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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】複合材料及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   B27D 1/04 20060101AFI20220119BHJP
   B27M 3/00 20060101ALI20220119BHJP
   B27N 3/04 20060101ALI20220119BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20220119BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
B27D1/04 F
B27M3/00 B
B27N3/04 C
B32B27/12
B32B27/20 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017102220
(22)【出願日】2017-05-24
(65)【公開番号】P2018196946
(43)【公開日】2018-12-13
【審査請求日】2020-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】511027334
【氏名又は名称】チヨダ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】関 雅子
(72)【発明者】
【氏名】三木 恒久
(72)【発明者】
【氏名】山田 満雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-304134(JP,A)
【文献】特開昭50-097675(JP,A)
【文献】実公昭50-034807(JP,Y1)
【文献】特公昭48-019380(JP,B1)
【文献】特開2002-127114(JP,A)
【文献】特開2015-024621(JP,A)
【文献】特開2016-028850(JP,A)
【文献】特開2000-079606(JP,A)
【文献】特開平07-214506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27D 1/04
B27M 3/00
B27N 3/04
B32B 27/12
B32B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系材料及び樹脂を含んだ第1シート層と、繊維材料を含んだ第2シート層とを有する複合材料であって、前記第1シート層が、木質系材料として微細化された木質系繊維を含み、前記第2シート層が、含浸樹脂を含まず、前記第1シート層と前記第2シート層とが積層された状態で、前記第2シート層の繊維材料間に存在する隙間に、前記第1シート層の木質系材料及び樹脂が侵入して、前記第1シート層及び前記第2シート層が接合し一体化されていることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記第2シート層は単一の層又は複数の層で存在し、少なくともその1層は、前記繊維材料が不織布状、織物状、編物状又は単一方向性状とされた繊維シート層あることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記第2シート層は、その両側で前記第1シート層に挟まれており、両側で挟む前記第1シート層は、それぞれ、木質系材料として、木材単板、又は、微細化された木質系繊維を含んだシートのいずれかで、かつ、少なくとも一方が、微細化された木質系繊維を含んだシートであることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項4】
最表面層には、塊状木質系材料が配置され、木質調の外観を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の複合材料が所定の形状に加工されている成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いずれもシート状の木質系材料と繊維材料を積層一体化した複合材料に関する。また、前記複合材料を所定の形状に加工されることによって得られる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木質系の積層型の材料として、木材単板を積層したLVLや合板、木材チップや木質系繊維を樹脂等の接着剤で固めたパーティクルボードやファイバーボード等が数多く使用されている。一方で繊維材料に関しては、バインダーとして熱硬化性又は熱可塑性の樹脂を用いて一体化した繊維強化複合材料として幅広く用いられている。
【0003】
木質系材料を用いた複合材料に関して、木質系材料単独では得られない特性を得るために、異なる材料のシート材を積層することがこれまでにも検討されている。例えば、木質系材料と繊維材料の複合材料に関しては、様々な材料、積層方法が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
しかしながら、これらの複合材料は、いずれも、樹脂等の接着剤のみを媒介とした接着により得られるものであるため、木質系材料と繊維材料の層間の接着力が不十分であり、優れた層間せん断強さを有する複合材料を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-79606号公報
【文献】特開2010-173194号公報
【文献】特開2015-24621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、木質系の繊維と繊維材料の機械的な絡まりにより層間を強固に接着させることで、層間が補強され、高い層間せん断強さを有する複合材料及びその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するべく、本発明の複合材料は、木質系材料及び樹脂を含んだ第1シート層と、繊維材料を含んだ第2シート層とが積層された状態で、前記第2シート層の繊維材料間に存在する隙間に、前記第1シート層の木質系材料が侵入して、前記第1シート層及び前記第2シート層が接合し一体化されていることを特徴とする。
【0007】
この場合において、前記第2シート層は単一の層又は複数の層で存在し、少なくともその1層は、前記繊維材料が不織布状、織物状、編物状又は単一方向性状とされた繊維シート層とされ、前記繊維シート層は、その両側で前記第1シート層に挟まれており、両側で挟む前記第1シート層は、それぞれ、木材単板、又は、微細化された木質系繊維を含んだシートのいずれかであるようにすることができる。
【0008】
ここで、第2シート層が厚い場合は、繊維材料のシート内に存在する隙間に木質系材料が十分に侵入しないため、十分な層間補強効果が得られない。そのため、繊維材料のシートの厚みは1~200μmの薄いものの方が好ましい。第1シート層の厚みは特に限定されないが、0.1~100mmのものが用いられる。
【0009】
また、前記第1シート層は複数存在し、そのうち、前記第2シート層の片側又は両側に接する前記第1シート層として、微細化された木質系繊維が用いられているようにすることができる。
これは、熱圧プレス時に、同じく第1シート層に含まれる樹脂の軟化により、木質系繊維は容易に軟化・流動させることができるため、繊維材料間に存在する隙間に侵入させることができる。また、その状態で樹脂を硬化させることにより、木質系繊維と繊維材料の機械的な絡まりにより層間が強固に補強された複合材料を提供することができる。
【0010】
また、最表面層には、塊状木質系材料が配置され、木質調の外観を有するようにすることができる。
【0011】
また、前記複合材料を所定の形状に加工することによって、成形品を成形することができる。
すなわち、前記複合材料は、切断、切削、除去加工、接着、塑性加工等で所定の形状に加工されることにより成形品が得られる。また、所定の形状の金型を用いて熱圧プレス等により複合材料を作製することにより、一段階の加工で複合材料の成形品を作製することもできる。
【発明の効果】
【0012】
一般的に複合材料は異種材料が接触する界面(積層材料の場合は層間)が力学的な弱点となるが、本発明の複合材料及びそれを用いた成形品は、木質系繊維と繊維材料の機械的な絡みにより層間が補強されることにより、高い層間せん断強さを有する複合材料及び成形品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の複合材料の実施例及び比較例の積層パターンの例を示す説明図である。
図2】本発明の複合材料の実施例及び比較例の層間部分の組織の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の複合材料の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、複合材料の積層パターンの例を示す説明図である。
図1に示すように、本発明の複合材料は、第1シート層と第2シート層が積層された構造になっている。そして、前記第1シート層は、木質系材料(木材単板Wv又は木質系繊維Wf)を含み、前記第2シート層は、繊維材料Fを含むようにされている。
このうち、前記第2シート層は、少なくとも一方の面が、木質系繊維Wfを含む第1シート層と接するように配置される。
最表面層には、図1(b)のように木質系繊維Wfを含む第1シート層を配置してもよいが、木質調の外観が必要な場合は、図1(c)、(e)、(f)のように木材単板Wvを含む第1シート層又は塊状の木質系材料を配するようにする。
【0015】
ここで、木質系材料を含んだ第1シート層は、木材単板Wvや木質系繊維Wf以外にも木材、突板、チップ、木粉等を含んでもよい。
また、木質系繊維Wfとしては、木材繊維、竹繊維、麻繊維、ケナフ繊維等が用いられる。
木質系繊維Wf、チップ、木粉等の微細化された木質系材料は、そのままシート状に配してもよいが、不織布、織物、編物等のいずれであってもよい。
ただし、繊維材料Fとの界面接着力を強化するためには、繊維材料Fの隙間に木質系材料を侵入させることが効果的であり、この場合は木質系材料として木質系繊維Wfを用いることが好ましい。
【0016】
木質系繊維Wfの製造方法は、特に限定されないが、例えば、圧力・熱を加えて木質細胞相互の位置変化を生じせしめて変形加工を行う流動成形において用いる流動成形用前駆体の製造方法が好適である。
この方法は、前記植物系材料に、加熱密閉空間において圧縮・せん断力によるひずみを加えて細胞間層でのすべり変形に起因する流動現象を生じさせることによって、植物系材料が本来有する繊維状細胞の破損を低減した状態で繊維配向度をランダムに均質化することができる。
これを使用すると、繊維材料Fと木質系繊維Wfの層間における機械的な絡まりが強化され、より強固に層間を補強することができる。
【0017】
また、前記第1シート層には、樹脂が含まれる。含まれる樹脂の重量は、第1シート層全体の重量に対して1~60%、好ましくは、20~60%である。
この樹脂としては、木質系材料の流動性を向上させるとともに、木質系材料間及び繊維材料Fに対して接着剤の機能を発揮する熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0018】
このうち、熱硬化性樹脂としては、フェノール、エポキシ、不飽和ポリエステル、ユリア、メラミン、ジアリルフタレート、ケイ素、ビニルエステル、ポリイミド、ポリウレタン等の各種樹脂を用いることができる。これらは、単独で用いても、2種類以上を混合してもよい。また、硬化剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0019】
また、熱可塑性樹脂としては、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、フタル酸エステル等のエステル類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ABS、AS、ナイロン等のポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド等の各種樹脂を用いることができる。これらは、単独で用いても、2種類以上を混合してもよい。
【0020】
一方、前記第2シート層に含まれる繊維材料Fとしては、無機系繊維と有機系繊維のいずれも使用できる。
無機系繊維としてはガラス繊維、炭素繊維、セピオライト、セラミックス、ロックウール、ウォラストナイト、チタン酸カリウム繊維、銅等の金属繊維等の各種繊維を用いることができる。
また、有機系繊維としては、綿、麻、竹等の天然繊維や、アラミド、ポリアミド、ポリビニル系、ポリエステル系、アクリル、レーヨン等の合成繊維を用いることができる。
これらは、繊維材料Fは、単独で用いても、2種類以上を混合してもよい。
繊維材料Fの形状は、特に限定されないが、長さ0.1~1000mm、好ましくは、8~50mm、直径8~100μm、好ましくは、10~50μmが、繊維材料Fの隙間に木質系材料が侵入しやすいため好適である。
【0021】
繊維材料Fが含まれる第2シート層の形態は、不織布、織物(平織、綾織、朱子織等)、編物、UD材(単一方向性材)のいずれであってもよい。特に、不織布、UD材、朱子織の織物等の、繊維間に隙間が存在し、解れやすいものが好適である。
【0022】
前記第2シート層には、前記繊維材料Fの他に、繊維材料Fにコーティングされているサイジング剤や接着剤等や、セラミックス、金属、樹脂等の粉末、染料等を含んでもよい。
【0023】
前記第1シート層と第2シート層を一体化させる工程において、金型の加熱温度条件は、投入する木質系材料及び樹脂を一旦軟化させた後、硬化させる温度域でなくてはならず、また、植物系材料の熱分解温度よりも低い温度を設定する必要があるため、室温~200℃が好ましく、より望ましくは100~180℃がよい。また、これらの温度範囲は1段階に設定してもよいし、前記木質系材料と樹脂の軟化時と硬化時の設定温度を段階的に変化させてもよい。成形時間の短時間化のためには、上記温度域において比較的高い温度設定(150~180℃)をすることも可能である。
また、前記第1シート層と第2シート層を一体化させる工程においては、加熱した金型で1~300MPaの圧力範囲で加圧する。木質系材料を十分に流動させ、かつ繊維材料の破損を防ぐために、より望ましくは5~200MPaで加圧することが望ましい。
【0024】
以下、本発明の複合材料について、具体的な実施例について説明する。
木質系材料としては、スギの単板を用いた。これに、水溶性フェノール樹脂(固形分濃度30%)を減圧、加圧することによって含浸させ、35℃以下で風乾により乾燥させることで、木材単板Wvとして調整した。この結果、木材単板Wvの全体重量に対して、50%の樹脂が含まれた第1シート層原料が作製された。
木質系繊維Wfは、前記の木質流動成形用前駆体の製造方法により作製した。具体的には、前記フェノール樹脂が含まれた木材単板Wv(第1シート層原料)を荷重(又は位置)制御可能な下パンチを設置した加温コンテナ内に投入し、多重構造のパンチにより一旦所定の荷重(又は位置)まで圧縮する。一定の圧縮荷重を保持した状態で多重構造の個々のパンチが位置変化することにより、植物系材料には、圧縮状態においてせん断力によるひずみが導入され、木質系繊維Wfが作製される。
繊維材料Fとしては、ガラス繊維の不織布(長さ0.1~50mm、直径約12μm)、ガラス繊維の織物(綾織、直径約10μm)、炭素繊維の不織布(PAN系、綾織、長さ0.1~10mm、直径約8μm)をそれぞれ用いた。
そして、作製された、前記木材単板Wv、前記木質系繊維Wf、前記繊維材料Fを、図1(d)又は(e)のパターンで積層し、上下の平板からなる金型間に設置し、金型を外部から加熱(約145℃)しながら、単軸プレスによって約24MPaで加圧することにより一体化し、比較例2-1(繊維材料F:ガラス繊維の織物、図1(d)パターン)、比較例2-2(繊維材料F:炭素繊維の不織布、図1(d)パターン)、実施例3-1(繊維材料F:ガラス繊維の織物、図1(e)パターン)、実施例3-2(繊維材料F:炭素繊維の不織布、図1(e)パターン)の4つの複合材料を成形した。また、木材単板Wvのみを直交させて3枚積層させた比較例3も作製した。
【0025】
図2に作製された複合材料の層間部分の組織の顕微鏡写真を示す。
比較例2-1(図2(b))の木材単板Wvとガラス繊維の層間は、明確に区切られた状態であるのに対して、実施例3-1(図2(a))の木質系繊維Wfとガラス繊維の層間は、ガラス繊維間の隙間に木質系繊維Wfが侵入した状態であり、木質系繊維Wfとガラス繊維の絡まりが生じていることを確認した。
【0026】
作製した複合材料から、最表面に配置された木材単板Wvの木目に沿って、長さ30mm、幅8mm、厚さ3.3~4.5mmの試験片を4本切り出し、JIS K 7057に準じたショートビーム法による曲げ試験により、見かけの層間せん断強さを測定した。
その結果を、表1に示す。
この結果から、作製された複合材料は、木材単板Wvのみの積層材(比較例3)に比べて高い層間せん断強さを有した。さらに、本発明により作製された複合材料(実施例3-1、3-2)は、従来の複合材料(比較例2-1、2-2)よりも高い層間せん断強さを有することから、本発明により木質系材料と繊維材料Fの層間が補強されたことを確認した。
【0027】
【表1】
【0028】
以上、本発明の複合材料及びその成形品について、その実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の複合材料は、従来の木質系複合材料よりも高い層間せん断強さを有することから、例えば、建築用の構造部材として利用できる。また、この複合材料を所定の形状に加工した成形品は、スピーカー振動板等の音響部材、内装パネル等の自動車部材、電化製品の筐体等の家電部材、建材等の構造部材等の幅広い用途として利用できる。
【符号の説明】
【0030】
Wf 木質系繊維(木質系材料)(第1シート層)
Wv 木材単板(木質系材料)(第1シート層)
F 繊維材料(第2シート層)
図1
図2