテンプレート・ベースのセグメンテーションを行うために、テンプレート・ベース・アルゴリズムを前記MRI画像に適用するステップ;
前記テンプレート・ベースのセグメンテーションからの情報を利用して前記クラスタ・ベースのセグメンテーションを反復的に改善するステップ;
前記クラスタ・ベースのセグメンテーションからの情報を利用して前記テンプレート・ベースのセグメンテーションを反復的に改善するステップ;及び
改善された前記クラスタ・ベースのセグメンテーション及び/又は改善された前記テンプレート・ベースのセグメンテーションに基づいて、前記MRI画像の最終的なセグメンテーションを行うステップ;
を含むコンピュータ実行方法。
【請求項2】
前記クラスタ・ベースのセグメンテーションは、(a)クラスタの集合に対する重心及び(b)ボクセルがクラスタに属する確率を表すメンバーシップ関数により定められ;
前記テンプレート・ベースのセグメンテーションは、ボクセルがテンプレートの内側の空間に位置する確率を表すラベル関数により定められ;
前記クラスタ・ベースのセグメンテーションを反復的に改善するステップは、前記ラベル関数を一定に維持しつつ、前記重心及び前記メンバーシップ関数を最適化することによって目的関数を改善するステップを含み、前記目的関数は、前記重心の、前記メンバーシップ関数の、及び前記ラベル関数の関数であり;
前記テンプレート・ベースのセグメンテーションを反復的に改善するステップは、前記重心及び前記メンバーシップ関数を一定に維持しつつ、前記ラベル関数を最適化することによって、当該同じ目的関数を改善するステップを含む;
請求項1に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項3】
前記目的関数は異なるスケールで評価された一般カーネルの総和を含み、前記一般カーネルは、前記重心の、前記メンバーシップ関数の、及び前記ラベル関数の関数である、請求項2に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項4】
前記一般カーネルは、クリーク・ポテンシャルの尺度である、請求項3に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項5】
前記目的関数は、前記テンプレート・ベースのセグメンテーションに基づく項と、前記クラスタ・ベースのセグメンテーションに基づく異なる項とを含む、請求項2に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項6】
前記クラスタ・ベースのセグメンテーション及び前記テンプレート・ベースのセグメンテーションを反復的に改善するステップは、前記目的関数が凸性基準に違反すると終了する、請求項2に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項7】
前記クラスタリング・アルゴリズムは、前記ボクセルの強度に少なくとも部分的に基づいて前記ボクセルを分類する、請求項1に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項8】
前記クラスタリング・アルゴリズムは、前記ボクセルの物理的な位置に少なくとも部分的に基づいて前記ボクセルを分類する、請求項1に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項9】
前記クラスタ・ベースのセグメンテーションを反復的に改善するステップは、前記テンプレート・ベースのセグメンテーションからの形態情報を利用するステップを含む、請求項1に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項10】
前記クラスタ・ベースのセグメンテーションは、(a)クラスタの集合に対する重心及び(b)ボクセルがクラスタに属する確率を表すメンバーシップ関数により定められる、請求項1に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項11】
前記テンプレート・ベース・アルゴリズムを前記MRI画像に適用するステップは、前記MRIの前記ボクセルをセグメント化するために第1テンプレートを適用するステップを含み、前記第1テンプレートは個々の脳溝及び脳回を区別するには粗すぎるものである、請求項1に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項12】
前記テンプレート・ベースのセグメンテーションは、ボクセルがテンプレートの内側の空間に位置する確率を表すラベル関数により定められる、請求項1に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項13】
前記ラベル関数はバイナリ関数である、請求項12に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項14】
前記ラベル関数は連続関数である、請求項12に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項15】
前記MRI画像の最終的なセグメンテーションは、前記クラスタ・ベースのセグメンテーション又は前記テンプレート・ベースのセグメンテーションの何れかに基づいているが双方には基づいていない、請求項1に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項16】
前記MRI画像の最終的なセグメンテーションは、バイナリ的である、請求項1に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項17】
前記MRI画像の最終的なセグメンテーションは、連続的である、請求項1に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項18】
前記クラスタリング・アルゴリズムを適用する前であって、前記テンプレート・ベース・アルゴリズムを適用する前に、前記MRI画像にノイズ除去を適用するステップを更に含む請求項1に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項19】
脳造影において最終的なセグメント化されたMRI画像を利用して、前記脳の何れの領域が神経障害の原因であるかを識別するステップを更に含む請求項1に記載のコンピュータ実行方法。
【請求項20】
脳物質を含むボクセルの3次元MRI画像から前記脳物質をセグメント化するために実行可能なコンピュータ・プログラム命令を記憶する非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体であって、前記命令は、コンピュータ・システムにより実行することが可能であり、前記コンピュータ・システムに方法を実行させ、前記方法は:
前記MRI画像のクラスタ・ベースのセグメンテーションを行うために、クラスタリング・アルゴリズムを前記MRI画像に適用するステップ;
前記MRI画像のテンプレート・ベースのセグメンテーションを行うために、テンプレート・ベース・アルゴリズムを前記MRI画像に適用するステップ;
前記テンプレート・ベースのセグメンテーションからの情報を利用して前記クラスタ・ベースのセグメンテーションを反復的に改善するステップ;
前記クラスタ・ベースのセグメンテーションからの情報を利用して前記テンプレート・ベースのセグメンテーションを反復的に改善するステップ;及び
改善された前記クラスタ・ベースのセグメンテーション及び/又は改善された前記テンプレート・ベースのセグメンテーションに基づいて、前記MRI画像の最終的なセグメンテーションを行うステップ;
を含む、記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
1.技術分野
本開示は一般にMRI画像の脳セグメンテーションに関する。
【0002】
2.関連技術の説明
セグメンテーションは脳のMRI(磁気共鳴撮像)画像の解析の1つのステップである。脳の3次元MRI画像は典型的にはボクセルの3次元配列であり、各ボクセルは、MRI撮像プロセスに対するそのボクセル内の物質の応答を表す値(強度)を有する。セグメンテーション・ステップは、ボクセルのうちのどれが脳物質であり、どれがそうでないかを判別する。MRI画像がセグメント化された後、脳物質であるボクセルは更に分析される可能性がある。
【0003】
セグメンテーション・ステップの自動化を試みるために、様々なアプローチが使用されている。1つのアプローチは、ボクセルをクラスタリングすることに基づく。このアプローチでは、類似するボクセルは同じタイプの物質を表現するという仮定の下に、「類似」するボクセル(強度が類似しているもの)のクラスタが作成される。しかしながら、これは常には良好な仮定ではない。例えば、異なる生理学的領域が、類似する強度のボクセルを有する可能性があり、強度に基づくクラスタリング・ボクセルは、これらの異なる領域を区別しないであろう。クラスタリングはまた、クラスタリングのために選択された開始点の影響を受けやすい。それはまた、ノイズ及び強度の変動(例えば、バイアス・フィールド変動)の影響を受ける。また、クラスタリング・アプローチは、最良のグローバルな解を見つけるのではなく、局所的な最小値にとどまる傾向がある。これらの特徴は全てクラスタリングに対する欠点であり、クラスタリングを使用する場合に、誤ったセグメンテーションを招く可能性がある。
【0004】
別のアプローチは標準的なテンプレートに基づく。このアプローチでは、脳の標準的なテンプレートが、実際の脳のMRI画像に合わせられる。標準的なテンプレートの脳の体積内にあるボクセルは脳物質としてラベル付けされ、標準的な脳の体積外のボクセルは脳物質ではないとラベル付けされる。標準的なテンプレートは、典型的には、ある種の「平均的な」脳である。それは、実際の多数の脳の平均的なサイズ及び/又は形状を表現しているかもしれない。しかしながら、テンプレート・アプローチは、脳どうしの間の個々の相違を正確には説明しない。例えば、個々の脳は異常な特徴又は病状を有するかもしれない。「正常な」脳でさえ、脳の微細な特徴(脳溝及び脳回)の位置及び形状は大きく異なり、その結果一般的には、標準的なテンプレートでは説明されない。更に、「平均的な」脳でさえ、例えば人種や年齢によって大きく異なる。
【0005】
従って、MRI画像の脳セグメンテーションに対して、より良いアプローチを求めるニーズが存在する。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、クラスタ・ベースのアプローチとテンプレート・ベースのアプローチとを組み合わせることにより、従来技術の限界を克服する。テンプレート・ベースのアプローチによって捕捉された形態情報は、クラスタ・ベースのアプローチにより生成されるセグメンテーションを改善するために使用されることが可能である。逆に、クラスタ・ベースのアプローチによって捕捉された「類似性」情報は、テンプレート・ベースのアプローチによって生成されるセグメンテーションを改善するために使用されることが可能である。
【0007】
1つのアプローチにおいて、脳物質を含むボクセルの3次元MRI画像から脳物質をセグメント化する方法は、以下のステップを含む。クラスタリング・アルゴリズムは、MRI画像に適用され、MRI画像のクラスタ・ベースのセグメンテーションを生成する。テンプレート・ベースのアルゴリズムは、MRI画像に適用され、MRI画像のテンプレート・ベースのセグメンテーションを生成する。これらの2つのセグメンテーションは、その後、他のセグメンテーションからの情報を活用して反復的に改善される。クラスタ・ベースのセグメンテーションはテンプレート・ベースのセグメンテーションからの情報を用いて改善され、テンプレート・ベースのセグメンテーションはクラスタ・ベースのセグメンテーションからの情報を用いて改善される。MRI画像の最終セグメンテーションは、改善されたクラスタ・ベースのセグメンテーション及び/又は改善されたテンプレート・ベースのセグメンテーションに基づくことが可能である。
【0008】
その他の態様は、コンポーネント、デバイス、システム、改良、方法、プロセス、アプリケーション、コンピュータ読み取り可能な媒体、及び上記の何れかに関連するその他の技術を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本開示の実施形態は、添付図面の実施例を考慮すると、以下の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲から更に容易に明らかとなる他の利点及び特徴を有する。
【0010】
図1A】一実施形態によるMRI画像をセグメント化するためのフロー図である。
図1B】一実施形態によるMRI画像をセグメント化するためのフロー図である。
図1C】一実施形態によるMRI画像をセグメント化するためのフロー図である。
図1D】一実施形態によるMRI画像をセグメント化するためのフロー図である。
【0011】
図2】3次元MRI画像の1スライスである(先行技術)。
【0012】
図3A】実際の脳を示す。
図3B】脳のクラスタ・ベースのセグメンテーションを示す。
【0013】
図4A】実際の脳を示す。
図4B】脳のテンプレート・ベースのセグメンテーションを示す。
【0014】
図5】凸性原理違反時に反復を終了することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面及び以下の説明は、単なる例示による好ましい実施形態のみに関する。以下の議論から、本明細書で開示される構造及び方法の代替的な実施形態は、保護が請求されるものの原理から逸脱することなく使用され得る実行可能な代替例として容易に認識されることに留意されたい。
【0016】
図1A-1Dは、一実施形態によるMRI画像をセグメント化するためのフロー図である。プロセスは、頭部又は頭部の一部分の三次元MRI画像110とともに始まる。典型的には、画像110は、ボクセルの3次元アレイによって表現される。v又はvという用語(下付き文字xはボクセルのインデックスを表現する)は、ボクセルを表現するために使用される。図2(先行技術)は、頭部の3次元MRI画像の1スライスを示す。この例では、各ボクセルvは、MRI撮像プロセスに対するそのボクセル内の物質の応答を表現する値(強度)を有する。強度値は、図2では黒から白の範囲に及ぶグレースケールで示されている。MRI画像110は、脳物質を含むが、例えば眼、鼻腔、頭蓋骨、筋肉などの脳以外の物質も含む可能性がある。図1のプロセスは、どのボクセルが脳物質であるかを識別する。このプロセスは、しばしばセグメンテーションと呼ばれる.
【0017】
図1の出力は、MRI画像110の最終セグメント160である。ある場合には、最終セグメンテーション160は、脳物質又は非脳物質の何れかとして各ボクセルをラベリングする二進値であってもよい。他の場合には、最終セグメンテーション160は、連続的であってもよく(ここでは、複数値の出力を含むことが意図されている)、各値は、各ボクセルが脳物質又は非脳物質の何れであるかの確率を示す。最終セグメンテーション160はまた、ボクセルの一部が脳物質又は非脳物質であるかを示すために、非二進値をとってもよい。
【0018】
図1Aに示すように、プロセスはMRI画像の前処理112とともに始まってもよい。前処理の例は、ノイズ・フィルタリング及び系統的なバイアスの補正を含む。他の例は、(間隔及び解像度を変更する)体積リサンプリング、ヒストグラム等化、バイアス・フィールド補正、強度スケーリング、標準化、及び正規化を含む。前処理はオプション的であり、様々なタイプの前処理が使用されてもよい。図1の主要な部分は、クラスタ・ベースであるものと、テンプレート・ベースであるものとの2つのフローに分けられる。様々な前処理が各フローに対して使用される可能性がある。
【0019】
前処理の後に、図1Aに示すように、初期クラスタ・ベースのセグメンテーション120-122と、初期テンプレート・ベースのセグメンテーション130-132とが、MRI画像に適用される。図1Aの左側では、画像の初期クラスタ・ベースのセグメンテーション122を生成するために、クラスタリング・アルゴリズム120がMRI画像に適用される。即ち、MRI画像のボクセルは、「類似する(similar)」又は「近い(close)」ボクセルのクラスタにグループ化される。図1Aにおいて、クラスタ・ベースのセグメンテーション122は、(a)クラスタの重心、及び(b)どのボクセルがどのクラスタに属するかについてのメンバーシップによって定義される。
【0020】
クラスタリング・アルゴリズムの例は、k-meansクラスタリング、ファジィc-meansクラスタリング、階層凝集型クラスタリングを含む。クラスタリング・アルゴリズムそれ自体は反復的である。1つのアプローチでは、クラスタリング・アルゴリズムは、重心Cによって定義されるN個のクラスタの集合とともに始まる。ボクセルvは、最も近い重心のクラスタに割り振られる。次に、どのボクセルがその重心のメンバーであるかに基づいて、重心が再計算される。これは、重心とそのメンバーシップとが収束するまで反復する。この例では、メンバーシップ関数は各ボクセルがどのクラスタに属するかを定義する。Mをボクセルvに対するメンバーシップ関数とする。M=(ボクセルvが属しているクラスタ)である。クラスタは、クラスタ番号、クラスタの重心、又は他の識別子によって識別されることが可能である。別のアプローチでは、メンバーシップ関数はより確率的である。例えば、メンバーシップ関数Mx,n=(ボクセルvがクラスタnに属する確率)である。他のメンバーシップ関数が使用されてもよい。
【0021】
クラスタリングは、ボクセルの強度、又はボクセルの物理的な位置などの様々な量に基づく可能性がある。クラスタリングが強度に基づく場合、重心Cは異なる強度値として定義され、ボクセルは、それらの強度値がそれぞれの重心にどの程度近いかに基づいて、クラスタに割り振られる。クラスタリングは、強度や物理的な位置などの複数の量に基づいてもよい。その場合、各重心Cは強度と物理な座標とによって定義され、ボクセルは強度の類似性と物理的な近接性とに基づいて割り振られる。
【0022】
図1Aの右側では、MRI画像のテンプレート・ベースのセグメンテーション132を生成するために、テンプレート・ベースのアルゴリズム130がMRI画像に適用される。テンプレート・ベースのアプローチでは、脳の既知のテンプレートがMRI画像に適用される。このテンプレートは、「平均的な」又は「典型的な」な脳を表現することが可能である。テンプレートは典型的には3次元の脳の表面を定義する。その表面によって定義される内側体積の中に位置するボクセルは脳物質として分類され、脳の表面より外側のボクセルはそうではないと分類される。
【0023】
図1Aにおいて、テンプレート・ベースのセグメンテーション132は、各ボクセルが脳物質であるか否かを識別するラベルによって定義される。Lをボクセルvのラベル関数とする。L=(ボクセルvが脳物質であるかどうか)である。ラベル関数はバイナリであってもよく、それは全てのボクセルが脳物質又は非脳物質の何れかとして分類されることを意味する。あるいは、ラベル関数は連続的であってもよい。例えば、ラベル関数L=(ボクセルvが脳物質である確率)又はL=(ボクセルvのうち脳物質であるものの割合)又はL=(ボクセルvのうち脳物質であると予想される割合)である。他のラベル関数が使用されてもよい。
【0024】
しかしながら、上述の欠点に起因して、初期クラスタ・ベースのセグメンテーション122及び初期テンプレート・ベースのセグメンテーション132は、典型的には、非常に正確であるとは言えない。図3A及び3Bはそれぞれ実際の脳と脳のクラスタ・ベースのセグメンテーションとを示す。図3Aのクラスタ・ベースのセグメンテーションにおいて、円で囲まれた物質310(例えば、眼)は、それらが脳物質に類似する強度を有するので、脳のクラスタに誤って含まれている。これは図2においても見受けられる。脳に存在する強度は脳に特有ではなく、他の組織にも存在する可能性がある。強度に基づくクラスタリングが使用される場合、クラスタ・ベースのセグメンテーションは、これらの脳と、類似する強度の非脳構造とを区別しないであろう。図4A及び4Bはそれぞれ実際の脳と脳のテンプレート・ベースのセグメンテーションとを示す。この例では、テンプレートは比較的滑らかな脳表面を有するので、図4Bのテンプレート・ベースのセグメンテーションは、図4Aに示される細かい脳溝及び脳回を正確に表現していない。
【0025】
図1Bでは、初期クラスタ・ベースのセグメンテーション122は、テンプレート・ベースのセグメンテーション132からの情報を使用して改良される(125)。同様に、初期テンプレート・ベースのセグメンテーション132は、クラスタ・ベースのセグメンテーション122からの情報を使用して改良される(135)。例えば、図3Bにおいて、純粋にクラスタ・ベースのアプローチは、眼の物質を、それらの類似する強度に起因して、脳物質にグループ化している。しかしながら、テンプレート・ベースのアプローチは、眼の物質が脳の一部ではないことを認識しており、この形態学的情報がクラスタ・ベースのセグメンテーションを改善するために使用されることが可能である。逆に、図4Bでは、純粋にテンプレート・ベースのアプローチは、個々の脳溝及び脳回の無い滑らかな脳を形成している。しかしながら、クラスタ・ベースのアプローチはこれらの特徴を区別しており、なぜなら脳内外の物質は異なるクラスタに属することになるからであり、この情報はテンプレート・ベースのセグメンテーションを改善するために使用される可能性がある。
【0026】
図1Cでは、セグメンテーション127、137が十分に改善されていれば(150)、最終セグメンテーション160を生成することが可能である。そうでない場合、図1Dに示されるように、追加の反復125、135が実行され、セグメンテーションを更に改善する。クラスタ・ベースのセグメンテーション127は、更新されたテンプレート・ベースのセグメンテーション137からの情報を使用して、更に改善される。同様に、テンプレート・ベースのセグメンテーション137は、更新されたクラスタ・ベースのセグメンテーション127からの情報を使用して、更に改善される。これらの反復が進行するにつれて、「クラスタ・ベース」セグメンテーション127は、もはや純粋にクラスタリングに基づくものではなく、「テンプレート・ベース」セグメンテーション化137も、もはや純粋にテンプレートに基づくものではないことに留意されたい。ただし、これらの名称は、明確化のために維持される。
【0027】
更に、初期セグメンテーション122、132は更に改善されるので、初期クラスタリング120及びテンプレート130は、それらが最終セグメンテーションを生成するために使用された場合と同じ精度を有する必要はない。例えば、テンプレート130は、テンプレートのみに依存するアプローチと比較して、より粗くてもよい。これらは、最終的なセグメンテーションを行うためにテンプレートが使用された場合に望ましいものであった場合と同様な全ての生理学的構造を捕捉するのに十分な解像度を有しない可能性がある。同様に、クラスタの数は、クラスタリングが最終セグメンテーションを生成するために使用されるアプローチと比較して、削減されてもよい。より粗いテンプレートと、より少ないクラスタとは、より高速なランタイムという利点を有する。
【0028】
最終セグメンテーションは、クラスタ・ベースのセグメンテーション127、テンプレート・ベースのセグメンテーション137、又はその両方に基づくことが可能である。一旦、脳物質が識別されると、得られた画像は様々な目的に使用される可能性がある。例えば、医師は脳外科手術を進める前に、脳画像をガイドとして使用してもよい。脳画像は、脳のどの領域が特定の神経障害の原因であるかをマッピングするために、脳造影(脳磁図及び脳波検査)において使用されもよい。
【0029】
1つのアプローチでは、反復125、135は、クラスタ・ベースのセグメンテーション127とテンプレート・ベースのセグメンテーション137との両方の関数である目的関数に基づいている。目的関数は、(a)テンプレート・ベースのセグメンテーションを一定に維持しつつ、クラスタ・ベースのセグメンテーション125を最適化し、(b)クラスタ・ベースのセグメンテーションを一定に維持しつつ、テンプレート・ベースのセグメンテーション135を最適化することを交互に行うことによって改善される。
【0030】
例えば、次のような目的関数を考察する:
【数1】

ここで、加算は様々なスケールkに対して行われ、C cbはスケールkにおけるクラスタ・ベースのセグメンテーション137のクリーク・ポテンシャル(clique potential)であり(添字cbはクラスタ・ベースを表す)、C tbはスケールkにおけるテンプレート・ベースのセグメンテーション127のクリーク・ポテンシャルである(添字tbはテンプレート・ベースを表す)。2つの項C cb及びC tbはそれぞれαcb及びαtbにより重み付けされる。
【0031】
括弧内のカーネルは、クラスタ・ベースのセグメンテーションとテンプレート・ベースのセグメンテーションとの両方の関数である。上述の定式化において、それは、重心C、メンバーシップ関数M、及びラベル関数Lの関数である。一般カーネル(generic kernel)は、目的関数Jを生成するために、様々なスケールで評価され、合計される。スケールの数及びそれらの間隔は、所与のデータ・セットに対して経験的に決定されることが可能である。重み付けされたマルチスケール及び均一なマルチスケールの2つの例がある。マルチスケール目的関数を使用する利点の1つは複数スケールで問題を解くことにおけるその有効性であり、なぜなら、異なる特徴及び生理学的領域は異なるスケールで顕著になるからである。マルチスケール・フィルタリングはまた、ある程度の量の正則化及びノイズ除去の結果をもたらす。
【0032】
上記の例を継続し、メンバーシップ関数Mがバイナリであると仮定し、その結果、各ボクセルxは重心Cの特定のクラスタに割り当てられるとする。また、ラベル関数Lは、各ボクセルxが脳物質又は非脳物質の何れかとしてラベル付けされるように、バイナリであると仮定する。クリーク・ポテンシャルCは障害の尺度であり、以下のように定義される:
【数2】

ここで、Σは、関心のあるボリューム中の各ボクセルxに対する合計であり;Σy∈N(x)はボクセルxの近傍N(x)に該当する全てのボクセルyに対する合計であり;Cはボクセルxが属するクラスタの重心の値であり;vはボクセルyの値であり;L及びLはボクセルx及びyのラベルである。
【0033】
クリーク・ポテンシャルCは、(Cの使用による)クラスタ・ベースのセグメンテーションと(Lの使用による)テンプレート・ベースのセグメンテーションとの両方の関数であることに留意されたい。クリーク・ポテンシャルCは、異なるスケールで異なる脳セグメンテーションで評価されることが可能である。式1において、C cbは、加算がクラスタ・ベースのセグメンテーションによって規定されるボクセルに対して行われるスケールkで評価されるクリーク・ポテンシャルであり、C tbは、加算がテンプレート・ベースのセグメンテーションによって規定されるボクセルに関して行われるスケールkで評価されるクリーク・ポテンシャルである。
【0034】
図1に関し、目的関数Jを使用すると、クラスタ・ベースのセグメンテーションは、テンプレート・ベースのセグメンテーションからのラベル関数Lを一定に維持する一方、中心Cとメンバーシップ関数Mに関してJを最適化することにより改善される(125)。勾配に基づく方法が使用されてもよい。式1における目的関数Jは2つの項を有し:1つはクラスタ・ベースのセグメンテーションに対するものであり、1つはテンプレート・ベースのセグメンテーションに対するものである。従って、勾配に基づく方法は、これらの2つの項を利用して実行されてもよい。ここで、次式を仮定する:
【数3】

これら各項の勾配はそれぞれ次のように表現されることが可能である:
【数4】

ここで、総和は全ての重心について行われる。勾配降下法、確率的勾配降下法、バッチ及びミニ・バッチ勾配降下法は、使用される可能性がある様々な最適化方法の例である。
【0035】
図1の反復135に関し、テンプレート・ベースのセグメンテーションの改善は、最良の目的関数Jによりラベル設定を識別するために、ラベルLをフリップすることを含む。1つのアプローチでは、これは、多重分解能近傍でラベルの最適セットを決定する制限付き最適化問題として取り扱われることが可能である。全てのラベルのセットがLとして表現されるものとする。所与のスケール(解像度)のうちの選択された近傍において、ラベル指向近傍表現:lab={lab,v∈V}を有し、ここで、Vは3次元ボリューム近傍であり、vはそれぞれのボクセルである。サイズj×k×lの近傍に関し、|L|jkl個の可能なラベルが存在する。テンプレート・セグメンテーション細分化135のゴールは、所与のスケール又は解像度における選択された近傍において最適な低コスト・ラベル設定:全てのボクセルに対するargmaxP(lab|Centroid Intensity)に到達することであり、ここで、「P」は事後確率である。
【0036】
反復が実行されると、目的関数Jは改善される。導関数:
【数5】

が計算されてもよい。コストのより低い及びより高い導関数が反復的に計算されることが可能である。1つのアプローチでは、図5に示されるように、凸性原理(convexity principle)に違反する場合に、反復が終了し(150)、最終セグメント化160が生成される。
【0037】
詳細な説明は多くの詳細を含んでいるが、これらは、本発明の範囲を限定するものではなく、単に様々な実施例を例示するものと解釈されるべきである。本開示の範囲は、上記で詳細には議論されていない他の実施形態を含むことが理解されるべきである。当業者に明らかな種々の他の修正、変更、及び変形が、添付の特許請求の範囲に規定された精神及び範囲から逸脱することなく、本願で開示される方法及び装置の配置、動作、及び詳細において行われることが可能である。従って、本発明の範囲は、添付の請求項及びその法的な均等物によって決定されるべきである。
【0038】
代替の実施形態は、コンピュータのハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、及び/又はそれらの組み合わせにおいて実装される。実装は、プログラマブル・プロセッサによる実行のためのコンピュータ読み取り可能な記憶装置において実体的に具現化されたコンピュータ・プログラム製品において実装されることが可能であり;また、方法のステップは、入力データに関して動作し、出力を生成することによって機能を実行するための命令のプログラムを実行するプログラマブル・プロセッサによって実行されることが可能である。実施形態は、データ記憶システム、少なくとも1つの入力デバイス、及び少なくとも1つの出力デバイスからデータ及び命令を受信し、及びそれらへデータ及び命令を送信するように結合された少なくとも1つのプログラマブル・プロセッサを含む、プログラマブル・コンピュータ・システムにおいて実行可能な1つ以上のコンピュータ・プログラムにおいて有利に実装されることが可能である。各コンピュータ・プログラムは、ハイ・レベル手順又はオブジェクト指向型プログラミング言語で、又は望まれる場合にはアセンブリ言語又はマシン言語で実装されることが可能であり、何れのケースにおいても言語はコンパイル型又はインタプリタ型の言語であるすることが可能である。一例として、適切なプロセッサは、汎用及び専用双方のマイクロプロセッサを含む。一般に、プロセッサは、リード・オンリ・メモリ及び/又はランダム・アクセス・メモリから命令及びデータを受信する。一般に、コンピュータは、データ・ファイルを記憶するための1つ以上の大容量記憶装置を含み;このような装置は、内部ハード・ディスク及びリムーバブル・ディスク等の磁気ディスク;磁気光学ディスク;及び光ディスクを含む。コンピュータ・プログラム命令及びデータを具体的に具現化するのに適切な記憶装置は、例示の目的で、EPROM、EEPROM、及びフラッシュ・メモリ・デバイス等の半導体記憶装置;内蔵ハード・ディスク及び取外し可能なディスク等の磁気ディスク;磁気光学ディスク;並びにCD-ROMディスクを含む、全ての形態の不揮発性メモリを含む。上記の何れも、ASIC(特定用途向け集積回路)、FPGA、及びその他の形態のハードウェアによって補足される或いはそれらに組み込まれることが可能である。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5