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特許7010828チーズ風味の付与増強用組成物、チーズ風味の付与増強用組成物の製造方法、食品のチーズ風味の付与増強方法、及びチーズ風味が付与増強された食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】チーズ風味の付与増強用組成物、チーズ風味の付与増強用組成物の製造方法、食品のチーズ風味の付与増強方法、及びチーズ風味が付与増強された食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20220203BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20220203BHJP
   A23L 19/18 20160101ALN20220203BHJP
【FI】
A23L27/20 A
A23L27/00 Z
A23L19/18
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018535598
(86)(22)【出願日】2017-08-10
(86)【国際出願番号】 JP2017029026
(87)【国際公開番号】W WO2018037929
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2016161740
(32)【優先日】2016-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】西脇 美香
(72)【発明者】
【氏名】今義 潤
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/160851(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/077105(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/084788(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23D
A23C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化物価が15~280であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を有効成分とするチーズ風味の付与増強用組成物。
【請求項2】
更に食用油脂を含む、請求項1に記載のチーズ風味の付与増強用組成物。
【請求項3】
前記組成物が前記酸化油脂を0.001~10質量%含む、請求項1又は2に記載のチーズ風味の付与増強用組成物。
【請求項4】
チーズ風味の付与増強用組成物の製造方法であって、
10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む原料油脂に、酸素を供給しながら加熱し、過酸化物価が15~280である酸化油脂を得る工程
を含む、前記製造方法。
【請求項5】
前記原料油脂が乳脂を60質量%以上100質量%以下含む、請求項4に記載のチーズ風味の付与増強用組成物の製造方法。
【請求項6】
前記加熱を65℃以上150℃以下、1時間以上72時間以下でおこなう、請求項4又は5に記載のチーズ風味の付与増強用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記酸素の供給を、前記原料油脂1kgあたり0.001~2L/分とする、請求項4乃至6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記乳脂が無水乳脂である、請求項4乃至7のいずれか一項に記載のチーズ風味の付与増強用組成物の製造方法。
【請求項9】
食用油脂に前記酸化油脂を添加する工程を含む、請求項4乃至8のいずれか一項に記載のチーズ風味の付与増強用組成物の製造方法。
【請求項10】
前記組成物が前記酸化油脂を0.001~10質量%含むようにする、請求項9に記載のチーズ風味の付与増強用組成物の製造方法。
【請求項11】
前記食品がチーズを含有する、請求項4乃至10のいずれか一項に記載のチーズ風味の付与増強用組成物の製造方法。
【請求項12】
過酸化物価が15~280であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を食品に添加することを特徴とする食品のチーズ風味の付与増強方法。
【請求項13】
前記酸化油脂は、更に食用油脂を含む組成物として前記食品に添加する、請求項12に記載の食品のチーズ風味の付与増強方法。
【請求項14】
前記食品がチーズを含有する、請求項12又は13に記載の食品のチーズ風味の付与増強方法。
【請求項15】
前記酸化油脂の前記食品に対する添加量が、前記食品中の前記酸化油脂の含有量にして0.00005質量%以上3質量%以下である、請求項12乃至14のいずれか一項に記載の食品のチーズ風味の付与増強方法。
【請求項16】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のチーズ風味の付与増強用組成物をチーズを含有する食品に添加する、チーズ風味が付与増強された食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品のチーズ風味の付与及び/又は増強に適した、チーズ風味の付与増強用組成物及び該チーズ風味の付与増強用組成物の製造方法、並びに食品のチーズ風味の付与増強方法及びチーズ風味が付与増強された食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食用油脂をフレーバーや食材で処理することで、そのフレーバーや食材に由来する風味を付与した風味油が知られている。ねぎ、ガーリック、唐辛子、バジル等の野菜類や、エビ、煮干し、鰹節等の魚介類、醤油等の調味料など、様々な食材について、その食材に由来する特有の風味が高められた食品を簡単に調理、加工等することができるので、業務用では勿論のこと、一般家庭の消費者にも好評である。
【0003】
一方、食品へのフレーバーや風味の付与に関し、乳脂を利用してバター風味を付与する試みがなされている。例えば、特許文献1(特開昭64-39962号公報)では、所定の化合物を所定量含有するバター脂肪を添加するバター様フレーバーを付与した食品の製造法が開示されている。また、特許文献2(特開平09-94062号公報)では、乳脂肪を酵素で加水分解した後、紫外線照射して過酸化物価(POV)を1.5~9.0の範囲で酸化させるバターフレーバーの製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭64-39962号公報
【文献】特開平09-94062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的な風味油の調製方法に従いチーズを食材にして風味油を調製しても、チーズ風味の風味油が得られるものではなかった。また、特許文献1、2に開示された技術はバター風味をもたらすものの、食品にチーズ風味を付与したり増強したりする効果に乏しかった。
【0006】
よって、本発明の目的は、食品にチーズ風味を付与したり、食品のチーズ風味を増強したりすることができる、チーズ風味の付与増強用組成物を提供することにある。また、そのチーズ風味の付与増強用組成物の製造方法、並びに食品のチーズ風味の付与増強方法及びチーズ風味が付与増強された食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、乳脂を含み、特定の性質を有する酸化油脂が、食品にチーズ風味を付与したり、食品のチーズ風味を増強したりする効果に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の形態は、過酸化物価が15~280であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を有効成分とするチーズ風味の付与増強用組成物を提供するものである。
【0009】
本発明のチーズ風味の付与増強用組成物においては、更に食用油脂を含むことが好ましい。
【0010】
また、本発明のチーズ風味の付与増強用組成物においては、前記組成物が前記酸化油脂を0.001~10質量%含むことが好ましい。
【0011】
本発明の第2の形態は、
チーズ風味の付与増強用組成物の製造方法であって、
10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む原料油脂に、酸素を供給しながら加熱し、過酸化物価が15~280である酸化油脂を得る工程
を含む、前記製造方法を提供するものである。
【0012】
本発明のチーズ風味の付与増強用組成物の製造方法においては、前記原料油脂が乳脂を60質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。
【0013】
また、本発明のチーズ風味の付与増強用組成物の製造方法においては、前記加熱を65℃以上150℃以下、1時間以上72時間以下でおこなうことが好ましい。
【0014】
また、本発明のチーズ風味の付与増強用組成物の製造方法においては、前記酸素の供給を、前記原料油脂1kgあたり0.001~2L/分とすることが好ましい。
【0015】
また、本発明のチーズ風味の付与増強用組成物の製造方法においては、前記乳脂が無水乳脂であることが好ましい。
【0016】
また、本発明のチーズ風味の付与増強用組成物の製造方法においては、食用油脂に前記酸化油脂を添加する工程を含むことが好ましい。
【0017】
また、本発明のチーズ風味の付与増強用組成物の製造方法においては、前記組成物が前記酸化油脂を0.001~10質量%含むようにすることが好ましい。
【0018】
また、本発明のチーズ風味の付与増強用組成物の製造方法においては、前記食品がチーズを含有することが好ましい。
【0019】
本発明の第3の形態は、過酸化物価が15~280であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂を食品に添加することを特徴とする食品のチーズ風味の付与増強方法を提供するものである。
【0020】
本発明の食品のチーズ風味の付与増強方法においては、前記酸化油脂は、更に食用油脂を含む組成物として前記食品に添加することが好ましい。
【0021】
また、本発明の食品のチーズ風味の付与増強方法においては、前記食品がチーズを含有することが好ましい。
【0022】
また、本発明の食品のチーズ風味の付与増強方法においては、前記酸化油脂の前記食品に対する添加量が、前記食品中の前記酸化油脂の含有量にして0.00005質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
【0023】
本発明の第4の形態は、上記の付与増強用組成物を食品に添加する、チーズ風味が付与増強された食品の製造方法を提供するものである。
【0024】
本発明のチーズ風味が付与増強された食品の製造方法においては、前記食品がチーズを含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、乳脂を含み、特定の性質を有する酸化油脂により、その酸化油脂を添加した食品にチーズ風味の付与及び/又は増強の効果がもたらされる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明によるチーズ風味の付与増強用組成物は、乳脂を含む酸化油脂を有効成分とする。ここで、乳脂は、生乳、牛乳、は特別牛乳等から得られる油脂含量が95質量%以上100質量%以下のものをいう。例えば、無水乳脂、澄ましバター等が挙げられる。無水乳脂は、牛乳等から乳脂肪以外のほとんどすべての成分を除去したものをいい、AMF(Anhydrous Milk Fat、バターオイル)等と表記される場合もある。澄ましバターはバターの脂肪分を分取したものである。本発明における乳脂は、好ましくは無水乳脂または澄ましバターであり、より好ましくは無水乳脂である。また、乳脂の油脂含量は、好ましくは98質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下である。
【0027】
本発明に用いられる上記酸化油脂は、その乳脂含量が10質量%以上100質量%以下である。乳脂含量は、15質量%以上100質量%以下であることが好ましく、20質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以上100質量%以下であることがさらにより好ましく、65質量%以上100質量%以下であることが特に好ましく、95質量%以上100質量%以下であることが特により好ましく、100質量%(すなわち、乳脂単独)であることが最も好ましい。
【0028】
また、上記酸化油脂は、乳脂以外の食用油脂を含んでいてもよい。乳脂以外の食用油脂としては、特に限定されないが、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油、菜種油、コーン油、パーム油及びパーム分別油のいずれか一種または二種以上が好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油及び菜種油のいずれか一種または二種以上がより好ましく、菜種油がさらに好ましい。上記酸化油脂は、本発明の効果を阻害しない限り、通常油脂に添加できる助剤等を含んでいてもよい。
【0029】
本発明に用いられる上記酸化油脂は、その過酸化物価(以下、「POV」ともいう)が15~280である。過酸化物価(POV)は、25~265であることが好ましく、30~265であることがより好ましく、40~250であることがさらに好ましく、52~250であることがさらにより好ましく、70~250であることが特に好ましい。ここで、過酸化物価(POV)は、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.5.2 過酸化物価」等に収載された方法などにより測定することができる。
【0030】
本発明に用いられる上記酸化油脂は、例えば、以下のようにして、所定の原料油脂を酸化することにより調製することができる。ただし、以下の記載は、本発明の範囲を、特にその方法で得られた酸化油脂に限定する趣旨ではない。すなわち、上述した性質を満たす酸化油脂であれば、本発明に好適に用いられる。
【0031】
酸化油脂の調製のための原料油脂としては、その乳脂含量が、10質量%以上100質量%以下である。乳脂含量は、15質量%以上100質量%以下であることが好ましく、20質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以上100質量%以下であることがさらにより好ましく、65質量%以上100質量%以下であることが特に好ましく、95質量%以上100質量%以下であることが特により好ましく、100質量%(すなわち、乳脂単独)であることが最も好ましい。
【0032】
また、原料油脂は、乳脂以外の食用油脂を含んでいてもよい。乳脂以外の食用油脂としては、特に限定されないが、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油、菜種油、コーン油、パーム油及びパーム分別油のいずれか一種または二種以上が好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油及び菜種油のいずれか一種または二種以上がより好ましく、菜種油がさらに好ましい。また、前記原料油脂の水の含有量は、例えば、1質量%未満である。
【0033】
酸化の方法は特に限定されないが、原料油脂に酸素を供給し、酸化をすることが好ましい。酸素の供給源としては、酸素単独でもかまわないし、空気等の酸素を含むものでもよく、好ましくは空気である。酸素の供給量が、原料油脂1kgあたり0.001~2L/分となるようにすることが好ましく、0.005~2L/分となるようにすることがより好ましく、0.02~2L/分となるようにすることがさらに好ましい。例えば、空気の場合は、原料油脂1kgあたり0.005~10L/分であることが好ましく、0.025~10L/分であることがより好ましく、0.1~10L/分であることがさらに好ましく、0.3~5L/分であることがさらにより好ましい。また、酸化をする場合には、原料油脂を撹拌することが好ましい。酸化をする温度は65℃以上150℃以下が好ましく、70℃以上140℃以下がより好ましく、75℃以上140℃以下がさらに好ましく、90℃以上140℃以下がさらにより好ましい。また、酸化をする時間は、特に限定されないが、好ましくは1時間以上72時間以下であり、より好ましくは3時間以上72時間以下であり、さらに好ましくは5時間以上72時間以下である。
【0034】
本発明によるチーズ風味の付与増強用組成物は、上記に説明した酸化油脂を食品のチーズ風味の付与及び/又は増強のための有効成分とするものであり、例えば、その酸化油脂をそのまま食品に添加するようにして用いてもよく、あるいは、所定の食用油脂を組み合わせた組成物として食品に添加するようにして用いてもよい。ただし、これらの形態に限られるものではなく、上述した性質を満たす酸化油脂を食品のチーズ風味の付与及び/又は増強のための有効量で用いるようにすればよい。
【0035】
上記酸化油脂に組み合わせる食用油脂としては、食用のものを適宜利用することができ、例えば、大豆油、菜種油、パーム油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、紅花油、ひまわり油、綿実油、米油、落花生油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂等の植物油脂、牛脂、豚脂、鶏脂等の動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド、あるいはこれら油脂に分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂などが挙げられる。食用油脂は、1種類を単品で用いてもよく、あるいは2種類以上を併用してもよい。なかでも、製造時の作業性等の点で、大豆油、菜種油、コーン油、パームオレイン等のヨウ素価が50以上の油脂から選ばれる1種又は2種以上を60質量%以上配合した食用油脂が好ましく、80質量%以上配合した食用油脂がより好ましい。
【0036】
上記酸化油脂を食用油脂と組み合わせて用いる場合、その油脂組成物の全体中における上記酸化油脂の含有量としては、0.001質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.001質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、0.003質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましく、0.005質量%以上5質量%以下であることが最も好ましい。また、その油脂組成物の全体中における上記酸化油脂の含有量は、上記酸化油脂に含まれる乳脂の含有量として、好ましくは0.0001質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.0001質量%以上8質量%以下、さらに好ましくは0.0003質量%以上8質量%以下、最も好ましくは0.0005質量%以上5質量%以下となるようにする。よって、上記食用油脂に、上記範囲の含有量となるように上記酸化油脂を添加することにより調製されることが好ましい。また、本発明の作用効果を害しない範囲であれば、抗酸化剤、乳化剤、香料などの添加素材を、更に配合していてもよい。具体的には、例えば、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、γ-オリザノール、トコフェロールなどが挙げられる。
【0037】
本発明によるチーズ風味の付与増強用組成物は、その使用の形態に特に制限はなく、例えば、加工・調理後の食品に添加して使用する食品添加用油脂組成物の形態で用いられてもよい。また、風味油脂組成物、揚げ物用油脂組成物、炒め物用油脂組成物、ドレッシング、あるいは、ソース等の形態で用いられてもよい。
【0038】
食品に添加する態様に特に制限はなく、その食品の原料の一部として含有せしめたり、加工・調理後の食品に添加したり、調理用油の形態にしてその調理用油で調理したりするようにすればよい。ただし、本発明による作用効果をより効果的に享受するには、上記酸化油脂の食品に対する添加量が、食品中の上記酸化油脂の含有量にして0.00005質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.0001質量%以上3質量%以下であることがより好ましく、0.0005質量%以上2質量%以下であることがさらに好ましく、0.001質量%以上1質量%以下であることがさらにより好ましい。
【0039】
本発明は、チーズ風味の付与及び/又は増強を所望する食品一般に適用することができ、それが適用される食品の種類等については、特に制限はない。典型的に、例えば、グラタン、シチュー、ピザ、フライドポテト、パスタ、チーズ加工食品、ドリア、チーズケーキ、ポップコーンなどが挙げられる。また、これらのなかでもチーズを含有する食品に特に好適に使用され得る。
【0040】
また別の態様として、揚げ物用油脂組成物として用いる場合には、その揚げ物として、好ましくは、例えば、フライドポテト、天ぷら、コロッケ、唐揚げ、とんかつ、魚フライ、アメリカンドッグ、チキンナゲット、揚げ豆腐、ドーナッツ、揚げパン、揚げ米菓、スナック菓子、インスタントラーメンなどが挙げられる。その揚げ物の製造の方法に特に制限はなく、揚げ物の種類に応じて、その揚げ物に適した方法にて揚げ物を製造すればよい。すなわち、本発明によるチーズ風味の付与増強用組成物を揚げ物用油脂組成物として使用して、その温度を、典型的には150~210℃、より典型的には160~200℃とした状態で、所定の揚げ物原料を揚げる調理を行なうなどすればよい。
【0041】
なお、本明細書において説明した各構成の任意の組み合わせや、その構成を含む組成物や方法などもまた本発明の態様として有効であり得る。例えば、本発明によれば、「過酸化物価が15~280であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂の、チーズ風味の付与増強のための使用」や「過酸化物価が15~280であり、10質量%以上100質量%以下の乳脂を含む酸化油脂の、チーズ風味の付与増強用組成物の製造のための使用」などが提供される。
【実施例
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0043】
(酸化油脂の調製 その1)
無水乳脂(製品名:バターオイルCML、丸和油脂株式会社製、油脂含量:99.8質量%、水の含有量:1質量%未満)500gをステンレスビーカーに入れ、100℃に保温しながら、撹拌し、空気(500mL/分)を供給した。表1に記載の保温時間後にサンプリングし、酸化油脂を得た(調製例1~15)。
【0044】
得られた酸化油脂の過酸化物価(POV)を、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.5.2 過酸化物価」に準じて、測定した。その結果を、調製時の保温温度、保温時間とともに表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
[試験例1](フライドポテト その1 酸化油脂の高用量使用)
食用油脂として菜種油(株式会社J-オイルミルズ製)を使用し、その99.9質量部に対して調製例1~9のいずれかの酸化油脂を0.1質量部添加し、食品添加用油脂組成物を得た(例1~9)。別途、市販の冷凍食品であるフライドポテトを菜種油で揚げて調理し、調理後のフライドポテト92質量部に対して、上記食品添加用油脂組成物を8質量部添加し、よく絡めた。
【0047】
得られたフライドポテトのバターおよびチーズの風味の強さについて、下記に示す評価基準にて専門パネラー(n=3)間での評価を集約した。
【0048】
(評価基準)
◎: 強く感じる
○: 感じる
△: 弱く感じる
×: 感じない
【0049】
結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
その結果、酸化油脂の過酸化物価(POV)が0.9である調製例1では、フライドポテトにバター風味が付与されたものの、チーズ風味は感じられなかった。酸化油脂の過酸化物価(POV)が15.0である調製例2や30.0である調製例3や45.0である調製例4では、バター風味が弱くなり、チーズ風味が感じられるようになった。酸化油脂の過酸化物価(POV)が60.0以上である調製例5~9では、バター風味が感じられず、チーズ風味が強く感じられるようになった。すなわち、酸化油脂の過酸化物価(POV)の上昇に伴い、酸化油脂によるバター風味付与の効果が消失する一方で、フライドポテトのチーズ風味の強さが増した。
【0052】
[試験例2](フライドポテト その2 酸化油脂の低用量使用)
食用油脂として菜種油を使用し、その99.9質量部に対して調製例3~9のいずれかの酸化油脂を0.1質量部添加し、食品添加用油脂組成物を得た(例10~16)。別途、市販の冷凍食品であるフライドポテトを菜種油で揚げて調理し、調理後のフライドポテト98質量部に対して、上記食品添加用油脂組成物を2質量部添加し、よく絡めた。
【0053】
得られたフライドポテトのバターおよびチーズの風味の強さについて、試験例1と同様の風味評価を行なった。
【0054】
結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
その結果、試験例1の結果と同様の傾向がみられた。すなわち、酸化油脂の過酸化物価(POV)が30.0である調製例3や45.0である調製例4では、フライドポテトに弱いバター風味に加えてチーズ風味が付与され、酸化油脂の過酸化物価(POV)が60.0以上である調製例5~9では、バター風味付与の効果がなく、その一方で、酸化油脂の過酸化物価(POV)の上昇に伴い、フライドポテトにチーズ風味が強く感じられるようになった。
【0057】
[試験例3](フライドポテト その3 高POV酸化油脂の使用)
食用油脂として菜種油を使用し、その99.9質量部に対して調製例9~15のいずれかの酸化油脂を0.1質量部添加し、食品添加用油脂組成物を得た(例17~23)。別途、市販の冷凍食品であるフライドポテトを菜種油で揚げて調理し、調理後のフライドポテト98質量部に対して、上記食品添加用油脂組成物を2質量部添加し、よく絡めた。
【0058】
得られたフライドポテトのバターおよびチーズの風味の強さについて、試験例1と同様の風味評価を行なった。
【0059】
結果を表4に示す。
【0060】
【表4】
【0061】
その結果、試験例1、2の結果と同様の傾向がみられた。すなわち、酸化油脂の過酸化物価(POV)が160.0以上である調製例9~15では、バター風味付与の効果はなく、その一方で、フライドポテトにチーズ風味が強く感じられた。
【0062】
(酸化油脂の調製 その2)
(1)無水乳脂20質量部に高オレイン酸低リノレン酸菜種油(HOLL菜種油)(株式会社J-オイルミルズ製、水の含有量:1質量%未満)80質量部を混合した、乳脂を20質量%含む油脂、(2)無水乳脂50質量部にHOLL菜種油50質量部を混合した、乳脂を50質量%含む油脂、(3)無水乳脂を準備した。準備した油脂又は無水乳脂200gをそれぞれステンレスビーカーに入れ、100℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。それぞれ、30、36、22時間後にサンプリングし、酸化油脂を得た(調製例16~18)。
【0063】
得られた酸化油脂の過酸化物価(POV)を、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.5.2 過酸化物価」に準じて、測定した。その結果を、無水乳脂とHOLL菜種油の配合量と、保温温度、保温時間とともに表5に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
[試験例4](フライドポテト その4 乳脂および乳脂以外の他の食用油脂を混合した原料油脂を用いて調製した酸化油脂の使用)
食用油脂として菜種油を使用し、その99.9質量部に対して調製例16~18のいずれかの酸化油脂を0.1質量部添加し、食品添加用油脂組成物を得た(例24~26)。別途、市販の冷凍食品であるフライドポテトを菜種油で揚げて調理し、調理後のフライドポテト98質量部に対して、上記食品添加用油脂組成物を2質量部添加し、よく絡めた。
【0066】
得られたフライドポテトのチーズの風味の強さについて、試験例1と同様の風味評価を行なった。
【0067】
結果を表6に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
その結果、乳脂および乳脂以外の他の食用油脂を混合した原料油脂を用いて調製した酸化油脂を使用した場合も、試験例1~3の結果と同様の傾向がみられた。すなわち乳脂を20質量%含む原料油脂から得られた、過酸化物価(POV)が105.0である調製例16の酸化油脂の添加により、フライドポテトにチーズ風味が付与された。乳脂を50質量%含む原料油脂から得られた、過酸化物価(POV)が100.0である調製例17の酸化油脂の使用では、無水乳脂からなる原料油脂から得られた、過酸化物価(POV)が100.0である調製例18の酸化油脂を添加したときと同程度に、チーズ風味が強く感じられた。
【0070】
[試験例5](グラタン)
食用油脂として菜種油を使用し、その99質量部に対して調製例7(POV:110.0)の酸化油脂を1質量部添加し、食品添加用油脂組成物を得た(例27)。市販の惣菜食品である、チーズを原材料に含むグラタンを電子レンジで加熱し、そのグラタン99質量部に対し、例27の食品添加用油脂組成物を1質量部添加し、よく混ぜた。
【0071】
得られたグラタンは、食品添加用油脂組成物を添加しない場合に比べて、チーズ様の酸味が増し、チーズ風味が増強していた。
【0072】
[試験例6](ナチュラルチーズ)
市販のナチュラルチーズ(製品名:とろけるミックスチーズ、株式会社八社会製)を電子レンジで加熱してとかし、そのナチュラルチーズ99質量部に対し、例27の食品添加用油脂組成物を1質量部添加し、よく混ぜた。
【0073】
得られたナチュラルチーズは、食品添加用油脂組成物を添加しない場合に比べて、後味に深み、コクが増し、チーズ風味が増強していた。
【0074】
[試験例7](シチュー)
例27の食品添加用油脂組成物を、市販のルウ(チーズを含む)を用いて調製したシチューに、最終濃度が0.5、1、2、5質量%となる量で添加し、よく混ぜた。
【0075】
得られたシチューのチーズの風味の強さについて、下記に示す評価基準にて専門パネラー(n=3)間での評価を集約した。
【0076】
(評価基準)
◎: 無添加より非常に強く感じる
○: 無添加より強く感じる
△: 無添加より少し強く感じる
×: 無添加と同等
【0077】
結果を表7に示す。
【0078】
【表7】
【0079】
その結果、得られたシチューは、食品添加用油脂組成物を添加しない場合に比べて、チーズ感が増し、チーズ風味が増強していた。
【0080】
(酸化油脂の調製 その3)
無水乳脂140gに中鎖脂肪酸トリグリセリド(製品名:MCT アクターM-107FR、理研ビタミン株式会社製、水の含有量:1質量%未満)又は大豆油(株式会社J-オイルミルズ製、水の含有量:1質量%未満)を60gそれぞれ混合した、乳脂を70質量%含む油脂を2種類準備した。準備した油脂200gをそれぞれステンレスビーカーに入れ、120℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。13時間反応し酸化油脂を得た(調製例19、20)。
【0081】
得られた酸化油脂の過酸化物価(POV)を、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.5.2 過酸化物価」に準じて、測定した。その結果、調製例19では過酸化物価(POV)が58.7であり、調製例20では過酸化物価(POV)が44.6であった。
【0082】
<製造例1>(乳脂および乳脂以外の他の食用油脂を混合した原料油脂を用いて調製した酸化油脂を添加した食品添加用油脂組成物の製造)
大豆油99質量部に対して調製例19又は調製例20のいずれかの酸化油脂を1質量部添加し、食品添加用油脂組成物を得た(例28、29)。
【0083】
[試験例8](揚げ物用油脂組成物としての使用例)
食用油脂として、パームオレイン(ヨウ素価67)(株式会社J-オイルミルズ製)を使用し、その99.7質量部に対して調製例7の酸化油脂を0.3質量部添加し、食品添加用油脂組成物を得た(例30)。市販の冷凍ポテト(製品名:シューストリングフライポテト、味の素冷凍食品株式会社製)を、例30の食品添加用油脂組成物を使用し、油温180℃で揚げて調理した。調理後のフライドポテトを食したところ、チーズ風味が強く感じられた。