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  • 特許-正極板及び鉛蓄電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】正極板及び鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/14 20060101AFI20220203BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220203BHJP
   H01M 4/56 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
H01M4/14 Q
H01M4/62 B
H01M4/56
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017219070
(22)【出願日】2017-11-14
(65)【公開番号】P2019091598
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆之
(72)【発明者】
【氏名】柴原 敏夫
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-098009(JP,A)
【文献】特開2003-077475(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084858(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、前記正極集電体に保持された正極活物質とを備え、
前記正極活物質は、層状構造を有する炭素繊維を含み、
前記正極活物質の比表面積が7.0m /g以上10.3m /g以下である、鉛蓄電池用正極板。
【請求項2】
前記炭素繊維がカーボンナノチューブである、請求項1に記載の正極板。
【請求項3】
前記正極活物質がPbOを含み、
前記正極活物質におけるα-PbO及びβ-PbOのX線回折パターンのピーク強度の比率(α-PbO/β-PbO)が0.60以下である、請求項1又は2に記載の正極板。
【請求項4】
前記正極活物質がPbO を含み、
前記正極活物質におけるα-PbO 及びβ-PbO のX線回折パターンのピーク強度の比率(α-PbO /β-PbO )が0.35以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の正極板。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の正極板を備える、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極板及び鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、産業用に広く用いられており、例えば自動車のバッテリー、バックアップ用電源、及び電動車の主電源に用いられる。近年では、炭酸ガス排出規制対策、低燃費化等を目的として、発電制御、信号待ち等の際にエンジンを停止するシステムを搭載したアイドリングストップシステム車(以下「ISS車」という)の検討が盛んに行われており、鉛蓄電池にもISS車用途に適した特性が求められている。
【0003】
例えば、ISS車においては、鉛蓄電池は、PSOC(Partial State Of Charge)と呼ばれる部分充電状態で使用される。鉛蓄電池がPSOC下で使用される場合、完全充電状態で使用される場合よりも、鉛蓄電池の寿命が短くなる傾向にある。したがって、ISS車用の鉛蓄電池には、PSOC下で繰り返し使用された場合でも、寿命等の特性の低下を抑制できる(サイクル性能に優れる)ことが求められる。
【0004】
これに対して、例えば特許文献1には、活物質比表面積が6m/g以上である正極板と、所定の材料が添加された負極板とを備える鉛蓄電池によって、PSOC下での使用における寿命(サイクル性能)を向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2011/108056号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、鉛蓄電池のサイクル性能には、未だ改善の余地がある。そこで、本発明は、サイクル性能に優れる鉛蓄電池、及び該鉛蓄電池用の正極板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、正極集電体と、正極集電体に保持された正極活物質とを備え、正極活物質は、層状構造を有する炭素繊維を含む、鉛蓄電池用正極板である。
【0008】
炭素繊維は、カーボンナノチューブであってよい。正極活物質の比表面積は、7.0m/g以上であってよい。正極活物質は、PbOを含んでいてよく、正極活物質におけるα-PbO及びβ-PbOのX線回折パターンのピーク強度の比率(α-PbO/β-PbO)が0.60以下であってよい。
【0009】
本発明の他の一側面は、上記の正極板を備える鉛蓄電池である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、サイクル性能に優れる鉛蓄電池、及び該鉛蓄電池用の正極板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。
図2図1に示した鉛蓄電池の電極群を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は、一実施形態に係る鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。図1に示すように、鉛蓄電池1は、上面が開口している電槽2と、電槽2の開口を閉じる蓋3とを備えている。電槽2及び蓋3は、例えばポリプロピレンで形成されている。蓋3には、負極端子4と、正極端子5と、蓋3に設けられた注液口を閉塞する液口栓6とが設けられている。
【0014】
電槽2の内部には、電極群7と、電極群7を負極端子4に接続する負極柱8と、電極群7を正極端子5に接続する正極柱(図示せず)と、希硫酸等の電解液とが収容されている。
【0015】
図2は、電極群7を示す斜視図である。図2に示すように、電極群7は、負極板9と、正極板10と、負極板9と正極板10との間に配置されたセパレータ11と、を備えている。負極板9は、負極集電体(負極格子体)12と、負極集電体12に保持された負極活物質13と、を備えている。正極板10は、正極集電体(正極格子体)14と、正極集電体14に保持された正極活物質15と、を備えている。なお、本明細書では、化成後の負極板から負極集電体を除いたものを「負極活物質」、化成後の正極板から正極集電体を除いたものを「正極活物質」とそれぞれ定義する。
【0016】
電極群7は、複数の負極板9と正極板10とが、セパレータ11を介して、電槽2の開口面と略平行方向に交互に積層された構造を有している。すなわち、負極板9及び正極板10は、それらの主面が電槽2の開口面と垂直方向に広がるように配置されている。電極群7において、複数の負極板9における各負極集電体12が有する耳部12a同士は、負極側ストラップ16で集合溶接されている。同様に、複数の正極板10における各正極集電体14が有する耳部14a同士は、正極側ストラップ17で集合溶接されている。負極側ストラップ16及び正極側ストラップ17は、それぞれ、負極柱8及び正極柱を介して負極端子4及び正極端子5に接続されている。
【0017】
セパレータ11は、例えば袋状に形成されており、負極板9を収容している。セパレータ11は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等で形成されている。セパレータ11は、これらの材料で形成された織布、不織布、多孔質膜等にSiO、Al等の無機系粒子を付着させたものであってよい。
【0018】
負極集電体12及び正極集電体14は、それぞれ、鉛合金で形成されている。鉛合金は、鉛に加えて、スズ、カルシウム、アンチモン、セレン、銀、ビスマス等を含有する合金であってよく、具体的には、例えば、鉛、スズ及びカルシウムを含有する合金(Pb-Sn-Ca系合金)であってよい。
【0019】
負極活物質13は、Pb成分として少なくともPbを含み、必要に応じて、Pb以外のPb成分(例えばPbSO)及び添加剤を更に含む。負極活物質13は、好ましくは、多孔質の海綿状鉛(Spongy Lead)を含む。
【0020】
添加剤としては、例えば、スルホ基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂、硫酸バリウム、炭素材料(炭素繊維を除く)及び補強用短繊維(アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等)が挙げられる。
【0021】
スルホ基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂は、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸塩、及び、フェノール類とアミノアリールスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(例えば、ビスフェノールとアミノベンゼンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック及び黒鉛が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びケッチェンブラックが挙げられる。
【0022】
負極活物質13は、負極集電体12に保持された負極活物質ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成の負極活物質を得た後に、未化成の負極活物質を化成することで得ることができる。負極活物質ペーストは、例えば、鉛粉、添加剤、溶媒(例えば水又は有機溶媒)及び硫酸(例えば希硫酸)を含んでいる。負極活物質ペーストは、例えば、鉛粉と添加剤とを混合することにより混合物を得た後に、この混合物に溶媒及び硫酸を加えて混練することにより得られる。
【0023】
鉛粉としては、例えば、ボールミル式鉛粉製造機又はバートンポット式鉛粉製造機によって製造される鉛粉(ボールミル式鉛粉製造機においては、主成分PbOの粉体と鱗片状金属鉛の混合物)が挙げられる。
【0024】
熟成は、温度35~85℃、湿度50~98RH%の雰囲気で15~60時間行われてよい。乾燥は、温度45~80℃で15~30時間行われてよい。
【0025】
正極活物質15は、一実施形態において、Pb成分であるPbOと、層状構造を有する炭素繊維とを含む。正極活物質15は、必要に応じて、PbO以外のPb成分(例えばPbSO)及び添加剤を更に含んでいてよい。
【0026】
Pb成分の含有量は、低温高率放電性能及びサイクル性能が更に向上する観点から、正極活物質の全質量を基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。Pb成分の含有量は、製造コストの低減及び軽量化の観点から、正極活物質の全質量を基準として、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。これらの観点から、Pb成分の含有量は、正極活物質の全質量を基準として、90~99.9質量%、95~99.9質量%、90~98質量%又は95~98質量%であってよい。
【0027】
正極活物質15は、好ましくは、Pb成分としてβ-PbOを含む。正極活物質15は、Pb成分として、α-PbOを更に含んでいてもよい。すなわち、正極活物質15は、一実施形態において、Pb成分としてβ-PbOのみを含んでいてよく、他の一実施形態において、Pb成分としてα-PbO及びβ-PbOを含んでいてよい。
【0028】
正極活物質15におけるα-PbO及びβ-PbOのX線回折パターンのピーク強度の比率(α-PbO/β-PbO)は、充電受入性能及び低温高率放電性能に優れる観点から、好ましくは0.60以下、より好ましくは0.50以下、更に好ましくは0.40以下、特に好ましくは0.30以下である。比率α-PbO/β-PbOは、サイクル性能に更に優れる観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.10以上、更に好ましくは0.25以上である。これらの観点から、比率α-PbO/β-PbOは、0.01~0.60、0.01~0.50、0.01~0.40、0.01~0.30、0.10~0.60、0.10~0.50、0.10~0.40、0.10~0.30、0.25~0.60、0.25~0.50、0.25~0.40、又は0.25~0.30であってよい。
【0029】
比率α-PbO/β-PbOは、化成後(満充電状態)の正極活物質15における比率である。比率α-PbO/β-PbOは、例えば、正極活物質15の製造時に用いる希硫酸の量、化成時の温度等により調整することができる。例えば、正極活物質15の製造時に用いる希硫酸の量を多くするほど比率α-PbO/β-PbOは低くなり、化成温度を高くするほど比率α-PbO/β-PbOは高くなる。
【0030】
比率α-PbO/β-PbOは、正極活物質15の広角X線回折測定により算出される。正極活物質15の広角X線回折測定では、例えば、主な化合物としてα-PbO、β-PbO及びPbSOに由来するピークが検出される。α-PbO及びβ-PbOのそれぞれとして特定されるメインピーク強度(cps)を用いて、「α-PbOのメインピーク強度」/「β-PbOのメインピーク強度」の比率を比率α-PbO/β-PbOとして算出する。
【0031】
広角X線回折測定は、例えば、以下のような方法で行う。
・測定装置:全自動多目的水平型X線回折装置 SmartLab(株式会社リガク製)
・X線源:Cu-Kα / 1.541862Å
・フィルター:Cu-Kβ
・出力:40kV、30mA
・スキャンモード:CONTINUOUS
・スキャン範囲:20.0000度~60.0000度
・ステップ幅:0.0200度
・スキャン軸:2θ/θ
・スキャンスピード:10.0000度/分
・試料ホルダー:ガラス製、深さ0.2mm
・試料作製方法:測定試料は、下記の手順により作製できる。まず、化成した電池を解体して正極板を取り出し水洗をした後、50℃で24時間乾燥する。次に、前記正極板の中央部から正極活物質を3g採取してすり潰す。
・算出方法:正極活物質の厚みが試料ホルダーの深さと同等になるように正極活物質を試料ホルダーに充填し、平滑な試料面を作製する。広角X線回折を測定し、回折角(2θ)と回折ピーク強度とのX線回折パターン(X線回折チャート)を得る。X線回折パターンにおいては、例えば、回折角度28.6度に位置するα-PbO、及び、回折角度25.3度に位置するβ-PbOが検出される。α-PbO(110面)及びβ-PbO(111面)のそれぞれとして特定されるピーク強度(cps)を用いて、「α-PbOのピーク強度」/「β-PbOのピーク強度」の比率を比率α-PbO/β-PbOとして算出する。
【0032】
層状構造を有する炭素繊維は、繊維状(細長形状)の炭素材料である。本明細書では、「層状構造を有する炭素繊維」における「炭素繊維」(繊維状(細長形状)の炭素材料)は、アスペクト比が100以上である炭素材料として定義される。当該アスペクト比は、炭素材料の走査型電子顕微鏡写真から算出される、炭素材料の最大長さと、当該最大長さを有する方向に垂直な方向における炭素材料の最小長さとの比(最大長さ/最小長さ)として定義される。
【0033】
層状構造を有する炭素繊維は、層状構造として、例えば、炭素繊維の長手方向に垂直な断面をみたときに、複数の炭素原子で構成された1又は2以上の層を有している。層状構造を有する炭素繊維は、例えば、複数の炭素原子で構成された筒状の層を1又は2以上有している。層状構造を有する炭素繊維は、耐酸化性に更に優れる観点から、好ましくは2以上の層を有する多層構造の炭素繊維である。層状構造を有する炭素繊維は、長手方向に貫通する中空部を有する中空筒状であってよい。炭素繊維が層状構造を有していることは、例えば、粉末X線回折法によって、回折プロファイルから積層(格子面)間隔を求めることによって確認することができる。層状構造を有する炭素繊維は、特に限定されないが、例えばカーボンナノチューブであってよい。
【0034】
鉛蓄電池1では、正極活物質15がこのような層状構造を有する炭素繊維を含んでいることにより、優れたサイクル性能が得られる。その理由として、炭素材料が、繊維状であることにより、正極活物質15中のPb成分(PbO、PbSO等)同士をつなぎとめて正極活物質15の泥状化を抑制すると共に、層状構造を有していることにより、正極活物質15の耐酸化性を向上させるためである、と本発明者らは推察している。
【0035】
層状構造を有する炭素繊維の含有量は、電気伝導性を更に好適に付与し、Pb成分(PbO、PbSO等)同士を更に良好に結合させる観点から、正極活物質の全質量を基準として、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上である。層状構造を有する炭素繊維の含有量は、電解液の減液量を抑制する観点から、正極活物質の全質量を基準として、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。
【0036】
添加剤としては、例えば、炭素材料(層状構造を有する炭素繊維を除く。)及び補強用短繊維(アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等。層状構造を有する炭素繊維を除く。)が挙げられる。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック及び黒鉛が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びケッチェンブラックが挙げられる。
【0037】
以上のような正極活物質15の比表面積は、充電受入性能及び低温高率放電性能に優れる観点から、好ましくは7.0m/g以上、より好ましくは9.0m/g以上、更に好ましくは12.0m/g以上である。正極活物質15の比表面積は、サイクル性能に更に優れる観点から、好ましくは20.0m/g以下、より好ましくは15.0m/g以下、より好ましくは10.0m/g以下である。これらの観点から、正極活物質15の比表面積は、7.0~20.0m/g、7.0~15.0m/g、7.0~10.0m/g、9.0~20.0m/g、9.0~15.0m/g、9.0~10.0m/g、12.0~20.0m/g、又は12.0~15.0m/gであってもよい。
【0038】
正極活物質の比表面積は、化成後(満充電状態)の正極活物質の比表面積であり、BET法により測定される。BET法は、一つの分子の大きさが既知の不活性ガス(例えば窒素ガス)を測定試料の表面に吸着させ、その吸着量と不活性ガスの占有面積とから表面積を求める方法であり、比表面積の一般的な測定手法である。正極活物質の比表面積は、例えば、後述する正極活物質ペーストを作製する際の硫酸及び水の添加量を調整する方法、未化成の段階で活物質を微細化させる方法、化成条件を変化させる方法等により調整することができる。
【0039】
正極活物質15は、正極集電体14に保持された正極活物質ペーストを、負極活物質作製時と同様の条件で熟成及び乾燥することにより未化成の正極活物質を得た後に、未化成の正極活物質を化成することで得ることができる。正極活物質ペーストは、例えば、負極活物質ペーストに用いられるものと同様の鉛粉、層状構造を有する炭素繊維、必要に応じて添加される添加剤、溶媒(例えば水又は有機溶媒)及び硫酸(例えば希硫酸)を含んでいる。正極活物質ペーストは、化成時間を短縮できる観点から、鉛丹(Pb)を更に含んでいてもよい。
【0040】
以上説明した鉛蓄電池1は、例えば、電極板(負極板及び正極板)を得る電極板製造工程と、電極板を含む構成部材を組み立てて鉛蓄電池1を得る組立工程とを備える製造方法により製造される。
【0041】
電極板製造工程では、例えば、負極集電体12に負極活物質ペーストを保持させた後に、上述した条件で熟成及び乾燥することにより未化成の負極板9を得ると共に、正極集電体14に正極活物質ペーストを保持させた後に、上述した条件で熟成及び乾燥することにより未化成の正極板10を得る。
【0042】
組立工程では、例えば、得られた負極板及び正極板を、セパレータ11を介して積層し、同極性の電極板の集電部をストラップで溶接させて電極群を得る。この電極群を電槽内に配置して未化成の鉛蓄電池を作製する。次に、未化成の鉛蓄電池に希硫酸を入れて、直流電流を通電して電槽化成する。続いて、化成後の硫酸の比重(20℃)を適切な電解液の比重に調整することで、鉛蓄電池1が得られる。化成に用いる硫酸の比重(20℃)は、1.15~1.25であってよい。化成後の硫酸の比重(20℃)は、好ましくは1.25~1.33、より好ましくは1.26~1.30である。化成条件及び硫酸の比重は、電極板のサイズに応じて調整することができる。化成処理は、組立工程において実施されてもよく、電極板製造工程において実施されてもよい(タンク化成)。
【実施例
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
(正極板の作製)
鉛粉100質量部に対して、カーボンナノチューブ(多層構造の炭素繊維、Sigma-Aldrich社製、商品名:SWeNTSMW 200)0.2質量部を加えて乾式混合した。次に、鉛粉及びカーボンナノチューブからなる混合物100質量部に対して、水3質量部を加えると共に、希硫酸(比重1.28)9質量部を段階的に加え、1時間混練して正極活物質ペーストを作製した。鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式正極集電体に、正極活物質ペーストを充填した後、温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後、温度50℃で16時間乾燥して、未化成の正極板を得た。
【0045】
(負極板の作製)
鉛粉100質量部に対して、ビスパーズP215(ビスフェノールとアミノベンゼンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物、商品名、日本製紙株式会社製)0.2質量部(樹脂固形分)、アクリル繊維0.1質量部、硫酸バリウム1.0質量部、及びファーネスブラック0.2質量部の混合物を添加し、乾式混合した。次に、この混合物に水を加えて混練した後、比重1.280の希硫酸を少量ずつ添加しながら更に混練して、負極活物質ペーストを作製した。鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式負極集電体に、この負極活物質ペーストを充填した後、温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後、温度50℃で16時間乾燥して、未化成の負極板を得た。
【0046】
(鉛蓄電池の組み立て)
袋状に加工したポリエチレン製のセパレータに、未化成の負極板を挿入した。次に、未化成の正極板7枚と、袋状セパレータに挿入された未化成の負極板8枚とを交互に積層した。続いて、キャストオンストラップ(COS)方式で、同極性の電極板の耳部同士を溶接して電極群を作製した。電極群を電槽に挿入して2V単セル電池(JIS D 5301規定のD23サイズの単セルに相当)を組み立てた。その後、比重1.240の硫酸を注入し、40℃の水槽に入れて1時間静置した。その後、17Aにて18時間の定電流で化成を行った。なお、化成後の電解液(硫酸溶液)の比重を1.29(20℃)に調整した。
【0047】
(X線回折パターンのピーク強度に基づく比率α-PbO/β-PbOの測定)
測定試料は、下記の手順により作製した。まず、上記の手順で化成した電池を解体して、一つの電極群を取り出した。次に、取り出した電極群から全ての正極板を取り出して水洗をした後、50℃で24時間乾燥した。次に、正極板の中央部から正極活物質を3g採取してすり潰した。続いて、正極活物質の厚みが試料ホルダーの深さと同等になるように正極活物質を試料ホルダーに充填して平滑な試料面を作製した後、比率α-PbO/β-PbOの測定を行った。比率α-PbO/β-PbOは電極群から取り出した全ての正極板について算出した比率α-PbO/β-PbOの平均値とした。比率α-PbO/β-PbOの測定条件を下記に示す。
【0048】
[比率α-PbO/β-PbOの測定条件]
・測定装置:全自動多目的水平型X線回折装置 SmartLab(株式会社リガク製)
・X線源:Cu-Kα / 1.541862Å
・フィルター:Cu-Kβ
・出力:40kV、30mA
・スキャンモード:CONTINUOUS
・スキャン範囲:20.0000度~60.0000度
・ステップ幅:0.0200度
・スキャン軸:2θ/θ
・スキャンスピード:10.0000度/分
・試料ホルダー:ガラス製、深さ0.2mm
・算出方法:作製した試料(正極活物質)3gを用いて広角X線回折を測定した結果、得られた回折角(2θ)と回折ピーク強度のX線回折チャートから、回折角度28.6度に位置するα-PbO、及び、回折角度25.3度に位置するβ-PbOが検出された。α-PbO(110面)及びβ-PbO(111面)それぞれの化合物として特定される波形のピーク強度(cps)を用いて、「α-PbOのピーク強度」/「β-PbOのピーク強度」の比率を比率α-PbO/β-PbOとして算出した。
【0049】
(正極活物質の比表面積の測定)
比表面積の測定試料は、下記の手順により作製した。まず、上記の手順で化成した電池を解体して、一つの電極群を取り出した。次に、取り出した電極群から全ての正極板を取り出して水洗をした後、50℃で24時間乾燥した。次に、正極板の中央部から正極活物質を2g採取して、130℃で30分乾燥して測定試料を作製した。
【0050】
上記のとおり作製した測定試料を液体窒素で冷却しながら、液体窒素温度で窒素ガス吸着量を多点法で測定し、BET法に従って正極活物質の比表面積を算出した。正極活物質の比表面積は、電極群から取り出した全ての正極板について算出した正極活物質の比表面積の平均値とした。測定条件を下記に示す。
【0051】
[比表面積の測定条件]
・装置:Macsorb1201(株式会社マウンテック製)
・脱気時間:130℃で10分
・冷却:液体窒素で5分間
・吸着ガス流量:25mL/分
【0052】
<比較例1>
正極活物質ペースト作製時にカーボンナノチューブを用いなかった以外は、実施例1と同様にして、鉛蓄電池の作製及び各測定を行った。
【0053】
<実施例2>
正極活物質ペースト作製時に用いる希硫酸を、希硫酸(比重1.28)11質量部に変更し、化成時に注入する硫酸の比重を1.235に変更した以外は、実施例1と同様にして、鉛蓄電池の作製及び各測定を行った。
【0054】
<比較例2>
正極活物質ペースト作製時にカーボンナノチューブを用いなかった以外は、実施例2と同様にして、鉛蓄電池の作製及び各測定を行った。
【0055】
<実施例3>
正極活物質ペースト作製時に、水の配合量を12質量部に、用いる希硫酸を希硫酸(比重1.28)15質量部に、化成時に注入する硫酸の比重を1.230にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、鉛蓄電池の作製及び各測定を行った。
【0056】
<比較例3>
正極活物質ペースト作製時にカーボンナノチューブを用いなかった以外は、実施例3と同様にして、鉛蓄電池の作製及び各測定を行った。
【0057】
<実施例4>
化成時に注入する硫酸の比重を1.200に、硫酸注入後の静置時間を5時間にそれぞれ変更した以外は、実施例3と同様にして、鉛蓄電池の作製及び各測定を行った。
【0058】
<比較例4>
正極活物質ペースト作製時にカーボンナノチューブを用いなかった以外は、実施例4と同様にして、鉛蓄電池の作製及び各測定を行った。
【0059】
<実施例5>
正極活物質ペースト作製時に、水の配合量を9質量部に、用いる希硫酸を希硫酸(比重1.34)25質量部に、化成時に注入する硫酸の比重を1.200にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、鉛蓄電池の作製及び各測定を行った。
【0060】
<比較例5>
正極活物質ペースト作製時にカーボンナノチューブを用いなかった以外は、実施例5と同様にして、鉛蓄電池の作製及び各測定を行った。
【0061】
<実施例6>
硫酸注入後の静置時間を5時間に変更した以外は、実施例3と同様にして、鉛蓄電池の作製及び各測定を行った。
【0062】
<実施例7>
化成時の水槽温度を45℃に変更した以外は、実施例5と同様にして、鉛蓄電池の作製及び各測定を行った。
【0063】
<実施例8>
正極活物質ペースト作製時に、水の配合量を11質量部に、用いる希硫酸を希硫酸(比重1.55)23質量部に、化成時に注入する硫酸の比重を1.185にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、鉛蓄電池の作製及び各測定を行った。
【0064】
<実施例9>
正極活物質ペースト作製時に、水の配合量を3質量部に、用いる希硫酸を希硫酸(比重1.55)30質量部に、化成時に注入する硫酸の比重を1.170にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、鉛蓄電池の作製及び各測定を行った。
【0065】
各実施例及び比較例の鉛蓄電池の性能を以下のとおり評価した。
(充電受入性能)
作製した鉛蓄電池について、化成後、約12時間放置した後、25℃で10.4Aの電流値で30分間定電流放電を行い、さらに、6時間放置した後、2.33Vで100Aの制限電流として60秒間の定電圧充電を行い、その開始から5秒目までの電流値を測定し、正極活物質の単位質量あたりの電流値(「電流値」/「正極活物質の含有量(g)」)を算出した。比較例1の測定結果(正極活物質の単位質量あたりの電流値)を100として相対評価した。
【0066】
(低温高率放電性能)
作製した鉛蓄電池の電池温度を-15℃に調整した後、300Aで定電流放電を行い、セル電圧が1.0Vを下回るまでの放電持続時間を測定し、正極活物質の単位質量あたりの放電持続時間(「放電持続時間」/「正極活物質の含有量(g)」)を算出した。低温高率放電性能は、比較例1の測定結果(正極活物質の単位質量あたりの放電持続時間)を100として相対評価した。
【0067】
(サイクル性能)
作製した鉛蓄電池について、電池温度が25℃になるように雰囲気温度を調整し、45A-59秒間の定電流放電及び300A-1秒間の定電流放電を行った後に制限電流100A-2.33V-60秒間の定電流・定電圧充電を行う操作を1サイクルとする試験を行った。この試験は、ISS車での鉛蓄電池の使われ方を模擬したサイクル試験である。このサイクル試験では、放電量に対して充電量が少ないため、充電が完全に行われないと徐々に充電不足になり、その結果、放電電流を300Aとして1秒間放電した時の1秒目電圧が徐々に低下する。すなわち、定電流・定電圧充電時に負極が分極して早期に定電圧充電に切り替わると、充電電流が減衰して充電不足になる。このサイクル試験では、300A放電時の1秒目電圧を測定し、1.2Vを下回ったときのサイクル数を求め、正極活物質の単位質量あたりのサイクル数(「1.2Vを下回ったときのサイクル数」/「正極活物質の含有量(g)」)を求めた。サイクル性能は、比較例1の測定結果(正極活物質の単位質量あたりのサイクル数)を100として相対評価した。
【0068】
各実施例及び比較例における正極活物質の特性及び鉛蓄電池の性能を表1に示す。
【表1】
【符号の説明】
【0069】
1…鉛蓄電池、9…負極板、10…正極板、11…セパレータ、12…負極集電体、13…負極活物質、14…正極集電体、15…正極活物質。
図1
図2