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特許7010975インクセット及びインクジェット記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】インクセット及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/40 20140101AFI20220119BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220119BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C09D11/40
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019569560
(86)(22)【出願日】2019-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2019003421
(87)【国際公開番号】W WO2019151412
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2018015912
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】配島 章光
(72)【発明者】
【氏名】近藤 義顕
(72)【発明者】
【氏名】西村 実央
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-138124(JP,A)
【文献】特開2009-226642(JP,A)
【文献】特開2009-132891(JP,A)
【文献】特開2008-101173(JP,A)
【文献】特開2012-193331(JP,A)
【文献】特開2016-029148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(Y-1)又は下記一般式(Y-2)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有するイエローインク組成物と、
下記一般式(M)又は下記一般式(MM)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有するマゼンタインク組成物と、
下記一般式(C-1)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有するシアンインク組成物と、
下記一般式(B)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有するブラックインク組成物と、
を少なくとも含み、
前記イエローインク組成物、前記マゼンタインク組成物、前記シアンインク組成物、及び前記ブラックインク組成物は、各インク組成物の全質量に対して、SP値が22MPa1/2~26MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤Aを0.5質量%~5.0質量%と、SP値が24MPa1/2~29MPa1/2の窒素原子を含有する溶剤Bを0.1質量%~5.0質量%と、SP値が29MPa1/2~31MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤Cを10質量%~50質量%と、SP値が32MPa1/2~34MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤Dを5質量%~30質量%と、水を30質量%~60質量%と、をそれぞれ含有し、ここで、溶剤Aは、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール200、ポリプロピレングリコール200、GP250、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、及び1,2-ヘキサンジオールからなる群から選択され、溶剤Bは、2-ピロリドン、N-メチル-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-ピロリドン、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、エチレン尿素、下記構造式(1)-1で表される化合物、及び下記構造式(1)-2で表される化合物からなる群から選択され、溶剤Cは、1,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、及び1,5-ペンタンジオールからなる群から選択され、溶剤Dは、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、及びジグリセリンからなる群から選択され、
前記イエローインク組成物、前記マゼンタインク組成物、前記シアンインク組成物、及び前記ブラックインク組成物の各々を等質量比で混合したインク全体に含まれる、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの合計の質量の比率が70質量%以上である、インクセット。
【化1】



一般式(Y-1)中、R、R、X、X、Y、Y、Z、及びZは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、スルファモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、カルバモイル基、又はアルコキシカルボニル基を表す。Gは、5員~8員の含窒素ヘテロ環を形成する原子団を表し、Mは、リチウムイオンを表す。m1は、~3の整数を表す。
【化2】



一般式(Y-2)中、Mは、リチウムイオンを表す。
【化3】



一般式(M)中、Z11は、ハメットの置換基定数σ値が0.2以上の電子求引性基を表す。Z12は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、芳香族基、ヘテロ環基、又はアシル基を表す。R11及びR12は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、又はスルファモイル基を表す。R11及びR12は、同時に水素原子を表すことはない。R13、R14、b、c、及びdは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキル基もしくはアリール基もしくはヘテロ環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、スルファモイル基、ヘテロ環チオ基、又はイオン性親水性基を表す。R13とR11、又はR11とR12は、それぞれ互いに結合して5員環又は6員環を形成してもよい。a及びeは、各々独立に、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、a及びeが共にアルキル基を表す場合、アルキル基の合計の炭素数は3以上である。aとb、又はeとdは、それぞれ互いに結合して環を形成してもよい。Qは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、芳香族基、又はヘテロ環基を表す。但し、一般式(M)は、リチウムイオンを有するイオン性親水性基を少なくとも一つ有する。
【化4】



一般式(MM)中、R、R、R、及びR10は、各々独立に、アルキル基を表す。R、R、R、R、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19及びR20は、各々独立に、水素原子又は置換基を表す。M及びMは、リチウムイオンを表す。
【化5】




一般式(C-1)中、Z 、Z、Z、及びZは、各々独立に、 11 及び/又はZ 12 であり、Z 11 は-(CH SO を表し、M はリチウムイオンを表し、Z 12 は-(CH SO NHCH CH(OH)CH を表し、Z 、Z 、Z 、及びZ の少なくとも1つはZ 11 である。l、m、n、pは、各々独立に、1又は2の整数を表す。Mは、Cu、Ni、Zn、又はAlを表す。
【化6】



一般式(B)中、Aは、芳香族基又はヘテロ環基を表す。Xは、窒素原子又は=C(W)-を表し、Wはハメットの置換基定数σ値が0.20以上の電子吸引性基を表す。T及びTは、各々=C(R43)-及び-C(R44)=を表すか、あるいはT及びTのいずれか一方が窒素原子を表し、他方が=C(R43)-又は-C(R44)=を表す。V、W、R43、及びR44は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アルキルアミノ基、アリ-ルアミノ基、及びヘテロ環アミノ基を含む。)、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、ヘテロ環スルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキルアリールチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロ環スルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロ環スルフィニル基、スルファモイル基、又はスルホ基を表す。R41及びR42は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、又はスルファモイル基を表し、R41及びR42が同時に水素原子を表すことはない。また、R43とR41、又はR41とR42は、それぞれ互いに結合して5員環又は6員環を形成してもよい。
【化7】
【請求項2】
前記イエローインク組成物、前記マゼンタインク組成物、前記シアンインク組成物、及び前記ブラックインク組成物の各々を等質量比で混合したインク全体に含まれる、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの合計の質量の比率が80質量%以上である請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記イエローインク組成物、前記マゼンタインク組成物、前記シアンインク組成物、及び前記ブラックインク組成物の各々を等質量比で混合したインク全体に含まれる、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの合計の質量の比率が85質量%以上である請求項1又は請求項2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記イエローインク組成物、前記マゼンタインク組成物、前記シアンインク組成物、及び前記ブラックインク組成物の各々は、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの質量の比率が70質量%以上である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項5】
前記ブラックインク組成物は、更に、下記一般式(BA)で表される化合物を含有する請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のインクセット。
【化8】



一般式(BA)中、A環,B環,及びC環は、各々独立に、アリール基又はヘテロ環基を表す。A、A、A、A、A、A11、A12、A13、A14、A15、B、B、B、B、B、B、B11、B12、B13、B14、B15、B16、C、C、C、C、C11、C12、C13、及びC14は、各々独立に、水素原子又は置換基を表す。Q及びQは、各々独立に、水素原子又は置換基を表す。L12は、2価の連結基を表す。但し、上記のA~A、A11~A15、B~B、B11~B16、C~C、C11~C14、Q、Q、及びL12の少なくとも1つは、少なくとも一つのイオン性親水性基を有する。
【請求項6】
前記溶剤Aが2-エチル-1,3-ヘキサンジオールであり、前記溶剤Bが2-ピロリドンであり、前記溶剤Cが1,3-ブタンジオールであり、前記溶剤Dがグリセリンである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項7】
前記イエローインク組成物、前記マゼンタインク組成物、前記シアンインク組成物、及び前記ブラックインク組成物の各々は、界面活性剤の含有量が、各インク組成物の全質量に対して、0.1質量%未満である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のインクセットを用いて画像を記録するインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インクセット及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像を記録する方法は、従来から印刷法、電子写真法、インクジェット法等の種々の方法が知られ、特にインクジェット法を利用した記録方法(以下、インクジェット記録方法)は、様々な被記録体に画像の記録が行える点で様々な分野で適用されるに至っている。
【0003】
インクジェット記録方法では、一般に、複数のカラーインクを用いて多色画像を形成し、所望の記録物を得ることが行われている。多色画像の記録には、イエローインク、マゼンタインク、及びシアンインクの3色が用いられ、目的又は場合に応じて、これら3色のインクに更にブラックインクを加えた4色が用いられることがある。
また、例えばマゼンタインク等の色相によっては、同じ色相域に濃淡の異なる複数のインクが併用される場合もある。この場合には、上記の4色に加え、淡色系の例えばライトシアンインク及びライトマゼンタインクを用いた6色が用いられる。この6色に、更に濃色系のダークイエローインクを加えた7色が用いられる場合もある。
このように、インクジェット記録には、2種以上のインクを組み合わせたインクセットが使用されている。
【0004】
2種以上のインクを組み合わせたインクセットを用いる技術として、着色剤である染料を用いたインクとして、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物を備えたインクセットを用い、耐光性、耐オゾン性が良好な画像を記録できることが開示されている(例えば、特開2007-138124号公報1参照)。
また同様に、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物を備え、インク保存安定性に優れたインクセットが開示されている(例えば、特開2012-193330号公報2参照)。
更に、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物を含み、各インク組成物が特定構造の水溶性有機溶剤を含有し、かつ、水溶性有機溶剤と水との比率が特定の範囲内にあるインクジェット記録用インクセットが開示されている(例えば、特開2012-188545号公報参照)。
【0005】
一方、インクジェット法を利用して記録する記録装置は、インク組成物を吐出するための吐出ノズルを備え、画像に応じて所望のインク組成物を吐出ノズルから吐出することで画像を記録する。吐出ノズルにインクが詰まって不吐出が発生した場合、所期のインクが付与されないことになり、記録される画像の再現性を損なう場合がある。そのため、例えば装置起動時には、吐出ノズルからのインクの吐出が安定して行われるように、通常装置起動時等において予備的に吐出操作(いわゆるダミー吐出)を行うことがある。
ダミー吐出されたインク組成物は、装置内のインク廃棄部に収容される。複数のインクを搭載した記録装置では、複数色のインクがダミー吐出されるため、インク廃棄部には複数色のインクが混合した状態で収容されることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来技術のように、インクセットに含まれるイエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物は、アルカリ金属塩である染料が含有される場合が多い。その中でも、染料の溶解性が良好で析出しにくい点で、イエロー染料以外の他の色相の染料にはリチウム塩が広く使用されている。一方、イエロー染料は、カリウム塩の溶解性が比較的高くインク中での析出が生じにくいことから、リチウム塩よりもカリウム塩が使用されることが多い。
【0007】
ところが、上記のように4種以上のインク組成物がダミー吐出された際に混合すると、インク組成物に含有される染料(例えばイエロー染料)に含まれるカリウム元素が、他の染料(例えばシアンインク組成物及びブラックインク組成物)に混入し、他の染料(例えばシアン染料及びブラック染料)中のリチウム元素がカリウム元素に置換される。結果、低湿環境下等に保持された場合に、インク組成物が増粘しやすくなる傾向がある。
ダミー吐出されたインク組成物が増粘すると、次第に堆積して積み重なり、装置内に収容又は搬送される記録媒体と接触する場合がある。堆積したインク組成物に記録媒体が触れると、記録媒体のインク組成物との接触部分、つまり記録媒体における裏部又は端面である側部にインク汚れが発生する。
インク汚れは、記録物の品位及び見映えを損なう。
【0008】
上記の特開2007-138124号公報及び特開2012-193330号公報では、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、及びシアンインク組成物を含む3種又は4種を用いたインクセットに関する開示があるが、特定の構造の染料を組み合わせることに着目した発明であり、染料の対イオンの種類及び量並びに併用する溶剤の種類及び量との関係には着目されていない。
また、特開2012-188545号公報にも、特開2007-138124号公報及び特開2012-193330号公報に似たインクセットが開示されているものの、やはり染料の対イオンの種類及び量については言及がなく、併用する溶剤量についても本開示の範囲と異なっている。
【0009】
本開示は、上記に鑑みなされたものである。
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、記録媒体(例えば枚葉の記録紙)のインク汚れ(例えば、記録面以外の部位(側部及び裏部の少なくとも一部)のインク汚れ)の発生が抑制されるインクセットを提供することにある。
また、本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、記録媒体(例えば枚葉の記録紙)のインク汚れ(例えば、記録面以外の部位(側部及び裏部の少なくとも一部)のインク汚れ)の発生が抑制されるインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 下記一般式(Y-1)又は下記一般式(Y-2)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有するイエローインク組成物と、
下記一般式(M)又は下記一般式(MM)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有するマゼンタインク組成物と、
下記一般式(C)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有するシアンインク組成物と、
下記一般式(B)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有するブラックインク組成物と、
を少なくとも含み、
イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物は、各インク組成物の全質量に対して、SP値が22MPa1/2~26MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤Aを0.5質量%~5.0質量%と、SP値が24MPa1/2~29MPa1/2の窒素原子を含有する溶剤Bを0.1質量%~5.0質量%と、SP値が29MPa1/2~31MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤Cを10質量%~50質量%と、SP値が32MPa1/2~34MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤Dを5質量%~30質量%と、水を30質量%~60質量%と、をそれぞれ含有し、
イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物の各々を等質量比で混合したインク全体に含まれる、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの合計の質量の比率が70質量%以上である、インクセットである。
【0011】
【化1】

【0012】
一般式(Y-1)中、R、R、X、X、Y、Y、Z、及びZは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、スルファモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、カルバモイル基、又はアルコキシカルボニル基を表す。Gは、5員~8員の含窒素ヘテロ環を形成する原子団を表し、Mは、水素原子又はカチオンを表す。m1は、0~3の整数を表す。
なお、上記のR、R、X、X、Y、Y、Z、及びZは、各々独立に、炭素数1~12の直鎖又は分岐鎖アルキル基、炭素数7~18の直鎖又は分岐鎖アラルキル基、炭素数2~12の直鎖又は分岐鎖アルケニル基、炭素数2~12の直鎖又は分岐鎖アルキニル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、炭素数3~12のシクロアルケニル基、ハロゲン原子、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アミノ基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アシルアミノ基、アルキルアミノ基、アニリノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基及びアリールスルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルホニル基、アルキルオキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、スルフィニル基、ホスホニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基又はイオン性親水性基を置換基として有してもよい。
【0013】
【化2】

【0014】
一般式(Y-2)中、Mは、各々独立に、水素原子又はカチオンを表す。
【0015】
【化3】

【0016】
一般式(M)中、Z11は、ハメットの置換基定数σ値が0.2以上の電子求引性基を表す。Z12は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、芳香族基、ヘテロ環基、又はアシル基を表す。R11及びR12は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、又はスルファモイル基を表す。R11及びR12は、同時に水素原子を表すことはない。R13、R14、b、c、及びdは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキル基もしくはアリール基もしくはヘテロ環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、スルファモイル基、ヘテロ環チオ基、又はイオン性親水性基を表す。R13とR11、又はR11とR12は、それぞれ互いに結合して5員環又は6員環を形成してもよい。a及びeは、各々独立に、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、a及びeが共にアルキル基を表す場合、アルキル基の合計の炭素数は3以上である。aとb、又はeとdは、それぞれ互いに結合して環を形成してもよい。Qは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、芳香族基、又はヘテロ環基を表す。但し、一般式(M)は、少なくとも一つのイオン性親水性基を有する。
【0017】
【化4】

【0018】
一般式(MM)中、R、R、R、及びR10は、各々独立に、アルキル基を表す。R、R、R、R、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19及びR20は、各々独立に、水素原子又は置換基を表す。M及びMは、各々独立に、水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンを表す。
【0019】
【化5】

【0020】
一般式(C)中、R、R、R、R、R、R、R、及びRは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミド基、アリールアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルフィニル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、アシル基又はイオン性親水性基を表す。Z、Z、Z、及びZは、各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表し、Z、Z、Z、及びZの少なくとも1つはイオン性親水性基を置換基として有する。l、m、n、p、q1、q2、q3、及びq4は、各々独立に、1又は2の整数を表す。Mは、金属原子、又は金属の酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表す。
【0021】
【化6】

【0022】
一般式(B)中、Aは、芳香族基又はヘテロ環基を表す。Xは、窒素原子又は=C(W)-を表し、Wはハメットの置換基定数σ値が0.20以上の電子吸引性基を表す。T及びTは、各々=C(R43)-及び-C(R44)=を表すか、あるいはT及びTのいずれか一方が窒素原子を表し、他方が=C(R43)-又は-C(R44)=を表す。V、W、R43、及びR44は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アルキルアミノ基、アリ-ルアミノ基、及びヘテロ環アミノ基を含む。)、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、ヘテロ環スルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキルアリールチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロ環スルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロ環スルフィニル基、スルファモイル基、又はスルホ基を表す。R41及びR42は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、又はスルファモイル基を表し、R41及びR42が同時に水素原子を表すことはない。また、R43とR41、又はR41とR42は、それぞれ互いに結合して5員環又は6員環を形成してもよい。
【0023】
<2> イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物の各々を等質量比で混合したインク全体に含まれる、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの合計の質量の比率が80質量%以上である<1>に記載のインクセットである。
<3> イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物の各々を等質量比で混合したインク全体に含まれる、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの合計の質量の比率が85質量%以上である<1>又は<2>に記載のインクセットである。
<4> イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物の各々は、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの質量の比率が70質量%以上である<1>~<3>のいずれか1つに記載のインクセットである。
<5> ブラックインク組成物は、更に、下記一般式(BA)で表される化合物を含有する<1>~<4>のいずれか1つに記載のインクセットである。
【0024】
【化7】

【0025】
一般式(BA)中、A環,B環,及びC環は、各々独立に、アリール基又はヘテロ環基を表す。A、A、A、A、A、A11、A12、A13、A14、A15、B、B、B、B、B、B、B11、B12、B13、B14、B15、B16、C、C、C、C、C11、C12、C13、及びC14は、各々独立に、水素原子又は置換基を表す。Q及びQは、各々独立に、水素原子又は置換基を表す。L12は、2価の連結基を表す。但し、上記のA~A、A11~A15、B~B、B11~B16、C~C、C11~C14、Q、Q、及びL12の少なくとも1つは、少なくとも一つのイオン性親水性基を有する。
【0026】
<6> 溶剤Aが2-エチル-1,3-ヘキサンジオールであり、溶剤Bが2-ピロリドンであり、溶剤Cが1,3-ブタンジオールであり、溶剤Dがグリセリンである、<1>~<5>のいずれか1つに記載のインクセットである。
<7> イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物の各々は、界面活性剤の含有量が、各インク組成物の全質量に対して、0.1質量%未満である<1>~<6>のいずれか1つに記載のインクセットである。
<8> <1>~<7>のいずれか1つに記載のインクセットを用いて画像を記録するインクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一実施形態によれば、記録媒体(例えば枚葉の記録紙)のインク汚れ(例えば、記録面以外の部位(側部及び裏部の少なくとも一部)のインク汚れ)の発生が抑制されるインクセットが提供される。
また、本発明の他の実施形態によれば、記録媒体(例えば枚葉の記録紙)のインク汚れ(例えば、記録面以外の部位(側部及び裏部の少なくとも一部)のインク汚れ)の発生が抑制されるインクジェット記録方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本開示のインクセット及びインクセットを用いたインクジェット記録方法について、詳細に説明する。
【0029】
本明細書において、「裏部」とは、記録媒体の記録を行うオモテ側と反対側(ウラ側)の表面を指し、「側部」とは、オモテ側の面と裏側の面とを繋ぐ端部であって、記録媒体の厚み分に相当する面積を有する端部を指す。
【0030】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0031】
本明細書において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。また、本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本明細書において、式で表される化合物における基の表記に関して、置換あるいは無置換を記していない場合、上記基が更に置換基を有することが可能な場合には、他に特に規定がない限り、無置換の基のみならず置換基を有する基も包含する。例えば、式において、「Rはアルキル基、アリール基又は複素環基を表す」との記載がある場合、「Rは無置換アルキル基、置換アルキル基、無置換アリール基、置換アリール基、無置換複素環基又は置換複素環基を表す」ことを意味する。
【0032】
<インクセット>
本開示のインクセットは、以下の少なくとも4種の色相のインク組成物を含み、必要に応じて、更に、以下の4種以外の他の色相のインク組成物を含んでいてもよい。
なお、本明細書中において、「インク組成物」を単に「インク」ともいう。
(1)イエローインク組成物
一般式(Y-1)又は一般式(Y-2)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有するインク組成物
(2)マゼンタインク組成物
一般式(M)又は下記一般式(MM)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有するインク組成物
(3)シアンインク組成物
一般式(C)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有するインク組成物
(4)ブラックインク組成物
一般式(B)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有するインク組成物
【0033】
本開示のインクセットにおけるインク組成物は、それぞれが単色のみを指す場合に限られず、色の濃淡又は色合い等により各々の色相系統の範囲で複数色を包含してもよい。例えばマゼンタインク組成物の場合、単色のマゼンタインク組成物のみを含むものでもよいし、例えば淡色のマゼンタインク組成物と濃色のマゼンタインク組成物との2つの色を包含するものでもよい。また、マゼンタインク組成物の場合、例えば赤色に近い色相のマゼンタインク組成物とピンク色に近い色相のマゼンタインク組成物との2つの色を包含するもの等も包含されるものとする。
【0034】
また、本開示のインクセットは、上記のイエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物がそれぞれ、着色剤以外に、更に、SP値が22MPa1/2~26MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤A(以下、溶剤Aともいう。)を各インク組成物の全質量に対して0.5質量%~5.0質量%と、SP値が24MPa1/2~29MPa1/2の窒素原子を含有する溶剤B(以下、溶剤Bともいう。)を各インク組成物の全質量に対して0.1質量%~5.0質量%と、SP値が29MPa1/2~31MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤C(以下、溶剤Cともいう。)を各インク組成物の全質量に対して10質量%~50質量%と、SP値が32MPa1/2~34MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤D(以下、溶剤Dともいう。)を各インク組成物の全質量に対して5質量%~30質量%と、水を各インク組成物の全質量に対して30質量%~60質量%と、を含有し、かつ、
イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物の各々を等質量比で混合したインク全体に含まれる、インクセット全体における、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの合計の質量の比率は70質量%以上である。
【0035】
従来から、2種以上のインクを組み合わせたインクセットを用いる技術が利用され、多色画像をインクジェット法により記録することが広く行われている。画像をインクジェット法により記録する場合、各色毎に設けられた吐出ノズルからインク組成物を吐出して画像を記録するが、インクの吐出が行われない期間等が存在するとインクが吐出ノズルの先端部又は内部で増粘又は固化してインク詰まりを起こす場合がある。インク組成物が吐出されない吐出ノズルが存在すると、記録画像の品質が損なわれることから、通常装置起動時等において予備的に吐出操作(いわゆるダミー吐出)が行われている。予備的に吐出されたインク組成物は、画像の記録に用いられないため、吐出されたインク組成物は廃棄部に収容される。廃棄部では、複数色のインク組成物が混合されることになる。
一般に、インク組成物に含まれる染料(例えば、イエロー以外の他の色相のインク組成物に含まれる染料)にはリチウム塩が広く使用される一方、場合によってはカリウム塩の溶解性がリチウム塩と同程度に高くインク中での析出が生じにくいとの事情から、染料(例えばイエロー染料)としてカリウム塩が使用されることがある。廃棄部に複数のインク組成物が混合(例えば、イエローインク組成物とイエロー以外の他の色相のインク組成物とが混合)されると、染料(例えばイエロー染料)に含まれるカリウム元素が、カリウム塩以外の他の染料(例えば、イエロー以外の他の色相の染料(例えば、シアン染料、ブラック染料))中のリチウム元素と置換して、インク組成物の増粘を招来することがある。ダミー吐出されたインク組成物が増粘すると、装置内において次第に堆積して積み重なり、装置内に収容又は搬送される記録媒体と接触する場合がある。堆積したインク組成物に記録媒体が触れると、記録面には触れないまでも、記録媒体の記録面以外の部分とインク組成物との接触部分、即ち、記録媒体における厚み分の側部又は裏部にインクが付着し、インク汚れが発生する。インク汚れは、記録物の品位及び見映えを損なう。
【0036】
本開示は、上記に鑑み、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物の各々が、着色剤として各色に適した構造を有する化合物を含有し、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの合計の質量の比率を70質量%以上とすることに加え、SP値の異なる4種の溶剤を特定の比率で組み合わせて含有する組成とする。これにより、例えば枚葉の記録媒体の、記録面以外の部位(側部及び裏部の少なくとも一部)のインク汚れの発生を抑制することができる。
【0037】
本開示のインクセットは、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物の4色を含み、4色のインク組成物の各々を等質量比で混合した場合の、インクセットのインク全体に含まれる、アルカリ金属の合計の質量(M)に対するリチウムの合計の質量(MLi)の比率(MLi/M)を70質量%以上とする。
Li/Mで表される比率が70質量%以上であることは、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物に含有される全体のリチウム金属の量(含有比率)が多いことを示し、リチウム以外のアルカリ金属(例えばカリウム)が混入することによって生じやすいインク組成物の増粘現象が生じにくいものであることを示している。
【0038】
上記の中でも、インクセットのインク全体中に含まれる、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの合計の質量の比率(MLi/Mで表される比)としては、上記と同様の理由から、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましい。
【0039】
次に、本開示のインクセットに含まれる各インク組成物に含まれる成分について説明する。以下の説明では、初めにイエローインク組成物に含まれる成分を説明し、続いてマゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物に含まれる成分について説明する。
ここで、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物に含まれる成分のうち、イエローインク組成物に含まれる成分と同様の成分については詳細な説明を省略する。
【0040】
(1)イエローインク組成物
本開示におけるイエローインク組成物は、着色剤として、一般式(Y-1)又は一般式(Y-2)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、溶剤A、溶剤B、溶剤C、及び溶剤Dと、水と、を含有し、更に、必要に応じて、界面活性剤及び添加剤等の他の成分を含有してもよい。
【0041】
-溶剤-
まず初めに、イエローインク組成物に含まれる溶剤(溶剤A~D)について説明する。
なお、以下において、化合物名に続いて記載された括弧内の数値は、溶剤のSP値(単位:MPa1/2)を表し、単位は省略してある。また、括弧内のSP値は、小数点第一位を四捨五入した値を示している。
【0042】
本開示における溶剤のSP値(溶解度パラメーター/単位:MPa1/2)とは、分子凝集エネルギーの平方根で表される値で、R.F.Fedors,Polymer Engineering Science,14,p147~154(1974)に記載の方法で計算することができ、本開示においてはこの数値を採用する。
【0043】
[SP値が22MPa1/2~26MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤A]
イエローインク組成物は、SP値が22MPa1/2~26MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤Aを含有し、溶剤Aの含有量は、イエローインク組成物の全質量に対して、0.5質量%~5.0質量%の範囲である。
溶剤Aを含有することで、インクの表面張力を下げてインクの吐出性を良化することができる。かかる観点から、溶剤Aの含有量を0.5質量%以上の範囲とする。ところが、溶剤Aの含有量が多くなり過ぎると、染料が析出しやすくなるため、溶剤Aの含有量は5.0質量%以下とされる。溶剤Aの含有量としては、イエローインク組成物の全質量に対して、1.0質量%~3.0質量%の範囲が好ましい。
【0044】
溶剤AのSP値が22MPa1/2以上であると、染料の溶解性を良好に維持しやすく、染料の分離あるいは低温環境下での染料の析出などを起こし難くなる。また、SP値が26MPa1/2以下であると、インクの表面張力の低減効果が高く、吐出性が良好になる。
溶剤AのSP値としては、上記と同様の理由から、24MPa1/2~25MPa1/2が好ましい。
【0045】
溶剤Aの具体例としては、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(25)、ポリエチレングリコール200(26)、ポリプロピレングリコール200(25)、GP250(22)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(22)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(22)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(22)、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール(25)、1,2-ヘキサンジオール(24)等が挙げられる。
中でも、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(25MPa1/2)がより好ましい。
【0046】
溶剤Aの含有量が0.5質量%以上であると、インクの表面張力の低減効果が高く、吐出性が良好になる。また、溶剤Aの含有量が5.0質量%以下であると、染料の溶解性を良好に維持しやすく、染料の析出が効果的に抑制される。
溶剤Aの含有量としては、イエローインク組成物の全質量に対して、1.0質量%~3.0質量%が好ましい。
【0047】
[SP値が24MPa1/2~29MPa1/2の窒素原子を含有する溶剤B]
イエローインク組成物は、SP値が24MPa1/2~29MPa1/2の窒素原子を含有する溶剤Bを含有し、溶剤Bの含有量は、イエローインク組成物の全質量に対して、0.1質量%~5.0質量%の範囲である。
溶剤Bを含有すると、吐出安定性が良好になる効果がある。かかる観点から、溶剤Bの含有量を0.1質量%以上の範囲とする。
【0048】
溶剤BのSP値が24MPa1/2以上であると、染料の析出が効果的に抑制される。また、溶剤BのSP値が29MPa1/2以下であると、インクの吐出安定性が良好になる。
溶剤BのSP値としては、上記と同様の理由から、25MPa1/2~26MPa1/2が好ましい。
【0049】
溶剤Bの具体例としては、2-ピロリドン(26)、N-メチル-ピロリドン(24)、N-ヒドロキシエチル-ピロリドン(29)、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール(28)、エチレン尿素(29)、下記構造式(1)-1で表される化合物(25)、下記構造式(1)-2で表される化合物(24)等が挙げられる。
中でも、2-ピロリドンがより好ましい。
【0050】
【化8】

【0051】
溶剤Bの含有量は、イエローインク組成物の全質量に対して、0.1質量%~5.0質量%の範囲である。溶剤Bの含有量が5.0質量%以下であると、染料の溶解性及び他の溶剤との相溶性を高める点で有利である。
溶剤Bの含有量としては、上記と同様の理由で、イエローインク組成物の全質量に対して、0.3質量%~3.0質量%が好ましく、0.5質量%~2.0質量%がより好ましい。
【0052】
[SP値が29MPa1/2~31MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤C]
イエローインク組成物は、SP値が29MPa1/2~31MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤Cを含有し、溶剤Cの含有量は、イエローインク組成物の全質量に対して、10質量%~50質量%の範囲である。
溶剤Cが、溶剤A~Dの中で最も染料の溶解度を高める。そのため、溶剤Cを含有すると、染料の析出を防止する効果が大きい。また、溶剤Cは、SP値が29MPa1/2未満の溶剤の溶解助剤として働き、特に「SP値が22MPa1/2~26MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤A」のインク組成物中での分離及び析出を抑制する。かかる観点から、溶剤Cの含有量を10質量%以上の範囲とする。
【0053】
溶剤CのSP値が29MPa1/2以上であると、溶剤助剤としての働きが強く、染料の溶解度の向上効果が高い。また、SP値が31MPa1/2以下であると、溶剤C自身の溶解性の点で有利である。
溶剤CのSP値としては、上記と同様の理由から、30MPa1/2~31MPa1/2の範囲がより好ましい。
【0054】
溶剤Cの具体例としては、1,3-ブタンジオール(30)、ジエチレングリコール(31)、1,5-ペンタンジオール(29)等が挙げられる。
中でも、1,3-ブタンジオールがより好ましい。
【0055】
溶剤Cの含有量が10質量%以上であると、染料の溶解度を効果的に高めることができる。また、溶剤Cの含有量が50質量%以下であると、インク中で相分離など発生せず液安定性の点で有利である。
溶剤Cの含有量としては、上記と同様の理由で、イエローインク組成物の全質量に対して、15質量%~45質量%が好ましく、20質量%~35質量%がより好ましい。
【0056】
[SP値が32MPa1/2~34MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤D]
イエローインク組成物は、SP値が32MPa1/2~34MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤Dを含有し、溶剤Dの含有量は、イエローインク組成物の全質量に対して、5質量%~30質量%の範囲である。
溶剤Dが、溶剤A~Dの中で最もインク組成物の保湿性を高める。そのため、溶剤Dを含有することで、インクジェットヘッドの吐出口、及びダミー吐出されて廃棄されたインク組成物が収容される場所でのインク組成物の乾燥を防止する。これにより、インク組成物中の染料の析出が抑制され、吐出安定性及び出力された記録媒体のインク汚れを防止することができる。かかる観点から、溶剤Dの含有量を5質量%以上の範囲とする。
【0057】
溶剤DのSP値が32MPa1/2以上であると、インク組成物の保湿効果が高く、インク組成物の乾燥が抑えられる。結果、インク組成物中の染料の析出が抑制される。また、SP値が34MPa1/2以下であると、水への溶解度が高くかつ溶剤A、B、Cとの相溶性も高い点で有利である。
溶剤DのSP値としては、上記と同様の理由から、33MPa1/2~34MPa1/2の範囲がより好ましい。
【0058】
溶剤の具体例としては、グリセリン(34)、プロピレングリコール(33)、1,3-プロパンジオール(33)、ジグリセリン(32)等が挙げられる。
中でも、グリセリンがより好ましい。
【0059】
溶剤Dの含有量が5質量%以上であると、インク組成物の乾燥防止効果に優れ、インク組成物中の染料の析出が抑制される。また、含有量が30質量%以下であると、インク中で相分離など発生せず液安定性の点で有利である。
溶剤Dの含有量としては、上記と同様の理由で、イエローインク組成物の全質量に対して、8質量%~28質量%が好ましく、10質量%~25質量%がより好ましい。
【0060】
イエローインク組成物における好ましい溶剤としては、本開示のインクセットによる効果がより効果的に奏される点で、溶剤Aは、SP値が24MPa1/2~25MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤であり、かつ、含有量がイエローインク組成物の全質量に対して、1.0質量%~3.0質量%であり、溶剤Bは、SP値が25MPa1/2~26MPa1/2の窒素原子を含有する溶剤であり、かつ、含有量がイエローインク組成物の全質量に対して、0.5質量%~2.0質量%であり、溶剤Cは、SP値が30MPa1/2~31MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤であり、かつ、含有量がイエローインク組成物の全質量に対して、20質量%~30質量%であり、溶剤Dは、SP値が33MPa1/2~34MPa1/2の窒素原子を含有しない溶剤であり、かつ、含有量がイエローインク組成物の全質量に対して、10質量%~25質量%であることが好ましい。
上記の中でも更に、イエローインク組成物における好ましい溶剤としては、上記と同様の観点から、溶剤Aが2-エチル-1,3-ヘキサンジオールであり、溶剤Bが2-ピロリドンであり、溶剤Cが1,3-ブタンジオールであり、溶剤Dがグリセリンである態様が好ましい。
【0061】
また、本開示のイエローインク組成物は、本開示のインクセットによる効果を著しく損なわない範囲で、溶剤A~D以外の他の溶剤を更に含有していてもよい。
【0062】
溶剤A、溶剤B、溶剤C、及び溶剤Dの詳細及び好ましい態様については、イエローインク組成物のみならず、後述するマゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物においても同様である。
【0063】
本開示のイエローインク組成物、後述するマゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物において、水の含有量は30質量%~60質量%であり、好ましくは40質量%~55質量%である。水の含有量が30質量%以上であると、水溶性染料を安定に溶解させることが可能となる。水の含有量が60質量%以下であると、溶剤A、溶剤B、溶剤C、及び溶剤Dとの相溶性を満足させることが可能となる。
【0064】
-着色剤(染料)-
次いで、イエローインク組成物に含まれる着色剤について説明する。
本開示におけるイエローインク組成物は、一般式(Y-1)又は一般式(Y-2)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(イエロー染料ともいう。)を含有する。
【0065】
【化9】

【0066】
一般式(Y-1)の詳細については、特開2007-138124号公報の段落0235~0257、段落0160~0163の記載を参照することができる。
【0067】
一般式(Y-1)において、R、R、X、X、Y、Y、Z、及びZは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、スルファモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、カルバモイル基、又はアルコキシカルボニル基を表す。
、R、X、X、Y、Y、Z、及びZは、無置換でもよいし、置換基で置換されていてもよい。置換基については後述する。
【0068】
、R、X、X、Y、Y、Z、及びZとしては、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、又はヘテロ環基が好ましく、水素原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、又はアルキルスルホニル基が最も好ましい。
【0069】
上記の中でも、R及びRとしては、置換もしくは無置換の総炭素数1~12のアルキル基、置換もしくは無置換の総炭素数6~18のアリール基、又は置換もしくは無置換の総炭素数4~12ヘテロ環基が好ましく、更には、総炭素原子数1~8の直鎖アルキル基又は分岐のアルキル基が好ましく、特に2級又は3級アルキル基が好ましく、t-ブチル基が最も好ましい。
【0070】
また、X及びXとしては、シアノ基、炭素数1~12のアルキルスルホニル基、炭素数6~18のアリールスルホニル基、又は炭素数0~12のスルファモイル基が好ましく、シアノ基、炭素数1~12のアルキルスルホニル基、又は炭素数0~12のスルファモイル基がより好ましく、更には、シアノ基、又は炭素数1~12のアルキルスルホニル基で画好ましい。
【0071】
及びYとしては、水素原子、置換もしくは無置換の総炭素数1~12のアルキル基、置換もしくは無置換の総炭素数6~18のアリール基、又は置換もしくは無置換の総炭素数4~12ヘテロ環基が好ましく、その中でも、水素原子、総炭素原子数1~8の直鎖アルキル基及び又は分岐のアルキル基が好ましく、特に水素原子、又は1~8のアルキル基が好ましく、水素原子が最も好ましい。
【0072】
及びZとしては、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアルキニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、又は置換もしくは無置換のヘテロ環基が好ましく、置換アリール基、又は置換基へテロ環基がより好ましく、置換基アリール基が更に好ましい。
【0073】
また、R、R、X、X、Y、Y、Z、及びZは、各々独立に、置換基として、炭素数1~12の直鎖又は分岐鎖アルキル基、炭素数7~18の直鎖又は分岐鎖アラルキル基、炭素数2~12の直鎖又は分岐鎖アルケニル基、炭素数2~12の直鎖又は分岐鎖アルキニル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、炭素数3~12のシクロアルケニル基(以上の各基は、分岐鎖を有するものが染料の溶解性及びインクの安定性を向上させる理由から好ましく、不斉炭素を有するものが特に好ましい。例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、sec-ブチル、t-ブチル、2-エチルヘキシル、2-メチルスルホニルエチル、3-フェノキシプロピル、トリフルオロメチル、シクロペンチル)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子)、アリール基(例えば、フェニル、4-t-ブチルフェニル、2,4-ジ-t-アミルフェニル)、ヘテロ2-ピリミジニル、2-ベンゾチアゾリル)、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アミノ基、アルキルオキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、2-メトキシエトキシ、2-メチルスルホニルエトキシ)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、2-メチルフェノキシ、4-t-ブチルフェノキシ、3-ニトロフェノキシ、3-t-ブチルオキシカルボニルフェノキシ、3-メトキシカルボニルフェニルオキシ、アシルアミノ基(例えば、アセトアミド、ベンズアミド、4-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノキシ)ブタンアミド)、アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルブチルアミノ)、アニリノ基(例えば、フェニルアミノ、2-クロロアニリノ)、ウレイド基(例えば、フェニルウレイド、メチルウレイド、N,N-ジブチルウレイド)、スルファモイルアミノ基(例えば、N,N-ジプロピルスルファモイルアミノ)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、オクチルチオ、2-フェノキシエチルチオ)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ、2-ブトキシ-5-t-オクチルフェニルチオ、2-カルボキシフェニルチオ)、アルキルオキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ)、アルキルスルホニルアミノ基及びアリールスルホニルアミノ基(例えば、メチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ、p-トルエンスルホニルアミノ)、カルバモイル基(例えば、N-エチルカルバモイル、N,N-ジブチルカルバモイル)、スルファモイル基(例えば、N-エチルスルファモイル、N,N-ジプロピルスルファモイル、N-フェニルスルファモイル)、スルホニル基(例えば、メチルスルホニル、オクチルスルホニル、フェニルスルホニル、p-トルエンスルホニル)、アルキルオキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、ブチルオキシカルボニル)、ヘテロ環オキシ基(例えば、1-フェニルテトラゾール-5-オキシ、2-テトラヒドロピラニルオキシ)、アゾ基(例えば、フェニルアゾ、4-メトキシフェニルアゾ、4-ピバロイルアミノフェニルアゾ、2-ヒドロキシ-4-プロパノイルフェニルアゾ)、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ)、カルバモイルオキシ基(例えば、N-メチルカルバモイルオキシ、N-フェニルカルバモイルオキシ)、シリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ、ジブチルメチルシリルオキシ)、アリールオキシカルボニルアミノ基(例えば、フェノキシカルボニルアミノ)、イミド基(例えば、N-スクシンイミド、N-フタルイミド)、ヘテロ環チオ基(例えば、2-ベンゾチアゾリルチオ、2,4-ジ-フェノキシ-1,3,5-トリアゾール-6-チオ、2-ピリジルチオ)、スルフィニル基(例えば、3-フェノキシプロピルスルフィニル)、ホスホニル基(例えば、フェノキシホスホニル、オクチルオキシホスホニル、フェニルホスホニル)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル)、アシル基(例えば、アセチル、3-フェニルプロパノイル、ベンゾイル)、イオン性親水性基(例えば、カルボン酸塩、スルホン酸もしくはスルホン酸塩、ホスホン酸もしくはホスホン酸塩、又は4級アンモニウム基)を有してもよい。
【0074】
Gは、5員~8員の含窒素ヘテロ環を形成する原子団を表す。
Gにおける5員~8員の含窒素ヘテロ環の好ましい例としては、S-トリアジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、ピリジン環、イミダゾール環、ピラゾール環、又はピロール環が挙げられ、中でも、S-トリアジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、又はピラジン環がより好ましく、S-トリアジン環が更に好ましい。
【0075】
Mは、水素原子又はカチオンを表す。
Mにおけるカチオンとしては、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン(NH )、又は第4級アンモニウムイオン(NR )が好ましく、Liイオン、Naイオン、Kイオン、NH イオン、又はNR イオンがより好ましい。ここで、Rは、アルキル基又はアリール基を表し、R等及びY等で表されるアルキル基及びアリール基の例と同義である。中でも、Mとしては、Liイオン、Naイオン、Kイオン、又はNH イオンが好ましく、Liイオン、Naイオン、又はKイオンが更に好ましく、Liイオンが最も好ましい。
【0076】
m1は、0~3の整数を表す。
Gにおける5員~8員の含窒素ヘテロ環の好ましい例の構造に-OM基が置換可能な場合、m1は、0~2が好ましい。中でも、m1は、0又は1がより好ましく、m1=1が更に好ましい。
【0077】
一般式(Y-1)において、以下の(イ)~(ト)を含む組み合わせが特に好ましい。
(イ)R及びRは、同一でも異なっていてもよく、置換もしくは無置換の総炭素数1~12のアルキル基、置換もしくは無置換の総炭素数6~18のアリール基、又は置換もしくは無置換の総炭素数4~12ヘテロ環基が好ましく、総炭素原子数1~8の直鎖アルキル基もしくは分岐のアルキル基、又はアミノ基がより好ましく、2級又は3級アルキル基又はアミノ基が更に好ましく、t-ブチル基又はアミノ基が特に好ましい。
(ロ)X及びXは、同一でも異なっていてもよく、シアノ基、炭素数1~12のアルキルスルホニル基、炭素数6~18のアリールスルホニル基、又は炭素数0~12のスルファモイル基がより好ましく、シアノ基、又は炭素数1~12のアルキルスルホニル基が更に好ましい。
(ハ)Y及びYは、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換の総炭素数1~12のアルキル基、置換もしくは無置換の総炭素数6~18のアリール基、又は置換もしくは無置換の総炭素数4~12ヘテロ環基が好ましく、水素原子、又は置換もしくは無置換のアルキル基がより好ましく、水素原子が更に好ましい。
(ニ)Z及びZは、同一でも異なっていてもよく、置換もしくは無置換の総炭素数1~12アルキル基、置換もしくは無置換の総炭素数6~18のアリール基、又は置換もしくは無置換の総炭素数4~12ヘテロ環基が好ましく、置換もしくは無置換のアリール基、又は置換もしくは無置換のヘテロ環基がより好ましく、置換アリール基が更に好ましい。
置換アルキル基、置換アリール基及び置換ヘテロ環基は、置換基として、イオン性親水性基(例えば、カルボン酸塩(好ましくはアルカリ金属の塩)、スルホン酸もしくはスルホン酸塩(好ましくはアルカリ金属の塩)、ホスホン酸もしくはホスホン酸塩(好ましくはアルカリ金属の塩))が置換したものが好ましい。
(ホ)Gは、5員~8員の含窒素ヘテロ環を形成する原子団を表し、5~8員の含窒素ヘテロ環の好ましい例は、S-トリアジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、ピリジン環、イミダゾール環、ピラゾール環、又はピロール環である。中でも、S-トリアジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、又はピラジン環が好ましく、S-トリアジン環が最も好ましい。
(ヘ)m1は、0~3の整数を表す。Gにおける5員~8員の含窒素ヘテロ環の好ましい例の構造に-OM基が置換可能な場合は、m1は0~2が好ましく、0又は1がより好ましく、m1=1が更に好ましい。
(ト)Mは、水素原子又はカチオンが好ましく、水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウム又は第4級アンモニウムカチオンがより好ましく、更に好ましくはLiイオン、Naイオン、Kイオン、又はNH イオンで、最も好ましくはLiイオンである。
【0078】
一般式(Y-1)で表される化合物の中でも、下記一般式(Y-1-1)で表される化合物が好ましい。
【0079】
【化10】

【0080】
一般式(Y-1-1)において、R、R、Y及びYは、各々独立に、一般式(Y-1)におけるR、R、Y及びYとそれぞれ同義であり、好ましい態様も同様である。
及びXは、各々独立に、シアノ基、炭素数1~12のアルキルスルホニル基、炭素数6~18のアリールスルホニル基、又は炭素数0~12のスルファモイル基を表し、シアノ基、又は炭素数1~12のアルキルスルホニル基が好ましい。
及びZは、各々独立に、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のアルキニル基、置換又は無置換のアラルキル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロ環基を表す。中でも、Z及びZは、置換もしくは無置換の総炭素数1~12アルキル基、置換もしくは無置換の総炭素数6~18のアリール基、又は置換もしくは無置換の総炭素数4~12ヘテロ環基が好ましく、置換もしくは無置換のアリール基又は置換もしくは無置換のヘテロ環基がより好ましく、置換アリール基が更に好ましい。
なお、Z及びZが有してもよい置換基は、一般式(Y-1)中のR、R、X、X、Y、Y、Z、及びZが有してもよい置換基と同様であり、好ましい態様も同様である。
Mは、水素原子又はカチオンを表し、水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、又は第4級アンモニウムイオンが好ましく、Liイオン、Naイオン、Kイオン、又はNH イオンがより好ましく、Liイオンが最も好ましい。
【0081】
本開示において、一般式(Y-1)及び(Y-1-1)で表される化合物が親水性を有することが好ましい場合、分子内に2個以上のイオン性親水性基を有することが好ましく、2個~10個のイオン性親水性基を有することがより好ましく、3個~6個のイオン性親水性基を有することが更に好ましい。
【0082】
一般式(Y-1)で表される化合物及びその塩の具体例を以下に示す。但し、本開示において、以下に示す具体例に制限されるものではない。
【0083】
【化11】

【0084】
次に、一般式(Y-2)で表される化合物及びその塩について説明する。
【0085】
【化12】

【0086】
一般式(Y-2)の詳細については、特開2012-193330号公報の段落0305~0308の記載を参照することができる。
【0087】
一般式(Y-2)において、複数のMは、各々独立に、水素原子又はカチオンを表す。
Mにおけるカチオンとしては、例えば、Liイオン、Naイオン、Kイオン、及びNH イオン等が挙げられる。
【0088】
カチオンとしては、Naイオン、Kイオン、又はNH イオンが好ましく、Naイオン、Kイオンがより好ましく、Liイオンが更に好ましい。一般式(Y-2)で表される染料において、Mの主成分がLiイオンであることが好ましく、全てのMがLiイオンであることがより好ましい。主成分であるとは、全てのMの70質量%以上を占めることをいう。
【0089】
また、混合塩ではなく、インク組成物中に含まれる全ての一般式(Y-2)で表される染料のMがKイオンであることが最も好ましい。全てのMがKイオンであることにより、水溶液又はインク溶液中に溶解した分子分散状態において、イオン性親水性基であるカルボキシ基又はその塩(-COM)が解離して-CO-とMにイオン化した状態でカチオン種が交換することにより、より水溶液又はインク溶液に対して溶解性の低い塩の状態を形成して着色剤の塩の状態で析出することを抑制し易いという効果が得られるためである。
【0090】
一般式(Y-2)で表される化合物及びその塩の具体例を以下に示す。但し、本開示において、以下に示す具体例に制限されるものではない。
一般式(Y-2)で表される化合物の中でも、特にYELLOW-4が好ましい。
【0091】
【化13】

【0092】
イエローインク組成物における、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの質量の比率としては、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
リチウムの質量の比率が70質量%以上である場合、インク組成物中に含まれるリチウム以外のアルカリ金属(特にカリウム)の含有量が少ないため、イエローインク組成物以外のインク組成物と混ざった際の増粘現象が効果的に抑えられる。これにより、インク組成物が堆積して起きる記録媒体のインク汚れを抑制できる。
【0093】
-他の成分-
本開示におけるイエローインク組成物は、上記の着色剤、溶剤以外に、界面活性剤、並びにコロイダルシリカ、水溶性高分子剤、消泡剤、pH調整剤、防腐剤、重合禁止剤、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防黴剤、粘度調整剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の添加剤などの他の成分を更に含有していてもよい。これら他の成分はイエローインク組成物のみならず、後述するマゼンタインク組成物、シアンインク組成物、及びブラックインク組成物においても同様である。
【0094】
(界面活性剤)
本開示におけるイエローインク組成物は、本発明の実施形態に係る効果を損なわない範囲において、界面活性剤を含有することができる。界面活性剤を含有することで表面張力を下げて吐出性を向上させることが可能である。
しかしながら、界面活性剤を含有することによる弊害(吐出口近傍での気泡による吐出異常など)を回避する観点から、界面活性剤を実質的に含有しないことが好ましい。したがって、本開示では、イエローインク組成物における界面活性剤の含有量は、インク組成物の全質量に対して、0.1質量%未満であることが好ましい。
ここで、界面活性剤の含有量がインク組成物の全質量に対して0.1質量%未満であることは、インク組成物が界面活性剤を実質的に含有しないこと、即ち界面活性剤の含有量が界面活性能を発現しない程度であることを示す。
【0095】
本開示のインクセットでは、界面活性剤を含有せず、低SP値の溶剤、即ち、既述の「SP値が22~26の窒素原子を含有しない溶剤」を含有することによって、表面張力を下げて吐出性を向上させる組成を採用している。これは、特に短時間で動的表面張力を下げる効果が界面活性剤よりも大きく、また、界面活性剤を使用することで気泡が発生し易くなることに起因する様々な弊害を回避する点に好ましい。
【0096】
界面活性剤としては、分子内に親水部と疎水部とを合わせ持つ構造を有する化合物を使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及びベタイン系界面活性剤のいずれでもよい。
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤が好ましく、アセチレングリコール誘導体(アセチレングリコール系界面活性剤)がより好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。界面活性剤は、上市されている市販品を用いてもよく、市販品の例としては、日信化学工業社製のEシリーズ(例えば、オルフィンE1010等)などを挙げることができる。
【0097】
(コロイダルシリカ)
本開示におけるイエローインク組成物は、コロイダルシリカを含有していてもよい。コロイダルシリカを含有することで、インク組成物の連続吐出時の安定性をより向上させることができる。
コロイダルシリカは、平均粒子径が数100nm以下のケイ素を含む無機酸化物の微粒子からなるコロイドである。コロイダルシリカは、主成分として二酸化ケイ素(その水和物を含む)を含み、少量成分としてアルミン酸塩(アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムなど)を含んでいてもよい。
またコロイダルシリカには、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等の無機塩類やテトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の有機塩類が含まれていてもよい。これらの無機塩類及び有機塩類は、例えば、コロイドの安定化剤として作用する。
コロイダルシリカについては、例えば、特開2011-202117号公報の段落0043~0050の記載を適宜参照することができる。
また、本開示におけるインク組成物は、必要に応じ、コロイダルシリカに代えて、又は、コロイダルシリカに加えて、ケイ酸アルカリ金属塩を含有してもよい。ケイ酸アルカリ金属塩については、特開2011-202117号公報の段落0052~0056の記載を適宜参照することができる。
【0098】
本開示におけるイエローインク組成物がコロイダルシリカを含む場合、コロイダルシリカの含有量は、インク組成物の全量に対し、0.0001質量%~10質量%が好ましく、0.01質量%~3質量%がより好ましく、0.02質量%~0.5質量%がさらに好ましく、0.03質量%~0.3質量%が特に好ましい。
【0099】
(水溶性高分子化合物)
本開示におけるイエローインク組成物は、水溶性高分子化合物を含有してもよい。
水溶性高分子化合物としては、特に限定はなく、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等の公知の水溶性高分子化合物を用いることができる。また、水溶性高分子化合物としては、後述する処理液に含まれることがある特定高分子化合物、及び特開2013-001854号公報の段落0026~0080に記載された水溶性高分子化合物も好適である。
【0100】
本開示におけるイエローインク組成物が水溶性高分子化合物を含有する場合、水溶性高分子化合物の含有量は、インク組成物全量に対し、0.0001質量%~10質量%が好ましく、0.01質量%~3質量%がより好ましく、0.02質量%~0.5質量%がさらに好ましく、0.03質量%~0.3質量%が特に好ましい。
【0101】
(消泡剤)
本開示におけるイエローインク組成物は、消泡剤を含有していてもよい。
消泡剤としては、例えばシリコーン系化合物(シリコーン系消泡剤)、プルロニック系化合物(プルロニック系消泡剤)等が挙げられ、これらの中でも、シリコーン系消泡剤が好ましい。シリコーン系消泡剤としては、ポリシロキサン構造を有するシリコーン系消泡剤が好ましい。
消泡剤としては、市販品を用いることができる。市販品としては、BYK-012、017、021、022、024、025、038、094(以上、ビックケミー・ジャパン(株)製)、KS-537、KS-604、KM-72F(以上、信越化学工業(株)製)、TSA-739(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、オルフィンAF104(日信化学工業(株)製)等が挙げられる。
中でも、シリコーン系消泡剤である、BYK-017、021、022、024、025、094、KS-537、KS-604、KM-72F、TSA-739が好ましく、中でも、インクの吐出安定性の点でBYK-024が最も好ましい。
【0102】
本開示におけるイエローインク組成物が消泡剤を含有する場合、消泡剤の含有量は、インク組成物全量に対して、0.0001質量%~1質量%が好ましく、0.001質量%~0.1質量%がより好ましい。
【0103】
(pH調整剤)
本開示におけるイエローインク組成物は、pH調整剤を含有していてもよい。
pH調整剤としては、調合されるインク組成物に悪影響を及ぼさずにpHを所望の値に調整できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、アルコールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオールなど)、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アンモニウム水酸化物(例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物など)、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などが挙げられる。
本開示におけるイエローインク組成物がpH調整剤を含有する場合、pH調整剤の含有量は、インク組成物のpHが5~10(より好ましくは7.0~9.5)となる量が好ましい。
【0104】
本開示におけるイエローインク組成物は、pH緩衝剤として、無機塩を含有していてもよい。無機塩を含有することで、pH変動を抑制でき吐出を安定にすることができる。
pH緩衝剤としての無機塩としては、炭酸塩、リン酸塩などが挙げられ、部材耐性から炭酸塩が好ましい。炭酸塩としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素リチウムなどが挙げられ、染料の溶解性を低下させないという観点から、炭酸リチウム又は炭酸水素リチウムが特に好ましい。
無機塩は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本開示におけるイエローインク組成物が無機塩を含有する場合、インク組成物中における無機塩の含有量(2種以上の場合には合計の含有量)に特に制限はないが、インク組成物の全量に対して、0.001質量%~1質量%が好ましく、0.01質量%~0.5質量%がより好ましく、0.03質量%~0.1質量%が特に好ましい。
【0105】
(2)マゼンタインク組成物
本開示におけるマゼンタインク組成物は、一般式(M)又は一般式(MM)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物(マゼンタ染料ともいう。)と、溶剤A、溶剤B、溶剤C、及び溶剤Dと、水と、を含有し、更に、必要に応じて、界面活性剤及び添加剤等の他の成分を含有してもよい。
なお、マゼンタインク組成物における溶剤A、溶剤B、溶剤C、溶剤D、水、及び他の成分は、既述のイエローインク組成物における場合と同義であり、好ましい態様も同様である。したがって、本欄での詳細な説明は省略する。
【0106】
【化14】

【0107】
一般式(M)の詳細については、特開2007-138124号公報の段落0520~0563、段落0496、段落0500、段落0507、段落0514、及び段落0553等の記載を参照することができる。
【0108】
一般式(M)において、Z11は、ハメットの置換基定数σ値が0.2以上の電子求引性基を表す。Z11における電子吸引性基は、ハメットの置換基定数σ値が0.20以上、好ましくは0.30以上の電子吸引性基である。σ値の上限としては、好ましくは1.0以下である。
【0109】
σ値が0.20以上の電子吸引性基の具体例としては、アシル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ジアルキルホスホノ基、ジアリールホスホノ基、ジアリールホスフィニル基、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホニルオキシ基、アシルチオ基、スルファモイル基、チオシアネート基、チオカルボニル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ハロゲン化アリールオキシ基、ハロゲン化アルキルアミノ基、ハロゲン化アルキルチオ基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、アゾ基、セレノシアネート基、及びσ値が0.20以上の他の電子吸引性基で置換されたアリール基が挙げられる。
【0110】
11としては、シアノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ニトロ基、又はハロゲン原子が好ましく、シアノ基、アルキルスルホニル基、又はアリールスルホニル基がより好ましく、シアノ基が更に好ましい。Z11における置換基は、さらに置換されていてもよい。
【0111】
12は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、芳香族基、ヘテロ環基、又はアシル基を表す。中でも、Z12は、アルキル基がより好ましい。Z12における置換基は、さらに置換されていてもよい。
【0112】
11及びR12は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、又はスルファモイル基を表す。各基は更に置換基を有していてもよい。
但し、R11及びR12は、同時に水素原子を表すことはない。
【0113】
上記の中でも、R11及びR12は、各々独立に、水素原子、置換又は無置換のシクロアルキル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロ環基、置換又は無置換のアシル基、置換又は無置換のアルキルスルホニル基、置換又は無置換のアリールスルホニル基が好ましく、更に水素原子、置換アリール基、置換ヘテロ環基が好ましく、その中でも置換アリール基、置換ヘテロ環基が特に好ましい。
置換基で置換されている場合の置換基は、炭素数1~12の直鎖又は分岐鎖アルキル基、炭素数7~18の直鎖もしくは分岐鎖アラルキル基、炭素数2~12の直鎖もしくは分岐鎖アルケニル基、炭素数2~12の直鎖もしくは分岐鎖アルキニル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、炭素数3~12のシクロアルケニル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、sec-ブチル、t-ブチル、2-エチルヘキシル、2-メチルスルホニルエチル、3-フェノキシプロピル、トリフルオロメチル、シクロペンチル)、又はイオン性親水性基(例えば、カルボン酸塩(好ましくはアルカリ金属の塩)、スルホン酸もしくはスルホン酸塩(好ましくはアルカリ金属の塩)、ホスホン酸もしくはホスホン酸塩(好ましくはアルカリ金属の塩))が好ましい。
但し、R11及びR12が同時に水素原子であることはない。
【0114】
13、R14、b、c、及びdは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキル基もしくはアリール基もしくはヘテロ環基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、スルファモイル基、ヘテロ環チオ基、又はイオン性親水性基を表し、各基は更にこれらの基で置換されていてもよい。
【0115】
13及びR14は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基が好ましく、水素原子、アルキル基、シアノ基、カルボキシ基がより好ましい。各基は、更に置換されていてもよく、置換基は、R11及びR12と同様に、炭素数1~12の直鎖又は分岐鎖アルキル基、炭素数7~18の直鎖もしくは分岐鎖アラルキル基、炭素数2~12の直鎖もしくは分岐鎖アルケニル基、炭素数2~12の直鎖もしくは分岐鎖アルキニル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、炭素数3~12のシクロアルケニル基、又はイオン性親水性基が好ましい。
【0116】
上記の中でも、R13が水素原子であり、R14が炭素数1~6のアルキル基である場合が好ましく、R13が水素原子であり、R14がメチル基である場合がより好ましい。
【0117】
また、b、c、及びdは、各々独立に、水素原子、アルキル基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、イオン性親水性基が好ましく、水素原子、アルキル基、シアノ基、イオン性親水性基がより好ましい。各基は、更に置換されていてもよく、置換基は、R11及びR12と同様に、炭素数1~12の直鎖又は分岐鎖アルキル基、炭素数7~18の直鎖もしくは分岐鎖アラルキル基、炭素数2~12の直鎖もしくは分岐鎖アルケニル基、炭素数2~12の直鎖もしくは分岐鎖アルキニル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、炭素数3~12のシクロアルケニル基、又はイオン性親水性基が好ましい。
上記の中でも、cは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、水素原子又はメチル基が更に好ましい。
また、b及びdは、各々独立に、水素原子又はイオン性親水性基がより好ましく、水素原子、スルホン酸もしくはスルホン酸塩(好ましくはアルカリ金属塩)、又はカルボン酸もしくはカルボン酸塩(好ましくはアルカリ金属塩)が更に好ましく、bとdの組み合わせが水素原子とスルホン酸もしくはスルホン酸塩との組み合わせであることが特に好ましい。
【0118】
a及びeは、各々独立に、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、a及びeが共にアルキル基を表す場合、アルキル基の合計の炭素数は3以上であり、a及びeにおけるアルキル基は更に置換されていてもよい。
【0119】
13とR11、又は、R11とR12は、それぞれ互いに結合して5員環又は6員環を形成してもよい。
aとb、又は、eとdは、それぞれ互いに結合して環を形成してもよい。
【0120】
Qは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、芳香族基、又はヘテロ環基を表す。Qにおける基は、置換基を有していてもよい。
Qは、電子吸引性基で置換されたアリール基又は電子吸引性基で置換されたヘテロ環基が好ましい。Qの置換基である電子吸引性基は、ハメットの置換基定数σ値が0.20以上である基が好ましく、ハメットの置換基定数σ値が0.30以上の基であることがより好ましい。σ値の上限としては、好ましくは1.0以下である。σ値が0.20以上の電子吸引性基の具体例としては、一般式(M)におけるZ11と同義であり、スルホン酸もしくはスルホン酸塩(好ましくはアルカリ金属塩)、又はカルボン酸もしくはカルボン酸塩(好ましくはアルカリ金属塩)が好ましい。
【0121】
一般式(M)において、以下の(イ)~(ヘ)を含む組み合わせが特に好ましい。
(イ)Z11は、ハメットの置換基定数σ値が0.20以上、好ましくは0.30以上の電子吸引性基である。σ値の上限としては、好ましくは1.0以下である。Z11として更に好ましくはシアノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ニトロ基、又はハロゲン原子であり、シアノ基、アルキルスルホニル基、又はアリールスルホニル基がより好ましく、中でもシアノ基が最も好ましい。
(ロ)Z12としては水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、又はアシル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。各置換基はさらに置換されていてもよい。更に詳しくは、Z12としてのアルキル基には、置換基を有するアルキル基及び無置換のアルキル基が含まれる。アルキル基は、置換基の炭素原子を除いた炭素原子数が1~12のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基が好ましい。置換基の例には、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ハロゲン原子、及びイオン性親水性基が含まれる。中でも、メチル、エチル、ブチル、イソプロピル、t-ブチル、ヒドロキシエチル、メトキシエチル、シアノエチル、トリフルオロメチル、3-スルホプロピル及び4-スルホブチルが好ましく、特にイソプロピル、t-ブチルが好ましく、t-ブチルが最も好ましい。
(ハ)Qは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、芳香族基又はヘテロ環基を表す。これら各置換基はさらに置換されていてもよい。更にQは、電子吸引性基で置換された、アリール基又はヘテロ環基が好ましい。Qの置換基となる電子吸引性基は、ハメットの置換基定数σ値が0.20以上、好ましくは0.30以上の電子吸引性基である。σ値の上限としては、好ましくは1.0以下である。更に詳しくは、電子吸引性基で置換されたヘテロ環基が好ましく、スルホ基、置換又は無置換のカルバモイル基、置換又は無置換のスルファモイル基で置換されたベンズオキサゾール環、ベンゾチアゾール環が好ましく、スルホ基、置換スルファモイル基で置換されたベンゾチアゾール環が特に好ましい。
(ニ)a及びeは、アルキル基又はハロゲン原子が好ましく、a及びeが共にアルキル基の場合は無置換アルキル基であって、a及びeの炭素数の合計が3以上(好ましくは5以下)であり、a、b、c及びdは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、イオン性親水性基(好ましくは、各々水素原子、炭素数1~4のアルキル基、イオン性親水性基)の場合が好ましい。更に好ましくは、a及びeは、各々独立に、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましく、エチル基、イソプロピル基がより好ましく、a=b=エチル基又はイソプロピル基が更に好ましい。
cは、水素原子又はアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
b及びdは、各々独立に、水素原子、イオン性親水性基が好ましく、水素原子、スルホ基、カルボキシ基がより好ましく、bとdの組み合わせが水素原子とスルホ基であることが更に好ましい。
(ホ)R13が水素原子であり、R14がアルキル基(特にメチル基)である。
(ヘ)R11及びR12は、各々独立に、水素原子、置換アリール基、置換ヘテロ環基である。
【0122】
一般式(M)で表される化合物は、その分子内にイオン性親水性基を少なくとも1つ(好ましくは、3つ以上6つ以下)有する。即ち、一般式(M)において、Z11、Z12、R11、R12、R13、R14、a、b、c、d、e及びQの少なくとも1つは、少なくとも一つのイオン性親水性基を有する。
イオン性親水性基には、スルホン酸基(スルホ基)、カルボン酸基(カルボキシ基)、ホスホン酸基(ホスホノ基)及び4級アンモニウム基等が含まれる。イオン性親水性基としては、カルボキシ基、ホスホノ基、及びスルホ基が好ましく、中でもカルボキシ基、スルホ基が好ましい。特に少なくとも1つはスルホ基であることが最も好ましい。カルボキシ基、ホスホノ基及びスルホ基は塩の状態であってもよく、塩を形成する対イオンの例には、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン(例、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン)及び有機カチオン(例、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラメチルグアニジウムイオン、テトラメチルホスホニウム)が含まれる。対イオンの中でも、アルカリ金属塩が好ましい。アルカリ金属塩の中でも、カリウムイオン、ナトリウムイオン、リチウムイオンが好ましく、リチウムイオンが最も好ましい。特に、溶解性向上及びインクジェット記録時のブロンズ抑制の観点から、イオン性親水性基がスルホ基で、かつ、その対イオンがリチウムイオンの組み合わせが最も好ましい。
【0123】
一般式(M)で表される化合物は、分子内にイオン性親水性基を3つ以上6つ以下有することが好ましく、スルホ基を3つ以上6つ以下有することがより好ましく、スルホ基を3つ以上5つ以下有することが更に好ましい。
【0124】
一般式(M)で表される化合物及びその塩の具体例を以下に示す。但し、本開示において、以下に示す具体例に制限されるものではない。
【0125】
【化15】

【0126】
【化16】

【0127】
次に、一般式(MM)で表される化合物及びその塩について説明する。
【0128】
【化17】

【0129】
一般式(MM)中、R、R、R、及びR10は、各々独立に、アルキル基を表す。R、R、R、R、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19及びR20は、各々独立に、水素原子又は置換基を表す。M及びMは、各々独立に、水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンを表す。
【0130】
一般式(MM)中のR、R、R、及びR10は、各々独立に、アルキル基を表し、原材料の入手性と合成の容易性の観点から、炭素数1~6のアルキル基を表すことが好ましく、炭素数1~3のアルキル基を表すことがより好ましく、メチル基、エチル基、又はイソプロピル基を表すことが更に好ましく、メチル基を表すことが特に好ましい。
、R、R、及びR10が表すアルキル基は、置換基を有していてもよく、置換基としては、下記の置換基群Aから選ばれる置換基が挙げられる。
【0131】
一般式(MM)中のR及びRが置換基を表す場合の置換基としては、下記の置換基群Aから選ばれる置換基が挙げられ、その中でもアルキル基を表すことが好ましい。R及びRがアルキル基を表す場合、原材料の入手性と合成の容易性の観点から、炭素数1~3のアルキル基を表すことがより好ましく、メチル基、エチル基、又はイソプロピル基を表すことが更に好ましく、メチル基を表すことが最も好ましい。
【0132】
一般式(MM)中のR及びRが置換基を表す場合の置換基としては、下記の置換基群Aから選ばれる置換基が挙げられ、その中でもアルキル基を表すことが好ましい。一般式(MM)中のR及びRは各々独立に水素原子又はアルキル基を表すことが好ましく、原料の入手性、合成の容易性の観点から水素原子を表すことがより好ましい。
【0133】
一般式(MM)中のR、R、R、及びRがアルキル基を表す場合、アルキル基は置換基を有していてもよく、置換基としては、下記の置換基群Aから選ばれる置換基が挙げられる。
【0134】
(置換基群A)
ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル又はアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、アルキル又はアリールスルフィニル基、アルキル又はアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール又はヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基、イオン性親水性基が例として挙げられる。これらの置換基は、更に置換されてもよく、更なる置換基としては、以上に説明した置換基群Aから選択される基を挙げることができる。
【0135】
一般式(MM)中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19及びR20は、各々独立に、水素原子又は置換基を表す。置換基としては、上記置換基群Aから選ばれる置換基が挙げられる。
11及びR16は、各々独立に、水素原子、ヒドロキシ基、塩素原子、又はメチル基を表すことが好ましく、水素原子、ヒドロキシ基、又はメチル基を表すことがより好ましく、水素原子又はヒドロキシ基を表すことが更に好ましく、ヒドロキシ基を表すことが特に好ましい。
12、R14、R17及びR19は、各々独立に、水素原子又はイオン性親水性基を表すことが好ましく、水素原子、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、スルホ基、又はスルホ基の塩を表すことがより好ましく、水素原子又はカルボキシ基もしくはその塩を表すことが更に好ましく、カルボキシ基又はその塩を表すことが特に好ましい。
塩としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩が好ましく、アルカリ金属の塩がより好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウム等が挙げられる。
13及びR18は各々独立に水素原子又はイオン性親水性基を表すことが好ましく、水素原子又はカルボキシ基を表すことがより好ましく、水素原子を表すことが更に好ましく、R13及びR18が共に水素原子を表すことが特に好ましい。
【0136】
一般式(MM)で表される化合物は、下記の条件(i-1)及び(i-2)の少なくとも一方を満たすことが好ましく、下記の条件(i-1)及び(i-2)の両方を満たすことがより好ましい。
条件(i-1):R11、R12、R13、R14、及びR15のうち少なくとも1つはカルボキシ基又はその塩を表す。
条件(i-2):R16、R17、R18、R19、及びR20のうち少なくとも1つはカルボキシ基又はその塩を表す。
【0137】
一般式(MM)で表される化合物は、下記の条件(ii-1)及び(ii-2)の少なくとも一方を満たすことが好ましく、下記の条件(ii-1)及び(ii-2)の両方を満たすことがより好ましい。
条件(ii-1):R11、R12、R13、R14、及びR15のうち、少なくとも1つはヒドロキシ基を表し、かつ、少なくとも1つはカルボキシ基又はその塩を表す。
条件(ii-2):R16、R17、R18、R19、及びR20のうち、少なくとも1つはヒドロキシ基を表し、かつ、少なくとも1つはカルボキシ基又はその塩を表す。
【0138】
条件(i-1)又は(ii-1)を満たす場合のうち、R11、R12、R13、R14、及びR15のうち2つがカルボキシ基又はその塩を表すことが特に好ましい。
条件(i-2)又は(ii-2)を満たす場合のうち、R16、R17、R18、R19、及びR20のうち2つがカルボキシ基又はその塩を表すことが特に好ましい。
【0139】
特に、R11がヒドロキシ基を表し、R12及びR14がカルボキシ基又はその塩を表し、R13及びR15が水素原子を表し、R16がヒドロキシ基を表し、R17及びR19がカルボキシ基又はその塩を表し、R18及びR20が水素原子を表す場合が最も好ましい。
【0140】
一般式(MM)中のM及びMは、各々独立に、水素原子、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンを表し、水素原子、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、又はアンモニウムイオン(NH4+)を表すことが好ましく、リチウムイオン又はナトリウムイオンを表すことがより好ましく、リチウムイオン、又はリチウムイオンを主成分とする混合イオンを表すことが特に好ましく、リチウムイオンを表すことが最も好ましい。
【0141】
一般式(MM)で表される化合物及びその塩のうち、一般式(MM-1A)で表される化合物及びその塩であることが好ましい。
【0142】
【化18】
【0143】
一般式(MM-1A)中、R11及びR16は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又はメチル基を表す。Mは、水素原子、アルカリ金属イオン、又はアンモニウムイオンを表す。
【0144】
一般式(MM-1A)中のR11及びR16がハロゲン原子を表す場合のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が挙げられる。その中でも特に塩素原子又は臭素原子が好ましく、塩素原子が最も好ましい。
一般式(MM-1A)中のR11及びR16は、水素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、又はメチル基を表すことが好ましく、水素原子又はヒドロキシ基を表すことがより好ましく、ヒドロキシ基を表すことが最も好ましい。
【0145】
上記一般式(MM-1A)中、複数のMは、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属イオン、又はアンモニウムイオンを表す。Mは、それぞれ独立に、アルカリ金属イオン(好ましくは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオン)であることが好ましく、その中でも特に、リチウムイオン又はナトリウムイオンが好ましく、リチウムイオンが最も好ましい。
【0146】
一般式(MM)で表される化合物は、公知の方法(例えば、国際公開第2017/006939号に記載の方法等)で合成することができる。
【0147】
以下に一般式(MM)で表される化合物の具体例を挙げる。但し、本開示は、これらに限定されるものではない。なお、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表す。
【0148】
【化19】
【0149】
【化20】
【0150】
【化21】
【0151】
【化22】

【0152】
マゼンタインク組成物における、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの質量の比率は、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
リチウムの質量の比率が70質量%以上であると、マゼンタインク組成物以外のインク組成物(特にイエローインク組成物)と混ざった際の増粘現象が効果的に抑えられる。これにより、インク組成物が堆積して起きる記録媒体のインク汚れを抑制できる。
【0153】
本開示におけるマゼンタインク組成物は、溶剤A、溶剤B、溶剤C、及び溶剤Dを含有する。
マゼンタインク組成物における好ましい溶剤としては、イエローインク組成物における好ましい溶剤の態様と同様であり、その中でも、溶剤Aが2-エチル-1,3-ヘキサンジオールであり、溶剤Bが2-ピロリドンであり、溶剤Cが1,3-ブタンジオールであり、溶剤Dがグリセリンである態様が好ましい。
【0154】
(3)シアンインク組成物
本開示におけるシアンインク組成物は、一般式(C)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物(シアン染料ともいう。)と、溶剤A、溶剤B、溶剤C、及び溶剤Dと、水と、を含有し、更に、必要に応じて、界面活性剤及び添加剤等の他の成分を含有してもよい。
なお、シアンインク組成物における溶剤A、溶剤B、溶剤C、溶剤D、及び水は、既述のイエローインク組成物における場合と同義であり、好ましい態様も同様である。したがって、本欄での詳細な説明は省略する。
【0155】
【化23】

【0156】
一般式(C)の詳細については、特開2007-138124号公報の段落0608~0618、段落0586、段落0601~0603等の記載を参照することができる。
【0157】
一般式(C)において、R、R、R、R、R、R、R、及びRは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミド基、アリールアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルフィニル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、ヘテロ環オキシ基、アゾ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、シリルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルアミノ基、イミド基、ヘテロ環チオ基、ホスホリル基、アシル基又はイオン性親水性基を表し、各基は更に置換基を有していてもよい。
【0158】
、R、R、R、R、R、R、及びRとしては、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルフィニル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホスホリル基、アシル基又はイオン性親水性基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、スルファモイル基、スルフィニル基、スルホニル基、イオン性親水性基がより好ましく、水素原子が更に好ましい。
【0159】
、Z、Z、及びZは、各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表し、各基は更に置換基を有していてもよい。Z、Z、Z、及びZの少なくとも1つは、イオン性親水性基を置換基として有する。
、Z、Z、及びZは、各々独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアルキニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、好ましくは、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基であり、より好ましくは、置換アルキル基、置換アリール基、置換ヘテロ環基であり、更に好ましくは、置換アルキル基である。
但し、Z、Z、Z、及びZのうちの少なくとも1つは、イオン性親水性基を置換基として有している。
【0160】
l、m、n、p、q1、q2、q3及びq4は、各々独立に、1又は2の整数を表す。
中でも、l、m、n、及びpのうちの少なくとも2つは、1であることが好ましく、l=m=n=p=1であることが更に好ましい。
また、q1、q2、q3、及びq4のうちの少なくとも2つは、2であることが好ましく、q1=q2=q3=q4=2であることがより好ましい。
【0161】
Mは、金属原子、又は金属の酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表す。
Mにおける金属原子としては、Li、Na、K、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi等が挙げられる。酸化物としては、VO、GeO等が挙げられる。水酸化物としては、Si(OH)Cr(OH)、Sn(OH)等が挙げられる。ハロゲン化物としては、AlCl、SiCl、VCl、VCl、VOCl、FeCl、GaCl、ZrCl等が挙げられる。
中でも、Cu、Ni、Zn、Alが好ましく、Cuがより好ましい。
【0162】
また、L(2価の連結基)を介してPc(フタロシアニン環)が2量体(例えば、Pc-M-L-M-Pc)又は3量体を形成してもよい。この場合、Mはそれぞれ同一であっても異なるものであってもよい。
Lで表される2価の連結基は、オキシ基(-O-)、チオ基(-S-)、カルボニル基(-CO-)、スルホニル基(-SO-)、イミノ基(-NH-)、メチレン基(-CH-)、及びこれらの少なくとも二つを組み合わせた基が好ましい。
【0163】
一般式(C)で表される化合物のうち、下記一般式(C-1)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる化合物が好ましい。
【0164】
【化24】

【0165】
一般式(C-1)の詳細については、特開2007-138124号公報の段落0620~0626の記載を参照することができる。
【0166】
一般式(C-1)において、Z、Z、Z、Z、l、m、n、p及びMは、一般式(C)中のZ、Z、Z、Z、l、m、n、p及びMと同義である。
【0167】
一般式(C-1)において、n及びpは、各々独立に1又は2の整数である。
中でも、l、m、n、及びpのうちの少なくとも2つ以上は、1であることが好ましく、l=m=n=p=1がより好ましい。
【0168】
、Z、Z、及びZは、各々独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアルキニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基を表し、好ましくは、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基である。中でも、置換アルキル基、置換アリール基、置換ヘテロ環基が好ましく、置換アルキル基がより好ましい。
【0169】
、Z、Z、及びZは、各々独立に、Z11(Z11は-(CHSOを表し、Mはアルカリ金属原子を表す。)、及び/又は、Z12(Z12は、-(CHSONHCHCH(OH)CHを表す。)であり、特に一般式(C-1)で表されるシアン染料全体に含まれるZ11及びZ12のモル比が、Z11/Z12=4/0、3/1、2/2、1/3である染料混合物が好ましく、Z11/Z12=3/1を主成分となる染料混合物、及び/又は、Z11/Z12=2/2を主成分となる染料混合物がより好ましい。但し、Z、Z、Z、及びZのうち少なくとも1つは、イオン性親水性基を置換基として有する。
【0170】
11における「-(CHSO」において、Mはアルカリ金属原子が好ましく、リチウム、ナトリウム、カリウムイオンがより好ましく、リチウムイオンが更に好ましい。
Mは、一般式(C)中のMと同義であり、好ましい態様も同様である。
【0171】
一般式(C)で表される化合物及びその塩の具体例を以下に示す。但し、本開示において、以下に示す具体例に制限されるものではない。
【0172】
【化25】
【0173】
【化26】

【0174】
シアンインク組成物における、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの質量の比率は、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
リチウムの質量の比率が70質量%以上であると、シアンインク組成物以外のインク組成物(特にイエローインク組成物)と混ざった際の増粘現象が効果的に抑えられる。これにより、インク組成物が堆積して起きる記録媒体のインク汚れを抑制できる。
【0175】
本開示におけるシアンインク組成物は、溶剤A、溶剤B、溶剤C、及び溶剤Dを含有する。
シアンインク組成物における好ましい溶剤としては、イエローインク組成物における好ましい溶剤の組み合わせ態様と同様であり、その中でも、溶剤Aが2-エチル-1,3-ヘキサンジオールであり、溶剤Bが2-ピロリドンであり、溶剤Cが1,3-ブタンジオールであり、溶剤Dがグリセリンである態様が好ましい。
【0176】
(4)ブラックインク組成物
本開示におけるブラックインク組成物は、一般式(B)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物(ブラック染料ともいう。)と、溶剤A、溶剤B、溶剤C、及び溶剤Dと、水と、を含有し、一般式(B-1)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。ブラックインク組成物は、更に、必要に応じて、界面活性剤及び添加剤等の他の成分を含有してもよい。
なお、ブラックインク組成物における溶剤A、溶剤B、溶剤C、溶剤D、及び水は、既述のイエローインク組成物における場合と同義であり、好ましい態様も同様である。したがって、本欄での詳細な説明は省略する。
【0177】
【化27】

【0178】
一般式(B)の詳細については、特開2007-138124号公報の段落0690~0764、段落0673~0687等の記載を参照することができる。
【0179】
一般式(B)において、Aは、置換されていてもよい芳香族基又は置換されていてもよいヘテロ環基を表す。
Xは、窒素原子又は=C(W)-を表し、Wはハメットの置換基定数σ値が0.20以上の電子吸引性基を表す。
及びTは、各々=C(R43)-及び-C(R44)=を表すか、あるいはT及びTのいずれか一方が窒素原子を表し、他方が=C(R43)-又は-C(R44)=を表す。
、W、R43、及びR44は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アルキルアミノ基、アリ-ルアミノ基、及びヘテロ環アミノ基を含む。)、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、ヘテロ環スルホニルアミノ基、ニトロ基、アルキルアリールチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロ環スルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロ環スルフィニル基、スルファモイル基、又はスルホ基を表し、各基は更に置換されていてもよい。
41及びR42は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、又はスルファモイル基を表し、各基は更に置換基を有していてもよい。
但し、R41及びR42が同時に水素原子を表すことはない。
また、R43とR41、又は、R41とR42は、それぞれ互いに結合して5員環又は6員環を形成してもよい。
【0180】
一般式(B)で表される化合物のうち、下記一般式(B-1)又は下記一般式(B-2)で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる化合物が好ましい。
【0181】
【化28】

【0182】
まず、一般式(B-1)について詳述する。
一般式(B-1)において、R11及びR12は、各々独立に、イオン性親水性基を表し、好ましくは、スルホ基及びスルホ基の塩、カルボキシ基及びカルボキシ基の塩であり、より好ましくは、スルホ基である。m及びnは、各々独立に、1~3の整数を表し、1~2の整数が好ましく、m=1及びn=1の少なくとも一方を満たすことが更に好ましい。
【0183】
(イ)X、X、X、X、X、X、及びXは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、スルファモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、スルホ基(塩を含む)、カルボキシ基(塩を含む)、水酸基(塩でもよい)、ホスホノ基(塩でもよい)又は4級アンモニウムであり、中でも、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、スルホ基(塩を含む)、カルボキシ基(塩を含む)、水酸基(塩でもよい)が好ましく、水素原子、スルホ基(塩を含む)、カルボキシ基(塩を含む)が好ましく、特にX、X、X、X、X、X、及びXのうちの少なくとも1つがスルホ基(塩を含む)又はカルボキシ基(塩を含む)であることが好ましい。
【0184】
(ロ)Wは、置換フェニル基、置換又は無置換のナフチル基、置換又は無置換のヘテロ環基(例えば、ピロール環、チオフェン環、イミダゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、ピリジン環又はピリダジン環)であり、置換フェニル基(特にパラ位置換のフェニル基)、置換又は無置換のβ-ナフチル基、ピリジン環又はチアゾール環が好ましい。
【0185】
(ハ)R41及びR42は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルキル又はアリールスルホニル基が好ましく、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基がより好ましく、水素原子、置換基を有するアリール基、置換基を有するヘテロ環基が更に好ましく、水素原子、置換基を有するアリール基が特に好ましい。但し、R41及びR42が、同時に水素原子であることはない。また、R43とR41、又は、R41とR42がそれぞれ互いに結合して5員~6員環を形成してもよい。
【0186】
(ニ)R43及びR44は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、ヒドロキシ基、アミノ基(アルキルアミノ基、アリ-ルアミノ基、ヘテロ環アミノ基を含む)、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基、ヘテロ環スルホニルアミノ基を表す。各基は、更に置換されていてもよい。
43としては、水素原子、ハロゲン原子、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基が好ましく、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基がより好ましく、シアノ基が更に好ましい。
44としては、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、ヒドロキシ基、アミノ基(アルキルアミノ基、アリ-ルアミノ基、ヘテロ環アミノ基を含む)、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基、ヘテロ環スルホニルアミノ基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。
【0187】
(ホ)R45及びR46は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルキル又はアリールスルホニル基が好ましく、更に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基が好ましく、特に水素原子、置換基を有するアリール基、置換基を有するヘテロ環基が好ましく、水素原子、置換基を有するアリール基が最も好ましい。但し、R45及びR46が同時に水素原子であることはない。また、R45とR46が結合して5員~6員環を形成してもよい。
【0188】
一般式(B-1)の好ましい態様として、上記の(イ)~(ホ)の全てを満たす場合が特に好ましい。
【0189】
Wは、置換フェニル基、置換又は無置換のナフチル基、置換又は無置換のヘテロ環基(例えば、ピロール環基、チオフェン環基、イミダゾール環基、チアゾール環基、ベンゾチアゾール環基、ピリジン環基又はピリダジン環基)が好ましく、置換フェニル基(特にパラ位置換のフェニル基)、置換又は無置換のβ-ナフチル基、ピリジン環又はチアゾール環がより好ましい。
【0190】
次に、一般式(B-2)について詳述する。
一般式(B-2)において、R11及びR12は、各々独立に、イオン性親水性基を表し、スルホ基(塩を含む)、カルボキシ基(塩を含む)が好ましく、スルホ基がより好ましい。m及びnは、各々独立に、1~3の整数が好ましく、1~2の整数がより好ましく、m=1及びn=1の少なくとも一方を満たす場合が更に好ましい。
【0191】
(イ)X、X、X、X、X、X、及びXは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、スルファモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、スルホ基(塩を含む)、カルボキシ基(塩を含む)、水酸基(塩でもよい)、ホスホノ基(塩でもよい)又は4級アンモニウムを表し、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、スルホ基(塩を含む)、カルボキシ基(塩を含む)、水酸基(塩でもよい)が好ましく、水素原子、スルホ基(塩を含む)、カルボキシ基(塩を含む)がより好ましく、X、X、X、X、X、X、及びXのうちの少なくとも1つがスルホ基(塩を含む)又はカルボキシ基(塩を含む)であることが更に好ましい。
【0192】
(ロ)Wは、置換フェニル基、置換又は無置換のナフチル基、置換又は無置換のヘテロ環基(例えば、ピロール環基、チオフェン環基、イミダゾール環基、チアゾール環基、ベンゾチアゾール環基、ピリジン環基又はピリダジン環基)を表し、置換フェニル基(特にパラ位置換のフェニル基)、置換又は無置換のβ-ナフチル基、ピリジン環又はチアゾール環が好ましい。
【0193】
(ハ)W11は、ハメットの置換基定数σ値が0.20以上の電子吸引性基を表し、σ値が0.30以上の電子吸引性基が好ましく、0.45以上の電子吸引性基がより好ましく、0.60以上の電子吸引性基が更に好ましい。σ値は、1.0を超えないことが望ましい。上記の中では、W11としては、炭素数2~20のアシル基、炭素数2~20のアルキルオキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~20のアルキルスルホニル基、炭素数6~20のアリールスルホニル基、炭素数1~20のカルバモイル基、及び炭素数1~20のハロゲン化アルキル基が好ましく、更に好ましくは、シアノ基、炭素数1~20のアルキルスルホニル基、炭素数6~20のアリールスルホニル基であり、特に好ましくはシアノ基である。
【0194】
(ニ)R41及びR42は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルキル又はアリールスルホニル基が好ましく、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基がより好ましく、水素原子、置換基を有するアリール基、置換基を有するヘテロ環基が更に好ましく、水素原子、置換基を有するアリール基が特に好ましい。但し、R41及びR42が同時に水素原子であることはない。また、R43とR41、又は、R41とR42がそれぞれ互いに結合して5員~6員環を形成してもよい。
【0195】
(ホ)R43及びR44は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基、ヒドロキシ基、アミノ基(アルキルアミノ基、アリ-ルアミノ基、ヘテロ環アミノ基を含む)、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、ヘテロ環スルホニルアミノ基を表す。各基は、更に置換されていてもよい。
43としては、水素原子、ハロゲン原子、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、複素環オキシカルボニル基が好ましく、シアノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基がより好ましく、シアノ基が更に好ましい。
44としては、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環基、ヒドロキシ基、アミノ基(アルキルアミノ基、アリ-ルアミノ基、ヘテロ環アミノ基を含む)、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基、ヘテロ環スルホニルアミノ基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。
【0196】
(ヘ)R45及びR46は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルキル又はアリールスルホニル基が好ましく、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基がより好ましく、水素原子、置換基を有するアリール基、置換基を有するヘテロ環基が更に好ましく、水素原子、置換基を有するアリール基が特に好ましい。但し、R45及びR46が同時に水素原子であることはない。また、R45とR46が結合して5員~6員環を形成してもよい。
【0197】
一般式(B-2)の好ましい態様として、上記の(イ)~(ヘ)の全てを満たす場合が特に好ましい。
【0198】
一般式(B)で表される化合物及びその塩の具体例を以下に示す。但し、本開示において、以下に示す具体例に制限されるものではない。
【0199】
【化29】

【0200】
ブラックインク組成物は、更に、下記一般式(BA)で表される化合物を含有することが好ましい。一般式(BA)で表される化合物を含有することで、黒色の色味を調整することができる。
【0201】
【化30】

【0202】
一般式(BA)の詳細については、特開2007-138124号公報の段落0789~0792等の記載を参照することができる。
【0203】
一般式(BA)において、A環,B環,及びC環は、各々独立に、置換又は無置換のアリール基又は置換又は無置換のヘテロ環基を表す。
及びQは、各々独立に、水素原子、イオン性親水性基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換のアシルアミノ基、置換又は無置換のスルホニルアミノ基、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルコキシ基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロ環基、置換又は無置換のアルキルスルホニル基、置換又は無置換のアリールスルホニル基、置換又は無置換のスルファモイル基、置換又は無置換のカルバモイル基を表す。
12は、2価の連結基を表し、カルボニル基、置換又は無置換のヘテロ環基(例えば、置換又は無置換のトリアジン環基)が好ましい。
、A、A、A、A、A11、A12、A13、A14、A15、B、B、B、B、B、B、B11、B12、B13、B14、B15、B16、C、C、C、C、C11、C12、C13、及びC14は、各々独立に、水素原子、イオン性親水性基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換のアシルアミノ基、置換又は無置換のスルホニルアミノ基、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルコキシ基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のヘテロ環基、置換又は無置換のアルキルスルホニル基、置換又は無置換のアリールスルホニル基、置換又は無置換のスルファモイル基、置換又は無置換のカルバモイル基を表す。
中でも、イオン性親水性基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換のアシルアミノ基、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルコキシ基、置換又は無置換のアルキルスルホニル基、置換又は無置換のアリールスルホニル基、置換又は無置換のスルファモイル基が好ましく、イオン性親水性基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換のアシルアミノ基、置換又は無置換のアルキル基がより好ましく、イオン性親水性基が更に好ましい。
イオン性親水性基としては、スルホ基(塩を含む)、カルボキシ基(塩を含む)が好ましく、中でもスルホ基がより好ましい。
但し、上記のA~A、A11~A15、B~B、B11~B16、C~C、C11~C14、Q、Q、及びL12の少なくとも1つは、少なくとも一つのイオン性親水性基を有する。
【0204】
一般式(BA)で表される化合物及びその塩の具体例(BA-1及びBA-2)を以下に示す。但し、本開示において、以下に示す具体例に制限されるものではない。
【0205】
【化31】

【0206】
ブラックインク組成物における、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの質量の比率は、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。
リチウムの質量の比率が70質量%以上であると、ブラックインク組成物以外のインク組成物(特にイエローインク組成物)と混ざった際の増粘現象が効果的に抑えられる。これにより、インク組成物が堆積して起きる記録媒体のインク汚れを抑制できる。
【0207】
本開示におけるブラックインク組成物は、溶剤A、溶剤B、溶剤C、及び溶剤Dを含有する。
ブラックインク組成物における好ましい溶剤としては、イエローインク組成物における好ましい溶剤の組み合わせ態様と同様であり、その中でも、溶剤Aが2-エチル-1,3-ヘキサンジオールであり、溶剤Bが2-ピロリドンであり、溶剤Cが1,3-ブタンジオールであり、溶剤Dがグリセリンである態様が好ましい。
【0208】
~インク組成物の物性~
本開示におけるイエローインク組成物、シアンインク組成物、マゼンタインク組成物及びブラックインク組成物の物性には特に制限はないが、以下の物性を有していることが好ましい。
【0209】
-pH-
本開示におけるイエローインク組成物、シアンインク組成物、マゼンタインク組成物及びブラックインク組成物は、25℃(±1℃)におけるpHが6.5~11が好ましく、7.0~10.5がより好ましい。
【0210】
-粘度-
本開示におけるイエローインク組成物、シアンインク組成物、マゼンタインク組成物及びブラックインク組成物の25℃(±1℃)における粘度としては、6mPa・s~10mPa・sの範囲が好ましく、7mPa・s~9mPa・sの範囲がより好ましい。
粘度は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて25℃の条件下で測定されるものである。
【0211】
-表面張力-
本開示におけるイエローインク組成物、シアンインク組成物、マゼンタインク組成物及びブラックインク組成物の25℃(±1℃)における表面張力としては、60mN/m以下であることが好ましく、30mN/m~50mN/mであることがより好ましく、35mN/m~45mN/mであることがさらに好ましい。
表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用い、プレート法により25℃の条件下で測定されるものである。
【0212】
本開示におけるイエローインク組成物、シアンインク組成物、マゼンタインク組成物及びブラックインク組成物の調製方法としては、例えば、インク組成物に含有される各種成分を混合して均一性を良好に保つように溶解した後、例えば孔径0. 8μmのメンブランフィルタで加圧濾過し、得られた溶液を真空ポンプを用いて脱気処理することで調製する方法が挙げられる。但し、本開示におけるインク組成物においては、上記方法に制限されるものではない。
【0213】
<インクジェット記録方法>
本開示のインクジェット記録方法は、既述の本開示のインクセットを用いて画像を記録するものである。
インクジェット記録方法は、インク組成物を細いノズルから液滴として吐出させ、吐出された液滴を記録媒体に付着させる方法である。方法としては、静電吸引方式を利用した方法、インク組成物に圧力と機械的振動とを与えて吐出する方法、圧電素子を利用した方法、印刷信号情報に従って電極によりインク組成物を加熱して発泡、泡膨張させることを利用した方法等を挙げることができる。インクジェット記録方法の詳細については、特開2012-193330号公報の段落0560~0564の記載を参照することができる。
【実施例
【0214】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0215】
(実施例1)
[イエローインク-1の調製]
以下の組成中の成分を混合し、イエローインク-1を調製した。
-イエローインク-1の組成-
・YELLOW-1 … 4.5質量%
・2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(溶剤A)… 2.0質量%
・2-ピロリドン(溶剤B) … 1.0質量%
・1,3-ブタンジオール(溶剤C) …25.0質量%
・グリセリン(溶剤D) …20.0質量%
・炭酸水素ナトリウム … 0.01質量%
・プロキセルGXL … 0.03質量%
(アーチケミカルズ・ジャパン株式会社;防腐剤)
・イオン交換水 … 全体で100質量%とした場合の残量
【0216】
【化32】

【0217】
ここで、YELLOW-1染料の合成方法について説明する。
Li塩であるYELLOW-1染料は、特許第4977371号公報の段落0864~段落0870に記載の合成例1の合成法を参照して合成した。ここで、得られた結晶の10質量%水溶液である水酸化カリウム(KOH)水溶液とする際のKOHを、水酸化リチウム(LiOH)に変更することでLi塩とした。なお、K塩とLi塩の混合物としてもよい。
【0218】
[マゼンタインク-1の調製]
以下の組成中の成分を混合し、マゼンタインク-1を調製した。
-マゼンタインク-1の組成-
・MAGENTA-1 … 4.0質量%
・2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(溶剤A)… 2.0質量%
・2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール(溶剤B)
… 0.03質量%
・2-ピロリドン(溶剤B) … 1.0質量%
・1,3-ブタンジオール(溶剤C) …35.0質量%
・グリセリン(溶剤D) …13.0質量%
・炭酸水素ナトリウム … 0.04質量%
・プロキセルGXL … 0.05質量%
(アーチケミカルズ・ジャパン株式会社;防腐剤)
・イオン交換水 … 全体で100質量%とした場合の残量
【0219】
【化33】

【0220】
[シアンインク-1の調製]
以下の組成中の成分を混合し、シアンインク-1を調製した。
-シアンインク-1の組成-
・CYAN-1 … 5.0質量%
・2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(溶剤A)… 2.0質量%
・2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール(溶剤B)
… 0.05質量%
・2-ピロリドン(溶剤B) … 1.0質量%
・1,3-ブタンジオール(溶剤C) …32.0質量%
・グリセリン(溶剤D) …13.0質量%
・炭酸水素ナトリウム … 0.01質量%
・プロキセルGXL … 0.03質量%
(アーチケミカルズ・ジャパン株式会社;防腐剤)
・イオン交換水 … 全体で100質量%とした場合の残量
【0221】
【化34】

【0222】
[ブラックインク-1の調製]
以下の組成中の成分を混合し、ブラックインク-1を調製した。
-ブラックインク-1の組成-
・BLACK-1 … 4.5質量%
・BA-1(一般式(BA)で表される化合物) … 0.5質量%
・2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(溶剤A)… 2.0質量%
・2-ピロリドン(溶剤B) … 2.0質量%
・1,3-ブタンジオール(溶剤C) …32.0質量%
・グリセリン(溶剤D) …12.0質量%
・炭酸水素カリウム … 0.04質量%
・炭酸水素ナトリウム … 0.01質量%
・プロキセルGXL … 0.08質量%
(アーチケミカルズ・ジャパン株式会社;防腐剤)
・イオン交換水 … 全体で100質量%とした場合の残量
【0223】
【化35】

【0224】
【化36】

【0225】
-アルカリ金属の測定-
上記のようにして調製したイエローインク-1、マゼンタインク-1、シアンインク-1、及びブラックインク-1について、イオンクロマトグラフィーにて下記条件で陽イオンを測定し、アルカリ金属の含有量を求めた。測定結果を表1に示す。
<条件>
測定装置:サーモフィッシャーICS-1500(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)
カラム:Ionpac CS12A(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)
【0226】
【表1】

【0227】
-実験1-
上記のようにして作製したイエローインク-1、マゼンタインク-1、シアンインク-1、及びブラックインク-1の各インクを用意し、イエローインク-1、マゼンタインク-1、シアンインク-1、及びブラックインク-1を1:1:1:1[質量比率]で混合した混合インクを用意した。4種の各インクと混合インクとを用い、以下の方法で評価を行った。評価結果は、下記表4~表5に示す。
【0228】
(1)インク混合時の増粘率
5つの50mlガス瓶を用意し、4種の各インクと混合インクとを別々のガス瓶にそれぞれ30g入れ、ガス瓶の開口部にキャップをせずに開口した状態のまま、温度45℃、湿度20%RHの条件下で4日放置した。放置後、25℃の条件下で各インク及び混合インクの粘度(単位:mPa・s)を測定した。
粘度の測定は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて行った。
単独で放置した後の4色の各インクの粘度の測定値を平均し、その平均値に対する放置後の混合インクの粘度の比を算出して百分率(%)を求めた。ここで求められる百分率の値を、複数種のインクが混合された際に上昇するインクの粘度の増粘率(%)とした。増粘率が高いほど、混合したインクから乾燥濃縮時に微細な析出が生じやすく、増粘するものと考えられる。
【0229】
(2)インク汚れ
作製したインクを富士フイルム株式会社製のフロンティア(登録商標)DE100にセットし、温度10℃、湿度20%RHの低温低湿条件下でKGサイズで5000枚相当を出力した後の、出力紙の裏面及び厚み幅のエッジ部(側面)に付着したインク汚れを下記の評価基準にしたがって目視により評価した。
<評価基準>
A:全く汚れがない。
B:良く見ると極一部に僅かな汚れがあるが、支障を来たさない程度である。
C:僅かに汚れているが、実用上許容される範囲である。
D:汚れが見られ、実用上許容される範囲にない。
E:著しく汚れている。
【0230】
-実験2~24-
実験1において、イエローインク-1中の染料の種類又は溶剤の種類もしくは含有量を表2~表3に示すように変更したこと以外は、イエローインク-1と同様にしてイエローインク-2~24を調製し、さらにイエローインク-1をイエローインク-2~24のいずれかに代えたこと以外は、実験1と同様にして、インク混合時の増粘率(%)及びインク汚れを評価した。評価結果を表4~表5に示す。
なお、各表中の「-」の表記は、その成分を含有していないことを示している。
また、調製したイエローインク-2~24に対して、上記と同様の方法で陽イオンの測定を行い、陽イオンの全質量に対するリチウムの質量の比を求めた。
【0231】
【表2】

【0232】
【表3】

【0233】
【表4】

【0234】
【表5】

【0235】
上記の表中のYELLOW-1,2,4及び5は、既述のイエロー染料の具体例を示す。また、表中の溶剤の欄にある括弧内の数値は、既述の方法で測定したSP値(単位:MPa1/2)を表す。
【0236】
表4~表5に示すように、実施例のインクセットでは、全インクを等質量比で混合した際のアルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの合計の質量の比率は、70質量%以上である。その結果、複数インクが混合された際のインクの粘度の上昇率(増粘率)は低く抑えられており、比較例に比べ、記録媒体の特に裏面及び厚み分の側面におけるインク汚れが低減された。
また、実施例では、増粘率を低く抑えてインク汚れを改善する効果の観点から、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの合計の質量の比率は、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましいといえる。
これに対して、比較例のインクセットでは、いずれもインクが混合された際のインクの粘度の上昇率が著しく、結果、インク汚れも顕著に現れた。
【0237】
(実施例2)
実施例1において、マゼンタインク-1、シアンインク-1、及びブラックインク-1中の染料の種類並びに溶剤の種類及び含有量を表6に示すように変更したこと以外は、マゼンタインク-1、シアンインク-1、又はブラックインク-1と同様にして、マゼンタインク-2、マゼンタインク-3、シアンインク-2、シアンインク-3、ブラックインク-2、及びブラックインク-3を調製した。
なお、実施例1と同様の方法で、各インク中に含まれるアルカリ金属の含有量を求めた。測定結果を表6に示す。
【0238】
【表6】

【0239】
上記の表中のMAGENTA-2,4、CYAN-2,4、及びBLACK-2,3は、それぞれ既述のマゼンタ染料の具体例、シアン染料の具体例、及びブラック染料の具体例を示す。
【0240】
-実験31~36-
次いで、マゼンタインク-1をマゼンタインク-2又はマゼンタインク-3に代え、シアンインク-1をシアンインク-2又はシアンインク-3に代え、ブラックインク-1をブラックインク-2又はブラックインク-3に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、インク混合時の増粘率(%)及びインク汚れを評価した。評価結果を表7に示す。
また、調製したマゼンタインク-2、マゼンタインク-3、シアンインク-2、シアンインク-3、ブラックインク-2、及びブラックインク-3に対して実施例1と同様の方法で陽イオンの測定を行い、アルカリ金属の全質量に対するリチウムの質量の比を求めた。
【0241】
【表7】

【0242】
表7に示すように、実施例のインクセットでは、全インクを等質量比で混合した際のアルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの合計の質量の比率は80質量%以上に調整されている。その結果、複数インクが混合された際のインクの粘度の上昇率(増粘率)は抑えられており、比較例に比べ、記録媒体の特に裏面及び厚み分の側面におけるインク汚れが低減された。
また、実施例では、増粘率を低く抑えてインク汚れを改善する効果の観点から、アルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの合計の質量の比率は、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましいといえる。
これに対して、比較例のインクセットでは、いずれもインクが混合された際のインクの粘度の上昇率が著しく、結果、インク汚れも顕著に現れた。
【0243】
また、実験37として、イエローインク-1、マゼンタインク-1、シアンインク-1、及びブラックインク-1の調製において、炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウムの全てを炭酸水素リチウムに等モル量になるように変更したこと以外は、実験1と同様にして、各色のインクを作製した。
結果、各色のインク中におけるアルカリ金属の全てに対するリチウムの質量比率はいずれも80質量%以上であった。また、各色のインクを混合した際の増粘率は100%であり、インク汚れの評価は「A」という最も好ましい結果が得られた。
【0244】
(実施例3)
実施例1において、マゼンタインク-1の染料の種類のみを表8に示すように変更したこと以外は、マゼンタインク-1と同様にして、マゼンタインク-4及びマゼンタインク-5を調製した。また、実施例1と同様の方法で、各インク中に含まれるアルカリ金属の含有量を求めた。測定結果を表8に示す。
【0245】
【表8】
【0246】
-実験37~38-
次いで、マゼンタインク-1をマゼンタインク-4又はマゼンタインク-5に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、インク混合時の増粘率(%)及びインク汚れを評価した。評価結果を表9に示す。
また、調製したマゼンタインク-4及びマゼンタインク-5に対して実施例1と同様の方法で陽イオンの測定を行い、アルカリ金属の全質量に対するリチウムの質量の比を求めた。
【0247】
【表9】

【0248】
上記の結果から、一般式(MM)で表される化合物を用い、全インクを等質量比で混合した際のアルカリ金属の合計の質量に対するリチウムの合計の質量の比率が80質量%以上に調整されている場合、インクの粘度の上昇率(増粘率)は抑えられ、更にインク汚れも低減された。
【0249】
2018年1月31日に出願された日本出願特願2018-015912の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。