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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】マイクロ流路デバイス
(51)【国際特許分類】
   B81B 1/00 20060101AFI20220203BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20220203BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220203BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20220203BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20220203BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20220203BHJP
   G01N 37/00 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
B81B1/00
B01J19/00 321
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
B81B3/00
C12M1/34
G01N37/00 101
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020503624
(86)(22)【出願日】2019-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2019007907
(87)【国際公開番号】W WO2019168118
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2018037511
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三好 隼人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晃寿
(72)【発明者】
【氏名】大場 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】若林 彰
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/032646(WO,A1)
【文献】特表2015-508669(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0053207(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 1/00
B01J 19/00
C12M 1/00
C12M 3/00
B81B 3/00
C12M 1/34
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1流路部材に形成された第1マイクロ流路と、
第2流路部材に形成され、平面視で少なくとも一部が前記第1マイクロ流路に重なり、かつ、前記第1マイクロ流路との間に段部が形成された第2マイクロ流路と、
厚さ方向に貫通する複数の孔を有し、前記第1流路部材と前記第2流路部材の間に配置されて前記第1マイクロ流路と前記第2マイクロ流路を仕切る多孔膜と、
前記第1流路部材又は前記第2流路部材と前記多孔膜との間に設けられ、前記多孔膜より剛性が高く、前記多孔膜の少なくとも前記段部に面する部分を補強する補強部材と、
を有し、
前記第1マイクロ流路の幅は前記第2マイクロ流路の幅より狭く、
前記段部は、前記第1マイクロ流路と前記第2マイクロ流路の幅の差によって形成され、
前記多孔膜が前記第1マイクロ流路又は前記第2マイクロ流路に面する部分において、前記補強部材にはスリットが形成され、
前記スリットの幅は、前記第1マイクロ流路の幅と同じ幅であるマイクロ流路デバイス
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロ流路デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路と呼ばれるマイクロメートルオーダーの幅の流路を有するデバイス(以下、「マイクロ流路デバイス」と呼ぶ。)が知られている。例えば特許第5415538号公報には、マイクロ流路デバイスとして、多孔質膜で仕切られた第一中央マイクロチャネル及び第二マイクロチャネルを有する臓器模倣装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5415538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許第5415538号公報に開示されている臓器模倣装置において、上側の第一中央マイクロチャネルと下側の第二中央マイクロチャネルは、平面視で中央部分が重なり、かつ、入口ポート及び出口ポートが離間しており、第一中央マイクロチャネルと下側の第二中央マイクロチャネルが平面視で合流する合流部分に段部が形成されている。
【0005】
第一中央マイクロチャネルと下側の第二中央マイクロチャネルとの間に段部が形成されていることにより、例えば第1マイクロチャネルに細胞懸濁液を流して多孔質膜の表面に細胞層を形成する際に、細胞懸濁液の液圧によって多孔質膜が撓むことで段部と多孔質膜との間に隙間が生じる。また、細胞層の形成後にも同様に、第一中央マイクロチャネルに試験液(例えば血液希釈液、FITC-マイクロビーズ等のトレーサーを含む液体)を流して試験を行う際に、試験液の液圧によって段部と多孔質膜との間に隙間が生じる。
【0006】
このとき、段部と多孔質膜との間の隙間に細胞懸濁液中の細胞、又は試験液中の赤血球、トレーサーが流れ込んで挟まり、細胞層、赤血球、又はトレーサーの一部が下側の第二中央マイクロチャネル内に位置してしまう虞がある。この場合、臓器模倣装置を用いて例えば細胞、赤血球、又はトレーサーの透過性試験を行う際、隙間に挟まった細胞、赤血球、又はトレーサーがあたかも第一中央マイクロチャネルから多孔質膜を通って第二中央マイクロチャネルへ漏れ出たように見えるため、透過性試験を正確に行うことが難しかった。
【0007】
本開示は、第1マイクロ流路と第2マイクロ流路との間に形成された段部と多孔膜との間に隙間が生じることを抑制し、この隙間に細胞、赤血球、又はトレーサーが流れ込むことを抑制することができるマイクロ流路デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1態様に係るマイクロ流路デバイスは、第1流路部材に形成された第1マイクロ流路と、第2流路部材に形成され、平面視で少なくとも一部が第1マイクロ流路に重なり、かつ、第1マイクロ流路との間に段部が形成された第2マイクロ流路と、厚さ方向に貫通する複数の孔を有し、第1流路部材と第2流路部材の間に配置されて第1マイクロ流路と第2マイクロ流路を仕切る多孔膜と、第1流路部材又は第2流路部材と多孔膜との間に設けられ、多孔膜より剛性が高く、多孔膜の少なくとも段部に面する部分を補強する補強部材と、を有する。
【0009】
上記構成によれば、第1マイクロ流路と第2マイクロ流路との間に段部が形成されており、多孔膜の段部に面する部分が補強部材によって補強されている。このため、第1マイクロ流路又は第2マイクロ流路に細胞懸濁液を流して多孔膜の表面に細胞層を形成する際に、細胞懸濁液の液圧によって多孔膜が撓んで段部と多孔膜との間に隙間が生じることを抑制することができ、この隙間に細胞が流れ込むことを抑制することができる。
【0010】
同様に、第1マイクロ流路又は第2マイクロ流路に試験液を流して試験を行う際に、試験液の液圧によって多孔膜が撓んで段部と多孔膜との間に隙間が生じることを抑制することができ、この隙間に赤血球、又はトレーサーが流れ込むことを抑制することができる。
【0011】
本開示の第2態様に係るマイクロ流路デバイスは、第1態様に係るマイクロ流路デバイスにおいて、第1マイクロ流路と第2マイクロ流路は平面視で一部が離間しており、段部は、第1マイクロ流路と第2マイクロ流路が平面視で合流する合流部分に形成されている。
【0012】
上記構成によれば、第1マイクロ流路と第2マイクロ流路が平面視で合流する合流部分に形成された段部において、多孔膜を補強部材で補強することによって段部と多孔膜との間に隙間が生じることを抑制することができる。
【0013】
本開示の第3態様に係るマイクロ流路デバイスは、第1態様に係るマイクロ流路デバイスにおいて、第1マイクロ流路の幅は第2マイクロ流路の幅より狭く、段部は、第1マイクロ流路と第2マイクロ流路の幅の差によって形成されている。
【0014】
上記構成によれば、第1マイクロ流路と第2マイクロ流路の幅の差によって形成された段部において、多孔膜を補強部材で補強することによって段部と多孔膜との間に隙間が生じることを抑制することができる。
【0015】
本開示の第4態様に係るマイクロ流路デバイスは、第1~第3態様のいずれか1つの態様に係るマイクロ流路デバイスにおいて、補強部材は、多孔膜全体を覆う大きさとされており、多孔膜が第1マイクロ流路又は第2マイクロ流路に面する部分において、補強部材にはスリットが形成されている。
【0016】
上記構成によれば、補強部材によって多孔膜全体を覆うことで、多孔膜をより補強することができる。また、補強部材にスリットを形成することで、細胞、赤血球、又はトレーサーが多孔膜を介して第1マイクロ流路と第2マイクロ流路との間を移動する際に、細胞、赤血球、又はトレーサーの移動が補強部材によって阻害されることを抑制することができる。
【0017】
本開示の第5態様に係るマイクロ流路デバイスは、第4態様に係るマイクロ流路デバイスにおいて、補強部材のスリットの幅は、第1マイクロ流路及び第2マイクロ流路の幅以下とされている。
【0018】
上記構成によれば、補強部材のスリットの幅が第1マイクロ流路及び第2マイクロ流路の幅以下とされている。このため、補強部材のスリットの幅が第1マイクロ流路及び第2マイクロ流路の幅より大きい場合と比較して、第1マイクロ流路と第2マイクロ流路との間に形成された段部と多孔膜との間に隙間ができることをより抑制することができる。
【0019】
本開示の第6態様に係るマイクロ流路デバイスは、第1~第5態様のいずれか1つの態様に係るマイクロ流路デバイスにおいて、補強部材は、ポリエチレンテレフタレートから成る膜部材である。
【0020】
上記構成によれば、補強部材が細胞培養に影響を及ぼし難いポリエチレンテレフタレートから成る膜部材とされているため、補強部材に含まれる成分が第1マイクロ流路内又は第2マイクロ流路内の細胞等に影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0021】
本開示の第7態様に係るマイクロ流路デバイスは、第1~第5態様のいずれか1つの態様に係るマイクロ流路デバイスにおいて、補強部材は、ポリプロピレンから成る膜部材である。
【0022】
上記構成によれば、補強部材が細胞培養に影響を及ぼし難いポリプロピレンから成る膜部材とされているため、補強部材に含まれる成分が第1マイクロ流路内又は第2マイクロ流路内の細胞等に影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0023】
本開示の第8態様に係るマイクロ流路デバイスは、第1態様~第7態様のいずれか1つの態様に係るマイクロ流路デバイスにおいて、補強部材の厚さは12μm以上とされている。
【0024】
上記構成によれば、ポリエチレンテレフタレートから成る補強部材の厚さを12μm以上とすることで、補強部材の厚さが12μm未満とされている構成と比較して、補強部材の剛性を高めることができ、補強部材によって多孔膜をより強固に補強することができる。
【0025】
本開示の第9態様に係るマイクロ流路デバイスは、第1~第8態様のいずれか1つの態様に係るマイクロ流路デバイスにおいて、補強部材の厚さは、第1マイクロ流路及び第2マイクロ流路の深さより薄くされている。
【0026】
上記構成によれば、補強部材の厚さが第1マイクロ流路及び第2マイクロ流路の深さより薄くされている。このため、補強部材の厚さが第1マイクロ流路及び第2マイクロ流路の深さより大きい場合と比較して、第1マイクロ流路又は第2マイクロ流路に細胞懸濁液を流して多孔膜の表面に細胞層を形成する際に、補強部材によって多孔膜への細胞の播種が阻害されることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、第1マイクロ流路と第2マイクロ流路との間に形成された段部と多孔膜との間に隙間が生じることを抑制し、この隙間に細胞、赤血球、又はトレーサーが流れ込むことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1実施形態におけるマイクロ流路デバイスの全体構造を示す斜視図である。
図2】第1実施形態におけるマイクロ流路デバイスの全体構造を示す分解斜視図である。
図3】第1実施形態におけるマイクロ流路デバイスを平面視した状態を示す透視図である。
図4図3におけるA-A線断面図である。
図5図3におけるB-B線断面図である。
図6】第1実施形態におけるマイクロ流路デバイスの多孔膜を示す平面図である。
図7図6におけるC-C線断面図である。
図8】第2実施形態におけるマイクロ流路デバイスの全体構造を示す分解斜視図である。
図9】第2実施形態におけるマイクロ流路デバイスを平面視した状態を示す透視図である。
図10A】実施例のマイクロ流路デバイスに細胞懸濁液を流した状態を示す拡大平面図である。
図10B図10AにおけるD-D線断面図である。
図11A】比較例のマイクロ流路デバイスに細胞懸濁液を流した状態を示す拡大平面図である。
図11B図11AにおけるE-E線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1実施形態)
以下、本開示の第1実施形態について図1~7を用いて説明する。なお、以下の実施形態は本開示を例示するものであり、本開示の範囲を制限するものではない。また、各構成の説明を容易にするため、図中の各構成の寸法を適宜変更している。このため、図中の縮尺は実際とは異なっている。
【0030】
<流路ユニット>
図1に示すように、本実施形態のマイクロ流路デバイス10は、厚さ方向に積層された第1流路部材12と第2流路部材14とで構成された流路ユニット16を有している。第1流路部材12は、一例としてPDMS(ポリジメチルシロキサン)等の弾性を有する透明な材料で構成されており、第2流路部材14は、一例としてCOP(シクロオレフィンポリマー)等の剛性を有する透明な材料で構成されていることが好ましい。
【0031】
なお、第1流路部材12及び第2流路部材14を構成する材料としては、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、COP(シクロオレフィンポリマー)の他、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマー、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0032】
図2に示すように、第1流路部材12の下面、すなわち第2流路部材14との対向面12Aには、第1マイクロ流路18が形成されている。第1マイクロ流路18は、流入口18A、流出口18B、及び流入口18Aと流出口18Bとを連通し、略直線状に延びる流路部18Cを有している。
【0033】
同様に、第2流路部材14の上面、すなわち第1流路部材12との対向面14Aには、第2マイクロ流路20が形成されている。第2マイクロ流路20は、流入口20A、流出口20B、及び流入口20Aと流出口20Bとを連通し、略直線状に延びる流路部20Cを有している。
【0034】
ここで、図3に示すように、第1マイクロ流路18の流入口18A及び流出口18Bは、第2マイクロ流路20の流入口20A及び流出口20Bと平面視で離間した位置に設けられている。一方、第1マイクロ流路18の流路部18Cは、第2マイクロ流路20の流路部20Cと平面視で重なる位置に設けられている。
【0035】
これにより、図3図4に示すように、第1マイクロ流路18と第2マイクロ流路20との合流部分、すなわち流入口18A、20Aと流路部18C、20Cとの間、及び流出口18B、20Bと流路部18C、20Cとの間に段部22がそれぞれ形成されている。
【0036】
また、図3図5に示すように、第1マイクロ流路18の流路部18Cの幅は、第2マイクロ流路20の流路部20Cの幅より狭くなっており、流路部18Cと流路部20Cの幅の差によって段部24が形成されている。
【0037】
図2に示すように、第1流路部材12には、第1流路部材12を厚さ方向に貫通し、下端が第1マイクロ流路18の流入口18A及び流出口18Bに連通する貫通孔26A、26Bと、下端が第2マイクロ流路20の流入口20A及び流出口20Bに連通する貫通孔28A、28Bと、がそれぞれ形成されている。
【0038】
また、第1流路部材12の上側には、第1流路部材12の上面全体を覆う大きさの保持プレート30が設けられている。保持プレート30及び第2流路部材14の互いに対応する位置には、厚さ方向に貫通する複数(本実施形態では8つ)のボルト孔32がそれぞれ形成されている。
【0039】
一方、第1流路部材12の外周面には、ボルト孔32に対応する位置に凹部34がそれぞれ形成されており、流路ユニット16の凹部34の外側には、保持プレート30と第2流路部材14との間隔を規定する複数(本実施形態では8つ)のスペーサ36がそれぞれ設けられている。
【0040】
スペーサ36は、内径がボルト孔32の内径と略同じ大きさとされた円筒形状の部材であり、ボルト孔32に対応する位置にそれぞれ配置されている。また、保持プレート30と第2流路部材14は、ボルト孔32及びスペーサ36に挿通されてナット38で固定された複数のボルト40により、後述する補強部材54とともに接合されている。
【0041】
なお、保持プレート30には、第1流路部材12の貫通孔26A、26B、28A、28Bにそれぞれ連通する貫通孔42A、42B、44A、44Bがそれぞれ形成されている。貫通孔42A、42B、44A、44Bには、図示しないチューブがそれぞれ接続されており、チューブを通して第1マイクロ流路18及び第2マイクロ流路20に溶液や細胞懸濁液等が流入し、第1マイクロ流路18及び第2マイクロ流路20から溶液や細胞懸濁液等が流出する。
【0042】
<多孔膜>
第1流路部材12及び第2流路部材14の対向面12A、14A間には、多孔膜46が配置されている。多孔膜46は、一例として疎水性の有機溶媒に溶解可能な疎水性ポリマーから成る。なお、疎水性の有機溶媒は、25℃の水に対する溶解度が10(g/100g水)以下の液体である。
【0043】
疎水性ポリマーとしては、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリ-3-ヒドロキシブチレート等)、ポリラクトン(例えば、ポリカプロラクトン等)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロン、ポリアミド酸等)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、セルロースアシレート(例えば、トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)などのポリマーが挙げられる。
【0044】
これらのポリマーは、溶剤への溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマー、コポリマー、ポリマーブレンド又はポリマーアロイとしてよい。また、これらのポリマーは、1種単独で又は2種以上を混合して使用してよい。なお、多孔膜46の素材は疎水性ポリマーには限られず、細胞の接着性の観点等から種々の素材を選択することが可能である。
【0045】
多孔膜46の上面46A及び下面46B(以下、上面46A及び下面46Bを合わせて「主面」と呼ぶことがある。)は、第1マイクロ流路18及び第2マイクロ流路20の流路部18C、20Cを略覆う大きさとされており、第1マイクロ流路18と第2マイクロ流路20とを仕切っている。具体的には、多孔膜46の上面46Aが第1マイクロ流路18に面しており、多孔膜46の下面46Bが第2マイクロ流路20に面している。
【0046】
図6図7に示すように、多孔膜46には、厚さ方向に貫通する複数の孔48が形成されており、多孔膜46の上面46A及び下面46Bには孔48の開口48Aがそれぞれ設けられている。また、図6に示すように、開口48Aは平面視で円形状とされている。開口48A同士は互いに離間して設けられており、隣合う開口48Aの間には平坦部50が延在している。なお、開口48Aは円形状には限られず、多角形状や楕円形状とされていてもよい。
【0047】
複数の開口48Aは規則的に配置されており、本実施形態では一例として、ハニカム状に配置されている。ハニカム状の配置とは、平行六辺形(好ましくは正六角形)又はこれに近い形状を単位とし、これら図形の頂点及び対角線の交点に開口48Aの中心が位置する配置である。ここで「開口の中心」とは、開口48Aの平面視における中心を意味する。
【0048】
なお、開口48Aの配置はハニカム状に限られず、格子状又は面心格子状とされていてもよい。格子状の配置とは、平行四辺形(言うまでもないが、正方形、長方形、菱形が含まれる。好ましくは正方形)又はこれに近い形状を単位とし、これら図形の頂点に開口の中心が位置する配置である。面心格子状の配置とは、平行四辺形(言うまでもないが、正方形、長方形、菱形が含まれる。好ましくは正方形)又はこれに近い形状を単位とし、これら図形の頂点及び対角線の交点に開口の中心が位置する配置である。
【0049】
図7に示すように、多孔膜46の孔48は球体の上端及び下端を切り取った球台形状とされている。また、互いに隣合う孔48同士は、多孔膜46の内部において連通孔52によって連通している。
【0050】
1つの孔48は、隣合う全部の孔48と連通していることが好ましく、本実施形態のように複数の孔48の開口48Aがハニカム状に配置されている場合、1つの孔48は、6つの連通孔52によって隣合う6つの孔48とそれぞれ連通している。なお、孔48はバレル形状や円柱形状、又は多角柱形状等とされていてもよく、また、連通孔52は隣合う孔48同士を繋ぐ筒状の空隙とされていてもよい。
【0051】
なお、多孔膜46の主面の少なくとも細胞が播種される領域は、フィブロネクチン、コラーゲン(例えば、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、又はV型コラーゲン)、ラミニン、ビトロネクチン、ゼラチン、パールカン、ニドゲン、プロテオグリカン、オステオポンチン、テネイシン、ネフロネクチン、基底膜マトリックス及びポリリジンからなる群から選択される少なくとも1種によって被覆されていることが好ましい。また、多孔膜46の孔48内も、これらの少なくとも1種によって被覆されていることが好ましい。多孔膜46を被覆することで、細胞の接着性を高めることが可能となる。
【0052】
また、多孔膜46は細胞が接着して増殖する足場であるところ、多孔膜46の開口率が高いほど、また、多孔膜46の膜厚が薄いほど、一方の面の細胞と他方の面の細胞との間の細胞間相互作用(cell-cell interaction)、即ち、液性因子による情報伝達及び細胞どうしの接触(cell-cell contact)の少なくとも一方が活発になる。多孔膜46の主面での細胞培養時における細胞間相互作用が活発になるほど、生体内の組織に近似した機能を有するモデルを製造することが可能となる。
【0053】
孔48が形成された多孔膜46を作製する方法としては、例えばナノプリント法や結露法の他、エッチング法、サンドブラスト法、プレス成形等の方法が挙げられる。ナノプリント法とは、凹凸形状を有する型に多孔膜46を構成する素材を流し込む、又は型を、多孔膜46を構成する素材に押し当てることにより、孔48を作製する方法である。また、結露法とは、多孔膜46を構成する素材の表面を結露させ、水滴を型として孔48を形成する方法である。
【0054】
結露法は、他の方法と比較して、多孔膜46の膜厚を薄くすることができるとともに、空隙率や開口48Aの開口率を大きくすることが可能であり、また、多孔膜46内に連通孔52を設けることが可能である。このため、本実施形態では、多孔膜46を結露法によって作製している。結露法の詳細は、例えば、特許第4945281号公報、特許第5422230号公報、特開2011-74140号公報、特許第5405374号公報に記載されている。
【0055】
<補強部材>
図1図5に示すように、多孔膜46と第2流路部材14の対向面14Aとの間には、多孔膜46より剛性が高い補強部材54が配置されている。補強部材54は、一例として、ポリエチレンテレフタレートから成る膜部材とされており、多孔膜46全体を覆う大きさとされている。具体的には、補強部材54は、第2流路部材14の対向面14Aと略同じ大きさとされており、多孔膜46における第1マイクロ流路18と第2マイクロ流路20との間に形成された段部22、24に面する部分を覆っている。
【0056】
また、補強部材54の厚さは、12μm以上、かつ第1マイクロ流路18又は第2マイクロ流路20の深さより薄くされていることが好ましく、具体的には、補強部材54の厚さは、12μm以上400μm以下であることがより好ましく、12μm以上200μm以下であることがさらに好ましい。
【0057】
また、補強部材54の剛性は、補強部材54の上に鋼球を載せた際の補強部材54の変形量を測定することで評価可能である。具体的には、Φ50mmの穴があいた厚さ3mmのSUS(ステンレス)製のプレートを準備し、70mm角の補強部材54の4辺を両面テープ(日東電工製No.5000NS)によってプレート上に固定する。そして、補強部材54の上から穴の中心部に直径11mm、重さ5.5gの鋼球を載せ、その際の穴の中心部における補強部材54の下方向への変形量を、レーザー変位計(キーエンス製LK-G85)によってプレート下から測定する。
【0058】
上記の評価方法では、補強部材54の剛性が高いほど変形量は小さくなり、上記の評価方法を用いた場合に、補強部材54の変形量は3mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。
【0059】
なお、補強部材54は、少なくとも多孔膜46より剛性が高くされていればよく、また、細胞培養に影響を及ぼし難い材料で構成されていればよい。細胞培養に影響を及ぼし難い材料としては、例えばポリエチレンテレフタレートの他、PDMS(ポリジメチルシロキサン)等のシリコーン系の材料、ポリスチレン、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリプロピレン、COP(シクロオレフィンポリマー)、PE(ポリエチレン)等が挙げられる。また、補強部材54の必要とされる厚さも、補強部材54の材質によって適宜定められる。
【0060】
図2に示すように、補強部材54における第2流路部材14のボルト孔32に対応する位置には、複数(本実施形態では8つ)のボルト孔56が形成されており、補強部材54はボルト40によって保持プレート30及び第2流路部材14に接合されている。また、補強部材54における第2マイクロ流路20の流入口20A及び流出口20Bに対応する位置には、貫通孔57がそれぞれ形成されている。
【0061】
また、多孔膜46が第1マイクロ流路18及び第2マイクロ流路20に面する部分において、補強部材54にはスリット58が形成されている。具体的には、図3に示すように、スリット58は、第1マイクロ流路18の流路部18C及び第2マイクロ流路20の流路部20Cと平面視で重なる位置に設けられており、スリット58の幅は、第1マイクロ流路18の流路部18Cの幅と略同じ幅とされている。なお、スリット58の幅は、少なくとも第1マイクロ流路18の流路部18Cの幅以下とされていればよい。
【0062】
<作用及び効果>
本実施形態によれば、第1マイクロ流路18と第2マイクロ流路20との合流部分に段部22が形成されており、第1マイクロ流路18の流路部18Cと第2マイクロ流路20の流路部20Cの幅の差によって段部24が形成されている。また、多孔膜46の段部22、24に面する部分が、補強部材54によって覆われることによって補強されている。
【0063】
このため、例えば第1マイクロ流路18に細胞懸濁液を流して多孔膜46の上面46Aに細胞層を形成する際に多孔膜46に細胞懸濁液の液圧が加わった場合であっても、多孔膜46が第2マイクロ流路20側に撓むことを補強部材54によって抑制することができる。これにより、段部22、24と多孔膜46との間に隙間が生じることを抑制することができ、この隙間に細胞が流れ込むことを抑制することができる。
【0064】
また、本実施形態では、補強部材54が多孔膜46全体を覆う大きさとされているため、補強部材54が多孔膜46の一部のみを覆う大きさとされている構成と比較して、多孔膜46をより補強することができる。
【0065】
さらに、多孔膜46が第1マイクロ流路18及び第2マイクロ流路20に面する部分において、補強部材54にはスリット58が形成されている。このため、例えば細胞、赤血球、又はトレーサーの透過性試験等を行う際に、補強部材54のスリット58及び多孔膜46を介して第1マイクロ流路18と第2マイクロ流路20との間を細胞、赤血球、又はトレーサーが移動することができ、細胞、赤血球、又はトレーサーの移動が補強部材54によって阻害されることを抑制することができる。
【0066】
特に本実施形態では、補強部材54のスリット58の幅が第1マイクロ流路18の流路部18Cの幅と略同じ幅とされている。このため、補強部材54のスリット58の幅が流路部18Cの幅より大きい場合と比較して、段部24と多孔膜46との間に隙間ができることをより抑制することができる。また、補強部材54のスリット58の幅が流路部18Cの幅より小さい場合と比較して、細胞、赤血球、又はトレーサーの移動が補強部材54によって阻害されることをより抑制することができる。
【0067】
また、本実施形態によれば、補強部材54が生体適合性を有するポリエチレンテレフタレート等から成る膜部材とされている。このため、補強部材54に含まれる成分が第1マイクロ流路18内又は第2マイクロ流路20内の細胞等に影響を与えることを抑制することができる。
【0068】
また、補強部材54の厚さは、12μm以上、かつ第1マイクロ流路18又は第2マイクロ流路20の深さより薄くされている。このため、補強部材54の厚さが12μm未満とされている構成と比較して、補強部材54の剛性を高めることができ、補強部材54によって多孔膜46をより強固に補強することができる。
【0069】
さらに、補強部材54の厚さが第1マイクロ流路18及び第2マイクロ流路20の深さより大きい場合と比較して、第1マイクロ流路18又は第2マイクロ流路20に細胞懸濁液を流して多孔膜46の表面に細胞層を形成する際に、補強部材54によって多孔膜46への細胞の播種が阻害されることを抑制することができる。
【0070】
(第2実施形態)
次に、本開示の第2実施形態について図8図9を用いて説明する。なお、各構成の説明を容易にするため、図中の各構成の寸法を適宜変更している。このため、図中の縮尺は実際とは異なっている。また、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0071】
図8に示すように、本実施形態のマイクロ流路デバイス60は、第1実施形態のマイクロ流路デバイス10と同様に、第1マイクロ流路68が形成された第1流路部材62と第2マイクロ流路70が形成された第2流路部材64とを有している。
【0072】
第1マイクロ流路68と第2マイクロ流路70は多孔膜46によって仕切られており、第1実施形態と同様に、流入口68A、70A、流出口68B、70B、及び流入口68A、70Aと流出口68B、70Bとを連通し、略直線状に延びる流路部68C、70Cをそれぞれ有している。
【0073】
図9に示すように、第1マイクロ流路68の流入口68A及び流出口68Bは、第2マイクロ流路70の流入口70A及び流出口70Bと平面視で離間した位置に設けられている。また、第1マイクロ流路68の流路部68Cは、第2マイクロ流路70の流路部70Cと平面視で重なる位置に設けられている。
【0074】
これにより、第1マイクロ流路68と第2マイクロ流路70との合流部分、すなわち流入口68A、70Aと流路部68C、70Cとの間、及び流出口68B、70Bと流路部68C、70Cとの間に段部72がそれぞれ形成されている。一方、本実施形態では、第1マイクロ流路68の流路部68Cの幅と、第2マイクロ流路70の流路部70Cの幅は略同じ大きさとなっている。
【0075】
多孔膜46と第2流路部材64の対向面64Aとの間には、多孔膜46より剛性が高い一対の補強部材74が配置されている。一対の補強部材74は、一例として、ポリエチレンテレフタレート等から成る矩形状の膜部材とされており、一対の補強部材74の厚さは、12μm以上、かつ第1マイクロ流路18及び第2マイクロ流路20の深さより薄くされている。
【0076】
また、一対の補強部材74は、多孔膜46における第1マイクロ流路68と第2マイクロ流路70との間に形成された段部72に面する部分をそれぞれ覆う大きさとされている。さらに、一対の補強部材74は、互いに間隔をあけて配置されており、一対の補強部材74間に第1マイクロ流路68の流路部68C及び第2マイクロ流路70の流路部70Cが位置している。
【0077】
<作用及び効果>
本実施形態によれば、第1マイクロ流路68と第2マイクロ流路70との合流部分に段部72が形成されており、多孔膜46の段部72に面する部分が、一対の補強部材74によってそれぞれ覆われることによって補強されている。
【0078】
このため、例えば第1マイクロ流路68に細胞懸濁液を流して多孔膜46の上面46Aに細胞層を形成する際に多孔膜46に細胞懸濁液の液圧が加わった場合であっても、多孔膜46が第2マイクロ流路70側に撓むことを補強部材74によって抑制することができる。これにより、段部72と多孔膜46との間に隙間が生じることを抑制することができ、この隙間に細胞、赤血球、又はトレーサーが流れ込むことを抑制することができる。
【0079】
また、本実施形態によれば、一対の補強部材74は、互いに間隔をあけて配置されており、一対の補強部材74間に第1マイクロ流路68の流路部68C及び第2マイクロ流路70の流路部70Cが位置している。このため、例えば細胞、赤血球、又はトレーサーの透過性試験等を行う際に、第1マイクロ流路68と第2マイクロ流路70との間の細胞、赤血球、又はトレーサーの移動が補強部材74によって阻害されることを抑制することができる。
【0080】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施形態の一例について説明したが、本開示は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能である。
【0081】
例えば第1、第2実施形態では、補強部材54、74が多孔膜46と第2流路部材14、64の対向面14A、64Aとの間に設けられていたが、補強部材54、74は、第1流路部材12、62の対向面12A、62Aと多孔膜46との間に設けられていてもよい。
【0082】
また、第1、第2実施形態では、第1流路部材12、62の上側に保持プレート30が設けられ、ボルト40によって保持プレート30と第2流路部材14、64とが接合されていた。しかし、保持プレート30は設けられていなくてもよく、第1流路部材12、62と第2流路部材14、64とが、接着、溶着、吸着(自己吸着)等で互いに接合されていてもよい。
【実施例
【0083】
以下、本開示の実施例及び比較例について説明する。なお、本開示は以下の実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0084】
<マイクロ流路デバイスの作製>
まず、多孔膜として、孔がハニカム状に配置されたポリカーボネートから成る膜部材を準備し、多孔膜をコラーゲンで被覆した後、多孔膜の両面に滅菌紙を貼り付けた。次に、多孔膜の下面の滅菌紙をピンセットによって剥がし、第2マイクロ流路が形成された第2流路部材の上に多孔膜を載置して多孔膜と第2流路部材とを接合した。
【0085】
次に、多孔膜の上面の滅菌紙をピンセットによって剥がし、顕微鏡を確認しながら第1流路部材と第2流路部材の位置を合わせ、第1マイクロ流路が形成された第1流路部材を多孔膜の上に載置して多孔膜と第1流路部材とを接合した。
【0086】
また、第1流路部材の上部に保持プレートを載置し、スペーサを介して保持プレートと第2流路部材とをボルト及びナットで締め付けることにより、基となるマイクロ流路デバイスを作製した。なお、マイクロ流路デバイスの第1マイクロ流路の幅及び深さは200μm、第2マイクロ流路の幅及び深さは400μmとされている。
【0087】
[実施例1]
実施例1では、上述した第1実施形態と同様の構成のマイクロ流路デバイスを作製した。具体的には、基となるマイクロ流路デバイスの多孔膜と第2流路部材との間に、補強部材として中央部にスリットを形成したポリプロピレンから成る膜部材を挟み込んだマイクロ流路デバイスを作製した。なお、補強部材の大きさは第2流路部材の対向面(主面)と略同じ大きさとされており、補強部材の厚さは100μmとされ、補強部材の剛性は、前述の鋼球を用いた評価方法にて変形量が0.5mmとされている。
【0088】
[実施例2]
実施例2では、上述した第2実施形態と同様の構成のマイクロ流路デバイスを作製した。具体的には、基となるマイクロ流路デバイスの多孔膜と第2流路部材との間に、補強部材としてポリエチレンテレフタレートから成る一対の膜部材を挟み込んだマイクロ流路デバイスを作製した。なお、補強部材の大きさはそれぞれ3mm四方とされており、補強部材の厚さはそれぞれ12μmとされ、補強部材の剛性は、前述の鋼球を用いた評価方法にて変形量が1mmとされている。また、補強部材は、第1マイクロ流路と第2マイクロ流路の合流部分にそれぞれ配置されている。
【0089】
[比較例1]
比較例1では、補強部材を配置せず、基となるマイクロ流路デバイスをそのまま用いた。
【0090】
[比較例2]
比較例2では、基となるマイクロ流路デバイスの多孔膜と第2流路部材との間に、補強部材としてポリエチレンテレフタレートから成る一対の膜部材を挟み込んだマイクロ流路デバイスを作製した。なお、補強部材の大きさはそれぞれ3mm四方とされており、補強部材の厚さはそれぞれ2μmとされている。また、補強部材は、第1マイクロ流路と第2マイクロ流路の合流部分にそれぞれ配置されている。
【0091】
<細胞の観察>
上記の実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2のマイクロ流路デバイスの多孔膜に細胞を播種し、その細胞を観察した。具体的には、まず、骨髄由来間葉系幹細胞(Lonza社)の懸濁液を濃度3×10cells/mlで調整し、200μLの懸濁液を下側の第2マイクロ流路に注入した。次に、マイクロ流路デバイスを反転し、COインキュベータ内において37℃で3時間静置した後、毎分0.7μLの速度で培地を流し、一晩培養した。
【0092】
次に、CellTracker Orange(ThermoFischer社)で染色したiPS細胞由来の血管内皮細胞(CDI社 iCell EC)の懸濁液を濃度1×10cells/mlで調整し、200μLの懸濁液を上側の第1マイクロ流路に注入した。
【0093】
その後、実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2のマイクロ流路デバイスにおいて、蛍光顕微鏡を用い、第1マイクロ流路に注入したiPS細胞由来の血管内皮細胞の分布をそれぞれ観察した。実施例1の観察結果を図10A図10Bに示し、比較例1の観察結果を図11A図11Bに示す。なお、図10A図10B図11A、及び図11Bでは、iPS細胞由来の血管内皮細胞のみを図示している。
【0094】
実施例1では、図10A図10Bに示すように、iPS細胞由来の血管内皮細胞Sが第1マイクロ流路内に留まっていることが確認できた。一方、比較例1では、図11A図11Bに示すように、iPS細胞由来の血管内皮細胞Sの一部が第2マイクロ流路内に位置し、このため、あたかもiPS細胞由来の血管内皮細胞Sが第2マイクロ流路内に漏れ出たように見えることが確認できた。
【0095】
なお、図示を省略するが、実施例2及び比較例2についても、実施例1及び比較例1の観察結果と同様の結果となった。具体的には、実施例2では、iPS細胞由来の血管内皮細胞Sが第1マイクロ流路内に留まっていたのに対し、比較例2では、iPS細胞由来の血管内皮細胞Sの一部が第2マイクロ流路内に位置し、iPS細胞由来の血管内皮細胞Sが第2マイクロ流路内に漏れ出たように見えることが確認できた。
【0096】
2018年3月2日に出願された日本国特許出願2018-037511号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0097】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0098】
10、60 マイクロ流路デバイス
12、62 第1流路部材
12A、62A 対向面
14、64 第2流路部材
14A、64A 対向面
16 流路ユニット
18、68 第1マイクロ流路
18A、68A 流入口
18B、68B 流出口
18C、68C 流路部
20、70 第2マイクロ流路
20A、70A 流入口
20B、70B 流出口
20C、70C 流路部
22、24、72 段部
26A、26B、28A、28B 貫通孔
30 保持プレート
32、56 ボルト孔
34 凹部
36 スペーサ
38 ナット
40 ボルト
42A、42B、44A、44B 貫通孔
46 多孔膜
46A 上面
46B 下面
48 孔
48A 開口
50 平坦部
52 連通孔
54、74 補強部材
57 貫通孔
58 スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B