(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】希土類コバルト永久磁石及びその製造方法、並びにデバイス
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20220119BHJP
H01F 1/055 20060101ALI20220119BHJP
C22C 19/07 20060101ALI20220119BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220119BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20220119BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20220119BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20220119BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/055 150
C22C19/07 E
B22F1/00 Y
B22F3/00 F
B22F3/24 C
B22F9/04 C
C22C30/00
(21)【出願番号】P 2019091966
(22)【出願日】2019-05-15
【審査請求日】2020-11-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (日本時間)平成30年7月20日 (現地時間)平成30年7月19日 21st International Conference on Magnetismにて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 昌晃
(72)【発明者】
【氏名】町田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】藤原 照彦
(72)【発明者】
【氏名】金森 悠
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-188072(JP,A)
【文献】特開2014-140045(JP,A)
【文献】特開2011-114236(JP,A)
【文献】国際公開第2016/042591(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/046826(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/061126(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/055
C22C 19/07
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 3/24
B22F 9/04
C22C 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量百分率において、Smを含む希土類元素Rを24%以上26%以下、Feを25%以上27%以下、Cuを4.0%以上7.0%以下、Zrを2.0%以上3.5%以下、残部がCo及び不可避不純物からなる希土類コバルト永久磁石であって、
前記Rは、SmとNdとの組み合わせ(ただし、0<Nd≦25%、残部がSmである)、SmとPrとの組み合わせ(ただし、0<Pr≦25%、残部がSmである)、又はSmとNdとPrとの組み合わせ(ただし、0<Nd+Pr≦25%、残部がSmである)のいずれかであり、
前記希土類コバルト永久磁石は、Th
2Zn
17型構造の結晶相を含むセル相と、当該セル相を囲むRCo
5型構造の結晶相を含むセル壁と、を備え、
前記セル壁における前記Rの濃度が前記セル相における前記Rの濃度よりも25at%以上高い、
希土類コバルト永久磁石。
【請求項2】
前記Cuが4.2質量%以上4.7質量%以下であり、前記Zrが2.1質量%以上2.5質量%以下である、請求項1に記載の希土類コバルト永久磁石。
【請求項3】
前記希土類コバルト永久磁石の密度が8.20g/cm
3以上8.45g/cm
3以下である、請求項1または2に記載の希土類コバルト永久磁石。
【請求項4】
前記希土類コバルト永久磁石の密度が8.25g/cm
3以上8.40g/cm
3以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の希土類コバルト永久磁石。
【請求項5】
前記希土類コバルト永久磁石内における前記セル相から前記セル壁にかけての組成変動が、前記Smと、前記Ndおよび前記Prの少なくとも一方と、で同じ傾向を示す、請求項1~4のいずれか一項に記載の希土類コバルト永久磁石。
【請求項6】
前記希土類コバルト永久磁石において逆磁界を印加した際、結晶粒界から発生した逆磁区が結晶粒内に伝播した後、前記結晶粒内において更に逆磁区が発生して、前記結晶粒内全体に逆磁区が伝播する、請求項1~5のいずれか一項に記載の希土類コバルト永久磁石。
【請求項7】
磁場(Hk)と保磁力(Hcj)との比(Hk/Hcj)で表される角形比が63%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の希土類コバルト永久磁石。
【請求項8】
質量百分率において、Smを含む希土類元素Rを24%以上26%以下、Feを25%以上27%以下、Cuを4.0%以上7.0%以下、Zrを2.0%以上3.5%以下、残部がCo及び不可避不純物からなる合金(前記Rは、SmとNdとの組み合わせ(ただし、0<Nd≦25%、残部がSmである)、SmとPrとの組み合わせ(ただし、0<Pr≦25%、残部がSmである)、又はSmとNdとPrとの組み合わせ(ただし、0<Nd+Pr≦25%、残部がSmである)のいずれかである)を準備する工程(I)と、
前記合金を粉体とする粉砕工程(II)と、
前記粉体を成形体とする加圧成形工程(III)と、
前記成形体を1190℃以上1225℃以下で、0.5時間以上3.0時間以下加熱することにより焼結体とする焼結工程(IV)と、
前記焼結体を1120℃以上1180℃以下で、
30時間以上100時間以下加熱する溶体化処理工程(V)と、
前記溶体化処理工程(V)後、少なくとも溶体化温度から600℃までの間、冷却速度を60℃/min以上で降温する急冷工程(VI)と、
Th
2Zn
17型構造の結晶相を含むセル相と、当該セル相を囲むRCo
5型構造の結晶相を含むセル壁と、を形成する時効処理工程(VII)と、を備え、
前記セル壁における前記Rの濃度が前記セル相における前記Rの濃度よりも25at%以上高くなるようにする、
希土類コバルト永久磁石の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の希土類コバルト永久磁石を有する、デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は希土類コバルト永久磁石及びその製造方法、並びにデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
希土類コバルト永久磁石は、磁気特性向上など、種々の観点から、例えばFe、Cu、Zr等を含有するものが知られている。
【0003】
特許文献1には、TbCu7型構造を有する希土類コバルト永久磁石に関する技術が開示されている。特許文献2には、高鉄濃度組成を有するSm-Co系磁石に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-243884号公報
【文献】特開2015-111675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
希土類コバルト永久磁石は、磁力の温度変化率が小さく、錆びにくいなどの特性を有し、各種デバイスにおいて広く用いられている。このようなデバイスの更なる高性能化の観点から、より優れた磁気特性(特に高い角形比)を有する希土類コバルト永久磁石が求められている。
【0006】
上記課題に鑑み本発明の目的は、優れた磁気特性を有する希土類コバルト永久磁石及びその製造方法、並びに当該希土類コバルト永久磁石を有するデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかる希土類コバルト永久磁石は、質量百分率において、Smを含む希土類元素Rを24%以上26%以下、Feを25%以上27%以下、Cuを4.0%以上7.0%以下、Zrを2.0%以上3.5%以下、残部がCo及び不可避不純物からなる希土類コバルト永久磁石であって、前記Rは、SmとNdとの組み合わせ(ただし、0<Nd≦25%、残部がSmである)、SmとPrとの組み合わせ(ただし、0<Pr≦25%、残部がSmである)、又はSmとNdとPrとの組み合わせ(ただし、0<Nd+Pr≦25%、残部がSmである)のいずれかであり、前記希土類コバルト永久磁石は、Th2Zn17型構造の結晶相を含むセル相と、当該セル相を囲むRCo5型構造の結晶相を含むセル壁と、を備え、前記セル壁における前記Rの濃度が前記セル相における前記Rの濃度よりも25at%以上高い。
【0008】
本発明の一態様にかかる希土類コバルト永久磁石の製造方法は、質量百分率において、Smを含む希土類元素Rを24%以上26%以下、Feを25%以上27%以下、Cuを4.0%以上7.0%以下、Zrを2.0%以上3.5%以下、残部がCo及び不可避不純物からなる合金(前記Rは、SmとNdとの組み合わせ(ただし、0<Nd≦25%、残部がSmである)、SmとPrとの組み合わせ(ただし、0<Pr≦25%、残部がSmである)、又はSmとNdとPrとの組み合わせ(ただし、0<Nd+Pr≦25%、残部がSmである)のいずれかである)を準備する工程(I)と、前記合金を粉体とする粉砕工程(II)と、前記粉体を成形体とする加圧成形工程(III)と、前記成形体を1190℃以上1225℃以下で、0.5時間以上3.0時間以下加熱することにより焼結体とする焼結工程(IV)と、前記焼結体を1120℃以上1180℃以下で、20時間以上100時間以下加熱する溶体化処理工程(V)と、前記溶体化処理工程(V)後、少なくとも溶体化温度から600℃までの間、冷却速度を60℃/min以上で降温する急冷工程(VI)と、Th2Zn17型構造の結晶相を含むセル相と、当該セル相を囲むRCo5型構造の結晶相を含むセル壁と、を形成する時効処理工程(VII)と、を備え、前記セル壁における前記Rの濃度が前記セル相における前記Rの濃度よりも25at%以上高くなるようにする。
【0009】
本発明の一態様にかかるデバイスは、上述の希土類コバルト永久磁石を有する、デバイスである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、優れた磁気特性を有する希土類コバルト永久磁石及びその製造方法、並びに当該希土類コバルト永久磁石を有するデバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】希土類コバルト永久磁石の組成変化を示すグラフである。
【
図2】希土類コバルト永久磁石のTEM像を示す図である。
【
図3】希土類コバルト永久磁石の逆磁区伝播の過程を説明するための模式図である。
【
図4】希土類コバルト永久磁石の製造工程の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明にかかる希土類コバルト永久磁石及びその製造方法について詳細に説明する。
【0013】
<希土類コバルト永久磁石>
本発明にかかる希土類コバルト永久磁石は、質量百分率において、Smを含む希土類元素Rを24%以上26%以下、Feを25%以上27%以下、Cuを4.0%以上7.0%以下、Zrを2.0%以上3.5%以下、残部がCo及び不可避不純物からなる希土類コバルト永久磁石である。ここで、希土類元素Rは、(1)SmとNdとの組み合わせ(ただし、0<Nd≦25%、残部がSmである)、(2)SmとPrとの組み合わせ(ただし、0<Pr≦25%、残部がSmである)、又は(3)SmとNdとPrとの組み合わせ(ただし、0<Nd+Pr≦25%、残部がSmである)のいずれかである。
【0014】
本発明にかかる希土類コバルト永久磁石は、Th2Zn17型構造の結晶相を含むセル相と、当該セル相を囲むRCo5型構造の結晶相を含むセル壁と、を備える。そして、セル壁における希土類元素Rの濃度がセル相における希土類元素Rの濃度よりも25at%(原子パーセント)以上高いことを特徴としている。
【0015】
上述のCuの組成は、好ましくは4.2質量%以上4.7質量%以下である。Cuの量が少なすぎると十分な保磁力(Hcj)が得られず、多すぎると飽和磁化が低下する。また、上述のZrの組成は、好ましくは2.1質量%以上2.5質量%以下である。Zrの量が少なすぎると結晶構造が安定しないため、Feが多い領域で十分な保磁力(Hcj)が得られない。また、Zrの量が多すぎると飽和磁化が低下する。
【0016】
上述の希土類コバルト永久磁石の密度は8.20g/cm3以上8.45g/cm3以下、更に好ましくは8.25g/cm3以上8.40g/cm3以下である。
【0017】
本発明の希土類コバルト永久磁石は、残部(すなわち、36.5質量%以上45質量%以下)がCo(コバルト)及び不可避不純物からなる。不可避不純物は、原料や製造工程から不可避的に混入する元素であって、具体的には、例えば、C(炭素)、N(窒素)、P(りん)、S(硫黄)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Ni(ニッケル)、Hf(ハフニウム)、Sn(スズ)、W(タングステン)などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明において不可避不純物の含有割合は、希土類コバルト永久磁石全量に対し、合計で5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましい。
【0018】
希土類コバルト永久磁石の各元素の含有割合は、例えば、エネルギー分散型X線分析(EDX:Energy dispersive X-ray spectrometry)を用いて測定することができる。
【0019】
本発明の希土類コバルト永久磁石は、Th2Zn17型構造の結晶相(以下、2-17相ということがある)を主相として有している。Th2Zn17型構造はR-3m型の空間群を有する結晶構造であり、本発明においては、通常、Th部位を希土類元素及びZrが占め、Zn部位にCo、Cu、Fe、及びZrが占めている。また、本発明の希土類コバルト永久磁石は、RCo5型構造の結晶相(以下、1-5相ということがある)を有している。なお、当該1-5相は、通常、R部位を希土類元素及びZrが占め、Co部位にCo、Cu、Feが占めている。
【0020】
また、本発明の希土類コバルト永久磁石は、TbCu7型構造の結晶相(以下、1-7相ということがある)が含まれていてもよい。当該1-7相は、通常、Tb部位を希土類元素及びZrが占め、Cu部位にCo、Cu、Feが占めている。本発明において、上記1-7相は、後述する時効処理工程(VII)前に主として存在する結晶相であり、上記2-17相と、上記1-5相は、後述する時効処理工程(VII)により形成される相である。なお、結晶構造は、X線回折法など、公知の方法により決定することができる。
【0021】
図1は、希土類コバルト永久磁石の組成変化を示すグラフであり、
図2に示す希土類コバルト永久磁石のTEM像の分析箇所における組成変化を示している。すなわち、
図1は、希土類コバルト永久磁石における「2-17相」、「1-5相」、「2-17相」の順の組成変化を示している。ここで、2-17相はセル相の結晶相に対応しており、1-5相はセル相を囲むセル壁の結晶相に対応している。
【0022】
図1に示すように、1-5相では2-17相と比べて、Sm、Nd、Cuの割合が増加した。一方で、1-5相では2-17相と比べて、Fe、Coの割合が減少した。Zrに関しては、1-5相と2-17相とで略一定の値となった。
【0023】
このように、本実施の形態にかかる希土類コバルト永久磁石では、希土類コバルト永久磁石内におけるセル相(2-17相)からセル壁(1-5相)にかけての組成変動が、SmとNdとで同じ傾向を示した。このことは、SmとPrとの組み合わせ、及びSmとNdとPrとの組み合わせについても同様である。すなわち、本実施の形態では、希土類コバルト永久磁石内におけるセル相からセル壁にかけての組成変動が、Smと、NdおよびPrの少なくとも一方と、で同じ傾向を示す。
【0024】
このとき、本実施の形態では、セル壁における希土類元素Rの濃度がセル相における希土類元素Rの濃度よりも25at%(原子パーセント)以上高くなるようにしている。ここで、希土類元素Rは、(1)SmとNdとの組み合わせ、(2)SmとPrとの組み合わせ、又は(3)SmとNdとPrとの組み合わせのいずれかである。このような構成とすることで、優れた磁気特性、つまり高い角形比を有する希土類コバルト永久磁石を得ることができる。具体的には、磁場(Hk)と保磁力(Hcj)との比(Hk/Hcj)で表される角形比が63%以上となる希土類コバルト永久磁石を得ることができる。角形比は、磁束密度が残留磁束密度の90%になったときの逆磁界をHkとするとき、Hk/Hcjで表される物理量である。
【0025】
本実施の形態では、磁壁移動時に2-17相と1-5相との間で磁壁がピニングされることにより、保磁力(Hcj)が発現すると考えられる。ここで、保磁力(Hcj)とは、ある方向に磁化した磁性体を消磁するために必要な反対方向の磁場の大きさである。
【0026】
このとき本実施の形態では、セル壁(1-5相)における希土類元素Rの濃度がセル相(2-17相)における希土類元素Rの濃度よりも25at%以上高くなるようにしているので、磁壁の移動をセル壁(1-5相)で効果的にピニングすることができる。
【0027】
また本実施の形態では、
図1に示したように、セル相(2-17相)とセル壁(1-5相)とに分離した際に、セル相(2-17相)にFeがセル壁(1-5相)にCuがそれぞれ濃縮される。これにより、希土類コバルト永久磁石の角形比Hk/Hcjが向上し、更に最大エネルギー積(BH)mが大きくなる。ここで、最大エネルギー積(BH)mは、磁性体が保持できる最大の静磁エネルギーであり、磁化曲線(B-H曲線)の第2象限(減衰曲線)においてB-H減衰曲線上の磁束密度Bと磁場Hの積の最大値を表す。
【0028】
次に、
図3を用いて本実施の形態にかかる希土類コバルト永久磁石の逆磁区伝播の過程について説明する。
図3に示すように、希土類コバルト永久磁石は、結晶粒11と結晶粒11間の境界である結晶粒界12とを備える。初期状態、つまり逆磁界が印加されていない状態では逆磁区は発生しない。
【0029】
希土類コバルト永久磁石にH
1=-5kOeの逆磁界を印加すると、結晶粒界12から逆磁区が発生する。その後、逆磁界を強くしてH
2=-6kOeの逆磁界を印加すると、結晶粒界12から結晶粒11内に逆磁区が伝播する(図中の矢印参照)。更に逆磁界を強くしてH
3=-7kOeの逆磁界を印加すると、結晶粒11内に逆磁区14が広がると共に、結晶粒11内において逆磁区15が発生する。そして、更に逆磁界を強くしてH
4=-9kOeの逆磁界を印加すると、結晶粒11内の逆磁区14が更に広がると共に、結晶粒11内において発生した逆磁区15が結晶粒11内で伝播する。その後、逆磁界を強くしてH
5=-16kOeの逆磁界を印加すると、結晶粒11全体に逆磁区16が広がり、希土類コバルト永久磁石の磁化反転が終了する。なお、
図3に示した逆磁界H
1~H
5の値は一例であり、本実施の形態では逆磁界H
1~H
5の値はこれ以外であってもよい。
【0030】
本実施の形態にかかる希土類コバルト永久磁石では、このように希土類コバルト永久磁石に逆磁界を印加した際、結晶粒界12から発生した逆磁区が結晶粒11内に伝播した後、結晶粒11内において更に逆磁区15が発生して、結晶粒11内全体に逆磁区が伝播する。本実施の形態にかかる希土類コバルト永久磁石ではこのような磁化反転機構を備えるので高い角形比を示す。
【0031】
<希土類コバルト永久磁石の製造方法>
次に、本実施の形態にかかる希土類コバルト永久磁石の製造方法について説明する。
本実施の形態にかかる希土類コバルト永久磁石の製造方法は、質量百分率において、Smを含む希土類元素Rを24%以上26%以下、Feを25%以上27%以下、Cuを4.0%以上7.0%以下、Zrを2.0%以上3.5%以下、残部がCo及び不可避不純物からなる合金(前記Rは、SmとNdとの組み合わせ(ただし、0<Nd≦25%、残部がSmである)、SmとPrとの組み合わせ(ただし、0<Pr≦25%、残部がSmである)、又はSmとNdとPrとの組み合わせ(ただし、0<Nd+Pr≦25%、残部がSmである)のいずれかである)を準備する工程(I)と、
前記合金を粉体とする粉砕工程(II)と、
前記粉体を成形体とする加圧成形工程(III)と、
前記成形体を1190℃以上1225℃以下で、0.5時間以上3.0時間以下加熱することにより焼結体とする焼結工程(IV)と、
前記焼結体を1120℃以上1180℃以下で、20時間以上100時間以下加熱する溶体化処理工程(V)と、
前記溶体化処理工程(V)後、少なくとも溶体化温度から600℃までの間、冷却速度を60℃/min以上で降温する急冷工程(VI)と、
Th2Zn17型構造の結晶相を含むセル相と、当該セル相を囲むRCo5型構造の結晶相を含むセル壁と、を形成する時効処理工程(VII)と、を備え、
前記セル壁における前記Rの濃度が前記セル相における前記Rの濃度よりも25at%以上高くなるようにすることを特徴としている。
【0032】
上記本実施の形態にかかる希土類コバルト永久磁石の製造方法によれば、優れた磁気特性(特に高い角形比)を有する希土類コバルト永久磁石を製造することができる。以下、本実施の形態にかかる希土類コバルト永久磁石の製造方法の各工程について
図4に示すフローチャートを用いて説明する。
【0033】
まず、質量百分率において、Smを含む希土類元素Rを24%以上26%以下、Feを25%以上27%以下、Cuを4.0%以上7.0%以下、Zrを2.0%以上3.5%以下、残部がCo及び不可避不純物からなる合金を準備する(ステップS1:工程(I))。ここで、希土類元素Rは、SmとNdとの組み合わせ(ただし、0<Nd≦25%、残部がSmである)、SmとPrとの組み合わせ(ただし、0<Pr≦25%、残部がSmである)、又はSmとNdとPrとの組み合わせ(ただし、0<Nd+Pr≦25%、残部がSmである)のいずれかである。当該合金の準備方法は特に限定されず、所望の組成を有する合金の市販品を入手することにより準備してもよく、各元素を所望の組成となるように配合することにより合金を準備してもよい。以下、各元素を配合する具体例について説明するが、本発明はこの方法に限定されるものではない。
【0034】
まず原料として、Smを含む希土類元素R、Fe、Cu、Zr、Coなどの母合金を準備する。希土類元素Rは、SmとNdとの組み合わせ、SmとPrとの組み合わせ、又はSmとNdとPrとの組み合わせのいずれかである。ここで、母合金として共晶温度の低い組成のものを選択することが、得られる合金の組成の均一化を図りやすい点から好ましい。また、母合金として、FeZr又はCuZrを選択して用いてもよい。FeZrとしては、一例としてFe80%Zn20%前後のものが好適である。また、CuZrとしては、一例としてCu50%Zr50%前後のものが好適である。
【0035】
これらの原料を所望の組成となるように配合し、Al等の坩堝にいれ、1×10-2torr以下の真空中または不活性ガス雰囲気において高周波溶解炉により溶解することで、均一化した合金が得られる。更に、本発明においては当該溶解した合金を金型により鋳造して合金インゴットとする工程を含んでいてもよい。また、別法として、溶解した合金を銅ロールに滴下することにより1mm厚程度のフレーク状の合金を製造してもよい(ストリップキャスト法)。
【0036】
前記鋳造により合金インゴットとした場合、後述する工程(II)の前に、当該合金インゴットの溶体化温度で1時間以上20時間以下熱処理する工程(VIII)を有することが好ましい。当該工程(VIII)により、組成をより均一化することができる。なお、合金インゴットの溶体化温度は、合金の組成等に応じて適宜調整すればよい。
【0037】
次に、合金を粉砕して粉体とする(ステップS2:工程(II))。合金の粉砕方法は特に限定されず、従来公知の方法の中から適宜選択すればよい。一例として、まず、合金インゴット又はフレーク状の合金を、公知の粉砕機により100~500μm程度の大きさに祖粉砕し、次いで、ボールミルやジェットミルなどで微粉砕する方法などが好適に挙げられる。粉体の平均粒径は特に限定されないが、後述する焼結工程の焼結時間を短縮することを可能とし、また、均一な永久磁石を製造する点から、平均粒径が1μm以上10μm以下、好ましくは6μm程度の粉体とすることが好ましい。
【0038】
次に、得られた粉体を、加圧成形して所望の形状の成形体とする(ステップS3:工程(III))。本発明においては、粉体の結晶方位を揃えて磁気特性を向上する点から、一定の磁場中で加圧成形することが好ましい。磁場の方向と、プレス方向との関係は特に限定されず、製品の形状等に応じて適宜選択すればよい。例えば、リング磁石や、薄板状の磁石を製造する場合には、プレス方向に対して、平行方向に磁場を印加する並行磁場プレスとすることができる。一方、磁気特性に優れる点からは、プレス方向に対して、直角に磁場を印加する直角磁場プレスとすることが好ましい。
【0039】
磁場の大きさは特に限定されず、製品の用途等に応じて、例えば15kOe以下の磁場であってもよく、15kOe以上の磁場であってもよい。中でも磁気特性に優れる点からは、15kOe以上の磁場中で加圧成形することが好ましい。また、加圧成形の際の圧力は、製品の大きさ、形状等に応じて適宜調整すればよい。一例として、0.5~2.0ton/cm2の圧力とすることができる。すなわち本発明の希土類コバルト永久磁石の製造方法においては、磁気特性の観点から、前記粉体を15kOe以上の磁場中で、磁場に垂直に0.5ton/cm2以上2.0ton/cm2以下の圧力で加圧成形することが特に好ましい。
【0040】
次に、前記成形体を1190℃以上1225℃以下で、0.5時間以上3.0時間以下加熱することにより焼結体とする(ステップS4:工程(IV))。1190℃以上で0.5時間以上焼結を行うことにより、得られる焼結体の緻密化が十分となる。また、1225℃以下で3.0時間以下の加熱とすることにより、希土類元素、特にSmの蒸発が抑制されて、磁気特性に優れた永久磁石を製造することができる。本発明において焼結温度は1195℃以上1220℃以下とすることが好ましく、焼結時間は40分以上2時間以下とすることが好ましい。また、酸化を抑制する観点から、上記焼結工程は1×10-2torr以下の真空中または不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0041】
次に、前記焼結体を1120℃以上1180℃以下で、20時間以上100時間以下加熱する溶体化処理(ステップS5:工程(V))を行う。1120℃以上で加熱することにより、成形体中の組成が均一化されると共に、後述する時効処理工程(ステップS7:VII)時にTh2Zn17型構造の結晶相を主相とするための前駆体である前記1-7相を形成することができる。一方、加熱温度を1180℃超過とすると1-7相がかえって形成されにくくなると共に、希土類元素の蒸発が進んでしまう恐れがある。焼結体の最適な溶体化温度は焼結体の組成に応じて変化するため、上記温度範囲内で適宜調整することが好ましい。
【0042】
1-7相を十分に形成させる点、及び各元素を均一化する点から、溶体化処理時間は20時間以上とする。また、希土類元素、特にSmの蒸発を抑制する点から、溶体化処理時間は100時間以下であることが好ましい。酸化を抑制する観点から、上記溶体化処理は1×10-2torr以下の真空中または不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0043】
また、生産性向上の観点から、前記焼結工程(IV)と前記溶体化処理工程(V)とは一連の工程とすることが好ましい。すなわち、前記成形体を1190℃以上1225℃以下で、0.5時間以上3.0時間以下加熱した後、室温まで冷却せずに、1120℃以上1180℃以下に調整し、続けて20時間以上100時間以下の溶体化処理を行うことが好ましい。
【0044】
次に、前記溶体化処理工程(V)後の冷却過程において、少なくとも溶体化温度から600℃までの間、冷却速度を60℃/min以上で降温する(ステップS6)。このように急冷するのは、前記溶体化処理工程(V)で得られた、1-7相の結晶構造を維持するためであり、急冷が不十分な場合には、1-7相が変化する恐れがある。特に溶体化温度から600℃までの時間を短くすることにより、1-7相の結晶構造を維持することができる。冷却速度は60℃/min以上であればよく、70℃/min以上が好ましく、80℃/min以上がより好ましい。一方、冷却速度の上限は、成形体の形状にもよるが、一例として250℃/min以下が好ましい。
【0045】
次に、急冷工程後の成形体を時効処理して、2-17相と1-5相とを形成する(ステップS7:工程(VII))。時効温度は特に限定されないが、2-17相を主相とし、2-17相と1-5相とを均質に有する希土類コバルト永久磁石を得るために、700℃以上900℃以下の温度で2時間以上20時間以下保持し、その後、少なくとも400℃まで冷却するまでの間、冷却速度を2℃/min以下とする方法とすることが好ましい。700℃以上900℃以下の温度で2時間以上20時間以下保持することにより、2-17相と1-5相とを均質に形成することができる。中でも800℃以上850℃以下の温度範囲で時効処理することが好ましい。また、良好な磁気特性を得る点から、冷却速度を2℃/min以下とすることが好ましく、0.5℃/min以下とすることがより好ましい。冷却速度が速すぎると各元素の2-17相および1-5相への濃縮が行われず、良好な磁気特性を得ることができない。
【0046】
このような製造方法により、優れた磁気特性(特に高い角形比)を有する希土類コバルト永久磁石を製造することができる。
【0047】
<組織観察および磁区観察>
次に、本発明にかかる希土類コバルト永久磁石の微細組織をTEMを用いて観察する方法について説明する。ステップS7において時効処理した試料を適当な形状に切り出し、磁化容易方向に沿うように薄く切り出す。このとき、磁化容易方向に垂直な面が現れる。そして薄く切り出されたところが磁化容易方向に垂直な方向である。この面に電子線を照射して、透過して結像された画像を観察する。
【0048】
次に、本発明にかかる希土類コバルト永久磁石の磁区をKerr効果顕微鏡を用いて観察する方法について説明する。Kerr効果顕微鏡は、磁気光学Kerr効果を利用して顕微鏡にて磁区観察を行う装置である。磁気光学Kerr効果は、直線偏光の光を磁性体に入射させるとその反射光は楕円偏光となり、偏光方向が入射光の直線方向から回転する現象である。磁気光学Kerr効果は3種類あり、磁性体の磁化方向の法線方向から光を入射させる「極Kerr効果」、磁化方向と平行方向に入射させる「縦Kerr効果」、入射面内において磁化方向と垂直に入射させる「横Kerr効果」が知られている。本発明においては「縦Kerr効果」を利用して磁区観察を行った。磁区観察を行った結果は
図2に示した。
【0049】
<デバイス>
本発明は、更に前記本発明に係る希土類コバルト永久磁石を有するデバイスを提供することができる。このようなデバイスの具体例としては、例えば、時計、電動モータ、各種計器、通信機、コンピューター端末機、スピーカー、ビデオディスク、センサなどが挙げられる。また、本発明の希土類コバルト永久磁石は、高い環境温度にあっても磁力を劣化しにくいため、自動車のエンジンルームで使用される角度センサ、イグニッションコイル、HEV(Hybrid electric vehicle)などの駆動モータ等にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0051】
<実施例1~3>
表1の実施例1~3の組成になるように、Fe20%Zr80%の母合金及び各原料を調整し、高周波溶解炉により溶解し、鋳造して、合金インゴットを得た。次に、得られた母合金を不活性ガス中で平均約100~500μmになるように粗粉砕し、その後ボールミルを用いて不活性ガス中で平均約6μmになるように微粉砕を行って粉体とした。この粉体を15kOeの磁場中で、磁場に垂直に1ton/cm2の圧力でプレスすることにより成形体を得た。
【0052】
この成型体を10Pa以下の真空中において、1210℃で1.0時間焼結した後、1150℃で30時間溶体化を行い、1000~600℃までを80℃/minの冷却速度で急冷した。急冷後、850℃で12時間保持し、続いて0.5℃/minの冷却速度で350℃まで徐冷する条件で時効し、実施例1~3の希土類コバルト永久磁石を得た。
【0053】
<比較例1~2>
表1の組成になるように各原料を調整した点以外、上記実施例1と同様の方法を用いて比較例1~2の希土類コバルト永久磁石を作製した。比較例1は、実施例1~3と比べてFeの量が少ないサンプルである。また、比較例2は、実施例1~3と比べてFeの量が多いサンプルである。
【0054】
<実施例4~9>
表2の組成になるように各原料を調整した点、焼結条件、及び溶体化条件以外、上記実施例1と同様の方法を用いて実施例4~9の希土類コバルト永久磁石を作製した。
【0055】
実施例4~6では、成型体を10Pa以下の真空中において、1190℃で3.0時間焼結した後、1180℃で20、40、60時間それぞれ溶体化を行い、1000~600℃までを80℃/minの冷却速度で急冷した。急冷後、850℃で10時間保持し、続いて0.5℃/minの冷却速度で350℃まで徐冷する条件で時効し、実施例4~6の希土類コバルト永久磁石を得た。
【0056】
実施例7~9では、成型体を10Pa以下の真空中において、1225℃で0.5時間焼結した後、1120℃で20、50、100時間それぞれ溶体化を行い、1000~600℃までを80℃/minの冷却速度で急冷した。急冷後、850℃で10時間保持し、続いて0.5℃/minの冷却速度で350℃まで徐冷する条件で時効し、実施例7~9の希土類コバルト永久磁石を得た。なお、実施例4~6では希土類元素RとしてSmとPrを、実施例7~9では希土類元素RとしてSmとNdをそれぞれ用いた。また、実施例7~9では、実施例4~6と比べて溶体化温度を低くした。
【0057】
<比較例3~6>
表2の組成になるように各原料を調整した点、焼結条件、及び溶体化条件以外、上記実施例1と同様の方法を用いて比較例3~6の希土類コバルト永久磁石を作製した。
【0058】
比較例3~4では、成型体を10Pa以下の真空中において、1190℃で3.0時間焼結した後、1180℃で5、10時間それぞれ溶体化を行い、1000~600℃までを80℃/minの冷却速度で急冷した。急冷後、850℃で10時間保持し、続いて0.5℃/minの冷却速度で350℃まで徐冷する条件で時効し、比較例3~4の希土類コバルト永久磁石を得た。比較例3~4は、実施例4~6と比べて溶体化時間が短いサンプルである。
【0059】
比較例5~6では、成型体を10Pa以下の真空中において、1225℃で0.5時間焼結した後、1120℃で5、10時間それぞれ溶体化を行い、1000~600℃までを80℃/minの冷却速度で急冷した。急冷後、850℃で10時間保持し、続いて0.5℃/minの冷却速度で350℃まで徐冷する条件で時効し、比較例5~6の希土類コバルト永久磁石を得た。比較例5~6は、実施例7~9と比べて溶体化時間が短いサンプルである。
【0060】
<実施例10~15>
表3の組成になるように各原料を調整した点以外、上記実施例1と同様の方法を用いて実施例10~15の希土類コバルト永久磁石を作製した。実施例10、11では希土類元素RとしてSmとNdを、実施例12、13では希土類元素RとしてSmとPrを、実施例14、15では希土類元素RとしてSmとNdとPrをそれぞれ用いた。
【0061】
<比較例7~8>
表3の組成になるように各原料を調整した点以外、上記実施例1と同様の方法を用いて比較例7~8の希土類コバルト永久磁石を作製した。比較例7は、実施例10~15と比べて希土類元素Rの量が少ないサンプルである。また、比較例8は、実施例10~15と比べて希土類元素Rの量が多いサンプルである。
【0062】
<実施例16~18>
表4の組成になるように各原料を調整した点以外、上記実施例1と同様の方法を用いて実施例16~18の希土類コバルト永久磁石を作製した。実施例16~18では、希土類元素Rに対するNd、Pr、(Nd+Pr)の比率を変えている。具体的には、実施例16では希土類元素Rに占めるNdの割合を、(6/(18+6))×100=25.0質量%とした。実施例17では希土類元素Rに占めるPrの割合を、(6/(19+6))×100=24.0質量%とした。実施例18では希土類元素Rに占める(Nd+Pr)の割合を、((3.5+3)/(19.5+3.5+3))×100=25.0質量%とした。
【0063】
<比較例9~10>
表4の組成になるように各原料を調整した点以外、上記実施例1と同様の方法を用いて比較例9~10の希土類コバルト永久磁石を作製した。比較例9では希土類元素Rに占めるNdの割合を、(7/(17+7))×100=29.2質量%とした。比較例10では希土類元素Rに占める(Nd+Pr)の割合を、((3.5+3.5)/(19.0+3.5+3.5))×100=26.9質量%とした。比較例9は、希土類元素Rに対するNdの割合が29.2質量%であり、実施例16と比べて希土類元素Rに対するNdの割合が高いサンプルである。また、比較例10は、希土類元素Rに対する(Nd+Pr)の割合が26.9質量%であり、実施例18と比べて希土類元素Rに対する(Nd+Pr)の割合が高いサンプルである。
【0064】
<希土類コバルト永久磁石の評価>
上記実施例及び比較例で得られた希土類コバルト永久磁石の磁気特性は成型体のまま測定した。磁気特性は、B-Hトレーサーを用いて測定した。得られた磁気特性、すなわち、最大エネルギー積(BH)m、保磁力(Hcj)、磁場(Hk)と保磁力(Hcj)との比(Hk/Hcj)で表される角形比を表1~表4に示す。
【0065】
また、上記実施例及び比較例の希土類コバルト永久磁石と同時に作製した同組成を有するサンプルを磁区観察用に加工して、磁区観察、及び組成分析を行った。磁区観察は、上述のKerr効果顕微鏡を用いて行った。
【0066】
また、上記実施例及び比較例の希土類コバルト永久磁石のセル相(2-17相)およびセル壁(1-5相)の組成を、エネルギー分散型X線分析(EDX)を用いて測定した。そして、セル相(2-17相)におけるSmの濃度に対する、セル壁(1-5相)におけるSmの濃度の上昇率を求めた。具体的には、セル相(2-17相)におけるSmの濃度をDsm1、セル壁(1-5相)におけるSmの濃度をDsm2とした場合、次の式を用いてセル壁(1-5相)におけるSmの濃度の上昇率を求めた。
((Dsm2-Dsm1)/Dsm1)×100(at%)
【0067】
また、セル相(2-17相)におけるNd、Pr、(Nd+Pr)の濃度に対する、セル壁(1-5相)におけるNd、Pr、(Nd+Pr)の濃度の上昇率を求めた。具体的には、セル相(2-17相)におけるNd、Pr、(Nd+Pr)の濃度をDNP1、セル壁(1-5相)におけるSmの濃度をDNP2とした場合、次の式を用いてセル壁(1-5相)におけるSmの濃度の上昇率を求めた。
((DNP2-DNP1)/DNP1)×100(at%)
【0068】
なお、実施例及び比較例において希土類元素Rの組み合わせは、(1)SmとNdとの組み合わせ、(2)SmとPrとの組み合わせ、又は(3)SmとNdとPrとの組み合わせの3パターンである。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
<結果のまとめ:表1>
表1に示す結果は、Feの組成が異なる場合の希土類コバルト永久磁石の特性の違いを示している。表1に示すように、実施例1~3ではFeの量が25.0~27.0質量%である。比較例1は実施例1~3と比べてFeの量が少ないサンプルであり、Feの量を23.0質量%としている。比較例2は実施例1~3と比べてFeの量が多いサンプルであり、Feの量を28.0質量%としている。
【0074】
実施例1~3の希土類コバルト永久磁石では、密度が8.25g/cm3以上、最大エネルギー積(BH)mが260kJ/m3以上、保磁力Hcjが1675A/m以上、角形比Hk/Hcjが67%以上となった。
【0075】
また、実施例1~3の希土類コバルト永久磁石では、希土類コバルト永久磁石内におけるSmとNdの組成変動が同様の傾向を示した。また、セル壁(1-5相)におけるSmの濃度がセル相(2-17相)におけるSmの濃度よりも31at%以上高くなった。また、セル壁(1-5相)におけるNdの濃度がセル相(2-17相)におけるNdの濃度よりも32at%以上高くなった。
【0076】
また、Kerr効果顕微鏡を用いて磁区観察を行った結果、実施例1~3の希土類コバルト永久磁石では、
図3の模式図で示したように、逆磁区が結晶粒界から発生し、その後、結晶粒内へ伝播し始めた。また、逆磁区が結晶粒内から別途発生して、最後に結晶粒内全体へ伝播していく過程が観察された。
【0077】
一方、実施例1~3と比べてFeの量が少ない比較例1では、角形比Hk/Hcjが52%であり、実施例1~3と比べて角形比Hk/Hcjの値が低かった。また、実施例1~3と比べてFeの量が多い比較例2では、角形比Hk/Hcjが61%であり、実施例1~3と比べて角形比Hk/Hcjの値が低かった。
【0078】
また、比較例1、2では、希土類コバルト永久磁石内におけるSmとNdの組成変動が同様の傾向を示さなかった。また、比較例1、2では、セル壁(1-5相)におけるSmの濃度の上昇割合、及びセル壁(1-5相)におけるNdの濃度の上昇割合の両方が同時に25at%以上となることはなかった。
【0079】
また、Kerr効果顕微鏡を用いて磁区観察を行った結果、比較例1、2の希土類コバルト永久磁石では、逆磁区の発生過程が結晶粒内から始まり、次いで結晶粒界から発生し、最後に結晶粒内全体に伝播していく過程を有しており、実施例1~3とは異なる挙動を示した。
【0080】
<結果のまとめ:表2>
表2に示す結果は、希土類元素の種類および溶体化条件が異なる場合の希土類コバルト永久磁石の特性の違いを示している。表2に示す実施例4~6では希土類元素としてSmとPrを含んでおり、溶体化温度を1180℃、溶体化時間をそれぞれ20時間、40時間、60時間としている。比較例3、4は、実施例4~6と比べて溶体化時間が短いサンプルであり、溶体化時間をそれぞれ5時間、10時間としている。
【0081】
また、実施例7~9では希土類元素としてSmとNdを含んでおり、溶体化温度を1120℃、溶体化時間をそれぞれ20時間、50時間、100時間としている。比較例5、6は、実施例7~9と比べて溶体化時間が短いサンプルであり、溶体化時間をそれぞれ5時間、10時間としている。
【0082】
実施例4~9の希土類コバルト永久磁石では、密度が8.25g/cm3以上、最大エネルギー積(BH)mが255kJ/m3以上、保磁力Hcjが1613A/m以上、角形比Hk/Hcjが63%以上となった。
【0083】
また、実施例4~9の希土類コバルト永久磁石では、希土類コバルト永久磁石内におけるSmとPr、Ndの組成変動が同様の傾向を示した。また、セル壁(1-5相)におけるSmの濃度がセル相(2-17相)におけるSmの濃度よりも25at%以上高くなった。また、セル壁(1-5相)におけるPr、Ndの濃度がセル相(2-17相)におけるNdの濃度よりも26at%以上高くなった。
【0084】
また、Kerr効果顕微鏡を用いて磁区観察を行った結果、実施例4~9の希土類コバルト永久磁石では、
図3の模式図で示したように、逆磁区が結晶粒界から発生し、その後、結晶粒内へ伝播し始めた。また、逆磁区が結晶粒内から別途発生して、最後に結晶粒内全体へ伝播していく過程が観察された。
【0085】
一方、実施例4~6と比べて溶体化時間が短い比較例3、4では、角形比Hk/Hcjがそれぞれ45%、62%であり、実施例4~6と比べて角形比Hk/Hcjの値が低かった。また、実施例7~9と比べて溶体化時間が短い比較例5、6では、角形比Hk/Hcjがそれぞれ50%、60%であり、実施例7~9と比べて角形比Hk/Hcjの値が低かった。
【0086】
また、比較例3~6では、希土類コバルト永久磁石内におけるSmとPr、Ndの組成変動が同様の傾向を示さなかった。また、比較例3、4では、セル壁(1-5相)におけるSmの濃度の上昇割合、及びセル壁(1-5相)におけるPrの濃度の上昇割合の両方が同時に25at%以上となることはなかった。また、比較例5、6では、セル壁(1-5相)におけるSmの濃度の上昇割合、及びセル壁(1-5相)におけるNdの濃度の上昇割合の両方が同時に25at%以上となることはなかった。
【0087】
また、Kerr効果顕微鏡を用いて磁区観察を行った結果、比較例3~6の希土類コバルト永久磁石では、逆磁区の発生過程が結晶粒内から始まり、次いで結晶粒界から発生し、最後に結晶粒内全体に伝播していく過程を有しており、実施例4~9とは異なる挙動を示した。
【0088】
<結果のまとめ:表3>
表3に示す結果は、希土類元素Rの組成および種類が異なる場合の希土類コバルト永久磁石の特性の違いを示している。表3に示すように、実施例10~15では希土類元素Rの量を24.0~26.0質量%としている。実施例10、11では希土類元素RとしてSmとNdを含んでいる。実施例12、13では希土類元素RとしてSmとPrを含んでいる。実施例14、15では希土類元素RとしてSm、Nd、Prを含んでいる。比較例7は、実施例10~15と比べて希土類元素Rの量が少ないサンプルであり、希土類元素Rの量を23.0質量%としている。比較例8は、実施例10~15と比べて希土類元素Rの量が多いサンプルであり、希土類元素Rの量を27.0質量%としている。
【0089】
実施例10~15の希土類コバルト永久磁石では、密度が8.27g/cm3以上、最大エネルギー積(BH)mが260kJ/m3以上、保磁力Hcjが1634A/m以上、角形比Hk/Hcjが67%以上となった。
【0090】
また、実施例10~15の希土類コバルト永久磁石では、希土類コバルト永久磁石内におけるSm、Nd、Prの組成変動が同様の傾向を示した。また、セル壁(1-5相)におけるSmの濃度がセル相(2-17相)におけるSmの濃度よりも28at%以上高くなった。また、セル壁(1-5相)におけるNd、Pr、(Nd+Pr)の濃度がセル相(2-17相)におけるNd、Pr、(Nd+Pr)の濃度よりも25at%以上高くなった。
【0091】
また、Kerr効果顕微鏡を用いて磁区観察を行った結果、実施例10~15の希土類コバルト永久磁石では、
図3の模式図で示したように、逆磁区が結晶粒界から発生し、その後、結晶粒内へ伝播し始めた。また、逆磁区が結晶粒内から別途発生して、最後に結晶粒内全体へ伝播していく過程が観察された。
【0092】
一方、実施例10~15と比べて希土類元素Rの量が少ない比較例7では、角形比Hk/Hcjが61%であり、実施例10~15と比べて角形比Hk/Hcjの値が低かった。また、実施例10~15と比べて希土類元素Rの量が多い比較例8では、角形比Hk/Hcjが48%であり、実施例10~15と比べて角形比Hk/Hcjの値が低かった。
【0093】
また、比較例7、8では、希土類コバルト永久磁石内におけるSm、Nd、Prの組成変動が同様の傾向を示さなかった。また、比較例7、8では、セル壁(1-5相)におけるSmの濃度の上昇割合、及びセル壁(1-5相)におけるNd、Pr、(Nd+Pr)の濃度の上昇割合の両方が同時に25at%以上となることはなかった。
【0094】
また、Kerr効果顕微鏡を用いて磁区観察を行った結果、比較例7、8の希土類コバルト永久磁石では、逆磁区の発生過程が結晶粒内から始まり、次いで結晶粒界から発生し、最後に結晶粒内全体に伝播していく過程を有しており、実施例10~15とは異なる挙動を示した。
【0095】
<結果のまとめ:表4>
表4に示す結果は、希土類元素であるNd、Pr、(Nd+Pr)の組成が異なる場合の希土類コバルト永久磁石の特性の違いを示している。表4に示すように、実施例16~18では、Nd、Pr、(Nd+Pr)の割合を24.0~25.0質量%としている。比較例9では希土類元素Rに占めるNdの割合を、29.2質量%としている。比較例10では希土類元素Rに占める(Nd+Pr)の割合を、26.9質量%としている。
【0096】
実施例16~18の希土類コバルト永久磁石では、密度が8.28g/cm3以上、最大エネルギー積(BH)mが260kJ/m3以上、保磁力Hcjが1606A/m以上、角形比Hk/Hcjが63%以上となった。
【0097】
また、実施例16~18の希土類コバルト永久磁石では、希土類コバルト永久磁石内におけるSm、Nd、Prの組成変動が同様の傾向を示した。また、セル壁(1-5相)におけるSmの濃度がセル相(2-17相)におけるSmの濃度よりも27at%以上高くなった。また、セル壁(1-5相)におけるNd、Pr、(Nd+Pr)の濃度がセル相(2-17相)におけるNd、Pr、(Nd+Pr)の濃度よりも28at%以上高くなった。
【0098】
また、Kerr効果顕微鏡を用いて磁区観察を行った結果、実施例16~18の希土類コバルト永久磁石では、
図3の模式図で示したように、逆磁区が結晶粒界から発生し、その後、結晶粒内へ伝播し始めた。また、逆磁区が結晶粒内から別途発生して、最後に結晶粒内全体へ伝播していく過程が観察された。
【0099】
一方、比較例9では、角形比Hk/Hcjが60%であり、実施例16~18と比べて角形比Hk/Hcjの値が低かった。また、比較例10では、角形比Hk/Hcjが50%であり、実施例16~18と比べて角形比Hk/Hcjの値が低かった。
【0100】
また、比較例9、10では、希土類コバルト永久磁石内におけるSm、Nd、Prの組成変動が同様の傾向を示さなかった。また、比較例9、10では、セル壁(1-5相)におけるSmの濃度の上昇割合、及びセル壁(1-5相)におけるNd、(Nd+Pr)の濃度の上昇割合の両方が同時に25at%以上となることはなかった。
【0101】
また、Kerr効果顕微鏡を用いて磁区観察を行った結果、比較例9、10の希土類コバルト永久磁石では、逆磁区の発生過程が結晶粒内から始まり、次いで結晶粒界から発生し、最後に結晶粒内全体に伝播していく過程を有しており、実施例10~15とは異なる挙動を示した。
【0102】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0103】
11 結晶粒
12 結晶粒界
14、15、16 逆磁区