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特許7010545負極活物質、それを採用した負極、及びリチウム電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】負極活物質、それを採用した負極、及びリチウム電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20220119BHJP
   C01B 33/06 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
C01B33/06
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2016192955
(22)【出願日】2016-09-30
(65)【公開番号】P2017069206
(43)【公開日】2017-04-06
【審査請求日】2019-07-01
(31)【優先権主張番号】10-2015-0139110
(32)【優先日】2015-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(74)【代理人】
【識別番号】100159042
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 徹二
(72)【発明者】
【氏名】チュ ヒ ユン
(72)【発明者】
【氏名】金 哉 赫
(72)【発明者】
【氏名】徐 淳 星
(72)【発明者】
【氏名】柳 ハナ
(72)【発明者】
【氏名】權 昇 旭
(72)【発明者】
【氏名】ユン トゥク ヒュン
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-185991(JP,A)
【文献】特開2014-197497(JP,A)
【文献】特開2012-072046(JP,A)
【文献】特表2012-526920(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063762(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
C01B 33/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン系合金を含む負極活物質であって、
前記シリコン系合金は、Si-Fe-Mで表示され、
前記Mは、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ホウ素(B)、炭素(C)、酸素(O)及びリン(P)のうちから1種以上選択され、
前記シリコン系合金は、Si単一相、FeSiアルファ相及びFeSiベータ相を含み、
前記シリコン系合金において、Si,Fe及びM原子の総個数を基準に、Siの含量は、67ないし92原子%であり、Feの含量は、4ないし32原子%であり、Mの含量は、0.3ないし6.0原子%であり、
前記負極活物質は、Cu-Kαを使用したX線回折分析スペクトルにおいて、前記FeSiアルファ相による回折角度(2θ)17.0+/-0.5゜での回折ピーク、及び前記FeSiベータ相による回折角度(2θ)28.7+/-0.5゜での回折ピークを示し、
前記FeSiアルファ相による回折ピークの回折強度に対する、前記FeSiベータ相による回折ピークの回折強度の比が、0.1以上1.0以下である、負極活物質。
【請求項2】
前記FeSiアルファ相による回折ピークの回折強度に対する、前記FeSiベータ相による回折ピークの回折強度の比が、0.2以上0.5以下である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)及び亜鉛(Zn)のうちから1種以上選択された、請求項1又は2に記載の負極活物質。
【請求項4】
前記シリコン系合金において、Si,Fe及びM原子の総個数を基準に、Siの含量は、67ないし92原子%であり、Feの含量は、4ないし32原子%であり、Mの含量は、0.5ないし6.0原子%である、請求項1から3のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項5】
前記シリコン系合金において、Si,Fe及びM原子の総個数を基準に、Siの含量は、75ないし90原子%であり、Feの含量は、9ないし22原子%であり、Mの含量は、0.3ないし6.0原子%である、請求項1から3のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項6】
前記シリコン系合金において、前記Mは、前記Si単一相、前記FeSiアルファ相及び前記FeSiベータ相の結晶格子のうち、少なくとも一つに、ドーピングされている、請求項1から5のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項7】
前記シリコン系合金は、M含有ケイ化物を含まない、請求項1から6のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項8】
前記シリコン系合金は、Si-Fe-Mnで表示され、前記シリコン系合金において、Si、Fe及びMn原子の総個数を基準に、Siの含量は、75ないし90原子%であり、Feの含量は、9ないし22原子%であり、Mnの含量は、0.3ないし6.0原子%である、請求項1から3のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項9】
前記シリコン系合金は、Si80Fe18Mn、Si80.2Fe17.9Mn1.9、Si83.9Fe13.2Mn2.9、Si87.5Fe10.9Mn1.6またはSi78.3Fe21.1Mn0.6である、請求項8に記載の負極活物質。
【請求項10】
前記シリコン系合金は、Mn含有ケイ化物を含まない、請求項9に記載の負極活物質。
【請求項11】
前記Mn含有ケイ化物が、MnSi1.7である、請求項10に記載の負極活物質。
【請求項12】
前記シリコン系合金の平均粒径(D50)は、1μmないし5μmである、請求項1ないし11のうちいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項13】
請求項1ないし12のうちいずれか1項に記載の負極活物質を含む、リチウム電池用負極。
【請求項14】
請求項13に記載のリチウム電池用負極を含む、リチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質、それを採用した負極、及びリチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
PDA、移動電話、ノート型パソコンのような情報通信のための携帯用電子機器や、電気自転車、電気自動車などに使用されるリチウム二次電池は、既存の電池に比べ、2倍以上の放電電圧を示し、その結果、高エネルギー密度を示す。
【0003】
リチウム二次電池は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な活物質を含んだ正極と負極との間に、有機電解液またはポリマー電解液を充填させた状態で、リチウムイオンが正極及び負極で、吸蔵/放出されるときの酸化反応、還元反応によって、電気エネルギーを生産する。
【0004】
かようなリチウム二次電池は、高起電力と高エネルギー密度とを有する優秀な電池物性を有する電池や、産業の発達によってだんだんとさらに長い寿命特性を有する電池が要求され、それに関する研究が持続的に行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする一課題は、FeSiベータ相を含むことにより、安定したマトリックス相を有するシリコン系合金を含む負極活物質を提供することである。
本発明が解決しようとする他の課題は、上記負極活物質を採用した負極を提供することである。
本発明が解決しようとするさらに他の課題は、上記負極を採用して寿命特性が向上したリチウム電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面では、シリコン系合金を含む負極活物質として、前記シリコン系合金は、Si-Fe-Mで表示され、前記Mは、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ホウ素(B)、炭素(C)、酸素(O)及びリン(P)のうちから1種以上選択され、前記シリコン系合金は、Si単一相、FeSiアルファ相及びFeSiベータ相を含み、前記負極活物質は、X線回折分析(1.5406ÅのCu-Kα使用)スペクトルにおいて、前記FeSiアルファ相による回折角度(2θ)17.0+/-0.5゜での回折ピーク(第1ピーク)、及び前記FeSiベータ相による回折角度(2θ)28.7+/-0.5゜での回折ピーク(第2ピーク)を示し、前記FeSiアルファ相による回折ピーク(第1ピーク)の回折強度に対する、前記FeSiベータ相による回折ピーク(第2ピーク)の回折強度の比が0.1以上である、負極活物質が提供される。
【0007】
本発明の他の側面では、上記負極活物質を含む、リチウム電池用負極が提供される。
本発明のさらに他の側面では、上記リチウム電池用負極を含む、リチウム電池が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によるリチウム電池は、FeSiアルファ相による回折ピークの回折強度に対する、FeSiベータ相による回折ピークの回折強度の比が0.1以上である負極活物質を採用することにより、寿命特性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】FeSiアルファ相の結晶構造を示した図である。
図2】FeSiアルファ相のX線回折分析(1.5406ÅのCu-Kα使用)スペクトルである。
図3】FeSiベータ相の結晶構造を示した図である。
図4】FeSiアルファ相のX線回折分析(1.5406ÅのCu-Kα使用)スペクトルである。
図5】一実施例によるリチウム電池の構造を示した概路図である。
図6】実施例1、及び比較例1ないし3で製造された負極活物質のX線回折分析(1.5406ÅのCu-Kα使用)スペクトルである。
図7】実施例1で製造された負極活物質のFeSiアルファ相による回折ピークの回折強度に対する、FeSiベータ相による回折ピークの回折強度の比を測定するため、X線回折分析(1.5406ÅのCu-Kα使用)スペクトル一部を拡大した図である。
図8】実施例1、及び比較例1ないし3で製造されたリチウム二次電池のサイクル別容量維持率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、さらに具体的に説明する。本発明の実施形態において、原子%(at%)は、全体物質の原子総個数において、当該成分が占める原子個数を百分率で表示したものである。
【0011】
リチウム電池の負極活物質として、多様な形態の炭素系材料以外にも、シリコン系合金が使用されている。ここで、「シリコン系」合金は、合金の原子総個数を基準に、少なくとも約50原子%のシリコン(Si)を含むものを意味する。負極活物質が、シリコン系合金を含む場合、炭素系負極活物質に比べ、高容量の電池が実現される。
【0012】
負極活物質用シリコン系合金は、シリコンの結晶成長を制限し、マトリックス物質内にシリコンを等しく析出させるために、主にメルトスピン工程を利用して製造される。かような工程によって生成されたシリコン系合金は、マトリックス構造内に、シリコン粒子が中間に析出される形態を有しながら、それは、充放電時に、シリコンの体積変化に耐えるために、シリコンを取り囲んだシリコン合金系マトリックスが、バッファ層の役割を行う形態を有している。そのとき、一般的に、マトリックスの役割を行う合金相は、電池内の電気化学反応に非活性を示し、このマトリックス内に析出されたシリコン粒子は、電池内の電気化学反応に活性を示す。
ここで、用語「非活性」は、電池の充放電時、リチウムイオンの吸蔵/放出に関与しないことを意味し、用語「活性」は、電池の充放電時、リチウムイオンの吸蔵/放出に関与することを意味する。
ところで、活性シリコン粒子は、充放電時に体積変化が大きく、何回も充放電した後には、シリコン系合金を含む活物質が壊れたり、活物質間の導電経路が断絶されたりするような問題点が発生する。また、かような問題点によって、電池のサイクル寿命特性が低下することがある。
【0013】
このために、本発明者らは、前述の問題点を克服するように、電池の充放電が反復されても、シリコン粒子の体積変化を最小化することができるFeSiベータ相をシリコン系合金のマトリックスとして導入することにより、かようなシリコン系合金を活物質として採用したリチウム電池の寿命特性を向上させることができた。
【0014】
一側面による負極活物質は、シリコン系合金を含み、ここで、シリコン系合金は、Si-Fe-Mで表示される。
【0015】
上記Mは、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ホウ素(B)、炭素(C)、酸素(O)及びリン(P)のうちから1種以上選択される。
【0016】
上記シリコン系合金は、合金相に、Si単一相、FeSiアルファ相及びFeSiベータ相を含む。具体的には、シリコン系合金において、Si単一相は、FeSiアルファ相及びFeSiベータ相の間に分散している。例えば、シリコン系合金において、FeSiアルファ相及びFeSiベータ相は、Si単一相と界面をなし、Si単一相を取り囲むマトリックスの役割を行う。
【0017】
例えば、シリコン系合金において、Si単一相は、Si活性ナノ粒子を含んでもよい。従って、Si単一相が、リチウム電池の充放電時、リチウムイオンの吸蔵/放出を行うことができる。
【0018】
具体的には、図1及び図3に、それぞれFeSiアルファ相及びFeSiベータ相の結晶構造を示す。
【0019】
上記FeSiアルファ相は、図1から分かるような正方晶系結晶構造を有する。一方、上記FeSiベータ相は、図3から分かるような斜方晶系結晶構造を有する。結晶構造は、回折パターンのシミュレーションが可能なソフトウェアjems(Pierre Stadelmann, CIME-EPFL Station 12, CH-1015 Lausanne, Switzerland)を介して確認することができる。
【0020】
一般的に、SiとFeとを利用して、シリコン系合金を製造する場合、Si単一相とFeSiアルファ相とが主に生成される。図1のような正方晶系結晶構造を有するFeSiアルファ相は、非活性相であるか、あるいはリチウム電池の充放電が反復される間、相転換される不安定な相である。一方、図2のような斜方晶系結晶構造を有するFeSiベータ相は、非活性相でありながら、リチウム電池の充放電が反復される間にも、相転換なしに安定した状態を維持することができる。従って、FeSiアルファ相だけではなく、FeSiベータ相もマトリックスとして、シリコン系合金内に含まれる場合、リチウム電池の充放電が反復されても、Si活性ナノ粒子の体積変化が効果的に制御される。
【0021】
図2及び図4に、それぞれFeSiアルファ相及びFeSiベータ相のX線回折分析(1.5406ÅのCu-Kα使用)スペクトルを示す。
【0022】
図2から分かるように、FeSiアルファ相は、X線回折分析(1.5406ÅのCu-Kα使用)時、矢印で表示されているような回折角度(2θ)17.0+/-0.5゜で主な回折ピークを示す。
【0023】
一方、図4から分かるように、FeSiベータ相は、X線回折分析(1.5406ÅのCu-Kα使用)時、矢印で表示されているような28.7+/-0.5゜で主な回折ピークを示す。
【0024】
従って、シリコン系合金を含む負極活物質に対する、1.5406ÅのCu-Kαを使用したX線回折分析スペクトルは、FeSiアルファ相による回折ピーク、及びFeSiベータ相による回折ピークいずれも含み、そのとき、FeSiアルファ相による回折角度(2θ)17.0+/-0.5゜での回折ピーク(以下、「第1ピーク」と称することがある。)の回折強度に対する、FeSiベータ相による回折角度(2θ)28.7+/-0.5゜での回折ピーク(以下、「第2ピーク」と称することがある。)の回折強度の比は、0.1以上である。
【0025】
そのとき、回折強度の比は、第1ピーク及び第2ピークそれぞれに左右水平である線と、垂直である線とを引いた後、垂直線の高さを測定した後、第2ピークの高さ値を第1ピークの高さ値で除算して測定することができる。従って、第1ピークの回折強度に対する、第2ピークの回折強度の比が大きいほど、FeSiベータ相が、シリコン系合金内に多く生成されているということを意味し、第1ピークの回折強度に対する、第2ピークの回折強度の比が1.0以上である場合、FeSiベータ相が、FeSiアルファ相よりさらに多く生成されているということを意味する。
【0026】
例えば、第1ピークの回折強度に対する、第2ピークの回折強度の比が、0.2ないし3.0でもある。例えば、第1ピークの回折強度に対する、第2ピークの回折強度の比が、0.2ないし2.0でもある。例えば、第1ピークの回折強度に対する、第2ピークの回折強度の比が、0.2ないし1.0でもある。例えば、第1ピークの回折強度に対する、第2ピークの回折強度の比が、0.2ないし0.5でもある。この範囲を満足する場合、シリコン系合金は、非活性マトリックスとして、FeSiアルファ相だけではなく、常温で安定したFeSiベータ相を有することにより、シリコン系合金を負極活物質として採用したリチウム電池の寿命特性を改善できる。
【0027】
シリコン系合金において、Mは、Si単一相、FeSiアルファ相及びFeSiベータ相の結晶格子のうち少なくとも一つに、ドーピングされている。例えば、Mは、SiまたはFeと別途の化合物を形成するのではなく、元素自体で、Si単一相、FeSiアルファ相またはFeSiベータ相の結晶格子のFeまたはSiの結晶格子サイトを置換した状態で存在することができる。そのように、Si-Fe合金に、Mをドーピングすることにより、さらなる熱処理、または長時間のミリングのような別途の工程なしにも、FeSiベータ相がさらに効果的に形成される。Mがシリコン系合金内において、SiまたはFeと別途の化合物を形成した否かということは、シリコン系合金に対するX線回折分析において、M-Si合金相またはM-Fe合金相による回折ピークが示されるか否かということによって確認可能である。
【0028】
例えば、シリコン系合金は、M含有ケイ化物を含まないことが好ましい。これによって、シリコン系合金のマトリックスには、FeSiアルファ相及びFeSiベータ相以外の相が存在せず、電池の充放電時、安定したマトリックス形態を維持することができる。
【0029】
一実施形態によれば、Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)及び亜鉛(Zn)のうちから1種以上選択されてもよいが、それらに限定されるものではない。例えば、Mは、マンガン(Mn)であってよい。Mが、このような4周期遷移金属であるとき、Mは、Si-Fe合金にドーピングされ、SiまたはFeと別途の化合物を形成しないようになる。
【0030】
一実施形態によれば、上記シリコン系合金において、Si,Fe,M原子の総個数を基準に、Siの含量は、67ないし92原子%であり、Feの含量は、4ないし32原子%であり、Mの含量は、0.3ないし6.0原子%でもある。例えば、シリコン系合金において、Siが67原子%以上含有されている場合、FeSiベータ相が生成され始める。また、シリコン系合金において、Mの含量が、この範囲を満足する場合、Mは、SiまたはFeと別途の化合物を形成せず、Si単一相、FeSiアルファ相またはFeSiベータ相の結晶格子内にドーピングされることにより、FeSiベータ相の形成に寄与することができる。
【0031】
例えば、上記シリコン系合金で、Si,Fe及びM原子の総個数を基準に、Siの含量は、75ないし90原子%であり、Feの含量は、9ないし22原子%であり、Mの含量は、0.3ないし6.0原子%でもある。
【0032】
例えば、上記シリコン系合金で、Si,Fe及びM1原子の総個数を基準に、Siの含量は、75ないし90原子%であり、Feの含量は、9ないし22原子%であり、Mの含量は、0.5ないし3.0原子%でもある。
【0033】
例えば、上記シリコン系合金で、Si,Fe及びM1原子の総個数を基準に、Siの含量は、77ないし83原子%であり、Feの含量は、15ないし20原子%であり、Mの含量は、1.0ないし3.0原子%でもあるが、それらに限定されるものではない。
【0034】
一実施形態によれば、シリコン系合金は、Si-Fe-Mnで表示され、シリコン系合金において、Si、Fe及びMn原子の総個数を基準に、Siの含量は、75ないし90原子%であり、Feの含量は、9ないし22原子%であり、Mnの含量は、0.3ないし6.0原子%でもある。
【0035】
例えば、上記シリコン系合金において、Si、Fe及びMn原子の総個数を基準に、Siの含量は、75ないし90原子%であり、Feの含量は、9ないし22原子%であり、Mnの含量は、0.5ないし3.0原子%でもあるが、それらに限定されるものではない。
【0036】
例えば、上記シリコン系合金において、Si、Fe及びMn原子の総個数を基準に、Siの含量は、77ないし83原子%であり、Feの含量は、15ないし20原子%であり、Mnの含量は、1.0ないし3.0原子%でもあるが、それらに限定されるものではない。
【0037】
例えば、上記シリコン系合金は、Si80Fe18Mn、Si80.2Fe17.9Mn1.9、Si83.9Fe13.5Mn2.9、Si87.5Fe10.9Mn1.6またはSi78.3Fe21.1Mn0.6でもある。
【0038】
上記Si-Fe-Mnで表示されるシリコン系合金は、Mn含有ケイ化物を含まないことが好ましい。例えば、Si-Fe-Mnで表示されるシリコン系合金は、MnSi1.7を含まないことが好ましい。
【0039】
一実施形態によれば、上記シリコン系合金の平均粒径(D50)は、1μmないし5μmでもある。例えば、シリコン系合金の平均粒径(D50)は、1μmないし3μmでもある。具体的には、例えば、シリコン系合金の平均粒径(D50)は、2μmないし3μmでもある。
【0040】
ここで、「D50」とは、粒子サイズが、最小である粒子から最大である粒子の順序に累積させた分布曲線において、全体粒子個数を100%にしたとき最小粒子から50%に該当する粒径を意味する。D50は、当業者に周知の方法で測定され、例えば、粒度分析機で測定したり、TEM(透過型電子顕微鏡)写真またはSEM(走査型電子顕微鏡)写真から測定したりすることができる。他の方法の例としては、動的光散乱法を利用した測定装置を用いて測定した後、データ分析を実施し、それぞれのサイズ範囲に対して、粒子数を計数し、それによって、計算を介してD50を容易に得ることができる。
【0041】
一実施形態によれば、上記Si活性ナノ粒子の平均粒径(D50)は、10nmないし150nmでもある。例えば、Si活性ナノ粒子の粒子サイズは、10nmないし100nm、または10nmないし50nmでもある。
【0042】
この範囲の粒子サイズを有するSi活性ナノ粒子が、非活性マトリックスに等しく分布されることにより、充放電サイクルの間のSi活性ナノ粒子の体積膨脹が、それを取り囲んだ非活性マトリックスによって効率的に緩衝される。
【0043】
上記Si活性ナノ粒子のD50は、Si単一相のCu-Kαを使用したX線回折分析スペクトルの回折角度(2θ)28.7+/-0.5゜において、結晶面(111)に対するピークの半値幅を利用して、シェラー方程式から求めることができる。
【0044】
ただし、Si単一相が非晶質相である場合、Cu-Kαを使用したX線回折分析スペクトルの回折角度(2θ)28.5+/-0.5゜における結晶面(111)に対するピークが示されない。
【0045】
上記負極活物質は、前述のシリコン系合金を必須成分にし、該必須成分以外に、リチウム電池で一般的に使用される負極活物質材料をさらに含んでもよい。
【0046】
上記負極活物質材料としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる黒鉛、炭素のような炭素系材料;リチウム金属及びその合金;シリコンオキシド系物質及びその混合物などを使用することができる。
【0047】
一実施形態によれば、上記負極活物質として、シリコン系合金及び炭素系材料を使用し、炭素系材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、膨脹黒鉛、グラフェン、カーボンブラック、フラーレンスーツ、炭素ナノチューブ、炭素ファイバ、ソフトカーボン、ハードカーボン、ピッチ炭化物、メゾ相ピッチ炭化物、焼成されたコークスなどが使用され、それらのうちから単独で、または2以上組み合わせて使用することができる。
【0048】
そのように、炭素系材料を共に使用すれば、シリコン系合金の酸化反応を抑制し、SEI(solid electrolyte interface)膜を効果的に形成し、安定した被膜を形成し、電気伝導度の向上をもたらし、リチウムの充放電特性をさらに向上させることができる。
【0049】
炭素系材料を利用する場合、例えば、炭素系材料は、シリコン系合金と混合してブレンディングされるか、あるいはシリコン系合金の表面にコーティングされた状態で使用される。
【0050】
シリコン系合金と共に使用される負極活物質材料の含量は、シリコン系合金と負極活物質材料との総含量を基準にして、1ないし99重量%でもある。
【0051】
負極活物質において、シリコン系合金が主成分である場合には、シリコン系合金の含量は、例えば、負極活物質材料とシリコン系合金との総含量に対して、90ないし99重量%でもある。負極活物質材料として、黒鉛、または非晶質カーボンであるピッチを使用する場合には、黒鉛、または非晶質カーボンであるピッチがシリコン系合金表面にコーティングされる。
【0052】
負極活物質において、シリコン系合金が副成分である場合には、シリコン系合金の含量は、例えば、負極活物質材料とシリコン系合金との総含量に対して、1ないし10重量%でもある。負極活物質材料として、黒鉛、または非晶質カーボンであるピッチを使用する場合には、黒鉛、または非晶質カーボンであるピッチがシリコン系合金のバッファの役割を行い、電極の寿命がさらに改善される。
【0053】
以下、上記したシリコン系合金を含む負極活物質の製造方法について説明する。
【0054】
一実施形態によれば、負極活物質の製造方法は、67ないし92原子%のSi、4ないし32原子%のFe、及び0.3ないし6.0原子%のMの組成を有した親合金を製造する段階と、親合金の溶解物を急冷凝固させ、急冷凝固合金を得る段階と、急冷凝固合金を粉砕し、シリコン系合金を製造する段階と、を含んでもよいが、それらに限定されるものではない。
【0055】
上記親合金を製造する段階は、真空誘導溶解法(VIM)、アーク溶解法または機械的合金法を含んでもよく、例えば、大気による酸化を最大限抑制するために、真空雰囲気で、親合金を溶解させる真空誘導溶解法を利用することができる。しかし、親合金を製造する方法に制限されるものではなく、当該技術分野で利用される全ての親合金を製造することができる方法の使用が可能である。
【0056】
シリコン系合金を製造するための原材料は、必要な構成の比率を実現することができれば、その形態は特別に限定されるものではない。例えば、シリコン系合金を構成する元素を、所望組成比で混合するために、元素、合金、固溶体、金属間化合物などを利用することができる。
【0057】
例えば、各元素の金属粉末を、目標合金組成の比率で秤量して混合した後、真空誘導溶解炉を利用して、シリコン系合金の親合金を製造することができる。真空誘導溶解炉は、高周波誘導を介して、溶融温度が高温である金属を溶解することができる設備である。初期溶融段階において、真空誘導溶融溶解炉の内部を真空状態にした後、Arのような不活性ガスを真空誘導溶融溶解炉に注入し、製造された親合金の酸化を防止または減少させることができる。
【0058】
次に、前述のように製造された親合金を溶融し、溶解物を急冷させて凝固させる工程を経る。急冷凝固工程は、特別に限定されるものではないが、例えば、メルトスピニング法、ガスアトマイズ法またはストリップキャスト法などによって遂行される。急冷凝固工程を介して、シリコンナノ粒子が、マトリックス内に等しく分散された合金が形成される。
【0059】
上記急冷凝固工程は、例えば、メルトスピニング法によって遂行される。例えば、親合金の溶解物を、高周波誘導を使用するメルトスピンナー装備を介して、高速で回転するホイールに射出しながら、急冷凝固させることができる。そのとき、急冷凝固は、親合金の溶解物を10K/secないし10K/secの速度で急冷する段階を含んでもよい。
【0060】
親合金の溶解物は、高速回転するホイールによって冷却されるために、リボン状に射出され、リボン形状、及び合金内に分布するシリコンナノ粒子の大きさは、冷却速度によって左右される。微細なシリコンナノ粒子を得るために、例えば、約1,000℃/s以上の冷却速度で冷却する。また、均一なシリコンナノ粒子を得るために、リボン形態の射出物厚を、例えば、5ないし20μmの範囲で調整することができ、さらに具体的には、7ないし16μmの範囲でリボン厚を形成することが望ましい。
【0061】
かように急冷凝固させたリボン形態の合金射出物である急冷凝固合金を粉末形態に粉砕させて負極活物質として使用される。粉砕された合金粉末は、D50が1μmないし5μm範囲でもある。粉砕技術は、当該技術分野で一般的に使用されてきた方法でも行われる。例えば、粉砕に利用する装置としては、以下に限定されるものではないが、アトマイザー、真空ミル、ボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル、ジェットミルなどがある。この粉砕は、例えば、6時間ないし8時間行えばよい。
【0062】
粉砕方法は、大きく分類して、乾式粉砕と湿式粉砕とに分けられ、いずれの方式でも可能である。
【0063】
本実施形態による負極は、上記した負極活物質を含む。
本実施形態によるリチウム電池は、上記した負極を含む。例えば、一実施形態によるリチウム電池は、上記した負極活物質を含む負極と、この負極に対向して配置される正極と、負極及び正極の間に配置される電解質と、を含んでもよい。
【0064】
上記した負極、及びそれを含むリチウム電池は、次のような方法によって製造される。
【0065】
上記負極は、前述の負極活物質を含み、例えば、前述の負極活物質、バインダ、及び選択的に、導電材を溶媒中に混合し、負極活物質組成物を製造した後、それを一定形状に成形するか、あるいは銅箔のような集電体に塗布する方法によって製造される。
【0066】
上記負極活物質組成物に使用されるバインダは、負極活物質と、導電材及び集電体などとの結合の一助になる成分であり、負極活物質100重量部を基準にして、例えば、1ないし50重量部で添加される。例えば、負極活物質100重量部を基準にして、1ないし30重量部、1ないし20重量部、または1ないし15重量部の範囲でバインダを添加することができる。かようなバインダの例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリビニルアセテート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアニリン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリブチレンテレフタレート、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム等、多様な共重合体などを挙げることができる。
【0067】
上記負極は、前述の負極活物質に、導電通路を提供し、電気伝導性をさらに向上させるために、選択的に、導電材をさらに含んでもよい。導電材としては、一般的に、リチウム電池に使用されるものであるならば、いかなるものでも使用することができ、その例として、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素ファイバ(例えば、気相成長炭素ファイバ)などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属ファイバなどの金属系物質;ポリフェニレン誘導体などの導電性ポリマー、またはそれらの混合物を含む導電性材料を使用することができる。導電材の含量は、適切に調節して使用することができる。例えば、負極活物質及び導電材の重量比は、99:1ないし90:10の範囲で添加される。
【0068】
上記溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン、水などが使用される。溶媒の含量は、負極活物質100重量部を基準にして、1ないし10重量部を使用する。溶媒の含量がこの範囲であるとき、活物質層を形成するための作業が容易である。
【0069】
また、上記集電体は、一般的に、3ないし500μm厚に形成される。集電体としては、当該電池に化学的変化を誘発せずに導電性を有したものであるならば、特別に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に、カーボン・ニッケル・チタン・銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが使用される。また、表面に微細な凹凸を形成し、負極活物質の結合力を強化させることもでき、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態で使用される。
【0070】
製造された負極活物質組成物を集電体上に直接コーティングし、負極極板を製造するか、あるいは別途の支持体上にキャスティングし、支持体から剥離させた負極活物質フィルムを銅箔集電体にラミネーションして負極極板を得ることができる。負極は、前述の形態に限定されるものではなく、前述の形態以外の形態でもよい。
【0071】
上記負極活物質組成物は、リチウム電池の電極製造に使用されるだけではなく、柔軟な電極基板上に印刷し、印刷電池の製造にも使用することができる。
【0072】
それと別途に、正極を製作するために、正極活物質、導電材、バインダ及び溶媒が混合された正極活物質組成物を準備する。
【0073】
上記正極活物質としては、当該技術分野において、正極活物質として一般的に使用される物質であるならば、いずれも使用することができる。例えば、Li1-bB’(式中、0.90≦a≦1及び0≦b≦0.5である);Li1-bB’2-c(式中、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05である);LiE2-bB’4-c(式中、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05である);LiNi1-b-cCoB’α(式中、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α≦2である);LiNi1-b-cCoB’2-αF’α(式中、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cCoB’2-αF’(式中、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cMnB’α(式中、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α≦2である);LiNi1-b-cMnB’2-αF’α(式中、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cMnB’2-αF’(式中、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi(式中、0.90≦a≦1、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0.001≦d≦0.1である);LiNiCoMn(式中、0.90≦a≦1、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0≦d≦0.5、0.001≦e≦0.1である);LiNiG(式中、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);LiCoG(式中、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);LiMnG(式中、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);LiMn(式中、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);QO;QS;LiQS;V;LiV;LiI’O;LiNiVO;Li3-f(PO(0≦f≦2);Li3-fFe(PO(0≦f≦2);LiFePOの化学式のうちいずれか一つで表される化合物を使用することができる:
【0074】
上記化学式において、Aは、Ni、Co、Mn、またはそれらの組み合わせであり、B’は、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、希土類元素、またはそれらの組み合わせであり、Dは、O、F、S、P、またはそれらの組み合わせであり、Eは、Co、Mn、またはそれらの組み合わせであり、F’は、F、S、P、またはそれらの組み合わせであり、Gは、Al、Cr、Mn、Fe、Mg、La、Ce、Sr、V、またはそれらの組み合わせであり、Qは、Ti、Mo、Mn、またはそれらの組み合わせであり、I’は、Cr、V、Fe、Sc、Y、またはそれらの組み合わせであり、Jは、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、またはそれらの組み合わせである。
【0075】
例えば、LiCoO、LiMnO2(x=1、2)、LiNi1-xMn2x(0<x<1)、LiNi1-x-yCoMn(0≦x≦0.5、0≦y≦0.5)、FePOなどである。
【0076】
正極活物質組成物において、導電材、バインダ及び溶媒は、前述の負極活物質組成物の場合と同一のものを使用することができる。場合によっては、正極活物質組成物及び負極活物質組成物に、可塑剤をさらに付加し、電極板内部に気孔を形成することも可能である。正極活物質、導電材、バインダ及び溶媒の含量は、リチウム電池で一般的に使用するレベルである。
【0077】
上記正極集電体は、3μmないし500μm厚であり、当該電池に化学的変化を誘発せずに高導電性を有するものであるならば、特別に制限されるものではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレススチールの表面に、カーボン・ニッケル・チタン・銀などで表面処理したものなどが使用される。集電体は、その表面に微細な凹凸を形成し、正極活物質の接着力を高めることもでき、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態が可能である。
【0078】
準備された正極活物質組成物は、正極集電体上に、直接コーティングし、かつ乾燥させて正極極板を製造することができる。代案として、正極活物質組成物を、別途の支持体上にキャスティングした後、支持体から剥離して得たフィルムを、正極集電体上にラミネーションして正極極板を製造することができる。
【0079】
上記正極と負極は、セパレータによって分離され、セパレータとしては、リチウム電池で一般的に使用されるものであるならば、いずれも使用される。特に、電解質のイオン移動に対して低抵抗でありながら、電解液含湿能にすぐれるものが適する。例えば、ガラスファイバ、ポリエステル、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、その組み合わせ物のうちから選択された材質であり、不織布形態であっても織布形態であってもよい。セパレータは、気孔径が0.01~10μmであり、厚みは、一般的に、5~300μmであるものを使用する。
【0080】
リチウム塩含有非水系電解質は、非水電解液とリチウムとからなる。非水電解質としては、非水電解液、固体電解質、無機固体電解質などが使用される。
【0081】
上記非水電解液としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、フッ化エチレンカーボネート、エチレンメチレンカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロパノエート、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、ジメチルエステルガンマ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、ホルム酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾールリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル、ピロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの非陽子性有機溶媒が使用される。
【0082】
上記有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、イオン性解離基を含む重合体などが使用される。
【0083】
上記無機固体電解質としては、例えば、LiN、LiI、LiNI、LiN-LiI-LiOH、LiSiO、LiSiO-LiI-LiOH、LiSiS、LiSiO、LiSiO-LiI-LiOH、LiPO-LiS-SiSのようなLiのチッ化物、ハロゲン化物、硫酸塩などが使用される。
【0084】
上記リチウム塩は、リチウム電池で一般的に使用されるものであるならば、全て使用可能であり、非水系電解質に溶解されやすい物質であって、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、(CFSONLi、リチウムクロロボレート、低級脂肪族カルボン酸リチウム、4フェニルホウ酸リチウム、リチウムイミドなどの物質を1以上使用することができる。
【0085】
リチウム電池は、使用するセパレータ及び電解質の種類によって、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池及びリチウムポリマー電池に分類され、形態によって、円筒型、角型、コイン型、ポーチ型などに分類され、サイズによって、バルクタイプと薄膜タイプとで分けることができる。また、リチウム一次電池及びリチウム二次電池いずれも可能である。
それら電池の製造方法は、当該分野に周知されているので、詳細な説明は省略する。
【0086】
図5に、本発明の一実施形態によるリチウム電池の代表的な構造が概略的に図示する。
図5を参照すれば、リチウム電池200は、正極130、負極120、及び正極130と負極120との間に配置されたセパレータ140を含む。前述の正極130、負極120及びセパレータ140が巻き取られたり折り畳まれて電池容器150に収容される。次に、電池容器150に電解質が注入され、封入部材160によって密封され、リチウム電池200が完成される。電池容器150は、円筒型、角型、薄膜型などでもある。リチウム電池は、リチウムイオン電池でもある。
【0087】
リチウム二次電池は、電極形態によって、巻き取りタイプとスタックタイプとがあり、外装材の種類によって、円筒型、角型、コイン型、ポーチ型に分類される。
【0088】
リチウム電池は、小型デバイスの電源として使用される電池に使用されるだけではなく、多数の電池を含む中大型デバイス電池モジュールの単位電池としても使用される。
【0089】
中大型デバイスの例としては、パワーツール;電気車(EV)、ハイブリッド電気車(HEV)及びプラグインハイブリッド電気車(PHEV)を含むxEV;E-bike、E-scooterを含む電気二輪車;電気ゴルフカート);電気トラック;電気商用車;または電力保存用システム;などを挙げることができるが、それらだけに限定されるものではない。また、リチウム電池は、高出力、高電圧及び高温駆動が要求されるその他全ての用途に使用できる。
【実施例
【0090】
以下の実施例及び比較例を介して、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、以下の実施例は、技術的思想を例示するためのものであり、それらだけで本発明の範囲が限定されるものではない。
【0091】
<実施例1>
[リチウム二次電池の製造]
(負極の製造)
まず、Si 80.2原子%、Fe 17.9原子%及びMn 1.9原子%を混合した後、それらを真空誘導溶解炉(Yein Tech.、韓国)に投入し、大気による酸化を最大限抑制するために、真空雰囲気下で溶解させ、親合金を作製した。
【0092】
かように製造された親合金を、大きい塊状態で粉砕した後、メルトスピナ(Yein Tech.、韓国)の射出管の中に入れ、アルゴンガス雰囲気内で高周波誘導加熱し、親合金を溶融させ、溶融された親合金を、ノズルを介して、回転するCuホイールに噴射し、リボン状に合金を射出して急速凝固させた。
【0093】
生成された合金リボンを、ボールミルを利用して、24時間粉砕し、シリコン系合金を得て、それを負極活物質として使用した。
【0094】
上記製造された負極活物質、バインダとしてのポリイミド(PI)、導電材としての炭素導電材(Denka Black)を、80:10:10の重量比で混合し、粘度を調節するために、溶媒N-メチルピロリドンを、固形分の含量が60重量%になるように添加し、負極活物質組成物を製造した。
【0095】
上記負極活物質組成物を15μm厚の銅集電体上に、通常の方法を使用して、約40μm厚に塗布した。この組成物が塗布された集電体を常温で乾燥させた後、120℃でさらに1回乾燥させ、圧延及びパンチングし、18650規格のセルに適用する負極を製造した。
【0096】
(正極の製造)
【0097】
正極活物質として、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及び導電材としての炭素導電材(Denka Black)を、90:5:5の重量比で混合し、粘度を調節するために、溶媒N-メチルピロリドンを、固形分の含量が60重量%になるように添加し、正極活物質組成物を製造した
【0098】
上記正極活物質組成物を15μm厚のアルミニウム集電体上に、通常の方法を使用して、約40μm厚に塗布した。この組成物が塗布された集電体を常温で乾燥させた後、120℃でさらに1回乾燥させ、圧延及びパンチングし、18650規格のセルに適用する正極を製造した。
【0099】
(リチウム二次電池の製造-フルセル)
【0100】
上記製造された負極、正極、及び正極と負極との間に14μm厚のポリプロピレンセパレータを介在し、電解質を注入して圧縮した18650規格のセルを製造した。そのとき、該電解質は、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)及びフルオロエチレンカーボネート(FEC)の混合溶媒(EC:DEC:FECは、5:70:25の体積比である)に、LiPFが1.10Mの濃度になるように溶解させたものを使用した。
【0101】
<比較例1>
Si 81.2原子%、Fe 18.6原子%及びMn 0.2原子%を混合して親合金を製造したシリコン系合金を、負極活物質として使用したことを除いては、実施例1と同一の方法を使用してリチウム二次電池を製造した。
【0102】
<比較例2>
Si 80.9原子%、Fe 17.0原子%及びAl 2.1原子%を混合して親合金を製造したシリコン系合金を、負極活物質として使用したことを除いては、実施例1と同一の方法を使用してリチウム二次電池を製造した。
【0103】
<比較例3>
Si 78.3原子%、Fe 15.6原子%及びMn 6.1原子%を混合して親合金を製造したシリコン系合金を、負極活物質として使用したことを除いては、実施例1と同一の方法を使用してリチウム二次電池を製造した。
【0104】
<評価例1:負極活物質のX線回折(XRD)分析>
上記実施例1、及び比較例1ないし比較例3で製造された負極活物質に対して、1.5406ÅのCu-Kαを使用して、XRD分析(D8 focus、Bruker社製)を実施した。その結果を図6に示す。
【0105】
図6から分かるように、実施例1で製造された負極活物質は、FeSiアルファ相ピークだけではなく、FeSiベータ相ピークまで示すということが分かる。また、実施例1のシリコン系合金は、1.9原子%のMnを含むが、MnSi1.7相、または他の付加相によるピークを示さないということが分かり、実施例1のシリコン系合金中のMnは、Si単一相、FeSiアルファ相ピーク、またはFeSiベータ相の結晶格子にドーピングされているということが分かる。参考として、図6の回折角度(2θ)47.0ないし49.5゜での回折ピークは、FeSiアルファ相によるピーク、及びFeSiベータ相によるピークが重畳されたものである。
【0106】
一方、0.2原子%Mnを含んだシリコン系合金を負極活物質として使用した比較例1、2.1原子%Alを含んだシリコン系合金を負極活物質として使用した比較例2、及び6.1原子%Mnを含んだシリコン系合金を負極活物質として使用した比較例3は、いずれもFeSiベータ相ピークを示していない。それにより、一定量以下または一定量以上のMnを含んだ負極活物質の場合、及びAlのような元素を含んだ負極活物質の場合、FeSiベータ相生成に寄与することができないということを確認することができる。
【0107】
さらに、比較例3の負極活物質の場合、MnSi1.7相に関するピークを示し、一定量超えたMnを含む場合、Mnは、シリコン系合金内にドーピング状態で存在するのではなく、Siと化合物を形成するということを確認することができる。
【0108】
また、実施例1で製造された負極活物質の第1ピークの回折強度に対する、第2ピークの回折強度の比を計算し、図7及び下記表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
<評価例2:リチウム電池の寿命特性評価>
【0111】
上記実施例1、及び比較例1ないし3で製造されたリチウム電池を、25℃で、1.0C rateの電流で、電圧が4.2V(vs.Li)に至るまで定電流充電し、次に定電圧モードで4.2Vを維持しながら、0.01C rateの電流でカットオフした。次に、放電時に、電圧が2.5V(vs.Li)に至るまで、1.0C rateの定電流で放電するサイクルを、100回目のサイクルまで反復した。
【0112】
上記全ての充放電サイクルにおいて、1つの充電/放電サイクル後、10分間の停止時間をおいた。
【0113】
充放電実験結果を図8に示す。ここで、容量維持率(CRR)は、下記数式1で定義される。
容量維持率[%]=[各サイクルでの放電容量/最初のサイクルでの放電容量]×100 (数式1)
【0114】
図8から分かるように、実施例1のリチウム電池は、比較例1ないし3のリチウム電池に比べ、寿命特性が向上し手いるということが分かる。従って、シリコン系合金内の一定量のFeSiベータ相の存在は、リチウム電池のサイクル特性向上に寄与するということを確認することができる。
【0115】
以上、図面及び実施例を参照し、本発明による望ましい実施形態について説明したが、それらは、例示的なものに過ぎず、当該技術分野で当業者であるならば、それらから多様な変形、及び均等な他の実施形態が可能であるという点を理解することができるであろう。従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって決まらなければならないのである。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の負極活物質、それを採用した負極、及びリチウム電池は、例えば、バッテリ関連の技術分野に効果的に適用可能である。
【符号の説明】
【0117】
120 負極
130 正極
140 セパレータ
150 電池容器
160 封入部材
200 リチウム電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8