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特許7011268ハイドロフルオロオレフィン又はフルオロオレフィンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】ハイドロフルオロオレフィン又はフルオロオレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/269 20060101AFI20220119BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20220119BHJP
   C07C 17/361 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C07C17/269
C07C21/18
C07C17/361
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020033376
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134190
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2021-02-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蓮本 雄太
(72)【発明者】
【氏名】高桑 達哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 治
(72)【発明者】
【氏名】中谷 英樹
(72)【発明者】
【氏名】能美 政男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 数行
(72)【発明者】
【氏名】山ノ井 航平
(72)【発明者】
【氏名】大島 明博
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/163522(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106565409(CN,A)
【文献】特開2013-241348(JP,A)
【文献】国際公開第2012/067980(WO,A2)
【文献】特公昭46-014044(JP,B1)
【文献】特開昭61-172836(JP,A)
【文献】国際公開第2021/002343(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/008695(WO,A1)
【文献】特開2015-155391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1のハイドロフルオロカーボン及び炭素数3のハイドロフルオロオレフィンAからなる群から選択される少なくとも一種の原料化合物に電離放射線及び/又は波長300nm以下の紫外線を照射する、炭素数2のハイドロフルオロオレフィンの製造方法であって、
前記原料化合物が、フルオロメタン(HFC-41)、ジフルオロメタン(HFC-32)、トリフルオロメタン(HFC-23)、及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)からなる群から選択される一種以上であり、
前記炭素数2のハイドロフルオロオレフィンは、トリフルオロエチレン(HFO-1123)、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E)/(Z))、及び1-フルオロエチレン(HFO-1141)からなる群から選択される少なくとも一種である、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記電離放射線がγ線である、請求項1に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項3】
前記電離放射線及び/又は波長300nm以下の紫外線の吸収線量が1Gy以上1MGy以下である、請求項1又は2に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項4】
-196℃以上600℃以下で、前記原料化合物に前記電離放射線及び/又は前記紫外線を照射する、請求項1~3のいずれかに記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項5】
バッチ式又は連続式のいずれかで行う、請求項1~4のいずれかに記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項6】
トリフルオロエチレン(HFO-1123)を99.0モル%以上含有し、
更にフルオロアセチレンを含有することを特徴とする組成物。
【請求項7】
トリフルオロエチレン(HFO-1123)を99.0モル%以上含有し、
更に下記一般式(5):
【化1】
〔但し、Z、Z、Z、Z、Z及びZはそれぞれ水素原子又はフッ素原子を示す。〕で示される芳香族化合物を含有し、その含有量が0.1ppm未満であることを特徴とする組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハイドロフルオロオレフィン又はフルオロオレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロフルオロオレフィン(HFO)は各種機能性材料、溶媒、冷媒、発泡剤、機能性重合体のモノマー又はそれらの原料等として有用な化合物であり、冷媒の用途では地球温暖化係数(GWP)の低い冷媒として有望視されている。また、フルオロオレフィン(FO)も機能性重合体のモノマーとして有用な化合物である。
【0003】
本開示に関連する先行文献として、例えば特許文献1には、「下式(1)で表される(ハイドロフルオロカーボン:HFC)化合物から熱分解を伴う合成反応により1,2-ジフルオロエチレンを製造することを特徴とする、1,2-ジフルオロエチレンの製造方法。
【0004】
CHFX (1)
(式(1)中、Xはハロゲン原子である。)」が開示されている。
【0005】
また、上記HFCの熱分解法の他、触媒反応を用いた方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-241348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、独自の検討により、従来技術においては、目的化合物の合成過程で高温及び触媒を必要とせず、且つ目的化合物の選択率が高いHFO又はFOの製造方法の開発には至っていないと着想するに至った。よって、本開示はかかる独自の課題を解決することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1.炭素数1又は2のハイドロフルオロカーボン並びに炭素数2又は3のハイドロフルオロオレフィンAからなる群から選択される少なくとも一種の原料化合物に電離放射線及び/又は波長300nm以下の紫外線を照射することを特徴とする、炭素数2、3又は4のハイドロフルオロオレフィン又はフルオロオレフィンの製造方法(但し、前記原料化合物が前記ハイドロフルオロオレフィンAの場合、得られる前記ハイドロフルオロオレフィンは前記ハイドロフルオロオレフィンAとは異なる。)。
2.前記電離放射線がγ線である、上記項1に記載のハイドロフルオロオレフィン又はフルオロオレフィンの製造方法。
3.前記電離放射線及び/又は波長300nm以下の紫外線の吸収線量が1Gy以上1MGy以下である、上記項1又は2に記載のハイドロフルオロオレフィン又はフルオロオレフィンの製造方法。
4.前記原料化合物が、下記一般式(1):
【0009】
【化1】
【0010】
〔但し、X、X、X及びXはそれぞれ水素原子又はフッ素原子を示し、水素原子及びフッ素原子はそれぞれ1つ以上含まれる。〕
で示されるフルオロメタン化合物の一種以上、及び/又は、下記一般式(2):
【0011】
【化2】
【0012】
〔但し、Y、Y、Y、Y、Y及びYはそれぞれ水素原子又はフッ素原子を示し、水素原子及びフッ素原子はそれぞれ1つ以上含まれる。〕
で示されるフルオロエタン化合物の一種以上である、上記項1~3のいずれかに記載のハイドロフルオロオレフィン又はフルオロオレフィンの製造方法。
5.前記原料化合物が、下記一般式(3):
【0013】
【化3】
【0014】
〔但し、L、L、L及びLはそれぞれ水素原子又はフッ素原子を示し、水素原子及びフッ素原子はそれぞれ1つ以上含まれる。〕
で示されるフルオロエチレン化合物の一種以上、及び/又は、下記一般式(4):
【0015】
【化4】
【0016】
〔但し、M、M、M、M、M及びMはそれぞれ水素原子又はフッ素原子を示し、水素原子及びフッ素原子はそれぞれ1つ以上含まれる。〕
で示されるフルオロプロペン化合物の一種以上である、上記項1~3のいずれかに記載のハイドロフルオロオレフィン又はフルオロオレフィンの製造方法。
6.-196℃以上600℃以下で、前記原料化合物に前記電離放射線及び/又は前記紫外線を照射する、上記項1~5のいずれかに記載のハイドロフルオロオレフィン又はフルオロオレフィンの製造方法。
7.バッチ式又は連続式のいずれかで行う、上記項1~6のいずれかに記載のハイドロフルオロオレフィン又はフルオロオレフィンの製造方法。
8.トリフルオロエチレン(HFO-1123)、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E)/(Z))、テトラフルオロエチレン(FO-1114)又は1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)を99.0モル%以上含有し、
更にフルオロアセチレン、トリフルオロメタン(HFC-23)、1、1、2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)及び1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)からなる群から選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする組成物。
9.トリフルオロエチレン(HFO-1123)、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E)/(Z))、テトラフルオロエチレン(FO-1114)又は1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)を99.0モル%以上含有し、
下記一般式(5):
【0017】
【化5】
【0018】
〔但し、Z、Z、Z、Z、Z及びZはそれぞれ水素原子又はフッ素原子を示す。〕
で示される芳香族化合物の含有量が0.1ppm未満であることを特徴とする組成物。
【発明の効果】
【0019】
本開示のHFO又はFOの製造方法は、目的化合物の選択率が高いHFO又はFOの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、特定の原料化合物に電離放射線及び/又は波長300nm以下の紫外線を照射する工程を有する製造方法によれば上記課題を解決することを見出した。
【0021】
本開示は、かかる知見に基づきさらに研究を重ねた結果完成されたものである。本開示は、以下の実施形態を含む。
【0022】
ハイドロフルオロオレフィン(HFO)又はフルオロオレフィン(FO)の製造方法
本開示のハイドロフルオロオレフィン(HFO)又はフルオロオレフィン(FO)の製造方法は、炭素数1又は2のハイドロフルオロカーボン並びに炭素数2又は3のハイドロフルオロオレフィンAからなる群から選択される少なくとも一種の原料化合物に電離放射線及び/又は波長300nm以下の紫外線を照射することにより、炭素数2、3又は4のハイドロフルオロオレフィン又はフルオロオレフィンを得るものである(但し、前記原料化合物が前記ハイドロフルオロオレフィンAの場合、得られる前記ハイドロフルオロオレフィンは前記ハイドロフルオロオレフィンAとは異なる。)。
【0023】
以下、本明細書においては、ハイドロフルオロカーボンは「HFC」、ハイドロフルオロオレフィンは「HFO」、ハイドロフルオロオレフィンAは「HFOA」、フロオロオレフィンは「パーフルオロオレフィン,FO」とも称する。
【0024】
原料化合物である炭素数1又は2のハイドロフルオロカーボン並びに炭素数2又は3のハイドロフルオロオレフィンAからなる群から選択される少なくとも一種としては、電離放射線及び/又は波長300nm以下の紫外線(以下、総称して「電離放射線等」ともいう。)の照射により炭素数2、3又は4のHFO又はFO(但し、原料化合物がHFOAの場合には、HFOAとは異なるHFO。)が得られる限り特に限定されない。
【0025】
炭素数1のHFCとしては限定的ではないが、下記一般式(1):
【0026】
【化6】
【0027】
〔但し、X、X、X及びXはそれぞれ水素原子又はフッ素原子を示し、水素原子及びフッ素原子はそれぞれ1つ以上含まれる。〕
で示されるフルオロメタン化合物が挙げられる。具体的には、フルオロメタン(HFC-41)、ジフルオロメタン(HFC-32)及びトリフルオロメタン(HFC-23)が挙げられる。なお、本開示においては、一般式(1)で示されるフルオロメタン化合物に加えて、X、X、X及びXの全てがフッ素原子であるテトラフルオロメタン(FC-14)を併用することができる。FC-14を併用することにより、フッ素原子の含有量が多いHFO又はFOの選択率が向上することが期待される。
【0028】
炭素数2のHFCとしては限定的ではないが、下記一般式(2):
【0029】
【化7】
【0030】
〔但し、Y、Y、Y、Y、Y及びYはそれぞれ水素原子又はフッ素原子を示し、水素原子及びフッ素原子はそれぞれ1つ以上含まれる。〕
で示されるフルオロエタン化合物が挙げられる。具体的には、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、ペンタフルオロエタン(HFC-125)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、1,2-ジフルオロエタン(HFC-152)、モノフルオロエタン(HFC-161)、テトラフルオロエタン(HFC-116)等が挙げられる。なお、本開示においては、一般式(2)で示されるフルオロエタン化合物に加えて、Y、Y、Y、Y、Y及びYの全てがフッ素原子であるヘキサフルオロエタン(FC-116)を併用することができる。
【0031】
炭素数2のHFOAとしては限定的ではないが、下記一般式(3):
【0032】
【化8】
【0033】
〔但し、L、L、L及びLはそれぞれ水素原子又はフッ素原子を示し、水素原子及びフッ素原子はそれぞれ1つ以上含まれる。〕
で示されるフルオロエチレン化合物の一種以上が挙げられる。具体的には、シス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))、トリフルオロエチレン(HFO-1123)等が挙げられる。なお、本開示においては、一般式(3)で示されるフルオロエチレン化合物に加えて、L、L、L及びLの全てがフッ素原子であるテトラフルオロエチレン(TFE,FO-1114)を併用することができる。
【0034】
炭素数3のHFOAとしては限定的ではないが、下記一般式(4):
【0035】
【化9】
【0036】
〔但し、M、M、M、M、M及びMはそれぞれ水素原子又はフッ素原子を示し、水素原子及びフッ素原子はそれぞれ1つ以上含まれる。〕
で示されるフルオロプロペン化合物の一種以上が挙げられる。具体的には、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)等が挙げられる。また、一般式(4)で示されるフルオロプロペン化合物に加えて、M、M、M、M、M及びMの全てがフッ素原子であるヘキサフルオロプロペンを併用することができる。
【0037】
本開示においては、これらの原料化合物の中でも、フルオロメタン(HFC-41)、ジフルオロメタン(HFC-32)、トリフルオロメタン(HFC-23)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)及び1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)からなる群から選択される少なくとも一種が、目的化合物であるHFO又はFOの選択率を高く確保できる点で好ましい。
【0038】
本開示においては、これらの原料化合物に対して電離放射線及び/又は波長300nm以下の紫外線を照射することにより目的化合物であるHFO又はFOを得る。ここで、前記電離放射線としては、原料化合物に照射することにより原料化合物の結合を選択的に切断し、少なくともフッ素原子の脱離によりフッ素脱離ラジカルを生じさせることができ、最終的に目的化合物のHFO又はFOを得ることができるものであれば特に限定されない。このような電離放射線としては、例えば、電子線(β線)、X線、γ線、中性子線、イオンビーム等が挙げられる。また、同様に電離作用のあるプラズマも使用できる。
【0039】
これらの電離放射線の中でも、特にγ線は金属容器を透過できるため簡易な金属容器(例えば、ステンレス(SUS)チューブ)に原料化合物を充填して照射できる点で好ましい。なお、本開示においては、電離放射線として複数種のエネルギー線を単独又は複数を組み合わせて使用することができる。また、後記する波長300nm以下の紫外線も当該波長範囲内で単独又は複数の紫外線を組み合わせて使用することができる。つまり電離放射線等は単色のみならず、複数の波長又は種類のエネルギー線を組み合わせて使用することができ、白色であってもよい。
【0040】
波長300nm以下の紫外線も前記電離放射線と同様に原料化合物に照射することにより原料化合物の結合を選択的に切断し、少なくともフッ素原子の脱離によりフッ素脱離ラジカルを生じさせることができる。このような作用は通常の紫外線では得られないため本開示では紫外線の中でも特に波長300nm以下の紫外線を用いる。
【0041】
本開示では、原料化合物に電離放射線等を照射する際は、例えば、ステンレス製チューブ(SUSチューブ)に原料化合物を充填し、SUSチューブ外側から電離放射線等を照射することができる。詳細には、前記γ線を照射する場合には、Co60を用いてγ線を照射することができる。
【0042】
SUSチューブに充填する原料化合物は一種類でもよく、目的化合物の種類によっては原料化合物の二種以上を任意の割合で混合して充填してもよい。SUSチューブに充填する原料化合物の仕込み圧力(ゲージ圧)は限定的ではないが、例えば、-0.01MPaG以上1.5MPaG以下で設定することができる。下限値としては、0MPaG以上が好ましく、0.1MPaG以上がより好ましく、0.2MPaG以上が更に好ましい。上限値としては、1.2MPaG以下が好ましく、1.0MPaG以下がより好ましい。本開示では、従来の触媒反応を用いた方法のように原料化合物を不活性ガスなどで希釈する必要がないため、目的化合物を得た後に不活性ガスを分離する後処理などが不要である。
【0043】
原料化合物に対する電離放射線等の照射量は目的化合物のHFO又はFOが得られる限り限定的ではないが、例えば、吸収線量が1Gy以上1MGy以下となるように設定することが好ましい。この中でも、下限値としては10Gy以上が好ましく、100Gy以上がより好ましく、1kGy以上が更に好ましい。上限値としては、500kGy以下が好ましく、300kGy以下がより好ましく、100kGy以下が更に好ましい。
【0044】
なお、吸収線量と照射線量とは下記換算式(A)により換算可能である。
【0045】
D(T)=αEexp(-αT) (A)
〔式中、Dは吸収線量、Eは照射線量、αは線吸収係数、Tは照射距離を示す。ここで、αは物質固有の値で照射する波長で決まる値であり(NIST Standard Reference Datebase 66(X-Ray Form Factor, Attenuation, and Scattering Tables)から検索可能である))、Tは照射光源と試料との距離(任意に設定可能)である。〕
例えば、ある波長のエネルギー線をある距離[T]から試料(HFC-32)に当てた際の照射線量[E(J/cm)]を測定し、上記NISTデータベースでHFC-32の所定の波長域での線吸収係数を調べて(圧力に応じたガス密度は別途計算又は測定する)、換算式から吸収線量を求めることができる。
【0046】
本開示において、原料化合物の種類にかかわらず電離放射線及び/又は波長300nm以下の紫外線を照射することができるが、原料化合物が炭素数1のHFC及び/又は炭素数2のHFCである場合には電離放射線(特にγ線)を照射することが好ましく、原料化合物がHFOAである場合には電離放射線(特にγ線)及び/又は波長300nm以下の紫外線を照射することが好ましい。
【0047】
電離放射線等の照射時間は限定的ではなく、原料化合物及び電離放射線等の種類並びに照射量に応じて適宜調整することができるが、例えば、照射時間は1秒以上50時間以下と設定することができ、その中でも1時間以上30時間以下が好ましく、5時間以上10時間以下がより好ましい。
【0048】
原料化合物に電離放射線等を照射する際は、-196℃以上600℃以下の幅広い温度で実施でき、本開示では特に10℃以上50℃以下の温度条件で反応を進行させることができる点で従来の熱分解法に比して優位性が大きい。
【0049】
本開示のHFO又はFOの製造方法は、バッチ式又は連続式のいずれでも行うことができ、上述した各条件はバッチ式又は連続式の選択により適宜調整することができる。このような本開示のHFOの製造方法は、従来の熱分解法や触媒を用いた方法に比して目的化合物の選択率が非常に高いという顕著な効果がある。具体的には、目的化合物のHFO又はFOの選択率は好ましい態様では95.0モル%以上であり、より好ましい態様では97.0モル%以上であり、更に好ましい態様では99.0モル%以上である。他方、原料化合物の転化率は0.1モル%以上の範囲で電離放射線等の照射条件の調整により適宜設定することができ、好ましい態様では転化率は25モル%程度まで高めることができる。
【0050】
HFO又はFOは不飽和結合を有する点で従来の熱分解法などでは副生成物が多く発生し、また副生成物には目的化合物のHFO又はFOと沸点が近いものがあり分離処理などの後処理が煩雑であるという問題がある。これに対して、本開示のHFO又はFOの製造方法は原料化合物に電離放射線等を照射するという斬新な構成により、目的化合物のHFO又はFOの選択率は好ましい態様では95モル%以上であり従来法に比して多大な優位性がある。また、従来の触媒反応を用いた方法に比して、不活性ガスなどによる希釈を行う必要がなく、この点でも本開示のHFO又はFOの製造方法は簡便且つクリーンな方法である。本開示のHFO又はFOの製造方法は、原料化合物に電離放射線等を照射することにより原料化合物の結合を選択的に切断し、少なくともフッ素原子の脱離によりフッ素脱離ラジカルを生じさせることができ、最終的に目的化合物のHFO又はFOを得るものであるため、目的化合物を得る工程において高温、触媒、及び不活性ガスなどによる希釈を要しない点で従来法に対して非常に有利である。
【0051】
本開示のHFO又はFOの製造方法により目的化合物となるHFO又はFOとしては限定的ではないが、トリフルオロエチレン(HFO-1123)、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E)/(Z))、1-フルオロエチレン(HFO-1141)、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz(E)/(Z))、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ye(E)/(Z))、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze(E)/(Z))、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)テトラフルオロエチレン(FO-1114)、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)等が挙げられる。
【0052】
以下に本開示のHFO又はFOの製造方法のメカニズムを一例を挙げて説明する。但し、下記のメカニズムは原料化合物〔フルオロメタン(HFC-41)、ジフルオロメタン(HFC-32)、及びトリフルオロメタン(HFC-23)〕に電離放射線(特にγ線)を照射した場合における推定メカニズムの一例であり、以下のメカニズムに限定されない。
【0053】
これらの原料化合物はいずれも炭素数1のHFCであり、反応ステップを一般化して説明すると、
ステップ1:原料化合物にγ線を照射することにより原料化合物の結合が選択的に切断されてフッ素原子(フッ素ラジカル)が脱離し、フッ素脱離ラジカルが生成する。
ステップ2:フッ素ラジカルが原料化合物の水素原子を脱離させてフッ化水素(HF)と水素脱離ラジカルとが生成する。
ステップ3:フッ素脱離ラジカル同士の反応、水素脱離ラジカル同士の反応、フッ素脱離ラジカルと水素脱離ラジカルとの反応により炭素数2のHFCが生成する。
ステップ4:炭素数2のHFCに対するγ線照射により、炭素数2のHFCからフッ素原子(フッ素ラジカル)が脱離し、フッ素脱離炭素数2のHFCラジカルが生成する。
ステップ5:フッ素ラジカルが炭素数2のHFCの水素原子を脱離させてフッ化水素(HF)と炭素数2のHFO(目的化合物)が生成する。
【0054】
これにより、フルオロメタン(HFC-41)からは1-フルオロエチレン(HFO-1141)が生成し、ジフルオロメタン(HFC-32)からはトリフルオロエチレン(HFO-1123)及び1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E)/(Z))が生成し、トリフルオロメタン(HFC-23)からは1-フルオロエチレン(HFO-1141)及びトリフルオロエチレン(HFO-1123)が生成する。
【0055】
なお、ジフルオロメタン(HFC-32)を原料化合物とする場合に原料化合物にテトラフルオロメタン(FC-14)を併用すると、電離放射線の照射によりFC-14から水素脱離ラジカル(CF・)が生成し、ここにHFC-32由来のラジカル(・CHF)が共存すればCF-CHF(HFC-134a)が生成し、電離放射線の照射により最終的にHFO-1123が生成すると推測される。よって、FC-14を併用することにより、フッ素原子の含有量が多いHFO又はFOの選択率が向上することが期待される。
【0056】
【化10】
【0057】
【化11】
【0058】
【化12】
【0059】
ハイドロフルオロオレフィン(HFO)又はフルオロオレフィン(FO)を含有する組成物
前述の本開示のHFO又はFOの製造方法によれば、好適な実施態様において、目的化合物のHFO又はFOを原料分離後の反応生成物中での選択率で95.0モル%以上、特に99.0モル%以上含有する組成物が得られる。
【0060】
本開示では、例えば、このようなHFO又はFO含有組成物としては、トリフルオロエチレン(HFO-1123)、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E)/(Z))、テトラフルオロエチレン(FO-1114)又は1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)を99.0モル%以上含有し、
更にフルオロアセチレン、トリフルオロメタン(HFC-23)、1、1、2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)及び1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)からなる群から選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする組成物を挙げることができる。
【0061】
また、本開示のHFOの製造方法によれば、従来の熱分解法(一般にいわゆるコーキングの問題を有する)とは異なり、副生成物中の芳香族化合物の含有量が極めて少なく抑制されている。炭素とのコーキングが懸念される芳香族化合物の含有量が極めて少ないことは従来法に比して有利である。このようなHFO又はFO含有組成物としては、トリフルオロエチレン(HFO-1123)、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E)/(Z))、テトラフルオロエチレン(FO-1114)又は1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)を99.0モル%以上含有し、
下記一般式(5):
【0062】
【化13】
【0063】
〔但し、Z、Z、Z、Z、Z及びZはそれぞれ水素原子又はフッ素原子を示す。〕
で示される芳香族化合物の含有量が0.1ppm未満であることを特徴とする組成物と特定することができる。なお、本開示における上記芳香族化合物の含有量は、アジレントテクノロジー製カラムクロマトグラフ(型番GC7890A)又は島津製作所製カラムクロマトグラフ質量分析計(型番GCMS-QP2020)の機器による測定に基づく。
【0064】
このような本開示のHFO又はFO含有組成物は、各種機能性材料、溶媒、冷媒、発泡剤、機能性重合体のモノマー又はそれらの原料等として使用することができ、冷媒の用途では地球温暖化係数(GWP)の低い冷媒として適用することができる。
【実施例
【0065】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本開示を具体的に説明する。但し本開示はこれらの実施例に限定されない。
【0066】
実施例1~4(γ線照射によるHFOの合成)
表1及び表2に記載の通りに原料化合物を用意した。
【0067】
SUSチューブに原料化合物を表1及び表2に示した仕込み圧力となるように導入した。
【0068】
次いで室温下、SUSチューブに導入した原料化合物に対してCo60を使用してγ線を照射した。γ線の照射条件(照射線量、照射時間及び積算照射線量)は表1及び表2に示した通りである。
【0069】
次いで照射後のSUSチューブ内の気体をガスタイトシリンジでサンプリングし、アジレントテクノロジー製カラムクロマトグラフ(型番GC7890A)又は島津製作所製カラムクロマトグラフ質量分析計(型番GCMS-QP2020)の機器を用いて分析を行った。
【0070】
反応生成物の組成(単位「モル%」)は以下の通りであった。
【0071】
【表1】
【0072】
表1の結果から明らかな通り、実施例1、2の両方において、原料分離後の反応生成物中の目的HFO(HFO-1123)の選択率は95.0モル%以上であった。
【0073】
【表2】
【0074】
表2の結果から明らかな通り、実施例3において、原料分離後の反応生成物中の目的HFO(HFO-1123)の選択率は95.0モル%以上であった。なお、実施例4は原料化合物の転化率が低いことから原料分離後の反応生成物中の目的HFO(HFO-1123)の選択率は95.0モル%未満であるが、選択率80.0モル%を超えている点では従来の熱分解法に対して多大な優位性がある。
【0075】
比較例1(HFC-32の熱分解によるHFOの合成)
原料化合物としてジフルオロメタン(HFC-32)を用意した。
【0076】
熱分解法によりSUSチューブに導入したHFC-32から目的化合物であるトリフルオロエチレン(HFO-1123)を合成した。
【0077】
熱分解条件は表3に示した通りである。
【0078】
次いで熱分解後のSUSチューブ内の気体をガスタイトシリンジでサンプリングし、アジレントテクノロジー製カラムクロマトグラフ(型番GC7890A)又は島津製作所製カラムクロマトグラフ質量分析計(型番GCMS-QP2020)の機器を用いて分析を行った。
【0079】
反応生成物の組成(単位「モル%」)は以下の通りであった。
【0080】
【表3】
【0081】
表3の結果から明らかな通り、比較例1において、原料分離後の反応生成物中には沸点の近いHFOが複数生成しており、また各HFOの選択率は実施例1~4に対して顕著に低いことが分かる。