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特許7010621合成樹脂フィルム、蓄電デバイス用セパレータ及び蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】合成樹脂フィルム、蓄電デバイス用セパレータ及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20220119BHJP
   H01M 50/409 20210101ALI20220119BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20220119BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20220119BHJP
   C08J 9/36 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C08J9/00 A CES
H01M50/409
H01G11/52
B32B5/18
C08J9/36
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017150282
(22)【出願日】2017-08-02
(65)【公開番号】P2019026796
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】趙 泰衡
(72)【発明者】
【氏名】中楯 順一
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/047576(WO,A1)
【文献】特開2008-255307(JP,A)
【文献】特開2015-066790(JP,A)
【文献】特開2016-006175(JP,A)
【文献】国際公開第2014/081035(WO,A1)
【文献】特開2015-053118(JP,A)
【文献】特開2015-069957(JP,A)
【文献】国際公開第2014/017651(WO,A1)
【文献】特開2013-203894(JP,A)
【文献】国際公開第2012/137376(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/021289(WO,A1)
【文献】特開2013-146811(JP,A)
【文献】特開2017-109385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00
H01M 50/409
H01G 11/52
B32B 5/18
C08J 9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が3万~50万であり且つ分子量分布が5~30であるオレフィン系樹脂を含む合成樹脂及び微小孔部を含有する合成樹脂微多孔フィルムと、
上記合成樹脂微多孔フィルムの表面に配設され、且つポリビニルブチラール、変性ポリプロピレン、及び変性ポリエチレンからなる群から選ばれた少なくとも一種の合成樹脂を含有しているバインダー粒子とを有し、
空孔率が40%以上、70%以下且つ透気抵抗が30sec/100mL以上、120sec/100mL以下である、合成樹脂フィルム。
【請求項2】
バインダー粒子の平均粒子径が0.1μm以上、20μm以下である、請求項1に記載の合成樹脂フィルム。
【請求項3】
合成樹脂微多孔フィルムの表面に、バインダー粒子が0.1g/m2以上、10g/m2以下含有されている、請求項1又は2に記載の合成樹脂フィルム。
【請求項4】
長尺状に形成されており、長さ方向の破断強度が1.3N/mm以上、2.5N/mm以下である、請求項1~の何れか1項に記載の合成樹脂フィルム。
【請求項5】
オレフィン系樹脂は、エチレン系樹脂又はプロピレン系樹脂を含有している、請求項1~の何れか1項に記載の合成樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項1~の何れか1項に記載の合成樹脂フィルムを含む、蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項7】
請求項に記載の蓄電デバイス用セパレータを含む、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂フィルム、蓄電デバイス用セパレータ及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から携帯用電子機器の電源としてリチウムイオン二次電池が用いられている。このリチウムイオン二次電池は、一般的に正極と、負極と、セパレータとを電解液中に配設することによって構成されている。正極は、アルミニウム箔の表面にコバルト酸リチウム又はマンガン酸リチウムが塗布されることで形成される。負極は、銅箔の表面にカーボンが塗布されることで形成される。そして、セパレータは、正極と負極とを仕切るように配設され、電極間の電気的な短絡を防止している。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、複数枚の正極と負極とをセパレータを介して積層させることによって構成されている積層型二次電池と、正極と負極とをセパレータを介して積層してなる電極積層体を巻回することによって構成されている巻回型二次電池とが実用化されている。
【0004】
例えば、積層型二次電池としては、特許文献1に、直列接続用の積層型二次電池であって、正極と負極とをセパレータを介して積層した略長方形の平面形状を有する電池要素をラミネート材で外装し、正極タブと負極タブが前記ラミネート材の対向する引き出し辺の中心線に対し同じ側に引き出された積層型二次電池が提案されている。
【0005】
又、特許文献2には、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に接着性ポリマーが塗工されており、0.1mg/m2以上100/m2以下の界面活性剤を含有する蓄電デバイス用セパレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-256605号公報
【文献】特開2013-203894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記積層型二次電池の製造時において、正極と負極とをセパレータを介して積層させる際に、セパレータを正極又は負極に対して正確な位置に配設することができずに積層ずれが生じやすいという問題がある。
【0008】
セパレータの積層ずれが生じると、正極、負極及びセパレータから構成される電池要素を収納する部材として電池缶を用いる場合、電池要素の厚みが厚くなり、電池缶に電池要素が収納できないという問題を生じる。
【0009】
そこで、セパレータの積層ずれを想定し、電池缶の大きさを大きくしておくことも考えられるが、単位体積当たりのエネルギー密度が低下するという別の問題を生じる。
【0010】
また、特許文献2の蓄電デバイス用セパレータは、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に接着性ポリマーが塗工されているため、接着性ポリマーによってポリオレフィン系微多孔膜の微小孔部が部分的に閉塞されてしまい、イオンの透気性が低いという問題を生じる。
【0011】
そこで、本発明は、電極に対して正確に配設することができ、正確な厚みを有する電池要素を構成することができ且つ優れた透気性を有する合成樹脂フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[合成樹脂微多孔フィルム]
本発明の合成樹脂フィルムは、
合成樹脂及び微小孔部を含有する合成樹脂微多孔フィルムと、
上記合成樹脂微多孔フィルムの表面に配設されたバインダー粒子とを有し、
空孔率が40%以上、70%以下且つ透気抵抗が30sec/100mL以上、120sec/100mL以下である。
【0013】
合成樹脂微多孔フィルムは合成樹脂を含んでいる。合成樹脂としては、オレフィン系樹脂が好ましく、エチレン系樹脂及びプロピレン系樹脂が好ましく、プロピレン系樹脂がより好ましい。
【0014】
合成樹脂中におけるオレフィン系樹脂の含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0015】
プロピレン系樹脂としては、例えば、ホモポリプロピレン、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体などが挙げられる。延伸法によって合成樹脂微多孔フィルムが製造される場合には、ホモポリプロピレンが好ましい。プロピレン系樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。又、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体の何れであってもよい。プロピレン系樹脂中におけるプロピレン成分の含有量は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0016】
なお、プロピレンと共重合されるオレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセンなどのα-オレフィンなどが挙げられ、エチレンが好ましい。
【0017】
エチレン系樹脂としては、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高密度ポリエチレン、及びエチレン-プロピレン共重合体などが挙げられる。また、エチレン系樹脂微多孔フィルムは、エチレン系樹脂を含んでいれば、他のオレフィン系樹脂を含んでいてもよい。エチレン系樹脂中におけるエチレン成分の含有量は、好ましくは50質量%を超え、より好ましくは80質量%以上である。
【0018】
オレフィン系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、3万~50万が好ましく、5万~48万がより好ましい。プロピレン系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、25万~50万が好ましく、28万~48万がより好ましい。エチレン系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、3万~25万が好ましく、5万~20万がより好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であるオレフィン系樹脂によれば、透気性に優れた合成樹脂フィルムを提供することができる。
【0019】
オレフィン系樹脂の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、特に限定されないが、5~30が好ましく、7.5~25がより好ましい。プロピレン系樹脂の分子量分布は、特に限定されないが、7.5~12が好ましく、8~11がより好ましい。エチレン系樹脂の分子量分布は、特に限定されないが、5.0~30が好ましく、8.0~25がより好ましい。分子量分布が上記範囲内であるオレフィン系樹脂によれば、透気性に優れた合成樹脂フィルムを提供することができる。
【0020】
ここで、オレフィン系樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値である。具体的には、オレフィン系樹脂6~7mgを採取し、採取したオレフィン系樹脂を試験管に供給した上で、試験管に0.05質量%のBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)を含んでいるo-DCB(オルトジクロロベンゼン)溶液を加えてオレフィン系樹脂濃度が1mg/mLとなるように希釈して希釈液を作製する。
【0021】
溶解濾過装置を用いて145℃にて回転数25rpmにて1時間に亘って上記希釈液を振とうさせてオレフィン系樹脂をo-DCB溶液に溶解させて測定試料とする。この測定試料を用いてGPC法によってオレフィン系樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量を測定することができる。
【0022】
オレフィン系樹脂における重量平均分子量及び数平均分子量は、例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
測定装置 TOSOH社製 商品名「HLC-8121GPC/HT」
測定条件 カラム:TSKgelGMHHR-H(20)HT×3本
TSKguardcolumn-HHR(30)HT×1本
移動相:o-DCB 1.0mL/分
サンプル濃度:1mg/mL
検出器:ブライス型屈折計
標準物質:ポリスチレン(TOSOH社製 分子量:500~8420000)
溶出条件:145℃
SEC温度:145℃
【0023】
オレフィン系樹脂の融点は、特に限定されないが、130~170℃が好ましく、133~165℃がより好ましい。プロピレン系樹脂の融点は、特に限定されないが、160~170℃が好ましく、160~165℃がより好ましい。エチレン系樹脂の融点は、特に限定されないが、130~140℃が好ましく、133~139℃がより好ましい。融点が上記範囲内であるオレフィン系樹脂によれば、透気性に優れた合成樹脂フィルムを提供することができる。
【0024】
なお、本発明において、オレフィン系樹脂の融点は、示差走査熱量計(例えば、セイコーインスツル社 装置名「DSC220C」など)を用い、下記手順に従って測定することができる。先ず、オレフィン系樹脂10mgを25℃から昇温速度10℃/分にて250℃まで加熱し、250℃にて3分間に亘って保持する。次に、オレフィン系樹脂を250℃から降温速度10℃/分にて25℃まで冷却して25℃にて3分間に亘って保持する。続いて、オレフィン系樹脂を25℃から昇温速度10℃/分にて250℃まで再加熱し、この再加熱工程における吸熱ピークの頂点の温度を、オレフィン系樹脂の融点とする。
【0025】
合成樹脂微多孔フィルムは、微小孔部を含んでいる。微小孔部は、フィルムの厚み方向に貫通していることが好ましく、これにより合成樹脂微多孔フィルムに優れた透気性を付与することができる。このような合成樹脂微多孔フィルムはその厚み方向にリチウムイオンなどのイオンを透過させることが可能となる。なお、合成樹脂微多孔フィルムの厚み方向とは、合成樹脂微多孔フィルムの主面に対して直交する方向をいう。合成樹脂微多孔フィルムの主面とは、合成樹脂微多孔フィルムの表面のうち、最も面積の大きい面をいう。
【0026】
合成樹脂微多孔フィルムは、好ましくは延伸によって微小孔部が形成されている。合成樹脂微多孔フィルムの厚み方向に沿った断面において、微小孔部の平均孔径が20~100nmが好ましく、20~70nmがより好ましく、30~50nmが特に好ましい。
【0027】
微小孔部の平均孔径は下記の要領で測定された値をいう。先ず、合成樹脂微多孔フィルムをその厚み方向及び延伸方向に沿って(合成樹脂微多孔フィルムの主面に対して直交し且つ延伸方向に沿った面に沿って)切断し、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて拡大倍率1万倍で切断面の拡大写真を撮影する。なお、拡大写真の縦方向が厚み方向となるように調整し、厚み方向の中心部を撮影箇所とする。得られた拡大写真の全範囲を測定区画と定める。
【0028】
合成樹脂微多孔フィルムの切断面のSEM写真は以下の要領で撮影される。先ず、合成樹脂微多孔フィルムを銅テープなどで切断しやすいように補強した後、クロスセクションポリッシャー(例えば、日本電子社から商品名「IB-19500CP」にて市販されているクロスセクションポリッシャー)を用いて切断する。次に、チャージアップによる画像の乱れを防ぐため、切断面に金属膜(例えば、金、白金、オスミウム、カーボンなどの金属膜)を蒸着させた後、SEM(例えば、日立社から商品名「S-4800S」にて市販されているSEM)を用いて、加速電圧1.0kVの条件で切断面を撮影する。上記要領にて測定することで、鮮明な拡大写真を撮影することが可能となるが、鮮明な拡大写真を得ることができれば、上述した方法に限定されるものではない。
【0029】
次に、拡大写真中にあらわれた微小孔部を包囲し且つ長軸及び短軸が共に最短となる楕円を微小孔部ごとに描く。この楕円の長軸の長さと短軸の長さの相加平均値を微小孔部の孔径とする。測定区画内にある微小孔部の孔径の相加平均値を微小孔部の平均孔径とする。なお、測定区画内に全てが入っている微小孔部のみを測定対象とする。
【0030】
[バインダー粒子]
合成樹脂フィルムは、上記合成樹脂微多孔フィルムの表面にバインダー粒子が配設されている。合成樹脂微多孔フィルムの主面にバインダー粒子が配設されていることが好ましい。
【0031】
バインダー粒子は、電極(正極及び/又は負極)に対する貼着性を有するが、加熱又は加圧によって電極(正極及び/又は負極)に対する貼着性を発現することが好ましい。「加熱によって電極に対する貼着性を発現する」とは、加熱した状態(好ましくは60~140℃)のバインダー粒子を電極に接触させた状態で冷却したときにバインダー粒子が電極の表面に一体化することをいう。「加圧によって電極に対する貼着性を発現する」とは、バインダー粒子を電極に対して押圧力(好ましくは、0.5~5MPa)を加えた状態で接触させた後、押圧力が除いたときにバインダー粒子が電極の表面に一体化していることをいう。
【0032】
合成樹脂微多孔フィルムの表面に配設されたバインダー粒子は、電極に対して貼着性を有する。合成樹脂微多孔フィルムの表面に配設されたバインダー粒子は、好ましくは加熱又は加圧することによって、電極に対する貼着性を発揮する。従って、電極上に合成樹脂フィルムを重ね合わせた後に合成樹脂フィルムを、加熱(好ましくは加圧した状態で加熱)することによって粘着性又は接着性を発現させた後、冷却することによって、合成樹脂フィルムを電極表面に一体化させることができる。又は、電極上に合成樹脂フィルムを重ね合わせた後に、合成樹脂フィルムを電極に対して押圧することによって粘着性又は接着性を発現させた後、合成樹脂フィルムに加えている押圧力を解除することによって、合成樹脂フィルムを電極表面に一体化させることができる。
【0033】
従って、合成樹脂フィルムを介して正極と負極とを交互に重ね合わせて電極積層体を形成し、この電極積層体を、好ましくは厚み方向に加圧した状態で、加熱することによって、合成樹脂フィルムを正極及び負極に密着一体化させて、正極と負極とが合成樹脂フィルムを介して積層一体化されてなる電池要素を精度良く製造することができる。
【0034】
又は、合成樹脂フィルムを介して正極と負極とを交互に重ね合わせて電極積層体を形成し、この電極積層体を、好ましくは加熱した状態で、厚み方向に加圧することによって、合成樹脂フィルムを正極及び負極に密着一体化させて、正極と負極とが合成樹脂フィルムを介して積層一体化されてなる電池要素を精度良く製造することができる。
【0035】
電池要素は、正負極及び合成樹脂フィルムが互いに一体化して構成されていることから、製造中に、正負極及び合成樹脂フィルム間において、ずれを生じることはなく、電池要素は優れた厚み精度を有している。従って、厚み精度に優れた且つ単位体積当たりのエネルギー密度の高い二次電池を構成することができる。
【0036】
そして、電極と合成樹脂フィルムは、密着性が高い状態で一体化されているので、充放電電流の均一化及びデンドライトの発生の抑制を図ることができる。
【0037】
電極と合成樹脂フィルムとは、合成樹脂微多孔フィルムの表面に配設されたバインダー粒子によって一体化されている。バインダー樹脂が合成樹脂微多孔フィルムの表面に塗工されている場合とは異なり、合成樹脂微多孔フィルムと電極とを一体化させた状態において、バインダー粒子を構成していた合成樹脂は、合成樹脂微多孔フィルムと電極の対向面間において散在しており、合成樹脂微多孔フィルムの微小孔部を殆ど閉塞することはない。従って、合成樹脂フィルムは、電極と一体化された後も優れた透気性を維持している。
【0038】
電極と合成樹脂フィルムとの対向面間において存在しているバインダー粒子は、その一部が好ましくは加熱又は加圧によって、合成樹脂微多孔フィルムの微小孔部内及び電極の活物質層の微孔内に進入している。従って、電極と合成樹脂フィルムとは強固に密着一体化している。
【0039】
又、合成樹脂フィルムを介して正極と負極とを交互に重ね合わせて電極積層体を形成し、この電極積層体を厚み方向に加圧(好ましくは加熱しながら)した場合、バインダー粒子に効率良く圧力を付加することができる。従って、電極に対するバインダー粒子の貼着性によって、合成樹脂フィルムと、正負極とを良好に密着一体化させることができる。
【0040】
バインダー粒子を構成している合成樹脂は、電極に対する貼着性を有しておればよく、特に限定されない。バインダー粒子を構成している合成樹脂は、加熱又は加圧されることによって電極に対する貼着性を発現することが好ましい。
【0041】
バインダー粒子を構成している合成樹脂としては、例えば、ポリビニルブチラール、変性ポリプロピレン、変性ポリエチレン、フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン‐トリクロロエチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノアクリレート、シアノエチルスクロース、上述したプロピレン系樹脂などが挙げられ、ポリビニルブチラール、変性ポリプロピレン、変性ポリエチレン、フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びポリフッ化ビニリデンが好ましく、ポリビニルブチラール及び変性ポリプロピレンがより好ましい。なお、合成樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0042】
変性ポリエチレンとは、無水マレイン酸などの有機酸、塩素などの変性剤で変性されたポリエチレンをいう。変性ポリプロピレンとは、無水マレイン酸などの有機酸、塩素などの変性剤で変性されたポリプロピレンをいう。
【0043】
バインダー粒子を構成している合成樹脂の融点Tmは、60~135℃が好ましく、65~135℃がより好ましく、70~130℃が特に好ましい。
【0044】
合成樹脂の融点Tmは、示差走査熱量計(例えば、セイコーインスツル社 装置名「DSC220C」など)を用い、下記手順に従って測定することができる。先ず、合成樹脂10mgを25℃から昇温速度10℃/分にて250℃まで加熱し、250℃にて3分間に亘って保持する。次に、合成樹脂を250℃から降温速度10℃/分にて25℃まで冷却して25℃にて3分間に亘って保持する。続いて、合成樹脂を25℃から昇温速度10℃/分にて250℃まで再加熱し、この再加熱工程における吸熱ピークの頂点の温度を、合成樹脂の融点とする。
【0045】
バインダー粒子は、一次粒子であっても二次粒子であってもよい。二次粒子とは、一次粒子が凝集して形成された粒子をいう。
【0046】
バインダー粒子の平均粒子径は、0.1~20μmが好ましく、0.2~15μmがより好ましく、0.3~13μmが特に好ましく、0.5~10μmが最も好ましい。バインダー粒子の平均粒子径が0.1μm以上であると、電極と合成樹脂フィルムとを強固に密着一体化させることができる。バインダー粒子の平均粒子径が20μm以下であると、正極と負極とをセパレータを介して積層一体化してなる電池要素の厚みを薄くすることができると共に、合成樹脂微多孔フィルムの微小孔部の閉塞を最小限に抑制して合成樹脂フィルムの優れた透気性を維持することができる。
【0047】
バインダー粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡を用いてバインダー粒子の拡大写真(倍率:5000倍)を撮影する。得られた拡大写真中にあらわれたバインダー粒子から50個のバインダー粒子を不作為に抽出し、各バインダー粒子の粒子径を測定する。各バインダー粒子の粒子径の相加平均値をバインダー粒子の平均粒子径とする。なお、バインダー粒子の粒子径とは、バインダー粒子を包囲し得る最小径の真円の直径をいう。
【0048】
合成樹脂微多孔フィルムの表面に配設されるバインダー粒子の量は、0.1~10g/m2が好ましく、0.2~8g/m2がより好ましく、0.3~5g/m2が特に好ましく、0.3~4g/m2が最も好ましい。バインダー粒子の量が上記範囲内であると、合成樹脂微多孔フィルムの微小孔部の閉塞を最小限に抑制して合成樹脂フィルムの優れた透気性を維持しながら、電極と合成樹脂フィルムとを強固に密着一体化させることができる。
[合成樹脂フィルム]
【0049】
合成樹脂フィルムの空孔率εは、40%以上であり、44%以上が好ましく、48%以上がより好ましい。合成樹脂フィルムの空孔率εは、70%以下が好ましく、68%以下がより好ましく、65%以下が特に好ましい。空孔率εが上記範囲内である合成樹脂フィルムは、透気性に優れた合成樹脂フィルムを提供することができる。
【0050】
なお、合成樹脂フィルムの空孔率εは下記の要領で測定することができる。先ず、合成樹脂フィルムを切断することにより縦10cm×横10cmの平面正方形状(面積100cm2)の試験片を得る。次に、試験片の重量W(g)を及び厚みT(cm)を測定し、下記により見掛け密度ρ(g/cm3)を算出する。なお、試験片の厚みは、ダイヤルゲージ(例えば、株式会社ミツトヨ製 シグナルABSデジマチックインジケータ)を用いて、試験片の厚みを15箇所測定し、その相加平均値とする。そして、この見掛け密度ρ(g/cm3)及び合成樹脂フィルムを構成している合成樹脂自体の密度ρ(g/cm3)を用いて下記に基づいて合成樹脂フィルムの空孔率ε(%)を算出することができる。 見掛け密度ρ(g/cm3)=W/(100×T)
空孔率ε[%]=100×[(ρ-ρ)/ρ
【0051】
合成樹脂フィルムがn種類の合成樹脂を含有している場合、合成樹脂フィルムを構成している合成樹脂自体の密度ρ(g/cm3)は下記式に基づいて算出される。なお、nは自然数である。
密度ρ(g/cm3
=ρ1×W1/100+ρ2×W2/100+・・・+ρn×Wn/100
【0052】
合成樹脂1、合成樹脂2・・・合成樹脂nの密度をそれぞれ、ρ1、ρ2・・・ρnとする。合成樹脂フィルム中における合成樹脂1、合成樹脂2・・・合成樹脂nの含有量(質量%)をそれぞれ、W1、W2・・・Wnとする。
【0053】
合成樹脂フィルムの厚みは、5~100μmが好ましく、10~50μmがより好ましく、13~25μmが特に好ましい。
【0054】
なお、本発明において、合成樹脂フィルムの厚みの測定は、次の要領に従って行うことができる。すなわち、合成樹脂フィルムの任意の10箇所をダイヤルゲージを用いて測定し、その相加平均値を合成樹脂フィルムの厚みとする。
【0055】
合成樹脂フィルムの透気抵抗Gは、30~120sec/100mLであり、35~110sec/100mLが好ましく、37~100sec/100mLが特に好ましい。透気抵抗Gが上記範囲内である合成樹脂フィルムは、機械的強度とイオン透過性の双方に優れている。
【0056】
なお、合成樹脂フィルムの透気抵抗Gは下記の要領で測定された値をいう。温度23℃、相対湿度65%の雰囲気下でJIS P8117に準拠して、合成樹脂フィルムの任意の10箇所における透気度を測定し、その相加平均値を算出する。相加平均値を合成樹脂フィルムの透気抵抗Gとする。透気抵抗Gの単位系は、透気抵抗G(sec/100mL)とする 。
【0057】
発明者は、合成樹脂フィルムの空孔率ε(%)と透気抵抗G(sec/100mL)との関係を鋭意検討し、次の通り見出した。即ち、空孔率εと透気抵抗Gが下記式(1)の関係を満たしているとき、合成樹脂フィルムに含有される合成樹脂の量をできるだけ多く確保し、優れた機械的強度を付与しながら、合成樹脂フィルムに優れた透気性を付与することができることを見出した。
【0058】
即ち、合成樹脂フィルムは、空孔率をε(%)とし、透気抵抗をG(sec/100mL)としたとき、下記式(1)を満たしていることが好ましい。なお、Exp Xとは、e(eのX乗)を意味する。
100×Exp(-0.0075G)≦ε ・・・式(1)
【0059】
合成樹脂フィルムは、下記式(2)を満たしていることがより好ましい。
100×Exp(-0.0080G)≦ε・・・式(2)
【0060】
合成樹脂フィルムは、下記式(3)を満たしていることが特に好ましい。
100×Exp(-0.0090G)≦ε・・・式(3)
【0061】
100×Exp(-0.0075G)を空孔率ε以下とすることによって、合成樹脂微多孔フィルムに含有される合成樹脂の量を多くしながら、合成樹脂フィルムの透気性を向上させることができる。
【0062】
そして、合成樹脂微多孔フィルムの微小孔部を略均一に形成することができるので、リチウムイオンの透過性を均一にすることができ、デンドライトの発生を概ね抑制し、合成樹脂フィルムをセパレータとして用いた蓄電デバイスの長寿命及び長期安全性の向上を図ることができる。
【0063】
更に、合成樹脂微多孔フィルム中に含有されている合成樹脂の量を多くすることによって、合成樹脂微多孔フィルムにおいて、破断強度などの機械的強度を向上させることができる。
【0064】
従って、合成樹脂フィルムを巻き出しながら加工する場合、合成樹脂フィルムに巻き出しに伴う張力が長さ方向に加わったときにあっても、合成樹脂フィルムに破断が生じる虞れはなく、合成樹脂フィルムを円滑に加工することができる。
【0065】
そして、合成樹脂フィルムを巻き出しながら切断加工した場合、合成樹脂フィルムの切断時には長さ方向に張力が加わった状態で切断され、その後、張力が除去されるが、切断後の合成樹脂フィルムは、優れた寸法安定性を有しているので、長さ方向に殆ど収縮することがない。
【0066】
例えば、合成樹脂フィルムをセパレータとして用いて蓄電デバイスを製造する場合、長尺状の正極となる金属シートと、長尺状の負極となる金属シートとを巻き出しながらセパレータを介して積層させて電極積層体を連続的に製造し、電極積層体を長さ方向に所定長さとなるように切断される。
【0067】
上記切断工程において、電極積層体の切断時には合成樹脂フィルムにその長さ方向に張力が加えられている一方、電極積層体の切断後は合成樹脂フィルムに加えられている張力が除去される。
【0068】
上記のような切断加工が合成樹脂フィルムに施された場合にあっても、合成樹脂フィルムは優れた寸法安定性を有していることから、切断前後において、合成樹脂フィルムはその長さ方向への収縮が生じ難く、正極と負極とを合成樹脂フィルム(セパレータ)によって確実に隔離することができ、正極と負極との短絡を確実に防止することができる。
【0069】
合成樹脂フィルムが長尺状に形成されている場合、合成樹脂フィルムにおける長さ方向の破断強度は、1.3~2.5N/mmが好ましく、1.5~2.0N/mmがより好ましく、1.5~1.7N/mmが特に好ましい。合成樹脂フィルムにおける長さ方向の破断強度が1.3N/mm以上であると、合成樹脂フィルムを巻き出しながら破断させることなく連続的に且つ安定的に加工処理を施すことができる。合成樹脂フィルムにおける長さ方向の破断強度が2.5N/mm以下であると、切断工程において、正極又は負極となる金属シートと積層されている電極積層体からその長さ方向における張力が除去されたときに、切断部近傍における金属シート上の電極活物質が金属シートから剥離することを防止することができる。
【0070】
なお、合成樹脂フィルムにおける長さ方向の破断強度は、下記式に基づいて算出された値をいう。引張強さ(MPa)は、JIS K7161に準拠して測定された値をいう。合成樹脂フィルムの厚みは、ダイヤルゲージ(例えば、株式会社ミツトヨ製 シグナルABSデジマチックインジケータ)を用いて、合成樹脂フィルムの厚みを15箇所測定し、その相加平均値とする。
破断強度(N/mm)=1000×引張強さ(MPa)
/合成樹脂フィルムの厚み(μm)
【0071】
合成樹脂フィルムは、上述の通り、優れた透気性を有しておりデンドライトの生成を概ね抑制することができると共に、切断加工前後において寸法安定性に優れており、機械的強度にも優れている。
【0072】
更に、合成樹脂フィルムは、合成樹脂微多孔フィルムの表面にバインダー粒子が配設一体化されていることから、電極上に合成樹脂フィルムを重ね合わせた状態において、合成樹脂フィルムを好ましくは加熱又は電極に向かって押圧することによって、電極と合成樹脂フィルムとをバインダー粒子によって密着した状態に強固に一体化することができる。
【0073】
電極と合成樹脂フィルムとをバインダー粒子によって強固に一体化させることができるので、合成樹脂フィルムを介して正極と負極とを積層一体化して得られた電極積層体の取り扱い性を向上させることができる。
【0074】
電極積層体は、正極と負極とが合成樹脂フィルムを介して強固に一体化されているので、電極積層体の巻回工程などの加工工程においても、正極、負極及び合成樹脂フィルムの何れかが、正しい位置からずれるようなことはない。従って、合成樹脂フィルムを用いて得られた電極積層体は、取り扱い性に優れている共に、正極及び負極が、合成樹脂フィルムによって隔離された状態を確実に維持する。
【0075】
しかも、合成樹脂フィルムを介して正極及び負極が積層一体化された電極積層体において、合成樹脂微多孔フィルムの優れた透気性は維持されている。従って、合成樹脂微多孔フィルムにおいて、イオンの均一で且つ優れた透過性は維持されており、デンドライトの発生を概ね抑制し、合成樹脂フィルムをセパレータとして用いた蓄電デバイスの長寿命及び長期安全性の向上を図ることができると共に、蓄電デバイスの高出力化を図ることができる。
【0076】
従って、合成樹脂フィルムは、高出力を必要とする蓄電デバイス〔リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル亜鉛電池、銀亜鉛電池、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)、コンデンサなど〕のセパレータとして好適に用いることができる。
【0077】
[合成樹脂フィルムの製造方法]
先ず、合成樹脂微多孔フィルムの製造方法を説明する。
合成樹脂微多孔フィルムは、下記工程、
合成樹脂を押出機に供給して溶融混練し、上記押出機の先端に取り付けたTダイから押出すことにより合成樹脂原反フィルムを得る押出工程と、
上記押出工程で得られた上記合成樹脂原反フィルムをその表面温度が(合成樹脂の融点-30℃)~(合成樹脂樹脂の融点-1℃)となるようにして1分以上養生する養生工程と、
上記養生工程後の上記合成樹脂原反フィルムを歪み速度10~250%/分且つ延伸倍率1.5~2.8倍にて一軸延伸する延伸工程と、
上記延伸工程後の上記合成樹脂原反フィルムをアニールするアニーリング工程と、を含む方法によって製造することができる。以下、合成樹脂微多孔フィルムの製造方法について、順を追って説明する。
【0078】
(押出工程)
先ず、合成樹脂を押出機に供給して溶融混練し、押出機の先端に取り付けたTダイから押出すことにより合成樹脂原反フィルムを得る押出工程を行う。
【0079】
合成樹脂を押出機にて溶融混練する際の合成樹脂の温度は、(合成樹脂の融点+20℃)~(合成樹脂の融点+100℃)が好ましく、(合成樹脂の融点+25℃)~(合成樹脂の融点+80℃)がより好ましい。合成樹脂の温度が上記範囲内であると、合成樹脂の配向性が向上し、合成樹脂のラメラを高度に形成することができる。
【0080】
合成樹脂を押出機からフィルム状に押出す際におけるドロー比は、50~300が好ましく、55~280がより好ましく、65~250が特に好ましく、68~250が最も好ましい。ドロー比が50以上であると、合成樹脂を充分に分子配向させて、合成樹脂のラメラを充分に生成させることができる。ドロー比が、300以下であると、合成樹脂原反フィルムの製膜安定性が向上し、合成樹脂原反フィルムの厚み精度及び幅精度を向上させることができる。
【0081】
なお、ドロー比とは、TダイのリップのクリアランスをTダイから押出された合成樹脂原反フィルムの厚みで除した値をいう。Tダイのリップのクリアランスの測定は、JIS B7524に準拠したすきまゲージ(例えば、株式会社永井ゲージ製作所製 JISすきまゲージ)を用いてTダイのリップのクリアランスを10箇所以上測定し、その相加平均値を求めることにより行うことができる。また、Tダイから押出された合成樹脂原反フィルムの厚みは、ダイヤルゲージ(例えば、株式会社ミツトヨ製 シグナルABSデジマチックインジケータ)を用いてTダイから押出された合成樹脂原反フィルムの厚みを10箇所以上測定し、その相加平均値を求めることにより行うことができる。
【0082】
合成樹脂原反フィルムの製膜速度は、10~300m/分が好ましく、15~250m/分がより好ましく、15~30m/分が特に好ましい。合成樹脂原反フィルムの製膜速度が10m/分以上であると、合成樹脂を充分に分子配向させて、合成樹脂のラメラを充分に生成させることができる。また、合成樹脂原反フィルムの製膜速度が300m/分以下であると、合成樹脂原反フィルムの製膜安定性が向上し、合成樹脂原反フィルムの厚み精度及び幅精度を向上させることができる。
【0083】
Tダイから押出された合成樹脂原反フィルムをその表面温度が(合成樹脂の融点-100℃)以下となるまで冷却することが好ましい。これにより、合成樹脂が結晶化してラメラを生成することを促進させることができる。溶融混練した合成樹脂を押出すことにより、合成樹脂原反フィルムを構成している合成樹脂分子を予め配向させた上で、合成樹脂原反フィルムを冷却することにより、合成樹脂が配向している部分においてラメラの生成を促進させることができる。
【0084】
冷却された合成樹脂原反フィルムの表面温度は、合成樹脂の融点よりも100℃低い温度以下が好ましく、合成樹脂の融点よりも140~110℃低い温度がより好ましく、合成樹脂の融点よりも135~120℃低い温度が特に好ましい。冷却された合成樹脂原反フィルムの表面温度が合成樹脂の融点よりも100℃低い温度以下であると、合成樹脂原反フィルムを構成している合成樹脂のラメラを十分に生成することができる。
【0085】
(養生工程)
次に、上述した押出工程により得られた合成樹脂原反フィルムを養生する。この合成樹脂原反フィルムの養生工程は、押出工程において合成樹脂原反フィルム中に生成させたラメラを成長させるために行う。このことにより、合成樹脂原反フィルムの押出方向に結晶化部分(ラメラ)と非結晶部分とが交互に配列してなる積層ラメラ構造を形成させることができ、後述する合成樹脂原反フィルムの延伸工程において、ラメラ内ではなく、ラメラ間において亀裂を発生させ、この亀裂を起点として微小な貫通孔(微小孔部)を形成することができる。
【0086】
合成樹脂原反フィルムの養生温度は、(合成樹脂の融点-30℃)~(合成樹脂の融点-1℃)が好ましく、(合成樹脂の融点-25℃)~(合成樹脂の融点-5℃)がより好ましい。合成樹脂原反フィルムの養生温度が(合成樹脂の融点-30℃)以上であると、合成樹脂の分子を十分に配向させてラメラを十分に成長させることができる。また、合成樹脂原反フィルムの養生温度が(合成樹脂の融点-1℃)以下であると、合成樹脂の分子を十分に配向させてラメラを十分に成長させることができる。なお、合成樹脂原反フィルムの養生温度とは、合成樹脂原反フィルムの表面温度をいう。
【0087】
合成樹脂原反フィルムの養生時間は、1分以上が好ましく、3分以上がより好ましく、5分以上が特に好ましく、10分以上が最も好ましい。合成樹脂原反フィルムを1分以上養生させることにより、合成樹脂原反フィルムのラメラを十分に且つ均一に成長させることができる。また、養生時間が長すぎると、合成樹脂原反フィルムが熱劣化する虞れがある。したがって、養生時間は、30分以下が好ましく、20分以下がより好ましい。
【0088】
(延伸工程)
次に、養生工程後の合成樹脂原反フィルムを一軸延伸する延伸工程を行う。延伸工程では、合成樹脂原反フィルムを好ましくは押出方向にのみ一軸延伸する。
【0089】
延伸工程における合成樹脂原反フィルムの延伸方法としては、合成樹脂原反フィルムを一軸延伸することができれば、特に限定されず、例えば、合成樹脂原反フィルムを一軸延伸装置を用いて所定温度にて一軸延伸する方法などが挙げられる。合成樹脂原反フィルムの延伸は、複数回分割して行う逐次延伸が好ましい。逐次延伸をすることによって、得られる合成樹脂微多孔フィルムの空孔率を低く抑えながら透気抵抗を向上させることができる。
【0090】
合成樹脂原反フィルムの延伸時における歪み速度は、10~250%/分が好ましく、30~245%/分がより好ましく、35~240%/分が特に好ましい。合成樹脂原反フィルムの延伸時における歪み速度を上記範囲内に調整することによって、ラメラ間において不規則に亀裂が発生するのではなく、合成樹脂原反フィルムの延伸方向に所定間隔毎に配列し且つ合成樹脂原反フィルムの厚み方向に延びる仮想直線上にあるラメラ間において規則的に亀裂が発生する。従って、合成樹脂微多孔フィルムには、概ね厚み方向に延びる支持部が形成されると共に微小孔部ができるだけ厚み方向に連続した直線状に形成される。合成樹脂原反フィルムの延伸時における歪み速度とは、下記式に基づいて算出された値をいう。なお、延伸倍率λ[%]、ライン搬送速度V[m/分]及び延伸区間路長F[m]に基づいて算出される、単位時間当たりの変形歪みε[%/分]をいう。ライン搬送速度Vとは、延伸区間の入口での合成樹脂原反フィルムの搬送速度をいう。延伸区間路長Fとは、延伸区間の入口から出口までの搬送距離をいう。
歪み速度ε=λ×V/F
【0091】
延伸工程において、合成樹脂原反フィルムの表面温度は、(合成樹脂の融点-100℃)~(合成樹脂の融点-5℃)が好ましく、(合成樹脂の融点-30℃)~(合成樹脂の融点-10℃)がより好ましい。上記表面温度が上記範囲内にあると、合成樹脂原反フィルムを破断させることなく、ラメラ間の非結晶部において円滑に亀裂を発生させて微小孔部を生成することができる。
【0092】
延伸工程において、合成樹脂原反フィルムの延伸倍率は、1.5~3.0倍が好ましく、2.0~2.9倍がより好ましく、2.3~2.8倍が特に好ましい。上記延伸倍率が上記範囲内であると、合成樹脂原反フィルムに微小孔部を均一に形成することができる。
【0093】
なお、合成樹脂原反フィルムの延伸倍率とは、延伸後の合成樹脂原反フィルムの長さを延伸前の合成樹脂原反フィルムの長さで除した値をいう。
【0094】
(アニーリング工程)
次に、延伸工程後の合成樹脂原反フィルムにアニール処理を施すアニーリング工程を行う。このアニーリング工程は、上述した延伸工程において加えられた延伸によって合成樹脂原反フィルムに生じた残存歪みを緩和して、得られる合成樹脂微多孔フィルムに加熱による熱収縮が生じることを抑えるために行われる。
【0095】
アニーリング工程における合成樹脂原反フィルムの表面温度は、(合成樹脂原反フィルムの融点-40℃)~(合成樹脂原反フィルムの融点-5℃)が好ましい。上記表面温度が(合成樹脂原反フィルムの融点-40℃)以上であると、合成樹脂原反フィルム中に残存した歪みの緩和を十分なものとし、得られる合成樹脂微多孔フィルムの張力を加えて切断した前後における寸法安定性が向上する。また、上記表面温度が(合成樹脂原反フィルムの融点-5℃)以下であると、延伸工程で形成された微小孔部の閉塞を防止することができる。
【0096】
アニーリング工程における合成樹脂原反フィルムの収縮率は、30%以下が好ましい。上記収縮率が30%以下であると、合成樹脂原反フィルムにたるみが生じるのを防止して均一にアニールをすることができ、又は、微小孔部の形状を保持することができる。
【0097】
なお、合成樹脂原反フィルムの収縮率とは、アニーリング工程時における延伸方向における合成樹脂原反フィルムの収縮長さを、延伸工程後の延伸方向における合成樹脂原反フィルムの長さで除して100を乗じた値をいう。
【0098】
上記合成樹脂微多孔フィルムの表面にバインダー粒子を配設一体化させることによって合成樹脂フィルムを製造することができる。合成樹脂微多孔フィルムの表面にバインダー粒子を点在させており、合成樹脂微多孔フィルムの微小孔部の開口部はバインダー粒子によって殆ど閉塞されておらず、合成樹脂フィルムは、合成樹脂微多孔フィルムの微小孔部の開口部を略維持しており、優れた透気性を有している。
【0099】
合成樹脂微多孔フィルムの表面にバインダー粒子を配設一体化する方法は、特に限定されない。バインダー粒子を溶媒中に分散させてなる塗工液を合成樹脂微多孔フィルムの表面に塗工した後、上記溶媒を除去することによって、合成樹脂微多孔フィルムの表面にバインダー粒子を配設一体化させる方法などが挙げられる。
【0100】
塗工液を構成している溶媒としては、特に限定されず、例えば、キシレン、酢酸エチル、アルコール、水などが挙げられ、合成樹脂微多孔フィルムを構成している合成樹脂との濡れ性に優れているので、酢酸エチルを含有していることが好ましい。
【0101】
塗工液の製造方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
(1)予め製造したバインダー粒子を溶媒中に添加して分散させて塗工液を製造する方法。
(2)バインダー粒子を構成する合成樹脂を第1溶媒中に溶解させた後、合成樹脂を溶解しない第2溶媒を第1溶媒に添加し、第1溶媒中に溶解している合成樹脂を析出させてバインダー粒子を製造し、バインダー粒子を溶媒中に分散させて塗工液を製造する方法。
【発明の効果】
【0102】
本発明の合成樹脂フィルムは、合成樹脂微多孔フィルムの表面にバインダー粒子が配設されているので、合成樹脂微多孔フィルムの微小孔部の閉塞を最小限に抑制しながら、電極と合成樹脂フィルムとを強固に積層一体化することができる。
【0103】
従って、合成樹脂フィルムと電極との積層一体化後においても、合成樹脂フィルムは、リチウムイオンなどのイオンの透過性に優れている。合成樹脂フィルムは、高性能のリチウムイオン電池、キャパシタ、コンデンサなどの蓄電デバイスを構成することができる。合成樹脂フィルムは、高出力用途に用いても、デンドライトによる正極と負極の短絡や放電容量の急激な低下が生じにくい。
【0104】
本発明の合成樹脂フィルムは、空孔率が低く抑えられているので、張力が加わった状態で切断し且つ張力が解除された後においても、収縮が抑えられており、正極と負極との短絡を防止した電極積層体を容易に製造することができる合成樹脂フィルムを提供する。
【0105】
しかも、合成樹脂フィルムは、好ましくは加熱又は加圧によって、貼着性を発現するため、電極積層体において、合成樹脂フィルムと電極とは強固に且つ密着した状態に一体化している。従って、電極積層体は取り扱い性に優れている。更に、充放電電流を均一化し、デンドライトが発生しにくくして、蓄電デバイスの充放電サイクルの寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
図1】実施例及び比較例で得られた合成樹脂フィルムの空孔率及び透気抵抗の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0107】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0108】
[実施例1~5]
(押出工程)
表1に示した重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分子量分布(Mw/Mn)及び融点を有するホモポリプロピレンを押出機に供給して表1に示した樹脂温度にて溶融混練し、押出機の先端に取り付けられたTダイからフィルム状に押出した。しかる後、表面温度が30℃となるまで冷却して、厚みが30μmで且つ幅が200mmの長尺状のホモポリプロピレン原反フィルムを得た。なお、製膜速度、押出量及びドロー比は表1に示した通りであった。
【0109】
(養生工程)
次に、ホモポリプロピレン原反フィルムをその表面温度が表1に示した養生温度となるようにして表1に示した時間(養生時間)の間、養生した。
【0110】
(延伸工程)
次に、養生を施したホモポリプロピレン原反フィルムをその表面温度が表1に示した温度となるようにして表1に示した歪み速度にて表1に示した延伸倍率に押出方向にのみ一軸延伸装置を用いて一軸延伸した。
【0111】
(アニーリング工程)
しかる後、ホモポリプロピレン原反フィルムを熱風炉に供給し、ホモポリプロピレン原反フィルムをその表面温度が表1に示した温度となるように且つホモポリプロピレン原反フィルムに張力が加わらないようにして1分間に亘って走行させて、ホモポリプロピレン原反フィルムにアニールを施して長尺状のホモプロピレン微多孔フィルムを得た。ホモプロピレン微多孔フィルムの厚みは16μmであった。なお、アニーリング工程におけるホモポリプロピレン原反フィルムの収縮率は表1に示した値とした。
【0112】
表1に示した合成樹脂100質量部をキシレン575質量部に供給し、全ての合成樹脂をキシレンに溶解させた。次に、キシレンに酢酸エチル575質量部を供給して、キシレンに溶解している合成樹脂を析出させて、バインダー粒子を生成させた。生成したバインダー粒子を溶媒(キシレンと酢酸エチルとの混合溶媒)中に均一に分散させて塗工液を得た。塗工液中に分散しているバインダー粒子を溶媒から分離し、バインダー粒子の平均粒子径を測定した。バインダー粒子の平均粒子径を表1に示した。
【0113】
表1において、変性ポリプロピレンを「変性PP」と、ポリビニルブチラールを「PVB」と、ポリフッ化ビニリデンを「PVDF」と表記した。変性ポリプロピレンは、塩素によって変性されたポリプロピレンであった。
【0114】
塗工液をホモポリプロピレン微多孔フィルムの両面(2個の主面)に全面的に塗工した後、ホモポリプロピレン微多孔フィルムを60℃で30分間に亘って真空乾燥することにより溶媒を除去した。ホモポリプロピレン微多孔フィルムの両面にバインダー粒子を配設一体化させて合成樹脂フィルムを得た。
【0115】
(比較例1)
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)をN-メチルピロリドンに溶解させて、ポリフッ化ビニリデンの濃度が2質量%である塗工液を作製した。
【0116】
実施例1で得られたホモポリプロピレン微多孔フィルムの両面(2個の主面)に全面的に塗工した後、ホモポリプロピレン微多孔フィルムを80℃で30分間に亘って真空乾燥することにより溶媒を除去した。ホモポリプロピレン微多孔フィルムの両面全面に、ポリフッ化ビニリデンの塗膜を形成して合成樹脂フィルムを得た。
【0117】
[評価]
得られた合成樹脂フィルムについて、厚み、透気抵抗、空孔率及び長さ方向(押出方向)の破断強度(MD破断強度)を上記要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0118】
得られた合成樹脂フィルムの主面について、バインダー粒子の含有量を測定し、その結果を表1に示した。
【0119】
得られた合成樹脂フィルムについて、直流抵抗及び耐デンドライト性を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0120】
得られた合成樹脂フィルムについて、透気抵抗変化量ΔG、直流抵抗変化量ΔR及び粘着力を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0121】
(直流抵抗)
下記要領で正極及び負極を作成し、小型電池を作製した。得られた小型電池について直流抵抗の測定を行った。
<正極の作製方法>
Li2CO3と、Ni0.5Co0.2Mn0.3(OH)2で表される共沈水酸化物とをLiと遷移金属全体のモル比が1.08:1になるように石川式らいかい乳鉢にて混合した。しかる後、空気雰囲気中にて950℃で20時間熱処理した後に粉砕することにより、正極活物質として、平均二次粒子径が約12μmのLi1.04Ni0.5Co0.2Mn0.32を得た。
【0122】
上記のように得られた正極活物質と、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業(株)製、HS-100)、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(クレハ社製 商品名「#7208」)とを91:4.5:4.5(重量%)の割合で混合し、この混合物をN-メチル-2-ピロリドンに投入混合してスラリー状の溶液を作製した。このスラリー状の溶液をアルミニウム箔(東海東洋アルミ販売社製、厚さ:20μm)にドクターブレード法で塗布し、乾燥した。合剤塗布量は、10mg/cm2であった。アルミニウム箔をプレスして切断し、正極を作製した。
【0123】
<負極の作製方法>
チタン酸リチウム(石原産業社製 商品名「XA-105」と、メジアン径:6.7μm)と、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業(株)製、HS-100)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン((株)クレハ製、#7208)とを90:2:8(重量%)の比率で混合した。この混合物をN-メチル-2-ピロリドンに投入混合して、スラリー状の溶液を作製した。このスラリー状の溶液をアルミニウム箔(東海東洋アルミ販売社製、厚さ:20μm)にドクターブレード法で塗布し、乾燥した。合剤塗布量は、11mg/cm2であった。アルミニウム箔をプレスして切断して負極を作製した。
【0124】
<直流抵抗の測定>
正極を直径14mmの円形状に、負極を直径15mmの円形状に打ち抜いた。小型電池は、正極及び負極との間に合成樹脂フィルムを介在させた状態で合成樹脂フィルムに電解液を含浸させることで構成した。小型電池を5個作製した。
【0125】
電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の体積比3:7混合溶媒に、1Mになるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を溶解させた電解液を使用した。
【0126】
小型電池の充電は、予め設定した上限電圧まで電流密度0.20mA/cm2で充電した。放電は、予め設定した下限電圧まで、電流密度0.20mA/cm2で放電した。上限電圧は2.7V、下限電圧は2.0Vであった。1サイクル目に得られた放電容量を電池の初期容量とした。その後、初期容量の80%まで充電した後、25mA(I1)で10秒間放電したときの電圧(E1)、50mA(I2)で10秒間放電したときの電圧(E2)をそれぞれ測定した。
【0127】
上記の測定値を用いて、30℃における直流抵抗(Rx)を以下の式により算出した。各小型電池の直流抵抗(Rx)の相加平均値を、直流抵抗として採用した。
直流抵抗(Rx)=|(E1-E2)/放電電流(I1-I2)|
【0128】
(耐デンドライト性)
下記の要領で正極及び負極を作製して小型電池を作製した。得られた小型電池について耐デンドライト性の評価を行った。耐デンドライト性の評価は次の手順で行った。同一条件で小型電池を3個作製した。下記基準に基づいて評価した。
A・・・全ての小型電池において短絡はなかった。
B・・・1個の小型電池において短絡があった。
C・・・2個以上の小型電池において短絡があった。
【0129】
<正極の作製方法>
Li2CO3と、Ni0.33Co0.33Mn0.33(OH)2で表される共沈水酸化物とをLiと遷移金属全体のモル比が1.08:1になるように石川式らいかい乳鉢にて混合した。しかる後、この混合物を空気雰囲気中にて950℃で20時間熱処理した後に粉砕することにより、正極活物質として、平均二次粒子径が約12μmのLi1.04Ni0.33Co0.33Mn0.332を得た。
【0130】
上記のように得られた正極活物質と、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業社製 商品名「HS-100」)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(クレハ社製 商品名「#7208」)とを92:4:4(重量%)の割合で混合した。この混合物をN-メチル-2-ピロリドンに投入混合して、スラリー状の溶液を作成した。このスラリー状の溶液をアルミニウム箔(東海東洋アルミ販売社製、厚さ15μm)にドクターブレード法で塗布して乾燥した。合剤塗布量は、12mg/cm2であった。アルミニウム箔をプレスして正極を作製した。
【0131】
<負極の作製方法>
負極活物質として天然黒鉛(平均粒径:10μm)と、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業社製 商品名「HS-100」)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(クレハ社製 商品名「#7208」)とを95.7:0.5:3.8(重量%)の比率で混合した。この混合物をN-メチル-2-ピロリドンに投入混合して、スラリー状の溶液を作製した。このスラリー状の溶液を圧延銅箔(日本製箔(株)製、厚さ10μm)にドクターブレード法で塗布して乾燥した。合剤塗布量は、6mg/cm2であった。圧延銅箔をプレスして負極を作製した。
【0132】
<耐デンドライト性の測定>
正極を直径14mmの円形状に、負極を直径15mmの円形に打ち抜いて電極を準備した。小型電池は、正極及び負極間に合成樹脂フィルムを介在させ、合成樹脂フィルムに電解液を含浸させることによって構成した。なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の体積比3:7混合溶媒に、1Mになるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を溶解させた電解液を使用した。小型電池の充電は、予め設定した上限電圧4.6Vまで電流密度0.2mA/cm2で充電した。上記小型電池を60℃の送風オーブン中に供給して6ヶ月間電圧変化を観察した。小型電池の電圧変化が-Δ0.5V/分以上変化した場合、デンドライトの発生によって小型電池に内部短絡が発生したと判断した。
【0133】
(透気抵抗変化量ΔG)
ホモポリプロピレン微多孔フィルムの透気抵抗(Gi)を測定した。合成樹脂フィルムの透気抵抗(Gf)を測定した。透気抵抗変化量ΔGを下記式に基づいて算出した。
透気抵抗変化量ΔG=100×(Gf-Gi)/Gi
【0134】
(直流抵抗変化量ΔR)
上述した直流抵抗の測定と同様の要領で直流抵抗(Rx)を測定した。また、上述した直流抵抗の測定要領において、合成樹脂フィルムの代わりにホモポリプロピレン微多孔フィルムを用いたこと以外は同様の要領で直流抵抗(Ri)を測定した。
【0135】
得られた直流抵抗(Rx)及び直流抵抗(Ri)を用いて下記式に基づいて直流抵抗変化量ΔRを算出した。なお、直流抵抗変化量ΔRが20以下である場合、合成樹脂フィルムは、優れたイオン透過性を有している。
直流抵抗変化量ΔR=100×(Rx-Ri)/Ri
【0136】
(粘着力)
合成樹脂フィルムから縦25mm×横100mmの平面長方形状のフィルム試験片を切り出した。直流抵抗の測定時と同様の要領で正極を作製した。正極から縦25mm×横100mmの平面長方形状の正極試験片を切り出した。
【0137】
正極試験片上にフィルム試験片を重ね合わせた。平板プレス機を用いて、フィルム試験片を正極試験片に対して温度90℃、圧力1.5MPaの条件下にて3秒間に亘って押圧して、フィルム試験片を正極試験片上に積層一体化させた。フィルム試験片と正極試験片との間の粘着力をJIS Z0237に準拠し測定した。
【0138】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の合成樹脂フィルムは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、及びマグネシウムイオンなどのイオンの透過性に優れており、デンドライトの生成を効果的に概ね抑制することができる。
【0140】
本発明の合成樹脂フィルムは、機械的強度に優れていると共に、張力を加えた状態で切断した後の寸法安定性に優れ、収縮が生じるのを概ね抑制している。
【0141】
本発明の合成樹脂フィルムは、電極に対する貼着性に優れ、電極と合成樹脂フィルムとを密着性良く積層一体化することができる。従って、充放電電流の均一化を図ることができると共に、充放電サイクルの寿命を長くすることができる。
【0142】
従って、本発明の合成樹脂フィルムは、蓄電用デバイスのセパレータとして好適に用いられる。
図1