(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】成膜用ドーピング原料溶液の製造方法、積層体の製造方法、成膜用ドーピング原料溶液及び半導体膜
(51)【国際特許分類】
C23C 16/40 20060101AFI20220119BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20220119BHJP
C30B 25/14 20060101ALI20220119BHJP
C30B 29/16 20060101ALI20220119BHJP
H01L 21/365 20060101ALI20220119BHJP
H01L 21/368 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C23C16/40
C23C16/455
C30B25/14
C30B29/16
H01L21/365
H01L21/368 Z
(21)【出願番号】P 2021010957
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2021-01-29
(31)【優先権主張番号】P 2020111066
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】橋上 洋
(72)【発明者】
【氏名】渡部 武紀
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 崇寛
(72)【発明者】
【氏名】川原村 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】ダン タイ ジャン
(72)【発明者】
【氏名】安岡 龍哉
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-134717(JP,A)
【文献】特開2019-033142(JP,A)
【文献】特開2015-070248(JP,A)
【文献】特開2020-098818(JP,A)
【文献】国際公開第2018/052097(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/129508(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
C30B 1/00-35/00
H01L 21/365
H01L 21/368
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜用ドーピング原料溶液の製造方法であって、
ハロゲンを含む有機ドーパント化合物を含む溶質を、他の溶媒とは混合することなく、先ず第1の溶媒と混合して、ドーパント前駆体溶液を成膜原料とは別途作製するステップを含み、
前記第1の溶媒として酸性のものを用いることを特徴とする成膜用ドーピング原料溶液の製造方法。
【請求項2】
前記第1の溶媒として、pHが3以下のものを用いることを特徴とする請求項1に記載の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法。
【請求項3】
前記第1の溶媒として、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、酢酸又はギ酸を含むものを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法。
【請求項4】
前記有機ドーパント化合物としてシラン化合物を用いることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法。
【請求項5】
前記ドーパント前駆体溶液を第2の溶媒と混合して希釈するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法。
【請求項6】
積層体の製造方法であって、
請求項1から5のいずれか1項に記載の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法で成膜用ドーピング原料溶液を製造するステップと、
膜前駆体を含む成膜原料溶液を調製するステップと、
基板を加熱するステップと、
前記成膜用ドーピング原料溶液及び前記成膜原料溶液を霧化するステップと、
前記霧化された成膜用ドーピング原料溶液と前記霧化された成膜原料溶液とをキャリアガスで前記加熱された基板に供給して成膜するステップと、
を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項7】
成膜用ドーピング原料溶液の製造方法であって、
ドーパント化合物を含む溶質を、他の溶媒とは混合することなく、先ず第1の溶媒と混合して、ドーパント前駆体溶液を成膜原料とは別途作製するステップを含み、
前記第1の溶媒として酸性のものを用い、
前記ドーパント化合物として、シリコン及びゲルマニウムのいずれかを含むものを用いることを特徴とする成膜用ドーピング原料溶液の製造方法。
【請求項8】
前記第1の溶媒として、pHが1以下のものを用いることを特徴とする請求項7に記載の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法。
【請求項9】
前記第1の溶媒として、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、酢酸又はギ酸を含むものを用いることを特徴とする請求項7又は8に記載の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法。
【請求項10】
前記ドーパント前駆体溶液を第2の溶媒と混合して希釈するステップをさらに含むことを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法。
【請求項11】
積層体の製造方法であって、
請求項7から10のいずれか1項に記載の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法で成膜用ドーピング原料溶液を製造するステップと、
膜前駆体を含む成膜原料溶液を調製するステップと、
基板を加熱するステップと、
前記成膜用ドーピング原料溶液及び前記成膜原料溶液を霧化するステップと、
前記霧化された成膜用ドーピング原料溶液と前記霧化された成膜原料溶液とをキャリアガスで前記加熱された基板に供給して成膜するステップと、
を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項12】
ミストCVDに用いる成膜用ドーピング原料溶液であって、
IV族元素とハロゲン元素とを含み、且つ
pHが0.3以上4以下のものであり、
前記IV族元素が、シリコン及びゲルマニウムのいずれかであることを特徴とする成膜用ドーピング原料溶液。
【請求項13】
前記原料溶液のpHが1以上3以下であることを特徴とする請求項12に記載の成膜用ドーピング原料溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜用ドーピング原料溶液の製造方法、積層体の製造方法、成膜用ドーピング原料溶液及び半導体膜に関する。
【背景技術】
【0002】
霧化されたミスト状の原料を用いて、基板上に結晶成長させるミスト化学気相成長法(Mist Chemical Vapor Deposition:Mist CVD。以下、「ミストCVD法」ともいう。)が開発され、コランダム構造を有する酸化ガリウム(α-Ga2O3)の作製が可能となってきた。この方法では、ガリウムアセチルアセトナートなどのガリウム化合物を塩酸などの酸に溶解した原料溶液を霧化(ミスト化ともいう)することによって原料微粒子を生成し、この原料微粒子とキャリアガスと混合した混合気をサファイアなどコランダム構造の基板の表面に供給して、原料ミストと基板を反応させることで単一配向した酸化ガリウム薄膜をエピタキシャル成長させている。
【0003】
またこのような成長膜を電子デバイスとして用いる際には、導電性を付与するための不純物ドーピングが必要である。ドーピングは一般に、4価のドーパントを溶解したドーパント前駆体溶液を上記原料溶液に添加したり、原料溶液と分けて霧化した後にミスト状態で混合したりすることで成される。特許文献1には、臭化ガリウム、臭化スズをそれぞれ物質量比で1:0.01となるように水溶液を調整し、この際に48%臭化水素酸溶液を体積比で10%を含有させた原料溶液を用いてα-酸化ガリウムにSnドーピングした例が記載されている。また特許文献2では、ガリウムアセチルアセトナートと3-シアノプロピルジメチルクロロシランを混合した水溶液に塩酸を添加した溶液を用いたSiドーピングの例が記載されている。また特許文献3では、酸化ゲルマニウムをドーパント源とし、原料溶液として臭化ガリウムと酸化ゲルマニウムを超純水に混合して用いる例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-196603公報
【文献】国際公開第WO2018/052097号パンフレット
【文献】特開2018-35044公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、特許文献2および特許文献3に記載の方法では、溶液中におけるドーパント前駆体の性状が安定せず、成長膜へのドーピングが十分されなかったり、副生成物により成長膜中に欠陥が導入され、成長膜の電気的特性が低下したりする問題があった。このため特に大面積での膜形成では成長膜の電気特性が不均一であり、膜の生産性が著しく低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、優れた電気的特性を有する高品質な薄膜を安定的に形成可能とする成膜用ドーピング原料溶液の製造方法、及びこれを用いた積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、優れた電気的特性を有する高品質且つ大面積の薄膜を安定的に形成可能とする成膜用ドーピング原料溶液及びその製造方法、さらに該成膜用ドーピング原料溶液を用いた積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、大面積且つ電気抵抗率分布が良好な半導体膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、成膜用ドーピング原料溶液の製造方法であって、
ハロゲンを含む有機ドーパント化合物又はドーパントのハロゲン化物を含む溶質を、他の溶媒とは混合することなく、先ず第1の溶媒と混合して、ドーパント前駆体溶液を成膜原料とは別途作製するステップを含み、
前記第1の溶媒として酸性のものを用いることを特徴とする成膜用ドーピング原料溶液の製造方法を提供する。
【0010】
このような方法であれば、ハロゲンを含む有機ドーパント化合物又はドーパントのハロゲン化物を含む溶質を他の溶媒とは混合せずに先ず酸性溶媒で成膜原料とは別途ドーピング前駆体溶液を製造することで、ドーパント前駆体の化学的状態をドーピングに適した状態で安定化させることができ、ドーパント前駆体に由来する副生成物の発生を抑えることができるので、高品質な積層体を形成可能な成膜用ドーピング原料溶液を製造することができる。すなわち、本発明の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法によると、優れた電気的特性を有する高品質な薄膜を安定的に形成可能とする成膜用ドーピング原料溶液を製造できる。
【0011】
このとき、前記第1の溶媒として、pHが3以下のものを用いると良い。
【0012】
このようにすれば、ドーパント前駆体をドーピングに適した状態でより安定に保つことができる。
【0013】
このとき、前記第1の溶媒として、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、酢酸又はギ酸を含むものを用いると良い。
【0014】
このようにすれば、ドーパント由来の副生成物形成をより効果的に抑制できる。
【0015】
このとき、前記有機ドーパント化合物としてシラン化合物を用いると良い。
【0016】
このようにすれば、電気特性がより良好な積層体を実現可能な成膜用ドーピング原料溶液を製造することができる。
【0017】
このとき、前記ハロゲン化物としてスズを含むものを用いると良い。
【0018】
このようにすれば、電気特性がより良好な積層体を実現可能な成膜用ドーピング原料溶液を製造することができる。
【0019】
このとき、前記ドーパント前駆体溶液を第2の溶媒と混合して希釈するステップをさらに含んでいて良い。
【0020】
このようにすれば、積層体の電気特性をより良好に制御することができる。
【0021】
また、本発明は、成膜用ドーピング原料溶液の製造方法であって、
ドーパント化合物を含む溶質を、他の溶媒とは混合することなく、先ず第1の溶媒と混合して、ドーパント前駆体溶液を成膜原料とは別途作製するステップを含み、
前記第1の溶媒として酸性のものを用いることを特徴とする成膜用ドーピング原料溶液の製造方法を提供する。
【0022】
このような方法であれば、ドーパント化合物を含む溶質を他の溶媒とは混合せずに先ず酸性溶媒で成膜原料とは別途ドーピング前駆体溶液を製造することで、ドーパント前駆体の化学的状態をドーピングに適した状態で安定化させることができ、ドーパント前駆体に由来する副生成物の発生を抑えることができるので、高品質な積層体を形成可能な成膜用ドーピング原料溶液を製造することができる。すなわち、本発明の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法によると、優れた電気的特性を有する高品質な薄膜を安定的に形成可能とする成膜用ドーピング原料溶液を製造できる。
【0023】
このとき、前記第1の溶媒として、pHが1以下のものを用いると良い。
【0024】
このようにすれば、ドーパント前駆体をドーピングに適した状態でより安定に保つことができる。
【0025】
このとき、前記第1の溶媒として、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、酢酸又はギ酸を含むものを用いると良い。
【0026】
このようにすれば、ドーパント由来の副生成物形成をより効果的に抑制できる。
【0027】
このとき、前記ドーパント化合物として、シリコン、スズ、及びゲルマニウムのいずれかを含むものを用いると良い。
【0028】
このようにすれば、電気特性がより良好な積層体を実現可能な成膜用ドーピング原料溶液を製造することができる。
【0029】
このとき、前記ドーパント前駆体溶液を第2の溶媒と混合して希釈するステップをさらに含んでいて良い。
【0030】
このようにすれば、積層体の電気特性をより良好に制御することができる。
【0031】
また、本発明は、積層体の製造方法であって、
本発明の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法で成膜用ドーピング原料溶液を製造するステップと、
膜前駆体を含む成膜原料溶液を調製するステップと、
基板を加熱するステップと、
前記成膜用ドーピング原料溶液及び前記成膜原料溶液を霧化するステップと、
前記霧化された成膜用ドーピング原料溶液と前記霧化された成膜原料溶液とをキャリアガスで前記加熱された基板に供給して成膜するステップと、
を含むことを特徴とする積層体の製造方法を提供する。
【0032】
このようにすれば、成膜原料とは別途に酸性溶媒で製造する、本発明の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法で製造した成膜用ドーピング原料溶液を用いるので、優れた電気特性を具備する積層体を製造することができる。すなわち、本発明の積層体の製造方法によれば、優れた電気的特性を有する高品質な薄膜を含んだ積層体を安定的に形成できる。
【0033】
また、本発明は、ミストCVDに用いる成膜用ドーピング原料溶液であって、
IV族元素とハロゲン元素とを含み、且つ
pHが0.3以上4以下のものであることを特徴とする成膜用ドーピング原料溶液を提供する。
【0034】
これにより、大面積基板においても優れた電気的特性を有する高品質な薄膜を均一に形成可能なドーピング原料溶液とすることができる。
【0035】
このとき、前記原料溶液のpHが1以上3以下であるとよい。
【0036】
これにより、より優れた電気的特性を有する高品質な薄膜が形成可能になる。
【0037】
またこのとき、前記IV族元素が、シリコン、スズ、及びゲルマニウムのいずれかであると良い。
【0038】
これにより、より再現性の安定したドーピングを行うことが可能なドーピング原料溶液とすることができる。
【0039】
また、本発明は、半導体膜であって、
GaとIV族元素とを含み、コランダム型結晶構造を有し、
前記半導体膜における抵抗率分布が±25%以下のものであることを特徴とする半導体膜を提供する。
【0040】
これにより、高品質かつ生産性の高い半導体膜となる。
【0041】
このとき、前記半導体膜の面積が50cm2以上であるとよい。
【0042】
これにより、より高品質かつ生産性の高い半導体膜となる。
【0043】
またこのとき前記半導体膜の膜厚が1μm以上であるとよい。
【0044】
これにより、半導体膜はより良質なものとなり、半導体装置により適した膜となり、さらに半導体装置の設計自由度を高めることができる。
【発明の効果】
【0045】
以上のように、本発明の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法によれば、優れた電気的特性を有する高品質な薄膜を安定的に形成可能とする成膜用ドーピング原料溶液を製造できる。その結果、本発明の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法によれば、優れた電気的特性を具備する積層体の製造を安定的に可能とする高品質なドーピング原料溶液を製造できる。
【0046】
例えば、本発明の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法で製造したドーパント原料溶液を用いることにより、金属酸化物半導体膜に優れた導電性を付与することができ、その結果、高品質な金属酸化物半導体膜を作製することができる。
【0047】
また、本発明の積層体の製造方法によれば、優れた電気的特性を有する高品質な薄膜を含んだ積層体を安定的に形成できる。
【0048】
また、本発明のドーピング原料溶液は、大面積基板においても優れた電気的特性を有する高品質な薄膜を均一かつ高い再現性で形成することを可能にする。
【0049】
また、本発明による半導体膜は高品質かつ高い生産性のものとすることができる。その結果、本発明による半導体膜は高品質かつ安価なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】本発明に係る積層体の製造方法に用いる装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
上述のように、優れた電気的特性を有する高品質かつ大面積の薄膜を安定的に形成可能とする成膜用ドーピング原料溶液とその製造方法、及びこれを用いた積層体の製造方法の開発が求められていた。
【0052】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、ドーパント前駆体としてドーパント化合物、例えばハロゲンを含む有機ドーパント化合物又はドーパントのハロゲン化物若しくは酸化物を含む溶質を用い、この溶質を他の溶媒とは混合することはなく先ず酸性である第1の溶媒と混合して、成膜原料とは別途ドーパント前駆体溶液を作製することで、ドーパント前駆体の化学的状態をドーピングに適した状態で安定化させることができ、ドーパント前駆体に由来する副生成物の発生を抑えることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0053】
即ち、本発明は、成膜用ドーピング原料溶液の製造方法であって、
ハロゲンを含む有機ドーパント化合物又はドーパントのハロゲン化物を含む溶質を、他の溶媒とは混合することなく、先ず第1の溶媒と混合して、ドーパント前駆体溶液を成膜原料とは別途作製するステップを含み、
前記第1の溶媒として酸性のものを用いることを特徴とする成膜用ドーピング原料溶液の製造方法である。
【0054】
また、本発明は、成膜用ドーピング原料溶液の製造方法であって、
ドーパント化合物を含む溶質を、他の溶媒とは混合することなく、先ず第1の溶媒と混合して、ドーパント前駆体溶液を成膜原料とは別途作製するステップを含み、
前記第1の溶媒として酸性のものを用いることを特徴とする成膜用ドーピング原料溶液の製造方法である。
【0055】
また、本発明は、積層体の製造方法であって、
本発明の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法で成膜用ドーピング原料溶液を製造するステップと、
膜前駆体を含む成膜原料溶液を調製するステップと、
基板を加熱するステップと、
前記成膜用ドーピング原料溶液及び前記成膜原料溶液を霧化するステップと、
前記霧化された成膜用ドーピング原料溶液と前記霧化された成膜原料溶液とをキャリアガスで前記加熱された基板に供給して成膜するステップと、
を含むことを特徴とする積層体の製造方法である。
【0056】
また、本発明は、ミストCVDに用いる成膜用ドーピング原料溶液であって、
IV族元素とハロゲン元素とを含み、且つ
pHが0.3以上4以下のものであることを特徴とする成膜用ドーピング原料溶液である。
【0057】
また、本発明は、半導体膜であって、
GaとIV族元素とを含み、コランダム型結晶構造を有し、
前記半導体膜における抵抗率分布が±25%以下のものであることを特徴とする半導体膜である。
【0058】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
[成膜用ドーピング原料溶液の製造方法]
(第1の態様)
本発明の第1の態様の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法は、ハロゲンを含む有機ドーパント化合物又はドーパントのハロゲン化物を含む溶質を、他の溶媒とは混合することなく、先ず第1の溶媒と混合して、ドーパント前駆体溶液を成膜原料とは別途作製するステップを含み、
前記第1の溶媒として酸性のものを用いることを特徴とする。
【0060】
まず、ドーパント前駆体溶液(以下、「ドーパント溶液」ともいう)の溶媒となる酸性の第1の溶媒(酸溶液)を用意する。
【0061】
ここで用いる第1の溶媒は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、酢酸又はギ酸を含むのが好ましく、特に塩酸を含んでいるものを用いるのがより好ましい。
【0062】
また、第1の溶媒は、酸性であれば特に限定されず、溶媒としては水、メタノール、エタノール、アセトンなどを含んでいて良いが、特に目的とする積層体が炭素を嫌う場合には水溶液とするのが良い。
【0063】
また、第1の溶媒の水素イオン濃度指数はpH値で3以下とすることが好ましく、より好ましくは2以下とするのが良い。pHが3以下のものを用いると、ドーパント前駆体が化学反応により変質してドーパントとして作用しなくなることをより確実に防ぐことができると共に、成膜した膜に欠陥が発現するのをより確実に防ぐことができ、それにより膜の電気特性が低下するのをより確実に防ぐことができる。
【0064】
次いで、第1の溶媒に溶質を混合して、ドーパント前駆体溶液を作製する。第1の溶媒に溶質を混合する前に、酸性ではない他の溶媒には混合しない。
【0065】
溶質としては、ハロゲンを含む有機ドーパント化合物や、ドーパントのハロゲン化物を含むものを用いる。ハロゲンを含む有機ドーパント化合物は、特に限定されないが、シリコンが含まれているのが良く、クロロジメチルシラン、3-シアノプロピルジメチルクロロシランが好適に用いられる。また、ドーパントのハロゲン化物は、特に限定されないが、スズが含まれているのが良く、無水塩化スズあるいは塩化スズ水和物が好適に用いられる。
【0066】
一方、本発明では、ドーパント前駆体溶液を、成膜原料とは別途作製する。そのため、溶質は、目的の膜の前駆体(膜前駆体)を含まない。
【0067】
第1の溶媒への溶質投入量は目標の膜中ドープ量によって適宜調整されるが、例えば0.01mol/Lから0.0000001mol/Lとするのが良い。
【0068】
第1の溶媒に溶質を投入した後、混合物を撹拌してもよい。撹拌には、スターラー撹拌、超音波照射、遊星撹拌といった一般的な公知の撹拌方法が広く適用できる。
【0069】
上記一連の工程を行う雰囲気は限定されないが、より好ましくは窒素などの不活性ガス中で行われるのが良い。
【0070】
このようにして成膜原料とは別途独立して得られたドーパント前駆体溶液は、成膜用ドーピング原料溶液としてそのまま成膜に供してもよいし、さらに追加的に希釈して用いてもよい。すなわち、ドーパント前駆体溶液の作製を以て、成膜用ドーピング原料溶液の製造を完了しても良いし、ドーパント前駆体溶液を第2の溶媒と混合して希釈するステップを更に含んでも良い。希釈に用いる第2の溶媒は、特に限定されず、水、メタノール、エタノール、アセトンなどを含んでいて良い。
【0071】
なお、ハロゲンを含む有機ドーパント化合物又はドーパントのハロゲン化物を含む溶質を、酸性ではない溶媒、例えば純水に投入した後、得られた水溶液を酸性に調製しても、ドーパント前駆体が化学反応により変質してドーパントとして作用しなくなったり、形成された膜中で欠陥となり、膜の電気特性を低下させてしまったりする。詳細は、後述の比較例を参照されたい。
【0072】
(第2の態様)
本発明の第2の態様の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法は、ドーパント化合物を含む溶質を、他の溶媒とは混合することなく、先ず第1の溶媒と混合して、ドーパント前駆体溶液を成膜原料とは別途作製するステップを含み、
前記第1の溶媒として酸性のものを用いることを特徴とする。
【0073】
まず、第1の態様と同様に、ドーパント前駆体溶液の溶媒となる酸性の第1の溶媒(酸溶液)を用意する。
【0074】
第2の態様で用いる第1の溶媒の種類は、第1の態様で用いることができるものと同様とすることができる。
【0075】
第2の態様では、第1の溶媒の水素イオン濃度指数はpH値で1以下とすることが好ましく、より好ましくは0.15以下とするのが良い。pHが1以下のものを用いると、ドーパント前駆体が化学反応により変質してドーパントとして作用しなくなることをより確実に防ぐことができると共に、成膜した膜に欠陥が発現するのをより確実に防ぐことができ、それにより膜の電気特性が低下するのをより確実に防ぐことができる。
【0076】
次いで、第1の溶媒に溶質を混合して、ドーパント前駆体溶液を作製する。第1の溶媒に溶質を混合する前に、酸性ではない他の溶媒には混合しない。
【0077】
第2の態様で用いる溶質としては、ドーパント化合物を含んでいれば特に限定されないが、特にハロゲンを含む有機ドーパント化合物や、ドーパントのハロゲン化物や、ドーパントの酸化物を含むものが好適に使用できる。ハロゲンを含む有機ドーパント化合物及びドーパントのハロゲン化物としては、特に限定されないが、例えば第1の態様で列挙したものを用いることができる。またドーパントの酸化物は、特に限定されないが、ゲルマニウムが含まれているのが良く、2酸化ゲルマニウムが好適に用いられる。
【0078】
一方、本発明の第2の態様では、第1の態様と同様に、ドーパント前駆体溶液を、成膜原料とは別途作製する。そのため、溶質は、目的の膜の前駆体(膜前駆体)を含まない。
【0079】
第2の態様では、第1の溶媒への溶質投入量は目標の膜中ドープ量によって適宜調整されるが、例えば0.1mol/Lから0.0000001mol/Lとするのが良い。
【0080】
第1の溶媒に溶質を投入した後、第1の態様と同様に、混合物を撹拌してもよい。また、第1の態様と同様に、上記一連の工程を行う雰囲気は限定されないが、より好ましくは窒素などの不活性ガス中で行われるのが良い。
【0081】
このようにして成膜原料とは別途独立して得られたドーパント前駆体溶液は、成膜用ドーピング原料溶液としてそのまま成膜に供してもよいし、さらに追加的に希釈して用いてもよい。
【0082】
このとき、ドーピング原料溶液は、pHが0.3以上4以下とすることが好ましく、より好ましくはpHが1以上3以下とするのがよい。pHが0.3以上であれば、成長膜へのドーピング量が低下するのを防いで、キャリア密度が目標値に対して低下するのを防ぐことができる。また、pHが4以下であれば、電気抵抗率の分布が大きくなるのを防ぐことができる。
【0083】
すなわち、ドーパント前駆体溶液の作製を以て、成膜用ドーピング原料溶液の製造を完了しても良いし、ドーパント前駆体溶液を第2の溶媒と混合して希釈するステップを更に含んでも良い。
【0084】
このようにすることで大面積基板においても優れた電気的特性を有する高品質な薄膜を均一に形成可能なドーピング原料溶液とすることができる。
【0085】
第1の態様と同様に、希釈に用いる第2の溶媒は、特に限定されず、水、メタノール、エタノール、アセトンなどを含んでいて良い。
【0086】
なお、ドーパント化合物を含む溶質を、酸性ではない溶媒、例えば純水に投入した後、得られた水溶液を酸性に調製しても、ドーパント前駆体が化学反応により変質してドーパントとして作用しなくなったり、形成された膜中で欠陥となり、膜の電気特性を低下させてしまったりする。詳細は、後述の比較例を参照されたい。
【0087】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体の製造方法は、
本発明の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法で成膜用ドーピング原料溶液を製造するステップと、
膜前駆体を含む成膜原料溶液を調製するステップと、
基板を加熱するステップと、
前記成膜用ドーピング原料溶液及び前記成膜原料溶液を霧化するステップと、
前記霧化された成膜用ドーピング原料溶液と前記霧化された成膜原料溶液とをキャリアガスで前記加熱された基板に供給して成膜するステップと、
を含むことを特徴とする。
【0088】
以下、各ステップを説明する。
【0089】
[成膜用ドーピング原料溶液を製造するステップ]
このステップは、本発明の積層体の製造方法で用いる成膜用ドーピング原料溶液を、本発明の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法で製造するステップである。詳細は、先の、本発明の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法の説明を参照されたい。
【0090】
[成膜原料溶液を調製するステップ]
成膜原料溶液は、膜前駆体を溶媒に混合することで調製することができる。
【0091】
膜前駆体としては、目的とする膜の前駆体となる化合物であれば特に限定せずに用いることができる。
【0092】
溶媒としては、例えば、水または有機溶媒を用いることができる。また、成膜原料溶液は、少量の酸やアルカリを含んでいても良い。
【0093】
成膜原料溶液中の膜前駆体の濃度は、特に限定されず、目的や仕様に応じて適宜設定できる。
【0094】
酸化ガリウム膜を成膜する場合、成膜原料溶液として、ガリウム前駆体溶液を調製する。
【0095】
[基板を加熱するステップ]
基板は、形成する膜を支持できるものであれば特に限定されない。基板の材料は、公知のものであってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。例えば、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、鉄やアルミニウム、ステンレス鋼、金等の金属、シリコン、サファイア、石英、ガラス、炭酸カルシウム、酸化ガリウム、SiC、ZnO、GaN等が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0096】
エピタキシャル成長による成膜を行う場合、所望の結晶構造を有する単結晶基板を用いる。
【0097】
基板の形状としては、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられいずれでも構わない。特に基板が板状体の場合、生産性の面から膜を形成する面の面積は少なくとも5平方センチメートル以上、好ましくは10平方センチメートル以上とするのが良く、特には50cm2以上である。また厚さは、本発明においては特に限定されないが、好ましくは、50~2000μmであり、より好ましくは200~800μmとするのが良い。
【0098】
基板の加熱温度及び加熱雰囲気は、特に限定されず、成膜用ドーピング原料溶液及び成膜原料溶液の成分、並びに目的とする膜の組成に応じて、適宜選択することができる。
【0099】
[霧化するステップ]
このステップでは、成膜用ドーピング原料溶液及び成膜原料溶液を霧化(「ミスト化」とも言う)する。なお、本発明でいうミストとは、気体中に分散した液体の微粒子を指し、霧、液滴と呼ばれるものを含み、霧、液滴ということもある。
【0100】
霧化手段は、霧化または液滴化できさえすれば特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、超音波を用いる霧化手段が好ましい。
【0101】
霧化に供される成膜用ドーピング原料溶液は、目的に応じて異なる組成の前駆体溶液(第3の溶液)と混合して用いてもよい。例えばガリウムとアルミニウムを含む酸化物を形成する場合などは、アルミニウム前駆体溶液と成膜用ドーピング原料溶液をそれぞれ別途製造した後に混合し、その後混合溶液を霧化しても良い。
【0102】
また、成膜用ドーピング原料溶液及び成膜原料溶液は、別々の霧化器で別々に霧化してもよいし、別途製造した成膜用ドーピング原料溶液を成膜原料溶液に添加したものを同一の霧化器で霧化してもよい。
【0103】
超音波を用いて得られた霧または液滴は、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能であるので、衝突エネルギーによる損傷がないため非常に好適である。
【0104】
液滴サイズは特に限定されず、数mm程度の液滴であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは0.1~10μmである。
【0105】
[成膜するステップ]
このステップでは、霧化された成膜用ドーピング原料溶液と霧化された成膜原料溶液とを、加熱された基板に、キャリアガスによって供給して、成膜する。
【0106】
キャリアガスは、特に限定されず、例えば、空気、酸素、オゾンの他、窒素やアルゴン等の不活性ガス、又は水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスが好適に用いられる。キャリアガスの種類は1種類であっても、2種類以上であってもよい。
【0107】
キャリアガスの流量は、基板サイズや成膜室の大きさにより適宜設定すればよく、たとえば0.01~100L/min程度とすることができる。
【0108】
また成膜は、大気圧下、加圧下及び減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、装置コストや生産性の面で、大気圧下で行われるのが好ましい。
【0109】
次に、本発明の積層体の製造方法について、酸化ガリウムを含む積層体の製造方法を例に、
図1を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0110】
図1に、本発明に係る積層体の製造方法に用いる装置の一例を示す。ここで説明する本発明に係る積層体の製造方法の例においては、ミストCVD装置100を用いる。ミストCVD装置100は、キャリアガス101、霧化器102a、霧化器102b、搬送配管103、バルブ104、バルブ105、搬送配管106、サセプター108、成膜室109及び加熱手段110を備えている。
【0111】
成膜室109の構造等は特に限定されるものではなく、アルミニウムやステンレスなどの金属を用いて良いし、これらの金属の耐熱温度を超える、より高温で成膜を行う場合には石英や炭化シリコンを用いても良い。成膜室109の内部又は外部には、基板107を加熱するための加熱手段110が設けられている。また、成膜室109内に設置されたサセプター108上に、基板107が載置されている。
【0112】
霧化器102a内には、成膜原料溶液としてのガリウム前駆体溶液112aが収容されている。この例におけるガリウム前駆体溶液112aとしては、膜前駆体としてのハロゲン化ガリウムやガリウム有機錯体などを水または有機溶媒に溶解した溶液が好適に用いられる。またこれらガリウム前駆体溶液112aは少量の酸やアルカリを含んでいてもよい。
【0113】
ガリウム前駆体溶液112a中のガリウム濃度は、特に限定されず、目的や仕様に応じて適宜設定できる。好ましくは、0.001mol/Lから2mol/Lであり、より好ましくは0.01mol/L以上0.7mol/L以下である。
【0114】
霧化器102bには、上記記載の本発明の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法で得られた成膜用ドーピング原料溶液を含むドーピング原料112bが収容されている。ドーピング原料112bは上記成膜用ドーピング原料溶液のみで構成されていてもよいし、前述のように目的に応じて異なる組成の前駆体溶液と混合して用いてもよい。例えばガリウムとアルミニウムからなる2元系の酸化物を形成する場合などは、それぞれ別途製造したアルミニウム前駆体溶液と上記成膜用ドーピング原料溶液を混合して用いても良い。
【0115】
また、ここではガリウム前駆体溶液112aとドーピング原料112bとを別々の霧化器に収容して用いる方法を説明しているが、本発明はこれに限らず、先に例示したようにドーピング原料112bをガリウム前駆体溶液112aに添加したものを同一の霧化器に収容して用いることもできる。この場合、ガリウム前駆体溶液112a中のGa濃度に対して、ドーパント濃度が0.0001%~20%、より好ましくは0.001%~10%のとなるように、別途製造されたガリウム前駆体溶液112aへドーピング溶液112bを添加して用いるのが良い。
【0116】
ガリウム前駆体溶液112aとドーピング原料112bの霧化手段は、先に説明したように、霧化または液滴化できさえすれば特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、超音波を用いる霧化手段が好ましい。
【0117】
キャリアガス101は、霧化器102a及び102b内で形成された霧化した原料(前駆体溶液)、すなわち霧化器102a内で形成された霧化されたガリウム前駆体溶液(成膜原料溶液)112a及び霧化器102b内で形成された霧化されたドーピング原料112b(霧化された成膜用ドーピング原料溶液を含む)のそれぞれと混合され、それぞれ第1混合気113及び第2混合気114となり、これらが混合されて混合気123となり、成膜室109へと搬送される。
【0118】
キャリアガス101としては、例えば、先に説明したものを用いることができる。また、キャリアガス101の流量も、例えば、先に説明したものとすることができる。
【0119】
このとき、各混合気113及び114の供給量は、目的とするドーピングレベルに応じて調整されるが、ガリウム供給量に対してドーパント供給量が0.0001%~20%、より好ましくは0.001%~10%のとなるようにするのが良い。
【0120】
成膜室109に供給される混合気123は、成膜室109内で加熱手段110により加熱された基板107上で反応し、膜が形成される。
【0121】
図1に示す例では、霧化器102bと成膜室109とが搬送配管106で接続され、霧化器102aからの搬送配管103が搬送配管106の途中に合流する構造が示されているが、搬送配管103と搬送配管106が独立して成膜室109へ接続されていてもよい。またこれに限らず、第1混合気113と第2混合気114を単一のバッファタンク(不図示)に導入し、バッファタンクで混合されたミストを成膜室109へ搬送しても良い。
【0122】
図示していないが、希釈ガスを追加して単位体積あたりの、混合気123におけるミスト量を調節することも可能である。希釈ガスの流量は適宜設定すればよく、例えばキャリアガスの0.1~10倍/分とすることができる。
【0123】
希釈ガスを、例えば霧化器102a及び102bの下流側へ供給しても良い。また、希釈ガスはキャリアガスと同じものを用いても良いし、異なるものを用いても良い。
【0124】
搬送配管103及び106は、前駆体の溶媒や反応器と搬送配管の取り合いにおける温度などに対して十分な安定性を持つものであれば特に限定されず、石英やポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂などといった一般的な樹脂製の配管を広く用いることができる。
【0125】
[成膜用ドーピング原料溶液]
本発明の成膜用ドーピング原料溶液は、ミストCVDに用いる成膜用ドーピング原料溶液であって、
IV族元素とハロゲン元素とを含み、且つ
pHが0.3以上4以下のものであることを特徴とする。
【0126】
このとき、ドーピング原料溶液は、pHが0.3以上4以下とし、より好ましくはpHが1以上3以下とするのがよい。pHが0.3以上であれば、成長膜へのドーピング量が低下するのを防いで、キャリア密度が目標値に対して低下するのを防ぐことができる。また、pHが4以下であれば、電気抵抗率の分布が大きくなるのを防ぐことができる。これにより、大面積基板においても優れた電気的特性を有する高品質な薄膜を均一に形成可能なドーピング原料溶液とすることができる。
【0127】
IV族元素が、シリコン、スズ、及びゲルマニウムのいずれかであれば、より再現性の安定したドーピングを行うことが可能なドーピング原料溶液とすることができる。
【0128】
本発明の成膜用ドーピング原料溶液は、本発明の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法によって製造することができる。
【0129】
[半導体膜]
また、本発明の半導体膜は、GaとIV族元素とを含み、コランダム型結晶構造を有し、
前記半導体膜における抵抗率分布が±25%以下のものであることを特徴とする。
【0130】
これにより、高品質かつ生産性の高い半導体膜となる。
【0131】
半導体膜の面積が50cm2以上であるとよい。
これにより、より高品質かつ生産性の高い半導体膜となる。
【0132】
またこのとき前記半導体膜の膜厚が1μm以上であるとよい。
これにより、半導体膜はより良質なものとなり、半導体装置により適した膜となり、さらに半導体装置の設計自由度を高めることができる。
【0133】
本発明の半導体膜は、本発明の成膜用ドーピング原料溶液の製造方法で製造したドーピング原料溶液と、Gaを含む成膜原料溶液とを用いて得ることができる。
【実施例】
【0134】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0135】
(実施例1)
実施例1では、
図1に示したミストCVD装置を用いて、α-酸化ガリウムの成膜を行った。
【0136】
霧化器102a及び102bには硼珪酸ガラス製の原料容器を使用し、また石英製の成膜室109を用意した。キャリアガス101の供給には純窒素ガスが充填されたガスボンベを使用した。ガスボンベと霧化器102a及び102bをウレタン樹脂製チューブで接続し、さらに霧化器102a及び102bと成膜室109とを石英製の搬送配管103及び106で接続した。
【0137】
次に、原料溶液を以下の手順で作製した。
まず、窒素ガス置換雰囲気において、ドーパント前駆体溶液の溶質としてのジメチルクロロシランをpH0.5に調整した塩酸水溶液に入れて混合し、スターラーで30分撹拌して溶解した。その後、大気中でさらに純水を加えて希釈して、シリコン濃度0.02mmol/Lのドーパント前駆体溶液である成膜用ドーピング原料溶液112bを調製した。調製した成膜用ドーピング原料溶液112bを1つの原料容器102bに充填した。
【0138】
次に、大気中で、純水に濃度35%の塩酸を1体積パーセント混合した希塩酸水溶液に膜前駆体としてのガリウムアセチルアセトナートを加え、スターラーで30分撹拌して、Ga濃度0.05mol/Lのガリウム前駆体溶液112aを調製した。調製したガリウム前駆体溶液112aをもう1つの原料容器102aに充填した。
【0139】
次に、厚さ0.6mm及び直径4インチのc面サファイア基板107を、成膜室109内に設置した石英製のサセプター108に載置し、基板温度が500℃になるように加熱した。
【0140】
次に、超音波振動子(周波数2.4MHz)により水を通じて原料容器102a及び102b内のそれぞれの原料溶液112a及び112bに超音波振動を伝播させて、それぞれの原料溶液112a及び112bを霧化(ミスト化)した。
【0141】
次に、上記2つの原料容器102a及び102bに、キャリアガス101としての窒素ガスをそれぞれ3L/minの流量で加え、霧化されたガリウム前駆体溶液112aと窒素ガス101との混合気113、及び霧化された成膜用ドーピング原料溶液112bと窒素ガス101との混合気114とを成膜室109に60分間供給して成膜を行った。この後、窒素ガス101の供給を停止し、成膜室109への混合気123の供給を停止した。
【0142】
上記一連の作業を繰り返し、10個の試料を作製した。
全試料の積層体における結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGa2O3であることが確認された。
【0143】
この後、全試料に対して、Van der Pauw法によりホール測定を行い、キャリア密度とキャリア移動度を評価した。
【0144】
(実施例2)
ジメチルクロロシランの溶解に用いる塩酸水溶液のpHを2.0とした他は実施例1と同様に成膜を行い、10個の試料を作製した。
全試料の積層体における結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGa2O3であることが確認された。
この後、全試料について、実施例1と同様に膜を評価した。
【0145】
(実施例3)
ドーパント前駆体溶液の溶質として3-シアノプロピルジメチルクロロシランを用いた他は、実施例1と同様に成膜を行い、10個の試料を作製した。
全試料の積層体における結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGa2O3であることが確認された。
この後、全試料について、実施例1と同様に膜を評価した。
【0146】
(実施例4)
ドーパント前駆体溶液として、塩化スズ(II)二水和物を用いたスズ濃度0.02mmol/Lの溶液を調製した他は、実施例1と同様に成膜を行い、10個の試料を作製した。実施例4では、塩化スズ(II)二水和物の溶解に用いる溶媒として、pHを0.5に調製した塩酸水溶液を用いた。
全試料の積層体における結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGa2O3であることが確認された。
この後、全試料について、実施例1と同様に膜を評価した。
【0147】
(比較例1)
ジメチルクロロシランを純水に入れた後、さらに塩酸を加えてpHを0.5に調整してドーパント前駆体溶液を調製した他は、実施例1と同様に成膜を行い、10個の試料を作製した。
全試料の積層体における結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGa2O3であることが確認された。
この後、全試料について、実施例1と同様に膜を評価した。
【0148】
(比較例2)
3-シアノプロピルジメチルクロロシランを純水に入れた後、さらに塩酸を加えてpHを0.5に調整してドーパント前駆体溶液を調製した他は、実施例3と同様に成膜を行い、10個の試料を作製した。
全試料の積層体における結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGa2O3であることが確認された。
この後、全試料について、実施例1と同様に膜を評価した。
【0149】
(比較例3)
塩化スズ(II)二水和物を純水に入れた後、さらに塩酸を加えてpHを0.5に調整してドーパント前駆体溶液を調製した他は、実施例4と同様に成膜を行い、10個の試料を作製した。
全試料の積層体における結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGa2O3であることが確認された。
この後、全試料について、実施例1と同様に膜を評価した。
【0150】
実施例1、2、3及び4並びに比較例1、2及び3において得られた膜のキャリア密度及びキャリア移動度の10試料平均値を以下の表1に示す。
【0151】
【0152】
表1に示した実施例1、2、3及び4の結果で示されるように、本発明に係る成膜用ドーピング原料溶液の製造方法で製造した成膜用ドーピング原料溶液は、安定したドーピングが可能であり、かつ高いキャリア移動度の高品質な膜を作製することのできる優れたものであることが分かる。一方、従来技術のドーピング原料溶液の製造方法、すなわちドーパント前駆体をまず純水で溶解する方法で製造したドーピング原料溶液を用いた比較例1、2及び3で得られた膜は、キャリア密度が低く、また移動度が大きく低下した。
【0153】
(実施例5)
実施例5では、
図1に示したミストCVD装置を用いて、α-酸化ガリウムの成膜を行った。
【0154】
ミストCVD装置は、実施例1と同様に準備した。
【0155】
次に、原料溶液を以下の手順で作製した。
まず、窒素ガス置換雰囲気において、ドーパント前駆体溶液の溶質としてのジメチルクロロシランをpH0.1に調整した塩酸水溶液に入れて混合し、スターラーで30分撹拌して溶解した。その後、大気中でさらに純水を加えて希釈して、pHを2.0に調整し、シリコン濃度0.02mmol/Lのドーパント前駆体溶液である成膜用ドーピング原料溶液112bを調製した。調製した成膜用ドーピング原料溶液112bを1つの原料容器102bに充填した。
【0156】
次に、実施例1と同様の手順で、Ga濃度0.05mol/Lのガリウム前駆体溶液112aを調製した。調製したガリウム前駆体溶液112aをもう1つの原料容器102aに充填した。
【0157】
次に、厚さ0.6mm及び直径4インチのc面サファイア基板107を、成膜室109内に設置した石英製のサセプター108に載置し、基板温度が500℃になるように加熱した。
【0158】
次に、超音波振動子(周波数2.4MHz)により水を通じて原料容器102a及び102b内のそれぞれの原料溶液112a及び112bに超音波振動を伝播させて、それぞれの原料溶液112a及び112bを霧化(ミスト化)した。
【0159】
次に、上記2つの原料容器102a及び102bに、キャリアガス101としての窒素ガスをそれぞれ3L/minの流量で加え、霧化されたガリウム前駆体溶液112aと窒素ガス101との混合気113、及び霧化された成膜用ドーピング原料溶液112bと窒素ガス101との混合気114とを成膜室109に60分間供給して成膜を行った。この後、窒素ガス101の供給を停止し、成膜室109への混合気123の供給を停止した。これにより、積層体を作製した。
【0160】
作製した積層体における結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGa2O3であることが確認された。
【0161】
この後、試料について、実施例1と同様に膜を評価した。
【0162】
(実施例6)
成膜用ドーピング原料溶液112bのpHを0.3とした他は実施例5と同様に成膜を行った。
試料の積層体における結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGa2O3であることが確認された。
この後、試料について、実施例1と同様に膜を評価した。
【0163】
(実施例7)
成膜用ドーピング原料溶液112bのpHを4.0とした他は実施例5と同様に成膜を行った。
試料の積層体における結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGa2O3であることが確認された。
この後、試料について、実施例1と同様に膜を評価した。
【0164】
(比較例4)
ジメチルクロロシランを純水に入れた後、さらに塩酸を加えてpHを0.1に調整してドーパント前駆体溶液を調製し、その後純水で希釈してpHを2に調整した他は、実施例5と同様に成膜を行った。
試料の積層体における結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGa2O3であることが確認された。
この後、試料について、実施例1と同様に膜を評価した。
【0165】
(実施例8)
ドーパント前駆体溶液として、pHを0.1に調製した塩酸水溶液に3-シアノプロピルジメチルクロロシランを溶解し、シリコン濃度0.02mmol/Lの溶液を調製した他は、実施例5と同様に成膜を行った。
試料の積層体における結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGa2O3であることが確認された。
この後、試料について、実施例1と同様に膜を評価した。
【0166】
(実施例9)
ドーパント前駆体溶液として、pHを0.1に調製した塩酸水溶液に塩化スズ(II)二水和物を溶解し、スズ濃度0.02mmol/Lの溶液を調製した他は、実施例5と同様に成膜を行った。
試料の積層体における結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGa2O3であることが確認された。
この後、試料について、実施例1と同様に膜を評価した。
【0167】
(実施例10)
ドーパント前駆体溶液として、pHを0.1に調製した塩酸水溶液に酸化ゲルマニウムを溶解し、ゲルマニウム濃度0.02mmol/Lの溶液を調製した他は、実施例5と同様に成膜を行った。
試料の積層体における結晶層は、X線回折測定で2θ=40.3°にピークが現れたことから、α相のGa2O3であることが確認された。
この後、試料について、実施例1と同様に膜を評価した。
【0168】
実施例5、6、7、8、9及び10並びに比較例4において得られた膜の抵抗率分布ならびにキャリア密度とキャリア移動度を以下の表2に示す。
【0169】
【0170】
表2に示した実施例5、6、7、8、9及び10の結果で示されるように、本発明に係る成膜用ドーピング原料溶液の製造方法で製造した成膜用ドーピング原料溶液は、安定したドーピングが可能であり、かつ良好な抵抗率分布と高いキャリア移動度の高品質な膜を作製することのできる優れたものであることが分かる。一方、従来技術のドーピング原料溶液の製造方法、すなわちドーパント前駆体を純水で溶解する方法で製造したドーピング原料溶液を用いた比較例4で得られた膜は、抵抗率分布が大きく、またキャリア密度が低く、さらに移動度が大きく低下した。
【0171】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0172】
100…ミストCVD装置、 101…キャリアガス、 102a及び102b…霧化器(原料容器)、 103及び106…搬送配管、 104及び105…バルブ、 107…基板、 108…サセプター、 109…成膜室、 110…加熱手段、 112a…ガリウム前駆体溶液(成膜原料溶液)、 112b…ドーピング原料(成膜用ドーピング原料溶液)、 113…第1混合気、 114…第2混合気、 123…混合気。